日本原子力研究開発機構は11月18日、都内のホールで報告会を開催(オンライン併用)。最近の研究成果の紹介に続き、「新原子力×無限大 我々はまだ原子力の可能性の一部しか利用していない」と題するトークセッションでは、宇宙開発分野での原子力技術に対する期待などが語られた。原子力機構の児玉敏雄理事長は、報告会の開催挨拶で、2022~28年度の7年間(法令で策定が求められる中長期目標の期間)に向け、「“新原子力”の実現に向けた挑戦」を標榜。「エネルギー分野以外への成果の応用を積極的に推進し、産業界への橋渡しを行う」とし、一例として、廃棄豚骨を原料とした高性能なストロンチウム吸着材の研究開発を紹介。ラーメン好きの研究者が豚骨の持つ金属吸着メカニズムに着目して取り組んだもので、身近な素材を利用し、食品廃棄物の減容はもとより、環境浄化や有用金属の回収にも応用できる可能性から注目を集めた。トークセッションには、山口彰氏(東京大学大学院工学系研究科教授、モデレーター)、神田玲子氏(量子科学技術研究開発機構放射線医学研究所副所長)、永松愛子氏(宇宙航空研究開発機構〈JAXA〉研究開発部門)、大井川宏之氏(原子力機構理事)が登壇。折しも報告会の翌日19日にJAXAは13年ぶりとなる宇宙飛行士の公募を発表しているが、国際宇宙探査に向けた宇宙放射線計測・遮蔽防護研究に取り組む永松氏はまず、9日に国際宇宙ステーションでの199日間の滞在を終えた星出彰彦宇宙飛行士の活躍を紹介。最近の宇宙開発の動きとして、7~9月に米国企業が高度100kmの弾道飛行による数分間の無重力体験ミッションや民間人だけの地球周回宇宙旅行に成功したことをあげ、「今年は民間宇宙旅行幕開けの年といえる」とした。「今後は100人単位で1週間程度での月旅行ミッションも計画されており、さらに多くの人が宇宙に行く可能性がある」と展望し、同氏は、より身近なものとなる宇宙放射線に関して、宇宙飛行士の網膜に荷電粒子が入り閃光を感じる「アイフラッシュ」現象、宇宙船の設計や搭載する機器・部品の放射線耐性評価が必須であることをあげ、「宇宙開発を前進させるために必ず克服しなければならない課題だ」と強調。小惑星探査機「はやぶさ2」(文科省発表資料より引用)原子力機構への期待として、永松氏は、大強度陽子加速器施設「J-PARC」の活用をあげた。同施設の物質・生命科学実験施設(MLF)では、2020年12月に小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから採取したサンプルの元素組成分析が行われている。同氏は、こうしたサンプルリターンのプロジェクトが、2024年度に打上げを予定するJAXAの火星衛星探査計画「MMX」以外にも、各国で計画されていることから、「宇宙開発において元素組成分析の需要はますます高まる」とした。また、放射線防護研究や放射線リスク認知調査に取り組む神田氏は、放射線治療の向上や理解促進に向けて、個々人の線量評価の精緻化を図るべく、原子力機構が加速器設計を機に開発した線量評価コード「PHITS」(Particle and Heavy Ion Transport code System)に関する協働に期待。「PHITS」は、航空機の運航管理における太陽フレアに伴う被ばく線量予測など、幅広い分野で用いられている。原子力機構理事として原子力科学研究部門や人材育成などを所掌する大井川氏は、「活かせる施設、技術はまだたくさんある」と述べ、研究成果の社会実装に向けて、他分野との交流を図る重要性を強調。山口氏は、「1955年に原子力基本法ができてから60数年。他の色々な技術も芽生えて60年というのはまだ発展途上の段階」と述べ、さらなる原子力のポテンシャル向上を期待しセッションを締めくくった。
01 Dec 2021
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資源エネルギー庁は11月26日、2020年度のエネルギー需給実績(速報)を発表した。それによると、2020年度の最終エネルギー消費は、前年度比6.6%減の12,089PJ(ペタジュール、ペタは10の15乗)となった。一次エネルギー国内供給は、前年度比6.1%減の17,964PJ。そのうち、化石燃料は7年連続で減少。再生可能エネルギーは8年連続で増加し続ける一方、原子力は2年連続で減少した。発電電力量は前年度比2.1%減の1兆13億kWh。再生可能エネルギー(水力を含む)が19.8%(前年度比1.7ポイント増)、原子力が3.9%(同2.4ポイント減)、火力(バイオマスを除く)が76.3%(同0.7ポイント減)を占め、非化石電源の割合は23.7%(同0.7ポイント減)となった。原子力の発電電力量は388億kWhで、前年度の638億kWhより大幅に下降。2020年度は、新たな再稼働プラントはなく、九州電力川内1・2号機のテロ対策となる「特定重大事故等対処施設」整備に伴う停止期間が生じた。また、エネルギー起源のCO2排出量は、前年度比6.0%減、2013年度比21.7%減の9.7億トン。東日本大震災後、2013年度には12.4億トンにまで達したが7年連続で減少し初めて10億トンを下回った。電力のCO2排出原単位(使用端)は、前年度比0.3%悪化し、0.48kg/kWhとなった。
29 Nov 2021
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原産協会の新井史朗理事長は11月26日、理事長会見を行い、6~7月に実施した「原子力発電に係る産業動向調査」(2020年度対象)の結果について説明した。原産協会が毎年実施している同調査は、今回、会員企業を含む原子力発電に係る産業の支出や売上げ、従事者を有する営利を目的とした企業325社を対象に調査票を送付し、249社から有効回答を得た。それによると、電気事業者の2020年度原子力関係支出高は、「機器・設備投資費」が大きく増加したことにより、前年度比4%増の2兆1,034億円で、2018年度以降、東日本大震災前の水準に戻りつつある状況。そのうち、新規制基準対応額は5,192億円と、全体の25%を占めており、新井理事長は、「新規制基準対応の支出額を除けば、電気事業者の原子力関係支出高は、震災直後からあまり増えていない」との見方を示した。また、鉱工業他の2020年度原子力関係売上高は、前年度比10%増の1兆8,692億円、原子力関係受注残高は同4%減の2兆803億円。電気事業者と鉱工業他を合わせた原子力関係従事者数は、同0.3%増の4万8,853人だった。原子力発電に係る産業の景況感に関しては、現在(2021年度)の景況感を「悪い」とする回答が前回から2ポイント減の76%、1年後(2022年度)の景況感が「悪くなる」とする回答は同5ポイント減の22%となり、若干の改善傾向がみられた。「2050年カーボンニュートラル」を目指す取組に関しては、41%が「取り組んでいる」と回答。そのメリットとしては、「企業の価値が高まることによる既存事業の拡大」(複数回答で78%)が最も多く、「新たなイノベーションの創出等、新規事業の創出」(同72%)、「就活生など、人材獲得への好影響」(同34%)がこれに次いだ。原子力発電に係る産業を維持するに当たっての課題としては、「政府による一貫した原子力政策の推進」(複数回答で76%)、「原子力に対する国民の信頼回復」(同63%)、「原子力発電所の早期再稼働と安定的な運転」(同61%)が多くあがった。「原子力に対する国民の信頼回復」との回答がこの数年で初めて6割台に上ったことに関し、新井理事長は、東京電力柏崎刈羽原子力発電所における核物質防護事案の影響を示唆。一方で、今夏、美浜3号機が国内初の40年超運転を達成したことに触れ、「こうした実績を積み重ねていくことが信頼回復に向けて極めて重要」と強調した。この他、新井理事長は、11月22日に発出した理事長メッセージ「パリ協定の目標達成に期待される原子力発電」についても説明した。*「原子力発電に係る産業動向調査」報告書は、11月30日に原産協会ホームページに掲載予定です。
29 Nov 2021
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東京電力は11月25日、福島第一原子力発電所廃止措置の進捗状況を発表。1号機の燃料デブリ取り出しに向けて、潜水機能付ボート型ロボット(水中ROV)を投入した原子炉格納容器(PCV)内部調査を2022年1月中旬にも開始すべく準備を進めているとした。1号機のPCV内部調査は、2017年にも実施されており、自走式調査装置の投入によりPCV底部に堆積物を確認している。今後、堆積物回収など、工事計画の立案に向け、PCV内に水中ROVを投入しペデスタル(原子炉圧力容器下部)内外の調査を行う。2019年より着手されたアクセスルートとなるガイドパイプの設置作業も2021年10月14日に完了し、11月5日からは、作業エリアの養生、現場本部や遠隔操作室への機材設置などの準備作業が行われている。1号機炉内の状況(東京電力発表資料より引用)投入する水中ROVは、(1)ガイドリング(ケーブル絡まりを防止する通過用の輪っか)取り付け、(2)ペデスタル内外の詳細目視、(3)堆積物の厚さ測定、(4)堆積物のデブリ検知(核種分析/中性子束測定)、(5)堆積物のサンプリング、(6)堆積物の3Dマッピング――の各用途を持つ6種類。東京電力が発表した計画によると、PCV内部調査は来秋までにわたり、堆積物のサンプリングは6月以降、リスクの高いペデスタル内部の調査は「装置の残置もやむなし」で最後の工程となる。福島第一の燃料デブリ取り出しについては、2号機より着手することとなっており、現在、英国で開発された試験的取り出し装置(ロボットアーム)の性能確認・モックアップ試験が行われている。この他、3号機使用済燃料プールでは、7~10月に実施した水中カメラによる調査結果を踏まえ、11月中にもがれき撤去を開始し、2022年下期よりプール内に残された制御棒などの高線量機器類の取り出しに着手。10月に確認された陸側遮水壁(凍土壁)の温度上昇については、地中内に試験的に止水壁を設け地下水の流入を抑制するとしている。
26 Nov 2021
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長崎大学は福島県双葉町と包括連携協定を12月1日に締結する。締結式は長崎大学・河野茂学長、双葉町・伊澤史朗町長らの臨席のもと、東日本大震災・原子力災害伝承館(双葉町)で行われる予定。同学はこれまでも、川内村、富岡町、大熊町と包括連携協定を締結し、各町村内に設置したサテライトオフィスを拠点として住民に寄り添った復興支援活動を行ってきた。〈長崎大発表資料は こちら〉双葉町仮設庁舎起工式、鍬を持つのは西銘復興相(右)と内堀福島県知事(復興庁ホームページより引用)福島第一原子力発電所を立地する双葉町は、2020年3月に避難指示解除準備区域とJR常磐線双葉駅周辺の帰還困難区域の一部で避難指示が解除。来春の避難住民の帰還開始を目指し、2021年11月15日には町役場仮設庁舎の建設工事起工式が行われた。同町との連携協定締結について長崎大学が発表したところによると、「町は現在、本格復興のスタートを切るための基盤作りを進めており、その中でも放射線量の検査などによる安全・安心の担保が重要な課題」との現状。川内村、富岡町、大熊町での活動を通じて培った経験を活かし、専門的観点から町の復興と活性化に資するよう、緊密な連携・協力を図るとしている。今後、双葉町役場内にサテライトオフィスを設置し、(1)環境放射能評価や個人被ばく線量の測定を通じた外部被ばく線量の評価、(2)食品の放射性物質測定を通じた内部被ばく線量の評価、(3)健康相談や講演活動――などに取り組んでいく。避難指示区域概念図(2021年3月末時点、資源エネルギー庁発表資料より引用)現在、避難指示(帰還困難区域)が設定されているのは、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、南相馬市、飯舘村の7市町村。2020年3月以降、解除の動きはない。双葉町他の避難指示一部解除を前に都内で行われたシンポジウムの場で、伊澤町長は、他の自治体の状況から「避難指示解除が遅れるほど、帰還率が低くなっている」と懸念したことがある。福島の復興支援に主体的に取り組んできた長崎大学原爆後障害医療研究所の高村昇教授は、原子力産業新聞のインタビューで、川内村、富岡町、大熊町での活動経験を振り返り、「地域ごとに復興のフェーズが全然違う。その違いを尊重しながら支援活動を行うことが重要」と話している。
25 Nov 2021
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原子力委員会は11月22日、医療用ラジオアイソトープ(RI)の製造・利用推進に係る検討を開始した。同委員会では今夏以降、定例会の場で、RIを用いた核医学検査・治療に関する有識者ヒアリングを随時実施。「RIを用いた治療の普及を通じ、わが国の医療体制を充実し、国民の福祉向上に貢献することが重要」との考えから、専門部会による検討を進めオールジャパン体制での医療用RI供給確保の取組が進展するよう年度内を目途にアクションプランを策定することとなった。核医学治療のイメージ(核医学診療推進国民会議ホームページより引用)内閣府の調べによると、工業、医療・医学、農業など、多岐にわたる放射線利用の経済規模(2015年度)は、全体で4兆3,700億円にのぼり、特に医療・医学利用については10年間で30%増の伸びを見せるなど、高い経済効果が見込まれている。核医学治療は、対象となる腫瘍組織に集まりやすい性質を持つ化合物と、アルファ線やベータ線を放出するRIを組み合わせた医薬品を、経口や静脈注射により投与し、体内で放射線を直接照射して治療する方法で、近年治療実績の向上が目覚ましい。日本アイソトープ協会の調査報告書によると、2017年までの10年間で、核医学検査の件数に大きな変化がないのに対し、核医学治療の件数はおよそ2倍となっている。専門部会委員の日本アイソトープ協会医薬品部・北岡麻美氏は、22日の会合で、医療用RIの需給状況について説明。日本で流通する放射性医薬品の75%を占めるテクネチウム99m(原料となるモリブデン99を含む)は、海外のサプライチェーンを通じ100%を輸入に依存しているが、短半減期核種のため空輸を要することから、自然災害や国際情勢の影響を受けやすいほか、製造している多くの原子炉も老朽化が進んでおり、供給に不安が生じているとした。モリブデン99/テクネチウム99m の供給を巡っては、2009年のカナダ原子炉「NRU」の計画外停止に続き、2010年のアイスランド火山噴火に伴う航路一時停止が生じた際、内閣府で官民合同による検討が行われたことがある。国産化に向けては、2021年2月に運転を再開した日本原子力研究開発機構の研究炉「JRR-3」を用いることで、国内需要の20~30%を賄える見通し。北岡氏は、医療用RI確保の不安定さを懸念し、「国内製造が喫緊の課題」とした。地域分散型のRI製造拠点として、加速器の利用も期待されており、アイソトープ協会は11月10日に、理化学研究所仁科加速器科学研究センターとRI・放射線利用に関する連携協定を締結している。専門部会に出席した上坂充委員長は、(1)RI製造方法のベストミックス(研究炉/加速器)、(2)IAEA中心の国際連携、(3)完全国内サプライチェーンの構築――の観点から意見を表明。核医学治療用のアルファ線源として海外で多くの臨床試験が行われているアクチニウム225について、人形峠ウラン濃縮原型プラント(2021年1月に廃止措置計画認可)の鉱さいを利用した医薬品生成の構想を明らかにした。同氏は、9月のIAEA総会の機に開催した原子力委員会主催のサイドイベントで、アクチニウム225の研究・医療に係る国際的協力促進の必要性を訴えている。
24 Nov 2021
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政府の復興推進委員会(委員長=伊藤元重・学習院大学国際社会科学部教授)は11月18日、「創造的復興の中核拠点」として福島県浜通り地域への整備を検討している「国際教育研究拠点」について、具体的な研究内容案を示した。〈復興庁発表資料は こちら〉「国際教育研究拠点」は、新たな産業創出を目指す「福島イノベーション・コースト構想」とともに、浜通り地域の復興に向けて研究開発と人材育成の中核となる拠点を創設するもので、2020年12月に関係閣僚らからなる復興推進会議が報告書を取りまとめたのを受け、現在、年度内にも基本構想を策定すべく関係省庁や自治体などにより検討が進められている。既に県内に立地している研究施設とも一体的な運用を図りつつ、同拠点には、研究開発と人材育成の機能を持たせ、研究分野としては、(1)ロボット、(2)農林水産業、(3)エネルギー、(4)放射線科学、(5)原子力災害に関するデータや知見の集積・発信――を想定。政府全体の科学技術・イノベーション政策との整合性も図りつつ具体化していく。18日の委員会では、経済産業省、文部科学省、農林水産省がまとめた具体的研究内容のイメージを復興庁が整理。経産省は、CO2排出源のネガティブエミッション技術(炭素除去・植物固定など)の実証、ロボット・ドローン活用の高度化、空飛ぶクルマの開発、超大型X線CT装置による非破壊シミュレーションの他、IAEAと連携した廃炉研究者の育成などを提案。文科省からは、福島県立医科大学を軸とした次世代がん治療研究(RI医薬品開発)や、放射線医学人材育成などが提案された。
19 Nov 2021
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東京電力は11月17日、福島第一原子力発電所におけるALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の海洋放出に係る放射線影響評価について発表した。〈東京電力発表資料は こちら〉ALPS処理水の処分に関する政府基本方針の決定(2021年4月)を受け、同社は風評影響を最大限抑制するための対応を徹底すべく具体化を進めてきた設備の設計や運用など、検討状況について8月に公表。今回の評価で、放出を行った場合の人および環境への影響について、国際的に認知されたIAEA安全基準文書、ICRP勧告に従う評価手法を定め、評価を実施したところ、「線量限度や線量目標値、国際機関が提唱する生物種ごとに定められた値を大幅に下回り、人および環境への影響は極めて軽微である」ことを確認したとしている。評価は、実際のALPS処理水に基づくものに加え、「非常に保守的な評価」として、トリチウムの他、被ばくの影響が相対的に大きい核種だけが含まれるとした「仮想ALPS処理水」の2つのモデルを用い、環境中の拡散・移行については、米国で開発された領域海洋モデル「ROMS」(Regional Ocean Modeling System)を福島沖に適用し、発電所周辺南北約22.5km×東西約8.4kmの海域を最密約200mメッシュの高解像でシミュレーション。人の外部被ばくについては、「年間120日漁業に従事し、そのうち80日は漁網の近くで作業を行う」、「海岸に年間500時間滞在し96時間遊泳を行う」とし、内部被ばくについては、厚生労働省の国民健康・栄養調査報告を参照し、魚介類を平均的に摂取する人と多く摂取する人(平均+標準偏差×2)の2種類で評価。生物に関する評価として、ヒラメ、カレイ、ヒラツメガニ、ガザミ、ホンダワラ、アラメの各魚介・海藻類を選定。海洋における拡散シミュレーション結果で、現状の周辺海域の海水に含まれるトリチウム濃度(0.1~1ベクレル/ℓ)よりも濃度が高くなると評価された範囲は、発電所周辺の2~3kmの範囲に留まった。放出を行う海底トンネル(全長約1km)出口直上付近では拡散前、30ベクレル/ℓとなる箇所もあったが、その周辺で速やかに濃度が低下。30ベクレル/ℓは、 ICRP勧告に沿って定められた国内の規制基準(6万ベクレル/ℓ)やWHO飲料水ガイドライン(1万ベクレル/ℓ)を大幅に下回るレベルだ。人の被ばくについては、「仮想ALPS処理水」による非常に保守的な評価でも、一般の線量限度(年間1mSv)の約2,000分の1~約500分の1、自然放射線による被ばく(年間2.1 mSv)の約4,000分の1~約1,000分の1、魚介類についても、ICRPが提唱する誘導考慮参考レベル(生物種ごとに定められ、これを超える場合は影響を考慮する必要がある線量率レベル)の約130分の1~約120の1程度となっていた。福島第一を視察するIAEA関係者(測定・確認用設備となるK4タンク群、東京電力発表資料より引用)東京電力では今後、評価結果を取りまとめた報告書について、IAEAの専門家によるレビューや各方面からの意見などを通じ見直していくとしている。なお、12月にIAEAによるALPS処理水の海洋放出に係る安全性評価、国際専門家の観点による助言を目的としたレビューが予定されており、11月16日にはその準備に向けて評価派遣団による現地視察が行われた。
18 Nov 2021
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IAEA国際会議にメッセージを送る萩生田経産相(経産省発表資料より引用)萩生田光一経済産業相は11月10日、IAEAが福島第一原子力発電所事故発生から10年を機に開催した国際会議の中で、ビデオメッセージを通じ挨拶を述べた。〈経産省発表資料は こちら〉同国際会議は、11月8~12日にウィーンにてハイブリッド形式で開催され、事故発生後10年の間に各国・国際機関がとった行動に基づく教訓・経験を振り返り、今後の原子力安全のさらなる強化に向けた道筋を確認することを目的とし、日本の他、各国から規制当局を含む政府関係者、電気事業者らが参加。萩生田経産相は、「事故の教訓や経験を世界の原子力安全の専門家と共有し、今後の原子力安全の強化に活かしていくことはわが国の責務」との認識を改めて示した上で、福島第一原子力発電所のALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の処分に当たっては、日本政府が4月に発表した基本方針を踏まえ、高い透明性をもって対応するとともに、IAEAによる安全性に係るレビューを受け、その結果を幅広く発信していくとした。IAEA・グロッシー事務局長(IAEAホームページより引用)今回の国際会議は、折しも英国グラスゴーで開催されたCOP26の会期と重複したが、IAEAのR.M.グロッシー事務局長は、閉会に際し、「皆にとって安全な原子力発電は気候変動の解決策の一部となる」と強調した。IAEAによるALPS処理水の安全性レビューに関しては、9月にリディ・エヴラール事務次長らが来日し今後のスケジュールやレビュー項目について検討が始まったのに続き、現在、11月15~19日の日程で、12月の評価派遣団来日に向けて日本側関係者との準備会合、現地視察が行われているところだ。
16 Nov 2021
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【国内】▽4日 第1次岸田内閣発足、萩生田経産相ら就任▽6日 技術イノベーションによる気候変動対策について話し合うICEF開催、革新炉の社会需要も議論に(~7日)▽8日 岸田首相が所信表明、温暖化対策を成長につなげる「クリーンエネ戦略」策定も▽12日 自民党が総選挙に向け政権公約発表、SMRや核融合の開発も▽13日 日立が放射線測定事業他に係る会社分割・譲渡を発表▽14日 九州電力、川内1・2号機の40年超運転を見据え特別点検実施を発表▽17日 岸田首相が福島県訪問、福島第一も視察▽19日 原子力委が次期エネ基本計画に向け見解まとめる▽22日 第6次エネ基本計画が閣議決定▽23日 国内初の40年超運転となった関西電力美浜3号機が定期検査入り、特重施設期限を25日に控え▽23日 原産協会・関西原子力懇談会が学生対象の合同企業説明会「原子力産業セミナー2023」を東京で開催(30日には大阪で開催)▽26日 規制委が柏崎刈羽の核物質防護に係る事案で追加検査、関係者からの聴き取り他(~27日)▽26日 原電が敦賀2号機の地質調査データ書換えで規制委に改善方針示す▽26日 2020年に地層処分地選定に係る文献調査に応募した寿都町の片岡町長が再選▽28日 東京電力が福島第一凍土壁の温度上昇を発表、遮水性は継続されるも11月以降調査・補修へ 【海外】▽7日 スペインでアスコ1、2号機の運転期間を9~10年延長、それぞれ46年間と47年間に▽7日 英政府、発電部門の全面的な脱炭素化目標の達成スケジュールを2035年に15年前倒し▽7日 米エネ省、パロベルデ原子力発電所での水素製造実証プロジェクトに2,000万ドル提供▽12日 仏国とチェコ、EUのその他8か国とともに原子力発電所建設支援の共同宣言を主要メディアに掲載▽13日 IEAの最新「世界エネルギー見通し」、COP26向けに「ネットゼロのペース遅い」と警告▽13日 仏電力、ポーランドに2~3サイトで4~6基の欧州加圧水型炉(EPR)建設を提案▽14日 スロベニア唯一のクルスコ原子力発電所で運転期間の20年延長(合計60年間の運転)に向けたIAEA審査が完了▽19日 英国政府、2050年までのCO2排出量の実質ゼロ化に向け新たな戦略を策定▽19日 GEH社、カナダでBWRX-300の商業化を促進するためBWXTカナダ社と協力合意▽20日 ウクライナ、年末から来年にかけフメルニツキ4号機などでWH社製AP1000の建設を開始▽21日 米サザン社、ボーグル3、4号機のさらなる安全性確保で、運開スケジュールを2022年第3四半期と2023年第2四半期に再延期▽21日 ロシアTVEL社、極東サハ自治共和国内で建設する陸上SMR用の試験用燃料集合体を製造▽26日 英国政府、原子炉の新設を支援する「規制資産ベース(RAB)モデル」の導入目指し「原子力資金調達法案」を立案▽26日 オラノ社の依頼でコンサルティング企業が実施した仏国の世論調査で国民の原子力支持率が増加▽27日 英国政府、今後4年間の歳出計画案でサイズウェルC原子力発電所計画に最大17億ポンドの予算措置▽29日 トルコの規制当局、アックユ原子力発電会社に4号機の建設許可を発給 【国内の原子力発電運転実績】・過去のデータは こちら
15 Nov 2021
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会見を行う萩生田経産相11月10日の第2次岸田内閣発足に伴い再任となった萩生田光一経済産業相は12日、閣議後記者会見を行い、改めて「職責をしっかり果たしていきたい」と抱負を述べた。閉幕が近づくCOP26(10月31日~11月12日、英国グラスゴー)に関して、萩生田大臣は、「世界にとって喫緊の課題である気候変動問題について、各国の連携を通じ前進を図る上で重要な機会」と強調。その上で、「2050年カーボンニュートラル」や「2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減」との目標に加え、「パリ協定の目標達成に向け世界全体で脱炭素化を進めていくことが必要」との考えから表明した5年間で最大100億ドルの国際的支援、アジアを中心とした脱炭素社会構築について、「多くの国から賛同と歓迎の意が表され、日本の存在感を示すことができた」との認識を示した。また、英国他の主導により自動車・エネルギー分野で様々な有志連合が立ち上がっていることに関しては、「エネルギーを巡る状況は各国で千差万別。各国ともそれぞれの事情を踏まえ対応している。脱炭素社会の実現に向けては様々な道筋があり、特定の手法に限定するのではなく、各国の事情を踏まえた包括的な脱炭素化の方策をとることが、世界全体の実効的な気候変動対策にとって重要」と強調。自国のエネルギー事情について適切に世界に対し発信していく必要性を示唆した。
12 Nov 2021
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2021年度の「グッドデザイン賞」(主催=日本デザイン振興会)の各賞が11月2日までに発表された。今回、富士フイルムの移動型X線透視撮影装置「FUJIFILM DR CALNEO CROSS」(10月より販売開始)を含め、5件が大賞(内閣総理大臣賞)の候補となり、東京ミッドタウン(東京都港区)での一般公開を経て、11月2日に審査委員、来場者らによる投票の集計を実施。「FUJIFILM DR CALNEO CROSS」は大賞を逃したが、ケーブルレス化による操作性の向上などが高く評価され、審査委員は「医療の向上と効率化が高いレベルで実現している」と絶賛している。「FUJIFILM DR CALNEO CROSS」は、外科手術時にX線動画と静止画の撮影が1台で対応可能な軽量X線透視診断装置で、患者の身体的負担軽減を目的に、大きく切開せずX線透視撮影で体内を確認しながら施術する低侵襲な手術のニーズに応えたもの。富士フイルムでは、限られたスペースでの自在な取り回し、床を這うケーブル類の削減、感染防止管理のしやすさにも対応すべく、同社のX線画像診断装置「CALNEO Flow」を受像部に採用し、理想のシステム実現に向け開発に取り組んだ。富士フイルムの製品は、医療分野以外も、一般向けのデジタルカメラ・レンズや双眼鏡、写真用フイルム製造の実績を活かした銀系材料配合のスプレー型除菌剤など、毎年数多くが「グッドデザイン賞」に選ばれており、2021年度も計34件の受賞をあげている。大賞はオリィ研究所による「遠隔就労・来店が可能な『分身ロボットカフェ DAWN ver.ベータ』と分身ロボット OriHime」が受賞。「FUJIFILM DR CALNEO CROSS」を含め大賞に選ばれなかったファイナリスト4件は、他の優秀な製品・取組15件とともに、金賞(経済産業大臣賞)を受賞している。
11 Nov 2021
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新しい資本主義実現会議に臨む岸田首相(左、右は山際経済財政政策担当相、官邸ホームページより引用)政府の「新しい資本主義実現会議」は11月8日、緊急提言を取りまとめた。同会議は、岸田文雄首相(議長)のもと、関係閣僚の他、経済界などから選ばれた15名の有識者で構成。緊急提言は、岸田内閣が新しい資本主義の実現に向け「車の両輪」として掲げる成長戦略と分配戦略のそれぞれについて、最優先で取り組むべき課題を整理したもの。その中で、成長戦略の第一の柱に据えられた「科学技術立国の推進」では、クリーンエネルギー技術の開発・実装として、(1)再生可能エネルギーの導入拡大、(2)自動車の電動化推進と事業再構築、(3)化学・鉄鋼等のエネルギー多消費型産業の燃料転換、(4)住宅・建築分野の脱炭素化推進(省エネリフォームなど)、(5)将来に向けた原子力利用に係る新技術の研究開発推進、(6)クリーンエネルギー戦略の策定――の各施策について記載。原子力利用については、将来に向けて「安全性・信頼性・効率性を抜本的に高める新技術等の開発を進める」とした上で、高速炉開発、小型モジュール炉(SMR)技術の実証、高温ガス炉水素製造に係る要素技術確立、核融合研究開発に、民間の創意工夫・知恵や国際連携も活かしながら2030年までに取り組んでいく。岸田首相は、10月8日の国会における所信表明演説で、「2050年カーボンニュートラルの実現に向け、温暖化対策を成長につなげるクリーンエネルギー戦略を策定する」と明言。今回の緊急提言では、「グリーン成長戦略、エネルギー基本計画を踏まえつつ、再生可能エネルギーのみならず、原子力や水素など、あらゆる選択肢を追求することで、将来にわたって安定的で安価なエネルギー供給を確保し、さらなる経済成長につなげていくことが重要」との考えから、クリーンエネルギー戦略を策定するとしている。
09 Nov 2021
3642
原産協会の新井史朗理事長は11月5日、理事長会見を行い、10月22日の第6次エネルギー基本計画閣議決定に伴い発出した理事長メッセージ、関西原子力懇談会と共催で開催した学生向けの合同企業説明会「原子力産業セミナー2023」(東京:10月23日、大阪:10月30日)の概要、10月31日より英国グラスゴーで開かれているCOP26での原産協会の活動について説明し質疑応答に臨んだ。エネルギー基本計画の関連で、小型モジュール炉(SMR)開発に係る取組について問われたのに対し、新井理事長は、大型炉のスケールメリット、原子炉の多様な選択肢、実用化に向けたイノベーション促進、人材確保を図る上での魅力創出の可能性に言及し、「北米など、海外の実績も見極めていくべき」と述べた。足下の課題としては、まず既設炉の再稼働をあげた上で、改めて「S+3E」(安全性、安定供給、経済効率性、環境への適合)のバランスの取れたエネルギー政策が図られる重要性を強調。また、「原子力産業セミナー2023」の参加学生は、東京会場202人、大阪会場178人(オンライン参加を含む、昨年度より合計で59人減)だった。16回目となった同セミナーの参加状況について、新井理事長は、「例年並みを維持できたのでは」との見方を示し、この他も原産協会として大学・高専と協力した学内セミナー開催なども通じ「切れ目なく学生へのアプローチを続け、人材確保の支援に取り組んでいる」と説明。新たなエネルギー基本計画策定に伴う「2030年におけるエネルギー需給見通し」で示された「総発電電力量の約20~22%程度を原子力が担う」目標達成に向け、再稼働、稼働率向上、長期運転、将来的には新増設・リプレースが必要とした上で、「これらを担う若い人材が不可欠。様々な分野の学生に原子力技術の魅力を知ってもらい、原子力産業への興味を喚起する取組を今後も続けていく」と述べた。 COP26の関連では、会期に先立ち世界の原子力産業界団体と共同でまとめた報告書「持続可能な開発目標(SDGs)達成への原子力の貢献」について紹介。さらに、現地に職員を派遣し、サイドイベントなどを通じ、「原子力発電は低炭素電源であり、増大する電力需要を満たしながら、温室効果ガスを削減するための解決策の一つであること」をアピールしているとした。脱石炭火力の動きについて問われたのに対し、新井理事長は、「各国で国情が違う」とした上で、各電源の長所・短所を考慮したエネルギーのベストミックスが構築される必要性を強調した。
08 Nov 2021
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政府は11月3日、秋の叙勲受章者を発表。原子力・エネルギー関連では、旭日大綬章を元東北電力社長の高橋宏明氏が受章することとなった。高橋氏は、2005~10年に東北電力社長を務め、就任直後の2005年8月には宮城県南部地震が発生し、全基(1~3号機)停止となった女川原子力発電所の安全点検・再稼働に尽力。同3号機のプルサーマル計画(2010年1月に原子炉設置変更許可)では、地元の理解活動にも取り組んだ。また、2007年の北陸電力志賀1号機臨界事故発覚に端を発した全国発電所の総点検では、経営責任者として、「気付く」、「話す」、「直す」を3本柱とした保安教育の徹底など、同社行動計画の実行をリードした。同氏は現在、日本電気協会会長として技術基準、普及・啓発、情報発信の面で引き続き電気事業の発展に寄与している。瑞宝重光章の坂田氏(2014年、原産協会にて)瑞宝重光章には、元文部科学事務次官の坂田東一氏らが選ばれた。坂田氏は、中央省庁再編を前にした1999~2001年には旧科学技術庁の長官官房総務課長を、2009年の民主党政権発足時には文部科学事務次官をそれぞれ務め、各変革時における新たな文教・科学技術行政の基盤作り、推進で手腕を発揮。駐米日本大使館在任時、日米原子力協力協定改訂交渉に携わるなど、原子力政策に係る経験の豊富な同氏は、福島第一原子力発電所事故発生後の2011年に駐ウクライナ大使に就任し、日本からのチェルノブイリ調査団の対応にも当たった。旭日中綬章には、元敦賀市長の河瀬一治氏らが選ばれた。1995~2015年に敦賀市長を務めた河瀬氏は、全国原子力発電所所在市町村協議会会長として、立地地域の立場から、原子力安全・防災対策の充実化や産業振興などに尽力。国の原子力長期計画策定審議にも関わった。福島第一原子力発電所で所員を激励するケネディ氏(東京電力ホームページより引用)外国人では、元駐日米国大使のキャロライン・ケネディ氏らが旭日大綬章を受章する。同氏は、2013~17年の駐日米国大使在任中、廃炉・除染技術に関する日米企業交流フォーラムに臨席するなど、東日本大震災からの復興支援を通じた日米間の関係強化にも寄与した。
04 Nov 2021
3145
日本エネルギー経済研究所(IEEJ)は10月27日、オンラインシンポジウムを開催。参加者約500名を集め、国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長らによる世界のエネルギー需給の長期的動向を予測・分析した年次報告書「World Energy Outlook 2021」(WEO-2021)に関する講演を受け意見交換が行われた。IEAが10月13日に公表したWEO-2021について、IEEJの寺澤達也理事長は、「世界がカーボンニュートラルに取り組む中、エネルギー情勢を巡る様々な課題を考察する上で非常に重要なレポートだ」と高く評価。さらに、同氏はシンポジウムが折しもCOP26(10月31日~11月12日、英国グラスゴー)開催の時宜にかなったことを歓迎し、世界のエネルギー・環境を巡る課題が理解されるとともに、日本のカーボンニュートラルに向けた道筋への示唆となるよう活発な議論を期待した。講演に入り、ビロル事務局長はまず、昨今の原油価格の高騰に関し「年末にかけて市場動向を注視していく必要がある」と述べ、IEAとして引き続き加盟国との協調を図っていく考えを示した。各国が取り組むカーボンニュートラルに関しては、日本に対し「このターゲットの達成には特別な道筋で努力する必要がある」として、エネルギー利用の効率向上とともにイノベーションを追求し続ける重要性を強調。原子力については「重要な柱であるべき」とした上で、再稼働とともに新増設も視野に入れる必要性を示唆した。また、ビロル事務局長は、IEAが5月に公表したCO2排出量実質ゼロに関する特別報告書に言及。その客観性を「科学者からのメッセージ」と尊重し、同報告書が示した複数シナリオに触れ、「既に各国が公表している公約がすべて実行されても、世界の平均気温上昇は許容範囲をはるかに超す2.1℃に達する」と警鐘を鳴らした。IEAの各シナリオによる2050年までのCO2排出量(IEA発表資料より引用)WEO-2021のベースとなったこれらのシナリオに関しては、IEAエネルギー供給・投資見通し部門長のティム・グールド氏が、2050年までのCO2排出削減量が大きい順に、「実質ゼロ化シナリオ」(NZE:Net Zero by 2050)、「発表誓約シナリオ」(APS:Announced Pledges)、「公表政策シナリオ」(STEPS:Stated Policies)の分析結果を披露。2030年までに世界で石炭火力3.5億kWの建設・計画が続くとするAPSに関し、2050年のCO2排出量がNZEと比べて20ギガトン(2017年の世界のCO2排出量約6割に相当)を超す開きがあることなどを図示し、対策の不十分さを指摘。「クリーンエネルギーへの投資を現状の3倍以上に増やす必要がある」と強調する同氏は、温室効果ガス削減に向けたコスト効率の高い追加的対策として、風力・太陽光発電導入の増強、運輸・家庭部門のエネルギー効率改善とともに、メタン削減にも取り組む必要性を説いた。日本のエネルギー政策について助言を求められたグールド氏は、「各国が持つバックグラウンドは異なり標準的な道筋はない」とした上で、気候変動対策における日本のリーダーシップ発揮に期待し「再生可能エネルギーのポテンシャルは大きい。革新的原子力技術も重要な候補」などと述べた。この他、質疑応答の中で、同氏は、蓄電池について、太陽光の使えない夜間の電力応需に活用が見込める地域としてインドを例示。デジタル技術の活用については、電力需要管理における有用性を期待する一方、サイバーセキュリティの課題を指摘。参加者とは化石燃料の市場リスク、水素・アンモニアの燃料活用、森林によるCO2吸収の可能性に関する意見交換もなされた。グールド氏は、一つの技術に固執する考え方を危惧し、「次世代に向け持続可能なエネルギーシステムを構築するには、複数の技術を組み合わせなければならない」と強調した。
04 Nov 2021
2174
新しい地層処分展示車「ジオ・ラボ号」(NUMO発表資料より引用)原子力発電環境整備機構(NUMO)は10月29日、全国各地を巡り高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する理解を深めてもらう地層処分展示車「ジオ・ラボ号」(全長約9.6m、全幅約2.5m〈通常時〉~約5.0m〈展開時〉、高さ約3.6m、重さ約13トン)を新たに完成し11月より出展を開始すると発表した。〈NUMO発表資料は こちら〉理解促進に貢献した「ジオ・ミライ号」(NUMO発表資料より引用)NUMOではこれまで、地層処分事業への理解促進に向けた取組として、地層処分模型展示車「ジオ・ミライ号」を、次世代層の来場が期待できる科学館、商業施設、公園他に出展し、3D映像の上映や実験などを通じた情報提供活動を実施。年間の巡回30~40箇所、来場者20,000~25,000人を目標とし、親子連れの関心を引くようロボットの「ペッパー」も活用するなど、工夫してきた。地層をイメージしたデザインの「ジオ・ラボ号」内部、間接照明と調光機能を活用することで没入感を演出(NUMO発表資料より引用)このほど新たに完成した「ジオ・ラボ号」は、「最終処分場とはどういうものか、その長期的な安全性が、展示をご覧になった方に直感的に伝わること」を展示コンセプトとし、(1)廃棄体を埋設する地下300m以深は暮らしから十分に離れた場所にある、(2)深い地層では物質が長い間とどまる特性がある、(3)高い技術力で構築された施設を作り処分される――ことを、98インチの大型ディスプレイで映すデジタル映像や壁面展示を通じて体感してもらう。感染症の拡大防止に配慮し、各種展示はタッチレス方式を採用。NUMOでは、「ジオ・ラボ号」の出展予定について、随時ホームページで告知することとしている。
01 Nov 2021
3175
上智大学は10月20日、国連副事務総長のアミーナ・モハメッド氏によるオンライン講演会を開催した。2030年までに世界が目指す「持続可能な開発目標」(SDGs)を主導するモハメッド氏は、講演の中で、今必要な行動として、(1)新型コロナのパンデミックを終わらせる、(2)貧困をなくす、(3)不平等を取り除く、(4)カーボンニュートラル社会を実現する、(5)SDGsに向けて新たなパートナーシップを構築し誰一人取り残さないようにする――ことをあげた。気候変動の問題に関しては、10月31日から英国グラスゴーで開催されるCOP26に向けて、「地球の温度上昇を産業革命前と比べて1.5℃未満に抑える」ことを確認・強化しなければならないとした上で、低炭素技術を開発・実行するとともに、異常気象に対する強靭性を高めていく必要性を指摘。ナイジェリアの環境大臣として環境保全政策をリードした経験を持つ同氏は、日本に対し、「気候変動や災害リスク低減の分野でイノベーションを主導していることは重要」、また、「『核兵器を決して使ってはならない』と世界に訴えてきた日本を誇りに感じて欲しい」などと述べた。海外の学生たちも交え意見交換(インターネット中継)「国連の活動には若い人たちの関わりが重要」と話すモハメッド氏は、海外の学生も交え意見交換。マレーシアの学生が「インターネットに接続するにも木に登って機材を設置しなければならない」と、途上国の農村部におけるオンライン教育の現状について述べたのに対し、モハメッド氏はまず、「世界では今、教育の質が危機に瀕している。未来に備えしっかりした教育制度が必要」と強調。世界的な新型コロナ拡大の中、オンラインを通じた教育やビジネスの普及を評価する一方で、「世界の皆がつながることが重要だが、第一に電気を利用できない人たちもいる」と、電力インフラの課題を指摘し、SDGsの「誰一人取り残さない」精神のもと、全ての人々がエネルギーにアクセスできることの重要性を訴えた。また、2050年までのカーボンニュートラルに関して、石炭のフェードアウトや、トランジション(脱炭素社会実現のための移行期)を早めていく必要性にも言及。この他、日本、スペイン、コロンビア、リベリアの学生から、環境活動家への迫害、政治への軍事介入、人口・高齢化問題、児童労働などに関する意見・質問もあがった。こうしたグローバルな課題に対する関心の高まりを歓迎し、モハメッド氏は、「是非声を上げて欲しい。情熱、理想、創造力、決意、不屈の精神があればSDGsを実現できる」と、エールを送った。
29 Oct 2021
2826
原子力用ドローン「ELIOS 2 RAD」(ブルーイノベーション発表資料より引用)インフラ設備点検、災害対策、物流などのソリューション事業を展開するベンチャー企業のブルーイノベーションは10月26日、原子力発電所用に放射線の検知・計測や漏えい位置の特定ができる屋内点検用球体ドローン「ELIOS 2 RAD」(エリオス・ツー・ラド)の販売を開始したと発表した。〈ブルーイノベーション発表資料は こちら〉放射線センサーを搭載したこの「ELIOS 2 RAD」は、下水管やトンネルなど、作業員が立ち入ることが困難な場所の点検で実績のある球体ドローン「ELIOS 2」をベースに、原子力発電所の施設内点検に特化して新たに開発されたもの。放射線の検知・計測の他、飛行経路を3D点群マップで可視化し放射線の漏えい個所を特定するとともに、動画撮影により現場の状態をリアルタイムで把握することができる。「ELIOS 2」シリーズは、カーボン製の保護フレームが球状に本体を囲んでおり、回転翼による施設内の損傷を防ぎ、狭あい箇所での使用時にも人の安全を守る構造。原子力発電所への「ELIOS 2 RAD」導入の利点として、同社では、通常点検時における作業員の被ばく低減の他、事故発生時にはがれきが散乱したエリアで自走式ロボットに替わり狭あい空間を自在に飛行できることをあげ、放射線の漏えい位置と線量を正確に把握し、速やかな補修計画の策定・実行が可能となるとしている。「ELIOS 2」シリーズは、スイスのフライアビリティ社が開発したドローンシステムで、ブルーイノベーションは日本においてその独占販売契約を締結しており、工場、発電所、下水道などを中心に150か所以上の屋内施設での導入実績を有している。ブルーイノベーション社長の熊田貴之氏は、「ELIOS 2 RAD」の販売開始に際し、福島第一原子力発電所事故発生時のがれきが散乱した中での懸命な収拾作業を振り返った上で、同社のソリューション事業を通じ「原子力発電所に携わる方々の安全が確保され、緊急時に即応した点検フローの確立に貢献したい」と述べている。
28 Oct 2021
3443
政府は10月26日、2021年度の文化功労者計21名の選定を発表。素粒子物理学での功労者として、高エネルギー加速器研究機構(KEK)名誉教授で岩手県立大学学長の鈴木厚人氏が選ばれた。鈴木氏は、東京大学宇宙線研究所の「大型水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置」(スーパーカミオカンデ)によるニュートリノ(宇宙から飛来する、物質を形づくる分子や原子よりも小さい最小単位の粒子)の観測で素粒子物理学の発展に多大に貢献。2006~15年には高エネルギー加速器研究機構機構長を務めた。在任中、中性子産業利用の機運の高まった2008年には、大強度陽子加速器研究施設「J-PARC」の物質・生命科学実験施設(MLF)の供用開始に際し地元茨城県他と中性子利用促進に関する協定を締結したほか、次世代線形加速器「国際リニアコライダ―」(ILC)計画の実現に向け産学連携で取り組む「先端加速器科学技術推進協議会」の立上げにも関わるなど、素粒子物理学を通じた産業・地域振興にも尽力した。 文化功労者には、この他、先般、気候変動に関する研究でノーベル物理学賞を受賞したプリンストン大学客員研究員、海洋研究開発機構フェローの眞鍋淑郎氏(文化勲章受章も決定)、俳優・歌手の加山雄三氏、劇作家・演出家の唐十郎氏、「機動戦士ガンダム」シリーズで知られるアニメ映画監督・原作者の富野由悠季氏らが選ばれている。
26 Oct 2021
2702
原子力産業の人材確保支援、理解促進・情報提供を目的とする学生向けの合同企業説明会「原子力産業セミナー2023」が10月23日、都立産業貿易センター(東京・港区)で開催され、企業・機関37ブースが出展し、164名の学生らが訪れた。主に2023年卒業予定の大学生・大学院生・高専生が対象。会場内では新型コロナウイルス感染症に対する万全の体制を整えるとともに、ウェブ方式も併用し、38名の学生がオンラインで参加した。同セミナーは、原産協会と関西原子力懇談会が毎年、東京と大阪で開催しているもので、16回目となる今回、日揮ホールディングスとスギノマシンの2社が初出展。4月に米国ニュースケール社の小型モジュール炉(SMR)開発への参画を発表した日揮ホールディングスは、原子力以外にも、太陽光、洋上風力、バイオマス、水素・燃料アンモニアの他、使用済食用油を用いた航空燃料や水素製造に関わるセラミックスの開発など、エネルギー分野の幅広い展開をアピールした。海外のEPC(設計・調達・建設)事業を担う日揮グローバルの原子力エネルギー部長・木村靖治氏は、「グリーンエネルギー・ビジネスに貢献できる人材を育成したい」と、採用への意気込みを示した。同社は将来的に核融合エネルギーや途上国を含めた海外進出に注力するとしており、ブースを訪れた学生からは、「日本が米国で原子力開発?」との驚きの声が聞かれたほか、多くの女子学生がSMRについて質問する姿も見られた。原子力発電所のメンテナンスや廃炉の技術で重電会社の事業を支えるスギノマシンは、高速水噴射エネルギーを利用し様々な材質を切断する「ウォータージェットカッター」で知られている。プラント機器事業本部の犬島旭氏は、「水をコアとする技術が強み。専門性の高い学生に来てもらい、一緒に原子力事業を伸ばしていきたい」と強調。自動車・航空機、精密機器、建築材料、食品・薬品など、多方面にわたる同社の加工・洗浄技術の応用についても積極的にアピールし、学生らの関心を集めていた。行政機関からは原子力規制庁が出展。ブースでの説明には多くの学生が詰めかけ立ち見が出るほどにもなった。人材育成担当者は「立地地域の学生も多い」と、地元目線での原子力安全確保につながることへの期待をにじませた。また、セミナーに初回から出展している原子力発電環境整備機構(NUMO)では、ブースを訪れる学生の傾向に関し、「地質学系の学生が割と多い。これまでのセミナーではみられなかった」などと話している。「原子力産業セミナー2023」は、東京に続いて10月30日には大阪でも開催され、企業・機関28ブースが出展する予定。
25 Oct 2021
3438
福島大学は10月11、12日、国際シンポジウム「原発事故から10年後の福島の“森・川・海”と“食” ~復興に向けて残された課題~」を福島市内で開催(オンライン併用)。国内外専門家による口頭・ポスター発表に続き、12日には市民向けのセッションが行われ、学長の三浦浩喜氏は、開会挨拶の中で、2013年に設置された同学環境放射能研究所の「地域とともに歩む」強み・責務を改めて強調し、「福島の復興に向けた科学的知見や思いを皆様と共有したい」と先鞭を付けた。森林の放射能汚染に関して、国立環境研究所福島地域協働研究拠点グループ長の林誠二氏は、宅地や農地と異なる環境修復の実態を説き、再生に向けたポイントとして、(1)森林生態系モデルの開発と活用、(2)地元が主導する地域資源としての活用、(3)将来の災害に対する備えとしての森林管理――をあげ、アカデミアによる積極的な参画の必要性を強調。河川における放射性物質の動態については、福島大環境放射能研究所特任助教の五十嵐康記氏が、阿武隈川での調査から、近年の水害や農作業による季節影響、中流部と上流部の濃度形成の違いなどを例示した。また、福島大環境放射能研究所准教授の和田敏裕氏は、「海と川の魚は語る」と題し、水産物の放射能汚染の推移・分析結果から漁業復興に向けた課題を示唆。海産魚種の放射性セシウム濃度については、事故後の指数関数的な減少傾向を図示し、その要因として、(1)物理的な減衰、(2)浸透圧調節に伴うセシウムの能動的な排出、(3)底生生態系(エサ)におけるセシウム濃度の低下、(4)成長に伴うセシウム濃度の希釈、(5)魚類の世代交代、(6)魚類の季節的な移動――をあげた。一方で、淡水魚については、一部の水系で出荷制限が続いており、「事故による影響は内水面(河川・湖沼域)では長引いている」と指摘。同氏は、内水面魚種の放射性セシウム濃度が「特に2017年以降で低下が鈍っている」要因の解明に向け実施した赤宇木川(浪江町)のイワナ、ヤマメの分析結果から、エサとなる陸生昆虫からの放射性物質の取り込みが継続していることを示し、「除染の困難な森林生態系とのつながりが主要因」と述べた。環境放射能に関する発表を受け、福島第一原子力発電所事故の発生直後から被災地支援に取り組んでいる長崎大学原爆後障害医療研究所教授の高村昇氏は、福島県の県民健康調査結果などから、「放射線に対する不安を持つ人は発災当初から減ってはきたものの、まだ一定数残っている」と、メンタルケアの課題を指摘。東日本大震災・原子力災害伝承館館長の立場から若者への啓発に努める同氏は、放射線に関する知識の普及とともに、「段々と事故を知らない世代も増えてくる」と、事故の記憶・教訓を次世代に伝えていくことの重要性を強調。さらに、浜通り地域8町村の今後の帰還者予測を示し、「事故後10年が経ち、自治体レベルで見て復興のフェーズが大きく異なっている。それぞれの地域に合った復興支援が求められており、住民と専門家が一体となった取組が必要となる」と訴えかけた。総合討論では、市民・オンライン参加者も交え、福島第一原子力発電所のALPS(多核種除去設備)処理水取扱いに伴うトリチウムの影響、山菜類の安全性、福島産食品の流通回復に関する質疑応答が交わされたほか、今回シンポジウムのテーマに関連し「永遠に『復興』を言い続けるのか。復興のイメージとはどういうものか」という問いかけもあった。これに対し、「今回シンポの登壇者では一番若手。バブル景気を知らない」という五十嵐氏は、「今、日本全体をみても人口が毎年30万人ずつ減っており、これは福島市の人口に相当する。復興は、『元へ戻す』というより、『新しい概念を創っていく』ことではないか」と、今後もさらに議論を深めていく必要性を示唆した。
22 Oct 2021
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第6次エネルギー基本計画が10月22日、閣議決定された。3年ぶりの改定。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉同計画策定に向けては、総合資源エネルギー調査会で昨秋より議論が本格化し、新型コロナの影響、昨冬の寒波到来時の電力需給やLNG市場、菅義偉首相(当時)による「2050年カーボンニュートラル」実現宣言への対応などが視座となり、ワーキンググループやシンクタンクによる電源別の発電コストに関する精査、2050年を見据えた複数シナリオ分析も行われた。8月4日の同調査委員会基本政策分科会で案文が確定。その後、9月3日~10月4日にパブリックコメントに付され、資源エネルギー庁によると期間中に寄せられた意見は約6,400件に上った。新たなエネルギー基本計画は、引き続き「S+3E」(安全性、安定供給、経済効率性、環境への適合)に重点を置いており、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けては、経済産業省が6月にイノベーション創出を加速化すべく14の産業分野のロードマップとして策定した「グリーン成長戦略」も盛り込まれた。同基本計画の関連資料「2030年におけるエネルギー需給の見通し」で、電源構成(発電電力量に占める割合)は、石油2%、石炭19%、LNG20%、原子力20~22%、再生可能エネルギー36~38%、水素・アンモニア1%となっている。エネルギー基本計画の閣議決定を受け、萩生田光一経産相は談話を発表。その中で、「福島復興を着実に進めていくこと、いかなる事情よりも安全性を最優先とすることは、エネルギー政策を進める上で大前提」との認識を改めて示した上で、「基本計画に基づき、関係省庁と連携しながら、全力をあげてエネルギー政策に取り組んでいく」としている。電気事業連合会の池辺和弘会長は、「2050年カーボンニュートラルを目指し、今後あらゆる可能性を排除せずに脱炭素のための施策を展開するという、わが国の強い決意が示されており、大変意義がある」とのコメントを発表。再生可能エネルギーの主力電源化、原子燃料サイクルを含む原子力発電の安全を大前提とした最大限の活用、高効率化や低・炭素化された火力発電の継続活用など、バランスの取れたエネルギーミックスの実現とともに、昨今の化石燃料価格高騰に伴う電力供給・価格への影響にも鑑み、国に対し、科学的根拠に基づいた現実的な政策立案を求めている。また、原産協会の新井史朗理事長は、理事長メッセージを発表。「2050年カーボンニュートラル」を実現するため、同基本計画が、原子力について「必要な規模を持続的に活用していく」としたことに関し、「エネルギーシステムの脱炭素化における原子力の貢献に対する期待が示された」、「原子力産業界としては、その責任をしっかりと受け止めなければならない」としている。
22 Oct 2021
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原子力委員会は10月19日の定例会で、次期エネルギー基本計画(案)に対する見解をまとめた。新たなエネルギー基本計画は、10月末から始まるCOP26までの閣議決定を目指し、9月3日~10月4日に実施されたパブリックコメントへの検討、与党調整が図られているところだ。原子力委員会では、総合資源エネルギー調査会での議論が概ね集約した8月10日の定例会で、経済産業省から同計画の検討状況について説明を受けている。同委員会が今回取りまとめた見解は、次期エネルギー基本計画(案)について、特に原子力利用の観点から意見を示したもの。原子力委員会は7月にまとめた原子力白書で、「福島第一原子力発電所事故から10年を迎えて」との特集を組み、その中で、福島の復興・再生は原子力政策の再出発の起点と、改めて位置付けた。今回の見解では、基本計画(案)の第1章に「福島復興はエネルギー政策を進める上での原点」と明記され、今後の福島復興への取組が記載されたことを評価。その上で、「すべての原子力関係者は、原子力利用を進めていく上での原点が何であるかを片時も忘れてはならない」と述べている。また、「2050年カーボンニュートラル」の実現に関しては、同計画(案)で、原子力について「国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用する」と明記されていることから、「原子力発電の長期的な役割を明らかにしている」ものと評価。一方で、「長期的な役割」を果たすために必要な対策については、「必ずしも明確になっていない」と指摘し、次々期のエネルギー基本計画策定までに検討し取りまとめるべきとしている。見解では、こうした総論のもと、各論として、原子力に対する社会的信頼の再構築、核セキュリティ確保、原子力発電の長期運転に向けた検討、バックエンド問題への対応、核燃料サイクルの推進、国際貢献、新技術開発と人材育成などの諸課題に関し、原子力委員会としての意見を述べている。
19 Oct 2021
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