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EU裁判所 原子力をEUタクソノミーに維持する判決

18 Sep 2025

桜井久子

一般裁判所の本法廷が入るテミスビル
Ⓒ Court of Justice of the European Union

欧州連合(EU)の一般裁判所(General Court=下級審)は910日、環境的に持続可能な経済活動のためのEUの分類システム(タクソノミー)に原子力と天然ガスを含める規則の廃止を訴える、オーストリアの訴えを棄却。原子力と天然ガスの経済活動は環境的に持続可能な投資対象とみなすことができるとの判決を下した。

EUは2050年までに「気候中立」を目指しており、20206月にEU立法府(欧州議会および欧州連合理事会)は、気候変動の緩和や適応に役立ち、持続可能な投資を促進するための「タクソノミー規則」を採択した。EU立法府は、どの条件の下で経済活動が気候変動の緩和や適応に大きく寄与するか、また他の環境目的に著しい害を及ぼすか否かを判断する技術的審査基準を策定する権限を欧州委員会(EC)に委任した。EC20216月、再生可能エネルギー分野の活動に関する技術的審査基準を定める委任規則を採択。さらに20223月、ECは前年の規則を改定し、原子力ならびに天然ガス分野の一定条件下の活動を気候変動の緩和や適応に大きく寄与する活動のカテゴリーに含める技術的審査基準を定める委任規則を採択した。

オーストリアは、持続可能な投資スキームに原子力ならびに天然ガス分野の活動を含む委任規則の無効を求めて、202210月、ルクセンブルクにある一般裁判所にECを提訴していた。

今回、一般裁判所は、同委任規則が採用したアプローチは供給の安全性を確保しつつ、段階的に温室効果ガス排出量を削減する漸進的アプローチであり、原子力ならびに天然ガス分野の経済活動が一定の条件下で気候変動の緩和と適応に実質的に寄与し得るという見解を是認。その理由に以下を挙げた。

  • 原子力および天然ガスを持続可能な投資制度に含めたことにより、ECEU立法府から適切に付与された権限を超過したわけではない。
  • ECは、原子力発電が温室効果ガス排出量をほぼゼロに抑えており、また十分な規模でエネルギー需要を継続的かつ安定的に賄う技術的・経済的に実現可能な低炭素代替手段(再生可能エネルギーなど)が現在存在しないことを考慮する正当な権限を有していた。
  • ECは、原子力発電所の通常運転に伴うリスク、深刻な炉心事故、高レベル放射性廃棄物に関するリスクを十分に考慮。ECには既存の規制枠組みを超える防護水準を要求する義務はなかった。オーストリアが主張した干ばつや気候災害による原子力への悪影響についての議論は、受け入れるにはあまりに推測的であると判断された。
  • さらに、他のエネルギー発電分野の経済活動と同様に、ECにはウラン鉱石の採掘・加工、ウランの精製・転換・濃縮、燃料集合体の製造や輸送といった上流や下流の活動、あるいは武力紛争、破壊工作、民生・軍事用途の悪用や拡散のリスクを考慮する義務はなかった。

なお、本裁判において、オーストリアはルクセンブルクの支持を得ており、一方のECは、ブルガリア、チェコ、フランス、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、スロベニア、スロバキア、フィンランドの支持を得ていたという。一般裁判所の決定に対しては、2か月と10日以内に、司法裁判所(Court of Justice)に上訴できるが、上訴は法律の適用や解釈上の問題の扱いに限定されている。

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