原子力産業新聞

海外NEWS

シンガポール 先進原子力技術の導入を視野に調査を開始

10 Sep 2025

桜井久子

Ⓒ EMA

シンガポール貿易産業省(MTI)傘下のエネルギー市場監督庁(EMA)は92日、先進原子力技術、特に小型モジュール炉(SMR)に焦点を当て、その安全性、技術の成熟度、商業化の準備状況に基づき、安全性能、技術的実現可能性を評価することを明らかにした

EMAは、シンガポールのエネルギー産業の規制と開発を担当している。202412月に先進原子力技術に関するコンサルティングサービスの入札を開始し、英国のインフラコンサル企業のモット・マクドナルド社を選定した。同社は、原子力産業分野において60年以上にわたり、独立した安全性評価、ライセンスや規制面、技術成熟度評価、多様なエネルギーシステムへの原子力発電の統合などで、欧州、中東、オーストラリアなどの政府、規制当局、事業者に助言してきた経験を有する。なお、この調査のサブコンサルタントに、韓国の現代EC社(現代建設)を採用しているという。

EMAは、政府は原子力導入を決定してはいないが、特に先進的な原子力技術について理解を深め、能力の強化、専門家との協力継続は重視すべきとの考え。原子力導入の可否は、安全性、信頼性、経済性、環境持続可能性といった観点から、シンガポールの状況に即して慎重に検討する必要があるとしている。

シンガポールは、面積約720 km2(東京23区よりやや大きい)、人口およそ570万人の高密度都市国家。世界中の企業が拠点を置くビジネス都市でもあり、金融・貿易・物流・ITを中核に産業が発展している。シンガポールの総発電電力量は570kWh2023年)で、年々上昇傾向にある。電源別発電量では、天然ガスが94.5%を占め、その他(都市廃棄物、バイオマス、太陽光など)で4.3%。石炭0.9%、石油0.4%。天然ガスを含む化石燃料は輸入に依存している。シンガポールは再生可能エネルギー開発と持続可能性への取組みを強化しており、太陽光発電設備の容量が徐々に増加すると予想されているが、再生可能エネルギー源の拡大にも限度があるため、2050年までに排出ネットゼロの気候目標の達成とともに、増大する電力需要への対応が課題となっている。

2012年、MTIが実施した原子力エネルギーに関する事前実現可能性調査では、現在利用可能な原子力技術はまだシンガポールでの展開に適していないと結論付けられた。EMASMRやその他の高度な原子力技術の進歩を引き続き監視しつつ、将来のエネルギー選択肢をオープンにして、シンガポールへの影響を評価する能力を構築していく考えを示している。

シンガポールは20247月末に、米国と原子力協力協定(通称123協定)を締結。両国は、米国務省が主導する「SMRの責任ある利用のための基盤インフラ(FIRST)」プログラムなどの能力開発イニシアチブを通じて、SMRのような先進的な原子力技術によるエネルギー需要への対応と、気候目標の達成に向けて、民生用原子力協力をさらに強化する方針。同協定に調印したV. バラクリシュナン外相は、原子力導入の決定にあたり、原子力の安全性、信頼性、経済性、環境の持続可能性について詳細な研究が必要であるとし、「従来の原子力技術はシンガポールには適さないが、民生用原子力技術の進歩を考えると、いかなるブレークスルーにも後れを取らないようにしなければならない」と語っている。

cooperation