米韓首脳会談 原子力分野での連携強化
02 Sep 2025
韓国の李在明大統領は8月25日に米ワシントンで、D. トランプ米大統領と初首脳会談を行った。会談後に開催された韓米ビジネス円卓会議(KORUS Business Roundtable)では、両政府から金正官・産業通商資源部(MOTIE)長官とH. ラトニック米商務長官らが出席し、造船、原子力、航空、LNG、重要鉱物など5分野で計11件の契約・MOUが締結された。うち、4件のMOUは原子力発電プロジェクトに関するもの。
首脳会談では、AI、半導体などの先端産業、造船、自動車などの主要製造業、防衛、原子力などの戦略産業を含む、ほぼすべての産業を網羅する様々な分野での協力について議論。原子力協力については首脳間で有意義な議論が行われ、今後、さらなる協議が行われる予定だという。
ビジネス円卓会議において、原子力発電プロジェクトに関して締結された4件のMOUは以下のとおり。
- 韓国水力・原子力(KHNP)と斗山エナビリティ社が、米X-エナジー社およびアマゾンウェブサービス社とX–エナジー社製の小型モジュール炉(SMR)「Xe-100」の設計・建設・運転・サプライチェーンの構築、投資及び市場拡大の協力
- 斗山エナビリティ社が、フェルミ・アメリカ社によるテキサス州の人工知能(AI)キャンパスプロジェクト(※)のために建設される大型原子力発電所とSMR機器の製造協力
- KHNPとサムスンC&T社が、フェルミ・アメリカ社と、AIキャンパスプロジェクトにおける原子力・火力・太陽光発電の統合運用の円滑な事業への協力
- KHNPが、米ウラン濃縮供給会社のセントラス社による新遠心分離機プラント建設への共同出資
※テキサス州アマリロ郊外の約2,335万m²の敷地に世界最大とされる民間初の電力網キャンパスを建設。大型炉のウェスチングハウス社製AP1000×4基(400万kWe)、SMR(200万kWe)、ガス火力複合発電所(400万kWe)、太陽光発電とバッテリーエネルギー貯蔵システム(100万kWe)を組み合わせた計1,100万kWeの独立電力供給インフラと、この電力に連携される大規模なハイパースケールAIデータセンターを段階的に導入。
韓国企業は、原子力発電所建設の経験と技術力をベースに、今後米国内で急増する電力需要に対応して進められる原子力発電所建設プロジェクトに、より積極的に参加する考え。また、韓国内の原子力発電所向けの濃縮ウランの米国からの安定供給を期待している。
KHNPのJ. ファンCEOは、「米韓原子力協力は、米国のエネルギー安全保障とカーボンニュートラルを達成する上で非常に重要な要素である。SMRを含む、世界のエネルギー市場における当社の競争力を高める機会となる」と期待を示し、今回の業務協約を基盤に米国のエネルギー市場への参加を拡大していきたい考えだ。
金MOTIE長官は、「韓国政府は、韓米のルネッサンスを先導するために必要な、あらゆる制度的支援を提供する。両国企業に無限のビジネスチャンスを創出するよう努力する」と語った。
米ウェスチングハウス(WE)社と知的財産(IP)紛争で今年1月に和解した件をめぐり、8月19日、KHNP社のJ. ファンCEOは国会の産業通商資源部中小ベンチャー企業委員会に同委員会の要請により出席した。同日午前にWE社との和解合意の内容がメディアで報道されたことを受けたもの。同合意では、50年間にわたり、KHNPがWE社と原子炉1基の輸出ごとに6.5億ドル相当の機器とサービス購入契約を締結し、原子炉1基あたり1.75億ドルの技術ライセンス料を追加で支払い、WE社がSMRを含む海外原子炉プロジェクトに入札する前に、韓国企業の技術的独立性を検証することを義務付ける条項が含まれることに加え、韓国が輸出するチェコとサウジアラビアの原子炉にWE製の燃料を100%、その他地域の原子炉には50%供給することを規定しているという。
合意内容を問われた同CEOは、WE社との守秘義務契約により、その内容の確認はしなかったが、関係法令により適切な要請があれば回答すると述べ、韓国に不利で不公正な内容とする議員らの意見に対しては、「原子力産業全体の収益からは、そうとはいえない」と答えた。「WE社の要求や主張は正当化されるものではないが、総額と割合を見るとWE社が大きな部分を獲得しているように見えるものの、WE社には独自のサプライチェーンがないため、たとえシェアを取ったとしても、必然的に私たちのようなサプライチェーンを持つ企業に下請けをしなければならないからだ」と説明した。また同CEOは、スウェーデン、スロベニア、オランダに続き、ポーランドの原子力発電プロジェクトから撤退することを明らかにした。ポーランドからの撤退は、ポーランド政府と国営企業によるそれぞれの原子力建設プロジェクトが、新政権発足後に政府のプロジェクトに1本化されたことを理由に挙げた。欧州からの撤退は、欧州向けに戦力を使い続けるよりも米国市場向けに使うべきと決定され、SMR事業など外部事業環境の変化があったこと、さらに米国市場への参入には色々な方法が考えられると説明した。
議員の間で同契約に関する徹底的な監査と調査を求める議論の高まりを受け、同日、韓国大統領府は秘書室長を通じて、KHNPとWE社の契約について法令に準拠しているか、原則、手続きが守られているか調査するようMOTIEに指示を出している。なお、KHNPとWE社の間で合弁企業の設立について首脳会談の議題になるとの報道に対し、MOTIEは「両社間が議論する話であり、政府間の議題には含まれない」と否定。KHNPは「WE社とはさまざまな角度から協力を検討しているが、具体的な詳細は決定されていない」と指摘している。