キーワード:SMR
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米新興企業 地下設置型SMRのサイトを選定
米国の新興企業ディープ・フィッション(Deep Fission)社は9月18日、自社が開発する小型モジュール炉(SMR)を地下1マイル(約1.6km)、幅30インチ(約76cm)のボーリング孔に設置する最初の3サイトとして、テキサス州、ユタ州、カンザス州を選定。共同開発プロジェクトを推進するために各拠点のパートナーと基本合意書(LOI)を締結したことを明らかにした。ディープ・フィッション社の開発する原子炉「DFBR-1」(PWR、1.5万kWe)は、原子力、石油・ガス、地熱分野での実証をベースに設計。発生した熱は地下深部にある蒸気発生器に伝わり水を沸騰させ、非放射性の蒸気が急速に地表に上昇、そこで標準的な蒸気タービンを回して発電する。検査が必要と判断された場合、原子炉に取り付けられたケーブルにより、原子炉を地表に持ち上げることが可能。モジュール設計により、出力を最大150万kWeまで拡張可能で、産業現場、データセンター、遠隔送電網、成長する商業ハブ全体を対象に柔軟に展開できるという。また既製部品と低濃縮ウラン(LEU)を利用し、サプライチェーンの合理化を追及。原子炉は地下1マイルに設置され、地下深部の地質が自然封じ込めの役目を果たす、革新的な立地アプローチにより、安全性とセキュリティを強化、地表フットプリントを最小限に抑え、コストの削減をねらう。同社のコストモデルでは、オーバーナイトコスト(金利負担を含まない建設費)の比較で、従来の原子力技術の70~80%となり、発電コスト(LCOE)はkWhあたり5~7セントと見込んでいる。2026年にはライセンスを申請予定。2028年には取得し、想定6か月の建設期間を経て、2029年秋には営業運転の開始を予定している。ディープ・フィッション社は今年8月、米エネルギー省(DOE)の先進炉の実用化に向けた「原子炉パイロットプログラム」の対象に選定され、DFBR-1の2026年7月4日(独立記念日)までの臨界達成を目指している。なお同社は、現CEOのエリザベス・ミュラー氏とリチャード・ミュラー氏の父娘が共同で2023年に設立。E. ミュラーCEOは以前、深部ボアホール放射性廃棄物処理事業を手掛けるディープ・アイソレーション(Deep Isolation)社の共同創設者兼元CEOを務めていた。ディープ・フィッション社はディープ・アイソレーション社と今年4月、先進的な地下原子炉の使用済み燃料と放射性廃棄物の管理で協力するための覚書(MOU)を締結。ディープ・アイソレーション社が特許取得済みの地下処分技術の使用許諾などについて検討する。両社は、ディープ・アイソレーション社の革新的な深部ボアホール処分技術をディープ・フィッション社の最先端の原子炉技術と統合し、顧客に長期的に実用的かつ拡張性のある廃棄物ソリューションを提供したい考え。ミュラーCEOは、「深地層処分は世界的に好まれるアプローチで、海外諸国は地下処分場の計画を進めているが、米国はこの方向でさらなる進展を図る」と指摘。ディープ・アイソレーション社のR. バルツァーCEOは、「新たな原子力技術が登場する中、廃棄物処理に対する先見的なアプローチが不可欠。原子力発電設備容量は2050年までに3億kWe以上増加すると予測されているが、過去70年間に発生した使用済み燃料を未だ永久処分していない。信頼性が高く恒久的な放射性廃棄物の処分方法の確立は、業界の長期的な成功に必要」と強調し、放射性廃棄物を地下深くに安全かつ永久に処分する深部ボアホール技術がソリューションとなるとの考えを示した。
- 10 Oct 2025
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BWRX-300を海外展開へ GVHとサムスンが提携
米GEベルノバと日立製作所の共同出資会社である米GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)と、韓国の建設大手サムスンC&T社(サムスン物産)は10月7日、北米を除くグローバル市場での「BWRX-300」(BWR、出力30万kWe)の導入推進に向けた戦略的提携を発表した。GVHによると、両社は小型モジュール炉(SMR)であるBWRX-300のサプライチェーンの構築や、プロジェクト実施に向けたソリューションなどの共同開発に取り組む。GVHは今年4月、カナダ・オンタリオ州のダーリントン原子力発電所でBWRX-300初号機についてカナダ原子力安全委員会(CNSC)から建設許可を取得しており、2030年末までの運転開始を目指している。一方、サムスンC&T社も今年4月、エストニアの新興エネルギー企業フェルミ・エネルギア社とSMR導入で提携し、同国でのSMR2基の配備に協力するなど、欧州での小型原子炉導入事業を加速させている。GVHの電力部門CEO、M.ジンゴーニ氏は、「当社はカナダでBWRX-300の初号機を建設中であり、SMR産業の展開と規模拡大をリードする立場にある」と述べた。サムスンC&T社の原子力分野とインフラ建設プロジェクトにおける豊富なプロジェクト実施経験を活かし、両社はSMR産業分野での世界的な地位確立を目指すという。両社はスウェーデンで計画されている5基のBWRX-300導入計画についても協力することになっている。
- 09 Oct 2025
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エネ庁 革新炉ワーキンググループを1年ぶりに開催
総合資源エネルギー調査会の革新炉ワーキンググループ(以下WG、座長=斉藤拓巳・東京大学大学院工学系研究科教授)が10月3日、約1年ぶりに開催され、次世代革新炉の開発の道筋の具体化に向けた議論が行われた。前回のWG開催後に策定された第7次エネルギー基本計画では、原子力を脱炭素電源として活用することが明記され、次世代革新炉(革新軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合)の研究開発を進める必要性が示された。今回のWGでは、実用化が間もなく見込まれる革新軽水炉と小型軽水炉に焦点を当てた議論が行われ、開発を進める各メーカー(三菱重工・日立GEベルノバニュークリアエナジー・東芝エネルギーシステムズ・日揮グローバル・IHI)から、安全性への取り組み、技術の進捗、今後の見通しなどの説明があった。三菱重工のSRZ-1200は、基本設計がおおむね完了しており、立地サイトが決まれば詳細設計に進む段階で、すでに原子力規制庁との意見交換も5回実施済み。規制の予見性向上に取り組んでいるとの報告があった。日立GEベルノバニュークリアエナジーからは、開発中の大型革新軽水炉HI-ABWRや小型軽水炉BWRX-300の説明があり、特にBWRX-300はカナダのオンタリオ州で建設が決定しているほか、米国やヨーロッパでも導入・許認可取得に向けた動きがあると述べた。東芝エネルギーシステムズは、開発中の革新軽水炉iBRに関して、頑健な建屋と静的安全システムの採用で更なる安全性向上を進めながら、設備・建屋の合理化を進め早期建設の実現を目指すと強調した。IHIと日揮ホールディングスは、米国のNuScale社が開発中の小型モジュール炉(SMR)について、米国では設計認証を取得し、ルーマニアで建設に向けた基本設計業務が進められていると伝えられた。両社は、経済産業省の補助事業を活用し、原子炉建屋のモジュール化や要求事項管理、大型機器の溶接技術、耐震化などの技術開発に取り組んでいるという。その後、参加した委員から多くの期待感が示されたが、同時に課題点の指摘があった。例えば、革新炉開発の技術ロードマップの定期的な見直しの必要性や、日本特有の自然条件への適合に関する議論の進展、また、各社が進める新型炉の開発状況に応じた規制要件や許認可プロセスの予見性向上の必要性など挙げられた。また、エネルギー安全保障の観点や立地地域との信頼の醸成など技術開発以外で取り組むべき事項についても意見があった。産業界の立場から参加している大野薫専門委員(日本原子力産業協会)は、ロードマップには技術開発だけでなく、投資判断の際に重視される事業環境整備やサプライチェーン、人材の維持・強化についても明示的に盛り込むよう要望。また、環境影響評価や設置許可などの行政手続きについては、標準的なタイムラインの提示が必要だと指摘した。 小型軽水炉のロードマップに関しては、国内での開発動向や新たな知見を反映したアップデートに加え、日本企業が参画する海外の小型軽水炉プロジェクトの導入可能性も視野に、ロードマップで取り上げることを提案。またGX関連支援では、革新技術だけでなく、サプライチェーンを支える製造基盤の維持に対する支援継続も不可欠と訴えた。
- 07 Oct 2025
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欧州SMR産業アライアンス 戦略行動計画を採択
欧州委員会の域内市場産業・起業家精神・中小企業総局は9月12日、ブリュッセルで開催された欧州小型モジュール炉(SMR)産業アライアンスの第2回総会において、初の「戦略行動計画(Strategic Action Plan)」が採択されたことを明らかにした。本計画は、今後5年間の活動計画を包括的かつ詳細に示し、2030年代初頭までに欧州におけるSMRの開発・実証・展開を促進することを目的としている。SMRの迅速な展開は、欧州産業の競争力の維持、2050年までのカーボンニュートラル実現に向けたエネルギー移行の推進、さらにエネルギー分野におけるEUの戦略的自律性を高める上で極めて重要とし、戦略行動計画では今後5年間で実施する10の具体的かつ重点的な行動を提示した。SMR展開に関する主要課題として、発電以外での市場需要の開拓、サプライチェーンの再活性化、研究開発と人材育成の推進、資金調達の機会を創出、規制枠組みの簡素化などに焦点を当てている。10の重点行動と目標とする達成時期は以下のとおり。SMR実証プロジェクトの枠組みづくり(~2026年6月)データセンター、エネルギー多消費産業、地域暖房などの用途でSMR実証プロジェクトを企画。公共部門・開発者・産業界の三者協定を検討。研究・実験施設の整備計画(~2026年12月)SMRの研究開発に必要な試験施設を特定・評価し、既存設備の改修や新設に向けた計画と資金計画を策定。規格・標準化と技術交流の促進(~2028年6月)SMR向けの共通規格・基準を提案し、EU域内での技術・データ交換を円滑化する制度を整備。サプライヤー連携プラットフォーム構築(~2026年12月)各国の有資格サプライヤーとSMR開発プロジェクトを結ぶマッチング機能を備えた支援プラットフォームを構築。EUサプライチェーン強化策の提言(~2026年6月)サプライチェーンの現状を評価し、NZIA(ネットゼロ産業法)やIPCEI(欧州共通利益に適合する重要プロジェクト)を活用した強化方策を提案し、能力拡大を継続的に推進。欧州「ネットゼロ・アカデミー」構想(~2027年1月)SMR・AMR(先進モジュール炉)開発に必要な専門スキルを特定し、欧州全体で人材育成を担う教育アカデミーの設立を計画。公衆・関係者向けエンゲージメントツール(試行:2026年3月/完成:2026年12月)地域社会や関係者との対話を促進するためのツールキットを開発し、早期計画段階で導入。共通安全評価の推進(2025年以降継続)規制当局間の協力を促し、安全性に関する「業界ポジションペーパー」を作成。早期審査を支援する体制を構築。標準化燃料設計の支援(~2027年10月)軽水炉型SMRならびにAMR向けの標準化燃料の仕様策定を支援し、安全性と互換性の向上を図る。投資リスク低減と資金支援策の提案(~2026年3月、以降毎年更新)初号機(FOAK)開発リスクを軽減するための資金支援・保証制度を提案し、EU基金・金融機関と連携して投資環境を整備。同アライアンスは2024年2月に設立され、産業界のリーダー、研究者、政策立案者など、350を超える幅広いSMR関係者が結集。共通のビジョンと行動計画の下で協働することを目的としている。運営面では、EC、Nucleareurope(欧州原子力産業協会)、欧州の100名以上の科学者や環境専門家のグループの欧州持続可能な原子力技術プラットフォーム(SNETP)が主要パートナーとしてアライアンスを支え、複数の具体的なSMRプロジェクト支援や戦略行動計画に基づく施策の実施を主導。アライアンスの運営は理事会が指揮し、戦略的助言や重要な意思決定を行っている。戦略行動計画を成功裏に実施するには、産業界および公共部門の強力なコミットメントと、多様な関係者間の協力が不可欠であるとし、同アライアンスは、加盟団体、EC関連部局、他のEU機関、国際機関と緊密に連携し、欧州におけるSMRの迅速かつ円滑な展開を確実に行っていく方針である。
- 07 Oct 2025
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ブルガリア 米GEベルノバとSMR導入可能性を協議
ブルガリアのR. ジェリャズコフ首相とZ. スタンコフ・エネルギー相は第80回国連総会に出席するために米国を訪問。9月24日、GEベルノバのR. マルテラCCOと会談し、小型モジュール炉(SMR)の導入の可能性について協議した。スタンコフ大臣は、「ブルガリアは、安全保障と適正価格でのエネルギーへのアクセスを確保するために、近代的なエネルギーインフラと戦略的パートナーシップに積極的に投資している欧州諸国の1つであり、世界のクリーンエネルギーソリューションの地図上でますます認知されるようになっている」と指摘。南東欧地域において、エネルギーリーダーの地位を強化すべく、現在進行中のコズロドイ原子力発電所7-8号機に米ウェスチングハウス社製AP1000を2基増設するプロジェクトに加えて、長期的な安定性、予測可能性、低コスト、低排出の実現に貢献する小型モジュール炉(SMR)をブルガリアに導入する可能性についても言及。ブルガリアがエネルギー安全保障、脱炭素化、経済成長という戦略的目標を達成する上で、GEベルノバ社との協力に期待を寄せた。さらに同大臣は9月26日、カナダのオンタリオ州を訪問し、同州のS. レッチェ・エネルギー・鉱業相とも会談。SMRに焦点を当て、両国間のエネルギー協力の深化について討議した他、GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社製SMR「BWRX-300」(BWR、30万kWe)の建設プロジェクトが進むダーリントン・サイトも視察した。これらの会談に先立ち、国際原子力機関(IAEA)総会期間中の9月16日、スタンコフ大臣は米エネルギー省のC. ライト長官とも会談。民生用原子力協力を強化するという両国間の政府間協定の目的を再確認する共同声明に署名し、革新的な原子力技術の開発と展開で協力することを確認した。これを機に、ブルガリアは米国研究所の専門知識を活用して、SMRの展開を加速するための候補サイトの立地可能性と適合性評価を事前に調査し、ブルガリア政府当局とプロジェクト会社であるコズロドイ原子力発電所-New Build EADは革新的技術の導入に向けた準備を進める。米国貿易開発庁は既に、ブルガリアの条件に最適なSMRを特定するため、様々な炉型の評価に資金提供する用意があることを表明している。原子力発電分野で50年以上の経験を持つブルガリアは、SMR導入により原子力をさらに拡大し、将来のデータセンター立地のためのプラットフォームを構築したい考え。スタンコフ大臣は、「他の国ではそのようなセンターの建設には10年かかるが、ブルガリアは大幅に短い期間で提供可能であり、国際的な投資家やパートナーにとって魅力的である」と強調。ブルガリアは将来へのビジョン、安定したインフラ、地域のエネルギー移行を主導し、信頼できるエネルギー輸出国であり続けるとの展望を示した。
- 06 Oct 2025
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スロベニア クルスコ増設のF/S結果を公開
国営スロベニア電力(GENエネルギア)は9月4日、クルスコ原子力発電所の増設計画(JEK2プロジェクト)に関する技術的な実行可能性調査(TFS)の結果、フランス電力(EDF)が提案するEPRならびにEPR1200、米ウェスチングハウス(WE)社のAP1000のいずれの炉型もJEK2サイトにおいて技術的に実行可能であることが確認されたと明らかにした。GENエネルギアは今年1月、JEK2プロジェクトのTFS実施契約を、サプライヤー候補である仏EDFならびに米WE社と締結。WE社は、韓国の現代E&C(現代建設)社と協力してTFSを実施した。当初、TFS実施の入札を予定していた韓国水力・原子力(KHNP)は、ビジネス環境の評価と戦略的ビジネスの優先事項の変更のため、同入札に参加せず、JEK2プロジェクトの建設入札にも参加しないとGENエネルギアに通知していた。GENエネルギアは2024年5月、出力100万kWe~240万kWe規模の増設プラントを、スロベニアの電力システムへ接続した場合の安全性・安定性解析の結果、電力網への影響の観点から、JEK2プロジェクトの最適な設備容量は最大130万kWeであると結論づけた。JEK2の推定投資額(オーバーナイトコスト((金利負担を含まない建設費)))は9,300ユーロ/kWで、100万kWeのプラント増設で93億ユーロ、165万kWe増設で154億ユーロとの経済性評価を明らかにしている。なおGENエネルギアは、投資の経済的実行可能性を保証するJEK2の電力の最低販売価格を70.2ユーロ/MWhと推定している。TFSでは、スロベニアにおける特定の技術要件、欧州の法的要件、その他セキュリティ等を調査。両社の炉型は、いずれもJEK2の立地において技術的に実行可能であり、すべての規制枠組みに対応可能であると評価している。GENエネルギアの新規原子力施設部門責任者V. プラニンク氏によると、各設計は洪水や地震リスクを考慮し、既存の環境に安全かつ効率的に適合できることを確認済みで、設計寿命は60年とされており、条件を満たせば最大80年まで延長可能。サイトは、使用済み燃料や低・中レベル放射性廃棄物の一時的な乾式貯蔵施設の建設にも十分なスペースがあることを確認。調査では特に、環境影響の評価に重点が置かれ、提案されている炉型は自然通風冷却塔を採用、サヴァ川への影響を最小限に抑え、炭素排出量も最小となる、環境的に最も受入れ可能な方法であるとしている。同プロジェクトはまた、地域に広範な経済的利益をもたらし、地元企業のサプライチェーンへの参入、新規雇用の創出、インフラ整備、サービス開発などを通じて、人口の定着に寄与すると強調。投資額の見積もりも、2024年5月の経済性評価の範囲内に収まっているという。現在、増設に係わるプロセスの透明性の確保のために、JEK2の国家空間計画(DPN)イニシアチブの一般公開が今年7月から10月末まで進行中であり、一般の人々が提案や質問を行う。その後、DPNの開始に関する政府決定に続き、環境影響評価を実施する計画だ。GENエネルギアは、透明性を確保しながら、2028年までにJEK2プロジェクトの是非を問う国民投票を実施し、最終投資決定(FID)を予定。FIDから建築許可の取得までの期間を約4年、推定建設期間(サイト内の建設工事の開始から発電の開始まで)は7年と見込んでいる。スロベニアでは当初、2024年11月に国民投票の実施を計画していたが、その合法性やプロジェクトの透明性を疑問視する環境団体や世論の批判を受け、国民投票の実施を中止した。同社は、EU各加盟国が策定する国家エネルギー・気候計画(NECP)に基づき、2040年までに大型炉、2050年までにJEK2プロジェクトを補完するSMR(設備容量約25万kWe)の導入を想定しており、SMRを設置する可能性のある場所を特定するための作業も並行して実施している。スロベニアでは現在、クルスコ原子力発電所(PWR、72.7万kWe)が同国の総発電電力量の約35%を供給している。同発電所はGENエネルギアと隣国クロアチアの国営電力会社のHrvatska elektroprivreda(HEP)が共同所有。WE社は運転と燃料供給のサポートを通じて、GENエネルギアと数十年にわたるパートナーシップを有する。スロベニアの電力需要は、2050年までに倍増することが予想されているが、2033年以降は総発電電力量の約3分の1を供給する火力発電所を閉鎖する計画だ。2043年にはクルスコ発電所の運転期間(60年)も満了する。
- 29 Sep 2025
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IAEAの規制と設計のアプローチの調和が初めて具体化
国際原子力機関(IAEA)の総会初日の9月15日に開催された、ベルギー主催のサイドイベントで、IAEAによる原子力調和・標準化イニシアチブ(NHSI)を活用した、小型モジュール炉(SMR)の国際的な共同事前認可プロセスが始動した。調印式には、IAEAのR. グロッシー事務局長も出席した。IAEAは2022年7月、SMRを始めとする先進炉の世界展開に備え、NHSIを立ち上げた。設計が標準化されることで、迅速かつ効率的に複数の国において認可され、かつ安全に導入されるために、各国間の規制と設計のアプローチを調和させる方法を追究している。今回、NHSIの対象となったのは、第4世代の鉛冷却型小型高速炉「EAGLES-300」。国際的な事前認可パイロットプロジェクトにおいて、ベルギー、ルーマニア、イタリアの各原子力規制当局が規制アプローチの調和で連携し、IAEAはこの取組みをNHSIのパイロットプロジェクトとして支援していく方針だ。イタリアのアンサルド・ヌクレアーレ(Ansaldo Nucleare)社、同経済開発省傘下の新技術・エネルギー・持続可能経済開発局(ENEA)、ベルギー原子力研究センター(SCK-CEN)、およびルーマニアの国営原子力技術会社(RATEN)の4者は今年6月、第4世代の鉛冷却式の小型モジュール炉(SMR)の設計と商業化に取組むため、「イーグルス・コンソーシアム(Eagles Consortium)」を設立。同コンソーシアムは、欧州の産業界のリーダーと原子力研究機関とのユニークなコラボレーションにより、ベルギー、イタリア、ルーマニアの産業のノウハウと液体金属に関する研究の専門知識を組合せ、LEANDREAとALFREDという2つの主要試験施設により、第4世代の鉛冷却高速炉「EAGLES-300」(30万kWe)の実証炉を2035年までにベルギーで建設し、2039年には商業化と広範な展開を目指している。同コンソーシアムは、これまで先進的SMRの開発段階で各国の規制当局がコンソーシアムの設立からわずか3か月後という早い段階から連携したことはなく、安全要件等で最初から合意することは、規制の調和と商業化の道のりにおいて重要なステップになると強調している。SMRは国際的な展開と量産を前提に設計されているが、各国が独自の規制や手続きを維持すれば、開発者はその都度、長期にわたる認可プロセスに直面し、展開が遅れるため、SMRのスケールメリットが損なわれる。規制の調和は、より迅速で効率的かつ安全な商業化を可能にするとの考えだ。事前認可は承認を得ることが目的ではなく、原子力規制当局と開発者が正式な許可申請前の早い段階で対話を行い、安全要件、技術的課題、規制枠組みについて相互理解を築くことが狙い。同コンソーシアムは、鉛冷却型SMRのような先進技術においては、事前認可により初期段階でボトルネックを特定するのに役立つと指摘する。一般的に、まずは安全原則といった大枠から始まり、徐々に詳細な技術議論へと進み、次の正式な認可手続きでは、各国の規制当局が炉設計について、安全性、セキュリティ、放射線防護、環境影響に関する法的・技術的要件を満たしているかを審査するという。先進炉やSMRの安全かつ確実な導入促進を目的とした同イニシアチブにおいて最初の具体的な一歩であるとし、IAEAのグロッシー事務局長は、「欧州の原子力イノベーションにとって飛躍的な前進であり、地域協力の強力な事例だ」と語った。
- 26 Sep 2025
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IAEA総会 世界的緊張の高まりに決意を表明
国際原子力機関(IAEA)の第69回通常総会が9月15日から19日の日程で、オーストリアのウィーンで開催されている。IAEAが世界中で活動を展開していることを反映し、今年のIAEA総会には、155か国から3,100人以上が出席。非政府組織(NGO)からの参加者数は、2021年以降2倍以上に増加、政府間機関(IGO)からの参加者数も増加した。開会の冒頭にスピーチしたIAEAのR. グロッシー事務局長は、「今年の総会は、軍事紛争、テロリズム、核規範の崩壊、不平等の拡大が顕在化し、世界的な緊張が深刻な時期に開催されている。我々の決意が試されており、IAEAはこの挑戦に立ち向かう」と表明。加盟国に対し、国際平和の最重要基盤の一つである不拡散体制、NPTへのコミットを強く要請した。同事務局長はまた、IAEAが核兵器拡散のリスク、核戦争のリスクの軽減をはじめとし、原子力による電力供給、食料供給、がん治療への支援まで、独自の任務を通じた幅広い貢献について説明。かつて、原子力発電の利点と優れた安全実績が気候目標の達成に果たす役割について公の場で話すことすら躊躇されていたが、3年前に急遽、エネルギー安全保障が優先され、多くの国で原子力発電が議題となったと言及。同事務局長はこれを「リアリズムへの回帰」と表現し、2050年までに原子力発電設備容量が2.5倍に増加するとの見方を示した。グロッシー事務局長はその背景として、アフリカ、欧州、南北アメリカ、アジアにおける原子力の初導入や既設炉の増強への関心の高まりを挙げ、40か国近くが、初期調査の実施から初号機の建設までさまざまな開発段階にあり、さらに20か国以上が、将来のエネルギーミックスの一部として原子力を検討していると言及。IAEAのマイルストーン・アプローチは、新規導入においてゴールドスタンダードではあるが、原子力発電の開発には、新規導入国への支援、規制対応、資金調達を考慮する必要があり、IAEAが統合原子力インフラレビュー(INIR)ミッションの実施や、各国当局、規制当局、ステークホルダーに対するトレーニングを目的とした小型モジュール炉(SMR)スクールを開催している事例を紹介した。また、水素製造から工業用熱、海水淡水化から船舶推進など、原子力の非電力用途についても支援を継続し、特に海洋でのSMR利用についてはIAEAの新たなイニシアチブであるATLAS(海上での応用のための原子力技術ライセンス)を通じて、支援を強化していく方針を示した。規制対応については、SMRの世界展開に備え、原子力の調和および標準化イニシアチブ (NHSI)を立ち上げ、標準化された設計が、迅速かつ効率的に複数の国において認可され、かつ安全に導入されるために、各国間の規制と設計のアプローチを調和させる方法を追究していると説明した。また、資金調達の面においても、EUのタクソノミーのような先進国向けの強力な支援の枠組みだけでなく、開発途上国が取り残されないためにIAEAが開発銀行や国際金融機関への働き掛けを行ってきたと説明。世界銀行はすでに、エネルギーミックスに原子力の追加を積極的に検討している国々に資金調達が可能になる道を拓いたが、その他の開発銀行や国際金融機関が来年の総会までに世界銀行に追随することに期待を寄せた。一方で、現地における原子力の社会的許容こそ、原子力運用の最初のライセンスであると念押しした。これに続く各国代表からの一般討論演説では、日本から参加した城内実科学技術政策担当大臣が登壇。冒頭、広島と長崎に原爆が投下されてから80年を迎え、この悲劇を決して繰り返してはならないとの確固たる信念のもと、核兵器のない世界の実現に向けて国際的な取組みを主導していくと決意を表明。国際社会の分断は深まり、安全保障環境が困難な状況下において、IAEAの核不拡散及び原子力の平和利用における役割は、これまで以上に重要であり、日本がIAEAの取組みに全面的な支援を継続していくと語った。また、日本はIAEAの発電のみならず、農業や医療などの幅広い分野における原子力利用に係る取組みを支持し、IAEAと緊密に連携しながら、原子力利用を国内外で推進する方針を示した。今年2月に決定された第7次エネルギー基本計画に示されているように、安全を最優先に、脱炭素電源の一つとして原子力発電を最大限活用するとともに、国際協力による次世代原子炉や核融合エネルギーの研究開発を推進していくとした。ALPS処理水の海洋放出は、原子力規制委員会の関与のもと、14回にわたって計画的に安全に実施され、放出の安全性は、継続的な審査や近隣諸国を含む分析研究所や国際的な専門家による厳格なモニタリングを通じて、継続的に確認されていると紹介。福島第一原子力発電所の廃炉に向けた取組みについては、燃料デブリの試験的回収など、安全かつ着実な廃炉プロセスに向けて大きな進展が見られたとし、科学に基づく透明性の高い情報を国際社会に提供し、IAEAによるレビューとモニタリングに全面的に協力していくと語った。 ◇ ◇例年通りIAEA総会との併催で加盟国等による展示会も行われている。日本のブース展示では、「新しいエネルギー戦略のもとでの原子力発電」をテーマとし、革新軽水炉やSMRなど次世代革新炉の開発・設置にむけた取り組みを中心に、ウラン蓄電池研究開発や医療用RI利用アクションプログラムなども展示するとともに、試験的デブリ取り出しを開始した福島第一原子力発電所の廃炉進捗状況も紹介している。展示会初日には、日本政府代表の城内実科学技術政策担当大臣がブースのオープニングセレモニーに来訪。同大臣は挨拶の中で、日本は今後も世界に向けて、科学的かつ透明性高く情報発信を継続していくと訴えた。今回のブースでは、復興庁の協力を得て福島の情報も発信。日本原子力産業協会の増井理事長による乾杯では、福島県産の日本酒がブース来訪者に振舞われ、福島の復興を後押しする機会ともなった。
- 17 Sep 2025
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ポーランド 石炭の町が描く“次の10年”
ポーランドの原子力プロジェクトをめぐるオピニオンリーダーたちが、このほど来日した。顔ぶれの多くは、かつて石炭で栄えた自治体の副市長クラスや議会関係者である。脱炭素とエネルギー安全保障の双方をにらみ、石炭火力の終幕と次の主役探しを同時に迫られる地域が、日本の原子力発電をめぐる非常時対応や廃止措置など、“現場”をその目で確かめに来た——その動機は切実だ。ポーランドは大型炉とSMRの“二正面作戦”を採る。大型炉はポモージェ県ルビアトボ=コパリノでAP1000×3基の建設計画が進み、8月末に県知事から準備作業許可を取得した。今秋から測量・フェンス設置・伐採・整地などの先行作業が順次始まる見込みで、2036~38年の段階的運転開始を見通すという。一方、SMRはGE日立製BWRX‑300を採用し、初号機建設サイトを化学コンビナートの街ブウォツワベクに決定。合弁会社OSGEが独占使用権を持ち、環境影響評価(EIA)と立地調査が進行している。今回来日したリーダーたちは、ベウハトフやコニンなどの石炭・褐炭地域が中心。これに中央政府のエネルギー省担当官が同行した形だ。一行は、日本原子力研究開発機構の「原子力緊急時支援・研修センター(NEAT)」(茨城県)でオフサイトセンターの運用や日本の緊急時システムについて見学した。福島第一サイトでは、工程管理や情報公開の透明性が、どのように社会的信頼を支えるのか、時間軸で追体験。玄海原子力発電所(佐賀県)では多重防護や特重施設、地震津波対策の考え方などを、福井県庁では原子力担当部署より、行政としての原子力との関わり方などを学んだ。4日間で日本各地を、駆け足で回ったことになる。ポーランドの石炭地域が他産業への移行を迫られているのは、欧州連合(EU)加盟後に強化されたEUの環境規制(LCPDからIED/BAT)への適合や欧州排出量取引制度(EU-ETS)の炭素価格上昇といった、規制および市場からの圧力に加え、主力であった褐炭資源の先細りが重なったためである。これに伴う雇用・地域経済の痛みを和らげる政策枠組みとしてJust Transition(公正な移行)が整備されてきた。地域の住民からは、期待と不安が入り混じった声があるという。現実的な移行が目前に迫る中、地域のリーダーたちが語った「次の10年」はきわめて実務的だ。第一に一貫した人材育成の道筋である。初等・中等から大学、工科系へと、地域の若者が段階的に学び、将来の担い手へと育つ道筋を用意する。「学校で論理的に説明すること」を重視し、テクノロジーや安全文化を丁寧に説明していく姿勢が強調された。チョルノービリ事故を知らない若い世代には、「感情的な賛否より、なぜ必要かを自分の言葉で理解してもらうことが効く」という。第二に既存の雇用や産業の連続性だ。鉱山や火力発電所の閉鎖が目前に迫る地域もあり、人口・雇用の大規模な減少への懸念は切実なようだ。20万人だった人口が、すでに5万人に激減している地域もあるという。だからこそ、石炭で培ったスキルを土台に、次の仕事を地元に残す(原子力の運転・建設・保全などへ職能を移す)という発想が中核になる。産業の維持の観点から、BWRX-300への期待が多く寄せられており、「SMRのサプライチェーンへ参画することで、既存の企業や人材の受け皿を広げていきたい」との声もあった。そして第三に、避難計画の策定など行政としての準備である。日本のシステムを学んだ上で、ポーランド版の緊急時システムをどう整えるか、引き続き検討していくという。また、特に日本に対し、施設運用や人材育成などの面で、実務的なセミナーやワークショップをポーランドで開催して欲しいとの要望が上がっていた。原子力産業新聞から「ポーランドの原子力プロジェクトにとっての最大の課題」を問われた、エネルギー省のZ.クバツキ原子力担当参事官は、「時間」と即答した。「許認可のプロセスがとにかく長い。ポーランドの場合、欧州委員会との調整も必要になる。調整を終えた後も着工から運開まで、ほぼ10年かかるだろう。時間が延びれば延びるほど、コストや制度面の前提が崩れやすくなる」。同氏は差額の清算で収入を安定させる仕組み、いわゆるCfDs(差金決済)にも触れ、「市場価格が高いときは事業者が払い戻し、低ければ差額を受け取るという設計は理解している。しかし、これが本格的に効果を発揮するのは運開後だろう。工期が長引けば長引くほど建設コストを吸収し切れなくなる」と懸念を示し、改めて「だからこそ“時間”が最大の課題だ」と強調した。
- 16 Sep 2025
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米WE社 英国でサプライチェーンを拡大
米ウェスチングハウス(WE)社は9月3日、英国企業6社と了解覚書(MOU)を締結した。英国において、同社のAP1000ならびに小型モジュール炉(SMR)のAP300を採用する新規原子力発電プロジェクトの実施を目指す。WE社は、2050年までに国内で合計2,400万kWeの新規原子力発電所を稼働させ、国内電力需要の4分の1を原子力でまかなうという英国の野心的な目標を支援するために、英国でのサプライチェーンを強化する考えだ。MOUを締結したのは、William Cook Cast Products、Trillium Flow Technology、Curtiss-Wright Controls、Boccard UK、Bendalls Engineering、Sheffield Forgemastersの6社。今回の合意により、同6企業からのバルブ、ポンプ、アクチュエーター、機械・電気配管および計装(MEPI)モジュール、圧力容器、タンク、熱交換器、配管、鋳造・鍛造鋼部品などの主要な原子炉部品の供給を想定している。WEエナジー・システムズ社のD. リップマン社長は、「今回の合意は、当社が英国を主要パートナーとして原子力事業を展開するうえで重要なマイルストーン。これらサプライヤーとの協力により、英国の新規建設での技能労働者の雇用創出や、欧州や国際的なプロジェクトへの支援にもつながり、経済的利益が見込める」と語った。WE社が2023年5月に発表したAP300は、同社のAP1000をベースとした1ループ式の30万kWeのPWRで、2030年代初頭に初号機の運転開始を目指している。AP300は、AP1000のエンジニアリング、コンポーネント、サプライチェーンを活用し、許認可手続きの合理化が可能。2024年2月、WE社は、英国のコミュニティ・ニュークリア・パワー(CNP)社と、イングランド北東部のノース・ティーサイド地域にAP300×4基の建設で合意した。英エネルギー安全保障・ネットゼロ省は同年8月、AP300の包括的設計審査(GDA)への参加を承認。一方で、WE社は、英政府のSMR支援対象選定コンペからは撤退した。サプライチェーンの他の構築事例としては、WE社は2024年12月、BWXTカナダ社と、カナダ国内外における原子力発電の新規建設プロジェクトを支援する了解覚書(MOU)を締結。BWXTカナダ社による、AP1000とAP300向けの原子炉容器、蒸気発生器、熱交換器などの主要コンポーネントの供給を想定している。同10月には、造船事業のほか、船舶修理や海上輸送を手掛けカナダのシースパン社とスプール配管や鋼鉄構造物などの原子炉コンポーネント製造に係る協力でMOUを締結している。さらに今年3月には、カナダ・サスカチュワン州のサプライヤー6社とMOUを締結し、電気機器や、鉄骨構造物など、主要な原子炉コンポーネントを製造し、カナダ国内外での新規建設プロジェクトを支援する体制を整えた。AP1000は世界で6基(中国で4基、米国で2基)が運転中である。ポーランド、ウクライナ、ブルガリアの新設プロジェクトでもAP1000が採用されており、他欧州諸国や北米でも採用が検討されている。
- 11 Sep 2025
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シンガポール 先進原子力技術の導入を視野に調査を開始
シンガポール貿易産業省(MTI)傘下のエネルギー市場監督庁(EMA)は9月2日、先進原子力技術、特に小型モジュール炉(SMR)に焦点を当て、その安全性、技術の成熟度、商業化の準備状況に基づき、安全性能、技術的実現可能性を評価することを明らかにした。EMAは、シンガポールのエネルギー産業の規制と開発を担当している。2024年12月に先進原子力技術に関するコンサルティングサービスの入札を開始し、英国のインフラコンサル企業のモット・マクドナルド社を選定した。同社は、原子力産業分野において60年以上にわたり、独立した安全性評価、ライセンスや規制面、技術成熟度評価、多様なエネルギーシステムへの原子力発電の統合などで、欧州、中東、オーストラリアなどの政府、規制当局、事業者に助言してきた経験を有する。なお、この調査のサブコンサルタントに、韓国の現代E&C社(現代建設)を採用しているという。EMAは、政府は原子力導入を決定してはいないが、特に先進的な原子力技術について理解を深め、能力の強化、専門家との協力継続は重視すべきとの考え。原子力導入の可否は、安全性、信頼性、経済性、環境持続可能性といった観点から、シンガポールの状況に即して慎重に検討する必要があるとしている。シンガポールは、面積約720 km2(東京23区よりやや大きい)、人口およそ570万人の高密度都市国家。世界中の企業が拠点を置くビジネス都市でもあり、金融・貿易・物流・ITを中核に産業が発展している。シンガポールの総発電電力量は570億kWh(2023年)で、年々上昇傾向にある。電源別発電量では、天然ガスが94.5%を占め、その他(都市廃棄物、バイオマス、太陽光など)で4.3%。石炭0.9%、石油0.4%。天然ガスを含む化石燃料は輸入に依存している。シンガポールは再生可能エネルギー開発と持続可能性への取組みを強化しており、太陽光発電設備の容量が徐々に増加すると予想されているが、再生可能エネルギー源の拡大にも限度があるため、2050年までに排出ネットゼロの気候目標の達成とともに、増大する電力需要への対応が課題となっている。2012年、MTIが実施した原子力エネルギーに関する事前実現可能性調査では、現在利用可能な原子力技術はまだシンガポールでの展開に適していないと結論付けられた。EMAはSMRやその他の高度な原子力技術の進歩を引き続き監視しつつ、将来のエネルギー選択肢をオープンにして、シンガポールへの影響を評価する能力を構築していく考えを示している。シンガポールは2024年7月末に、米国と原子力協力協定(通称123協定)を締結。両国は、米国務省が主導する「SMRの責任ある利用のための基盤インフラ(FIRST)」プログラムなどの能力開発イニシアチブを通じて、SMRのような先進的な原子力技術によるエネルギー需要への対応と、気候目標の達成に向けて、民生用原子力協力をさらに強化する方針。同協定に調印したV. バラクリシュナン外相は、原子力導入の決定にあたり、原子力の安全性、信頼性、経済性、環境の持続可能性について詳細な研究が必要であるとし、「従来の原子力技術はシンガポールには適さないが、民生用原子力技術の進歩を考えると、いかなるブレークスルーにも後れを取らないようにしなければならない」と語っている。
- 10 Sep 2025
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フランス 熱供給向けSMR導入を検討
フランスのSMR開発事業者のカロジェナ(Calogena)社は8月26日、仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)と、CEAのカダラッシュ研究所でカロジェナ社製SMR(小型モジュール炉)の設置と熱供給ネットワークへの接続可能性の調査を実施する基本合意書(LOI)を締結した。カロジェナ社は、ハイテク産業を専門とする仏ゴルジェ(Gorgé)グループの子会社で、熱出力3万kWのSMR「CAL30」を利用した出力ボイラーを開発中。同炉はシンプルな設計、低温と低圧、競争力のあるコストに特徴があり、特に都市の地域熱供給ネットワーク向けカーボンフリーエネルギー源として設計されたもの。フランスでは、暖房エネルギーの95%は化石燃料またはCO2排出由来である。カダラッシュ研究所では2032年までの運転開始を目指している。カロジェナ社は2023年、仏政府の投資総局(Secrétariat Général Pour l'Investissement, SGPI)を通じて実施された「革新的原子炉」公募プロジェクトに採択され、原子力技術の開発支援を受けている。CEAは、原子力分野のイノベーションに重要な役割を果たしており、フランス産業界や主要研究プログラムを支援。近年では、「フランス2030」計画における採択プロジェクトの開発・産業化支援にも取組んでいる。カダラッシュ研究所は、原子力(核分裂・核融合)、太陽エネルギー、バイオエネルギー、水素のようなカーボンフリーエネルギーの研究・技術開発の拠点。また、仏海軍向けの原子力推進システム関連事業、原子力施設の廃止措置や除染、原子力安全に関する研究にも従事している。現在、CO2を排出する化石燃料(ガスや石炭)に大きく依存している暖房市場に対応するため、暖房分野での原子力利用が国際的に検討され始めている。フィンランドのクオピオ市の地域熱供給事業者であるクオピオン・エネルギア(Kuopion Energia)社は熱出力が9万~12万kWの原子力による熱供給の可能性を検討しており、カロジェナ社は、クオピオン社の環境影響評価(EIA)プロセスに招請された。クオピオン社は、2030年代半ばまでにバイオマス発電所を閉鎖する計画。原子力地域熱供給の候補地として、市の北部のソルササロ(Sorsasalo)と南部のヘポマキ(Hepomäki)に位置する2地点を選定している。なおクオピオン社は、フィンランドのSMR開発企業であるステディ・エナジー(Steady Energy)社とも2024年7月、SMRによる地域暖房用の熱供給の開始に向けて、事前準備の実施で合意している。
- 08 Sep 2025
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マレーシア 原子力導入を検討へ
マレーシアのエネルギー移行・水資源変革省(PETRA)のファディラ・ユソフ大臣(兼副首相)は8月19日、同国で開催された国際グリーンビルド会議(IGBC)2025で基調講演を行い、安定したベースロード電源としての可能性を評価するために、小型モジュール炉(SMR)を含む原子力発電の実行可能性調査(F/S)を実施していることを明らかにした。ファディラ大臣は、このF/Sは再生可能エネルギーの導入が困難な地域、特にマレーシア半島とサバ州に焦点を当てると言及。また、原子力がマレーシアの持続可能なエネルギーエコシステムに責任をもって統合されるよう、廃棄物管理戦略を慎重に評価するとともに、既存の法律や関連規制の改正を含む規制要件や人材開発にも焦点を当てるという。加えてPETRAは、原子力の安全性、保障措置、セキュリティを検討し、原子力がより広く受け入れられるようにコミュニケーションを重視すると強調した。なお、エネルギーミックスに原子力を含める決定を確固たるものにするには、18の国際条約と協定を批准する必要があると述べ、そのうちの1つに米国との原子力協定(いわゆる123協定)があると指摘した。マレーシアは2023年8月に発表した「国家エネルギー移行ロード(NETR)」を通じて、2050年までに設備容量ベースで再生可能エネルギーのシェア70%を達成することを目指している。PETRAによると、今年7月の第13次マレーシア計画(2026-2030)の首相発表を受け、政府は将来の国家エネルギーミックスにおけるクリーンで安定的かつ競争力のある電力源としての原子力の役割を検討するため、計画的に評価を実施中であるという。この取組みは、エネルギー源の多様化、長期的なエネルギー安全保障の強化、炭素排出削減目標の支援、化石燃料への依存度低減の必要性を考慮したもの。原子力計画実施機関(NEPIO)であるMyPOWER Corporationが、国際原子力機関(IAEA)が推奨するガイドラインに基づき、省庁・機関横断的な技術委員会メカニズムを通じて計画の調整を実施。IAEAのマイルストーンアプローチを指針に、体制の確立、法規制・監督枠組み、関係者の関与、人材開発などの準備も対象だという。政府の現時点での優先事項は、将来のあらゆる検討が国家による開発の優先事項と調和し、国際的義務を遵守することであり、具体的な炉型等に関する決定は行われていない。原子力導入の検討が進められる中、マレーシア議会は8月25日、41年間変更されていなかった1984年施行の原子力ライセンス法の改正を承認した。法案を提出した科学技術革新省(MOSTI)のチャン・リー・カン大臣は、この法改正は現在の原子力技術の発展を鑑み、安全、セキュリティ、使用管理をカバーし、より包括的な実施を可能にする法律の強化および近代化を目的としていると指摘。マレーシアは2030年以降に原子力を利用するか否かを決定するが、本改正はその可能性に備え、国際基準に沿って法的枠組みを強化するものである、と強調した。また、本改正では原子力諮問委員会の設立も規定しているという。チャン大臣は7月30日、議会の質疑応答セッションで、すでに原子力エネルギーの利用に関する事前F/Sは完了し、その結果は、原子力が安定したクリーンで信頼性の高い供給を確保する上での有望性を示したと言及。同F/Sでは、6つの技術タスクフォース(技術専門チーム)が設置され、うちMOSTIに3つ(技術開発と産業振興、原子力分野の専門能力育成、法規制・監督体制の構築)が設置されたと紹介。MOSTIとPETRAの戦略的協力により、国家エネルギーの持続可能性を確保するために主要な選択肢の1つとして原子力を検討していると述べた。さらに同大臣は、7月10日に政府が米政府と民生用原子力分野の戦略的協力に係わるMOUを締結したことに触れ、「これは中国ならびにロシアとのパートナーシップに加えて、マレーシアの原子力開発への取組みを強化する措置の1つである」と述べた。
- 01 Sep 2025
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ロールス・ロイスSMR IPO検討報道 ― 資金戦略に新局面
英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は8月30日、ロールス・ロイスSMR社が資金調達手段として新規株式公開(IPO)を含むオプションを検討していると報じた。SMR導入プロジェクトの事業化に向け、政府支援に加え、資本市場の活用が論点となりつつある。同日ロイターは、同社が「現時点でIPOを計画していない」とのコメントを伝えている。一方でFT報道では、年内の政府契約締結を目指す旨が示されており、IPOの判断は契約最終化後になるとの見方もある。FT紙によれば、同社は投資銀行や資本市場関係者と協議し、IPOを含む将来的な資金調達策を模索しているという。既報の通り、英国政府は25億ポンド規模の支援を約束しており、まず3基(出力合計約150万kW)のSMR導入を後押しする方針だ。しかしそれを超える展開や、長期的な事業成長には追加資金が不可欠とされる。「ロールス・ロイスSMR社」は、ロールス・ロイス社を中心とする複数企業の出資で構成されている。株主には、ロールス・ロイス(過半保有と報道)、チェコ電力(ČEZ、20%)、カタール投資庁(QIA、2021年時点で10%と公表)、BNFリソース社((仏独立系石油・ガス企業Perencoのオーナー一族であるペロドー家の資産を背景にした投資会社で、ロンドンに拠点を置く関連会社「BNF Resources UK Ltd」を通じてエネルギー分野を中心に長期志向の投資を行っている。一族資産を一元管理・運用するプライベートな資産運用会社であるBNF Capitalが助言役を担い、ウランなど原子力関連投資も手がけてきたと報じられている。ロールス・ロイスSMRについては、2021年にRolls-Royce Group/BNF Resources UK/Exelon Generationの3者で約1.95億ポンドを出資し、英政府の2.1億ポンド助成を呼び込む起点の一つとなった。近時ではČEZ(20%)参入後も少数株主として名を連ね、英国SMR事業の資本面で一定の存在感を示している。))、米コンステレーション・エナジー社が並ぶ。BNFとコンステレーションの持分は過去開示でそれぞれ約11%、約3%とされたが、ČEZ参入後の正味比率は公表されていない。IPOの是非については株主間で見解の違いがあるとされる。ロンドンは世界有数の資金供給力を持つ市場であるが、近年は新規上場が低迷しており、今回のIPOが実現すれば久々の大型案件となる。IPO(Initial Public Offering、新規株式公開)とは、企業が株式市場に上場し、投資家から広く資金を集める仕組みを指す。資金調達力の強化に加え、透明性やガバナンス体制の強化も求められるため、事業にとって大きな転換点となる。原子力分野では巨額の初期投資と長期の投資回収期間が特徴であり、従来は政府や電力会社による出資が主流であった。そのため、IPOを資金調達策に組み込む動きは極めて異例であり、英国が新しい事業モデルを模索していることを示す。なお、巨大インフラがIPOによって資本市場を取り込んだ先行例は少なくない。英国では送電・ガス幹線の運営会社であるナショナル・グリッドが1995年にロンドン証券取引所へ上場し、規制産業がIPOを通じて長期資金と市場の規律を取り込むモデルを示した。日本でも電源開発(J-POWER)が2004年に実施したIPOが記憶に新しい。いずれも公共性の高いエネルギー基盤を市場型資金で支える手法であり、SMR事業がIPOを選択肢に含めることは、この文脈に位置づけられる。経営コンサルティング会社アーサー・D・リトル(ADL)は一般論として、SMRの事業化には初号機(FOAK)で発生する高コストを克服し、量産効果によって発電コスト(LCOE)を引き下げることが不可欠だと指摘している。政府支援や規制改革に加えて、資本市場の活用は初期段階の資金ギャップを埋める手段となり得る。今回の報道が示す「官+市場」モデルの模索は、この文脈に合致しており、仮に資本市場の活用(IPO等)が具体化すれば、SMRを机上の構想から商用段階へ押し上げるゲームチェンジャーになり得る━━との見方が成り立つ。ハントン・アンドリューズ・カース法律事務所 原子力部門統括責任者/東京事務所マネージング・パートナーのジョージ・ボロバス氏は、原子力産業新聞の質問に答え、IPOの法務・規制上の含意について次のように指摘する。「IPOに伴う証券規制や開示義務はビジネス上の要件であり、原子力規制の本質を変えるものではない。原子力企業は証券規制と並行して、既存の原子力法規・規制枠組みに引き続き適合する必要がある」。また、ロンドン上場の可能性については、「ロンドン市場は世界有数の資金供給力を持ち、原子力への理解も深いが、資金アクセスは必要条件にすぎない」とした上で、「商用規模で自社技術を展開できる運用能力と、これを許す市場環境が整備されて初めて成功に近づく」と述べた。資金モデルの先例性に関して同氏は、NuScale、NANO Nuclear Energy、Okloといった米社の上場事例を挙げ、「IPOは黒字化前でも資金を確保できる利点がある。一方で、上場後は短期の成果を求める株主の期待が強まり、事業化に要する長期戦略と衝突し得る」と総括した。IPOの是非はまだ検討段階にとどまっているが、英国が商用SMRに資本市場を組み込むことは、国際的にも注目される。米国やカナダのSMR企業がIPOやSPAC((特別買収目的会社=上場済みの買収用“箱会社”を通じ、未上場企業を合併で上場させる仕組み))を通じた資金調達を模索する中で、英国が欧州で先陣を切れば、今後のSMR資金調達モデルの先例となる可能性がある。もっとも、ボロバス氏が指摘する通り、資金調達は必要条件であって十分条件ではない。ロールス・ロイスSMR社の商用規模での展開能力と、英国の市場環境整備が問われる局面に入ったと言えるだろう。
- 31 Aug 2025
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チェコ ドコバニ発電所増設でサイト詳細調査に着手
韓国水力・原子力(KHNP)は8月8日、チェコのドコバニ原子力発電所5-6号機(APR1000×2基)の増設に係わるサイト詳細調査の着手式を開催した。同調査は2026年8月まで約12か月間かけて実施され、増設部分の土壌や岩盤に関する詳細な情報を取得し、設計の基礎資料として活用することが目的。最大で10台のボーリング装置と補助車両によって順次行われ、今後数か月でボーリング作業などを行い、土壌、岩石、水のサンプル採取や各種試験・測定を実施する。着手式には、KHNPのJ. ファンCEOとドコバニII原子力発電所(EDU II。政府が80%、チェコ電力ČEZが20%所有)のP. ザボドスキー社長をはじめ、L. ブルチェック産業貿易相、現地調査の実施企業の幹部らが出席。KHNPのファンCEOは、「サイト詳細調査はドコバニ発電所増設プロジェクトの最初の現場作業であり、APR1000建設の実質的な出発点。契約工程を遵守するため、計画に従い徹底的かつ体系的に調査を実施する」と述べた。EDU IIの建設は2029年に開始され、初号機の試運転を2036年に見込んでいる。EDU IIとKHNPは6月4日、ドコバニ発電所に2基を増設するためのエンジニアリング・調達・建設(EPC)契約を締結した。なお、EPC契約締結前の5月7日、タービンホールの包括的供給の枠組み合意やシュコダ・パワー社、KHNP、斗山エナビリティ間の蒸気タービン供給の契約を含む、合計9件の予備契約と3件の覚書が締結され、プロジェクトの準備は大きく前進していた。ブルチェック産業貿易相は、すでにプロジェクトへのチェコ企業の関与を約30%達成しているが、建設完了までに60%を目標にしており、チェコ国内に設立されたKHNPのローカライゼーションセンターも、チェコ企業と韓国プロジェクトチームを結びつける役割を果たしていると強調した。産業貿易省は、プロジェクトの完成が教育や地域経済にも好影響をもたらし、最大1,000の新たな企業創出と2,300億チェココルナ(約1.6兆円)超えの投資誘致が見込まれると試算する。2024年7月、KHNPはドコバニとテメリン両原子力発電所における最大4基の増設プロジェクトの主契約者をめぐる優先交渉権を獲得し、EDU IIと約9か月にわたる技術的、商業的交渉を実施した。応札していた米ウェスチングハウス社と仏EDFは、入札プロセスについてチェコの競争保護局(ÚOHS)に異議申し立てを行った。WE社は後に申し立てを取り下げ、EDFは2025年4月に却下された。これにより当初3月に予定されていた最終契約締結は遅延。その後EDFはチェコ地方裁判所に提訴し、5月6日、同地方裁はEDU IIとKHNPの契約締結禁止仮処分を下した。両社はチェコ最高行政裁判所にその決定を不服として控訴。6月4日、最高行政裁判所は契約締結禁止仮処分を取り消し、両社の契約締結が可能になった。テメリン発電所の隣接サイトで、SMR建設に向けた地質調査も実施ČEZは南ボヘミヤ地域のテメリン原子力発電所(VVER-1000×2基、各108.6万kWe)の隣接サイトに同国初となる小型モジュール炉(SMR)の英製ロールス・ロイスSMRを設置する計画で、現在、地質調査を実施している。50〜200mの深さまで合計9本のボーリングを実施し、岩盤などを分析する。この調査結果は、ČEZが2027年中に見込む、サイト許可申請に活用するという。テメリン地域は既存の発電所の稼働前の1980年代にも十分に地質調査されており、原子力利用に適した地質であることが確認されているものの、SMR建設のための調査は今回が2回目。初回調査は3年前に行われ、4本のボーリングで深さ30mまで調査済み。さらに追加の調査も予定であるという。ČEZは2024年9月、合計最大300万kWeの設備容量を確保するためのSMRの優先サプライヤーに、ロールス・ロイスSMR社を選定。ČEZは、ロールス・ロイスSMR社の約20%の株式を取得し、戦略的少数株主となった。ČEZとロールス・ロイスSMR社は今年7月、先行作業契約(Early Works Agreements: EWA)を締結。両社共同でテメリン発電所サイトを対象に、規制手続き、環境評価、サイト準備作業を実施する。初号機の運転開始は2030年代半ばを予定している。ロールス・ロイスSMRは既存のPWRをベースとしており、電気出力が47万kWとSMRにしては大型なのが特徴。少なくとも60年間稼働する。ČEZ傘下にあるシュコダJS(ŠKODA JS)は8月1日、ロールス・ロイスSMR社とチェコ国内外におけるSMR用コンポーネントの開発と生産における協力に関する覚書を締結した。シュコダ社はチェコに拠点を置く、原子力発電所の建設とサービスの経験を持つヨーロッパ有数のエンジニアリングおよび製造会社の1つ。ČEZは、新たな原子力発電の開発と建設にチェコ産業界を関与させることを優先事項としている。
- 19 Aug 2025
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NEA SMR導入の進捗を詳細分析(第3版)
経済協力開発機構(OECD)の原子力機関(NEA)はこのほど、小型モジュール炉(SMR)の世界的な開発・導入状況を体系的に評価した「NEA SMRダッシュボード」の最新版(第3版)を発表した。許認可、立地、資金調達、サプライチェーン、関係者とのエンゲージメント、燃料供給の6分野にわたる準備状況を詳細に分析し、世界各地で進むSMRプロジェクトの実証・商業化に向けた取り組みを紹介している。今回のダッシュボードでは、NEAが特定したSMR計127炉型のうち、公開情報が十分にあり評価可能とされた74炉型について分析を実施。そのうち7炉型はすでに運転中または建設段階にあり、また51炉型が事前許認可または許認可プロセスに関与している。評価にはNEAが独自に構築したSMRデータベースが活用されており、2025年2月14日時点の最新情報が反映された。なお、第3版では日本に関して、日本原子力研究開発機構(JAEA)、Blossom Energy社、東芝エネルギーシステムズ社がそれぞれ開発するSMR6炉型が紹介されている。SMRへの関心は、気候変動対策とエネルギー・セキュリティの両立をめざすなかで、世界的に高まっている。地域別に見ると、北米に本拠を置くデベロッパーが最も多く、欧州、アジア(OECD加盟国)、中国、ロシア、アフリカ、南米、中東と続く。評価対象となったSMRには、概念段階にあるものから初号機(FOAK)の実証に向けた準備が進むものまで、技術的成熟度にばらつきが見られるが、全体として拡大傾向にある。ファイナンス面でも動きが加速している。NEAによると、2024年版のダッシュボードと比較して、今回資金調達の発表が確認されたSMRは81%増加。NEAは、SMRに対する世界全体での資金流入を約154億ドルと試算しており、そのうち約54億ドルが民間からの出資と見ている。政府の補助金やマッチングファンドに加え、米国を中心に民間投資が存在感を高めているという。具体的には、グーグル、アマゾン、メタ、ダウ・ケミカルなどの米大手グローバル企業が、自社の環境目標に沿ったエネルギー需要を満たすために、積極的に投資している。また、SMRプロジェクトの立地候補地の大半が政府機関または公益事業体の所有サイトである一方で、近年では民間所有サイトも増加傾向にある。需要地近くでの建設や、廃止された(あるいは廃止予定の)石炭火力発電所サイトでの導入検討も進んでいる。事業モデルも従来の電力会社中心の枠組みから、建設・所有・運転(BOO)モデル、電力購入契約(PPA)など柔軟な形態へと多様化している。一方、NEAは技術面において、燃料供給の整備が依然として課題と指摘。SMR設計の多くは、現在商業レベルで利用できないHALEU(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)を必要としており、燃料形態の多様化も進んでいる。酸化ウランセラミック燃料が最も一般的だが、TRISO燃料(HALEU燃料を黒鉛やセラミックスで3重に被覆した粒子型燃料)や金属燃料、熔融塩燃料など、従来炉とは異なる技術も広く採用されつつある。これら新型燃料の商業規模の生産施設はないことから、NEAは新たなインフラ整備が不可欠としている。NEAは2025年中に、ダッシュボードのオンライン版「SMRデジタルダッシュボード」を立ち上げる予定で、SMRに関する情報をリアルタイムで把握できるプラットフォームを提供する。このインタラクティブなツールは、関係者がSMRの世界的な進展状況を即座に把握できるよう設計されており、NEAは今後の政策立案や事業戦略にとって重要な判断材料を提供していく考えだ。
- 12 Aug 2025
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ウズベキスタン ハンガリー製乾式冷却システム導入に向け協議
ウズベキスタンの首都タシケントで7月14日、同国における原子力発電所建設に向けて、ハンガリー製の乾式冷却システムの供給および製造に関する協力に関して関係国機関間で協議が実施された。協議には、ウズベキスタン原子力庁(ウザトム=Uzatom)、ハンガリーの外務貿易省とMVM EGI社の他、ロシアのアトムストロイエクスポルト社ならびにアトムエネルゴプロエクト社の代表らが出席した。ウズベキスタンは中央アジアの内陸国で、年間降水量が少ない乾燥地帯にある。乾燥気候と水資源の制約から発電所の信頼性と効率的な運用を確保するために、乾式冷却システムを導入する方針である。MVM EGI社は、ハンガリーの国営エネルギー企業MVM傘下のエンジニアリング企業で、乾式冷却技術では数十年の実績を有し、海外のエネルギープロジェクトにおいて、産業用および発電所向けの乾式冷却システムを提供しているという。原子力発電所への供給としては、ロシア極北にあるビリビノ発電所(軽水冷却黒鉛減速炉:EGP-6×3基、各1.2万kWe、1基は2019年に閉鎖)で同社の乾式冷却システムが1972年以降から使用されており、世界で唯一の原子力発電所での実用化例だという。ビリビノ発電所は極寒・永久凍土地域にあり、水資源が乏しく、河川は冬季に凍結するため、河川水を大量に使用する通常の湿式冷却方式は使えない。今回の協議では、ウズベキスタン国内で乾式冷却システムの大型ユニット組立を目指し、特に自由経済区を基盤とした合弁企業の設立のほか、MVM EGI社による専門家の育成・再教育への協力の一環として、教育プログラムの実施、インターンシップや留学のための必要な環境整備などへの支援についても合意され、これら協力事項に関する議定書が署名された。今年5月には、ウザトムとMVM EGI社は、ウズベキスタンのS. ミルジヨーエフ大統領とハンガリーのV. オルバーン首相の立会いのもと、原子力利用分野における協力の強化に関する覚書を締結している。MVM EGI社の高度な乾式冷却技術をウズベキスタン初の原子力発電所となるロシア製小型モジュール炉(SMR)発電所での導入を念頭に、従来の原子力発電所ならびにSMRの効率的かつ環境的に持続可能な運用を確保するための革新的な技術ソリューションの推進を目的としていた。ウザトムはジザク州で、ロシア国営原子力企業のロスアトム傘下にあるアトムストロイエクスポルト社との契約に基づき、合計出力33万kWeのSMR発電所の建設プロジェクトを進めている。プロジェクトは、舶用炉を陸上用に改良したPWR型SMRのRITM-200N(5.5万kWe)を6基採用。設計運転年数は60年。初号機は2029年に運転開始、2033年までに段階的に全基を稼働させる計画だ。ロシアにとっては初のSMR海外輸出プロジェクトである。なおウザトムは、SMR発電所と並行して、大型炉の導入についても検討を開始する。6月20日にロスアトムと、100万kW級のロシア製VVER-1000×2~4基を採用する大規模原子力発電所の建設について検討を実施する合意文書に調印した。すでに合同作業グループが設置され、プロジェクトの主要部分の調査と建設コストの評価を実施するという。
- 25 Jul 2025
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チェコと英国が原子力協力を強化
チェコのP. フィアラ首相は7月14日、英国・ロンドンでK. スターマー首相と会談し、原子力エネルギー分野における協力強化に関する覚書に調印した。フィアラ首相は、「チェコ電力(ČEZ)と英ロールス・ロイス社による小型モジュール炉(SMR)の開発と製造における協力は、両国の経済および雇用に大きな貢献をする。両国は、エネルギー政策に関する見解が一致しており、大型炉、SMR、再生可能エネルギーの組合わせを目指している。英国との協力により、将来に渡ってエネルギーの安全保障が可能になる」と述べた。この覚書は、2023年11月の「原子力分野における協力に関する共同声明」に続くもの。原子力発電プロジェクトの準備と建設、教育、研究開発の分野における協力関係を新たに拡大し、大型炉とSMRの両分野でも協力していく方針だ。また、産業およびイノベーションのパートナーシップを支援し、両国の企業がそれぞれの国のプロジェクトに参加することを目指している。この覚書調印により、チェコにトレーニングセンターの設立や、モジュール製造工場を建設するなど、サプライチェーンのローカリゼーションも進むことになる。本覚書の調印を受け、ČEZとロールス・ロイスSMR社は7月17日、先行作業契約(Early Works Agreements: EWA)を締結した。共同で、チェコの南ボヘミヤ地域のテメリン原子力発電所のサイトを対象に、規制手続き、環境評価、サイト準備作業を実施する。初号機の運転開始は2030年代半ばを予定している。テメリン・サイト以外でも、ČEZの石炭火力サイトのある北西部のトゥシミツェ(Tušimice)においてSMRの導入について評価していく。ČEZは2024年9月、最大300万kWeの設備容量を確保するためのSMRの優先サプライヤーに、ロールス・ロイスSMR社を選定。ČEZは、ロールス・ロイスSMR社の約20%の株式を取得し、戦略的少数株主となった。なお、ロールス・ロイスSMR社は今年6月、英政府機関のグレート・ブリティッシュ・エナジー・ニュークリア(旧グレート・ブリティッシュ・ニュークリア)が実施する同国初となる小型モジュール炉(SMR)の建設に向けた国際コンペにおいて、支援対象の優先権者に選定された。ロールス・ロイスSMRは既存のPWRをベースとしており、電気出力が47万kWとSMRにしては大型なのが特徴。少なくとも60年間稼働する。
- 23 Jul 2025
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日本政策投資銀行 SMRの動向と産業戦略に関する調査研究を公表
日本政策投資銀行は7月11日、「電力需要増加への対応と脱炭素化実現に向けた原子力への注目~海外で取り組みが進むSMRの動向と産業戦略~」と題した調査研究レポートを発表した。著者は同行産業調査部の村松周平氏。同レポートでは、電力需要の増加と脱炭素化の実現に向け、世界的に原子力発電の重要性が再認識されていると指摘。革新軽水炉・高温ガス炉・高速炉・小型モジュール炉(SMR)および核融合などの次世代革新炉の開発が加速するなか、それらの導入に向けた論点や日本の産業競争力強化に向けたあり方を提言している。特にSMRは、技術成熟度の観点から実現可能性が高く、大型軽水炉における課題を克服し得る特徴を有しており、米国などではSMR導入に向けた規制や政策的支援の整備が進んでいる。日本もこうした動きに呼応し、先行する海外プロジェクトへの参画が大きな意味を持つ、との見方を示した。一方で、次世代革新炉の初期の実装においては、多様な不確実性に対処する必要があり、サプライチェーンの整備、規制と許認可プロセスの合理化と確立、政府や電力需要家を含めた適切なリスクシェアなどの議論が不可欠と強調している。また、日本では2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画において、「原子力の最大限活用」が明記され、単一電源種に依存しない電力システムの構築が急務となっていることを指摘。太陽光や風力といった再生可能エネルギーの導入が進む一方で、その発電量の不安定さから需給バランスの課題についても言及されている。さらに、西側諸国で長期間にわたり新規建設が途絶え、1,000万点にも及ぶ原子力サプライチェーンが崩壊の危機に瀕したこと、また、その間に中国とロシアは政府が主導して原子力サプライチェーンを戦略的・継続的に強化したことを踏まえ、原子力発電所の新設やサプライチェーンの維持・強化は自国の電力システムのみならず、国際的な安全保障や産業競争力にとっても重要な意味を持つとした。その他、同レポートでは、各種次世代炉の技術的特性、また、FOAKリスク(First of a Kind、初号機)への対応の必要性が記されている。同様に、諸外国のSMR開発・社会実装の動向を踏まえ、日本としても、中長期的なSMRの導入可能性を見据えて、海外プロジェクトへの参画や人材・部品供給の支援を通じて、競争力強化と安全保障上の優位性確保が急務であるとした。そして最後に、安全性への客観的な判断と丁寧な対話を通じた社会的受容も不可欠であり、脱炭素化やエネルギー安全保障の実現に向け、政治・産業界による継続的な支援の必要性を強調している。
- 18 Jul 2025
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カナダ小型高速炉 事前審査の主要段階をクリア
カナダと米国に拠点を置くARCクリーン・テクノロジー社は7月8日、自社の開発する小型モジュール炉(SMR)「ARC-100」が、カナダ原子力安全委員会(CNSC) の実施する正式な許認可申請前の任意の設計評価サービス「ベンダー設計審査(VDR)」の第2段階(許認可上、問題となる点の特定)を完了したことを明らかにした。CNSCは報告書の中で、認可取得における根本的な問題は認められなかったと結論。ARC社は、ARC-100の商業化に向けた重要な一歩となったと歓迎している。ARC-100は、第4世代のナトリウム冷却・プール型の高速中性子炉で、電気出力は10万kW。電力とプロセス熱の両方の用途向けに設計されており、石油・ガス、精製、化学分野などにおける脱炭素化イニシアチブに適している。同炉の技術は、米エネルギー省(DOE)傘下のアルゴンヌ国立研究所で30年以上運転された高速実験炉EBR-Ⅱで実証済みだ。ARC-100は、CNSCによる事前審査を完了した初の先進ナトリウム冷却高速中性子炉となった。VDRの第2段階は、CNSCの規制要件や期待に関するフィードバックをベンダーに提供するもの。2022年2月に開始された同審査の一環として、ARC社はCNSCが定義する将来の認可申請にとって重要な19の重点分野をカバーする数百の技術文書を提出。これには、安全システム、安全解析、炉およびプロセスシステムの設計、規制遵守、品質保証に関する情報が含まれていた。ARC社は今回の審査完了が、カナダ・ニューブランズウィック州で進行中のARC-100実証機の認可申請活動にも、さらなる信頼と弾みを与えるものと指摘する。2023年6月には、ニューブランズウィック・パワー(NBパワー)社がポイントルプロー原子力発電所(Candu-600×1基、70.5万kWe)サイトにおけるARC-100建設に向けた「サイト準備許可」(LTPS)を申請し、認可取得プロセスが開始された。ARC-100は2030年までに運開を予定している。2018年以来、ARC社とARC-100を共同開発しているNB Power社のL. クラークCEOは、「当社は本事前審査を通じて技術支援を提供し、審査の完了をプロジェクト開発における重要な進展と認識している。今後も革新的なエネルギーソリューションの模索に、引き続き協力していく」とコメントした。ARC社は今年6月、スイスと米国に拠点を置くDeep Atomic社と次世代データセンターとAIインフラへの電力供給に向けて、ARC-100の展開を検討するための覚書を締結している。Deep Atomic社はSMRを電源とするデータセンターのプロジェクト開発サービスを提供しており、両社はARC-100をDeep Atomic社のデータセンターインフラプロジェクトに近接して展開できる場所を共同で評価する予定だ。
- 17 Jul 2025
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