復興庁は1月28日、福島の魅力を紹介するとともに放射線の基礎知識を啓発するすごろくゲーム「ふくしま旅スゴ」をウェブサイトで公開した。「『風評の払拭』に向けて」をテーマに、復興に取り組む人たちへのインタビューや福島県産の農産物・酒を紹介する現地レポートなどのコンテンツを集めた特設サイト「タブレット先生の 福島の今」に新しく加わったもの。放射線に関する理解に向けては、これまでもクイズを通じた解説や学生が製作した絵本教材による動画を掲載しており、「知ってもらいたいことを、親子で楽しめるようにわかりやすくまとめる」工夫を図ってきた。このほど公開されたすごろくゲームは、福島県内59市町村を巡る旅をモデルとしており、各市町村の名所・特産品や放射線に関するクイズ(三者択一形式)に答えながらゴールを目指すというもの。地域ごとに分かれた17のステージからなり、例えば、浜通り地域のステージでは、「富岡町の桜並木」の本数や「なみえ焼きそば」に入れる具材などが出題される。正解するとクイズに因んだ「映えスポットの写真」を獲得。各ステージとも全4問のクイズは正解数を繰り越し何度もチャレンジでき、ステージクリア者にはオリジナルの「赤べこ」キャラクターの賞品が与えられる。今回の「ふくしま旅スゴ」のウェブ公開について、平沢勝栄復興相は、「大変親しみやすい」などと述べ、ゲームやインターネットを活用した風評払拭の取組に期待を寄せている。
03 Feb 2021
3391
資源エネルギー庁は2月2日、高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する自治体説明会を開始した。最終処分への理解や関心を促す対話活動などの取組を進める上で、「各地の自治体の理解と協力が不可欠」との認識から、毎年行われているもので、同日の東北・関東地域を皮切りに、10日にかけて全国5ブロックで、いずれもオンライン方式により開催。初回の東北・関東地域を対象とした説明会には98名の自治体関係者が参加。放射性廃棄物対策課長の那須良氏と原子力発電環境整備機構(NUMO)理事の伊藤眞一氏が、高レベル放射性廃棄物地層処分の概念、処分場の概要、処分事業の進め方、これまでに行ってきた理解活動などについて説明。海外の地下研究施設を紹介するビデオも上映された。寿都町と神恵内村の文献調査開始までの経緯(資源エネルギー庁発表資料より引用)今回、参加者からは特に意見・質問は出なかったが、那須氏は、2020年11月の北海道寿都町・神恵内村における処分地選定に向けた文献調査開始を受け、現在多くの自治体から地層処分に関する問い合わせが寄せられていることを述べた。風評被害への懸念に関連し、処分地選定プロセスとなる文献調査、概要調査、精密調査の20年程度の調査期間中「放射性廃棄物は一切持ち込まない」ことを改めて明言。また、調査受入れを拒否する条例制定の動きに関して、文献調査の実施は「自治体からの応募、もしくは国からの申入れを自治体が受諾」した場合に限られることを強調した。
02 Feb 2021
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日本原子力研究開発機構は1月29日、AIを活用し精度の高い放射線分布マップを作成する新たな放射線測定データ解析手法を開発したと発表した。名古屋大学大学院工学系研究科・山本章夫教授の指導のもと、学生実習生を含む同機構廃炉環境国際共同研究センター(福島県南相馬市)の研究員との共同により開発されたもの。〈原子力機構発表資料は こちら〉発表によると、無人航空機を用いた上空からの放射線測定は、広範囲を迅速に測定し人体への被ばくを低減できる一方、地形の凹凸や遮蔽物(樹木等)などの影響を受け、地上測定値との間にズレが生じるため、計算による精度向上が求められていた。つまり、従来、上空からの放射線測定結果を地上測定値に換算する場合、地形が平たんで線量率分布が一定であるエリアでの測定値と比較する簡便な換算方法で対応してきたため、地形や線量率の変化が複雑なエリアでは誤差が大きくなり、「放射線が、何によって、どのくらい遮蔽され検出器まで来るのか」を計算し修正する必要がある。これには詳細なパラメーターと解析時間を要するため、原子力機構では、福島第一原子力発電所事故以降、取得・蓄積してきた無人航空機による放射線測定データやGPSによる位置情報データで構成される「ビッグデータ」を、機械学習「人工ニューラルネットワーク」に適用。新たな放射線測定データ解析手法を開発した。AIの活用でより精密な放射線マップの作成が可能に(原子力機構発表資料より引用)同手法を用いることで、従来と比べ30%以上高い精度で地上の放射線測定値を再現した放射線マップの作成に成功し、また、1時間以上を要していた解析作業をあらかじめデータを学習させることにより数分で完了することもできた。原子力機構では、今回の研究成果について、「詳細な放射線マップを迅速かつ精度よく作成することは、除染や避難指示区域解除などの科学的根拠に役立つ」と期待を寄せている。今後は、写真による構造物の識別情報や地形情報、放射線の遮蔽に影響のある気象条件の違いなどを付加することで、さらなる精度の向上を進めていく。
01 Feb 2021
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福島県産食材の魅力を発信する料理ワークショップが1月25日、福島県郡山市内の会場を拠点とし、神奈川、愛知、京都の料理教室(ABCクッキングスタジオ)を結ぶオンライン形式で開催された。復興庁主催(農林水産省・福島県協力)による「作って、食べて、投稿しよう!ヘルシー美食講座」と題する今回のワークショップは、料理研究家の寺田真二郎氏を講師に迎え、「常磐もの」として質の高さに定評があるヒラメをメイン食材とした創作料理の調理方法を紹介するとともに、作った料理の魅力がSNSを通じて拡散されるようインスタグラマーによる撮影講座も実施。「常磐もの」のヒラメを使ったフルーティカルパッチョ(上)とトマトリゾット寺田氏は「トマトリゾット」と「フルーティカルパッチョ」の2種類の創作料理を披露。「トマトリゾット」には三浦大根(神奈川)、「フルーティカルパッチョ」には蒲郡みかん(愛知)と九条ねぎ(京都)と、各会場のご当地食材も使用。カルパッチョでは、ヒラメの他、福島県産食材として、「料理に華やかな印象を与えシャキシャキ感がある」と絶賛するフリルレタスを添え、九条ねぎとザーサイを加えたソースをかけるなど、食感や彩りにも工夫を凝らした。リゾットには福島県産米「天のつぶ」を使用。 ワークショップではSNSによる拡散を目指し「インスタ映え」する料理撮影のコツも披露(神奈川会場で実演するモデルの中村江莉香さん)各教室の模様をモニターで見つつ寺田氏は、食材の持ち味や調理のポイントを説明しながら実演。料理が出来上がった後は、「インスタ映え」も意識し、盛り付けやランチョンマットにもこだわりを見せた。ワークショップに招かれたスマート農業でフリルレタスを生産する(株)KiMiDoRi(川内村)の兼子まや氏は、カルパッチョを試食し「味もよく見た目もおしゃれ」と、続いてリゾットも口にし「ヒラメのふわっとした食感。大根が入っていてダイエットにもいいのでは」と、顔をほころばせた。今回、感染症対策を徹底した上で会場を4か所に限定しライブ中継を併用した開催となったが、京都会場の参加者は、「福島には行ったことがない。他の地域とつながりができたことも意味があった」と話している。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
29 Jan 2021
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東京電力の外部有識者による諮問機関「原子力改革監視委員会」(委員長=デール・クライン氏〈元米国原子力規制委員会委員長〉)は1月27日に会合を開き、同社が2013年より取り組んでいる「原子力安全改革プラン」について総括的にレビューした答申案を取りまとめた。同プランに基づき東京電力は、「安全意識の向上」、「技術力の向上」、「対話力の向上」を柱に継続的改善に取り組んでおり、進捗状況を四半期ごとに公表している。答申案では、「安全最優先・ガバナンス強化・リスク管理の強化」、「学ぶ姿勢・技術力の強化」、「緊急時対応力の強化」、「リスクコミュニケーションの強化」、「内部監視機能の向上」、「被ばく線量の低減」の個別分野ごとに所見を述べた上で、「8年以上にわたり原子力安全改革に取り組み、組織が正しい方向に向かって着実に進捗している」と評価。学ぶ姿勢の浸透や技術力の維持に関しては、「運転を経験していない職員が増える中、実操作の経験を付与しながら訓練・研修を行い、着実な運転員の力量向上に努めている」としている。リスクコミュニケーションについては、「職員自らが地域の声に触れて感度を磨き業務に反映させる」ことを期待。柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に向けて、安全監視機能の重要性も述べ、専門性を有する人材の強化なども提言している。会合終了後、記者会見(オンライン)に臨んだクライン委員長は、まず、2020年8月に逝去したバーバラ・ジャッジ同委副委員長への追悼の意を述べ、今後の委員会体制に関し、ジャッジ氏が取り組んできたコミュニケーション・安全文化に通じた女性の専門家の人選を進めるとともに、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働を見据え、技術系の適任者を検討している考えを明らかにした。また、福島第一原子力発電所で発生する処理水の取扱いに関しては、「安全の問題よりも感情の問題がある」として、政府、東京電力、アカデミアなどが安全性について丁寧に説明を行い人々の不安が払拭されるよう努めるべきと強調。福島第一原子力発電所事故から間もなく10年を迎える現状下、答申案は「事故を経験していない社員が増える」などと指摘。これに関し、クライン委員長は、「東京電力は事故の当事者として事故から学んだ教訓を広く発信し、原子力の安全性向上に貢献していくことが重要」と、事故の反省と教訓を忘れてはならないことを改めて述べた。
28 Jan 2021
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原子力規制委員会は1月27日の定例会で、同委の福島第一原子力発電所事故調査に係る検討会による中間取りまとめ案について報告を受けた。取りまとめ案は今後、パブリックコメントを経て、3月上旬にも正式決定となる運び。同検討会は2019年、廃炉作業の進捗に伴う原子炉建屋内へのアクセス性向上、新たな知見・情報の蓄積を踏まえ、約5年ぶりに再開。原子炉格納容器からの放射性物質の放出、原子炉冷却に係る機器の動作状況など、事故のプロセス解明に向け調査・分析を進めてきた。中間取りまとめ案では、事故発生時の2号機のベント(格納容器内の放射性物質を含む気体を外部環境に放出し内部の圧力を降下させる措置)について、原子炉格納容器から排気筒に通じるベントライン中に設置されたラプチャーディスク(外部環境との最終バウンダリ)が破裂しておらず、ラプチャーディスク付近の線量率がベントに2回成功した3号機より3~4桁低かったことから、「一度も成功しなかった」と判断。一方、ベントが行われた1、3号機についてはベントガスの逆流を結論付け、1号機では「水素が原子炉建屋に逆流した可能性がある」とみて、水素爆発との関連性を今後の調査検討課題の一つとしてあげた。また、1~3号機原子炉格納容器上部のシールドプラグ(直径約10m・厚さ60cmの鉄筋コンクリートを3枚重ねた蓋)下方の放射能汚染レベルが高いことを確認したとして、「安全面と廃炉作業面において非常に重要な意味を持つ」などと指摘。特に、2、3号機については、シールドプラグの上から1層目と2層目の間に大量のセシウム137(20~40ペタベクレル)が存在すると結論付けた。3号機水素爆発に係る「多段階事象説」のイメージ(原子力規制委員会発表資料より引用)福島中央テレビ他の技術協力を得て行われた水素爆発の詳細分析で、3号機で発生したものについては、超解像処理(毎秒60コマ)や地震計記録などから、複数の爆発・燃焼が積み重なった「多段階事象」との見方を示した。更田豊志委員長は、定例会終了後の記者会見で、今回の調査・分析を通じて確認されたシールドプラグの汚染状況について、「廃炉戦略に与えるインパクトは非常に大きい。遮蔽の施し方など、簡単ではないだろう」と述べた。
27 Jan 2021
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日本原子力研究開発機構は1月22日、施設内で放射能汚染が発生した際、作業者を速やかに退避させることのできる高機能・簡単組立テントを開発したと発表した。〈原子力機構発表資料は こちら〉テントの開発に当たった同機構核燃料サイクル工学研究所の説明によると、原子力施設における作業中、放射性物質が漏えいし身体の複数個所に汚染が付着した場合、作業者を退避させ除染処置を行う密閉テントは、これまで足場用のパイプを組んだフレームにビニール製テントをロープで結び付ける構造であったことから、設置に多くの時間を要し、内部被ばくリスクを高める恐れがあった。局所排気装置を用いてGH内の空気を排気しダストモニタで放射能濃度をリアルタイムで監視(GH:グリーンハウス〈汚染拡大防止用密閉テントの意〉、原子力機構発表資料より引用)そこで、フレームを展開・伸縮可能な構造へと改良し、材質にはアルミを用いることで軽量化を図り、設置に要する時間を約2時間から約20分へと大幅に短縮。組立てには専用の工具や脚立も要らず、人員数も従来方式の7名から4名に削減。また、隣り合った前後左右のテントをファスナーで接続できる構造から、施設内の様々な場所に適切なレイアウトで設置でき、多数の作業者に身体汚染が生じても、複数の退避経路を確保することが可能だ。今回開発された高機能・簡単組立テントは、既に原子力機構のプルトニウム燃料技術開発センターに配備され運用を開始しており、今後も、内部と外部の環境を隔てた密閉空間での作業を可能にするという点で、国内外の原子力施設での利活用が期待される。
25 Jan 2021
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千葉大学で1月19日、高レベル放射性廃棄物の地層処分をテーマとしたディベート試合が行われた。同学教育学部の藤川大祐教授が担当する講座「ディベート教育論」の一コマで実施されたもので、「日本は高レベル放射性廃棄物の地層処分計画を撤廃し、地上での管理を義務づけるべきである」を論題とし、学生チームが賛否それぞれの立場から論戦した。ディベートは、ある論題の是非を巡って肯定側と否定側とに分かれルール(制限時間など)に従って論戦し、論証の強さをもとに第三者である審判が勝敗を決める討論ゲームで、言語技術を包括的にトレーニングする手法として授業にも取り入れられている。千葉大教育学部では、2012年度から「ディベート教育論」の中で、地層処分をテーマとして取り上げており、同学部附属中学校の校長も務める藤川教授は、「現代的課題には答えの決まっていないものも沢山あり、これからの教育では扱っていく必要がある」と、意義を強調している。ディベート試合に参加した学生らは事前に原子力発電環境整備機構や日本原子力研究開発機構の職員からレクチャーを受けるなど、準備を行った上で試合に臨む。肯定側・否定側のチーム分けは、学生の原子力政策に対する見方とは関係なくランダムに振り分ける。今回は、感染症対策のためオンラインでの実施となった。ディベート試合で、「分離変換技術を用いて放射性廃棄物の有害度を低減し、既存の原子力発電所の敷地を拡大し保管する」と主張する肯定側(地上管理)は、メリットとして、「周辺住民の理解が得られ処分計画が進行しやすい」、「次世代に先送りせず責任ある処分ができる」ことをあげた。これに対し、否定側(地層処分)は、論題の示す地上管理のデメリットとして、「火災や津波などの災害による影響は深刻である」、「地層処分に比べ実現性は著しく低い」ことを主張した。ディベート試合を終えインタビューに応じる安部さん続いて、肯定側、否定側が、相手方の主張に対し反論。原子力発電所敷地内での地上管理の安全性に関しては、それぞれ「原子力発電所立地点は津波被害の恐れがある」、「災害発生時における対応が容易」などと論戦。地層処分の実現可能性については、フィンランドの進捗状況や北海道寿都町・神恵内村の文献調査応募が根拠としてあげられ、放射性廃棄物処理・処分の負担を軽減する分離変換技術については、大強度陽子加速器施設「J-PARC」による研究レポートも引用された。藤川教授は、学生らによる判定票も集計した上で、「判断は難しいところ」としながら肯定側に軍配を上げた。ディベート試合終了後、否定側チームリーダーの安部真純さん(文学部1年)は、「始めはまったく知識ゼロだった。チームで話し合いながら勉強を進め、地層処分に関する新聞記事にも目を通すようになった」などと、報道陣のインタビューに答えた。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
22 Jan 2021
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原産協会の新井史朗理事長は1月21日、プレスブリーフィングを行った(=写真)。年明け後最初のプレスブリーフィングに際し、新井理事長は1月5日に発表した理事長メッセージ「2021年の年頭に当たり」を改めて紹介。同メッセージでは、新型コロナウイルス感染拡大によるエネルギー需要の減少、2050年カーボンニュートラル宣言など、原子力産業界を巡る2020年の動きを振り返った上で、原産協会が取り組む「原子力発電に対する理解の獲得」、「福島復興支援」、「人材確保・育成」、「国際協力」について述べている。2020年は新たな再稼働プラントがなかったが、2021年の見通しについて問われたのに対し、新井理事長は、「新規制基準に基づく設置変更許可を取得したプラントすべてが一日も早く再稼働して欲しい」と期待。1月12日に安全対策工事が完了した東京電力柏崎刈羽7号機については、2007年の新潟県中越沖地震に伴い停止した際の地元への対応も振り返り、「県全体での丁寧な説明が必要」などと述べた。昨夏に議論が始まったエネルギー基本計画の見直しに関しては、東日本大震災直後の火力発電停止や計画停電の経験、昨今の厳寒によるLNG在庫減少にも触れ、電源の多様化・ベストミックスの重要性、電力の安定供給確保における原子力の優位性を強調。10月には東京と大阪で学生向けの合同就職説明会「原子力産業セミナー2022」が開催され前回を上回る来場者を集めたが、今後の新増設・リプレースも見据え、引き続き人材の確保・育成、技術の維持・向上に取り組んでいく考えを述べた。
22 Jan 2021
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原子力規制委員会は1月20日、日本原子力研究開発機構人形峠環境技術センター(岡山県鏡野町)のウラン濃縮原型プラントに係る廃止措置計画の認可を決定した。2018年に申請されていたもの。廃止措置の完了は2040年度、解体費用は約55億円が見込まれている。ウラン濃縮原型プラントの遠心分離機(原子力機構発表資料より引用)ウラン濃縮は、核分裂しやすいウラン235を天然の約0.7%から軽水炉での使用に適した3~5%程度に高める燃料加工の一工程。原子力機構では、国内での核燃料サイクル事業の確立に向けて、1979年より技術開発に取り組んできた。ウラン濃縮原型プラントは、パイロットプラントの成果を引き継ぎ、遠心分離法濃縮技術や機器・設備の大型化など、商業化につなぐ研究開発を目的としたもので、1988年から2001年まで運転し約350トン(100万kWの原子力発電所で約3年分)の濃縮ウランを試験生産。1996年からは、回収ウラン(使用済燃料から再処理によって分離精製して回収したウラン)の再濃縮試験も行われた。原型プラントを通じて得られた技術は日本原燃の六ヶ所ウラン濃縮工場に導入されている。廃止措置計画で、プラント内の核燃料物質(六フッ化ウラン)については、原子炉等規制法による許可を受けた原子力事業者に廃止措置終了までに全量を譲渡するとしており、遅くとも2028年度末までの譲渡先決定を目指している。
20 Jan 2021
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12月下旬以降、全国的に厳しい寒さが続くところ、資源エネルギー庁は1月19日、最近1か月間における電力需給・市場価格の状況について、総合資源エネルギー調査会の電力・ガス基本政策小委員会(委員長=山内弘隆・一橋大学大学院経営管理研究科特任教授)に報告した。〈エネ庁発表資料は こちら〉それによると、12月下旬から1月上旬にかけて「数年に一度レベル」の非常に強い寒気が流れ込み、電力需要が昨年度同期間と比べて約1割増加したほか、天候不順による太陽光発電の低迷や、LNG在庫減で生じたガス火力発電の稼働抑制も加わり、「全国的に電力需給が厳しい状況となった」としている(=図、資源エネルギー庁発表資料より引用)。特に、西日本を中心に記録的な厳しい寒さや豪雪に見舞われた1月8日は、全国の7エリア(東北、中部、北陸、関西、中国、四国、九州)で、電力需要が、電力需給見通しで想定する「厳冬H1需要」(過去10年間で最も厳寒だった年度並みの気象条件での最大電力需要)を超過。こうした状況下、電力各社では、通常稼働していない高経年火力プラントの稼働や、需給ひっ迫エリアへの広域的な電力融通を図り、安定供給確保に努めている。火力発電の設備利用率は、全国的に寒波が訪れた1月8、12日には90%近くにまで上昇。電力需要の大幅増に伴い、LNG在庫量は大きく減少し、資源エネルギー庁では、ガス会社に在庫が少なくなった電力会社への融通を要請するなどの対応をとっている。また、北東アジア向けのLNG価格も、供給設備トラブルやパナマ運河の輸送船渋滞も加担し、1月初めには、直近の約8か月間で最大およそ18倍となるなど、急騰中(S&P グローバル・プラッツ報道)。資源エネルギー庁による説明を受け、同委員会の横山明彦氏(東京大学大学院工学系研究科教授)は、電力安定供給に関わるリスク管理の観点から「電源の多様化が極めて重要」と強調した。現在、国内の原子力発電所は、新規制基準をクリアし再稼働した計9基のうち、九州電力玄海3号機、同川内1、2号機、関西電力大飯4号機の4基のみが運転中となっている(川内2号機、大飯4号機は定期検査に伴う調整運転中)。
19 Jan 2021
3301
菅義偉首相は1月18日、通常国会の開会に際し施政方針演説を行った。菅首相はまず、新型コロナウイルス感染症の早急な終息に向けて、様々なソーシャルワーカーらに対する謝意を述べるとともに、自身も戦いの最前線に立ち、自治体関係者とも連携しながら「難局を乗り越えていく決意」を強調。3月に東日本大震災発生から10年を迎えることに関しては、改めて犠牲となった方々への冥福を祈り被災したすべての方々への見舞いの言葉を述べた上で、心のケアも含めたきめ細やかな取組を継続するとともに、福島については、2023年春の一部開所を見込む浜通り地域の復興・再生を目指した「国際教育研究拠点」などを通じ、「復興の総仕上げに向け全力を尽くす」と述べた。また、10月の所信表明演説で掲げた2050年カーボンニュートラルについては、「環境対策は経済の制約ではなく、世界経済を大きく変革し、投資を促し、生産性を向上させ、産業構造の大転換、力強い成長を生みだすカギとなるもの」と強調し、今後所要の予算措置を図っていくことを明言。さらに、次世代太陽光発電、低コストの蓄電池、カーボンリサイクル他、野心的なイノベーションに挑戦する企業を支援し最先端技術の開発・実用化を加速するとともに、水素や洋上風力発電などの再生可能エネルギーの拡充、送電網の増強、安全最優先での原子力政策を進めることで、「安定的なエネルギー供給を確立する」とした。この他、科学技術政策の関連で、12月の小惑星探査機「はやぶさ2」のカプセルの地球帰還を称賛した上で、「未来を担う若手科学者の育成」に意欲を示し、昨今の都市部から地方への人の流れを踏まえ、ポストコロナを見据えたテレワーク環境の整備や地方移住への後押しなど、地方創生や働き方改革の取組にも言及。米国バイデン政権の発足に関しては、「日米同盟はわが国外交・安全保障の基軸」などと述べ、バイデン次期大統領と早い時期に会い日米の結束強化を確認し、新型コロナ対策や気候変動などの共通課題に取り組んでいくとした。今夏の東京オリンピックについては、「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会とすべく、感染対策を万全なものとして、世界中に希望と勇気を届ける大会」となるよう準備を進めていくと述べた。
18 Jan 2021
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東日本大震災発生から間もなく10年を迎えるのを前に、関連学会が一堂に会しこれまでの活動を振り返り今後の取組について考えるシンポジウムが1月14日に開催された。日本学術会議と防災学術連携体(防災減災・災害復興に関わる学会ネットワーク)の主催によるもの。感染症拡大防止のためオンラインでの開催となったが、アクセス数は約40学会による発表を合計し5,000件を超え、今回のシンポジウムを通じ、「分野横断の連携」が災害への備えや発災後の復興にとって重要なことなどが示された。〈資料等は こちら〉日本原子力学会の中島会長、被災地支援に向け展開してきた「福島特別プロジェクト」の活動を紹介福島第一原子力発電所事故の関連では、日本原子力学会が事故調査や廃炉に関わる専門的検討、被災地住民への支援など、これまでの取組について発表。事故発生から丁度10年となる3月11、12日には活動成果を振り返るとともに若手を交え原子力の未来像について議論するシンポジウムを行うことが紹介された。学術的連携に関しては、2016年に発足した36の学協会が参加する連絡会「ANFURD」をあげた上で、「社会科学的視点が要求される事柄もこの10年間で顕在化してきた」と、他学会との接点の拡大・緊密化を今後の課題として示唆した。日本森林学会の三浦氏(森林研究・整備機構)、次の10年に向け「記録し伝えること、対話を深めること、備えること」を強調日本地震工学会は、原子力学会との協力により発刊した技術レポート「原子力発電所の地震安全の原則」(2019年)を紹介し「外的事象については他分野の学会とも連携すべき」と指摘。日本森林学会は、森林内の放射性セシウム分布・動態に関するデータや木材学会との協力による産業影響調査について述べ「分野を越えた対話を」と、次の10年に向けた課題を提示するなど、それぞれ分野横断の重要性を強調した。災害のアーカイブ化・伝承に関しては、日本災害情報学会が2019年に双葉町に開設された「東日本大震災・原子力災害伝承館」について発表。チェルノブイリ博物館やネバダ核実験博物館など、海外のアーカイブ施設とも対比しながら、災害・復興の検証やコミュニケーション手法に関わる課題をあげ、「『何を伝え、何を学んでもらうか』を今後十分検討しなければ原子力災害の伝承は難しい」と述べた。原子力災害からの復興に関しては、「浜通り地域の生産動向で建設業の増加は復旧活動によるもの。これからが課題」(日本地域経済学会)、「長期にわたる災害の特質を踏まえた法制度や、原子力防災省のような行政組織の創設が必要」(日本建築学会)といった発言があった。シンポジウムでは、災害廃棄物対策や発災時の保健医療・公衆衛生活動に関わる課題、阪神・淡路大震災との対比の他、昨今の情勢に鑑み、自然災害の頻発・激甚化、新型コロナウイルス感染症による影響を危惧する声もあがった。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
15 Jan 2021
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【国内】▽1日 政府・成長戦略の実行計画まとまる、原子力は「確立した脱炭素化技術的」と▽4日 大阪地裁で関西電力大飯3、4号機の設置変更許可を取り消す判決(17日に国が大阪高裁に控訴)▽8日 原子力機構の核不拡散・核セキュリティ総合支援センターが設立10周年シンポ、学生も交え議論(~9日)▽9日 規制委、日本原燃のMOX燃料加工工場に係る新規制基準適合性審査で事業変更許可▽10日 アジア原子力協力フォーラム(FNCA)大臣級会合がオンライン開催、グロッシーIAEA事務局長の講演も▽15日 経団連が2050年カーボンニュートラル実現に向け決意・アクションを表明、「原子力は不可欠」と▽16日 日本原燃がMOX燃料加工工場のしゅん工時期を2024年度上期に変更▽17日 電事連が新たなプルサーマル計画を発表、2030年度までに少なくとも12基で実施▽19日 双葉町で「福島イノベーションコースト構想」の将来について考えるシンポ開催、加藤官房長官も出席▽21日 エネ調基本政策分科会が原子力利用に関し議論、新増設・リプレースの検討を求める意見も▽14日 日本原燃が六ヶ所再処理工場他の設計・工事計画認可で初回申請▽25日 経産省が2050年カーボンニュートラルに向けグリーン成長戦略策定、SMRや高温ガス炉の工程表も示す▽25日 政府原子力災害対策本部、帰還困難区域(特定復興再生拠点区域外)の土地活用に向けた新たな避難指示解除の仕組みを決定▽28日 原子力委員会が年度末に期限を迎える原子力立地地域振興特別措置法に関し「延長が必要」との見解示す 【海外】▽2日 英国政府、プロトタイプ核融合発電所の受け入れ自治体を募集▽7日 ロールス・ロイス社、民生用I&C系事業をフラマトム社に売却へ▽9日 IEAとOECD/NEAが発電コスト予測の分析:既存炉の運転期間延長に大きな経済性▽9日 建設中の米ボーグル3号機 初装荷燃料が到着▽11日 米ケイロス社、テネシー州でフッ化物塩冷却高温炉の試験炉建設へ▽11日 ベルギーのトラクテベル社、SMR事業を重点推進へ▽14日 英国政府、サイズウェルC発電所建設計画でEDF社と交渉開始へ▽16日 米エネ省、先進的原子炉実証プログラムで追加支援の5設計を選定▽16日 フィンランドTVOの株主、オルキルオト3号機の完成に向け4億ユーロの追加融資を承認▽18日 カナダ政府、SMR開発で国家行動計画を公表▽21日 ロシア企業、フィンランドの新設計画に必要な設計書類を事業者側に提出▽21日 チェコ政府、使用済燃料の処分場建設で最終候補地を4地点に絞り込む▽22日 米エネ省の先進的原子炉実証プログラム、開発初期段階の3設計を追加支援▽24日 ロスアトム社、ロシア極東サハ共和国で建設予定SMRの電力売買契約条件で合意▽31日 スウェーデンのリングハルス1号機が永久閉鎖▽31日 英国政府、ホライズン社の新設計画に対するDCO発給の可否判断を4月末まで再延期▽31日 中国、「華龍一号」で新たに三澳1号機を本格着工 ☆過去の運転実績
14 Jan 2021
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新潟県の有識者委員会は1月12日、福島第一原子力発電所事故が及ぼした避難生活に関する検証結果を取りまとめ、花角英世知事に報告を行った。県は、東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に関わる議論開始の前提として、福島第一原子力発電所事故の「3つの検証」(事故原因、健康と生活への影響、安全な避難方法)を進めており、今回、2020年10月の「事故原因」に続き、「健康と生活への影響」に関する検証結果がまとまった格好だ。同委員会では2017年より、新潟県内居住の避難者へのアンケートやテーマ別調査から得られたデータをもとに、支援団体の声、健康への不安、家族形態別にみた避難生活の課題など、多角的視点から検証を行ってきた。委員会座長として検証結果の取りまとめに当たった新潟大学人文学部教授の松井克浩氏は、報告書序文の中で、「事故による影響が極めて深刻で、長期にわたって続き、回復が難しい」ことがわかったとした上で、「避難者個々の状況も多様化しており、それぞれのケースに応じたきめ細やかな支援や調査を今後とも長期的に続けていく必要がある」と、述べている。報告書によると、福島第一原子力発電所事故による新潟県への避難者数は、2012年5月の6,440人が2020年9月には2,209人となったものの、避難生活の長期化とともに、単身・二人世帯の増加(震災前:32.4%、2017年:50.2%)、3世代同居世帯の減少など、避難の過程で家族が分散した状況がみられている。また、これまで多くの大規模自然災害に見舞われ復興に取り組んできた新潟県だが、原子力災害の生活再建に関わる特徴を、(1)事故の全体像がなかなか明らかにならず線量に対する認識の差を背景に異なるタイミングで広域避難が発生、(2)放射能汚染被害の捉え方に個人差が大きく帰還の有無にも差が出る傾向、(3)東京電力からの賠償金が支援の中心――などと対比・分析。足かけ4年にわたる検証作業で議論された調査データを整理し、報告書では結びに、「現時点で言えること」として、7項目の結論を述べている。例えば、「震災前の社会生活や人間関係などを取り戻すことは容易ではない」といった仕事や地域コミュニティの回復が困難な状況や、「健康被害への不安がリスク対処行動をもたらし生活の質を低下させている」といった放射線リテラシーにつながる課題も指摘。また、広域避難によって生じる自治体間の支援策の違いや、発災から間もなく10年を迎える現在において、「避難者が抱える問題や困難が見えにくくなっている」といった懸念を述べ、「避難者ごとの課題が個別化・複雑化する中で、長期的な支援が必要」などと提言している。
13 Jan 2021
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原子力産業新聞が電力各社から入手したデータによると、2020年の国内原子力発電所の運転状況は、総発電電力量449億7,520万kWh、設備利用率15.5%となった。総設備容量3,308.3万kWのところ、新規制基準をクリアし再稼働したプラントは9基・913万kWで、前年に続き新たな再稼働はなかった。2020年は、2019年12月に定期検査入りした四国電力伊方3号機が司法判断により年間を通して停止。関西電力高浜3、4号機はそれぞれ、8、10月に新規制基準で要求されるテロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の設置期限を満了しており、いずれも停止中。また、7月に定期検査入りした同大飯3号機では、超音波探傷検査で確認された配管溶接部の傷の補修が行われている。一方、再稼働の先陣を切った九州電力川内1、2号機では、いずれも特重施設の設置工事が完了し、それぞれ11月19日、12月24日に発電を再開。これらにより、設備利用率は前年より5.9ポイント下降する結果となった。*各原子力発電プラントの2020年運転実績(同年12月分を併記)は こちら をご覧下さい。
08 Jan 2021
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経済産業省北海道経済産業局はこのほど、地球温暖化対策に関する知識・取組や家庭でできる環境保全行動「エコ!アクション」について啓発する動画「STOP!地球温暖化」を公開した。厳冬期に向け年間を通じ最もエネルギー需要増が見込まれる北海道だが、動画では、北海道文化放送気象キャスターの菅井貴子氏が「北海道はクルマ社会」と、自動車利用の頻度が多く移動距離も長くなりがちな地域固有の事情もあげ、地球温暖化の要因となる化石燃料からのCO2排出を抑制する生活やエネルギー供給のあり方について語りかける。地球温暖化のメカニズムに関しては、2019年に地球のCO2濃度は過去最高となり世界の年平均気温も過去2番目に高かったという気象庁のデータを示し、「CO2はまわりの空気を暖める性質がある。CO2が増え過ぎると、地球に布団をかける役目となり、宇宙に熱が逃げていかず地球温暖化の原因となる」と解説。日本では昨夏、静岡県浜松市で41.1度Cの史上最高気温(2018年の埼玉県熊谷市の記録とタイ)を記録したところだが、菅井氏は、「地球温暖化は暑くなるだけでなく、異常気象や自然災害を増やしてしまう」と警鐘を鳴らす。「このまま温暖化が続くとどんな未来となってしまうか」と、2100年夏を想定した未来天気予報を「実況」。そこでは、「熊谷45.2度C、東京43.6度C、札幌40.5度C。今日までに全国で12万人が熱中症で病院に運ばれる」との概況に加え、北海道から九州までの各地で気温が40度Cを超す明日の予報、干ばつによる農作物への被害の他、台風の大型化に伴い川の氾濫や崖崩れが激甚さを増す状況などが報じられる。その上で、「私たちは何ができるの?」と問いかけ、詰め込み過ぎず開閉を控えめにする冷蔵庫の使い方や住宅断熱材の活用、緩やかにアクセルをかける「エコドライブ」など、CO2を出さない生活仕様を紹介し、環境保全・エネルギー問題への関心を喚起するという内容だ。
07 Jan 2021
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原子力規制委員会の更田豊志委員長は1月6日、年明け後初の記者会見を行った。新型コロナウイルスの新規感染者数が急増し、7日にも首都圏4都県への緊急事態宣言が発令されるとの報道に関し、更田委員長は、不正アクセスに伴い昨秋より通信ネットワークへの支障が継続している状況から、「どのくらい職員のテレワークが円滑にできるか」などと、業務と感染症対策とのバランスが難しい問題となっていることを強調。規制委員会では現在、内閣サイバーセキュリティセンターの支援も仰ぎ、復旧に当たっているところだが、会合の傍聴登録など、外部からの連絡は電子メールが使えず、電話やFAXによる受信となっている。また、検査要員の現地移動に関わる制約から、今後の政府の方針次第で検査対応の遅れがさらに深刻化することに懸念を示した。なお、2020年4月の緊急事態宣言発令時には、会合の開催頻度調整や一般傍聴受付の休止、原子力規制庁職員のテレワーク推進などの対応をとっている。また、6日の定例会合で規制庁より報告された新規制基準適合性に係る審査状況に関し、審査が進展している中国電力島根原子力発電所2号機について、「審査書案」取りまとめの見通しを問われたのに対し、「終盤にあるのは事実だが、まだ見通しをいえる状況にはないと思う」と述べた。規制庁では、審査中の原子力発電プラントについて、約80項目ある審査の細目ごとに、進捗状況を4つのステータスに分類・整理した一覧表を随時委員会に報告しており、現在、島根2号機に関しては、地震動評価や耐津波設計方針などで幾つか論点が残されているものの、ほとんどの項目が最終ステータスの「概ね審査済み」となっている。
06 Jan 2021
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日本エネルギー経済研究所は12月23日、2021年度の国内エネルギー展望に係る研究について発表した。新型コロナウイルス感染症は「完全終息はせず、防疫対策が継続し徐々に改善」、世界経済は「戦後最低の成長率となった2020年より5.2%増となり、コロナ以前をやや上回る」、化石燃料輸入額は「需要減少で2020年度は前年度比38.4%減、2021年度は需要回復・価格上昇で同15.4%増となるも、低水準」などを主な前提とした「基準シナリオ」を想定し試算・分析を行ったもの。それによると、一次エネルギー国内供給は、コロナの影響による製造業の減産や運輸業の輸送量減少に伴い、2020年度は前年度比5.5%減と落ち込みを見せるが、2021年度は産業活動の回復により同2.6%増へと上向く見通し。「基準シナリオ」で、原子力発電については、既に再稼働した9基に加え、2021年度末までに新たに4基程度の再稼働を予想。一方で、テロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の完成遅れなどにより、2021年度中に4基が順次停止し、同年度内に発電を行うプラントは9基と見込んでいる。原子力による発電電力量は、2020年度の442億kWhから2021年度には797億kWhへと上昇。再生可能エネルギーと合わせた非化石電源の比率は、2020年度にわずかに縮小するものの、2021年度には拡大し、東日本震災以降で初めて30%を超える見通し。また、エネルギー起源CO2排出量については、前年度比8.8%減が見込まれる2020年度と比較し、2021年度には化石燃料の需要増に伴い1.6%増の9.6億トンとなると試算。コロナ以前と比べたCO2排出量減少に関しては、「一時的な経済低迷によるエネルギー需要減少の影響」と分析し、経済活動を犠牲にしないCO2排出削減策の必要性を示唆している。今回の研究では、原子力発電に関し、2021年度内の停止を見込んだ4基が停止しない「高位ケース」、新たな再稼働を見込んだ4基が再稼働しない「低位ケース」も想定し、「基準シナリオ」との比較を行っている。それによると、化石燃料輸入総額は、「高位ケース」で「基準シナリオ」比1,000億円減、「低位ケース」で同900億円増と、CO2排出量は、「高位ケース」で同700万トン減、「低位ケース」で同600万トン増となるなどと分析。これを受け、「2021年度以降も特重施設完成期限を迎えるプラントが増えることから、個々のプラントに応じた適切な審査を通じた再稼働の円滑化がわが国の3E(安定供給、経済効率性、環境適合)にとって重要」と指摘している。なお、原子力規制委員会の規定に基づき、2021年度内に特重施設の設置期限を迎えるのは、再稼働に至っていない関西電力高浜1、2号機、同美浜3号機の3基と、四国電力伊方3号機の計4基。特重施設の設置は再稼働に必要な規制要求だが、プラント本体の工事計画認可から5年間の猶予が与えられている。
25 Dec 2020
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消費者庁は12月21日、主に小学生とその保護者を対象に、親子で学べるウェブコンテンツ「知ろう!考えよう!食べものと放射性物質」を公開した。食品安全委員会、厚生労働省、農林水産省との協力により制作されたもの。動画とクイズで食品中の放射性物質について説明している。同コンテンツでは、アニメキャラクターが動画の中で、福島を訪れ、「福島第一原子力発電所事故により、食べものの中の放射性物質を気にする人がいる」と問題提起。「放射性物質」、「放射能」、「放射線」の意味を電球の光に例えて説明した上で、霧箱実験を見せる。食品中の放射性物質に関して、福島のリンゴ農園へのインタビューを通じ、生産者の努力で安全な食品が消費者に届けられていることを述べるという内容。霧箱は家庭でも用意できる材料・器具で作り方を紹介。放射線が身の回りにあることを知ってもらい、「放射線は『ある、ない』ではなく、安全かどうかを判断するには『多い、少ない』という量で考えることが重要」と教えている。
23 Dec 2020
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総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)は12月21日、2050年カーボンニュートラルに向けた火力発電と原子力利用のあり方について議論した。同分科会では、10月末の菅首相による2050年カーボンニュートラルの表明を受け、エネルギー起源CO2削減の観点から、11月よりエネルギー基本計画見直しの検討を本格化。前回12月14日の会合では、再生可能エネルギー導入拡大に向けた課題と対応に関し電力中央研究所などからヒアリングを行った。今回会合では、原子力政策を巡り、資源エネルギー庁が、世界の動向や、福島第一原子力発電所廃炉の取組、原子力の持つ3E(安定供給、経済効率性、環境適合)特性などを説明。新規制基準適合性に係る設置変更許可を受けたが再稼働に至っていない7基、審査中の11基の状況についても具体的に示した。その上で、課題と対応の方向性について、(1)安全性の追求、(2)立地地域との共生、(3)持続的なバックエンドシステムの確立、(4)自由化した市場の中での事業性向上、(5)人材・技術・産業基盤の維持・強化と原子力イノベーション――に整理。これら課題を乗り越え、「国民からの信頼回復」に取り組んでいくことが必要だとしている。〈エネ庁説明資料は こちら〉また、火力については水素発電・アンモニア発電を有望な非化石電力源としてあげた上で、今後のエネルギーミックスの議論に向けて、2050年における各電源を、「確立した脱炭素電源」(再生可能エネルギー、原子力)と「イノベーションが必要な電源」(火力)に大別。発電電力量のうち、再生可能エネルギーで約5、6割を、原子力については、化石燃料とCCUS(CO2回収・有効利用・貯留)/カーボンリサイクルと合わせ約3、4割を賄うといった「参考値」を示し、今後複数のシナリオ分析を行っていくこととなった。資源エネルギー庁がまとめた今世紀後半に向けた原子力発電設備容量の推移で、60年までの運転期間延長を仮定しても、2040年代以降、大幅に減少する見通しが示され、委員からは、新増設・リプレースに関する意見が多く出された。立地地域の立場から、杉本達治氏(福井県知事)は、40年超運転や大飯発電所行政訴訟による県民の不安の高まりなど、直面する課題を述べ、研究開発・人材基盤の整備や国民理解の促進も含め、「長期的な原子力利用の道筋を早く示して欲しい」と訴えた。また、隅修三氏(東京海上日動火災相談役)は、「60~80年の運転期間延長は必須」としたほか、高速炉や高温ガス炉への開発投資に取り組む必要性を強調。この他、原子力については、コスト評価、事故の反省、事業環境に関する意見や、組織・体制に対する不信感から慎重な姿勢をとる人の意見も検証すべきといった声もあった。また、今後のシナリオ分析については、2050年以降や需要サイドの想定も含めた検討を求める意見があった。*参考 総合資源エネルギー調査会基本政策分科会情報は こちら
22 Dec 2020
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浜通り地域の新産業創出を目指す「福島イノベーション・コースト構想」の将来について考えるシンポジウムが12月19日、双葉町産業交流センターで開催され、同構想の実現に向けて活躍する企業、地元学生たちの登壇のもと、成果発表や意見交換が行われた。挨拶に立つ加藤官房長官シンポジウムには、加藤勝信内閣官房長官、内堀雅雄福島県知事、伊澤史朗双葉町長らが訪れ、挨拶を述べた。加藤官房長官は、「福島復興は内閣の最重要課題」との認識を改めて示した上で、福島ロボットテストフィールド、福島水素エネルギー研究フィールド、東日本大震災・原子力災害伝承館の開所や、2023年春の一部開所を目指す「国際教育研究拠点」計画の進展など、「福島イノベーション・コースト構想」を巡る1年間の動きに触れ、同構想が浜通り地域の原動力となるよう期待。内堀知事は、同構想で得られた成果の国内外発信に向け「来年は東京五輪の開催により世界から注目される絶好の機会」と、2022年春の帰還開始を目指す双葉町の伊澤町長は、「20年後の双葉町を担っていく生徒たちに期待。新たな未来を考えていく地」と、それぞれ意気込みを見せた。当日は、双葉中学校の生徒も出席し、伝統芸能の「山田のじゃんがら念仏踊り」や「せんだん太鼓」の練習風景を紹介した。「福島イノベーション・コースト構想」に関わる各界の取組については、阪本未来子氏(JR東日本常務執行役員、基調講演)、徳田辰吾氏((株)ネクサスファームおおくま 工場長)、金岡博士氏((株)人機一体社長)、秋光信佳氏(東京大学アイソトープ総合センター教授)が発表。阪本氏阪本氏は、2020年3月に全線復旧した常磐線に関し、「常磐炭田の石炭輸送が日本のエネルギー政策・経済を支えてきた」役割を経て、現在ではビジネス・観光利用に供される重要路線として発展してきた経緯を紹介。動物侵入防止柵や避難通路の整備など、震災後の常磐線復旧工事について触れたほか、2019年に開設されたJヴィレッジ駅(楢葉町)に関し、(1)平成に開業した最後の駅、(2)日本初の「ヴ」がつく駅(3)JR東日本で初のアルファベットがつく駅――と、駅名のうんちくを語った。「観光は『光を観る』と書く」と、今後の観光振興に期待を寄せる同氏は、震災発生から10年の節目に際し、交流人口の拡大を目指す「巡るたび、出会う旅。東北」をキャッチコピーとした東北6県観光キャンペーンの長期開催計画を披露。徳田氏大熊町でイチゴの周年栽培を行う徳田氏は、「農業分野は閉鎖的で交流が足りない。個人で行う農業と組織で行う農業とではやり方が全然違う」として、他業界からの人材の積極採用を図り、環境制御プログラムなど、様々な技術を開発・検証しながら収穫量を伸ばしてきた経緯を紹介。「多くの観光客が訪れ、『大熊町がイチゴの町になった』と言われるようになれば」と、期待を述べた。金岡氏福島ロボットテストフィールドで人の手足と連動して機能するロボット「人型重機」の開発に取り組む金岡氏は、福島第一原子力発電所事故の経験から、「研究だけでなく社会実装に達することが必要と感じた」と、先端ロボット工学技術の課題を述べ、革新的な知的財産を求心力にリソースと産業を集めるしくみ「人機プラットフォーム」を福島に導入したいと強調。秋光氏高等教育の立場から秋光氏は、保育園・小学校の線量調査など、発災直後から地道に取り組んできた被災地支援活動の経験を踏まえた「復興知学」講義を紹介。講義後の学生アンケートで、「普通の県として扱うべき」といった福島に対する対等なパートナーとしての見方が印象に残ったという。「浜通りは大きなポテンシャルを秘めている」と、同氏は強調し、阿武隈変成帯に着目したミュージアムプロジェクトなど、地域と共同した今後の活動に意気込みを示した。原町高の生徒たちこの他、原町高校からは福島ロボットテストフィールドでの水中ドローン訓練、平工業高校からは土木工学科による中学校への出前授業など、地元5校の高校生たちが浜通り地域に根差した実習経験を披露した。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
21 Dec 2020
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電気事業連合会は12月17日、新たなプルサーマル計画を発表。同日、電事連の池辺和弘会長(九州電力社長)が梶山弘志経済産業相を訪れ報告した。7月に行われた経産相と電気事業者他の経営トップとの意見交換会の中で、経産相より事業者側に対し核燃料サイクルに関する要請事項(使用済燃料対策、六ヶ所再処理工場のしゅん工、プルサーマルの導入、バックエンド対策)が示されていた。今回の新たな計画は、六ヶ所再処理工場やMOX燃料工場の新規制基準適合性に係る審査の進展を踏まえ、要請事項に対し電事連が示した取組状況の一つで、プルサーマル発電について、早期かつ最大限導入することを基本に、「2030年度までに少なくとも12基の原子炉」での実施を目標としている。プルサーマルのしくみ(電事連ホームページより引用、使用済MOX燃料の再処理については今後検討を進めることとなっている)プルサーマル発電は、2009年に九州電力玄海3号機で開始。電事連では「16~18基の原子炉でプルサーマルの導入を目指す」との方針を掲げているが、現在、再稼働済のプルサーマル発電炉は計4基(関西電力高浜3、4号機、四国電力伊方3号機、九州電力玄海3号機)に留まっている。新規制基準をクリアし再稼働した原子力発電プラントは現在9基。電事連が発表した新たなプルサーマル計画では、「稼働するすべての原子炉を対象に1基でも多くプルサーマルが導入できるよう検討し、プルトニウムの需給バランスの確保に最大限取り組んでいく」としている。また、電事連は、新たなプルサーマル計画の策定に際し、使用済燃料対策の拡充に向け、東京電力と日本原子力発電が設立したリサイクル燃料貯蔵(株)が建設を進めるむつ中間貯蔵施設の共同利用の検討に着手するとした。これに関し、梶山経産相は、18日の閣議後記者会見で、「新たな選択肢を検討することは、核燃料サイクルを推進する上で大きな意義がある」と述べた上で、「青森県、むつ市に対し丁寧に説明し理解してもらうことが重要」と、事業者と連携し地元の理解促進に主体的な姿勢で取り組んでいく考えを示した。
18 Dec 2020
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新日本空調はこのほど、VR(バーチャルリアリティ)技術を活用し原子力空調設備施工に係る工事状況の確認・各種検査を遠隔で行う現場支援システムを確立したと発表した。360度撮影カメラとVRゴーグルを利用し現場状況をよりリアルに再現し共有するもの。新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、現場への大人数での立入りが難しくなっている状況下、設計や品質管理に通じたベテラン技術者が本部に在室したまま、施行状況のチェック・アドバイスの他、作業安全や品質検査の技量向上に関する若手への指導を、タイムリーに行うことが可能となる。遠隔医療や障害者支援などにおけるVRシステム導入で実績のあるジョリーグッドとの共同で開発された同システムは、現場担当者が高性能カメラ(360度/8K)と小型簡易カメラ(360度/5.6K)を用いて予め設定されたポイントで現場状況を撮影し、データをサーバーに転送した後、本部側で専用のVRゴーグルを通じ視聴できるというもの。各自の視点に合わせ360度を見渡せるVRゴーグルは同時に10台まで接続できるほか、タブレット端末からの映像の移動やマーキングにより、VRゴーグルを装着したまま工程の要所ごとに議論することも可能。新日本空調は、戦前の満鉄特急「アジア号」の全列車客室空調に始まり、日本初の超高層ビル霞ヶ関ビルの空調設備の施工も手掛けた「空調設備のパイオニア」だ。原子力分野でも、1957年の研究炉「JRR-1」(日本原子力研究所)への施工以降、商業用原子力発電所の換気・空調でも多くの施工実績を持つ。同社は微粒子可視化に係る技術を強みとしており、最近では新型コロナウイルス感染症拡大下での劇場利用の考察に向け、楽器メーカーや音楽関連団体との協力で管楽器演奏や合唱における飛沫流動の検証実験も行っている。
17 Dec 2020
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