キーワード:カーボンニュートラル
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高速実験炉「常陽」 RI製造などにも活用へ
文部科学省の諮問機関である科学技術・学術審議会原子力科学技術委員会は8月18日、革新炉の取組や原子力基礎研究支援の在り方について議論する「第26回原子力研究開発・基盤・人材作業部会」を開催した。まず、革新炉の取組について、日本原子力研究開発機構(JAEA)から、高速実験炉「常陽」の現在の状況説明が行われた。「常陽」は、「高速炉」を開発するための小型の実験炉である。事業者のJAEAは昨年9月、茨城県及び大洗町から地元了解を得て、現在、新規制基準に適合するための工事を行っている。2026年度半ばの運転再開を目指しており、実現すれば、国内唯一の高速炉の実験施設として、放射性廃棄物の有害度を低減する研究や、がん治療への活用が期待される医療用RIの製造実証など、さまざまな活用方法が期待されている。同作業部会に委員として参加した日本原子力産業協会の上田欽一委員は、「国内外との連携を強化して、世界最先端の高速炉研究拠点としての役割を発揮してほしい。また、医療用RIの安定供給や先端利用など、社会的価値の高い活用に向けて、学生や若手研究者の関心を高め、研究開発や人材育成を強化する必要がある」と指摘した。また、原子力基礎研究支援の在り方について同作業部会では、原子力をエネルギー源として利用するだけでなく、様々な課題解決につながる総合科学技術として捉える必要性が示され、2050年のカーボンニュートラル実現や、健康・医療、製造業等の産業競争⼒の強化に繋がる可能性を秘めていることが改めて共有された。そして、これまで⼤学・研究機関等を中⼼に、⾼い研究⽔準を維持してきたが、さらに安定的・継続的に原⼦⼒利⽤を推進させていくために、国として中⻑期にわたり支援する必要性が議論された。
- 19 Aug 2025
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全国知事会 各省庁へ提言書を提出
全国知事会で原子力発電対策特別委員会委員長を務める中村時広愛媛県知事は8月4日、原子力規制庁を訪れ、「原子力発電所の安全対策及び防災対策に対する提言」と題した提言書を金子修一長官に手渡した。また、中村知事は翌8月5日、経済産業省と内閣府を訪れ、加藤明良経済産業大臣政務官、城内実内閣府特命担当大臣(科学技術政策)、勝目康内閣府大臣政務官(原子力防災)に対し、同提言書をそれぞれ提出した。提言書は、国が責任をもって早急に取り組むべき「原子力発電所の安全・防災対策」について、3つの章に分けて記述。第1章では、東京電力福島第一原子力発電所の事故に関し、特に廃止措置とALPS処理水を取り上げ、適切な支援と風評の払拭、原子力災害の風化防止対策など、政府一丸となって取り組むことを求めた。第2章では、原子力施設の安全対策に関し、2024年1月に発生した能登半島地震を受けて、原子力発電所の安全性や避難計画の実効性を懸念する声が上がったことを踏まえ、「全国に立地している原子力施設の安全確保に向けて、原子力規制委員会には、常に最新の知見を踏まえた新規制基準の見直し、厳正かつ迅速な適合性審査の実施、そして、その結果を国民全体に明確かつ責任ある説明を行ってほしい」と訴えた。また、同地震の教訓から得られた知見や安全研究の成果を、今後の対策に活かすことを求めた。そのほか、使用済み燃料や高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定など、バックエンド対策の加速も要請され、使用済み燃料の最終処分地については「国全体で負担を分かち合うべき課題」として、都市部を含む全国的な議論と情報公開を呼びかけた。さらに、原子力分野の人材不足や技能継承への懸念を示し、研究開発や安全対策に必要な予算・人材を長期的視点で確保するよう国に求めている。第3章では、原子力防災の強化に関し、自治体が制定する原子力防災対策の幅が広がっていることを踏まえ、国が前面に立ち、予算面から立地自治体を支援する必要性を強調。2024年9月の原子力関係閣僚会議で確認された「避難対策を中心とする具体的対応方針」を踏まえ、自治体の意見を十分反映させることや、複合災害時における省庁間のスムーズな連携を求めた。
- 18 Aug 2025
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全原協 発電所の新設に向け 環境整備などを要望
原子力発電所の立地自治体などでつくる全国原子力発電所所在市町村協議会の首長らは8月8日、経済産業省を訪れ、原子力発電所の新設に向けた安全規制や資金調達に関する環境整備などについて、武藤容治経済産業大臣と会談し、要請書(原子力発電に関する要請書)を手渡した。要請書の冒頭には、「今年策定された第7次エネルギー基本計画で『原子力を最大限活用する』と明確に示されたことは、立地自治体にとっても大きな意義があると受け止め、安全確保を大前提に、計画に示された施策の着実な実行を求める」の一文が記載された。そして、同協議会の会員の総意に基づき、次の4点を重点項目として強く要請するとしている。福島の復興について被災地支援の継続や財源確保は国の責務であると強調した上で、燃料デブリの取り出し、多核種除去設備等処理水対策や廃炉作業を着実に推進すること。安全規制・防災対策について2024年1月の能登半島地震の被害状況を鑑み、インフラの整備・強靭化は立地自治体における喫緊の課題であり、原子力防災対策の実効性向上と財源確保、自衛隊との連携を含む安全確保体制を強化すること。原子力政策についてエネルギーの安定供給と2050年カーボンニュートラル達成に向けた原子力利用の着実な推進、原子燃料サイクルの早期具体化、バックエンド対策の加速、国民理解の促進を継続すること。立地地域対策について原子力発電の意義を理解し、協力してきた立地地域の持続的かつ自立的発展のため、地域の実情に応じて制度を改善もしくは拡充をすること。なお、面会の冒頭、同協議会の会長を務める福井県敦賀市の米沢光治市長は、関西電力が美浜発電所にて地質調査を開始したことについて触れ、「建設期間を考えると速やかに具体化していかなければならない」と事業者へのさらなる支援を求めた。これを受けて、武藤容治経済産業大臣は、「次世代革新炉への建て替えに向けた研究開発やサプライチェーンなどの事業環境整備に取り組む」と発言したほか、「地域産業や雇用の維持発展に寄与し、地域の理解が得られるものに限り具体化を進めていく」と国として全面的にサポートする姿勢を強調した。
- 12 Aug 2025
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日本政策投資銀行 SMRの動向と産業戦略に関する調査研究を公表
日本政策投資銀行は7月11日、「電力需要増加への対応と脱炭素化実現に向けた原子力への注目~海外で取り組みが進むSMRの動向と産業戦略~」と題した調査研究レポートを発表した。著者は同行産業調査部の村松周平氏。同レポートでは、電力需要の増加と脱炭素化の実現に向け、世界的に原子力発電の重要性が再認識されていると指摘。革新軽水炉・高温ガス炉・高速炉・小型モジュール炉(SMR)および核融合などの次世代革新炉の開発が加速するなか、それらの導入に向けた論点や日本の産業競争力強化に向けたあり方を提言している。特にSMRは、技術成熟度の観点から実現可能性が高く、大型軽水炉における課題を克服し得る特徴を有しており、米国などではSMR導入に向けた規制や政策的支援の整備が進んでいる。日本もこうした動きに呼応し、先行する海外プロジェクトへの参画が大きな意味を持つ、との見方を示した。一方で、次世代革新炉の初期の実装においては、多様な不確実性に対処する必要があり、サプライチェーンの整備、規制と許認可プロセスの合理化と確立、政府や電力需要家を含めた適切なリスクシェアなどの議論が不可欠と強調している。また、日本では2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画において、「原子力の最大限活用」が明記され、単一電源種に依存しない電力システムの構築が急務となっていることを指摘。太陽光や風力といった再生可能エネルギーの導入が進む一方で、その発電量の不安定さから需給バランスの課題についても言及されている。さらに、西側諸国で長期間にわたり新規建設が途絶え、1,000万点にも及ぶ原子力サプライチェーンが崩壊の危機に瀕したこと、また、その間に中国とロシアは政府が主導して原子力サプライチェーンを戦略的・継続的に強化したことを踏まえ、原子力発電所の新設やサプライチェーンの維持・強化は自国の電力システムのみならず、国際的な安全保障や産業競争力にとっても重要な意味を持つとした。その他、同レポートでは、各種次世代炉の技術的特性、また、FOAKリスク(First of a Kind、初号機)への対応の必要性が記されている。同様に、諸外国のSMR開発・社会実装の動向を踏まえ、日本としても、中長期的なSMRの導入可能性を見据えて、海外プロジェクトへの参画や人材・部品供給の支援を通じて、競争力強化と安全保障上の優位性確保が急務であるとした。そして最後に、安全性への客観的な判断と丁寧な対話を通じた社会的受容も不可欠であり、脱炭素化やエネルギー安全保障の実現に向け、政治・産業界による継続的な支援の必要性を強調している。
- 18 Jul 2025
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三菱総研 原子力に期待される価値創出について提言
三菱総合研究所は7月14日、「データセンターと原子力の協業から考えるワット・ビット連携」と題したコラムを公表した。執筆者は吉永恭平氏。これまで3回にわたる連載では、再生可能エネルギーとワット・ビット連携の可能性を論じてきたが、第4回となる本稿では、もう一つの脱炭素電源である原子力とデータセンター(DC)の協業に焦点を当てている。現代社会は、生成AIの普及によりDCの電力需要が急増し、安定的かつ大規模な脱炭素電源の確保が急務となっている。米国では、大手IT企業が既存の原子力発電所に隣接するDCと長期契約を結び、原子力活用を進める動きが盛んだが、これは原子力事業者にとっても収益性や事業予見性を高める好機となっているという。その代表例として、2024年9月、Microsoft社が、2019年に経済性を理由に閉鎖されたスリーマイルアイランド原子力発電所1号機(PWR、89.0万kWe)から電力供給契約(PPA)を締結したが、この背景には、Microsoft社とPPAを締結したことで、事業者のコンステレーション社の事業予見性が向上したことがあると指摘されている。一方、日本ではDC新設が相次ぐが、原子力への新規投資は限定的で、制度検討は未だ途上にある。急増する電力需要への現実的な対応策として既存炉の再稼働が期待されるが、今後は、電力需要増加をけん引する主要な需要家であるDC事業者が電力会社と連携し、電源開発に主体的に関わる姿勢が求められると、吉永氏は指摘している。複数の事業者によるプロジェクトの共有は、原子力の市場・社会的価値の可視化につながり、原子力事業者にとっては事業予見性の向上とリスク低減の契機となる。一方、DC事業者にとっては、安定した脱炭素電力の確保により、長期的な財務計画や脱炭素目標の達成が現実味を増すという。そして日本においても、今こそ、電力の安定供給・脱炭素目標の達成に向け、再エネと原子力の位置づけを明確にし、導入・拡大に向けた先行投資と環境整備を実施すべきと結論している。
- 15 Jul 2025
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MOX燃料工場の認可申請 日本原燃
日本原燃は7月7日、MOX燃料工場に関する設計および工事計画について、第3回目となる変更認可申請および新たな認可申請を原子力規制委員会に提出した。申請は全4回に分けて行われ、これまでに第1回(認可日=2022年9月)と第2回(認可日=2025年3月)の認可をすでに取得している。今回の申請では、一次・二次混合設備、圧縮成形設備、研削設備、ペレット検査設備といった成形施設をはじめ、火災防護設備、非常用所内電源設備、放射線監視設備など、約500点の設備が対象となった。申請内容には、新規制基準が施行される前に認可を受けた設計・工事計画(設工認)の変更に加え、新たな設工認の取得も含まれる。これにより、新規制基準への確実な適合を図りつつ、使用済み燃料の有効活用に向けた取り組みを一層加速させる方針だ。建設が進められているMOX燃料工場は、隣接する六ヶ所再処理工場で回収されたウランとプルトニウムを原料に、MOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料を製造する。日本の燃料サイクルを支える中核拠点として、2027年度中の竣工を目指している。地政学リスクやウラン価格の高騰が続く中、エネルギーの安定供給と安全保障の観点から、MOX燃料の国内製造体制の強化が課題となっていた。日本原燃は、「オールジャパン体制」で、早期の認可取得と工場完成に向けて全力で取り組む姿勢を示している。
- 09 Jul 2025
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柏崎刈羽の再稼働めぐり県民公聴会
新潟県は6月29日、東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に関する県民公聴会を実施した。同公聴会は、新潟県の花角英世知事が再稼働をめぐる是非を県民に問う場として掲げ、8月末までに県内5か所で開催する。初回の同日は、柏崎・刈羽エリアの住民が対象となった。18名の参加を予定していたが、2名が欠席し、新潟県商工会議所連合会など6団体から8名、一般公募が8名の計16名が参加した。賛成7名、反対5名、条件付き賛成2名、1人が再稼働に「疑義がある」とし、残る1名は賛否を明かさなかった。県トラック協会の推薦を受けて出席した柏崎市在住の70代の男性は、「日本は化石燃料に大きく依存しており、国内に資源がない。エネルギー供給の不安定さを解消するため、また、脱炭素電源として原子力が担う役割は大きいと考えている。柏崎刈羽原子力発電所は同地域や新潟県のみならず、国にとっても重要な資産。私自身、発電所周辺のUPZ(緊急防護措置区域)に住んでいるが、活用しない手はない」と述べ、賛成の立場を示した。また、新潟県商工会議所連合会から推薦を受けた柏崎市在住の60代の男性は、「現在、発電所では多くの新潟県民が勤務し、その中でも多数が柏崎刈羽地域に住む人々である。再稼働が進む西日本と比べ、電気料金の地域格差も広がっており、これは産業界や家庭にも影響を及ぼしている」と述べた。その一方で、「立地地域にとっての真の安心・安全は、原子燃料サイクル全体の完成であり、その責任を国に果たしてほしいと思う」と述べ、今後の課題を口にした。一方で、柏崎市在住の70代男性からは「避難道路がまだ完成していないほか、内閣府が定めた広域避難計画の緊急時対応の実効性を疑問視している」といった声もあがるなど、賛否が交錯する公聴会となった。花角英世知事は、県内市町村長との懇談会を5月下旬から行っており、これを「夏いっぱい」まで実施する見解を示している。そのため、同公聴会の開催終了を見込む8月末以降に、再稼働の是非の判断がくだされる見通しだ。
- 01 Jul 2025
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2024年度版 エネルギー白書を閣議決定
日本政府は6月13日、2024年度版のエネルギーに関する年次報告(通称:エネルギー白書)を閣議決定した。本白書は、エネルギー政策基本法に基づく法定白書で、2004年から毎年作成され、今回が21回目となる。同白書は例年3部構成となっており、第1部は、福島復興の進捗と原子力安全対策、各年度のエネルギーを取り巻く動向を踏まえた分析など、第2部は国内外のエネルギーに関するデータ、第3部は前年度に講じたエネルギー政策や支援策の実施状況、を中心にまとめられている。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が長期化しているほか、直近では、イランと米国の間で新たな緊張の火種が生じており、各地で情勢の不安定化が懸念されている。それに伴い、化石燃料の需給バランスが崩れ、以前から日本でも電気・ガス代やガソリン価格が高止まりしているが、回復の兆しは見えない。そして、米トランプ政権は、脱炭素政策を転換し、アラスカ州での資源開発の加速に意欲を示したことにも触れ、「安定供給や価格に影響を与えるリスクが顕在化している」と分析した。そのため、既存の原子力発電所よりも安全性や燃料の燃焼効率が高い「次世代革新炉」の早期実用化や、薄く折り曲げられる「ペロブスカイト太陽電池」など、次世代技術の活用を推進し、脱炭素化と電力の安定供給を両立する必要性を強調している。また、発生から14年が経過した東京電力福島第一原子力発電所の事故に関しては、デブリの取り出しや処理水の処分を着実に進めることで「復興に向けた道筋をこれまで以上に明確にしていく」と記されている。
- 24 Jun 2025
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日加原子力フォーラム初開催 福島視察も
日本原子力産業協会とカナダ原子力協会(CNA)は6月19日、東京都港区の在日カナダ大使館で「第1回 日本・カナダ原子力フォーラム」を開催。80名を超す参加者が詰めかけた。両協会は、2021年に協力覚書を締結しており、今回のフォーラムはその活動の一環。両国の原子力産業界のさらなるビジネス交流の促進を図り、協業の在り方を模索するのが目的。カナダ側はCNAのほか、原子力研究所、在日カナダ商工会議所、各州政府在日事務所、原子力関連企業らが参加した。冒頭挨拶に立ち、日本原子力産業協会の増井理事長は、「CANDU炉に象徴されるように、カナダは原子力技術の面で世界をリードし、日本とはウラン供給などにおいて長年協力関係にある。また、西側諸国初のSMR(BWRX-300、30万kWe)実用化計画が進むダーリントン原子力発電所において、日本企業が関与するなど、以前から着目していた国のひとつだ。このフォーラムを通じて両国の新たな連携の芽が育まれる契機となってほしい」と述べた。CNAの一行は翌20日、福島県双葉郡に位置する東京電力廃炉資料館と、福島第一原子力発電所を視察。廃炉資料館では、東日本大震災の発生から原子炉の冷温停止までの経緯や、現在進められている廃炉作業の詳細について、映像や展示物を通じて説明を受けた。また、福島第一では、1~6号機の現状や処理水の海洋放出の流れ、燃料デブリの取り出しに関する取り組みについて、約1時間の構内バスツアーを通じて視察し、理解を深めた。CNAのジョージ・クリスティディス理事長は福島県での視察を終えて、「日本の原子力産業界関係者のレジリエンスに大きな感銘を受けたほか、緻密に計画された工程で廃炉作業に取り組んでいることを学んだ。この事故によって発生した犠牲や痛みを軽んじるつもりは一切ないが、ここで得られた知識や技術には大きな価値がある」と述べ、福島第一での経験が、今後多くの国の廃炉プロジェクトにも活かされるとの期待を示した。
- 23 Jun 2025
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女性対象の原子力人材育成研修が日本でスタート
「リーゼ・マイトナー・プログラム(LMP)」の開講式が、6月9日、国際原子力機関(IAEA)と内閣府の共催で、東京大学で開かれた。原子力分野の実務経験者や、博士課程等を専攻する女性を対象とした人材育成研修プログラムで、今回が初の日本開催となる。LMPはIAEAのリーダーシップの下、原子力分野の実務者や博士課程を専攻する女性を対象とした人材育成研修として2023年にスタート。これまで米国、韓国、アルゼンチンで開催された。今回は81か国から373名の応募があり、選ばれた15名が参加した。多くの応募があったことについて、東京大学大学院工学系研究科原子力専攻の出町和之准教授は「日本という国に魅力を感じている応募者が多いようだ。また、福島第一原子力発電所の視察など、日本ならではのプログラムの前評判も良い」と話した。また、同プログラムを通して、参加者の技術的知識やリーダーシップ・スキルの強化が図られ、原子力分野でより多くの女性の活躍が促進されるよう期待を示した。約2週間にわたり開催される同プログラムでは、前半は座学研修、後半は原子力関連施設への視察が予定されている。座学研修では、IAEA、東京大学、東京電力、原子力関連メーカーなどの担当者より、原子力安全や廃棄物管理などをテーマに講義を実施。また、現地視察では、中部電力の浜岡原子力発電所、東京電力の福島第一原子力発電所や廃炉資料館、日本原子力研究開発機構の原子力人材育成・核不拡散・核セキュリティ総合支援センター、大洗研究所、原子炉安全性研究炉(NSRR)、楢葉町遠隔技術開発センターなどを視察する予定だ。また、静岡県内では日本文化を体験するプログラムも用意されており、事務局担当者は、「以前、韓国で実施された際には文化体験の評価が高かったと聞いている。日本ならではの企画を通じて、参加者同士の円滑なコミュニケーションの促進につながれば」と話している。
- 11 Jun 2025
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核融合 EX-Fusionが26億円の資金調達
核融合エネルギーの開発ベンダーである「EX-Fusion」は6月5日、総額約26億円の資金調達を実施したと発表した。同社は、大阪大学出身の若手研究者によるスタートアップ企業。これまでに30億円の資金調達を実施しており、累計調達額は56億円となった。核融合の代表的な方式としては、ドーナツ型の燃料プラズマを生成し、それを太陽のように高温・高密度の状態にして磁場で閉じ込める「トカマク型」や、物体がその場にとどまろうとする慣性の法則を利用し、一瞬だけ閉じ込めたプラズマにレーザーなどを照射して加熱し、瞬間的な核融合反応を繰り返す「レーザー型」などがある。核融合は、エネルギー効率の高さや豊富な燃料資源、高い環境保全性がメリットで、脱炭素化とエネルギー安全保障の観点から、世界各地で開発が進められており、日本政府も2030年代の発電実証を目指している。同社は今回の資金調達により、1秒間に10回の核融合反応を連続的に起こす連続運転の実証を目指す。実証できれば、高出力レーザーや光制御技術を通じて、発電以外にも、加工、医療、宇宙など多分野への応用が可能となる。同社は「レーザー核融合を起点に新たな光産業を創出し、エネルギーと産業の姿を変えていきたい」と強く意欲を示している。
- 10 Jun 2025
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原産協会・増井理事長 年次大会を総括
日本原子力産業協会の増井秀企理事長は5月30日、定例の記者会見を行い、4月に開催された「第58回原産年次大会」の総括をはじめ、最近の海外出張の報告や今後の取組みについて説明した。増井理事長はまず、4月8日、9日に開催された原産年次大会の総括が30日に公表されたことを受け、その概要を報告。「原子力利用のさらなる加速―新規建設の実現に向けて」を基調テーマとして掲げた同大会について、「安定したサプライチェーンと人材確保、国による明確なビジョンと戦略が不可欠という認識が改めて共有された」と総括した。さらに、海外登壇者を招いたセッションでは、海外の成功事例や教訓を踏まえた課題と対応策の議論を通じて、「新規建設の重要性を改めて発信する機会となった」と振り返った。記者から、「国内外の若手技術者による講演や、学生パネリストを交えたグループディスカッションに特に大きな盛り上がりを感じたが、この熱気をどのように一般の人に伝えていくか」と問われたのに対し、増井理事長は、「当協会が長年実施している出前授業が果たす役割は大きい。エネルギー問題への関心が高まるような施策を、これからも進めていきたい」と今後に意欲を示した。 また、増井理事長は、4月15日~17日にカナダ・オタワで開催されたカナダ原子力協会(CNA)の年次大会に参加。さらに、4月29日~30日に韓国・ソウルで開催された「第40周年記念韓国原子力産業協会(KAIF)年次大会」にも出席し、それぞれの参加概要を報告した。韓国では、日本の原子力発電の現況を発信するとともに、国際展開を志向する会員企業を海外企業に紹介したことなどを説明した。このほか、中国核能行業協会(CNEA)主催の「中国原子力開発フォーラム―2025年国際サミット春(CNESDS)」や、同時開催された「第16回中国原子力産業国際展示会(CIENPI)」にも参加。JAIFブースの出展に加え、CNEA協力のもと、中国の原子力関係施設への視察を行ったことも明らかにした。
- 02 Jun 2025
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電気事業連合会 新CMを公開
電気事業連合会は、5月20日、俳優の今田美桜さんが出演する新テレビCM「電気とひとの物語・冷蔵庫あけたら」篇、「電気とひとの物語・この撮影も」篇(各30秒)を、全国で放映開始した。また、5月27日から、新Webムービー「伝わるのは今だ-episode1-」の配信をスタートさせている。先行して公開されたテレビ CM では、日常のなかにある電気のありがたさや、そこに込められた人の思いをやさしく伝える内容となっている。新Webムービーでは、今後の電力需要の増加を見据え、CO₂を排出しない原子力や再生可能エネルギーの活用、火力の脱炭素化といった課題への取り組みを、ドラマ仕立てで紹介。日本のエネルギー自給率が約15%と低い現状を背景に、各電源をバランスよく組み合わせる「エネルギーミックス」の重要性を訴える内容となっている。今田さんがシリアスな表情を崩さずに、若干強引気味に説明するシーンがコミカルで、SNS上では早くも話題になっているようだ。Webムービーの最後には「エネルギーのこと、知ってほしいのは今だから」というメッセージが添えられており、若い世代をはじめ、多くの人にエネルギー問題を身近に感じてもらいたいという思いが込められている。また、電事連では安全性を最優先に、「安定供給」「経済効率性」「環境への適合」の3要素を同時に満たす「S+3E」の実現を掲げており、新しいテレビCMとWebムービーを通じて、こうした取り組みを伝えている。
- 28 May 2025
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次世代革新炉の建設を検討 九州電力
九州電力は、5月19日、2035年度までの長期経営計画を説明する記者会見の場で、従来の原子力発電所より安全性を高めた「次世代革新炉」の開発・建設を検討することを発表した。6月に代表取締役社長に就任予定の西山勝取締役常務執行役員は、「原子力を検討していくことは、エネルギー事業者として必須。ただ、具体的に検討していくためには、(資金調達など)さまざまな前提条件が揃わなくてはいけない」と説明し、慎重に判断する姿勢を示した。同社は現在、川内原子力発電所1・2号機(PWR、89.0万kWe×2基)と玄海原子力発電所3・4号機(PWR、118.0万kWe×2基)の計4基を所有、運転している。政府が2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画では、廃炉を決めた原子力発電所の代替として、同一事業者が発電所のサイト内に新設することを「建て替え」として容認。玄海原子力発電所1・2号機(PWR、55.9万kWe×2基)の廃炉を進める同社にとって、新設への道が開かれた形となっていた。具体的な新規建設サイトへの言及はなかったが、川内原子力発電所3号機(APWR、159.9万kWe)の建設予定サイトが次世代革新炉の設置場所の候補とみる向きも多い。
- 20 May 2025
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新潟県 被ばく線量シミュレーションの結果を公表
新潟県は5月16日、柏崎刈羽原子力発電所6,7号機(ABWR、135.6万kWe×2基)において事故が発生した場合の、被ばく線量シミュレーションを公表した。シミュレーションは、原子力規制委員会(NRA)の検討チームが実施した手法をもとに、気象条件など柏崎刈羽地域の実情に合わせて行った。7日後のベント実施や、6・7号機が同時に事故を起こすケースなど、計6通りのシナリオを想定。事故発生後の時間経過に伴う被ばく線量の変化や、防護措置の実施タイミングをそれぞれのケースごとに分析し、IAEAが定める各種基準と比較評価した。今回のシミュレーションでは、発電所から2.5キロメートル圏内では、避難や屋内退避を必要とする100ミリシーベルト/週の実効線量に達する可能性があること、また、4.5キロメートル圏内では、安定ヨウ素剤の服用が推奨される50ミリシーベルト/週に達する場合があることが示された。いずれもフィルタベントを使用した複数のケースで確認されている。一方、発電所から概ね30キロメートル圏内のUPZ(緊急時防護措置準備区域)では、被ばく線量が、IAEAの基準値には達しないことが確認された。屋外にいた場合でも被ばく線量は十分低く、特に鉄筋コンクリート造の施設など屋内退避を行うことでさらに被ばく線量が低減されると分析した。今回の結果は、6月1日、7日に開催する県民への説明会にて説明される予定となっている。
- 19 May 2025
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北海道電力 泊3号機の原子炉設置変更許可申請について有識者会合で説明
原子力規制委員会(NRA)が4月30日、北海道電力の泊3号機(PWR、91.2万kW)について、再稼働に向けた安全対策が新規制基準に適合すると認めた審査書案を了承したことを受け、同電力は5月15日、札幌市で開催された道の原子力専門有識者会合で、同審査書案について説明を行った。今後、北海道電力は、有識者の指摘を踏まえ、3号機の再稼働に向けて必要な対策を盛り込んだ、一般向け説明資料をとりまとめ、公開する方針だ。なお、審査書案は、5月30日までパブリックコメントに付せられている。会合では、前回有識者から要望があった道民向けの説明資料について、北海道電力が、基準津波、対津波設計方針、基礎地盤と周辺斜面の安定性評価、重大事故等対処施設などの項目ごとに、より分かりやすく、内容を充実させた説明を実施。一方で、一部有識者からは、更なる情報の深掘りを求める声が上がった。津波の年超過確率、制御棒の自重落下やホウ酸水を使った原子炉出力抑制、審査対応状況に関する記載などに関して、さらに分かりやすい説明を求める意見が出された。現在、北海道では、次世代半導体の量産を目指す新工場建設や、国内最大級のデータセンターが建設予定。今年1月に電力広域的運営推進機関(OCCTO)が公表した最新の需要想定報告書によると、北海道エリアの需要電力量(送電端)は、2024年度(推定実績値)の292.14億kWhから2034年度には328.95億kWhへと大幅な増加が見込まれている。
- 16 May 2025
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中高生からの政策提案を表彰 エネ庁
資源エネルギー庁はこのほど、中高生を対象として、「エネルギー政策~エネルギー安定供給と脱炭素社会の実現の両立~」とのテーマで、政策提案型パブリック・ディベート全国大会(実行委員会委員長=江間史明・山形大学大学院教育実践研究科教授)をオンラインで開催。3月1日に日本科学未来館(東京都江東区)において、優勝チームらの表彰式が行われた。〈エネ庁発表資料は こちら〉本大会は、ディベート形式を通じた直接討論を通じて、地域を越えた交流を図り、次世代層に対し日本のエネルギーの未来について考えさせるのがねらい。2回目となる今回、折しも第7次エネルギー基本計画の検討時期となったが、「エネルギーの未来をつくるのは君だ!」と標榜し、提案を募集。中学生16校37チーム、高校生24校47チームから応募があり、それぞれ16チームがリーグ戦討論に参加。高校生の部では岐阜県立岐阜高校、中学生の部では慶進中学校(山口県)が優勝した。ディベートでは、 (1)社会の課題を解決するための従来にない着眼点があるか (2)政策を支える大事な理念や価値観を示すとともに実現可能な実施方法が考えられているか (3)提案された政策の実行によりどの程度の効果が見込まれるか――との観点から審査。高校生の部で2連覇を果たした岐阜高校は今回、送電ロスの課題に着目。フレキシブルな着脱が可能なペロブスカイト型太陽電池、マイクロ水力発電の活用などにより、年間約9.35億kWhの送電ロスを軽減する試算を示した。中学生の部で準優勝を獲得した中央大学附属中学校(東京都)は、「CARBON 30+30」(カーボンサーティサーティ)と題する政策を提案。カーボンニュートラルの実現につき「2030年から30年かけて実行する」ことを目指し、2030年以降の原子力発電所の再稼働推進、火力発電の依存度低減、再生可能エネルギーの技術向上などを展望している。実行委員長の江間氏は、「実によくリサーチをして政策を提案してくれた」と高く評価。将来の革新炉開発に関しても、高温ガス炉を利用した政策提案などもあったことから、今大会を出発点に「中学生や高校生の皆様のエネルギー問題への関心がさらに広がっていくことを期待する」とのメッセージを送った。
- 06 Mar 2025
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NEAマグウッド事務局長が来日 都市大で講演
OECD/NEA(原子力機関)のマグウッド事務局長がこのほど来日し、東京都市大学で講演した。講演会は同大とNEAが人材交流を目的にMOUを締結したのにあわせて開催された。マグウッド事務局長は、「次代を担う原子力:新たなチャンスと取り組むべき課題」と題し、次世代炉や小型モジュール炉(SMR)導入の展望に加え、原子力利用の加速に向けた資金調達や、規制の在り方、政策支援、市場環境、インフラ整備における課題と対策について、1時間ほど講演した。事務局長は、「2050年のカーボンニュートラル、世界の原子力発電設備容量を現在の3倍にするために、既存炉の長期運転、SMRの建設拡大、原子力の非電化用途の拡充など、同時並行で実施する必要がある。そのためには大きく4つの課題(サプライチェーン、法規制、政策と市場、インフラ整備)をクリアしなければならない」と述べた。特に今日の電力市場は、「長期的な環境対策とエネルギー安全保障が十分に考慮されておらず、出力調整可能なエネルギーに大きな価値がある」と指摘した。また、「各国政府がFOAK(初号機)リスクに対処するための政策の立案、新規原子力建設の資金調達を支援するための政府保証が重要であり、世界銀行のような国際金融機関が大きな役割を果たさねばならない」と語った。そして、「NEAでは、学生を対象としたさまざまなワークショップを各国で開催し、関係省庁や機関、そして産業界の専門家と科学技術について議論する機会を提供している。この講演に参加されている東京都市大学の学生の中にも、良いアイデアをお持ちの方がいるかもしれない」と述べ、学生の参画を促した。事務局長は、「長年にわたり原子力の仕事をしてきたが、原子力の評価は時代とともに変化してきた。私がこの世界に踏み入れた頃は、原子力は経済的に成り立たず廃れていく産業だと考える人が多くいたが、のちに原子力ルネサンスと呼ばれる時代が訪れた。しかし、福島第一原子力発電所の事故のような、業界内に大きな影響を与える出来事があり、そこから多くの教訓を学び、今に至っている。近年では多くの国が、原子力をエネルギーミックスの一部として取り入れるようになっており、今こそ原子力が本領を発揮する好機だ」と強く訴えた。
- 26 Feb 2025
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気候変動訴訟に見る「人権侵害」の主張は 自縄自縛の構図か
二〇二五年二月三日 若い世代による気候訴訟が名古屋地方裁判所で続いている。どうにも気になるのが「気候変動は人権侵害だ」という考え方だ。地球温暖化問題に強い関心をもつことはよいが、人権を楯に「CO2が気候危機の原因だ」と主張することは、結果的に自らの首を絞めることになるという私なりの逆説をあえて述べてみたい。気候変動は「人権侵害」 全国の十~二十代の男女十六人が二〇二四年八月六日、気候変動の悪影響は若い世代の人権を侵害しているとして二酸化炭素(CO2)排出量の多い火力発電事業者十社を相手取り、CO2の排出を削減するよう求める訴訟を名古屋地方裁判所に起こした(毎日新聞八月七日付)。今月には二回目の口頭弁論が予定されており、熱い論争が続く。 若者たちは気候変動対策を「命と人権の問題」として政府が取り組むよう訴え、気候変動による災害を人権侵害と定義するよう法の整備も求めている。関西電力などを相手に脱石炭を求めた神戸石炭訴訟の控訴審でも、原告側は「気候変動時代における新たな人権侵害への対応姿勢を欠いた一審の判断を強く争います」(「気候ネットワーク」ホームページ)と、やはり人権侵害を強く主張している。人権とは何か では、そもそも人権とは何だろうか。法務省によると、人権とは,人間の尊厳に基づいて各人が持っている固有の権利であり,社会を構成するすべての人々が個人としての生存と自由を確保し、社会において幸福な生活を営むために欠かすことのできない権利だという。簡単に言い換えると、すべての人が幸福や自由を求めて人間らしく生きる権利のことだ。しかもその権利は「生まれながらに持つ固有の権利」だという。どんなことが人権侵害なのか では、若い人たちはどんなことに対して人権侵害だと言っているのだろうか。 「温暖化は『人権侵害』訴える声」との見出しで訴訟問題を報じた毎日新聞(二〇二四年十一月十二日付)では、若い人の「水害で家が流され、農業が立ち行かなくなったりすることで生活基盤が脅かされている。今起こっているのは、命と暮らしに関わる人権の問題なんです」との声が載っていた。これを読むと、生活基盤が脅かされ、安心して生活することができないことが人権侵害にあたると解釈できる。 別の声はどうだろう。新聞各紙を読んでみた。すると、中学三年生の「この暑さは異常です。プールが好きだけど暑くて泳げない。プールやスキーで遊ぶ自由を取り戻したい」との声があった(毎日新聞)。北海道の高校三年生は、「ここ数年、雪不足で地元のスキー場が開かれず、スキーもスノーボードもできなくなった。いまできることをすべてやりたい」と訴えていた(東京新聞)。この高校三年生の談話は、「この地球をできる限り今の状態のまま将来世代に残したい。そのために、できることはすべてやりたい」と赤旗新聞やNHKのニュースでは伝えられている。 気候変動によって、スキーができなくなり、プール遊びができなくなることを嘆いているわけだが、これらのことは日常的に自由な遊びができなくなり、幸せを追求する権利が奪われたという意味で人権侵害だと言いたいのだろう。 要するに、気候変動による悪影響が若者世代の人権を侵害しているというわけだが、当然ながら、この人権は発展途上国のすべての人々だけでなく、先進国のすべての市民にも適用される。化石燃料関連産業の人々の「人権」はどうなるのか 毎冬、オーストラリアから長野県白馬村にたくさんの人がスキーを楽しみにやってくる。当然、CO2を大量に出す飛行機に乗ってやってくる。そして、CO2を出すバスに乗り、ホテルでは暖房のきいた快適な部屋に泊まる。こういうスキー旅行も、幸福や自由を求めて人間らしく生きる固有の権利に基づく行動だといえる。 別の例を挙げよう。訴訟にかかわる若者たちは石炭や石油、天然ガスの化石燃料関連産業を目の敵にするが、その化石燃料関連産業にも、人間らしく生きる固有の権利をもつ従業員や家族が大勢いる。化石燃料関連産業が一方的な理由で潰されれば、そこで働く人たちの生活基盤はことごとく奪われる。これも人権侵害にあたるはずだ。しかもそれはスキーができなくなるといったレベルではなく、大勢の家族が路頭に迷い、貧困に転落する。 これまで日本の豊かな生活を支えてきた化石燃料産業を潰しても、『CO2を排出する最大の元凶なのだから仕方がない』と若い世代が考えているのだとすれば、それは他者への配慮を欠いた、恐ろしく偏った人権意識のように思われる。 なぜ化石燃料関連産業をつぶしても平気なのかと想像してみると、そこには「正義は我にあり。悪い奴は滅んでも当然だ」という冷酷な正義感があるような気がする。途上国から見ると先進国こそが悪の元凶 この構図を世界へ広げてみよう。そこに残酷な光景が浮かび上がる。 公益財団法人日本ユニセフ協会によると、世界では、約六億人が貧しい生活を強いられ、子供だけでも六人に一人(約三億三千三百五十万人)が極度に貧しい暮らしをしている。その貧しさは一日あたり三百円程度の生活である。スキーやプールどころではない。食べ物さえない。自然災害も頻繁に起きる。当然ながら、この貧しい子供たちにも人間らしく生きる権利がある。裏返せば、六億人の人たちに人権侵害が起きている状態だ。 若い世代が盛んに推奨する太陽光パネルやEV(電気自動車)の部品製造には、リチウム、コバルト、ニッケルなどのレアメタルが必要だ。これらの採掘・製錬・加工の現場では、石炭火力を使いながら劣悪な労働環境のもとで働く人々がおり、その人権侵害たるや、プールやスキー遊びの比ではない。CO2原因説は賠償問題を発生させる では、どうすればよいのか。仮にCO2が気候危機を作り出した原因だというのであれば、そのCO2を大量にまき散らしてきたのは先進国の豊かな社会、そして人々である。つまり、先進国が加害者で、途上国は被害者となる。この状態に対して、発展途上国の人たちは先進国の人たちに向けて、こう言うだろう。 「私たちには、あなたたちがこれまで出してきたのと同じ量のCO2をこれから排出する権利があります。もしその権利を放棄(今後はCO2の排出ゼロ)しろ、というのであれば、あなたたちが過去に排出してきCO2の悪影響(気候危機)に相当する賠償金額を要求します。ちゃんと払ってくれますよね」 また、こうも言うだろう。 「もし賠償金を払うのを拒否するなら、あなたたちは、私たちがこれまでそうだったようにエネルギー消費の少ない質素な生活をしてください。その代わり、私たちはあなたたちがこれから消費するであろうエネルギーを使わせてもらいます。これでようやく人権侵害がおあいこ(貸し借りなし)になりますね」 途上国の人たちはCO2による気候変動で自然災害が増えて生活基盤を壊されたわけだから、CO2を多く出した先進国のせいで人権侵害に直面していると言える。COP29の賠償額は46兆円 これは絵空事ではない。実際に起きたことである。昨年十一月にアゼルバイジャンで開かれたCOP29(国連気候変動枠組条約第29回締約国会議)では、途上国の気候変動対策を支援する資金について、「二〇三五年までに少なくとも日本円にして四十六兆円(三千億ドル)あまりを途上国に対して支援する」などとする成果文書が採択されて閉幕した(NHKニュース十一月二十四日)。 ところが、「採択直後にはインドをはじめとした新興国や途上国から、目標額が低すぎるなどと合意内容を批判する発言が相次いだ。ナイジェリアの代表は『冗談のような金額で問題だ』などと述べて非難した。こうした途上国からの反発に会場からは大きな拍手が起きました」(同NHKニュース)。CO2犯人説は自縄自縛の恐れ 確かに人権侵害を補償する額としては極めて少ない額である。驚くことに、その額は米国の実業家、イーロン・マスク氏の資産額の約六十八兆円(四千四百七十億ドル)よりも少ない。ナイジェリア代表が放った「冗談だろう」という声は心の奥底から飛び出た本音だろう。 日本のGDP(国内総生産)はおよそ六百兆円。米国はその七倍の四千二百兆円もある。これまでに先進国が享受してきた豊かさを考えれば、途上国への賠償は百兆円を軽く超えてもおかしくないはずだ。 そもそも、こうした分断構図が生まれる背景には、CO2削減をめぐる議論が政治的に利用され、特定の国や産業に過度な負担が生じる構造があるからだ。メディアは単に気候危機を訴える声を紹介するのではなく、先進国の側がCO2による気候危機を強く主張すればするほど、その責任と償いが先進国に戻ってくるという自縄自縛の構図をえぐり出してほしい。
- 03 Feb 2025
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脱炭素の原子力とエタノール その魅力をどう伝えるか?
二〇二四年十二月十六日 いまや大半の先進国でエタノール(アルコール)を混ぜたガソリンがスタンドで販売されているが、日本ではほとんど普及していない。その原因のひとつは、エタノールの魅力(メリット)を日本のメディアがしっかりと伝えないからだ。米国のエタノール事業者は、その魅力をどう伝えたらよいかを探る消費者意識調査を行っていた。原子力を考える上で参考になりそうだ。エタノールは脱炭素の救世主 十二月上旬、世界一のエタノール生産国である米国を訪れた。米国には現在、エタノールの生産事業者が約五〇社あり、エタノール工場は全米で二〇〇か所もある。ガソリンにエタノールを一〇%混ぜた「E10」といわれるエタノール混合ガソリンが全米中に普及し、最近は「E15」も増えている。 米国のエタノールは飼料用トウモロコシの実(でんぷんの部分)を発酵させて作る。エタノールを車の燃料として使えば、二酸化炭素(CO2)が発生するが、その二酸化炭素はトウモロコシが大気中から吸収したものなので、差し引きゼロだ。もちろん、トウモロコシの栽培やエタノールの製造過程で化石燃料(農薬や肥料、農機具、工場の重油や天然ガスなど)を使うため、純粋にゼロではないが、ガソリンに比べて、CO2の発生量は約半分だ。 「E10」の最大の魅力は、エタノールをガソリンに混ぜるだけで済むことだ。しかも、巨費を要する電気自動車(EV)の充電設備と違い、エタノールの導入は現行の石油スタンドのままでよく、インフラ整備もほぼ不要だ。これが、エタノールが速効性に富む脱炭素の救世主と言われるゆえんである。六割の米国人がおおむね肯定的 日本で「エタノールの入ったガソリンを知っていますか」と聞いても、おそらく消費者の認知度はゼロに近いだろうが、米国ではどうだろうか。 エタノール事業者で組織した米国の「再生可能燃料協会」(RFA・会員約五〇社)が今年九月、二千人の消費者を対象にエタノールの意識調査を行った。その結果、五八%の人が「肯定的」な見方を示し、否定的な意見は一八%だった。ここ四年間、同様の調査を実施しているが、肯定的にとらえている人は五八~六九%で推移し、否定的な見方をする人は一五〜一九%で横ばいだ。 政党の支持別に見ても、民主党、共和党のどちらの支持者もおおむね六割の人が肯定的だ。この調査を見る限り、米国ではだいたい六割の人がエタノールを好意的に見ていると言ってよいだろう。政党の支持者間で微妙な差 興味深かった点は、「なぜエタノールに好感をもつのか」という理由が、政党の支持者間で微妙に異なることだった。共和党(ちなみに次期大統領のトランプ氏は共和党)の支持者は「燃料効率がよい」(fuel efficiency)が三五%でトップ、次いで「米国産」(made in America)、「安価」(affordability)がそれぞれ三四%だった。これが上位三つの理由だった。 これに対し、民主党支持者は「炭素のフットプリント」が三二%で一位、次いで「燃料効率がよい」(三一%)、「安価」(三〇%)が続いた。「米国産」という言い方に好意的だったのは二四%だった。民主党の支持者のほうが、より環境を重視している傾向が読み取れる。消費者の心に響く3つの魅力 米国の業界ではエタノールに対して、「バイオ燃料」や「アルコール燃料」と言ったり、「よりクリーンで低炭素」「オクタン価が高く、高いパフォーマンス」といった言葉をよく用いてきた。 しかし一連の意識調査から、エタノールは「再生可能な燃料」であり、「環境にやさしく、二酸化炭素の排出を削減する」、そして、「独立(independenceの意味)した米国産のエネルギー」といった言い方のほうが、消費者の心に響くことが分かったという。要するにエタノールは「環境にやさしい(environmentally friendly)」うえに、「海外への石油依存を減らし」(energy independence)、それでいて、「手ごろな価格で入手できる(affordability)」という三つの魅力が消費者の心をとらえるというわけだ。 ちなみに米国でのエタノールの価格はガソリンよりも一ガロン(一ガロンは三・七八五リットル)あたり一~一・五ドル安い。イリノイ州のシカゴ近くにある「パワー・エネルギー・グループ」のガソリンスタンドを訪れたところ、「E30」「E50」「E70」「E85」と多種類のエタノール混合ガソリンを販売していた。ひょいと上を見ると「(ここで給油することは)地球と国を守る」と書かれた大きな看板が掲げられていた。シカゴ近郊のガソリンスタンド(筆者撮影)原発のメリットをどう伝えるべきか 新しいテクノロジーが登場した際に、どういう言い方で消費者に理解してもらうかは、非常に重要なテーマである。原子力発電の場合はどういう言い方がよいのだろうか。 読売新聞は十二月十二日付けの一面トップ記事で「政府は3年ぶりに改訂する『エネルギー基本計画』で原子力発電に対して、『可能な限り依存度を低減する』としていた方針を見直し、『最大限活用する』と明記する」と報じた。 この記事を読むと、政府は「脱炭素」と「安定供給」のために原発を活用するとある。さらに記事の本文では「再生可能エネルギーの拡大だけでは安定供給と発電コストの低減は難しく、産業界の競争力の低下を招く」と原発を活用する理由にふれた。ただ、見出しには原発のメリットを訴求する言葉はなかった。 原子力発電のメリットを訴える言い方としては、「CO2を減らす」「脱炭素」「エネルギーの安全保障の強化」「原発は準国産エネルギー」「中東に依存しない安定供給型エネルギー」「安い電力価格」「産業の競争力を高める」など多様な表現が可能だろう。どれが消費者の心に響くかについて、いま一度、調査してみるのも面白いかもしれない。 遺伝子組み換え作物は米国やカナダ、ブラジル、インドなど世界の約三〇か国で栽培されているが、日本ではいまだに栽培が実現していない。すでに「農薬の削減」「農家の収入の増加」「労力の低減」「生物多様性の維持」「土壌劣化の防止」「CO2の削減」「地球の温暖化防止」などSDGs(持続可能な開発目標)に貢献することが明白になっている。ところが、いまだに消費者や農業生産者の心に刺さる言葉はメディアでは流布していない。 先端テクノロジーをどう語れば、消費者に受け入れられるのか。農薬や食品添加物、放射線なども含め、消費者にとって魅力的な言い方とは何かを探る意識調査が、もっとあってもよいのではないか。
- 16 Dec 2024
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