
インド国会の冬季会期中の12月17日、「インドの変革にむけた原子力の持続可能な利用と発展に関する法案」(Sustainable Harnessing and Advancement of Nuclear Energy for Transforming India: SHANTI)が国会(下院)で可決された。インド政府で原子力や科学技術を担当するJ. シン閣外専管大臣が12月15日に提出した。同法案は、1962年原子力法と2010年原子力損害民事責任法(CLNDA)を廃止し、原子力部門に対する民間参加への開放を含む、原子力の安全かつ確実な利用およびそれに関連する強固な規制枠組みの形成を提案するもの。法案は12月12日に閣議決定されており、今後、上院で審議・可決後、大統領の承認により成立する。政府は、エネルギー自立の強化に向けた持続的な研究開発により、国産の重水炉(PHWR)導入や燃料サイクル確立に向けた動きの進展など、責任ある方法で原子力計画を運営することが可能になったと指摘。原子力発電設備容量の大幅強化により、クリーンなエネルギー安全保障を支援し、エネルギー集約産業であるデータセンターなどの新たなニーズに信頼性の高い電力を供給する方針である。法案により、これまで原子力省(DAE)によって厳しく制限された原子力の複数の分野(原子力発電所の建設、所有、運転、廃止措置や、燃料製造、燃料または使用済み燃料の輸送・貯蔵、輸出入、取得・所持、重要鉱物の探査や採掘など)が民間を含む事業体が認可を受けたうえで、開放される見込み。但し、濃縮、再処理や高レベル放射性廃棄物管理を含む、使用済み燃料の取扱い、重水の生産などは政府またはその完全所有機関が原則として専管する仕組みとしている。1962年原子力法は、民間部門による原子力発電参入を禁止しており、原子力省(DAE)傘下のNPCILとバラティヤ・ナビキヤ・ビデュト・ニガム社(BHAVINI、高速炉の建設と運転の事業者)の2つの国営企業に限定。2015年の法改正により、インド国営火力発電会社(NTPC)のような政府系公社がNPCILとの提携が可能になっていたものの、抜本的な原子力部門の開放の必要があった。その背景には、インドの長期的なエネルギーおよび気候目標がある。政府は、2070年ネットゼロに向けて、独立100周年となる2047年までに現状の十倍以上となる、1億kWeの原子力発電設備容量を達成するという目標を掲げている。この目標達成のため、インドを世界の原子力エコシステムへの貢献者として位置付ける一方で、固有の原子力資源をより十分に活用し、官民双方の積極的な参加を可能にする必要性を強調。官民パートナーシップや合弁事業を含む官民双方の参加を促進し、小型モジュール炉(SMR)を含む原子力発電設備の大規模展開を念頭に置いている。運用レベルでは、同法案は、原子力発電またはその利用に関与する事業体に対する許認可および安全認可に関する規定とともに、停止または取消の明確な根拠を定めている。加えて、医療、食料・農業、産業、研究などの分野における原子力および放射線利用を規制対象とする一方で、研究開発およびイノベーション活動については、許認可要件から除外する方針を示している。同法案はまた、原子力損害に関する現実的かつ実用的な民事責任の枠組みへと見直すとともに、原子力規制委員会(AERB)に法的地位を与え、安全、セキュリティ、保障措置、品質保証、緊急時対応に係る体制を強化。さらに、原子力救済諮問委員会(Atomic Energy Redressal Advisory Council)の設置や重大な原子力損害事案に対応する原子力損害賠償請求委員会(Nuclear Damage Claims Commission)の創設など、新たな制度的枠組みを規定し、これら判断に対する控訴審については、電力上訴審判所(Appellate Tribunal for Electricity)がその役割を担うとしている。また、これまで海外サプライヤーによるインドでの原子力発電所建設の大きな障壁とされてきたCLINDAの供給者責任条項を見直し、保険や政府の補償枠組みを整え、原子炉建設を後押しする方針である。N. モディ首相は11月下旬、原子力分野において民間部門が強力な役割を担う基盤を築く改革を行っていると演説の中で表明。これにより、SMR、先進炉、原子力イノベーションにおける機会を創出し、インドのエネルギー安全保障と技術的リーダーシップをさらに強化するだろうと展望を示した。政府は、法律の改正により、インドのエネルギー移行、技術進歩、国際的義務に沿って、原子力ガバナンスを近代化したい考え。■インドのSMRの建設計画シン大臣は法案提出に先立ち、両院議会への複数の答弁書でSMR建設計画について明らかにしている。政府は、2025年2月に国会承認された2025年度連邦予算(2025年4月~2026年3月)において、SMRの研究開発を推進する「原子力エネルギーミッション」に2,000億ルピー(約3,400億円)を割当て、2033年までに少なくとも国産SMR×5基の運転開始をめざす方針を示した。現在、バーバ原子力研究所(BARC)で、3種類の実証用SMRであるBSMR-200(PWR、20万kWe)、SMR-55(PWR、5.5万kWe)、水素製造用の最大0.5万kWthの高温ガス冷却炉を設計・開発中であり、BSMR-200とSMR-55の先行炉をマハラシュトラ州にあるタラプール原子力発電所サイトに建設、高温ガス冷却炉をアンドラ・プラデシュ州にあるBARCのビザグ・キャンパスに建設を提案しているという。答弁書の中で、SMRは特に、安定的な電力供給が要求される産業の脱炭素化において有望な技術と強調。閉鎖予定の火力発電所のリプレース、エネルギー集約型産業向けの自家発電所や遠隔地でのオフグリッド適用を想定しているとした。なお政府はすでに、22万kW級重水炉(PHWR)の「バーラト小型炉(BSR)」の導入について、民間企業と連携する方針を表明している。これを受け、NPCILは2024年12月、現行法制度の下で提案依頼書(RFP)を発出し、産業向け自家発電用BSRの設置に関心を持つ国内企業に参加を呼びかけている。より多くの企業からの参加を促すため、提出期限が2026年3月31日まで延長された。
19 Dec 2025
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米国の新興原子力企業ディープ・フィッション(Deep Fission)社は12月4日、同社が開発した小型モジュール炉(SMR)である「Gravity」のサイトとして、カンザス州南東のパーソンズにあるグレートプレーンズ工業団地を選定したと発表した。同炉は地下1マイル(約1.6km)、幅30インチ(約76cm)のボーリング孔に設置するPWR(1.5万kWe)で、今年8月に米エネルギー省(DOE)の原子炉パイロットプログラムの対象に選定された。同プログラム下で試験炉の実証成功後、同サイトで本格的な商業プロジェクトを推進する計画だ。パイロットプログラムはDOE傘下の国立研究所以外の場所でDOEの管理権限の下、原子力法に基づく規制手続きを簡素化し、先進炉設計の試験と研究開発の実施を促進する取組み。ディープ・フィッション社は12月3日、同プログラム下で試験炉の建設と運転を行うため、DOEとその他取引契約(Other Transaction Agreement: OTA)を締結した。DOEの認可を条件に、2026年7月4日(米国独立記念日)までに初号機の建設を完了と臨界達成を目指している。今回、グレートプレーンズ工業団地のオーナーであるグレートプレーンズ開発公社と同プログラムにおける協力ならびに同サイトでの本格的な商業プロジェクト開発に係る基本合意書を締結。12月9日には起工式が挙行された。サイト面積約60㎢のグレートプレーンズ工業団地は、産業・エネルギー開発向けのエリア。ディープ・フィッション社は、サイト内で事業を拡大し、今後数十年にわたり工業団地にエネルギーを供給する可能性がある。「Gravity」は、原子力、石油・ガス、地熱分野での実証をベースに設計。発生した熱は地下深部にある蒸気発生器に伝わり水を沸騰させ、非放射性の蒸気が急速に地表に上昇、そこで標準的な蒸気タービンを回して発電する。検査が必要と判断された場合、原子炉に取り付けられたケーブルにより、原子炉を地表に持ち上げることが可能。モジュール設計により、出力を最大150万kWeまで拡張可能で、産業現場、データセンター、遠隔送電網、商業ハブ全体を対象に柔軟に展開できるという。また既製部品と低濃縮ウラン(LEU)を利用し、サプライチェーンの合理化を追及。原子炉は地下1マイルに設置され、地下深部の地質が自然封じ込めの役目を果たす立地アプローチにより、安全性とセキュリティを強化、土地の占有面積を最小限に抑え、コストの削減をねらう。同社のコストモデルでは、従来の原子力発電所と比べて全体コストを70~80%削減し、発電コスト(LCOE)は5〜7セント/kWhと推定している。
19 Dec 2025
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フィンランド雇用経済省は12月4日、同国の放射線・原子力安全庁(STUK)に対し、世界初となる使用済み燃料の深地層処分場の操業許可を求めるポシバ社の申請に対する審査完了期限の3回目の延長を承認した。STUKの意見書は、2026年6月末までに提出される見込み。ポシバ社は2021年12月、オルキルオトに建設中の地上の使用済み燃料封入プラントと地下の最終処分施設の操業許可を雇用経済省に申請した。処分施設は当初、2020年代半ばに操業開始を予定し、ポシバ社は2024年3月から2070年末までの操業許可を求めていた。操業許可の最終的な判断は政府が下すが、STUKの意見が許可の付与を支持する場合のみ許可される。STUKは2022年5月に審査を開始。当初、雇用経済省は2023年末までにSTUKの見解を求めていたが、2024年1月、STUKは2024年末まで意見書提出の延長を要請。その後、同年12月にも審査の遅延のため、同省は期限を2025年12月末まで延長した。今回、再度STUKの要請を受け、期限を2026年6月末まで延期している。STUKは、申請書類の大半を受取り承認しているが、ポシバ社が更新した最新資料についてさらなる説明を求めており、2026年初めに回答を得る予定だとしている。その評価を終えるまで、意見書を提出することはできず、6月末までの期限は可能ではあるものの、STUKとポシバ社双方にとって厳しいものであるとの認識を示した。審査は最終段階にあるが、予想以上に長期化している。STUKは遅延の一因として、ポシバ社が最終処分システムに加えた変更と、これら変更の影響を正当化し、安全要件を満たしていることを証明しなければならなかったためと説明。さらに、長期的な安全性の実証にいまだ不確実性がある、と指摘している。一方で、長期的な安全性を証明することは非常に困難な作業であり、本プロジェクトは世界的に前例もなく、審査には時間がかかり、細心の注意と専門知識が必要であると強調。使用済み燃料の最終処分の長期的な安全性とは、少なくとも数万年にわたる期間を指すが、特に、放射性物質の拡散を防ぐ役割を果たす粘土素材の機能性の実証がいまだ進行中であるという。ポシバ社は当初計画されていた粘土素材を別のものに置き換えており、STUKはこの新素材が最終処分の長期的な処分の安全性に与える影響を評価する必要があるとし、安全要件、安全性の根拠に関する詳細な分析を満たす最終安全報告書を受理するまで、操業許可申請の安全性評価を実施しないとしている。政府は2015年11月にポシバ社に最終処分場の建設許可を発給、2016年12月に総工費約5億ユーロの建設工事が開始された。操業許可が発給されれば、フィンランドで原子力発電所を運転するティオリスーデン・ボイマ社(TVO)のオルキルオト原子力発電所とフォータム社のロビーサ原子力発電所から発生した使用済み燃料の処分を開始する。同処分場は、2120年代までの100年間の操業を見込んでいる。
19 Dec 2025
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フランスの原子力安全・放射線防護局(ASNR)は12月4日、放射性廃棄物管理機関(ANDRA)が2023年1月に提出した、高レベル放射性廃棄物(HLW)と長寿命中レベル放射性廃棄物(ILW-LL)を対象とする地層処分施設「Cigéo(シジェオ)」の設置許可申請に関する安全性評価について、最終的な意見書を公表した。Cigéoは、ANDRAが進める放射性廃棄物の深地層処分場プロジェクトで、フランス東部のムーズ県とオートマルヌ県にまたがるビュール地区周辺に建設される計画。地下約500メートルの粘土層に、合計約8万3,000立方メートルの高・中レベル放射性廃棄物を処分する想定となっている。施設は、放射性廃棄物の発生事業者であるフランス電力(EDF)、フラマトム、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)等が処分費用を負担し、ANDRAが管理、運営する。本格的な処分作業は2040~2050年ごろに開始し、約100年間にわたって続くことが想定されている。ASNRは2023年3月、仏政府のエネルギー行政当局から審査を委託され、申請書の技術的審査を実施した。審査は、安全評価に用いる基礎データ、施設操業中の安全性、閉鎖後の安全性の三つの観点から行われた。審査過程で地域の委員会や市民の代表者らとの対話が行われたほか、意見案に対する公開意見募集(パブリックコメント)も実施された。意見募集では、安全性の立証、処分対象廃棄物の範囲、今後の公開審査の進め方などに関する懸念が寄せられたという。ASNRは最終意見で、安全性の説明は設置許可申請の段階としては成立していると評価した。一方で、操業開始前にも追加の検証が必要だと指摘し、操業は当初、試験的な段階に限定されるべきだとしている。その上で、審査過程で示された対応方針に基づき申請内容が補完されれば、今後の公開審査に進むことは可能であるとの見解を示した。ANDRAのL. エヴラードCEOは、「プロジェクトの開発において重要な一歩を踏み出した。30年にわたり安全基準を遵守し、設計や住民参加、地域社会との対話にベストを尽くして開発を進めてきた」とコメントしている。ASNRの意見書と公開意見募集の概要は、国会の科学技術評価委員会(OPECST)および原子力安全に関する透明性・情報公開委員会(HCTISN)に提出され、今後の政策判断や社会的議論に付される。フランスでは2006年、放射性廃棄物等管理計画法により、高レベル放射性廃棄物および長寿命中レベル放射性廃棄物について「可逆性のある地層処分」を基本とする方針が定められた。処分事業の各段階で得られる知見を踏まえて設計の変更や廃棄物の回収を可能とし、将来世代に判断の選択肢を残す考え方だ。ANDRAでも、操業を当初から全面的に行うのではなく、可逆性と安全性を検証する「パイロット操業フェーズ」から開始する計画となっている。
19 Dec 2025
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中国の福建省で12月16日、中国広核集団(CGN)の寧徳(Nindge)原子力発電所6号機(108.9万kWe)が着工した。寧徳プロジェクトは福建省寧徳市に100万kWe級原子炉6基を2段階に分けて建設する。うちⅡ期工事の5-6号機は2023年7月に国務院が建設を承認しており、いずれも中国が独自開発した第3世代PWR設計「華龍一号」(HPR1000)を採用。5号機は2024年7月に着工している。CGNによると、両機の1基あたりの年間発電量は約100億kWh。寧徳原子力発電所ではすでに、第2世代のPWR設計「CPR-1000」を採用したⅠ期工事の1~4号機がそれぞれ営業運転中。1号機は2008年2月に着工、2013年4月に営業運転を開始した福建省初の原子力発電所である。
18 Dec 2025
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米アイダホ国立研究所(INL)は12月3日、世界初となる塩化物熔融塩実験炉(Molten Chloride Reactor Experiment: MCRE)向けに、商業規模での燃料塩(熔融塩化物とウランの混合物)の製造を開始したことを明らかにした。高速増殖実験炉II(EBR-II)の運用以来、30年ぶりのINL最大規模の燃料生産事業となる。MCREは塩化物熔融塩高速炉設計で、液体塩を燃料および冷却材として使用。液体燃料塩は、従来炉の固体燃料棒と比べて高温運転が可能で燃料効率が高く、また安全性の強化が期待されている。INLは、こうした特性により、船舶用の小型原子力システムや遠隔地向け施設など、新たな応用分野が開かれる可能性を指摘している。INLによると、燃料製造チームは今年9月末に初の燃料塩バッチを製造。2026年3月までにさらに4つのバッチを製造する予定である。MCREで原子炉が臨界に達するまでには、合計72~75バッチの燃料塩が必要とされる。MCRE向けの燃料塩製造プロセスは2020年に開始。2025年3月にウラン金属の95%を、バッチあたり18kgの燃料塩にわずか数時間で変換することに成功した。これまで1週間以上かかった工程を大幅に短縮したという。INLのB. フィリップス燃料塩合成技術責任者は、「高速炉用に塩化物ベースの熔融塩燃料が製造されたのは歴史上初めて。米国のイノベーションにとって大きな節目であり、先進原子力に対する米国のコミットメントを明確に示すものだ」と語った。また、MCREプロジェクトのD. ウッド上級技術顧問は、「海運業界への影響は大きい。熔融塩炉は船舶に高効率で低メンテナンスの動力を提供し、温室効果ガスの排出量を低減するとともに長距離・無停船航行を可能にする。この技術は移動可能で拡張性があり、世界的に変革をもたらす新たな原子力分野の台頭を促すだろう」と述べた。MCREは、INLがサザン社、テラパワー社、コアパワー社、米エネルギー省(DOE)と共同で取組む官民プロジェクト。DOEの国立原子炉イノベーションセンター(NRIC)がINLに建設中の運転試験ラボ(LOTUS)のテストベッドで、世界初の高速スペクトル熔融塩臨界システムの実証試験を行う計画だ。試験は6か月間の小規模実験として、早ければ2030年に実施される予定。MCREの成果は、テラパワー社およびサザン社が開発を進める、塩化物熔融塩高速炉(MCFR)の2030年代の商業導入に活用される。
17 Dec 2025
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米国の放射性廃棄物処理のスタートアップ企業、ディープ・アイソレーション(Deep Isolation)社は12月3日、先進炉向けの廃棄物管理システムの開発を進めるプロジェクト「アップワーズ(UPWARDS)」の完了を発表した。プロジェクトは米エネルギー省(DOE)エネルギー高等研究計画局(ARPA-E)から約377万ドル(約5億8000万円)の助成を受けたもので、2022年からの3年間にわたり実施された。先進炉向け燃料から生じる廃棄物は、従来の軽水炉と比べ、形態が小型かつ多様であることが特徴とされる。このため従来の処分システムを前提とした標準化が難しく、処分プロセスを改めて設計する必要性が指摘されてきた。アップワーズプロジェクトでは、先進炉から発生する使用済み燃料や高レベル放射性廃棄物を対象に、「ユニバーサル・キャニスター・システム(UCS)」の設計、製造、試験、検証を行った。UCSは、廃棄物の貯蔵、輸送、最終処分の3段階に対応できるよう設計された共通容器で、再処理後のガラス固化体など、さまざまな廃棄物に対応できるとしている。また、同社の処分概念は、従来のように大規模なトンネルを掘削する地下処分場とは異なり、廃棄物を地中深くの細い孔(ボアホール)に隔離する「深地孔処分(Deep Borehole Disposal)」を採用している点が特徴。石油やガス開発で用いられてきた掘削技術を応用することで、垂直掘削に加え、途中から水平方向へ掘り進めるなど、精密な掘削が可能とされる。また、廃棄物の設置作業は人が地下に入ることなく実施できるという。今回実証を終えたUCSは、同社が提唱する深地孔処分に加え、従来型の地層処分の双方に対応できることを想定している。プロジェクトの主任研究員を務める同社のJ. スローン氏は、「新たな原子力技術への投資拡大が進む中、原子力産業にとって最も喫緊の課題の一つに対応するものだ」と述べた。同社は、プロジェクト完了により、将来的な商用化に向けた重要な基盤を構築したとしている。今後は米国や他国の先進炉分野においても、UCSのライセンス取得や運用に向けた準備を進める計画だ。
17 Dec 2025
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ロシア極北のチュクチ自治管区にあるビリビノ発電所2号機(軽水冷却黒鉛減速炉RBMK=EGP-6、1.2万kWe)が12月3日、閉鎖した。残る同型の3-4号機も年末までに閉鎖する予定。1号機(EGP-6、1.2万kWe)は2019年に閉鎖済みで、使用済み燃料は炉心から冷却プールに取出し済みである。同発電所のA. クズネツォフ主任技師によると、廃止措置の段階は約8年続くと想定され、まずは、連邦環境・技術・原子力監督庁(ロステフナゾル)から廃止措置の認可を取得することから始まる。使用済み燃料の取出し(約2年)、機器・構造物の解体、廃棄物の処理など、全てで数十年かかる作業を行い、2054年頃にはサイト全体で復旧作業を始めるという。ビリビノ発電所の各機は、1974年~1977年にかけて営業運転を開始し、半世紀にわたって永久凍土地帯で運転を続けてきたロシア独自の原子炉。合計190炉年以上稼働し、116億kWh以上の電力を供給するとともに、周辺地域への熱供給も行ってきた。発電量は、統一電力システムから孤立したチャウン-ビリビノ電力システム内の総発電量の80%を占めていた。 現在、チュクチ自治管区のペベクでは、世界初で唯一の海上浮揚式原子力発電所であるアカデミック・ロモノソフ号(KLT-40S、各3.5万kWe×2基、50Gcal/h)が2020年5月から営業運転中で、近隣地域に電気と熱を供給。ビリビノ発電所の閉鎖後、電熱供給の代替発電所となる。極北における廃止措置プロセスは、建設プロセスに匹敵するほど複雑になることが予想される。ロシアにはまだ複数基を同時に閉鎖した発電所はなく、ビリビノ発電所での経験は業界でもユニークなものになると関係者は指摘している。
16 Dec 2025
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韓国電力公社(KEPCO)とトルコ原子力公社(TÜNAŞ〈TUNAS〉)は11月24日、原子力分野における協力に関する覚書(MOU)を締結した。覚書は、トルコを訪問した李在明大統領とR. エルドアン大統領による首脳会談の場で、両首脳立ち会いのもと署名された。TUNASは、トルコ国内における原子力発電所の建設や運営などを担う国営企業として、2022年に設立された。今回のMOUは、両国間における技術や情報、ノウハウの共有を通じ、新規原子力発電所建設に向けた共同プロジェクトを促進することを目的とする。KEPCOは、トルコにおける原子力事業の開発推進を正式に位置づけ、事業用地の評価や原子力技術、規制・許認可、現地化など、事業全般にわたる協力枠組みを構築する。今後は、事業予定地の評価に向けた共同ワーキンググループを設置し、協力を具体化する方針だ。KEPCOの発表によると、同社のK. ドンチョル最高経営責任者(CEO)は翌25日、トルコのA. バイラクタル・エネルギー天然資源大臣と会談し、計画中のシノップ原子力発電所事業の建設スケジュールや事業条件について意見交換を行った。K. ドンチョルCEOは、「シノップの新規建設事業は、長期にわたり巨額の投資を伴うため、トルコ政府の積極的な支援が不可欠」と指摘。そのうえで、アラブ首長国連邦(UAE)での原子力発電所建設の実績を挙げ、「KEPCOは、シノップ事業における最適なパートナーとなり得る」と強調した。韓国は2023年1月、トルコ北部で韓国製の第3世代加圧水型原子炉(PWR)であるAPR1400(140万kW)×4基を建設するプロジェクトについて、トルコに対し予備提案書を提出している。トルコは2023年に公表した国家エネルギー計画で、原子力をカーボンニュートラル目標達成に向けた重要な電源と位置づけ、2035年までに原子力発電設備容量を720万kWに引き上げる方針を掲げている。同国南部では、同国初の原子力発電所となるアックユ原子力発電所(ロシア型PWR=VVER-1200、×4基)をロシアの融資と協力のもと建設中。建設は2018年以降段階的に進められており、2028年までの順次運転開始を目指している。
16 Dec 2025
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仏原子力安全・放射線防護局(ASNR)は12月2日、フランス電力(EDF)傘下のNUWARD社が開発を進める小型モジュール炉(SMR)「NUWARD」の安全設計に関する合同早期レビュー(Joint Early Review: JER)のフェーズ2(2023年12月~2025年6月)を完了し、その成果を公表した。オランダ(ANVS)、ポーランド(PAA)、スウェーデン(SSM)、フィンランド(STUK)、チェコ(SUJB)の各規制当局と共同で実施したもの。EDFは2022年6月、NUWARD炉を欧州初となるJERのケーススタディとすることを発表。JERイニシアチブは、複数国で適応可能かつ許認可取得が可能な標準化設計の開発に向けて、正式な許認可取得プロセスに先立ち、規制当局との意見交換を行う枠組みだ。SMRの設計と安全性に関連する課題を早期に洗い出し、将来の審査で重要となる論点を関係国で共有することを目的としている。設計が固まる前の早い段階で、設計者と規制当局が安全設計の考え方や技術的選択肢について認識をすり合わせ、設計者に早い段階で規制側の考えを伝えることで、後から設計変更による手戻りを防ぐ狙いがある。将来の標準化を見据えて、各国の規制当局が足並みをそろえる効果も期待できる。フェーズ1(2022年6月~2023年6月)では、仏原子力安全規制当局(ASN)((2025年1月1日、ASNとIRSNの活動は統合され、原子力安全・放射線防護局(ASNR)に改称された。))の主導の下、フィンランド(STUK)およびチェコ(SUJB)が自国のエネルギー事業者がNUWARD炉に関心を示していたことから参加。NUWARD社はこのレビューの結果、より標準化された設計の開発を可能にするデータを得たとしている。今回完了したフェーズ2では、オランダ、ポーランド、スウェーデンの各規制当局も加わり、放射性物質の閉じ込め機能、事故時の放射線影響評価、臨界リスク管理、電気系統および計装制御(I&C)システムの構成など、より広範な技術的分野を議論の対象とした。評価は、NUWARD社との直接対話を通じて行われ、フェーズ1における一部の規制当局の審査結論に対するフィードバックも取り込まれた。フェーズ2の報告書では、JERが規制当局による安全審査の効率性と対応力向上に寄与していると評価した。特に、規制枠組みの見直しを進めるこれら規制当局にとって、有益な情報源となり、規制当局が自らの手法を継続的に見直す重要性を喚起したと指摘。また、特定された相違点の大半は、規制要件そのものの差異ではなく、ガイダンスレベルや規制要件の実施方法の違いに起因することが確認されたという。さらに、特定の原子炉設計について規制当局と設計者が協議できる専門フォーラムは極めて有効であり、安全管理上の課題を早期に解決するとともに、許認可プロセスを迅速化し、JERを通じて複数国での展開を後押しする効果も期待されると指摘している。なお、NUWARD炉の安全性に関する最終的な判断や認可は、今後、各国の正式な安全審査の中で行われる。規制当局間では現在、新たな技術テーマを対象としたフェーズ3の実施について検討が進められている。NUWARD炉は、第3世代+(プラス)のPWRの実証技術をベースとする、電気出力最大40万kWeの熱電併給型のSMR。再生可能エネルギーを補完するほか、水素生産、地域暖房、海水淡水化への利用も想定している。EDFとNUWARD社は2024年6月、プロジェクトの遅延や予算超過を避けるためにNUWARD炉の設計を見直し、既存の実証済みの技術を利用し、設計を最適化する計画を決定。今年1月には再設計作業を開始している。
15 Dec 2025
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米GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社は12月11日、同社製の小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」が、英国の包括的設計審査(GDA)のステップ2(実質的な技術評価段階)を完了したことを明らかにした。GDAとは英国で初めて建設される炉型に対して行われる設計認証審査で、原子力規制庁(ONR)が設計の安全性とセキュリティの観点から、環境庁(EA)およびウェールズ自然保護機関(NRW)が環境影響の観点から、英国の基準を満たしているかを、規制プロセスの早い段階から、立地サイト特定後の建設申請とは別に評価する。BWRX-300は2024年12月にGDAのステップ1(GDA範囲とスケジュールの合意段階)を完了している。ONRとEAの声明によると、ステップ2評価では、BWRX-300設計において基本的な安全性、セキュリティ対策、環境保護面での問題は確認されなかった。なお、GVH社は現時点で、GDAのステップ3(詳細評価)の実施は選択していない。GVH UK社のA. チャンプ英国代表は、「GDAのステップ2の完了は、規制上の重要なマイルストーン。炉メーカーとして、最速でステップ1と2を完了した。カナダでのBWRX-300建設プロジェクトにおける当社の進歩の価値を示すもの」と述べた。ポーランドのオーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社は、ポーランドをはじめとする東欧諸国においてBWRX-300の建設計画を進めている、そして、規制上の教訓を活用するため、GVH社とともに、英政府の「未来の原子力実現基金(Future Nuclear Enabling Fund:FNEF)」からの補助金交付を申請し、GDA申請や商業展開にむけた準備活動に充てている。OSGE社のR. カスプロウCEOは、「当社は、手頃な価格でクリーンかつ信頼性の高いエネルギーで英国を支援する新たな一歩を踏み出した。GDAステップ2の完了は、世界で導入に最適なSMRであることを意味する」と語った。BWRX-300への期待は、世界中で高まっている。加オンタリオ州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社のダーリントン・サイトでは、BWRX-300初号機の建設が進められている。サイト内で計4基が建設される予定。一方、米原子力規制委員会(NRC)は、テネシー峡谷開発公社(TVA)がテネシー州オークリッジに有するクリンチリバー・サイトでの米国初となるBWRX-300の建設許可申請を受理し、審査中である。OPG社とTVAは、米デューク・エナジー社、ポーランドのシントス・グリーン・エナジー社(OSGE社に50%出資)とともに、BWRX-300の標準設計に共同出資している。BWRX-300は、電気出力30万kWの次世代BWR。2014年にNRCから設計認証(DC)を取得した第3世代+(プラス)炉「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」をベースにしている。
12 Dec 2025
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デンマークの業界団体、研究機関者、労組などはこのほど、同国の原子力発電導入をめぐる議論に建設的に貢献すべく、「原子力発電アライアンス」(Nuclear Power Alliance)を設立した。40年間、原子力利用が事実上禁止されてきた同国において、技術中立的な議論を提唱し、エネルギー安全保障強化のため、原子力への投資を促す狙いがある。アライアンスには、デンマーク産業連盟、デンマーク金属労働者ユニオン、ノボ・ノルディスク財団が中心となり、化学エンジニアリング会社のトプソー、エンジニアリングコンサルタント会社のニラス、原子力への投資を目的としたプライベート・エクイティファンドなどが参加する。客観性と技術的中立性を重視した分析を提供し、政策立案者や行政、一般市民を含む幅広い層との対話を進める。デンマーク金属労働者ユニオンのE. ニールセン・ビジネス政策責任者は、「原子力は太陽が照らさず、風が吹かない間にグリーン電力を供給し、産業界での雇用を確保するために不可欠かつグリーン移行の重要な補完技術。将来のエネルギー需要と競争力の考慮から、新たなグリーン技術を偏見なく検討、40年続いた原子力発電禁止を解除し、国際的な技術開発の一員となるため、原子力の研究開発への投資は不可欠」と語った。デンマークでは、風力、太陽光、バイオ燃料などの再生可能エネルギーが同国の電力の80%以上を占めている。デンマーク産業連盟のT. ラニス事務局次長は、「2024年にM. ドラギ・元欧州中央銀行総裁が欧州委員会(EC)の要請を受けて作成した報告書『欧州の競争力戦略』では、エネルギーと技術は安全保障上の重要ツールであり、欧州のエネルギー価格高騰が欧州の競争力低下と外国勢力への依存の主たる要因に挙げた。欧州連合(EU)は現在、エネルギー需要の約60%をEU域外から輸入しており、重要なインフラの多くが中国と米国技術に集中している。原子力は非常に手頃な価格で、予測可能で安定したエネルギーを産業に提供できる」と主張した。アライアンスは、競争力のある電力価格の実現と、第三国依存の低減を図るには、再生可能エネルギーと原子力の両方への大規模な投資、そして産業の消費側の電化に向けた集中的な取組みが必要であるとの考えを示した。また、世界の投資家の間で原子力への関心が高まる中、デンマークが「不十分な制度設計や政府保証の不足」によって投資機会を逃さないようにすることが極めて重要だとし、かつての風力発電と同様に、原子力はデンマークをグリーン発電の革新拠点として再び注目を集める可能性を秘めていると指摘した。さらに、国連、国際エネルギー機関、欧州委員会などの国際機関は、原子力を統合されたエネルギーシステムの中で不可欠かつ持続可能な構成要素とみなしており、デンマークのエネルギー政策はこの視点を反映すべきであると主張。なお、アライアンスが念頭に置くのは、フィンランドのオルキルオト発電所のような大型炉ではなく、小型モジュール炉(SMR)である。EUのSMR戦略にデンマークの利益が反映されるよう、国際協力の枠組みで議論を進める考えだ。デンマークでは、1985年の議会決定以来、原子力発電利用の検討が禁止されてきたが、今年5月、国会議員がエネルギー安全保障の観点から原子力の役割を調査することを可決し、方針転換に向けた動きが始まっている。アライアンスは、原子力をエネルギーミックスに統合すれば、供給の予測可能性が高まり、エネルギー安全保障が強化されると強調。円滑なエネルギー移行の確実に進めるには、厳密な分析と国際協力に基づく判断が必要であるとしている。
12 Dec 2025
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米エネルギー省(DOE)は12月2日、米国における先進的な第3世代+(プラス)軽水炉小型モジュール炉(SMR)の米国内導入を加速する「ファースト・ムーバー・チーム支援(First Mover Team Support)」の対象として、テネシー峡谷開発公社(TVA)とホルテック・ガバメント・サービス社を選定したと発表した。本支援は、2025年3月にDOEが募集した総額9億ドルの助成金支援のうち、最大8億ドルを活用するもので、電気事業者、炉メーカー、建設会社、エンドユーザーなどがコンソーシアムを組んで参加することが条件。これによりDOEは、2030年代初めの導入と国内サプライチェーンの強化を目指す。DOEのC. ライト長官は、「先進的な軽水炉SMRは、原子力ルネサンスの到来と米国のエネルギー支配の拡大に向けた大統領令の前進を後押しする。データセンターとAI産業の成長を促進し、より強固で安全な電力網を強化するために不可欠な、信頼性の高い24時間稼働の電力を供給する」と強調した。DOEは、米国の電力需要は、消費者のニーズ、データセンターの成長、AI利用の増加、産業部門の恒常的な電力需要によって、今後数年間で急増すると予測。SMRはエネルギー集約型部門に信頼性の高い電力の提供とコンパクトなサイズおよびモジュール設計により柔軟な設置が可能であり、特に、軽水炉型SMRが、米国の既存の軽水炉を支えるサービスとサプライチェーンの活用により、短期間で導入可能な利点を指摘する。第3世代+炉の実証を前倒しし、既存の軽水炉と先進炉とのギャップを埋めたい考えだ。TVAは、GEベルノバ日立ニュークリアエナジー社製の「BWRX-300」(BWR、30万kWe)をテネシー州クリンチリバー・サイトへの配備を進めるとともに、インディアナ・ミシガン・パワー社およびエレメンタル・パワー社の追加ユニットの配備を加速する計画である。さらに、国内の原子力サプライチェーンパートナーであるスコットフォージ社、ノースアメリカン・フォージマスターズ社、BWXテクノロジーズ社、エーコン社と協力する。その他の支援パートナーには、デューク・エナジー社、オークリッジ・アソシエイテッド・ユニバーシティ、電力研究所(EPRI)などがある。ホルテック・ガバメント・サービス(ホルテック)社は、ミシガン州コバートにある運転再開にむけて準備中のパリセード原子力発電所サイトに、同社製SMR-300(PWR、30万kWe)を2基配備し、国内外での追加受注の実現可能性を評価する計画。ホルテック社は、技術ベンダー、サプライチェーンベンダー、韓国の現代E&C社との提携による原子力プラント建設業者、プラント運営者、近隣の電力会社やエンドユーザーに電力を販売する電力販売業者という役割を全て担うことで、SMR導入に向けた革新的なワンストップショップ方式を推進している。DOEは両社に4億ドルを配分。残りの1億ドルについては、「ファスト・フォロワー・導入支援(Fast Follower Deployment Support)」として、第3世代+SMRのさらなる配備の促進に向け、設計、許認可申請、サプライチェーン、サイト準備などの分野で国内の原子力産業の発展を妨げてきた主要課題の解決に充てるべく、支援対象を今年末までに決定する予定。
11 Dec 2025
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米D.トランプ大統領は11月24日、産学官が連携し、国家主導で人工知能(AI)開発を推進する「ジェネシス・ミッション(Genesis Mission)」を立ち上げる大統領令に署名した。政府が保有する科学データと研究基盤を統合し、科学研究にAIを活用して技術創出を加速するとともに、研究支援に特化した新たなAIモデルを国家として開発する二つの取り組みを進める。重点分野には原子力も含まれ、米エネルギー省(DOE)がプロジェクトの中心的役割を担う。大統領令は、構想を「かつてのマンハッタン計画に匹敵する規模とスピード感で推進すべき国家的課題」と位置付け、その重要性を強調した。ミッションでは、DOEと傘下の17の国立研究所が連携し、国家のスーパーコンピューターを含む研究インフラを横断的に活用する「AIプラットフォーム」を構築する。また、政府が保有する膨大な科学データを一元的に統合し、研究支援に特化した「科学用ファウンデーションモデル(Scientific Foundation Models)」の新規開発を進める。AI活用の重点領域としては、先端製造、バイオテクノロジー、重要素材、核分裂・核融合エネルギー、量子情報科学、半導体・マイクロエレクトロニクスなど、国家安全保障や産業競争力に直結する分野が挙げられた。原子力は主要領域のひとつとして明確に位置づけられている。DOEは特設ページを開設し、ミッションを「エネルギー」、「基礎研究」、「国家安全保障」の三本柱で説明。このうち原子力分野では、次世代原子炉の開発を掲げ、SMR(小型モジュール炉)の設計最適化や許認可手続きの効率化を、AIツールと連携して進める方針を示した。AIの導入により、開発期間の短縮と安全性・性能の向上を図るとしている。ミッションのディレクターには、DOE科学担当次官のD.ギル氏が就任した。MITで電気工学・コンピューターサイエンスの博士号を取得し、IBMで研究部門を率いた経歴を持つギル氏は、AI、量子、核融合、バイオなどで中国が急速に台頭している現状に触れ、「これは必ず勝利しなければならない競争だ」と強調。さらに第二次大戦期のマンハッタン計画を引き合いに、「科学技術は国家の戦略的優位性を決定づける」と述べ、ミッションの緊急性と国家的重要性を訴えた。
11 Dec 2025
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ブルガリアのコズロドイ原子力発電所・新規建設会社(Kozloduy NPP–New Builds PLC=KNPP-NB)は12月2日、首都ソフィアで、ブルガリアのZ.スタンコフ・エネルギー相と加オンタリオ州のS. レッチェ・エネルギー・鉱業相の立会いの下、コズロドイ発電所7-8号機向けの新規建設プロジェクトに向けて、加企業3社のコンソーシアムと最長10年間にわたるオーナーズ・エンジニア契約を締結した。同プロジェクトでは、米ウェスチングハウス社製AP1000(PWR、125万kWe)×2基を建設する。同コンソーシアムは、加ローレンティス・エナジー・パートナーズ(Laurentis)社、その子会社であるカナデ・ニュークリア・パートナーズ(CNPSA)社およびBWXTカナダ(BWXT)社から構成され、オーナーズ・エンジニア契約額は数億ユーロ規模とされる。コンソーシアムは、コズロドイ・サイトにおける新規建設プロジェクトのすべての段階において、発注者であるプラントオーナーになり替わり、専門的な技術助言サービスとプロジェクト管理を行う。その作業は2段階のフェーズで構成。フェーズ1では、建設可能性のレビュー、初期プロジェクト計画、エンジニアリング、調達、建設交渉の準備など、最終投資決定(FID)前のフロントエンドサービスの活動に焦点を当てる。FID後のフェーズ2では、設計や建設管理、および試運転プロセスを通じて支援を行う。コンソーシアムはオーナーズ・エンジニアとして、技術的監視と厳格な安全および品質管理のバランスを取りつつ、プロジェクトがプラントオーナーの目的、安全基準、規制要件に沿って進展しているかを確認する。スタンコフ大臣は、「コンソーシアム参加企業は、効率的に、期限内、予算内で作業できることをすでに証明している。彼らのノウハウは大きな可能性をもたらす」と指摘。加オンタリオ州のレッチェ大臣は、「オンタリオ州は、クリーンな原子力発電で世界的なリーダーシップを強化している。今回のパートナーシップにより、オンタリオ州はブルガリアの大規模な原子力拡大を支援し、信頼性の高い手頃な価格の電力供給を支援していく」と語った。両大臣は長年の原子力経験を持つ両国間協力の戦略的重要性を強調。新規建設プロジェクトにおけるパートナーシップが両国の経済にとり付加価値の連鎖を生み出すとの見解で一致した。KNPP-NB社のP. イワノフ社長は、「カナダ企業のコンソーシアムを選択したのは、原子力プロジェクトを成功裏に実施した実績があるため。ブルガリアの専門家とエンジニアが少なくとも30%、請負業者としてプロジェクトに参画することを期待している」と述べた。ローレンティス社は、オンタリオ州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社の100%子会社であり、CANDU炉をはじめとするプロジェクト管理、許認可、運転準備、運転員支援などで長年の経験とノウハウを有する。オーナーズ・エンジニアの専門知識は、炉型の種類を問わず活用可能とし、OPG社のダーリントン・サイトにおけるSMR「BWRX-300」建設プロジェクトも支援。欧州では、CNPSA社を通じて、ルーマニア国営原子力発電会社のニュークリアエレクトリカ(SNN)との枠組み合意に基づき、チェルナボーダ原子力発電所1号機改修プロジェクトのオーナーズ・エンジニアリングを実施している。BWXTカナダ社は、オンタリオ州にある原子力発電所の改修などの大規模プロジェクト支援の豊富な実績を有している。KNPP-NB社は2024年11月、WE社ならびに韓国の現代E&C(現代建設)社とAP1000×2基に関するエンジニアリング・サービス契約を締結している。コズロドイ発電所7号機は2035年に、8号機は2037年に稼働を予定。
10 Dec 2025
584
仏燃料製造大手フラマトム社は11月25日、アラブ首長国連邦(UAE)で運転中のバラカ原子力発電所(APR1400、140万kWe×4基)向けに、先行試験用燃料集合体(LFA:Lead Fuel Assemblies)を製造したと発表した。同LFAは米国ワシントン州リッチランドの施設で製造された。同施設は加圧水型炉向け燃料の供給実績がある。バラカ発電所を運営する原子力事業会社ENEC社とフラマトム社は今年7月に燃料供給契約を締結。今回の試験用燃料の導入は、これまでの韓国電力公社(KEPCO)系以外にも燃料供給先を求めるENEC社の長期戦略に基づいている。UAEでは、バラカ発電所が国の電力需要の約25%を担う見通しであり、燃料供給の多様化はエネルギー安全保障上の重要課題と位置づけられる。製造されたLFAは、新設計の安全性や性能、既存燃料との互換性を評価するための試験用燃料。評価結果に応じて改良が加えられ、次の段階であるLTA(Lead Test Assemblies)による本格試験に進み、合格すれば「通常燃料」として採用される。フラマトム社によると、今回のLFAはバラカ発電所に搬入され、「燃料適格性プログラム」の一環として実運転条件下で安全性、互換性、性能が評価・検証される。複数サイクルにわたる試験を経て適格性が確認されれば、商業使用への移行を目指す。フラマトム社は、バラカで採用されている韓国製APR1400の基礎となったシステム80プラス(米コンバッション・エンジニアリング社が開発した改良型PWR)系向け燃料を40年以上にわたり製造してきた実績を持つ。
09 Dec 2025
543
中国核工業集団公司(CNNC)が福建省で建設を進める漳州(Zhangzhou)原子力発電所2号機(PWR=華龍一号〈HPR1000〉、112.6万kWe)が11月22日、送電を開始した。同発電所では今年1月に1号機が営業運転を開始しており、2基体制での本格稼働により年間約200億kWhの電力供給を見込んでいる。これにより、年間1,600万トン規模のCO₂排出量削減効果が期待されているという。2号機は2020年9月に着工。2025年10月11日より燃料装荷を実施し、11月3日に初臨界を達成した。今後は性能試験を進め、年内の営業運転開始を予定している。漳州原子力発電所は、中国独自の第3世代炉「華龍一号」を計6基整備する計画で、現在3・4号機が建設中、5・6号機は予備工事を進めている。6基体制により、福建省南部の主要都市である厦門(Xiamen)市と漳州市の電力需要の約75%を賄えるという。
09 Dec 2025
495
米原子力規制委員会(NRC)は12月1日、米先進炉開発ベンチャーのテラパワー社が開発するナトリウム冷却高速炉「Natrium」炉を設置する「ケンメラー発電所」1号機の建設に関する最終安全評価を予定より1か月早く完了したと発表した。評価では、建設許可の発給を妨げるような安全上の問題は確認されなかった。NRCの原子炉安全諮問委員会(ACRS)は、ケンメラー発電所1号機の安全関連の側面から審査し、11月16日に審査結果を提出。NRCは今後、委員会による建設許可判断に向けて、最終安全評価書(FSER)および最終環境影響評価書(FEIS)を取りまとめ、委員に提出する。委員会はこれらが建設許可の要件を満たすかどうか判断した上で、許可発給の票決に入る。テラパワー社は2024年3月、「Natrium」炉を、ワイオミング州ケンメラーの石炭火力発電所の近傍にケンメラー原子力発電所1号機として建設するため、同社の子会社として同発電所の所有者・運転者となるUS SFR Owner(USO)に代わり、建設許可申請を行った。NRCは5月に正式な審査を開始。今年6月には本体工事に先行して非原子力部分を施工できる例外措置を認めた。現在、基礎工事など非原子力部分の建設が進行中。さらに10月には、ケンメラー1号機について、NRCの環境影響評価が完了したと発表。NRCは7月、テラパワー社との緊密な情報交換の効果と電力需要増に対応する先進炉の受入れ、認可プロセスの迅速化を目的とする5月のNRC改革に関する大統領令も考慮して、Natrium炉の建設許可申請の審査を予定より6か月前倒し、今年12月末までに完了させる方針を示していた。Natriumは、出力34.5万kWeのナトリウム冷却高速炉で、熔融塩を用いたエネルギー貯蔵システムを備える。貯蔵機能を活用することで、出力を50万kWeまで引き上げ、5時間半以上維持できる点が特徴で、再生可能エネルギーとの統合を容易にする。テラパワー社はNatrium炉の送電開始を2030年と見込んでいる。
08 Dec 2025
767
英国で廃止措置が進むサイズウェルA(SZA)発電所で発生した再生コンクリートが、サイズウェルC(SZC)原子力発電所の建設工事で本格的に活用される。運営するSZC社と英国原子力廃止措置機関(NDA)が11月21日に発表した。SZAはNDAの管理下で廃止措置が進む原子力発電所で、SZCの建設サイトに隣接して立地している。両者は循環型資材の活用により、環境負荷と調達コストの双方を低減できるとして、英政府および地域当局も評価している。再生コンクリートは、SZCの建設エリアで地盤整備に用いる下地材として使用される。SZAでは今年9月以降、WRAP(資源行動プログラム)品質プロトコルと呼ばれる再生資材の品質基準に基づき、破砕・試験・認証作業が進められており、資材は厳格な安全試験を経ている。認証後の資材はSZCのメインエリアに搬入され、輸送作業はすでに完了した。英国政府が2025年6月に公表したSZAの解体作業の進捗によれば、NDA傘下の原子力復旧サービス(NRS、旧マグノックス社)がタービン建屋などを解体し、基礎部コンクリート破砕を実施。タービンホールや消防署、電気設備付属棟からは計1万7千トン超のコンクリートと瓦礫が撤去され、約56キロメートルのケーブルも除去されている。粉砕・加工された廃材のうち、再生コンクリート約1万5千トンがSZCで活用される。今回の取り組みは、環境庁や地方自治体の担当者が、廃棄物となる資材の有効活用をSZC側に提案したことが契機となった。また、SZAで発生したスクラップ金属約1万1千トンは契約に基づき売却され、収益は300万ポンド(約6.2億円)超となる見込みで、SZAの廃炉費用に充当される。両サイトの連携により、①資材調達コストの抑制②距離の短縮によるCO₂排出量削減③資源循環の促進④約800台分の地域内の交通負荷軽減など、多方面で効果が得られたという。NRSのシニアプロジェクトマネージャー、W.ヒース氏は再利用により約28トンのCO₂削減につながったと説明し、「これはNRSにとって初の快挙であり、安全性、持続可能性、地域貢献の価値を体現した取り組みだ」と述べた。環境庁のS.コーブル氏も「持続可能な原子力サイトの廃止措置の好例だ」と評価し、他サイトへの展開にも意欲を示している。
08 Dec 2025
588
台湾の経済部(経済省)は11月27日、台湾電力による原子力発電所の現状評価報告書を承認した。同報告書によると、金山発電所1-2号機(BWR、60万kWe級、各2018年12月、2019年7月閉鎖)は重要な設備の多くがすでに撤去されており、運転再開の実現可能性はないと評価されたものの、國聖発電所1-2号機(BWR、100万kWe級、各2021年12月、2023年3月閉鎖)、ならびに馬鞍山発電所1-2号機(PWR、90万kWe級、各2024年7月、2025年5月閉鎖)については、運転再開の可能性があると評価。台湾電力は今後、自主的安全検査の開始と運転再開計画の策定を同時に進め、両発電所の運転再開の計画を2026年3月に、核能安全委員会(原子力安全委員会)に提出する予定である。経済部によると、台湾電力は今年5月に改正された「核子反応器設施管制法(原子炉等規制法に相当)」とその施行細則に基づき、①プラント設備、②人員配置、③燃料の乾式貯蔵、④同型プラントの運転期間延長の状況、⑤地質耐震、⑥安全検査整備の状況、⑦電力供給効率の7つの観点から、閉鎖済み3サイトの原子力発電所の現状評価を実施した。評価の結果、金山発電所の2基はそれぞれ停止から11年以上、8年以上経過しており、設備は老朽化が進んでいるうえ、重要な発電設備の多くが撤去されている。また多くの計器類と電気部品で交換とアップグレードが必要となるほか、福島第一原子力発電所と同型であり、日本でも廃止状態に入っているため、運転再開の可能性はないと判断された。國聖発電所の安全および支援システムは、運転期間中と同様に定期的な大規模点検と保守を継続。一方、発電システムは停止期間が2年を超えており、長期の大規模点検と復旧管理計画の実施、機能確認が必要となる。ただし初期評価では、運転再開の条件を備えていると判断された。馬鞍山発電所では機器設備はまだ撤去されておらず、すべて運転期間中の基準に基づいた定期的な大規模点検と保守が実施されている。使用済み燃料は炉内から取出し済みであり、燃料プールにも余裕があるため、初期評価では運転再開に向けた条件を備えていると判断された。台湾電力は老朽化や耐震性などに関する自主的安全検査により、各プラントの運転期間延長の可能性と必要な補強について評価するが、馬鞍山発電所での安全検査は約1.5~2年かかる見込み。國聖発電所では、使用済み燃料の乾式貯蔵施設の稼働が約10年遅れており、完成後に炉内の使用済み燃料の搬出を行うため、安全検査の期間は馬鞍山発電所より長くなると予想されている。経済部は台湾電力に対し、厳格に安全検査作業を行い、国際基準に沿った安全確保を求めており、海外の専門機関による技術審査も必要だとしている。台湾ではこれまで大停電が頻発しており、産業界は安定的な電力供給を求め、政府に対しエネルギー政策の見直しを要請してきていた。ネットゼロ排出の気候目標と国内のエネルギー供給構造の安定を維持するため、立法院(国会)で「核子反応器設施管制法」の第六条条文のうち、原子力発電所の運転期間を最長で20年延長とする改正法案が審議、今年5月に可決された。今年8月には、馬鞍山発電所の運転再開の是非を問う、国民投票を実施。賛成多数となったが、成立要件を満たさず不成立となった。頼清徳総統は本投票結果を受けて、脱原子力政策の見直しにあたっては、①原子力安全、②放射性廃棄物問題の解決、③社会的コンセンサスの三つの原則の遵守が大前提であり、運転再開の可否については、まずは5月の改正法に基づき、核能安全委員会が安全審査の方法を定め、第二に、台湾電力がその方法に基づいて自主的安全検査を行う必要があるとの談話を発表している。
05 Dec 2025
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米国の先進炉と燃料リサイクルの開発企業、オクロ社は11月19日、独シーメンス・エナジー社とマイクロ炉「オーロラ」向け電力変換システムの設計契約を締結した。両社は2024年8月に優先サプライヤー契約を結んでおり、協業は実行段階へと移行した。今回の契約では、シーメンス社が蒸気タービンや発電機を中心に、関連機器の詳細設計と設備配置の策定を担う。主要機器の製造開始が可能となり、初号機建設の具体化へ前進した。オクロ社は、産業分野で実績のある既製機器を活用する設計方針が、建設コストや開発期間の圧縮につながると説明。シーメンス社も、高効率で信頼性の高い発電設備の提供を通じ、次世代炉の事業化を支援する姿勢を示した。オーロラは金属燃料を用いるナトリウム冷却高速炉で、出力は1.5万〜5万kWeの範囲で調整可能。HALEU((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))燃料により20年以上の連続運転を想定し、高い熱効率を生かした分散型電源としての利用も見込む。同社は米アイダホ国立研究所(INL)敷地内に建設する初号機を商業展開に向けた実証炉と位置づけ、開発を進めている。さらにオクロ社は11月11日、INL内で計画するオーロラ燃料製造施設(A3F)について、米エネルギー省(DOE)アイダホ事業局から原子力安全設計契約(NSDA)の承認を得たと発表。DOEの先進燃料製造ライン整備を後押しするパイロットプログラムで最初の承認例で、審査は提出からわずか2週間で承認された。A3Fでは使用済み燃料を再処理して得た金属燃料をオーロラ向けに製造する。初号機の商業運転に向け、燃料供給と発電所建設の整備が並行して進んでいる。
05 Dec 2025
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韓国電力公社(KEPCO)は11月18日、UAEの原子力事業会社ENEC社と、原子力分野およびデジタル技術分野での協力を拡大するための覚書(MOU)を締結した。韓国・UAE首脳会談に合わせて締結され、既存の連携をさらに発展させる。合意は、原子力技術分野での協力と、人工知能(AI)やデジタルトランスフォーメーション(DX)を導入した運転・保守分野の高度化の二本柱で構成される。原子力技術分野では、次世代炉やSMR(小型モジュール炉)の共同評価、技術情報の共有、共同研究、人材育成を進める。AI・DX分野では、予知保全や運転最適化、設備の仮想モデル(デジタルツイン)の活用を含む新たな運用技術の導入を目指す。両社は共同で「ENEC–KEPCO AIイノベーション・ラボ」を設立し、機械学習を用いた運転効率向上システムの開発にも取り組むとしている。さらに、両国は韓国初の原子力輸出案件であるUAEのバラカ原子力発電所(APR1400、140万kWe×4基)で得た経験を生かし、第三国での潜在的な原子力プロジェクトに関する協力も推進する方針だ。署名は11月18日の韓国・UAE首脳会談に合わせて行われた。翌19日には、KEPCO社のK.ドンチョルCEOとENEC社のM.アルハマディCEOが個別に協議し、国際原子力事業での協力可能性を検討。M.アルハマディCEOは「世界の原子力分野は新たな局面を迎えており、協力の機会を見出すことは双方に価値をもたらす」と述べた。韓国はUAE初の原子力発電所であるバラカ発電所の建設を主導し、同発電所は4基すべてが2021~2024年にかけて商業運転を開始した。運転・保守はKEPCO社とENEC社が出資する合弁企業「NAWAHエナジー社」が担っている。今回の協力枠組みは、これらの実績を基盤として両国の関係を発展させるもので、国際原子力市場における両国の競争力強化を目指す考えだ。
05 Dec 2025
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南アフリカのK. ラモホパ電力・エネルギー相は11月16日の記者会見で、同国独自のペブルベッド・モジュール型高温ガス炉(PBMR)の開発計画を再開する方針を閣議決定したことを明らかにした。また、PBMR技術の国産化と輸出産業化を目指して1999年に設立されたPBMR社について、国営電力会社エスコム(Eskom)から南アフリカ原子力公社(Necsa)へ移管することも発表。同大臣は、これにより南アフリカが小型モジュール炉(SMR)技術と燃料サイクル分野の「主要プレイヤーに立ち戻る」と強調した。PBMRは3重被覆層・燃料粒子(TRISO)燃料を使用し、ヘリウムを冷却材とするSMRの高温ガス炉(電気出力16.5万kW、熱出力40万kW)。750℃の蒸気供給が可能で、炉心溶融の心配が無いなど高い安全性を特長とする。大型炉と比べて初期投資が少なく、送電インフラが未整備の地域にも適した炉とされる。エスコムは1993年からドイツの技術をベースに開発プロジェクトに取り組んできたが、顧客・投資パートナーの確保難航や当時の経済不況により、政府は2010年9月にPBMR開発計画の中止を発表。以降PBMRは、知的財産権保持のため保存整備(Care and Maintenance: C&M)状態に置かれていた。ラモホパ大臣は今年10月、統合資源計画(IRP)2025を発表。2039年までに約520万kWeの原子力発電設備を新設する計画に言及したうえで、「アフリカでは、6億人が電気にアクセスできない。アフリカ大陸の工業化、脱炭素化計画を支えるうえで、クリーンなベースロード電源となる原子力は非常に重要な役割を果たす」と述べ、原子力の重要性を改めて強調した。さらに、今回のPBMRのC&M解除の決定により人材回帰が期待されるとし、「大学や研究機関と協力して原子力科学者のパイプラインを再構築する。燃料開発研究所も再開し、高温ガス炉燃料の世界的供給に向けた商機を作っていく」と意欲を示した。同大臣はまた、今年8月に林業・水産・環境省が西ケープ州ドイネフォンテインを新規建設サイトとして承認したことに触れ、少なくとも240万kWeを建設できると説明。ドイネフォンテイン・サイトはクバーグ原子力発電所サイトに隣接しており、他サイトについても東ケープ州で調査中であるという。Necsaは、2010年から休止していたPBMR開発プロジェクトの復活を歓迎。様々な用途向けのSMRを中心とした原子力発電開発が世界的に拡大していることは、PBMR技術の復活にとっても良い兆しであると評価した。そのうえで、NecsaのL. タイアバッシュCEOは、「Necsaはこの燃料製造技術を活用し、技術と知的財産の開発に向け、戦略的パートナーと協力する用意がある」と述べ、南アフリカが再びSMR研究の最前線に立つ展望を示した。現在、南アフリカではアフリカ大陸で唯一稼働する原子力発電所であるクバーグ1、2号機(PWR、各97万kWe)がそれぞれ1984年と1985年から運転中。1号機は国家原子力規制委員会(NNR)から2044年7月までの20年間の延長認可を取得。同2号機についても、2045年11月までの延長認可を取得している。
04 Dec 2025
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米陸軍は11月18日、陸軍が10月に開始したマイクロ炉導入プロジェクト「ヤヌス計画(Janus Project)」の最初のステップとして、マイクロ炉発電所の設置候補地を発表した。拠点の特性や電力需要、既存インフラの状況を踏まえ、全米9つの陸軍施設を特定した。米陸軍は、配備先は1拠点に限らず、条件を満たす複数拠点への導入拡大も視野に入れている。選定されたのは以下の9施設。・フォート・ベニング(ジョージア州)・フォート・ブラッグ(ノースカロライナ州)・フォート・キャンベル(ケンタッキー州)・フォート・ドラム(ニューヨーク州)・フォート・フッド(テキサス州)・フォート・ウェインライト(アラスカ州)・ホルストン陸軍弾薬工場(テネシー州)・ルイス・マッコード統合基地(ワシントン州)・レッドストーン・アーセナル(アラバマ州)陸軍は今後、各施設の環境・技術的要件の追加評価を進め、最終決定に向けた検討を行う。ヤヌス計画は、2025年5月にトランプ大統領が署名した大統領令「国家安全保障のための先進原子炉技術の配備」に基づき、10月14日に公表された。近年、軍事作戦領域ではAI(人工知能)の導入や次世代兵器システムの稼働により電力需要が急増しており、基地の電力レジリエンス強化が課題となっている。計画では、米エネルギー省(DOE)と協力し、民間の送電網から独立したマイクロ炉を陸軍基地に設置することで、任務遂行に不可欠な電力の確保を図る。初号機の設置は2028年までを目標にしている。さらに米陸軍は、国防イノベーション・ユニット(DIU)と協力し、民間企業から幅広く技術提案を募る枠組みを整備した。DIUは、必要な技術分野を示す関心領域通知を公開し、産業界にマイクロ炉の導入に向けた提案を募集している。両者は、NASAが民間宇宙輸送で採用した方式を参考に、開発の進捗に応じて企業を段階的に支援する契約モデルを構築している。陸軍は燃料サイクルや関連サプライチェーンの監督を担いながら、民間技術を取り込む形で初期配備に向けた検討を進める方針だ。
04 Dec 2025
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