米国 核融合発電所の土木工事を開始
13 Aug 2025
米ワシントン州に拠点を置く核融合エネルギー企業のヘリオン(Helion)社は7月30日、核融合発電所「オリオン」(Orion)の土木工事を開始した。建設地は、送電インフラへのアクセスの良さや、エネルギー技術革新の歴史を持つワシントン州シュラン郡。2028年までに少なくとも5万kWeの発電能力をもつ核融合発電所の稼働を計画している。
大手IT企業のマイクロソフト社は2023年5月、自社のデータセンター向けに、世界初となる核融合発電による電力購入契約(PPA)をヘリオン社と締結。同契約では2028年までに電力供給を開始し、米電力大手のコンステレーション社が電力の販売を担当、送電を管理するという。
ヘリオン社のD. カートリー共同創業者兼CEOは、「今日は、当社だけでなく核融合業界全体にとっても重要な日。創立以来、核融合技術を商業化し、電力網に供給することに専念してきた。今回の工事の開始により、そのビジョンに一歩近づいた」と述べた。
マイクロソフト社のM.ナカガワ最高サステナビリティ責任者(CSO)兼バイスプレジデント(CVP)は「核融合は、世界が追い求めるクリーンで豊富なエネルギーの新たなフロンティア。商業用核融合に至る道のりは未だ発展途上だが、持続可能なエネルギーへの投資の一環としてヘリオン社の先駆的な取組みを支援していく」と語った。
ヘリオン社は、シュラン郡公共事業区(PUD)から土地を借りて、同郡マラガで建設を開始した。このプロジェクトは、州の環境影響評価制度(SEPA)から「重要な影響なし」との評価を得て進められている。2023年以降、同社は州および地域の政府機関、市民らを含むステークホルダーと積極的に対話を重ねてきた。今後も、商業用核融合発電所の建設と運転に向けた許認可手続きを継続するとしている。
ヘリオン社は、「迅速な反復とテスト」によるアプローチにより、商業用核融合装置の開発を進めている。第6世代プロトタイプ「トレンタ」(Trenta)は2021年、民間企業として初めて核融合発電に必要とされるプラズマ温度 1億℃の達成に成功した。第7世代プロトタイプ「ポラリス」(Polaris)は初期運転を2024年に開始。世界初となる核融合発電を実証する計画である。
またヘリオン社は2023年9月、北米最大の鉄鋼メーカーであるニューコア(Nucor)社と脱炭素化の加速を目的に、同社の製鉄所施設に50万kWeの核融合発電所を導入する契約も締結している。なお最新の資金調達ラウンドにより、ヘリオン社への投資総額は10億ドルを超えている。大口投資家には生成人工知能(AI)ChatGPTを手がける米オープンAI社のS. アルトマンCEOがいる。
ヘリオン社は、磁場反転配位(Field-Reversed Configuration:FRC)型核融合を採用し、燃料には重水素とヘリウム-3を使用。装置の両端でドーナツ状のプラズマパルスを生成。プラズマを圧縮しながら加速器を用いて装置の中央部で衝突、核融合を非連続的に発生させ、その頻度を高めて取り出すエネルギーを増やす。プラズマ中の電子や荷電粒子が電磁誘導でコイルに電流を発生させ、電力として利用する仕組みだという。