ポーランドの大手化学素材メーカーであるシントス社のグループ企業シントス・グリーン・エナジー(SGE)社は7月30日、ハンガリーならびにスロバキアの原子力関係機関とそれぞれ、米GEベルノバ日立(GVH)社製のSMR「BWRX-300」(30万kWe)の導入をめぐり協力することで合意した。SGE社は、ポーランドへのBWRX-300導入のため、同国最大手の石油精製企業であるPKNオーレン社と50%ずつ出資し、2022年に合弁企業のオーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社を設立。OSGE社は国内6地点における合計24基のBWRX-300建設に向けて、許認可手続きの準備を進めている。なおSGE社はGVH社と合意に基づき、欧州地域でのBWRX-300建設においてプロジェクト開発者としての役目を担う。ハンガリーにおける導入計画SGE社はハンガリーのHunatom社(原子力発電に関連する技術・イノベーション強化を目的に設立)と、ハンガリーに最大10基のBWRX-300導入を評価する基本合意書(LOI)に調印した。LOIは、BWRX-300の導入に関連して、必要な技術、インフラ、ファイナンス、法的な側面での共同作業を開始する枠組みを確立するもの。LOI調印式には、ハンガリーのP. シーヤールトー外相、ポーランドのJ. シュラデフスキー臨時代理大使、米国のR. パラディーノ臨時代理大使が立会った。シーヤールトー外相は、「我々は電力需要の増加に直面しているが、我々が自力で維持できる唯一の発電方法は、間違いなく原子力。大型炉をさらに建設することは国土の大きさからして現実的ではなく、SMRは理想的なソリューション。特に工業地域での設置に最適だ」と述べた。ハンガリーでは現在、パクシュ原子力発電所の増設プロジェクト(=パクシュⅡプロジェクトとして5、6号機を増設、各ロシア製VVER-1200、120万kWe)が進められている。パクシュⅡは国際プロジェクトであり、ロシア国営原子力企業ロスアトム、仏アラベル・ソリューションズ社のほか多くの西側サプライヤーと提携して実施。今年6月、米政府が同プロジェクトに対する制裁を解除し、建設プロジェクトに弾みが出ると期待されている。スロバキアにおける導入計画SGE社は、スロバキアの大手電力会社のスロバキア電力(SE)社とBWRX-300の導入プロジェクトで協力を模索するMOUを締結した。スロバキアおよびその他の欧州諸国(特にチェコと英国)におけるSMRプロジェクトに係わる投資、許認可手続き、共同開発の可能性を検討する。合弁事業の設立、資金調達の構築、地域サプライチェーンの開発のほか、データセンターなどのデジタルインフラへの活用も視野にいれている。SE社のB. ストリチェクCEOは、「SGE社とのパートナーシップにより、最先端のBWRX-300を詳細に分析し、スロバキアにおける導入可能性を適切に評価できるようになる。原子力発電所の建設・運転で培った当社の長年のノウハウを活かして、地域のSMR開発を支援していきたい」と語った。なおスロバキアは現在、米国と原子力分野における協力に関する政府間協定の締結の準備を進めており、D. サコヴァ副首相兼経済相はこのほど、欧州委員会(EC)が同協定について了承したと明らかにした。EU加盟国ではない国との政府間協定はEU機関による事前承認や審査を受けなければならない。R. フィツォ首相は自身のソーシャルメディアで、同協定の締結を契機に、ボフニチェ原子力発電所の新設に米ウェスチングハウス社製AP1000を採用する計画について言及している。
13 Aug 2025
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米ワシントン州に拠点を置く核融合エネルギー企業のヘリオン(Helion)社は7月30日、核融合発電所「オリオン」(Orion)の土木工事を開始した。建設地は、送電インフラへのアクセスの良さや、エネルギー技術革新の歴史を持つワシントン州シュラン郡。2028年までに少なくとも5万kWeの発電能力をもつ核融合発電所の稼働を計画している。大手IT企業のマイクロソフト社は2023年5月、自社のデータセンター向けに、世界初となる核融合発電による電力購入契約(PPA)をヘリオン社と締結。同契約では2028年までに電力供給を開始し、米電力大手のコンステレーション社が電力の販売を担当、送電を管理するという。ヘリオン社のD. カートリー共同創業者兼CEOは、「今日は、当社だけでなく核融合業界全体にとっても重要な日。創立以来、核融合技術を商業化し、電力網に供給することに専念してきた。今回の工事の開始により、そのビジョンに一歩近づいた」と述べた。マイクロソフト社のM.ナカガワ最高サステナビリティ責任者(CSO)兼バイスプレジデント(CVP)は「核融合は、世界が追い求めるクリーンで豊富なエネルギーの新たなフロンティア。商業用核融合に至る道のりは未だ発展途上だが、持続可能なエネルギーへの投資の一環としてヘリオン社の先駆的な取組みを支援していく」と語った。ヘリオン社は、シュラン郡公共事業区(PUD)から土地を借りて、同郡マラガで建設を開始した。このプロジェクトは、州の環境影響評価制度(SEPA)から「重要な影響なし」との評価を得て進められている。2023年以降、同社は州および地域の政府機関、市民らを含むステークホルダーと積極的に対話を重ねてきた。今後も、商業用核融合発電所の建設と運転に向けた許認可手続きを継続するとしている。ヘリオン社は、「迅速な反復とテスト」によるアプローチにより、商業用核融合装置の開発を進めている。第6世代プロトタイプ「トレンタ」(Trenta)は2021年、民間企業として初めて核融合発電に必要とされるプラズマ温度 1億℃の達成に成功した。第7世代プロトタイプ「ポラリス」(Polaris)は初期運転を2024年に開始。世界初となる核融合発電を実証する計画である。またヘリオン社は2023年9月、北米最大の鉄鋼メーカーであるニューコア(Nucor)社と脱炭素化の加速を目的に、同社の製鉄所施設に50万kWeの核融合発電所を導入する契約も締結している。なお最新の資金調達ラウンドにより、ヘリオン社への投資総額は10億ドルを超えている。大口投資家には生成人工知能(AI)ChatGPTを手がける米オープンAI社のS. アルトマンCEOがいる。ヘリオン社は、磁場反転配位(Field-Reversed Configuration:FRC)型核融合を採用し、燃料には重水素とヘリウム-3を使用。装置の両端でドーナツ状のプラズマパルスを生成。プラズマを圧縮しながら加速器を用いて装置の中央部で衝突、核融合を非連続的に発生させ、その頻度を高めて取り出すエネルギーを増やす。プラズマ中の電子や荷電粒子が電磁誘導でコイルに電流を発生させ、電力として利用する仕組みだという。
13 Aug 2025
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中国の浙江省寧波市で8月10日、中国核工業集団公司(CNNC)の金七門(Jinqimen)第Ⅰ原子力発電所の1号機(120万kWe)が着工した。これに先立ち、国家核安全局(NNSA)が8月5日、同発電所1、2号機の建設許可を発給した。2024年2月には、同発電所の起工式を開催している。2023年12月、国務院常務会議は同発電所の1、2号機の建設計画を承認した。同発電所では、中国が独自開発した第3世代PWR「華龍一号」(HPR1000)を採用。同サイトではこの1、2号機を含め、計6基の「華龍一号」を建設予定である。浙江省ではCNNCの秦山、方家山、三門の各原子力発電所が運転中である。CNNCによると、金七門サイトの全6基が稼働すると合計設備容量は約720万kWとなり、年間550億kWhを発電、これは2024年の寧波市全体の電力消費量の半分に相当し、年間約4,500万トンのCO2削減に相当するという。1号機の運転開始は2028年末頃を見込む。CNNC傘下のCNNC浙江エナジー社が開発、建設を担当する。
12 Aug 2025
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米国のマイクロ炉開発企業のラスト・エナジー社は7月29日、自社が開発するマイクロ炉「PWR-20」(2万kWe)が英国で予備設計審査(Preliminary Design Review:PDR)を完了したことを明らかにした。同社は英国の南ウェールズに同機を4基導入する計画であり、原子力サイト許可(NSL)の正式手続き入りをし、PDRを完了した初のマイクロ炉開発企業となった。PDRは、英原子力規制庁(ONR)、環境庁(EA)およびウェールズ自然保護機関(NRW)が実施。1年以上にわたる事前協議を経て、2025年2月から6月までの5か月間に実施された。PDRは、規制当局の期待に対して潜在的に重大なギャップを特定し、それらのギャップを解決するアドバイスの提供によって、申請者がNSLと環境許可に至るまでの手続きにおいてプロジェクトのリスクをより深く理解できるようにすることを目的としている。今回、組織計画と体制、環境および廃炉計画、安全性分析のプロセスと成熟度の3点からの評価に加え、PWR-20の「完全受動型で、事故時に運転員が現場を離れても安全性が保たれる特性(walk-away safe)」も評価。ラスト・エナジー社はPDRの完了により、次段階の設計、安全性、セキュリティ、環境面での規制評価に向けて、個別に対応された規制ガイダンスを得たとの認識だ。なお同社は、包括的設計審査(GDA)を完了せずに、NSLと環境許可を直接申請する意向を示していた。ラスト・エナジーUK社のM. ジェナーCEOは、「原子力の大規模導入は、脱炭素化と英国全体の経済成長に不可欠。PDRの完了は、効率的な許認可プロセスの実施に必要な指針を与えるもので、英国初となる商用マイクロ炉を実現する準備が整った」と述べた。規制当局は、ラスト・エナジー社が掲げる「2027年12月までにNSLを取得する」という目標について、PDRで合意された基準とスケジュールに沿って、同社が申請を進めることを条件に達成可能としている。2024年10月、ラスト・エナジー社は、ウェールズ南東部のブリッジエンドにあるスリンビ(Llynfi)石炭火力発電所の跡地にマイクロ炉×4基を建設する計画を発表した。同月には用地を取得、同年12月には米輸出入銀行(US EXIM)から南ウェールズでの建設プロジェクト向けに、1.037億ドルを融資する意向表明書(LOI)を取得した(最終承認待ち)。今年1月にはNSLの正式手続き入りをし、英送配電網運営会社(NGED)から2.2万kWの電力供給の接続枠を獲得している。ラスト・エナジー社は、2019年に米国の研究機関であるエナジー・インパクト・センター(Energy Impact Center)からスピンオフした企業で、従来の原子力発電所建設プロジェクトが抱える時間面・コスト面の課題を解決することを目指している。同社の開発したマイクロ炉「PWR-20」は、加圧水型炉がベース。大量生産を前提としたモデルで、数十のモジュールから構成されており、工場での製造、輸送、サイトでの組立てを24か月以内に完了できるという。
12 Aug 2025
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経済協力開発機構(OECD)の原子力機関(NEA)はこのほど、小型モジュール炉(SMR)の世界的な開発・導入状況を体系的に評価した「NEA SMRダッシュボード」の最新版(第3版)を発表した。許認可、立地、資金調達、サプライチェーン、関係者とのエンゲージメント、燃料供給の6分野にわたる準備状況を詳細に分析し、世界各地で進むSMRプロジェクトの実証・商業化に向けた取り組みを紹介している。今回のダッシュボードでは、NEAが特定したSMR計127炉型のうち、公開情報が十分にあり評価可能とされた74炉型について分析を実施。そのうち7炉型はすでに運転中または建設段階にあり、また51炉型が事前許認可または許認可プロセスに関与している。評価にはNEAが独自に構築したSMRデータベースが活用されており、2025年2月14日時点の最新情報が反映された。なお、第3版では日本に関して、日本原子力研究開発機構(JAEA)、Blossom Energy社、東芝エネルギーシステムズ社がそれぞれ開発するSMR6炉型が紹介されている。SMRへの関心は、気候変動対策とエネルギー・セキュリティの両立をめざすなかで、世界的に高まっている。地域別に見ると、北米に本拠を置くデベロッパーが最も多く、欧州、アジア(OECD加盟国)、中国、ロシア、アフリカ、南米、中東と続く。評価対象となったSMRには、概念段階にあるものから初号機(FOAK)の実証に向けた準備が進むものまで、技術的成熟度にばらつきが見られるが、全体として拡大傾向にある。ファイナンス面でも動きが加速している。NEAによると、2024年版のダッシュボードと比較して、今回資金調達の発表が確認されたSMRは81%増加。NEAは、SMRに対する世界全体での資金流入を約154億ドルと試算しており、そのうち約54億ドルが民間からの出資と見ている。政府の補助金やマッチングファンドに加え、米国を中心に民間投資が存在感を高めているという。具体的には、グーグル、アマゾン、メタ、ダウ・ケミカルなどの米大手グローバル企業が、自社の環境目標に沿ったエネルギー需要を満たすために、積極的に投資している。また、SMRプロジェクトの立地候補地の大半が政府機関または公益事業体の所有サイトである一方で、近年では民間所有サイトも増加傾向にある。需要地近くでの建設や、廃止された(あるいは廃止予定の)石炭火力発電所サイトでの導入検討も進んでいる。事業モデルも従来の電力会社中心の枠組みから、建設・所有・運転(BOO)モデル、電力購入契約(PPA)など柔軟な形態へと多様化している。一方、NEAは技術面において、燃料供給の整備が依然として課題と指摘。SMR設計の多くは、現在商業レベルで利用できないHALEU(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)を必要としており、燃料形態の多様化も進んでいる。酸化ウランセラミック燃料が最も一般的だが、TRISO燃料(HALEU燃料を黒鉛やセラミックスで3重に被覆した粒子型燃料)や金属燃料、熔融塩燃料など、従来炉とは異なる技術も広く採用されつつある。これら新型燃料の商業規模の生産施設はないことから、NEAは新たなインフラ整備が不可欠としている。NEAは2025年中に、ダッシュボードのオンライン版「SMRデジタルダッシュボード」を立ち上げる予定で、SMRに関する情報をリアルタイムで把握できるプラットフォームを提供する。このインタラクティブなツールは、関係者がSMRの世界的な進展状況を即座に把握できるよう設計されており、NEAは今後の政策立案や事業戦略にとって重要な判断材料を提供していく考えだ。
12 Aug 2025
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アラブ首長国連邦(UAE)の首長国原子力会社(ENEC)は、エネルギー安全保障と持続可能性の強化を目的に、原子力発電の迅速な供給体制の構築に向け、国内外での投資、協力、展開の機会の拡大に注力している。こうした中、同社は、韓国ならびに米国の企業と相次いで覚書(MOU)を締結。UAEの総電力需要の25%を供給するバラカ原子力発電所(韓国製APR1400×4基)の建設・運転で得た知見を活用し、原子力をクリーンエネルギー戦略に取り込もうとする各国・企業への支援、協力体制を強化している。韓・現代E&C、サムスンC&TとMOUを締結ENEC社は7月28日、韓国の現代E&C(現代建設)社とグローバルな原子力事業における協力機会の模索を目的とした戦略的覚書(MOU)を締結した。現代E&C社はバラカ発電所の建設の主要請負業者で、同建設プロジェクトにおいて、独自のリスク管理と建設能力を実証済み。本MOU締結により、知見の共有、プロジェクト参加の共同評価、戦略的投資機会の評価を実施するほか、相互の関心分野を特定し、共同作業部会を設置。両国が原子力を含むエネルギー分野での将来の協力へのコミットメントを深める中、現代E&C社はバラカ・プロジェクトで培った信頼と経験を基盤に、戦略的パートナーとしての協力を拡大する計画だ。翌29日には、ENEC社はサムスンC&T社(サムスン物産)とも、グローバル市場における原子力関連プロジェクトの共同開発を模索するMOUを締結。協力範囲は、米国における新設、運転再開、原子力インフラ関連の合併・買収(M&A)活動、原子力機器サプライヤーなどへの投資の検討が含まれている。さらに、小型モジュール炉(SMR)の共同開発と投資計画、原子力による水素製造の機会の評価、ルーマニアにおける原子力発電所の開発と資金調達に関する共同評価などが挙げられている。両社は、大型炉とSMR分野で築いてきた先進技術とグローバルネットワークを融合し、相乗効果をめざす。なお、サムスンC&T社は、2025年4月にルーマニアにおけるチェルナボーダ原子力発電所1号機(CANDU炉、70.6万kWe)の改修契約を獲得したほか、同国南部のドイチェシュティ(Doicesti)における米ニュースケール社製のSMR建設プロジェクトの基本設計(Front-End Engineering Design:FEED)にも共同参画している。スウェーデンとエストニアにおいてもSMRプロジェクトに取り組んでいるところだ。米ウェスチングハウス社とMOUを締結ENEC社は米ウェスチングハウス(WE)社と7月25日、米国における高度な原子力技術の展開検討に向けたMOUを締結した。米政府はAIやテクノロジー分野の拡大などに伴う電力需要の増加に対応するため、2030年までに10基の大型炉の建設開始、2050年までに米国の原子力発電能力を4倍に拡大するという目標を掲げている。両社は、WE社のAP1000の展開加速を含む、米国の新規建設と再開プロジェクト、燃料サプライチェーンの協力、バラカ発電所へのWE社の運転・保守の支援拡大の可能性などについて検討していくことで合意した。GVH社との連携、ENECの戦略推進なおENEC社は今年5月、米GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社と、GVH社製のSMRであるBWRX-300の国際展開に向けて、包括的なロードマップの評価・策定で協力するMOUを締結している。同MOUは、ENEC社が次世代原子力技術の評価と潜在的な展開加速を目的に創設したADVANCEプログラムの一環。ENEC社は今回の一連のMOU締結により、国際的な原子力パートナーシップにおける役割を拡大し、原子力の成長を加速、世界の電力需要の高まりに応える戦略を推進したい考えだ。
07 Aug 2025
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ロシア国営原子力企業ロスアトム傘下の鉱山化学コンビナート(MCC)において、7月25日、使用済み燃料の再処理を行う実験実証センター(PDC)の第2フェーズの施設が稼働を開始した。MCCは、クラスノヤルスク地方の閉鎖都市ジェレズノゴルスクに所在。冷戦時代は兵器級プルトニウム生産炉(全3基、閉鎖済み)が稼働し、使用済み燃料はすべてサイト内の放射化学プラントで再処理された。PDCでは、高レベルおよび中レベル放射性廃棄物の量を大幅に削減する第3世代+(プラス)の革新的技術を用い、VVER-1000の使用済み燃料を再処理する計画であり、将来的には高濃縮度燃料や高速炉の燃料など、その範囲を拡大していく方針である。PDCでは2015年に第1フェーズが完成。分析用ラボを備えた一連の研究用ホットセルで構成され、使用済み燃料の再処理技術と放射性廃棄物の取扱い方法の検証が実施された。今回稼働を開始した第2フェーズの施設は、第1フェーズの実験規模とは異なり、産業規模。使用済み燃料の再処理に加えて、MCCに建設予定の大規模な再処理工場(RT-2)を設計するためのデータ収集や設備の検証を実施する。第2フェーズは2024年11月に完成。技術開発と設計パラメータの達成により、世界初となる液体放射性廃棄物を発生しない再処理施設となることが期待されている。ロスアトムのA. リハチョフ総裁は、「第2フェーズの稼働により、天然ウランの使用を大幅に削減し、使用済み燃料の再処理によって得られる資源の再利用によって、産業規模のクローズド・燃料サイクルを実現する」と強調した。なおMCCでは、ベロヤルスク原子力発電所4号機(高速炉BN-800)用のMOX燃料(混合酸化物燃料)を製造。再処理で生成されるプルトニウムの蓄積を減らすために原子炉で利用される。またリハチョフ総裁は、第2フェーズの施設が設計通りの能力に達すれば、年間約200トンの使用済み燃料を再処理できると言及。チェリャビンスク州にある生産合同「マヤク」(再処理工場RT-1が1977年より操業中)と新たに計画している生産施設を考慮すると、今後15年以内に第4世代エネルギーシステム((安全性の向上、放射性廃棄物の削減、資源の有効利用、経済性向上を通じ、原子力発電所のライフサイクル全体を通じてより高い持続可能性を確保するシステム))の立ち上げが確実になるとの見通しを示した。なお、MCCの閉鎖原子炉の跡地で、放射性毒性の高い物質であるマイナーアクチノイド(MA)の最終処分の実証を目的に、研究用熔融塩炉の建設が予定されている。今年7月に設計の第一段階が完了。主要な技術的な方針に関する資料はすでに整い、次の段階では、炉本体と燃料準備施設の技術設計、さらに設計と予算に関する書類一式の作成が行われる。設計作業は2027年まで継続され、並行して、設計文書に反映される技術的方針を裏付けるための研究開発も進める。炉の運転開始後も、技術の実用化や規模拡張に向けた研究を継続するという。
06 Aug 2025
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米原子力規制委員会(NRC)は7月24日、パリセード原子力発電所に対する広範な技術審査を完了し、同発電所の運転再開に係る主要な許認可および規制措置を承認した。米国で閉鎖された原子力発電所が運転再開の承認を得るのは初。NRCの承認を受け、ホルテック・インターナショナル社のK. トライス社長は、「これは私たちのチーム、ミシガン州、そして米国にとって歴史的な瞬間。米国の原子力エネルギーにおける前例のないマイルストーンだ。当社は、今後数十年にわたって地元の雇用と経済成長を支援しながら、安全、確実に、米国のエネルギーの未来をサポートするためにパリセードの運転を再開する」と述べた。NRCは同社宛ての7月24日付の書簡で、正式に承認を通知。NRCは、予定通りに完了した技術審査に基づき、発電所および使用済燃料貯蔵施設の運転認可を、ホルテック・デコミッショニング・インターナショナル(Holtec Decommissioning International LLC)社からパリセード・エナジー社(Palisades Energy LLC)に移転することを承認。また、ホルテック社の申請により、停止前に運用されていた、技術仕様書や緊急時対応計画、品質保証プログラム、保守プログラムなどの各種文書やプログラムの復活も認められた。2025年5月、NRCは発電所の運転再開による重大な環境影響は発生しないと結論付けている。今回の承認が有効となり、発電運転体制(power operations licensing basis)に正式に移行するのは、ホルテック社の提案した2025年8月25日。これ以後、ホルテック社は燃料装荷が可能となるが、実際の運転再開のためには、まだ複数の許認可手続きがNRCで審査中であり、さらに幾つかの要件を満たす必要があるという。なお、発電所の運転は、当初の運転認可(2031年3月24日期限)の下で行われ、送電開始を今年末までに見込んでいる。パリセード発電所(PWR、85.7万kWe)は1971年に営業運転を開始。2022年5月に経済性を理由に永久閉鎖され、翌6月に同発電所は所有者・運転者だったエンタジー社から、廃止措置を実施するホルテック社に売却された。近年、各国がCO2排出の抑制に取り組み、原子力のように発電時にCO2を排出しないエネルギー源が重視されるなか、ホルテック社は同発電所を運転再開する方針に転換。2023年9月、NRCに運転認可の再交付を申請していた。現在、安全で信頼性の高い発電事業再開を保証するために、NRCの監督下で厳格なテスト、検査、メンテナンスなど、タイムリーな運転再開に向けて広範な準備作業が進行中である。このほど運転、保守、化学、放射線防護、工学の全5分野の訓練プログラムが、米国原子力発電運転協会(INPO)から完全認定された。INPOの認定は、運転再開の前提条件であり、NRCや世界原子力発電事業者協会(WANO)も評価に関与する厳格なプロセス。米ウェスチングハウス社の主導により、新訓練組織のNEXA(Nuclear Excellence Academy)が設立され、18か月間の訓練を通じて運転再開に必要なすべてのタスクに応じて正式に訓練された社内のスタッフを揃えた。
05 Aug 2025
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米エネルギー省(DOE)は7月24日、人工知能(AI)データセンターおよびエネルギーインフラ開発に向けたDOEサイトを選定したことを明らかにした。エネルギーコストを削減する、信頼性の高いエネルギー技術の革新を促進し、AI分野における米国のリーダーシップと国家安全保障の強化を目指す。これは、7月23日の大統領令「データセンターインフラ整備の迅速化」のほか、「国家安全保障強化のための先進原子炉技術の導入」、「米国のエネルギー解放」に基づき、DOEサイトを活用したAIインフラ開発を加速する措置の一環。DOEは以下の4サイトを選定。大規模なデータセンター、新たな発電設備、その他の必要なインフラに最適な拠点であると指摘する。最先端のAIデータセンターおよびエネルギー発電プロジェクトを展開すべく、民間企業との連携を進める方針である。アイダホ国立研究所オークリッジ保護区(テネシー州)パデューカ・ガス拡散プラント(ケンタッキー州)サバンナリバー・サイト(サウスカロライナ州)DOEのC. ライト長官は、「DOEの土地資産を活用してAIとエネルギーインフラを展開することで、次なる『マンハッタン計画』を加速させ、米国がAIとエネルギーの分野で世界をリードする体制を築く」と語った。DOEは2025年末までに一部のDOEサイトでAIインフラの建設を開始し、2027年末までに運用を開始することを目標としている。今年4月にDOEは、情報提供要請(RFI)を実施、産学からDOEサイトへのAIインフラの確立について意見や提案を募っており、すでに多くの関心を集めていた。DOEは、州政府、地方自治体などと協議の上、データセンター事業者、エネルギー企業、一般市民と連携してこの重要な取組みをさらに推進していく計画。各サイトごとのプロジェクトの公募が数か月以内に開始される予定であり、DOEは今後、さらなる公募を実施する可能性のある追加拠点の検討も進めているという。
05 Aug 2025
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米国で先進炉と燃料リサイクルの開発を進めているオクロ社はこのほど、2件の新たなパートナーシップを発表した。同社が開発中のマイクロ炉「オーロラ」発電所の商業展開を実現し、クリーンな電力で次世代データセンターや工場での大規模な電力需要に応えていくという。オクロ社は7月22日、デジタルインフラ向けの冷却システムを開発するヴァーティブ(Vertiv)社と、オーロラ発電所からの蒸気と電力を用いて、大規模データセンターと発電設備を併設したコロケーションに特化した、エネルギー効率の高い電力と冷却ソリューションを共同開発する提携契約を締結したことを明らかにした。オーロラ発電所の基本設計は変更せずに、原子炉から発生する熱をヴァーティブ社の得意とする冷却システムに利用。エネルギー効率を大幅に向上させ、このパイロット技術のオーロラ発電所初号機での実証を計画している。米国で急増する電力需要に対応するため、両社は電力と冷却を統合的に最適化することで、データセンターの運用の革新を目指す。加えて、オクロ社は7月23日、革新的なエネルギーサービスと技術を提供する、リバティ・エナジー(Liberty Energy)社と、データセンター、工業施設、公共事業規模のサイトなどの大規模かつ高需要の顧客を対象とした、段階的かつ統合型の電力ソリューションの導入を加速する戦略的提携について発表した。初期段階では、リバティ社の天然ガス発電と負荷管理ソリューションにより、即時に、信頼性ある電力を供給し、柔軟なエネルギーサービスを実現。最適化とレジリエンスの向上を目指したグリッド管理サービスも行う。オーロラ発電所が稼働すれば、クリーンで持続的なベースロード電源として、リバティ社の天然ガス発電を補完するという。オクロ社のJ. デウィットCEOは、「発電・バックアップ・グリッド管理・最適化をすべて単一のプロバイダーで完結するもの」と、提携の意義を強調した。リバティ社は、2023年にオクロ社に1,000万ドルを出資した初期の投資家。数ある先進的原子力企業から、オクロ社を選定した。オーロラは、高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU)燃料を使用する液体金属高速炉のマイクロ炉で、出力は顧客のニーズに合わせて1.5万kWeと5万kWeのユニットで柔軟に調整。少なくとも20年間、燃料交換なしで熱電併給が可能である。オクロ社は、2027年末までに米アイダホ国立研究所(INL)サイト内でオーロラ発電所初号機の導入を目標に、米原子力規制委員会(NRC)との間で許認可申請前活動を実施。7月17日には、建設運転一括認可(COL)フェーズ1に関する事前審査を完了したと発表。NRCによる評価では、オクロ社のCOL申請の受理を妨げるような重大な不備は見つからず、今後の申請の最終化に向けて有益な観察・助言も示され、効率的かつ効果的な審査を促す一助になったと評価。このNRCによる事前審査の完了は、規制プロセスを近代化し、先進原子炉のタイムリーな展開を可能にするというADVANCE法と最近の関連する大統領令によって強化されたNRCの広範な取組みを反映したものと捉えている。オクロ社は年内にCOLの申請を予定している。なおオクロ社は最近、INLサイトでのオーロラ発電所の筆頭建設業者として、キウィット ニュークリア ソリューションズ社(Kiewit Nuclear Solutions)を選定。同社は北米最大級の建設・エンジニアリング企業キウィット社の子会社。大規模な産業・インフラプロジェクトでの豊富な実績と経験を活かし、オーロラ発電所の設計、調達、建設を支援するという。建設準備を年内に開始し、2027年後半から2028年初めの運開を見込んでいる。
04 Aug 2025
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仏アラベル・ソリューションズ社は7月21日、カナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社のダーリントン新・原子力発電所(DNNP)向けGEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社製の小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」に、タービンホールの主要機器を供給することを明らかにした。アラベル・ソリューションズ社のC. コルナンドCEOは、「当社は、SMR向けに蒸気タービン発電モジュールを最適化しており、あらゆる炉型に対して提供が可能である」と語った。DNNPには蒸気タービン、TOPAIR発電機(空冷式)、および関連する熱交換器を供給する。同社の新設プロジェクト責任者であるS. クフィニャル氏は、「蒸気タービン発電機は、BWRX-300(30万kWe)の蒸気条件に合わせて特別に設計されている。タービンアイランドの蒸気および水循環系統を最適化し、発電所全体の効率を高め、電気出力を最大化する設計としている」と補足した。このタービンホールのサプライチェーンには、カナダ企業も含まれており、たとえば、オンタリオ州に本社を置くChemetics社は、熱交換器用の部品を製造する。DNNPのSMRに採用するフルスピードの蒸気タービン発電機シャフトラインは全長34メートル。単流型高圧モジュール1基と、複流型低圧モジュール2基を組合わせ、熱サイクル効率を高め、カナダの60Hzの電力網向けに定格370 MVA(メガボルトアンペア)まで対応したTOPAIR発電機と接続される。アラベル・ソリューションズ社は、原子力タービンアイランド技術とサービス部門における世界有数の供給者。フランス電力(EDF)グループの完全子会社で、その事業は以前はGEベルノバ社の一部であった。
01 Aug 2025
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カナダ・オンタリオ州営電力のオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社は、ポーランドのオーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社と7月21日、OSGE社がポーランド国内で小型モジュール炉(SMR)を展開するにあたり、OPG社が事前準備、運転、保守などのサービスを提供する、基本合意書(LOI)を締結した。本LOIは、2023年6月に締結された両社の合意をベースにしている。OSGE社は、米GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社製のSMR「BWRX-300」をポーランド国内6サイトで最大24基を建設予定。同SMRは、OPG社がダーリントン・サイトで建設中のダーリントン新・原子力プロジェクト(DNNP)でも採用されている。OPG社は、サイト別評価、プロジェクト管理、ライセンス戦略、技術コンサルティングなどの面で支援し、ポーランドのエネルギー自立とクリーンエネルギー導入に貢献したい考えだ。LOIに署名したOPG社のN. ブッチャーCEOは、「当社はSMR分野においてリーダー的立場にある。エネルギー安全保障の解決策として、新たな原子力導入を進める国々が、当社とオンタリオ州に注目している。ポーランドが原子力発電の導入を進めるにあたり支援できる可能性を光栄に思う。カナダ国内の原子力サプライチェーンと経済成長にもつながるものだ」とコメント。OSGE社のR. カスプロウCEOも、「OPG社の実績と意欲を評価しており、その知見を得ることで、ポーランド初のSMR建設に自信を持てる」と述べた。LOI署名式には、ポーランド産業省からW. ヴロースナ次官兼戦略的エネルギーインフラ担当政府全権代表とP. ガイダ原子力局長が立会った。BWRX-300は、電気出力30万kWの次世代BWR。2014年にNRCから設計認証(DC)を取得した第3世代+(プラス)炉「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」をベースにしている。カナダ原子力安全委員会(CNSC)は今年4月、OPG社に対し、DNNPサイトにおけるBWRX-300の初号機の建設許可を発給。翌5月、オンタリオ州はDNNPサイトへのBWRX-300初号機の建設計画を承認した。OPG社によると、2030年末までに送電開始し、残りの3基は2030年代半ばまでに完成予定。オンタリオ州には強固な原子力発電のサプライチェーンがあり、80社以上がOPG社との契約を締結済みであるという。OSGE社は、ポーランドへのBWRX-300導入のため、大手化学素材メーカーであるシントス社のグループ企業シントス・グリーン・エナジー(SGE)社と最大手の石油精製企業であるPKNオーレン社が50%ずつ出資し、2022年に設立された合弁企業。2023年12月に気候環境省から、国内6地点における合計24基のBWRX-300建設計画へ原則決定が発給され、OSGE社は現在、許認可手続きの準備を進めている。OPG社の子会社のローレンティス・エナジー・パートナーズ社と2024年11月に、ポーランド向けSMRの予備安全解析報告(PSAR)作成支援に係る、4,000万加ドルの契約を締結している。さらに、OPG社とOSGE社は、GVH社や米テネシー峡谷開発公社(TVA)と共に、技術協力グループの一員であり、BWRX-300の標準設計および主要機器(原子炉圧力容器と炉内構造物)の詳細設計の開発に共同出資している。
30 Jul 2025
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ブルガリアのZ. スタンコフ・エネルギー相は7月16日、米国ニューヨークを訪問。コズロドイ原子力発電所7-8号機の新設のため、米銀シティ(CITI)からの資金調達を勝ち取った。ブルガリアは、数十年ぶりとなる最大規模のエネルギー・プロジェクト実現に向けて、スタンコフ相が率いる代表団がCITI幹部と最終協議を行い、技術提案の詳細な精査と分析の後、新規建設の資金を確保するためのパートナーシップの合意に至った。スタンコフ・エネルギー相は、「政府の最重要エネルギー・プロジェクトの実現に向け、CITIとの合意は極めて重要な前進。米ウェスチングハウス(WE)社製AP1000を採用するコズロドイ発電所の7-8号機の建設は、ブルガリアのエネルギー自立と長期的な安定を保証するものだ」と語った。また、代表団に参加した新規建設会社のKozloduy NPP – New Builds PLC =KNPP-NB社のP. イワノフ社長も「CITIの確かな専門性と強力なグローバルネットワークにより、将来世代に安全で持続可能、かつ手頃な価格のエネルギーを提供するための財政的枠組みの構築が可能になった」と述べた。今回の契約により、CITIが輸出信用の単独コーディネーター兼主幹事を務める。中東欧において同銀最大の原子力融資案件となるというが、その規模は非公表。スタンコフ大臣と会談した、CITIのS. フリーデブルグ公共バンキング部門責任者は、「当社は、コズロドイの新設プロジェクトによる低炭素エネルギーソリューションの資金調達を先導し、その実現に向けて財政的専門知識を提供する」と語った。ブルガリアは2007年に欧州連合(EU)に加盟した際、加盟条件として2006年までに安全上問題のあるコズロドイ1~4号機(各VVER-440、44万kW)をすべて閉鎖することになり、現在廃止措置中である。5-6号機(各VVER-1000、104万kW)の2基はそれぞれ1988年と1993年から運転を開始し、現在、同国の総発電量の約1/3を供給している。5-6号機とも、60年の運転期間延長を目指し、バックフィット作業を実施している。2023年1月、ブルガリアの国民議会はコズロドイ発電所において、7-8号機としてAP1000×2基の新設をめざし、米政府と政府間協力協定の締結交渉を開始する方針案を可決した。これを受け、KNPP-NB社とWE社は、同年3月に新設計画に着手すべく共同作業グループ設置の協力覚書を締結。同年6月には、同覚書に基づき発電所の既存インフラや、ブルガリア産業界の現状等を評価し、詳細設計の予備的作業や建設工事の準備を進めていくために基本設計(FEED)契約を締結した。ブルガリアと米国は、2024年2月にコズロドイ発電所の新設計画などを含むブルガリアの原子力プログラムの開発に協力する政府間協定を締結。同年11月には、KNPP-NB社とWE社、および主契約者に選定された韓国の現代E&C(現代建設)社はエンジニアリング・サービス契約を締結した。7号機は2035年、8号機は2037年に運開を目標としている。
29 Jul 2025
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米エネルギー省(DOE)は7月15日、先進試験炉向けの燃料製造を加速するたため、燃料製造ラインのパイロットプログラム(Fuel Line Pilot Program)への申請の募集(RFA)を開始した。同プログラム下では、6月に発表された先進炉のパイロットプログラムによりDOEが承認を予定している試験炉向けに、米企業が開発した燃料製造ラインをDOEが認可するもの。この燃料製造ラインは、燃料を供給する先進炉と同様にDOEの国立研究所以外に建設され、DOEが迅速な承認手続きによって認可する。DOEは現在、国立研究所以外で試験炉を建設・運転することに関心のある米国の原子炉開発企業からの申請を検討中であり、2026年7月4日までに臨界を達成する可能性のある、少なくとも3炉型を今夏後半に選定する予定。この先進炉および燃料製造ラインのパイロットプログラムは、2025年5月のトランプ大統領による大統領令「エネルギー省における原子炉試験の改革」に基づく。燃料製造ラインのパイロットプログラムは、別の大統領令「国家安全保障強化のための先進原子炉技術の導入」により、先進原子炉の展開への支援のほか、燃料供給体制の強化をはかり、濃縮ウランや重要資源の海外依存からの脱却、国の原子力復興に向けた民間投資の呼び込みなどを目的としている。DOEパイロットプログラムの下で建設・運用される燃料製造ラインは、研究・開発・実証を目的としており、米原子力規制委員会(NRC)のライセンスを必要としない。原子力法の下でDOEが認可した燃料製造ライン設計は、将来のNRCによる商用ライセンス取得において迅速に処理される。申請者にとっては、DOEから認可を受けることで、民間資金の活用を促進し、将来的なNRCからのライセンス取得に向けた迅速なルートを確保、燃料製造ラインの商用化が可能になるというメリットがある。DOEによると、米国では現在、予測される需要を満たすのに十分な国内原子燃料が不足している。DOEは、燃料製造ラインの開発を活性化し、米国の生産基盤の立て直しを急いでいる。DOEのC. ライト長官は「米国には、世界をリードする原子力開発のためのリソースとノウハウがある。しかし、この急成長するエネルギー源に対応し、真の原子力復興を実現するには、安全かつ安定した国内サプライチェーンが必要。トランプ政権は規制ではなく革新を加速し、民間セクターとの協力により、新しい原子炉設計の安全な燃料供給と試験を推進して、米国消費者にとり、より信頼性が高く、手頃なエネルギーを実現する」と語った。申請者は、核物質の原材料の調達の他、先進的な燃料製造ラインの設計・製造・建設・運転・廃止措置に関するすべてのコストを自己負担。技術の実用性、製造計画、財政的な健全性などに基づき、選定される。初期申請の締切は8月15日。その後の申請も随時受け付けるという。
29 Jul 2025
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米ペンシルベニア州ピッツバーグのカーネギーメロン大学(CMU)で7月15日、人工知能(AI)とエネルギー革命の推進に焦点をあてた、エネルギー・イノベーション(EI)サミットが開催された。サミットでは、ペンシルベニア州がAIイノベーションのハブとなり、州全体で高レベルの雇用機会を創出する可能性が示されるとともに、主な原子力プロジェクトの詳細が明らかにされた。同サミットは、米上院議員D. マコーミック氏(ペンシルベニア州・共和党)の呼びかけにより開催され、D. トランプ米大統領やエネルギー省のC. ライト長官、内務省のD. バーガム長官などの政権の主要メンバーのほか、エネルギーとAI業界のトップリーダー、投資家など数十人が出席した。うち、コンステレーション社のJ. ドミンゲスCEOは、ペンシルベニア州内で運転する原子力発電所3サイトでの計画について詳細を公表。リメリック発電所(BWR、119.4万kWe)を2040年代まで運転を継続し、追加出力34万kWeの増強に向けて、24億ドルを投資するとしたほか、「クレーン・クリーン・エナジー・センター」(旧:スリーマイル・アイランド原子力発電所)については1号機を1年前倒しの2027年に運転再開すると発表した。同機は2050年代まで運転を予定し、3,400人の新規雇用を創出、計36億ドルの連邦・州税収、160億ドルの州内経済効果が見込まれている。さらに、「ピーチボトム・クリーン・エナジー・センター」の運転認可を少なくとも2054年まで延長するよう原子力規制委員会に申請中であり、今後20年間で延べ3,000万時間の雇用創出と、数百億ドル規模の電力供給が可能になると言及。「これらの投資は、AIをはじめとする未来を担うデジタル産業に力を与えるもの」と強調した。ウェスチングハウス社のD. サムナー臨時CEOは大統領令にしたがい、2030年までに米国で10基のAP1000の建設を開始する計画を策定・実行するための取組みを開始したと発表。計画が実施されれば全米で750億ドルの経済効果、5.5万人の新規雇用、ペンシルベニア州単独で60億ドル、1.5万人の新規雇用の創出が見込まれるという。また同社は、Google Cloud社との新たなパートナーシップにも言及。Google Cloud社のAIツールを活用して原子力発電所の建設効率と運用の向上を目指しているという。トランプ大統領は、「大統領令によって、原子力建設は『非常に簡単かつ非常に安全』になった」と述べ、老朽化した電力網の更新、データセンターと発電所の併設の可能性、そして原子力・非原子力を問わずエネルギープロジェクトの許認可プロセスの加速と改革についても言及した。
28 Jul 2025
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ウズベキスタンの首都タシケントで7月14日、同国における原子力発電所建設に向けて、ハンガリー製の乾式冷却システムの供給および製造に関する協力に関して関係国機関間で協議が実施された。協議には、ウズベキスタン原子力庁(ウザトム=Uzatom)、ハンガリーの外務貿易省とMVM EGI社の他、ロシアのアトムストロイエクスポルト社ならびにアトムエネルゴプロエクト社の代表らが出席した。ウズベキスタンは中央アジアの内陸国で、年間降水量が少ない乾燥地帯にある。乾燥気候と水資源の制約から発電所の信頼性と効率的な運用を確保するために、乾式冷却システムを導入する方針である。MVM EGI社は、ハンガリーの国営エネルギー企業MVM傘下のエンジニアリング企業で、乾式冷却技術では数十年の実績を有し、海外のエネルギープロジェクトにおいて、産業用および発電所向けの乾式冷却システムを提供しているという。原子力発電所への供給としては、ロシア極北にあるビリビノ発電所(軽水冷却黒鉛減速炉:EGP-6×3基、各1.2万kWe、1基は2019年に閉鎖)で同社の乾式冷却システムが1972年以降から使用されており、世界で唯一の原子力発電所での実用化例だという。ビリビノ発電所は極寒・永久凍土地域にあり、水資源が乏しく、河川は冬季に凍結するため、河川水を大量に使用する通常の湿式冷却方式は使えない。今回の協議では、ウズベキスタン国内で乾式冷却システムの大型ユニット組立を目指し、特に自由経済区を基盤とした合弁企業の設立のほか、MVM EGI社による専門家の育成・再教育への協力の一環として、教育プログラムの実施、インターンシップや留学のための必要な環境整備などへの支援についても合意され、これら協力事項に関する議定書が署名された。今年5月には、ウザトムとMVM EGI社は、ウズベキスタンのS. ミルジヨーエフ大統領とハンガリーのV. オルバーン首相の立会いのもと、原子力利用分野における協力の強化に関する覚書を締結している。MVM EGI社の高度な乾式冷却技術をウズベキスタン初の原子力発電所となるロシア製小型モジュール炉(SMR)発電所での導入を念頭に、従来の原子力発電所ならびにSMRの効率的かつ環境的に持続可能な運用を確保するための革新的な技術ソリューションの推進を目的としていた。ウザトムはジザク州で、ロシア国営原子力企業のロスアトム傘下にあるアトムストロイエクスポルト社との契約に基づき、合計出力33万kWeのSMR発電所の建設プロジェクトを進めている。プロジェクトは、舶用炉を陸上用に改良したPWR型SMRのRITM-200N(5.5万kWe)を6基採用。設計運転年数は60年。初号機は2029年に運転開始、2033年までに段階的に全基を稼働させる計画だ。ロシアにとっては初のSMR海外輸出プロジェクトである。なおウザトムは、SMR発電所と並行して、大型炉の導入についても検討を開始する。6月20日にロスアトムと、100万kW級のロシア製VVER-1000×2~4基を採用する大規模原子力発電所の建設について検討を実施する合意文書に調印した。すでに合同作業グループが設置され、プロジェクトの主要部分の調査と建設コストの評価を実施するという。
25 Jul 2025
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米原子力規制委員会(NRC)は7月14日、今年5月に発出された一連の大統領令および超党派のADVANCE法に沿って、イノベーションの受け入れ、認可プロセスの迅速化、規制枠組みの近代化に向けた、最近の取組みと成果について声明を発表した。NRCは今回の声明の中で、引き続き国民の健康と安全を守ることを最優先としつつ、原子力の民間利用を効率的に規制し、社会に貢献する原子力発電の導入を支援していく姿勢を明示。すべてのステークホルダーと連携し、迅速かつ一体的に対応することで、世界の模範となる規制機関としての基準を維持していくとした。声明で明らかにした最近の取組みと成果は、以下のとおり。 新型炉の審査に革新的なアプローチを採用: 新型炉の審査を予定より早く、かつ予算内で完了。進行中の新型炉やライセンス更新審査についても、大統領令で示された建設と運転の認可プロセスを18か月以内に短縮。既設炉の運転期間延長に関しては、最終決定を1年以内とする期限に合わせてスケジュールを更新。例:―ダウ社傘下のProject Long Mott社によるX-エナジー社製SMRの高温ガス炉(HTGR)「Xe-100」の建設許可発給には、18か月の審査期間を設定。―テネシー峡谷開発公社(TVA)のクリンチリバー・サイトにおけるSMR「BWRX-300」の建設許可発給には、17か月の審査期間を設定。―テラパワー社製ナトリウム冷却高速炉「Natrium」炉を採用するケンメラー発電所の建設許可の審査は、従来より6か月短縮を予定。2025会計年度最終手数料規則の公表: ADVANCE法第201条に基づき、先進炉の申請者および事前申請者に対する審査の時間単価を引き下げ。(1時間あたり318ドルから148ドルへと50%以上の削減)マイクロ炉のプラント製造工場での燃料装荷に関する指針を提示: マイクロ炉の展開に向け、重要な政策課題を解消。バージル・C・サマー1号機(PWR、100.6万kWe)およびペリー1号機(BWR、131.6万kWe)の運転期間延長を認可、それぞれ80年運転、60年運転に: 予定より早く、予算内で運転期間の延長を承認。これまでに97基の原子炉の運転認可を更新し、さらに13基については2度目の運転期間延長を認可、合計で2,200年分の原子炉運転能力を維持。設計認証の有効期間の延長: 従来15年の設計認証の有効期間を40年に延長するための直接最終規則を官報に公表。ACRS(原子炉安全諮問委員会)による審査の重点化: 審査対象を新規性や注目すべき課題に絞り込み。なお本声明に先立ち、7月1日にはNRCの委員3名が連名で、NRCを主導するために協調して取り組むことを表明した共同声明を発表している。また今年1月20日、トランプ大統領によりNRCの委員長に指名されたD. ライト氏は、6月30日に任期満了を迎えた。同氏はNRCの委員、委員長の再任候補として、6月25日の上院の環境公共事業委員会(EPW)で開催された公聴会に出席。宣誓証言の中で同氏は、再任が承認されれば、大統領令に従い、効率的なライセンス発行を優先し、米国を原子力エネルギーのグローバルリーダーとして再確立すべくNRCを率いる考えを示した。また、安全を最優先に先進炉や原子力技術の認可を妨げずに促進する方針を表明した。現在、同氏の再任は上院本会議による承認待ちとなっている。
24 Jul 2025
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英エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のE. ミリバンド大臣は7月22日、イングランド東部サフォーク州に建設予定のサイズウェルC(SZC)原子力発電所の最終投資決定(FID)に署名した。これにより、SZCの建設計画が正式に始まる。ミリバンド大臣は、「政府は原子力の新たな黄金時代を築くための投資を進めている。これによりプロジェクト遅延を終わらせ、化石燃料市場の混乱から解放され、持続可能な電力価格を実現していく」と語った。英政府は、EDF(フランス電力)、ラ・ケス(カナダ・ケベック州の公的年金投資機関)、セントリカ(英エネルギー企業)、アンバー・インフラストラクチャー(英インフラ資産運用会社)と並んでSZCプロジェクトの筆頭株主となり、英国民は初めて英国の原子力発電所の共同所有者となる。SZCプロジェクトへの出資比率は以下のとおり。・英政府:44.9%(初期出資)・加ラ・ケス(La Caisse):20%・英セントリカ(Centrica):15%・仏EDF:12.5%・英アンバー・インフラストラクチャー(Amber Infrastructure):7.6%(初期出資)これらの株式出資に加え、フランス輸出信用機関 Bpifranceは50億ポンド(約1兆円)の融資保証により、商業銀行からの融資を後押しする。加えて、英政府の主要投資家で政策銀行であるナショナル・ウェルス・ファンド(NWF)がプロジェクトの債務融資の大部分を支援する。英政府はこの融資を促進するためにNWFへの追加資本も提供する方針である。SZCプロジェクトは、既存のサイズウェルB原子力発電所サイトに欧州加圧水型炉(EPR-1750、各172万kWe)を2基建設する計画。また、現在建設中のヒンクリーポイントC(HPC)のEPR×2基のレプリカ版であり、HPCプロジェクトで得られた教訓を直接適用し、迅速かつ低コストでの建設を目指している。なお、HPCプロジェクトの2号機は、初号機よりも進捗が50%早いという。英国で現在稼働している原子炉は9基で、合計出力は約650万kWe。英政府は、1995年以降に新しい原子力発電所は稼働しておらず、サイズウェルB原子力発電所を除く既存のすべての原子力発電所は2030年代初頭までに段階的に廃止される可能性が高いと指摘。SZCはミリバンド大臣が2009年当時のエネルギー相在任時に新規原子力発電所の候補地として特定した8サイトのうちの一つであったが、その後の保守党政権下での14年間、同プロジェクトには十分な資金が提供されなかったと同大臣は説明している。SZCが稼働すると、少なくとも60年間、600万世帯に相当する電力を供給し、電力システム全体で年間平均20億ポンド(約4,000億円)の節約が期待されている。英国では、2030年代に小型モジュール炉(SMR)とSZC、HPCの運転開始が見込まれている。SZCプロジェクトは、公共投資と民間資本の両方を使用する規制資産ベース(RAB)モデル((規制資産ベース(RAB)のコスト回収スキーム。個別の投資プロジェクトに対し、総括原価方式による料金設定を通じて建設工事の初期段階から、需要家(消費者)から費用(投資)を回収する。これにより投資家のリスクを軽減でき、資本コスト、ひいては総費用を抑制することが可能になる。))を適用。建設期間中から需要家(消費者)がコストの一部を電気料金に上乗せされる形で負担する。HPCプロジェクトに適用されている開発者が全額自己資金で建設し、発電開始後に収益を得る仕組みである差金決済取引(CfD)とは異なる。SZCプロジェクトの建設コストの見込額は約380億ポンド(2024年価格、約7.6兆円)と設定され、これには予期せぬ支出への備え(予備費)も含まれており、資産売却などによって将来的にコストを減らす可能性を考慮せず、慎重に見積もられている。SZCの共同マネージングディレクターであるJ. パイク氏は、「SZCは、建設期間中における需要家(消費者)の負担は平均して月額約1ポンド(200円)。約380億ポンドの建設コストの見積もりは、HPCにおけるコストを非常に詳細に精査し、サプライヤーとの長い交渉の結果である。380億ポンドの建設コストは、HPCと比較して約20%の節約に相当し、シリーズ建設の価値を示している」と強調した。サフォークの現場では既に準備工事が進行中で、地元企業と3.3億ポンド(約660億円)以上の契約が締結されているという。建設のピーク時には10,000人の直接雇用、サプライチェーンには最大60,000人の雇用の創出に加え、1,500人の技能実習も見込まれている。また、契約の約70%は英企業3,500社に発注されると予想されている。英原子力産業協会(NIA)のT. グレイトレックスCEOは、「SZCは英国史上最大・最もグリーンなプロジェクト。産業地域への投資、エネルギー安全保障の確保、雇用創出、ガス輸入削減、経済基盤の強化に寄与する」と評価。さらに、「SZCプロジェクトは、英国で初めての『完全な複製型』の発電所の承認でもあり、これがより迅速かつ低コストな建設のカギ。この10年越しの決断を経た今、次のプロジェクトにこれほど時間をかけてはならない」と強調した。
23 Jul 2025
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チェコのP. フィアラ首相は7月14日、英国・ロンドンでK. スターマー首相と会談し、原子力エネルギー分野における協力強化に関する覚書に調印した。フィアラ首相は、「チェコ電力(ČEZ)と英ロールス・ロイス社による小型モジュール炉(SMR)の開発と製造における協力は、両国の経済および雇用に大きな貢献をする。両国は、エネルギー政策に関する見解が一致しており、大型炉、SMR、再生可能エネルギーの組合わせを目指している。英国との協力により、将来に渡ってエネルギーの安全保障が可能になる」と述べた。この覚書は、2023年11月の「原子力分野における協力に関する共同声明」に続くもの。原子力発電プロジェクトの準備と建設、教育、研究開発の分野における協力関係を新たに拡大し、大型炉とSMRの両分野でも協力していく方針だ。また、産業およびイノベーションのパートナーシップを支援し、両国の企業がそれぞれの国のプロジェクトに参加することを目指している。この覚書調印により、チェコにトレーニングセンターの設立や、モジュール製造工場を建設するなど、サプライチェーンのローカリゼーションも進むことになる。本覚書の調印を受け、ČEZとロールス・ロイスSMR社は7月17日、先行作業契約(Early Works Agreements: EWA)を締結した。共同で、チェコの南ボヘミヤ地域のテメリン原子力発電所のサイトを対象に、規制手続き、環境評価、サイト準備作業を実施する。初号機の運転開始は2030年代半ばを予定している。テメリン・サイト以外でも、ČEZの石炭火力サイトのある北西部のトゥシミツェ(Tušimice)においてSMRの導入について評価していく。ČEZは2024年9月、最大300万kWeの設備容量を確保するためのSMRの優先サプライヤーに、ロールス・ロイスSMR社を選定。ČEZは、ロールス・ロイスSMR社の約20%の株式を取得し、戦略的少数株主となった。なお、ロールス・ロイスSMR社は今年6月、英政府機関のグレート・ブリティッシュ・エナジー・ニュークリア(旧グレート・ブリティッシュ・ニュークリア)が実施する同国初となる小型モジュール炉(SMR)の建設に向けた国際コンペにおいて、支援対象の優先権者に選定された。ロールス・ロイスSMRは既存のPWRをベースとしており、電気出力が47万kWとSMRにしては大型なのが特徴。少なくとも60年間稼働する。
23 Jul 2025
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ポーランド国営原子力事業者であるPEJは7月14日、ポーランド初の原子力発電所建設に関する投資プロジェクトについて、欧州原子力共同体(ユーラトム)条約に基づき、正式に欧州委員会(EC)に通知した。ユーラトム条約に基づく、投資プロジェクトについての通知は、国家主導で進められる国家補助の通知手続きとは別のプロセス。EU加盟国における原子力プロジェクトでは、ユーラトム条約に基づく事前の通知が法的義務とされており、当該プロジェクトがユーラトム条約の目的である、安全保障、持続可能な発展、資源の効率的な利用などに適合しているかが評価される。国家補助に係わる手続きとしては、ポーランド政府は2024年9月にECに対し、第1原子力発電所の建設プロジェクトにおいて、建設および運転の実施主体となる国有特別目的会社(SPV)であるPEJを支援する計画を通知していた。ECは同年12月、同プロジェクトがEUの国家補助規制に沿っているかどうかを評価するための詳細な調査を開始した。EUでは、加盟国による特定の企業に対する国家補助は域内競争を不当に歪める可能性があるとして原則禁止されており、一定の条件を満たす場合にのみ、ECによる承認を受けた上で例外的に認められている。第1原子力発電所(米ウェスチングハウス社製AP1000×3基、合計出力375万kWe)は、同国北部ポモージェ県ホチェボ自治体内のルビアトボ-コパリノ地区に建設が計画されている。同プロジェクトの総投資額は約450億ユーロ(1,920億ズロチ、約7.8兆円)と見積もられている。ポーランド政府はプロジェクト費用の30%をカバーする約140億ユーロ(600億ズロチ、約2.4兆円)をPEJに出資。この他、投資プロジェクトの資金調達のためにPEJが負った債務の100%をカバーする国家保証や、60年間の発電所の運転期間にわたり収益の安定性を確保する差金決済取引(CfD)によって、プロジェクトを支援するという。ポーランドのW. ヴロースナ産業省次官兼戦略的エネルギーインフラ担当政府全権代表は「ユーラトム条約第41条に基づく通知は、投資プロジェクトの準備段階における重要なステップの一つ。ポーランド初の原子力発電所プロジェクトの実現に向けた進展は、ポーランドが何十年にもわたって安全で安定したエネルギー源を確保するという我々の決意を反映している」と語った。通知手続きの結果としてECから示される意見は、ポーランドの原子力規制当局である国家原子力機関(PAA)長官が発行する建設許可の取得などの手続きに必要となる。なお現在、ポーランド原子力発電プログラム(PPEJ)更新版の草案に関する公開協議が行われており、草案によると、第1原子力発電所の初号機の運転開始は2036年、2号機、3号機の運転開始はそれぞれ2037年、2038年に予定されている。
22 Jul 2025
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米原子力規制委員会(NRC)は7月9日、米テネシー峡谷開発公社(TVA)による小型モジュール炉(SMR)の建設許可申請を受理、審査を開始した。TVAは5月、NRCにテネシー州オークリッジ近郊の同社クリンチリバー・サイトにGEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社製のSMR「BWRX-300」(BWR、30万kWe)の建設許可を申請した。BWRX-300がNRCによる建設許可の審査対象となったのは米国では初めて。TVAはクリンチリバー・サイトについて2019年12月、NRCよりSMR建設用地として事前サイト許可(ESP)を取得済みであり、BWRX-300の導入により、人工知能(AI)、量子コンピューティングなどに特化した電力供給を狙っている。NRCは審査の完了を2026年12月まで(17か月以内)と予想しており、TVAはNRCの審査期間中、早ければ2026年にもサイト準備作業を開始したい考えだ。TVAのD. モールCEOは、「NRCによる申請の受理は、米国初となる電力会社主導によるSMRの実用化を目指す上で重要な一歩。当社のBWRX-300の建設許可申請が、米国初のNRCの審査対象となった。他の電力会社が同炉を導入し、エネルギー安全保障と信頼性の高い電力供給を実現する道筋を確立していく」と語った。BWRX-300は、電気出力30万kWの次世代BWR。2014年にNRCから設計認証(DC)を取得した第3世代+(プラス)炉「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」をベースにしている。カナダ原子力安全委員会(CNSC)は今年4月、OPG社に対し、ダーリントン新・原子力プロジェクト(DNNP)サイトにおけるBWRX-300の初号機の建設許可を発給。翌5月、オンタリオ州はDNNPサイトへのBWRX-300初号機の建設計画を承認した。2029年末までに営業運転の開始を予定している。
18 Jul 2025
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カナダと米国に拠点を置くARCクリーン・テクノロジー社は7月8日、自社の開発する小型モジュール炉(SMR)「ARC-100」が、カナダ原子力安全委員会(CNSC) の実施する正式な許認可申請前の任意の設計評価サービス「ベンダー設計審査(VDR)」の第2段階(許認可上、問題となる点の特定)を完了したことを明らかにした。CNSCは報告書の中で、認可取得における根本的な問題は認められなかったと結論。ARC社は、ARC-100の商業化に向けた重要な一歩となったと歓迎している。ARC-100は、第4世代のナトリウム冷却・プール型の高速中性子炉で、電気出力は10万kW。電力とプロセス熱の両方の用途向けに設計されており、石油・ガス、精製、化学分野などにおける脱炭素化イニシアチブに適している。同炉の技術は、米エネルギー省(DOE)傘下のアルゴンヌ国立研究所で30年以上運転された高速実験炉EBR-Ⅱで実証済みだ。ARC-100は、CNSCによる事前審査を完了した初の先進ナトリウム冷却高速中性子炉となった。VDRの第2段階は、CNSCの規制要件や期待に関するフィードバックをベンダーに提供するもの。2022年2月に開始された同審査の一環として、ARC社はCNSCが定義する将来の認可申請にとって重要な19の重点分野をカバーする数百の技術文書を提出。これには、安全システム、安全解析、炉およびプロセスシステムの設計、規制遵守、品質保証に関する情報が含まれていた。ARC社は今回の審査完了が、カナダ・ニューブランズウィック州で進行中のARC-100実証機の認可申請活動にも、さらなる信頼と弾みを与えるものと指摘する。2023年6月には、ニューブランズウィック・パワー(NBパワー)社がポイントルプロー原子力発電所(Candu-600×1基、70.5万kWe)サイトにおけるARC-100建設に向けた「サイト準備許可」(LTPS)を申請し、認可取得プロセスが開始された。ARC-100は2030年までに運開を予定している。2018年以来、ARC社とARC-100を共同開発しているNB Power社のL. クラークCEOは、「当社は本事前審査を通じて技術支援を提供し、審査の完了をプロジェクト開発における重要な進展と認識している。今後も革新的なエネルギーソリューションの模索に、引き続き協力していく」とコメントした。ARC社は今年6月、スイスと米国に拠点を置くDeep Atomic社と次世代データセンターとAIインフラへの電力供給に向けて、ARC-100の展開を検討するための覚書を締結している。Deep Atomic社はSMRを電源とするデータセンターのプロジェクト開発サービスを提供しており、両社はARC-100をDeep Atomic社のデータセンターインフラプロジェクトに近接して展開できる場所を共同で評価する予定だ。
17 Jul 2025
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フランス電力(EDF)は7月8日、英国のサイズウェルC(SZC)プロジェクトに最大11億ポンド(約2,200億円)を投資することを正式に表明した。この投資は、英政府および他の投資家との合意交渉が最終化される、最終投資決定(FID)を待って実施される予定で、これによりEDFの出資比率は約12.5%となる見込みである。EDFは英政府と並ぶ最初の出資者。英政府は今年6月の歳出見直しの一環で142億ポンド(約2.8兆円)の投資表明をしていた。さらなる投資家や資金調達の詳細は、今夏に予定されるFID時に発表される予定だという。この発表は、7月10日の英仏首脳会談に先立ち、K. スターマー英首相がE. マクロン仏大統領を英国に迎えるタイミングで行われた。両国は、エネルギー、経済成長、防衛・安全保障、移民などの共通課題で協力を強化。スターマー首相は昨年の就任以来、英国の国際的地位の強化と近隣諸国との関係改善を目指している。英政府は今回の発表は、英国が投資先としてますます魅力的な国であり、信頼できるパートナーである証と強調している。またフランスの輸出信用機関Bpifranceは、SZCプロジェクトへ50億ポンド(約1兆円)の債務保証を提供する予定で、商業銀行からの融資を後押しするという。これは、消費者・納税者・民間投資家でコストを分担する新しい資金調達方式であるRABモデル((規制資産ベース(RAB)のコスト回収スキーム。個別の投資プロジェクトに対し、総括原価方式による料金設定を通じて建設工事の初期段階から、需要家(消費者)から費用(投資)を回収する。これにより投資家のリスクを軽減でき、資本コスト、ひいては総費用を抑制することが可能になる。))の適用によって可能になる。SZCプロジェクトは、既存のサイズウェルB原子力発電所サイトに欧州加圧水型炉(EPR)を2基建設する計画。これは、現在建設中のヒンクリーポイントC(HPC)のEPR×2基の複製版。SZCプロジェクトは業界の技術力向上や量産効果を促進し、フランスの原子力産業やEPR2×6基の新設計画(パンリー、グラブリーヌ、ビュジェイの各原子力発電所サイトに2基ずつ建設)にも貢献すると期待されている。英政府は、原子力は再生可能エネルギーと並ぶ低炭素エネルギーの中核をなし、英国が化石燃料依存から脱却し、エネルギーコストを恒久的に引き下げる唯一の手段と考えており、引き続きプロジェクトの重要な株主として、進捗管理と遅延の最小化に努めるとしている。スターマー首相は、「私はSZCプロジェクトにこれ以上の迷いや遅れは許さないと明言してきた。EDFの投資により、国民に恩恵をもたらすための一歩を踏み出せた。エネルギー料金の引き下げ、雇用・技能育成の機会創出、エネルギー安全保障の強化-これは英国が投資先として信頼されている証であり、『変化に向けた計画』(Plan for Change)の実行そのものだ」と語った。SZCの建設ピーク時には、1万人の雇用を支え、国内のサプライチェーンでも数千の高度技能と高レベルの雇用を創出すると言われている。英仏のエネルギー協力としては、英国に本拠地を置く濃縮事業者のウレンコ社がEDFと15年間にわたる燃料供給の数十億ユーロ規模の契約を締結。ウレンコUK社の1,400人超の雇用を支え、2023年には2.56億ポンド(約512億円)を超える経済効果を英国にもたらしている。仏エンジニアリング企業のAssystem社も、英国での原子力事業の人員を2030年までに倍増し、サンダーランド、ブラックバーン、ダービー、ブリストル、ロンドンを含む国内10拠点で新たに1,000のエンジニア、IT、マネジメントの職を創出する計画だという。
16 Jul 2025
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ルワンダの首都キガリで6月30日~7月1日、アフリカ原子力エネルギー・イノベーション・サミット(NEISA 2025)が開催された。アフリカの人口が今後数十年で30億人に達すると予測される中、同サミットでは、増大するエネルギー需要に対応し、工業化を促進し、持続可能な開発を達成するためのカギとして、原子力エネルギー、とりわけ、小型モジュール炉(SMR)とマイクロ炉(MMR)の可能性が議論された。同サミットは、ルワンダ政府が主催、国際原子力機関(IAEA)、国連アフリカ経済委員会(UNECA)、OECD原子力機関(NEA)、世界原子力協会(WNA)をはじめとする主要な国際機関および地域金融機関の協力のもとで開催された。アフリカでは、差し迫ったエネルギー需要に対応し、より持続可能で信頼性の高い原子力エネルギーヘの期待が高まっている。同サミットには40か国以上から政策決定者、産業界のリーダー、著名な原子力専門家が出席。エネルギーの自給自足、クリーンな電力へのアクセス、気候変動問題への対応、アフリカ大陸全体の産業成長を加速するため、大陸のエネルギー需要に対する実行可能で変革的なソリューションである、SMRとMMRに焦点を当て、その導入に必要な条件-インフラ、資金調達、政治のリーダーシップ、地域の技術開発-について議論された。サミットの開会式で、ルワンダのE. ンギレンテ首相は、アフリカの開発アジェンダを推進する革新的でクリーンなエネルギーソリューションを採用するために、アフリカの指導者たちが協力して取り組む必要性を強調。アフリカでは6億人以上が電力を利用できない中、アフリカの長期的なエネルギー安全保障と気候変動に対するレジリエンスを支えることができる原子力の役割を強調し、アフリカの指導者に対し、原子力技術がもたらす機会をとらえるよう呼び掛けた。サミットで演説したIAEAのR. グロッシー事務局長は、アフリカ諸国による原子力開発計画を支援するというIAEAのコミットメントを再確認し、アフリカ大陸における低炭素電源の価値を強調。進化する世界のエネルギー情勢において「アフリカがその地位を主張することを妨げるものは何もない」と述べ、クリーンで信頼性の高いエネルギーはもはや贅沢品ではなく、大陸にとって差し迫った必需品であると付け加えた。SMRとMMRの可能性に関するセッションでは、SMRやMMRはアフリカのエネルギー移行を加速させる大きな可能性を秘めているが、その展開の成功は、技術的な準備だけでなく、強固な支援インフラにもかかっていると指摘。アフリカの現在のインフラ状況は、大陸全体で発電能力の15%、4,000万kWの電力が、インフラの問題、送電網の不備等により、供給できなくなっており、インフラ計画と投資に対する包括的かつ体系的なアプローチが必要であると結論。また、SMR/MMRのクリーンで信頼性の高いエネルギー供給が、アフリカの主要産業である、広大な鉱業部門の発展を促進すると強調された。資金調達に関するセッションでは、SMR/MMRの可能性を現実に変えるには、多額の設備投資と革新的な財務アプローチが必要であると指摘された。アフリカは歴史的に外部からの低利融資に依存してきたが、現在はその依存度が減少しているという。そして、国内および地域の財源を活用した、長期的な民間インフラプロジェクトへの資金供給の必要性を指摘。アフリカは、国内の金融機関と緊密に協力し、公的資金や開発金融を通じてプロジェクトのリスクを軽減することで、現在、重要なプロジェクトに流入していない膨大な資本プールを活用することができるとも言及された。国内金融セクターの長期インフラへの積極融資のほか、世界銀行などの国際開発金融の活用、原子力プロジェクトと地球規模の気候目標との戦略的整合など、多面的なアプローチをとるべきとの見解が示された。さらにアフリカでは、原子力部門を支えるために必要なスキルを育成する必要があるとし、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)は、アフリカの若者が加盟国間で自由に移動して学び、働くことができ、スキルギャップに対処するものとして、地域の専門知識を育成するための貴重なメカニズムであると強調された。
15 Jul 2025
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