英SZC 最終投資決定
23 Jul 2025
英エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のE. ミリバンド大臣は7月22日、イングランド東部サフォーク州に建設予定のサイズウェルC(SZC)原子力発電所の最終投資決定(FID)に署名した。これにより、SZCの建設計画が正式に始まる。
ミリバンド大臣は、「政府は原子力の新たな黄金時代を築くための投資を進めている。これによりプロジェクト遅延を終わらせ、化石燃料市場の混乱から解放され、持続可能な電力価格を実現していく」と語った。
英政府は、EDF(フランス電力)、ラ・ケス(カナダ・ケベック州の公的年金投資機関)、セントリカ(英エネルギー企業)、アンバー・インフラストラクチャー(英インフラ資産運用会社)と並んでSZCプロジェクトの筆頭株主となり、英国民は初めて英国の原子力発電所の共同所有者となる。SZCプロジェクトへの出資比率は以下のとおり。
・英政府:44.9%(初期出資)
・加ラ・ケス(La Caisse):20%
・英セントリカ(Centrica):15%
・仏EDF:12.5%
・英アンバー・インフラストラクチャー(Amber Infrastructure):7.6%(初期出資)
これらの株式出資に加え、フランス輸出信用機関 Bpifranceは50億ポンド(約1兆円)の融資保証により、商業銀行からの融資を後押しする。加えて、英政府の主要投資家で政策銀行であるナショナル・ウェルス・ファンド(NWF)がプロジェクトの債務融資の大部分を支援する。英政府はこの融資を促進するためにNWFへの追加資本も提供する方針である。
SZCプロジェクトは、既存のサイズウェルB原子力発電所サイトに欧州加圧水型炉(EPR-1750、各172万kWe)を2基建設する計画。また、現在建設中のヒンクリーポイントC(HPC)のEPR×2基のレプリカ版であり、HPCプロジェクトで得られた教訓を直接適用し、迅速かつ低コストでの建設を目指している。なお、HPCプロジェクトの2号機は、初号機よりも進捗が50%早いという。
英国で現在稼働している原子炉は9基で、合計出力は約650万kWe。英政府は、1995年以降に新しい原子力発電所は稼働しておらず、サイズウェルB原子力発電所を除く既存のすべての原子力発電所は2030年代初頭までに段階的に廃止される可能性が高いと指摘。SZCはミリバンド大臣が2009年当時のエネルギー相在任時に新規原子力発電所の候補地として特定した8サイトのうちの一つであったが、その後の保守党政権下での14年間、同プロジェクトには十分な資金が提供されなかったと同大臣は説明している。
SZCが稼働すると、少なくとも60年間、600万世帯に相当する電力を供給し、電力システム全体で年間平均20億ポンド(約4,000億円)の節約が期待されている。英国では、2030年代に小型モジュール炉(SMR)とSZC、HPCの運転開始が見込まれている。
SZCプロジェクトは、公共投資と民間資本の両方を使用する規制資産ベース(RAB)モデル[1] … Continue readingを適用。建設期間中から需要家(消費者)がコストの一部を電気料金に上乗せされる形で負担する。HPCプロジェクトに適用されている開発者が全額自己資金で建設し、発電開始後に収益を得る仕組みである差金決済取引(CfD)とは異なる。
SZCプロジェクトの建設コストの見込額は約380億ポンド(2024年価格、約7.6兆円)と設定され、これには予期せぬ支出への備え(予備費)も含まれており、資産売却などによって将来的にコストを減らす可能性を考慮せず、慎重に見積もられている。
SZCの共同マネージングディレクターであるJ. パイク氏は、「SZCは、建設期間中における需要家(消費者)の負担は平均して月額約1ポンド(200円)。約380億ポンドの建設コストの見積もりは、HPCにおけるコストを非常に詳細に精査し、サプライヤーとの長い交渉の結果である。380億ポンドの建設コストは、HPCと比較して約20%の節約に相当し、シリーズ建設の価値を示している」と強調した。
サフォークの現場では既に準備工事が進行中で、地元企業と3.3億ポンド(約660億円)以上の契約が締結されているという。建設のピーク時には10,000人の直接雇用、サプライチェーンには最大60,000人の雇用の創出に加え、1,500人の技能実習も見込まれている。また、契約の約70%は英企業3,500社に発注されると予想されている。
英原子力産業協会(NIA)のT. グレイトレックスCEOは、「SZCは英国史上最大・最もグリーンなプロジェクト。産業地域への投資、エネルギー安全保障の確保、雇用創出、ガス輸入削減、経済基盤の強化に寄与する」と評価。さらに、「SZCプロジェクトは、英国で初めての『完全な複製型』の発電所の承認でもあり、これがより迅速かつ低コストな建設のカギ。この10年越しの決断を経た今、次のプロジェクトにこれほど時間をかけてはならない」と強調した。
脚注
↑1 | 規制資産ベース(RAB)のコスト回収スキーム。個別の投資プロジェクトに対し、総括原価方式による料金設定を通じて建設工事の初期段階から、需要家(消費者)から費用(投資)を回収する。これにより投資家のリスクを軽減でき、資本コスト、ひいては総費用を抑制することが可能になる。 |
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