韓国水力・原子力(KHNP)は9月2日、セルビア鉱業・エネルギー省(MoME)と、原子力ならびに水素エネルギー分野における協力強化に向けた2件の了解覚書(MOU)を締結した。MOUは、セルビアの首都ベオグラードで韓国貿易投資振興公社(KOTRA)主催による「韓国・セルビア戦略的エネルギー開発フォーラム」の開催を機に調印された。今回のMOUに基づき、セルビアの原子力技術分野における人材育成・開発への支援を強化、両国間の技術情報・専門知識の定期的な交換を促進し、水素エネルギー分野においても、技術交流や人材育成で協力し、セルビアにおけるグリーン水素パイロットプロジェクト開発の可能性評価に向けて、共同作業を実施する計画である。セルビアでは、総発電電力量の約60%は石炭・褐炭火力に依存し、大気汚染による環境・健康問題が深刻化している。そのため、炭素排出削減と再生可能エネルギーや原子力を含む、エネルギー源の多様化を図っている。2024年11月には、エネルギー安全保障の確保に向けて、エネルギー法を改正。これにより、旧ユーゴスラビア時代の1989年、チョルノービリ事故から3年後に施行された原子力発電所建設のモラトリアムが、35年ぶりに解除された。現在、原子力政策および人材育成を支援する法的枠組みを整備、また水素エネルギー開発に向けた基盤整備を進めているという。原子力利用については、2024年3月にベルギー・ブリュッセルで開催された原子力エネルギー・サミットにおいて、セルビアのA. ブチッチ大統領が演説し、小型モジュール炉(SMR)を4基、出力計120万kWeの導入への関心を表明。「セルビアには原子力利用に関するノウハウもなく、プロジェクトを実施する資金力も不足している」と述べ、他国からの支援に期待を示していた。KHNPのJ. ファンCEOは、「両者の協力により、セルビアとKHNP双方の持続可能な成長が期待できる。特に、水素の実証プロジェクトはセルビアの水素産業の発展に重要な役割を果たすものであり、クリーンエネルギー分野全般における新たな協力の機会を切り開くものだ」とコメント。S. ブラホビッチMoME次官は、セルビアが原子力エネルギーを、クリーンエネルギーへの移行プロセスにおいて国のエネルギー安全保障の確保に寄与する潜在的なエネルギー源の一つとして検討しているとした上で、「原子力分野で世界をリードする国々や企業との協力により、知識と技術を交換し、専門家育成に投資することは極めて重要である」と述べた。MoMEは2024年10月、フランス電力ならびに仏エンジニアリング・コンサル会社のEgis社と原子力利用の可能性に係わる予備的技術調査の実施に関する契約を締結。同月、A. ブリン副首相がロシアのロスアトムのA. リハチョフ総裁と原子力の非発電利用に関する協議を実施している。
12 Sep 2025
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米ウェスチングハウス(WE)社は9月2日、英国企業6社と了解覚書(MOU)を締結した。英国において、同社のAP1000ならびに小型モジュール炉(SMR)のAP300を採用する新規原子力発電プロジェクトの実施を目指す。WE社は、2050年までに国内で合計2,400万kWeの新規原子力発電所を稼働させ、国内電力需要の4分の1を原子力でまかなうという英国の野心的な目標を支援するために、英国でのサプライチェーンを強化する考えだ。MOUを締結したのは、William Cook Cast Products、Trillium Flow Technology、Curtiss-Wright Controls、Boccard UK、Bendalls Engineering、Sheffield Forgemastersの6社。今回の合意により、同6企業からのバルブ、ポンプ、アクチュエーター、機械・電気配管および計装(MEPI)モジュール、圧力容器、タンク、熱交換器、配管、鋳造・鍛造鋼部品などの主要な原子炉部品の供給を想定している。WEエナジー・システムズ社のD. リップマン社長は、「今回の合意は、当社が英国を主要パートナーとして原子力事業を展開するうえで重要なマイルストーン。これらサプライヤーとの協力により、英国の新規建設での技能労働者の雇用創出や、欧州や国際的なプロジェクトへの支援にもつながり、経済的利益が見込める」と語った。WE社が2023年5月に発表したAP300は、同社のAP1000をベースとした1ループ式の30万kWeのPWRで、2030年代初頭に初号機の運転開始を目指している。AP300は、AP1000のエンジニアリング、コンポーネント、サプライチェーンを活用し、許認可手続きの合理化が可能。2024年2月、WE社は、英国のコミュニティ・ニュークリア・パワー(CNP)社と、イングランド北東部のノース・ティーサイド地域にAP300×4基の建設で合意した。英エネルギー安全保障・ネットゼロ省は同年8月、AP300の包括的設計審査(GDA)への参加を承認。一方で、WE社は、英政府のSMR支援対象選定コンペからは撤退した。サプライチェーンの他の構築事例としては、WE社は2024年12月、BWXTカナダ社と、カナダ国内外における原子力発電の新規建設プロジェクトを支援する了解覚書(MOU)を締結。BWXTカナダ社による、AP1000とAP300向けの原子炉容器、蒸気発生器、熱交換器などの主要コンポーネントの供給を想定している。同10月には、造船事業のほか、船舶修理や海上輸送を手掛けカナダのシースパン社とスプール配管や鋼鉄構造物などの原子炉コンポーネント製造に係る協力でMOUを締結している。さらに今年3月には、カナダ・サスカチュワン州のサプライヤー6社とMOUを締結し、電気機器や、鉄骨構造物など、主要な原子炉コンポーネントを製造し、カナダ国外での新規建設プロジェクトを支援する体制を整えた。AP1000は世界で6基(中国で4基、米国で2基)が運転中である。ポーランド、ウクライナ、ブルガリアの新設プロジェクトでもAP1000が採用されており、他欧州諸国や北米でも採用が検討されている。
11 Sep 2025
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シンガポール貿易産業省(MTI)傘下のエネルギー市場監督庁(EMA)は9月2日、先進原子力技術、特に小型モジュール炉(SMR)に焦点を当て、その安全性、技術の成熟度、商業化の準備状況に基づき、安全性能、技術的実現可能性を評価することを明らかにした。EMAは、シンガポールのエネルギー産業の規制と開発を担当している。2024年12月に先進原子力技術に関するコンサルティングサービスの入札を開始し、英国のインフラコンサル企業のモット・マクドナルド社を選定した。同社は、原子力産業分野において60年以上にわたり、独立した安全性評価、ライセンスや規制面、技術成熟度評価、多様なエネルギーシステムへの原子力発電の統合などで、欧州、中東、オーストラリアなどの政府、規制当局、事業者に助言してきた経験を有する。なお、この調査のサブコンサルタントに、韓国の現代E&C社(現代建設)を採用しているという。EMAは、政府は原子力導入を決定してはいないが、特に先進的な原子力技術について理解を深め、能力の強化、専門家との協力継続は重視すべきとの考え。原子力導入の可否は、安全性、信頼性、経済性、環境持続可能性といった観点から、シンガポールの状況に即して慎重に検討する必要があるとしている。シンガポールは、面積約720 km2(東京23区よりやや大きい)、人口およそ570万人の高密度都市国家。世界中の企業が拠点を置くビジネス都市でもあり、金融・貿易・物流・ITを中核に産業が発展している。シンガポールの総発電電力量は570億kWh(2023年)で、年々上昇傾向にある。電源別発電量では、天然ガスが94.5%を占め、その他(都市廃棄物、バイオマス、太陽光など)で4.3%。石炭0.9%、石油0.4%。天然ガスを含む化石燃料は輸入に依存している。シンガポールは再生可能エネルギー開発と持続可能性への取組みを強化しており、太陽光発電設備の容量が徐々に増加すると予想されているが、再生可能エネルギー源の拡大にも限度があるため、2050年までに排出ネットゼロの気候目標の達成とともに、増大する電力需要への対応が課題となっている。2012年、MTIが実施した原子力エネルギーに関する事前実現可能性調査では、現在利用可能な原子力技術はまだシンガポールでの展開に適していないと結論付けられた。EMAはSMRやその他の高度な原子力技術の進歩を引き続き監視しつつ、将来のエネルギー選択肢をオープンにして、シンガポールへの影響を評価する能力を構築していく考えを示している。シンガポールは2024年7月末に、米国と原子力協力協定(通称123協定)を締結。両国は、米国務省が主導する「SMRの責任ある利用のための基盤インフラ(FIRST)」プログラムなどの能力開発イニシアチブを通じて、SMRのような先進的な原子力技術によるエネルギー需要への対応と、気候目標の達成に向けて、民生用原子力協力をさらに強化する方針。同協定に調印したV. バラクリシュナン外相は、原子力導入の決定にあたり、原子力の安全性、信頼性、経済性、環境の持続可能性について詳細な研究が必要であるとし、「従来の原子力技術はシンガポールには適さないが、民生用原子力技術の進歩を考えると、いかなるブレークスルーにも後れを取らないようにしなければならない」と語っている。
10 Sep 2025
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米国のウラニウム・エナジー(UEC)社は9月2日、米国の新しいウラン製錬・転換施設の建設の実現可能性を検討するため、完全子会社である米国ウラン製錬・転換会社(UR&C)の設立を明らかにした。UECは現在、推定資源量、認可済み生産量、加工能力で米国最大のウラン企業。同社のA. アドナニCEOは、「当社がウランの採掘、加工、製錬、転換能力を備えた唯一の垂直統合型の米国企業になることは、米国にとって重要な商業的機会であると同時に戦略的にも必要。当社は、主要事業である既存のウラン採掘・加工に注力しながら、UR&Cを通じて、国内の燃料サプライチェーンを構築して濃縮能力の拡大を支援し、長期的なエネルギー安全保障強化に中心的役割を果たしていく」と抱負を述べた。垂直統合により、低濃縮ウラン(LEU)や高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU)といった国内外で必要とされる原子燃料の生産を可能にする六フッ化ウラン(UF6)を確実に供給していく計画で、トランプ米大統領が発令した一連の大統領令に基づく連邦政策や、国家安全保障上の優先課題である燃料サイクルの国内回帰を図る、防衛生産法(DPA)の権限とも整合するという。UEC社は、市場環境と連邦政府の支援により、米国企業が新たなウラン製錬・UF6転換プラントを開発し、国内の転換能力を拡大するのに最適なタイミングと捉え、米国内需要(年間18,000 MtU)の約半分をカバーする年間~10,000 MtUのUF6を生産する米国最大かつ最新鋭の転換施設の建設を計画している。同転換施設の建設計画については、米大手EPC(設計・調達・建設)契約企業のフルアー(Fluor)社と2024年7月に開始された1年にわたる設計・エンジニアリング作業に基づいており、建設サイトを物流、労働力、地域住民の受容性、地元のインセンティブ、他の燃料サイクル施設との相乗効果などの面から評価しているところ。また、プロジェクトは、追加の工学・経済調査の完了、政府の戦略的コミットメント、電力会社との契約、規制承認、有利な市場条件など、複数の要因に応じて進行し、UECは既に政府、州エネルギー当局、電力会社、金融機関と初期協議を開始しているという。UECのS. エイブラハム会長(元米エネルギー省長官)は、「長年にわたり、米国は国家的・経済的安全保障に不可欠な重要資源の供給と加工を外国に依存してきた。当社は、天然UF6の垂直統合型サプライチェーンを確立し、世界最大規模となる原子力発電フリート向けの濃縮用原材料を確保して米国の濃縮産業の成長を促進し、米国内の原子力発電設備容量を現状の4倍、4億kWeとするトランプ大統領のプログラムの重要な一翼を担っていく」と語った。UEC社によると、現在のUF6転換価格は過去最高水準に近く、スポット市場では64~66ドル/kgU、長期市場では約52ドル/kgUとなっており、米国の燃料サプライチェーンにおいては深刻なボトルネックとなっているという。なお現在、米国で稼働するウラン転換施設は、イリノイ州南部にあるコンバーダイン社のメトロポリス・ワークス(MTW)プラントのみ。同プラントは2017年~2023年にかけて、市場環境の悪化により一時的に操業を停止していたが、2023年7月に再開されている。
10 Sep 2025
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米テネシー峡谷開発公社(TVA)とENTRA1エナジー(ENTRA1)社は9月2日、TVAが供給する米国南東部の7州において、ニュースケール社製の小型モジュール炉(SMR)を搭載した6プラント、最大で計600万kWeの展開で協力する合意書を締結した。ENTRA1社が電力インフラを開発・所有し、将来的にはTVAに電力を販売する計画。今回の提携により、約450万世帯または60の新しいデータセンターに相当する十分なカーボンフリーのベースロード電力供給が期待されており、両社はハイパースケールデータセンター、人工知能(AI)、半導体製造、その他のエネルギー集約的な産業部門など、莫大な電力需要に応えると強調。両社はこの計画を米政権のエネルギードミナンス(支配)戦略とエネルギー安全保障の確保の重点方針に従うものと位置づける。ENTRA1社は、米国の原子力、特にSMRと天然ガス火力発電部門に、最高水準の米国技術導入を目指す電力会社。世界的な重要インフラプロジェクトへの投資、開発、実行における豊富な経験を活かし、電力購入契約(PPA)に基づく、電力の販売に注力している。ENTRA1社はニュースケール社製のSMR「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の商業化、流通、展開に対する世界的な独占的権利を保有する戦略的パートナーであり、同SMRを搭載したENTRA1プラントの開発、資金調達、投資、運転、管理までワンストップサービスを担うと強調する。TVAのD. モールCEOは、「ENTRA1社との契約は、エネルギー安全保障を確保し、全米に雇用と投資を創出するために不可欠な次世代原子力の推進において、官民パートナーシップが果たす重要な役割を浮き彫りにしている」と指摘。ENTRA1社のS. アルバラド最高プロジェクト責任者は、「エネルギー安全保障は国家安全保障であり、信頼できる電力はアメリカの未来の生命線。AIデータセンター、高度な製造業を強化し、国力を強く保つ重要な産業を促進。豊富で手頃な価格のベースロード電力がなければ、イノベーションは失速し、サプライチェーンは寸断される」と語った。ニュースケール社のSMR「NPM」はモジュール統合型のPWR。1基あたり7.7万kWの電力、25万kWの熱を生成するNPMを最大12基連結。顧客のニーズに合わせて柔軟に拡張可能である。発電、地域暖房、海水淡水化、商業規模の水素製造、プロセス熱として供給し、世界中の多様な顧客にサービスを提供する体制を整えているという。今年5月、米原子力規制委員会(NRC)から、NPM(7.7万kWe)の標準設計承認(SDA)を取得。商業用途としてNRCの設計認証を受けた初のSMRである。TVAは、ENTRA1社のような新興企業と戦略的に提携し、手頃な価格で豊富なエネルギー供給可能な新しい原子力技術の開発を進めている。同社は今年5月、NRCに対し、テネシー州オークリッジ近郊の同社のクリンチリバー・サイトにおいて、GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社製SMR「BWRX-300」(30万kWe)の建設許可を申請。さらに8月には、米原子力新興企業のケイロス・パワー社と、ケイロス社がオークリッジで建設を計画するフッ化物塩冷却高温炉の実証プラント「ヘルメス2」から最大5万kWeのPPAを締結。TVAの送電網を経由し、テネシー州とアラバマ州にあるGoogle社のデータセンターに電力を供給する計画だ。
09 Sep 2025
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ポーランド国営原子力事業者であるPEJは8月29日、同国ポモージェ県知事からポーランド初の原子力発電所建設に関連する準備作業許可を取得したことを明らかにした。昨年8月に同知事に申請していたもので、準備作業の第1段階は今秋から始まる予定。PEJは、ポーランド初の原子力発電所の建設および運転の実施主体で、国営の特別目的会社(SPV)。米ウェスチングハウス(WE)社製AP1000×3基、合計出力375万kWeを同国北部のポモージェ県ホチェボ自治体内のルビアトボ–コパリノ・サイトに建設する。2036年~2038年にかけて3基の運転開始を見込む。準備作業の対象サイトは約330haで、第1段階は今秋から始まり、作業区域の測量、フェンス設置、樹木や低木・切り株の除去、表土(落葉や腐植土)の撤去、サイトの整地が行われる。PEJは本準備作業に先立ち、過去1年半にわたり、サイト予定地では地盤工学的調査に加え、環境調査および測量を実施。保護対象の動植物を移設する取組みも進められた。これは2023年9月にポーランド環境保護総局(GDOŚ)がPEJに発給した、原子力発電所の建設・運転に関する環境決定(環境条件に関する決定)に従った措置。同10月にはポモージェ県知事が立地決定を発給している。準備作業は、区域の測量から始まり、同時に、考古学的遺構や不発弾の有無を確認した後、今年10月下旬から11月上旬にかけて樹木や低木の伐採を開始。伐採作業は2026年春までに完了する予定。建設にあたっては、規制当局の国家原子力機関(PAA)およびポモージェ県知事が別途発行する建設許可の取得が必要となる。
08 Sep 2025
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フランスのSMR開発事業者のカロジェナ(Calogena)社は8月26日、仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)と、CEAのカダラッシュ研究所でカロジェナ社製SMR(小型モジュール炉)の設置と熱供給ネットワークへの接続可能性の調査を実施する基本合意書(LOI)を締結した。カロジェナ社は、ハイテク産業を専門とする仏ゴルジェ(Gorgé)グループの子会社で、熱出力3万kWのSMR「CAL30」を利用した出力ボイラーを開発中。同炉はシンプルな設計、低温と低圧、競争力のあるコストに特徴があり、特に都市の地域熱供給ネットワーク向けカーボンフリーエネルギー源として設計されたもの。フランスでは、暖房エネルギーの95%は化石燃料またはCO2排出由来である。カダラッシュ研究所では2032年までの運転開始を目指している。カロジェナ社は2023年、仏政府の投資総局(Secrétariat Général Pour l'Investissement, SGPI)を通じて実施された「革新的原子炉」公募プロジェクトに採択され、原子力技術の開発支援を受けている。CEAは、原子力分野のイノベーションに重要な役割を果たしており、フランス産業界や主要研究プログラムを支援。近年では、「フランス2030」計画における採択プロジェクトの開発・産業化支援にも取組んでいる。カダラッシュ研究所は、原子力(核分裂・核融合)、太陽エネルギー、バイオエネルギー、水素のようなカーボンフリーエネルギーの研究・技術開発の拠点。また、仏海軍向けの原子力推進システム関連事業、原子力施設の廃止措置や除染、原子力安全に関する研究にも従事している。現在、CO2を排出する化石燃料(ガスや石炭)に大きく依存している暖房市場に対応するため、暖房分野での原子力利用が国際的に検討され始めている。フィンランドのクオピオ市の地域熱供給事業者であるクオピオン・エネルギア(Kuopion Energia)社は熱出力が9万~12万kWの原子力による熱供給の可能性を検討しており、カロジェナ社は、クオピオン社の環境影響評価(EIA)プロセスに招請された。クオピオン社は、2030年代半ばまでにバイオマス発電所を閉鎖する計画。原子力地域熱供給の候補地として、市の北部のソルササロ(Sorsasalo)と南部のヘポマキ(Hepomäki)に位置する2地点を選定している。なおクオピオン社は、フィンランドのSMR開発企業であるステディ・エナジー(Steady Energy)社とも2024年7月、SMRによる地域暖房用の熱供給の開始に向けて、事前準備の実施で合意している。
08 Sep 2025
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ポーランド最大手の石油精製企業オーレン社は8月28日、ポーランド初となる小型モジュール炉(SMR)として米GEベルノバ日立ニュークリアエナジー社製「BWRX-300」の初号機を、ブウォツワベク(Włocławek)に建設することでシントス・グリーン・エナジー(SGE)社と合意したことを明らかにした。オーレン社が管理する特別目的会社が、建設を担当するという。2021年12月、米GE日立・ニュークリアエナジー(GEH)社、BWXTカナダ社、ポーランドの大手化学素材メーカーであるシントス社のグループ企業SGE社は、ポーランドにおける「BWRX-300」導入に係る協力について発表。同月、SGE社はオーレン社と合弁会社OSGE社の設立を発表した。OSGE社は2030年にも「BWRX-300」初号機の完成を目指し、2023年4月、首都ワルシャワを除く国内6地点における合計24基のBWRX-300建設に関する原則決定(DIP)を気候環境省に申請し、同省は同年12月にこれら発電所に対するDIPを発給した。DIPは、原子力発電所建設プロジェクトに対する最初の基本的な行政判断で、DIP発給によりプロジェクトが正式に認められたことを意味する。同6地点は、北東部のオストロウェンカ(Ostrołęka)とブウォツワベク(Włocławek)、南部のスタビ・モノフスキエ(Stawy Monowskie)とドンブローヴァ・グルニチャ(Dąbrowa Górnicza)、ノバ・フタ(Nowa Huta)それぞれの近郊地点、タルノブジェク(Tarnobrzeg)の特別経済区。OSGE社はBWRX-300のポーランドでの独占使用権を保有しており、これら6地点は、BWRX-300をベースとしたSMR発電所を配備するためのさらなる地質調査を実施する最終候補地点となっていた。OSGE社は今年2月、ポーランド環境保護総局(GDOŚ)から、オストロウェンカとブウォツワベクで計画している発電所建設に係る環境影響評価(EIA)の報告書作成にあたり、取り組むべき分野について特定された。取り組むべき分野は、発電所立地の特殊性を考慮し、個々のプロジェクトごとに決定される。このGDOŚによる特定を受け、OSGE社は環境と立地の両面から調査を開始する。報告書作成には最大2年を要するとみられている。スタビ・モノフスキエで計画する発電所については、2024年2月にGDOŚから取り組むべき分野についてすでに特定されている。
05 Sep 2025
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インドのN. モディ首相は8月15日、首都ニューデリーで開催された独立記念日の式典で演説。原子力開発がエネルギーの安定供給確保や、化石燃料依存の低減に寄与するとし、自身が掲げる「ヴィクシット・バーラト」(先進インド構想)の目標達成年に掲げる、独立100周年となる2047年までに、原子力発電設備容量を現状の十倍以上とすると表明した。インドはエネルギー自立の強化、持続可能な成長を目指しており、原子力部門を民間企業に開放する改革を実施するなど、エネルギーと技術において前例のない機会を創出していると強調した。シタラマン財務大臣は今年2月、2025年度(2025年4月~2026年3月)連邦予算を発表する中で、原子力発電設備容量を2047年までに現状の約880万kWeから少なくとも1億kWeに引き上げるとともに、2,000億ルピー(約3,500億円)を投じて小型モジュール炉(SMR)の研究開発を推進する「原子力エネルギーミッション」を開始、2033年までに少なくとも国産SMR×5基の運転開始をめざす方針を表明した。さらに、民間企業がこのセクターに参入するための大きなハードルとなっていた原子力法および原子力損害賠償法の改正を進め、民間部門との連携強化を図る考えを示していた。政府で原子力や科学技術を担当するJ. シン閣外専管大臣は、7月24日付の上院議会への答弁書で、2047年までに原子力発電設備容量を1億kWeへ拡大することは、2070年までに炭素排出量をネットゼロにするという公約の実現に大きく貢献するものであると言及。原子力発電所を新規開発地域(グリーンフィールド)だけでなく、既存開発地域(ブラウンフィールド)へ建設することも想定しているとした。ブラウンフィールドではより小さな容量、最大でも30万kWeの小型炉の配備を計画するという。原子力設備の迅速な追加配備のために、二本立ての戦略、①70万kWe級の加圧重水炉(PHWR)や海外製の大型炉をグリーンフィールドのサイトに配備、②バーラト小型原子炉(BSR、PHWR、22万kWe)、バーラト小型モジュール炉(BSMR-200、PWR、20万kWe)や小型モジュ―ル炉(SMR-55、PWR、5.5万kWe)のような小型炉の国産設計と開発、導入を進めていく方針を示した。なお現在、3種類の実証用のSMR(BSMR-200、SMR-55、水素製造用の0.5万kWthの高温ガス冷却炉)がバーバ原子力研究所(BARC)で設計・開発中であり、これら実証炉はプロジェクトの行政認可を取得後、60~72か月以内に建設される見込みである。BSMRとSMRの初号機はインド原子力発電公社(NPCIL)との連携により原子力省(DAE)所有のサイトに設置予定で、DAEの技術的支援の下、主要設備の大半は国内サプライチェーンの範囲内にあるという。これらSMRは、自家発電所として導入、廃止予定の火力発電所のリプレース、遠隔地へのオフグリッド配置、および輸送部門向けの水素製造を想定して設計・開発されており、産業・輸送部門における原子力の普及拡大によって脱炭素化をめざす構想だ。さらに、シン閣外専管大臣の答弁書によると、現在のインド国内の原子力発電設備容量は、25基の計888万kWe。さらに18基、総出力1,360万kWe(BHAVINIが建設中の50万kWeの高速増殖原型炉PFBRを含む)が建設や計画中の段階にあり、これらが順次完成すると、原子力発電設備容量は2,248万kWeに達する見込み。原子力発電の総設備容量1億kWe達成の目標を、既存技術ならびに開発中の先進技術に基づく原子炉の導入により実現させる方針を示した。なお、同国南部のタミルナドゥ州・カルパッカムで建設中の同国初となるPFBRでは2024年3月にモディ首相の立会いの下、燃料装荷を開始した。同プロジェクトの完成の遅延については、主に統合試運転段階で直面した前例のない技術的問題に起因し、問題は設計者と緊密に連携し体系的に解決中であると回答している。
05 Sep 2025
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米エネルギー省(DOE)は8月26日、近い将来の燃料需要に対応するため、2回目となる高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)))の割り当てを米国の先進炉開発者3社に対して実施することを明らかにした。DOEはこの割り当てを、革新的な原子力技術の商業化を促し、より安全かつ安価で信頼性の高いエネルギー供給を保証するものと位置付ける。民間の研究開発、実証および商業利用に向けてHALEUの国内供給確保のために2020年に設立された「HALEU供給プログラム」を通じて行われている。今回2回目となるHALEU割り当ては、2種類の先進炉設計の試験支援と、新たな国内の先進燃料ラインの立ち上げが目的。DOEは今年4月に5社へ初回のHALEUの割り当てを行っており、そのうち3社は2025年中に燃料供給を必要としている。2回目の割り当てでは、新たに以下の3社がプログラムで定められた優先順位の基準に基づき、条件付き供給先に選定された。アンタレス・ニュークリア社: DOEの原子炉パイロットプログラムの対象炉。来年7月4日(米国の独立記念日)までに臨界を目指す先進マイクロ炉で使用。500kWeのナトリウムヒートパイプ冷却R1マイクロ炉を開発。国防総省(DOD)の軍事施設向け先進原子力(ANPI)プログラムの一環で、国防イノベーション・ユニット(Defense Innovation Unit:DIU)により選定。スタンダード・ニュークリア社: TRISO(3重被覆層・燃料粒子)燃料製造ラインを確立し、原子炉パイロットプログラムおよびその他のTRISO燃料炉を支援。DOEの燃料製造ラインのパイロットプログラムの初対象企業。アビリーン・クリスチャン大学(ACU)/ナチュラ・リソーシズ社: テキサス州にあるACUで建設中の熔融塩研究炉Natura MSR-1(0.1万kWt)で使用。DOEの原子炉パイロットプログラムに選定。ナチュラ社は原子力規制委員会と商業炉の許認可申請前活動中。DOEのC. ライト長官は、「トランプ大統領は真の原子力ルネッサンスの始動を最優先事項としており、DOEはこの野心的な課題の実現に向けて、先進燃料の製造に必要な資材へのアクセス拡大を進め、外国由来の資源への依存を減らすべく、米国の民間企業を支援している」と語った。多くの先進炉が、既存炉よりも小さな設計、より長い運転サイクル、より高い効率を実現するためにHALEUを必要とするが、米国には商用のHALEUの国内供給業者はいない。そのため、国家核安全保障局(NNSA)管理下の原料や政府所有の研究炉からの使用済み燃料由来の高濃縮ウラン(20%以上のU235)のダウンブレンドを行い、限られた量を製造してHALEUを割り当てている状況である。なおHALEUは、通常の商用炉向けの濃縮ウラン製造のプロセスを利用した製造も可能。DOEはウラン濃縮事業者のセントラス・エナジー社(旧・米国濃縮公社:USEC)と提携し、オハイオ州パイクトンの濃縮施設で16台の新型遠心分離機を製造、連結設置し、HALEU製造のための濃縮の実証を行っている。今後のステップとして、DOEはこれら3社にHALEUを割り当てる契約プロセスを開始し、一部企業は今年中にHALEUを受取る可能性があるという。DOEは今後もさらに他企業へのHALEUの割り当てを続ける予定。
04 Sep 2025
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英国の原子力廃止措置機関(NDA)は8月28日、民生用プルトニウムの処分を可能にする技術開発に向け、英政府が1.54億ポンド(約306億円)の資金を供給することを明らかにした。セラフィールド原子力施設に保管された、英国所有分の民生用の分離プルトニウムの無期限の長期保管による、将来世代への安全保障上のリスクと拡散の懸念を払しょくするため、政府は今年1月、NDAと協力し、その軍事への転用を防ぐために形態を固定化し、地中に最終処分する方針を発表している。英国の民生用の分離プルトニウムは、60年以上にもわたる原子力発電所の使用済み燃料の再処理から発生したもので、セラフィールド・サイトには約140トンの分離プルトニウムが規制要件に沿って貯蔵されている。原子力発電所の使用済み燃料の再処理により発生したプルトニウムを、地層処分施設(GDF)での最終処分に適した形にし(固定化)、長期的な安全保障上のリスクの低減を決定したことで、その技術開発に伴い、主にカンブリア地方に100名の雇用創出をもたらすという。5年間にわたるこの資金提供により、NDAはサプライチェーンのパートナーと協力し、セラフィールドに専門的な研究施設を設計・設置・運営。そこで専門家がプルトニウムを安定した形に固定化する技術を検証する。最初の2年間は、主に初期の研究開発に焦点を当て、すでに50名が従事しているという。さらに、マンチェスター大学とシェフィールド大学との連携による「プルトニウム・セラミック学術拠点」を設立するため、500万ポンド(約10億円)予算のうち半額の250万ポンドを資金提供。同拠点はプルトニウムの固定化に係わる技術的な知見と人材を育成する中心的役割を担う。NDAのD. ピーティCEOは、「我々は、すでに廃止措置や英国で最も危険な放射性物質の安全管理分野をリードしている。今回の政府からの資金提供により、プルトニウムを固定化する最先端の施設を建設し、世界トップレベルの専門性と能力も育成し、安全で恒久的な解決策を提供していく」と語った。M. シャンクス・エネルギー担当大臣は、「今回の技術開発に伴う100名の雇用に加え、プルトニウムの固定化プログラム全体では数千人の雇用を生み出し、数十億ポンド規模の投資が地域経済に貢献するだろう」とその経済的意義を強調した。検討されているプルトニウムの固定化技術には2種類、セラミック状のペレットに加工し、廃棄専用の形にするDMOX(Disposal MOX)と高圧・高温で岩石状のセラミックに変えるHIP(熱間等方圧加圧)がある。これにより別用途への再利用や再加工は実質的に不可能となる。固定化後のプルトニウムは、地層処分施設(GDF)に最終処分され、NDAの傘下にある原子力廃棄物サービス(NWS)が作業を主導する。今後、大規模なプルトニウム処分プログラムの承認が必要となるが、これには、セラフィールドでの核物質処理施設や中間貯蔵設備の建設が含まれ、地域にさらなる大規模投資と数千人規模の高スキルの雇用が数十年にわたって見込まれている。
03 Sep 2025
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韓国の李在明大統領は8月25日に米ワシントンで、D. トランプ米大統領と初首脳会談を行った。会談後に開催された韓米ビジネス円卓会議(KORUS Business Roundtable)では、両政府から金正官・産業通商資源部(MOTIE)長官とH. ラトニック米商務長官らが出席し、造船、原子力、航空、LNG、重要鉱物など5分野で計11件の契約・MOUが締結された。うち、4件のMOUは原子力発電プロジェクトに関するもの。首脳会談では、人工知能(AI)、半導体などの先端産業、造船、自動車などの主要製造業、防衛、原子力などの戦略産業を含む、ほぼすべての産業を網羅する様々な分野での協力について議論。原子力協力については首脳間で有意義な議論が行われ、今後、さらなる協議が行われる予定だという。ビジネス円卓会議において、原子力発電プロジェクトに関して締結された4件のMOUは以下のとおり。韓国水力・原子力(KHNP)と斗山エナビリティ社が、米X-エナジー社およびアマゾン・ウェブ・サービス社とX-エナジー社製の小型モジュール炉(SMR)「Xe-100」の設計・建設・運転・サプライチェーンの構築、投資及び市場拡大の協力斗山エナビリティ社が、フェルミ・アメリカ社によるテキサス州のAIキャンパスプロジェクト(※)のために建設される大型原子力発電所とSMR機器の製造協力KHNPとサムスンC&T社が、フェルミ・アメリカ社と、AIキャンパスプロジェクトにおける原子力・火力・太陽光発電の統合運用の円滑な事業への協力KHNPが、米ウラン濃縮供給会社のセントラス社による新遠心分離機プラント建設への共同出資※テキサス州アマリロ郊外の約2,335万m²の敷地に世界最大とされる民間初の電力網キャンパスを建設。大型炉のウェスチングハウス社製AP1000×4基(400万kWe)、SMR(200万kWe)、ガス火力複合発電所(400万kWe)、太陽光発電とバッテリーエネルギー貯蔵システム(100万kWe)を組み合わせた計1,100万kWeの独立電力供給インフラと、この電力に連携される大規模なハイパースケールAIデータセンターを段階的に導入。韓国企業は、原子力発電所建設の経験と技術力をベースに、今後米国内で急増する電力需要に対応して進められる原子力発電所建設プロジェクトに、より積極的に参加する考え。また、韓国内の原子力発電所向けの濃縮ウランの米国からの安定供給を期待している。KHNPのJ. ファンCEOは、「米韓原子力協力は、米国のエネルギー安全保障とカーボンニュートラルを達成する上で非常に重要な要素である。SMRを含む、世界のエネルギー市場における当社の競争力を高める機会となる」と期待を示し、今回の業務協約を基盤に米国のエネルギー市場への参加を拡大していきたい考えだ。金MOTIE長官は、「韓国政府は、韓米のルネッサンスを先導するために必要な、あらゆる制度的支援を提供する。両国企業に無限のビジネスチャンスを創出するよう努力する」と語った。米ウェスチングハウス(WE)社と知的財産(IP)紛争で今年1月に和解した件をめぐり、8月19日、KHNP社のJ. ファンCEOは国会の産業通商資源部中小ベンチャー企業委員会に同委員会の要請により出席した。同日午前にWE社との和解合意の内容がメディアで報道されたことを受けたもの。同合意では、50年間にわたり、KHNPがWE社と原子炉1基の輸出ごとに6.5億ドル相当の機器とサービス購入契約を締結し、原子炉1基あたり1.75億ドルの技術ライセンス料を追加で支払うこと、WE社がSMRを含む海外原子炉プロジェクトに入札する前に、韓国企業の技術的独立性を検証することを義務付ける条項が含まれることに加え、韓国が輸出するチェコとサウジアラビアの原子炉にWE製の燃料を100%、その他地域の原子炉には50%供給することを規定しているという。合意内容を問われた同CEOは、WE社との守秘義務契約により、その内容の確認はしなかったが、関係法令により適切な要請があれば回答すると述べ、韓国に不利で不公正な内容とする議員らの意見に対しては、「原子力産業全体の収益からは、そうとはいえない」と答えた。「WE社の要求や主張は正当化されるものではないが、総額と割合を見るとWE社が大きな部分を獲得しているように見えるものの、WE社には独自のサプライチェーンがないため、たとえシェアを取ったとしても、必然的に我々のようなサプライチェーンを持つ企業に下請けをしなければならないからだ」と説明した。また同CEOは、スウェーデン、スロベニア、オランダに続き、ポーランドの原子力発電プロジェクトから撤退することを明らかにした。ポーランドからの撤退は、ポーランド政府と国営企業によるそれぞれの原子力建設プロジェクトが、新政権発足後に政府のプロジェクトに1本化されたことを理由に挙げた。欧州からの撤退は、欧州向けに戦力を使い続けるよりも米国市場向けに使うべきと決定され、SMR事業など外部事業環境の変化があったこと、さらに米国市場への参入には色々な方法が考えられると説明した。議員の間で同契約に関する徹底的な監査と調査を求める議論の高まりを受け、同日、韓国大統領府は秘書室長を通じて、KHNPとWE社の契約について法令に準拠しているか、原則、手続きが守られているか調査するようMOTIEに指示を出している。なお、KHNPとWE社による合弁企業の設立が首脳会談の議題になるとの報道に対し、MOTIEは「両社間が議論する話であり、政府間の議題には含まれない」と否定。KHNPは「WE社とはさまざまな角度から協力を検討しているが、具体的な詳細は決定されていない」と指摘している。
02 Sep 2025
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マレーシアのエネルギー移行・水資源変革省(PETRA)のファディラ・ユソフ大臣(兼副首相)は8月19日、同国で開催された国際グリーンビルド会議(IGBC)2025で基調講演を行い、安定したベースロード電源としての可能性を評価するために、小型モジュール炉(SMR)を含む原子力発電の実行可能性調査(F/S)を実施していることを明らかにした。ファディラ大臣は、このF/Sは再生可能エネルギーの導入が困難な地域、特にマレーシア半島とサバ州に焦点を当てると言及。また、原子力がマレーシアの持続可能なエネルギーエコシステムに責任をもって統合されるよう、廃棄物管理戦略を慎重に評価するとともに、既存の法律や関連規制の改正を含む規制要件や人材開発にも焦点を当てるという。加えてPETRAは、原子力の安全性、保障措置、セキュリティを検討し、原子力がより広く受け入れられるようにコミュニケーションを重視すると強調した。なお、エネルギーミックスに原子力を含める決定を確固たるものにするには、18の国際条約と協定を批准する必要があると述べ、そのうちの1つに米国との原子力協定(いわゆる123協定)があると指摘した。マレーシアは2023年8月に発表した「国家エネルギー移行ロード(NETR)」を通じて、2050年までに設備容量ベースで再生可能エネルギーのシェア70%を達成することを目指している。PETRAによると、今年7月の第13次マレーシア計画(2026-2030)の首相発表を受け、政府は将来の国家エネルギーミックスにおけるクリーンで安定的かつ競争力のある電力源としての原子力の役割を検討するため、計画的に評価を実施中であるという。この取組みは、エネルギー源の多様化、長期的なエネルギー安全保障の強化、炭素排出削減目標の支援、化石燃料への依存度低減の必要性を考慮したもの。原子力計画実施機関(NEPIO)であるMyPOWER Corporationが、国際原子力機関(IAEA)が推奨するガイドラインに基づき、省庁・機関横断的な技術委員会メカニズムを通じて計画の調整を実施。IAEAのマイルストーンアプローチを指針に、体制の確立、法規制・監督枠組み、関係者の関与、人材開発などの準備も対象だという。政府の現時点での優先事項は、将来のあらゆる検討が国家による開発の優先事項と調和し、国際的義務を遵守することであり、具体的な炉型等に関する決定は行われていない。原子力導入の検討が進められる中、マレーシア議会は8月25日、41年間変更されていなかった1984年施行の原子力ライセンス法の改正を承認した。法案を提出した科学技術革新省(MOSTI)のチャン・リー・カン大臣は、この法改正は現在の原子力技術の発展を鑑み、安全、セキュリティ、使用管理をカバーし、より包括的な実施を可能にする法律の強化および近代化を目的としていると指摘。マレーシアは2030年以降に原子力を利用するか否かを決定するが、本改正はその可能性に備え、国際基準に沿って法的枠組みを強化するものである、と強調した。また、本改正では原子力諮問委員会の設立も規定しているという。チャン大臣は7月30日、議会の質疑応答セッションで、すでに原子力エネルギーの利用に関する事前F/Sは完了し、その結果は、原子力が安定したクリーンで信頼性の高い供給を確保する上での有望性を示したと言及。同F/Sでは、6つの技術タスクフォース(技術専門チーム)が設置され、うちMOSTIに3つ(技術開発と産業振興、原子力分野の専門能力育成、法規制・監督体制の構築)が設置されたと紹介。MOSTIとPETRAの戦略的協力により、国家エネルギーの持続可能性を確保するために主要な選択肢の1つとして原子力を検討していると述べた。さらに同大臣は、7月10日に政府が米政府と民生用原子力分野の戦略的協力に係わるMOUを締結したことに触れ、「これは中国ならびにロシアとのパートナーシップに加えて、マレーシアの原子力開発への取組みを強化する措置の1つである」と述べた。
01 Sep 2025
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英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は8月30日、ロールス・ロイスSMR社が資金調達手段として新規株式公開(IPO)を含むオプションを検討していると報じた。SMR導入プロジェクトの事業化に向け、政府支援に加え、資本市場の活用が論点となりつつある。同日ロイターは、同社が「現時点でIPOを計画していない」とのコメントを伝えている。一方でFT報道では、年内の政府契約締結を目指す旨が示されており、IPOの判断は契約最終化後になるとの見方もある。FT紙によれば、同社は投資銀行や資本市場関係者と協議し、IPOを含む将来的な資金調達策を模索しているという。既報の通り、英国政府は25億ポンド規模の支援を約束しており、まず3基(出力合計約150万kW)のSMR導入を後押しする方針だ。しかしそれを超える展開や、長期的な事業成長には追加資金が不可欠とされる。「ロールス・ロイスSMR社」は、ロールス・ロイス社を中心とする複数企業の出資で構成されている。株主には、ロールス・ロイス(過半保有と報道)、チェコ電力(ČEZ、20%)、カタール投資庁(QIA、2021年時点で10%と公表)、BNFリソース社((仏独立系石油・ガス企業Perencoのオーナー一族であるペロドー家の資産を背景にした投資会社で、ロンドンに拠点を置く関連会社「BNF Resources UK Ltd」を通じてエネルギー分野を中心に長期志向の投資を行っている。一族資産を一元管理・運用するプライベートな資産運用会社であるBNF Capitalが助言役を担い、ウランなど原子力関連投資も手がけてきたと報じられている。ロールス・ロイスSMRについては、2021年にRolls-Royce Group/BNF Resources UK/Exelon Generationの3者で約1.95億ポンドを出資し、英政府の2.1億ポンド助成を呼び込む起点の一つとなった。近時ではČEZ(20%)参入後も少数株主として名を連ね、英国SMR事業の資本面で一定の存在感を示している。))、米コンステレーション・エナジー社が並ぶ。BNFとコンステレーションの持分は過去開示でそれぞれ約11%、約3%とされたが、ČEZ参入後の正味比率は公表されていない。IPOの是非については株主間で見解の違いがあるとされる。ロンドンは世界有数の資金供給力を持つ市場であるが、近年は新規上場が低迷しており、今回のIPOが実現すれば久々の大型案件となる。IPO(Initial Public Offering、新規株式公開)とは、企業が株式市場に上場し、投資家から広く資金を集める仕組みを指す。資金調達力の強化に加え、透明性やガバナンス体制の強化も求められるため、事業にとって大きな転換点となる。原子力分野では巨額の初期投資と長期の投資回収期間が特徴であり、従来は政府や電力会社による出資が主流であった。そのため、IPOを資金調達策に組み込む動きは極めて異例であり、英国が新しい事業モデルを模索していることを示す。なお、巨大インフラがIPOによって資本市場を取り込んだ先行例は少なくない。英国では送電・ガス幹線の運営会社であるナショナル・グリッドが1995年にロンドン証券取引所へ上場し、規制産業がIPOを通じて長期資金と市場の規律を取り込むモデルを示した。日本でも電源開発(J-POWER)が2004年に実施したIPOが記憶に新しい。いずれも公共性の高いエネルギー基盤を市場型資金で支える手法であり、SMR事業がIPOを選択肢に含めることは、この文脈に位置づけられる。経営コンサルティング会社アーサー・D・リトル(ADL)は一般論として、SMRの事業化には初号機(FOAK)で発生する高コストを克服し、量産効果によって発電コスト(LCOE)を引き下げることが不可欠だと指摘している。政府支援や規制改革に加えて、資本市場の活用は初期段階の資金ギャップを埋める手段となり得る。今回の報道が示す「官+市場」モデルの模索は、この文脈に合致しており、仮に資本市場の活用(IPO等)が具体化すれば、SMRを机上の構想から商用段階へ押し上げるゲームチェンジャーになり得る━━との見方が成り立つ。ハントン・アンドリューズ・カース法律事務所 原子力部門統括責任者/東京事務所マネージング・パートナーのジョージ・ボロバス氏は、原子力産業新聞の質問に答え、IPOの法務・規制上の含意について次のように指摘する。「IPOに伴う証券規制や開示義務はビジネス上の要件であり、原子力規制の本質を変えるものではない。原子力企業は証券規制と並行して、既存の原子力法規・規制枠組みに引き続き適合する必要がある」。また、ロンドン上場の可能性については、「ロンドン市場は世界有数の資金供給力を持ち、原子力への理解も深いが、資金アクセスは必要条件にすぎない」とした上で、「商用規模で自社技術を展開できる運用能力と、これを許す市場環境が整備されて初めて成功に近づく」と述べた。資金モデルの先例性に関して同氏は、NuScale、NANO Nuclear Energy、Okloといった米社の上場事例を挙げ、「IPOは黒字化前でも資金を確保できる利点がある。一方で、上場後は短期の成果を求める株主の期待が強まり、事業化に要する長期戦略と衝突し得る」と総括した。IPOの是非はまだ検討段階にとどまっているが、英国が商用SMRに資本市場を組み込むことは、国際的にも注目される。米国やカナダのSMR企業がIPOやSPAC((特別買収目的会社=上場済みの買収用“箱会社”を通じ、未上場企業を合併で上場させる仕組み))を通じた資金調達を模索する中で、英国が欧州で先陣を切れば、今後のSMR資金調達モデルの先例となる可能性がある。もっとも、ボロバス氏が指摘する通り、資金調達は必要条件であって十分条件ではない。ロールス・ロイスSMR社の商用規模での展開能力と、英国の市場環境整備が問われる局面に入ったと言えるだろう。
31 Aug 2025
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韓国水力・原子力(KHNP)は8月22日、韓国ソウルにて、アフリカ大陸の南部に位置するジンバブエ教育革新研究開発センター(Center for Education Innovation Research and Development:CEIRD)と、韓国製の小型モジュール炉(i-SMR)の導入に向けた予備的実行可能性調査(F/S)の実施にむけて協力覚書(MOU)を締結した。両者は同MOUに基づき、予備F/Sの実施のほか、原子力専門人材の育成支援や原子力技術情報共有の協力も行う。CEIRDはジンバブエの経済・社会に影響を及ぼす戦略的に重要な分野において、公共部門(政府、大学、研究機関)および民間人材向けの高等教育や、イノベーション、研究開発の促進を目的に2021年に設立された、高等教育科学技術開発省所管の組織。KHNPによると、ジンバブエは電力源の大部分を水力と火力に依存し、設備の老朽化や気候変動の影響により安定した電力供給に支障が生じている。そのため、エネルギー供給源の多様化を図り、科学技術を基盤とした国の発展政策「ビジョン2030」の実現に向け、原子力発電の導入を積極的に検討しているところだという。今回のKHNPとの協力により、ジンバブエの中長期的なエネルギー戦略の策定において重要な転換点となることが期待されている。KHNPのJ. ファンCEOは、「今回のMOU締結により、ジンバブエがエネルギー多様化を加速し、SMRを通じて持続可能なエネルギー解決策を見出すことを期待している。当社は、ジンバブエとの協力を基盤に、エネルギー需要が急増しているアフリカ市場への進出基盤をさらに強化していく」と語った。なおKHNPは今年5月、アフリカ・ウガンダのエネルギー省とウガンダにおける新規原子力発電所サイトの適合性評価に係る委託契約を締結。サイト評価とともに、韓国製原子炉(APR1400、140万kWe)×4基の導入提案も含め、輸出を視野に協力を進め、成長の潜在力の大きいアフリカ市場において、KHNPのプレゼンスを拡大していく方針を示していた。アフリカ以外においてもKHNPは、国内外でのこれまでの原子力発電所の建設・運転経験に基づき、i-SMRのグローバル展開に積極的であり、同炉のSMR市場における地位を確立・強化することを目指している。KHNPは2023年12月、第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)の会期中、インドネシアの電力会社ヌサンタラ・パワー(PLN NP)社およびヨルダン原子力委員会(JAEC)とそれぞれMOUを締結。KHNPとPLN NP社は、インドネシアにおける経済性・技術に関する共同基礎調査のほか、地域の専門技術の開発、原子力分野の人的・技術交流などで協力する。JAECとも、i-SMRに関する包括的な技術交流と情報交換において協力し、ヨルダンにおいて共同F/Sを実施するという。今年6月には国営タイ電力公社(EGAT)とMOUを締結。SMRに関する基本的な技術知識を共同で研究・交換し、将来のSMRプロジェクトの実現可能性を評価することとしている。KHNPは北欧では、SMRの導入を目指すノルウェーの新興エネルギー企業であるノルスク・シャーナクラフト(Norsk Kjernekraft)ならびにスウェーデンのプロジェクト開発企業のシャーンフル・ネキスト(KNXT)社とそれぞれMOUを締結。i-SMRの導入に向けた情報共有、建設候補地の予備的F/S、スマートネットゼロシティの開発で連携し、i-SMRで欧州市場へ参入する方針を明らかにしている。i-SMRは、電気出力17万kWの一体型PWRで、大型炉に比較して大幅に工期を短縮するモジュール工法を採用し、運転システムの自動化による省人化などが特長。概念設計と基本設計は2023年末に完成。KHNPは2024年6月に自社の研究施設(CRI)内に開設したシミュレーターを用いて、i-SMRの設計や操作を検証し、開発にフィードバック。2025年末までに標準設計(SD)を完成させ、2028年に標準設計承認(SDA)の取得を目指している。KHNPは2020年、i-SMR開発プロジェクトに着手。同プロジェクトは2023年に国家研究開発プロジェクトに位置付けられ、韓国政府のバックアップの下でプロジェクト全体を管理するi-SMR開発機構が発足。KHNPや韓国原子力研究院(KAERI)のほか、韓国電力技術(KEPCO E&C)、韓電原子力燃料(KNF)や斗山エナビリティなど、韓国の主要原子力関連企業が参加している。
29 Aug 2025
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スウェーデンの国営電力会社バッテンフォールは8月21日、ヴェーロー半島にあるリングハルス原子力発電所(PWR、110万kWe級×2基)に隣接して建設を計画している新規炉について、供給候補4社から米GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社と英ロールス・ロイスSMR社の小型モジュール炉(SMR)を最終候補に決定したことを明らかにした。この決定を受け、バッテンフォールのA. ボルグCEOは、「40年以上ぶりのスウェーデンの原子力発電所建設に向けた新たな一歩。当社の目標は、ヴェーロー半島でのプロジェクトを成功させることであり、プロジェクトの成功は、さらなる原子力開発の基礎も築く」と強調した。同社はこの2社について、妥当な期間と予算内で納入できる最適な前提条件を備えており、最終的な供給者を選定するプロセスは続いていると説明している。当初の75社から2024年秋には4社に候補を絞りこんでいた。最終候補に残った炉型は、GVH製BWRX-300(BWR、30万kWe)とロールス・ロイスSMR(PWR、47万kWe)。BWRX-300×5基、またはロールス・ロイスSMR×3基で合計約150万kWeを供給可能である。ロールス・ロイスSMRは、オスカーシャム1号機(BWR、2017年閉鎖)とほぼ同じ設備容量である。候補企業・炉型の評価プロセスでは主に、技術面、サイトと物流、商業的側面の3つの観点から実施。2社を選定した大きな理由として、両社のSMRは実証済み技術と簡素化された設計を特徴とし、燃料についてはバッテンフォールがすでに確立しているサプライチェーンの利用が可能であることを挙げている。このほか、SMRは欧州でまだ建設実績こそないものの、初期投資が比較的低く、シリーズ建設による学習効果も期待できるため、コスト超過リスクが抑えられる点を評価。立地条件については、ヴェーロー半島は、送電網容量やインフラ、原子力エンジニアの存在、エネルギー供給の国家的重要地点に指定されている点で最適であるものの、サイト面積は限られており、現在自然保護区となっている土地の利用が必要になるという。さらにリングハルスの既存炉2基は、60年から80年への運転延長が計画されており、選定した2種のSMRの方が少人数の建設要員と小さいサイト面積で済むため、建設による既存炉の運転への影響が小さいことが考慮されたようだ。同社のD. コムステッド副社長(新原子力担当)は、「選定にあたり、供給者と炉型を綿密に評価。SMRのシリーズ建設はコスト上の利点が明らかで、必要となるスペースも人員も少なく、物流もより管理しやすくなる。これにより建設段階における人員の確保・住居・輸送の課題も軽減され、コスト増加のリスクが低下する」と指摘した。今後は、国の資金調達・リスク分担制度への申請を行い、2社との交渉を集中的に実施、最終的な供給者の選定に進む。環境法や原子力技術法に基づく申請準備も進行中。最終投資判断はプロセスがさらに進んだ段階になる予定。さらに次のステップとして、閉鎖済みのリングハルス1-2号機(2019~2020年に閉鎖。廃止措置中)に隣接するサイトで100万kWeの設備を追加建設する可能性も検討中であるという。スウェーデン議会(リクスダーゲン)は今年5月、国内の新規原子力発電プラントの建設を検討する企業への国家補助に関する政府法案「新規原子力発電プラント建設の資金調達とリスク分担に関する法案」を採択した。新法は今年8月1日に施行されており、申請が可能となっている。本制度は、低利の借入コストである政府融資の利用により、資金調達コストの削減、ひいては原子力発電自体のコスト削減を目的としている。スウェーデンでは電力供給問題と化石燃料を使わないベースロード電源の拡大のため、2023年11月に原子力発電の大規模な拡大をめざすロードマップが発表された。これには、総発電量を25年以内に倍増させるため、2035年までに少なくとも大型炉2基分、さらに2045年までに大型炉で最大10基分を新設することなどが盛り込まれている。2024年1月には、環境法の一部改正法が発効、新たなサイトでの原子炉の建設禁止や国内で同時に運転できる原子炉基数を10基までとする制限事項が撤廃されるなど、原子力推進に向けた環境整備が着々と進められている。
27 Aug 2025
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スイス連邦政府(連邦参事会)は8月13日、昨年3月に開始された「いつでも誰でも電気を(停電を阻止せよ)(Electricity For Everyone At All Times[Stop Blackouts])」イニシアチブ(国民発議)への対案となる法案を採択、連邦議会に提出した。政府は同イニシアチブに反対しており、対案として原子力法の改正を主張。スイスで原子力発電所の新規建設が再び認可され、原子力がスイスの長期的なエネルギー供給の安全保障のための選択肢として残されることを目指している。同イニシアチブは、電力供給を常に確保することを憲法に明記し、政府がその責任を負うことを求めている。政府は、憲法ではすでに広範なエネルギー供給とともに、連邦と州がそれぞれの権限の範囲内でエネルギー供給に尽力しなければならないと規定済みであるとし、同イニシアチブを拒否。さらに政府は、同イニシアチブの、原子力発電所新規建設の禁止撤廃を含む、気候変動に配慮したあらゆる電源を認めるべきとの要求には賛同するものの、原子力法の改正で十分で、不確実性のある憲法改正までは不要との考えを示している。また、政府は2024年12月から今年4月にかけて各政党、経済団体、大手電力会社や自治体と行った協議を踏まえ、対案では、原子力発電所の新規建設および既存の発電所の改修に関する禁止条項を原子力法から削除し、将来的に新たな許認可の発行を可能にすることを提案。スイスのエネルギー政策を特定の電源に偏らない形で設計し、再生可能エネルギーの拡大が不十分な場合や蓄電の進展が乏しい場合に備え、原子力が保険的な役割を果たすと位置付けることとした。なお、原子力発電所を新規建設するという具体的な決定に関するものではないため、資金調達や認可制度の改正などについては考慮しておらず、再生可能エネルギーと原子力発電所の新規建設は両立可能であり、再生可能エネルギーの拡大を引き続き推進する方針を明確化している。スイスでは、2011年の福島第一原子力発電所事故後、50年の運転期間を終了した原子炉を2034年までに段階的に閉鎖する方針を政府決定。2017年5月の国民投票を経て、2018年1月1日に施行した改正エネルギー法では、安全である限り、既存の原子力発電所の運転継続が認められたが、原子炉閉鎖後のリプレース(新規建設)や使用済み燃料の再処理は禁止された。一方で、2050年までのネットゼロ目標の達成や人口増により、電力消費量は今後数年間で急増が予測され、国内の電力生産を拡大する必要性は顕在化。さらにロシアのウクライナに対する軍事侵攻による、地政学的およびエネルギー供給状況の悪化により、近年、原子力発電をめぐる議論が再燃している。スイス原子力フォーラムのH. ビグラー会長は、今回の政府による対案の発表を歓迎。「電気化、デジタル化、人工知能の進展により、スイスの電力需要は2050年までに900億kWh超に増加する見込み。気候目標と地政学的状況を踏まえると、ガス火力発電は持続可能な選択肢ではなく、再生可能エネルギーの拡大は停滞する。低炭素電源を含む計画は、より適切なアプローチであり、原子力発電所の新規建設禁止の撤廃は重要な一歩である」と指摘した。今後、スイス連邦議会はイニシアチブと政府の対案を審議、2026年8月までに決定する必要があるが、同イニシアチブが撤回されないかぎり、国民投票で最終決定されるという。スイスでは現在、ベツナウ1、2号機(PWR、38.0万kWe×2基)、ゲスゲン(PWR、106.0万kWe)、ライプシュタット(BWR、128.5万kWe)の計4基・310.5万kWeが運転中。2024年の原子力発電電力量は230億kWh、原子力シェアは27%だった。スイスの原子力発電所には運転期間の制限はなく、安全性が保証されることを条件に、当局の承認を得て、運転期間を設定することができる。
27 Aug 2025
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南アフリカのD. ジョージ林業・水産・環境相は8月8日、西ケープ州ドイネフォンテインにおける新たな原子力発電所の建設および運転に係る、環境影響面での許可を支持すると決定したことを明らかにした。同許可は南アフリカの国営電力会社であるエスコム(Eskom)に、2017年に発給されていたが、複数の環境団体などから異議申し立てを受けていた。同相は、「これらの異議を検討するにあたり、発電所設備と付帯インフラが環境に及ぼす環境影響評価報告書を徹底的にレビューしたほか、本プロジェクトに関する独自のピア・レビューを実施し、最終的には、1998年国家環境管理法(NEMA、法第107号)の原則を踏まえ、環境的・社会的・経済的な考慮を十分に理解した上で決定をした」と述べた。また南アフリカの環境保護と保全は何ものにも優先されると強調した。南ア政府は2010年の統合資源計画(IRP)に基づき、2030年までに計960万kWの原子力発電設備を新たに建設することを計画。エスコムは2016年3月、候補に上がっていた5サイトから、西ケープ州のドイネフォンテインと東ケープ州のタイスプントの2サイトに絞り、サイト許可を国家原子力規制当局(NNR)に申請した。うち、ドイネフォンテイン・サイトについて、環境問題省(当時)は2017年10月、最大400万kWe新設の環境許可を発給した。が、これを不服とする複数の環境団体や個人らが、詳細かつ包括的な意見書から簡潔なものまで、多様な内容の異議を提出していた。このたび、ジョージ大臣はNEMAの関連条項に基づき、これらの異議を却下し、エスコムへの環境認可付与の決定を承認した。ただし、これにより直ちに、エスコムが原子力発電所の建設や運転を開始できるわけではなく、同社は依然として、NEMAの関連条項に従い、事業を進める前に以下の許認可を取得する必要がある。NNRからの原子力施設許可南アフリカ国家エネルギー規制当局(NERSA)からの承認水・衛生省からの水利用許可その他、鉱物・石油資源相による承認などジョージ大臣は、「林業・水産・環境省は、包摂的な成長、雇用創出、貧困削減を中核に据え、よりクリーンで持続可能なエネルギーへの移行を南アフリカが進めていくことを支援する」と語った。南アフリカ原子力公社(NECSA)のL. タイアバッシュCEOは、ジョージ大臣による決定を受け、「原子力産業と、社会経済発展を可能にし、気候に配慮するバランスのとれたエネルギーミックスの実施に向けた南アフリカにとって重要なマイルストーン。原子力発電所の新設サイトの選定のプロセスの厳格さを示しており、原子力技術への信頼を反映している。NECSAは、原子力発電の利益を最大化するためにノウハウを提供する」と述べた。NECSAは原子力研究開発の平和利用を目的に、医学利用、ウラン化学、放射性廃棄物に関する研究を行っている。現在、南アフリカでは、アフリカ大陸で唯一稼働する原子力発電所であるクバーグ1-2号機(PWR、各97万kWe)がそれぞれ1984年と1985年からエスコムにより運転されている。1号機は2044年7月21日までさらに20年間延長する認可をNNRから取得。同2号機についても現在、NNRは20年間の運転期間延長に係る申請を審査中である。なお、上述のドイネフォンテイン・サイトはクバーグ・サイトに隣接している。
26 Aug 2025
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台湾では8月23日、台湾南部の屏東県にある馬鞍山原子力発電所(PWR, 1号機:98.3万kW、2号機:97.5万kW)の運転再開の是非を問う、国民投票が実施された。中央選挙委員会の発表によると、賛成が有権者総数の21.7%の約434万票に対して、反対は約151万票と賛成多数となったが、成立要件となる有権者総数の25%に達せず不成立となった。投票率は29.5%にとどまった。投票結果を受けて、頼清徳総統は総統府で談話を発表。「投票結果を尊重し、エネルギー選択肢の多様性に対する社会の期待を理解する」と評価。「国民が求めているのは安心と安定した電力供給。政府は、『安全性に懸念がないこと』『放射性廃棄物の処分に解決策があること』『社会の共通認識』の三つの原則を遵守して原子力問題と向き合う。そのうえで、技術がより安全になり、放射性廃棄物が減り、社会的受容度が高まれば、先進的な原子力を排除することはない」と将来に期待を残した。さらに、原子力安全は科学的に検証が必要な問題であり、一度の国民投票で解決できるものではない、と指摘。運転再開の可否については、今年5月改正の「核子反応器設施管制法(日本の原子炉等規制法に相当)」に基づき、まずは核能安全委員会(原子力安全委員会)が安全審査の方法を定め、第二に、事業者である台湾電力がその方法に基づいて自己安全検査を行う必要性があるとし、同委員会に対し、各界の意見を集めて迅速に対応するよう求めた。国民投票の設問は、「馬鞍山原子力発電所が、安全上の懸念がないことを確認した上で、運転再開することに同意するか」。台湾の立法院(国会)で5月20日、馬鞍山原子力発電所の運転再開を求める、国民投票の実施提案が賛成58、反対49票で可決された。国民投票の実施は、少数野党の台湾民衆党(TPP)が主導したもの。台湾で唯一稼働していた同発電所2号機が5月17日に40年間の運転期間を満了し、法律により、永久閉鎖された。国民投票実施の可決は、与党・民進党政権が掲げる目標である「2025年の脱原子力国家(非核家園:原子力発電のないふるさと)の実現」を達成してから、わずか3日後のことであった。台湾ではたびたび大停電が発生、産業界は安定した電力供給を求め、政府に対しエネルギー政策の見直しを要請していた。政府は再生可能エネルギーの拡大推進を掲げるが、それが主力となるまで、火力・ガス発電への依存による大気汚染、電気料金の上昇、企業の経営コスト上昇による台湾の競争力低下への懸念は高まった。最大野党の国民党(KMT)は排出ネットゼロの気候目標と国内のエネルギー供給構造の安定維持を目的に、核子反応器設施管制法の第六条条文のうち、原子力発電所の運転期間を40年から最長で20年延長とする改正法案を立法院に提出。5月13日に賛成61、反対50票で可決されていた。
25 Aug 2025
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米原子力新興企業のケイロス・パワー社は8月18日、米国の拡大するエネルギー需要に対応し、先進原子力分野における同国のリーダーシップを強化するため、IT大手のGoogle社および米テネシー峡谷開発公社(TVA)と新たな協力関係を発表した。ケイロス社とTVAは電力購入契約(PPA)を締結、テネシー州オークリッジに建設されるケイロス社の実証プラント「ヘルメス2」(出力5万kWe)がTVAの送電網を経由し、テネシー州とアラバマ州にあるGoogle社のデータセンターに電力を供給する。TVAは、先進的な第4世代炉からの電力を購入する米国初の電力会社となる。Google社は2024年10月、自社のデータセンターへの電力供給を目的にケイロス社と2035年までにケイロス社が開発する先進炉のフッ化物塩冷却高温炉を複数基、合計出力にして最大50万kWeの導入による電力購入契約(PPA)を締結。ヘルメス2は、Google社との同契約の下で最初に建設される発電所となる。ケイロス社はGoogle社のテネシー州モンゴメリー郡ならびにアラバマ州ジャクソン郡にあるデータセンターへの電力供給を加速するために、ヘルメス2の出力を2.8万kWから5万kWeに増強し、1基の原子炉で発電を行う予定で、2030年の運転開始を見込んでいる。Google社は事業の脱炭素化をさらに推進していく考えだ。ヘルメス2は、テネシー大学や他の地元大学と提携して開発された新しいプログラムを通じて、発電所のオペレーターやエンジニアとして高収入の仕事に就く地元の労働力の人材を育成するなど、オークリッジを原子力イノベーションのハブとして再確立するものと期待されている。TVAのD. モールCEOは、「エネルギー安全保障は国家安全保障そのものであり、電力はAIや国家の経済的繁栄を支える戦略的な基盤。世界は米国のリーダーシップを求めており、この画期的な合意は新しいビジネス手法の始まりだ。技術、サプライチェーン、提供モデルを開発して産業を育成し、米国のエネルギーを解き放つことで、Google社のような企業を惹きつけ、支援し、AI競争に勝つことができる」と述べた。3社は、産業用エネルギー利用者に対して革新的なソリューションを提供すると同時に、地域経済の成長と雇用創出の促進を目指している。ヘルメス2の開発・運転で得られる教訓は、後続機の導入が進むにつれてコストの削減に貢献し、TVA管轄エリアやその他の地域におけるクリーンで安定した発電の経済性を改善すると期待を寄せている。ヘルメスは2023年12月に、米原子力規制委員会(NRC)が半世紀ぶりに建設を許可した非水冷却炉(非発電炉、熱出力3.5万kW)。TRISO(3重被覆層・燃料粒子)燃料と熔融フッ化物塩冷却材を組み合わせ、原子炉の設計を簡素化しているのが特徴で、2027年に運開予定。すでに2024年7月に土木工事(掘削工事)に着手している。2020年12月に米エネルギー省による「先進的原子炉実証プログラム(ARDP)」の支援対象炉に選定された。ヘルメス2は同炉を2基備えた発電プラントで、建設許可が2024年11月に発給されている。ケイロス社はこれらのヘルメス・シリーズで得られる運転データやノウハウを活用して、技術面、許認可面および建設面のリスクを軽減、コストを確実化して、2030年代初頭に商業規模のフッ化物塩冷却高温炉「KP-FHR」(熱出力32万kW、電気出力14万kW)の完成を目指している。
22 Aug 2025
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カザフスタンのアルマティ州ジャムプール地区のウルケン村において8月8日、同国がソ連から独立後、初となる原子力発電所の建設プロジェクトのエンジニアリング調査が開始された。同発電所建設プロジェクトの主契約者は、ロシア国営原子力企業のロスアトム。VVER-1200(PWR、120万kWe)を2基建設する。ロスアトムは6月、カザフスタン原子力庁(KAEA)により、国際コンソーシアムのリーダーとなる主契約者に選定されていた。今回のエンジニアリング調査は、最適な建設サイトを選定し、大規模発電所の設計文書の準備を目的とする。今年6月のロシア・サンクトペテルブルク国際経済フォーラムにおいて、KAEAとロスアトムの間で「原子力発電所建設プロジェクトの指針となるロードマップ」が承認。エンジニアリング調査の実施、設計文書の作成、EPC(エンジニアリング、調達、建設)契約の締結など主要な段階を定めている。また、カザフスタン原子力発電所(KNPP)とアトムストロイエクスポルト(ASE。ロスアトムのエンジニアリング部門)の間で、プロジェクト実施のための主要な協力枠組み協定が締結された。調査では土壌サンプルの採取のために、合計50本以上、深さ30~120mのボーリングを実施する。発電所の信頼性と安全性確保の必須条件となる、地質学的、地震学的、水文学的、環境的な観点から評価し、それに基づき最終的な建設サイトを決定。本調査の実施により、国際的および国内の基準への適合、環境的・技術的リスクを最小化し、効率的な設計の基盤を築く方針だ。調査の開始にあたり開催された式典には、KAEAのA. サトカリエフ長官とロスアトムのA. リハチョフ総裁が出席。サトカリエフ長官は、「本調査の開始は、カザフスタンが新たなハイテク産業を経済に形成していく道を定めるもの。原子力発電所の建設は、近代的なインフラ整備から、新しい学校や幼稚園、社会施設の誕生に至るまで、地域発展を強力に推進し、国全体の長期的な経済成長を牽引するものだ」と指摘。リハチョフ総裁も「原子力発電所建設の適地であるかを確認するため、徹底的に調査を行う。カザフスタンにとって戦略的に重要な本プロジェクトの実現に向け、蓄積したすべての経験を活用する」と強調した。建設されるVVER-1200は、第3世代+(プラス)、国際的な安全基準に厳格に準拠した設計。ロシアでは4基、ベラルーシで2基が稼働中であり、トルコ、バングラデシュ、エジプト、中国で建設中、ハンガリーでは建設準備段階にある。原子炉の設計寿命は60年で、さらに20年間延長することが可能。なおカザフスタンでは、1973年から1998年までカスピ海沿岸のアクタウ市(マンギスタウ州)で高速炉BN-350(15万kWe)が稼働。発電に加えて、世界最大級の海水淡水化施設を備えていた。現在、BN-350は廃止措置中である。K.-J. トカーエフ大統領は今年3月の演説で3サイトでの原子力発電所の建設を示している。先のベンダー選定作業における潜在的な候補には、露ロスアトム、中国核工業集団公司(CNNC)、フランス電力(EDF)、韓国水力・原子力 (KHNP) が含まれており、KAEAはロスアトムの提案の採用に次いで、CNNCの提案を2番目とした。KAEAのサトカリエフ長官は、「中国は間違いなく必要な技術をすべて備えており、完全な産業基盤を持っているため、次の優先事項は中国との協力だ」と述べ、中国側との交渉が行われることを強調した。カザフスタンのR. スクリャル第一副首相は7月31日の合同記者会見で、KAEAとKNPPが第2および第3発電所のサイト候補を評価中であり、今年後半にも評価結果が明らかになるとし、CNNCが第2発電所に続き、第3発電所も建設するだろうと述べた。
21 Aug 2025
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米エネルギー省(DOE)は8月12日、先進炉の実用化に向けた「原子炉パイロットプログラム」の開始にあたり、11件の先進炉プロジェクトを有する10企業を選定した。DOEは2026年7月4日までに少なくとも3基の試験炉を建設し、臨界達成を目指したい考えだ。トランプ政権は、米国を再び原子力分野のリーダーとし、信頼性が高く、多様で、手頃な価格のエネルギー供給を確保して、米国の繁栄と技術革新を推進することに取り組んでいる。DOEは、今回の初期の企業選定が原子炉試験の合理化に向けた重要な一歩であり、商業ライセンス活動を迅速化する新たな道を切り開くものと位置付けている。DOEのJ. ダンリー次官は、「選定されたプロジェクトはすべて、来年の独立記念日(2026年7月4日)までに安全に臨界を達成することを目指しており、DOEはその努力を全面的に支援していく」と語った。DOEは2025年6月、大統領令「エネルギー省における原子炉試験の改革」を受けて、先進炉パイロットプログラムを発表。DOE傘下の国立研究所以外でDOEの管理権限の下、先進炉設計の試験の加速と研究開発の促進を目的としており、商業的適合性のための原子炉の実証ではないと強調している。これまで原子炉試験への道筋は、米原子力規制委員会(NRC)の認可下、またはDOEを経由した、DOE所有サイトでの試験または実証であった。今回選定された企業は、原子力法の下でDOEから認可を受けることで、民間資金を確保し、将来的なNRCからの商用ライセンス取得に向けた迅速なアプローチが可能になると予測されている選定された企業・プロジェクトは以下のとおり(アルファベット順)。・Aalo Atomics: 1万kWeのナトリウム冷却Aalo-1を開発。2024年12月、AaloとDOEはアイダホ国立研究所(INL)に実験用原子炉の建設を発表。・Antares Nuclear: 500kWeのナトリウムヒートパイプ冷却R1マイクロ炉を開発。国防イノベーション・ユニットにより、国防総省 (DOD) の軍事施設向け先進原子力(ANPI)プログラムに選定。・Atomic Alchemy: 1.5万kWtの軽水多用途同位体製造炉(VIPR)の開発を進めている放射性同位元素製造会社。2024年にOkloに買収され、子会社に。・Deep Fission: 1.5万kWeのDFBR-1(PWR)を開発。地下1マイルに30インチのボーリング孔を通って建設予定。・Last Energy: 2万kWeのPWR-20 を開発。テキサス州北西部のハスケル郡に30基のマイクロ炉を建設し、同州内のデータセンター顧客向けに電力供給する計画。・Natura Resources: 商業用および研究用熔融塩炉の両方の設計を開発。NRCから初の建設許可を受けた熔融塩炉Natura MSR-1(0.1万kWt)をアビリーン・クリスチャン大学に建設する計画。・Oklo: 7.5万kWeの液体金属冷却、金属燃料高速炉であるオーロラ発電所を含む2つのプロジェクトが選定。初の発電所をINLで建設し、2027年後半から2028年初めの運開を見込む。・Radiant Industries: 0.1万kWeのヘリウム冷却炉Kaleidos を開発。INLのマイクロ炉実験機の実証(DOME)テストベッドで原子炉試験を行う最初の企業の1つ。・Terrestrial Energy: 19.5万kWeの一体型溶融塩炉を開発。EnergySolutionsの閉鎖サイトへの建設で協力覚書を締結。・Valar Atomics: ヘリウム冷却、TRISO(3重被覆層・燃料粒子)燃料利用の高温ガス炉を開発。各企業は、自らの試験炉の設計、製造、建設、運転、廃止措置に関わるすべての費用を負担する責任を負う。なお今回は初期選考であり、今後さらに多くの申請が審査、選定される可能性がある。さらにDOEは7月、先進試験炉向けの燃料製造を加速するため、燃料製造ラインのパイロットプログラムを発表したが、8月4日、同プログラムの初対象となる企業として、スタンダード・ニュークリア社を選定した。試験炉と同様、DOEが認可を予定している試験炉向けに、米企業が開発した燃料製造ラインをDOE傘下の国立研究所以外に建設、DOEが迅速な承認手続きによって認可する。原子力法の下でDOEが認可した燃料製造ライン設計は、将来のNRCによる商用ライセンス取得において迅速に処理される。申請者にとっては、DOEから認可を受けることで、民間資金の活用を促進し、将来的なNRCからのライセンス取得に向けた迅速なルートを確保、燃料製造ラインの商用化が可能になるというメリットがある。テネシー州オークリッジに拠点のあるスタンダード・ニュークリア社は独自の原子炉開発事業を持たない国内唯一の独立系TRISO燃料製造事業者。TRISO燃料の需要は高まっており、DOEの認可プロセスを活用して、テネシー州とアイダホ州の両方で燃料供給を確保したい考えだ。同社は今回のプログラムへの選定を受け、実証済みのインフラを活用して、2026年半ばまでに複数のサイトで年間TRISOを年間2トン以上生産していく方針を示している。なお、施設の建設、運営、廃止措置に関連するすべての費用を同社が負担。先進炉開発者は、DOEのHALEU(高アッセイ低濃縮ウラン)割り当てプログラムを通じて燃料製造用の原料の調達を行うという。
20 Aug 2025
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韓国水力・原子力(KHNP)は8月8日、チェコのドコバニ原子力発電所5-6号機(APR1000×2基)の増設に係わるサイト詳細調査の着手式を開催した。同調査は2026年8月まで約12か月間かけて実施され、増設部分の土壌や岩盤に関する詳細な情報を取得し、設計の基礎資料として活用することが目的。最大で10台のボーリング装置と補助車両によって順次行われ、今後数か月でボーリング作業などを行い、土壌、岩石、水のサンプル採取や各種試験・測定を実施する。着手式には、KHNPのJ. ファンCEOとドコバニII原子力発電所(EDU II。政府が80%、チェコ電力ČEZが20%所有)のP. ザボドスキー社長をはじめ、L. ブルチェック産業貿易相、現地調査の実施企業の幹部らが出席。KHNPのファンCEOは、「サイト詳細調査はドコバニ発電所増設プロジェクトの最初の現場作業であり、APR1000建設の実質的な出発点。契約工程を遵守するため、計画に従い徹底的かつ体系的に調査を実施する」と述べた。EDU IIの建設は2029年に開始され、初号機の試運転を2036年に見込んでいる。EDU IIとKHNPは6月4日、ドコバニ発電所に2基を増設するためのエンジニアリング・調達・建設(EPC)契約を締結した。なお、EPC契約締結前の5月7日、タービンホールの包括的供給の枠組み合意やシュコダ・パワー社、KHNP、斗山エナビリティ間の蒸気タービン供給の契約を含む、合計9件の予備契約と3件の覚書が締結され、プロジェクトの準備は大きく前進していた。ブルチェック産業貿易相は、すでにプロジェクトへのチェコ企業の関与を約30%達成しているが、建設完了までに60%を目標にしており、チェコ国内に設立されたKHNPのローカライゼーションセンターも、チェコ企業と韓国プロジェクトチームを結びつける役割を果たしていると強調した。産業貿易省は、プロジェクトの完成が教育や地域経済にも好影響をもたらし、最大1,000の新たな企業創出と2,300億チェココルナ(約1.6兆円)超えの投資誘致が見込まれると試算する。2024年7月、KHNPはドコバニとテメリン両原子力発電所における最大4基の増設プロジェクトの主契約者をめぐる優先交渉権を獲得し、EDU IIと約9か月にわたる技術的、商業的交渉を実施した。応札していた米ウェスチングハウス社と仏EDFは、入札プロセスについてチェコの競争保護局(ÚOHS)に異議申し立てを行った。WE社は後に申し立てを取り下げ、EDFは2025年4月に却下された。これにより当初3月に予定されていた最終契約締結は遅延。その後EDFはチェコ地方裁判所に提訴し、5月6日、同地方裁はEDU IIとKHNPの契約締結禁止仮処分を下した。両社はチェコ最高行政裁判所にその決定を不服として控訴。6月4日、最高行政裁判所は契約締結禁止仮処分を取り消し、両社の契約締結が可能になった。テメリン発電所の隣接サイトで、SMR建設に向けた地質調査も実施ČEZは南ボヘミヤ地域のテメリン原子力発電所(VVER-1000×2基、各108.6万kWe)の隣接サイトに同国初となる小型モジュール炉(SMR)の英製ロールス・ロイスSMRを設置する計画で、現在、地質調査を実施している。50〜200mの深さまで合計9本のボーリングを実施し、岩盤などを分析する。この調査結果は、ČEZが2027年中に見込む、サイト許可申請に活用するという。テメリン地域は既存の発電所の稼働前の1980年代にも十分に地質調査されており、原子力利用に適した地質であることが確認されているものの、SMR建設のための調査は今回が2回目。初回調査は3年前に行われ、4本のボーリングで深さ30mまで調査済み。さらに追加の調査も予定であるという。ČEZは2024年9月、合計最大300万kWeの設備容量を確保するためのSMRの優先サプライヤーに、ロールス・ロイスSMR社を選定。ČEZは、ロールス・ロイスSMR社の約20%の株式を取得し、戦略的少数株主となった。ČEZとロールス・ロイスSMR社は今年7月、先行作業契約(Early Works Agreements: EWA)を締結。両社共同でテメリン発電所サイトを対象に、規制手続き、環境評価、サイト準備作業を実施する。初号機の運転開始は2030年代半ばを予定している。ロールス・ロイスSMRは既存のPWRをベースとしており、電気出力が47万kWとSMRにしては大型なのが特徴。少なくとも60年間稼働する。ČEZ傘下にあるシュコダJS(ŠKODA JS)は8月1日、ロールス・ロイスSMR社とチェコ国内外におけるSMR用コンポーネントの開発と生産における協力に関する覚書を締結した。シュコダ社はチェコに拠点を置く、原子力発電所の建設とサービスの経験を持つヨーロッパ有数のエンジニアリングおよび製造会社の1つ。ČEZは、新たな原子力発電の開発と建設にチェコ産業界を関与させることを優先事項としている。
19 Aug 2025
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インドネシアのPT Thorcon Power Indonesia(PT TPI)社は8月7日、インドネシアの原子力規制当局のBAPETENが、PT TPI社によるインドネシア初の原子力発電所の建設に向けたサイト評価プログラム(PET)ならびにサイト評価管理システム(SMET)を承認したことを明らかにした。シンガポールを拠点とするThorcon International社の子会社であるPT TPI社は今年2月、米国のデベロッパーThorcon社製の先進的熔融塩炉を採用した実証プラント「Thorcon 500」(50万kWe)の建設に向けて、BAPETENに対し、PETおよびSMETの承認を得るための申請書類を提出。安全性、生態学的、サイト適合性の観点に焦点を当てた、予備的サイト調査の結果、同国バンカ・ブリトゥン州のバンカ島の沖合にある、ケラサ島を同プラントのサイトとして提案している。 PT TPIが提案する「Thorcon 500」は、1960年代に米エネルギー省オークリッジ国立研究所で開発された熔融塩炉(MSR)をベースとしている。低濃縮ウランを燃料とする25万kWe×2基がそれぞれ交換可能かつ密封された「Can(缶)」ユニットに格納されている。「Can」は造船所で船体に組み入れられ、浅瀬のサイトまで曳航される。各発電モジュールでは、常時1基のみが稼働し、運転8年後には、使用済みの原子炉モジュールを切り離して新規モジュールに交換。取り外したモジュールはCan交換のためにメンテナンスセンターに曳航される。Thorcon International社は、東南アジアは世界で最も急速にエネルギー市場が成長しており、信頼性が高く手頃な価格でクリーンな電力は、経済拡大、工業化、長期的に持続可能な開発を支援するために不可欠と指摘。特にインドネシアには原子力発電導入の大きな可能性があると考え、PT TPI社はインドネシア国内に原子力エンジニアリングとライセンスチームを設立した唯一の原子力企業となった。次のステップとして、サイトライセンスおよび設計承認を取得し、2027年に建設開始、2031年のフル稼働を目指している。PT TPI社のD. アシャリCOOは、「原子力発電が最も安全な発電形態の1つであることは現在広く理解されているが、地域社会が当社の開発するプラント固有の設計による安全性を理解できるよう、サイトライセンスと設計承認に向けて地元コミュニティや知事と緊密に連携していく」と述べた。インドネシアは発電設備容量の半分以上を石炭火力に依存しており、インドネシア政府は今年5月、2040年までに1,000万kWeの原子力導入目標を掲げた。PT TPI社は同社の開発するプラント導入により、インドネシアの石炭依存の低減に貢献したいとしている。
18 Aug 2025
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