米グローバル・レーザー・エンリッチメント(GLE)社は9月16日、同社のノースカロライナ州にあるウィルミントンの試験ループ(Test Loop)施設において、大規模なウラン濃縮実証試験を完了し、レーザーを用いたウラン濃縮プロセスが商業的に展開可能であることを裏付ける豊富な性能データを収集したことを明らかにした。GLE社は、米国内における製造基盤や供給網を整備し、国内濃縮能力の確立を目指している。同社のS. ロングCEOは、「過去5か月にわたる実証試験活動により、当社は米国のウラン濃縮戦略のソリューションとなる体制を整えた。米国の電力供給の約20%は原子力に依存しており、GLEの取組みは、外国政府が支配する脆弱な燃料供給網への危険な依存からの脱却に資するものだ」と語った。なお、GLE社は2025年を通じて実証プログラムを継続し、数百キログラム規模の低濃縮ウラン(LEU)を生産する予定。GLE社はレーザー濃縮技術の商業化を目指し、豪サイレックス・システムズ社が51%、加カメコ社が49%所有する合弁企業。GLE社はサイレックス法(サイレックス社独自のレーザー分子法によるウラン濃縮技術)の独占行使権を保有している。GLE社はこれまでに、ノースカロライナ州とケンタッキー州で5.5億ドルを投じ、エンジニアリング、設計、製造、認可取得活動を進めてきた。現在、同社がケンタッキー州で計画しているパデューカ・レーザー濃縮施設(PLEF)は、米原子力規制委員会(NRC)が審査中の唯一の新規濃縮施設。GLEは今年7月にPLEFの建設と操業に向けた認可の申請を完了している。この認可申請は、GLE社が2012年9月に取得した、ノースカロライナ州ウィルミントンにおける商業規模のレーザー濃縮施設のNRCの建設・操業許可に基づいている。当時は市場環境が悪く、計画は進展しなかった。GLE社は2024年11月に米エネルギー省(DOE)が所有する、ケンタッキー州のパデューカ・ガス拡散工場(PGDP)跡地に隣接する665エーカー(約2.7㎢)の土地をPLEFの建設サイトとして取得しており、PLEFサイトの良好な特性から、認可取得は早まると予想されている。認可取得後、GLE社は2030年までにPGDPにある劣化六フッ化ウラン(DUF6)の再濃縮を開始する。これは、2012年11月のDOEとのDUF6の長期購入契約に基づいている。パデューカ・サイトでは、1960年代からガス拡散濃縮プラントが民生用の濃縮ウランを生産していたが、2013年に操業を停止し、サイトは現在、環境復旧プログラム下にある。PLEFで20万トン以上のDUF6を再濃縮し、最大6,000tSWU/年の生産能力となる見通し。これにより、GLE社は、ウランの転換から濃縮までを一拠点で担う、米国内の包括的な供給体制を構築したい考えだ。
29 Sep 2025
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国営スロベニア電力(GENエネルギア)は9月4日、クルスコ原子力発電所の増設計画(JEK2プロジェクト)に関する技術的な実行可能性調査(TFS)の結果、フランス電力(EDF)が提案するEPRならびにEPR1200、米ウェスチングハウス(WE)社のAP1000のいずれの炉型もJEK2サイトにおいて技術的に実行可能であることが確認されたと明らかにした。GENエネルギアは今年1月、JEK2プロジェクトのTFS実施契約を、サプライヤー候補である仏EDFならびに米WE社と締結。WE社は、韓国の現代E&C(現代建設)社と協力してTFSを実施した。当初、TFS実施の入札を予定していた韓国水力・原子力(KHNP)は、ビジネス環境の評価と戦略的ビジネスの優先事項の変更のため、同入札に参加せず、JEK2プロジェクトの建設入札にも参加しないとGENエネルギアに通知していた。GENエネルギアは2024年5月、出力100万kWe~240万kWe規模の増設プラントを、スロベニアの電力システムへ接続した場合の安全性・安定性解析の結果、電力網への影響の観点から、JEK2プロジェクトの最適な設備容量は最大130万kWeであると結論づけた。JEK2の推定投資額(オーバーナイトコスト((金利負担を含まない建設費)))は9,300ユーロ/kWで、100万kWeのプラント増設で93億ユーロ、165万kWe増設で154億ユーロとの経済性評価を明らかにしている。なおGENエネルギアは、投資の経済的実行可能性を保証するJEK2の電力の最低販売価格を70.2ユーロ/MWhと推定している。TFSでは、スロベニアにおける特定の技術要件、欧州の法的要件、その他セキュリティ等を調査。両社の炉型は、いずれもJEK2の立地において技術的に実行可能であり、すべての規制枠組みに対応可能であると評価している。GENエネルギアの新規原子力施設部門責任者V. プラニンク氏によると、各設計は洪水や地震リスクを考慮し、既存の環境に安全かつ効率的に適合できることを確認済みで、設計寿命は60年とされており、条件を満たせば最大80年まで延長可能。サイトは、使用済み燃料や低・中レベル放射性廃棄物の一時的な乾式貯蔵施設の建設にも十分なスペースがあることを確認。調査では特に、環境影響の評価に重点が置かれ、提案されている炉型は自然通風冷却塔を採用、サヴァ川への影響を最小限に抑え、炭素排出量も最小となる、環境的に最も受入れ可能な方法であるとしている。同プロジェクトはまた、地域に広範な経済的利益をもたらし、地元企業のサプライチェーンへの参入、新規雇用の創出、インフラ整備、サービス開発などを通じて、人口の定着に寄与すると強調。投資額の見積もりも、2024年5月の経済性評価の範囲内に収まっているという。現在、増設に係わるプロセスの透明性の確保のために、JEK2の国家空間計画(DPN)イニシアチブの一般公開が今年7月から10月末まで進行中であり、一般の人々が提案や質問を行う。その後、DPNの開始に関する政府決定に続き、環境影響評価を実施する計画だ。GENエネルギアは、透明性を確保しながら、2028年までにJEK2プロジェクトの是非を問う国民投票を実施し、最終投資決定(FID)を予定。FIDから建築許可の取得までの期間を約4年、推定建設期間(サイト内の建設工事の開始から発電の開始まで)は7年と見込んでいる。スロベニアでは当初、2024年11月に国民投票の実施を計画していたが、その合法性やプロジェクトの透明性を疑問視する環境団体や世論の批判を受け、国民投票の実施を中止した。同社は、EU各加盟国が策定する国家エネルギー・気候計画(NECP)に基づき、2040年までに大型炉、2050年までにJEK2プロジェクトを補完するSMR(設備容量約25万kWe)の導入を想定しており、SMRを設置する可能性のある場所を特定するための作業も並行して実施している。スロベニアでは現在、クルスコ原子力発電所(PWR、72.7万kWe)が同国の総発電電力量の約35%を供給している。同発電所はGENエネルギアと隣国クロアチアの国営電力会社のHrvatska elektroprivreda(HEP)が共同所有。WE社は運転と燃料供給のサポートを通じて、GENエネルギアと数十年にわたるパートナーシップを有する。スロベニアの電力需要は、2050年までに倍増することが予想されているが、2033年以降は総発電電力量の約3分の1を供給する火力発電所を閉鎖する計画だ。2043年にはクルスコ発電所の運転期間(60年)も満了する。
29 Sep 2025
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国際原子力機関(IAEA)の総会初日の9月15日に開催された、ベルギー主催のサイドイベントで、IAEAによる原子力調和・標準化イニシアチブ(NHSI)を活用した、小型モジュール炉(SMR)の国際的な共同事前認可プロセスが始動した。調印式には、IAEAのR. グロッシー事務局長も出席した。IAEAは2022年7月、SMRを始めとする先進炉の世界展開に備え、NHSIを立ち上げた。設計が標準化されることで、迅速かつ効率的に複数の国において認可され、かつ安全に導入されるために、各国間の規制と設計のアプローチを調和させる方法を追究している。今回、NHSIの対象となったのは、第4世代の鉛冷却型小型高速炉「EAGLES-300」。国際的な事前認可パイロットプロジェクトにおいて、ベルギー、ルーマニア、イタリアの各原子力規制当局が規制アプローチの調和で連携し、IAEAはこの取組みをNHSIのパイロットプロジェクトとして支援していく方針だ。イタリアのアンサルド・ヌクレアーレ(Ansaldo Nucleare)社、同経済開発省傘下の新技術・エネルギー・持続可能経済開発局(ENEA)、ベルギー原子力研究センター(SCK-CEN)、およびルーマニアの国営原子力技術会社(RATEN)の4者は今年6月、第4世代の鉛冷却式の小型モジュール炉(SMR)の設計と商業化に取組むため、「イーグルス・コンソーシアム(Eagles Consortium)」を設立。同コンソーシアムは、欧州の産業界のリーダーと原子力研究機関とのユニークなコラボレーションにより、ベルギー、イタリア、ルーマニアの産業のノウハウと液体金属に関する研究の専門知識を組合せ、LEANDREAとALFREDという2つの主要試験施設により、第4世代の鉛冷却高速炉「EAGLES-300」(30万kWe)の実証炉を2035年までにベルギーで建設し、2039年には商業化と広範な展開を目指している。同コンソーシアムは、これまで先進的SMRの開発段階で各国の規制当局がコンソーシアムの設立からわずか3か月後という早い段階から連携したことはなく、安全要件等で最初から合意することは、規制の調和と商業化の道のりにおいて重要なステップになると強調している。SMRは国際的な展開と量産を前提に設計されているが、各国が独自の規制や手続きを維持すれば、開発者はその都度、長期にわたる認可プロセスに直面し、展開が遅れるため、SMRのスケールメリットが損なわれる。規制の調和は、より迅速で効率的かつ安全な商業化を可能にするとの考えだ。事前認可は承認を得ることが目的ではなく、原子力規制当局と開発者が正式な許可申請前の早い段階で対話を行い、安全要件、技術的課題、規制枠組みについて相互理解を築くことが狙い。同コンソーシアムは、鉛冷却型SMRのような先進技術においては、事前認可により初期段階でボトルネックを特定するのに役立つと指摘する。一般的に、まずは安全原則といった大枠から始まり、徐々に詳細な技術議論へと進み、次の正式な認可手続きでは、各国の規制当局が炉設計について、安全性、セキュリティ、放射線防護、環境影響に関する法的・技術的要件を満たしているかを審査するという。先進炉やSMRの安全かつ確実な導入促進を目的とした同イニシアチブにおいて最初の具体的な一歩であるとし、IAEAのグロッシー事務局長は、「欧州の原子力イノベーションにとって飛躍的な前進であり、地域協力の強力な事例だ」と語った。
26 Sep 2025
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韓国水力・原子力(KHNP)は9月4日、米国で唯一ウラン転換施設を操業するコンバーダイン(ConverDyn)社と転換ウラン長期供給契約を締結した。契約に調印したKHNPのJ. ファンCEOは、「今回の契約は転換ウランの安定的な需給を通じてエネルギー安全保障を強化するだけでなく、両国間の原子力協力をより強固にする機会になる」と語った。KHNPは、米政府の原子力復興政策の推進や最近の両国首脳外交、ウラン濃縮供給会社のセントラス社との新遠心分離機プラント建設への共同出資の合意を背景に、米国内施設で濃縮ウランの生産に必要な原料をあらかじめ確保し、両国間の信頼と協力基盤を一層強化する足場にしたい考えだ。コンバーダイン社は、米国の多国籍企業であるハネウェル社とゼネラル・アトミックス社折半出資の合弁企業で、北米、欧州、アジアの原子力発電事業者に六フッ化ウラン(UF6)の転換と関連サービスを提供。イリノイ州メトロポリスで、米国唯一の転換プラントであるメトロポリス・ワークス(MTW)プラントを操業する。同プラントは2017年~2023年にかけて、市場環境の悪化により一時的に操業を停止していたが、2023年7月に再開されている。
26 Sep 2025
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国際原子力機関(IAEA)は9月15日、世界の原子力発電の中長期的な傾向を分析した最新報告書「2050年までの世界のエネルギー・電力・原子力発電予測」(第45版)を公表し、5年連続で原子力発電の見通しを上方修正した。IAEAのR. グロッシー事務局長は「年次予測が着実に増加していることは、原子力が不可欠であるという世界的な合意が高まりつつあることの証左」としたうえで、「原子力はすべての人々にとって、クリーンで信頼性が高く、持続可能なエネルギーを実現するために不可欠」と強調している。新たな見通しによると、高予測ケースでは、世界の原子力発電設備容量は2024年末時点の3億7,700万kWeから2050年までに9億9,200万kWeと2.6倍に増加する見通し。一方、低予測ケースでも約50%増の5億6,100万kWeに達すると予想されている。IAEAは、2011年の福島第一原子力発電所事故以降初めて2021年に年次予測を上方修正、それ以降、高予測ケースにおける原子力発電設備容量の見通しは、2021年の7億9,200万kWeから25%増加している。また近年、注目を集める小型モジュール炉(SMR)については、2050年までに高予測ケースでは今後追加される設備容量(6億7,600万kWe)のうちの24%、低予測ケースでは今後追加される設備容量(3億2,000万kWe)のうちの5%を占めると見込まれている。IAEAによると、近年では多国間開発銀行などの金融機関や大手テクノロジー企業の間で、SMRを含む原子力支援への関心が高まっている。これらの多くは、2023年12月のCOP28で発表された「原子力3倍化宣言」を支持しており、さらに世界銀行を含む多国間開発銀行との原子力政策に関する関与が、前向きな変化をもたらしているとIAEAは分析している。IAEAはまた、現在運転中の原子力発電所の約3分の2が30年以上、約40%が40年以上運転している現状をふまえ、今後多くの新規建設が必要になると分析。また新規建設に加え、既存炉の運転期間延長が重要になるとも強調している。IAEAによると、既存炉の運転期間延長は、低排出電力のうち最も費用対効果の高い方法であり、大規模な原子力発電プラントを有する複数の国や地域で、運転期間延長を支援するための取組みが進行中である。さらに、長期運転に向けた経年化管理プログラムの実施例も増えているほか、自由化された電力市場での既存炉の競争力を支援する、新たな政策措置も導入されつつあるとした。
26 Sep 2025
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米国で先進炉と燃料リサイクルの開発を進めているオクロ社は9月22日、アイダホ国立研究所(INL)サイトで、初となるオーロラ発電所(オーロラ-INL)の起工式を開催した。起工式には、D. バーガム内務長官、L. ゼルディン環境保護庁長官のほか、アイダホ州のB. リトル知事、米原子力規制委員会(NRC)のB. クロウェル委員、米エネルギー省(DOE)のM. ゴフ首席次官補代理らが出席した。バーガム内務長官は、「オーロラ発電所は、クリーンかつ安価で信頼性の高い電力供給を可能にする。人工知能(AI)の進歩により電力需要が増加する中、そのニーズを満たし、世界のAI競争の最前線に留まり続けるために不可欠だ。トランプ大統領の『米国のエネルギー支配アジェンダ』下でイノベーションとエネルギー増産が実現する」と語った。オーロラは、金属燃料を使用するナトリウム冷却高速炉のマイクロ炉で、出力は顧客のニーズに合わせて1.5万kWeと5万kWeのユニットで柔軟に調整。少なくとも20年間、燃料交換なしで熱電併給が可能である。1964年から1994年までアイダホ州で稼働した実験増殖炉Ⅱ(EBR-Ⅱ)の設計と運転をベースにしている。オクロ社は2019年にDOEからEBR-Ⅱから回収された燃料を割当てられ、INLのオーロラ燃料製造施設(A3F)で初期炉心の製造に向けて、DOE認可の4つのステップのうち2つを完了している。オーロラ-INLは、DOEが新たに設立した原子炉パイロットプログラムに参加。今年7月には、建設運転一括認可(COL)申請のフェーズ1に関する事前審査を完了し、年内にCOLの申請を予定している。北米最大級の建設・エンジニアリング企業キウィット社の子会社であるキウィット ニュークリア ソリューションズ社は、2025年7月に発表されたマスター・サービス契約に基づき、発電所の設計、調達、建設をリード・コンストラクターとして支援。建設中に約370人の雇用と、発電所と燃料製造施設を運営する70〜80人の長期で高スキルの雇用創出が期待されているという。テネシー州に燃料リサイクル施設の建設へオクロ社は9月4日、テネシー州オークリッジにあるオークリッジ・ヘリテージ・センターの約100 haの敷地に、総額16.8億ドルを投じて、先進燃料センターにおける第一フェーズとして燃料リサイクル施設を設計、建設、操業する計画を発表した。使用済み燃料を先進炉向けの燃料に変換し、国内に供給する。国内初となる民間資金による施設を建設し、コストの削減、高レベルの雇用の創出、持続的な燃料供給の確立を目指している。オクロ社はテネシー峡谷開発公社(TVA)と共同で、同施設で電力会社の使用済み燃料をリサイクルし、将来、建設予定の発電所からTVAへの電力販売を評価する機会を模索している。米国の電力会社が最新の電気化学プロセスにより自社の使用済み燃料をリサイクルし、従来の負債を資源に変えることを模索する初の試みとなる。オクロ社のJ. デウィットCEOは、「使用済み燃料を大規模にリサイクルすることで、廃棄物をギガワットの電力に変え、コストを削減。クリーンで信頼性が高く、手頃な価格の電力供給を支援するサプライチェーンを確立していく」と抱負を語った。同社は、同施設で使用済み燃料から燃料材料を回収し、オーロラ発電所のような高速炉用の金属燃料に加工。このプロセスにより、廃棄物量を削減し、より経済的でクリーンかつ効率的な廃棄を実現したい考えだ。同施設は、規制当局による承認を経て、2030年代初めまでに燃料生産を開始する計画である。TVAのD. モールCEOは、「テネシー州は米国の原子力ルネサンスの中核。リー知事のリーダーシップの下、州はアメリカのエネルギーの未来を築く企業の誘致をリードしている。当社は、AIインフラを強化し、経済成長を促進するために必要な次世代の原子力技術を開発するオクロ社の取組みを支援していく」と語った。オクロ社によると、全国の発電所サイトに保管されている94,000トン以上の使用済み燃料に含まれるリサイクル可能な燃料から得られるエネルギーは、約1.3兆バレルの石油、サウジアラビアの原油埋蔵量の5倍に相当。今年5月の大統領令は、規制の近代化、原子炉試験の合理化、国家安全保障のための原子炉の配備、原子力産業基盤の強化など、原子力の新たな方向性を示しており、オークリッジはそれに従っているという。テネシー州には原子力研究および教育プログラムの開発を支援する原子力基金があり、オクロ社はそれを利用する5番目の原子力関連企業だという。
24 Sep 2025
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経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)と韓国政府(産業通商資源部)が9月18日~19日にフランスのパリで「新原子力2025へのロードマップ」ハイレベル会議を共催したのを機に、原子力産業を代表する9業界団体((日本原子力産業協会(JAIF)の他、カナダ原子力協会(CNA)、米国電力研究所(EPRI)、仏原子力産業協会(GIFEN)、韓国原子力産業協会(KAIF)、米原子力エネルギー協会(NEI)、英国原子力産業協会(NIA)、欧州原子力産業協会(Nucleareurope)、世界原子力協会(WNA)の計9団体。))は9月18日、エネルギー安全保障の強化とクリーンで豊富な電力供給に対する世界的な需要の高まりに対応するために、各国政府に対して原子力への投資支援を呼びかける共同声明を発出した。 2023年、2024年にも開催されたこの年次ハイレベル会議には、政府と産業界のリーダーが一堂に会し、原子力に対する世界的な期待の高まりに応えるべく、必要な規模とペースで新規原子力発電所を建設するために必要な喫緊の課題について協議している。今回の会議では、多国間開発銀行やここ数か月間に原子力融資を発表した主要な民間資本関係者も参加し、原子力発電の規模拡大に不可欠な政策と資金調達のほか、タイムリーな建設や熟練した労働力の育成、燃料供給の確保、原子力部門のサプライチェーンに焦点を当てた協議が行われた。欧州原子力産業協会(Nucleareurope)のE. ブルティン事務局長は、「世界中の政府は、信頼性が高く、手頃な価格でクリーンな電力と熱を提供する上での原子力の重要な役割に合意している」と述べ、「政府は、大規模な新規建設から既設炉の出力増強と運転期間延長、小型モジュール炉(SMR)やマイクロ炉の開発と展開まで、あらゆる原子力技術を網羅するプロジェクトへの投資を支援する必要がある」と強調した。同声明では、政府に対して以下の分野で具体的な行動を起こすように提起している。 経済効率性の観点から、技術的に可能な既設炉の長期運転を確保する。新しい原子力プロジェクト(大型炉、SMR、先端技術)や原子力バリューチェーン、燃料サイクル施設を促進するための一貫性のある長期政策を確保する。ロシア製燃料と機器利用を段階的に廃止する多くのOECD諸国の意図を踏まえ、特に採掘、転換、濃縮に重点を置いた燃料サイクルを含む、原子力バリューチェーン全体を支援するための大胆な措置を引き続き講じる。クリーンエネルギー源に対して技術中立性を適用し、エネルギー部門の拡大を成功させる。これはエネルギーの最終消費者にとって不可欠であり、原子力部門への投資に対して明確なシグナルを送るためにも必要。さらに、原子力が国際的な炭素削減メカニズムにおける正当な取引手段として認められるようにする。世界銀行が原子力プロジェクトへの資金提供に前向きな姿勢を示していることを踏まえ、民間の資金調達も促進するため、国内および多国間レベルでの公的資金へのアクセスを可能にする。OECD域内および他国で新規プロジェクトを実現するOECDの可能性を最大限に引き出すために、強力かつ協力的な原子力サプライチェーンを支援する。規制当局間の連携強化により、設計のさらなる標準化を可能にし、コストの削減、フリートの展開を促進する。同産業団体は、気候変動とエネルギー安全保障の要請に応えるため、原子力開発を支援するという各国政府の取組みに対し、引き続き協力する用意があるとしている。
22 Sep 2025
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米原子力新興企業のケイロス・パワー社とBWXテクノロジーズ(BWXT)社は9月3日、ケイロス社の先進炉やその他の潜在顧客への燃料供給に向けて、TRISO(3重被覆層・燃料粒子)燃料の商業生産に向けた技術および製造プロセスの最適化を共同で検討することで合意した。今回の協力により、ケイロス社の環状の黒鉛ペブル製造能力と、BWXT社の20年以上にわたるTRISO燃料製造の経験を融合させ、ケイロス社が建設するヘルメス2実証プラントと後続の商業プラントの展開に向けた燃料供給の可能性を探る。ケイロス社が開発する商業炉のフッ化物塩冷却高温炉(KP-FHR)は、ゴルフボール大の環状黒鉛ペブルで被覆されたTRISO燃料を使用する。両社は、ケイロス社のニューメキシコ州にあるアルバカーキ・キャンパス内のTRISO開発ラボ(TDL)、バージニア州リンチバーグにあるBWXTイノベーション・キャンパス、さらにBWXT社の既存のTRISO製造ラインを活用し、TRISO燃料製造とプロセス自動化の最適化を検討する。両社はまた、TRISO燃料製造施設を共同で開発する可能性を探ることで合意。同施設には、これまでのノウハウに加え、商業用燃料生産のための新たな技術が組み込まれる予定だ。ケイロス社は、両社の燃料製造に関する知識と専門性を組み合わせ、効率的かつコスト効果の高い大量生産型TRISO被覆粒子燃料の開発によって、商業炉のスケールアップと燃料コストの低減を図る。同社のM. ハケット副社長(燃料・材料部門)は、「BWXT社との協力により、TRISO燃料製造プロセスにおけるイノベーションを加速させ、生産・自動化・効率性向上を早期に実現することで、将来の燃料コスト削減が可能になる」と語った。BWXT社のJ. パーカー先進燃料部門シニアディレクターは、「ケイロス社や他のベンダーが先進炉展開の計画を進める中、TRISO燃料の製造能力への投資は、将来の先進炉フリートにコスト競争力のある燃料供給のカギとなる。開発を加速させ、ケイロス社、BWXT社、そしてより広い先進炉コミュニティへ経済的なTRISO燃料の安定供給を実現していく」と語った。TRISO燃料は、米エネルギー省(DOE)によって開発された実証済みの技術で、「地球上で最も堅牢な燃料」とされている。TRISO粒子は、ウラン・炭素・酸素からなる燃料コアを、放射性核分裂生成物の放出を防ぐ3層の炭素系およびセラミック系の3重層で被覆した構造。ケイロス社は、TRISO燃料とフッ化物溶融塩冷却材を組み合わせ、堅牢な固有安全性を備えた、シンプルでコンパクト設計の先進炉の実現を目指している。
22 Sep 2025
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米国のD. トランプ大統領による英国への国賓訪問を機に、両国は9月18日、人工知能(AI)、民生用原子力、核融合、量子技術などの戦略的科学技術分野において連携を強化する技術協定に調印した。原子力分野では、先進炉、先進燃料、核融合の分野での連携を深め、核分裂および核融合のイノベーションの最前線に留まり続けることを目指すとしている。また、両国において原子力発電所の増設を推進し、クリーンエネルギー分野への数十億ポンドの民間投資を後押しすることになるという。同協定では、協力の重点項目として以下を掲げている。新たな市場への原子力展開に向けて安全かつ安心な基盤を構築するとともに、不拡散および安全保障プログラムに関する協力を強化する。両国における先進炉の展開加速に向け、市場の障壁を特定・対処しつつ商業パートナーシップを促進する。米原子力規制委員会(NRC)、英原子力規制庁(ONR)、英環境庁(EA)がライセンスの合理化と迅速化を図れるよう支援し、原子炉設計レビューを2年以内、サイトライセンスを1年以内に完了する。両国における先進燃料の安全かつ信頼性の高いサプライチェーンを確保し、先進炉計画を支援する多様な燃料供給体制を確保する。また、2028年末までにロシア製燃料からの完全な脱却を目指す。先進炉および先進燃料分野において世界的なリーダーシップを推進し、第三国への民生用原子力輸出の安全かつ確実な展開を支援する。研究、開発、実験施設やデータの利用調整を促進し、AI技術と組み合わせて、コスト競争力のある商業用核融合発電に向けた道筋を構築する。両国主導による核融合市場の形成を支援するために、調和のとれた責任あるイノベーションの促進政策と規制の開発を主導する。民生用の海上用途を含む先進原子力の新たな応用機会を模索し、国際基準の確立や両国の領土間の海上輸送回廊の整備、検討を進める。また、防衛施設のエネルギー・レジリエンスも強化する。協定の発効後、6か月以内に閣僚レベルの作業部会を設置、協力の優先順位の設定や、共同イニシアチブの実施を監督するとしている。さらに、トランプ米大統領の訪英に先立つ9月15日には、「原子力の黄金時代」と称される両国企業間の複数の合意が発表された。英政府は、英ロールス・ロイス社と米BWXT社の既存の原子力分野における長い協力関係に続き、以下の新たな企業間の提携により、両国企業による市場へのアクセスが拡大されると強調している。英国のエネルギー供給会社であるセントリカ社は、米国の先進炉開発企業のX-エナジー社と提携して、イングランド北東部のハートルプールに最大12基の先進炉を建設。150万世帯への電力供給と最大2,500人の雇用創出を見込む。経済効果は少なくとも400億ポンド、そのうち120億ポンドがイングランド北東部に集中。米ホルテック・インターナショナル社、英EDFエナジー社、英不動産投資企業のトライタックス社は、ノッティンガムシャーの旧コッタム石炭火力発電所に小型モジュール炉(SMR)を導入し、高度なデータセンターを開発する計画。ホルテック社はプロジェクトコストを約110億ポンドと見積る。数千人の高スキルの建設雇用の創出と、地域社会への長期にわたる経済効果を見込む。米国のマイクロ炉開発企業のラスト・エナジー社は、港湾運営会社DPワールド社のロンドン・ゲートウェイ港とビジネスパーク拡張にマイクロ炉「PWR-20」による電力を供給。8,000万ポンドの民間投資による世界初となる港湾中心のマイクロ炉発電所を建設する計画。英国に本拠地を置く濃縮事業者のウレンコ社と米国のマイクロ炉開発企業のラディアント社は、ラディアント社製マイクロ炉「カレイドス」向けの高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU)燃料供給で、約400万ポンド相当の契約を締結。ウレンコ社は、英政府との共同出資により、英国に先進燃料製造施設を建設しており、米国でも同様の施設の建設を検討中。米国の原子力開発ベンチャー企業のテラパワー社と英国のエンジニアリング企業のKBR社は、テラパワー社製先進炉「Natrium」導入のために英国でサイト調査を行う予定。各ユニットで約1,600名の建設雇用と250名の恒久雇用を創出。エネルギー貯蔵と組み合わせた安全で信頼性の高い、柔軟な電力を供給。英エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のE. ミリバンド大臣は、「米国との協力により、原子力の黄金時代の恩恵を享受し、クリーンな国産エネルギーで英国の家庭に電力を供給、高給の熟練職を創出し、光熱費を永久に引き下げることが可能になる」と指摘。英原子力産業協会(NIA)の調べによると、原子力産業分野では政府主導の投資によって今年すでに11,000人の新規雇用を創出しており、現在98,000人の記録的な雇用が確認されているという。C. ライト米エネルギー省(DOE)長官は、「原子力を活用して、増大するエネルギー需要を満たし、AI革命を推進するには、世界中の同盟国との強固な連携と民間セクターの革新者たちとの緊密な協力が必要。今回の商業提携は、両国の商業的アクセスを促進する枠組みを構築し、世界のエネルギー安全保障を強化、米国のエネルギー優位性を高め、大西洋を跨ぐ原子力サプライチェーンを確保するものだ」と語った。なお、今回の協定調印によって、一方の国で既に厳格な安全審査を通過した原子炉については、その審査結果を他国が自国の評価に活用して作業の重複を回避、原子炉設計審査を迅速化して、新規原子力発電所の建設がより迅速に進められるようになる。両国はまた、サイトの認可プロセスに入る新規プロジェクトの作業負荷を分担し、認可を迅速化するために緊密に連携するとしている。
19 Sep 2025
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欧州連合(EU)の一般裁判所(General Court=下級審)は9月10日、環境的に持続可能な経済活動のためのEUの分類システム(タクソノミー)に原子力と天然ガスを含める規則の廃止を訴える、オーストリアの訴えを棄却。原子力と天然ガスの経済活動は環境的に持続可能な投資対象とみなすことができるとの判決を下した。EUは2050年までに「気候中立」を目指しており、2020年6月にEU立法府(欧州議会および欧州連合理事会)は、気候変動の緩和や適応に役立ち、持続可能な投資を促進するための「タクソノミー規則」を採択した。EU立法府は、どの条件の下で経済活動が気候変動の緩和や適応に大きく寄与するか、また他の環境目的に著しい害を及ぼすか否かを判断する技術的審査基準を策定する権限を欧州委員会(EC)に委任した。ECは2021年6月、再生可能エネルギー分野の活動に関する技術的審査基準を定める委任規則を採択。さらに2022年3月、ECは前年の規則を改定し、原子力ならびに天然ガス分野の一定条件下の活動を気候変動の緩和や適応に大きく寄与する活動のカテゴリーに含める技術的審査基準を定める委任規則を採択した。オーストリアは、持続可能な投資スキームに原子力ならびに天然ガス分野の活動を含む委任規則の無効を求めて、2022年10月、ルクセンブルクにある一般裁判所にECを提訴していた。今回、一般裁判所は、同委任規則が採用したアプローチは供給の安全性を確保しつつ、段階的に温室効果ガス排出量を削減する漸進的アプローチであり、原子力ならびに天然ガス分野の経済活動が一定の条件下で気候変動の緩和と適応に実質的に寄与し得るという見解を是認。その理由に以下を挙げた。原子力および天然ガスを持続可能な投資制度に含めたことにより、ECはEU立法府から適切に付与された権限を超過したわけではない。ECは、原子力発電が温室効果ガス排出量をほぼゼロに抑えており、また十分な規模でエネルギー需要を継続的かつ安定的に賄う技術的・経済的に実現可能な低炭素代替手段(再生可能エネルギーなど)が現在存在しないことを考慮する正当な権限を有していた。ECは、原子力発電所の通常運転に伴うリスク、深刻な炉心事故、高レベル放射性廃棄物に関するリスクを十分に考慮。ECには既存の規制枠組みを超える防護水準を要求する義務はなかった。オーストリアが主張した干ばつや気候災害による原子力への悪影響についての議論は、受け入れるにはあまりに推測的であると判断された。さらに、他のエネルギー発電分野の経済活動と同様に、ECにはウラン鉱石の採掘・加工、ウランの精製・転換・濃縮、燃料集合体の製造や輸送といった上流や下流の活動、あるいは武力紛争、破壊工作、民生・軍事用途の悪用や拡散のリスクを考慮する義務はなかった。なお、本裁判において、オーストリアはルクセンブルクの支持を得ており、一方のECは、ブルガリア、チェコ、フランス、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、スロベニア、スロバキア、フィンランドの支持を得ていたという。一般裁判所の決定に対しては、2か月と10日以内に、司法裁判所(Court of Justice)に上訴できるが、上訴は法律の適用や解釈上の問題の扱いに限定されている。
18 Sep 2025
1155
国際原子力機関(IAEA)の第69回通常総会が9月15日から19日の日程で、オーストリアのウィーンで開催されている。IAEAが世界中で活動を展開していることを反映し、今年のIAEA総会には、155か国から3,100人以上が出席。非政府組織(NGO)からの参加者数は、2021年以降2倍以上に増加、政府間機関(IGO)からの参加者数も増加した。開会の冒頭にスピーチしたIAEAのR. グロッシー事務局長は、「今年の総会は、軍事紛争、テロリズム、核規範の崩壊、不平等の拡大が顕在化し、世界的な緊張が深刻な時期に開催されている。我々の決意が試されており、IAEAはこの挑戦に立ち向かう」と表明。加盟国に対し、国際平和の最重要基盤の一つである不拡散体制、NPTへのコミットを強く要請した。同事務局長はまた、IAEAが核兵器拡散のリスク、核戦争のリスクの軽減をはじめとし、原子力による電力供給、食料供給、がん治療への支援まで、独自の任務を通じた幅広い貢献について説明。かつて、原子力発電の利点と優れた安全実績が気候目標の達成に果たす役割について公の場で話すことすら躊躇されていたが、3年前に急遽、エネルギー安全保障が優先され、多くの国で原子力発電が議題となったと言及。同事務局長はこれを「リアリズムへの回帰」と表現し、2050年までに原子力発電設備容量が2.5倍に増加するとの見方を示した。グロッシー事務局長はその背景として、アフリカ、欧州、南北アメリカ、アジアにおける原子力の初導入や既設炉の増強への関心の高まりを挙げ、40か国近くが、初期調査の実施から初号機の建設までさまざまな開発段階にあり、さらに20か国以上が、将来のエネルギーミックスの一部として原子力を検討していると言及。IAEAのマイルストーン・アプローチは、新規導入においてゴールドスタンダードではあるが、原子力発電の開発には、新規導入国への支援、規制対応、資金調達を考慮する必要があり、IAEAが統合原子力インフラレビュー(INIR)ミッションの実施や、各国当局、規制当局、ステークホルダーに対するトレーニングを目的とした小型モジュール炉(SMR)スクールを開催している事例を紹介した。また、水素製造から工業用熱、海水淡水化から船舶推進など、原子力の非電力用途についても支援を継続し、特に海洋でのSMR利用についてはIAEAの新たなイニシアチブであるATLAS(海上での応用のための原子力技術ライセンス)を通じて、支援を強化していく方針を示した。規制対応については、SMRの世界展開に備え、原子力の調和および標準化イニシアチブ (NHSI)を立ち上げ、標準化された設計が、迅速かつ効率的に複数の国において認可され、かつ安全に導入されるために、各国間の規制と設計のアプローチを調和させる方法を追究していると説明した。また、資金調達の面においても、EUのタクソノミーのような先進国向けの強力な支援の枠組みだけでなく、開発途上国が取り残されないためにIAEAが開発銀行や国際金融機関への働き掛けを行ってきたと説明。世界銀行はすでに、エネルギーミックスに原子力の追加を積極的に検討している国々に資金調達が可能になる道を拓いたが、その他の開発銀行や国際金融機関が来年の総会までに世界銀行に追随することに期待を寄せた。一方で、現地における原子力の社会的許容こそ、原子力運用の最初のライセンスであると念押しした。これに続く各国代表からの一般討論演説では、日本から参加した城内実科学技術政策担当大臣が登壇。冒頭、広島と長崎に原爆が投下されてから80年を迎え、この悲劇を決して繰り返してはならないとの確固たる信念のもと、核兵器のない世界の実現に向けて国際的な取組みを主導していくと決意を表明。国際社会の分断は深まり、安全保障環境が困難な状況下において、IAEAの核不拡散及び原子力の平和利用における役割は、これまで以上に重要であり、日本がIAEAの取組みに全面的な支援を継続していくと語った。また、日本はIAEAの発電のみならず、農業や医療などの幅広い分野における原子力利用に係る取組みを支持し、IAEAと緊密に連携しながら、原子力利用を国内外で推進する方針を示した。今年2月に決定された第7次エネルギー基本計画に示されているように、安全を最優先に、脱炭素電源の一つとして原子力発電を最大限活用するとともに、国際協力による次世代原子炉や核融合エネルギーの研究開発を推進していくとした。ALPS処理水の海洋放出は、原子力規制委員会の関与のもと、14回にわたって計画的に安全に実施され、放出の安全性は、継続的な審査や近隣諸国を含む分析研究所や国際的な専門家による厳格なモニタリングを通じて、継続的に確認されていると紹介。福島第一原子力発電所の廃炉に向けた取組みについては、燃料デブリの試験的回収など、安全かつ着実な廃炉プロセスに向けて大きな進展が見られたとし、科学に基づく透明性の高い情報を国際社会に提供し、IAEAによるレビューとモニタリングに全面的に協力していくと語った。 ◇ ◇例年通りIAEA総会との併催で加盟国等による展示会も行われている。日本のブース展示では、「新しいエネルギー戦略のもとでの原子力発電」をテーマとし、革新軽水炉やSMRなど次世代革新炉の開発・設置にむけた取り組みを中心に、ウラン蓄電池研究開発や医療用RI利用アクションプログラムなども展示するとともに、試験的デブリ取り出しを開始した福島第一原子力発電所の廃炉進捗状況も紹介している。展示会初日には、日本政府代表の城内実科学技術政策担当大臣がブースのオープニングセレモニーに来訪。同大臣は挨拶の中で、日本は今後も世界に向けて、科学的かつ透明性高く情報発信を継続していくと訴えた。今回のブースでは、復興庁の協力を得て福島の情報も発信。日本原子力産業協会の増井理事長による乾杯では、福島県産の日本酒がブース来訪者に振舞われ、福島の復興を後押しする機会ともなった。
17 Sep 2025
1126
国際原子力機関(IAEA)はこのほど、G20エネルギー移行ワーキンググループ向けに「アフリカの原子力エネルギーの見通し(Outlook for Nuclear Energy in Africa)」を発表した。これは、G20議長国である南アフリカの要請に基づき作成されたもので、アフリカ諸国が直面する資金調達やエネルギー計画、インフラ開発の課題などに加え、アフリカのような、小規模電力系統や資本制約のある国々に適した選択肢として、小型モジュール炉(SMR)の導入可能性を強調している。報告書によると、アフリカ大陸では現在、約5億人が電力にアクセスできず、依然として化石燃料への依存度が高い。IAEAはこうした状況をふまえ、多くのアフリカ諸国がエネルギー安全保障の強化と温室効果ガス排出削減を同時に実現するための手段として、原子力発電に注目していると指摘。現在アフリカで商用炉を運転しているのは南アフリカのみだが、エジプトでは2028年の稼働をめざして4基が建設中。さらに、ガーナ、ナイジェリア、ケニアが原子力発電の導入計画を進めており、さらに10か国が検討段階にある。IAEAによると、世界で原子力導入を検討・準備している約55か国のうち、22か国がアフリカに集中している。IAEAは、2050年までにアフリカの総発電設備容量は大幅に増加すると予想。原子力発電設備容量については、高ケースシナリオでは2022年時点の原子力発電設備容量(190万kW)と比較して、2030年までに3倍、2050年までには10倍に拡大する可能性があり、その実現には1,000億ドル以上の投資が必要になると見込んでいる。一方、低ケースシナリオでも2030年までに2倍、2050年までには5倍に増加する可能性があるとしている。中でもSMRは、小規模グリッドや経済規模の小さいアフリカ諸国にとって、有望な選択肢とされる。その一方で、商業的に利用可能なリファレンス・プラントは現状、2023年12月に営業運転を開始した中国の高温ガス炉である華能山東石島湾原子力発電所(HTGR=HTR-PM, 21.1万kW)ならびに2020年5月に営業運転を開始したロシアの浮揚型原子力発電所アカデミック・ロモノソフ(PWR=KLT-40S, 3.5万kW×2基)と2つのプラントに限られていることから、IAEAは今後の技術進展が普及のカギとしている。また資金面では、世界銀行やアフリカ開発銀行など国際金融機関の関与が不可欠であり、過剰債務を回避するための革新的な金融手法の検討も課題と指摘した。IAEAはまた、アフリカ諸国が世界の主要なウラン供給国として国際市場で重要な役割を担っている点を強調。さらに、大陸唯一の原子力発電国である南アフリカの確立したサプライチェーンは、他国にとっても参考となるモデルになり得ると評価している。
17 Sep 2025
879
ポーランドの原子力プロジェクトをめぐるオピニオンリーダーたちが、このほど来日した。顔ぶれの多くは、かつて石炭で栄えた自治体の副市長クラスや議会関係者である。脱炭素とエネルギー安全保障の双方をにらみ、石炭火力の終幕と次の主役探しを同時に迫られる地域が、日本の原子力発電をめぐる非常時対応や廃止措置など、“現場”をその目で確かめに来た——その動機は切実だ。ポーランドは大型炉とSMRの“二正面作戦”を採る。大型炉はポモージェ県ルビアトボ=コパリノでAP1000×3基の建設計画が進み、8月末に県知事から準備作業許可を取得した。今秋から測量・フェンス設置・伐採・整地などの先行作業が順次始まる見込みで、2036~38年の段階的運転開始を見通すという。一方、SMRはGE日立製BWRX‑300を採用し、初号機建設サイトを化学コンビナートの街ブウォツワベクに決定。合弁会社OSGEが独占使用権を持ち、環境影響評価(EIA)と立地調査が進行している。今回来日したリーダーたちは、ベウハトフやコニンなどの石炭・褐炭地域が中心。これに中央政府のエネルギー省担当官が同行した形だ。一行は、日本原子力研究開発機構の「原子力緊急時支援・研修センター(NEAT)」(茨城県)でオフサイトセンターの運用や日本の緊急時システムについて見学した。福島第一サイトでは、工程管理や情報公開の透明性が、どのように社会的信頼を支えるのか、時間軸で追体験。玄海原子力発電所(佐賀県)では多重防護や特重施設、地震津波対策の考え方などを、福井県庁では原子力担当部署より、行政としての原子力との関わり方などを学んだ。4日間で日本各地を、駆け足で回ったことになる。ポーランドの石炭地域が他産業への移行を迫られているのは、欧州連合(EU)加盟後に強化されたEUの環境規制(LCPDからIED/BAT)への適合や欧州排出量取引制度(EU-ETS)の炭素価格上昇といった、規制および市場からの圧力に加え、主力であった褐炭資源の先細りが重なったためである。これに伴う雇用・地域経済の痛みを和らげる政策枠組みとしてJust Transition(公正な移行)が整備されてきた。地域の住民からは、期待と不安が入り混じった声があるという。現実的な移行が目前に迫る中、地域のリーダーたちが語った「次の10年」はきわめて実務的だ。第一に一貫した人材育成の道筋である。初等・中等から大学、工科系へと、地域の若者が段階的に学び、将来の担い手へと育つ道筋を用意する。「学校で論理的に説明すること」を重視し、テクノロジーや安全文化を丁寧に説明していく姿勢が強調された。チョルノービリ事故を知らない若い世代には、「感情的な賛否より、なぜ必要かを自分の言葉で理解してもらうことが効く」という。第二に既存の雇用や産業の連続性だ。鉱山や火力発電所の閉鎖が目前に迫る地域もあり、人口・雇用の大規模な減少への懸念は切実なようだ。20万人だった人口が、すでに5万人に激減している地域もあるという。だからこそ、石炭で培ったスキルを土台に、次の仕事を地元に残す(原子力の運転・建設・保全などへ職能を移す)という発想が中核になる。産業の維持の観点から、BWRX-300への期待が多く寄せられており、「SMRのサプライチェーンへ参画することで、既存の企業や人材の受け皿を広げていきたい」との声もあった。そして第三に、避難計画の策定など行政としての準備である。日本のシステムを学んだ上で、ポーランド版の緊急時システムをどう整えるか、引き続き検討していくという。また、特に日本に対し、施設運用や人材育成などの面で、実務的なセミナーやワークショップをポーランドで開催して欲しいとの要望が上がっていた。原子力産業新聞から「ポーランドの原子力プロジェクトにとっての最大の課題」を問われた、エネルギー省のZ.クバツキ原子力担当参事官は、「時間」と即答した。「許認可のプロセスがとにかく長い。ポーランドの場合、欧州委員会との調整も必要になる。調整を終えた後も着工から運開まで、ほぼ10年かかるだろう。時間が延びれば延びるほど、コストや制度面の前提が崩れやすくなる」。同氏は差額の清算で収入を安定させる仕組み、いわゆるCfDs(差金決済)にも触れ、「市場価格が高いときは事業者が払い戻し、低ければ差額を受け取るという設計は理解している。しかし、これが本格的に効果を発揮するのは運開後だろう。工期が長引けば長引くほど建設コストを吸収し切れなくなる」と懸念を示し、改めて「だからこそ“時間”が最大の課題だ」と強調した。
16 Sep 2025
855
韓国水力・原子力(KHNP)は9月2日、セルビア鉱業・エネルギー省(MoME)と、原子力ならびに水素エネルギー分野における協力強化に向けた2件の了解覚書(MOU)を締結した。MOUは、セルビアの首都ベオグラードで韓国貿易投資振興公社(KOTRA)主催による「韓国・セルビア戦略的エネルギー開発フォーラム」の開催を機に調印された。今回のMOUに基づき、セルビアの原子力技術分野における人材育成・開発への支援を強化、両国間の技術情報・専門知識の定期的な交換を促進し、水素エネルギー分野においても、技術交流や人材育成で協力し、セルビアにおけるグリーン水素パイロットプロジェクト開発の可能性評価に向けて、共同作業を実施する計画である。セルビアでは、総発電電力量の約60%は石炭・褐炭火力に依存し、大気汚染による環境・健康問題が深刻化している。そのため、炭素排出削減と再生可能エネルギーや原子力を含む、エネルギー源の多様化を図っている。2024年11月には、エネルギー安全保障の確保に向けて、エネルギー法を改正。これにより、旧ユーゴスラビア時代の1989年、チョルノービリ事故から3年後に施行された原子力発電所建設のモラトリアムが、35年ぶりに解除された。現在、原子力政策および人材育成を支援する法的枠組みを整備、また水素エネルギー開発に向けた基盤整備を進めているという。原子力利用については、2024年3月にベルギー・ブリュッセルで開催された原子力エネルギー・サミットにおいて、セルビアのA. ブチッチ大統領が演説し、小型モジュール炉(SMR)を4基、出力計120万kWeの導入への関心を表明。「セルビアには原子力利用に関するノウハウもなく、プロジェクトを実施する資金力も不足している」と述べ、他国からの支援に期待を示していた。KHNPのJ. ファンCEOは、「両者の協力により、セルビアとKHNP双方の持続可能な成長が期待できる。特に、水素の実証プロジェクトはセルビアの水素産業の発展に重要な役割を果たすものであり、クリーンエネルギー分野全般における新たな協力の機会を切り開くものだ」とコメント。S. ブラホビッチMoME次官は、セルビアが原子力エネルギーを、クリーンエネルギーへの移行プロセスにおいて国のエネルギー安全保障の確保に寄与する潜在的なエネルギー源の一つとして検討しているとした上で、「原子力分野で世界をリードする国々や企業との協力により、知識と技術を交換し、専門家育成に投資することは極めて重要である」と述べた。MoMEは2024年10月、フランス電力ならびに仏エンジニアリング・コンサル会社のEgis社と原子力利用の可能性に係わる予備的技術調査の実施に関する契約を締結。同月、A. ブリン副首相がロシアのロスアトムのA. リハチョフ総裁と原子力の非発電利用に関する協議を実施している。
12 Sep 2025
717
米ウェスチングハウス(WE)社は9月3日、英国企業6社と了解覚書(MOU)を締結した。英国において、同社のAP1000ならびに小型モジュール炉(SMR)のAP300を採用する新規原子力発電プロジェクトの実施を目指す。WE社は、2050年までに国内で合計2,400万kWeの新規原子力発電所を稼働させ、国内電力需要の4分の1を原子力でまかなうという英国の野心的な目標を支援するために、英国でのサプライチェーンを強化する考えだ。MOUを締結したのは、William Cook Cast Products、Trillium Flow Technology、Curtiss-Wright Controls、Boccard UK、Bendalls Engineering、Sheffield Forgemastersの6社。今回の合意により、同6企業からのバルブ、ポンプ、アクチュエーター、機械・電気配管および計装(MEPI)モジュール、圧力容器、タンク、熱交換器、配管、鋳造・鍛造鋼部品などの主要な原子炉部品の供給を想定している。WEエナジー・システムズ社のD. リップマン社長は、「今回の合意は、当社が英国を主要パートナーとして原子力事業を展開するうえで重要なマイルストーン。これらサプライヤーとの協力により、英国の新規建設での技能労働者の雇用創出や、欧州や国際的なプロジェクトへの支援にもつながり、経済的利益が見込める」と語った。WE社が2023年5月に発表したAP300は、同社のAP1000をベースとした1ループ式の30万kWeのPWRで、2030年代初頭に初号機の運転開始を目指している。AP300は、AP1000のエンジニアリング、コンポーネント、サプライチェーンを活用し、許認可手続きの合理化が可能。2024年2月、WE社は、英国のコミュニティ・ニュークリア・パワー(CNP)社と、イングランド北東部のノース・ティーサイド地域にAP300×4基の建設で合意した。英エネルギー安全保障・ネットゼロ省は同年8月、AP300の包括的設計審査(GDA)への参加を承認。一方で、WE社は、英政府のSMR支援対象選定コンペからは撤退した。サプライチェーンの他の構築事例としては、WE社は2024年12月、BWXTカナダ社と、カナダ国内外における原子力発電の新規建設プロジェクトを支援する了解覚書(MOU)を締結。BWXTカナダ社による、AP1000とAP300向けの原子炉容器、蒸気発生器、熱交換器などの主要コンポーネントの供給を想定している。同10月には、造船事業のほか、船舶修理や海上輸送を手掛けカナダのシースパン社とスプール配管や鋼鉄構造物などの原子炉コンポーネント製造に係る協力でMOUを締結している。さらに今年3月には、カナダ・サスカチュワン州のサプライヤー6社とMOUを締結し、電気機器や、鉄骨構造物など、主要な原子炉コンポーネントを製造し、カナダ国内外での新規建設プロジェクトを支援する体制を整えた。AP1000は世界で6基(中国で4基、米国で2基)が運転中である。ポーランド、ウクライナ、ブルガリアの新設プロジェクトでもAP1000が採用されており、他欧州諸国や北米でも採用が検討されている。
11 Sep 2025
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シンガポール貿易産業省(MTI)傘下のエネルギー市場監督庁(EMA)は9月2日、先進原子力技術、特に小型モジュール炉(SMR)に焦点を当て、その安全性、技術の成熟度、商業化の準備状況に基づき、安全性能、技術的実現可能性を評価することを明らかにした。EMAは、シンガポールのエネルギー産業の規制と開発を担当している。2024年12月に先進原子力技術に関するコンサルティングサービスの入札を開始し、英国のインフラコンサル企業のモット・マクドナルド社を選定した。同社は、原子力産業分野において60年以上にわたり、独立した安全性評価、ライセンスや規制面、技術成熟度評価、多様なエネルギーシステムへの原子力発電の統合などで、欧州、中東、オーストラリアなどの政府、規制当局、事業者に助言してきた経験を有する。なお、この調査のサブコンサルタントに、韓国の現代E&C社(現代建設)を採用しているという。EMAは、政府は原子力導入を決定してはいないが、特に先進的な原子力技術について理解を深め、能力の強化、専門家との協力継続は重視すべきとの考え。原子力導入の可否は、安全性、信頼性、経済性、環境持続可能性といった観点から、シンガポールの状況に即して慎重に検討する必要があるとしている。シンガポールは、面積約720 km2(東京23区よりやや大きい)、人口およそ570万人の高密度都市国家。世界中の企業が拠点を置くビジネス都市でもあり、金融・貿易・物流・ITを中核に産業が発展している。シンガポールの総発電電力量は570億kWh(2023年)で、年々上昇傾向にある。電源別発電量では、天然ガスが94.5%を占め、その他(都市廃棄物、バイオマス、太陽光など)で4.3%。石炭0.9%、石油0.4%。天然ガスを含む化石燃料は輸入に依存している。シンガポールは再生可能エネルギー開発と持続可能性への取組みを強化しており、太陽光発電設備の容量が徐々に増加すると予想されているが、再生可能エネルギー源の拡大にも限度があるため、2050年までに排出ネットゼロの気候目標の達成とともに、増大する電力需要への対応が課題となっている。2012年、MTIが実施した原子力エネルギーに関する事前実現可能性調査では、現在利用可能な原子力技術はまだシンガポールでの展開に適していないと結論付けられた。EMAはSMRやその他の高度な原子力技術の進歩を引き続き監視しつつ、将来のエネルギー選択肢をオープンにして、シンガポールへの影響を評価する能力を構築していく考えを示している。シンガポールは2024年7月末に、米国と原子力協力協定(通称123協定)を締結。両国は、米国務省が主導する「SMRの責任ある利用のための基盤インフラ(FIRST)」プログラムなどの能力開発イニシアチブを通じて、SMRのような先進的な原子力技術によるエネルギー需要への対応と、気候目標の達成に向けて、民生用原子力協力をさらに強化する方針。同協定に調印したV. バラクリシュナン外相は、原子力導入の決定にあたり、原子力の安全性、信頼性、経済性、環境の持続可能性について詳細な研究が必要であるとし、「従来の原子力技術はシンガポールには適さないが、民生用原子力技術の進歩を考えると、いかなるブレークスルーにも後れを取らないようにしなければならない」と語っている。
10 Sep 2025
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米国のウラニウム・エナジー(UEC)社は9月2日、米国の新しいウラン製錬・転換施設の建設の実現可能性を検討するため、完全子会社である米国ウラン製錬・転換会社(UR&C)の設立を明らかにした。UECは現在、推定資源量、認可済み生産量、加工能力で米国最大のウラン企業。同社のA. アドナニCEOは、「当社がウランの採掘、加工、製錬、転換能力を備えた唯一の垂直統合型の米国企業になることは、米国にとって重要な商業的機会であると同時に戦略的にも必要。当社は、主要事業である既存のウラン採掘・加工に注力しながら、UR&Cを通じて、国内の燃料サプライチェーンを構築して濃縮能力の拡大を支援し、長期的なエネルギー安全保障強化に中心的役割を果たしていく」と抱負を述べた。垂直統合により、低濃縮ウラン(LEU)や高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU)といった国内外で必要とされる原子燃料の生産を可能にする六フッ化ウラン(UF6)を確実に供給していく計画で、トランプ米大統領が発令した一連の大統領令に基づく連邦政策や、国家安全保障上の優先課題である燃料サイクルの国内回帰を図る、防衛生産法(DPA)の権限とも整合するという。UEC社は、市場環境と連邦政府の支援により、米国企業が新たなウラン製錬・UF6転換プラントを開発し、国内の転換能力を拡大するのに最適なタイミングと捉え、米国内需要(年間18,000 MtU)の約半分をカバーする年間~10,000 MtUのUF6を生産する米国最大かつ最新鋭の転換施設の建設を計画している。同転換施設の建設計画については、米大手EPC(設計・調達・建設)契約企業のフルアー(Fluor)社と2024年7月に開始された1年にわたる設計・エンジニアリング作業に基づいており、建設サイトを物流、労働力、地域住民の受容性、地元のインセンティブ、他の燃料サイクル施設との相乗効果などの面から評価しているところ。また、プロジェクトは、追加の工学・経済調査の完了、政府の戦略的コミットメント、電力会社との契約、規制承認、有利な市場条件など、複数の要因に応じて進行し、UECは既に政府、州エネルギー当局、電力会社、金融機関と初期協議を開始しているという。UECのS. エイブラハム会長(元米エネルギー省長官)は、「長年にわたり、米国は国家的・経済的安全保障に不可欠な重要資源の供給と加工を外国に依存してきた。当社は、天然UF6の垂直統合型サプライチェーンを確立し、世界最大規模となる原子力発電フリート向けの濃縮用原材料を確保して米国の濃縮産業の成長を促進し、米国内の原子力発電設備容量を現状の4倍、4億kWeとするトランプ大統領のプログラムの重要な一翼を担っていく」と語った。UEC社によると、現在のUF6転換価格は過去最高水準に近く、スポット市場では64~66ドル/kgU、長期市場では約52ドル/kgUとなっており、米国の燃料サプライチェーンにおいては深刻なボトルネックとなっているという。なお現在、米国で稼働するウラン転換施設は、イリノイ州南部にあるコンバーダイン社のメトロポリス・ワークス(MTW)プラントのみ。同プラントは2017年~2023年にかけて、市場環境の悪化により一時的に操業を停止していたが、2023年7月に再開されている。
10 Sep 2025
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米テネシー峡谷開発公社(TVA)とENTRA1エナジー(ENTRA1)社は9月2日、TVAが供給する米国南東部の7州において、ニュースケール社製の小型モジュール炉(SMR)を搭載した6プラント、最大で計600万kWeの展開で協力する合意書を締結した。ENTRA1社が電力インフラを開発・所有し、将来的にはTVAに電力を販売する計画。今回の提携により、約450万世帯または60の新しいデータセンターに相当する十分なカーボンフリーのベースロード電力供給が期待されており、両社はハイパースケールデータセンター、人工知能(AI)、半導体製造、その他のエネルギー集約的な産業部門など、莫大な電力需要に応えると強調。両社はこの計画を米政権のエネルギードミナンス(支配)戦略とエネルギー安全保障の確保の重点方針に従うものと位置づける。ENTRA1社は、米国の原子力、特にSMRと天然ガス火力発電部門に、最高水準の米国技術導入を目指す電力会社。世界的な重要インフラプロジェクトへの投資、開発、実行における豊富な経験を活かし、電力購入契約(PPA)に基づく、電力の販売に注力している。ENTRA1社はニュースケール社製のSMR「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の商業化、流通、展開に対する世界的な独占的権利を保有する戦略的パートナーであり、同SMRを搭載したENTRA1プラントの開発、資金調達、投資、運転、管理までワンストップサービスを担うと強調する。TVAのD. モールCEOは、「ENTRA1社との契約は、エネルギー安全保障を確保し、全米に雇用と投資を創出するために不可欠な次世代原子力の推進において、官民パートナーシップが果たす重要な役割を浮き彫りにしている」と指摘。ENTRA1社のS. アルバラド最高プロジェクト責任者は、「エネルギー安全保障は国家安全保障であり、信頼できる電力はアメリカの未来の生命線。AIデータセンター、高度な製造業を強化し、国力を強く保つ重要な産業を促進。豊富で手頃な価格のベースロード電力がなければ、イノベーションは失速し、サプライチェーンは寸断される」と語った。ニュースケール社のSMR「NPM」はモジュール統合型のPWR。1基あたり7.7万kWの電力、25万kWの熱を生成するNPMを最大12基連結。顧客のニーズに合わせて柔軟に拡張可能である。発電、地域暖房、海水淡水化、商業規模の水素製造、プロセス熱として供給し、世界中の多様な顧客にサービスを提供する体制を整えているという。今年5月、米原子力規制委員会(NRC)から、NPM(7.7万kWe)の標準設計承認(SDA)を取得。商業用途としてNRCの設計認証を受けた初のSMRである。TVAは、ENTRA1社のような新興企業と戦略的に提携し、手頃な価格で豊富なエネルギー供給可能な新しい原子力技術の開発を進めている。同社は今年5月、NRCに対し、テネシー州オークリッジ近郊の同社のクリンチリバー・サイトにおいて、GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社製SMR「BWRX-300」(30万kWe)の建設許可を申請。さらに8月には、米原子力新興企業のケイロス・パワー社と、ケイロス社がオークリッジで建設を計画するフッ化物塩冷却高温炉の実証プラント「ヘルメス2」から最大5万kWeのPPAを締結。TVAの送電網を経由し、テネシー州とアラバマ州にあるGoogle社のデータセンターに電力を供給する計画だ。
09 Sep 2025
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ポーランド国営原子力事業者であるPEJは8月29日、同国ポモージェ県知事からポーランド初の原子力発電所建設に関連する準備作業許可を取得したことを明らかにした。昨年8月に同知事に申請していたもので、準備作業の第1段階は今秋から始まる予定。PEJは、ポーランド初の原子力発電所の建設および運転の実施主体で、国営の特別目的会社(SPV)。米ウェスチングハウス(WE)社製AP1000×3基、合計出力375万kWeを同国北部のポモージェ県ホチェボ自治体内のルビアトボ–コパリノ・サイトに建設する。2036年~2038年にかけて3基の運転開始を見込む。準備作業の対象サイトは約330haで、第1段階は今秋から始まり、作業区域の測量、フェンス設置、樹木や低木・切り株の除去、表土(落葉や腐植土)の撤去、サイトの整地が行われる。PEJは本準備作業に先立ち、過去1年半にわたり、サイト予定地では地盤工学的調査に加え、環境調査および測量を実施。保護対象の動植物を移設する取組みも進められた。これは2023年9月にポーランド環境保護総局(GDOŚ)がPEJに発給した、原子力発電所の建設・運転に関する環境決定(環境条件に関する決定)に従った措置。同10月にはポモージェ県知事が立地決定を発給している。準備作業は、区域の測量から始まり、同時に、考古学的遺構や不発弾の有無を確認した後、今年10月下旬から11月上旬にかけて樹木や低木の伐採を開始。伐採作業は2026年春までに完了する予定。建設にあたっては、規制当局の国家原子力機関(PAA)およびポモージェ県知事が別途発行する建設許可の取得が必要となる。
08 Sep 2025
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フランスのSMR開発事業者のカロジェナ(Calogena)社は8月26日、仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)と、CEAのカダラッシュ研究所でカロジェナ社製SMR(小型モジュール炉)の設置と熱供給ネットワークへの接続可能性の調査を実施する基本合意書(LOI)を締結した。カロジェナ社は、ハイテク産業を専門とする仏ゴルジェ(Gorgé)グループの子会社で、熱出力3万kWのSMR「CAL30」を利用した出力ボイラーを開発中。同炉はシンプルな設計、低温と低圧、競争力のあるコストに特徴があり、特に都市の地域熱供給ネットワーク向けカーボンフリーエネルギー源として設計されたもの。フランスでは、暖房エネルギーの95%は化石燃料またはCO2排出由来である。カダラッシュ研究所では2032年までの運転開始を目指している。カロジェナ社は2023年、仏政府の投資総局(Secrétariat Général Pour l'Investissement, SGPI)を通じて実施された「革新的原子炉」公募プロジェクトに採択され、原子力技術の開発支援を受けている。CEAは、原子力分野のイノベーションに重要な役割を果たしており、フランス産業界や主要研究プログラムを支援。近年では、「フランス2030」計画における採択プロジェクトの開発・産業化支援にも取組んでいる。カダラッシュ研究所は、原子力(核分裂・核融合)、太陽エネルギー、バイオエネルギー、水素のようなカーボンフリーエネルギーの研究・技術開発の拠点。また、仏海軍向けの原子力推進システム関連事業、原子力施設の廃止措置や除染、原子力安全に関する研究にも従事している。現在、CO2を排出する化石燃料(ガスや石炭)に大きく依存している暖房市場に対応するため、暖房分野での原子力利用が国際的に検討され始めている。フィンランドのクオピオ市の地域熱供給事業者であるクオピオン・エネルギア(Kuopion Energia)社は熱出力が9万~12万kWの原子力による熱供給の可能性を検討しており、カロジェナ社は、クオピオン社の環境影響評価(EIA)プロセスに招請された。クオピオン社は、2030年代半ばまでにバイオマス発電所を閉鎖する計画。原子力地域熱供給の候補地として、市の北部のソルササロ(Sorsasalo)と南部のヘポマキ(Hepomäki)に位置する2地点を選定している。なおクオピオン社は、フィンランドのSMR開発企業であるステディ・エナジー(Steady Energy)社とも2024年7月、SMRによる地域暖房用の熱供給の開始に向けて、事前準備の実施で合意している。
08 Sep 2025
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ポーランド最大手の石油精製企業オーレン社は8月28日、ポーランド初となる小型モジュール炉(SMR)として米GEベルノバ日立ニュークリアエナジー社製「BWRX-300」の初号機を、ブウォツワベク(Włocławek)に建設することでシントス・グリーン・エナジー(SGE)社と合意したことを明らかにした。オーレン社が管理する特別目的会社が、建設を担当するという。2021年12月、米GE日立・ニュークリアエナジー(GEH)社、BWXTカナダ社、ポーランドの大手化学素材メーカーであるシントス社のグループ企業SGE社は、ポーランドにおける「BWRX-300」導入に係る協力について発表。同月、SGE社はオーレン社と合弁会社OSGE社の設立を発表した。OSGE社は2030年にも「BWRX-300」初号機の完成を目指し、2023年4月、首都ワルシャワを除く国内6地点における合計24基のBWRX-300建設に関する原則決定(DIP)を気候環境省に申請し、同省は同年12月にこれら発電所に対するDIPを発給した。DIPは、原子力発電所建設プロジェクトに対する最初の基本的な行政判断で、DIP発給によりプロジェクトが正式に認められたことを意味する。同6地点は、北東部のオストロウェンカ(Ostrołęka)とブウォツワベク(Włocławek)、南部のスタビ・モノフスキエ(Stawy Monowskie)とドンブローヴァ・グルニチャ(Dąbrowa Górnicza)、ノバ・フタ(Nowa Huta)それぞれの近郊地点、タルノブジェク(Tarnobrzeg)の特別経済区。OSGE社はBWRX-300のポーランドでの独占使用権を保有しており、これら6地点は、BWRX-300をベースとしたSMR発電所を配備するためのさらなる地質調査を実施する最終候補地点となっていた。OSGE社は今年2月、ポーランド環境保護総局(GDOŚ)から、オストロウェンカとブウォツワベクで計画している発電所建設に係る環境影響評価(EIA)の報告書作成にあたり、取り組むべき分野について特定された。取り組むべき分野は、発電所立地の特殊性を考慮し、個々のプロジェクトごとに決定される。このGDOŚによる特定を受け、OSGE社は環境と立地の両面から調査を開始する。報告書作成には最大2年を要するとみられている。スタビ・モノフスキエで計画する発電所については、2024年2月にGDOŚから取り組むべき分野についてすでに特定されている。
05 Sep 2025
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インドのN. モディ首相は8月15日、首都ニューデリーで開催された独立記念日の式典で演説。原子力開発がエネルギーの安定供給確保や、化石燃料依存の低減に寄与するとし、自身が掲げる「ヴィクシット・バーラト」(先進インド構想)の目標達成年に掲げる、独立100周年となる2047年までに、原子力発電設備容量を現状の十倍以上とすると表明した。インドはエネルギー自立の強化、持続可能な成長を目指しており、原子力部門を民間企業に開放する改革を実施するなど、エネルギーと技術において前例のない機会を創出していると強調した。シタラマン財務大臣は今年2月、2025年度(2025年4月~2026年3月)連邦予算を発表する中で、原子力発電設備容量を2047年までに現状の約880万kWeから少なくとも1億kWeに引き上げるとともに、2,000億ルピー(約3,500億円)を投じて小型モジュール炉(SMR)の研究開発を推進する「原子力エネルギーミッション」を開始、2033年までに少なくとも国産SMR×5基の運転開始をめざす方針を表明した。さらに、民間企業がこのセクターに参入するための大きなハードルとなっていた原子力法および原子力損害賠償法の改正を進め、民間部門との連携強化を図る考えを示していた。政府で原子力や科学技術を担当するJ. シン閣外専管大臣は、7月24日付の上院議会への答弁書で、2047年までに原子力発電設備容量を1億kWeへ拡大することは、2070年までに炭素排出量をネットゼロにするという公約の実現に大きく貢献するものであると言及。原子力発電所を新規開発地域(グリーンフィールド)だけでなく、既存開発地域(ブラウンフィールド)へ建設することも想定しているとした。ブラウンフィールドではより小さな容量、最大でも30万kWeの小型炉の配備を計画するという。原子力設備の迅速な追加配備のために、二本立ての戦略、①70万kWe級の加圧重水炉(PHWR)や海外製の大型炉をグリーンフィールドのサイトに配備、②バーラト小型原子炉(BSR、PHWR、22万kWe)、バーラト小型モジュール炉(BSMR-200、PWR、20万kWe)や小型モジュ―ル炉(SMR-55、PWR、5.5万kWe)のような小型炉の国産設計と開発、導入を進めていく方針を示した。なお現在、3種類の実証用のSMR(BSMR-200、SMR-55、水素製造用の0.5万kWthの高温ガス冷却炉)がバーバ原子力研究所(BARC)で設計・開発中であり、これら実証炉はプロジェクトの行政認可を取得後、60~72か月以内に建設される見込みである。BSMRとSMRの初号機はインド原子力発電公社(NPCIL)との連携により原子力省(DAE)所有のサイトに設置予定で、DAEの技術的支援の下、主要設備の大半は国内サプライチェーンの範囲内にあるという。これらSMRは、自家発電所として導入、廃止予定の火力発電所のリプレース、遠隔地へのオフグリッド配置、および輸送部門向けの水素製造を想定して設計・開発されており、産業・輸送部門における原子力の普及拡大によって脱炭素化をめざす構想だ。さらに、シン閣外専管大臣の答弁書によると、現在のインド国内の原子力発電設備容量は、25基の計888万kWe。さらに18基、総出力1,360万kWe(BHAVINIが建設中の50万kWeの高速増殖原型炉PFBRを含む)が建設や計画中の段階にあり、これらが順次完成すると、原子力発電設備容量は2,248万kWeに達する見込み。原子力発電の総設備容量1億kWe達成の目標を、既存技術ならびに開発中の先進技術に基づく原子炉の導入により実現させる方針を示した。なお、同国南部のタミルナドゥ州・カルパッカムで建設中の同国初となるPFBRでは2024年3月にモディ首相の立会いの下、燃料装荷を開始した。同プロジェクトの完成の遅延については、主に統合試運転段階で直面した前例のない技術的問題に起因し、問題は設計者と緊密に連携し体系的に解決中であると回答している。
05 Sep 2025
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米エネルギー省(DOE)は8月26日、近い将来の燃料需要に対応するため、2回目となる高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)))の割り当てを米国の先進炉開発者3社に対して実施することを明らかにした。DOEはこの割り当てを、革新的な原子力技術の商業化を促し、より安全かつ安価で信頼性の高いエネルギー供給を保証するものと位置付ける。民間の研究開発、実証および商業利用に向けてHALEUの国内供給確保のために2020年に設立された「HALEU供給プログラム」を通じて行われている。今回2回目となるHALEU割り当ては、2種類の先進炉設計の試験支援と、新たな国内の先進燃料ラインの立ち上げが目的。DOEは今年4月に5社へ初回のHALEUの割り当てを行っており、そのうち3社は2025年中に燃料供給を必要としている。2回目の割り当てでは、新たに以下の3社がプログラムで定められた優先順位の基準に基づき、条件付き供給先に選定された。アンタレス・ニュークリア社: DOEの原子炉パイロットプログラムの対象炉。来年7月4日(米国の独立記念日)までに臨界を目指す先進マイクロ炉で使用。500kWeのナトリウムヒートパイプ冷却R1マイクロ炉を開発。国防総省(DOD)の軍事施設向け先進原子力(ANPI)プログラムの一環で、国防イノベーション・ユニット(Defense Innovation Unit:DIU)により選定。スタンダード・ニュークリア社: TRISO(3重被覆層・燃料粒子)燃料製造ラインを確立し、原子炉パイロットプログラムおよびその他のTRISO燃料炉を支援。DOEの燃料製造ラインのパイロットプログラムの初対象企業。アビリーン・クリスチャン大学(ACU)/ナチュラ・リソーシズ社: テキサス州にあるACUで建設中の熔融塩研究炉Natura MSR-1(0.1万kWt)で使用。DOEの原子炉パイロットプログラムに選定。ナチュラ社は原子力規制委員会と商業炉の許認可申請前活動中。DOEのC. ライト長官は、「トランプ大統領は真の原子力ルネサンスの始動を最優先事項としており、DOEはこの野心的な課題の実現に向けて、先進燃料の製造に必要な資材へのアクセス拡大を進め、外国由来の資源への依存を減らすべく、米国の民間企業を支援している」と語った。多くの先進炉が、既存炉よりも小さな設計、より長い運転サイクル、より高い効率を実現するためにHALEUを必要とするが、米国には商用のHALEUの国内供給業者はいない。そのため、国家核安全保障局(NNSA)管理下の原料や政府所有の研究炉からの使用済み燃料由来の高濃縮ウラン(20%以上のU235)のダウンブレンドを行い、限られた量を製造してHALEUを割り当てている状況である。なおHALEUは、通常の商用炉向けの濃縮ウラン製造のプロセスを利用した製造も可能。DOEはウラン濃縮事業者のセントラス・エナジー社(旧・米国濃縮公社:USEC)と提携し、オハイオ州パイクトンの濃縮施設で16台の新型遠心分離機を製造、連結設置し、HALEU製造のための濃縮の実証を行っている。今後のステップとして、DOEはこれら3社にHALEUを割り当てる契約プロセスを開始し、一部企業は今年中にHALEUを受取る可能性があるという。DOEは今後もさらに他企業へのHALEUの割り当てを続ける予定。
04 Sep 2025
1070
英国の原子力廃止措置機関(NDA)は8月28日、民生用プルトニウムの処分を可能にする技術開発に向け、英政府が1.54億ポンド(約306億円)の資金を供給することを明らかにした。セラフィールド原子力施設に保管された、英国所有分の民生用の分離プルトニウムの無期限の長期保管による、将来世代への安全保障上のリスクと拡散の懸念を払しょくするため、政府は今年1月、NDAと協力し、その軍事への転用を防ぐために形態を固定化し、地中に最終処分する方針を発表している。英国の民生用の分離プルトニウムは、60年以上にもわたる原子力発電所の使用済み燃料の再処理から発生したもので、セラフィールド・サイトには約140トンの分離プルトニウムが規制要件に沿って貯蔵されている。原子力発電所の使用済み燃料の再処理により発生したプルトニウムを、地層処分施設(GDF)での最終処分に適した形にし(固定化)、長期的な安全保障上のリスクの低減を決定したことで、その技術開発に伴い、主にカンブリア地方に100名の雇用創出をもたらすという。5年間にわたるこの資金提供により、NDAはサプライチェーンのパートナーと協力し、セラフィールドに専門的な研究施設を設計・設置・運営。そこで専門家がプルトニウムを安定した形に固定化する技術を検証する。最初の2年間は、主に初期の研究開発に焦点を当て、すでに50名が従事しているという。さらに、マンチェスター大学とシェフィールド大学との連携による「プルトニウム・セラミック学術拠点」を設立するため、500万ポンド(約10億円)予算のうち半額の250万ポンドを資金提供。同拠点はプルトニウムの固定化に係わる技術的な知見と人材を育成する中心的役割を担う。NDAのD. ピーティCEOは、「我々は、すでに廃止措置や英国で最も危険な放射性物質の安全管理分野をリードしている。今回の政府からの資金提供により、プルトニウムを固定化する最先端の施設を建設し、世界トップレベルの専門性と能力も育成し、安全で恒久的な解決策を提供していく」と語った。M. シャンクス・エネルギー担当大臣は、「今回の技術開発に伴う100名の雇用に加え、プルトニウムの固定化プログラム全体では数千人の雇用を生み出し、数十億ポンド規模の投資が地域経済に貢献するだろう」とその経済的意義を強調した。検討されているプルトニウムの固定化技術には2種類、セラミック状のペレットに加工し、廃棄専用の形にするDMOX(Disposal MOX)と高圧・高温で岩石状のセラミックに変えるHIP(熱間等方圧加圧)がある。これにより別用途への再利用や再加工は実質的に不可能となる。固定化後のプルトニウムは、地層処分施設(GDF)に最終処分され、NDAの傘下にある原子力廃棄物サービス(NWS)が作業を主導する。今後、大規模なプルトニウム処分プログラムの承認が必要となるが、これには、セラフィールドでの核物質処理施設や中間貯蔵設備の建設が含まれ、地域にさらなる大規模投資と数千人規模の高スキルの雇用が数十年にわたって見込まれている。
03 Sep 2025
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