キーワード:SMR
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カナダ2州がSMR導入でMOU
カナダのオンタリオ州とノバスコシア州は10月23日、小型モジュール炉(SMR)の導入に向けた覚書(MOU)を締結した。クリーンエネルギー移行を進めるノバスコシア州が、原子力先進州であるオンタリオ州の技術・制度運用のノウハウを活用し、SMR導入の可能性を具体的に検討する体制を整える。今回のMOUでは、SMR技術、サプライチェーン、規制制度、廃棄物管理といった幅広い分野で両州が協力を深めることを規定。また、カナダ政府に対し、SMR開発・導入に必要な手続きの迅速化を働きかけることも盛り込まれている。実務面では、両州のエネルギー担当省が協議を進め、進捗を年次で共有する体制も構築する。ノバスコシア州は2023年、カナダ政府および隣接するニューブランズウィック州と共同で、2030年までに石炭火力発電所を段階的に廃止し、クリーンで安価な電源に移行する方針を発表した。風力や太陽光など再生可能エネルギーの拡大を進める一方で、安定供給を確保するためのバックアップ電源の確立が課題となっており、SMRの導入も検討項目として位置づけている。2024年には「エネルギー改革法(Energy Reform Act)」を制定し、州営電力会社が将来的に原子力発電所を所有・運転できるよう法的制約を撤廃した。同法に基づき、送電網を担う独立系統運用機関(IESO)の設立が進められており、2025年末の発足を予定している。一方、オンタリオ州はこれまで同国内の原子力運転実績と規制対応の中心を担ってきた原子力先進州。現在はG7諸国で初となる商業用SMRの建設計画「ダーリントン新原子力プロジェクト(DNNP)」も進行中で、SMR建設をリードする存在でもある。また、このプロジェクトにはカナダ政府や州系基金が総額30億カナダドル(約3,300億円)を出資する。オンタリオ州との協力枠組みには、すでにニューブランズウィック州、サスカチュワン州、アルバータ州も同様に署名している。参加する州が広がったことで、SMR導入をめぐる連携の枠組みが全国的に広がりを見せている。カナダ政府は既に複数の州でSMR開発を支援しており、次世代原子力の活用を軸としたクリーンエネルギー移行が、今後さらに加速するか注目される。
- 13 Nov 2025
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東洋炭素グループ 米Xエナジーから高温ガス炉向けの構造材を受注
東洋炭素株式会社は11月7日、同社の子会社であるTOYO TANSO USA, INC.(TTU)が、米国のX-energy社(以下:Xエナジー社)から高温ガス炉用黒鉛製品(黒鉛製炉心構造材など)を受注したと発表した。今回受注したのは、Xエナジー社が開発を進める小型モジュール炉(SMR)の高温ガス炉「Xe-100」(8.0万kWe)向けの製品で、炉心構造材として同社の等方性黒鉛材「IG-110」が用いられる。納品は2028年を予定しており、現在は部品試作・材料認定等を行っている。来年中には最終設計を決定した上で、製造および加工を開始するという。売上高は約50~60億円規模と見込んでいる。「IG-110」がXe-100の炉心構造材等に採用された背景として同社は、優れた熱的・機械的特性と耐中性子照射特性等を備えた信頼性や、日本や中国、フランスの高温ガス炉の試験炉・実証炉・商業炉において採用実績を有していることなどを挙げた。高温ガス炉は、黒鉛を中性子減速材に、ヘリウムガスを冷却材に使用する次世代型の原子炉で、約950℃の高温熱を得られることが特長だ。発電のみならず、水素製造や化学プラントなど幅広い分野への応用が期待されている。高温環境・高線量下で使用されるため、炉心構造材には極めて高い耐熱性と放射線耐性が求められるが、同社の「IG-110」は、長期間にわたり安定した物性を維持し、優れた耐熱衝撃性や高純度・高強度を備える。国内外の公的機関と共同で実施した照射試験データにより、その信頼性が科学的に裏付けられている点も大きな強みだという。今年2月に策定された第7次エネルギー基本計画では、次世代革新炉(革新軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合)の研究開発を進める必要性が示され、世界的にも次世代革新炉の開発・導入が加速する中で、日本製の黒鉛材料が国際的な次世代炉プロジェクトに採用されたことは、原子力サプライチェーンにおける日本企業の存在感の高まりに繋がっている。Xe-100をめぐっては、米化学大手のダウ・ケミカル社が、テキサス州シードリフト・サイトで、熱電併給を目的にXe-100の4基の導入を計画中。同社は今年3月、建設許可申請(CPA)を米原子力規制委員会(NRC)に提出し、5月に受理された。2026年に建設を開始し、2030年までの完成をめざしている。そのほか、Amazonが出資するワシントン州で計画中の「カスケード先進エネルギー施設(Cascade)」でも、最大計12基のXe-100を導入する計画が進められており、2030年末までの建設開始、2030年代の運転開始を想定している。さらに、Xe-100の展開加速に向けて、韓国の斗山エナビリティ(Doosan Enerbility)および韓国水力原子力(KHNP)が協力し、米国内でのXe-100の展開を支援している。
- 12 Nov 2025
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FT報道:英政府がウィルヴァをSMR建設サイトに選定へ
英フィナンシャル・タイムズ紙は11月11日、英国政府が北ウェールズのアングルシー島ウィルヴァを、国内初となる小型モジュール炉(SMR)の建設候補地として選定する見通しだと報じた。報道によれば、政府はロールス・ロイス社製SMR×3基の建設を承認し、グロスターシャー州オールドベリーではなくウィルヴァを優先する方針だという。ただし、英政府は現時点でこの報道内容を否定しており、正式発表は行っていない。英国では労働党政権が、老朽化した大型炉に代わる電源としてSMR導入を推進しており、3年間で25億ポンド(約4,700億円)規模の開発支援を掲げている。政府は、FTSE100(ロンドン主要株価指数)に上場するロールス・ロイス社のSMRを中心に、「世界をリードするSMR開発国」を目指している。同SMRは電気出力が47万kWの加圧水型炉で、他のSMRより規模が大きいのが特徴。ウィルヴァでの建設が実現すれば、ピーク時には約3,000人の雇用を創出する見込みとされる。旧ウィルヴァ原子力発電所は2015年に閉鎖され、その後、日立製作所による後継プラント計画が2019年に中止となっていた。今回の動きは、同地で停滞していた原子力新設プロジェクトが再び動き出す可能性を示すものとなる。国際的な原子力法務の専門家であるハントン・アンドリュース・カース法律事務所のジョージ・ボロバス氏は、本件について次のようにコメントしている。「ヒンクリーポイントC(HPC)の建設が進み、サイズウェルC(SZC)プロジェクトの金融契約が締結された流れを受け、今回の報道は、英国の原子力新設プログラムにおけるもう一つの重要な節目を示すものとなる。英国は“初号機(FOAK)”となるSMRプロジェクトの開発に着手することになり、これは将来の英国および他国の新設計画におけるレファレンスプラント(参照モデル)となる可能性が高い。 HPCとSZCが、それぞれ差金決済(CfD)と規制資産ベース(RAB)の資金スキームを採用したように、SMRプロジェクトも官民パートナーシップ(PPP)型の枠組みを採用し、民間と政府が開発・資金調達・リスクを分担する形になるだろう。 こうした英国発の資金スキームは、各国が自国の原子力新設戦略を構築していく中で、日本を含む他国にも展開・応用される可能性が高い」地域の反応として、FT紙によると、プライド・カムリ党のリーノス・メディ議員が「高レベルな雇用と地域のサプライチェーンを確保し、環境・文化・ウェールズ語((ウェールズ全域で若者の流出が顕著であり、文化だけでなくウェールズ語の存続も危ぶまれている))を尊重する形で進められることを期待する」とコメントしたという。英政府はコメントを控えているが、正式発表は今週中にも行われる見通し。今回のウィルヴァ選定は、英国の原子力産業復興における次の段階を象徴する動きとして注目されている。
- 12 Nov 2025
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ウズベキスタン イタリアと原子力分野での協力具体化へ
ウズベキスタン原子力庁(ウザトム=Uzatom)のA. アフメドハジャエフ長官率いる代表団は10月20日、イタリアのジェノバで、同国のアンサルド・エネルギア(Ansaldo Energia)社およびその原子力専門の子会社であるアンサルド・ヌクレアーレ(Ansaldo Nucleare)社と会談し、原子力分野での協力具体化に向けた協議を行った。協議では、ウズベキスタン初となる原子力発電所建設プロジェクトに関し、アンサルド・グループを技術コンサルタントとして起用し、同国の気候条件(高温・乾燥・砂塵など)に適応した補助システムの技術統合を進める可能性について検討した。また、放射性廃棄物処理の分野では、アンサルド・ヌクレアーレ社が独自開発した使用済み燃料管理システムの導入についても詳細な意見交換が行われた。さらにアンサルド・グループが関心を寄せるウズベキスタンの法規制基盤整備やライセンス取得支援、原子力分野における技術改良と人材育成を目的とした共同研究開発の実施についても協議された。アンサルド・グループは、蒸気タービンやガスタービンなどのエネルギー機器の設計・製造・供給を手掛ける、欧州有数のエネルギー企業であり、安全システム構築やソフトウェア開発、原子力発電所向け主要・補助設備の供給に豊富な実績を有する。中国、ベルギー、スロベニア、ハンガリー、ウクライナなどの原子力発電所向け評価・技術保守にも参画してきた。両者は今年5月、ウズベキスタンのS. ミルジヨーエフ大統領とイタリアのJ. メローニ首相立ち会いの下、先進的な原子力技術と小型モジュール炉(SMR)の開発に関する協力覚書(MOU)を締結。次世代原子力発電所の設計と建設、放射性廃棄物管理、専門家育成などの分野で戦略的に協力していく方針を確認していた。ウザトムは現在、ウズベキスタン東部のジザク州でロシア舶用炉を陸上用に改良したSMRの「RITM-200N」(PWR、5.5万kWe)×2基の建設を進めているほか、ロシア製大型炉VVER-1000×2基の建設も計画している。10月にはSMR初号機の原子炉建屋の基礎掘削工事が開始されており、同国における原子力開発は着実に次の段階へと進んでいる。
- 10 Nov 2025
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シンガポール 原子力導入の再検討へ
シンガポール通商産業省(MTI)は10月27日、報告書「シンガポールの原子力評価能力の構築(Developing Singapore’s Nuclear Energy Assessment Capability)」を発表した。報告書はMTI、持続可能性・環境省(MSE)、エネルギー市場庁(EMA)、国家環境庁(NEA)の4機関が共同で作成。原子力導入の可能性を科学的・客観的に評価するための手順と視点を体系化している。同国は再生可能エネルギー資源に乏しく、総発電電力量の約95%を天然ガスに依存している。太陽光発電の導入を進めても10%程度にとどまる見通しで、水素、地熱、先進原子力の3つを将来有望な低炭素エネルギー源として位置づけている。同国は2012年にも原子力発電の実現可能性を調査したが、国土が狭く人口密度が高いことを理由に、導入が見送られた経緯がある。その後小型モジュール炉(SMR)など安全性と柔軟性を高めた次世代技術が進展したことから、政府は検討を再開。報告書では、原子力が同国のエネルギー政策の三本柱である「エネルギー安全保障・経済性・環境の持続可能性(エネルギートリレンマ)」に対応し得ると評価している。同日開幕したシンガポール国際エネルギー週間(SIEW)の開会スピーチでタン・シー・レン大臣(人材大臣兼 通産省エネルギー・科学技術担当大臣)は、「SMRなどの新技術を含む原子力エネルギーは、安全で信頼性が高く、コスト競争力のある選択肢になり得る」と述べた。さらに、米国やフランスとの協定締結、米アイダホ国立研究所や米バテル記念研究所との協定を例示し、ノウハウ共有と人材育成を通じた評価体制の整備を進める方針を示した。
- 10 Nov 2025
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WNE2025 出展原子力産業団体が共同声明に署名
日本原子力産業協会(JAIF)は、2025年11月4~6日、フランスのパリで開催されたWNE2025(世界原子力展示会)に出展。同展示会の主催者である仏原子力産業協会(GIFEN)や、カナダ原子力協会(CNA)、韓国原子力産業協会(KAIF)、欧州原子力産業協会(Nucleareurope)、ブラジル原子力産業協会(ABDAN)などとともに、最終日の11月6日、第30回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP30)に向けて、各国の政治指導者や金融関係者に対し、エネルギーミックスにおいて重要な役割を果たす原子力へのより一層の支援を求める共同声明に署名した。声明では、気候変動対策における原子力の役割をあらためて強調するとともに、全人類が持続可能で安定したエネルギーにアクセスするためには、原子力を含むあらゆる低炭素技術への即時かつ協調的な投資が不可欠であると強調している。国際エネルギー機関(IEA)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)により、原子力は気候目標達成に不可欠な低炭素電源の一つとされた。アラブ首長国連邦のドバイで開催されたCOP28の最終合意では、初めて原子力が「排出量削減のための重要なアプローチの1つ」として正式に明記され、2050年までに世界の原子力発電設備容量を3倍とする目標が設定された。現在、31か国で約440基(総出力4.2億kWe)の原子炉が稼働中で、60基以上が建設中であり、約30の新興国が原子力開発を検討している。IAEAの最新予測では、2050年までに原子力発電容量が最大2.5倍に拡大する可能性があるとされ、この実現には、年間の新規導入を500~600万kWeから2,500万kWe以上に増加させる必要がある。そのうえで、原子力が、過去50年間で約700億トンのCO₂排出を削減した実績があり、2050年までにさらに900億トンの排出削減が可能であること、高いエネルギー密度により最小限の資源で大量の電力生産を可能にするほか、医療・水素・熱供給・宇宙分野など非電力用途も拡大し、地域の雇用・経済発展にも大きく寄与するなど、環境・社会的にも貢献すると指摘。特に、小型モジュール炉(SMR)や先進炉(AMR)、いわゆる第4世代炉の開発が、循環型エネルギー経済の構築と産業の脱炭素化を推進する技術革新の中心になると位置づけている。声明では、世界の指導者や金融界に対し、2050年までに原子力設備容量の3倍化目標の再確認のほか、既存炉の長期運転の政策支援と新規プロジェクトや研究開発を促進するグリーンファイナンス制度の整備を求めるなど、原子力の経済的・環境的利点を訴求し、気候目標の達成と安価でクリーンな電力の安定供給を両立させるため、原子力へのより一層の支援を訴えた。共同声明に署名した17原子力産業団体((署名17原子力産業団体: GIFEN(フランス)、 WNA、Nucleareurope、NIA(英国)、FinNuclear(フィンランド)、ABDAN(ブラジル)、BNF(ベルギー)、AIN(イタリア)、Nucleair Nederland(オランダ)、CNA(カナダ)、SNF(スイス)、JAIF(日本)、KAIF(韓国)、IGE OS(ポーランド)、CNEA(中国)、ROMATOM(ルーマニア)、Foro Nuclear(スペイン)))は、「原子力はクリーンで信頼性が高く、エネルギー安全保障と経済の安定を確保するための重要な資産。我々は、責任ある技術革新を通じて、気候変動や全人類のエネルギーアクセスなどの課題を克服し、人類の発展に貢献する」と力強くメッセージを発している。
- 07 Nov 2025
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カナダ 2州で原子力新設を模索
脱炭素化を掲げるカナダにおいて、これまで原子力発電を導入していなかった2州で新設への動きが具体化しつつある。サスカチュワン州政府は10月20日、同州初となる「エネルギー安全保障戦略」を公表し、原子力を含む長期的な電源多様化方針を示した。一方、隣接するアルバータ州と米ウェスチングハウス(WE)社は10月21日、とAP1000(PWR, 125万kWe)の導入可能性を探る覚書(MOU)を締結。サスカチュワン州政府の新戦略は、エネルギー安全保障を最優先課題とし、単一電源への依存を避ける多様な電源構成の確立を目的とする。公式資料によると、州の発電量の約50%を天然ガスが占めており、石炭火力も依然として安定供給を支える重要な電源となっている。再生可能エネルギーの比率は35%に上るが、出力変動や土地利用の制約が課題とされる。同州は世界有数のウラン産出地でありながら、これまで原子力発電所は建設されてこなかった。新戦略では今後のエネルギー需要の拡大を見込み、2050年まで石炭火力の運転を認め、原子力導入までの「橋渡し電源」として活用する方針を示している。州電力会社のサスクパワー社は、SMR「BWRX-300」の導入を軸とした開発計画を進めており、エステバン近郊2地点を候補サイトに絞り込み、2026年中の立地決定を目指している。また、州内3大学に対してそれぞれ300万~400万ドル(約3.5~4.6億円)を投資し、原子力工学・安全・先端研究分野での人材育成や拠点整備を予定。ウラン資源と研究機関を活かし「採掘から発電まで」を一貫させた産業クラスターの形成も視野に入れる。一方、アルバータ州では、同州北部で「ピースリバー原子力発電プロジェクト」を推進するエナジー・アルバータ社が10月21日、WE社とAP1000の導入可能性を検討するMOUを締結した。同プロジェクトは最終的に4基、合計480万kW規模の原子炉建設を目指している。当初はCANDU炉の採用を前提としていたが、米国型PWRの適用可能性についても検討を進める。サスカチュワン州とアルバータ州は、2024年5月には原子力技術の導入や規制分野での協力に関するMOUも締結している。
- 07 Nov 2025
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南アの統合資源計画(IRP)2025 原子力520万kW増強を計画
南アフリカのK. ラモホパ電力・エネルギー相は10月19日の記者会見で、同月15日に閣議決定された統合資源計画(IRP)2025を発表した。公開協議の段階で4,000人以上の利害関係者の意見を反映した、国の電力構成を計画的に策定するための長期計画で、電力供給と需要のバランスを図りつつ、環境影響と電力コストを考慮したもの。同IRP-2025により、2030年までに国内総生産(GDP)を3%成長させることを目指しており、原子力発電については2039年までに520万kWを新たに導入する計画が示された。IRP-2025によると、政府は今後、GDPの約30%に相当する2.2兆ランド(約19.3兆円)を投じ、2039年までに1億500万kWeの発電設備容量の増強を計画。これは、国営電力会社のエスコム(Eskom)が現在保有する発電設備容量の2.5倍に相当する。具体的には、太陽光発電: 2,500万kWe、風力発電: 3,400万kWe、ガス火力発電: 1,600万kWe、エネルギー貯蔵: 850万kWe、分散型発電: 1,600万kWe、原子力発電: 520万kWeとなっている。同国では、総発電電力量に占める石炭火力発電の割合が約80%と高く、2050年のネットゼロ目標達成に向けて、石炭火力の割合を減少させ、再生可能エネルギー、ガス火力、原子力の拡大により、エネルギーミックスを推進していく方針。現在の原子力発電規模は計194万kWe(クバーグ発電所で2基運転中)、総発電電力量に占める割合は約4%である。ラモホパ大臣は、慢性的な電力不足が経済発展と雇用に深刻な影響を及ぼしていると指摘。「原子力がエネルギーソリューションとしてだけでなく、南アフリカ経済に何の利益をもたらすか、燃料サイクルのどの要素を国産化できるかが重要」と述べ、燃料サイクルにおける国内調達可能な要素の特定のほか、小型モジュール炉(SMR)技術の開発、地元産業の能力開発、原子力部門の雇用機会の創出に向けて、原子力産業化計画の策定に意欲を示した。また、原子力発電利用に対する世界的な気運の高まりに応え、世界の多くの金融機関が原子力プロジェクトへの融資を約束しはじめていることも、原子力部門への追い風になっているとした。さらに同大臣は、原子力発電の拡大にあたり、「国が先走ることはない。非常に慎重に、透明性をもつことを保証する」とプロセスを重要視する姿勢を強調。また、「新規原子力開発計画の停滞が、建設業界や科学者たちの能力を損なった。原子力産業化計画では、将来に向けてスキルをどのように生み出していくかが重要」として、大学、技術職業教育訓練カレッジ、特に建築と原子力に関連する工学部門と協力していく方針を示した。エスコムは声明で、南アフリカのエネルギー移行において、エネルギー安全保障、価格の手頃さ、環境の持続可能性、社会経済的配慮のバランスを重視するIRP-2025の策定を歓迎。同国の失業率が30%、若年層の失業率が50%を超える状況において、経済成長と社会的包摂(インクルージョン)を加速させるために必要な電力供給のための明確な投資枠組みを提供するものだと評価した。
- 06 Nov 2025
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ポーランド国営エネルギー企業 第2原子力発電所建設プロジェクトを完全管理下に
ポーランド国営エネルギーグループ(PGE)は10月16日、民間エネルギー企業ZE PAK社から、PGE PAK原子力エネルギー(PGE PAK Energia Jądrowa= PGE PAK EJ)社の株式50%を取得し、同国の第2原子力発電所建設プロジェクトを完全管理下におくこととなった。これは、M. モティカ・エネルギー相の決定により成立したもの。PGEのD. マルゼックCEOは、「PGE PAK EJ社を完全子会社化し、その運営を一元的に管理することで、第2原子力発電所に関する調査や分析、意思決定を行うことができる。これには、モティカ大臣の決定を含む、正式な政府の承認が必要だったが、プロセス全体は円滑に進んだ」と述べた。モティカ大臣は、「PGEによるPGE PAK EJ社の全株取得は、PGEだけでなく、政府も推進する戦略の実現である」と強調した。政府は、原子力はポーランドのエネルギー移行における戦略的柱であり、安定かつ安全なエネルギーシステムの構築、化石燃料からの脱却、気候目標の達成に資するものとしている。ポーランド初の原子力発電所は国営の特別目的会社(SPV)のPEJが同国北部のポモージェ県ホチェボ自治体内のルビアトボ-コパリノに、米ウェスチングハウス社製のAP1000を3基建設する予定。現在、現地では準備作業が進められており、2028年に建設開始、初号機の運転開始は2036年、2、3号機の運転開始はそれぞれ2037年、2038年を予定している。政府の原子力開発計画(PPEJ)では、2番目の原子力発電所の建設候補地として、石炭・褐炭火力発電所のある同国中央部のベウハトフ地区やコニン地区の2か所が挙げられている。PGEグループの戦略でも、同地区での立地分析の実施や、トゥルフにある石炭火力発電所での小型モジュール炉(SMR)建設準備も検討されている。PGEと国有財産省が一部出資する民間のエネルギー企業のZE PAK社は2023年4月、合弁の特別プロジェクト企業であるPGE PAK EJ社を設立。韓国水力・原子力(KHNP)との協力により、コニン地区で韓国製140万kW級PWR「改良型加圧水型炉(APR1400)」を少なくとも2基(合計出力280万kW)建設を計画し、ポーランドの気候環境省は2023年11月、PGE PAK EJ社に対し、原則決定(decision-in-principle=DIP)を発給している。一方でKHNPのJ. ファンCEOは今年8月、韓国国会の委員会で、スウェーデン、スロベニア、オランダに続き、ポーランドの原子力発電プロジェクトからの撤退について言及。ポーランド政府と国営企業によるそれぞれの原子力建設プロジェクトが、新政権発足後に政府のプロジェクトに一本化されたことを理由に挙げていた。これに対し、モティカ大臣は、KHNPの決定はポーランド政府のいかなる行動にも起因するものではないと指摘。エネルギー省は今年7月、韓国側に対し、第2原子力発電所の競争手続きに参加するよう正式に招待し、この問題に関する公式の立場を待っていると説明した。また、すべての決定権が半分民間企業である投資家にあるため、政府はコニン地区でのプロジェクトを停止する決定もしていないと補足した。なお、ポーランドのD. トゥスク首相は今年7月下旬、内閣改造を実施し、エネルギー省を新設。産業省を吸収するとともに気候・環境省の所掌の一部を引き継ぎ、原子力部門(SMRを含む)と鉱山部門はエネルギー省に移管されている。
- 04 Nov 2025
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ウクライナ SMR導入に向けた準備が進行
ウクライナ・エネルギー省のA. ネクラーソフ第一次官は10月9日、ウクライナ最高会議におけるエネルギー・住宅・公共サービス委員会で、小型モジュール炉(SMR)の導入は、ウクライナのエネルギー安全保障を強化し、脱炭素電源に移行するための有望策であると発言。SMR導入の行動計画(ロードマップ)を策定するため、幅広い利害関係者を含む省庁間の作業部会を設立したことを明らかにした。なお、同委員会は同日、ウクライナにおけるSMR導入の原則に関する一部法律の改正法案を議会に提出しており、同第一次官は、法案の条項の策定に積極的に貢献する意向を表明した。エネルギー省主導による同作業部会では、ウクライナ初のSMRプロジェクトを実施するための制度的および技術的枠組みの確立を目的に、包括的なロードマップを策定。以下の側面から詳細な分析を実施するという。国際標準なベストプラクティス潜在的なリスクSMR設置の候補地エンジニアリング、社会、産業インフラ人的資源と科学的潜在力財務能力と投資手段なお、エネルギー・住宅・公共サービス委員会による法案は、民間投資を誘致し、設計と建設の手続きを合理化するための法的枠組みの確立を目指すもの。ネクラーソフ第一次官は、14日に開催された省庁間作業部会において「ロードマップの策定は、最高会議で現在検討されている法案と調整されている。ロードマップと併せて、2050年までのウクライナのエネルギー戦略を実行するための実用的なツールとなる」と述べた。エネルギー省は、SMRは有望であるが比較的新しい技術であり、世界的には研究と実証段階のものが多く、実用化に着手している国はわずかであると指摘。SMRの導入には、経済的実行可能性、技術的能力、使用済み燃料および放射性廃棄物の管理を慎重に評価しつつ、最高水準の原子力および放射線安全の確保が不可欠であり、広範な科学者および専門家の参加を得ながら取り組んでいく方針を示している。ウクライナは現在、米国務省と協力して、「SMRの責任ある利用のための基盤インフラ(FIRST)」プログラムの下で、①フェニックス・プロジェクト(ウクライナのエネルギー部門を石炭火力発電からSMRに移行させ、より広範な脱炭素化およびエネルギー安全保障を支援)、②ヘパイストス・プロジェクト(SMR導入により、ウクライナの鉄鋼産業を近代化し、排出量の削減、エネルギー効率を向上)の2つのプロジェクトを実施している。
- 29 Oct 2025
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老朽化石炭火力をSMRでリプレース 2035年までに米国を中心に1億4,300万kWeの潜在市場
OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)は9月18日、石炭火力発電所から小型モジュール炉(SMR)へ移行する可能性について、市場規模や導入課題、政府と産業界の役割などを分析した報告書「SMRs for Replacing Coal―― Opportunities and Challenges for Small Modular Reactors」を公表した。報告書は、老朽化や脱炭素化の進展に伴い石炭火力が段階的に廃止されるなか、SMRが石炭火力発電所のインフラや立地許可など、既存の許認可を可能な範囲で活用できる有力な代替手段になり得ると指摘。ベースロード電源として系統インフラや労働力を維持しつつ、今後数十年にわたり、手頃な価格でクリーンかつ信頼性の高い電力供給を支えることができるとしている。まず、対象市場や実現可能性について、報告書は、石炭火力から原子力への移行可能性は地域によって異なると分析。最大の要因は石炭火力発電所の老朽化で、さらに政府の政策方針や既存の原子力インフラ、石炭火力の段階的廃止計画も導入を左右する要素とした。なかでも北米、特に米国は老朽化した石炭火力が多く、原子力の経験も豊富なことから、SMR導入の先行地域として位置付けられた。欧州もまた、石炭火力から原子力への代替によって大きな恩恵を受ける地域と分析されている。NEAによると、世界の石炭火力発電設備容量(約22億kWe)のうち、2035年までにSMRによるリプレースが見込まれる潜在市場は1億4,300万kWe に達し、主に米国を中心に市場が形成される見通し。さらに2040年には潜在市場が3億8,100万kWeへと拡大し、欧州やアジアでも移行が本格化するとみられる。報告書は、2050年までに世界全体で4億5,000万kWeの石炭火力が原子力へ移行する可能性が高いと結論づけた。なおアジアでは、インドネシアや日本、韓国、フィリピンが潜在市場として挙げられている。また、報告書は電力会社や大規模ユーザーなど専門家への調査やインタビューも実施。その結果、多くが石炭火力から原子力への移行に関心を示す一方で、「ファーストムーバー(先駆者)」として初めて建設に取り組むことには慎重な姿勢を見せた。初号機建設のリスクや、他社の実績を見極めてから導入する姿勢が背景にあり、こうした状況をふまえ回答者は、リスク軽減やリプレースの加速・実証において、政府が重要な役割を果たすべきと強調している。そのうえで報告書は、石炭火力から原子力への持続可能な移行には、原子力の開発・導入を後押しする効果的な政策枠組みと強力な国内政策が不可欠と強調。具体的には、明確な脱炭素方針や直接的な財政インセンティブ、合理化された規制プロセスを通じて、原子力導入が促進できるとした。さらに、官民パートナーシップにより、初期の原子力プロジェクトに伴うリスクを共有し、石炭火力がもたらしてきた地域経済への貢献を維持するための財政支援を提供し、移行を支援することも可能としたほか、職業訓練や地域経済支援の政策は、石炭火力依存地域の「公正な移行」を後押しするものと指摘している。
- 20 Oct 2025
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米新興企業 地下設置型SMRのサイトを選定
米国の新興企業ディープ・フィッション(Deep Fission)社は9月18日、自社が開発する小型モジュール炉(SMR)を地下1マイル(約1.6km)、幅30インチ(約76cm)のボーリング孔に設置する最初の3サイトとして、テキサス州、ユタ州、カンザス州を選定。共同開発プロジェクトを推進するために各拠点のパートナーと基本合意書(LOI)を締結したことを明らかにした。ディープ・フィッション社の開発する原子炉「DFBR-1」(PWR、1.5万kWe)は、原子力、石油・ガス、地熱分野での実証をベースに設計。発生した熱は地下深部にある蒸気発生器に伝わり水を沸騰させ、非放射性の蒸気が急速に地表に上昇、そこで標準的な蒸気タービンを回して発電する。検査が必要と判断された場合、原子炉に取り付けられたケーブルにより、原子炉を地表に持ち上げることが可能。モジュール設計により、出力を最大150万kWeまで拡張可能で、産業現場、データセンター、遠隔送電網、成長する商業ハブ全体を対象に柔軟に展開できるという。また既製部品と低濃縮ウラン(LEU)を利用し、サプライチェーンの合理化を追及。原子炉は地下1マイルに設置され、地下深部の地質が自然封じ込めの役目を果たす、革新的な立地アプローチにより、安全性とセキュリティを強化、地表フットプリントを最小限に抑え、コストの削減をねらう。同社のコストモデルでは、オーバーナイトコスト(金利負担を含まない建設費)の比較で、従来の原子力技術の70~80%減となり、発電コスト(LCOE)はkWhあたり5~7セントと見込んでいる。2026年にはライセンスを申請予定。2028年には取得し、想定6か月の建設期間を経て、2029年秋には営業運転の開始を予定している。ディープ・フィッション社は今年8月、米エネルギー省(DOE)の先進炉の実用化に向けた「原子炉パイロットプログラム」の対象に選定され、DFBR-1の2026年7月4日(独立記念日)までの臨界達成を目指している。なお同社は、現CEOのエリザベス・ミュラー氏とリチャード・ミュラー氏の父娘が共同で2023年に設立。E. ミュラーCEOは以前、深部ボアホール放射性廃棄物処理事業を手掛けるディープ・アイソレーション(Deep Isolation)社の共同創設者兼元CEOを務めていた。ディープ・フィッション社はディープ・アイソレーション社と今年4月、先進的な地下原子炉の使用済み燃料と放射性廃棄物の管理で協力するための覚書(MOU)を締結。ディープ・アイソレーション社が特許取得済みの地下処分技術の使用許諾などについて検討する。両社は、ディープ・アイソレーション社の革新的な深部ボアホール処分技術をディープ・フィッション社の最先端の原子炉技術と統合し、顧客に長期的に実用的かつ拡張性のある廃棄物ソリューションを提供したい考え。ミュラーCEOは、「深地層処分は世界的に好まれるアプローチで、海外諸国は地下処分場の計画を進めているが、米国はこの方向でさらなる進展を図る」と指摘。ディープ・アイソレーション社のR. バルツァーCEOは、「新たな原子力技術が登場する中、廃棄物処理に対する先見的なアプローチが不可欠。原子力発電設備容量は2050年までに3億kWe以上増加すると予測されているが、過去70年間に発生した使用済み燃料を未だ永久処分していない。信頼性が高く恒久的な放射性廃棄物の処分方法の確立は、業界の長期的な成功に必要」と強調し、放射性廃棄物を地下深くに安全かつ永久に処分する深部ボアホール技術がソリューションとなるとの考えを示した。
- 10 Oct 2025
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BWRX-300を海外展開へ GVHとサムスンが提携
米GEベルノバと日立製作所の共同出資会社である米GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)と、韓国の建設大手サムスンC&T社(サムスン物産)は10月7日、北米を除くグローバル市場での「BWRX-300」(BWR、出力30万kWe)の導入推進に向けた戦略的提携を発表した。GVHによると、両社は小型モジュール炉(SMR)であるBWRX-300のサプライチェーンの構築や、プロジェクト実施に向けたソリューションなどの共同開発に取り組む。GVHは今年4月、カナダ・オンタリオ州のダーリントン原子力発電所でBWRX-300初号機についてカナダ原子力安全委員会(CNSC)から建設許可を取得しており、2030年末までの運転開始を目指している。一方、サムスンC&T社も今年4月、エストニアの新興エネルギー企業フェルミ・エネルギア社とSMR導入で提携し、同国でのSMR2基の配備に協力するなど、欧州での小型原子炉導入事業を加速させている。GVHの電力部門CEO、M.ジンゴーニ氏は、「当社はカナダでBWRX-300の初号機を建設中であり、SMR産業の展開と規模拡大をリードする立場にある」と述べた。サムスンC&T社の原子力分野とインフラ建設プロジェクトにおける豊富なプロジェクト実施経験を活かし、両社はSMR産業分野での世界的な地位確立を目指すという。両社はスウェーデンで計画されている5基のBWRX-300導入計画についても協力することになっている。
- 09 Oct 2025
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エネ庁 革新炉ワーキンググループを1年ぶりに開催
総合資源エネルギー調査会の革新炉ワーキンググループ(以下WG、座長=斉藤拓巳・東京大学大学院工学系研究科教授)が10月3日、約1年ぶりに開催され、次世代革新炉の開発の道筋の具体化に向けた議論が行われた。前回のWG開催後に策定された第7次エネルギー基本計画では、原子力を脱炭素電源として活用することが明記され、次世代革新炉(革新軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合)の研究開発を進める必要性が示された。今回のWGでは、実用化が間もなく見込まれる革新軽水炉と小型軽水炉に焦点を当てた議論が行われ、開発を進める各メーカー(三菱重工・日立GEベルノバニュークリアエナジー・東芝エネルギーシステムズ・日揮グローバル・IHI)から、安全性への取り組み、技術の進捗、今後の見通しなどの説明があった。三菱重工のSRZ-1200は、基本設計がおおむね完了しており、立地サイトが決まれば詳細設計に進む段階で、すでに原子力規制庁との意見交換も5回実施済み。規制の予見性向上に取り組んでいるとの報告があった。日立GEベルノバニュークリアエナジーからは、開発中の大型革新軽水炉HI-ABWRや小型軽水炉BWRX-300の説明があり、特にBWRX-300はカナダのオンタリオ州で建設が決定しているほか、米国やヨーロッパでも導入・許認可取得に向けた動きがあると述べた。東芝エネルギーシステムズは、開発中の革新軽水炉iBRに関して、頑健な建屋と静的安全システムの採用で更なる安全性向上を進めながら、設備・建屋の合理化を進め早期建設の実現を目指すと強調した。IHIと日揮ホールディングスは、米国のNuScale社が開発中の小型モジュール炉(SMR)について、米国では設計認証を取得し、ルーマニアで建設に向けた基本設計業務が進められていると伝えられた。両社は、経済産業省の補助事業を活用し、原子炉建屋のモジュール化や要求事項管理、大型機器の溶接技術、耐震化などの技術開発に取り組んでいるという。その後、参加した委員から多くの期待感が示されたが、同時に課題点の指摘があった。例えば、革新炉開発の技術ロードマップの定期的な見直しの必要性や、日本特有の自然条件への適合に関する議論の進展、また、各社が進める新型炉の開発状況に応じた規制要件や許認可プロセスの予見性向上の必要性など挙げられた。また、エネルギー安全保障の観点や立地地域との信頼の醸成など技術開発以外で取り組むべき事項についても意見があった。産業界の立場から参加している大野薫専門委員(日本原子力産業協会)は、ロードマップには技術開発だけでなく、投資判断の際に重視される事業環境整備やサプライチェーン、人材の維持・強化についても明示的に盛り込むよう要望。また、環境影響評価や設置許可などの行政手続きについては、標準的なタイムラインの提示が必要だと指摘した。 小型軽水炉のロードマップに関しては、国内での開発動向や新たな知見を反映したアップデートに加え、日本企業が参画する海外の小型軽水炉プロジェクトの導入可能性も視野に、ロードマップで取り上げることを提案。またGX関連支援では、革新技術だけでなく、サプライチェーンを支える製造基盤の維持に対する支援継続も不可欠と訴えた。
- 07 Oct 2025
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欧州SMR産業アライアンス 戦略行動計画を採択
欧州委員会の域内市場産業・起業家精神・中小企業総局は9月12日、ブリュッセルで開催された欧州小型モジュール炉(SMR)産業アライアンスの第2回総会において、初の「戦略行動計画(Strategic Action Plan)」が採択されたことを明らかにした。本計画は、今後5年間の活動計画を包括的かつ詳細に示し、2030年代初頭までに欧州におけるSMRの開発・実証・展開を促進することを目的としている。SMRの迅速な展開は、欧州産業の競争力の維持、2050年までのカーボンニュートラル実現に向けたエネルギー移行の推進、さらにエネルギー分野におけるEUの戦略的自律性を高める上で極めて重要とし、戦略行動計画では今後5年間で実施する10の具体的かつ重点的な行動を提示した。SMR展開に関する主要課題として、発電以外での市場需要の開拓、サプライチェーンの再活性化、研究開発と人材育成の推進、資金調達の機会を創出、規制枠組みの簡素化などに焦点を当てている。10の重点行動と目標とする達成時期は以下のとおり。SMR実証プロジェクトの枠組みづくり(~2026年6月)データセンター、エネルギー多消費産業、地域暖房などの用途でSMR実証プロジェクトを企画。公共部門・開発者・産業界の三者協定を検討。研究・実験施設の整備計画(~2026年12月)SMRの研究開発に必要な試験施設を特定・評価し、既存設備の改修や新設に向けた計画と資金計画を策定。規格・標準化と技術交流の促進(~2028年6月)SMR向けの共通規格・基準を提案し、EU域内での技術・データ交換を円滑化する制度を整備。サプライヤー連携プラットフォーム構築(~2026年12月)各国の有資格サプライヤーとSMR開発プロジェクトを結ぶマッチング機能を備えた支援プラットフォームを構築。EUサプライチェーン強化策の提言(~2026年6月)サプライチェーンの現状を評価し、NZIA(ネットゼロ産業法)やIPCEI(欧州共通利益に適合する重要プロジェクト)を活用した強化方策を提案し、能力拡大を継続的に推進。欧州「ネットゼロ・アカデミー」構想(~2027年1月)SMR・AMR(先進モジュール炉)開発に必要な専門スキルを特定し、欧州全体で人材育成を担う教育アカデミーの設立を計画。公衆・関係者向けエンゲージメントツール(試行:2026年3月/完成:2026年12月)地域社会や関係者との対話を促進するためのツールキットを開発し、早期計画段階で導入。共通安全評価の推進(2025年以降継続)規制当局間の協力を促し、安全性に関する「業界ポジションペーパー」を作成。早期審査を支援する体制を構築。標準化燃料設計の支援(~2027年10月)軽水炉型SMRならびにAMR向けの標準化燃料の仕様策定を支援し、安全性と互換性の向上を図る。投資リスク低減と資金支援策の提案(~2026年3月、以降毎年更新)初号機(FOAK)開発リスクを軽減するための資金支援・保証制度を提案し、EU基金・金融機関と連携して投資環境を整備。同アライアンスは2024年2月に設立され、産業界のリーダー、研究者、政策立案者など、350を超える幅広いSMR関係者が結集。共通のビジョンと行動計画の下で協働することを目的としている。運営面では、EC、Nucleareurope(欧州原子力産業協会)、欧州の100名以上の科学者や環境専門家のグループの欧州持続可能な原子力技術プラットフォーム(SNETP)が主要パートナーとしてアライアンスを支え、複数の具体的なSMRプロジェクト支援や戦略行動計画に基づく施策の実施を主導。アライアンスの運営は理事会が指揮し、戦略的助言や重要な意思決定を行っている。戦略行動計画を成功裏に実施するには、産業界および公共部門の強力なコミットメントと、多様な関係者間の協力が不可欠であるとし、同アライアンスは、加盟団体、EC関連部局、他のEU機関、国際機関と緊密に連携し、欧州におけるSMRの迅速かつ円滑な展開を確実に行っていく方針である。
- 07 Oct 2025
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ブルガリア 米GEベルノバとSMR導入可能性を協議
ブルガリアのR. ジェリャズコフ首相とZ. スタンコフ・エネルギー相は第80回国連総会に出席するために米国を訪問。9月24日、GEベルノバのR. マルテラCCOと会談し、小型モジュール炉(SMR)の導入の可能性について協議した。スタンコフ大臣は、「ブルガリアは、安全保障と適正価格でのエネルギーへのアクセスを確保するために、近代的なエネルギーインフラと戦略的パートナーシップに積極的に投資している欧州諸国の1つであり、世界のクリーンエネルギーソリューションの地図上でますます認知されるようになっている」と指摘。南東欧地域において、エネルギーリーダーの地位を強化すべく、現在進行中のコズロドイ原子力発電所7-8号機に米ウェスチングハウス社製AP1000を2基増設するプロジェクトに加えて、長期的な安定性、予測可能性、低コスト、低排出の実現に貢献する小型モジュール炉(SMR)をブルガリアに導入する可能性についても言及。ブルガリアがエネルギー安全保障、脱炭素化、経済成長という戦略的目標を達成する上で、GEベルノバ社との協力に期待を寄せた。さらに同大臣は9月26日、カナダのオンタリオ州を訪問し、同州のS. レッチェ・エネルギー・鉱業相とも会談。SMRに焦点を当て、両国間のエネルギー協力の深化について討議した他、GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社製SMR「BWRX-300」(BWR、30万kWe)の建設プロジェクトが進むダーリントン・サイトも視察した。これらの会談に先立ち、国際原子力機関(IAEA)総会期間中の9月16日、スタンコフ大臣は米エネルギー省のC. ライト長官とも会談。民生用原子力協力を強化するという両国間の政府間協定の目的を再確認する共同声明に署名し、革新的な原子力技術の開発と展開で協力することを確認した。これを機に、ブルガリアは米国研究所の専門知識を活用して、SMRの展開を加速するための候補サイトの立地可能性と適合性評価を事前に調査し、ブルガリア政府当局とプロジェクト会社であるコズロドイ原子力発電所-New Build EADは革新的技術の導入に向けた準備を進める。米国貿易開発庁は既に、ブルガリアの条件に最適なSMRを特定するため、様々な炉型の評価に資金提供する用意があることを表明している。原子力発電分野で50年以上の経験を持つブルガリアは、SMR導入により原子力をさらに拡大し、将来のデータセンター立地のためのプラットフォームを構築したい考え。スタンコフ大臣は、「他の国ではそのようなセンターの建設には10年かかるが、ブルガリアは大幅に短い期間で提供可能であり、国際的な投資家やパートナーにとって魅力的である」と強調。ブルガリアは将来へのビジョン、安定したインフラ、地域のエネルギー移行を主導し、信頼できるエネルギー輸出国であり続けるとの展望を示した。
- 06 Oct 2025
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スロベニア クルスコ増設のF/S結果を公開
国営スロベニア電力(GENエネルギア)は9月4日、クルスコ原子力発電所の増設計画(JEK2プロジェクト)に関する技術的な実行可能性調査(TFS)の結果、フランス電力(EDF)が提案するEPRならびにEPR1200、米ウェスチングハウス(WE)社のAP1000のいずれの炉型もJEK2サイトにおいて技術的に実行可能であることが確認されたと明らかにした。GENエネルギアは今年1月、JEK2プロジェクトのTFS実施契約を、サプライヤー候補である仏EDFならびに米WE社と締結。WE社は、韓国の現代E&C(現代建設)社と協力してTFSを実施した。当初、TFS実施の入札を予定していた韓国水力・原子力(KHNP)は、ビジネス環境の評価と戦略的ビジネスの優先事項の変更のため、同入札に参加せず、JEK2プロジェクトの建設入札にも参加しないとGENエネルギアに通知していた。GENエネルギアは2024年5月、出力100万kWe~240万kWe規模の増設プラントを、スロベニアの電力システムへ接続した場合の安全性・安定性解析の結果、電力網への影響の観点から、JEK2プロジェクトの最適な設備容量は最大130万kWeであると結論づけた。JEK2の推定投資額(オーバーナイトコスト((金利負担を含まない建設費)))は9,300ユーロ/kWで、100万kWeのプラント増設で93億ユーロ、165万kWe増設で154億ユーロとの経済性評価を明らかにしている。なおGENエネルギアは、投資の経済的実行可能性を保証するJEK2の電力の最低販売価格を70.2ユーロ/MWhと推定している。TFSでは、スロベニアにおける特定の技術要件、欧州の法的要件、その他セキュリティ等を調査。両社の炉型は、いずれもJEK2の立地において技術的に実行可能であり、すべての規制枠組みに対応可能であると評価している。GENエネルギアの新規原子力施設部門責任者V. プラニンク氏によると、各設計は洪水や地震リスクを考慮し、既存の環境に安全かつ効率的に適合できることを確認済みで、設計寿命は60年とされており、条件を満たせば最大80年まで延長可能。サイトは、使用済み燃料や低・中レベル放射性廃棄物の一時的な乾式貯蔵施設の建設にも十分なスペースがあることを確認。調査では特に、環境影響の評価に重点が置かれ、提案されている炉型は自然通風冷却塔を採用、サヴァ川への影響を最小限に抑え、炭素排出量も最小となる、環境的に最も受入れ可能な方法であるとしている。同プロジェクトはまた、地域に広範な経済的利益をもたらし、地元企業のサプライチェーンへの参入、新規雇用の創出、インフラ整備、サービス開発などを通じて、人口の定着に寄与すると強調。投資額の見積もりも、2024年5月の経済性評価の範囲内に収まっているという。現在、増設に係わるプロセスの透明性の確保のために、JEK2の国家空間計画(DPN)イニシアチブの一般公開が今年7月から10月末まで進行中であり、一般の人々が提案や質問を行う。その後、DPNの開始に関する政府決定に続き、環境影響評価を実施する計画だ。GENエネルギアは、透明性を確保しながら、2028年までにJEK2プロジェクトの是非を問う国民投票を実施し、最終投資決定(FID)を予定。FIDから建築許可の取得までの期間を約4年、推定建設期間(サイト内の建設工事の開始から発電の開始まで)は7年と見込んでいる。スロベニアでは当初、2024年11月に国民投票の実施を計画していたが、その合法性やプロジェクトの透明性を疑問視する環境団体や世論の批判を受け、国民投票の実施を中止した。同社は、EU各加盟国が策定する国家エネルギー・気候計画(NECP)に基づき、2040年までに大型炉、2050年までにJEK2プロジェクトを補完するSMR(設備容量約25万kWe)の導入を想定しており、SMRを設置する可能性のある場所を特定するための作業も並行して実施している。スロベニアでは現在、クルスコ原子力発電所(PWR、72.7万kWe)が同国の総発電電力量の約35%を供給している。同発電所はGENエネルギアと隣国クロアチアの国営電力会社のHrvatska elektroprivreda(HEP)が共同所有。WE社は運転と燃料供給のサポートを通じて、GENエネルギアと数十年にわたるパートナーシップを有する。スロベニアの電力需要は、2050年までに倍増することが予想されているが、2033年以降は総発電電力量の約3分の1を供給する火力発電所を閉鎖する計画だ。2043年にはクルスコ発電所の運転期間(60年)も満了する。
- 29 Sep 2025
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IAEAの規制と設計のアプローチの調和が初めて具体化
国際原子力機関(IAEA)の総会初日の9月15日に開催された、ベルギー主催のサイドイベントで、IAEAによる原子力調和・標準化イニシアチブ(NHSI)を活用した、小型モジュール炉(SMR)の国際的な共同事前認可プロセスが始動した。調印式には、IAEAのR. グロッシー事務局長も出席した。IAEAは2022年7月、SMRを始めとする先進炉の世界展開に備え、NHSIを立ち上げた。設計が標準化されることで、迅速かつ効率的に複数の国において認可され、かつ安全に導入されるために、各国間の規制と設計のアプローチを調和させる方法を追究している。今回、NHSIの対象となったのは、第4世代の鉛冷却型小型高速炉「EAGLES-300」。国際的な事前認可パイロットプロジェクトにおいて、ベルギー、ルーマニア、イタリアの各原子力規制当局が規制アプローチの調和で連携し、IAEAはこの取組みをNHSIのパイロットプロジェクトとして支援していく方針だ。イタリアのアンサルド・ヌクレアーレ(Ansaldo Nucleare)社、同経済開発省傘下の新技術・エネルギー・持続可能経済開発局(ENEA)、ベルギー原子力研究センター(SCK-CEN)、およびルーマニアの国営原子力技術会社(RATEN)の4者は今年6月、第4世代の鉛冷却式の小型モジュール炉(SMR)の設計と商業化に取組むため、「イーグルス・コンソーシアム(Eagles Consortium)」を設立。同コンソーシアムは、欧州の産業界のリーダーと原子力研究機関とのユニークなコラボレーションにより、ベルギー、イタリア、ルーマニアの産業のノウハウと液体金属に関する研究の専門知識を組合せ、LEANDREAとALFREDという2つの主要試験施設により、第4世代の鉛冷却高速炉「EAGLES-300」(30万kWe)の実証炉を2035年までにベルギーで建設し、2039年には商業化と広範な展開を目指している。同コンソーシアムは、これまで先進的SMRの開発段階で各国の規制当局がコンソーシアムの設立からわずか3か月後という早い段階から連携したことはなく、安全要件等で最初から合意することは、規制の調和と商業化の道のりにおいて重要なステップになると強調している。SMRは国際的な展開と量産を前提に設計されているが、各国が独自の規制や手続きを維持すれば、開発者はその都度、長期にわたる認可プロセスに直面し、展開が遅れるため、SMRのスケールメリットが損なわれる。規制の調和は、より迅速で効率的かつ安全な商業化を可能にするとの考えだ。事前認可は承認を得ることが目的ではなく、原子力規制当局と開発者が正式な許可申請前の早い段階で対話を行い、安全要件、技術的課題、規制枠組みについて相互理解を築くことが狙い。同コンソーシアムは、鉛冷却型SMRのような先進技術においては、事前認可により初期段階でボトルネックを特定するのに役立つと指摘する。一般的に、まずは安全原則といった大枠から始まり、徐々に詳細な技術議論へと進み、次の正式な認可手続きでは、各国の規制当局が炉設計について、安全性、セキュリティ、放射線防護、環境影響に関する法的・技術的要件を満たしているかを審査するという。先進炉やSMRの安全かつ確実な導入促進を目的とした同イニシアチブにおいて最初の具体的な一歩であるとし、IAEAのグロッシー事務局長は、「欧州の原子力イノベーションにとって飛躍的な前進であり、地域協力の強力な事例だ」と語った。
- 26 Sep 2025
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IAEA総会 世界的緊張の高まりに決意を表明
国際原子力機関(IAEA)の第69回通常総会が9月15日から19日の日程で、オーストリアのウィーンで開催されている。IAEAが世界中で活動を展開していることを反映し、今年のIAEA総会には、155か国から3,100人以上が出席。非政府組織(NGO)からの参加者数は、2021年以降2倍以上に増加、政府間機関(IGO)からの参加者数も増加した。開会の冒頭にスピーチしたIAEAのR. グロッシー事務局長は、「今年の総会は、軍事紛争、テロリズム、核規範の崩壊、不平等の拡大が顕在化し、世界的な緊張が深刻な時期に開催されている。我々の決意が試されており、IAEAはこの挑戦に立ち向かう」と表明。加盟国に対し、国際平和の最重要基盤の一つである不拡散体制、NPTへのコミットを強く要請した。同事務局長はまた、IAEAが核兵器拡散のリスク、核戦争のリスクの軽減をはじめとし、原子力による電力供給、食料供給、がん治療への支援まで、独自の任務を通じた幅広い貢献について説明。かつて、原子力発電の利点と優れた安全実績が気候目標の達成に果たす役割について公の場で話すことすら躊躇されていたが、3年前に急遽、エネルギー安全保障が優先され、多くの国で原子力発電が議題となったと言及。同事務局長はこれを「リアリズムへの回帰」と表現し、2050年までに原子力発電設備容量が2.5倍に増加するとの見方を示した。グロッシー事務局長はその背景として、アフリカ、欧州、南北アメリカ、アジアにおける原子力の初導入や既設炉の増強への関心の高まりを挙げ、40か国近くが、初期調査の実施から初号機の建設までさまざまな開発段階にあり、さらに20か国以上が、将来のエネルギーミックスの一部として原子力を検討していると言及。IAEAのマイルストーン・アプローチは、新規導入においてゴールドスタンダードではあるが、原子力発電の開発には、新規導入国への支援、規制対応、資金調達を考慮する必要があり、IAEAが統合原子力インフラレビュー(INIR)ミッションの実施や、各国当局、規制当局、ステークホルダーに対するトレーニングを目的とした小型モジュール炉(SMR)スクールを開催している事例を紹介した。また、水素製造から工業用熱、海水淡水化から船舶推進など、原子力の非電力用途についても支援を継続し、特に海洋でのSMR利用についてはIAEAの新たなイニシアチブであるATLAS(海上での応用のための原子力技術ライセンス)を通じて、支援を強化していく方針を示した。規制対応については、SMRの世界展開に備え、原子力の調和および標準化イニシアチブ (NHSI)を立ち上げ、標準化された設計が、迅速かつ効率的に複数の国において認可され、かつ安全に導入されるために、各国間の規制と設計のアプローチを調和させる方法を追究していると説明した。また、資金調達の面においても、EUのタクソノミーのような先進国向けの強力な支援の枠組みだけでなく、開発途上国が取り残されないためにIAEAが開発銀行や国際金融機関への働き掛けを行ってきたと説明。世界銀行はすでに、エネルギーミックスに原子力の追加を積極的に検討している国々に資金調達が可能になる道を拓いたが、その他の開発銀行や国際金融機関が来年の総会までに世界銀行に追随することに期待を寄せた。一方で、現地における原子力の社会的許容こそ、原子力運用の最初のライセンスであると念押しした。これに続く各国代表からの一般討論演説では、日本から参加した城内実科学技術政策担当大臣が登壇。冒頭、広島と長崎に原爆が投下されてから80年を迎え、この悲劇を決して繰り返してはならないとの確固たる信念のもと、核兵器のない世界の実現に向けて国際的な取組みを主導していくと決意を表明。国際社会の分断は深まり、安全保障環境が困難な状況下において、IAEAの核不拡散及び原子力の平和利用における役割は、これまで以上に重要であり、日本がIAEAの取組みに全面的な支援を継続していくと語った。また、日本はIAEAの発電のみならず、農業や医療などの幅広い分野における原子力利用に係る取組みを支持し、IAEAと緊密に連携しながら、原子力利用を国内外で推進する方針を示した。今年2月に決定された第7次エネルギー基本計画に示されているように、安全を最優先に、脱炭素電源の一つとして原子力発電を最大限活用するとともに、国際協力による次世代原子炉や核融合エネルギーの研究開発を推進していくとした。ALPS処理水の海洋放出は、原子力規制委員会の関与のもと、14回にわたって計画的に安全に実施され、放出の安全性は、継続的な審査や近隣諸国を含む分析研究所や国際的な専門家による厳格なモニタリングを通じて、継続的に確認されていると紹介。福島第一原子力発電所の廃炉に向けた取組みについては、燃料デブリの試験的回収など、安全かつ着実な廃炉プロセスに向けて大きな進展が見られたとし、科学に基づく透明性の高い情報を国際社会に提供し、IAEAによるレビューとモニタリングに全面的に協力していくと語った。 ◇ ◇例年通りIAEA総会との併催で加盟国等による展示会も行われている。日本のブース展示では、「新しいエネルギー戦略のもとでの原子力発電」をテーマとし、革新軽水炉やSMRなど次世代革新炉の開発・設置にむけた取り組みを中心に、ウラン蓄電池研究開発や医療用RI利用アクションプログラムなども展示するとともに、試験的デブリ取り出しを開始した福島第一原子力発電所の廃炉進捗状況も紹介している。展示会初日には、日本政府代表の城内実科学技術政策担当大臣がブースのオープニングセレモニーに来訪。同大臣は挨拶の中で、日本は今後も世界に向けて、科学的かつ透明性高く情報発信を継続していくと訴えた。今回のブースでは、復興庁の協力を得て福島の情報も発信。日本原子力産業協会の増井理事長による乾杯では、福島県産の日本酒がブース来訪者に振舞われ、福島の復興を後押しする機会ともなった。
- 17 Sep 2025
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ポーランド 石炭の町が描く“次の10年”
ポーランドの原子力プロジェクトをめぐるオピニオンリーダーたちが、このほど来日した。顔ぶれの多くは、かつて石炭で栄えた自治体の副市長クラスや議会関係者である。脱炭素とエネルギー安全保障の双方をにらみ、石炭火力の終幕と次の主役探しを同時に迫られる地域が、日本の原子力発電をめぐる非常時対応や廃止措置など、“現場”をその目で確かめに来た——その動機は切実だ。ポーランドは大型炉とSMRの“二正面作戦”を採る。大型炉はポモージェ県ルビアトボ=コパリノでAP1000×3基の建設計画が進み、8月末に県知事から準備作業許可を取得した。今秋から測量・フェンス設置・伐採・整地などの先行作業が順次始まる見込みで、2036~38年の段階的運転開始を見通すという。一方、SMRはGE日立製BWRX‑300を採用し、初号機建設サイトを化学コンビナートの街ブウォツワベクに決定。合弁会社OSGEが独占使用権を持ち、環境影響評価(EIA)と立地調査が進行している。今回来日したリーダーたちは、ベウハトフやコニンなどの石炭・褐炭地域が中心。これに中央政府のエネルギー省担当官が同行した形だ。一行は、日本原子力研究開発機構の「原子力緊急時支援・研修センター(NEAT)」(茨城県)でオフサイトセンターの運用や日本の緊急時システムについて見学した。福島第一サイトでは、工程管理や情報公開の透明性が、どのように社会的信頼を支えるのか、時間軸で追体験。玄海原子力発電所(佐賀県)では多重防護や特重施設、地震津波対策の考え方などを、福井県庁では原子力担当部署より、行政としての原子力との関わり方などを学んだ。4日間で日本各地を、駆け足で回ったことになる。ポーランドの石炭地域が他産業への移行を迫られているのは、欧州連合(EU)加盟後に強化されたEUの環境規制(LCPDからIED/BAT)への適合や欧州排出量取引制度(EU-ETS)の炭素価格上昇といった、規制および市場からの圧力に加え、主力であった褐炭資源の先細りが重なったためである。これに伴う雇用・地域経済の痛みを和らげる政策枠組みとしてJust Transition(公正な移行)が整備されてきた。地域の住民からは、期待と不安が入り混じった声があるという。現実的な移行が目前に迫る中、地域のリーダーたちが語った「次の10年」はきわめて実務的だ。第一に一貫した人材育成の道筋である。初等・中等から大学、工科系へと、地域の若者が段階的に学び、将来の担い手へと育つ道筋を用意する。「学校で論理的に説明すること」を重視し、テクノロジーや安全文化を丁寧に説明していく姿勢が強調された。チョルノービリ事故を知らない若い世代には、「感情的な賛否より、なぜ必要かを自分の言葉で理解してもらうことが効く」という。第二に既存の雇用や産業の連続性だ。鉱山や火力発電所の閉鎖が目前に迫る地域もあり、人口・雇用の大規模な減少への懸念は切実なようだ。20万人だった人口が、すでに5万人に激減している地域もあるという。だからこそ、石炭で培ったスキルを土台に、次の仕事を地元に残す(原子力の運転・建設・保全などへ職能を移す)という発想が中核になる。産業の維持の観点から、BWRX-300への期待が多く寄せられており、「SMRのサプライチェーンへ参画することで、既存の企業や人材の受け皿を広げていきたい」との声もあった。そして第三に、避難計画の策定など行政としての準備である。日本のシステムを学んだ上で、ポーランド版の緊急時システムをどう整えるか、引き続き検討していくという。また、特に日本に対し、施設運用や人材育成などの面で、実務的なセミナーやワークショップをポーランドで開催して欲しいとの要望が上がっていた。原子力産業新聞から「ポーランドの原子力プロジェクトにとっての最大の課題」を問われた、エネルギー省のZ.クバツキ原子力担当参事官は、「時間」と即答した。「許認可のプロセスがとにかく長い。ポーランドの場合、欧州委員会との調整も必要になる。調整を終えた後も着工から運開まで、ほぼ10年かかるだろう。時間が延びれば延びるほど、コストや制度面の前提が崩れやすくなる」。同氏は差額の清算で収入を安定させる仕組み、いわゆるCfDs(差金決済)にも触れ、「市場価格が高いときは事業者が払い戻し、低ければ差額を受け取るという設計は理解している。しかし、これが本格的に効果を発揮するのは運開後だろう。工期が長引けば長引くほど建設コストを吸収し切れなくなる」と懸念を示し、改めて「だからこそ“時間”が最大の課題だ」と強調した。
- 16 Sep 2025
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