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原子力小委 原子力の見通しや将来像を示す
総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=黒﨑健・京都大学複合原子力科学研究所所長)が6月24日に開催され、第7次エネルギー基本計画を踏まえた原子力政策の具体化に向けて議論された。同委員会では、次世代革新炉の開発・導入や既設炉の最大限活用、サプライチェーンと人材の維持、SMRの国内実証、投資環境の整備などについて、どのような観点や仮定の下であれば定量的な見通しを示せるかが議論され、「第7次エネルギー基本計画は決定されたものの、再生可能エネルギーと並ぶ脱炭素電源として原子力を活用するには、具体化すべき課題が数多く残されている」といった意見が多くの委員から示された。委員の日本エネルギー経済研究所の山下ゆかり氏は、フランスを例に挙げ、「同国では2022年2月に、2050年までに6基から14基の大型原子炉と数基のSMRの新設計画を発表し、原子力の延長に必要な技術開発の準備を進めている。ただ、需要側供給側の双方に様々な不確実性があるため、原子力発電の目標数字を示すことが困難で、リスクとなることも理解する」と述べた。また、同じく委員のみずほ銀行の田村多恵氏は、「今後、革新炉の開発が進めば、炉型ごとに違ったサプライチェーンが必要になるかもしれない。定量的な見通し、将来像の設定は難しいが、実効性のある数値が示されることに期待する」と述べた。他にも、委員のSMBC日興証券の又吉由香氏は、「原子力発電設備容量の見通しと将来像を定量的に示すことは重要だが、一方で年限を定めた見通しの提示には不確実性が伴う。何年で何基の市場投入ペースといったベンチマーク議論から発展させていくプロセスも重要だ」と述べ、発電事業者、業界団体、規制当局らをまたいだ統合的な推進をつかさどる司令塔を作り、機能させることの重要性を訴えた。専門委員として出席している日本原子力産業協会の増井秀企理事長は、原子力が「どれだけの容量がいつまでに必要か」という長期にわたる時間軸と開発規模の明示、そして、資金調達・投資回収制度の検討、サプライチェーンの課題解決、の3点を訴え、今後も政府と産業界が連携して継続的に取り組むことが重要であると述べた。〈発言内容は こちら〉黒﨑健委員長は、第7次エネルギー基本計画で「2040年度の電源構成に占める原子力発電比率を2割程度とする」という方向性が示された中で、「実効性がある具体的な計画を出すのは大きな宿題だ」と述べたほか、福島第一原子力発電所の廃炉対応や六ヶ所再処理工場の審査延期問題を指摘し、竣工後を見据えたバックエンド事業の議論の重要性を強調した。また、今回の会合では、原子燃料サイクルの推進に向け小委の下に作業部会を新設することが決定した。
- 27 Jun 2025
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日加原子力フォーラム初開催 福島視察も
日本原子力産業協会とカナダ原子力協会(CNA)は6月19日、東京都港区の在日カナダ大使館で「第1回 日本・カナダ原子力フォーラム」を開催。80名を超す参加者が詰めかけた。両協会は、2021年に協力覚書を締結しており、今回のフォーラムはその活動の一環。両国の原子力産業界のさらなるビジネス交流の促進を図り、協業の在り方を模索するのが目的。カナダ側はCNAのほか、原子力研究所、在日カナダ商工会議所、各州政府在日事務所、原子力関連企業らが参加した。冒頭挨拶に立ち、日本原子力産業協会の増井理事長は、「CANDU炉に象徴されるように、カナダは原子力技術の面で世界をリードし、日本とはウラン供給などにおいて長年協力関係にある。また、西側諸国初のSMR(BWRX-300、30万kWe)実用化計画が進むダーリントン原子力発電所において、日本企業が関与するなど、以前から着目していた国のひとつだ。このフォーラムを通じて両国の新たな連携の芽が育まれる契機となってほしい」と述べた。CNAの一行は翌20日、福島県双葉郡に位置する東京電力廃炉資料館と、福島第一原子力発電所を視察。廃炉資料館では、東日本大震災の発生から原子炉の冷温停止までの経緯や、現在進められている廃炉作業の詳細について、映像や展示物を通じて説明を受けた。また、福島第一では、1~6号機の現状や処理水の海洋放出の流れ、燃料デブリの取り出しに関する取り組みについて、約1時間の構内バスツアーを通じて視察し、理解を深めた。CNAのジョージ・クリスティディス理事長は福島県での視察を終えて、「日本の原子力産業界関係者のレジリエンスに大きな感銘を受けたほか、緻密に計画された工程で廃炉作業に取り組んでいることを学んだ。この事故によって発生した犠牲や痛みを軽んじるつもりは一切ないが、ここで得られた知識や技術には大きな価値がある」と述べ、福島第一での経験が、今後多くの国の廃炉プロジェクトにも活かされるとの期待を示した。
- 23 Jun 2025
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原文財団「原子力に関する世論調査」の最新版を発表
日本原子力文化財団はこのほど、2024年の10月に実施した「原子力に関する世論調査」の調査結果を発表した。18回目となるこの調査は、原子力に関する世論の動向や情報の受け手の意識を正確に把握することを目的として実施している。なお、同財団のウェブサイトでは、2010年度以降の報告書データを全て公開している。今回の調査で、「原子力発電を増やしていくべきだ」または「東日本大震災以前の原子力発電の状況を維持していくべきだ」と回答した割合は合わせて18.3%となった。一方、「しばらく利用するが、徐々に廃止していくべきだ」との回答が39.8%となり、両者を合わせると原子力の利用に肯定的な意見は過半数(58.1%)を超えた。このことから、現状においては、原子力発電が利用すべき発電方法と認識されていることが確認できる。一方、「わからない」と回答した割合が過去最大の33.1%に達し、10年前から12.5ポイントも増加していることが明らかになった。「わからない」と回答した理由を問うたところ、「どの情報を信じてよいかわからない」が33.5%、「情報が多すぎるので決められない」が27.0%、「情報が足りないので決められない」が25.9%、「考えるのが難しい、面倒くさい、考えたくない」が20.9%となっている。この「わからない」と回答した割合はすべての年代で増加しているが、特に若年世代(24歳以下)の間で増加傾向が高かった。また、同調査は、「原子力やエネルギー、放射線に関する情報源」についても分析を行っている。その結果、若年世代(24歳以下)は、「小・中・高等学校の教員」(27.2%)を主な情報源として挙げており、また、SNSを通じて情報を得る割合が、他の年代と比較して高いことがわかった。原文財団では、若年世代には、学校での情報提供とともに、SNS・インターネット経由で情報を得るための情報体系の整備が重要だと分析している。また、テレビニュースは年代を問わず、日頃の情報源として定着しているが、高齢世代(65歳以上)においても、ここ数年でインターネット関連の回答が増加している。「原子力という言葉を聞いたときに、どのようなイメージを思い浮かべるか」との問いには、「必要」(26.8%)、「役に立つ」(24.8%)との回答が2018年度から安定的に推移している。「今後利用すべきエネルギー」については、2011年以降、再生可能エネルギー(太陽光・風力・水力・地熱)が上位を占めているものの、原子力発電利用の意見は高水準だった2022年の割合を今も維持していることがわかった。再稼働については、「電力の安定供給」「地球温暖化対策」「日本経済への影響」「新規制基準への適合」などの観点から、肯定的な意見が優勢だった。しかし、再稼働推進への国民理解という観点では否定的な意見が多く、再稼働を進めるためには理解促進に向けた取り組みが必要であることが浮き彫りとなった。また、高レベル放射性廃棄物の処分についての認知は全体的に低く、「どの項目も聞いたことがない」と回答した割合が51.9%に上った。4年前と比較しても、多くの項目で認知が低下傾向にあり、原文財団では、国民全体でこの問題を考えていくためにも、同情報をいかに全国へ届けるかが重要だと分析している。
- 28 Mar 2025
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day3 | 浜通り3days
10:00 富岡ホテルを出発! 施設名 富岡ホテル TEL 0240-22-1180 web https://www.tomiokahotel.jp/ 住所 福島県双葉郡富岡町駅前27 3日目のスタートはもちろん、富岡ホテルから。 富岡ホテルでは、宿泊者には朝食が無料でサービスされる。地元産の食材を中心に供され、和・洋食が選べるスタイルだ。ぜひ楽しんでいただきたい。 朝食を終えて準備を整え09:30にロビー待ち合わせのはずが、運転役のイシノリが一向に現れず。「あれ、時間まちがってましたっけ?」といった顔をして09:50に登場するというハプニングがありつつも、次の目的地大熊インキュベーションセンターへ出発である。 旅先での会話を読む 清潔感があふれ快適なシングルルーム 寝心地の良いセミダブルのベッド アツシ イシノリさん困ります!09:30だと昨晩お伝えしたはずです!プンプン! イシノリ ごめんごめん。 脳内で10:00に変換しちゃったみたいで、もうしわけない(笑) 寝心地がよくってさぁ。 アツシ まったくもう!本日もスケジュールはギチギチなんですからね。 とにかく出発いたしましょう! はーい 10:30 大熊インキュベーションセンター 施設名 大熊インキュベーションセンター TEL 0240-23-7721 web https://okuma-ic.jp/見学コースあり(事前予約) 住所 福島県双葉郡大熊町下野上清水230 大熊町立大野小学校の旧校舎を改装し、2022年7月、「大熊インキュベーションセンター(OIC)」として生まれ変わった。 浜通り地方に新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」。OICは大熊町における復興の要として位置づけられるだけでなく、同構想の一翼を担うべく、多くのスタートアップ企業が入居するビジネスセンターだ。 ピカピカに磨き上げられた校舎もとい建屋内部は、小学校の教室そのもののような部屋(中会議室)もあれば、プロジェクター、wifiなど高速ネット環境が整備され、web会議もこなせる部屋(大会議室)もある。誰もがふらふらっと集まりそうな共有スペースには売店もあり、AIが商品を判別し会計をするシステムも導入されている。コンビニのセルフレジのようにバーコードを読み取るのではない。商品そのものを読み取って判別しているという。これならばバーコードを付けない商品も気軽に売れるではないか!どういう仕組みかはわからないが。 このようにOICでは、懐かしの小学校と最先端のテクノロジーが同居している。 くわえて、シャワールームや休憩室も完備。わたしたちは思った。「住める」と。 若いスタッフさんが、施設内を案内してくださった。彼女はOICの運営を担当する東京の会社からの、いわば転勤組。「物価が安い!」などと大熊での生活のメリットを語っていただいたが、同時に「もうちょっと遅くまでコンビニが開いていれば...」というのも本音だという。 しかしこれから大熊町にはデータセンターが複数建設される計画もあるようで、続々と住民が増えつつあるようだ。OICの最寄り駅である大野駅周辺も、急ピッチで再開発が進んでいる。今度OICを訪れた際には、一体どれほどの進化を遂げているのだろうか? それを確かめるのも楽しみになってきた。 旅先での会話を読む アツシ いかがでしたか? 大熊町商工会の蜂須賀禮子会長イチオシの大熊インキュベーション・センターは。 イシノリ 正直に驚いた。 これまで福島関連の講演やプレゼンで、OICのことは耳にはしていたのだけれど、実際にこの目で見ると、想像のはるか上を行っていた。 テル 私もです。 これからの浜通り地方を考えるとき、帰還者だけでなく新たにやって来た移住者の視点も無視できなくなる、とお話ししましたけど、ここOICは典型だなと思いました。 多様な方々が大熊町に溶け込んでいます。 タケコ OICでは、昔からの小学校の教室と、最新設備を備えた会議室が同居しています。ここでも多様性を感じますね(笑) イシノリ タケコ、うまいな。 ある部屋にあった黒板に、チョークの殴り書きで“Data rules the world!”って書かれていたんだけれど、ここには純粋にそういった人たちが集まっているんだな、と認めざるをえなかった。それがいいとか、悪いとかでなく、不便なことを何とも思わない人たちが、何もないことを「ゼロから始めるようでやりがいがある」と前向きに言ってのける人たちが、集まってきているんだな、と思った。 国家プロジェクトの「イノベーション・コースト構想」は、何かハコモノを造って終わりじゃない。そこにいる人間も変えつつある、ということを肌身で感じて、ちょっと震えてる。 OIC正門は学校そのものだ。一行は懐かしさを憶えながらも、緊張の面持ちで門をくぐる 校舎入り口ならぬ、OICの建屋入り口 利用者が自由に過ごせる共有スペース バリエーションに富んだ共有スペースの本棚。左上にみえる「一発屋芸人列伝」が気になり、イシノリは帰京後に購入している 共有スペースには物販コーナーも 入居者が開発した無人販売システムで運営されている コワーキングスペースのデスク 廊下の掲示板をチラ見。とてもチラ見で済まされる内容ではなかった(笑) シャワー室の外には、マッサージ・チェアが。1台ごとにスペースが区切られている OICでは入居者同士の交流の場を、積極的にセッティングしている 教室そのものな「中会議室」 最新設備をまとった「大会議室」 町内での新しいモビリティ(移動手段)を模索する試みも 快適な施設に思わず「ここからテレワークしたい...」と本音が テル 私はOICでテレワークしたいですね。 アツシ アタクシもこちらの充実した福利厚生ぶりに、大いに惹かれました。 マッサージ・チェアの置かれた休憩スペースなんて、アタクシの東京の部屋よりも広いかもしれません! タケコ スタッフさんが、あとは病院やスーパーが遠いのがなんとかなれば、とコボしてましたね。 イシノリ なんとかなる、いや、なんとかしそうだよねあの人たちは。 福島ロボットテストフィールド(RTF)で見たドローンが宅配してくれたり、自動運転のバスが周ったり。OICに思わせぶりにいろいろな乗り物が置いてあったけど、何か革新的なモビリティが生まれそうな気がする。 アツシ さ、お名残り惜しいですが、そろそろ次の目的地へ移動しますよ。 実はもう10分押してます。 はーい 11:30 震災遺構 浪江町立請戸小学校 施設名 震災遺構 浪江町立請戸小学校 TEL 0240-23-7041 web https://namie-ukedo.com/見学コースあり(事前予約) 定休日 火曜 営業時間 9:30~16:30 住所 福島県双葉郡浪江町請戸持平56 請戸小学校は、東日本大震災による津波の被害を受けたが、全員が無事に避難することができた奇跡の小学校として知られている。倒壊を免れた校舎に刻まれた脅威と、全員避難することができた経験を伝えるため、2021年10月より震災遺構として一般公開されている。 校舎の窓ガラスの多くは窓枠ごとなくなっており、残った数少ない窓枠は変形していることから、津波の強さがうかがえる。また、東日本大震災時の津波浸水高さの看板が校舎に貼り付けられており、1階天井の高さ以上に津波が押し寄せたことがわかる。 旅先での会話を読む テル 実際に津波の惨状を目の当たりにし、言葉を失いました。 先生も生徒も誰一人欠けることなく1.5kmも離れた大平山へ避難されたわけですから、心の底から安堵しました。 タケコ 実際に目にしてカラダが震えました。 1階部分の壁は、剥がれ落ちてました... 校舎の1階部分は、窓はおろか壁も失われているところも 校舎2階部分に「津波高さ」を示す看板が見える 校舎の1階の様子 校舎2階の黒板 アツシ 東日本大震災による津波の映像はテレビのニュースなどで見ておりましたが、実際に惨状を目の当たりにすると言葉を失います。見聞きして知っていたことでも、現場で自分の目で見ると、津波の被害を知った気になっていたことに気づかされました。 イシノリ 2階の教室の黒板に、行方不明者の捜索に当たった自衛隊や警察、消防、建設業者さんたちからの励ましの言葉や、卒業生たちからのメッセージが残されてました。 「負けんな!」「頑張れ!」と白チョークで力強く書かれた文字が目に飛び込んできました。 多くの方に震災遺構となった請戸小学校を訪れていただき、私の言葉だけでは表現できない多くのことを、感じ取っていただきたいです。 アツシ ええ。多くの方にご自身の目で見に来ていただきたいですね。ではそろそろ次へまいりましょう。 10分押してます。 はーい 12:10 ファミリーマート双葉町産業交流センターS(サテライト)店 店名 ファミリーマート双葉町産業交流センターS(サテライト)店 TEL 0240-25-8026 営業時間 7:00~20:00 住所 福島県双葉郡双葉町中野高田1-1 これは行程を組んだ時点からわかっていたことなのだが、どうしても請戸小学校から中間貯蔵工事情報センターへ行く途中で、ランチを取る時間が取れなかった。 そういう時は、みんな大好きコンビニの登場である。 お邪魔したのは、双葉町産業交流センター(F-BICC)に入っているファミリーマートさん。お隣には昨日お伺いした「東日本大震災・原子力災害伝承館」があるという立地環境だ。 これまたお昼休み真っただ中に到着したため、コンビニは都内のコンビニ同様に大混雑であった。浜通りではもう、こんな当たり前な光景が、当たり前に展開されている。 旅先での会話を読む テル ファミリーマートさんには助けられましたね。こちらで各自昼食を購入し、F-BICCの飲食可能スペースでいただきました。 タケコ こちらのコンビニでは福島県の桃ジュースなども販売されてました。お土産の追加購入にも利用できますね(笑) イシノリ ただし、営業時間は7:00~20:00と24時間営業ではないので注意が必要です。 アツシ 近くのビジネスホテル「ARM双葉」さんへ宿泊する際には、気をつけたほうがいいかもしれませんね。 さ、それでは次へ急ぎますよ!すでに10分押してます。 はーい 12:45 中間貯蔵工事情報センター 施設名 中間貯蔵工事情報センター TEL 0240-25-8377 web https://www.jesconet.co.jp/interim_infocenter/見学コースあり(事前予約) 定休日 日曜日/月曜日 営業時間 10:00~16:00 住所 福島県双葉郡大熊町小入野向畑256 一般に原子力業界で「中間貯蔵施設(interim storage facility)」というと、一時的に使用済み燃料を貯蔵しておく施設のことを指す。だがここでいう「中間貯蔵施設」は、福島第一原子力発電所事故の除染作業により発生した土壌等を最終処分するまでの間、安全かつ集中的に貯蔵するための施設のことである。 中間貯蔵施設は大熊町および双葉町に整備されており、福島県全59市町村のうち52市町村から除去土壌等を貯蔵している。かつて福島県内には1,400か所の除去土壌等の仮置場があったが、2022年度中にほとんどの除去土壌等を中間貯蔵施設に運び入れた。現在は、飯館村、南相馬市、浪江町、双葉町、大熊町、富岡町からの除去土壌の運び込みが引き続き行われている。2024年8月末時点において、1,393万㎥の除去土壌等を中間貯蔵施設に運び入れており、東京ドーム11杯分の容量となる。2045年3月までに福島県外で最終処分することが決まっているが、その場所はまだ決まっていないのが実情である。 県外での最終処分に向けては、除去土壌等のボリュームを減らすこと(減容化)が重要となる。減容化の方法としては、放射能濃度が比較的低い除去土壌等を道路整備等で盛土(下地材)として利用することが挙げられる。除去土壌等の約73.2%を占める8,000ベクレル/kg以下の土に関しては、再利用できると考えられており、中間貯蔵施設の敷地では、除去土壌等を実際に道路の盛土として使用し、放射線の遮へいや耐久性を検証している。 ここ中間貯蔵工事情報センターは、中間貯蔵施設工事(特に除去土壌等の輸送や施設整備工事)について、その概要、工事の進捗状況、安全への取組等を紹介するPRセンターだ。月に何度か、中間貯蔵施設見学会も開催されており、事前に予約すれば中間貯蔵施設を見学することが出来る。 今回我々が参加したのも、こちらの見学会である。 センターで概要の説明を受けた後、用意されたマイクロバスに乗って、中間貯蔵施設や盛土の実験施設等を見学する。中間貯蔵施設の管理区域に入る際には、警備員がバスに乗り込み入域者に身分証明書の提示を求め本人確認が行われる。 コースにもよるが、2~3時間はかかると想定して行程を組むとよいだろう。 国道6号線が中間貯蔵施設の西側の境界線であり、東側には中間貯蔵施設などが位置しており、ゲートで入域管理を行っている。中間貯蔵施設は、大熊町の14%、双葉町の10%の敷地を占めている。震災前は950世帯2,700人が住んでいたが、住民の8~9割の方が先祖伝来の土地を国に譲ってくださり、中間貯蔵施設が整備された。 なお、中間貯蔵工事情報センターは2025年3月に、大野駅近郊へ移転する計画がある。大野駅が復興再生拠点区域になることから、大きな建物かつ人が集まりやすいエリアへ移ることで、より多くの方に中間貯蔵施設や最終処分の課題を知ってもらうのがねらいだ。 旅先での会話を読む テル 大変勉強になる見学会でした。「中間貯蔵施設」といっても、土壌貯蔵施設、受入・分別施設、減容化施設、廃棄物貯蔵施設に分かれているとは、これまでまったく意識しておりませんでした。 タケコ しかもすでに仮置場に置かれていたほとんどの除去土壌等は、中間貯蔵施設への運び入れを完了しており、これまでの大規模な受入・分別施設は解体されています。 今後運び込まれる土の量はかなり減りますので、大規模施設ではコストがかかり過ぎてしまい、建て替えた方がコストを抑えられるとの判断だそうです。 イシノリ 減容化施設では、フレコンバックや可燃物を焼却します。煙突にフィルターがあり、放射性物質が飛散する心配はありません。その後さらに出てきた灰を1,500~1,800℃の高温で溶かします。最終的な灰の残りかすは、煤塵、スラグ、メタルの3つです。このうち「スラグを再利用できないか」、ということになり、道路盛土実証事業で検討しているそうです。 アツシ 廃棄物貯蔵施設では、減容化施設で発生した灰の残りかすを鋼製の角形容器(1.3m×1.3m×1.0m)に封入して貯蔵されます。施設のサイズにもよりますが、約15,000個または約30,000個の鋼製の角形容器を貯蔵できるそうです。 国道6号線沿いに大きく看板が立つ。こちらが入り口である マイクロバスに揺られて最初に案内されるのが、地元で信仰されている鎮守神 足元の「土壌貯蔵施設」の構造を説明 もちろん数値は問題ない 手前の整地された小山が「土壌貯蔵施設」。奥に福島第一サイトが見える 「道路盛土実証エリア」では除去土壌活用のため、幹線道路を模したスロープのある道路を作っている テル ご案内いただいた正八幡神社は、平安後期に創建されたそうで。震災で鳥居が倒壊してしまったのですが、氏子の皆さんによって再建され、復興祈念碑が設置されていました。 祈念碑には、「長きに亘りこの地を離れることを強いられるが、(中略)再び、人々の営みが蘇ることを願い、この鳥居を建立する」と刻まれており、地元の鎮守神として、多くの方々から愛されているのだということがよくわかりました。同時に、地元の方々がどのような思いで先祖伝来の土地を手放したのかも、痛いほどわかりました。 タケコ 地元の方々の思いに応えて、1日でも早い最終処分場の決定に向け、真剣に考えていきたいです。 そのためにも、道路の盛土に除去土壌を活用するための検証が、もっと進んでほしいです。 アツシ 除去土壌の多くは田畑の土ですので、水分を多く含んでいます。道路盛土実証エリアでは、50メートルある道路を半分に分け、それぞれの盛土を、①除去土壌のみ、②除去土壌にスラグや生石灰を混ぜ合わせたもの──にわけて、耐久性の違いを検証しているそうです。 テル 環境省さんが、新宿御苑などで除去土壌等の再利用の実証事業を検討していたのですが、住民説明会で周辺住民の意見もあり、難航しているようです。 タケコ 福島第一原子力発電所の電気を使用していたのは東京・関東圏なので、東京の人からの否定的な意見は残念ですね。 イシノリ 子供のころから東京に住んでいないと、わからないのだと思います。東京がどれだけ地方にお世話になっているのかということを。 小学校の社会科の授業で習うのですよ。たとえば私の住んでいた千代田区の麹町というエリアでは、「電気は福島。水は朝霞(埼玉)」と習いました。すごくおおざっぱだとは思いますが。 テル 理解が広がるよう、我々も情報発信を頑張らないといけませんね。 むしろ今現在東京で育っている次世代層の方が、よく理解しているのかもしれませんよ。 タケコ ちなみに、見学終わりのバス降車時に、GM計数管式サーベイメータで見学者の靴裏の表面汚染を測定します。 測定値は最大で150cpmで、除染が必要となる13,000cpmを大きく下回りました。なお比較対象として計測したほかのものは、塩=220cpm、肥料=258cpm、花崗岩=156cpmでした。 アツシ 全く問題のない数値ですね。 最終処分場が早く決まり、浜通りの方々が1日でも早く安心できることを祈念しつつ、我々も帰ることにいたしましょう。ここで得た多くの思いを皆に伝えないと。 すでに10分押してます。 はーい 17:40 福島駅に到着 施設名福島駅住所福島県福島市栄町1-1 3日間の旅もいよいよフィナーレ。ちょっとした距離を走行し、「福島駅」へ帰還である。運転担当のイシノリが「運転していただけなのに、なんだか全身が気ダルい」とコボしていたので、くれぐれも無理のない行程を組んでいただきたい。レンタカーを「福島駅」ではなく「いわき駅」に返却してJR常磐線で帰るという手もある。 なお夕方の上り新幹線の窓側座席は、高確率で埋まっていることが多い。ここでちょっとしたTipsなのだが、「やまびこ」の車輛ではなく、「つばさ」の車輛を狙うと窓側席が比較的空いている、ような気がする。そう、福島駅では東北新幹線の車輛に後ろから、山形新幹線の車輛が連結されるのである!と、鼻息荒く語ったところで鉄道に関心のない層にはあまり響かないかもしれないが、知っておいて損はないだろう。や、それくらい帰りの新幹線は混んでいますぜ、という話なのであります。 旅先での会話を読む テル みなさん、3日間おつかれさまでした。 さきほど高速道路へ乗る前に立ち寄った「帰還困難区域」のゲートですが、だいぶ少なくなったとはいえ、まだこうしたエリアが残っていることを私たちは忘れてはいけないと思いました。 イシノリ 記事の中で「帰還困難区域」のゲートを前面に出すと、「復興は未だ遠し」との印象になる。一方で大いに変わりつつある浜通りの新しい動きを取り上げると、「新しい福島」をアピールすることができる。そのどちらも現実だというのが、状況をとても複雑にしているような気がしています。 でも今回の取材で、「前向きに取り組んでいる人たちがいるかぎり、我々も臆することなく前向きな姿勢で臨もう」との、強い決意を固めることができました。 タケコ はい。今回多くの若い方々に出会いましたが、地元の出身であろうとなかろうと、みなさん、生まれ変わる浜通りを夢見て懸命に取り組んでいらっしゃいましたよね。 そういった方々を前にして、これを応援しないという選択肢はありませんよね。 テル おっしゃる通りですね。帰還できない方々がいらっしゃることも認識しつつ、それでも浜通り地方の新しい取組を大いに応援したい、そんな思いでいっぱいです。 原子力産業界としても率先して浜通り地方を訪問し、新しい浜通り地方を世界へ発信していってほしいですね。 アツシ 浅野撚糸の浅野社長のセリフではありませんが、世界はまだまだ「福島」という言葉の響きを誤解しています。実際に現地を自分の目で見て、自分の足で歩き、その体験を周囲に伝えていってほしいですね。 アタクシ、4月の原産年次大会以降、今回のツアー企画実現を夢見ておりました。こうしてようやく達成できて、感無量であります。 是非とも産業界の皆さんにもご賛同いただき、いろいろな「浜通りツアー」に挑戦していただきたいです。3日間、おつかれさまでした! おつかれさまでした!楽しかったですね(笑) 1日を動画で見る
- 25 Jan 2025
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day2 | 浜通り3days
08:40 ほっと大熊を出発! 施設名 ほっと大熊 TEL 0240-23-5767 web https://okumakouryu.jp/hotokuma 定休日 なし フロント営業時間 6時00分~22時00分 住所 福島県大熊町大川原南平1207番1 2日目のスタートは宿泊させていただいた「ほっと大熊」から。まずは近所のコンビニ(7:00~20:00)で朝食を買い、腹ごしらえ。コンビニは、「ほっと大熊」の目の前にある「おおくまーと」に入居している。 同一エリアに開設された宿泊温浴施設「ほっと大熊」、商業施設「おおくまーと」、交流施設「linkる大熊」の3施設は、大熊町の交流ゾーンとして、帰還者や新規移住者をはじめ、町を訪れる方々との交流が盛んになることで、町の復興をより一層進めることが期待されている。実際に来てみると、存分にその役割を果たしていることがわかる。 旅先での会話を読む アツシ 「ほっと大熊」ではプラス350円で朝食(おにぎりのセット)をつけることもできます。もちろん近所のコンビニで、好きなものを購入してもいいですね。 タケコ ちなみにお部屋は、1~2名が宿泊できる洋室が8室、2~4名が宿泊できる洋室が4室、5~12名が宿泊できる和室が1室、ご用意されています。 朝ご飯を共有スペースへ持ち込んでもいい 落ち着いた内装の共有スペース テル 実にいいお部屋でした。平屋ですので天井も高くて、リラックスできましたね。 イシノリ リビングルームで団欒できますし、ご家族連れにも最適ですね アツシ さぁ今日もスケジュールが山盛りです。張り切って参りましょう。 はーい。 09:00 東日本大震災・原子力災害伝承館 施設名 東日本大震災・原子力災害伝承館 TEL 0240-23-4402 web https://www.fipo.or.jp/lore/ 研修コース あり(事前予約) 定休日 火曜日 営業時間 9時00分~17時00分 住所 福島県双葉郡双葉町中野高田39 東日本大震災・原子力災害伝承館は2020年9月に開館。2024年7月には来館者数が30万人に達した。原子力産業新聞ともなじみの深い、長崎大学原爆後障害医療研究所の高村昇教授が館長を務めている。 地震、津波、原子力発電所事故という複合災害をテーマにした施設。事故発災当時のリアルな状況が分かる展示物が多く展示されており、多くの人が涙をこらえられない。学校に飾られていたお習字の「原子力の利用」という文字や、町に掲げられていた原子力広報の文字パネル「原子力 明るい未来のエネルギー」が掲示されていた写真を見ると、原子力発電は地元の方々のご理解の上に成り立っていたことが、再認識できるだろう。 展示されていた写真に添えられた「震災に終わりはないから、これからもずっと思い続けます」という言葉が印象的だ。震災で悲しい体験をした方々の気持ちに寄り添った形で、町の復興が進むことを切に願う。 伝承館では、個人来館者向けに毎日4回、語り部講話(40分)が実施されているが、スケジュールの都合上、我々は聴講していない。聴講する場合、滞在時間を2時間弱程度確保しておいた方がよい。 旅先での会話を読む アツシ 私はここ(伝承館)には何度も来ているのですが、子供たちが書いた「原子力の利用」という書道の文字を見ると、原子力に対して理解を示してくれていた地元の方々のことを思い、胸が苦しくなるんです。なんだか申し訳なくて。 テル わかります。それもあってわたしたちは浜通りに来ても、東京電力さんの廃炉資料館ばかりに足が向いてしまうのかもしれません。 イシノリ 廃炉資料館で技術的な課題を認識して、そこだけに意識を集中した方が、気持ちは楽ですからね。 テル 本当はもっともっと、こちらの伝承館に来て、浜通り地方の背景のようなものを知っておくべきだと思いました。 「復興」「復興」と口にするのだったら、コミュニティについても知っておくべきでした。反省です。 学校生活の展示物が 郷愁と涙を誘う 看板のレプリカも屋外に展示されている イシノリ 原子力の標語看板、胸にズシリとくる... テル 原子力広報の標語を掲示したパネルはもともと、公民館があった国道6号線に沿った場所と、双葉町役場庁舎前に設置されていました。ですが設置から約30年が経過し、老朽化し倒壊の危険が生じたため2016年に撤去されました。 伝承館にあるパネルは、レプリカです。 アツシ 福島県の内堀知事によるメッセージが展示されておりましたが、「光と影が入り交じる福島のありのままの姿をしっかりと受け止め、前へと進んでいく」とありました。なかなか印象深かったです。 タケコ 「風評」をテーマにした展示も、考えさせられました。 農林水産業や観光への影響が、いまだに根強いようです。わたしたちも頑張らないとと思いました。 アツシ 立ち去りがたいですが、すでに10分押してます。 はーい。 10:30 ワンダーファーム 施設名 ワンダーファーム TEL 0246-85-5105 web http://www.wonder-farm.co.jp/ 定休日 月曜日 営業時間 9:30~17:00 住所 福島県いわき市四倉町中島広町1 常磐道「いわき四倉インター」を降りて直ぐという便利な場所にあるワンダーファーム。ショップ、トマト狩り施設、バーベキュー、レストランおよびドッグランが併設されている。県内外からの多くの来訪者があり、我々が訪問した日もバーベキュー施設は満席だった。 ショップ「森のマルシェ」では、ミニトマトの量り売り、トマト製品、福島県のお土産などが並べられていた。売上No.1は、令和4年度ふくしま満天堂グランプリを受賞した商品の「とまと味噌」とのこと。同商品を、福島県・内堀雅雄知事がPRするポップが置かれ、試食も可能となっている。 原子力産業新聞では以前、ワンダーファームの元木寛代表にインタビュー取材を実施したことがある。今回の訪問では、元木代表にはお会いできなかったが、快く施設内外での写真撮影を快諾していただいた。 旅先での会話を読む テル お味噌もジュースも、試食および試飲もさせていただきました。もちろん即座にお買い上げですよ。 アツシ 「とまと味噌」は、いわき市のフラガールトマトを使用した調味料で、トマトの酸味が味噌に加わることでまろやかに仕上がっています。 タケコ 塩分が控えめのため色々な料理に合いやすく、炊き立てのご飯はもちろん、お肉・野菜炒めなどにも使えますね。 トーストに「とまと味噌」を塗り、チーズをのせて焼くと、ピザトーストになりますよ。 いろいろと試食させていただきました。ごちそうさまでした! 広い敷地内にはBBQエリアも イシノリ テルさんが相当気に入っていた100%トマトジュースの「ワンダーレッド」ですが、想像を超えるトマト感でしたね(笑) テル 「ワンダーレッド」は、サンシャインというトマトを収穫後1週間以内に絞っており、もちろん食塩不使用。トマト本来の甘みを味わえ、スッキリとした後味で美味しかったですね。 アツシ 食塩が入っていないので、トマトジュースが苦手な方でも飲みやすいかもしれませんね。 なお、トマト狩りは、土日および祝日に、夏休み限定で開催されています。 テル ぜひご家族でお越しください! イシノリ あ、そういえばあのトマト神社って、なんだったんだろうね? タケコ あそこだけ唐突、というか、不思議な空間でしたね(笑) なにか由緒があるのでしょうか? レストランもある どこでもドア?の先に、謎のトマト神社 アツシ おっと、その手の話はこの辺で。すでに10分押してます。 はーい。 12:10 いわき・ら・ら・ミュウ 施設名 いわき・ら・ら・ミュウ TEL 0246-92-3701 web https://www.lalamew.jp/ 営業時間 9時00分~18時00分 住所 福島県いわき市小名浜辰巳町43-1 ランチは小名浜にある「いわき・ら・ら・ミュウ」でいただく。小名浜港に隣接した観光物産センターである。巨大な道の駅を想像してもらえばいいだろう。施設内にはお土産の海産物はもちろん、魚介類を扱う多くの食堂が立ち並んでいる。 このエリア一帯は、水族館「アクアマリンふくしま」などもあり、福島県でも屈指の観光スポット。食堂にも「東京から高速バスで来た」という若者たちが、平日にもかかわらず数多く押し寄せ、賑わっていた。 さて、ここ小名浜の食堂の特長はと言えば、「ドカ盛り」である。行って見て驚いたのが、食堂がどこもかしこも(と言っては言い過ぎかもしれないが)ドカ盛りなのだ。 今回お邪魔したのは「いくらの大五郎」さん。店頭からいきなり海鮮丼のタワー盛りを推しており、我々の胃袋に挑戦状を叩きつけてくる。受けて立とう。というわけでこちらを実食である。 各種メニューがドカ盛りのレベルごとに、1丁目から4丁目までわかれており、4丁目が最大級である。そして案の定、アツシが「かに・いくらタワー丼」4丁目を顔色も変えずにペロリと完食。すると店員さんが駆け寄ってきて「昨日から食材の量を増量したばかりで、完食された方の写真を飾りたい」とのこと。光栄であります。 ちょっとした芸能人ばりに写真をパシャパシャ撮られて、アツシはニコニコ。「あの量をこんなにきれいに食べていただけるとは!」と、店員さんも写真を撮りながらニコニコ。お店のオーナーである仲卸「丸秀水産株式会社」の森田裕会長も「最近は東京や神奈川から多くのお客さんが来てくれている。『(ALPS)処理水』放出でお客さんが来なくなるかと心配したが、たくさんのお客さんが来てくれるようになって本当にありがたい」とニコニコ。 みんなニコニコなランチタイムなのであった。もちろん海鮮は間違いのない美味しさですよ。 旅先での会話を読む イシノリ いやはやすごいな小名浜は。どこもかしこも「ドカ盛り」だらけ。 タケコ そうじゃないお店もありましたけどね。 みなさんが大盛のお店にばかり吸い寄せられてましたね... アツシ いえいえ。ここ小名浜は「ドカ盛り」で突き進む決意を固めたんですよ。アタクシには、その気持ちよくわかります! イシノリ おお、さすが写真を小名浜に飾られている男、アツシ。 言葉の重みが違う。 テル 実際、高速バス等でお越しの東京の若者たちは、「ドカ盛り」目当てでしたね(笑) もちろん海鮮ですので、いずれもお安くはないのですが、なかなかみなさん見上げたものです。 イシノリ 覚悟を決めた者が一心不乱にどんぶりに向かう姿は、神々しいですな。 店頭の壁面に写真付きのメニューが並ぶ 覚悟を決めた猛者たちが、暖簾をくぐり、食券機に向き合う イシノリ でもここの海鮮丼、サービスしすぎなんだよ。途中から会話がなくなったもの。 2丁目くらいがちょうどいいかな。 タケコ 私は1丁目でも、いっぱいいっぱいでした... タケコの「甘海老・かに丼」1丁目。なかなかの盛り具合で早くも不穏な空気が漂う テルの「いくら丼」2丁目。流石にいくらは積み上がらない(笑) イシノリの「トロサーモン・いくらタワー丼」3丁目。キナ臭くなってきた アツシの「かに・いくらタワー丼」4丁目。写真ではうまく伝わってこないが、圧巻のボリューム ゴキゲンな森田会長 メガネを外し、キメ顔で写真撮影に臨むアツシ タケコ 丸秀水産の森田会長、大変お喜びでしたね(笑) イシノリ 大食いは見ていて気持ちいいから。 あそこまで喜んでいただけると、大食い冥利に尽きるね。 テル 森田会長から「ALPS処理水放出は来客数へほとんど影響がない」、と言っていただけて、ホッとしましたね。 アツシ 私たち以外にもお客さんが大勢いらっしゃいましたね。ですが「いわき・ら・ら・ミュウ」はキャパが大きいですから、もっともっと多くの方にいらしていただかないと! イシノリ 小名浜の海鮮を食べ尽くす勢いで。 アツシ 食べ過ぎて苦しくなってまいりましたが、もう10分押してます。 はーい。 14:40 道の駅 ならは 施設名 道の駅 ならは TEL 0240-26-1126 web https://www.michinoeki-naraha.jp/ 営業時間 9時00分~21時00分 住所 福島県双葉郡楢葉町山田岡大堤入22-1 「道の駅ならは」は2001年6月に福島県7番目の道の駅としてオープン。東日本大震災後は営業を休止し、双葉警察署の臨時庁舎として利用されていたことを、憶えていらっしゃる方も多いだろう。道の駅は2019年4月より、営業を再開している。 道の駅ならはには、フードコート、温泉施設があるほか、物産館も併設している。物産館では、お土産の雑貨やお菓子が品揃え多く並べられているほか、地元の野菜や日用品も販売されている。 アイスショップ「ウィンディーランド」では、楢葉町産の手作りジェラートを販売している。なお「ウィンディーランド」は次の目的地、天神岬スポーツ公園にもお店を構えている。 旅先での会話を読む テル 浅野撚糸のスタッフさんに「とにかく桃が美味しい!」と言われていた影響もあり、「白桃クッキー」を購入しました。ほかにもいろいろとお土産を買わせていただきました。 アツシ アタクシは「ほっと大熊」でのウェルカム・サービスでいただいた、イチゴの飲むこんにゃくゼリー「おおくまベリー」を購入しました! タケコ 私は楢葉の「ゆずコロッケ」を食べるのを楽しみにしていましたが、おなかがいっぱいで何も食べれませんでしたorz イシノリ お昼に食べた海鮮丼がジワジワと効いてきてるのよね。クルマのシートベルトのせいなのかもしれないけれど。 ジェラートを食べたいのだけれど、ちょっとまだおなかが許してくれないようなので、次に行く天神岬で食べようっと。 道の駅の目玉、地元産の野菜もゴロゴロ タケコが食べ損ねた「ゆずコロッケ」 浜通りのお土産はたいてい置いてある もちろん楢葉産のものも アツシ さぁさぁ買い物も済んだことですし、次へ参りましょう。 実はもう10分押してます。 はーい。 15:25 天神岬スポーツ公園 施設名 天神岬スポーツ公園 TEL 0240-25-3113 web https://naraha-tenjin.net/ 定休日 不定休 住所 福島県双葉郡楢葉町大字北田字上ノ原27-29 海岸沿いの崖の上に広がる広大な公園。展望台からは太平洋を一望できる。南方に目を向ければ、JERA広野火力発電所を見ることができる。 スポーツ公園と名付けられただけはあり、アウトドア方面のアクティビティにはうってつけの公園だ。クルマでやってきてキャンプをするもよし。サイクリングのベースキャンプとしても活躍する宿泊施設やレストランもある。 イシノリは2018年にこちらの宿泊施設「展望の宿 天神」に宿泊したことがあり、「レストランで食べた夕食が実に美味しかったことが忘れられない」そうだ。というわけで今回はイシノリの強いススメでお邪魔したのであった。 旅先での会話を読む イシノリ 天神のご飯をあわよくばもう一度!と思ったのだけれど、おなかがパンパンに膨れている上に、15時台というハンパな時間。レストランは営業を終了しておりました。もちろん宿泊客は夕食を食べられますので、お越しになる方は、こちらに宿泊して夕食を食べるスケジュールを組むことを、強くおすすめしますデス。 今回はジェラートだけ食べることが出来ました。 アツシ ジェラート、美味しかったですねぇ。「ウィンディーランド」はこちらが本店なのかしら?可愛らしい一軒家のイタリアン・ジェラート屋さんです。 テル イタリアンとはいえ、完全に純・楢葉産です。 たとえばジェラート「楢葉の風」は、日本酒「楢葉の風」の酒粕を使用しています。 タケコ ジェラート「ホワイトいちじく」は、楢葉町の農家が育てた皮ごと食べられるいちじくをジェラートにしたものだそうです。 すっきりとした甘さで美味しかったです。 あいにくの空模様だったが、壮大な景色が楽しめた お子様が楽しめる遊具もある イシノリ この公園はお天気が良くないと良さが十分に伝わらないと思うので、ぜひ皆さんもご自分の目でご確認ください! テル ドッグランもありますよ。 アツシ おっと、また一雨来そうですので、そろそろおいとましますか。 実は10分押してます。 はーい。 16:30 富岡ホテルにチェックイン! 施設名 富岡ホテル TEL 0240-22-1180 web https://www.tomiokahotel.jp/ 住所 福島県双葉郡富岡町駅前27 原子力関係者の多くが耳にしたことがあるであろうホテルが、「富岡ホテル」である。富岡駅前に立地し、交通面でのアクセスがいい。ホテルから10数分歩けば、ショッピングセンターの「さくらモールとみおか」がある。 なお、「さくらモールとみおか」内のフードコートは、ランチのみの営業であることに注意が必要だ。さくらモール内のスーパーマーケットは、19時まで営業している。 ともすれば「泊まるだけ」になりがちなビジネスホテルだが、日没前であれば強くおススメしたいのは、お散歩である。震災後の富岡駅前の風景を映像等で目にしたことのある人も多いと思うが、再整備された駅周辺を自分の足で歩くと、何かしら感じるものがあると思う。 さて「富岡ホテル」だが、館内は清潔で、至極快適に過ごせる。事前の予約が必要だが、宿泊者以外でも、食堂で昼食をとったりテイクアウト用のお弁当を御用意していただけるので、視察団等の編成の際にはとても助かる。 またフロントのスタッフさんが大変親切である。困ったことがあると、親身になって対応してくださる。今回は大いに助けられた。ありがとうございました。 旅先での会話を読む アツシ ハイ!アタクシ、やらかしてしまいました。 富岡ホテルの公式サイトからネット予約していたのですが、実は予約に不備があり... テヘペロ タケコ フロントのスタッフさんの親身なご対応のおかげで、助かりましたね(笑) アツシ 助けられました! 感謝感激であります! イシノリ ここは深く突っ込まないのが、武士の情けですな。 海も近い こうした予期せぬ絶景に出会えるのも、お散歩の醍醐味 テル 私は踏切を渡って海の方まで歩いてきました。途中の道路工事の現場を通り過ぎると、美しい太平洋が広がっていましたね。 タケコ 私も海まで歩いてきました。 津波が来たことも承知してはいるのですが、海が静かで、とても美しい景色に感じました。 アツシ 駅前のロータリー周辺もきれいに再整備され、生まれ変わりましたね。 駅舎では、地元産の食材を販売する「マルシェ」のようなスペースが開かれていました。 イシノリ 2015年に取材で富岡駅周辺を撮影したことがあります。倒壊した駅舎の鉄骨部に、ステッカー(?)のような白地に墨書きで「富岡は負けん」と書かれていました。 その時の感極まるような感情が長いこと脳裏から離れなかったのですが、生まれ変わった駅前のロータリーを歩き、ここまで復興させた富岡のみなさんに喝采を送りたくなりました。 アツシ そろそろおなかもすいてきました。夕食のお店を探しましょうか。実はもう10分押してます。 はーい。 17:30 串揚げ居酒屋 串誠 店名 串揚げ居酒屋 串誠 TEL 0240-23-6360 web https://kushisei.com/ 定休日 日曜日 営業時間 16時00分~22時00分 住所 福島県双葉郡富岡町駅前21 こちら「串誠」さんは、富岡ホテルの斜め前に立地する。 富岡駅周辺は、徒歩圏内に夕食をとることのできるお店が数か所しかない。そのため予約はマストである。 事前に予約をして入店。案の定、食事をしているうちに店内は満席となった。店内は大賑わいで、あちこちから楽し気な声が響く。「被災地」という勝手なイメージで来店すると、度肝を抜かれるであろう。都内の居酒屋とまったく同じ光景である。 タブレット端末から注文するスタイル。メニューは、串揚げ以外にも、お刺身、サラダ、肉吸い、煮込み、スペアリブ、プリンなどバリエーション豊富である。 お会計も今風に支払機にて。支払い方法も豊富で、QRコード決済も可能だ。 旅先での会話を読む テル いや予約取れてよかったですねぇ。あやうく夕食難民になるところでした。 アツシ そうなんですよ。実はアタクシ、これまで海外の方々の随行で何回かこのお店を利用しておりまして。 ホテルの目の前なので助かるんですよね。タブレット端末による注文方式も、海外のお客さんからは「わかりやすい」と好評でした。 今風のテーブル風景 満席の店内 手前はアツシ タケコ 新しいお店のせいか、東京にいるときとあまり感覚は変わりませんでしたね。 ちょっとスペースが広いかな、程度の違いはありますが。 イシノリ ほかのお客さんたちの盛り上がりっぷりもよかったね。 このお店にいる人たちはもう、みんな普通に楽しんでる。 震災のちょっと前にエネルギー館(現・東京電力廃炉資料館)の取材で富岡に来たことがあって。偶然見つけた小さな喫茶店のようなお店で、洋食ランチを食べたことを強くおぼえてるんだよね。 その次に富岡へ来たときは、津波の影響で、その喫茶店がどこだかわからなくなっちゃってた。 だからこうして居酒屋さんが普通に盛り上がっているのを見ると、ホッとする。 テル おっしゃる通りで、これがあるべき姿ですものね。 私も周辺を歩いてみて、まだ復興途上のところもあるけれども、着実に再起を遂げているところもある、と強く感じました。 タケコ それとごはんが、美味しいですね(笑) アツシ さぁさぁ、おなかもいっぱいになったところで、明日に備え、早めにお開きとまいりしましょ~。 はーい。 Jヴィレッジ 施設名 Jヴィレッジ TEL 0240-23-7311 web https://j-village.jp/ 住所 福島県双葉郡楢葉町山田岡美シ森8 Jヴィレッジは福島県にあるサッカーナショナルトレーニングセンター。スポーツ利用のみならずビジネス利用もできるホテルや、さまざまなスポーツやイベント開催もできる全天候型練習場が新設された。 1997年に開設された日本サッカーの拠点施設で、特に日本代表チームが多くのキャンプを行った場所としても知られている。その後、福島第一原子力発電所の事故を受けて一時閉鎖されたが、復興の象徴として2019年4月に全面的に再開された。サッカー専用のグラウンドに加え、トレーニングジムやプールなど、総合的なスポーツ施設として多様な利用が可能。キャンプや合宿の開催のほか、企業の研修やイベントスペースとしても活用できる。 Jヴィレッジが再開したことで、周辺地域の観光業やサービス業の活性化が期待され、地域活性化や雇用創出に大きく貢献している。 旅先での会話を読む テル 原子力関係者にとっては多くの思いが詰まった施設、それがこのJヴィレッジです。私もさまざまな思いが去来します。 アツシ 今回の取材では残念ながら行程の関係で、立ち寄ることはできなかったのですが、アタクシにとってもここは思い出多き地であります。 タケコ みなさん、いらしたことがあるのですね。 イシノリ 再開される以前に来たので、こんなに綺麗になった芝生のピッチを見たのは初めて! Jヴィレッジ全景 ピッチ全景 天然芝のNo.3ピッチ ビジネスにも快適なシングルルーム リゾート感覚でくつろぐツインルーム 仲間たちと英気を養うフォースルーム アツシ こんな素敵な施設になっていたとはつゆ知らず。恐れ入りました! タケコ リゾート施設と見まがうばかりのお部屋ですね。 ジムもレストランもありますし、合宿でなくても1日中楽しめそうですね! イシノリ プールもあるしね! それと、ここは大浴場が気持ちいいんですよ。 テル 見事としか言いようのない復興を遂げていて、頭が下がります。 是非ともあらゆる機会をとらえて、利用してみたいですね。 アツシ 今回はお邪魔できませんでしたが、またあらためてお邪魔して、もっと詳しく拝見いたしましょ~ はーい! 1日を動画で見る
- 25 Jan 2025
- CULTURE
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day1 | 浜通り3days
10:30 福島駅を出発! 施設名 福島駅 住所 福島県福島市栄町1-1 原子力産業界の福島出張の定番は「いわき駅」スタートなのだろうが、わたしたちは今回「福島駅」からスタートである。 新幹線で東京から「やまびこ号」または「つばさ号」で、およそ1時間半で到着。新幹線を降りると、広々とした駅の西口に出る。早速、予約したレンタカーの店舗へ移動しようとするが、GoogleMapいわく、目指す店舗は徒歩13分。ちょっと待て。危ない危ない。素直に店舗からの送迎バスを待とう。 もちろんレンタカー会社によっては、駅前に店舗もある。下調べは大事だなぁ。 旅先での会話を読む アツシ 福島まであっという間ですね。パソコン開いてちょっと作業してたら、もう着いてました。 テル 同じく新幹線駅であるお隣の「郡山駅」という選択肢もありますが、今回は県庁もある「福島駅」スタートとしました。 もっとも新幹線経由で目的地の浜通り地方に行くには、ここからクルマ移動になってしまいますが。 イシノリ 今乗ってきた新幹線は旅行客が多かったですね。あまり福島では降りてくれませんでしたが。 テル 福島は、というか浜通りは、今ダイナミックに変化を遂げており、それを感じられるのは今だけだと思います。 もっともっと多くの人に、福島へ立ち寄っていただかないと。 アツシ 4月の原産年次大会「福島セッション」でも、その点が強調されていました! 議論だけで満足せずに、次は行動です。原子力産業界は、社員旅行、研修旅行、慰安旅行等で何か理由をつけて福島に来るべきです。 タケコ 実際に現地を自分の目で見て、自分の足で歩くことで、わかることがあると思います。その体験を周囲にジワジワと拡げていってほしいですね。 イシノリ そそ。芸能人だけにまかせてないで、我々も行動しないとね。 タケコ 福島には初めて来たのですが、きれいな駅ですね。ちょっと静かですけど。 テル 新幹線改札のある「西口」と比べると、在来線側の「東口」はもっと賑やかですよ(笑) アツシ おっと、そうこうしているうちに送迎バスも来たようです。実はもう10分押してます。 はーい。 12:00 フランス料理店 ポン・ヌフ 店名 フランス料理店 ポン・ヌフ TEL 0244-24-3314 営業時間 11時30分~14時00分 住所 福島県南相馬市原町区日の出町206-1 浜通り地方のメインストリート「国道6号線」沿いに古くから佇む老舗フレンチ。福島第一原子力発電所事故後も早い時期から、洋食屋として営業を再開し、人々のおなかを支えたのは有名な話。 交差点、しかも通りに面した一軒家のお店である。駐車場の入り口がなかなかわかりにくいが、迷うことなくハンドルを切ろう。国道沿いではなく脇道側に入り口がある。 お店の外からは店内の様子がわからず、戸惑うかもしれない。しかし「営業中」の札がかかっていれば、間違いなく営業中なのだ。「注文の多い料理店」然とした佇まいに臆することなく、扉を開こう。きっと、店内いっぱいのお客さんを見て胸を撫で下ろすことだろう。紳士とマダムが切り盛りする「フランス料理店 ポン・ヌフ」は、絶品な洋食を味わえる人気レストランなのだ。 メニューは幅広く、たいていの洋食は揃っている。数多くのレビューがネット上にあるので、ここで多くは語らないが、実に美味しい。テルさんは「エビピラフ」、アツシとタケコは「ビーフシチュー」、イシノリは「ビーフストロガノフ」を注文したが、どれもとても美味しかった。特にビーフストロガノフは、ゴロゴロとステーキ肉が投入されており、食いしん坊も大満足である。 店主のお人柄も特筆すべきだろう。 実は店を辞去した後、クルマで移動中にイシノリが「社員証がない!」と大騒ぎ。どうやらいつも首からぶら下げている「迷子札」状のパスケースを紛失したとのこと。即座にクルマを停めて、全員の撮影写真に映り込んだイシノリを確認しながら、どの時点まで「迷子札」を持っていたか解析がスタートした。「新幹線で落としたかも...」と半ベソになりながら絶望のズンドコに沈むイシノリを囲みながらワイワイやっているうちに、東京にいる副編集長から電話が。 「イシノリ!あなたレストランに行った?」「うん... お肉、食べた...」「お店の人から電話があって、社員証を忘れていったそうよ」「MA・JI・DE!」 すぐさまクルマで取って返して、ポン・ヌフの扉をたたいたところ、マダムが申し訳なさそうに「駐車場に落ちていたのよ。ごめんなさいね。気づいてあげられなくて。社員証とクレジットカードが入っていたから、これは大変と思って、会社に電話しちゃった」 その節は誠にすみませんでした。平謝りしつつ、感謝感激のイシノリであった。 旅先での会話を読む アツシ いやいや、噂にたがわぬ名店でしたね。美味しい上にボリュームもあって、食いしん坊でも大満足。 イシノリ 福島出張時の「影の目玉」になりますな。 あそこまでゴロゴロと立派なステーキ肉が入っているビーフストロガノフは、初めて。 タケコ ビーフシチューもほんのりと酸味があって、とてもやさしい味でした。 ほかのメニューも食べてみたくなります。 テル ランチ営業しかされていないのが、実に惜しいですね。 もっと多くの方が遊びに来るようになれば、ディナータイムも開けてくれるんじゃないかなぁ。 「営業中」の札が輝いている ごちそうを前に撮影する面々。イシノリの迷子札が確認できる タケコ ポン・ヌフさんの魅力は、店内に入ると一層感じられますね。 テル 一軒家をぐるりと緑で囲まれており、この落ち着いた雰囲気が私は好きですね。 アツシ 中が見えないだけに、店内に入った瞬間のあたたかさは形容しがたいですね。お店のあちこちに猫ちゃんの置物が置かれていましたが、猫好きな人はやさしいといいますよ。 イシノリさんの「迷子札」騒動でも、大変親切な対応をしていただきましたし。 イシノリ おっしゃる通りです。 アツシ もうご存じでしょうが、そのせいで10分押してます。 イシノリ 面目ない... 13:20 福島ロボットテストフィールド 店名 福島ロボットテストフィールド TEL 0244-25-2473 web https://www.fipo.or.jp/robot/ 見学コース あり(事前予約) 定休日 土曜日/日曜日/祝日 営業時間 9時00分~17時00分 住所 福島県南相馬市原町区萱浜 新赤沼83南相馬市復興工業団地内 浜通りの産業回復・復興に留まらず、新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクトである「福島イノベーション・コースト構想」。福島ロボットテストフィールド(RTF)は、その一つとしてロボット/ドローン分野を集積させた一大拠点である。 2020年3月31日に全面オープンしたRTFは、東西に1㎞、南北に500m、約50haの敷地(東京ドーム10個分)を誇る。インフラや災害現場などの実際の使用環境を再現した21の施設があり、無人滑走機エリアには9施設、開発基盤エリアには5施設、インフラ点検・災害対応エリアには5施設、水中・水上ロボットエリアには2施設が配置されている。また、13㎞南には、RTFが所有する浪江滑走路・格納庫がある。 広大な施設ではあるが、おおよそ1時間規模の見学コースが用意されている。 RTFのミッションは、福島復興に貢献することおよび、ロボットの社会実装である。ミッション遂行のため、世界トップレベルのロボット実験環境を技術者に提供しており、ロボットの安全性確保・社会実装のためのルールやガイドラインといった仕組み作りに取り組んでいる。また、企業や大学など国内外のロボット研究開発運用者の交流・連携を促進しており、ロボットに係る次世代の人材育成にも取り組んでいる。RTFでは、こうした取り組みを通じて、中長期的な福島の復興支援をおこなっている。 旅先での会話を読む アツシ こちらがアタクシのイチ推し、「福島ロボットテストフィールド」です。 施設の規模もさることながら、倉庫に置かれた人型ロボットなど、なんかこう、グッときませんか? イシノリ わかる 真っ暗な倉庫のライトが点いて、目の前にアレがいた時は、たしかに鷲掴みにされた(笑) 「人機一体」だっけ?センスいいよねぇ。両肩に入った「JR西日本」とか「日本信号」とかスポンサーロゴも、なんだかリアルでカッコイイ。 これが「人機一体」 右端が 案内してくださったRTFの木幡さん テル 単なるスポンサーなだけでなく、共同開発者らしいですよ(笑) それと福島県はそもそも、ドローン関連もなかなか有名なんです。ドローンを使った配送実験とか、テレビでご覧になったことありませんか? イシノリ ありますあります。牛丼配達でしたっけ?南相馬の テル はい。福島県は長崎県とともに全国に先駆けて2024年度にドローン配送の実現に向けた地域課題解決連携“絆”特区に指定されているんです。 無人地帯で目視外飛行することを「レベル3飛行」と呼びます。「レベル4飛行」はさらに段階が上がって、有人地帯での目視外飛行が可能です。これまではルートごとに申請が必要でしたが、特区指定に伴い、エリア単位の申請でレベル4飛行が可能になりました。 アツシ ただし、ドローンの特区を活用する場合、飛行できるドローンは、国の認証を受けた機体に限定されています。 イシノリ となると、ますますドローンの活用が増え、浜通り地方が全国に先駆けた先進地域になりそうですね。 テル 無人滑走機エリアの緩衝ネット付飛行場は、高さ15mまでネットが張られています。天井のようにネットが張られたことで、屋内施設扱いとなり、ドローンから投下したりする場合なども、航空局への申請不要でドローンの実証ができるんですって。 タケコ 毎回申請するのは、大変ですものね。 アツシ あまりにも見どころが多くて1時間では回りきれませんが、10分押してます。 はーい。 15:00 haccoba 小高駅舎醸造所 &PUBLIC MARKET 店名 haccoba 小高駅舎醸造所 &PUBLIC MARKET Instagram https://www.instagram.com/publicmarket_by_haccoba/ 定休日 月曜日/木曜日 営業時間 12時00分~17時00分 住所 福島県南相馬市小高区東町1丁目140−1 無人駅の駅員の詰め所を改装して、醸造所兼店舗として活用している。レンタカーを駅前の無料駐車スペースに停め、店舗へ向かう。なんと、入り口が駅のホーム側にあり、改札を通らないと入ることが出来ない。無人駅とはいえ黙って改札を通るのは少々抵抗がある。というわけで、駅のインターホンで繋がった別の駅の駅員さんに確認したが、「入店のため、駅の改札を通ってかまわない」とのことだった。安心されたい。しかも後日になって、実は改札の外にもきちんと入り口があるとのご連絡を頂戴した。なおのこと安心されたい(笑) haccobaでは、お米と一緒にさまざまな素材を発酵させてお酒をつくっている。例えば、コーラの作成過程で発生したコーラ粕に他の粕を掛け合わせて新たなお酒を製造したり、チョコレートの製造過程で発生するカカオハスク(カカオの外皮)からお酒を製造したり、梅酒の製造で使用した梅の実(梅酒粕)をお米と一緒に発酵させてお酒を製造している。 haccobaは自社の醸造技術と何かを掛け合わせて(コラボして)、新しいものをつくっていることに特徴がある。ガラス越しに、駅員の宿直室だった部屋に配置された醸造設備を確認することが出来る。 下校時刻になると、駅を利用する地元の高校生たちで店内も賑わうという。 旅先での会話を読む テル haccobaの佐藤代表が4月の原産年次大会「福島セッション」に登壇された際に紹介した「はなうたホップス」は、当協会の懇親会でも何度かお出ししたのですが、大変人気が高かった一品です。 今回は、梅酒粕を用いた「五香梅(ウーシャンメイ)」を購入しました。 アツシ 梅とスパイスの香りがよく、とても飲みやすいお酒でしたね。これは仕事やプライベートを問わず、ボクの周りに薦めたい一品です! 小高駅の入口 ホームに面して店舗入口がある タケコ haccobaのお酒は、また飲みたいと思うだけじゃなく、ほかのお酒も飲んでみたいと思わせる不思議な魅力がありますよね。 イシノリ お酒以外にも、地元福島産の雑貨類が販売されており、ここに来ればいろいろと手に入るね。 タケコ オリジナルのコーヒーや化粧品、キーホルダーやグラス。そのほかにも浜通り地方のオリジナルTシャツなど、ローカルな商品がいっぱい置いてあります。 私もたくさん買わせていただきました。 イシノリ それと驚いたのは、店内に“オープンスペース”があって、そこで靴を脱いでのんびりおしゃべりできるところ。かなりフリーダムね。 店内にはくつろげるスペースもあり、電車待ちの高校生が自由に楽しめるそうだ うん。たしかにこんなに自由で人が温かい駅はない テル 勝手に作っていく「小高マップ」なんて典型ですが、このように場を提供するだけで、あとは高校生たちが自由に楽しみながら地元・小高をアピールしてくれる。 頼もしいですよね。 イシノリ 誰に強制されたわけでもないのにね。 佐藤代表が、「現在進行形で新しいカルチャーが生まれている」とおっしゃってましたが、これは楽しい! 説明してくださった三村さん 地元の高校生のアイデアも採用している アツシ おっと盛り上がってるところ恐縮ですが、10分押してます。 はーい。 16:00 浅野撚糸フタバスーパーゼロミル 施設名 浅野撚糸フタバスーパーゼロミル TEL 0240-23-7648 web https://asanen.co.jp/dakishimetefutaba/ 見学コース あり(事前予約) 定休日 月曜日 営業時間 10時00分~18時00分 住所 福島県双葉郡双葉町中野舘ノ内1−1 クルマで走っていると双葉町の再開発エリアに、一際異彩を放つ建屋が現れる。クルマから降りてエントランスへ近づくと、ガラス張りの建屋がショッピングモールのように明るい。ここが浅野撚糸株式会社の新工場だ。 岐阜を本拠とする同社の浅野雅己社長は、福島大学で青春時代を過ごした。震災後に被災地を訪れた際に地元・双葉町長の復興へ向けた力強い言葉に、強く胸を打たれ、双葉町に工場を新設することを決意したという。そして同社の新工場「フタバスーパーゼロミル」が、2023年4月、スタッフ20名でスタートした。当初は地元からの採用が思うようにいかず、岐阜から人員を派遣していたが、現在では、定期的な地元スタッフの採用に成功しており、現在22名が働いている。 こちらは工場見学のコースが2種(40分コース/70分コース)整備されており、広報担当スタッフがじっくりと工場の概要を説明してくれる。設備を目の前で見ることができ、すべてオープンで、撮影もOKだ。我々は今回70分コースをお願いした。 工場は9名のスタッフで交代しながら、24時間稼働(深夜は無人で機械のみ稼働)している。ベトナムからの技能実習生も受け入れており、我々が訪れた際にも実習生が合糸機等の稼働状況の確認作業をしていた。 スーパーZEROという糸は、通常の糸およびお湯に溶ける糸(水溶性の糸)を撚ったのち、高温の蒸気をあてて、糸の縮れを固定しタオル製造段階で水溶性の糸を完全に溶かすことで、それまで掛かっていた解け残った糸が膨張するという原理を利用している。この膨張した糸により、吸水性が飛躍的に高まるのだ。 糸を撚る機械は、廃業する同業者たちから譲ってもらった20〜30年以上も前のシロモノで、今ではもう手に入らない。地下約220mの地下水をくみ上げて140℃まで高め、蒸気として使用している。試行錯誤を重ねた結果、撚糸の中心部まで蒸気をあてる方法として、1つずつ人の手で穴を開けた段ボールに撚糸を入れるという現在の方法が編み出された。なお、140℃のスチームを出す機械(スチームセッター)は、ここ双葉町と岐阜本社の2か所に設置されている。 旅先での会話を読む テル 施設見学の冒頭、同社の土屋所長補佐よりお話がありましたが、「工場の設備だけでなく働くスタッフを見てほしい」と。その言葉の意味がよくわかりました。 タケコ この工場は人で成り立っていましたね。 案内してくださった子安さんは、入社2年目だそうですが、入社早々に地元の岐阜から福島へ派遣されたそうです。 見知らぬ土地で、「不便なこともあるけれども、双葉の未来を作っているようで楽しい」とおっしゃっていたのが印象的です。 1年と言われていた双葉町への派遣期間を、自ら延長を申し出て、2025年3月まで双葉町で働くことになっているそうですよ。 撚糸機の説明をする子安さん 撚った糸に高温の蒸気を当てるスチームセッター アツシ 設備もすべて丸見えで撮影OKですし、事務所に至っては「ガラス張り」で丸見えでしたね。 子安さんが「ちょっと恥ずかしい」とおっしゃっていたのもよくわかります。 イシノリ すべてオープンにしていく、心意気ですかね。 こうして訪れた人たちの心をガッチリと掴む(笑) 1Fに広がるショップでは、多様な素材の製品が販売されている 2Fのアウトレットショップ アツシ こちら、工場を見学できるだけでなく、きちんとショップも併設されています。2Fにはアウトレットショップも イシノリ 貧乏性でアウトレットにばかり足が向いてしまいました。 こちらで購入したエアーカオルを、ジムでもヘビーユースしています。たしかに吸水が違う!水泳で使用する吸水シートと違い、肌触りもいいですね。 はちみつりんごみるく 1FにはKEY’S CAFÉもあり、お食事もできる タケコ 1Fにはカフェも併設されています。広々とした空間で居心地がいいので、ついつい長居してしまいました。 こちらのカフェも、浅野撚糸さんの社員さんが担当されているそうです。 テル 私も子安さんイチ推しの「はちみつりんごみるく」をいただきました。これが実に美味しい。 福島県産のリンゴを使用されているそうですよ。 下から見てもよくわからない屋根だが 上から見るとこのようにデザインされている イシノリ そういえばこちらの施設、上空から鮮やかな「0」のマークが見えるようですが、本来は「町のシンボル」として道路からも見えるはずだったそうです。 「設計ミスで見えなくなっちゃった」って(笑) しかも看板は補助金対象外なので、全額自己負担! アツシ おっと、その手のウラ話はやめていただいて! 実はカフェに長居しすぎて、10分押してます。 はーい。 18:00 ほっと大熊にチェックイン! 施設名 ほっと大熊 TEL 0240-23-5767 web https://okumakouryu.jp/hotokuma フロント営業時間 6時00分~22時00分 住所 福島県大熊町大川原南平1207番1 大熊町役場に隣接する「大熊町交流ゾーン」。その一角を占めるのが、宿泊温浴施設「ほっと大熊」だ。 「ほっと大熊」周辺には、コンビニ(7時00分~20時00分)もあれば、飲食店もある。 さらに万が一に備え、「ほっと大熊」施設内も充実している。広い共有スペースには、電子レンジやちょっとした調理器具が揃っている。それにくわえて、カップ麺、冷凍食品、アルコール類、おつまみ系の自動販売機が充実している。 フロント営業時間外でも、スタッフは常駐しているので安心である。大熊を拠点に動く場合、ぜひとも泊っていただきたい。 ただし、かなりの人気施設なので御予約はお早めに。 旅先での会話を読む ほっと大熊の入り口。なんだかあたたかい 広々とした共有スペースがあり、設備は自由に使える アツシ こちらはとにかく大人気で、なかなか予約が取れないんですよ! 今晩はファミリールームに男子3名が、ツインルームに女子1名が宿泊です。 イシノリ 温浴施設にくっついた宿泊所だというのであなどっていたら、なんのなんの。リゾートホテルばりのお部屋で驚いた。 到着したのが夜だったからわからなかったけど、あのテラスはヤバい。気持ちよさそう。 テル ぜひ家族で訪れたいですね。 子連れには、共有スペースにあるさまざまな設備もうれしい。 タケコ あちらの共有スペースは飲み物がすべてフリーで供されています。お菓子も好評だそうですよ。 それとフロントのスタッフさんが優しくて、地元に帰ってきたような気分になれますね。 ファミリールームにはテラスも ファミリールームには2寝室のほか、広々としたリビングルームもある。ここでゆっくり談笑できる イシノリ それと温泉コーナーの目玉の一つ、無料マッサージチェアね。 なかなかの高級機だというウワサは聞いてた。 アツシ 期待値をはるかに上回ってきましたね。 外界から遮断され、からだ全体が包まれる。まさにモビルスーツのコックピット! テル 我々3機が並んだ姿はさしずめ「黒い三連星」ですかな(笑) イシノリ アハハハ カッコいい! この勇姿をタケコに撮ってもらえばよかった(笑) アツシ アタクシ、「オルテガ」を名乗らせていただいてもよろしいでしょうか!! タケコ マッサージチェアの置いてある方から元気いっぱいな声が聞こえて、何事かと思っていましたが... みなさんだったのですね。楽しそうで何よりです。 イシノリ で、でたな。京言葉! 19:00 食事処 池田屋 店名 食事処 池田屋 TEL 090-2936-7322 定休日 日曜日 営業時間 11時00分~21時00分(要確認) 住所 福島県双葉郡大熊町下野上金谷平542-2 神奈川県から移住した店主が、2024年5月に大熊町でオープンした定食屋兼居酒屋さん。大熊町に住む人や復興に携わる人にとって、待ちに待った飲食店だったという。しかも夜は居酒屋として営業しており、暗闇に輝くお店の明かりが、地域の防犯にも貢献しているそうだ。 「孫をいい自然環境で育てたい」との思いで移住を決意した店主。当初はお店をやるつもりはなかったが、あまりに周りに何もなくて不便であることから、「みんなのためにもお店を開くことにしました。以前も飲食店をやっていたから」とにっこり笑う店主。あたたかい。 上述の通り、「ほっと大熊」のある「大熊町交流ゾーン」には、居酒屋さんや食堂が複数軒あるが、大熊町を訪れる人々は少なくない。どのお店にせよ、事前の予約を強くお勧めする。 実は我々も油断しており、「大熊行けばお店が何軒かあるよ~」との声に安心しきっていたのだが、当然のごとくドコモ満席である。誰もが美味しいものを食べたいのだ。 そんな経緯で出会えた「池田屋」さん。定食以外にも数多くのサイドメニューがあり、ガツガツといかせていただきました。ごちそうさま。 旅先での会話を読む アツシ いやいやアタクシとしたことが大変な失態で。「ほっと大熊」周辺のお店はどこもかしこも満席でしたね。 そりゃそうですよねぇ。 イシノリ 「ほっと大熊」の駐車場見て驚いたもん。クルマだらけで。 「交流ゾーン」を我々のようなサラリーマンが、1日の仕事を終えてニコニコしながら歩き回ってるから、イヤな予感したのよね。 案の定どこのお店もお客さんでいっぱい。正直、コンビニ弁当も覚悟した。 テル 大熊町の帰還が進まないとはいえ、復興作業に携わっていらっしゃる方々が大勢いらっしゃいますからね。 今回はその“勢い”の一端を垣間見ましたね。この町は元気がいい。 タケコ 池田屋さんにお電話して「どうぞ!」と言われたときにはホッとしました。 アツシ そんな我々をあたたかく迎えてくださった「池田屋」さんの店主さんですが、大熊町のお隣、浪江町のご出身で、30年ほど前から神奈川県で生活されていたそうです。 震災から再び立ち上がった大熊町の姿を見て、そしてなによりも孫をのびのびとした環境で育てたいとの思いで、ここならばと移住を決意されたそうです。 テル このように移住された方が、地元の人々や大熊町を訪れた人々の食事処として、町を支える重要な役割を果たすというケースもあるのですねぇ。感じ入りました。 避難された方々の帰還が思うように進まない中、これからはこうした移住者の方々による新しいまちづくりという要素も、無視できなくなってくるかもしれません。 食券機にはガッツリ系の定食メニューが並ぶ 店内の壁に貼られた一品料理も注文可能だ タケコ 地元の食材だというサラダが、とても美味しかったですね。福島県はトマトの産地ですものね。 明日お邪魔するワンダーファームさんも確か... イシノリ 元木さんのワンダーファームね! あそこはトマト三昧よ。以前取材したとき、「トマト神社」もあった(笑) アツシ そうです。みなさん、明日もスケジュールはいっぱいいっぱいです。 今晩も早めにお開きとまいりしましょ~。 はーい。 1日を動画で見る
- 25 Jan 2025
- CULTURE
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処理水放出から一年 新聞は「歴史の記録者」としての任に堪えられるか
二〇二四年九月二十日 新聞の役割とは何だろうか。世の中で起きている数々の現象を伝えることが主な役割であることは間違いない。だが、もうひとつ重要な使命として、歴史的な記録資料を残すことが挙げられる。三十年前の日本がどんな状況だったかを知ろうとすると、やはり新聞が筆頭に上がるだろう。では、福島第一原発の処理水放出から一年経ったいまを記録する資料として、新聞はその任に堪えているだろうか。 処理水の放出から一年が経った八月下旬、どの新聞社も特集を組んだ。中国が日本産水産物の輸入を禁止したことによって、その後、日本の水産物がどうなったかは誰もが知りたい情報だろう。そして福島の漁業がどうなったかも知りたいはずだ。そういう観点から、新聞を読んでみた。福島の漁業に活気は戻っていない? 毎日新聞の社会面(八月二十三日付)を読んだ。主見出しは「福島の海 活気返して」で、副見出しは「操業制限 漁師、東電へ不信なお」。地元の漁師を登場させ、「放出への不安や東電への不信感を拭えずにいる。いまも操業制限が続いており、かつてのような活気は戻っていない」と処理水の放出から一年経っても、活気は戻っていないと極めて悲観的なストーリーを載せた。 その一方で、福島の水産物の価格は高い水準を維持し、放出前より高値を付けることもあり、風評被害は出なかったと書く。ならば福島の水産物の明るい部分もあるはずだが、そのレポートはない。逆に、国と東電は「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」と約束したのに、海へ放出し、いまも県漁連は反対の姿勢を崩していないと書き、国や東電への不信感を強く印象づける記事を載せた。 さらに三面では、東京電力は二三年十月から風評被害を受けた漁業者や水産加工業者などに賠償手続きを開始したが、約五五〇件の請求のうち、支払いが決まったのは約一八〇件(約三二〇億円)しかなく、賠償が滞っている様子を強く訴えた。しかも、大半は門前払いで泣き寝入りだという大学教授のコメントも載せた。同じ三面の別の記事では水処理をめぐるトラブルを取り上げ、見出しで「後絶たぬトラブル 東電に疑念」と形容するなど東電への批判を繰り返した。 かなり偏った内容(歴史的記録)に思えるが、同じ毎日新聞でも千葉支局の記者がルポした千葉版の記事(八月二十七日付)は違った。こちらは見出しが「福島原発でヒラメ飼育 1号機『普通の服装』で見学 処理水の安全、魚でテスト」と、敷地内の様子を極めて素直な目線でレポートしていた。これを読む限り、処理水の放出と廃炉作業は少しずつではあるが、前進している印象を与える。 ただ、毎日新聞からは水産物のその後の全体像はつかめず、一紙だけでは歴史的記録としては不十分なのが分かる。東京新聞はネガティブな印象を強調 毎日新聞の記事は全体として悲観的なトーンだが、東京新聞はさらにネガティブだ。一面で「七回で五・五万トン 収まらぬ漁業被害」「今も反対、政府は責任を」「首相近く退陣 漁師不安」と不安を強調し、二面では「汚泥 待ち受ける難題 タンク解体」「過酷作業 被ばくの不安」と、今度はタンクの「解体」や汚染水の処理過程で発生する「汚泥」の保管・処分をどうするかという難題が立ちはだかると厳しい内容を載せた。記事からは課題は分かるものの、前進している材料は全く見えない。これも歴史的記録の一面しか伝えていないように思える。読売・産経はホタテの脱中国に着目 毎日新聞と東京新聞を読む限り、暗い気持ちになるが、読売新聞(八月二十五日付)を読むと、一面で「処理水放出一年異常なし」、社会面では「処理水放出 不屈の漁業」「国内消費拡大・輸出『脱中国』へ」との見出しで明るい面を強調した。社会面の記事では「風評被害の拡大も懸念されたが、好調な国内消費や支援の声に支えられ、漁業関係者らは踏みとどまってきた」と書き、希望を持たせる印象を与えた。 社会面記事は、北海道湧別町のホタテ漁の写真を載せ、「今の湧別町には活気がある。官民挙げて取り組んだ消費拡大キャンペーンの結果、国内消費が好調であるためだ」と書いた。ホタテはふるさと納税の返礼品としても人気があり、別海町は二三年度の寄付額が百三十九億三百万円と前年度の二倍になったという内容も載せ、脱中国に向けて欧米への輸出にも取り組む様子を力強く伝えた。 三面では「政府、水産業支援を継続」という文言を見出しにし、「タンク解体、来年にも開始」とほぼ計画通りに進む様子を伝えた。 読売新聞の記事を読むと、毎日新聞や東京新聞とは全く逆の印象を受ける。毎日新聞に登場する漁業関係者は東電への批判を口にするが、読売新聞では漁業関係者が以前の日常に向けて頑張っている様子が伝わってくる。 産経新聞(八月二十五日付)は三面で「ホタテ輸出 脱中国進む、上期ゼロ、米向けなど急増」との見出しでホタテの輸出が増えている様子を伝えた。ホタテに着目した点は、読売新聞と同じであり、内容も読売新聞と似ている。朝日は意外に穏当か では、朝日新聞はホタテの状況をどう報じたのだろうか。八月二十四日付の社会面を見ると、「ホタテ『王様』復活なるか 国内消費上向き 中国への輸出見通せず」との見出しで「(中国への輸出の)主役だったホタテは行き場を失い危機的な状況に一時陥ったが、国内消費は上向きで回復に向かっている」と明るい要素もあることを報じた。国は基金や予備費を使い、約一千億円を投入、北海道の森町などは水産加工業者からホタテを買い取り、全国の学校給食に無償提供したと書き、自治体の奮闘ぶりを紹介した。また、ホタテの輸出量は減ったものの、米国、ベトナム、タイの三か国が中国の禁輸で行き場を失った分の約五割をカバーしたとも書いた。「楽観はできない」と書きつつも、朝日の記事は読売のトーンに近く、意外に穏当な内容だ。歴史的な記録は全紙が揃って初めて成立? これまでの記事を読み、みなさんは新聞の歴史的な記録を残す価値をどう思われただろうか。同じ現象を報じた歴史的な記録と言いながら、中身は新聞によってかなり異なることが分かるだろう。どの新聞も現象の一断面を切り取って記録していることがよく分かる。 つまり、一紙や二紙では歴史の記録者としての任は果たせない。裏返せば、新聞社の数(記者の数)が多いほど、歴史の多面的な現象を後世に伝えることが可能になる。そういう意味では、いま新聞の販売部数(記者の数も)が減少の一途をたどり、新聞社がつぶれそうな状況になっているのは、多様な歴史的な記録物を残す観点からみると極めて由々しき事態だといえる。 では、新聞社を残す方法はあるのだろうか。提案したいのは、読売新聞の読者はたまには産経新聞を読む、そして朝日新聞の読者はたまには毎日新聞や東京新聞を読むといった「交互購読」で大手五紙を共存させる方法だ。新聞社が減れば、いまの歴史の真実を後世に残す手立てが消えることに通じる。処理水から一年経った各紙の記事を読み比べてみて、そのことに気づいた。前回のコラムの最後に「重大なことに気づいた」と書いたのは、このことである。
- 20 Sep 2024
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処理水放出から一年 奇しくも朝日と産経が 絶妙なコンビで中国批判
二〇二四年九月六日 福島第一原発の処理水の海洋放出が始まって、一年がたった。大手新聞がどんな報道をしたかを読み比べしたところ、驚愕の事実を発見した。なんと朝日、毎日、産経の各新聞が足並みを揃えたかのように、中国の日本産禁輸を批判する内容を載せた。特に朝日と産経が似た論調を載せたのは極めて異例だ。いったいどんな論調なのか。最大の武器は「自己矛盾」を突くこと だれかを批判するときに最も効果的な武器は、相手の言い分の「自己矛盾」を鋭く突くことである。相手に「痛いところを突かれた。勘弁してくれ」と言わしめる急所を突く論法である。 では、処理水の自己矛盾とは何だろうか。 中国政府は処理水を「核汚染水」と呼び、国民の健康と食品の安全を守るためと称して日本からの水産物の輸入を禁止した。これは言い換えると「日本の沖合で取れた魚介類は核汚染水で汚染されていて危ないから、中国の消費者には食べさせない」という国家の意思表示である。 ところが、中国の漁船は日本の沖合に堂々と来て、魚介類を取り、中国で販売している。同じ太平洋の海で捕獲しながら、日本の漁船が取って、日本に持ち帰った魚は危ないが、中国の漁船が取って、中国の港に持ち帰った魚は安全だという中国の論理は、どうみても自己矛盾の極みである。 中国の禁輸措置を批判する場合、いろいろな言い方はあるだろが、私は、大手新聞がこの自己矛盾をどう報じたかに注目した。朝日新聞は地図入りで矛盾を指摘 すると、なんと朝日新聞は八月二十四日付朝刊の一面トップで「処理水放出 漁続ける中国 日本産禁輸でも近海で操業」という大見出しで中国の自己矛盾を大きく報じた。 記事によると、当初、中国は日本の汚染水は放出から八か月で中国の沿海に届くと言っていた。この通りだとすれば、中国の漁船が中国の沿海で漁をすることは不可能になる。ところが、そんな事情にお構いなく、中国の沿海では八百隻を超える漁船が漁を続けている。中国の漁師は「もし汚染があれば、国(中国政府)は我々に漁をさせない」と意に介さない様子だ。福建省全体からは日本沖の太平洋に向かう漁船が毎日出漁している。 さらに日本の近海でも中国の漁船が多数出漁し、北海道の東方沖の公海にはサンマ、サバ、イワシなどの中国漁船が活発に活動している。そうした中国漁船の操業状況がひと目で分かるよう、朝日新聞は「明るい部分ほど盛んに操業」との解説を入れた日本周辺の海図を載せた。この記事を読んだ朝日新聞の読者はきっとこう思ったに違いない。 「中国は言っていることと、やっていることが全く矛盾している。日本産水産物の輸入を禁止したのは、食の安全とは全く関係ないことがこれで分かった」。 この朝日新聞の記事は、中国の矛盾した態度を鋭く突く、拍手喝采ものの傑作だろう。産経新聞も朝日新聞と同様に鋭く突いた 驚いたのは、産経新聞の八月二十五日付朝刊の一面トップ記事と、三面の特集記事を見たときだ。朝日新聞とそっくりの内容なのだ。三面の見出しは「中国、禁輸でも日本沖で操業」と、朝日新聞の「日本産禁輸でも近海で操業」とほぼ同じ内容だ。 産経新聞の三面記事の前文の締め言葉は、「中国は禁輸措置の一方、中国漁船が日本沖で取った海産物を自国産として流通させる矛盾した対応を取り続けている」と厳しく断じた。 そして、産経新聞も朝日新聞と同様に、「中国漁船が操業している日本周辺の水域」と題した地図まで載せた。そのうえで、はっきりと「中国漁船が福島県や北海道の東方沖の北太平洋でサンマやサバの漁を続けている。同じ海域で日本漁船が取ったサンマは日本産として輸入を認めない半面、中国漁船が中国の港に水揚げすれば、中国産として国内で流通させている。日本政府関係者は不合理としか思えないと批判する」と書いた。 言わんとしていることは産経も朝日と同じである。おそらく新聞の題字(ロゴ)を隠して記事を読み比べたら、どちらが産経か朝日か見分けにくいだろう。毎日新聞も社説で矛盾を指摘 おもしろいことに、毎日新聞も八月二十四日付社説で中国の矛盾した態度を指摘した。社説は後半で「中国政府は『食品の安全と国民の健康を守る』と禁輸を正当化しながら、中国漁船による三陸沖の公海などでの操業は規制していない。これでは矛盾していると言わざるを得ない」ときっぱりと言い放った。 朝日、毎日、産経が横並びで中国の禁輸措置を「矛盾」と形容して批判する記事は、そうそうお目にかかれない。朝日新聞の記事を喜ばない読者もいる! 最後に、この一連の報道に関する、私のちょっとした考察を述べてみたい。 普段は真逆の朝日と産経が的確な記事を報じたわけだが、それぞれの読者層からは、いったいどう評価されているのだろうか。今回の朝日の記事を私は高く評価するが、左派リベラル層はおそらく苦々しく思っていることだろう。 朝日新聞が一年前に中国の禁輸に対して「筋が通らぬ威圧やめよ」と書いたところ、「朝日はおかしくないか。批判すべきは海洋放出を強行した政府ではないか」と主張するネット記事が出た。そう、左派リベラル層が朝日に期待しているのは中国への批判よりも、日本政府や巨大企業への鋭い批判である。だとすると、朝日新聞が地図まで示して中国の矛盾を鋭く突けば突くほど、朝日の読者層は「最近の朝日はおかしくないか」との思いを募らせるであろうことが想像される。一方、産経の論調は首尾一貫しており、読者層は「よくぞ書いた」と喝采を送っていることだろう。 朝日新聞の記者とて、矛盾が明らかな以上、中国の禁輸の矛盾を書かないわけにはいかない。ただ、記者が鋭い記事を書いても、それを喜ばない読者層がいることを思うと、記者の悩ましいジレンマが伝わってくる気がする。 処理水の報道をめぐっては、もうひとつ重大なことに気づいた。それは次回に詳述する。
- 06 Sep 2024
- COLUMN
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福島の山菜は本当に危ないのか? 基準値の意味を正しく伝えたい
二〇二四年三月二十五日 福島県内で採れる山菜を食べたら、本当に危ないのだろうか。毎日新聞が三月十二日付け朝刊で「『山菜の女王』復活へ試行錯誤 福島・飯舘村セシウム減らせ」と題した記事を載せた。基準値の意味を正確に伝えていないため、あたかも山菜を食べたら健康に影響があるかのような印象を与える、ミスリーディングな内容だ。では、記事のどこがおかしいのだろうか。コシアブラは依然として一〇八五ベクレル 記事を見てまず引っかかったのは、小見出しの「依然基準値の10倍」(写真1)だった。記事の骨子はこうだ。飯舘村が測定した山菜(ワラビ、ウド、フキなど)の放射性セシウムの濃度(二〇一四年~二〇二三年分)は二〇一一年の原発事故から低下しつつあるが、コシアブラだけは二〇二三年になっても、一キログラムあたり一〇八五ベクレル(二〇一四年は同二〇五五八ベクレル)を示し、基準値の十倍に上った。写真1 その理由は、森林の大部分が除染されていないため、多年生植物のコシアブラはセシウムの多い地表から十数センチのところに根をはり、しかもセシウムは根などに蓄積して植物体を循環するため、シーズンをまたいでも減りにくいのだという。そこで記事は「基準値を下回るにはさらに10年以上かかるだろう」という地元住民の言葉を載せた。 さらに、「山菜を塩水でゆでたあと、一時間、水に浸すとセシウムの量は調理前の三五~四五%程度に低減する」という方法を紹介している。 ちなみに、ベクレルは放射性物質が放射線を出す強さを表す単位で、一ベクレルは一秒間に一つの原子核が崩壊することを表す。セシウムの基準値は各国で異なる 放射性セシウムの現状を伝える記事自体に誤った記載があるわけではない。ただ全体を読んでいて誤解を与えかねないと感じたのは、一〇〇ベクレルという基準値にこだわるあまり、一〇〇ベクレルを超えた山菜を食べると健康に影響するかのような印象を与える点だ。 知っておきたいのは、基準値は健康影響をはかる指標値ではないということだ。そのことは各国の放射性セシウムの基準値を見ればすぐに分かる。図表1を見てほしい。日本の一般食品の基準値が一キログラムあたり一〇〇ベクレルなのに対し、EU(欧州連合)は一二五〇ベクレル、米国は一二〇〇ベクレル、コーデックス委員会(世界食糧機関と世界保健機関によって設置された国際的な政府間機関・百八十八か国加盟)は一〇〇〇ベクレルだ。 なんと欧米諸国の基準値は日本よりも十倍も緩い。記事は「コシアブラの一〇八五ベクレルは基準値の10倍」と書いたが、このコシアブラは欧米諸国では堂々と流通できる。確かに日本では一〇〇ベクレルを超えると出荷制限(販売禁止)がかかるが、欧米では基準値以下なのでそのまま流通するのだ。ということは、仮に欧米人が一〇八五ベクレルの山菜を食べても、健康に影響することはないことを意味する。 いうまでもなく、基準値の緩い(数値が高い)欧米の人たちがセシウムの影響を受けにくい体質をもっているわけではない。毒性は食べる「量」いかんで決まる もうひとつ押さえておきたいのは、基準値の一キログラムあたり一〇〇ベクレルという意味だ。これは一キログラムあたりの数値なので、一キログラムあたり一〇八五ベクレルのコシアブラの場合、十グラムしか食べなければ、体内に摂取されるセシウムはその百分の一の約10ベクレルで済む。逆に基準値以下のコシアブラでも、2~3キログラムも食べれば、体内摂取量は100ベクレルを超えてしまう。 この例でわかるように、基準値以下の食品でも大量に食べれば、基準値を超える。食べた人に健康影響が生じるかどうかは、食べる「量」によって左右され、基準値を超えたかどうかではない。つまり、一〇〇ベクレルという数値は、健康に影響するかどうかの指標ではなく、生産者に対して「出荷の際に気をつけてもらうためのシグナル」なのである。年間一ミリシーベルト以下が上限 では、健康影響をはかる指標値は何か。図表1の二段目にある「追加線量の上限設定値」の年間一ミリシーベルト(シーベルトは放射線が人体に及ぼす影響を表す単位)である。もちろん一ミリシーベルトを超える放射線を浴びたからといって健康影響が生じるわけではない(低線量による影響はいまも科学的な議論が続く)が、放射線の影響を管理する数値としては、年間一ミリシーベルトが世界的な標準管理値となっている(ただし米国は年間五ミリシーベルト)。 ここで強調したいのは、セシウムの基準値は各国の事情によって異なるが、健康影響の指標はほぼ同じという点である。欧米人も日本人も同じ人間なので、健康影響を測る数値が大きく異なるはずはない。一〇〇〇ベクレルの山菜を食べても影響はない では、仮に一キログラムあたり一〇〇ベクレルのセシウム(半減期が約三十年のセシウム137と仮定)が検出された山菜を一キログラム食べた場合、人体への影響(内部被ばく)はどれくらいになるだろうか。計算すると〇・〇〇一三ミリシーベルトである。一〇〇〇ベクレルのコシアブラを一キログラム食べた場合は、十倍の〇・〇一三ミリシーベルトとなる。仮に一〇〇〇ベクレルのコシアブラを一キログラム(そもそも一キロも食べる人はいないだろうが)食べても、一ミリシーベルトをはるかに下回り、健康への影響はないことが分かる。 EUの基準値が一二五〇ベクレルでも、西欧人の健康を守ることができるのはこれで分かるだろう。そもそも私たち日本人は自然界から年間約二ミリシーベルトの被ばくを受けながら生活をしている。それと比べても、山菜から摂取するセシウム量は極めて少ない。 実はこうした考え方は農薬も同じである。農薬の残留基準値は各国の気候や風土で異なるが、健康影響をはかる指標値の一日許容摂取量(ADI)は世界共通である。このあたりのからくりは、拙著「フェイクを見抜く」(ウエッジ)をお読みいただきたい。「安全・安心」のために一〇〇ベクレルを設定 では、なぜ日本は欧米よりも十倍も厳しい基準値を設定したのだろうか。福島第一事故後にセシウムの基準値がどのように決まっていったかを、私は現役(毎日新聞)の記者として当時、熱心に取材していた。そもそも事故が起きる前の一般食品の暫定基準値は、一キログラムあたり五〇〇ベクレルだった。厚生労働省や食品安全委員会などで活発な議論が行われたが、結局、「より一層、食品の安全と安心を確保する観点から」という理由で一〇〇ベクレルに決まった。 許容していた年間追加線量も、事故前は年間五ミリシーベルトだったが、一ミリシーベルトに引き下げられた。一〇〇ベクレルが導き出される計算式の裏には、日本国内の食品(流通する食品の半分と仮定)はすべてセシウムに汚染されているという非現実的な仮定があった。これに対し、EUの一二五〇ベクレルは、流通量の一割が汚染されているという現実的な条件で計算されている。当時は旧民主党政権。結局は政治的な思惑もあって、「安心」を重視した政治的な決着となったのだ。一九六〇年代はもっとリスクが高かった 原発事故から十三年もたつと、セシウムの基準値が政治的に決められていった経過を知る記者は、少なくなっている。毎日新聞の記事について言えば、一〇〇ベクレルは健康影響をはかる指標値ではなく、たとえ一〇八五ベクレルのコシアブラを一キログラム食べたとしても健康への影響はない、という解説を入れてほしかった。 今後、セシウムの影響を伝える場合は、中国などが核実験を行っていた一九六〇年代のほうがよほど健康へのリスクは高かったという事実を、記者たちは頭の片隅に刻んでおいてほしいものだ。福島第一原発の処理水の海洋放出は今のところ順調に進むが、魚介類からいつ何時一〇〇ベクレルを超えるセシウムが検出されるかもしれない。その際に冷静に「一〇〇ベクレルを超えても健康影響とは関係ない」と、記者たちがしっかりと書いてくれることを期待したい。
- 25 Mar 2024
- COLUMN
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米国大統領選挙が後押しする日中関係改善、処理水問題
正月の祝賀気分に浸る間もなく元日に令和6年能登半島地震が発災、翌2日には羽田空港で日本航空516便と海上保安庁の『MA722みずなぎ1号』が接触する大規模な事故があった。海保機は新潟空港へ支援物資を輸送する途上とのことで、実質的には震災の2次災害と考えなければならない。予想もしなかった荒々しい新年の船出だが、被災された方々の救済、被災地の復旧と復興が迅速に行われ、2024年が昇る龍の如く尻上がりに良い年となることを祈念したい。さて、その2024年における国際社会の最大のイベントは11月5日の米国大統領選挙だろう。現段階におけるこの選挙の主役は明らかに共和党の最有力候補であるドナルド・トランプ前大統領だ。同前大統領が返り咲けば、国際関係は大きく変化せざるを得ないのではないか。トランプ前大統領は、2017年1月20日の就任早々、TPP交渉や地球温暖化に関するパリ協定から離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しをメキシコ、カナダに迫った。また、韓国、EU、そして中国が特異な通商政策、安全保障政策で翻弄されたことは記憶に新しい。一時は北大西洋条約機構(NATO)も半ば機能不全に陥りかけた。さらに、エルサレムをイスラエルの首都と認め、歴代の米国大統領が慎重に回避してきた米国大使館の移転にも踏み切ったのである。そうしたなか、唯一、主要国でトランプ砲の被弾を免れたのが日本ではないか。通商交渉で大きな譲歩はせず、トランプ前大統領が選挙で訴えていた在日米軍駐留経費も増額を回避した。それは、安倍晋三首相(当時)の外交力によるものであることに疑問の余地はない。トランプ大統領の就任から21日目となった2017年2月10日、訪米した同首相との共同会見において、同大統領は「私はこの機会を利用して安倍首相、日本国民に米軍を受け入れてくれたことへのお礼を申し述べたい」と語り、全世界を驚かせた。2020年8月28日、同首相の退任表明に際し、トランプ政権で国家安全保障担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトン氏はワシントンポストへ寄稿、「東京とワシントンにおいてそれほどの重要性を持たない通商と投資に関する論争を避けることについて、安倍首相はトランプ大統領にある種の魔法をかけた」と称賛している。安倍首相が亡くなられたなかで、「トランプ大統領」が再登板した場合、その照準は日本に向けられる可能性が強い。岸田文雄首相のみならず、誰が日本のリーダーであっても、相当の被弾は免れないだろう。特に在日米軍駐留経費、通商問題などで厳しい交渉を覚悟しなければならない。そうしたなか、「トランプ大統領」と渡り合う上で、日本政府にとり数少ない手札の1枚となり得るのは「中国カード」ではないか。もちろん、政治体制の前提となる人権、主権、自由に対する根本的な哲学の違いから、中国が同じ自由主義社会を奉ずる同盟国の米国の代替とはなり得ない。ただし、日中両国の接近は経済・通商、安全保障の多方面において、米国のインド太平洋戦略にとり大きな懸念となるだろう。それ故、米国のゴリ押しに対抗する上での防御策となる可能性が強い。 経済交流は維持されている日中関係の改善を図る上で、乗り越えるべき障害が幾つかある。取り敢えず喫緊のハードルは福島第一原子力発電所の処理水の問題に他ならない。財務省の貿易統計によれば、2022年における日本から中国及び香港への魚介類の輸出額は1,339億円だった。中国・香港合計で同年の魚介類輸出の39.8%を占め、1か月平均では112億円に達していたのだが、昨年11月、中国向けはゼロになっている(図表1)。香港向けは前年同月比19.9%減に踏み止まっているものの、日本の水産事業者には大打撃となった。多核種除去設備(ALPS: Advanced Liquid Processing System)で処理した水の海洋放出は、国際原子力機関(IAEA)が強く求めてきたものだ。トリチウムは正常に稼働している原子炉なら日常的に排出しており、福島第一原子力発電所の廃炉を考えた場合、処理水タンクの縮減が喫緊の課題だからである。習近平中国共産党総書記(国家主席)を含め、中国の高官、メディアが科学的な根拠を示さずに処理水を「核汚染水」と呼び、日本からの魚介類の輸入を一方的に停止したのは明らかな言い掛かりだ。中国側も処理水の海洋放出に対する批判が合理的でないことは十分に認識していると見られる。つまり、確信犯だ。インド太平洋戦略で米国との連携を強化、台湾問題、経済安全保障で西側の結束を重視する日本に対し、中国の強い不快感を明らかにする意図だろう。中国側が姿勢を変化させることで、この問題が前に進まない限り、岸田首相が中国と歩み寄るのは是が非でも避けるべきであり、現実的に困難と言える。もっとも、日々の報道から受けるイメージとは大きく異なり、処理水の問題を除けば、これまでのところ日中両国の経済関係に大きな変化が生じているわけではない。例えば、日本の輸出入額に占める中国向けのシェアを見ると、2022年は輸出23.8%、輸入21.1%だった(図表2)。2023年は11月までの累計で輸出22.1%、輸入22.6%である。2022年における日本の中国・香港への輸出総額は23兆3,612億円、水産物はその0.6%だ。過去10年以上にわたり輸出入総額に占める中国のウェートは20%台前半で推移しており、外交的には逆風が吹くものの、一部の例外を除けば今も安定した通商取引が行われている。ちなみに、経済安全保障の象徴となった感のある半導体製造装置だが、2023年の対中輸出は香港を含め11月までの累計で前年同期比22.8%増加した。韓国向けは同17.1%、台湾向けも38.5%、さらに米国向けは17.5%減少しており、世界全体でも12.7%減になっている。そうしたなか、主要取引相手国としては中国が唯一の輸出増であり、日本の半導体製造装置輸出に占める中国・香港のウェートは、2022年の29.1%から40.9%へ大きく拡大した(図表3)。2023年は新型コロナ期におけるリモート需要が一巡、世界の半導体産業は投資を絞り込んだものの、中国国内の半導体工場はむしろ投資を拡大したのだろう。日本の関連企業にとり、最先端半導体の関連製造装置は輸出が難しいとしても、それ以外について中国の需要が売上高を下支える役割を果たしたと言える。 再び注目される戦略的互恵関係昨年11月7日、中国政府はレアアースの輸出管理強化策を発表した。また、中国商務省と税関総署は、12月1日、輸出管理法、対外貿易法、税関法に基づき、グラファイト(黒鉛)のうち高純度・高強度・高密度の品目に関して新たな輸出管理の実施に踏み切っている。高品質のグラファイトはリチウムイオン電池の負極材などに使われる重要鉱物資源に他ならない。米国地質調査所(USGS)によると、2022年における天然黒鉛産出量のうち、中国のシェアは65.4%だった。ただし、世界の精錬設備は中国に集中しており、今年1-11月の日本の鱗片状黒鉛輸入量の87.3%を同国が占めている(図表4)。半導体製造装置などで米国、日本などが活用してきた『関税及び貿易に関する一般協定』(GATT)第21条、即ち「安全保障のための例外規定」を逆手にとり、西側諸国へ揺さぶりを掛ける意図だろう。世界貿易機構(WTO)のルールにより、加盟国による恣意的な貿易管理は厳しく規制されてきた。もっとも、国毎に事情が異なる安全保障は例外的な扱いをされており、それぞれの加盟国に広範な裁量権が与えられている。2010年9月7日、尖閣諸島における日本の領海で操業していた中国の漁船が海上保安庁の巡視船「みずき」、「よなくに」へ故意に衝突、拿捕された上で船長が那覇地方検察庁石垣支部へ送検される事件が起こった。これに反発した中国は、資源保護を理由にレアアースの輸出管理を実質的に強化したのである。日本政府は、2012年3月、米国、EUと連名でこの問題をWTOへ提訴、結局、2014年8月に日本の勝訴が確定した。日米欧の半導体製造装置に関する輸出規制管理に加え、この苦い経験が中国にGATT第21条の活用を促しているのだろう。昨年7月3日には、白色ダイオードに欠かせないガリウムの輸出管理強化を発表するなど、中国はこちらの痛いところを相次いで狙い撃ちするようになった。代替調達先の確保にはかなりの時間とコストを要すると想定され、少なくとも当面、日本は中国からの輸入継続へ向け交渉の努力をしなければならない。他方、足下において中国経済は明らかに大きな問題を抱えている。不動産市況には底入れのメドが立たず、金融機関が巨額の不良債権を抱え込んでいるリスクが高まった。最早、財政政策と金融緩和で対応するのは難しく、抜本的な構造改革が必要なのではないか。加えて、昨年7月に反スパイ法が強化されたこともあり、外資系企業は中国からの資金の引き上げに動きつつあるようだ。昨年7-9月期における対中国直接投資は、この統計が公表されるようになった1998年以降で初となる118億ドルの流出超過になった(図表5)。IMFの最新の見通しによれば、中国の実質成長率は2023年が5.0%、2026年は4.2%であり、最早、高度経済成長を遂げて来た新興国の雄ではない。習近平政権としては、消費主導型経済への転換を図る一方で、外資系企業の誘致を積極化せざるを得ないだろう。そうしたなか、トランプ前大統領の再登板となれば、通商摩擦のリスクが再燃するものの、台湾問題を含むインド太平洋地域の安全保障、そして経済安全保障に関する米国政府の関心は低下すると見られ、中国にとってはバイデン政権よりも対話の可能性は拡大するかもしれない。それでも、「トランプ政権」の政策は予見性が極めて低く、中国は米国と渡り合う上でこれ以上の外交的孤立を避けたいのではないか。さらに、対外的な強面だけで国内景気を立て直し、指導力を維持することは難しく、習近平政権にも日本との関係改善を模索する明確な理由があるのではないか。実際に変化の兆しが見えるようになった。その最初の兆候は、昨年10月23日、北京の釣魚台迎賓館で開催された日中平和友好条約締結45周年の記念式典だった模様だ。垂秀夫駐中国大使(当時)がスピーチで「日中両国には戦略的互恵関係の再構築が必要」と語った際、衆目のなかで王毅中国共産党中央政治局委員が歩み寄り、このスピーチを高く評価した姿が注目を集めたと報じられた。今は国務院外交部長(外相)を兼務する王毅氏は、2004年9月から2007年9月まで駐日大使を務めた知日派である。流暢な日本語を操ることで知られる生粋の外交官である一方、離任後は厳しい対日姿勢を堅持、共産党の外交トップへと昇り詰めた。秦剛前外交部長が在任7か月で解任される非常事態の下、2度目の外相に就任している。ちなみに、戦略的互恵関係とは、「歴史認識、領土問題など両国に対立点はあっても、経済や文化などお互いのメリットになる分野は積極的に協力する」との概念だ。2006年8月15日、退任間際の小泉純一郎首相(当時)が靖国神社を参拝、日中関係が極度に悪化するなか、同年10月8日の人民大会堂における胡錦涛国家主席(当時)との会談で、就任したばかりの安倍晋三首相(同)が提唱した。胡錦涛主席がこれを受け入れたことで、日中関係を象徴する言葉とされてきたのである。後に初代国家安全保障局事務局長となる谷内正太郎外務次官(当時)の指示により、この言葉を考案したのが外務省国際情報統括官付国際情報官時代の垂前大使であることは周知の事実だろう。民主党政権時代を含め、日中両国は節目、節目で戦略的互恵関係を再確認してきた。国家の在り方、政治体制、経済システムの大きく異なる日中両国が、一致点を見出す上で極めて適格な目標だったからだろう。現実主義的な外交を展開した安倍元首相を象徴する言葉と言えるかもしれない。もっとも、第2次安倍政権下の2018年10月26日、日中国交正常化40周年に際し北京を訪問した安倍首相は、習近平国家主席と「新たな時代の日中関係」で一致、それ以降、戦略的互恵関係が両国の外交イベントにおいて使われることはなくなったのである。しかしながら、日中両国に戦略的互恵関係の重要性を再認識させたのは、皮肉にも米国の大統領選挙が一因と言えるだろう。「トランプ大統領」に対抗する上で日本は中国カードを必要としており、中国も経済を立て直し、外交の孤立を避ける上で日本との関係改善が課題となりつつあるのではないか。 最初の関門となる処理水問題昨年11月16日、サンフランシスコで開催されたAPEC首脳会議に伴い、岸田首相と習近平国家主席による日中首脳会談が行われたが、そこでは5年ぶりに戦略的互恵関係が改めて確認された。また、福島第一原子力発電所の処理水について、習主席は「核汚染水」との表現を変えなかったものの、専門家のレベルで科学的な議論を行い、「建設的な態度をもって協議と対話を通じて問題を解決する方法を見出す」(外務省)ことで岸田首相と一致したと伝えられている。その直後の11月23日、訪中した公明党の山口那津男代表と会談した王毅共産党政治局委員は、処理水に関し中国が独自にモニタリングの機会を得られるよう求めている。これは、処理水問題と日本産魚介類の禁輸措置について、中国側が打開策を模索する動きと言えるだろう。昨年12月28日付けの朝日新聞は、「日中両政府は専門家を交えた議論を年明けに開催する方向で調整に入った」と報じた。IAEAによる厳格なモニタリングを受けつつ、処理水の海洋放出を進めて来た岸田政権は、これまでのところ大局観において慎重且つ適切に対応してきたと思う。韓国において尹錫悦大統領が就任、この問題に理解を示す幸運もあった。ただし、風評被害を懸念してきた漁業、水産業関係者の方々にとって、中国の実質的な輸入禁止措置は大きな打撃である。政府は、放出開始前の段階において、国際社会の目に見える形で中国政府に対し政府高官や科学者、技術者など専門家の派遣を求め、積極的に福島第一原子力発電所の現状を公開すべきだったのではないか。中国側がそうしたプロセスを明確に拒否すれば、非は中国にあることが国際社会に明らかとなっていたはずだ。他方、専門家が現状を確認した上で「核汚染水」とするのであれば、中国がその根拠を科学的に説明する責任を負っていただろう。この点に関して、政府の対応は課題を残し、事業者は水産物輸出の4割を占めていた市場を失った。もっとも、日中首脳会談において専門家による科学的な議論で一致、中国共産党・政府の外交トップである王毅氏が「独自のモニタリング」を求めた意味は大きい。習近平政権は、戦略的互恵関係の概念により対日関係改善を目指す上で、処理水問題が最初の関門となることは十分に認識しているだろう。ただし、自国の国民を煽っただけに、振り上げた拳を振り下ろす上でそれなりの理屈が必要なのではないか。科学的根拠のないまま日本を批判してきた相手に対し、こちらが譲歩するのは腹立たしいものの、モニタリングや情報公開であれば許容される範囲内と考えられる。そもそも内閣支持率が低迷している上、自民党の派閥によるパーティー券売上の還流問題に直面する岸田首相は、何等かの目に見える成果を挙げ、政権浮揚を図りたいところだろう。仮に中国が部分的にせよ魚介類の輸入規制を緩和すれば、それは政権にとって久々の朗報に他ならない。日本は「トランプ大統領」への備えと政権の目に見える成果、そして中国はインド太平洋外交の再構築と経済のテコ入れ… 岸田首相、習近平国家主席は共に関係改善を必要としているように見える。米国の大統領選挙は、処理水問題を含め、日中両国の対話への触媒になる可能性がありそうだ。
- 18 Jan 2024
- STUDY
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アジア太平洋における最大の不透明要因としての中国【中編】
前編はこちら今年8月18日、米国大統領専用の山荘であるキャンプ・デービッドにおいて、ジョー・バイデン大統領、韓国の尹錫悦大統領、そして岸田文雄首相による3か国首脳会談が行われた。ジミー・カーター大統領(当時)が仲介、エジプトのアンワル・アサド大統領とイスラエルのメナヘム・ベギン首相が中東和平へ向け2つの歴史的な協定に署名したのは1978年9月のことである。この協定は『キャンプ・デービッド合意』と呼ばれ、この山荘の名前を世界に知らしめた。その後も数々の歴史が繰り広げられたキャンプ・デービッドだが、バイデン大統領が同山荘に外国の首脳を招待するのは、就任後、初めてのことである。この3か国首脳会談から5週間を遡る7月12日、リトアニアの首都ビリニュスで行われたG7首脳によるウクライナへの長期的支援を議論した会合後、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領、G7首脳、ウルズラ・フォンデアライエン欧州委員会委員長などが出席した共同会見で、バイデン大統領は突如、「彼は日本を前へ進めさせた」と岸田首相を絶賛して国際社会を驚かせた。わずか1か月強の間にバイデン大統領は日本、そして日米韓3か国の枠組み重視の姿勢を敢えて強調した印象だ。それは、日本が米国のアジア太平洋戦略に主要なパートナーとして組み込まれつつあることを示すだろう。岸田首相はあえて米国の期待に応えようとしているようだ。それは、日本の外交・安全保障のみならず、エネルギー問題や通商問題を通じて日本経済にも大きな影響をおよぼすのではないか。 米国が日韓を重視する理由日米韓3か国首脳会談後、共同会見に臨んだバイデン大統領は、冒頭、「もし私が幸せそうに見えるなら、幸せだからだ。素晴らしい会談だった」とおどけてみせた。米国にとっては成功と評価できるイベントだったのだろう。会談の成果として、『キャンプ・デービッドの精神』と名付けられた共同声明の他、『キャンプ・デービッドの規範』及び『協議への誓い』の3文書が発表された。最大のポイントは、首脳だけでなく外相・国務長官、防衛相・国防長官、商務・産業担当相・商務長官、国家安全保障担当など、外交、安全保障、経済安全保障を担う閣僚クラスが最低年1回の協議を行うと明記したことである(図表1)。また、サプライチェーンの維持や研究開発など広範な分野での協力の枠組みが設けられることが決まった。名指しこそしてはいないものの、中国を意識した取り決めであることは明らかだ。1950~80年代の東西冷戦期、米ソ両超大国の最前線は東西に分断されたドイツだった。1991年12月25日に旧ソ連が消滅し、世界は米国を中心とした単一市場の形成、いわゆる「グローバリゼーション」の時代へ入ったものの、21世紀になると中国が明確な意志を持って米国に対する挑戦者として名乗りを挙げたのである。特に、2008年秋のリーマンショック直後、日米両国を含め主要先進国経済が軒並み失速するなか、中国はまず経済面で急速に国際社会におけるプレゼンスを拡大した。経済成長に伴い、中国は国防予算を大きく伸ばしている(図表2)。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、2006年に初めて日本を上回り、2022年には日本の6.3倍になった。特に著しいのが海洋進出であることは言うまでもない。結果として、現在、米中覇権闘争の最前線は、日本の九州・沖縄を始点に台湾を通ってベトナムへ至る東シナ海、フィリピン海、南シナ海上のラインと言われている。それは、ちょうど中国が「第一列島線」と呼ぶものだ。1980年代に入って中国共産党軍事委員会の鄧小平主席(当時)が海軍の劉華清同委員会副主席(海軍司令官)に命じて作成させたのは、軍の近代化、特に海軍力、空軍力の強化により2020年頃までに第1列島線内の制海権を確保するための計画だった。中国はこの計画に従って着実に軍事力を整備している。一方、米国は、バラク・オバマ大統領の時代に「戦略的忍耐」を掲げ、北朝鮮のみならず中国の動きも静観した。また、次のドナルド・トランプ大統領は貿易不均衡の是正以外に強い関心を示さず、ジョージ・ブッシュ大統領が対中戦略として発案した『環太平洋パートナーシップ(TPP)協定』の交渉から就任初日に離脱を表明した。米国のインド太平洋戦略が迷走するなか、中国は南シナ海に人工島を建設し軍事拠点化するなど、着々と既成事実を積み上げている。バイデン政権は、オバマ、トランプ両大統領時代の無策からの戦略の立て直しを迫られ、インド太平洋地域における米国のプレゼンスの拡大に注力してきたと言えるだろう。しかしながら、米国もかつてのように自国の国益を犠牲にしても、仲間となり得る国を優先する余裕はないようだ。さらに、昨年2月24日に始まるロシアによるウクライナ侵攻で、米国の安全保障戦略は再び欧州へもウェートを傾けざるを得なくなった。欧州諸国においてはキリスト教と民主主義に関する価値観が概ね一致しており、安全保障上は北大西洋条約機構(NATO)が存在する。NATOは様々な不協和音を抱えつつも、米国を中心にウクライナを支えて来た。一方、インド太平洋は政治体制、宗教、民族、文化が極めて多様であり、結果として安全保障における多国間の同盟は存在しない。中国と対峙して行く上で、米国としては、同盟国である日本、韓国を軸に、関係の良好なフィリピン、ベトナム、オーストラリア、インドなどとの緩やかな連携構築を目指さざるを得ないのだろう。昨年5月に韓国において尹錫悦大統領が就任、日韓関係が劇的に改善したのは、対中だけでなく、対北朝鮮を考える上で米国にとっても明らかな朗報だ。この枠組みを一過性にしないために、キャンプ・デービッドでの会談は重要な意味を持つのではないか。 米国の対中戦略の中心に据えられた半導体米国による対中戦略は、安全保障においては台湾海峡の現状維持、経済安全保障面では半導体の技術優位性確保及びサプライチェーンの維持が最大の課題と言えるだろう。この2つは密接に関連している。台湾には最先端の半導体を製造するTSMCがあるからだ。IT社会における最重要戦略物資となった半導体だが、製造面では米国、台湾、韓国、製造装置においてはオランダ、日本、米国が高いシェアを誇っている(図表3)。米国はこの4か国・1地域の連携を強化し、世界の半導体のサプライチェーンを西側諸国で握ることにより、技術的に見た中国に対するリードを維持する戦略と考えられる。それは、結局のところ、経済のみならず軍事面での優位性を確保するためだろう。バイデン大統領の意図が垣間見えたのは、昨年5月20日、就任後初のアジア歴訪初日に韓国を訪れたことだった。その10日前、リベラル派の文在寅前大統領に替わり、中道右派の尹錫悦大統領が就任しており、早い段階での関係構築を図ったものと見られる。ただし、それ以上に注目されたのは、尹大統領との首脳会談が翌21日に予定されていたなかで、韓国に到着して直ぐにソウル近郊にあるサムスン電子の半導体工場を訪れたことだった。バイデン大統領は、「この工場は米韓両国が築く未来の協力と技術革新を象徴している」と語っている。サムソン電子は、2021、22年において半導体の売上額がインテルを凌ぎ世界最高だった。半導体サプライチェーン重視の姿勢を強く印象付けた訪韓だったと言えるだろう。ちなみに、トランプ政権の下、『2018年輸出管理改革法(ECRA:Export Control Reform Act)』が成立、米国政府は2019年に輸出管理規制(EAR:Export Administration Regulations)の運用を強化した。これは、米国原産品目、もしくは米国起源の技術を組み込んでいる場合、非米国産製品であっても広範な品目に関し特定の国への輸出・再輸出には米国商務省の許可を必要とする規制である。世界貿易機構(WTO)は、加盟国に対して恣意的な貿易規制を厳しく禁止した。もっとも、『関税及び貿易に関する一般協定(GATT)』の第21条は安全保障のための例外を規定しており、そのb項の(ⅱ)には「武器、弾薬及び軍需品の取引並びに軍事施設に供給するため直接又は間接に行なわれるその他の貨物及び原料の取引に関する措置」とある。つまり、安全保障上の懸念があると認められる場合に限り、WTO加盟国は貿易管理に関して広範な裁量権を持つと言えるだろう。バイデン政権による半導体についての中国に対する輸出管理強化は、GATT第21条を根拠としている。その基本的な方針は、“small yard, high fence(適用範囲を限定、ただし規制は厳重に)” だ。例えば、汎用品であれば、最先端の半導体でも中国への輸出が禁じられるわけではない。対中輸出の審査が厳格化されるのは、人口知能(AI)やスーパーコンピューターなど特殊用途の最先端半導体である。また、半導体製造装置に関しても、最先端の半導体を製造できる能力を持つ前工程の装置が厳しい管理の対象とされた。現時点における最先端半導体の回線幅は3ナノメートルであり、これはチップの横幅が東京と名古屋の長さと仮定した時、ボールペンで引いた線の太さほどのイメージだ。つまり、微細加工技術の粋を尽くした半導体は、競争相手が分解して技術を盗むことは困難なのである。従って、軍事技術を高める可能性のある一部のチップを除けば、汎用品を売り渡しても相手の技術力向上に役立つ可能性が低い。また、十分な量の先端汎用品を売ることで、中国企業による半導体の開発意欲を削ぐと同時に、対中ビジネスで挙がった利益を研究開発、設備に再投資すれば、競争優位性を維持することができる。さらに、台湾有事の際、西側諸国にとって半導体のサプライチェーンが寸断されるリスクを低下させるため、日米両国は役割を分担、TSMCと交渉してアリゾナ州フェニックスに最先端品の工場、日本の熊本県に先端品の工場を誘致した。バイデン大統領が韓国でサムスン電子の半導体工場を視察したのは、韓国を代表する半導体企業を陣営に加えることで、米国の半導体戦略を強化する一環と考えられる。また、岸田首相との関係を重視しているのは、日本にインド太平洋における安全保障上の役割分担を期待しているのだろう。加えて、経済安全保障面において、同盟国による半導体サプライチェーン確保へ向けた布石であることは明らかだ。 中国が通り得る2つの道バイデン大統領は、8月9日、『懸念される国に対する一定の安全保障に関する技術、製品への米国による投資に関する大統領令』に署名した。附属文書において、「懸念される国」は香港、マカオを含む中国であることが特定されている。具体的な内容はまだ詳細が詰まっていないものの、1)先端半導体の設計・製造、2)量子コンピューターの製造、3)軍事転用が懸念される人口知能(AI)の開発を対象とすると発表された。8月12日、バイデン大統領はユタ州ソルトレイクで演説、以下のように語っている。私は中国を傷付けたいわけではない。ただし、中国が何をしているかを見ている。Quadと呼ばれる国々と共に対応している。我々はインド、日本、オーストラリアと同盟を形成した。フィリピンも加わっているし、そして近くベトナム、カンボジアといった国々も我々の一部になることを望んでいる。彼らは防衛同盟に入りたいのではなく、中国に対し彼らが孤立してはいないことを知らしめたのだ。親中的と言われるカンボジアに言及したのは意外だったが、日韓両国だけでなく、日本、米国、インド、豪州の4か国からなるQuadを軸に周辺国と緩やかなグループを構築することで、中国の海洋進出に歯止めを掛ける米国の意図が垣間見えた発言だった。最先端半導体製造装置がそうだったように、早晩、米国は日本など同志国にも対中投資に関して米国と同様の措置を求める可能性が強い。結果として、当該3分野に関連する中国企業への投資が制限される可能性が高まり、直接投資、間接投資の両面で対中投資が冷え込むことは十分に考えられよう。既に中国への外国からの直接投資は大きく減少している。中国国家外貨管理局によれば、今年4-6月期の対内直接投資は前年同期87.1%減の49億ドルになった(図表4)。これは確認できる1998年以降で最低の水準だ。同年における中国の実質GDPは現在の7分の1程度である一方、中国への直接投資額は四半期ベースで平均109億ドルだった。今回の対中直接投資の落ち込みが極めて大きいことは明らかだ。背景には、新型コロナと中国が採用したゼロコロナ政策の影響もあるだろう。ただし、米中対立の激化により、日米欧の企業が中国を敬遠している可能性は否定できない。共同富裕で個人消費主導の経済構造への転換を図るにしても、外資による積極的な投資、技術移転は中国にとり引き続き極めて重要だろう。対中直接投資の激減は、習近平政権への大きな打撃となりうる。いずれにしても、米国のインド太平洋地域戦略においては、日米韓3国の枠組み、およびQuadが重要な役割を担っていることは間違いない。また、米国以外でそのどちらにも名を連ねているのは日本だけだ。バイデン大統領が日本を重視するのはそうした事情があるからだろう。2024年11月の大統領選挙を考えれば、バイデン大統領が中国に妥協的な姿勢を採ることは難しく、日本も米国の対中戦略における一翼とならざるを得ない。今後の焦点の1つは中国の出方だ。過剰投資経済から共同富裕社会への移行は、仮に上手く行くとしても一朝一夕には進まないだろう。移行期間中、中国経済は停滞が予想される。その際、中国が採り得る選択肢は2つではないか。1つ目の選択肢は米国を含めた西側諸国等の関係改善に努め、着実に構造改革を進める道だ。もう1つは、経済低迷に対する国民の不満が習近平政権に注がれるのを防ぐため、実力によって台湾の統一を目指すなど、より強硬な姿勢を採る道である。中国がどちらの道を選択するかはまだ分からない。しかしながら、仮に後者であった場合、米中対立の最前線に位置する日本は、韓国と共に極めて大きな影響を受けるだろう。(後編へ続く)
- 02 Oct 2023
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IAEA総会が開幕 高市大臣が処理水問題で安全性を強調
国際原子力機関(IAEA)の第67回通常総会が、9月25日から29日までの日程でオーストリアのウィーン本部で始まった。開会の冒頭ではIAEAのR.M.グロッシー事務局長が演説し、「世界中の世論が原子力に対して好意的に傾きつつあるが、原子力発電の利用国はそれでもなお、オープンかつ積極的にステークホルダーらと関わっていかねばならない」と表明。安価で持続可能なエネルギーによる未来を実現するには大胆な決断が必要であり、原子力も含め実行可能なあらゆる低炭素技術をすべて活用する必要があると述べた。同事務局長はまた、IAEAの進める原子力の活用イニシアチブが地球温暖化の影響緩和にとどまらず、がん治療や人獣共通感染症への対応、食品の安全性確保、プラスチック汚染などの分野で順調に進展していると表明。原子力発電所の安全性は以前と比べて向上しており、他のほとんどのエネルギー源よりも安全だと指摘した。その上で、原子力が地球温暖化の影響緩和に果たす役割と、小型モジュール炉(SMR)等の新しい原子力技術にいかに多くの国が関心を寄せているかを強調。加盟各国でSMRの活用が可能になるよう、IAEAがさらに支援を提供していく方針を示した。同事務局長はさらに、8月から福島第一原子力発電所のALPS処理水の海洋放出が始まり、IAEAが独自に客観的かつ透明性のある方法でモニタリングと試料の採取、状況評価等を行っていると説明。この先何10年にもわたり、IAEAはこれらを継続していく覚悟であるとした。IAEAの現在の最優先事項であるウクライナ問題に関しても、ウクライナにある5つすべての原子力発電所サイトにIAEAスタッフが駐在しており、過酷事故等の発生を防ぐべく監視を続けるとの決意を表明している。これに続く各国代表からの一般討論演説では、日本から参加した高市早苗内閣府特命担当大臣が登壇。核不拡散体制の維持・強化や原子力の平和利用、ALPS処理水の海洋放出をめぐる日本の取組等を説明した。ウクライナ紛争については、同国の原子力施設が置かれている状況に日本が重大な懸念を抱いており、ロシアの軍事活動を最も強い言葉で非難すると述べた。また、原子力の平和利用に関しては、気候変動等の地球規模の課題への対応とSDGsの達成に貢献するものとして益々重要になっていると評価。その上で、食糧安全保障に係るIAEAの新しいイニシアチブ「アトムスフォーフード(Atoms4Food)」に対し賛意を示した。東京電力福島第一原子力発電所の廃炉にともない、8月にALPS処理水の海洋放出が開始されたことについては、処理水の安全性に関してIAEAの2年にわたるレビュー結果が今年7月に示されたことに言及。処理水の海洋放出に関する日本の取組は関連する国際安全基準に合致していること、人および環境に対し無視できるほどの放射線影響となることが結論として示された点を強調した。高市大臣はまた、日本は安全性に万全を期した上で処理水の放出を開始しており、そのモニタリング結果をIAEAが透明性高く迅速に確認・公表していると説明。放出開始から一か月が経過して、計画通りの放出が安全に行われていることを確認しており、日本は国内外に対して科学的かつ透明性の高い説明を続け、人や環境に悪影響を及ぼすことが無いよう、IAEAの継続的な関与の下で「最後の一滴」の海洋放出が終わるまで安全性を確保し続けるとの決意を表明した。 同大臣はさらに、日本の演説の前に中国から科学的根拠に基づかない発言があったと強く非難。この発言に対し、「IAEAに加盟しながら、事実に基づかない発言や突出した輸入規制を取っているのは中国のみだ」と反論しており、「日本としては引き続き、科学的根拠に基づく行動や正確な情報発信を中国に求めていく」と訴えた。 ♢ ♢例年通りIAEA総会との併催で展示会も行われている。日本のブース展示では、「脱炭素と持続可能性のための原子力とグリーントランスフォーメーション」をテーマに、GX実現にむけた原子力政策、サプライチェーンの維持強化、原子力技術基盤インフラ整備、高温ガス炉や高速炉、次世代革新炉、ALPS処理水海洋放出などをパネルで紹介している。展示会初日には、高市大臣と酒井庸行経済産業副大臣がブースのオープニングセレモニーに来訪。高市大臣は挨拶の中で、ブースにおいて次世代革新炉開発を紹介することは時宜を得ているとするとともに、ALPS処理水海洋放出は計画通り安全に行われており、関連するすべてのデータと科学的根拠に基づき透明性のある形で説明し続けることが重要だと述べた。4年ぶりに行われた今回のオープニングセレモニーでは、日本原子力産業協会の新井理事長による乾杯が行われ、福島県浜通り地方の日本酒が来訪者に振舞われるなどした。(参照資料:IAEAの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 27 Sep 2023
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「社説ワースト3」その後 共通項は「福島への温かい眼差し」の欠如
二〇二三年九月二十七日 福島第一原子力発電所の処理水の一回目の海洋放出が無事終わり、近く二回目の放出が始まる。懸念された国内の風評被害はいまのところ、起きていない。だが、安心は禁物だ。メディアが風評に加担する恐れがあるからだ。以前に書いた「地方紙の社説ワースト3」は、その後、どう変わったのだろうか。いまなお「汚染水」にこだわり このコラムで今年一月、地方紙の社説を取り上げた。ワースト1は琉球新報の社説(二〇二二年五月二十一日)だった。当時、琉球新報は「『汚染水』放出は無責任だ」と主張し、「汚染水」という言葉を使っていた。それから一年余りたった今年七月四日の社説の見出しは「原発『処理水』放出迫る 強行は重大な人権侵害だ」だった。「汚染水」から「処理水」に変わっていた。しかし、中身を読むと処理水という言葉について、「『希釈した汚染水』というのが妥当ではないか」となおも汚染水という言葉にこだわりを見せていた。 さらに、「中国政府の『日本は汚染水が安全で無害であることを証明していない』という批判を否定できるだろうか」と書き、中国政府の心情をくみ取った形で「汚染水」という言葉を使った。やはり何としても「汚染水」と言いたい心情が伝わってくる。 そして、放出が翌日に迫る八月二十三日の社説では、中国の輸入禁止措置にも触れ、「放出開始前の対抗措置は強硬な手段だが、それだけ懸念が根強いのだろう」と書き、ここでも中国の心情に寄り沿うかのような内容だ。さらに「いくら安全だと説明されても、放射性物質が及ぼす影響への恐れは簡単に払拭されない」と書き、海洋放出に納得できない心境を吐露する。 この八月二十三日の社説には、さすがに「汚染水」という言葉は出てこない。ここへ来て「汚染水」という言葉を使い続けると世論の反感を買うと考えたのだろうと推測する。「トリチウムが残る限り汚染水である」と言っていた昨年五月二十一日の社説に比べると、言葉の上では改善された跡が見られるが、社説の論調自体は依然として、海洋放出によって魚介類に影響があるかのようなニュアンスを伝えている。立憲民主党の一部議員と通底 中國新聞はどうか。昨年七月二十四日の社説では「処理水に含まれる放射性物質トリチウムなどが健康被害をもたらす可能性は否定できない。…政府は『原発の排水にも含まれている物質』と危険性の低さを強調するが、体内に蓄積される内部被曝(ひばく)の影響まで否定できるものではない」と書いていた。まるで内部被ばくが起きるかのような論調だ。 一年余りたった今年八月二十三日の社説では、内部被ばくという言葉は出てこないが、相変わらず漁業者の反対を楯に「このまま放出に踏み切れば、将来に禍根を残す」と手厳しい。そして、「約千基のタンクが廃炉作業の妨げになっているのは確かだ」と言いつつも、「政府もIAEAも『国内外の原発の排水にも含まれる物質』と説明するが、通常運転の原発の排水と、デブリに触れた水では比較になるまい。トリチウム以外の放射性物質も完全に取り除けるわけではない」とやはり放射性物質の影響があるかのような主張だ。 「比較になるまい」という突き放した言い方がとてもひっかかる。この言葉から類推すると、中國新聞は「事故を起こした日本の処理水は海外の処理水に比べて危ない」と言いたいことが分かる。立憲民主党の一部議員は「海外の処理水と日本の処理水は異なる」という理由で「汚染水」という言葉を使い続けている。中國新聞は汚染水という言葉こそ使っていないものの、立憲民主党の一部議員と相通じる思考をもっていることが分かる。説明責任はメディアの側にある 中國新聞は九月四日の社説でも処理水問題を取り上げた。「処理水を巡っては、国際原子力機関(IAEA)が「国際的な安全基準に合致している」と評価したと殊更に強調するだけでは、好転しない。トリチウム以外の放射性物質も含まれる点や、その長期的な影響など、重ねて検討が必要な要素は多い。海洋放出が妥当なのかを検証しつつ、責任を持って説明を続ける姿勢が日本政府には求められる」と書く。処理水という言葉を使っているものの、長期的には処理水の影響が人や環境に及ぶかのような内容だ。 海洋放出が妥当かどうかはすでに政府内で検証され、政府は幾度も海洋放出の妥当性に関する説明を行ってきた。いまこの時点で中國新聞が「海洋放出が妥当ではない」と主張したいならば、その根拠を示す説明責任は中國新聞の側にある。海洋放出を批判する論説があってもよいだろう。だがそれを書くからには、どのような長期的な影響があるかについて科学的なデータを示しながら、詳しい情報を示してほしいものだ。「さすが中國新聞は違う」と科学者を唸らせるくらいの重厚な社説なら大歓迎である。 しかし、ただ脅すような言葉を並べているだけの主張では、福島産の魚介類に悪いイメージ、つまり風評被害をもたらすだけだ。海洋放出は社会的合意の問題 佐賀新聞はどうか。昨年七月二十三日の社説では、処理水について「トリチウムなど取り切れない放射性物質が含まれる汚染物質であることに変わりはない」と書き、さらに「海洋放出に関してより重要なのは、これらの科学的、工学的な評価ではなく、社会的な合意という問題だ。東電は『地元の合意なしには放出はしない』としている…」と書いていた。 約一年たった今年八月二十三日の社説では、昨年の「地元の合意なしには放出はしない」という部分が「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わず…」となり、誤りだった「合意」は正しい「理解」という言葉に訂正されていた。ただ、どの読者もそうした知らぬ間の訂正に気づいていないだろうと思う。筆者は昨年と同じ共同通信の論説委員だ。 今回の社説は東京電力と政府への批判が大半を占めた。「…詳細な科学的、技術的な議論もないまま、三百四十五億円もの国費を投じて建設された凍土壁の効果も限定的だ。今回、過去の約束をほごにせざるを得なくなった最大の原因は、政府や東電が長期的なビジョンなしに、このようなその場しのぎの言説と弥縫(びほう)策を繰り返すという愚策を続けてきたことにある。…被災者の声を無視した今回のような事態を目にし、復興や廃炉を進める中で今後なされる政府や東電の主張や約束を誰が信じるだろうか。首相は今回の決断が将来に残す禍根の大きさを思い知るべきだ」。 海洋放出の問題は社会的合意の問題だとして、政府や東京電力の姿勢を批判するのはよいとしても、問題が科学的な評価ではないというならば、海洋放出に反対ではあっても、「福島産の魚介類に風評を起こしてはいけない。食べて応援しよう」くらいの一文があってもよさそうだが、この社説からは福島への温かい心情が全く伝わってこない。 不思議なことに同じ佐賀新聞でも、九月八日の社説は同じ処理水を論じていながら、論調はかなり違っていた。日本からの水産物の全面輸入禁止措置をとった中国に対して、「今回の中国の措置は、科学的根拠を欠き、貿易によって圧力をかける「経済的威圧」で、責任ある大国にふさわしい振る舞いにほど遠い。日本側が即時撤回を要求したのは当然だ。交流サイト(SNS)をきっかけに、中国から日本への嫌がらせ電話が殺到したのも常軌を逸しており、それを抑えようとしなかった中国指導部の姿勢も合わせ〝嫌中感情〟が増幅した…」と書いた。最後の筆者名を見ると、先に紹介した2つ(昨年七月二十三日と今年八月二十三日)の社説とは異なる記者だと分かった。同じ共同通信でも筆者が違うと、こうも論調が違うのかと驚くばかりだ。福島への温かい眼差しが見えない 今年一月のコラムでも書いたように、地方紙はおしなべて海洋放出に批判的なトーンが目立つ。北海道新聞は社説(八月二十六日)で「政府は風評被害で水産物需要が落ち込んだ際に、漁業者団体の一時的買い取りや冷凍保管を基金から全国的に支援するという。これでは問題の先送りだ。食卓に並ぶ見込みもつかぬまま金だけ渡すやり方は漁業者の誇りを傷つけよう。人材難に拍車がかかり水産業を衰退させかねない」と書いた。 政府はお金だけを渡すやり方をしているわけではない。各地でさまざまな支援イベントを行い、福島産などの水産物が食卓に並ぶよう努めている。北海道新聞の社説はどう見ても傍観者的である。水産業の衰退が心配なら、新聞社自らが支援キャンペーンをはって、漁業者が誇りをもてるようにすることのほうが大事なのではないだろうか。 地方紙の社説の多くを読んでいて常に感じるのは、すべての責任は政府や東京電力にあり、自分たち(メディア)は関係ないといった傍観者的な立ち位置だ。海洋放出に関して、「汚染」と書けば、結果的に「福島の海は汚染され、そこの水産物は危ない」という差別的なメッセージを送ることになるという想像力が足りないように思う。福島に自分の家族や友人・知人が住んでいたら、軽々に「汚染」と口にするだろうか。結局のところ、福島への温かい眼差しが足りないのだ。これが地方紙の多くの社説に見る最大の問題点だと悟った。
- 27 Sep 2023
- COLUMN
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アジア太平洋における最大の不透明要因としての中国【前編】
“IAEA experts are there on the ground to serve as the eyes of the international community and ensure that the discharge is being carried out as planned consistent with IAEA safety standards”(IAEAの専門家は現地において国際社会の目として活動しており、海洋放出は計画されたIAEAの安全基準に則して実施されていることを確認している。)8月24日、東京電力福島第一原子力発電所から多核種除去設備(ALPS:Advanced Liquid Processing System)により処理された処理水の海洋放出が始まった。処理水そのものが安全基準を確実に満たし、適切な情報開示が常時行われることはもとより、漁業・水産業に従事する方々の苦悩、懸念は察して余りあるだけに、風評被害などへの対策をしっかり進めることが求められる。もっとも、福島第一の廃炉を着実に進める上で、処理水タンクが占有している土地の活用が欠かせないことを考えれば、大きな一歩を踏み出したと言えるのではないか。国際原子力機関(IAEA)及び日本政府の努力もあって、国際社会の大勢はこの海洋放出に理解を示していると言えるだろう。IAEAのラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は声明を発表し、放出が安全基準に基づいて行われていることを改めて確認し、モニタリングに関するIAEAの継続的なコミットメントを表明した。科学的な見地から見れば、正常に稼働している原子力発電所も放出しているトリチウム水が、生態系に影響を及ぼす可能性は限りなくゼロに近いと想定される。前政権時代に処理水の海洋放出を対日批判の材料としてきた韓国は、尹錫悦大統領の下で科学的根拠に基づく判断に姿勢を大きく転換した。しかしながら中国は、自国の原子力発電所が大量のトリチウム水を海洋放出しているにも関わらず、福島第一原子力発電所に関しては「核汚染水」との表現で日本を厳しく批判している。その背景には、安全保障、経済安全保障の両面において、日本が韓国と共に米国との同盟関係を強化、厳しい対中政策を採っている国際的な事情があるのではないか。日本からの水産物に関する実質的な禁輸措置は、日本政府による半導体製造装置の輸出管理強化への対抗措置の意味もあるだろう。また、中国は経済が停滞しつつあり、若年層の失業率が20%を超えている。内政上の不満を日本に向けさせるため、共産党、中国政府があえて処理水問題に関して間違った情報を国民に提供している可能性は否定できない。ただし、中国国内における和食店への迷惑行為、日本の無関係の機関/企業などへの迷惑電話など、国民の行動が過激化して国際社会で異常視され、中国当局も手を焼いている感が否めなくなった。日本にとって中国は隣国であり、外交的にも経済的にも付き合いを断つわけにはいかない。内閣改造・自民党役員人事を行い、第2次岸田改造内閣を発足させた岸田文雄首相にとり、対中関係の打開は政権が抱える次の重要テーマの1つなのではないか。 中国経済が直面する過剰投資の構造問題中国との問題を処理しなければならない。中国は多くの場合において時を刻む時限爆弾だ。当初は私1人だったが、今、人々は中国が問題を抱えていることに同意し始めている。中国は持続的に8%成長していた。今は年2%近い。中国は最も失業率の高い国であることに気付いている。引退年齢に達した国民の数が生産人口よりも多い状況だ。中国は問題を抱えた。それは良くないことだ。何故ならば、悪人が問題を抱えると、悪いことをするからだ。米国のジョー・バイデン大統領は、8月10日、ユタ州ソルトレイクにおいて来年の大統領選挙へ向けた演説を行ったが、話題となったのは後半で触れた中国についての部分だった。中国経済の失業率の高さや生産人口減少に触れつつ、”a ticking time-bomb(時を刻む時限爆弾)”と表現したのだ。この発言に関し、8月11日付けのニューヨークタイムズ(電子版)は、「先鋭的な言葉によるコメントは、大統領が緊張緩和を試みている一方で、中国を積極的に批判しようとする最新の例である」と論評している。新型コロナ禍により、世界中のほとんどの国、地域で急速な経済の落ち込みとその反動を経験した。また、社会・経済が正常化に向かって以降も様々な後遺症的現象があり、日米両国を含む多くの国、地域で景気のトレンドが分かり難くなっていることは間違いない。中国の場合、習近平政権が昨年末までゼロコロナ政策を採っていたこともあり、その傾向はより顕著だ。新型コロナ前の2015~19年までの5年間、中国の成長率はバイデン大統領の指摘した8%には少し届かない6.8%だった(図表1)。今年前半は5.8%なので、同大統領の示した2%よりは高い水準になっている。もっとも、それは昨年12月よりゼロコロナ政策がなし崩し的に解除されてきたことによる反動を含んでいるため、足下の実態はもっと低いとの見方がエコノミストのコンセンサスではないか。特に設備、不動産の過剰投資が需要の失速で顕在化し、経済成長の重石になりつつある模様だ。バブル崩壊後の1990年代における日本経済との類似性に関する指摘も増えており、先行きには不透明感が漂っている。ちなみに、2022年における中国の名目GDPの構成を見ると、民間最終消費支出(個人消費)は38.4%に止まっている(図表2)。米国の個人消費は68.2%、日本は53.5%、EUも52.6%なので、中国経済は主要先進国に比べて個人消費のウェイトがかなり低い。一方、固定資本投資の比率が41.9%に達し、米国21.2%、日本25.6%、EU22.7%と比べ突出している。最高指導者であった鄧小平氏の下、「改革・開放」が提唱されたのは1978年12月に開催された共産党第11期中央委員会第3回全体会合(第11期3中全会)だ。この会議を控えた10月22日から29日まで、鄧氏は国務院副総理として訪日している。この旅程において、鄧氏は昭和天皇と面会し、福田赳夫首相(当時)など政府要人と会談しただけでなく、当時は最新鋭であった新日鉄君津工場、日産座間工場、松下電器産業(現パナソニック)茨木テレビ事業部を視察、東海道新幹線に乗車した。この訪日を通じて、鄧氏は日本経済の戦後の成功が輸出型産業構造であると確信、文化大革命で疲弊した中国の産業近代化の手本にしたと言われている。1979年における日本の国内総資本形成は対GDP比32.5%であり、足下に比べ7%ポイント程度高い水準だった。当時の日本は投資が経済を牽引していたわけだ。鄧氏の指導により改革・開放を進めた中国は、日本に代わって世界の工場になることを目指し、資本、人材を集中投入することで、2000年代に入ってからの高度経済成長を達成したのだろう。また、近年における中国共産党中央委員会総書記、つまりトップの経歴を追うと、江沢民氏は上海、胡錦涛氏は甘粛省、そして習近平現総書記は福建省、浙江省、上海におけるインフラ整備、都市開発の目覚ましい成果が中央への道を拓いたと見られる。北京の共産党指導部がブレーキを掛けても、地方政府の共産党幹部は都市開発へのアクセルから足を離すことができず、結果として過大投資をもたらしているのではないか。 「共同富裕」の真の意味長期間に亘る投資主導の成長は、明らかに過剰設備と土地の乱開発を招いた。人件費が上がり、人口が減少に転じて高度経済成長期が終局を迎えつつあるなかで、経済構造の歪(いびつ)さは隠蔽のしようがない。また、民主主義の政治システムではなく、中途半端に市場経済を導入したことから、不採算の国営企業の経営の行き詰まりが早期に表面化せず、不動産バブルの崩壊で地域経済の疲弊が顕在化しつつあるようだ。そこで、習近平政権が掲げた経済政策のスローガンが「共同富裕」だろう。日本では貧富の格差の是正の印象が強いかもしれない。しかしながら、本質的な狙いは、個人消費主導の経済成長と考えられる。中国経済の規模はGDPで見て今や米国に次ぐ世界第2位だが、2022年における国民1人当たりGDPは1万2,813ドルであり、米国の7万6,348ドルと比べ6分の1強に過ぎない(図表3)。人民元レートを割安に管理してきた影響もあるが、移民を受け入れない以上、個々が生み出す付加価値を伸ばさなければ、米国を抜いて世界最大の経済大国になることは不可能と言える。また、消費拡大は内需主導の経済成長であると共に、国民の生活水準向上だ。日々豊かになる暮らしを実感できれば、国民の共産党に対するロイヤリティが高まり、一党独裁体制を正当化できるだろう。さらに、14億人の人口を使って世界中から財貨を購入することで、米国がそうであるように、国際社会における中国の存在感を大きく高めることが可能になる。巨額の貿易赤字によって世界経済に需要を創出したからこそ、古代ローマ、大航海時代におけるポルトガル、オランダ、産業革命以降の英国、そして現在の米国は覇権国になった。軍事力で覇権国になるのではなく、豊かな経済、それを支える通貨を守るために、覇権国は軍事大国となるのだろう。経済の停滞感を払拭し、中国が米国に代わる覇権国化を目指すには、投資主導から消費主導型へ経済構造を転換することが最大の課題である。「共同富裕」を掲げる習近平政権は、どうやらそのことに気が付いているようだ。ただし、考え付くのは容易だが、実現へのハードルは極めて高い。特に人口の減少と高齢化が最大のネックになるだろう。 実績を焦る習近平政権統計の取得などの目的で中国政府機関のウェブサイトを訪問すると、民主主義国家の国民としては戸惑うことが少なくない。例えば、国際収支統計を扱う国家外貨管理局のトップページには、一番上に『学习贯彻党的二十大精神』と書かれた赤いバナーがある。試しにクリックしたら、習近平共産党中央委員会総書記(国家主席)の大きな写真を貼った昨年10月の中国共産党第20回全国代表大会のウェブサイトへ飛んだ。なお、『学习贯彻党的二十大精神』は、「中国共産党第20回党大会の精神を研究し実践する」との意味だ。国の機関のホームページに「共産党大会の精神」に関するスローガンが貼られているのは、中国と民主主義国の大きな違いだろう。また、国家統計局のサイトでは、ホーム画面で5枚の写真が自動的にスクロールされたのだが、第31回ユニバーシアード夏季競技大会開会式、四川州への視察、インドネシアのジョコ・ウイドド大統領との会談など、全てが習総書記の姿を中心に捉えたものだった。どれも国家統計局の業務と無関係のシーンと言え、英語版にそうした演出はない。察するに国家機関を挙げて中国国内に向け習総書記の業績をアピールしたいのだろう。これは、江沢民、胡錦涛両氏の時代にはなかったことだ。3期目に入った習総書記が如何に個人崇拝を重視しているかを示す傍証であると同時に、政権中央における習近平総書記の権力基盤は意外に脆い可能性を示す証拠なのかもしれない。完全に権力を掌握しているのであれば、殊更にトップの存在をアピールする必要はないからだ。特に今や経済が習主席にとってのアキレス腱の感が強い。任期が1期5年間であった李先念、楊尚昆両国家主席、2期10年間の江沢民、胡錦涛両主席の下、中国は年平均8~12%の高い実質成長を遂げた(図表4)。一方、習近平総書記の場合、就任以降、平均成長率は6.1%に止まっている。新型コロナ禍もあり、直近5年間だと平均5.0%成長に過ぎない。もちろん、それでも高成長なのだが、近年は若年層の失業率が20%台へと上昇しており、政権としては成長力の鈍化に神経質にならざるを得ないだろう(図表5)。2010年12月、チュニジアで露天商の青年の焼身自殺によって始まったジャスミン革命は、ジン・アビディン・ベンアリ大統領の亡命に止まらず、近隣のエジプト、リビアなどに飛び火、強権的な政権が相次いで崩壊する『アラブの春』になった。背景には若年層の高い失業率があったと考えられる。国家統計局は、8月15日、世代別の失業率の公表を一時中止すると発表した。公式には統計の整備が理由と説明されているものの、それを信じるのは難しいだろう。不都合なデータの発表が、共産党及び政府への批判につながる事態を避けようとしているのではないか。もちろん、今の中国で近い将来に革命が起こるとは思わないものの、若い世代の政治に対する不満が高まれば、各地で抗議行動が頻発するなど、習主席の政権基盤の安定感が低下する可能性は否定できない。民主主義国家と異なり、国民は選挙で民意を表明する機会がないため、時として不満の爆発による不測の事態が起こり得るからだ。習総書記は経済・技術政策に強いテクノクラートやビジネス界のエリートを養成してきた共産主義青年団(共青団)を政権中枢から排除してきた。共産党中央政治局常務委員会を側近で固めた体制は、意思決定が円滑に進む一方において、批判がないため独善的な失敗に陥るリスクがある。また、政策が行き詰った場合、その批判の全てを習総書記とその側近が背負わなければならない。これまでの中国共産党の人事は、党内における派閥のバランスを重視して行われてきた感が強い。上海閥の江沢民総書記は、経済改革派の朱鎔基氏を国務院総理(首相)に起用、共青団出身の胡錦涛氏を中央政治局常務委員に昇格させた。その胡錦涛氏がトップになると、江沢民前総書記に近い呉邦国氏を中央政治局常務委員会のナンバー2に据え、八代元老と呼ばれたた習仲勲元政治局委員を父に持つ太子党の習近平現総書記を中央政治局常務委員会に加えている。習総書記は、当初、共青団系の李克強氏を共産党の序列でナンバー2兼国務院総理とし、上海閥の張高麗氏を中央政治局常務委員に任命したが、3期目の人事では自らも含め7名の中央政治局常務委員を全て自らの側近で固めた。共青団系で次世代を担うとみられた胡春華前国務院副総理は、政治局員から中央委員へ降格されている。人事面では政権中枢を掌握したかに見える習近平総書記だが、むしろ失敗が許されない状況に自らを追い込んだ感が強い。その結果、景気の停滞感が払拭できない中で、福島第一原子力発電所の処理水問題が象徴するように、国民、特に若年層の怒りを日本など国外へ逸らそうとの意図が透けて見える。また、今後、状況次第では台湾海峡の緊張感が高まる可能性も否定できない。中国はインド太平洋地域における最大の不透明要因と言っても過言ではないだろう。なお、蛇足ではあるが、日本政府は処理水を海洋放出する準備の段階で、中国から政府関係者、科学者、技術者を福島第一へ招く機会を設けるべきだったように思う。もちろん、政府、東京電力は中国に対しそうした働き掛けをしたのかもしれない。ただし、韓国政府が科学者・技術者を派遣、日本側がその調査に真摯に協力したことで、韓国内における世論の鎮静化に一定の効果があったことを考えれば、国際会議などの機会を使い、公の席で中国の調査団を招待する試みがあっても良かったのではないか。中国側がこの招待を拒否した場合、国際社会だけでなく、中国国民に対しても日本の誠実な対応を強くアピールできたであろう。(中編へ続く)
- 25 Sep 2023
- STUDY
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社員向け販売会に国産ホタテ加工品も 東京電力
東京電力は9月13日、東京都千代田区の本社本館で、福島県産品・宮城県産品を中心に取り扱う社員向け販売会「復興大バザール」を開催した。会場には僅か3時間のうちに750名の社員が詰めかけ、完売。レジ待ちの行列で一時、入場が制限されるなど大盛況だった。同社は2013年3月より、社員食堂や社内販売会などで福島県産品・宮城県産品を取り扱い、被災地の復興を強く後押ししてきた。87回目となる今回の販売会では特に、通常品目である農産品、農水産加工品、菓子、酒類に加え、宮城県産・北海道産の「国産ホタテ加工品」も登場。特設コーナーでは、同社の小早川智明社長自らが売り場に立ち、会場にいる社員に国産ホタテ加工品を試食販売するなど、ALPS処理水放出にともなう中国の禁輸措置などを踏まえ、同社としても、影響を受ける水産品の販売支援を拡大していく強い意欲を示した。会場の社員たちは「微力ながら福島の商品を買うことで応援したい」、「品揃えがデパートの物産展並みに豊富で、毎回楽しみ」と述べながら買い物を楽しんでいた。小早川社長は「福島第一での事故当初から、会社を挙げて、食べて応援する取り組みを進めている。社員全員が福島や三陸常磐ものの美味しさを実感し、日頃から、食べて応援している」と強調。そのうえで、「風評に打ち勝つため、社内販売会や食堂、イベントでの即売会など、東京電力グループを挙げて取り組んでいきたい」と、力強く語った。
- 13 Sep 2023
- NEWS
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もはや「ポリコレ」扱いの処理水、そのリスクの相場観を知っておこう!
二〇二三年九月十三日 「処理水」か「汚染水」かをめぐって、政治の世界で争いが起きているようだが、この件は立憲民主党代表の一声で決着がついたといえよう。これからは、処理水の海洋放出によるトリチウムのリスクをいかに分かりやすく伝えていくかが課題だ。新聞ではあまり報じられていないリスクの相場観を考えてみたい。泉氏の発言は歴史的な転換点 八月二十四日、福島第一サイト内のタンクに貯蔵されている処理水の海洋放出が始まった。その一連の報道で一番注目したのは、野村哲郎農相(当時)が八月三十一日に「汚染水」と失言したことへの野党の反応だった。立憲民主党の泉健太代表は九月一日の会見で「不適切。今、放出されているものは処理水だ。所管大臣として気が抜けた対応で資質が感じられない」(産経新聞など参照)と批判した。 いつものことながら、岸田政権を批判する狙いで言ったのだろうが、「大臣としての資質が感じられない」という言い方を聞いて、とっさに同じ立憲民主党の中で堂々と「汚染水」と呼んで反対デモを行っている議員の姿が思い浮かんだ。 同じ政党にいる仲間よりも先に与党の大臣に向かって、「汚染水ではない。処理水でしょう」と詰め寄った意義はとてつもなく大きい。個人的には、この泉氏の発言は処理水報道の歴史に残る大転換点だとみている。 敵方の与党大臣に向かって、「資質が感じられない」と言った以上は、「汚染水」と呼んでいる仲間に対しても「あなたたちは議員の資質が感じられない」と言わねば帳尻が合わない。おそらく泉氏は、韓国の野党と一緒になって、処理水の海洋放出に反対するデモに加わっている一部議員に対しても、暗に「資質が感じられない」と内心では思っていたのだろうと勝手に空想をふくらませた(もっとも一部議員から見れば、泉氏の発言のほうが失言だと思ったかもしれないが)。 野村農相の失言に対して、中国政府は「事実だから」と擁護した。だが、さすがに社説で海洋放出反対を書いた主要な新聞でさえも、「野村農相の発言は事実なのだから、謝罪する必要はない。汚染水と呼んでいる一部議員のほうが正しいのだから、泉氏の批判は的外れだ」といった論陣を張ったケースは見られなかった。主要新聞は泉氏と同じく「処理水」に同意したわけだ。 政府を批判する立場の最大野党の立憲民主党代表が「処理水だ」と断言(お墨付きを与えた)してくれたおかげで、もはや「処理水」は最近のはやり言葉で言えば、良い意味でポリティカル・コレクトネス(直訳すると政治的正しさ=ポリコレ)並みに昇格したと言ってよいだろう。九月八日に開かれた衆参両院の閉会中審査で野村農相が再度、謝罪した際に野党から追及がなかったことを見ても、もはやポリコレ確定となったようだ。 泉氏の発言は、野村農相の失言がなかったならば、聞けなかった可能性が高い。その意味では野村農相の失言は、泉氏の歴史的な発言を引き出した点において、偉大なる怪我の功名といえよう。 泉氏の発言とそれを批判しなかった主要新聞のおかげで今後、言論と政治の世界では「処理水」は確たる言葉として流布していくだろうと予測する。トリチウムは核実験で一九六二年がピーク とはいえ、メディアに身を置く私としては、一部議員や記者、市民が「汚染水」だと公言すること自体は言論の自由があり、認めたい。発言まで禁止したら、それこそ自由のない、どこかの独裁国家と同じ三流国家になってしまう。大事なのは、汚染水だといっている人たちの言動に煽られないことだ。 では、海洋放出に伴うトリチウムのリスクを分かりやすく伝える方法はあるのだろうか。ここで大事なのは、リスクのおおよその大きさをイメージできる「リスクの相場観」をもつことである。 そこで紹介したいのが、二枚の図だ。ひとつは、環境省がホームページの「第2章 放射線による被ばく 身の回りの放射線」という解説欄に載せている「トリチウムの放射性降下物の経時的推移」と記された図だ(図1)。これを見ると、中国などが核実験を盛んにやっていた一九五〇年代~六〇年代には、いまとは比べものにならないくらいに、トリチウムを含む放射性降下物が地球全体に降り注いでいたことが分かる。トリチウムによる個人の平均被ばく線量がピークに達したのは一九六二年で、その量は七・二マイクロシーベルトに達していた。当時は、放射性セシウムやストロンチウムなども環境中に放出されていた。 一九六二年と言えば、東京オリンピックが開かれる二年前だ。愛知県犬山市に住んでいた私は小学五年生だった。学校の先生や親から「雨に当たらないように。髪の毛が抜けるから」と言われていたのを思い出す。当時はトリチウムが雨に混じって落ちていたのだ。現に一九六三年には、降水中のトリチウムの濃度が一リットルあたり百ベクレルを超えていた(日本原子力学会誌「アトモス」Vol.60など参照)。また、私たちはいまよりも濃度の高いトリチウムが含まれた飲み水を飲んでいたのだ。 その後、個人の被ばく線量は少なくなり、一九九九年になって、ようやくピーク時の七百分の一の〇・〇一マイクロシーベルトに下がった。つまり、私のケースで言えば、生まれてから高校を卒業(一九七〇年)するまで、いまよりもはるかに多いトリチウムにさらされていたということだ。核実験でも悪影響はなかったようだ では、一九六二年のピーク時に浴びていた七・二マイクロシーベルトとは、どれくらいの大きさだったのだろうか。資源エネルギー庁によると、福島第一の処理水が海に放出されたあとの被ばく線量は、多めに見積もっても、おおよそ〇・〇二マイクロシーベルト(〇・〇〇〇〇二ミリシーベルト)と推計されている。私が子供のころに浴びた七・二マイクロシーベルトは、その約三六〇倍にあたる。 ちなみに、〇・〇二マイクロシーベルトは、私たち日本人が自然界で浴びている自然放射線(宇宙線やラドン、大地、食物など)からの被ばく量(約二・一ミリシーベルト)のおおよそ十万分の一前後に過ぎない。処理水放出によるトリチウムのリスクがいかに小さいかが分かるだろう。 核実験で降り注いだトリチウムの影響について、環境省は同ホームページ(二〇二一年三月三十一日更新)で次のように解説している。 「トリチウムの公衆被ばくの影響に関して、これまでの疫学研究からは、トリチウム特有のリスクは確認されていません。また、一九六〇年代前半の核実験が盛んな時期以降においても、小児白血病の増加が認められていないことより、トリチウムの健康リスクが過小評価されている可能性は低いとされています」。 核実験の影響をもろに受けた私は幸いながら、新聞社を退職(二〇一八年)するまで健康を害することもなく、仕事を全うすることができた。「当時のトリチウム濃度が高かったのだから、いまの程度なら我慢すべきだ」と受忍論を主張しているのではない。海洋放出後のトリチウムのリスクを知る上で、過去の状況を知ることは、リスクの相場観を持つのに役立つのだということだ。イオンの自主基準は七千ベクレル もうひとつの図は、流通最大手イオンが公表している図だ(図2)。「福島鮮魚便」と称して、福島県内で水揚げされたヒラメなどを積極的に販売しているイオンは八月下旬、「これからも福島県産水産物を応援してまいります」とコメントしたうえで、トリチウムの自主検査を実施して、その結果をサイト上で公開すると公表した。 注目したいのは、国際的な基準よりも厳しい「自主基準」を設定した点だ。その自主基準を超えた場合には販売を見合わせるという。 イオン独自の自主基準値は、一リットルあた七千ベクレルである。世界保健機関(WHO)の飲料水に関する一リットルあたり一万ベクレルよりも低い。魚に含まれる水分をどのように測定して検査するかまでは分からないが、イオンのホームページによると、仮に七千ベクレルを毎日摂取し続けたとしても、国際的に安全管理目安とされる年間 一ミリシーベルト(追加被ばく線量)の十分の一になるよう設定したという。つまり、イオンの自主基準はより安全サイドに立った数値といえる。公開された図では、国際的な基準値と自主基準値と魚介類のトリチウム濃度の数値が視覚的に分かる。 これまでに福島県沖で検査された魚介類のトリチウム濃度はいずれも検出限界(百ベクレル)以下である。食品に関するトリチウムの公的な基準値はない。イオンが自主基準を設定して安全な魚介類を提供することは、消費者に安心感を与える上でもその意義は大きい。 東京電力は処理水に含まれるトリチウムの濃度を一リットルあたり千五百ベクレル未満で放出している。イオンの自主基準と比べても低いことが分かる。これもリスクの相場観を知る上で参考になるのではないか。
- 13 Sep 2023
- COLUMN
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もやもや感の正体
8月24日、福島第一原子力発電所廃炉作業に伴う処理水の海洋放出が始まりました。その結果自体は、多くの方にとり予測通りの結果であったと思います。それにもかかわらず処理水問題は様々な立場の方に、何とも言えない「もやもや感」を残しているのではないでしょうか。興味深いことに、多くの方がその不満足感の原因を「コミュニケーション不足」に帰しています。「十分な時間を尽くしていない」「十分なステークホルダーが関わったとは言えない」「住民から十分な合意を得ていない」処理水の議論が始まった当初から繰り返されてきたこの批判が今も続いていることに、私はやや違和感を覚えます。なぜならまるで「コミュニケーション」や「合意形成」が、目的として独り歩きしているかのように聞こえるからです。しかし当たり前のことですが、コミュニケーションや合意形成は、手段とプロセスであって目的ではありません。コミュニケーションの「何」が足りないのかコミュニケーションが手段として成立するためには、「場」と「技術」と「目的」が必要です。福島のコミュニケーション不足について語られるときには、時間やステークホルダーといった「場」の不足が指摘されることが多く、技術と目的の不十分について論じられることは少ないように思います。しかし実際には、目的を見失った議論が迷走していることこそが問題なのではないでしょうか。たとえば海洋放出される処理水やトリチウムについて話し合うときに、ある場所では「トリチウムに人体影響はほとんどない」「いや、細胞内に取り込まれればβ線であっても危険だ」という「トリチウムの人体影響」についての議論が起こり、別の場所では「どんな微量の放射能であっても、海洋に放出されれば風評被害は免れ得ない」「でも処理水を貯蔵するタンクを増やし続ければ地域全体の風評被害につながる」という社会的影響への懸念が対立し、さらに別の場所では「政府は結論ありきで人の話を聞いていない」「丁寧に耳を傾けてはいるが現実的な案が出てこない」というコミュニケーション技術への批判が繰り返されています。このことからも、「処理水をどうするか」という漠然としたテーマで議論が行われることにより、コミュニケーションが方向性を見失っていることが窺えます。目的が明確でなければ、何に対して「住民の合意を得る」のかの解釈は、個々人に委ねられます。その結果、皆が好き勝手な話題を持ち寄り、密なコミュニケーションを行っているという幻想を抱いたまま、かみ合わないまま議論が対立だけを生んでいく。震災後の福島では、そんな状態が幾度となく繰り返されてきたように思います。処理水問題の土台処理水問題について議論の目的を整理してみれば、溜まり続けている処理水を溜め続けるのか、それともどこかに処分するのか処分をするとすればどのような方法を取るのかという極めてシンプルなものです。ただし、このシンプルな内容を議論するためには、まず初めに下記についての偏見なくかつ平等な情報共有がなされる必要があったと思います。溜め続ける方法・処分する方法の全ての選択肢各々の選択肢についての現状での利点・欠点各々の選択肢で一番リスクを負うのはどのような人々なのかリスクを低減する方法やリスクを負う人々へ補償する方法はあるのか現状の技術の不確定要素は何かその中でイノベーションによって変わり得る要素はあるのか不確定なイノベーションに賭けるリスクは他のリスクとどのように違うのかこれらを共有して初めてすべての人が同じ土俵に上がり、議論が始められるのではないでしょうか。もちろんこれらの選択肢は何度も話題に上げられています。しかし最初の知識共有について重要なことは、その場で決して賛否や「べき論」を混入させないことです。多くのコミュニケーションの場では、すべてを俎上に挙げる前から早急に賛否の議論が起こり、安易に「政府の意向」「住民の意向」「海外の常識」「実現可能性」などの主観的に基づく分断が起きていたと思います。ブレインストーミングの原則が守られなかった、という点では、確かに処理水問題は「コミュニケーション不足」であったのでしょう。しかしそれは時間の問題ではなく、「技術」と「目的」の問題だった、というのが私の意見です。技術なく場を設けても、目的なく技をふるっても、そのコミュニケーションからは何も得られないのではないでしょうか。コミュニケーションは夢の道具ではないしかし、たとえ技術と目標が完璧であっても、コミュニケーションが満足度を上げるという保証はない、という点にも留意が必要です。今回の処理水問題でもう1つ気になった点は、コミュニケーションさえ上手くいけば物事が解決したかのような空気感が広がっていたことです。人々の不満を「コミュニケーション不足」のせいにすることで、「誰かが損をしなければならない」という本質が語られないまま議論の停滞が生じているのではないでしょうか。リスクコミュニケーション、特に特定の人にリスクを負わせる議論は、決着はつかないことがほとんどです。比較や交換が不可能な性質の異なるリスクが絡み合う中、万人が同意することはありえないからです。むしろ大勢にとっての落としどころが、少なからぬ方に不本意な結果となる場合の方が多いでしょう。そう考えれば、議論の結果だけを見ていても「なし崩し的に決定された事項」と「コミュニケーションを尽くしても不本意な結果に終わった事項」との間に差異は認めにくいということになります。つまり本来コミュニケーションを尽くすべきであった状況も「それ以外に選択肢がなかったのだから、仕方ないではないか」という結果論で済ませてしまうこともできてしまうのです。コミュニケーションについての反省が難しい点はここにあります。 「もやもや感」の正体は?では、コミュニケーション不足と、不本意な結果に終わるコミュニケーションとの差は何なのでしょうか。それはリスクを負う方々が「自分たちは何に負けたのか」を認識できることではないかと思います。どんな利害やパワーバランスによってその選択がなされたのか。そこにはどのような葛藤と逡巡があったのか、なかったのか。それが分かって初めて、住民の方も堂々と「結果ありきの議論だった」「コミュニケーションはガス抜きの場としか認識されなかった」と批判することができます。しかし現状では、本当に結果ありきだったのかさえはっきりしないまま、空気を読んだ批判しかできないのです。今私たちが感じている「もやもや感」の正体は、そんなところにあるのではないでしょうか。コミュニケーションは結果ではない。逆に言えば、海洋放出という「結果」が明らかになった今でも、コミュニケーション不足の改善は可能だということでもあります。「コミュニケーションさえきちんとしていれば物事は解決していたのに」結果だけ見て漠然とした詠嘆で終わることなく、これからも議論が続くことを祈っています。
- 04 Sep 2023
- COLUMN
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中国の理不尽な全面禁輸措置で「風評被害」の風向きが変わり始めた
二〇二三年九月一日 福島第一原発の処理水の海洋放出が八月二十四日、始まった。どの新聞を見ても、大きな懸念は「風評被害」だった。だが、中国が日本からの水産物輸入を全面的に禁止したことで、風向きが変わってきた。その後のテレビを中心とする報道を見る限り、今後の課題は国内の風評被害というよりも、いかに日本の国民が福島および国内産の水産物を買い支える連帯精神を発揮できるかどうかにかかってきたようだ。テレビのバラエティ番組が風評被害の抑制に貢献 毎週日曜日午前に放送されるTBSのジャーナリズム・バラエティ番組「サンデージャポン」(八月二十七日)を見ていて驚いた。風評を抑えようとする意図がはっきりと見えた番組構成だったからだ。日本からの水産物輸入を全面禁止した中国に対して、日本よりもはるかに多くのトリチウム量を放出している中国の原子力発電所の地図(フリップ)を見せたのだ。ゲストのタレント女性は「中国が日本よりも多くのトリチウムを放出していることを初めて知った。こういう情報をみんなが知ればよいのに」といった内容のコメントを寄せた。 さらに、同番組に専門家として出演した小山良太・福島大学教授は「通常の原子力発電所や再処理工場でもトリチウムは放出されている。これはあまり報じられてこなかったが」と話し、福島だけが特別ではなことを強調していた。 驚きは続いた。実業家の堀江貴文氏が自身のYouTubeチャンネルで、「アホが大騒ぎしている。こいつら本当に頭が悪すぎて、薄めるっていう概念が理解でないみたい。…お前ら中学からやり直せ。化学の教科書を読め…」と、内外の海洋放出批判を一喝する映像を公開したのだ。同映像は「サンデージャポン」の中でも紹介された。個人的な印象だが、堀江氏が怒りをあらわにしてまで、処理水の安全性に問題はないと訴える姿は、風評を打ち消す効果がかなりあると感じている。堀江氏があそこまで怒るからには、自身の意見に相当の自信があってのことだろう。この堀江氏の映像はエンタメ系やスポーツ新聞系のネットニュース(写真参照)でも紹介された。この威力は無視できないほど大きいだろう。 週明けて、八月二十八日に放映されたTBSの「ひるおび」でも処理水問題が特集として取り上げられた。番組全体のトーンは、中国が科学的根拠を無視して、無理難題を押し付けてくるという印象を伝えたように思う。ゲストの若い女性が「処理水(トリチウムの濃度)が国際基準を下回っていることはIAEA(国際原子力機関)も認めている。国際基準を守っているのに、なぜ中国はここまで批判してくるのか」といった内容のコメントを話した。 聞いていて、「中国だって、トリチウムを海へ放出しているのに、日本に文句をいう資格はないよね」といったメッセージに聞こえた。そこまで中国が文句をつけるなら、中国に依存せずに日本国内で水産物を消費すればよい。そんな気持ちを生じさせる番組だった。 これらの放送は、専門知識のない一般視聴者に対して「処理水は心配なさそうだ」という十分なメッセージを送ったのではないか。中国の強硬措置で連帯心喚起か? 風評被害は一般に、国内の大手スーパーなどによる「福島産の魚介類を販売しない」といった具体的なアクションと、それに同調するメディアと、消費者の連鎖が重なって生じる。ところが今回は、新聞やテレビ報道を見ている限り、そのような動きは一切出ていない。逆に、中国の理不尽な輸入禁止措置がオモテに出てきたことで、「負けてなるものか!」と、団結心を呼び起こすような声が強い。 現に、元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏はフジテレビ『日曜報道THE PRIME』(八月二十七日)で、強硬な中国に対して「武力を使わない、ある意味、中国との戦(いくさ)ですよ。いままで日本は、こういうときに黙っていたけど、ここは絶対に勝たないといけない」と持論を述べた。橋下氏は、「僕、ホタテ大好きなんで、食べますよ。国民のみなさん、朝昼晩、必ずホタテをひとつ食べるとか、給食で使うとか」とも述べている。これを機に食料安全保障を強化することも可能だという見解はSNSで賛同が多かったようだ。 今回の中国の強硬措置で多くの日本人は、橋下氏と似た気持ちになびいたはずだ。何を隠そう、私も同様の気持ちを抱いた。 いまこそ日本は連帯心を発揮すべきだといったトーンは、八月二十八日夜に放映されたNHKの「クローズアップ現代」の処理水特集でも見られた。桑子真帆キャスターの「今後、日本はどうすればよいか?」との問いに対して、開沼博・東京大学大学院情報学環准教授は「中国への水産物の輸出額は千六百~千七百億円なので、国民一人が福島産の魚介類を一年間で千六百~千七百円、余分に買えばよい」と提案した。 この極めて分かりやすい具体的な提案を聞き、「そうだ。その通りだ!」と拍手喝采を送りたい気持ちになった。新聞はもっとこういう具体的な提言を盛り込んだ記事を、どしどし載せるべきだと感じた。 福島への応援を呼び掛ける訴えは、八月二十六日に放映された読売テレビの報道番組「ウェークアップ!」でも見られた。キャスターの野村修也・中央大学法科大学院教授は中国の禁輸措置を念頭に「いまこそ福島産魚介類を対象に、Go To Eat キャンペーンをやるべきだ」と提唱した。全くその通りだ。 岸田首相はいますぐ、「福島産魚介類を対象に大々的に『Go To Eat キャンペーン』をやります。みなさんの力で福島の復興を支えましょう」と強烈なメッセージを発信すべきだろう。その力強いリーダーぶりを見せれば、支持率も上がるだろう。朝日新聞や毎日新聞も 新聞は相変わらず、これまで述べてきた通り、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞の三陣営と読売新聞、産経新聞の二陣営に分かれ、前者の陣営は放出反対を訴える漁業者の声を大きく取り上げている。しかし、中国の傍若無人ぶりが見えてきたことで様相は少し変わってきた感じがする。 朝日新聞は八月二十五日付朝刊で、処理水放出に反対する漁師や市民団体の動きとともに、風評被害を防ごうとする企業の活動についても、三つの事例を二段見出しで紹介した。これまではあまり見かけなかった記事だ。 毎日新聞の社説(八月二十六日)は、中国が水産物を全面禁輸したことに、明確に反対する主張を載せた。その理由が面白い。「トリチウムを含む水は、中国など各国の原子力施設から海や河川に放出されている」と書いた。中国がトリチウム水を放出していることをもっと以前から大々的に書いてほしかったが、さすがに中国の身勝手な振る舞いがここまでくると「中国もトリチウムを放出しているじゃないか」と言いたくなるのだろう。そして、同社説は「国際原子力機関(IAEA)は包括報告書で国際的な基準に合致すると処理水の安全性にお墨付きを与えている。日本政府は専門家による協議を呼びかけてきたが、中国は拒んできた」と書いた。一般的に新聞は「お墨付き」という言葉を否定的かつ皮肉っぽく解釈して記事を書く習性がある。ところが、中国の理不尽さに対抗するための武器として、この社説ではIAEAのお墨付きという言葉を肯定的にとらえている。 やはり中国の全面禁輸措置は日本人の連帯心に火をつけたのではないか? もはや国内の風評被害云々よりも、威圧的な中国に負けてなるものかとの気持ちが強くなっている。私のように、「福島産を買って応援したい」と思っている人は多いはずだ。ただ、いつ、どこで、どういう支援イベントがあるかが分からない。新聞はぜひとも、具体的な支援イベントの告知をどしどし載せてほしい。いまこそ新聞の力を見せるときだ。
- 01 Sep 2023
- COLUMN
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日韓の信頼回復へ向けた一歩となり得る処理水問題
広島におけるG7サミット最終日の5月21日、東京電力・福島第一原子力発電所の処理水海洋放出計画に関し、科学的な調査を行う韓国の視察団21人が来日した。5月7日、シャトル外交の復活を期し訪韓した岸田文雄首相に対して、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が提案したものだ。団長を務める韓国原子力安全委員会の劉国熙委員長は、仁川空港を出発する際、「科学的根拠に基づき、安全性を確認する」と語っていた。合理的な判断を重視する尹錫悦大統領の姿勢を反映したコメントと言えるだろう。条約、約束、そして科学をベースとした外交は、相手国にとって予見可能性が高い。しかしながら、日本の立場に立って考えると、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領の治世は、感情が外交を支配しており、想定外のことが当たり前に起こる5年間だったと言えるのではないか。文前大統領は、2015年12月28日の旧従軍慰安婦に関する日韓合意を「政府間の公式な合意」としつつ、日本政府の出資で設立された『和解・癒やし財団』を断りなく清算した。また、2018年10月30日、韓国大法院が旧徴用工の方による日本企業への賠償請求を認める判決を下した後も、文政権は日韓関係打開のため努力したとは思えない。さらに、2018年12月20日には、日本の排他的経済水域内(EEZ)において、韓国海軍の駆逐艦「広開土大王」が海上自衛隊のP-1哨戒機に火器管制レーダーを照射する事件が起こった。こうした韓国による不可解な行為が繰り返されるなか、日韓両国の緊張関係が色濃く反映されたのが、東京電力・福島第一原子力発電所の処理水に関する韓国側の対応だろう。科学に基づく合理的な判断ではなく、憶測や不確かな情報に敢えて重きを置いた感情的なムードにより、韓国側から日本への批判が繰り返されてきた。そうしたなか、尹政権が派遣した今回の専門家集団が、純粋に科学的見地からどのような判断を示すのか注目される。トリチウム水に関する世の中の誤解現在、世界的に広く使われている軽水炉の場合、沸騰水型炉(Boilling Water Reactor)、加圧水型炉(Pressurized Water Reactor)の何れにも「水(Water)」の文字があるように、原子炉内における中性子の減速、原子炉の冷却やタービンの回転には水(水蒸気)が使われている。したがって、日本の原子力発電所は全て取水が容易な海沿いに建てられてきた。福島第一の深刻な事故は、周知の通り、東日本大震災による揺れで原子炉が破損したことが主な原因ではない。原子炉は概ね問題なく停止したことが分かっている。しかし、津波で電源が破壊され、取水用ポンプが稼働しなかったため、原子炉に冷却用の水を供給できなくなった。それが炉心溶融を起こした最大の要因である。事故後の福島第一においては、1~4号機に核燃料がデブリ(破片)として残っているため、徐々に減衰するものの、放射性物質の崩壊熱のために、常に水による冷却を継続しなければならない。この水は必然的に高濃度の放射性物質を含む。また、一般に原子力発電所の地下には地下水が流れており、雨が降れば雨水も所内の地面に染み込むため、正常な稼働時においてもこれらの水の漏出により管理区域外が放射性物質に汚染されないよう厳重に管理することが重要だ。福島第一の場合、事故による原子炉の破損で地下水や雨水も高濃度に汚染されていることから、水処理の難易度が著しく高まった。そこで大きく分けて2つの手が採られたのである。1つは原子炉建屋への地下水・雨水の流入を食い止めることだ。原子炉建屋周辺の地中に凍土壁を設けることや、山側から海へ地下水のバイパスを作り海洋放出を図った。その結果、1日の汚染水発生量は対策前には500㎥を超えていたものの、最近では100㎥程度へ抑制されている。もう1つの手段が、多核種除去設備(ALPS=Advanced Liquid Processing System)の活用である。高濃度汚染水には人体や生態系に甚大な影響を与えるセシウム、ストロンチウムなどの放射性物質が含まれている。ALPSはそのうちの62核種をほぼ取り除くことが可能だ。ただしトリチウム(三重水素=T)は除去できず、福島第一ではこの状態の水を「ALPS処理水」として発電所内に設けられたタンクに貯蔵している。今年5月18日現在その量は、処理前および処理途中の「処理途上水」と 合わせて133万㎥となり、敷地に建設されたタンクの容量の97%に達している(図表1)。ALPSでの除去が困難であることが示す通り、処理水からトリチウムを完全に取り除くには巨額の費用が必要だ。一方、大幅に減速したとは言え処理水は日々積み上がるが、タンクの建設には敷地面積など物理的な限界がある。さらに、天災やタンクの老朽化などによる管理されない形での漏出のリスクも高まりかねない。当然、なんらかの方法で最終処分を開始する必要がある。トリチウムは自然界にも存在し、放出するβ線は紙1枚を透過することができない。体内に取り込まれた場合でも、トリチウムは水と同じように体外へ排出されるため、体内で蓄積・濃縮されないことが確認されている。2011年10月13日の会見において、フリージャーナリストが1996年のO-157問題が起こった際、厚生大臣時代にカイワレ大根を食べた菅直人首相(当時)の例を取り上げ、内閣府の園田博之政務官(同)に「飲んでみませんか」と迫ったことがあった。同月31日の政府・東京電力の統合対策室の合同会見で園田政務官は「私が飲んだからといって安全性が証明できるわけではなく、意義はない」としつつも、滅菌処理したコップ一杯の処理水を飲んでいる。ちなみに、ここが一般的な誤解の根源とも言えそうだが、トリチウムは福島第一が事故を起こしたから海洋放出が必要になったわけではない。原子力発電所が正常に稼働している状態において、発電の過程で発生するトリチウムは海洋、大気中に放出されてきた。人体を含む生態系、環境には影響が極めて小さいからだ。日本の原子力規制委員会は早い段階から、ALPSによる処理水について、十分に希釈した上での海洋放出を最も合理的としてきた。更田豊志委員長(当時)は、2018年8月22日の会見において、「規制を満たす形での(処理水の)放出である限り、環境への影響、健康への影響等は考えられない」と説明している。この時、記者による「希釈することによって、総和を考慮した上で法令濃度、法令基準を下回れば、規制委員会としては海洋放出については是とするということで良いか」との質問に対し、同委員長は即座に「おっしゃる通り」と回答した。さらに、資源エネルギー庁多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会は、2020年2月10日に発表した『報告書』により、「社会的影響は大きい」としつつも、「海洋放出」、「水蒸気放出」を「現実的な選択肢」としている。この報告書は、同年4月2日に公表された国際原子力機関(IAEA)による『フォローアップレビュー』において、「包括的・科学的に健全な分析に基づいており、必要な技術的・非技術的及び安全性の側面について検討されている」と評価された。そうした経緯があり、2021年4月13日、菅義偉内閣(当時)は処理水の海洋放出を閣議決定したのだ。この決定を受け、同年12月21日、東京電力は原子力規制委員会に対し、2023年における海洋放出の開始へ向けた実施計画の承認を申請した。 国際問題化した「社会的影響」トリチウムを含む処理水の海洋放出は、科学的には人体、生態系への影響がないとされている。そもそも、同質の水は稼働中の原子力発電所において排出されてきた。残った課題はエネ庁の小委員会が指摘した「社会的影響」だ。これには2つの問題が含まれている。その1つは福島県の県民、農産物、水産物が受ける可能性のある風評被害だ。福島県産の食品については、香港、マカオを含む中国が広範に輸入を規制している他、韓国、台湾は一部の輸入を停止している。また、EU、スイス、ロシアなど7か国・地域は、検査証明の添付を義務付けてきた。事故直後に規制を発動した43か国・地域は既にそうした規制を撤廃したが、まだ12の国・地域には規制が残っているのだ。処理水の海洋放出による新たな風評被害のリスクが、地元の根強い拒絶反応の背景であることは間違いない。もう1つの問題は、韓国、中国など周辺国の厳しい反発だ。この両国は、トリチウムを含む処理水を「汚染水」と呼び、日本政府による海洋放出を厳しく批判してきた。もっとも、これまで科学的な観点からの論拠は示されていなかった。トリチウムについては、韓国、中国の原子力発電所も海洋放出している。韓国原子力水力発電の資料によると、2021年における4原子力発電所の放出量はいずれも福島第一のALPS処理水放出計画における放出量を上回っていた(図表2)。また、韓国海洋科学技術院、原子力研究院の共同研究チームが今年4月16日に韓国防災学会学術発表大会で示したシミュレーションでは、トリチウムが済州海域に流入するのは放出から4~5年後((海水の希釈効果は大きく、既に存在している海水中のトリチウム濃度との区別は難しいと言われている。このシミュレーションのように自国海域への流入を検出することは極めて難しいだろう。))とされた。また、10年後の濃度は1㎥当たり0.001ベクレルで、分析機器で検出することが難しいレベルになると説明されている。韓国において左派系と言われるハンギョレ新聞(電子版)によれば、韓国の共同研究チームはこの結果について、中国天然資源部第1海洋研究所が2021年に実施したシミュレーション、及び清華大学研究チームが2022年に行ったシミュレーションに「類似した結果」との認識を示したとのことだ。日本と利害関係のない科学者による個々に独立した研究結果が同じような結論に達しているのは、信頼性が高いと言えるだろう。なお韓国では現在、8サイト・25基の原子炉が稼働している。そのうち、7サイト・19基は日本海沿岸に立地しており、先述の通りトリチウムを海洋に放出している。そこから推測するに、日本の排他的経済水域(EEZ)には福島第一がこれから放出する想定量よりはるかに多いトリチウムが流入しているのではないだろうか(図表3)。韓国が不安を持つとすれば、ALPSが東京電力および日本政府が公表している性能を発揮しているのか、そしてトリチウムの海洋放出にあたり計画が順守されるのか──この2つの疑問が背景と推測される。韓国の野党である共に民主党など反日色の強い政党、団体は、この件に関し日本政府の「デタラメなデータと主張」(ハンギョレ新聞)への懸念を繰り返し批判してきた。したがって、専門家で構成する韓国の視察団のもたらす科学的な報告が、非常に重要な意味を持つことは間違いない。福島第一を訪れたこの視察団が特に重視するのはALPSの性能だろう。どのような評価が下されるのか注目される。 大きな一歩と重い責任5月31日、IAEAは“IAEA Review of Safety Related Aspects of Handling ALPS-Treated Water at TEPCO's Fukushima Daiichi Nuclear Power Station(福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の取り扱いの安全性に関するIAEAレビュー)”を発表した。その結論は、“The IAEA notes that these findings provide confidence in TEPCO's capability for undertaking accurate and precise measurements related to the discharge of ALPS treated water(ALPS処理水に関する正確かつ詳細な測定を実施した東京電力の能力について、IAEAは調査の結果、信頼に足るとの結論に達した)”としている。韓国の尹錫悦大統領は、これまで福島第一の処理水問題に関し、科学的見地を重視する姿勢を繰り返してきた。IAEAの報告書、そして今回の視察団の調査結果により、韓国政府が「汚染水」との表現を公式に「処理水」と変えれば、福島第一の廃炉工程が大きな峠を一つ乗り越えると共に、日韓関係の改善はさらに大きく進むことになるだろう。また、仮に韓国が「処理水」との立場を取った場合、処理水の海洋放出に表立って反対するのは中国、そして北朝鮮などに限られることになる。韓国が科学的見地から海洋放出を受け入れるとすれば、この問題に関して中国は振り上げた拳の降ろし方を考えなければならなくなるのではないか。岸田政権は、2050年におけるカーボンニュートラルの達成へ向け、原子炉の再稼働のみならずリプレースを容認するなど、東日本大震災以降の政府の原子力に対する姿勢を数歩前に進めてきた。それは、地球温暖化対策と電力の安定供給のバランスをとる上で、日本には原子力が欠かせないとの判断に基づくと見られる。そうしたなか、福島第一における処理水の問題は、これまで、韓国、中国などの批判が日本国内にも伝わり、エネルギー・原子力政策に一定の影響を与えて来たと言えるだろう。かならずしも科学的根拠に基づいたとは言い難い感情論による「社会的影響」への懸念論が、日本のカーボンニュートラル戦略の制約要因となっていた感は否めない。6月中にもまとまるとされる韓国視察団の報告内容、それに対する尹政権の対応は、今後の日本の原子力政策に大きなインパクトを与えるのではないだろうか。また、韓国が処理水の海洋放出を受け入れるとすれば、日本政府、東京電力は、国内漁業関係者、国民だけでなく、同国に対しても重い責任を負うことになる。信頼を裏切ることがないよう、安全に処理水の放出が進むよう万全の態勢で臨まれることを期待したい。
- 09 Jun 2023
- STUDY
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「福島」をためらう消費者は過去最小だが、報道の援護なし!
二〇二三年五月十九日 福島第一原子力発電所の処理水の放出がいよいよ目前に迫ってきた。ことの成否は消費者の意識次第だが、タイミングよく今年三月、消費者庁が「風評に関する消費者意識の実態調査」(第十六回)を公表した。とても重要な調査結果なのだが、ほとんど報道されていない。たとえ地味な結果でも、メディアはもっと現状を伝えてほしい。「福島産をためらう」は過去最小 処理水が実際に海へ放出された場合、最も注目されるのが、どのメディアも再三報じているように風評被害が生じるかどうかである。消費者が福島産の食品を従来通りに買ってくれれば、風評被害は発生しない。そこでポイントとなるのが、どれだけの消費者がいまなお「福島産食品を避けたい」と思っているかどうかである。 その重要な指標となる意識調査が今年三月十日、消費者庁から公表された。食品中の放射性物質を理由に購入をためらう産地を尋ねたところ、第1回(二〇一三年二月)の調査では「福島」を挙げる人が一九・四%もいた。ところが、今年一月(第十六回)の調査では五・八%と過去最小に減った。 放射性物質を理由に購入をためらう産地として、東北(岩手、宮城、福島)を挙げる人の割合も同様に減り、二〇一三年の一四・九%から、今回は三・八%に減った。安全な情報は国民に届かない これらの数字を見ていると、スーパーなどで放射性物質を理由に福島産や東北産を避ける人は確実に減っていることが分かる。こういう調査結果こそ大々的に報じてほしいのだが、新聞を見ていてもほとんど報じられていない。 「福島産が危ない」といったニュースは瞬時に流れるが、安全だというニュースはなかなか国民に届かない。「そもそもニュースとはそういうものだ。記者とは危ない情報を好む職業だ」といってしまえば、身もふたもないが、処理水の放出が目前に迫ったいまだからこそ、逆に安全な情報にニュース価値があるはずだ。どうもいまの記者の感度は鈍いと言わざるを得ない。 どの新聞の記者たちも処理水の放出で最大の懸念は風評被害だと書いてきた。ならば、風評被害が生じにくい空気が醸成されつつあることは喜ばしいことなのだが、記者にとって「喜ばしいことはニュースとしておもしろくない」となってしまう。風評被害の解消にはメディアの的確な報道が欠かせない。にもかかわらず、安全な情報をシャットアウトしてしまう。こういう記者のスタンスでは、やはり風評被害の解消は難しいのではないかと思いたくもなる。「検査知らない」は最高の六三% 一方、福島県ではいまも魚介類や食品の放射性物質の検査は継続して行われている。その結果も公表されているが、地味な話題のせいか、最近ではほとんど報じられない。その弊害は今回の調査結果にも表れた。 食品中の放射性物質の検査が行われていることを「知らない」と答えた人の割合は、二〇一三年の二二・四%から徐々に増え、今回はなんと過去最高の六三%にはね上った。「検査結果を知らない」ということは、よい意味に解釈すれば、もはや放射性物質のことは気にしていないということになるのだろうが、そういう無意識に近い状態のままだと突如、危ない情報が飛び込んでくると一気にひっくり返る恐れがある。 福島県の農林水産物のモニタリング検査結果(二〇二二年度)によると、米、野菜、果物、肉類、水産物など四七〇品目で一万二六四件が検査されたが、基準値の一キログラムあたり一〇〇ベクレルを超えた件数は、牧草・飼料作物の一件だけだった。もはや福島産を気にする理由は全くない状態になっている。こうした地味な調査結果を伝えるのが記者の仕事である。いや記者にしかできない仕事である。その自覚がいまこそ必要だろう。流通事業者の存在意義を示すとき 風評被害の解消に欠かせない存在として、記者以外に見逃せないのが流通事業者である。特に大手スーパーの存在意義は大きい。 もう昔の話になるが、一九九九年に埼玉県所沢市でダイオキシン騒動があった。所沢産のホウレンソウが焼却場由来のダイオキシンで汚染されているというニュースが民放テレビ(テレビ朝日)で流れた。この問題が一気に大きな話題となったのは、大手スーパーが所沢産ホウレンソウの取り扱いを中止したときだった。大手スーパーが取引を中止すれば、当然ながら、記者たちは「危ないネタ」に喜び勇んで駆けつけ、ビッグニュースに仕上げる。以来、ハチの巣をつつくような大騒ぎになった。 この問題は結局、訴訟になり、五年後の二〇〇四年、テレビ局が謝罪し、和解金一千万円を支払うことで終決を見た。深く考えることなく、危ないニュースに飛びつく報道のDNAに警鐘を鳴らす事件でもあった。 結論。処理水の放出にあたって、過去の経験から学ぶべきことは何だろうか。 まず記者は現状を冷静に伝えること、そして安全な情報はたとえ地味ではあっても国民に伝える価値があることを自覚して報じることだ。 一方、流通事業者は風評被害の火付け役になりうる自覚をもち、福島産食品をしっかりと店の棚に置いてほしい(もちろん科学的に安全だという条件付きだが)。店に福島産食品があれば、あえて買うことで福島を応援する消費者もいるだろう。店にモノがなければ、選びようがない。記者と流通事業者が「風評被害を生じさせない」という意識をもつことこそが、処理水放出の成否を握っているのではないだろうか。
- 19 May 2023
- COLUMN