量子科学技術研究開発機構(QST)は8月21日、南フランスのサン・ポール・レ・デュランス市で建設中の国際核融合実験炉(ITER)にて、日本製の高出力マイクロ波源「ジャイロトロン」の初号機の据付けを完了したと発表した。「ITER」プロジェクトは、日本・欧州・米国・ロシア・韓国・中国・インドが協力し、核融合エネルギーの実現に向けて科学的・技術的な実証を行うことを目的とした国際プロジェクトだ。日本は、主要機器の開発・製作などの重要な役割を担っており、QSTが同計画の日本国内機関として機器などの調達活動を推進している。据え付けが完了したジャイロトロンの開発では、日本が高いプレゼンスを発揮しており、ITERで使用する全24機のうち8機が日本製だ(キヤノン電子管デバイス株式会社が製造)。QSTは、ジャイロトロンの研究開発を1993年に開始し、2008年に世界で初めてITERが要求する出力、電力効率及びマイクロ波出力時間を満たすジャイロトロンの開発に成功した。このほど、世界に先駆けて1号機を設置したことは、同分野における日本の技術的な優位性を改めて示す結果となった。ジャイロトロンは出力のマイクロ波を発生させる大型の電子管(真空管)で、磁力線に巻き付いた電子の回転運動をエネルギー源としている。名前の由来は、磁場中の回転運動(ジャイロ運動)から来ている。核融合反応を起こすために高温状態をつくりだす役割を担っており、電子レンジのようにマイクロ波を発生させて加熱する。装置の全長は約3メートルで、出力100万ワットは電子レンジの約2000倍に相当する。
27 Aug 2025
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関西電力は8月25日、原子力発電所の立地地域の振興や課題解決のための財源として、2025年度から当面の間、毎年50億円前後を拠出する新たな仕組みを福井県に報告した。同社では、2021年度に設置された「福井県・原子力発電所の立地地域の将来像に関する共創会議」において、医療・交通インフラ整備事業など、地域振興事業費用の活用を検討してきた。この度、その具体的な取り組みとして、客観性と透明性の高い新たな地域振興の仕組みを構築。これまでも自治体への寄付活動は行ってきたが、金額を大幅に増額し一本化した形だ。開始年度の2025年度は、初期的な財源基盤も含めて約207億8,000万円を拠出する。同社は、信託銀行に信託を設定して、7基の原子力発電所の稼働実績および燃料価格の実績に応じて、毎年度、資金を拠出する。福井県や立地自治体は、地域振興の事業計画や、それに係る金額を信託銀行に申請し、第三者機関が適切と判断した場合、寄付が行われる仕組みだ。
26 Aug 2025
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日本原電は8月21日、再稼働を目指している敦賀発電所2号機(PWR、116万kWe)の、新規制基準への適合性確認のための追加調査計画を発表。同社の坂井毅志敦賀事業本部長は同日、福井県庁と敦賀市役所を訪れ、計画の概要を説明し、計画を報告した。同機は2024年11月、再稼働の前提となる原子力規制委員会の審査で、敷地内のD-1トレンチ内に認められるK断層の活動性及び連続性が否定できないとして、不合格となっていた。同社は早ければ9月から2年程度かけて、敷地内の断層の調査や破砕帯に関する調査・評価に取り組む。社外の専門家の意見も踏まえながら、原子力規制委員会への審査の再申請を目指す考えだ。追加調査では、K断層の分布と性状を詳細に把握すべく、同断層が確認されているD-1トレンチの地下深部までボーリングを実施する予定。そして、12~13万年前より古い断層であることの立証に向け、地層の拡がりや堆積年代に係るデータを蓄積する。また、断層の活動状況や連続性の否定の証明に向け、岩盤までの掘削や原子炉建屋に向けた調査杭を掘り、K断層が重要施設の直下まで連続していないことの証明を目指すという。円滑な調査の遂行に向けて、同社は同日、9月1日付で組織改正を実施することを発表した。地質・地盤調査に関する技術的な総括管理や、計画の進捗管理などを行う追加調査技術総括・推進チームを、開発計画室に設置する。
25 Aug 2025
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将来の原子力業界を牽引する人材の育成を目指した研修コース、「Japan-IAEA 原子力マネジメントスクール(NEMS)2025」が8月19日に開講し、東京大学にて開講式が行われた。NEMSは、2010年にイタリアのトリエステで初めて開催されて以来、延べ2146名(112の加盟国)が参加してきた。日本での開催は今年で13回目。アジアや東欧、中近東など、原子力発電新規導入国等における若手リーダーの育成を主たる目的としている。今年は、海外13か国(ブルガリア、エストニア、インド、インドネシア、カザフスタン、マレーシア、フィリピン、ポーランド、ルーマニア、サウジアラビア、シンガポール、スロベニア、タイ)から18名、日本からは10名、計28名の研修生が参加した。約3週間にわたる日程で開催され、東京大学本郷キャンパスでの講義やグループワークのほか、東京電力福島第一原子力発電所、東北電力女川原子力発電所とPRセンター、日本原子力研究開発機構(JAEA)原子力科学研究所の原子炉安全性研究炉(NSRR)と原子力人材育成・核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN)、産業交流施設「CREVAおおくま」、「株式会社千代田テクノル大洗研究所」等へのテクニカルツアーを通じ、原子力に関連する幅広い課題について学ぶ。開催に先立ち、組織委員長の東京大学大学院工学系研究科の出町和之准教授は、研修生らを大いに歓迎し、研修生同士の関係性向上が将来の人脈に繋がると、指摘した。また、暑さの厳しい時期であることを鑑み、「体調管理に留意し、実りある時間にしてほしい」と研修生を労った。続いて挨拶に立った日本原子力産業協会の増井秀企理事長は、IAEAをはじめとする関係各位に謝辞を述べた上で、「グループワーク等では、主体的に、そして積極的に議論に参加してほしい」と期待を寄せた。IAEAからは、原子力エネルギー局計画・情報・知識管理部(NEPIK)部長を務めるファン・ウェイ氏が登壇。同氏は、「世界的に原子力の専門人材やリーダーシップの必要性が高まっている」と指摘し、「各国政府や教育機関と連携し、若手の知識や経験の共有、国際的なネットワークづくりを進めていくことが不可欠だ」と述べた。最後に挨拶に立った上坂充原子力委員会委員長は、「他国の知見や政策を積極的に学び、自国にとって最適な形を模索する上で、IAEAの基準や国際的な取り組みを参考にすることは、皆さんの将来にとって重要な学びになるだろう」とNEMSの意義を強調。また、「今回のプログラムで自身の目で見て理解したことを、帰国後にご家族や友人にも伝えてほしい。知識や経験の共有が、国際社会全体の原子力の未来を形づくることにつながるだろう」と述べた。
22 Aug 2025
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大手ゼネコンの大林組はこのほど、脱炭素をテーマにしたさまざまなソリューションや技術を紹介する総合展示会、「OBAYASHI VISION SHOWCASE 2025」を開催した。同社では「MAKE BEYOND つくるを拓く」をブランドビジョンに掲げ、脱炭素や資源循環、自然共生を目的としたサステナブルな社会の実現を目指している。同展示会では、「SOLUTION」「VISION」「CREATION」と大きく3つのテーマに分け、さまざまな技術や施工実績、同社が掲げる構想などを紹介した。例えば、建設プロセスにおける低炭素技術を紹介するセクションでは、建設に欠かせない資材であるセメントの量を減らし、別の材料に置き換えることでCO2排出量を抑えた低炭素型のコンクリート、「クリーンクリート」が紹介された。また、ロボットやドローン技術を活用し、工程の簡素化やCO2の排出を最小限に抑える試みとして、AIを活用した図面の照合システムや、施工箇所にBIMデータを重ね合わせて施工確認や検査などを行う品質管理システム等の展示があった。他にも、建設機械の操作レバーなどに装置を装着することで遠隔からの無人化運転を可能にした汎用遠隔操縦装置(サロゲート®)のシミュレーターを展示。同装置は、搭乗操縦と遠隔操縦の切り替えが容易なため、施工場所の作業環境に応じて、柔軟に工事を進めることができ、危険な場所や災害復旧作業において、最大限効果が発揮される。令和6年能登半島地震の災害復旧作業にも使われており、同展示会では、実際に現場で作業する社員による実演など、来場者が間近で見学することができた。そして、日本全国で高速道路のリニューアル工事を手掛ける同社では、トンネル覆工のスピードをより高めたワンバインドクロスや、高速道路の橋の更新作業にかかる時間を従来の半分に短縮した工法「HOLLOWAL(ホローワル)」の紹介、そして、文化財の恒久的な保存を目指し鉄骨を使わない耐震強化技術など、多様な分野で活用される同社の高い技術力が社会インフラの安全性向上や効率化に寄与するとともに、未来志向のものづくりを支える原動力となっていることが来場者に強く印象付けられた。また、会場にて放映されたプロモーションビデオ内には、原子力産業界で大きく注目を浴びている自律4足歩行ロボット「Spot」の紹介があった。将来的には、原子力発電所の廃止措置における建屋周辺および内部のモニタリング、放射性廃棄物の埋設後の点検作業において活躍が期待されている。そして、核融合発電への取り組みを紹介するコーナーでは、同社が出資する核融合炉開発のスタートアップ「株式会社 LINEA イノベーション」が構想する核融合発電施設のイメージ模型が展示され、ITER プロジェクトにも出向経験のある同社の社員による解説があった。ここでも、同社が培ってきた安全管理のノウハウや、耐震・免震技術を活かした建屋設計の観点が核融合発電の開発事業においても、いかんなく発揮されていることが紹介された。同施設は、「FRC ミラーハイブリッド方式」の先進燃料核融合で、中性子フリーの環境にやさしい核融合炉として期待されている。FRC とは、(Field-Reversed Configuration)、磁場反転配位と呼ばれるプラズマの磁場閉じ込め方式のひとつで、炉構造がシンプルであるため、メンテナンス性が高く経済的な核融合炉として注目されている。
21 Aug 2025
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文部科学省の諮問機関である科学技術・学術審議会原子力科学技術委員会は8月18日、革新炉の取組や原子力基礎研究支援の在り方について議論する「第26回原子力研究開発・基盤・人材作業部会」を開催した。まず、革新炉の取組について、日本原子力研究開発機構(JAEA)から、高速実験炉「常陽」の現在の状況説明が行われた。「常陽」は、「高速炉」を開発するための小型の実験炉である。事業者のJAEAは昨年9月、茨城県及び大洗町から地元了解を得て、現在、新規制基準に適合するための工事を行っている。2026年度半ばの運転再開を目指しており、実現すれば、国内唯一の高速炉の実験施設として、放射性廃棄物の有害度を低減する研究や、がん治療への活用が期待される医療用RIの製造実証など、さまざまな活用方法が期待されている。同作業部会に委員として参加した日本原子力産業協会の上田欽一委員は、「国内外との連携を強化して、世界最先端の高速炉研究拠点としての役割を発揮してほしい。また、医療用RIの安定供給や先端利用など、社会的価値の高い活用に向けて、学生や若手研究者の関心を高め、研究開発や人材育成を強化する必要がある」と指摘した。また、原子力基礎研究支援の在り方について同作業部会では、原子力をエネルギー源として利用するだけでなく、様々な課題解決につながる総合科学技術として捉える必要性が示され、2050年のカーボンニュートラル実現や、健康・医療、製造業等の産業競争⼒の強化に繋がる可能性を秘めていることが改めて共有された。そして、これまで⼤学・研究機関等を中⼼に、⾼い研究⽔準を維持してきたが、さらに安定的・継続的に原⼦⼒利⽤を推進させていくために、国として中⻑期にわたり支援する必要性が議論された。
19 Aug 2025
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全国知事会で原子力発電対策特別委員会委員長を務める中村時広愛媛県知事は8月4日、原子力規制庁を訪れ、「原子力発電所の安全対策及び防災対策に対する提言」と題した提言書を金子修一長官に手渡した。また、中村知事は翌8月5日、経済産業省と内閣府を訪れ、加藤明良経済産業大臣政務官、城内実内閣府特命担当大臣(科学技術政策)、勝目康内閣府大臣政務官(原子力防災)に対し、同提言書をそれぞれ提出した。提言書は、国が責任をもって早急に取り組むべき「原子力発電所の安全・防災対策」について、3つの章に分けて記述。第1章では、東京電力福島第一原子力発電所の事故に関し、特に廃止措置とALPS処理水を取り上げ、適切な支援と風評の払拭、原子力災害の風化防止対策など、政府一丸となって取り組むことを求めた。第2章では、原子力施設の安全対策に関し、2024年1月に発生した能登半島地震を受けて、原子力発電所の安全性や避難計画の実効性を懸念する声が上がったことを踏まえ、「全国に立地している原子力施設の安全確保に向けて、原子力規制委員会には、常に最新の知見を踏まえた新規制基準の見直し、厳正かつ迅速な適合性審査の実施、そして、その結果を国民全体に明確かつ責任ある説明を行ってほしい」と訴えた。また、同地震の教訓から得られた知見や安全研究の成果を、今後の対策に活かすことを求めた。そのほか、使用済み燃料や高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定など、バックエンド対策の加速も要請され、使用済み燃料の最終処分地については「国全体で負担を分かち合うべき課題」として、都市部を含む全国的な議論と情報公開を呼びかけた。さらに、原子力分野の人材不足や技能継承への懸念を示し、研究開発や安全対策に必要な予算・人材を長期的視点で確保するよう国に求めている。第3章では、原子力防災の強化に関し、自治体が制定する原子力防災対策の幅が広がっていることを踏まえ、国が前面に立ち、予算面から立地自治体を支援する必要性を強調。2024年9月の原子力関係閣僚会議で確認された「避難対策を中心とする具体的対応方針」を踏まえ、自治体の意見を十分反映させることや、複合災害時における省庁間のスムーズな連携を求めた。
18 Aug 2025
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林芳正内閣官房長官は8月10日、就任後初めて福島第一原子力発電所や中間貯蔵施設を訪問し、廃炉に向けた取り組みを視察した。東京電力の小早川智明社長らとの意見交換会も実施し、「安全かつ着実な廃炉、福島の復興は政権の最重要課題。安全確保を最優先し、廃炉作業を一歩一歩進めてほしい」と発言した。その後、記者団の取材に対し、福島県に残る除染土の県外処分に向けたロードマップ(工程表)を、今月中に策定すると明らかにした。このロードマップには今後5年間で取り組むべき課題が盛り込まれ、候補地選定条件の具体化に入る方針だ。その上で「県外での最終処分に向けては、最終処分場の構造や必要な面積などをまとめた複数の選択肢を示しており、候補地の選定を進めたい。国民への理解醸成が特に重要で、政府を挙げて積極的な情報発信に取り組んでいく」と述べた。これらの除染土は、福島県の大熊町と双葉町にまたがる中間貯蔵施設で一時的に保管されているが、2045年3月までに福島県外にて最終処分することが法律で定められている。政府はこの最終処分量を減らすために、放射性物質の濃度が低い土を、全国の公共工事の盛り土などに用いて再生利用する方針だ。その除染土処分の第一歩として政府は、総理大臣官邸にて除染土を再生利用することをすでに発表している。7月19日~20日にかけて、中間貯蔵施設から除染土を積んだ10トントラックが官邸に到着し、前庭にて、除染土の上から普通の土をかぶせ、表面に芝生を張る作業を実施した。除染土事業を管轄している環境省は今後、1週間に1回程度、放射線量を測定し、ホームページなどで情報を発信する方針。官邸での再生利用をきっかけに除染土への理解醸成につなげる狙いがある。
13 Aug 2025
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原子力発電所の立地自治体などでつくる全国原子力発電所所在市町村協議会の首長らは8月8日、経済産業省を訪れ、原子力発電所の新設に向けた安全規制や資金調達に関する環境整備などについて、武藤容治経済産業大臣と会談し、要請書(原子力発電に関する要請書)を手渡した。要請書の冒頭には、「今年策定された第7次エネルギー基本計画で『原子力を最大限活用する』と明確に示されたことは、立地自治体にとっても大きな意義があると受け止め、安全確保を大前提に、計画に示された施策の着実な実行を求める」の一文が記載された。そして、同協議会の会員の総意に基づき、次の4点を重点項目として強く要請するとしている。福島の復興について被災地支援の継続や財源確保は国の責務であると強調した上で、燃料デブリの取り出し、多核種除去設備等処理水対策や廃炉作業を着実に推進すること。安全規制・防災対策について2024年1月の能登半島地震の被害状況を鑑み、インフラの整備・強靭化は立地自治体における喫緊の課題であり、原子力防災対策の実効性向上と財源確保、自衛隊との連携を含む安全確保体制を強化すること。原子力政策についてエネルギーの安定供給と2050年カーボンニュートラル達成に向けた原子力利用の着実な推進、原子燃料サイクルの早期具体化、バックエンド対策の加速、国民理解の促進を継続すること。立地地域対策について原子力発電の意義を理解し、協力してきた立地地域の持続的かつ自立的発展のため、地域の実情に応じて制度を改善もしくは拡充をすること。なお、面会の冒頭、同協議会の会長を務める福井県敦賀市の米沢光治市長は、関西電力が美浜発電所にて地質調査を開始したことについて触れ、「建設期間を考えると速やかに具体化していかなければならない」と事業者へのさらなる支援を求めた。これを受けて、武藤容治経済産業大臣は、「次世代革新炉への建て替えに向けた研究開発やサプライチェーンなどの事業環境整備に取り組む」と発言したほか、「地域産業や雇用の維持発展に寄与し、地域の理解が得られるものに限り具体化を進めていく」と国として全面的にサポートする姿勢を強調した。
12 Aug 2025
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自然科学研究機構核融合科学研究所(NIFS)と量子科学技術研究開発機構(QST)六ヶ所フュージョンエネルギー研究所は7月27日、共同で調達した新スーパーコンピュータシステム(以下:スパコン)を一般公開した。NIFSとQSTのそれぞれが保有していたスパコンを統合し、共同で調達することで、より高性能な機器の導入が実現。同スパコンは、1秒間に4京400兆回の計算が可能だ。設置場所は、QSTの六ヶ所フュージョンエネルギー研究所で、7月1日からすでに運用を開始している。NIFSとQSTが共同で運用する。同スパコンはNEC製で、計算能力は従来機の2.7倍。昨年12月13日の受注発表時に公開した受注額は、同社として過去最高の45億円。今後、核融合エネルギーの実現に向けたさまざまな研究に活用される予定だ。具体的には、国際プロジェクトの核融合実験炉「ITER」や、日本のトカマク型装置「JT-60SA」の実験予測、運転シナリオの作成に役立てられる。また、計算速度の大幅な向上により、核融合プラズマなどの複雑な現象をシミュレーションできるようになり、想定実験でのリアルタイム制御への応用も期待されている。また、同スパコンは、国内の大学や研究機関でも遠隔で利用可能で、核融合に関連した天体研究などにも活用されるという。
07 Aug 2025
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内閣府は、8月5日に開催した原子力委員会の定例会議にて、日本が2024年末時点で国内外に保有するプルトニウムの総量が約44.4トンであることを明らかにした。内訳は、国内の保管量がおよそ8.6トン、海外での保管量がおよそ35.8トン(英国に約21.7トン、フランスに約14.1トン)であった。2023年末時点の総量は約44.5トンであったため、わずかながらに減少した。減少は4年連続。海外に保管中のプルトニウムとは、国外(英仏)に再処理を委託しているが、まだ日本国内に返還されていないものを指す。これらは原則として、海外でMOX燃料に加工され、国内の発電プラントで利用されることになっている。日本政府は、プルトニウム利用の透明性の向上を図り、国内外の理解を得ることが重要であることから、国際原子力機関(IAEA)の管理指針(プルトニウム国際管理指針)に基づき、国内外において使用及び保管している未照射分離プルトニウムの管理状況を、1994年から毎年公表するとともに、IAEAに提出している。プルトニウムの削減が進まなかった理由として原子力委員会は、2024年は、日本がイギリスとフランスに委託してきた使用済み燃料の再処理が行われず、プルトニウムの回収がなかったことや、MOX燃料の装荷実績がある関西電力高浜発電所3・4号機(PWR、87.0万kWe×2)、四国電力伊方発電所3号機(PWR、89.0万kWe)にて、昨年、新たなMOX燃料が装荷されなかった影響だとしている。
06 Aug 2025
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2025年7月30日から8月6日にかけ、マレーシアのバンギで開催された「第2回国際原子力科学オリンピック(INSO)」において、日本代表の高校生4名が全員メダルを獲得する快挙を成し遂げた。金メダルを獲得したのは東海高等学校3年の田中優之介さん。さらに、筑波大学附属駒場高等学校3年の田部主真さんと武蔵高等学校3年の堀航士朗さんが銀メダルを、大阪府立北野高等学校2年の佐々木柚榎さんが銅メダルをそれぞれ獲得した。また、特別賞として、田部さんが実験試験最高得点賞を受賞し、佐々木さんは最優秀女性選手賞に輝いた。これらの代表選手は、文部科学省の事業として整備が進められている「未来社会に向けた先進的原子力教育コンソーシアム(ANEC)」が提供するe-learningを通じて、INSOの7つの出題項目を日本語の動画で学び、その後2025年4月に実施された国内選抜会(日本語による遠隔試験)を経て選出された精鋭。選抜後には、専門用語に関する英語訓練を含む集中トレーニングを経て本大会へ参加している。本大会には、日本チーム出場支援委員会の代表として東京大学の飯本武志先生をはじめ、日本代表団のリーダーとして、京都大学の角山雄一先生と日本原子力研究開発機構の佐藤大樹先生が同行。リーダーたちは、現地で深夜におよぶ問題検討や設問の日本語訳、さらには採点作業(採点をめぐる各国間でのタフな交渉も含む)などを精力的に行った。日本代表団は、受賞の興奮も冷めやらぬまま、本日帰国する。国際原子力科学オリンピック(INSO)とは、国際原子力機関(IAEA)がアジア太平洋地域の20歳未満の学生を対象に企画した国際競技である。原子力科学技術は発電以外にも医療や農業、犯罪捜査、文化財保護など幅広い分野で活用されており、国連が提唱するSDGsの目標達成にも深く関わっている。INSOでは参加者が理論試験と実験試験を通じて高度な知識や技術を競い、原子力科学の可能性を深く考察し、「原子力科学技術の平和利用に対する認識を高めること」を目的としている。
06 Aug 2025
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クリアランス事業の運営管理を手掛ける新会社「福井県原子力リサイクルビジネス準備株式会社」が8月1日、福井県敦賀市で設立された。同社には、福井県や嶺南6市町、関西電力、日本原電、福井銀行、敦賀信用金庫、小浜信用金庫らが総額20億円を出資。代表取締役社長には来馬克美氏が就任した。原子力発電所の解体等に伴って発生した廃棄物の中で、放射能レベルが極めて低い金属(クリアランス金属)のリサイクルビジネスの確立が主たる目的で、これら廃棄物を活用するクリアランス制度の理解促進を図る狙いもある。福井県ではすでに同制度の理解促進活動が活発に行われ、これらクリアランス製品を公共施設に設置する活動(福井大学内のベンチ、若狭サイクリングルートのサイクルラック、福井南高校の防犯灯など)を行ってきた。これらの活動は、原子力や再エネ事業を活用し、嶺南地域経済の活性化を図る嶺南Eコースト計画(2020年に県が策定)の一部に位置づけられ、経済産業省の委託事業等を活用しながら、原子力発電所外でのクリアランス製品の活用を今後も進めていく。同社は、敦賀半島を候補地にクリアランス金属の集中処理施設を建設し、回収した金属を処理して一般用金属として販売する予定だ。国内でクリアランス金属のリサイクルを専門に行う会社は他にない。今後、集中処理施設の詳細設計や地質調査を行い、2027年頃には原子力規制委員会に事業許可を申請し、2030年代初めの操業開始を目指す。同施設の処理見込み量は20年間で4万トン、利益は約50億円(20年間)を見込んでいる。
05 Aug 2025
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環境省は7月31日、「令和7年度ぐぐるプロジェクト キックオフミーティング」を東京都内で開催した。同プロジェクトは、放射線に関する正しい情報発信を目的に2021年に始まった活動で、今年、最終年度となる5年目を迎えた。一般的に放射線はなじみが薄く、情報をアップデートする機会が少ないと言われている。そのため、過去に得た古い情報のまま、知識が止まっているケースが多々あり、放射線の健康影響に関する全国調査においても、「正しい知識を持つ人」の割合は未だ61.7%ほどに留まるという。こうした放射線の健康影響に関する誤解や風評、差別、偏見の解消を目指し、同プロジェクトでは、メディア向け公開講座や、ラジエーションカレッジ(全国の企業や学校での学びの場)によるセミナーの開催、学んだことを発信するための作品コンテストなど、幅広い活動を行ってきた。同プロジェクトでは、今年度までに「正しい知識を持つ人」の割合を80%にする目標を掲げ、昨年度発足した、福島の未来を担う若い世代で構成された「ふくしまメッセンジャーズ」による取り組みをパワーアップさせる方針だ。「ふくしまメッセンジャーズ」は昨年度、中高校生向けの絵本「木と鳥」やポスターの創作、福島県内でのフィールドワークやワークショップなど、さまざまな活動を通じて情報発信に努めてきた。今年度は活動の場を福島県外へと広げ、秋以降には全国8か所程度でのイベントにメンバーを派遣する。なお、活動の様子は動画にまとめられ、YouTube公式チャンネルなどで全国に発信される。早速、8/6(水)~8/7(木)には「こども霞が関見学デー」と題した小中学生向けの省庁見学イベント(環境省22階第一会議室で開催)にて、メンバーが先生役となって活動を紹介する予定だ。この日は、4名のふくしまメッセンジャーズのメンバーが登壇し、ロールプレイ形式で活動の様子が披露された。また、昨年度から同活動のサポーターに起用されている俳優・タレントとして活躍する箭内夢菜さん(福島県郡山市出身)も登壇。箭内さんは、「ふくしまメッセンジャーズの活動は、福島の今を知らない人たちの心を動かすきっかけになると思っています。私もサポーターとして、今年度も精一杯応援させていただきたいです」と意気込みを語った。
04 Aug 2025
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北海道電力は7月30日、原子力規制委員会から泊発電所3号機(PWR、91.2万kWe)の原子炉設置変更許可を受けた。同日午後、同社の勝海和彦取締役常務執行役員が、東京都内の原子力規制庁を訪れ、再稼働に必要な「設置変更許可」の許可書を受け取った。2013年に策定された新規制基準の審査には、これまでに17基が合格しており、今回が18基目の許可事例となった。泊発電所3号機は、2013年7月に設置変更許可申請を提出していたが、敷地内の「F-1断層」の活動性をめぐる議論が長期化し、許可の交付に約12年を要した。今後、発電所の設備の詳細設計に係る「設計及び工事計画の認可申請」および運転管理体制などを定めた「保安規定変更認可申請」に係る審査への対応、防潮堤などの安全対策工事を進め、2027年のできるだけ早期に再稼働を目指している。なお、審査中の1、2号機(PWR、57.9万kWe×2)は、2030年代前半の再稼働を目指している。同社の斎藤晋社長は、「大きな節目だ。不断の努力を重ねて世界最高水準の安全性を目指す」とコメントした。日本原子力産業協会の増井秀企理事長は同日、コメントを発表し、「道内における電力の安定供給をより強固なものとし、同時に、二酸化炭素の排出削減にも貢献すると期待される。データセンターや半導体工場の新増設に伴って今後の電力需要の伸びが著しいと予想される北海道において、原子力発電の役割は大きい」と、泊3号機の再稼働に期待を寄せた。林官房長官は同日午後の記者会見で、「政府としては、今後も自治体と連携しながら、地域の方々の不安を払拭できるよう、原子力災害対応の実行性向上に取り組んでいく。また、国も前面に立って、新規制基準の適合性審査の結果や再稼働の必要性・意義、原子力防災対策などについて、住民の皆様や自治体のご理解を得られるように、分かりやすく丁寧な説明・情報発信に粘り強く取り組んでいくことが重要であると認識している」と述べた。また、武藤容治経済産業大臣は、1日の閣議後記者会見で、同発電所3号機が原子力規制委員会の審査に合格したことを受けて、北海道の鈴木直道知事に、再稼働を進めていく政府方針を電話で伝えたと明らかにした。
01 Aug 2025
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東北電力は7月29日、女川原子力発電所の敷地内に新設を目指す乾式貯蔵施設について、宮城県および女川町と石巻市より、安全協定に基づく事前了解を得て、着工の了解を受けたと発表した。宮城県庁を訪れた東北電力原子力本部の阿部正信原子力部長に、県の担当者が「一時的に貯蔵するための施設であることを前提に了解する」とした回答書を手渡した。なお、同施設の基本設計に係る「原子炉設置変更許可申請」は、2024年2月28日に原子力規制委員会へ申請し、2025年5月28日に許可されていた。使用済み燃料乾式貯蔵施設とは、使用済み燃料を原子力発電所から搬出するまでの間、一時的に貯蔵するための施設で、「使用済み燃料乾式貯蔵建屋」と「使用済み燃料乾式貯蔵容器」で構成される。女川原子力発電所2号機(BWR、82.5万kWe)の使用済み燃料プールにて十分に冷却された使用済み燃料を、金属製の乾式貯蔵容器(キャスク)に収納し、空気の自然対流によって冷却する。同社の計画では、施設は鉄筋コンクリート造で2棟を建設し、最大で計約1,300体の燃料が入る。1棟目は来年5月に着工する予定だ。同社によると、昨年10月に再稼働した2号機原子炉建屋内の使用済み燃料プールは、7月29日時点で貯蔵率が79%を超えていた。
30 Jul 2025
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日本原子力産業協会の増井秀企理事長は7月25日、定例の記者会見を行い、美浜発電所をめぐる動きや、長期脱炭素電源オークションの一部見直しについて、コメントした。増井理事長はまず、関西電力が美浜発電所後継機の自主的な現地調査を再開したことについて、原子力産業界としての受け止めについて説明した。同発電所の地質調査の再開は、原子力開発全体に好影響を与え、関西電力が導入の念頭に置く、大型革新軽水炉をはじめ、さまざまな次世代革新炉の開発に良い影響を与えると指摘。国が策定した2050年を見据えた革新炉開発の技術ロードマップと合わせ、今後の開発・建設が進むことに期待を寄せた。次に、「次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会 制度検討作業部会」における中間とりまとめに対するパブリックコメントを提出したことについて言及。長期脱炭素電源オークションの一部見直しが行われたことを受け、同協会がコメントを提出したことを明らかにした。最も大きな変更箇所となった「入札後に発生した事業者に責任がない費用増加について、一部回収を認める」という制度の導入について、既設発電所の安全対策投資や、30万kWe未満の次世代革新炉もその対象に含むよう追加で要望したことを明かした。さらに、回収可能な範囲の上限が1.5倍と設定されているが、海外事例を踏まえて、この上限を緩和すべきと進言したと述べた。その理由について増井理事長は、「長期脱炭素電源オークション自体は、電源への投資をローリスク・ローリターンにする画期的な仕組みだと考えているが、既設の原子力発電所の一部が対象外であるほか、容量や出力に制限がかかっているなど、見直しの余地がある」と述べた。また、「1.5倍という上限は、事業者に帰責性のない事由でどれくらい費用が超えるのか判断がつきにくく、新規建設の観点からひとつの障害になる可能性があり、投資促進の観点から進言した」と説明した。
29 Jul 2025
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三菱重工業は7月2日、中国三大重電機器メーカーの東方電気グループ傘下にある東方電機(東方電機有限公司:Dongfang Electric Machinery Co.Ltd.)と共に、中国の三門原子力発電所5、6号機向けに4基の循環水ポンプを受注したことを発表した。受注額や工期は非公表。両社は今年3月、パートナーシップを締結しており、今回の受注は、両社の協業による初の受注。兵庫県の高砂製作所にて製造され、順次納入される予定だ。両社は今後、中国の原子力ポンプ市場でのシェア拡大を目指すという。循環水ポンプは、タービンから排出される蒸気を冷却して水に戻す復水系統で用いられる大型機器で、原子炉の安定運転を支える重要機器だ。同社は、これまでに500基超の納入実績がある。三門原子力発電所は、中国南東部の海岸沿いに立地し、今回、循環水ポンプを供給する5・6号機は、稼働中の1・2号機(PWR、125.1万kWe)、建設中の3・4号機(PWR、125.1万kWe×2)に次いで建設される予定で、PWRの「華龍1号/HPR1000」を採用している。
25 Jul 2025
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日立製作所と量子科学技術研究開発機構(QST)は7月23日、国際核融合実験炉「ITER」向けに、炉内機器のひとつであるダイバータの主要部品「外側垂直ターゲット」の試験体を製作し、ITER機構による認証試験に合格したと発表した。「ITER計画」とは、日本・欧州・米国・ロシア・韓国・中国・インドの7か国と地域が協力し、核融合エネルギーの実現に向けて科学的・技術的な実証を行うことを目的とした国際プロジェクト。現在、実験炉の建設がフランスのサン・ポール・レ・デュランス市で進められている。日本は、ダイバータやトロイダル磁場コイル(TFコイル)をはじめ、ITERにおける主要機器の開発・製作などの重要な役割を担っており、QSTは、同計画の日本国内機関として機器などの調達活動を推進している。ダイバータは、トカマク型をはじめとする磁場閉じ込め方式の核融合炉における最重要機器のひとつ。核融合反応を安定的に持続させるため、炉心のプラズマ中に燃え残った燃料や、生成されるヘリウムなどの不純物を排出する重要な役割を担っている。トカマク型装置の中でプラズマを直接受け止める唯一の機器で、高温・高粒子の環境にさらされるため、ITERの炉内機器の中で最も製造が困難とされる。日立は、長年にわたる原子力事業で培った技術と経験を結集し、高品質な特殊材料の溶接技術と高度な非破壊検査技術を開発し、検証を重ねた結果、ITER機構から要求される0.5ミリ以下の高精度な機械加工と組み立てを実現。また、製作工程や費用の合理化を図るため、ダイバータ専用に最適化した自動溶接システムを開発した。2024年7月には、三菱重工業がすでにQSTとプロトタイプ1号機を完成させていたが、今回、日立の製作技術も正式に評価されたかたちだ。QSTはこの部品を全58基に納入予定。うち、18基は先行企業が製作を担当し、残る40基の製作企業は今後決定される見通し。
24 Jul 2025
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日本原子力研究開発機構(JAEA)は7月18日、燃料デブリの核物質を非破壊で測定する新技術「高速核分裂中性子同時計数法(FFCC)」を開発したと発表した。開発の背景には、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉作業をめぐる安全遵守と効率化の課題がある。原子炉から取り出される回収物は、核燃料が溶けて冷え固まった溶融デブリのように核物質を大量に含むものから、溶融物が原子炉構造材などに付着しただけでほとんど核物質を含まないものまで、多岐にわたる。そのため、回収物の核物質量に応じて分類し、管理・保管方法を最適化できれば、燃料デブリの取り出しから保管に至るまでの各工程の合理化が期待できる。本来、核物質は中性子による反応を利用することで非破壊測定ができるが、燃料デブリには制御棒由来の中性子吸収材が混ざっており、測定を妨害してしまうという。そのため、燃料デブリは「最も測定が困難な核物質」のひとつとされ、内部に含まれる核物質の量を非破壊で正確に把握する技術の開発が、以前から求められていた。こうした課題に対しJAEAでは、高エネルギーの高速中性子が中性子吸収材の影響を受けにくいという性質に着目し、「高速核分裂中性子同時計数法(FFCC)」という新たな非破壊測定法を開発。原理実証実験にも成功した。JAEAはこのFFCCの早期実用化を目指し、試験および検討を進めていく方針。この技術は、福島第一原子力発電所の廃炉作業における燃料デブリ中の核物質の非破壊計測に有効であるほか、核セキュリティ対策として手荷物などに隠匿された核物質検知などへの応用も期待されている。
23 Jul 2025
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関西電力は7月22日、美浜発電所1号機の後継機(次世代型原子炉へのリプレース)設置の可能性検討に係る現地調査を開始すると発表した。この調査は、2010年に開始していたが、2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、一時的に見合わせとなっていた。国内での新たな原子力発電所の建設は、2009年に運転開始した北海道電力泊発電所3号機(PWR、91.2万kWe)が最後で、実現すれば、2011年の事故以降初となる。政府は、今年2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画にて、原子力の最大限活用を掲げ、既存サイト内での次世代革新炉へのリプレースを進める方針を明記していた。現地調査では、新規制基準への適合性の観点から、地形や地質等の特性を把握し、後継機設置の可能性の有無を検討する。また、調査結果に加え、革新軽水炉の開発状況や規制の方針、投資判断を行う上での事業環境整備の状況を総合的に考慮するため、「同調査の結果のみをもって後継機設置を判断するものではない」と、同社はコメントしている。美浜発電所は、2015年4月に1、2号機の廃止が決定し、現在は、3号機(PWR、82.6万kWe)のみ稼働している。関西電力の森望社長は「データセンターや半導体産業の急成長を背景に、今後も電力需要は伸びていく。資源の乏しい日本において、S+3Eの観点から、原子力は将来的にわたって役割を果たすことが重要」と述べたうえで、新増設やリプレースに関しては「投資回収の見通しを確保することが重要で、国の政策に基づく事業環境整備などが必要となる」と強調した。同社はウェブ上で「地域の皆様のご理解をいただきながら、安全を最優先に原子力事業を推進していく」とコメントしている。
22 Jul 2025
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日本政策投資銀行は7月11日、「電力需要増加への対応と脱炭素化実現に向けた原子力への注目~海外で取り組みが進むSMRの動向と産業戦略~」と題した調査研究レポートを発表した。著者は同行産業調査部の村松周平氏。同レポートでは、電力需要の増加と脱炭素化の実現に向け、世界的に原子力発電の重要性が再認識されていると指摘。革新軽水炉・高温ガス炉・高速炉・小型モジュール炉(SMR)および核融合などの次世代革新炉の開発が加速するなか、それらの導入に向けた論点や日本の産業競争力強化に向けたあり方を提言している。特にSMRは、技術成熟度の観点から実現可能性が高く、大型軽水炉における課題を克服し得る特徴を有しており、米国などではSMR導入に向けた規制や政策的支援の整備が進んでいる。日本もこうした動きに呼応し、先行する海外プロジェクトへの参画が大きな意味を持つ、との見方を示した。一方で、次世代革新炉の初期の実装においては、多様な不確実性に対処する必要があり、サプライチェーンの整備、規制と許認可プロセスの合理化と確立、政府や電力需要家を含めた適切なリスクシェアなどの議論が不可欠と強調している。また、日本では2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画において、「原子力の最大限活用」が明記され、単一電源種に依存しない電力システムの構築が急務となっていることを指摘。太陽光や風力といった再生可能エネルギーの導入が進む一方で、その発電量の不安定さから需給バランスの課題についても言及されている。さらに、西側諸国で長期間にわたり新規建設が途絶え、1,000万点にも及ぶ原子力サプライチェーンが崩壊の危機に瀕したこと、また、その間に中国とロシアは政府が主導して原子力サプライチェーンを戦略的・継続的に強化したことを踏まえ、原子力発電所の新設やサプライチェーンの維持・強化は自国の電力システムのみならず、国際的な安全保障や産業競争力にとっても重要な意味を持つとした。その他、同レポートでは、各種次世代炉の技術的特性、また、FOAKリスク(First of a Kind、初号機)への対応の必要性が記されている。同様に、諸外国のSMR開発・社会実装の動向を踏まえ、日本としても、中長期的なSMRの導入可能性を見据えて、海外プロジェクトへの参画や人材・部品供給の支援を通じて、競争力強化と安全保障上の優位性確保が急務であるとした。そして最後に、安全性への客観的な判断と丁寧な対話を通じた社会的受容も不可欠であり、脱炭素化やエネルギー安全保障の実現に向け、政治・産業界による継続的な支援の必要性を強調している。
18 Jul 2025
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核融合エネルギーの開発ベンダーであるHelical Fusion(ヘリカル・フュージョン)は7月11日、2030年代の実用発電を目指す新計画「Helix Program」と、約23億円の資金調達を行ったことを発表した。これにより、累計調達額(補助金、融資を含む)は約52億円に達した。同社は、核融合科学研究所(NIFS)出身の研究者らによるスタートアップ企業。核融合炉には複数の方式(トカマク型やレーザー型など)があるが、同社は、「ヘリカル方式」を採用。これは、ねじれたコイルを用いて強力な磁場を作り、内部に閉じ込めた高温高圧のガスで持続的に核融合反応を起こす方式だ。複雑な形状のコイルを用いるため製作の難易度が高い一方、運転時にプラズマに電流を流す必要がないという特長がある。同社によると、「ヘリカル型核融合炉」は、NIFSをはじめ、日本で約70年にわたって蓄積されてきた研究の知見を引き継いでいるという。同社の新計画では、2030年までに実験装置での試験、核融合炉の設計やサイト選定などの手続きを並行して進める。同社は、24時間365日運転可能な「安定性」、システム全体で取り出せるエネルギーが投入分を上回る「正味発電」、短期間で効率的なメンテナンス可能な「保守性」、の三要件を満たした世界で唯一のプログラムを実現し、真に持続可能で高効率なエネルギー源の実用化、そして、日本からこの巨大産業をリードしていくという強い意欲を示した。日本政府は今年6月に改定した国家戦略(フュージョンエネルギー・イノベーション戦略)で、我が国におけるフュージョンエネルギー産業の創出に向け、民間による研究開発および事業活動を強く後押しする方針を示し、2030年代の発電実証を目標に掲げている。
17 Jul 2025
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関西電力は7月11日、福井県美浜町に建設が決まっている緊急時対策所の建設資材に、原子力発電所から発生した廃棄物の「クリアランス金属」を使用すると発表した。原子力発電所の解体等に伴って発生する廃棄物は、放射能レベルに応じて適切に処分するよう法律で定められている。その中でも、人体への影響を無視できるレベル、かつ、原子力規制委員会の認可・確認を受けたものは、一般の産業廃棄物と同じ扱いができる制度(クリアランス制度)が設けられている。福井県内ではすでに、同制度の理解促進活動の一環として、クリアランス金属を活用した製品を公共施設に設置する活動を行っている。同県の杉本達治知事も、「当県ではクリアランス金属を資源として産業化する日本初のリサイクルビジネスに取り組む」との強い意欲を示している。このクリアランス金属を、建物の主要構造部材として再利用するのは、今回が国内初の事例となる。関西電力によると、日本原子力研究開発機構(JAEA)の新型転換炉原型炉「ふげん」由来のクリアランス金属を一般金属に15%の割合で混ぜて鉄筋に加工し、緊急時対策所の一部に用いる予定。建設に使う鉄筋全体75トンのうち、クリアランス金属は5トン程度となる。同対策所は、地上3階建てで最大250名程度を収容可能。原子力災害対策の充実に向けて、各種設備(通信連絡設備・放射線防護設備・非常用電源)を強化し、2029年頃の運用開始を目指している。同社は、「原子力発電所の運転・保守や解体に伴って発生する放射性廃棄物の低減に向けて取り組むとともに、クリアランス制度を活用し、循環型社会の形成に貢献していく」とコメントしている。
16 Jul 2025
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