環境省はこのほど、中学生以上を対象に、福島第一原子力発電所事故の発生から、放射性物質の状況、除染、福島県産品の食品の安全性についてわかりやすく説明したパワーポイント学習教材「学んで、考えてみよう 放射線・放射性物質対策のこと」を公開した。2013年度より制作・公開している福島県出身のタレントなすびさんの現地取材によるコンテンツ「なすびのギモン」をベースにしたもの。環境省ではこれまでも、教師が「自身で放射線・除染に関する授業を実施する」、生徒が「身の周りの放射線や除染について知り、考え、成長して県外に出たときに、自分のこと、福島のことを少しでも説明できるようになる」ことを目標に、小学生向けの紙芝居「ふくろう先生の放射線教室」(全3巻)、放射線測定実習プログラムなど、授業での実践事例とともに、資料の制作・公開を行ってきた。今回公開されたパワーポイント資料は、「I.東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故」、「II.除染について」、「III.福島県産品の食品について」、「IV.放射線が体に及ぼす影響について」の4つのテーマを系統立ててスライド形式で整理。例えば、「II.除染について」では、校庭、雨どい、プール、道路、農地の除染手法や、除染効果の確認、除去土壌の保管、中間貯蔵施設への輸送など、一連の取組を写真や地図を交えて説明。また、「III.福島県産品の食品について」では、まず食品中の放射性物質の基準値を述べた上で、生産現場における安全確保の取組として、農地の反転耕(放射性セシウムが付着している表面土と汚染されていない下層の土を入れ替える)、放射性カリウムの吸収抑制対策を紹介。また、市場に流通する前の農水産物、米、牛乳の放射性物質に関するモニタリング検査について、県の他、身近なスーパーでも独自の検査を行っていることをあげるなど、生徒自身でも調べさせるようにしている。
17 Jun 2020
3505
福島県「県民健康調査検討委員会」の甲状腺検査に関する評価部会が6月15日に開かれ、3巡目検査(2016~17年度)の結果が報告された。甲状腺検査は、長期的観点から放射性ヨウ素の内部被ばくによる甲状腺がんから子供を見守るため2011年より実施されている。震災当時に県内に在住していた18歳以下、および震災後に生まれた約34万人を対象として約22万人(64.7%)に実施された3巡目検査で、「悪性腫瘍ないし悪性の疑い」となった割合は実施者数全体に対し0.01%だった。同検査での地域分類、「避難区域等」(田村市、南相馬市、伊達市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村)、「中通り」(福島市など、26市町村)、「浜通り」(いわき市、相馬市、新地町)、「会津地方」(会津若松市など、17市町村)の地域別にみると、「浜通り」が最も高く0.03%だった。因みに、日本の甲状腺がんの罹患率(2015年)は、人口10万人当たり9人(0.009%)程度で、女性では同13人(0.013%)程度と男性と比べて高い傾向にある。今回の検査結果に対し、福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センターの大平哲也氏は、「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)により評価された甲状腺吸収線量と小児甲状腺がんとの関連に関する論文を紹介。それによると、2巡目検査(2014~15年度)の受診者を対象とした解析結果から、「甲状腺吸収線量が低い地域から高い地域に行くにしたがって、甲状腺がんの発見率が高くなるというような関連性は、いずれの年齢でも見られなかった」としている。その上で、UNSCEARによる被ばく線量評価には不確定要素が多いことなどをあげ、3巡目検査以降のデータを用いて引き続き評価を行う必要があると指摘。UNSCEARは2013年報告書(2014年4月公表)の中で、「福島第一原子力発電所事故により日本人が生涯に受ける被ばく線量は少なく、その結果として今後日本人について放射線による健康影響が確認される可能性は小さい」と結論付けている。部会長の鈴木元氏(国際医療福祉大学クリニック院長)も自身が参画する研究チームの論文を紹介。避難指示が出された7市町村の子供たちの行動調査票をもとに2011年3月11~26日の線量評価を解析し、1歳児の甲状腺被ばく(等価線量)に関し「UNSCEAR2013年報告書の評価値より大分小さくなった」としている。鈴木氏は、避難シナリオを見直し線量評価の精緻化を図った同研究の意義を述べ、年度内に見込まれるUNSCEAR報告書のアップデートに向けて、「日本の研究者たちが、何が原因で過剰評価となったか、データとして示していくべき」と強調した。
16 Jun 2020
2430
東芝エネルギーシステムズ、横浜国立大学、神奈川県立病院機構は、重粒子線がん治療装置の高度化に向け共同研究を加速する。東芝エネルギーシステムズでは、重粒子線がん治療のパイオニアである放射線医学総合研究所(量子科学技術研究開発機構)との共同開発により、あらゆる角度から重粒子線照射を可能とする「回転ガントリー」に超伝導電磁石技術を採用し、装置の小型・軽量化を図るなど、がん治療システムの研究開発に力を入れている。また、神奈川県立病院機構のがんセンターでは、国内で5番目の重粒子線治療施設「i-ROCK」が2015年に治療を開始。3者が6月11日に発表したところによると、これまで、2017年度設立の共同研究講座により、放射線の照射量に応じて発色する材料と発色量の3次元分布を測定する技術の開発に至るなど、「i-ROCK」を活用しがん治療における課題解決に取り組んできた。今後は、その成果を踏まえ、重粒子線がん治療装置の高度化に向けて、4月に新たな枠組みのもと、横浜国大研究推進機構内に「東芝エネルギーシステムズ・神奈川県立病院機構 重粒子線がん治療装置共同研究講座」を開設。神奈川県立病院機構は実データや現場の具体的要望を横浜国大に提供し、東芝エネルギーシステムズは「i-ROCK」の設計・製造を一括で請け負った実績をもとに機器や制御の観点から研究を支援する。横浜国大における人工知能の研究なども応用し、より精度の高い照射技術の開発を目指す。3Dプリントされた線量計、人形(上)をモデルに照射前(左下)に対し1kGyのX線照射後(右下)は青緑色の濃淡として照射部分が示されている(金沢工大発表資料より引用)放射線治療においては、腫瘍周辺の正常組織に影響を及ぼさないよう綿密な照射計画を立てる必要がある。線量の3次元分布測定に関し、金沢工業大学他の研究グループがこのほど興味深い研究成果を発表している。放射線照射により発色する「ラジオクロミック」と呼ばれる材料を用い3Dプリンターで患者の臓器の形状を正確にコピーするオーダーメイドの「3次元線量計」で、放射線治療技術の進展に応じ線量分布が複雑化する中、正確で安全な放射線治療の提案に資することが期待される。
12 Jun 2020
4149
日本原子力研究開発機構は6月11日、放射性物質の大気拡散データベースシステム「WSPEEDI-DB」を開発したと発表。従来の大気拡散予測システム「WSPEEDI」を改良したもので、新システムに用いられた新たな計算手法では、これまで約7分を要していた放出から1日後までの予測計算を3、4秒にまで短縮することができ、今後原子力災害発生時の防護措置の実効性向上に向けた活用が期待される。(原子力機構発表資料はこちら)新たな計算手法では、放射性核種、放出期間などの不確定情報に対し多数の拡散計算を行い計算結果をあらかじめデータベース化。さらに、日々の気象データの更新に合わせ、大気拡散計算を定常的に行いデータを連続的に蓄積しておくことで、実際に放出条件が与えられた際の大気拡散予測の効率化を図っている。今回の成果発表では、新システムの活用事例として、島根県原子力環境センターとの共同で実施したモニタリングポスト配置の妥当性検証について紹介した。中国電力島根原子力発電所周辺地域を対象とした100km四方および390 km四方の領域について、過去1年間の気象データを用いた1時間間隔の単位放出拡散データを蓄積しデータベースを作成。広範囲の中で「ホットスポット」と呼ばれる放射線量率の高い場所の分布図を作成し、降水時にはモニタリングポストで把握できない「ホットスポット」が想定されると分析した上で、可搬型モニタリングポストや航空機モニタリングなどによる補強を提案している。
11 Jun 2020
3020
原子力規制委員会は、事業者による自主的・継続的な安全性向上に向けた取組をより円滑かつ効果的なものとすべく新たなアプローチの検討を開始する。法令などに基づき事業者が講ずべき措置を具体的に示す、いわゆる「規制」に加え、安全確保上の目標を設定しインセンティブにより事業者の目標達成を促す枠組み・制度のあり方を検討するもの。〈規制委発表資料はこちら〉原子力発電所に係る法令に基づく対応としては、事業者に対し定期検査終了後6か月以内に安全性向上に向けた取組の実施状況や有効性について調査・評価させ、結果の届出を求める「安全性向上評価」(FSAR)がある。新規制基準施行後、再稼働の先陣を切った九州電力川内1号機については、5月に3回目の「安全性向上評価」が規制委員会に提出された。その中で、自主的な安全性向上対策として、桜島からの降灰に関する厳しい評価を実施し安全性に影響がないことを確認した上で、さらなる安全裕度の確保に向けて、燃料取替用水タンクの溶接部強化工事を計画するなどしている。規制委員会では、こうした「安全性向上評価」や、既に許認可を受けた施設が新知見に基づく規制要求に適合することを確認する「バックフィット」など、これまでの取組における制度面・運用面での改善点を抽出し、新たなアプローチに向けて考え方を示すべく、今後外部専門家も含めた検討チームを7月にも始動し、概ね1年程度で検討結果を取りまとめる。更田豊志委員長は6月10日の定例記者会見で、事業者が自らの言葉で施設の安全性を語る重要性を改めて述べた上で、「これまでインセンティブを起源とする取組が少なかった」として、検討チームにおける有意義な議論に期待を寄せた。
10 Jun 2020
4330
【国内】▽1日 政府、浜通りの産業集積に向け福島県作成の新たな「重点推進計画」を認定▽2日 エネ庁が福島第一処理水の取扱いに関し3回目の意見聴取、経団連他▽13日 規制委、六ヶ所再処理工場について新規制基準に「適合」との審査書案まとめる▽13日 福島第一2号機の使用済燃料プール調査に向け水中ROV訓練開始、ロボットテストフィールドで▽15日 NTTがITER機構と包括連携協定を締結、情報通信技術分野で協力▽20日 九州電力川内2号機が定期検査入り、「特定重大事故等対処施設」設置期限満了を迎え▽20日 文科省作業部会が「もんじゅ」サイトを活用した試験研究炉で議論、2022年度の詳細設計目指す▽21日 宮城県が女川原子力発電所に係る住民避難で検証結果まとめる▽22日 関西電力が美浜3号機事故を踏まえた原子力の安全性向上で、2020年度からのロードマップを新たに策定▽27日 エネ庁が夏の電力見通し発表、供給予備率は確保されるもコロナ影響を注視▽28日 学術会議が安全と安心の関係をテーマにシンポ▽29日 東京電力、福島第二4基の廃止措置計画を規制委に認可申請 【海外】▽6日 米規制委、使用済燃料の中間貯蔵施設建設計画について環境影響声明書案を発行▽7日 EU司法裁・法務官が見解:司法裁は英国の国家補助問題でオーストリアの控訴を棄却すべき▽7日 英国政府の世論調査で「CO2排出量実質ゼロ」の概念をある程度理解は35%▽11日 IAEAが加盟国から2,200万ユーロの拠出受け新型コロナ対策支援▽12日 米国で建設中のボーグル3号機、原子炉容器に「一体化上部カバー」の据え付け完了▽12日 米規制委、SMR等の緊急時対応要件策定に向け提案中の規則でパブコメ募集▽14日 米エネ省、予算2億3千万ドルで先進的原子炉実証プログラムを開始▽14日 米X-エナジー社、自社製TRISO燃料の性能確認でMITと協力▽18日 ウクライナ、3発電所の使用済燃料の集中中間貯蔵施設を9月末までに完成へ▽19日 建設中のUAEバラカ発電所 4号機の冷態機能試験が完了▽21日 米規制委 委員の欠員ポスト埋まる▽22日 ロシアの海上浮揚式原子力発電所が営業運転開始▽22日 スロベニア政府、2基目の原子炉建設について遅くとも2027年までに決定へ▽26日 カナダNWMO、深地層処分場の二つ目の建設候補地点でもフィールド調査実施へ▽27日 EDFエナジー社、英サイズウェルC原子力発電所の建設に向け開発合意書を申請▽28日 チェコ政府、ドコバニ原子力発電所増設計画で総工費の7割融資へ▽28日 米エネ省の長官、原子力における米国の競争優位性回復について専門誌で説明 ☆過去の運転実績
09 Jun 2020
2516
日本学術会議は6月5日、理工学分野におけるジェンダーバランスの現状と課題に関する報告書を発表した。日本の学術界、特に理工学分野における「ダイバーシティ(多様性)の不足」を重要な問題ととらえ、理工学各分野の女性研究者が、修士、博士、助教、講師、準教授、教授と、キャリアアップするつれて減少していくいわゆる「リーキーパイプライン」を分析し、課題解決に向け教育・社会・家庭が取り組むべきアプローチについて述べたもの。男女共同参画白書によると、研究者に占める女性の割合(2017年度)は、理学14.2%、工学10.6%で、他分野と比較して極めて低い。また、大学・大学院学生で、女性の占める割合は、研究者の1.5~2倍となっていることなどから、今回の報告書では「女性が研究職として継続しにくい状況」があると指摘している。例えば、助手と教授のそれぞれで女性の占める割合は、理学で53.8%、5.2%、工学で22.5%、3.6%、農学で81.2%、4.7%などと、キャリアアップにつれ大きく後退。保健が58.2%、23.2%、家政が87.8%、34.1%であるのと比較し、「リーキーパイプライン」現象が極めて顕著となっている。報告書では、その改善に向けた高等教育における取組として、芝浦工業大学の事例を紹介。同学では、「ダイバーシティ推進先進校」を掲げ、女性職員管理職・教員・学生比率を30%に引き上げることを目標に、出産・育児・介護を支援する学内諸制度の整備、全学共通科目「ダイバーシティ入門」の開講などを実施した結果、女性教員比率が2013年度9%から2019年度18%へと倍増した。また、女子学生の進路選択に関し介在する「理工学系の職業は危険、体力的に困難」といった「無意識の偏見」(アンコンシャスバイアス)についても考え直す必要があるとして、新しい社会的風潮や流れを作り出していくよう、マスメディアの果たすべき役割は大きいなどと述べている。総務省の統計(2015年)によると、女性研究者の比率は、航空(2.9%)、機械・船舶(5.2%)、電気・通信(6.9%)、物理(7.8%)、原子力(8.6%)、材料(9.2%)などの分野で低くなっている。こうした状況をとらえ、産学官の連携による「原子力人材育成ネットワーク」では2月の年次報告会で、ジェンダーバランスをテーマとして海外の取組事例に関する発表、意見交換を行った。
08 Jun 2020
2415
政府は6月5日、2020年度のエネルギー白書を閣議決定した。エネルギー政策基本法に基づき、概ね前年度に講じられたエネルギー需給に関する施策について取りまとめたもの。今回も経済産業省が「一丁目一番地の最重要政策課題」と位置付ける「福島復興の進捗」を筆頭に、「災害・地政学リスクを踏まえたエネルギーシステム強靭化」、「運用開始となるパリ協定への対応」の3件を特集。「福島復興の進捗」では、福島第一原子力発電所の廃炉に係る取組として、リスク低減に向けた1/2号機排気筒解体作業の進捗(2020年5月に上半分約60mの解体が完了)、2020年2月に取りまとめられた処理水の取扱いに関する報告書へのIAEAレビューなど、最近の動きも取り上げている。また、福島復興に関しては、いずれも2020年3月の進展として、帰還困難区域では初めてとなった双葉町・大熊町・富岡町の一部地域の避難指示解除や、「福島ロボットテストフィールド」と「福島水素エネルギー研究フィールド」の開所を紹介。「災害・地政学リスクを踏まえたエネルギーシステム強靭化」では、ホルムズ海峡周辺での日本関係船舶被弾など、中東情勢の緊迫化をもたらす最近の事案や、昨秋の台風15号、19号による大規模停電の発生をとらえ、国際資源戦略やエネルギーレジリエンスの強化を図る重要性を訴えている。また、昨今の新型コロナウイルス感染拡大が及ぼす国際原油価格市場への影響についてコラムで紹介。「運用開始となるパリ協定への対応」では、地球温暖化対策に関する国際的枠組み「パリ協定」が2020年から本格運用されるのを受け、温室効果ガス削減につながる5分野16技術課題の具体的目標を掲げた「革新的環境イノベーション戦略」(2020年1月策定)について取り上げ、「技術開発を進めることで、実効的な温室効果ガス削減に取り組んでいくことが重要」と強調。2050年の確立を目指す「革新的環境イノベーション戦略」の技術課題では、安全性・経済性・機動性に優れた革新的原子力技術や核エネルギー技術を含むエネルギー転換の分野で、約300億トンの温室効果ガス削減が見込まれている。資源エネルギー庁では、今回のエネルギー白書をわかりやすく紹介した「スペシャルコンテンツ」を公開している。
05 Jun 2020
3004
原子力規制委員会は6月3日、日本原子力研究開発機構の高温工学試験研究炉「HTTR」(茨城県大洗町、高温ガス炉、熱出力3万kW)が新規制基準に「適合している」との審査書を決定し、同機構に原子炉設置変更許可を発出した。本件は、3月25日の審査書案取りまとめを受け、原子力委員会と文部科学相への意見照会、パブリックコメントが行われていたもの。2014年11月の審査申請から約5年半を要した。HTTRの燃料体構造(原子力機構発表資料より引用)高温ガス炉は、電気出力100万kW 規模が主流の軽水炉に比べ小型だが、原子炉出口温度850~950度C(軽水炉は約300度C)の高温熱は、水素製造、海水淡水化、地域暖房など、幅広い利用が可能。また、原子炉から熱を取り出す冷却材には高温でも化学的に安定なヘリウムガスを用いているほか、1,600度Cにも耐える放射性物質の閉じ込め性能を持った「セラミックス被覆燃料」からなる燃料体構造などから、安全性にも優れている。原子力機構では今後、「HTTR」の2020年度内の運転再開を目指し、安全対策工事を着実に進めていく。運転再開後はまず、OECD/NEAの枠組みによる安全性実証試験「炉心強制冷却喪失(LOFC)プロジェクト」を実施。同プロジェクトでは、2010年度までの第1段階試験(30%出力、ガス循環機停止)で高温ガス炉の自然停止・冷却などの安全特性が示されており、今後も原子炉にとって厳しい条件を付加した試験を行い、得られた成果を通じ高温ガス炉に関する安全基準の国際標準化に向け貢献していく。
04 Jun 2020
4655
内閣府(原子力防災)は6月2日、昨今の新型コロナウイルス感染拡大を踏まえ、感染症流行下における原子力災害発生時の避難や屋内退避など、防護措置の基本的考え方をまとめた。内閣府(防災)では4月以降、自然災害に伴う避難所の新型コロナウイルス感染症対策について随時情報発信を行っており、原子力災害においても、これを原則適用し感染拡大・予防対策を十分考慮することが第一にあげられている。具体的には、避難する場合、移動中や避難先での感染拡大を防ぐため、避難所・車両における感染者の分離、人と人との距離の確保、マスクの着用、手洗いなどの感染対策を実施すること。また、自宅などでの屋内退避の際は、放射性物質による被ばくを避けることを優先し、屋内退避の指示が出されている間は原則換気を行わないとしている。今回示した基本的考え方について、内閣府(原子力防災)では、各地域の実情を踏まえ、当面の対応、避難計画見直しの参考として欲しいとしている。新型コロナウイルス感染症対策に関し、全国知事会では5月22日に緊急提言を発表し、政府に対し、医療提供・検査体制の充実化や社会経済活動の段階的な引き上げとともに、災害時の避難所体制整備についても所要の予算措置を要望。また、58の学会で構成される防災・減災ネットワーク「防災学術連携体」も同1日、気象災害が多発する時期を前に緊急メッセージを発表し、「感染リスクを考慮した避難が必要」、「熱中症への対策も必要」などと呼びかけている。こうした中、大阪府の吉村洋文知事は6月3日、記者会見を開き、人気アーティストを起用したライブハウス支援策などとともに、新型コロナウイルス感染症対策に応じた「避難所運営マニュアル作成指針」を公表。「3密(密閉・密集・密接)を避ける」、「保健所との連携」、「多様な避難所(学校の教室も含め)の確保」、「避難所における感染防止対策」がポイントに据えられており、今後これを踏まえ職員研修や市町村における運営訓練を行うとしている。
03 Jun 2020
3285
原子力委員会は6月1日、原子力規制委員会より新規制基準適合性審査の中で意見を求められていた日本原燃六ヶ所再処理工場(青森県六ヶ所村)で行われる事業の平和利用の担保について、「妥当」とする答申を決定した。六ヶ所再処理工場では、原子力発電所の使用済燃料から再利用できるウランとプルトニウムを取り出し、そこで回収されたウラン・プルトニウム混合酸化物はMOX燃料加工工場へと送られる。原子力委員会は2018年に、原子力平和利用の透明性をより高めるため、「わが国におけるプルトニウム利用の基本的考え方」を改定し、プルサーマル発電の着実な実施、それに必要なだけの再処理を行うことにより「プルトニウム保有量を減少させる」とする日本の姿勢を示した。今回の原子力委員会の答申は、これを踏まえた日本原燃による事業方針・計画、および規制委員会による判断の妥当性が確認されたもの。一方、規制委員会では、5月13日に六ヶ所再処理工場について新規制基準に「適合している」との審査書案を取りまとめたのを受け、現在、正式決定に向け6月12日までパブリックコメントを実施中。1日にはテレビ会議で規制委員会と日本原燃とを結び、同じく新規制基準適合性審査が大詰めとなっているMOX燃料加工工場に関する審査会合が行われ、その中で、今後六ヶ所再処理工場が運転するために必要となる設計・工事計画の認可申請についても質疑応答があった。原子力規制庁の新規制基準適合性審査チームは、「建屋だけでも20近くあり、安全上重要な機器も1万を超える」などと、再処理工場の審査に係る膨大な物量を懸念し、全体的な計画が示される必要性を指摘。日本原燃は、審査の効率性も考慮した上で、設計・工事計画の認可申請を当初の22分割から4分類程度に大括りで整理し直すとし、秋口頃に説明を行う見通しを示した。
02 Jun 2020
2997
東京電力は5月29日、福島第二原子力発電所1~4号機(BWR、各110万kW)の廃止措置計画の認可を原子力規制委員会に申請するとともに、合わせて、福島県、楢葉町、富岡町に廃止措置実施に係る事前了解願いを提出した。4基はいずれも東日本大震災以降稼働することなく、2019年9月30日をもって廃止となっている。〈東京電力発表資料は こちら〉福島第二1~4号機の廃止措置期間は全工程で44年が見込まれており、「解体工事準備期間」(10年)、「原子炉本体周辺設備等解体撤去期間」(12年)、「原子炉本体等解体撤去期間」(11年)、「建屋等解体撤去期間」(11年)、の4段階に区分。今回、第1段階「解体工事準備期間」で実施する汚染状況調査などについて申請された。使用済み燃料プールに貯蔵中の使用済み燃料(計9,532体)は、第3段階の「原子炉本体等解体撤去期間」の開始までに搬出を完了させ、廃止措置が終了するまでに全量を再処理事業者へ、新燃料(計544体)についても同期間開始までに加工事業者へ譲渡することとしている。福島第二4基の廃止決定に先立ち、2019年7月に同社の小早川智明社長は、使用済み燃料乾式貯蔵施設の敷地内への新設を表明。これを受け、福島県の内堀雅雄知事は、「県外への全量搬出」との基本的スタンスを強調している。同施設の設置については、今後改めて認可申請される予定。
01 Jun 2020
2181
日本学術会議は5月28日、「安心感等検討シンポジウム」を開催。同会議の工学システムに関する委員会が主催するもので、安全と安心の関係に焦点を当て、市民の安心の実現に向けた課題・対応について議論した。シンポジウムでは冒頭、2019年度に文化勲章を受章した数理工学者の甘利俊一氏(東京大学名誉教授/理化学研究所名誉研究員)が特別講演を行い、趣味の囲碁の話も交えながら自身の取り組んできた研究について紹介。今回のシンポジウムは、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、オンラインでの開催となり、チャット機能を通じた参加者との質疑応答では、人工知能が人間を超える「シンギュラリティ」に関する質問もあった。学術会議では毎年7月に多分野の学協会共催のもと「安全工学シンポジウム」を開催しているが、昨夏に「リスク共生社会の構築」を主張した野口和彦氏(横浜国立大学都市科学部教授)は、今回も「安心な社会の構築には、社会目的や他のリスクとの関係も含めて考える必要がある」と述べ、「社会総合リスク」を整理し、行政、企業、学界、市民の役割を改めて考えるべきと、議論に先鞭を付けた。続いて、モノづくりの視点から向殿政男氏(明治大学教授)が、安全目標と安心感の関係について松岡猛氏(宇都宮大学基盤教育センター非常勤講師)が講演。パネル討論に入りまず、電気学会から中川聡子氏(東京都市大学名誉教授)が発表。同氏は、2018年の北海道胆振東部地震による道内全域停電の教訓から、「事は起こるもの」としてのレジリエンスの視点で、4つの「R」、Robustness(頑強性)、Redundancy(多重化)、Rapidity(早期対応)、Resourcefulness(人材・投資の活用)の重要性を強調。「生活の安心感はインフラの確保」と述べ、道内に店舗展開するコンビニが、自動車からの給電によるレジ機能確保、ガス釜炊飯、重油の備蓄などにより、発災時にも95%が営業し市民生活を支えた好事例を紹介した。原子力安全研究協会会長の矢川元基氏は、タラゴナの考古遺産群として現存するローマ時代の水道橋のアーチ構造を図示し、「原理が自然で、フェールセーフ、ローテクだと、理解度・納得度が高く安心感が得られる」とした上で、小型モジュール炉(SMR)の自然循環による受動的安全システムをその一例としてあげた。さらに、「目で確かめられない」と人々の理解度・納得度は低くなるとして、放射線、溶接接合、新型コロナウイルスなどを例示。また、感性工学の立場から中央大学理工学部教授の庄司裕子氏は、安全・安心の問題と、親子間のギャップの類似性を述べた上で、「まず受け手の心を知ることで、信頼関係が回復し伝えたいことが伝わる」などと主張した。前半の講演では、辻佳子氏(東京大学環境安全研究センター教授)が、「課題解決のできる人材育成、社会実装」を図る実効的な安全教育の必要性を強調し、この他、発表者からはイノベーション、安全の定義、技術者への信頼、説明責任、マスコミの役割といった言葉があがった。これを受け参加者を交えた討論では、今後の教育のあり方や、「想定外」といった言葉の理解を巡り意見が交わされた。
29 May 2020
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東京電力は5月28日より、「家族で食べよう!福島牛キャンペーン」を実施している。新型コロナウイルス感染拡大に伴う外食自粛により、自宅で食事をする機会やインターネット通販での食材購入も増えているようだ。こうした状況をとらえ、同社では福島県産品の美味しさや魅力をさらにPRすべく、特に、家族で食卓を囲むすき焼きにも適した福島牛をメインに、県内約200の生産者らによる県産品の通販サイト「ふくしま市場」での販売促進イベントなどを行い、復興支援につなげる。同キャンペーンでは、特設サイトを開設し、福島牛を始めとする福島県産の農水産物を抽選で2,000名にプレゼントするほか、先着5,000名に割引価格で販売。プレゼントへの応募は6月末までとなっている。特設サイトでは、「ふくしま市場」に出品している食肉加工・惣菜製造業いとうフーズ(郡山市)の伊藤武・代表取締役によるビデオメッセージを紹介。同氏は、「震災から9年が経ち売上げがようやく落ち着いてきたかな、と思った矢先に」と、昨秋の台風19号襲来による工場冠水、倉庫内の食肉被害を振り返る。加えて、最近の新型コロナウイルス感染拡大に伴い売上げが大幅減となる中、年明けに復旧した工場内の映像とともに、福島牛の美味しさを「風味豊かでまろやかな味が特徴」とアピールし、同キャンペーンの開始に際し「全国の皆様に福島牛のPRができる」と抱負を語っている。
28 May 2020
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資源エネルギー庁は5月27日、今夏の電力需給見通しを発表した。全国の各エリアともに、安定供給に最低限必要とされる供給予備率3%が確保できる見通し。国内の電力会社が加入する電力広域的運営推進機関(OCCTO)が取りまとめたデータに基づき、総合資源エネルギー調査会で25日に書面審議が行われたもの。それによると、電力需要がピークを迎える8月の供給力想定で、原子力発電については534万kWが見込まれている。現在、関西電力の高浜4号機(PWR、87万kW)、同大飯3、4号機(PWR、各118万kW)、九州電力の玄海3、4号機(PWR、各118万kW)が稼働中で、これらが織り込まれた格好だ。大飯3号機では、新型コロナウイルス感染防止対策のため、当初5月8日~7月15日を予定していた定期検査が2、3か月延期されることとなったが、同機が供給力から外れる場合でも、中西日本エリアの供給予備率は3%を確保できる見込み。また、火力発電では、運転開始から47年となる東北電力の東新潟港1号機(LNG、34万kW)が昨冬に続き供給力として見込まれている。今夏の電力需給見通しと合わせて発表された昨冬の電力需給結果分析によると、運転開始から40年を経過した火力発電の1、2月の発電電力量は122億kWh(原子力産業新聞の調べで、同期間の原子力発電による発電電力量は104億kWh)。全国的な暖冬の影響もあるが2月以降は、前年同月との比較で、電力需要は落ち込みを見せている。新型コロナウイルス感染拡大防止措置に伴う需要減も考えられ、電力広域的運営推進機関は「わが国の経済活動等に大きな影響を与えている」と懸念。資源エネルギー庁でも、今夏の電力需給見通し取りまとめに際し、「引き続き需給状況を注視していく」と、必要に応じた対応を図る考えを示している。
27 May 2020
3061
「女性科学者に明るい未来をの会」はこのほど、2020年の「猿橋賞」に、「加速器を用いた長基線ニュートリノ実験(T2K実験)によるニュートリノの性質の解明」で成果をあげた京都大学大学院理学研究科准教授の市川温子氏を選定した。「猿橋賞」は、「女性科学者に明るい未来をの会」を創設した地球化学者・猿橋勝子氏に因む学術奨励賞で、自然科学分野で顕著な研究業績を収めた女性科学者を称えるものとして1981年の初回以来、毎年1名に贈呈。現在原子力委員を務めている中西友子氏も2000年に受賞している。茨城県東海村から岐阜県飛騨市までニュートリノが送られるT2K実験(高エネ研発表資料より引用)市川氏が取り組んできた研究は、2008年にノーベル物理学賞を受賞した「CP対称性の破れ」(小林誠氏・益川敏英氏)と呼ばれる粒子と反粒子の性質に関する理論をさらに探求し宇宙創成の謎に迫るもの。今回の受賞で業績が評価されたT2K実験は、大強度陽子加速器「J-PARC」(茨城県東海村)で作り出したニュートリノ(超新星爆発などから発生する素粒子の一つ)を、約295km離れた宇宙素粒子観測装置「スーパーカミオカンデ」(岐阜県飛騨市)へ打ち込みニュートリノの性質を観測する国際プロジェクト。2010年のニュートリノ初検出後、2011~13年には世界に先駆けた成果とされる「電子型ニュートリノ出現」の観測に成功。同氏は、実験の設計段階から携わり、装置完成、成果取得に至るまでリーダーシップを発揮し、「建設と実験データ解析の両面で大きく貢献を成した」と称えられた。「スーパーカミオカンデ」による研究成果は、前身の装置も含め小柴昌俊氏(2002年)や梶田隆章氏(2015年)のノーベル物理学賞受賞につながるなど、国際的に評価されており、「J-PARC」とともに今後も装置の高度化が計画されている。25日には、「スーパーカミオカンデ」をさらに大型化し実験を行う国際プロジェクト「ハイパーカミオカンデ」計画の具体化に向け、東京大学と高エネルギー加速器研究機構とが覚書を締結した。
26 May 2020
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福島浜通り地域の国際教育研究拠点に関する検討が現在、6月の取りまとめに向けて復興庁の有識者会議で進められている。浜通り地域の新たな産業基盤構築を目指す「福島イノベーション・コースト構想」のもと、これまで「福島ロボットテストフィールド」(南相馬市・浪江町)などの拠点整備や産業集積が図られてきたが、今後同構想をさらに加速し産学官が連携し魅力ある浜通り地域を創出すべく、長期にわたり復興をリードしていく研究者・技術者の育成につなげようというもの。復興庁の有識者会議では、昨夏より大学・研究機関からのヒアリングや企業アンケートを実施し、国際教育研究拠点の目的・機能、運営体制、研究分野、地元産業との連携の仕組みについて整理を行っている。例えば、東北大学は、廃炉、放射線医学、ロボット、環境・エネルギー、産業、災害科学の分野の研究を想定し、拠点内に分校「福島浜通り国際キャンパス」を設置することを提案し、国による長期的な予算措置を要望。お茶の水女子大学は、拠点の運営組織に、性差に配慮した研究・教育を推進することで新たな復興視点を導入する「女性活躍推進部門」や、減災を目指した次世代人材育成やリテラシーの向上を図る「減災・科学教育研究部」の設置を提案。他の研究拠点の例として、若年層の人口減少が続く中、人材育成と産業基盤づくりに向け山形県と庄内14市町村が核となり大学を誘致し進めている「鶴岡サイエンスパーク」プロジェクトが、海外の成功事例としては、放射能汚染からの環境浄化を契機に産業発展をとげた米国のハンフォード・サイトが紹介された。5月15日の有識者会議で、座長を務める坂根正弘氏(コマツ顧問)は、「日本における究極の地方創生モデル」を目指すとの取組姿勢を示した。その上で、国際教育研究拠点が対象とする研究テーマや人員規模とともに、2023年春の一部開所、24年度の本格開所を目指し20年内を目途に立地地域を決定するとのスケジュール案を含め、最終報告取りまとめに向けた論点を整理。これまでの有識者会議の議論を受け、福島県の内堀雅雄知事は、「浜通り地域には高等教育機関がない」と、避難指示区域となった市町村の現状を述べ、研究機能とともに、学位取得の仕組みなど、教育機能の重要性を強調している。なお、最近の避難指示区域を巡る議論として、19日の衆議院震災復興特別委員会で、元復興相の自由民主党議員・根本匠氏が、帰還困難区域の将来像に関する質疑の中で、飯舘村村長が提案する復興公園整備構想を紹介し、土地利用に即した対応も考えていく必要性を指摘。同村では南端一部(長泥地区)に帰還困難区域が設定されている。これに関連し、内堀知事は25日の定例記者会見で、帰還困難区域の取扱いについて、「今正に国、県、市町村、関係機関も含め活発な議論がなされている」とした上で、今後自治体の意見を尊重しながら、「復興・創生期間」後(2021年度以降)の方向性が示されるよう国に対し要請していく考えを述べた。
25 May 2020
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日本学術会議はこのほど、提言「長期の温室効果ガス大幅排出削減に向けたイノベーションの加速」を発表した。温室効果ガス低排出型の経済・社会発展に向け、2019年6月に政府は「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を策定し国連に提出。また、学術会議は同月に世界レベルでの温室効果ガス排出の大幅削減に向けたイノベーションの役割について話し合うシンポジウムを開催したほか、9月には地球温暖化の取組に関する緊急メッセージを発出し「将来世代のための新しい経済・社会システムへの変革が早急に必要」などと警鐘を鳴らした。今回発表の提言では、主に「安定的なエネルギー・気候変動政策の確立」、「低炭素、脱炭素を実現するエネルギーインフラの投資の予見性の向上」、「電力化率向上と電源の炭素化、脱炭素化の加速、再エネの課題認識と取組」、「基礎的な研究に重きを置いたイノベーションの誘発」、「長期的な視点を踏まえた費用対効果の検証と基礎研究の充実」に関する対応を国内の関係行政機関に要望。その中で、「エネルギー・気候変動対策を促進するために、政府が果たすべき役割は大きい」とした上で、原子力発電、太陽光発電、風力発電など、エネルギー技術や低炭素・脱炭素技術の開発・普及におけるこれまでの政府による取組に一定の評価を示しつつ、さらなるイノベーション促進に向けて、重要性の高い研究開発、実証・導入支援に予算を大幅投入すべきとしている。また、社会イノベーションの重要性にも言及。政府、地方、産業界、消費者らによる一体的取組を求めたほか、エネルギーに関する総合的な教育の充実化に「早急かつ強力に取り組むべき」と強調した。一般的に低炭素化・脱炭素化対策は設備費が大きいことから、エネルギーインフラ投資に関わる海外の事例として、英国のヒンクリーポイントC原子力発電所(HPC)で採用されたFIT-CfD制度(Feed-in Tariff with Contracts for Difference、差額精算方式の固定価格買取制度)をあげ、予見性の高い市場設計を図る制度が構築されるべきなどとしている。
22 May 2020
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文部科学省の「原子力研究開発・基盤・人材作業部会」(主査=山口彰・東京大学大学院工学系研究科教授)は5月20日、廃炉となる高速増殖原型炉「もんじゅ」(敦賀市)のサイトを活用した新たな試験研究炉について議論した。2016年の原子力関係閣僚会議で決定された「もんじゅ」の取扱いに関する政府方針の中で、「今後の原子力研究や人材育成を支える基盤となる中核的拠点」として、新たな試験研究炉の位置付けが示されたのを受け、文科省では2017年度より、利用ニーズ、地理的状況、運営体制などについて調査を進めてきた。20日の会合では、これまでの調査結果が説明され、建設可能な炉型として、既存の大学試験研究炉に相当する「臨界実験装置+加速器」(熱出力数kW)、「低出力炉」(同500kW)、「中出力炉」(同1万kW未満)の他、国内には例がないが技術的課題をクリアできれば建設が見込める革新的開発炉などが例示され、意見交換を行った。その中で、京都大学大学院工学系研究科教授の中島健氏は、1964年に初臨界した同学の研究炉「KUR」が2026年を目途に廃止となる見通しを述べ、新たな試験研究炉が「ポスト『KUR』」として研究・教育訓練に寄与することを期待。原産協会の木藤啓子氏は、産業界のニーズや海外との連携の観点から「議論の経過がよくわかるようオープンな形で意見を受け止めながら進めて欲しい」などと要望した。2019年10月には敦賀市で、立地地域との共生のあり方も含め試験研究炉への期待について話し合うシンポジウムが開催された。地元の立場として同作業部会に参画する福井工業大学工学部教授の来馬克美氏は、「県民から見てもまだよくわからない」として、今後のスケジュールなど、十分な説明がなされる必要性を強調した。コロナ拡大防止のため委員・傍聴者はPCから「ZOOM会議」で作業部会に参加(記者のPC画面上、議事を進める山口主査)文科省では、新たな試験研究炉について2020年度中の概念設計、2022年度の詳細設計を目指し、今後作業部会で、具体的な炉型の絞り込みに向けてさらに検討を進めていくが、元東京大学教授の寺井隆幸氏は、これまでの調査結果を振り返り、大強度陽子加速器施設「J-PARC」(東海村)の成果などを例に、「産業界や地方自治体を巻き込んだ共同利用についても踏み込んだ調査を進めて欲しい」と述べた。
21 May 2020
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九州電力は5月20日、川内原子力発電所2号機(PWR、89万kW)の定期検査を開始。3月に定期検査入りした1号機(同)と同様に、新規制基準で求められるテロに備えた「特定重大事故等対処施設」の設置期限(プラント本体の工事計画認可から5年)満了を迎えることから、前倒しでの定期検査入りとなったもの。川内1、2号機は、先陣を切って新規制基準をクリアし、それぞれ2015年8月、10月に発電を再開した。川内2号機の定期検査は、約9か月間の予定で、「特定重大事故等対処施設」の設置工事とともに、燃料の取替えや、同じく新規制基準で必要となる常設直流電源設備(3系統目)の設置工事などが行われる。同社の池辺和弘社長は4月30日に2019年度決算報告の記者会見を行い、その中で、新型コロナウイルス感染症の拡大が電気事業に及ぼす影響を懸念し、2020年度業績予想に関しては「リーマンショックのときと異なりデパートも休業」などと、経済活動全体の先行きが見通せない現状を繰り返し強調。その上で、川内1、2号機の停止に伴う代替燃料などによる費用増を概ね250億円程度と見込んだ。電力広域的運営推進機関が5月15日に取りまとめ発表した電力需給検証報告書によると、九州エリアの7、8月の供給予備率は約8%となっており、盛夏の電力需要に必要な供給力は確保できる見通し。「特定重大事故等対処施設」に関しては、今後、関西電力高浜3、4号機も10月までに設置期限満了に伴い定期検査入りとなる。
20 May 2020
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土木学会はこのほど、2019年度の「土木学会賞」受賞事業を発表。土木技術の発展に顕著な貢献をなし社会の発展に寄与した画期的プロジェクトに与えられる技術賞(IIグループ)を、常磐線の復旧・復興(JR東日本)が受賞した。「高い放射線量下における鉄道復旧と自治体と連携した復興の取組」が評価されたもの。2011年3月の東日本大震災で福島・宮城県内が甚大な被害を受けた常磐線は、現位置で復旧した小高~相馬間、浜吉田~岩沼間に続き、内陸部への移設を行う大規模工事を経て相馬~浜吉田間が2016年12月に運転を再開。同月、福島第一原子力発電所事故の影響も受けている小高以南の不通区間に関しては、政府が取りまとめた「原子力災害からの福島復興加速のための基本指針」で、2019年度末までの開通を目指すとされた。その後、避難指示の解除により順次復旧が進み、2020年3月4~10日に双葉町・大熊町・富岡町に設定されていた帰還困難区域のうち、常磐線の線路・駅舎および周辺道路が解除となったことを受け、同14日最後に残った富岡~浪江間が運転を再開し9年ぶりに全線復旧を果たした。その間、JR東日本(水戸支社)は自治体との協定締結により、夜ノ森駅(富岡町)の「豊かな自然に溶け込む駅」をコンセプトとした駅舎のリニューアル、Jヴィレッジ駅(楢葉町)の開設を行うなど、地元とともに復興支援に取り組んできた。また、福島第一原子力発電所事故に伴う除染事業(環境省福島地方環境事務所他、39社)も技術賞(IIグループ)を受賞。各社では、除染に伴い発生する除去土壌を、最終処分するまでの間、安全に集中管理・保管する中間貯蔵施設へ輸送し減容処理・貯蔵するため、分別の効率化や作業員被ばくの低減などに向け技術開発に取り組んでいる。
19 May 2020
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NTTは5月15日、日本の民間企業として初めてITER(国際熱核融合実験炉)機構と包括連携協力協定を締結したと発表。同社が取り組む情報通信技術(ICT)の革新を通じて、ITER計画を支援し「革新的な環境エネルギー技術の創出」に貢献する。ITERは、フランス・カダラッシュで2025年の初プラズマ達成を目指し建設中。〈NTT発表資料は こちら〉本協定により、今後両者は戦略的観点から、データストレージ、コンピューティング、グローバルネットワークインフラなど、ICTの領域で連携。NTTでは2030年頃の実用化を目指す次世代コミュニケーション構想「IOWN」(Innovative Optical and Wireless Network)における光関連技術の適用も想定しており、ITERの運転開始以降に向けて、情報流通基盤や制御基板整備のための技術的貢献を行っていく。NTT社長の澤田純氏は、今回の協定締結を受けたコメントの中で、「『IOWN』を始めとする先進的な研究開発の取組やグローバルなインフラ構築能力等で貢献できる」と、同社の強みを述べ、「ITER機構とともに人類初の実規模での核融合エネルギーの実証に取り組んでいく」とした。一方、ITER機構長のベルナール・ビゴ氏は、「核融合にとって不可欠なイノベーティブな未来のテクノロジーへ向けた戦略を掲げることのできる企業」と、NTTのICT技術を評価した上で、「包括連携するパートナーの一員となったことを嬉しく思う」と歓迎の意を述べた。ITER計画は、日本、欧州、ロシア、米国、韓国、中国、インドの7極による大型国際プロジェクトで、ITER協定に基づき機器・装置の製作・物納を通じた協力が基本となっている。ITER建設に向けて、日本では、1月に三菱重工業二見工場(兵庫県明石市)でITERの重要な機器の一つ「トロイダル磁場コイル」初号機が完成しており、完成式典に訪れたビゴ氏も日本の製造技術を高く評価した。今回、ITERの運転を視野に入れたNTTによる新たな協力が始まることに関し、ITER計画の国内機関である量子科学技術研究開発機構の核融合エネルギー部門では、「日本のテクノロジーが核融合の実現に一層大きく貢献していく」と、期待を述べている。
18 May 2020
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東京電力は5月13日、福島第一原子力発電所2号機の使用済み燃料プールの内部調査に向け、カメラを搭載した水中ROV(遊泳型ロボット)の操作訓練を、「福島ロボットテストフィールド」(南相馬市)で実施した。〈動画は こちら〉2号機の使用済み燃料プールでは615体の燃料(新燃料28体、使用済み燃料587体)が保管されており、2024~26年度に取り出しを開始する。今回の訓練は、6月中旬にも水中ROVを用いて初めて実施される2号機使用済み燃料プール内の調査に先立ち、実環境を模した状況での作業内容の確認、従事者の遠隔操作技術向上を目的としたもので、3月末に全面開所した「福島ロボットテストフィールド」の大水槽(30m×12m×水深7m)を利用。15日まで計8名が訓練を行い、水中ROVの基本操作を習得する。水中ROV本体の外観(©東京電力)水中ROV(35cm×20cm×20cm、重さ5kg)は、海外製で有線仕様。遠隔操作で最大速度5.6km/hで航行でき、13日の訓練では、東京電力社員らが水中ROVの操作技術を有するアトックスより指導を受け、大水槽の床に沈めたパネルの色識別などを行った。東京電力で2号機燃料取り出しプロジェクトグループマネージャーを務める上西修司氏は、「今後の廃炉を進める上で必ず必要となる技術」、「必要な時に自分たちで操作できることは重要なこと」などと、同社自らが技術力を向上させる意義を強調した。各訓練者は力量確認試験で訓練成果の認定を受け、今後の燃料取り出しに向けた重要なステップに臨むこととなる。2号機燃料取り出しのイメージ(福島第一廃炉中長期ロードマップ資料より引用)2号機の使用済み燃料プールからの燃料取り出しに向けて、東京電力は、がれきの撤去や汚染状況の調査を順次実施し、空間線量率の低減傾向や今後の作業におけるダスト飛散対策を踏まえ、2019年5月に原子炉建屋を解体せず南側に作業用構台を設置する工法の採用を決定。水中ROVは、構台から遠隔無人重機で据え付けられる運搬装置を介し燃料プール内に投入され、燃料の変形や障害物の確認などを行い、得られた調査結果は燃料取扱設備の設計へと反映される。
15 May 2020
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原子力規制委員会は5月13日の定例会合で、日本原燃の六ヶ所再処理工場が新規制基準に「適合している」とする「審査書案」(概要版はこちら)まとめた。今後、原子力委員会と経済産業相への意見照会、パブリックコメントを経て、正式決定となる運び。経済産業相に対しては、再処理施設の運転に係る判断が同委として初めてとなることを踏まえ、「エネルギー基本計画」との整合性も含め意見を求める。日本原燃は2014年1月に六ヶ所再処理工場の審査を申請。「審査書案」取りまとめまで6年以上を要した。申請から5年が経過した2019年2月に規制委員会は、主な論点の確認をほぼ終了したことから、重大事故対策に係る審査方針の明確化を図り、同3月に「審査書案」取りまとめに向けた討議用資料を作成。日本原燃からの既出書類に対する補正申請を確認しながら、航空機落下の影響など、残る論点に関し審査の詰めに入った。今回取りまとめられた「審査書案」では、施設の敷地近傍を横断し「地震動評価に与える影響が大きい」とされる出戸西方断層(11km)に関し、日本原燃による調査結果・評価の妥当性を確認。また、設計方針では、航空機落下による損傷防止について、再処理の主要工程(使用済み燃料受入れ・貯蔵、前処理、分離、精製、ウラン・プルトニウム混合脱硝、高レベル廃液固化)ごとの標的面積・落下確率に関する評価から「追加的な防護措置は不要」とした。再処理施設特有のものとしては、化学薬品の漏えいによる損傷防止対策などを確認。更田豊志委員長は、会合終了後の記者会見で、「品質管理の問題で中断となった期間、審査体制の組み直しもあった」と、審査が長期にわたった要因を振り返った上で、「終盤にかかって議論も密になり今回まとめることができた」などと、所感を述べた。また、六ヶ所再処理工場の運転開始に向け、「検査の対象機器も多いことから、技術的な精密さをどれだけ日本原燃が押さえられるかがカギ」として、長期的な対応となる見込みを示唆した。日本原燃は、六ヶ所再処理工場の2021年度上期しゅん工を目指している。同社は、「審査書案」取りまとめを受け、「大きな前進であり、引き続き審査合格に向けて全力で取り組んでいく」とのコメントを発表した。
13 May 2020
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