キーワード:新規建設
-
オランダ 原子力人材育成を強化へ
オランダ政府の原子力利用拡大の意向を受け、オランダの原子力および教育セクターの関係者は1月12日、原子力の理工系分野における職業教育の強化を目的とした共同声明に署名した。原子力分野でのキャリアに対する学生の関心を高めるために、新しい原子力教育カリキュラムの共同開発などを視野にいれている。現在、オランダの原子力シェアは小さく、国内唯一の原子力発電所であるボルセラ発電所(PWR、51.2万kW)が国内の総発電電力量の約3%を供給するのみ。同発電所は1973年の運転開始後40年目の2013年に運転期間が20年間延長され、運転認可は2033年末まで有効である。2021年3月に発足した連立政権の4党は、2040年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指しており、同年12月に4党が合意した2025年までの政策方針の中で、ボルセラ発電所の運転を長期に継続するとともに、政府の財政支援により新たに2サイトで原子力発電所を建設する方針を明記。2022年12月、政府は第3世代+(プラス)の原子炉(各100万~165万kW)2基の新設を計画し、建設サイトとして、ボルセラ発電所の立地エリアを指定している。いずれも2035年に運転開始させ、2基で国内の総発電電力量の9~13%を賄うと試算する。また、ボルセラ発電所では、政府の資金提供を受け、2034年以降の運転継続に向けた実行可能性調査が進行中である。オランダでは、クリーンエネルギーへの移行に寄与するとして小型モジュール(SMR)の建設計画も進められている。オランダのULCエナジー社は英ロールス・ロイス社製のSMRを複数基導入する考えで、2023年11月、英ロールス・ロイスSMR社とオランダの建設企業BAMインフラ・ネーデルランド社と長期的に協力することで基本合意している。また、ロシアのウクライナ侵攻による地政学的な変動で、原子燃料の需要の高まりを受け、英国に本拠地を置く濃縮事業者のウレンコ社は、オランダにあるアルメロ工場の濃縮能力を拡大する計画だ。核医学分野では、医療用アイソトープ製造のため、新しい研究炉PALLAS(熱出力5.5万kW)が北ホラント州のペッテンで建設中である。原子力研究コンサルタント・グループ(NRG)が1960年から運転する高中性子束炉(HFR、熱出力4.5万kW)の後継機となる。HFRは、医療用アイソトープの欧州の需要の約60%、世界の需要の約30%を生産する。政府は、PALLAS建設への資金拠出を通じて世界市場における地位の向上と北ホラント州の高い知見と雇用の維持を目指している。「これらの野心的な目標を実現するには、原子力分野の十分な知識を持つスタッフを増やす必要がある」「そのためには、職業教育が重要な役割を果たすため、原子力産業界と教育機関との連携を強化する必要がある」と共同声明は指摘している。共同声明の署名式には、産業界からはCOVRA(放射性廃棄物の処理・貯蔵)、EPZ社(原子力発電)、NRG-Pallas(医療用アイソトープ製造)およびUrenco社(ウラン濃縮事業)が参加した。教育機関からは中等職業教育(MBO)機関のScalda、Horizon College/Regio College、Vonk、ROC van Twenteおよびデルフト工科大学(TU Delft)が参加している。
- 23 Jan 2024
- NEWS
-
COP28:SMR導入に向け官民協力を NEA
COP6日目となる12月5日、OECD原子力機関(NEA)はネットゼロへむけ小型モジュール炉(SMR)導入を加速させるイニシアチブ「Accelerating SMRs for Net Zero」を発表。SMRを最大限活用するため、産官学および規制当局の英知を結集し、研究開発から建設、運転までの流れを加速させる方針を示した。イニシアチブはNEAのほか、仏エネルギー移行省、米エネルギー省が設立メンバーとして参加。マグウッド事務局長は「クリーンエネルギーである原子力の中で、SMRは筆頭のニューウェーブ」との認識を示し、「SMRの導入の成否を握るカギは、官民が協力して課題に立ち向かうかどうか」と強調した。具体的には、NEAの持つ各国政府/研究機関/各種専門家のネットワークを活用して、協働作業を可能にするようなプラットフォームを構築する。そしてNEAが第三者機関として、SMR各炉型の商業化および導入に向けた進捗状況を包括的に評価。評価項目は許認可、立地、資金調達、サプライチェーンの確保、燃料の手配など多岐にわたり、各SMRプロジェクトの進捗状況の把握を容易にすることで、金融機関らの投資決定に寄与する情報を提供するという。
- 07 Dec 2023
- CULTURE
-
「原子力拡大へ向け今こそ行動を」原産協会らが共同声明
日本原子力産業協会は9月28日、フランスで開催された「新しい原子力へのロードマップ」会合に参加。各国の原子力産業団体が連名で、気候変動の緩和およびエネルギー・セキュリティの強化へ向け、原子力発電の迅速かつ大規模な導入を強く訴える共同ステートメントを発表した。同会合は、OECD原子力機関(NEA)と仏エネルギー移行省の共催で、パリのOECD本部で開催された官民のハイレベル会合。今回が初開催となる。OECD加盟各国政府並びに各国の原子力関連団体が参加。共同ステートメントに署名したのは、日本原子力産業協会の他、米原子力エネルギー協会(NEI)、世界原子力協会(WNA)、カナダ原子力協会(CNA)、英原子力産業協会(NIA)、欧州原子力産業協会(nucleareurope)、仏原子力産業協会(Gifen)、韓国原子力産業協会(KAIF)、CANDUオーナーズグループ(COG)の計9団体。同ステートメントは、今年の4月に札幌で「G7気候・エネルギー・環境相会合」に併せ、原産協会らが採択した同種のステートメントをベースとしている。今回のステートメントは参加団体が増えただけでなく、対象をG7からOECD加盟国へ拡大。OECD加盟国の原子力産業界の決意を表明するとともに、各国政府や、11月から始まる国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)に参加する世界のリーダーたちへ向けた要望を、とりまとめた。具体的には、官民が連携して取り組む重要事項として既存炉の最大限活用新規炉導入の加速国際協力によるサプライチェーンの構築原子燃料分野のロシア依存低減原子力部門におけるジェンダーバランスの改善などを指摘。そして、2050年までの炭素排出量実質ゼロ目標を達成するには、原子力発電設備容量を現在の2~3倍に拡大する必要があるとの認識の下、原子力への投資を促進するよう市場環境を整備規制基準の標準化および効率化原子力を他のクリーンエネルギー源と同等に、気候変動緩和策として認めることなどを要望している。近年、世界の原子力産業界の間では、エネルギー・セキュリティの確保と、CO2排出量の実質ゼロ化の両立に、原子力が果たす役割を世間に周知しようと、個別ではなく国際間で連携して活動する風潮が主流となっている。先月ロンドンで立ち上げられた「ネットゼロ原子力(Net Zero Nuclear=NZN)」イニシアチブも同様の流れだ。11月のCOP28では、国際原子力機関(IAEA)だけでなく、世界の原子力産業界も共同でブースを立ち上げる計画であり、原子力が果たす多大な貢献を世界中に周知し、原子力開発の世界規模での拡大を目指している。
- 02 Oct 2023
- NEWS
-
米国 閉鎖済み原子炉を再稼働方針
米国のホルテック・インターナショナル社は9月12日、ミシガン州で2022年に永久閉鎖となったパリセード原子力発電所(PWR、85.7万kW)を再稼働させるため、子会社を通じて、同原子力発電所が発電する電力を州内のウルバリン電力協同組合(Wolverine Power Cooperative)に長期にわたり販売する契約を締結した。ホルテック社は今年2月、同発電所の再稼働に必要な融資依頼を米エネルギー省(DOE)に申請している。米原子力規制委員会(NRC)のスタッフとは、すでに複数回の公開協議を通じて、同発電所の運転再認可に向けた規制手続について議論を重ねており、「パリセード発電所は閉鎖後に再稼働を果たす米国初の原子力発電所になる」と強調。再稼働を必ず実現させて、ミシガン州の各地に無炭素エネルギーによる未来をもたらしたいと述べた。また、長期停止中の原子力発電所を数多く抱える日本や脱原子力を完了したドイツでも、同様の流れになることを期待するとした。米国では、独立系統運用者が運営する容量市場取引きの台頭など、電力市場の自由化が進展するのにともない、電力事業者間の従来通りの電力取引をベースとしていたパリセード発電所の経済性が悪化。2007年に同発電所をコンシューマーズ・エナジー社から購入したエンタジー社は2022年5月、当時の電力売買契約が満了するのに合わせて、合計50年以上安全に稼働していた同発電所を閉鎖。その翌月には廃止措置を実施するため、同発電所を運転認可とともにホルテック社に売却していた。ホルテック社は、原子力発電所の廃止措置のほか、放射性廃棄物の処分設備や小型モジュール炉(SMR)の開発など、総合的なエネルギー・ソリューションを手掛ける企業。同社によると、近年CO2の排出に起因する環境の悪化から各国が炭素負荷の抑制に取り組んでおり、原子力のようにクリーンなエネルギー源が重視される時代となった。パリセード発電所の購入後、ホルテック社は、DOEが既存の原子力発電所の早期閉鎖を防止するため実施中のプログラムに同発電所を対象に申請書を提出。これを受けてミシガン州のG.ホイットマー知事は2022年9月、この方針を支持すると表明していた。ホルテック社が今回結んだ電力売買契約では、パリセード発電所が発電する電力の3分の2をウルバリン電力協同組合が買い取り、同組合に所属する他の電力協同組合を通じてミシガン州主要地域の家庭や企業、公立学校等に配電する。残りの3分の1は、ウルバリン協同組合が協力中のフージャー・エナジー(Hoosier Energy)社が買い取る予定。なお、今回の契約では、ホルテック社がパリセード原子力発電所敷地内で、出力30万kWのSMRを最大2基建設するという契約拡大条項も含まれている。これらを追加建設することになれば、ミシガン州では年間約700万トンのCO2排出量が削減される見通し。ホルテック社の説明では、パリセード発電所の再稼働に対する地元コミュニティや州政府、連邦政府レベルの強力な支持は、CO2の排出削減における原子力の多大な貢献に基づいている。ホルテック社で原子力発電と廃止措置を担当するK.トライス社長は、「パリセード発電所を再稼働させることで、ミシガン州は今後のエネルギー需要を満たしつつ地球温暖化の影響を緩和できるほか、高収入の雇用を数百名分確保し地方自治体の税収を拡大、州経済の成長にも貢献できる」と指摘している。(参照資料:ホルテック社、ウルバリン電力協同組合の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 15 Sep 2023
- NEWS
-
WH社 北欧2か国でのAP1000とAP300建設に向けフォータム社と協力
米ウェスチングハウス(WH)社とフィンランドのエネルギー企業フォータム社は6月7日、WH社製の大型炉AP1000と小型モジュール炉(SMR)のAP300を、フィンランドとスウェーデン両国で建設する可能性を共同で探るため、了解覚書を締結した。同覚書は、今後両社が実施する技術面や商業面の詳細協議など、協力の枠組みを定めたもの。北欧の両国でWH社製原子炉を実際に建設する際、必須となる前提条件の特定を目的としており、フォータム社は新規の原子力発電所建設で最終的な投資判断を下すのは、後の段階になると説明している。フィンランド政府が株式の約51%を保有するフォータム社は、ロシア型PWR(VVER)2基で構成されるロビーサ原子力発電所を国内で運転する一方、スウェーデンではオスカーシャムとフォルスマルク両原子力発電所にも一部出資している。2022年11月から、両国での原子力発電所新設に向けて2年計画の実行可能性調査(FS)を開始しており、その背景として「社会全体が直面しているエネルギーの自給や供給保証、CO2排出量の実質ゼロ化という課題を解決するには原子力が有効だ」と説明していた。このFSで、同社は大型炉やSMRの新規建設にともなう技術面と商業面の前提条件とともに、政策面や法制面、規制面などの社会的条件についても調査中。新たなビジネス・モデルの構築や関連企業との連携協力も進めており、これまでに英国のロールス・ロイスSMR社やフランス電力(EDF)、韓国水力・原子力会社(KHNP)のほか、スウェーデンのプロジェクト開発企業であるシャーンフル・ネキスト(Kärnfull Next)社、フィンランドの最大手ステンレス鋼生産企業のオウトクンプ(Outokumpu)社、ヘルシンキ市営のエネルギー企業のヘレン(Helen)社とも同様の協力合意に達している。一方のWH社は今年5月、第3世代+(プラス)の大型炉であるAP1000の電気出力を30万kWに縮小したAP300を発表した。1ループ式でPWRタイプのSMRとなる同炉は、設置面積がサッカー・コートの4分の1ほど。その利点として同社は、数あるSMR設計の中でも唯一、すでに中国や米国で稼働中のAP1000で実証済みの技術を用いている点を強調した。同炉はまた、AP1000と同じく負荷追従性に優れ、モジュール工法が可能。主要機器や構造部品もAP1000と同一で、これには受動的安全系や燃料、計装制御(I&C)系も含まれる。このほか、AP1000と同じサプライチェーンを利用でき、許認可手続きの手順も同じになるため、サイトでの工期も短縮されると指摘している。WH社は2027年までにAP300の設計認証(DC)を米原子力規制委員会(NRC)から取得し、2030年までに初号機の建設工事を開始、2033年には運転可能とすることを目指している。同社のD.ダーラム社長は「フォータム社の原子力発電所にはこれまでも、原子燃料その他のサービスを提供しており、当社の重要な顧客である。同社とのさらなる協力により、受動的安全性を備えた原子炉など、当社の先進的で実証済みの技術を北欧諸国に提供し、今後の世代に一層確実なエネルギー供給を保証していきたい」と述べた。(参照資料:WH社、フォータム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 08 Jun 2023
- NEWS
-
原子力分野で『G5』が結束強める 原産協会主催イベント
日本原子力産業協会は4月16日、札幌市内で「国際原子力フォーラム」を開催した。G7気候・エネルギー・環境相会合に併せて開催したもので、各国の原子力産業団体と連名で、エネルギー分野のG7リーダーに対し共同ステートメントを発表。気候変動の緩和およびエネルギー・セキュリティの強化へ向け、原子力発電の積極活用を強く訴えた。参加した産業団体は、日本原子力産業協会の他、米原子力エネルギー協会(NEI)、世界原子力協会(WNA)、カナダ原子力協会(CNA)、英原子力産業協会(NIA)、欧州原子力産業協会(nucleareurope)の6団体。共同ステートメントは、「安全性を大前提に、原子力利用拡大へ向けた産業界としての決意と各国政府への要望をとりまとめた」(新井史朗・原産協会理事長)もので、以下の9点を柱としている。既存炉の最大限活用新規炉導入の加速原子燃料分野のロシア依存低減原子力分野への資金調達スキームの整備規制基準の標準化および効率化革新炉開発への支援原子力への社会的理解の促進最終処分場立地に向けた良好事例の共有原子力の新規導入国や導入検討国への支援このうち原子燃料調達におけるロシア依存の低減に関しては、同日発表されたG7札幌コミュニケでも大きく取り上げられた。それを象徴するかのように、国際原子力フォーラムには、G7のうち原子力利用国である5か国のエネルギー大臣が全員出席しただけでなく、同フォーラムの場で、採掘から燃料加工、輸送に至るまでのフロントエンド分野の協力で5か国が合意に達したことを明らかにした。これにより5か国間で国際的な燃料サプライチェーンを構築し、同分野でのロシア依存を低減し、原子力発電を最大限に活用することを目指すという。加えて各大臣から、原子力発電の推進に関し、「脱炭素社会の実現とエネルギー安全保障の両立という地球規模の課題解決に向けて、今ほど原子力に注目が集まっている時はない」(西村康稔経済産業相)、「民生用原子力分野で規制当局間のワーキンググループを作りたい」(A.パニエ=リュナシェ仏エネルギー移行相)、「SMRなど進捗著しい分野においても、許認可のペースがスピード感を失わないようにしたい」(J.ウィルキンソン加天然資源相)、「世界中の国が同じ方向を向いており、原子力拡大を通しエネルギー・セキュリティを強化するため、これまでにないほどのチャンスが訪れている」(G.シャップス英エネルギー安全保障・ネットゼロ相)等の前向きな発言があった。米エネルギー省のJ.グランホルム長官は、「G7のうち少なくとも5か国が同じ目的意識を共有している」とした上で、現在を「新しい原子力の夜明け」と形容。今後、①規制体系の協力、②資金調達面の協力を進めると同時に、すぐにでも原子力導入が必要な途上国向けに「これまで蓄積してきた我々の知見を提供するべき」だと強調した。そして「(今回提起された)産業界の提言全てに同意する」とし、「“G5”で原子力分野の協力ができることが楽しみだ」と構想実現に向けて強い意欲を示した。
- 18 Apr 2023
- NEWS
-
米国で建設中のボーグル3号機 送電開始は4月に
米ジョージア州のA.W.ボーグル原子力発電所で、3、4号機(各ウェスチングハウス社製のAP1000、110万kW)を建設しているジョージア・パワー社は1月11日、今年の第1四半期(2023年1月~3月)中に予定していた3号機の送電開始を4月に延期すると発表した。これは、同社および親会社のサザン社が証券取引委員会(SEC)に提出したレポートの中で明らかにしたもの。延期理由としては、同じくサザン社の子会社で3、4号機の運転を担当予定のサザン・ニュークリア・オペレーティング社が、3号機の運転開始前試験と起動試験で冷却系配管の一部に振動を認めたため。同社は現在、修理作業を実施しており、原子力規制委員会(NRC)に対し、この作業を迅速に進めるため運転認可の修正を要請する方針である。この延期にともない、同プロジェクトに45.7%出資しているジョージア・パワー社は、これまでの建設費や試験費に加えて月額で最大1,500万ドルの(税引き前)資本コストを負担する必要がある。また、同プロジェクトにそれぞれ、30%と22.7%、および1.6%出資しているオーグルソープ電力とジョージア電力公社(MEAG)、およびダルトン市営電力にも影響が及ぶと思われる。ボーグル3、4号機の増設計画は米国で約30年ぶりの新設計画であり、それぞれ2013年3月と11月に本格着工した。同様にAP1000設計を採用したサウスカロライナ州のV.C.サマー2、3号機建設計画は、2017年3月のウェスチングハウス社の倒産申請を受けて中止となったが、ボーグル計画ではサザン・ニュークリア社がWH社からプロジェクト管理を引き継いで建設工事を継続してきた。3号機では2021年7月に温態機能試験が完了し、燃料の装荷も2022年10月に完了した。今後のスケジュールは主に、機器類の最終試験や運転前試験、および起動試験の進展状況に左右されるが、サザン・ニュークリア社は現在、ベンダーや契約企業、請負企業の管理や現場労働者の生産性監督、コストの上昇問題等に取り組んでいる。同型炉が中国で運転を開始してまだ数年ということから、新たな技術を導入した一部のシステムや構造物、機器類で設計変更や修理が必要になる可能性もあり、その場合はスケジュールのさらなる遅延やコストの上昇もあり得るとしている。(参照資料:ジョージア・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 16 Jan 2023
- NEWS
-
COP27:エネルギー・セキュリティと原子力を議論
COP会場内の特設会議場で11月16日、「低炭素社会における原子力の役割」をテーマに、米原子力エネルギー協会(NEI)、カナダ原子力協会(CNA)、世界原子力協会(WNA)、欧州原子力産業協会(Nucleareurope)、日本原子力産業協会など原子力産業界6団体が主催するパネル・セッションが開催された。NEIのキャロル・ベリガン・エグゼクティブ・ディレクター、CNAのジョン・ゴーマンCEO、WNAのサマ・ビルバオ・イ・レオン事務局長、Nucleareuropeのイブ・デバゼイユ事務局長らが登壇した。セッションでは、原子力の役割の中でも特にエネルギー・セキュリティが話題となった。レオン氏は「世界のエネルギー市場は機能不全に陥っている。市場はエネルギーの供給安定性もセキュリティも考慮していない」と指摘。「長期的な投資に結び付くようインセンティブを盛り込んだ、新たな市場設計が必要」と主張した。ベリガン氏は「今も電気にアクセスできていないアフリカのような国々にとっては、供給安定性が高いだけでなく、人口規模に応じた潤沢な電力が必要だ。その時、クリーンエネルギーであることは非常に意味があり、原子力の果たす役割は極めて大きい」と、エネルギー・セキュリティを気候変動の観点から俯瞰。「ポーランドが初の原子力発電所導入を進めるのも、ルーマニアが原子力発電所増設を進めるのも、アフリカ諸国が原子力に関心を示すのも、原子力がエネルギー・セキュリティと気候変動対策の両方を兼ね備えているから」との見方を示した。ゴーマン氏は、「世界の化石燃料供給体制は極めて脆弱だ。化石燃料の場合は、燃料供給が途絶するとたちまち立ち行かなくなることが欧州で実証されてしまった」とした上で、「原子燃料も世界の供給ネットワークに依存しているが、様相はだいぶ異なる」と指摘。原子力発電の安定した供給力の理由として、「通常の原子炉であれば、3年分の燃料をサイト内に備蓄している。また原子炉の運転に占める燃料コストの割合が極めて小さく、価格変動の影響を受けにくい」の2点を挙げた。また同氏はSMRについて、「燃料交換せずに5-10年は稼働」、「比較的どのような場所でも立地が可能で、需要に応じてスケールアップできる」など導入の利点を強調した。なお日本原子力産業協会の新井史朗理事長もビデオメッセージを寄せ、日本の気候変動政策やエネルギー基本計画、再稼働状況を紹介し、今後の再稼働への期待を述べた。
- 22 Nov 2022
- NEWS
-
COP27:「若い世代が活躍する場を」グロッシー事務局長
COP会場内の原子力パビリオンで11月10日、国際原子力機関(IAEA)のグロッシー事務局長と原子力分野の若手専門家との懇談セッションが開催された。冒頭挨拶した事務局長は、若手登壇者がいずれも途上国出身である事に触れ、多くの途上国で原子力の導入が進められている今、「こうした若手専門家が活躍できるよう支援することが、IAEAの重要なミッションの1つ」と強調した。核医学分野の医師であるエブリン・アチーン氏はケニヤ出身。 IAEA フェローとして核医学のトレーニングを受けた同国初の女性である。化学療法よりもストレスの少ない核医学をケニアで広めていきたいと考えている。事務局長は核医学でがん撲滅を目指すIAEAプロジェクトである「Rays of Hope」に言及し、同プロジェクトをアフリカでどのように展開すべきか問い掛けた。これに対しアチーン氏は「トレーニングが重要」と指摘し、 IAEA のサポートでアフリカの女性が核医学の訓練を受ける機会を増やすことができれば、非常に大きな一歩となると述べた。また、長期的なトレーニングでは多額の費用がかかるため、医師が短期的なトレーニングを受け、そのノウハウを地元に還元する仕組みが構築できるとよいと語った。またアチーン氏は、アフリカでは国ごとにプライオリティや人材のレベルが大きく異なるとし、同プロジェクトの実施にあたっては「国ごとに異なる既存のがん治療のニーズに合わせ、それぞれの政府と協力するべき」と強調した。そしてケニアの場合は、放射性同位体製造施設が必要だと訴えた。ディナラ・ヤマコバ氏はカザフスタン出身。カルフォルニア大学バークレー校でエネルギーを専攻している。事務局長から世界で原子力はどのように活用されていくと思うかと尋ねられたヤマコバ氏は、途上国対象と前置きした上で、「発電だけでなく水素製造や海水淡水化へのニーズが高まっている」と指摘。「原子力がそれを実現する大きな可能性を秘めている」と思いを語った。ビシシ・スナシー氏はアフリカの島国モーリシャス出身で、北米原子力青年ネットワーク連絡会(NAYGN)の代表。原子力について「私自身18歳で国を出るまで原子力の存在を知らなかった。知った時は衝撃だった」と語った。そして原子力にはSDGs に影響を与える数多くのメリットがある。地域の学校に出かけるなどして気候変動対策における原子力のメリットを若い人にもっと知らせていきたいと語った。ウォチェック・ザコウスキ氏はポーランド出身。コンサルタントを務めている。新規建設の経済的側面について、このほど発表されたポーランドでの新規建設計画を例にあげ「原子力は再生可能エネルギーよりも長期間稼働し、はるかに大きな雇用を生む」と強調した。そして建設段階で1万人、50年運転するとしても4万人の雇用を生むとの見通しを示した上で、直接雇用だけでなく、間接的に地域社会のあらゆるレベルにポジティブな経済効果を与えると指摘した。事務局長は懇談の最後に「多様なバックグラウンドを持つ、多様な専門分野の人材の力で、原子力が前に進んでいる」、「今すぐとは言わないが君たちの目指す世界はすぐそこまできている」と語り、「私たちの世代の使命は若い世代が活躍する場を用意すること」と結んだ。
- 18 Nov 2022
- NEWS
-
COP27:「アフリカ諸国こそSMR」ニュースケールCEO
COP会場内の原子力パビリオンで11月15日、欧州原子力産業協会(Nucleareurope)の主催で、「クリーンなエネルギーミックス」をテーマとするセッションが開催された。モデレーターに有馬純氏(日本原子力産業協会理事、東京大学公共政策大学院・特任教授)を迎え、欧州原子力産業協会のイブ・デバゼイユ事務局長、世界原子力協会(WNA)のサマ・ビルバオ・イ・レオン事務局長、米ニュースケール社のジョン・ホプキンスCEOが登壇し、ネットゼロに向けた原子力技術によるソリューションを議論した。デバゼイユ氏は「1つのテクノロジーに限定せず、再生可能エネルギーも原子力も、あらゆるエネルギー源を活用すべき」とした上で、「カーボンフリーの電源で脱炭素を目指すべきであり、我々にガスやオイルを使う余地はない」との見方を示した。レオン氏も「電力だけでなく水素利用や熱利用も見据えるべき」とし、「ネットゼロに向けたトータルなソリューションを提供できるのは原子力だけ」と強調した。また開催地であるアフリカの実情にも言及し「我々のエネルギー移行は『化石燃料からクリーンエネ』への移行だが、アフリカ諸国のエネルギー移行は『エネルギーゼロ』からの移行」だと指摘。目標時期も2030年や2050年ではなく、喫緊であるとし、「プライオリティ、タイムラインが異なることを認識する必要がある」と強調した。ホプキンス氏は「アフリカ諸国にはSMRが適している」とした上で、「エジプトであれば人口集中エリアに設置し、需要増に応じてモジュールを拡大」、「南アフリカでは発電のみならず海水脱塩利用のニーズもある」との見方を示した。そして「アフリカ諸国は雇用を重視している」と指摘し、「再生可能エネルギーは雇用を生まないが、SMRは30万kWの出力規模であれば、電気技師、配管技師、保守要員、警備要員などそれなりの人員が必要だ。また必要な学位は8つ程度で、うち5つは2年間で取得可能。つまり単なる雇用だけでなく人材スキルの向上も望める」との見方を明らかにした。また有馬氏が「大型炉と小型炉の棲み分け」について尋ねたのに対し、レオン氏は「多くの報告書が、2050年までに12億kWの原子力発電設備容量が必要だと指摘している。これは毎年5,000万kW以上の新規原子力を運転開始させることであり、大型か小型かではなく、文字通りあらゆる原子炉が必要となる」との認識を示した。一方デバゼイユ氏は「マーケットが決めること」だとしながらも、SMRについて「初期の懐疑的な見方から、今ではより現実味を帯びてきた」とし、「建設のリードタイムが短いことから、喫緊のソリューションとなりうる」と期待を寄せた。有馬氏は「世界中で多くの先進炉が検討されているが、いずれも現実味を帯びている。ただし導入においては、ファイナンスを引き出すためにも、現実的で確固たるエネルギー政策が不可欠」との見解を示し、セッションを結んだ。
- 16 Nov 2022
- NEWS
-
COP27:原子力パビリオンがオープン
COP27の4日目となる11月9日、COP会場内にある国際原子力機関(IAEA)のパビリオンが正式にオープンし、グランドセレモニーが開催された。「#Atoms4Climate」と題したパビリオンではCOP会期中に、気候変動対策に原子力がどのように貢献できるかをメインテーマに、IAEAを中心に世界原子力協会(WNA)、米原子力エネルギー協会(NEI)、カナダ原子力協会(CNA)、欧州原子力産業協会(Nucleareurope)、日本原子力産業協会などが運営するさまざまなサイドイベントを開催する。朝10時のセレモニー開始に先立ってパビリオンに姿を現したグロッシー事務局長は、会場に詰めかけた聴衆ひとりひとりと握手し、来場に感謝の言葉を述べた。セレモニー冒頭で自身が出演するPRビデオで、地球温暖化による海面上昇に苦しむフィジーの現状が紹介されると、事務局長は「このビデオにある通り、気候変動は現実の出来事である。これに対し我々は原子力テクノロジーで立ち向かうことを宣言し、シャルム・エル・シェイクに原子力のパビリオンを設立することにした」と力強く挨拶した。事務局長は、パビリオンの協力機関に世界気象機関(WMO)や国連食糧農業機関(FAO)らも名を連ねていることを強調した上で、「気候変動対策への原子力の貢献に対する期待の表れ」であると指摘。将来世代を考えると「地球温暖化に対して楽観主義で対応するわけにはいかない」と強い決意を表明した。セレモニーでは続いてガーナ・エネルギー省のプレンペー大臣が登壇。大臣は「ガーナは原子力エネルギー機関を設立し、クリーンで安全で持続可能なエネルギー開発を進め、原子力シェア50%のネットゼロ社会を目指したい」と挨拶した。そのほか米エネルギー省のハフ原子力担当次官補が、ケニアとの革新炉導入プロジェクトについて紹介したほか、前述のWMOやFAOが登壇。WMOのタラス事務局長は、エネルギー部門がGHGの最大の排出者であり、輸送及び電力部門の85%は化石燃料であることから、「原子力がソリューションのカギ」と指摘した。FAOのセメド事務次長は「GHG排出量の1/3は農業由来」とした上で、原子力は食糧不均衡を是正するカギとなるだけでなく、放射線利用によって「食糧の収穫量増大と安全性改善に多大な貢献をする」との認識を示した。原子力産業界からは世界原子力発電事業者協会(WANO)のアル・ハマディ理事長、NEIのコーズニックCEOらが登壇した。セレモニーの最後にグロッシー事務局長は「気候変動対策で誰一人取り残さない社会のために、原子力を活用しよう」と呼びかけ、新たなイニシアチブ「#Atoms4NetZero」を発表した。
- 10 Nov 2022
- NEWS
-
“Darkest before the dawn”
米国で原子力発電プラントが次々に早期閉鎖されるのを、うんざりするほど目にする。だがこれは一見ネガティブなトレンドに見えるが、将来の原子力の急成長に向けた“種”を蒔いていると見ることもできる。現時点で最後に閉鎖されたプラントは、ミシガン州のパリセード原子力発電所(PWR、85.7万kW)だ。50年の運転期間を経て、今年5月に閉鎖された。パリセードは最後に無停止で577日間も発電を続けたことからも、好調に稼働していたことがわかる。有効な運転認可を10年も残しての閉鎖となったが、プラントのオーナーであるエンタジー社は、たとえ連邦政府からの支援を受けられるとしても「もう十分」と判断したのである。再生可能エネルギーへの高額の補助金が原因で、一握りの原子力発電プラントが、自由化されたエネルギー市場からハジキ出された。そして、原子力発電の面倒を好まない電力会社の手で安楽死させられた。パリセードはそのうちの一つだ。閉鎖されたプラントは通常、ホルテック社やエナジー・ソリューション社のような廃止措置専門企業に売却され、この新しいオーナーが廃棄物と使用済み燃料を含むサイト全体を管理する。プラントの運転認可や、廃止措置のために積み立てられた基金も、新しいオーナーに移管される。そして、やるべき作業は明白だ。プラントを廃止措置するのだ。基金額よりも少ないコストで廃止措置を実施しさえすれば、残りの基金残高はマル儲けである。この単純なビジネスモデルは、革新的な廃止措置メソッドと組み合わさって、大変な利益をもたらしうるのである。この利益がモチベーションとなり、より多くの原子力プラントの早期閉鎖につながったことは間違いないが、私は、それだけでは一連のプラント安楽死の加速を説明することはできないと考えている。ホルテック社は廃止措置分野のエキスパートだ。米国のプラントに長年にわたって、使用済み燃料の乾式貯蔵システムや、関連サービスを供給してきた。パリセードの新しいオーナーとなったが、そのほかにもここ数年でピルグリム、オイスタークリーク、インディアンポイントの計3つの原子力発電サイトを同じように手に入れている。ホルテック社には、「SMR-160」と呼ばれる小型原子炉の開発を手掛ける部門もある。この小型PWRはすでに米原子力規制委員会と申請前の折衝を開始しており、早ければ2025年にも「設計認証(DC)」を取得することを目指している。DC取得後、ホルテック社は初号機をわずか36か月で建設し、2028~29年頃にグリッドに接続させる考えだ。おそらくもう誰もがお気付きだろう。旧いプラントの廃止措置を引き受けたホルテック社は、あるいはほかの廃止措置企業も、サイト全体のオーナーになる。そこはただのサイトではない。送電グリッドへの接続も容易で、運転経験豊富なスタッフたちが大勢いるサイトだ。そして新規原子力発電プラントの認可に必要なものは、採用する炉型のDCだけではない。サイト自体が原子力サイトに適しているかどうかを審査する「事前サイト許可(ESP)」も必要である。もちろん旧原子力サイトがなんの問題もなくESPを取得することは、容易に想像しうる。つまり多くの点で旧原子力サイトは、新しい原子力発電所を立ち上げるのにパーフェクトな場所なのだ。新しくフレキシブルなテクノロジー、電気だけでなく水素などのプロダクト、そして本気で取り組む企業。この3者が揃った時、何が起こるだろうか?すでにホルテック社は、オイスタークリーク・サイトにSMR-160初号機を建設する「可能性を模索している」と発言している。廃止措置作業が順調に進めば、ホルテック社は新規建設候補サイトのオーナーとなり、SMRテクノロジーのオーナーとなり、その健全なバランスシートを利用して、新規原子力発電所の建設に悠々と着手できるのである。発電プラントの旧オーナーが原子力利用に積極的でなかったからといって、将来のオーナーが原子力に手を出さないというわけではない。となると、旧いプラントが早期に閉鎖されればされるほど、新しいプラントが花開く、という考え方だってアリではないかと思うのだ。文:ジェレミー・ゴードン訳:石井敬之
- 11 Jul 2022
- CULTURE
-
【第55回原産年次大会】セッション2「原子力発電の最大限活用に必要な事業環境とは」
初日のトリを飾るセッション2では、国内外から高名な有識者を迎え「原子力発電の最大限活用に必要な事業環境とはなにか?」をテーマに、原子力発電を取り巻く環境についてさまざまな観点から議論した。エネルギー政策を専門とする慶應義塾大学の遠藤典子特任教授が、モデレーターを務めた。最初に日本電機工業会・原子力政策委員長の薄井秀和氏(東芝エネルギーシステムズ取締役)が登壇し、原子力プラントに携わるメーカーの立場から、日本の原子力産業を取り巻く環境について整理。多くの課題を浮き彫りにさせるとともに、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた、国への要望や産業界としての取り組みについて紹介した。薄井氏 発言要旨日本国内の既設原子力発電所が全て60年運転したとしても、2040年以降は大幅に設備容量が減少する。2030年の原子力シェア=22%を達成できたとしても、2050年カーボンニュートラル実現には、原子力発電所の新規建設が不可欠となる。原子力のプラント建設は長期的なプロジェクトであり、今から着手しなければならない。一方、日本の原子力産業界はさまざまな課題を抱えている。第一にサプライチェーンの維持。原子力発電事業のライフサイクルは長く、それぞれのステージで多くの業種、企業の参画が必要だ。しかし、新規制基準向け安全対策工事やプラント再稼働対応のみが実施されている現状では、維持できる技術分野やサプライチェーンが偏っている。その結果、多くの企業で原子力特有技術の発注が途切れ、人材と製造ラインの維持が困難となり、事業撤退を検討している。原子力産業に欠かせない企業に事業を継続させるには、早期再稼働と新規建設の見通しを明確に示すことが必要不可欠である。薄井氏プラントメーカーにおいても幅広い技術と人材の確保は課題となっている。福島第一原子力発電所の廃炉や、再稼動対応のみでは、やはり技術分野が偏っており、原子力プラントの新規建設に必要な人材が確保できない。また高齢化により建設経験者も減少している。原子力産業を志望する学生については、数だけでなくその内訳も大きな問題である。震災以降、原子力系の学生は同程度を維持しているが、それ以外の機械系や電気系は大幅に減少している。電気、機械系の学生は就職先の選択肢が多く、業界に魅力がないと人が集まらない。研究開発を支える設備・機会の喪失も課題である。原子力事業の先行きが不透明の中、民間での大型設備や研究設備を維持するのは困難だ。これらの設備は研究目的だけでなく、若手に実習を通じて教育する場としても重要な役割を担っている。海外の照射炉活用などの国際連携と並行して、国内の人材育成、国産技術の競争力強化のためにも国内インフラの整備は必要だ。原子力発電は、現時点で実用段階にあるカーボンフリー電源として、脱炭素化に貢献する実績ある技術であり、2050年カーボンニュートラル実現に向け、国には新増設・リプレースの方針明確化を求めたい。国の方針が明確になることで、電力会社における新増設・リプレースの計画が具体化され、プラントメーカーやサプライチェーンにおいても、技術力の維持向上に向けた実効的な取組みが可能となる。さらに、学生の原子力産業への参入意欲が向上し、さらなる安全性向上や技術開発に必要な人材の拡充を見込むことができる。加えて国には、核燃料サイクル実現に向けた高速炉開発推進も要望したい。使用済み燃料に含まれるプルトニウム利用/有害度低減は理論的に可能であり、バックエンド問題の解決にもつながる。これは国民の理解にもつながる。また高速炉開発は、学生や若い技術者が、革新的で夢のある開発に取り組む場の提供にもなる。高速炉のような長期開発には民間が投資しにくく、産官学・国際協力の枠組み構築や研究インフラの整備を国がリードしてほしい。産業界においても2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、さまざまな取り組みが行われている。次世代軽水炉は、世界最高水準の安全性と経済性を有し、再生可能エネルギーとも共存し、社会に受け入れられやすいプラントとして開発がすすめられている。小型軽水炉は近年、国内外で開発が活発化しているが、小型化により原子炉システムを単純にすることが可能であるため、建設時のイニシャルコストが抑えられる。高温ガス炉(HTGR)は発電の他、水素製造など、産業分野の脱炭素化への貢献が期待されている。これらの新型炉は開発から実用化されるまでは、長期にわたるプロジェクトになり、国の明確な方針の下、産官学が連携して原子力産業界を魅力あるものにしていきたい。原子力発電が幅広く社会から受け入れられるためには、福島第一の事故を教訓として再稼働プラントにおいて、安全/安定運転を実績として積み重ねていくことが重要だと考えている。そのためには、運転プラントの保全活動の品質を幅広く支えている産業基盤をしっかりと維持向上させていきたい。原子力の安全・安定運転を支えるとともに、今後の社会ニーズに応えることができる高度な技術基盤を維持向上/強化することは、プラントメーカーやサプライチェーンを含む原子力産業界の大きな責務と考える。再稼働/長期運転/新増設計画/革新炉開発計画など、国の長期的かつ明確な方針のもと、原子力プラントが社会に受け入れられ、有効に活用されるように、これからも真摯に取り組んでいく。♢ ♢続いて世界原子力協会の理事であり、ハントン・アンドリュース・カース外国法事務弁護士事務所のジョージ・ボロバス氏が、新規原子力プロジェクトに関してファイナンスの側面から考察。資金調達の際に重要となるリスクの考え方を整理した。ボロバス氏 発言要旨原子力プロジェクトを進める上で、ファイナンシング(資金調達)は非常に大切である。資金調達にあたってはリスクを考えなくてはならない。財務リスクとしては、これまでのプロジェクトの遅延やコスト超過、電力市場の将来見通しの不確実性、長期的な人材育成の必要性、莫大な初期投資と長期に及ぶ工期、原子力損害賠償責任ーー等が問題になってくる。またリスク解析にあたっては風評リスクも考えなければならない。原子力の負のイメージ、政治的なリスクやPA問題、福島第一事故のイメージ、核不拡散、バックエンド問題など、こうした風評リスクと呼ばれるものは、プロジェクトの遅延やコスト超過を招き、誰もが敬遠するものだ。ボロバス氏原子力ファイナンスの有効なモデルはなにか?と聞かれることが多いが、2022年現在、「単一の原子力ファイナンスモデルはコレ!」というものは存在しない。輸出信用機関(ECA)やベンダーが提供するファイナンスが中心になっているが、基準となるモデルはない。世界銀行のような多国籍の支援もない。原子力プロジェクトのファイナンスを考えるとき、まずはリスクを最小化することが肝要だ。そのためにはプロジェクトの安全性を確実にすること、サプライチェーンを確保すること、経験豊富なベンダーによるマネジメント、所有者とベンダーが連携したプロジェクトマネジメントの実施、規制当局の能力、政府の支援体制、長期にわたる人材育成ーーなどが必要になってくる。投資家にとってプロジェクトにおいて重要なことは、「テクノロジー」ではない。投資家が注目する点は、収益の確実性、政府の役割の明瞭性、規制体制の対応力、風評上の懸念、プロジェクトマネジメントのリスク、市場リスクなどである。こうした投資家にとっての信用補完措置としては、政府の保証が考えられる。原子力はプロジェクトファイナンスの対象になっておらず、政府による支援が不可欠なのだ。しばしば他業界から「原子力がそんなに優秀ならば、なぜ原子力に政府の支援が必要なのか?」と問われる。答えは簡単だ。原子力が提供するメリット(エネルギー安全保障、気候変動の緩和、産業開発、教育レベルの向上、研究開発の促進など)は、社会的な価値であり、そのコストとメリットをプロジェクトファイナンスの分析に載せることはできないのだ。社会的なメリットがあるのだから、社会がサポートするべきなのだ。しかし政府資金だけに依存すると、財政規律/アカウンタビリティ/効率性がなくなってしまう。政府からの資金は民間からの投資の“呼び水”として必要だと考えるべきだ。投資家に説明する際にはエンジニアの言葉ではなく投資家の言葉で説明しなければならない。「最新技術」を誇っても、投資家には「FOAKリスク」((first of a kind いわゆる初号機リスク))としか思えない。「コンソーシアム」を強調しても、投資家には「内部統制の複雑さ」しか想起されない。SMRは原子力業界で今最もエキサイティングな話題だ。SMRには数多くのメリットがあるがFOAKリスクは免れない。規制構造も実証されていない。したがって資金調達は容易ではないだろう。ただ長期的に見れば、先行者利益を得る機会が存在することは間違いない。♢ ♢続いて英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)の原子力・廃炉部長クリス・ヘファー氏が、英国のエネルギー政策について発表。原子力分野で日英が協力して、エネルギー安全保障の確保やネットゼロの実現に取り組んでいきたいと強い意欲を示した。ヘファー氏 発言要旨第55回原産年次大会は世界にとってとても重要な時期に開催されている。 現在のウクライナにおける悲劇と国際的な化石燃料価格の上昇は、エネルギーの自立と安全の必要性を浮き彫りにしている。脱炭素化とエネルギー安全保障の両面から、迅速なクリーンエネルギーへの移行は、日英両国にとって不可欠であり、英国は原子力を重要な手段と見なしている。現在英国は、大型炉とSMRの両方を新規プロジェクトとして進めることに注力している。英国と日本には、長年にわたる原子力協力の歴史がある。今後もエネルギー安全保障の確保やネットゼロの実現など、共通の課題に取り組んでいきたい。ヘファー氏過去数年間で、英国の原子力政策にはいくつかのエキサイティングな進展があった。B.ジョンソン首相の「10ポイント計画」と「エネルギー白書」のどちらも、クリーンエネルギー源として原子力を推進するという政府の目標を強調している。大小の原子炉開発支援のため最大5億2500万ポンドがコミットされている。また、サイズウェルC原子力発電所プロジェクトについて交渉が開始され、本議会会期中に少なくとも1つの単独プロジェクトを最終投資決定(FID)に持っていくことを支援するために170万ポンドが手当てされた。サイズウェルCは、600万世帯に電力を供給するのに十分な約320万kWの電力を発電し、年間約900万トンの二酸化炭素排出量を削減する。事業者との交渉は来年春に完了する予定である。昨年10月には、新規原子力プロジェクトへの規制資産ベース(RAB)の資金調達モデルの来年実施を目標とし、「原子力融資法案」が議会に提出された。また、将来の原子力参入への支援を提供する1億2,000万ポンドの「将来の原子力開発を可能にするための基金(Future Nuclear Enabling Fund)」を公表した。さらに、本年後半には、将来の英国が必要とする大型炉あるいは先進炉に絞った原子力ロードマップを公表する予定だ。ウクライナの情勢は、英国のエネルギー安全保障戦略に影響を与えている。2016年、政府はヒンクリーポイントC原子力発電所(HPC)の支援を決定。これにより2基の欧州加圧水型炉(EPR)が運転を開始する。HPCは、地域経済と英国経済の両方に大きな影響を与え、25,000人以上の新規雇用を創出する。初号機は2026年6月に運開予定だ。HPCが完成するとロンドン全体の約2倍にあたる600万世帯に相当する電力が供給可能となる。これは、英国が2050年のネットゼロの目標を達成するためのカギとなる。2016年、政府はHPCの差金決済(CfD)契約を決定した。これは、当時の状況に鑑みると適切な資金調達のモデルだった。 CfD契約では、消費者は発電所の発電開始まで一切のコスト負担がない。しかしその後、RABモデルの大規模単一資産プロジェクトへの有効性が証明され、既存のサプライチェーンや最近のプロジェクト建設によって積み上げられた専門知識を利用することで、さらに費用対効果を向上できることがわかった。「原子力融資法案」は、将来の原子力発電プロジェクトのための規制資産ベースのモデルの使用を可能にし、RABモデルの範囲で、事業者が効果的な方法で新しいプロジェクトを推進するインセンティブとなる。 RABモデルにより、投資家はプロジェクトの建設リスクの一部を消費者とシェアすることができる。このモデルは、消費者の支払を建設中においてもプロジェクト費用に充当でき、あらゆるリスクが消費者、投資家と事業者の間で分担され、資金調達コストを引き下げることになるだろう。それにより電気料金も下がることになる。英国の民生用原子力施設の安全な廃止措置とクリーンアップは国の優先事項である。英国は、しっかりとした費用対効果の高いクリーンアップと廃止措置の計画と、すべての放射性廃棄物を安全に管理および処分する能力を有している。このタスクの重要性は、年間約30億ポンドに維持されているNDAの予算に反映されており、英国は、原子力発電所やその他のセクターから発生する放射性廃棄物を何十年にもわたって管理してきた。廃棄物の約94%は放射能が低く、既存の施設で安全に処分されている。残りの高レベル廃棄物は、現在、英国内の施設で安全かつ確実に保管されており、地層処分施設(GDF)で最終処分する計画だ。イングランドとウェールズではGDFに適した候補地の調査が進行中であり、4サイトが選定プロセスに入っている。SMRやGDFのような革新的な原子力技術の開発を目指すとき、国民の間で原子力発電が認知されていることが重要である。英国がCOP26 でホストを務める際、英国は国民の原子力への認識を克服するという重大な課題を抱えていた。2021年3月時点で、英国民の原子力発電への支持は38%にすぎなかった。にも関わらず、COP 26で原子力は非常に大きな存在感を示すことができた。COP26では、2週間にわたって多数の興味深く魅力的なイベントが行われ、原子力について話し合う若者の多様な声が、前向きな議論をもたらした。♢ ♢最後にモデレーターの遠藤氏が「原子力発電とエネルギー安全保障」と題して講演。日本及び世界の原子力をめぐる状況を概観し、あらためて課題を洗い出した。遠藤氏 発言要旨ロシアによるウクライナ侵略により世界は一変した。しかも日本は電力市場自由化というプロセスを経て、発送電が分離され、非常に需給が逼迫している。そこにウクライナの問題が起き、ロシアからのガス/石油の調達が途絶える。これは特に欧州を中心に起こっているのだが、グローバルマーケットの中で日本にも大きな影響を与えている。これまで欧州は石炭を焚くことに否定的だったが、石炭も必要だとなった。天然ガスについてはパイプラインを通じた生ガスではなく、LNGを調達するようになった。これによりこれまで世界第二位のLNG調達国であった日本にも大きな影響を与えようとしている。それに対して日本政府は、12日の衆議院の本会議で岸田首相がようやく「原子力を含めあらゆるエネルギー源が必要である」と発言した。それまではどうしても政府は選挙のタイミングになると、原子力に関する発言が少なくなる傾向にあり、昨年のエネルギー基本計画でもリプレースが言及されなかった。遠藤氏原子力事業を持続可能なものにするときの留意点は、エネルギー安全保障に寄与できるかどうかだ。電化やDXの進展によって、需要が圧倒的に膨らむ世の中がやってきている。2030年の日本の電源構成目標は原子力シェアが20-22%と実現が危ぶまれている。それと2050年以降も原子力が必要だということになると、当然リプレースが必要になる。それが可能なのかどうなのか?リプレースをするときに、どういう事業体がリプレースをするのか?どういう炉でリプレースをするのか?そして資金調達をはじめとする政策的な支援であるとか、民間事業としての存立の可能性。そういったものを検討しなくてはならない。各電力会社共通の課題である廃炉の実施についても、廃炉を単独でやっていくのか?連携してやっていくのか?あらためて考える必要がある。そしてグローバル市場の開拓。国内で2030年代に建つ原子炉はゼロであり、日本は海外のマーケットに対して西側諸国の一員としてどう貢献できるのかということも考えていかなくてはならない。日本では、原子力がベースロード電源としてkWh不足(電力不足)の問題に寄与できていない。これは電力市場自由化に伴う構造的な問題である。震災前の2009年の数字では原子力シェアは31%。2021年になると原子力はわずか3%で、ベースロードにほとんど入っていない。カーボンニュートラル、グリーンエネルギーと唱えながらも、石炭を焚き、LNGがベースロードの役割を果たすような状況になっているのが日本の現状だ。そして再稼働の遅れ。原子力規制委員会発足時は、審査期間は5か月程度だと言われていた。最初に新規制基準に適合した川内1号機は、申請から767日かかっている。その後審査期間は延び続け、最近では5年近くかかっている。日本は資源を輸入で調達しており、その間の日本の逸失利益は4.7兆円((日本エネルギー経済研究所による試算))に上る。これに炭素価格を上積みすると11兆円になるとの試算もある。世界を見ると原子力発電所の新設は、ほとんど中露の炉型に限定されている。これは核不拡散上の問題なのだが、なかなか西側の炉が流通しない。原子力は着工から廃炉まで80年のプロジェクトになる。その資金を中国の国家が手当てし、いわば相手国を借金漬けにする、といった関係の固定化が危惧されている。SMRに米英が注力している背景には、中露のビジネスモデルを転換していくという意図もあるのではないかと感じている。♢ ♢パネルディスカッション遠藤氏 電力市場自由化によって日本は総括原価方式を失ったが、英国のRABモデルを通して、原子力がどうやってファイナンスがついて、事業の予見性があって、維持できるのか、日本が学ぶべき点は多いと思う。ヘファー氏 RABモデル適用は始まったばかり。HPCではCfDモデルを用いた。これはFOAKリスクに起因するコスト超過のリスクを負担させるものだ。HPCは英国のプロジェクトというよりも、フランスと中国の国家プロジェクトと言っていいだろう。リスクを消費者と事業者との間で負担するより良い方策を模索し、RABモデルが出てきた。これはこれまで高速道路やトンネル工事のような建設プロジェクトに用いられていたものだ。RABモデルでは、負担の仕方が変わる。政府がプロジェクトに対して個別に出資するということだ。英国は色々な政策モデルを試すのが好きなのだ。遠藤氏 CfDによるストライクプライスが高値になってしまった反省から、RABモデルでは総括原価方式のように固定化し、安定性を保とうとするのが主眼だと思うが、建設中から資金負担を利用者に求めるというのは理解を得られるのだろうか?ボロバス氏 日本の場合、英国の経験を見ることがとても大切だと思う。英国は長年こうしたモデルを使っており、また検討も長年やっている。こうしたファイナンスモデルを開発するというプロセスそのものから学べることは多い。パネル風景英国政府であろうと日本政府であろうと、建設リスクは全く負担したくないものだ。民間企業が発電所を作りたいのならば作ればいい。発電を開始したならば、保証価格で買い取るぞと。そうすると事業者は初期段階で大きなリスクを抱えることになる。それでもプロジェクトを遂行するには2つのことが必要だ。まず、政府がプロジェクトをバックアップしているという保証。それと高いプライスを組み込んで、リスクに見合うものを手当てすること。基本的にこれは英国のプロジェクトであり、英国民のものであると。全てのリスクを1当事者のみにかけるのは現実的ではない。したがってリスクシェアリングが必要になってくる。なぜそれが必要なのか、長期的にそれが節約につながるのだと、きちんと説明しないと国民の理解は得られないだろう。実際に米フロリダ州では、失敗したケースがある。フロリダには裕福な高齢者が多く、生きてもいない将来のために負担したくないという考えが強かったようだ。ウクライナ危機を通じて、今はエネルギー安全保障等について納得してもらえる環境になりつつあるのではないか。遠藤氏 ウクライナ危機でエネルギー安全保障が社会的課題として浮上してきた。もう一つカーボンニュートラルの問題もある。どちらかというと公がコントロールする側面が大きくなってきて民の部分が小さくなっている。国の原子力政策に対する責任のあり方はどうあるべきか?薄井氏 国が長期的な研究開発の投資や明確な方針を示すことで、産業界も具体的な計画を立てられる。最終的には人材が大事であり、人材は欲しいからといってすぐに育つものではない。原子力産業が魅力ある産業になっていかなければならない。ボロバス氏 それに加えてPPPモデル(官民のパートナーシップモデル)で考えなければならない。これはインフラの根幹を担う問題で、経済の土台になるものだということをみんなで認識し、官民で一緒にやるしかないと思う。ヘファー氏 また原子力開発は政府がやるべきことだと思われる。英国にはまだ公的な関与が薄い。財務リスクも公で担う部分が増えていくだろう。遠藤氏 新型炉はなぜこれほどまでにトレンドなのか?ボロバス氏 確かに新型炉やSMRには勢いがある。工期が短く、安全性も高い。だが原子力のプロジェクトは電力を供給しなければならない。エンジニアは独自技術を高めていくことに熱心だが、グリッドへの売電に漕ぎつけねばならない。どんなに優れたテクノロジーでも発電まで辿り着かないと意味がない。また既存の規制の体系が新型炉に合っていないかもしれない、というリスクも忘れてはならない。遠藤氏 米国で、規制との連携によってコストが下がるという指摘を聞いた。日本ではNuScaleへの出資というニュースもあるが、国内においては、小型炉を建設するということは現実的ではないとの声もある。薄井氏 SMRは早い安い安全性高いというのがメリットだが、日本はどうか。一概には言えないが、日本はグリッドが大きく、立地候補点が限られている。一般的には小型炉は大型炉に比べると経済性が低いはずである。初期コストが低いとはいえ、限られた立地点に建設する際に小型炉が選ばれるか疑問だ。何が一番経済性に優れているかという観点で考えるべきで、SMRありきというのは行き過ぎだと思う。ヘファー氏 新型炉にエンジニアはワクワクしてる。夢に溢れている。問題はどれくらい早く進められるか?SMRはメリットもあるが原子力特有の核セキュリティやバックエンドという逃れられない負の側面もある。私見ではSMRも大型炉と変わらないコストになってしまうのではと思う。しかしプロジェクトの規模が小さいので失敗しても影響は少ないだろう。この分野は国際協力がとても大事になってくる。SMRをグローバル市場にすれば、コストやリスクもシェアできる。経済性は今後変わってくる。まずは地元の同意を得てSMRを建設することだ。それと地元経済に資する面も否定できない。遠藤氏 高温ガス炉はどうか?どう考えても水素を遠方から運ぶよりも効率が良いと思うが。薄井氏 さまざまな選択肢ができることはいいこと。それが業界の魅力を高めることにもなる。そのうちの一つが高温ガス炉だ。水素製造や産業への熱源供給に期待できる。日本では産業のためのエネルギー消費が大きい。高温ガス炉に限らずSMRは夢がある。開発に多くの方が関わって活性化すればいいと思う。遠藤氏 これからサプライチェーンを考える際、中国/ロシアに対抗した西側の連携が大切になるのでは?ボロバス氏 おっしゃる通りで、中露のモデルの標語は政府が全面的に負担する。ワンストップショップで済むのが魅力的だ、だがそれは現実ではない。ワンストップショップでは済まない。西側は十分に対抗できる。ただしプロジェクト遅延、コスト超過、どんな民間企業もそのリスクを負担することはできない。政府がそこを管理する必要がある。民間企業が国際的に中露モデルと対抗できる環境を整備する必要がある。遠藤氏遠藤氏 「政府の方針を決める=社会の合意を得る」だと思うが、原子力を事業として維持するための負担を国民に求めることに理解は得られるか?ボロバス氏 世界を見回すと、原子力発電所の地元は原子力を支持している。情報も多いし、メリットも感じている。こうしたメリットを伝えることが大切だ。安全の話をすることは大切だが、安全の話しかしていない気がしている。安全が一番だと言うが、一番の優先事項は「安全な原子力発電の運転」である。飛行機が安全に飛ぶ理屈を説明する航空会社はない。テスラもカッコいいからみんなが関わりたがる。そうやって魅力を感じるものだ。遠藤氏 原子力の国有化のメリットはあるのか?弊害は?ボロバス氏 初号機を作る段階であれば国有化もアリだが、効率が悪くなっていく例を数多く見てきた。4-5号機目以降は民間もリスクを取るべきだろう。同じものを何回も使うことが大事。ツマラないかもしれないが同じ技術を使い続ける(シリーズ建設する)ことで、民間でも可能になってくるのではないだろうか。薄井氏 FOAKリスクを国がとるのは効果があるかもしれない。同じ炉型をシリーズ建設するのも有効だろう。ヘファー氏 ツマラないかもしれないが同じ炉型を作り続けるのは効果的だ。英国政府は多くのリスクを負担する覚悟はあるが、民間による競争の果たす役割も大きいと思う。
- 13 Apr 2022
- NEWS
-
【第55回原産年次大会】セッション1「各国におけるストラテジーとしての原子力開発利用」
セッション1では「各国におけるストラテジーとしての原子力開発利用」をテーマに、4か国から原子力政策が紹介された。モデレータを務めた日本エネルギー経済研究所・戦略研究ユニットの村上朋子原子力グループマネージャーは、セッション内容の説明に際し、世界の33か国・地域が原子力を利用している理由として、「人口や経済規模の大きい国が大量のエネルギーを必要としたから」という考え方に言及。あるいは逆に、原子力のように安定したエネルギーを利用してきたからこそ、多くの人口を維持し経済発展を遂げたとも考えられるが、実際の原子力利用国では単にエネルギー問題の解決のみならず、他の様々な事情も考慮されてきたことが想像できるとした。同氏はまた、日本の「原子力開発利用長期計画」では原子力はエネルギー政策としてだけでなく、長期的な産業振興政策の一つとしても優良な選択肢であった点を指摘した。その上で、原子力はある日突然、必要になったからと言って「泥縄式に」手に入るものではないし、何十年もの間に万が一の事態が発生することに備えて、二重三重の対策を講じておくことがエネルギー政策だと強調。本セッションでは、原子力の開発利用を巡る各国の諸事情を直接伺いたいと述べた。♢ ♢カポニティ次官補代理米国エネルギー省(DOE) 原子力局のA.カポニティ次官補代理(原子炉フリート及び先進的原子炉担当)は、CO2排出量が実質ゼロの経済で不可欠な先進的原子炉の開発について、米国の現状を次のように述べた。J.バイデン大統領は地球温暖化への取り組みを最優先に考えており、DOEは国内外のCO2排出量の削減目標達成に向けて、SMR等の先進的原子炉設計を早急に市場に出す準備を積極的に展開中。この意味で新規の原子炉建設は非常に重要なものになっており、バイデン政権は①2020年代末までに米国のCO2排出量を50%以上削減、②2035年までに米国の電源ミックスを100%クリーンなものにする、③2050年までにCO2排出量が実質ゼロの経済を獲得する、などの目標を設定。このような意欲的な目標を達成するには、原子力のようにクリーンで信頼性の高いベースロード電源が不可欠だとDOEは考えている。現在、米国の原子力発電所は総発電量の約20%を供給しているが、クリーン電力だけ見ると年間総発電量の半分以上が原子力によるもの。これらは平均92%という世界で最も高い設備利用率で稼働中であり、他のいかなる電源よりも高い数値である。このような事実から、原子力は米国で最も信頼性の高い、最大の無炭素電源と位置付けられており、既存の大型軽水炉の運転継続を支援し、SMRやマイクロ原子炉等の先進的原子炉設計を新たに市場に出すことは、米国における地球温暖化対応戦略の主要部分となっている。先進的原子炉設計の商業化を支援するに当たり、DOEでは次の3つのアプローチをとっている。すなわち、①DOE傘下の国立研究所で基礎研究開発を進める、②先進的原子炉の開発事業者が国立研究所の専門的知見や能力、関係インフラを利用しやすくなるよう連携する、③技術面と規制面の主要リスクに官民が連携して取り組み、2020年代の末までに先進的原子炉の初号機を送電網に接続する、である。そのためにDOEが具体的に実施している方策としては、先進的原子力技術の商業化支援構想「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」が挙げられる。GAINでは、技術開発支援バウチャー(国立研究所等の施設・サービス利用権)プログラムなどを通じて、民間企業が国立研究所のインフラ施設や専門的知見、過去のデータ等を活用できるよう財政支援を実施。DOEが2019年に傘下のアイダホ国立研究所(INL)内に設置した「国立原子炉技術革新センター(NRIC)」では、技術の実証に使える試験台や実験インフラを提供している。また、官民の連携アプローチでは、DOEは3つの先進的原子炉設計を選定して、実証炉の開発プロジェクトを支援中。その1つ目はニュースケール・パワー社の軽水炉型SMRで、2029年までにINL内で最初の実証モジュールを稼働させる。出力7.7万kWのモジュールを6基連結することにより、合計46.2万kWの出力を得る計画である。2つ目は、テラパワー社がGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と共同で進めている、ナトリウム冷却高速炉「ナトリウム(Natrium)」計画。ワイオミング州内で閉鎖予定の石炭火力発電所で電気出力34.5万kWの実証炉を建設することになっており、火力発電所のインフラ設備や人員を活用する予定になっている。3つ目は、X-エナジー社が開発している小型のペブルベッド式高温ガス冷却炉「Xe-100」。ワシントン州内で初号機の建設が予定されており、その高い出口温度によって水素製造に適した高品質の蒸気を生産するほか、4基のモジュールを組み合わせて32万kWの発電設備とする計画である。♢ ♢ポペスク局長ルーマニア・エネルギー省のE.ポペスク・エネルギー政策・グリーンディール局長は同国の原子力開発戦略を次のように紹介した。ルーマニアを含む欧州南東部は依然としてエネルギー安全保障の脆弱性という問題を抱えているため、供給保証の確保と調達先の多様化は引き続き、この地域におけるエネルギー政策の基本要素である。2030年までの期間、温室効果ガス(GHG)排出コストの上昇にともない、低炭素な風力や太陽光、原子力等の設備拡大ペースも早まっていくと想定。長期的なエネルギーシステムの開発に関するシナリオはすべて、大規模な水力発電や再エネ、原子力、エネルギー貯蔵など、利用可能なあらゆる低炭素技術の活用を前提としたものであり、これらの技術はルーマニアにおける「低炭素でバランスの取れた多様なエネルギーミックス」の構築に不可欠な貢献を果たす。欧州連合(EU)はエネルギーと気候関係で2030年までの目標を多数掲げているため、加盟国は2030年まで10年間の総合的な国家エネルギー・気候計画(NECP)を策定しなければならない。ルーマニアが2030年までを目処に設定した目標としては、EU排出量取引制度(ETS)の中でGHG排出量を2005年比43.9%削減;最終エネルギーの総消費量に占める再エネの割合を30.7%に拡大;ルーマニアの「国家復興・強靭化計画(RRP)」ではこの割合を34%とする、などがある。原子力に関しては、ルーマニアはその利用可能性や高い競争力、環境への影響が少ないこと等から、電力部門の持続可能な発展のための解決策と認識。発電における戦略的選択肢であるとともに、国家エネルギーミックスの安定した構成要素と考えている。現状では、チェルナボーダ1、2号機(各70万kW級のカナダ型加圧重水炉=CANDU炉)が送電開始以降、CO2を累計で1億7,000万トン削減したほか、毎年約1,000万トンを削減中。総発電量に占める原子力発電の割合は18~20%だが、クリーンエネルギーでは全体の33%を両炉が供給している。また、原子力関係の売上高は2017年の累計で5億9,000万ユーロ(約802億円)にのぼり、2030年までの総投資額は80億~90億ユーロ(1.09兆~1.2兆円)に達する見通しである。ルーマニアの脱炭素化目標では、2030年までにCO2排出量を現状から55%削減し、輸入エネルギーへの依存度も現在の20.8%を17.8%まで削減する。このため、原子力ではチェルナボーダ1号機の運転期間延長に加えて、建設工事が1989年にそれぞれ15%と14%で停止した同3、4号機(各70万kW級CANDU炉)を2031年までに完成させる。また、SMRを6モジュール分(46.5万kW)設置するほか、チェルナボーダ発電所内ではトリチウム除去施設(CRTF)を建設、回収したトリチウムは安全に長期保管するほか、国際核融合実験炉計画(ITER)等に役立てる方針である。1号機の運転期間延長については、フェーズ1の作業が終了間近となり、次の段階では延長プロジェクトの実施でEPC契約を締結するほか関係許認可を取得、最終投資判断(FID)も行われる。実際の改修工事は、フェーズ3で2026年12月から2028年12月まで効率的に遂行する。3、4号機を完成させる工事については、ルーマニア国営原子力発電会社(SNN)の子会社であるエネルゴニュークリア社が2021年11月、SNC -ラバリン社グループのCANDU炉製造企業であるCANDUエナジー社と契約を締結している。SMR関係では、SNNが米ニュースケール・パワー社製SMRの国内建設を目指して、2021年11月に同社と協業契約を締結した。欧州初のSMRとして約46万kW分を設置し、毎年400万トンのCO2排出を抑制するという計画。SNNは2022年4月末までに、建設サイトを決定する予定である。♢ ♢ギブルジェ-ツェトヴェルティンスキ次官ポーランド気候環境省のA.ギブルジェ-ツェトヴェルティンスキ次官は、同国における原子力発電開発とその利用戦略について、次のように解説した。ポーランド政府は、2040年までを見通したエネルギー戦略やCO2排出量の実質ゼロ化を達成する上で原子力の利用は欠かせないと考えており、そのための2つの重要文書「2040年に向けたポーランドのエネルギー政策」と「ポーランドの原子力開発計画」を策定した。ともに2043年までに原子炉を6基、600万~900万kW建設することを想定。出力100万~150万kWの初号機については2033年までに運転を開始し、その後2年おきに残りの5基を完成させていく計画である。「2040年に向けたエネルギー政策」では低炭素なエネルギー・システムに移行するための枠組みを設定しており、このようなシステムの構築に必要な技術の選定に関する戦略的決定事項を明記した。また、信頼性の高い電源として、原子力がポーランドの電源構成の中で極めて重要な部分を担っていることを再確認。原子力はまた、出力調整が可能なベースロード電源であるため、再生可能エネルギー源を着実に建設していく一助になる。2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成することは、未だに総発電量の約7割を石炭火力で賄っているポーランドにとって非常に大きな挑戦だが、それでもポーランドはエネルギーの安定供給と経済競争力を維持しつつ、電源構成を改善していくと決定。最終的に総電力需要の約20%を原子力で賄い、ポーランドの脱炭素化に向けた取り組みの主翼とする方針である。原子力発電の導入を実現する重要要素としては、「サイトの選定」、「事業モデルの構築」、「採用技術」の3点があり、立地点については最初の発電所の建設に適したサイトとして、事業会社のPEJ社が北部ポモージェ県ホチェボ自治体内の「ルビアトボ-コパリノ地区」を選定した。採用技術としては、確証済みの技術を採用した第3世代+(プラス)の大型PWRを検討。事業モデルに関しては、これから選定するパートナー企業が事業会社のPEJ社に最大49%出資し、事業リスクを分散してくれることを期待している。PEJ社については、2021年3月に政府が同社株を100%取得したことから、政府が同社を直接監督している。同社は最近、最初の発電所建設と運転が周囲の環境に及ぼす影響について評価報告書(EIA)を取りまとめており、現在は「サイトの評価報告書」を作成中。今後数か月の間に発電所に採用する原子炉技術を選定してベンダーと契約するほか、EPC(設計・調達・建設)コントラクターとも契約を締結、政府からは「環境条件に関する承認」を取得するため、原子力発電プログラムは特に忙しくなる。政府はまた、2020年後半に改訂版の「原子力発電計画」を採択。このため、原子力発電に必要な人的資源の開発や国民とのコミュニケーション、原子力発電所の建設と運転に参加する国内産業界の準備支援等を優先的に実施していく考えだ。政府はさらに、2021年12月に「地元の産業支援計画」を承認した。同計画では、様々な産業活動への国内企業の参加を促す予定。原子力では新たなイノベーション産業がポーランドで生まれると期待されており、原子力発電所建設事業の70%までを国内企業が実施することになる。♢ ♢ブイット部長フランス環境移行省エネルギー・気候局(DGEC)のG.ブイット原子力産業部長は、フランスにおける今後の原子力エネルギーの展望について以下のように説明した。フランスでは現在、56基のPWRで3,350億kWhを発電(2019年実績)しており、発電シェアは全体の67%、これらの平均稼働年数は36年である。2015年に「グリーン成長のためのエネルギー移行法(LTECV)」が成立し、2019年にはその内容を補完する「エネルギー気候法(LEC)」が公表された。これらではエネルギーの移行に向けて、野心的な国家中長期目標を設定。すなわち、「2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成」、「2030年までに化石燃料の消費量を2012年比で40%削減」、「2012年から2050年までの間に最終エネルギーの消費量を50%削減」、「2030年までに最終エネルギー消費量の33%を再エネとする」、などである。2020年4月には、LECの目標を達成するための補足文書として、①(2028年までの)多年度エネルギー計画(PPE)、②国家低炭素戦略(SNBC)が制定された。PPEの第一期(2019年~2023年)では、原子力部門の将来に向けた行動計画を提示。原子炉の運転年数を40年以上に延長することや、再処理戦略が再確認されている。一方、送配電企業のRTEは2021年10月、政府の指示により、国内の電源構成を完全に脱炭素化しつつ長期的な電力ニーズを満たすためのシナリオを6つ作成。それぞれの費用やリスク評価した結論として、「原子力を完全に廃止したシナリオでは、2050年までに電源構成の脱炭素化という目標を達成できないリスクがある」、「新規の原子炉建設は経済的観点から妥当」などと発表した。このような状況を受けてE.マクロン大統領は2021年11月、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するため、再エネ源の大規模開発継続に加えて、原子炉建設を行う新しいプログラムを設置したと発表している。2022年2月には、「国内で新たに6基の改良型EPR(EPR2)を建設し、さらに8基建設するための研究を開始する」、「効率的な発電能力を維持している既存の原子炉は、最高水準の安全性が確保されている限り廃止しない」などの方針を明らかにした。現在、フランス政府はエネルギー・気候政策の定期的な見直しとして、PPE第二期(2024年~2028年)の戦略策定に向けた意見を2021年秋から幅広く聴取中。議会は2023年の夏ごろ、新たな方針を盛り込んだ法律の制定に向け議論を実施する予定で、次回の改訂では新規原子炉の建設に関してさらなる詳細が示される。一方、原子力産業界ではフランス電力(EDF)が中心となってPWRタイプのSMR「NUWARD」を開発しており、2040年までに国内エネルギーミックスに組み込む方針。「NUWARD」では、1つの建屋に出力17万kWの原子炉を2基設置、静的安全システムによって様々な事故シナリオに対応可能になる。このような産業界を支援する戦略として、政府は2020年9月に「フランス復興計画」を発表した。原子力産業界の設備・能力の近代化関係で1億ユーロ(約136億円)、原子力研究開発に2億ユーロ(約272億円)の支援を行うほか、「NUWARD」の予備設計支援で5,000万ユーロ(約68億円)を投じることになった。また、2021年10月にはマクロン大統領が、将来に向けた新たな大規模投資計画「フランス2030」を発表。2030年までに国民の生活や生産活動をより良いものとするための目標10項目を掲げており、エネルギーを含む様々な重要分野に対応。原子力関係では、小型原子炉その他の革新的な原子炉の台頭促進が目標の一つであることから、10億ユーロ(約1,358億円)の公的資金の投入方針を明らかにしている。
- 13 Apr 2022
- NEWS
-
仏大統領、国内で新たに原子炉を6基建設、8基調査検討すると表明
今年4月に大統領選挙を控えたフランスのE.マクロン大統領は2月10日、同国のCO2排出量を2050年までに実質ゼロ化するという目標の達成に向け、国内で改良型の欧州加圧水型炉(EPR2)を新たに6基建設するほか、さらに8基の建設に向けて調査を開始すると発表した。同大統領は建設サイトの確定など、このための準備作業を今後数週間以内に開始する方針で、今年の後半から国内でエネルギー関係の公開協議を幅広く実施。2023年には議会で複数年のエネルギー関係プログラムを改訂するための審議を行い、2028年までに最初の一基を着工、2035年までの完成を目指すとしている。また、電気事業者のフランス電力(EDF)が原子力・代替エネルギー庁(CEA)らと共同開発しているPWRタイプの小型モジュール炉(SMR)「NUWARD」に関しても、2030年までにプロトタイプを建設できるよう10億ユーロ(約1,300億円)の予算を付けてプログラムを進めていく考えである。エネルギー戦略に関するマクロン大統領の発表は、フランス東部ベルフォールにあるGEスチーム・パワー社で行われた。同大統領によると、新しいエネルギー政策の主な目的はフランス国内のエネルギー消費量を今後30年以内に40%削減しつつ、無炭素なエネルギー源の設備容量を拡大することにある。この政策を通じて、30年以内に化石燃料からの脱却を果たす最初の主要国になるとともに、産業界におけるエネルギーの自給を強化する。フランスはこのようにして、エネルギー関係の制御力を取り戻していくとした。また、発電電力量は現在より最大60%増産しなければならないが、大統領はこれらの大半を安全な発電方法による無炭素な電力とするため、再生可能エネルギーと原子力の両方を活用するとした。大統領によると、国内には「太陽光と風力のみで可能だ」という人もいれば、「100%原子力にし、再エネは不要」という人もいるが、現実的にフランスではこれら2つの電源に賭ける以外に方法はない。同大統領は、再エネと原子力の複数の発電割合による戦略こそ、エコロジー面で最も現実問題に直結した方法であり、経済面でもコストが最小になるなど、最も目的に適っていると指摘した。原子力に関しては、マクロン大統領は「今こそフランスの原子力ルネッサンスというべき時が来た」と述べており、そのための重要政策の1つとして「安全性を損なうことなく、すべての既存原子炉の運転期間を延長する」と言明した。「今後、国内の電力需要が大幅に伸びることを考えると、私としては安全性に問題がないのであれば、将来的に1基の原子炉も閉鎖したくない」と表明。2017年以降、いくつかの原子炉ですでに運転期間が40年以上に延長されたが、今後は50年を超える運転期間の延長についてもEDFに状況調査を依頼するとしている。もう1つ重要政策は、「昨年11月に発表した方針を再確認したものであり、(運転期間の延長ができないレベルに高経年化した既存炉の閉鎖や、電力需要の増加見通しを背景に)新しい原子炉の建設を再開する」と表明。大統領によれば、フランスの原子力産業界はフィンランドのオルキルオト原子力発電所3号機、および国内のフラマンビル原子力発電所3号機(FL3)で長期化している2基のEPR建設で多くの教訓を学んだ。EDFと国内の原子力部門は100万時間を超えるエンジニアリング作業を通じて、これらの教訓をEPR2に反映させており、その設計はFL3以降大幅に進歩。これらのことから、マクロン大統領は今後、国内の3サイトで2基ずつEPR2を建設するのに加えて、さらに8基の建設を検討するとしている。このほか同大統領は、昨年10月に発表した新たな産業政策「フランス2030」の中で、SMRや先進的原子炉の技術を実証すると発表したことに言及。新規のEPRとは別に、革新的技術を採用したこのような原子炉を建設し、安全性の向上や放射性廃棄物の発生量削減、核燃料サイクルの確立等を目指すとした。これらの新設計画により、フランスでは2050年までに、新たに2,500万kWの原子力発電設備が起動することになる一方、このような決定を実行に移すには、規制面や財政面、組織面など原子力部門の様々な状況を改善する必要があると指摘している。(参照資料:仏大統領府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 14 Feb 2022
- NEWS
-
英国政府、WH社製高速炉など次世代の先進的原子炉技術開発に4000万ポンド投資
英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は7月10日、次世代の原子力技術開発を促進するとともに、英国全土で関係の研究開発と製造で雇用を創出するため、合計4,000万ポンド(約54億1,400万円)を投資すると発表した。その中でも、3つの先進的モジュール式原子炉(AMR)の開発を重点的に加速する方針で、米国籍のウェスチングハウス(WH)社が北西部のランカシャー州で開発中の鉛冷却高速炉、URENCO社の子会社がチェシャー州で実施している小型高温ガス炉開発、トカマク・エナジー社が南部のオックスフォードシャー州でオックスフォード大学と進めている先進的核融合炉開発には、それぞれ約1,000万ポンド(約13億5,000万円)の支援提供を約束。今後数十年にわたって低炭素な電力や熱、水素その他のクリーン・エネルギーを供給していくための技術開発を促進し、2050年までに温室効果ガスの排出量で実質ゼロ化を目指すという英国のクリーン経済復興を後押しする考えである。これらの投資は、BEISが2018年に公表した民生用原子力部門との長期的戦略パートナーシップ「部門別協定」の重要な一部分となる。同協定でBEISは、国内エネルギー・ミックスの多様化と原子力発電コストの削減を図るため、産業界からの投資金も含めて2億ポンド(約271億円)を確保。このうち5,600万ポンド(約75億8,000万円)をAMRの研究開発に宛てるとしていた。今回、BEISが資金提供する3つのAMR設計は従来型原子力発電所よりも非常に小さく、核反応の過程で発生する高温の熱を利用する設計。その小ささにより遠隔地での利用が推奨されるものの、中規模都市用としても十分な量の発電が可能である。BEISのN.ザハウィ・ビジネス産業担当相によると、AMRはCO2排出量と地球温暖化への取組において重要部分を担う可能性が高く、3つのAMR設計への投資決定により開発企業が立地する3州では新たな雇用が直ちに創出されるのみならず、今後数十年にわたって環境防護関係の雇用が数千人規模で生み出されることになる。BEISはまた今回の投資決定を通じて、これらの技術が民間部門の投資家にとって一層魅力的なものになる点を保証。産業界の原子炉技術開発に十分な投資を行えば、将来のモジュール式原子炉開発の拡大に向け、サプライチェーンの構築にもつながるとした。なお、残りの1,000万ポンドのうち、BEISは500万ポンド(約6億7,700万円)を以下の英国企業に投資すると決定した。これらの企業は、国内外のモジュール式原子炉建設プロジェクトに対し、先進的な原子炉部品を製造する新たな手法を開発中。例としては、チェシャー州でURENCO社の子会社であるU-バッテリー社製のAMRを建設現場から離れた場所で製造する方法の概念開発・実証等に110万ポンド(約1億4,900万円)、ヨークシャー州のシェフィールド・フォージマスターズ社に対し、肉厚断面の大規模電子ビーム溶接に800万ポンド(約10億8,300万円)、ダービーシャー州でロールス・ロイス社の潜水艦製造に140万ポンド(約1億9,000万円)、グロスターシャー州のEDFエナジー社に137万ポンド(約1億8,500万円)、などとなっている。また、これらを除いた500万ポンドに関してBEISは、英国の原子力規制体制の強化に向けて投入すると表明。英国が先進的原子力技術の開発と建設を目指すなか、それらを最も頑健かつ安全なものにすることを保証するためだと説明している。BEISによれば、2050年までに英国の原子力産業全体で同国経済に年間96億ポンド(約1兆3,000億円)貢献することが可能であると近年の研究により判明。約13万人分の雇用を支えるとともに、AMR技術を輸出する可能性もかなり創出されるとしている。(参照資料:BEISの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 13 Jul 2020
- NEWS
-
ハンガリー:パクシュII期工事で建設許可申請
ハンガリーの国家原子力庁(HAEA)は6月30日、国営MVMグループのパクシュII開発会社からパクシュ原子力発電所II期工事の建設許可申請書を受領したと発表した。この増設計画では、国内唯一の原子力発電設備であるパクシュ発電所の隣接区域に第3世代+(プラス)の先進的な120万kW級ロシア型PWR(VVER-1200)を2基建設することになっており、HAEAは翌7月1日から審査手続を開始。12か月後には最終的な判断を下すが、必要であればさらに3か月を審査に費やすとしている。一方、パクシュII開発会社では「建設前サイト準備許可」を取得できれば2021年初頭にも地盤の工事を開始できると予想。最短で同年9月に主要建屋の建設許可を取得し、本格的な建設工事を始められるとしている。パクシュ発電所I期にあたる4基はいずれも出力50万kWのVVER-440で、これらでハンガリーの総発電電力量の約半分を賄っている。また、これらの原子炉ではすでにVVERの公式運転期間である30年が満了したため、追加で20年間運転期間を延長する手続が完了した。II期工事で建設される5、6号機は最終的にI期の4基を代替することになっており、ハンガリー政府は2014年1月にこの増設計画をロシア政府の融資により実施すると発表。翌月に両国は、総工費の約8割に相当する最大100億ユーロ(約1兆2,000億円)の低金利融資について合意したほか、同年12月には双方の担当機関が両炉のエンジニアリング・資材調達・建設(EPC)契約など、関連する3つの契約を締結した。しかし、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)は2015年11月、これらの契約が公的調達に関するEU指令に準拠しているかという点、およびEU域内の競争法における国家補助規則との適合性について調査を開始。2017年3月までにそれぞれについて承認裁定が下されたものの、プロジェクトの実施は当初計画から少なくとも3年遅延している。HAEAは2014年に同計画についてサイト調査とその評価作業を実施する許可を発給したほか、2017年にはサイト許可を発給した。2つの事務棟や作業員100名分の食堂とキッチン、作業用建屋、資機材の貯蔵建屋など建設工事に必要な建屋の建設許可も発給済みで、パクシュII開発会社は昨年6月に建設工事の準備作業として、80以上のこれら付属施設の建設工事を開始している。今回、パクシュII開発会社が提出した建設許可申請書は28万3千ページに及んでおり、HAEAは審査を効率的に行うために専用の作業プログラムを開始した。複数の法規が関係することから、HAEAのスタッフ180名のうち半数以上がこの審査に関与することになる。HAEAはまた、外部専門家の意見を取り入れるため、年末に国際原子力機関(IAEA)の技術安全レビュー(TSR)調査団を招聘する計画。申請書の中心部分である予備安全解析書を独立の立場の国際的な専門家に評価してもらうことが目的であり、調査団はIAEAの安全基準に対するパクシュ5、6号機の適合性について報告書を作成。HAEAはこの報告書に基づいて最終判断を下すことになる。なお、建設許可申請書の提出後3か月が経過すれば、パクシュII開発会社は関連するその他の許可も申請することができる。今年行われた原子力安全条例の修正にともなうもので、建設サイトの土壌改良やベースマット部分の掘削といった特定のサイト準備活動、および原子炉圧力容器のような長納期品の製造に関する許可申請などがこれに相当するとしている。(参照資料:HAEA、パクシュⅡ開発会社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 06 Jul 2020
- NEWS
-
英NIA、CO2排出量の実質ゼロに向け原子力ロードマップ作成
英国原子力産業協会(NIA)は6月24日、新型コロナウイルスによる感染危機終息後のクリーン経済再生と2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするという英国政府の目標を達成するには、新規原子力発電所の建設実施を明確に確約する必要があるとの認識の下に作成した原子力ロードマップ「Forty by‘50」を公表した。これは、地球温暖化防止関連で英国政府への勧告義務を負う気候変動委員会(CCC)が、25日に年次経過報告書を国会に提出したのに先立ち、英国政府と産業界の共同フォーラムである原子力産業審議会(NIC)のためにNIAが取りまとめたものである。NICが承認した同ロードマップの中で、NIAは「長期的な温暖化防止目標の達成支援に加えて、新規原子力発電プログラムの決断を速やかに下せば、新型コロナウイルス感染のエネルギー供給への影響緩和に即座に役立つ巨大プロジェクトを進展させられる」と明言。英国では現在、新旧様々な技術に基づく意欲的なプログラムにより、2050年までにクリーン・エネルギーを全体の40%まで拡大し、水素その他のクリーン燃料製造や地域熱供給などを通じて大規模な脱炭素化を進められる可能性がある。また、これらによって最終的に30万人分の雇用と年間330億ポンド(約4兆3,900億円)の経済効果がもたらされるとしている。原子力発電は英国で年間に発電されるクリーン電力量の40%を賄っているが、NIAは化石燃料のリプレースや電気自動車の普及、暖房部門が好況なことから、今後の需要は4倍に増加することが見込まれると述べた。折しも、国際エネルギー機関(IEA)が先週、持続的な回復に向けたプランを各国の政策決定者に向けて勧告。NIAのT.グレイトレックス理事長は「原子力には膨大な可能性がありコストも下がってきているが、チャンスを逃さぬためにも今、一致協力した行動を取る必要がある」と指摘した。また、CO2排出量の実質ゼロ化を達成するには原子力が必要だが、先行する原子力発電プラント新設プログラムから教訓を学び、資金調達方法を大きく変更すれば、以後の大規模建設プロジェクトを大幅に安く仕上げることができる。同理事長はさらに、新たに建設する最初の原子力発電所で1MWh(1000kWh)あたり92.50ポンド(約12,300円)の電力価格を、それ以降の発電所では60ポンド(約7,980円)近くまで、将来的には約40ポンド(約5,320円)に引き下げる自信があると明言。原子力発電の設備容量についても、3倍に拡大する見込みがあるとしている。そのためのロードマップとなる「Forty by‘50」で、NIAはこのような産業界の大望実現に向け2020年に講じなければならない6つの重要対策を提示している。(1)原子力産業界は、新設プロジェクトのコストを2030年までに30%押し下げる努力を続けなければならない。(2)英国政府は、新規の原子力発電所を建設するという明確かつ長期的な方針を確固たる形で示すべきである。(3)新たな原子力発電所建設計画への投資を刺激し資本コストを低減するため、適切な資金調達モデルの設定作業を進展させねばならない。(4)小型モジュール炉(SMR)の立地や許認可申請に向けて、国家政策声明書や促進プログラムを作成すべきである。(5)官民の戦略的パートナーシップである「原子力部門別協定」に明記された2030年の目標を維持し、新設計画や廃止措置計画のコスト削減、民生用原子力部門における女性従事者の比率を40%に引き上げること、英国サプライチェーンで国内外からの契約総額20億ポンド達成、などを目指すべきである。(6)英国政府と産業界は、医療用放射性同位体や水素および輸送用合成燃料の生産、地域熱供給など、伝統的な発電事業以外の分野の協力に重点的に取り組むための枠組みの設定等で合意すべきである。(参照資料:NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 25 Jun 2020
- NEWS
-
チェコ電力、ドコバニ原子力発電所での2基増設で立地許可を申請
チェコ国営電力のCEZ社グループは3月25日、経年化が進んでいるドコバニ原子力発電所(ロシア型PWR×4基、各51万kW)で、ネット出力が最大120万kWのPWRをⅡ期工事として新たに2基増設するための立地許可申請書を原子力安全庁(SUJB)に提出した。準備作業にCEZ社が5年を費やした増設計画であり、これにより同計画は許認可プロセスへの移行準備が整う。包括的環境影響評価(EIA)についてはすでに昨年9月に、環境省が承認済みとなっている。A.バビシュ首相は昨年11月、チェコのエネルギー自給を維持するためにドコバニⅡ期工事の最初の1基について2022年末までにプラント供給企業の選定を終え、遅くとも2029年までに建設工事を開始、2036年までに運転開始を目指すと発表していた。SUJBは今後原子力法の条項に則り、12か月以内に立地許可発給の是非について判断を下すとしている。チェコ政府は2015年5月の「国家エネルギー戦略」のなかで、原子力発電シェアを当時の約30%から2040年までに60%近くまで上昇させる必要があると明記。同戦略のフォロー計画としてその翌月に閣議決定した「原子力発電に関する国家アクション計画(NAP)」では、化石燃料の発電シェアを徐々に削減していくのにともない、既存のドコバニとテメリン両原子力発電所で1基ずつ、可能であれば2基ずつ増設する準備を進める必要があるとしていた。A.バビシュ首相はまた、地球温暖化防止のためCO2排出量の実質ゼロ化に向けた動きが欧州で活発化している点を指摘。チェコ政府内では、「石炭火力に代わる新規電源としては再生可能エネルギーでは不十分であり、原子炉を建設することが論理的」との認識が定着している。CEZ社の発表によると、申請書に添付された文書は約1,600ページに達する膨大なもので、作成にはCEZ社のほかに水研究所や国立マサリク大学、原子力研究機関(UJV Rez)などの専門家30名以上が従事した。建設を支持する論拠として200以上の専門的な分析・調査結果が活用され、申請書を構成する重要部分として広範な「入札保証」報告書も付け加えられている。内容は主に建設サイトの特性を評価・説明するもので、発電所近郊の自然状態や給水設備、人的活動などを検証。建設プロジェクトのコンセプトや質、周辺の住民と環境および将来的な廃止措置に関する影響なども評価している。 建設用地そのものについては最も入念な分析が行われており、底土の状態を見極めるため専門家らは全長4km以上にわたる部分で170本以上の地層掘削を行った。これに加えて、最大深度150mの深井戸を30本掘削して地下水の状態を観察。周辺エリアにおいても66か所で試験掘削を実施したため、得られた岩石試料のコンテナは1,300本以上に達したとしている。(参照資料:CEZ社グループ、チェコ原子力安全庁の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月31日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 01 Apr 2020
- NEWS
-
EDFエナジー社、コロナウイルスの影響でサイズウェルC原子力発電所の申請書提出を延期
仏国資本のEDFエナジー社は3月26日、英国南東部のサフォーク州で進めているサイズウェルC原子力発電所(PWR、163万kW×2基)建設計画について、新型コロナウイルスによる感染の拡大に配慮し、今月末までに予定していた「開発合意書(DCO)」の申請書提出を数週間延期すると発表した。「開発同意」は、申請された原子力発電所等の立地審査で合理化と効率化を図るための手続きである。「国家的に重要なインフラプロジェクト(NSIP)」に対して取得が課せられているもので、コミュニティ・地方自治省の政策執行機関である計画審査庁(PI)が審査を担当、諸外国の環境影響に関する適正評価もPIの担当大臣が実施する。本審査が完了した後は、PIの勧告を受けてビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)の大臣がDCOの発給について最終判断を下すことになる。EDFエナジー社は今回、DCO審査プロセスが公開協議段階に入った場合は、国民の参加登録期間に余裕をもたせると明言。これにより、地元住民が十分な時間をかけて申請書を検討できるとした。同社の原子力開発担当常務も、「地元コミュニティを含むサフォーク州民の多くが、現在コロナウイルス感染への対応に追われている。DCO申請書の提出は延期するものの、過去8年以上にわたる関係協議で当社はプロジェクトの透明性に配慮するとともに、プロジェクトに関心を持つ国民一人一人が意見を言えるよう努力を重ねており、今の難しい局面に際してもこの努力を続けたい」と述べた。同プロジェクトに関して、EDFエナジー社は2012年以降すでに4段階の公開協議を実施しており、1万人以上の地元住民や組織がこれに参加した。サイズウェルC発電所では、南西部サマセット州で建設中のヒンクリーポイントC(HPC)発電所と同じ欧州加圧水型炉(EPR)設計を採用しているため、同社は建設コストをある程度削減することが出来ると説明。サフォーク州のみならず英国全土に雇用や投資の機会をもたらすとともに、常時発電可能な低炭素電源として英国政府が目指すCO2排出量実質ゼロへの移行を後押しするとしている。なお、EDFエナジー社は3月24日にHPCプロジェクトの現状を公表し、作業員や地元コミュニティの安全を最優先に、新型コロナウイルスによる感染拡大から防護する措置を広範に取っていると強調した。(参照資料:EDFエナジーの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 27 Mar 2020
- NEWS