NEIトップ講演にみる米原子力産業の現状 米原子力4倍目標へ「大規模展開が課題」

米原子力エネルギー協会(NEI)のM.コースニック会長兼CEOは5月12日、会員企業やその他の原子力関係者らを招いて毎年開催している「Nuclear Energy Policy Forum」で、「State of the Nuclear Industry 2026(原子力産業界の現状)」と題する講演を行いました。

同氏は、米国の原子力産業を取り巻く環境について、「追い風が吹いている(momentum is on our side)」と強調。この1年の主な動きとして、①トランプ大統領による、原子力導入を加速させる4本の大統領令、②州政府による原子力政策への強い支持、③原子力規制委員会(NRC)の規制改革、④民間部門からの本格的な投資、⑤世界各地で進む主要プロジェクトーーを挙げ、「原子力産業は拡大局面に入りつつある」との認識を示しました。

講演ではこのほか、政策支援、規制改革、AI・データセンターに伴う電力需要の増加、燃料サプライチェーンの強化、人材育成、既設炉の活用、先進炉開発など、多面的な動きについて紹介。米国の原子力産業が拡大局面に入りつつあるなか、問われているのは「建設できるかどうか」ではなく、「大規模展開できるかどうか」との見方を示しています。

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同氏の講演概要は、以下のとおりです。

※本資料は、NEI会長兼CEOの講演内容をもとに、米国の原子力産業をめぐる主要動向を整理した概要資料です。海外動向の把握や、今後の参考資料としてご活用いただければ幸いです。また、資料の最後には、今回の講演内容をふまえてJAIFがNEIに対して行った追加質問と、その回答を掲載しています。あわせてご覧ください。

州政府の動き:変化の最前線

原子力をめぐる政策転換は、州レベルで先行している。

インディアナ州は、全米初となる20%の原子力製造税額控除を導入した。

ユタ州では、「Operation Gigawatt(州の電力供給をクリーンで信頼性の高いエネルギーで倍増させる計画)」が前進した。

ニューヨーク州は、新たに500万kWの原子力導入を約束した。

すでに全米最大の原子力群を有するイリノイ州は、さらに拡大を計画している。

今年これまでに、13人の州知事が施政方針演説で原子力を支持し、これは過去最多となる。

テキサス州が原子力プロジェクト調整のための新たな原子力オフィスを設立して以来、他の8州でも同様の法案が提出されている。

また、ニューイングランドの6州すべての知事が、先進原子力を検討する地域的な取組みに署名した。

米ニューヨーク州のK. ホークル知事(民主党)
© @GovKathyHochul/ X

連邦政府の動き:原子力主導をめざす米国

D. トランプ政権は、2050年までに米国の商業用原子力発電設備容量を4倍にするという野心的な目標を掲げた。

昨年5月にトランプ大統領が署名した4本の大統領令は、業界が長年求めてきた内容を反映している。

  • 原子力発電所の再稼働および新設に対する政府支援
  • NRC(原子力規制委員会)の規制改革
  • 原子力人材の拡充
  • 国内燃料サイクルの強化
  • 原子力技術の海外輸出促進

NEIは、こうした政策環境を好機と捉えている。

すでにウェスチングハウス(WE)社は、2030年までに米国内で10基の大型炉を建設中にするという政権目標の実現に向け、米政府と連携している。

また、エネルギー省(DOE)は、AP1000導入に関心を持つ複数の米の電力会社向けに、数十億ドル規模の長納期機器に関する資金調達提案を検討している。

さらに、10社がDOEの原子炉パイロット・プログラムに選定された。各社は、米独立記念日(7月4日)までの臨界達成を目標としている。

加えて、「Nuclear Energy Launch Pad」が、原子炉パイロット・プログラムで始まった先進炉導入の取組みを引き継いでいく。すでに4社の技術開発企業が選定されている。

米軍もまた、原子力能力の開発を進めている。

  • 海軍は陸上SMRを検討
  • 陸軍はマイクロリアクター計画を推進
  • 空軍はRadiant社、WE社、Antares社を選定し、同様の取組みを推進
  • さらに、BWX Technologies社との連携により、「Project PELE」の下で可搬式マイクロ原子炉の試作機を建設中
Aalo-1(臨界試験炉) © @Aalo Atomics/X
Aalo Atomic社はDOE「原子炉パイロット・プログラム」に選定された10社のうちの一つ

規制の動き: NRCの規制改革

NEIが実施した調査によれば、現在、原子力を保有する電力会社は20か所の発電所で運転認可更新、29基で出力増強を進めている。さらに、今後15年間で2,340万kWの新設を計画している。

しかし、大統領の目標を実現するには、これだけでは到底足りない。

だからこそ、NRCにはフルスピードで対応してもらう必要がある。

そのためNEIは昨年、規制改革を前進させるため、NRCに対して100項目の提言を提出し、1,000を超える時代遅れの規制やガイダンス文書の見直しを求めた。

そして、すでにその成果は現れ始めている。

  • 第2回目の運転認可更新(subsequent license renewal)の審査期間を50%超短縮
  • 原子炉監督プロセス(Reactor Oversight Process)の見直しにより、通常の検査時間を40%削減
  • 環境保護を維持しつつ、認可手続きを迅速化
  • この春には、先進炉設計や大規模展開により適した、柔軟な新たな規制枠組みを提示

NRCは現在、先進炉設計の審査でも予定より早いペースで結果を出している。

その具体例が、Kairos Power社のHermes実証炉、X-energy社のXe-100である。

TerraPower社のNatrium炉では、審査が予定より9か月早い18か月で完了し、非軽水炉としては半世紀ぶりの建設許可承認につながった。

さらに先月、Duke Energy社のH.B. ロビンソン2号機では、史上最速の運転認可更新審査が完了した。NRCは、今後の更新申請でも同様のスケジュールを適用する意向である。

H.B. ロビンソン原子力発電所 © Duke Energy

国際展開:世界的な拡大へ

今年初め、日本の首相がワシントンを訪問した際、日本はGE Vernova Hitachi(GVH)社が建設するSMRへの投資を表明した。GEはまた、オンタリオ州で4基のBWRX-300の建設を進めている。

ポーランドは、WE社とBechtel社との連携により、同国初の原子力発電所建設に向けた資金を確保した。英国は、米国との一連の協定締結を経て、先進原子力の市場導入に向けた枠組み整備を進めている。

カナダ、ハンガリー、ブルガリアでは、原子力発電設備容量の拡大に取り組む一方、台湾やイタリアでは原子力再開を検討し、さらにフィリピン、エルサルバドル、サウジアラビアでは、新たに原子力導入に向けた動きが進んでいる。

また、フィンランドでは世界初の深地層処分施設がまもなく操業し、スウェーデンもそれに続く見込みである。

最近では、欧州委員会(EC)のフォン・デア・ライエン委員長が「欧州が原子力に背を向けたことは戦略的な誤りだった」と発言。世界銀行のアジェイ・バンガ総裁も、原子力支援禁止方針の撤回について「長らく待ち望まれていたものだ」と述べた。

こうした認識は一部に限られたものではなく、世界各地で広がっている。エネルギー安全保障への懸念と経済成長への期待を背景に、世界のリーダーたちは同じ結論に達している。

建設工事が進むカナダ・ダーリントン新・原子力プロジェクト(DNNP)1号機 © OPG

政府資金:本格化する公的支援

米国政府は、この1年で本格的なコミットメントを行った。

州レベルでも支援が進む。

  • テキサス州は、3億5,000万ドルの原子力助成基金を創設
  • テネシー州は、すでに州が投資していた6,000万ドルに加え、さらに9,000万ドル超を原子力企業向けに確保
  • ワイオミング州は、新たな燃料製造施設支援として1億ドルを発表

さらに、超党派による政策支援も進んでいる。

最近では、リッシュ、ガイエゴ両上院議員が超党派法案「Accelerating Reliable Capacity (ARC) Act」を提出した。

この法案は、先行する事業者(early movers)による新規プラントの確保を後押しし、その過程で建設コストの低減を図るものである。

昨年6月には、議会がトランプ政権の支持のもと、原子力税額控除を維持した。この税制措置は、米国の原子力発電設備容量の維持・拡大に寄与している。

例えば、Duke Energy社は、カロライナ地域で6サイト・計11基を運転しており、暴風雨の多い地域で800万世帯に安定した電力を供給している。

原子力税額控除による6億ドルの節約分は、電気料金引き下げのため直接消費者に還元されている。

さらに4月には、ハリガン、パネッタ両下院議員が、超党派法案「Nuclear Rate Stabilization Act」を提出した。

この法案は既存の税額控除を強化し、公益事業者によるプロジェクト推進と消費者負担抑制を後押しするものである。

Orano社がテネシー州オークリッジで計画中のウラン濃縮施設の完成予想図 © Orano USA

民間資本:原子力への投資拡大

モルガン・スタンレーは2050年までの原子力投資額を2.2兆ドルと予測し、これは昨年の予測から47%増である。

2025年、原子力スタートアップは約30億ドルを調達した。

Terrestrial Energy社が昨年上場したのに続き、X-energy社も先月上場した。10億ドル超を調達し、これは原子力分野の公開株式調達として過去最大となった。

さらに数週間前には、Brookfield社とThe Nuclear Company社が新たな合弁会社を設立し、サウスカロライナ州のV.C. サマーを含む、WE社設計炉の建設推進に乗り出した。

燃料分野でも投資が進んでいる。

Urenco社は、National Enrichment Facility向けに50億ドルの民間資本を呼び込んでいる。

Global Laser Enrichment社は、ケンタッキー州パデューカの濃縮施設に18億ドルを投資する計画を、そしてLIS Technologies社は、テネシー州オークリッジのウラン濃縮施設に14億ドルを投資する計画を発表した。

バージル・C・サマー2、3号機サイト © Santee Cooper

国際的な資本参加:日本と韓国

日本は、テネシー州およびアラバマ州でGVH社が建設するSMR向けに、400億ドルの投資を表明した。

また、AmazonとX-energy社は現在、韓国企業と連携し、サプライチェーン拡大に向けて500億ドルの資金動員を進めている。

韓国企業は、現在建設中のTerraPower社の原子炉向け部品製造にも参加している。

米国の原子力発電設備容量を4倍にすることは国内の優先課題かもしれない。しかし、それは実際にはグローバルなプロジェクトでもある。

AmazonがX-Energy社らとともに計画中のCascade Advanced Energy Facility © Amazon

電力需要:AI・データセンター需要

世界のデータセンターの電力消費は2030年までに倍増し、米国では3倍になる見通しである。

こうした需要増を背景に、Big Techは現在、4,000万kW規模の原子力電源の確保を進めている。

Metaは、TerraPower社、Oklo社、Vistra社と大型契約を発表した。

Googleは、NextEra社とアイオワ州のデュアン・アーノルド原子力発電所の再稼働に関する合意に達した

Kairos Power社は、Googleおよびテネシー峡谷開発公社(TVA)と連携し、データセンター向け電力供給に取り組んでいる

Amazonは、原子力プロジェクトに10億ドル超を投資している。

2029年に運転再開予定のデュアン・アーノルド原子力発電所 © NextEra Energy, Inc.

人材:2050年までに3倍必要

資金面だけでなく、持続的な成長のためには、人への投資も欠かせない。

現実には、2050年までに必要な人材を現在の3倍に増やさなければならず、それには相当な取組みが必要である。

ボーグル3、4号機が運転を開始してから3年が経つ。

両機の建設には、北米建設労働組合(North America’s Building Trades Unions)の8,000人超が携わった。

現在、この組合では、1950年代以来最大規模の技能訓練制度(apprenticeship program)の拡大が進んでいる。

アルビン・W・ボーグル3、4号機 © Georgia Power

既設炉活用:長期運転と再稼働

現在米国では94基が運転中で、電力の約20%を供給しており、既設炉の95%が80年超の運転をめざしている。

加えて、史上初めてNRCが閉鎖済みの原子炉の再稼働を承認した、ミシガン州のHoltec社のパリセードの再稼働(2026年後半予定)、ペンシルベニア州のConstellation社によるクレーン・クリーン・エネルギー・センターの再稼働(2027年予定)、デュアン・アーノルドの再稼働(2029年予定)が計画されている。

また、既設プラントに新技術を導入して強化する動きがある。

ペンシルベニア州のリメリック1、2号機では、制御システムのデジタル化が承認された。この初の取組みは、重要な既設資産をさらに強靭なものにできることを示している。

さらに、建設へのアプローチそのものを見直し、より効率的に進めていく必要がある。

Genesis Missionを通じて、科学者と技術者のチームが、AIを原子力分野の発展にどう活用するかを検討している。

また、MicrosoftとNVIDIAは、原子力産業向けの新たな生成AIツールを開発するための提携を発表、許認可手続きをより効率的かつ標準化された形で進めることをめざすものである。

リメリック・クリーン・エネルギー・センター © Constellation

JAIFによる追加取材(NEI回答)

今回のNEI会長兼CEOの講演内容をふまえ、JAIFはNEIに対し追加質問を行った。主な回答は以下のとおり。

Q1. 2050年4億kW目標実現の課題

A. 二つの優先課題がある。第一に、開発事業者が投資判断を行うためには、将来の見通しに対する予見可能性が必要である。その予見可能性は、事業リスクや資金調達リスクを適切に管理できるかどうかにかかっており、そのためには政府による支援が不可欠だ。
第二に、安全かつ信頼性の高い燃料サプライチェーンを構築することである。「札幌5(Sapporo 5)」と呼ばれる、米国、カナダ、フランス、日本、英国の首脳が合意した取組みを着実に実行することが必要だ。

Q2. 「大規模展開(scale)」とは何か

「大規模展開(scale)」とは、『1基建設して終わるのではなく、多数の原子炉を継続的に展開し、その規模を拡大していくこと』だ。
今後、データセンターだけでなく、製造業や電化の進展に伴う電力需要増加が予測されるなか、原子力の役割に対する認識が、COP28での「原子力3倍化宣言」などを通じて世界的に高まっている。実際、各国による政策支援に加え、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)などの国際金融機関も含めた、初号機(FOAK)導入を支える資金調達支援策、サプライチェーンや人材基盤の強化、規制改革、民間投資の拡大などが進展している。
一方で、FOAK建設には依然として不確実性が伴うことから、政策支援や新たな事業モデル、さらなる投資を通じて事業リスクを低減していく必要がある。

Q3. NRCの規制改革の進展と今後

A. NRCは現在、規制体系全体の包括的な見直しを進めている。その結果がどのようなものになるかは、年末までは分からない。一方で、講演のなかでも触れているように、第2回目の運転認可更新の審査期間短縮や先進炉向けの新たな規制枠組みの導入など、既に具体的な成果が現れている。まずは、現在進行中の規制見直しを着実に進めることが重要だ。

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