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カザフがSMR建設の可能性評価でニュースケール社と覚書

20 Dec 2021

今年9月に教書演説を発表するカザフのトカエフ大統領©President of the Republic of Kazakhstan

米国のニュースケール・パワー社は12月16日、同社製小型モジュール炉(SMR)の原子力発電所「VOYGR」をカザフスタンで建設する可能性評価のため、同国の「カザフ原子力発電所会社(KNPP)」と了解覚書を締結したと発表した。世界では近年、安全で信頼性の高い無炭素電源のSMRが今後は重要な役割を果たすとの認識が高まっており、両社はカザフにおけるクリーンエネルギー対策として同技術の活用を検証する方針である。

KNPP社は、総資産600億ドルというエネルギー関係の政府系投資ファンド「サムルク・カズィナ国家福祉基金」が2014年7月に設立したLLP(*)。これは、原子力発電所の導入に向けたカザフ政府の優先活動計画に基づく措置である。同国で原子力委員会の委員長を務めたKNPP社のT.ジャンティキンCEOによると、カザフスタンは2060年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指しており、その達成にはCO2を排出しない再生可能エネルギーと原子力が重要になる。SMRはカザフにとって最も有望な技術とみなされていることから、ニュースケール社との協力は、この目標の達成とグリーン経済への移行を促進する現実的な機会として進めていきたいとした。

国際エネルギー機関(IEA)によると、化石燃料資源に恵まれたカザフでは2018年実績で発電量全体の約70%を石炭火力で発電しており、次いで20%が天然ガス火力によるもの。旧ソ連邦時代に建てられた電熱併給・海水脱塩用の商業高速炉「BN-350」(出力15万kW)が1999年までアクタウで稼働していたが、現在原子力発電設備はない。生産量が世界第1位という豊富なウラン資源を背景に、政府は2014年当時、出力30万〜120万kWの商業炉建設を計画していたが、2015年に同国のエネルギー相は、電力余剰を理由に少なくとも2023年までは原子力発電所建設計画を凍結すると発表した。

2019年3月にカザフの大統領に就任したK.-J.トカエフ氏は今年9月、教書演説のなかで原子力の平和利用と原子力発電所建設の必要性を強調している。2060年までにカザフはCO2排出量の実質ゼロ化を目指す一方、国内では2030年までに電力供給量が不足する見通し。このため、同大統領はサムルク・カズィナ国家福祉基金との協力により、原子力発電利用の可能性を追求すると表明していた。

ニュースケール社の発表によると、今回の覚書締結は、同社が2019年にSMRの技術面と価格面についてKNPP社に提案を行ったのに続くもの。原子力発電所の建設を専門とするKNPP社は、原子力発電の将来見通しについて積極的に調査しているため、ニュースケール社は今回の覚書を通じてKNPP社と原子力や技術関係の知見を共有する。同社製SMRの設計エンジニアリングから建設、起動、運転、保守点検等に至るまで、KNPP社が今後実施する評価活動を支援していく。

ニュースケール社が開発したSMRはPWRタイプの一体型SMR「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」で、電気出力5万kW~7.7万kWのモジュールを最大12基まで可能。米国の原子力規制委員会(NRC)は2020年9月、モジュール1基あたりの出力が5万kWのNPMに対し、SMRとしては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給した。

米国ではエネルギー省(DOE)傘下のアイダホ国立研究所で初号機を建設する計画が進んでいるほか、ポーランドやブルガリア、ウクライナの国営企業がすでに同社と覚書を締結、それぞれの国内で建設する可能性を探っている。またルーマニアも、今年の国連気候変動枠組条約・締約国会議(COP26)に合わせて米国政府と協議。民生用原子力分野における両国の連携協力を通じて、2028年までにルーマニアの国内エネルギーシステムに、NPMを6基連結した「VOYGR-6」(46.2万kW)を含めると発表している。

【注*】LLP=リミテッド・ライアビリティ・パートナーシップ: 事業を目的とする組合契約を基礎に形成される企業形態で、リスク回避のため出資者は出資額の範囲までしか責任を負わない。

(参照資料:ニュースケール社カザフ大統領府の9月の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)

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