英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は8月30日、ロールス・ロイスSMR社が資金調達手段として新規株式公開(IPO)を含むオプションを検討していると報じた。SMR導入プロジェクトの事業化に向け、政府支援に加え、資本市場の活用が論点となりつつある。同日ロイターは、同社が「現時点でIPOを計画していない」とのコメントを伝えている。一方でFT報道では、年内の政府契約締結を目指す旨が示されており、IPOの判断は契約最終化後になるとの見方もある。FT紙によれば、同社は投資銀行や資本市場関係者と協議し、IPOを含む将来的な資金調達策を模索しているという。既報の通り、英国政府は25億ポンド規模の支援を約束しており、まず3基(出力合計約150万kW)のSMR導入を後押しする方針だ。しかしそれを超える展開や、長期的な事業成長には追加資金が不可欠とされる。「ロールス・ロイスSMR社」は、ロールス・ロイス社を中心とする複数企業の出資で構成されている。株主には、ロールス・ロイス(過半保有と報道)、チェコ電力(ČEZ、20%)、カタール投資庁(QIA、2021年時点で10%と公表)、BNFリソース社((仏独立系石油・ガス企業Perencoのオーナー一族であるペロドー家の資産を背景にした投資会社で、ロンドンに拠点を置く関連会社「BNF Resources UK Ltd」を通じてエネルギー分野を中心に長期志向の投資を行っている。一族資産を一元管理・運用するプライベートな資産運用会社であるBNF Capitalが助言役を担い、ウランなど原子力関連投資も手がけてきたと報じられている。ロールス・ロイスSMRについては、2021年にRolls-Royce Group/BNF Resources UK/Exelon Generationの3者で約1.95億ポンドを出資し、英政府の2.1億ポンド助成を呼び込む起点の一つとなった。近時ではČEZ(20%)参入後も少数株主として名を連ね、英国SMR事業の資本面で一定の存在感を示している。))、米コンステレーション・エナジー社が並ぶ。BNFとコンステレーションの持分は過去開示でそれぞれ約11%、約3%とされたが、ČEZ参入後の正味比率は公表されていない。IPOの是非については株主間で見解の違いがあるとされる。ロンドンは世界有数の資金供給力を持つ市場であるが、近年は新規上場が低迷しており、今回のIPOが実現すれば久々の大型案件となる。IPO(Initial Public Offering、新規株式公開)とは、企業が株式市場に上場し、投資家から広く資金を集める仕組みを指す。資金調達力の強化に加え、透明性やガバナンス体制の強化も求められるため、事業にとって大きな転換点となる。原子力分野では巨額の初期投資と長期の投資回収期間が特徴であり、従来は政府や電力会社による出資が主流であった。そのため、IPOを資金調達策に組み込む動きは極めて異例であり、英国が新しい事業モデルを模索していることを示す。なお、巨大インフラがIPOによって資本市場を取り込んだ先行例は少なくない。英国では送電・ガス幹線の運営会社であるナショナル・グリッドが1995年にロンドン証券取引所へ上場し、規制産業がIPOを通じて長期資金と市場の規律を取り込むモデルを示した。日本でも電源開発(J-POWER)が2004年に実施したIPOが記憶に新しい。いずれも公共性の高いエネルギー基盤を市場型資金で支える手法であり、SMR事業がIPOを選択肢に含めることは、この文脈に位置づけられる。経営コンサルティング会社アーサー・D・リトル(ADL)は一般論として、SMRの事業化には初号機(FOAK)で発生する高コストを克服し、量産効果によって発電コスト(LCOE)を引き下げることが不可欠だと指摘している。政府支援や規制改革に加えて、資本市場の活用は初期段階の資金ギャップを埋める手段となり得る。今回の報道が示す「官+市場」モデルの模索は、この文脈に合致しており、仮に資本市場の活用(IPO等)が具体化すれば、SMRを机上の構想から商用段階へ押し上げるゲームチェンジャーになり得る━━との見方が成り立つ。ハントン・アンドリューズ・カース法律事務所 原子力部門統括責任者/東京事務所マネージング・パートナーのジョージ・ボロバス氏は、原子力産業新聞の質問に答え、IPOの法務・規制上の含意について次のように指摘する。「IPOに伴う証券規制や開示義務はビジネス上の要件であり、原子力規制の本質を変えるものではない。原子力企業は証券規制と並行して、既存の原子力法規・規制枠組みに引き続き適合する必要がある」。また、ロンドン上場の可能性については、「ロンドン市場は世界有数の資金供給力を持ち、原子力への理解も深いが、資金アクセスは必要条件にすぎない」とした上で、「商用規模で自社技術を展開できる運用能力と、これを許す市場環境が整備されて初めて成功に近づく」と述べた。資金モデルの先例性に関して同氏は、NuScale、NANO Nuclear Energy、Okloといった米社の上場事例を挙げ、「IPOは黒字化前でも資金を確保できる利点がある。一方で、上場後は短期の成果を求める株主の期待が強まり、事業化に要する長期戦略と衝突し得る」と総括した。IPOの是非はまだ検討段階にとどまっているが、英国が商用SMRに資本市場を組み込むことは、国際的にも注目される。米国やカナダのSMR企業がIPOやSPAC((特別買収目的会社=上場済みの買収用“箱会社”を通じ、未上場企業を合併で上場させる仕組み))を通じた資金調達を模索する中で、英国が欧州で先陣を切れば、今後のSMR資金調達モデルの先例となる可能性がある。もっとも、ボロバス氏が指摘する通り、資金調達は必要条件であって十分条件ではない。ロールス・ロイスSMR社の商用規模での展開能力と、英国の市場環境整備が問われる局面に入ったと言えるだろう。
31 Aug 2025
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韓国水力・原子力(KHNP)は8月22日、韓国ソウルにて、アフリカ大陸の南部に位置するジンバブエ教育革新研究開発センター(Center for Education Innovation Research and Development:CEIRD)と、韓国製の小型モジュール炉(i-SMR)の導入に向けた予備的実行可能性調査(F/S)の実施にむけて協力覚書(MOU)を締結した。両者は同MOUに基づき、予備F/Sの実施のほか、原子力専門人材の育成支援や原子力技術情報共有の協力も行う。CEIRDはジンバブエの経済・社会に影響を及ぼす戦略的に重要な分野において、公共部門(政府、大学、研究機関)および民間人材向けの高等教育や、イノベーション、研究開発の促進を目的に2021年に設立された、高等教育科学技術開発省所管の組織。KHNPによると、ジンバブエは電力源の大部分を水力と火力に依存し、設備の老朽化や気候変動の影響により安定した電力供給に支障が生じている。そのため、エネルギー供給源の多様化を図り、科学技術を基盤とした国の発展政策「ビジョン2030」の実現に向け、原子力発電の導入を積極的に検討しているところだという。今回のKHNPとの協力により、ジンバブエの中長期的なエネルギー戦略の策定において重要な転換点となることが期待されている。KHNPのJ. ファンCEOは、「今回のMOU締結により、ジンバブエがエネルギー多様化を加速し、SMRを通じて持続可能なエネルギー解決策を見出すことを期待している。当社は、ジンバブエとの協力を基盤に、エネルギー需要が急増しているアフリカ市場への進出基盤をさらに強化していく」と語った。なおKHNPは今年5月、アフリカ・ウガンダのエネルギー省とウガンダにおける新規原子力発電所サイトの適合性評価に係る委託契約を締結。サイト評価とともに、韓国製原子炉(APR1400、140万kWe)×4基の導入提案も含め、輸出を視野に協力を進め、成長の潜在力の大きいアフリカ市場において、KHNPのプレゼンスを拡大していく方針を示していた。アフリカ以外においてもKHNPは、国内外でのこれまでの原子力発電所の建設・運転経験に基づき、i-SMRのグローバル展開に積極的であり、同炉のSMR市場における地位を確立・強化することを目指している。KHNPは2023年12月、第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)の会期中、インドネシアの電力会社ヌサンタラ・パワー(PLN NP)社およびヨルダン原子力委員会(JAEC)とそれぞれMOUを締結。KHNPとPLN NP社は、インドネシアにおける経済性・技術に関する共同基礎調査のほか、地域の専門技術の開発、原子力分野の人的・技術交流などで協力する。JAECとも、i-SMRに関する包括的な技術交流と情報交換において協力し、ヨルダンにおいて共同F/Sを実施するという。今年6月には国営タイ電力公社(EGAT)とMOUを締結。SMRに関する基本的な技術知識を共同で研究・交換し、将来のSMRプロジェクトの実現可能性を評価することとしている。KHNPは北欧では、SMRの導入を目指すノルウェーの新興エネルギー企業であるノルスク・シャーナクラフト(Norsk Kjernekraft)ならびにスウェーデンのプロジェクト開発企業のシャーンフル・ネキスト(KNXT)社とそれぞれMOUを締結。i-SMRの導入に向けた情報共有、建設候補地の予備的F/S、スマートネットゼロシティの開発で連携し、i-SMRで欧州市場へ参入する方針を明らかにしている。i-SMRは、電気出力17万kWの一体型PWRで、大型炉に比較して大幅に工期を短縮するモジュール工法を採用し、運転システムの自動化による省人化などが特長。概念設計と基本設計は2023年末に完成。KHNPは2024年6月に自社の研究施設(CRI)内に開設したシミュレーターを用いて、i-SMRの設計や操作を検証し、開発にフィードバック。2025年末までに標準設計(SD)を完成させ、2028年に標準設計承認(SDA)の取得を目指している。KHNPは2020年、i-SMR開発プロジェクトに着手。同プロジェクトは2023年に国家研究開発プロジェクトに位置付けられ、韓国政府のバックアップの下でプロジェクト全体を管理するi-SMR開発機構が発足。KHNPや韓国原子力研究院(KAERI)のほか、韓国電力技術(KEPCO E&C)、韓電原子力燃料(KNF)や斗山エナビリティなど、韓国の主要原子力関連企業が参加している。
29 Aug 2025
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スウェーデンの国営電力会社バッテンフォールは8月21日、ヴェーロー半島にあるリングハルス原子力発電所(PWR、110万kWe級×2基)に隣接して建設を計画している新規炉について、供給候補4社から米GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社と英ロールス・ロイスSMR社の小型モジュール炉(SMR)を最終候補に決定したことを明らかにした。この決定を受け、バッテンフォールのA. ボルグCEOは、「40年以上ぶりのスウェーデンの原子力発電所建設に向けた新たな一歩。当社の目標は、ヴェーロー半島でのプロジェクトを成功させることであり、プロジェクトの成功は、さらなる原子力開発の基礎も築く」と強調した。同社はこの2社について、妥当な期間と予算内で納入できる最適な前提条件を備えており、最終的な供給者を選定するプロセスは続いていると説明している。当初の75社から2024年秋には4社に候補を絞りこんでいた。最終候補に残った炉型は、GVH製BWRX-300(BWR、30万kWe)とロールス・ロイスSMR(PWR、47万kWe)。BWRX-300×5基、またはロールス・ロイスSMR×3基で合計約150万kWeを供給可能である。ロールス・ロイスSMRは、オスカーシャム1号機(BWR、2017年閉鎖)とほぼ同じ設備容量である。候補企業・炉型の評価プロセスでは主に、技術面、サイトと物流、商業的側面の3つの観点から実施。2社を選定した大きな理由として、両社のSMRは実証済み技術と簡素化された設計を特徴とし、燃料についてはバッテンフォールがすでに確立しているサプライチェーンの利用が可能であることを挙げている。このほか、SMRは欧州でまだ建設実績こそないものの、初期投資が比較的低く、シリーズ建設による学習効果も期待できるため、コスト超過リスクが抑えられる点を評価。立地条件については、ヴェーロー半島は、送電網容量やインフラ、原子力エンジニアの存在、エネルギー供給の国家的重要地点に指定されている点で最適であるものの、サイト面積は限られており、現在自然保護区となっている土地の利用が必要になるという。さらにリングハルスの既存炉2基は、60年から80年への運転延長が計画されており、選定した2種のSMRの方が少人数の建設要員と小さいサイト面積で済むため、建設による既存炉の運転への影響が小さいことが考慮されたようだ。同社のD. コムステッド副社長(新原子力担当)は、「選定にあたり、供給者と炉型を綿密に評価。SMRのシリーズ建設はコスト上の利点が明らかで、必要となるスペースも人員も少なく、物流もより管理しやすくなる。これにより建設段階における人員の確保・住居・輸送の課題も軽減され、コスト増加のリスクが低下する」と指摘した。今後は、国の資金調達・リスク分担制度への申請を行い、2社との交渉を集中的に実施、最終的な供給者の選定に進む。環境法や原子力技術法に基づく申請準備も進行中。最終投資判断はプロセスがさらに進んだ段階になる予定。さらに次のステップとして、閉鎖済みのリングハルス1-2号機(2019~2020年に閉鎖。廃止措置中)に隣接するサイトで100万kWeの設備を追加建設する可能性も検討中であるという。スウェーデン議会(リクスダーゲン)は今年5月、国内の新規原子力発電プラントの建設を検討する企業への国家補助に関する政府法案「新規原子力発電プラント建設の資金調達とリスク分担に関する法案」を採択した。新法は今年8月1日に施行されており、申請が可能となっている。本制度は、低利の借入コストである政府融資の利用により、資金調達コストの削減、ひいては原子力発電自体のコスト削減を目的としている。スウェーデンでは電力供給問題と化石燃料を使わないベースロード電源の拡大のため、2023年11月に原子力発電の大規模な拡大をめざすロードマップが発表された。これには、総発電量を25年以内に倍増させるため、2035年までに少なくとも大型炉2基分、さらに2045年までに大型炉で最大10基分を新設することなどが盛り込まれている。2024年1月には、環境法の一部改正法が発効、新たなサイトでの原子炉の建設禁止や国内で同時に運転できる原子炉基数を10基までとする制限事項が撤廃されるなど、原子力推進に向けた環境整備が着々と進められている。
27 Aug 2025
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スイス連邦政府(連邦参事会)は8月13日、昨年3月に開始された「いつでも誰でも電気を(停電を阻止せよ)(Electricity For Everyone At All Times[Stop Blackouts])」イニシアチブ(国民発議)への対案となる法案を採択、連邦議会に提出した。政府は同イニシアチブに反対しており、対案として原子力法の改正を主張。スイスで原子力発電所の新規建設が再び認可され、原子力がスイスの長期的なエネルギー供給の安全保障のための選択肢として残されることを目指している。同イニシアチブは、電力供給を常に確保することを憲法に明記し、政府がその責任を負うことを求めている。政府は、憲法ではすでに広範なエネルギー供給とともに、連邦と州がそれぞれの権限の範囲内でエネルギー供給に尽力しなければならないと規定済みであるとし、同イニシアチブを拒否。さらに政府は、同イニシアチブの、原子力発電所新規建設の禁止撤廃を含む、気候変動に配慮したあらゆる電源を認めるべきとの要求には賛同するものの、原子力法の改正で十分で、不確実性のある憲法改正までは不要との考えを示している。また、政府は2024年12月から今年4月にかけて各政党、経済団体、大手電力会社や自治体と行った協議を踏まえ、対案では、原子力発電所の新規建設および既存の発電所の改修に関する禁止条項を原子力法から削除し、将来的に新たな許認可の発行を可能にすることを提案。スイスのエネルギー政策を特定の電源に偏らない形で設計し、再生可能エネルギーの拡大が不十分な場合や蓄電の進展が乏しい場合に備え、原子力が保険的な役割を果たすと位置付けることとした。なお、原子力発電所を新規建設するという具体的な決定に関するものではないため、資金調達や認可制度の改正などについては考慮しておらず、再生可能エネルギーと原子力発電所の新規建設は両立可能であり、再生可能エネルギーの拡大を引き続き推進する方針を明確化している。スイスでは、2011年の福島第一原子力発電所事故後、50年の運転期間を終了した原子炉を2034年までに段階的に閉鎖する方針を政府決定。2017年5月の国民投票を経て、2018年1月1日に施行した改正エネルギー法では、安全である限り、既存の原子力発電所の運転継続が認められたが、原子炉閉鎖後のリプレース(新規建設)や使用済み燃料の再処理は禁止された。一方で、2050年までのネットゼロ目標の達成や人口増により、電力消費量は今後数年間で急増が予測され、国内の電力生産を拡大する必要性は顕在化。さらにロシアのウクライナに対する軍事侵攻による、地政学的およびエネルギー供給状況の悪化により、近年、原子力発電をめぐる議論が再燃している。スイス原子力フォーラムのH. ビグラー会長は、今回の政府による対案の発表を歓迎。「電気化、デジタル化、人工知能の進展により、スイスの電力需要は2050年までに900億kWh超に増加する見込み。気候目標と地政学的状況を踏まえると、ガス火力発電は持続可能な選択肢ではなく、再生可能エネルギーの拡大は停滞する。低炭素電源を含む計画は、より適切なアプローチであり、原子力発電所の新規建設禁止の撤廃は重要な一歩である」と指摘した。今後、スイス連邦議会はイニシアチブと政府の対案を審議、2026年8月までに決定する必要があるが、同イニシアチブが撤回されないかぎり、国民投票で最終決定されるという。スイスでは現在、ベツナウ1、2号機(PWR、38.0万kWe×2基)、ゲスゲン(PWR、106.0万kWe)、ライプシュタット(BWR、128.5万kWe)の計4基・310.5万kWeが運転中。2024年の原子力発電電力量は230億kWh、原子力シェアは27%だった。スイスの原子力発電所には運転期間の制限はなく、安全性が保証されることを条件に、当局の承認を得て、運転期間を設定することができる。
27 Aug 2025
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南アフリカのD. ジョージ林業・水産・環境相は8月8日、西ケープ州ドイネフォンテインにおける新たな原子力発電所の建設および運転に係る、環境影響面での許可を支持すると決定したことを明らかにした。同許可は南アフリカの国営電力会社であるエスコム(Eskom)に、2017年に発給されていたが、複数の環境団体などから異議申し立てを受けていた。同相は、「これらの異議を検討するにあたり、発電所設備と付帯インフラが環境に及ぼす環境影響評価報告書を徹底的にレビューしたほか、本プロジェクトに関する独自のピア・レビューを実施し、最終的には、1998年国家環境管理法(NEMA、法第107号)の原則を踏まえ、環境的・社会的・経済的な考慮を十分に理解した上で決定をした」と述べた。また南アフリカの環境保護と保全は何ものにも優先されると強調した。南ア政府は2010年の統合資源計画(IRP)に基づき、2030年までに計960万kWの原子力発電設備を新たに建設することを計画。エスコムは2016年3月、候補に上がっていた5サイトから、西ケープ州のドイネフォンテインと東ケープ州のタイスプントの2サイトに絞り、サイト許可を国家原子力規制当局(NNR)に申請した。うち、ドイネフォンテイン・サイトについて、環境問題省(当時)は2017年10月、最大400万kWe新設の環境許可を発給した。が、これを不服とする複数の環境団体や個人らが、詳細かつ包括的な意見書から簡潔なものまで、多様な内容の異議を提出していた。このたび、ジョージ大臣はNEMAの関連条項に基づき、これらの異議を却下し、エスコムへの環境認可付与の決定を承認した。ただし、これにより直ちに、エスコムが原子力発電所の建設や運転を開始できるわけではなく、同社は依然として、NEMAの関連条項に従い、事業を進める前に以下の許認可を取得する必要がある。NNRからの原子力施設許可南アフリカ国家エネルギー規制当局(NERSA)からの承認水・衛生省からの水利用許可その他、鉱物・石油資源相による承認などジョージ大臣は、「林業・水産・環境省は、包摂的な成長、雇用創出、貧困削減を中核に据え、よりクリーンで持続可能なエネルギーへの移行を南アフリカが進めていくことを支援する」と語った。南アフリカ原子力公社(NECSA)のL. タイアバッシュCEOは、ジョージ大臣による決定を受け、「原子力産業と、社会経済発展を可能にし、気候に配慮するバランスのとれたエネルギーミックスの実施に向けた南アフリカにとって重要なマイルストーン。原子力発電所の新設サイトの選定のプロセスの厳格さを示しており、原子力技術への信頼を反映している。NECSAは、原子力発電の利益を最大化するためにノウハウを提供する」と述べた。NECSAは原子力研究開発の平和利用を目的に、医学利用、ウラン化学、放射性廃棄物に関する研究を行っている。現在、南アフリカでは、アフリカ大陸で唯一稼働する原子力発電所であるクバーグ1-2号機(PWR、各97万kWe)がそれぞれ1984年と1985年からエスコムにより運転されている。1号機は2044年7月21日までさらに20年間延長する認可をNNRから取得。同2号機についても現在、NNRは20年間の運転期間延長に係る申請を審査中である。なお、上述のドイネフォンテイン・サイトはクバーグ・サイトに隣接している。
26 Aug 2025
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台湾では8月23日、台湾南部の屏東県にある馬鞍山原子力発電所(PWR, 1号機:98.3万kW、2号機:97.5万kW)の運転再開の是非を問う、国民投票が実施された。中央選挙委員会の発表によると、賛成が有権者総数の21.7%の約434万票に対して、反対は約151万票と賛成多数となったが、成立要件となる有権者総数の25%に達せず不成立となった。投票率は29.5%にとどまった。投票結果を受けて、頼清徳総統は総統府で談話を発表。「投票結果を尊重し、エネルギー選択肢の多様性に対する社会の期待を理解する」と評価。「国民が求めているのは安心と安定した電力供給。政府は、『安全性に懸念がないこと』『放射性廃棄物の処分に解決策があること』『社会の共通認識』の三つの原則を遵守して原子力問題と向き合う。そのうえで、技術がより安全になり、放射性廃棄物が減り、社会的受容度が高まれば、先進的な原子力を排除することはない」と将来に期待を残した。さらに、原子力安全は科学的に検証が必要な問題であり、一度の国民投票で解決できるものではない、と指摘。運転再開の可否については、今年5月改正の「核子反応器設施管制法(日本の原子炉等規制法に相当)」に基づき、まずは核能安全委員会(原子力安全委員会)が安全審査の方法を定め、第二に、事業者である台湾電力がその方法に基づいて自己安全検査を行う必要性があるとし、同委員会に対し、各界の意見を集めて迅速に対応するよう求めた。国民投票の設問は、「馬鞍山原子力発電所が、安全上の懸念がないことを確認した上で、運転再開することに同意するか」。台湾の立法院(国会)で5月20日、馬鞍山原子力発電所の運転再開を求める、国民投票の実施提案が賛成58、反対49票で可決された。国民投票の実施は、少数野党の台湾民衆党(TPP)が主導したもの。台湾で唯一稼働していた同発電所2号機が5月17日に40年間の運転期間を満了し、法律により、永久閉鎖された。国民投票実施の可決は、与党・民進党政権が掲げる目標である「2025年の脱原子力国家(非核家園:原子力発電のないふるさと)の実現」を達成してから、わずか3日後のことであった。台湾ではたびたび大停電が発生、産業界は安定した電力供給を求め、政府に対しエネルギー政策の見直しを要請していた。政府は再生可能エネルギーの拡大推進を掲げるが、それが主力となるまで、火力・ガス発電への依存による大気汚染、電気料金の上昇、企業の経営コスト上昇による台湾の競争力低下への懸念は高まった。最大野党の国民党(KMT)は排出ネットゼロの気候目標と国内のエネルギー供給構造の安定維持を目的に、核子反応器設施管制法の第六条条文のうち、原子力発電所の運転期間を40年から最長で20年延長とする改正法案を立法院に提出。5月13日に賛成61、反対50票で可決されていた。
25 Aug 2025
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米原子力新興企業のケイロス・パワー社は8月18日、米国の拡大するエネルギー需要に対応し、先進原子力分野における同国のリーダーシップを強化するため、IT大手のGoogle社および米テネシー峡谷開発公社(TVA)と新たな協力関係を発表した。ケイロス社とTVAは電力購入契約(PPA)を締結、テネシー州オークリッジに建設されるケイロス社の実証プラント「ヘルメス2」(出力5万kWe)がTVAの送電網を経由し、テネシー州とアラバマ州にあるGoogle社のデータセンターに電力を供給する。TVAは、先進的な第4世代炉からの電力を購入する米国初の電力会社となる。Google社は2024年10月、自社のデータセンターへの電力供給を目的にケイロス社と2035年までにケイロス社が開発する先進炉のフッ化物塩冷却高温炉を複数基、合計出力にして最大50万kWeの導入による電力購入契約(PPA)を締結。ヘルメス2は、Google社との同契約の下で最初に建設される発電所となる。ケイロス社はGoogle社のテネシー州モンゴメリー郡ならびにアラバマ州ジャクソン郡にあるデータセンターへの電力供給を加速するために、ヘルメス2の出力を2.8万kWから5万kWeに増強し、1基の原子炉で発電を行う予定で、2030年の運転開始を見込んでいる。Google社は事業の脱炭素化をさらに推進していく考えだ。ヘルメス2は、テネシー大学や他の地元大学と提携して開発された新しいプログラムを通じて、発電所のオペレーターやエンジニアとして高収入の仕事に就く地元の労働力の人材を育成するなど、オークリッジを原子力イノベーションのハブとして再確立するものと期待されている。TVAのD. モールCEOは、「エネルギー安全保障は国家安全保障そのものであり、電力はAIや国家の経済的繁栄を支える戦略的な基盤。世界は米国のリーダーシップを求めており、この画期的な合意は新しいビジネス手法の始まりだ。技術、サプライチェーン、提供モデルを開発して産業を育成し、米国のエネルギーを解き放つことで、Google社のような企業を惹きつけ、支援し、AI競争に勝つことができる」と述べた。3社は、産業用エネルギー利用者に対して革新的なソリューションを提供すると同時に、地域経済の成長と雇用創出の促進を目指している。ヘルメス2の開発・運転で得られる教訓は、後続機の導入が進むにつれてコストの削減に貢献し、TVA管轄エリアやその他の地域におけるクリーンで安定した発電の経済性を改善すると期待を寄せている。ヘルメスは2023年12月に、米原子力規制委員会(NRC)が半世紀ぶりに建設を許可した非水冷却炉(非発電炉、熱出力3.5万kW)。TRISO(3重被覆層・燃料粒子)燃料と熔融フッ化物塩冷却材を組み合わせ、原子炉の設計を簡素化しているのが特徴で、2027年に運開予定。すでに2024年7月に土木工事(掘削工事)に着手している。2020年12月に米エネルギー省による「先進的原子炉実証プログラム(ARDP)」の支援対象炉に選定された。ヘルメス2は同炉を2基備えた発電プラントで、建設許可が2024年11月に発給されている。ケイロス社はこれらのヘルメス・シリーズで得られる運転データやノウハウを活用して、技術面、許認可面および建設面のリスクを軽減、コストを確実化して、2030年代初頭に商業規模のフッ化物塩冷却高温炉「KP-FHR」(熱出力32万kW、電気出力14万kW)の完成を目指している。
22 Aug 2025
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カザフスタンのアルマティ州ジャンブール地区のウルケン村において8月8日、同国がソ連から独立後、初となる原子力発電所の建設プロジェクトのエンジニアリング調査が開始された。同発電所建設プロジェクトの主契約者は、ロシア国営原子力企業のロスアトム。VVER-1200(PWR、120万kWe)を2基建設する。ロスアトムは6月、カザフスタン原子力庁(KAEA)により、国際コンソーシアムのリーダーとなる主契約者に選定されていた。今回のエンジニアリング調査は、最適な建設サイトを選定し、大規模発電所の設計文書の準備を目的とする。今年6月のロシア・サンクトペテルブルク国際経済フォーラムにおいて、KAEAとロスアトムの間で「原子力発電所建設プロジェクトの指針となるロードマップ」が承認。エンジニアリング調査の実施、設計文書の作成、EPC(エンジニアリング、調達、建設)契約の締結など主要な段階を定めている。また、カザフスタン原子力発電所(KNPP)とアトムストロイエクスポルト(ASE。ロスアトムのエンジニアリング部門)の間で、プロジェクト実施のための主要な協力枠組み協定が締結された。調査では土壌サンプルの採取のために、合計50本以上、深さ30~120mのボーリングを実施する。発電所の信頼性と安全性確保の必須条件となる、地質学的、地震学的、水文学的、環境的な観点から評価し、それに基づき最終的な建設サイトを決定。本調査の実施により、国際的および国内の基準への適合、環境的・技術的リスクを最小化し、効率的な設計の基盤を築く方針だ。調査の開始にあたり開催された式典には、KAEAのA. サトカリエフ長官とロスアトムのA. リハチョフ総裁が出席。サトカリエフ長官は、「本調査の開始は、カザフスタンが新たなハイテク産業を経済に形成していく道を定めるもの。原子力発電所の建設は、近代的なインフラ整備から、新しい学校や幼稚園、社会施設の誕生に至るまで、地域発展を強力に推進し、国全体の長期的な経済成長を牽引するものだ」と指摘。リハチョフ総裁も「原子力発電所建設の適地であるかを確認するため、徹底的に調査を行う。カザフスタンにとって戦略的に重要な本プロジェクトの実現に向け、蓄積したすべての経験を活用する」と強調した。建設されるVVER-1200は、第3世代+(プラス)、国際的な安全基準に厳格に準拠した設計。ロシアでは4基、ベラルーシで2基が稼働中であり、トルコ、バングラデシュ、エジプト、中国で建設中、ハンガリーでは建設準備段階にある。原子炉の設計寿命は60年で、さらに20年間延長することが可能。なおカザフスタンでは、1973年から1998年までカスピ海沿岸のアクタウ市(マンギスタウ州)で高速炉BN-350(15万kWe)が稼働。発電に加えて、世界最大級の海水淡水化施設を備えていた。現在、BN-350は廃止措置中である。K.-J. トカーエフ大統領は今年3月の演説で3サイトでの原子力発電所の建設を示している。先のベンダー選定作業における潜在的な候補には、露ロスアトム、中国核工業集団公司(CNNC)、フランス電力(EDF)、韓国水力・原子力 (KHNP) が含まれており、KAEAはロスアトムの提案の採用に次いで、CNNCの提案を2番手とした。KAEAのサトカリエフ長官は、「中国は間違いなく必要な技術をすべて備えており、完全な産業基盤を持っているため、次の優先事項は中国との協力だ」と述べ、中国側との交渉が行われることを強調した。カザフスタンのR. スクリャル第一副首相は7月31日の合同記者会見で、KAEAとKNPPが第2および第3発電所のサイト候補を評価中であり、今年後半にも評価結果が明らかになるとし、CNNCが第2発電所に続き、第3発電所も建設するだろうと述べた。
21 Aug 2025
1200
米エネルギー省(DOE)は8月12日、先進炉の実用化に向けた「原子炉パイロットプログラム」の開始にあたり、11件の先進炉プロジェクトを有する10企業を選定した。DOEは2026年7月4日までに少なくとも3基の試験炉を建設し、臨界達成を目指したい考えだ。トランプ政権は、米国を再び原子力分野のリーダーとし、信頼性が高く、多様で、手頃な価格のエネルギー供給を確保して、米国の繁栄と技術革新を推進することに取り組んでいる。DOEは、今回の初期の企業選定が原子炉試験の合理化に向けた重要な一歩であり、商業ライセンス活動を迅速化する新たな道を切り開くものと位置付けている。DOEのJ. ダンリー次官は、「選定されたプロジェクトはすべて、来年の独立記念日(2026年7月4日)までに安全に臨界を達成することを目指しており、DOEはその努力を全面的に支援していく」と語った。DOEは2025年6月、大統領令「エネルギー省における原子炉試験の改革」を受けて、先進炉パイロットプログラムを発表。DOE傘下の国立研究所以外でDOEの管理権限の下、先進炉設計の試験の加速と研究開発の促進を目的としており、商業的適合性のための原子炉の実証ではないと強調している。これまで原子炉試験への道筋は、米原子力規制委員会(NRC)の認可下、またはDOEを経由した、DOE所有サイトでの試験または実証であった。今回選定された企業は、原子力法の下でDOEから認可を受けることで、民間資金を確保し、将来的なNRCからの商用ライセンス取得に向けた迅速なアプローチが可能になると予測されている選定された企業・プロジェクトは以下のとおり(アルファベット順)。・Aalo Atomics: 1万kWeのナトリウム冷却Aalo-1を開発。2024年12月、AaloとDOEはアイダホ国立研究所(INL)に実験用原子炉の建設を発表。・Antares Nuclear: 500kWeのナトリウムヒートパイプ冷却R1マイクロ炉を開発。国防イノベーション・ユニットにより、国防総省 (DOD) の軍事施設向け先進原子力(ANPI)プログラムに選定。・Atomic Alchemy: 1.5万kWtの軽水多用途同位体製造炉(VIPR)の開発を進めている放射性同位元素製造会社。2024年にOkloに買収され、子会社に。・Deep Fission: 1.5万kWeのDFBR-1(PWR)を開発。地下1マイルに30インチのボーリング孔を通って建設予定。・Last Energy: 2万kWeのPWR-20 を開発。テキサス州北西部のハスケル郡に30基のマイクロ炉を建設し、同州内のデータセンター顧客向けに電力供給する計画。・Natura Resources: 商業用および研究用熔融塩炉の両方の設計を開発。NRCから初の建設許可を受けた熔融塩炉Natura MSR-1(0.1万kWt)をアビリーン・クリスチャン大学に建設する計画。・Oklo: 7.5万kWeの液体金属冷却、金属燃料高速炉であるオーロラ発電所を含む2つのプロジェクトが選定。初の発電所をINLで建設し、2027年後半から2028年初めの運開を見込む。・Radiant Industries: 0.1万kWeのヘリウム冷却炉Kaleidos を開発。INLのマイクロ炉実験機の実証(DOME)テストベッドで原子炉試験を行う最初の企業の1つ。・Terrestrial Energy: 19.5万kWeの一体型溶融塩炉を開発。EnergySolutionsの閉鎖サイトへの建設で協力覚書を締結。・Valar Atomics: ヘリウム冷却、TRISO(3重被覆層・燃料粒子)燃料利用の高温ガス炉を開発。各企業は、自らの試験炉の設計、製造、建設、運転、廃止措置に関わるすべての費用を負担する責任を負う。なお今回は初期選考であり、今後さらに多くの申請が審査、選定される可能性がある。さらにDOEは7月、先進試験炉向けの燃料製造を加速するため、燃料製造ラインのパイロットプログラムを発表したが、8月4日、同プログラムの初対象となる企業として、スタンダード・ニュークリア社を選定した。試験炉と同様、DOEが認可を予定している試験炉向けに、米企業が開発した燃料製造ラインをDOE傘下の国立研究所以外に建設、DOEが迅速な承認手続きによって認可する。原子力法の下でDOEが認可した燃料製造ライン設計は、将来のNRCによる商用ライセンス取得において迅速に処理される。申請者にとっては、DOEから認可を受けることで、民間資金の活用を促進し、将来的なNRCからのライセンス取得に向けた迅速なルートを確保、燃料製造ラインの商用化が可能になるというメリットがある。テネシー州オークリッジに拠点のあるスタンダード・ニュークリア社は独自の原子炉開発事業を持たない国内唯一の独立系TRISO燃料製造事業者。TRISO燃料の需要は高まっており、DOEの認可プロセスを活用して、テネシー州とアイダホ州の両方で燃料供給を確保したい考えだ。同社は今回のプログラムへの選定を受け、実証済みのインフラを活用して、2026年半ばまでに複数のサイトでTRISOを年間2トン以上生産していく方針を示している。なお、施設の建設、運営、廃止措置に関連するすべての費用を同社が負担。先進炉開発者は、DOEのHALEU(高アッセイ低濃縮ウラン)割り当てプログラムを通じて燃料製造用の原料の調達を行うという。
20 Aug 2025
2000
韓国水力・原子力(KHNP)は8月8日、チェコのドコバニ原子力発電所5-6号機(APR1000×2基)の増設に係わるサイト詳細調査の着手式を開催した。同調査は2026年8月まで約12か月間かけて実施され、増設部分の土壌や岩盤に関する詳細な情報を取得し、設計の基礎資料として活用することが目的。最大で10台のボーリング装置と補助車両によって順次行われ、今後数か月でボーリング作業などを行い、土壌、岩石、水のサンプル採取や各種試験・測定を実施する。着手式には、KHNPのJ. ファンCEOとドコバニII原子力発電所(EDU II。政府が80%、チェコ電力ČEZが20%所有)のP. ザボドスキー社長をはじめ、L. ブルチェック産業貿易相、現地調査の実施企業の幹部らが出席。KHNPのファンCEOは、「サイト詳細調査はドコバニ発電所増設プロジェクトの最初の現場作業であり、APR1000建設の実質的な出発点。契約工程を遵守するため、計画に従い徹底的かつ体系的に調査を実施する」と述べた。EDU IIの建設は2029年に開始され、初号機の試運転を2036年に見込んでいる。EDU IIとKHNPは6月4日、ドコバニ発電所に2基を増設するためのエンジニアリング・調達・建設(EPC)契約を締結した。なお、EPC契約締結前の5月7日、タービンホールの包括的供給の枠組み合意やシュコダ・パワー社、KHNP、斗山エナビリティ間の蒸気タービン供給の契約を含む、合計9件の予備契約と3件の覚書が締結され、プロジェクトの準備は大きく前進していた。ブルチェック産業貿易相は、すでにプロジェクトへのチェコ企業の関与を約30%達成しているが、建設完了までに60%を目標にしており、チェコ国内に設立されたKHNPのローカライゼーションセンターも、チェコ企業と韓国プロジェクトチームを結びつける役割を果たしていると強調した。産業貿易省は、プロジェクトの完成が教育や地域経済にも好影響をもたらし、最大1,000の新たな企業創出と2,300億チェココルナ(約1.6兆円)超えの投資誘致が見込まれると試算する。2024年7月、KHNPはドコバニとテメリン両原子力発電所における最大4基の増設プロジェクトの主契約者をめぐる優先交渉権を獲得し、EDU IIと約9か月にわたる技術的、商業的交渉を実施した。応札していた米ウェスチングハウス社と仏EDFは、入札プロセスについてチェコの競争保護局(ÚOHS)に異議申し立てを行った。WE社は後に申し立てを取り下げ、EDFは2025年4月に却下された。これにより当初3月に予定されていた最終契約締結は遅延。その後EDFはチェコ地方裁判所に提訴し、5月6日、同地方裁はEDU IIとKHNPの契約締結禁止仮処分を下した。両社はチェコ最高行政裁判所にその決定を不服として控訴。6月4日、最高行政裁判所は契約締結禁止仮処分を取り消し、両社の契約締結が可能になった。テメリン発電所の隣接サイトで、SMR建設に向けた地質調査も実施ČEZは南ボヘミヤ地域のテメリン原子力発電所(VVER-1000×2基、各108.6万kWe)の隣接サイトに同国初となる小型モジュール炉(SMR)の英製ロールス・ロイスSMRを設置する計画で、現在、地質調査を実施している。50〜200mの深さまで合計9本のボーリングを実施し、岩盤などを分析する。この調査結果は、ČEZが2027年中に見込む、サイト許可申請に活用するという。テメリン地域は既存の発電所の稼働前の1980年代にも十分に地質調査されており、原子力利用に適した地質であることが確認されているものの、SMR建設のための調査は今回が2回目。初回調査は3年前に行われ、4本のボーリングで深さ30mまで調査済み。さらに追加の調査も予定であるという。ČEZは2024年9月、合計最大300万kWeの設備容量を確保するためのSMRの優先サプライヤーに、ロールス・ロイスSMR社を選定。ČEZは、ロールス・ロイスSMR社の約20%の株式を取得し、戦略的少数株主となった。ČEZとロールス・ロイスSMR社は今年7月、先行作業契約(Early Works Agreements: EWA)を締結。両社共同でテメリン発電所サイトを対象に、規制手続き、環境評価、サイト準備作業を実施する。初号機の運転開始は2030年代半ばを予定している。ロールス・ロイスSMRは既存のPWRをベースとしており、電気出力が47万kWとSMRにしては大型なのが特徴。少なくとも60年間稼働する。ČEZ傘下にあるシュコダJS(ŠKODA JS)は8月1日、ロールス・ロイスSMR社とチェコ国内外におけるSMR用コンポーネントの開発と生産における協力に関する覚書を締結した。シュコダ社はチェコに拠点を置く、原子力発電所の建設とサービスの経験を持つヨーロッパ有数のエンジニアリングおよび製造会社の1つ。ČEZは、新たな原子力発電の開発と建設にチェコ産業界を関与させることを優先事項としている。
19 Aug 2025
884
インドネシアのPT Thorcon Power Indonesia(PT TPI)社は8月7日、インドネシアの原子力規制当局のBAPETENが、PT TPI社によるインドネシア初の原子力発電所の建設に向けたサイト評価プログラム(PET)ならびにサイト評価管理システム(SMET)を承認したことを明らかにした。シンガポールを拠点とするThorcon International社の子会社であるPT TPI社は今年2月、米国のデベロッパーThorcon社製の先進的熔融塩炉を採用した実証プラント「Thorcon 500」(50万kWe)の建設に向けて、BAPETENに対し、PETおよびSMETの承認を得るための申請書類を提出。安全性、生態学的、サイト適合性の観点に焦点を当てた、予備的サイト調査の結果、同国バンカ・ブリトゥン州のバンカ島の沖合にある、ケラサ島を同プラントのサイトとして提案している。 PT TPIが提案する「Thorcon 500」は、1960年代に米エネルギー省オークリッジ国立研究所で開発された熔融塩炉(MSR)をベースとしている。低濃縮ウランを燃料とする25万kWe×2基がそれぞれ交換可能かつ密封された「Can(缶)」ユニットに格納されている。「Can」は造船所で船体に組み入れられ、浅瀬のサイトまで曳航される。各発電モジュールでは、常時1基のみが稼働し、運転8年後には、使用済みの原子炉モジュールを切り離して新規モジュールに交換。取り外したモジュールはCan交換のためにメンテナンスセンターに曳航される。Thorcon International社は、東南アジアは世界で最も急速にエネルギー市場が成長しており、信頼性が高く手頃な価格でクリーンな電力は、経済拡大、工業化、長期的に持続可能な開発を支援するために不可欠と指摘。特にインドネシアには原子力発電導入の大きな可能性があると考え、PT TPI社はインドネシア国内に原子力エンジニアリングとライセンスチームを設立した唯一の原子力企業となった。次のステップとして、サイトライセンスおよび設計承認を取得し、2027年に建設開始、2031年のフル稼働を目指している。PT TPI社のD. アシャリCOOは、「原子力発電が最も安全な発電形態の1つであることは現在広く理解されているが、地域社会が当社の開発するプラント固有の設計による安全性を理解できるよう、サイトライセンスと設計承認に向けて地元コミュニティや知事と緊密に連携していく」と述べた。インドネシアは発電設備容量の半分以上を石炭火力に依存しており、インドネシア政府は今年5月、2040年までに1,000万kWeの原子力導入目標を掲げた。PT TPI社は同社の開発するプラント導入により、インドネシアの石炭依存の低減に貢献したいとしている。
18 Aug 2025
1264
韓国水力・原子力(KHNP)は8月6日、古里原子力発電所4号機(PWR、103.3万kWe)を、40年の運転期間の満了に伴い、運転停止した。同機は、1985年8月7日に運転認可を受け、1986年4月29日に営業運転を開始。国内で5番目に営業運転を開始した原子炉である。KHNPは同機を引き続き運転するために、韓国の原子力規制機関である原子力安全委員会(NSSC)の承認審査を受けている。KHNPは2022年9月、NSSCに継続運転安全評価書を提出し、2023年7月、継続運転に関する放射線環境影響評価報告書に対する公聴会プロセスを完了。同年11月に継続運転の運転変更許可を申請した。政府は電力の需要や経済性などを考慮し、原子炉の設計寿命の終了後でも、法制度に基づき10年間追加で運転を継続する方針である。古里4号機の運転停止に先立ち、2023年4月に2号機、2024年9月には3号機がそれぞれ40年の運転認可期限を迎えて運転を停止しており、現在、継続運転のための審査手続き中である。2号機は早ければ今年後半、3号機と4号機は来年中にNSSCにより継続運転が承認される見込みだ。KHNPによると、古里4号機は今回の運転期間満了までに2,059日連続(5サイクル)の無故障運転を達成。米国ニュークレオニクスウィーク誌が発表する「年間稼働率」で世界400基以上の原子力発電プラントのうち何度も1位に輝いている。同機は運転期間中、約2,773億kWhを発電した。古里発電所のイ・サンウク所長は、「継続運転は、安定したエネルギー供給とカーボンニュートラル実現のカギとなる戦略。市民の安全を最優先に、透明で公正な手続きを通じて継続運転を推進する。徹底した安全審査、安全設備の強化、最新装備の改良を通じて、古里4号機はより安全で効率的な発電所に生まれ変わるだろう」と語った。脱原子力政策を進めた文在寅(ムン・ジェイン)前政権は設計寿命に達した原子炉の延長運転を原則的に認めなかった。古里4号機を含めて現在審査中の古里2、3号機も文在寅政権下で運転期間延長の申請が遅れたのが今回の発電中断の原因となっている。原子炉が中断なく稼働するには運転認可期限に達する3、4年前から延長運転のための手続きを始める必要があるが、文在寅政権下では手続きが行われなかった。古里2号機の場合、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領当選直後の2022年4月に継続運転の申請が行われたが、運転認可期限まで1年しかなかった。今年末にはハンビット1号機が40年の運転認可期限を迎え、停止する。今後、1980年代半ばにかけて運転を開始した原子炉が、2029年までに年1~2基停止していく。1978年4月に営業運転を開始した韓国最古の古里1号機(PWR、58.7万kWe)は、設計寿命30年に追加10年の運転期間延長を経て、2017年6月に永久閉鎖された。KHNPは2021年5月に同機の解体申請を提出、今年6月に承認された。8月からタービン建屋内の設備から順次解体作業に着手し、2031年に使用済み燃料を搬出後、放射性系設備の解体を経て2037年に解体を完了、サイトを復旧する計画である。
14 Aug 2025
895
米テキサス州を拠点とするフェルミ・アメリカ(Fermi America)社は7月28日、韓国の現代E&C(現代建設)社と覚書(MOU)を締結。テキサス工科大学(TTU)システム((テキサス州にある州立大学群))との提携によって実施される、次世代AIへ電力供給する民間送電網プロジェクトのうち、原子力コンポーネントの計画・開発において、現代E&C社と協力する。フェルミ・アメリカ社は、次世代人工知能(AI)の実現に不可欠なギガワット(GW=100万kW)規模の電力網の建設を主導する米国のエネルギー開発会社。R. ペリー元米エネルギー省長官・元テキサス州知事が共同創設者に名を連ね、TTUシステムに世界最大の統合エネルギーとAIキャンパス(ドナルド J. トランプ先進エネルギー・インテリジェンス・キャンパス)の建設を加速させている。フェルミ・アメリカ社のT. ノイゲバウアー共同創設者と現代E&C社のイ・ハンウCEOが韓国ソウルで「先進エネルギー・インテリジェンスキャンパス共同開発のための覚書(MOU)」に調印した。本MOUにより両社は、原子力ベースのハイブリッドエネルギープロジェクトの共同計画、プロジェクトフェーズごとに詳細な作業パッケージの開発、フロントエンドエンジニアリング設計(FEED)、および年内の設計、調達、建設(EPC)契約の締結など、プロジェクトのさまざまな分野で協力することとしている。フェルミ・アメリカ社が手がける同プロジェクトは、テキサス州アマリロ郊外の約2,335万m²の敷地に世界最大とされる民間初の電力網キャンパスを建設するもの。大型炉のウェスチングハウス社製AP1000×4基(4GW)、SMR(2GW)、ガス火力複合発電所(4GW)、太陽光発電とバッテリーエネルギー貯蔵システム(1GW)を組み合わせた計11GWの独立電力供給インフラと、この電力に連携される大規模なハイパースケールAIデータセンターを段階的に導入する計画であるという。既存の電力網よりも安定性の高いエネルギーキャンパスとして、次世代AI技術を支える特化システムと位置づけられている。フェルミ・アメリカ社は、現代E&C社が韓国国内で18基の原子炉を建設、アラブ首長国連邦のバラカ原子力発電所で4基の原子炉を手がけた実績を有する他、韓国で2基、ブルガリアで2基の原子炉も現在、建設・設計段階にある点に着目。特に、バラカ・プロジェクトでは、予定より早く、安全かつ予算内で全4基を稼働させたことを評価している。ノイゲバウアー共同創設者は、「現代E&Cチームと提携してAIの未来を支えていく。米国には練習している時間はない。実績あるパートナーと協力することが不可欠。現代E&Cは安全でクリーンな新型原子力を計画・建設してきた成功実績を持っている」と強調した。現代E&C関係者によると、同プロジェクトの初期段階から参加し、多様なエネルギーインフラを活用した世界最大の統合エネルギー・AIキャンパスの造成に貢献できるという点で意義があると指摘。これを重要な出発点として、米国だけでなくグローバル市場でも様々な新エネルギー分野のビジネスチャンスを積極的に確保し、競争力を持続的に強化していくとしている。なおフェルミ・アメリカ社は6月17日、AP1000×4基の建設に向けて、米原子力規制委員会に建設運転一括認可(COL)を申請。同申請は記録的な速さで審査受付されたという。現代E&C社と提携することで、来年にも原子力発電複合施設の建設を開始し、初号機を2032年までに稼働させたい考えだ。
14 Aug 2025
1400
ポーランドの大手化学素材メーカーであるシントス社のグループ企業シントス・グリーン・エナジー(SGE)社は7月30日、ハンガリーならびにスロバキアの原子力関係機関とそれぞれ、米GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社製のSMR「BWRX-300」(30万kWe)の導入をめぐり協力することで合意した。SGE社は、ポーランドへのBWRX-300導入のため、同国最大手の石油精製企業であるPKNオーレン社と50%ずつ出資し、2022年に合弁企業のオーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社を設立。OSGE社は国内6地点における合計24基のBWRX-300建設に向けて、許認可手続きの準備を進めている。なおSGE社はGVH社と合意に基づき、欧州地域でのBWRX-300建設においてプロジェクト開発者としての役目を担う。ハンガリーにおける導入計画SGE社はハンガリーのHunatom社(原子力発電に関連する技術・イノベーション強化を目的に設立)と、ハンガリーに最大10基のBWRX-300導入を評価する基本合意書(LOI)に調印した。LOIは、BWRX-300の導入に関連して、必要な技術、インフラ、ファイナンス、法的な側面での共同作業を開始する枠組みを確立するもの。LOI調印式には、ハンガリーのP. シーヤールトー外務貿易相、ポーランドのJ. シュラデフスキー臨時代理大使、米国のR. パラディーノ臨時代理大使が立会った。シーヤールトー相は、「我々は電力需要の増加に直面しているが、我々が自力で維持できる唯一の発電方法は、間違いなく原子力。大型炉をさらに建設することは国土の大きさからして現実的ではなく、SMRは理想的なソリューション。特に工業地域での設置に最適だ」と述べた。ハンガリーでは現在、パクシュ原子力発電所の増設プロジェクト(=パクシュⅡプロジェクトとして5、6号機を増設、各ロシア製VVER-1200、120万kWe)が進められている。パクシュⅡは国際プロジェクトであり、ロシア国営原子力企業ロスアトム、仏アラベル・ソリューションズ社のほか多くの西側サプライヤーと提携して実施。今年6月、米政府が同プロジェクトに対する制裁を解除し、建設プロジェクトに弾みが出ると期待されている。スロバキアにおける導入計画SGE社は、スロバキアの大手電力会社のスロバキア電力(SE)社とBWRX-300の導入プロジェクトで協力を模索するMOUを締結した。スロバキアおよびその他の欧州諸国(特にチェコと英国)におけるSMRプロジェクトに係わる投資、許認可手続き、共同開発の可能性を検討する。合弁事業の設立、資金調達の構築、地域サプライチェーンの開発のほか、データセンターなどのデジタルインフラへの活用も視野にいれている。SE社のB. ストリチェクCEOは、「SGE社とのパートナーシップにより、最先端のBWRX-300を詳細に分析し、スロバキアにおける導入可能性を適切に評価できるようになる。原子力発電所の建設・運転で培った当社の長年のノウハウを活かして、地域のSMR開発を支援していきたい」と語った。なおスロバキアは現在、米国と原子力分野における協力に関する政府間協定の締結の準備を進めており、D. サコヴァ副首相兼経済相はこのほど、欧州委員会(EC)が同協定について了承したと明らかにした。EU加盟国ではない国との政府間協定はEU機関による事前承認や審査を受けなければならない。R. フィツォ首相は自身のソーシャルメディアで、同協定の締結を契機に、ボフニチェ原子力発電所の新設に米ウェスチングハウス社製AP1000を採用する計画について言及している。
13 Aug 2025
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米ワシントン州に拠点を置く核融合エネルギー企業のヘリオン(Helion)社は7月30日、核融合発電所「オリオン」(Orion)の土木工事を開始した。建設地は、送電インフラへのアクセスの良さや、エネルギー技術革新の歴史を持つワシントン州シュラン郡。2028年までに少なくとも5万kWeの発電能力をもつ核融合発電所の稼働を計画している。大手IT企業のマイクロソフト社は2023年5月、自社のデータセンター向けに、世界初となる核融合発電による電力購入契約(PPA)をヘリオン社と締結。同契約では2028年までに電力供給を開始し、米電力大手のコンステレーション社が電力の販売を担当、送電を管理するという。ヘリオン社のD. カートリー共同創業者兼CEOは、「今日は、当社だけでなく核融合業界全体にとっても重要な日。創立以来、核融合技術を商業化し、電力網に供給することに専念してきた。今回の工事の開始により、そのビジョンに一歩近づいた」と述べた。マイクロソフト社のM.ナカガワ最高サステナビリティ責任者(CSO)兼バイスプレジデント(CVP)は「核融合は、世界が追い求めるクリーンで豊富なエネルギーの新たなフロンティア。商業用核融合に至る道のりは未だ発展途上だが、持続可能なエネルギーへの投資の一環としてヘリオン社の先駆的な取組みを支援していく」と語った。ヘリオン社は、シュラン郡公共事業区(PUD)から土地を借りて、同郡マラガで建設を開始した。このプロジェクトは、州の環境影響評価制度(SEPA)から「重要な影響なし」との評価を得て進められている。2023年以降、同社は州および地域の政府機関、市民らを含むステークホルダーと積極的に対話を重ねてきた。今後も、商業用核融合発電所の建設と運転に向けた許認可手続きを継続するとしている。ヘリオン社は、「迅速な反復とテスト」によるアプローチにより、商業用核融合装置の開発を進めている。第6世代プロトタイプ「トレンタ」(Trenta)は2021年、民間企業として初めて核融合発電に必要とされるプラズマ温度 1億℃の達成に成功した。第7世代プロトタイプ「ポラリス」(Polaris)は初期運転を2024年に開始。世界初となる核融合発電を実証する計画である。またヘリオン社は2023年9月、北米最大の鉄鋼メーカーであるニューコア(Nucor)社と脱炭素化の加速を目的に、同社の製鉄所施設に50万kWeの核融合発電所を導入する契約も締結している。なお最新の資金調達ラウンドにより、ヘリオン社への投資総額は10億ドルを超えている。大口投資家には生成人工知能(AI)ChatGPTを手がける米オープンAI社のS. アルトマンCEOがいる。ヘリオン社は、磁場反転配位(Field-Reversed Configuration:FRC)型核融合を採用し、燃料には重水素とヘリウム-3を使用。装置の両端でドーナツ状のプラズマパルスを生成。プラズマを圧縮しながら加速器を用いて装置の中央部で衝突、核融合を非連続的に発生させ、その頻度を高めて取り出すエネルギーを増やす。プラズマ中の電子や荷電粒子が電磁誘導でコイルに電流を発生させ、電力として利用する仕組みだという。
13 Aug 2025
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中国の浙江省寧波市で8月10日、中国核工業集団公司(CNNC)の金七門(Jinqimen)第Ⅰ原子力発電所の1号機(120万kWe)が着工した。これに先立ち、国家核安全局(NNSA)が8月5日、同発電所1、2号機の建設許可を発給した。2024年2月には、同発電所の起工式を開催している。2023年12月、国務院常務会議は同発電所の1、2号機の建設計画を承認した。同発電所では、中国が独自開発した第3世代PWR「華龍一号」(HPR1000)を採用。同サイトではこの1、2号機を含め、計6基の「華龍一号」を建設予定である。浙江省ではCNNCの秦山、方家山、三門の各原子力発電所が運転中である。CNNCによると、金七門サイトの全6基が稼働すると合計設備容量は約720万kWとなり、年間550億kWhを発電、これは2024年の寧波市全体の電力消費量の半分に相当し、年間約4,500万トンのCO2削減に相当するという。1号機の運転開始は2028年末頃を見込む。CNNC傘下のCNNC浙江エナジー社が開発、建設を担当する。
12 Aug 2025
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米国のマイクロ炉開発企業のラスト・エナジー社は7月29日、自社が開発するマイクロ炉「PWR-20」(2万kWe)が英国で予備設計審査(Preliminary Design Review:PDR)を完了したことを明らかにした。同社は英国の南ウェールズに同機を4基導入する計画であり、原子力サイト許可(NSL)の正式手続き入りをし、PDRを完了した初のマイクロ炉開発企業となった。PDRは、英原子力規制庁(ONR)、環境庁(EA)およびウェールズ自然保護機関(NRW)が実施。1年以上にわたる事前協議を経て、2025年2月から6月までの5か月間に実施された。PDRは、規制当局の期待に対して潜在的に重大なギャップを特定し、それらのギャップを解決するアドバイスの提供によって、申請者がNSLと環境許可に至るまでの手続きにおいてプロジェクトのリスクをより深く理解できるようにすることを目的としている。今回、組織計画と体制、環境および廃炉計画、安全性分析のプロセスと成熟度の3点からの評価に加え、PWR-20の「完全受動型で、事故時に運転員が現場を離れても安全性が保たれる特性(walk-away safe)」も評価。ラスト・エナジー社はPDRの完了により、次段階の設計、安全性、セキュリティ、環境面での規制評価に向けて、個別に対応された規制ガイダンスを得たとの認識だ。なお同社は、包括的設計審査(GDA)を完了せずに、NSLと環境許可を直接申請する意向を示していた。ラスト・エナジーUK社のM. ジェナーCEOは、「原子力の大規模導入は、脱炭素化と英国全体の経済成長に不可欠。PDRの完了は、効率的な許認可プロセスの実施に必要な指針を与えるもので、英国初となる商用マイクロ炉を実現する準備が整った」と述べた。規制当局は、ラスト・エナジー社が掲げる「2027年12月までにNSLを取得する」という目標について、PDRで合意された基準とスケジュールに沿って、同社が申請を進めることを条件に達成可能としている。2024年10月、ラスト・エナジー社は、ウェールズ南東部のブリッジエンドにあるスリンビ(Llynfi)石炭火力発電所の跡地にマイクロ炉×4基を建設する計画を発表した。同月には用地を取得、同年12月には米輸出入銀行(US EXIM)から南ウェールズでの建設プロジェクト向けに、1.037億ドルを融資する意向表明書(LOI)を取得した(最終承認待ち)。今年1月にはNSLの正式手続き入りをし、英送配電網運営会社(NGED)から2.2万kWの電力供給の接続枠を獲得している。ラスト・エナジー社は、2019年に米国の研究機関であるエナジー・インパクト・センター(Energy Impact Center)からスピンオフした企業で、従来の原子力発電所建設プロジェクトが抱える時間面・コスト面の課題を解決することを目指している。同社の開発したマイクロ炉「PWR-20」は、加圧水型炉がベース。大量生産を前提としたモデルで、数十のモジュールから構成されており、工場での製造、輸送、サイトでの組立てを24か月以内に完了できるという。
12 Aug 2025
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経済協力開発機構(OECD)の原子力機関(NEA)はこのほど、小型モジュール炉(SMR)の世界的な開発・導入状況を体系的に評価した「NEA SMRダッシュボード」の最新版(第3版)を発表した。許認可、立地、資金調達、サプライチェーン、関係者とのエンゲージメント、燃料供給の6分野にわたる準備状況を詳細に分析し、世界各地で進むSMRプロジェクトの実証・商業化に向けた取り組みを紹介している。今回のダッシュボードでは、NEAが特定したSMR計127炉型のうち、公開情報が十分にあり評価可能とされた74炉型について分析を実施。そのうち7炉型はすでに運転中または建設段階にあり、また51炉型が事前許認可または許認可プロセスに関与している。評価にはNEAが独自に構築したSMRデータベースが活用されており、2025年2月14日時点の最新情報が反映された。なお、第3版では日本に関して、日本原子力研究開発機構(JAEA)、Blossom Energy社、東芝エネルギーシステムズ社がそれぞれ開発するSMR6炉型が紹介されている。SMRへの関心は、気候変動対策とエネルギー・セキュリティの両立をめざすなかで、世界的に高まっている。地域別に見ると、北米に本拠を置くデベロッパーが最も多く、欧州、アジア(OECD加盟国)、中国、ロシア、アフリカ、南米、中東と続く。評価対象となったSMRには、概念段階にあるものから初号機(FOAK)の実証に向けた準備が進むものまで、技術的成熟度にばらつきが見られるが、全体として拡大傾向にある。ファイナンス面でも動きが加速している。NEAによると、2024年版のダッシュボードと比較して、今回資金調達の発表が確認されたSMRは81%増加。NEAは、SMRに対する世界全体での資金流入を約154億ドルと試算しており、そのうち約54億ドルが民間からの出資と見ている。政府の補助金やマッチングファンドに加え、米国を中心に民間投資が存在感を高めているという。具体的には、グーグル、アマゾン、メタ、ダウ・ケミカルなどの米大手グローバル企業が、自社の環境目標に沿ったエネルギー需要を満たすために、積極的に投資している。また、SMRプロジェクトの立地候補地の大半が政府機関または公益事業体の所有サイトである一方で、近年では民間所有サイトも増加傾向にある。需要地近くでの建設や、廃止された(あるいは廃止予定の)石炭火力発電所サイトでの導入検討も進んでいる。事業モデルも従来の電力会社中心の枠組みから、建設・所有・運転(BOO)モデル、電力購入契約(PPA)など柔軟な形態へと多様化している。一方、NEAは技術面において、燃料供給の整備が依然として課題と指摘。SMR設計の多くは、現在商業レベルで利用できないHALEU(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)を必要としており、燃料形態の多様化も進んでいる。酸化ウランセラミック燃料が最も一般的だが、TRISO燃料(HALEU燃料を黒鉛やセラミックスで3重に被覆した粒子型燃料)や金属燃料、熔融塩燃料など、従来炉とは異なる技術も広く採用されつつある。これら新型燃料の商業規模の生産施設はないことから、NEAは新たなインフラ整備が不可欠としている。NEAは2025年中に、ダッシュボードのオンライン版「SMRデジタルダッシュボード」を立ち上げる予定で、SMRに関する情報をリアルタイムで把握できるプラットフォームを提供する。このインタラクティブなツールは、関係者がSMRの世界的な進展状況を即座に把握できるよう設計されており、NEAは今後の政策立案や事業戦略にとって重要な判断材料を提供していく考えだ。
12 Aug 2025
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アラブ首長国連邦(UAE)の首長国原子力会社(ENEC)は、エネルギー安全保障と持続可能性の強化を目的に、原子力発電の迅速な供給体制の構築に向け、国内外での投資、協力、展開の機会の拡大に注力している。こうした中、同社は、韓国ならびに米国の企業と相次いで覚書(MOU)を締結。UAEの総電力需要の25%を供給するバラカ原子力発電所(韓国製APR1400×4基)の建設・運転で得た知見を活用し、原子力をクリーンエネルギー戦略に取り込もうとする各国・企業への支援、協力体制を強化している。韓・現代E&C、サムスンC&TとMOUを締結ENEC社は7月28日、韓国の現代E&C(現代建設)社とグローバルな原子力事業における協力機会の模索を目的とした戦略的覚書(MOU)を締結した。現代E&C社はバラカ発電所の建設の主要請負業者で、同建設プロジェクトにおいて、独自のリスク管理と建設能力を実証済み。本MOU締結により、知見の共有、プロジェクト参加の共同評価、戦略的投資機会の評価を実施するほか、相互の関心分野を特定し、共同作業部会を設置。両国が原子力を含むエネルギー分野での将来の協力へのコミットメントを深める中、現代E&C社はバラカ・プロジェクトで培った信頼と経験を基盤に、戦略的パートナーとしての協力を拡大する計画だ。翌29日には、ENEC社はサムスンC&T社(サムスン物産)とも、グローバル市場における原子力関連プロジェクトの共同開発を模索するMOUを締結。協力範囲は、米国における新設、運転再開、原子力インフラ関連の合併・買収(M&A)活動、原子力機器サプライヤーなどへの投資の検討が含まれている。さらに、小型モジュール炉(SMR)の共同開発と投資計画、原子力による水素製造の機会の評価、ルーマニアにおける原子力発電所の開発と資金調達に関する共同評価などが挙げられている。両社は、大型炉とSMR分野で築いてきた先進技術とグローバルネットワークを融合し、相乗効果をめざす。なお、サムスンC&T社は、2025年4月にルーマニアにおけるチェルナボーダ原子力発電所1号機(CANDU炉、70.6万kWe)の改修契約を獲得したほか、同国南部のドイチェシュティ(Doicesti)における米ニュースケール社製のSMR建設プロジェクトの基本設計(Front-End Engineering Design:FEED)にも共同参画している。スウェーデンとエストニアにおいてもSMRプロジェクトに取り組んでいるところだ。米ウェスチングハウス社とMOUを締結ENEC社は米ウェスチングハウス(WE)社と7月25日、米国における高度な原子力技術の展開検討に向けたMOUを締結した。米政府はAIやテクノロジー分野の拡大などに伴う電力需要の増加に対応するため、2030年までに10基の大型炉の建設開始、2050年までに米国の原子力発電能力を4倍に拡大するという目標を掲げている。両社は、WE社のAP1000の展開加速を含む、米国の新規建設と再開プロジェクト、燃料サプライチェーンの協力、バラカ発電所へのWE社の運転・保守の支援拡大の可能性などについて検討していくことで合意した。GVH社との連携、ENECの戦略推進なおENEC社は今年5月、米GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社と、GVH社製のSMRであるBWRX-300の国際展開に向けて、包括的なロードマップの評価・策定で協力するMOUを締結している。同MOUは、ENEC社が次世代原子力技術の評価と潜在的な展開加速を目的に創設したADVANCEプログラムの一環。ENEC社は今回の一連のMOU締結により、国際的な原子力パートナーシップにおける役割を拡大し、原子力の成長を加速、世界の電力需要の高まりに応える戦略を推進したい考えだ。
07 Aug 2025
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ロシア国営原子力企業ロスアトム傘下の鉱山化学コンビナート(MCC)において、7月25日、使用済み燃料の再処理を行う実験実証センター(PDC)の第2フェーズの施設が稼働を開始した。MCCは、クラスノヤルスク地方の閉鎖都市ジェレズノゴルスクに所在。冷戦時代は兵器級プルトニウム生産炉(全3基、閉鎖済み)が稼働し、使用済み燃料はすべてサイト内の放射化学プラントで再処理された。PDCでは、高レベルおよび中レベル放射性廃棄物の量を大幅に削減する第3世代+(プラス)の革新的技術を用い、VVER-1000の使用済み燃料を再処理する計画であり、将来的には高濃縮度燃料や高速炉の燃料など、その範囲を拡大していく方針である。PDCでは2015年に第1フェーズが完成。分析用ラボを備えた一連の研究用ホットセルで構成され、使用済み燃料の再処理技術と放射性廃棄物の取扱い方法の検証が実施された。今回稼働を開始した第2フェーズの施設は、第1フェーズの実験規模とは異なり、産業規模。使用済み燃料の再処理に加えて、MCCに建設予定の大規模な再処理工場(RT-2)を設計するためのデータ収集や設備の検証を実施する。第2フェーズは2024年11月に完成。技術開発と設計パラメータの達成により、世界初となる液体放射性廃棄物を発生しない再処理施設となることが期待されている。ロスアトムのA. リハチョフ総裁は、「第2フェーズの稼働により、天然ウランの使用を大幅に削減し、使用済み燃料の再処理によって得られる資源の再利用によって、産業規模のクローズド・燃料サイクルを実現する」と強調した。なおMCCでは、ベロヤルスク原子力発電所4号機(高速炉BN-800)用のMOX燃料(混合酸化物燃料)を製造。再処理で生成されるプルトニウムの蓄積を減らすために原子炉で利用される。またリハチョフ総裁は、第2フェーズの施設が設計通りの能力に達すれば、年間約200トンの使用済み燃料を再処理できると言及。チェリャビンスク州にある生産合同「マヤク」(再処理工場RT-1が1977年より操業中)と新たに計画している生産施設を考慮すると、今後15年以内に第4世代エネルギーシステム((安全性の向上、放射性廃棄物の削減、資源の有効利用、経済性向上を通じ、原子力発電所のライフサイクル全体を通じてより高い持続可能性を確保するシステム))の立ち上げが確実になるとの見通しを示した。なお、MCCの閉鎖原子炉の跡地で、放射性毒性の高い物質であるマイナーアクチノイド(MA)の最終処分の実証を目的に、研究用熔融塩炉の建設が予定されている。今年7月に設計の第一段階が完了。主要な技術的な方針に関する資料はすでに整い、次の段階では、炉本体と燃料準備施設の技術設計、さらに設計と予算に関する書類一式の作成が行われる。設計作業は2027年まで継続され、並行して、設計文書に反映される技術的方針を裏付けるための研究開発も進める。炉の運転開始後も、技術の実用化や規模拡張に向けた研究を継続するという。
06 Aug 2025
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米原子力規制委員会(NRC)は7月24日、パリセード原子力発電所に対する広範な技術審査を完了し、同発電所の運転再開に係る主要な許認可および規制措置を承認した。米国で閉鎖された原子力発電所が運転再開の承認を得るのは初。NRCの承認を受け、ホルテック・インターナショナル社のK. トライス社長は、「これは私たちのチーム、ミシガン州、そして米国にとって歴史的な瞬間。米国の原子力エネルギーにおける前例のないマイルストーンだ。当社は、今後数十年にわたって地元の雇用と経済成長を支援しながら、安全、確実に、米国のエネルギーの未来をサポートするためにパリセードの運転を再開する」と述べた。NRCは同社宛ての7月24日付の書簡で、正式に承認を通知。NRCは、予定通りに完了した技術審査に基づき、発電所および使用済燃料貯蔵施設の運転認可を、ホルテック・デコミッショニング・インターナショナル(Holtec Decommissioning International LLC)社からパリセード・エナジー社(Palisades Energy LLC)に移転することを承認。また、ホルテック社の申請により、停止前に運用されていた、技術仕様書や緊急時対応計画、品質保証プログラム、保守プログラムなどの各種文書やプログラムの復活も認められた。2025年5月、NRCは発電所の運転再開による重大な環境影響は発生しないと結論付けている。今回の承認が有効となり、発電運転体制(power operations licensing basis)に正式に移行するのは、ホルテック社の提案した2025年8月25日。これ以後、ホルテック社は燃料装荷が可能となるが、実際の運転再開のためには、まだ複数の許認可手続きがNRCで審査中であり、さらに幾つかの要件を満たす必要があるという。なお、発電所の運転は、当初の運転認可(2031年3月24日期限)の下で行われ、送電開始を今年末までに見込んでいる。パリセード発電所(PWR、85.7万kWe)は1971年に営業運転を開始。2022年5月に経済性を理由に永久閉鎖され、翌6月に同発電所は所有者・運転者だったエンタジー社から、廃止措置を実施するホルテック社に売却された。近年、各国がCO2排出の抑制に取り組み、原子力のように発電時にCO2を排出しないエネルギー源が重視されるなか、ホルテック社は同発電所を運転再開する方針に転換。2023年9月、NRCに運転認可の再交付を申請していた。現在、安全で信頼性の高い発電事業再開を保証するために、NRCの監督下で厳格なテスト、検査、メンテナンスなど、タイムリーな運転再開に向けて広範な準備作業が進行中である。このほど運転、保守、化学、放射線防護、工学の全5分野の訓練プログラムが、米国原子力発電運転協会(INPO)から完全認定された。INPOの認定は、運転再開の前提条件であり、NRCや世界原子力発電事業者協会(WANO)も評価に関与する厳格なプロセス。米ウェスチングハウス社の主導により、新訓練組織のNEXA(Nuclear Excellence Academy)が設立され、18か月間の訓練を通じて運転再開に必要なすべてのタスクに応じて正式に訓練された社内のスタッフを揃えた。
05 Aug 2025
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米エネルギー省(DOE)は7月24日、人工知能(AI)データセンターおよびエネルギーインフラ開発に向けたDOEサイトを選定したことを明らかにした。エネルギーコストを削減する、信頼性の高いエネルギー技術の革新を促進し、AI分野における米国のリーダーシップと国家安全保障の強化を目指す。これは、7月23日の大統領令「データセンターインフラ整備の迅速化」のほか、「国家安全保障強化のための先進原子炉技術の導入」、「米国のエネルギー解放」に基づき、DOEサイトを活用したAIインフラ開発を加速する措置の一環。DOEは以下の4サイトを選定。大規模なデータセンター、新たな発電設備、その他の必要なインフラに最適な拠点であると指摘する。最先端のAIデータセンターおよびエネルギー発電プロジェクトを展開すべく、民間企業との連携を進める方針である。アイダホ国立研究所オークリッジ保護区(テネシー州)パデューカ・ガス拡散プラント(ケンタッキー州)サバンナリバー・サイト(サウスカロライナ州)DOEのC. ライト長官は、「DOEの土地資産を活用してAIとエネルギーインフラを展開することで、次なる『マンハッタン計画』を加速させ、米国がAIとエネルギーの分野で世界をリードする体制を築く」と語った。DOEは2025年末までに一部のDOEサイトでAIインフラの建設を開始し、2027年末までに運用を開始することを目標としている。今年4月にDOEは、情報提供要請(RFI)を実施、産学からDOEサイトへのAIインフラの確立について意見や提案を募っており、すでに多くの関心を集めていた。DOEは、州政府、地方自治体などと協議の上、データセンター事業者、エネルギー企業、一般市民と連携してこの重要な取組みをさらに推進していく計画。各サイトごとのプロジェクトの公募が数か月以内に開始される予定であり、DOEは今後、さらなる公募を実施する可能性のある追加拠点の検討も進めているという。
05 Aug 2025
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米国で先進炉と燃料リサイクルの開発を進めているオクロ社はこのほど、2件の新たなパートナーシップを発表した。同社が開発中のマイクロ炉「オーロラ」発電所の商業展開を実現し、クリーンな電力で次世代データセンターや工場での大規模な電力需要に応えていくという。オクロ社は7月22日、デジタルインフラ向けの冷却システムを開発するヴァーティブ(Vertiv)社と、オーロラ発電所からの蒸気と電力を用いて、大規模データセンターと発電設備を併設したコロケーションに特化した、エネルギー効率の高い電力と冷却ソリューションを共同開発する提携契約を締結したことを明らかにした。オーロラ発電所の基本設計は変更せずに、原子炉から発生する熱をヴァーティブ社の得意とする冷却システムに利用。エネルギー効率を大幅に向上させ、このパイロット技術のオーロラ発電所初号機での実証を計画している。米国で急増する電力需要に対応するため、両社は電力と冷却を統合的に最適化することで、データセンターの運用の革新を目指す。加えて、オクロ社は7月23日、革新的なエネルギーサービスと技術を提供する、リバティ・エナジー(Liberty Energy)社と、データセンター、工業施設、公共事業規模のサイトなどの大規模かつ高需要の顧客を対象とした、段階的かつ統合型の電力ソリューションの導入を加速する戦略的提携について発表した。初期段階では、リバティ社の天然ガス発電と負荷管理ソリューションにより、即時に、信頼性ある電力を供給し、柔軟なエネルギーサービスを実現。最適化とレジリエンスの向上を目指したグリッド管理サービスも行う。オーロラ発電所が稼働すれば、クリーンで持続的なベースロード電源として、リバティ社の天然ガス発電を補完するという。オクロ社のJ. デウィットCEOは、「発電・バックアップ・グリッド管理・最適化をすべて単一のプロバイダーで完結するもの」と、提携の意義を強調した。リバティ社は、2023年にオクロ社に1,000万ドルを出資した初期の投資家。数ある先進的原子力企業から、オクロ社を選定した。オーロラは、高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU)燃料を使用する液体金属高速炉のマイクロ炉で、出力は顧客のニーズに合わせて1.5万kWeと5万kWeのユニットで柔軟に調整。少なくとも20年間、燃料交換なしで熱電併給が可能である。オクロ社は、2027年末までに米アイダホ国立研究所(INL)サイト内でオーロラ発電所初号機の導入を目標に、米原子力規制委員会(NRC)との間で許認可申請前活動を実施。7月17日には、建設運転一括認可(COL)フェーズ1に関する事前審査を完了したと発表。NRCによる評価では、オクロ社のCOL申請の受理を妨げるような重大な不備は見つからず、今後の申請の最終化に向けて有益な観察・助言も示され、効率的かつ効果的な審査を促す一助になったと評価。このNRCによる事前審査の完了は、規制プロセスを近代化し、先進原子炉のタイムリーな展開を可能にするというADVANCE法と最近の関連する大統領令によって強化されたNRCの広範な取組みを反映したものと捉えている。オクロ社は年内にCOLの申請を予定している。なおオクロ社は最近、INLサイトでのオーロラ発電所の筆頭建設業者として、キウィット ニュークリア ソリューションズ社(Kiewit Nuclear Solutions)を選定。同社は北米最大級の建設・エンジニアリング企業キウィット社の子会社。大規模な産業・インフラプロジェクトでの豊富な実績と経験を活かし、オーロラ発電所の設計、調達、建設を支援するという。建設準備を年内に開始し、2027年後半から2028年初めの運開を見込んでいる。
04 Aug 2025
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仏アラベル・ソリューションズ社は7月21日、カナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社のダーリントン新・原子力発電所(DNNP)向けGEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社製の小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」に、タービンホールの主要機器を供給することを明らかにした。アラベル・ソリューションズ社のC. コルナンドCEOは、「当社は、SMR向けに蒸気タービン発電モジュールを最適化しており、あらゆる炉型に対して提供が可能である」と語った。DNNPには蒸気タービン、TOPAIR発電機(空冷式)、および関連する熱交換器を供給する。同社の新設プロジェクト責任者であるS. クフィニャル氏は、「蒸気タービン発電機は、BWRX-300(30万kWe)の蒸気条件に合わせて特別に設計されている。タービンアイランドの蒸気および水循環系統を最適化し、発電所全体の効率を高め、電気出力を最大化する設計としている」と補足した。このタービンホールのサプライチェーンには、カナダ企業も含まれており、たとえば、オンタリオ州に本社を置くChemetics社は、熱交換器用の部品を製造する。DNNPのSMRに採用するフルスピードの蒸気タービン発電機シャフトラインは全長34メートル。単流型高圧モジュール1基と、複流型低圧モジュール2基を組合わせ、熱サイクル効率を高め、カナダの60Hzの電力網向けに定格370 MVA(メガボルトアンペア)まで対応したTOPAIR発電機と接続される。アラベル・ソリューションズ社は、原子力タービンアイランド技術とサービス部門における世界有数の供給者。フランス電力(EDF)グループの完全子会社で、その事業は以前はGEベルノバ社の一部であった。
01 Aug 2025
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