英政府は6月10日、イングランド東部サフォーク州に建設されるサイズウェルC(SZC)原子力発電所(EPR-1750×2基、各172万kWe)への142億ポンド(約2.8兆円)の投資を発表した。この投資は、政府の歳出見直し(Spending Review)の一環として行われる。SZCプロジェクトでは、既に地元企業と3.3億ポンド(約646億円)の契約を締結しているという。英国全土のサプライチェーンを強化するため、契約の約70%が英企業3,500社に発注されると予想されており、本投資によって、建設、溶接などの新たな雇用の創出が見込まれている。SZCは隣接するサイズウェルB(PWR、125万kWe)が1995年に運転を開始して以来、ヒンクリー・ポイントC(HPC)発電所(EPR-1750×2基、各172万kWe)の建設(2018年~)に続く、新設プロジェクト。SZCの建設により、1,500人の研修・実習職を含む、1万人の雇用が創出され、英国全土でさらに数千人の雇用が見込まれている。EDFエナジー社は2020年6月に英原子力規制庁(ONR)にサイト許可(NSL)を申請。2022年11月、英政府はこのプロジェクトに6.79億ポンドの直接投資を発表し、EDFエナジー社の親会社であるフランス電力(EDF)とともにSZCプロジェクトの50%株主となった。その後、2022年7月に開発合意書(DCO)、2024年5月にはサイト許可(NSL)がそれぞれ発給されており、現在、サイト内および周辺で土木・インフラ工事が進行中。なお、SZCプロジェクトは、新しい資金調達方式であるRABモデル((個別の投資プロジェクトに対し、総括原価方式による料金設定を通じて建設工事の初期段階から、需要家(消費者)から費用(投資)を回収するスキーム。これにより投資家のリスクを軽減でき、資本コスト、ひいては総費用を抑制することが可能になる。))を適用している。資金調達モデルに関する最終的な投資決定(FID)は、今夏後半に予定されているという。R. リーブス財務相は、「我々は再び英国の再生に投資しており、これは一世代ぶりの最大規模の原子力建設計画だ」と語り、E. ミリバンド・エネルギー安全保障・ネットゼロ(DESNZ)相も、「将来への投資を怠り、英国のエネルギー不安という現状を受け入れるつもりはない」「家計を守り、エネルギー主権を取り戻し、気候危機に対応するには、新たな原子力が必要。これはクリーンエネルギーの黄金時代を切り開く政府の使命である」とコメントした。英国で現在稼働している原子炉は9基で、合計出力は約650万kWe。英政府はサイズウェルBを除き、既存炉は2030年代初頭までに段階的に廃止される可能性が高いと言及。また、SZCはミリバンド大臣が2009年当時のエネルギー相在任時に新規原子力発電所の候補地として特定した8サイトの内の一つであったが、その後の保守党政権下での14年間、同プロジェクトには十分な資金が提供されなかったと指摘する。英政府(前政権)は2024年1月、2050年のCO2排出実質ゼロの達成とエネルギー安全保障の強化のため、原子力ロードマップを発表。2050年までに国内で合計2,400万kWeの新規原子力発電所を稼働させ、国内電力需要の4分の1を原子力で賄うとする野心的な原子力開発目標を示した。SZCが完成すれば、約600万世帯分に相当する電力供給が可能になり、英国の原子力発電電力量は、2030年代にSMR、SZC、HPCが運転開始することで、過去半世紀を上回ると見込まれている。英政府は今回の投資が、長年にわたるプロジェクト遅延と不確実性に終止符を打つものと捉え、エネルギー安全保障と経済成長の促進を目指し、SZCプロジェクトを強力に支援している。 なお同日の6月10日、英政府は同国初となる小型モジュール炉(SMR)の建設に向けた国際コンペにより、英ロールス・ロイスSMR社を支援対象の優先権者に選定している。
20 Jun 2025
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フランス原子力産業界の戦略協定の署名式が6月10日、原子力産業戦略委員会(CSFN)の主導により、パリで開催された。原子力産業の復興を目指した2025年~2028年までの共通ビジョンを策定し、エネルギーと産業主権、欧州の競争力、低炭素エネルギーへの移行を目標に、主要なプロジェクトを中心に原子力産業界全体を動員することを目的としている。署名式には、E. ロンバール経済・財務・産業・デジタル主権相、M. フェラチ産業・エネルギー担当相のほか、フランス電力(EDF)、オラノ、仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)、フラマトム、放射性廃棄物管理機関(ANDRA)など主要な原子力関連機関・企業、企業労働組合の代表者らが出席。CSFNは2011年に設立され、政府、企業、労働組合の三者間の連携と、原子力産業の組織化の促進を役割とする団体。今回の署名を受け、CSFNのX. ウルサット会長は、「この協定は、私たち全員を団結させるコミットメント。行動と信頼の協定だ」とその意義を強調した。CSFNは、2022年2月にE. マクロン大統領が行ったベルフォール演説で、原子力復興をエネルギー戦略の要とするとしながらも、様々なステークホルダーを調整するための共通枠組みが存在しなかったと指摘。同大統領はベルフォール演説で、安全性を損なわないことを条件にすべての既存炉の運転期間延長と、EPR2×6基の新設(さらに8基建設の調査も)を提案しており、最初の6基はパンリー、グラブリーヌ、ビュジェイの各発電所サイトで建設をする計画を示していた。またCSFNは、今回の戦略協定を、ベルフォール演説に沿って、フランスの原子力産業を長期的に構造化、強化し、予測するための戦略的な一歩と捉え、産業、エネルギー・気候変動に関する主要な課題に対する具体的な取組みとして、6基のEPR2の建設と燃料サイクル施設の更新既存炉などの運転期間延長研究開発の強化および小型モジュール炉(SMR)の開発燃料サイクル技術の促進とそのクローズド化旧原子力施設の解体と核物質・放射性廃棄物の管理を掲げた。また、以下4つの主要な戦略的優先事項を中心としたロードマップを示した。産業パフォーマンス:建設の納期・コスト・品質を最適化、設備近代化・サプライチェーンの強化技能と雇用:年間1万人の採用目標。初期トレーニング、見習い、キャリアの移行、および地域全体での人材誘致と動員の実施。イノベーションと将来技術:SMR、次世代炉、産業デジタル化、高度な燃料サイクル管理など、戦略分野での研究開発を加速。エネルギー移行:原子力を仏・EUの脱炭素戦略の柱に。信頼性と競争力ある電力供給を確保。CSFNは、政府と産業界と連携してこの協定の実施を監視し、取組みの調整、優先プロジェクトの支援、進捗の評価、必要に応じて修正を行う役割を担うこととしている。
19 Jun 2025
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米エネルギー省(DOE)は6月3日、ウェスチングハウス(WE)社が開発するマイクロ炉「eVinci」の予備安全設計報告書(PSDR)を承認した。 WE社はPSDRの承認を受けた初のマイクロ炉開発企業となった。PSDRの承認は、米アイダホ国立研究所(INL)内の国立原子炉イノベーション・センター(NRIC)が運営するマイクロ炉実験機の実証(Demonstration of Microreactor Experiments=DOME)テストベッドでの試験の実施にあたりDOEが求める要件の一つであり、DOMEテストベッドに設置するeVinci実験炉の詳細な設計と、安全の妥当性を示すセーフティケースの概要を示したもの。 DOEは2023年10月、国内でマイクロ炉を開発するWE社、ラディアント(Radiant)、ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)の3社に、フロントエンドエンジニアリングおよび実験機設計(Front-End Engineering and Experiment Design: FEEED)プロセスの実施に向けて総額390万ドルをNRICを通じて提供。具体的には、燃料を装荷する実験炉の設計、機器製造、建設、およびNRIC-DOMEテストベッドを使った試験の計画策定を行う開発者の支援を目的としている。PSDRの提出はFEEEDプロセスの重要なマイルストーン。この承認に続きWE社は現在、DOMEテストベッドへの設置に向けて、DOEの段階的承認プロセスにおいて必要となる4つの提出物のうち3番目となる予備安全解析書を準備している。 NRICは現在、1964年~1994年にINLで稼働していた高速増殖実験炉II(EBR-II)の格納ドームを利用したDOMEテストベッドを改修中である。同テストベッドは高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU)燃料を使用する最大熱出力2万kWの先進的な実験用原子炉を収容、初臨界時には安全性を重視した閉じ込め機能を持つ。産業界による新技術開発に伴うリスクを軽減して開発を促進させ、先進的な原子炉設計を概念段階から実証段階へと進め、実用化と商業化への道筋をつけて市場投入までの時間を短縮することを目的としている。そのため、eVinci実験炉はより大規模な商業用eVinciの開発に先駆け、その設計の性能と安全機能の実証を目的に0.3万kWtと縮小したものとなっている。DOMEでの試験開始は、2026年秋の予定だ。 2025年3月には、米原子力規制委員会(NRC)が、eVinciに関する基本設計基準(PDC)トピカルレポートを承認。PDCは原子炉の構造、システム、および構成要素の各部分がどのように機能するかを定義し、原子炉設計がNRC規則に適合することを保証するもの。PDC承認により、eVinciを導入するための許認可取得の明確な道筋が示され、顧客による許認可取得手続きの簡素化および合理化が期待されている。 eVinciは熱出力1.5万kW、電気出力0.5万kWのヒートパイプ冷却の可搬式原子炉で、軽水炉のような冷却ポンプは不要。燃料交換なしで8年以上にわたり電力の安定供給が可能。工場で製造・組立、燃料装荷された状態で迅速に現地に輸送・設置される。TRISO(3重被覆層・燃料粒子)燃料を使用し、この設計はDOEの先進的原子炉実証プログラム(ARDP)により支援されている。
19 Jun 2025
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カザフスタン原子力庁(KAEA)は6月14日、ソ連からの独立後、初となる原子力発電所建設に向けた主契約者にロシア国営原子力企業のロスアトムを選定したことを明らかにした。KAEAは原子力発電所建設に向けて、外国企業との協力により国際コンソーシアムの発足を目指している。KAEAによると、国際コンソーシアムのリーダーとなる主契約者の最終候補として残ったのは、ロスアトム、中国核工業集団公司(CNNC)、フランス電力(EDF)、韓国水力・原子力(KHNP)の4社。いずれも、建設コストの見積、プロジェクトの実施時期、資金調達モデル、設備と建設工事の現地化へのアプローチ、科学面・教育面での訓練と開発のための提案、原子燃料サイクルにおける協力の機会など、包括的な提案を提示したという。なお、各社の提案炉型は以下のとおり。・CNNC製「華龍一号(HPR-1000)」(100万kW級PWR)・露ロスアトム製VVER-1200(120万kW級PWR)・KHNP製「APR1000」「APR1400」(100万kW級/140万kW級PWR)・EDF製EPR-1200(120万kW級PWR)KAEAとカザフスタン原子力発電所(KNPP)は、仏エンジニアリング会社Assystemの参加を得て開発した方法論に基づき、企業からの各種提案について、原子力発電所の安全性、技術的・財政的側面、国際的な経験、人材育成、技術移転など複数の分野で評価を実施。その結果を原子力産業の発展に関する省庁間委員会に提出した。同委員会は、ロスアトムの提案が最適と結論づけ、ロスアトムを同国初となる原子力発電所建設プロジェクトの国際コンソーシアムのリーダーに選定した。ロスアトムのA. リハチョフ総裁は、今回の選定結果を歓迎し、「ロシアの第3世代+(プラス)のVVER-1200は、実績あるエンジニアリングと最新の安全システムを融合させており、国際的な安全基準を厳格に準拠した設計。ロシアで4基、ベラルーシで2基が稼働中であり、ハンガリー、エジプト、トルコ、バングラデシュ、中国でも建設中である」と指摘。ロスアトムは顧客のニーズに合った最新技術の導入が可能であると強調した。カザフスタン側では現在、ロスアトムの提案に基づき、ロシアからの国家輸出融資の提供に関する検討を開始しているという。カザフスタンでは2024年10月、原子力発電所の建設を問う国民投票が実施され、原子力発電所の建設に7割が賛成した。同年12月、政府はアルマティ州のジャンブール地区を初の原子力発電所の建設地区に決定。今年中には、炉メーカー(またはコンソーシアム)を選定し、政府間協定および関連契約の締結を計画していた。
18 Jun 2025
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欧州の原子力産業団体である欧州原子力産業協会(nucleareurope)は6月5日、「経済的および社会的影響に関する報告書」を発表。2050年までにEU域内の原子力発電設備容量を1.5億kWまで拡大した場合、EU全体で年間3,300億ユーロ(約55兆円)超の経済規模を創出し、約150万人の雇用を支えるとの見通しを示した。報告書はコンサルティング企業のデロイトがnucleareuropeの委託で作成したもので、原子力分野への投資の経済的・社会的波及効果を明らかにし、原子力導入の経済的意義を定量的に示すことで、政策立案者や投資家の判断材料とすることが狙い。報告書では、原子力の導入規模ごとに1億kW、1.5億kW、2億kWの3シナリオを設定し、それぞれの経済効果、公的収入、可処分家計所得、雇用創出への影響を分析した。最も高い2億kWシナリオでは、年間3,830億ユーロ(約64兆円)の経済効果、719億ユーロ(約12兆円)の税収、593億ユーロ(約9.9兆円)の可処分家計所得がもたらされ、約166万7,000人の雇用が創出されると推定している。現状(2023年)では、EU域内の原子力発電設備容量は1億600万kWで、原子力産業は年間2,512億ユーロ(約42兆円)の経済効果、476億ユーロ(約8兆円)の税収、380億ユーロ(約6.3兆円)の家計所得を支え、88万3,000人以上の雇用を生み出している。報告書は、将来的な原子力拡大が、これらの経済指標を大幅に押し上げる可能性を示している。nucleareuropeのE. ブルティン事務局長は、「原子力は、欧州に根ざした数少ないネットゼロバリューチェーンの一つだ。投資によって経済成長と雇用創出を実現できるだけでなく、エネルギーセキュリティや脱炭素の目標達成にも貢献する」と述べ、欧州委員会(EC)に対して、原子力の長期的な政策的支援を求めた。報告書は、原子力事業がもたらす直接的な影響に加え、関連産業への間接的な影響や、家計支出による誘発的な影響も含めて、全体的な経済効果を算出している。欧州では、2050年までに脱炭素経済を実現するという政策目標が掲げられており、原子力はその達成手段の一つとして再評価されている。昨年、M. ドラギ氏(元イタリア首相)がECの要請を受けて作成した報告書「欧州の競争力戦略(A competitiveness strategy for Europe)」でも、エネルギーの競争力・安定供給・脱炭素の観点から原子力の役割が重視されている。
17 Jun 2025
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欧州の原子力産業協会であるnucleareuropeは5月29日、ポジションペーパー「#原子力2050 1億5,000万kW―目的に適った原子力実証プログラム(Nuclaer Illustrative Programme: PINC)をデザインする―」を公表した。欧州委員会(EC)が年末までに改定を予定する次期PINCに対し、nucleareuropeは、現在および将来の原子力プロジェクトを支援する財政、規制、政策面の枠組みを盛り込むよう要請。原子力が欧州におけるクリーンで持続可能、かつカーボンニュートラルな未来への移行に果たす、役割の重要性を改めて確認すべき、と勧告した。PINCの改定は8年ぶりで、原子力分野における投資ニーズに関する評価が主な目的。脱炭素化の加速や「REPowerEU」、「クリーン産業ディール(CID)」といった政策目標に即し、EU全体の原子力開発動向と投資ニーズについて、事実に基づく最新かつ包括的な概要を示すもの。nucleareuropeはまず、EUがロシア依存の低減や脱炭素化、産業競争力の強化といった課題に直面するなか、多くの加盟国が原子力分野への投資を検討している現状に言及。既存原子力発電所の運転期間延長や出力増強に加え、大型原子炉、小型モジュール炉(SMR)、原子燃料施設などの新たなプロジェクトが進行しているとした。また、原子力が大きな経済的利益を生み出すとともに、EU域内で90万人以上の直接・間接の雇用を創出。欧州の技術的優位性を象徴し、サプライチェーン全体にも恩恵をもたらしていると強調している。加盟国が提出した国家エネルギー・気候計画(NECP)と各国政府の最近の発表によれば、EUの原子力発電設備容量は、現在の約1億kWから2050年までに1億4,300万kWに達する可能性がある。nucleareuropeは、次期PINCがこうした野心的な計画を反映すべきとし、特に、①原子力を検討する加盟国の増加、②運転期間延長の重要性、③新たな大規模プロジェクトや燃料サイクル施設、SMRの動向など、前回のPINC策定時とは大きく様変わりした、現況を十分にふまえた内容とする必要があると指摘した。そのうえで、次期PINCでは、原子力開発の目標達成に向けて、原子力投資の支援・促進を図るため、以下のような具体的な政策措置を盛り込むよう勧告している。原子力拡大に向けた安定した政策枠組みすべてのネットゼロ技術に対する公平な競争の場を提供野心的なEU2040の枠組み公的および民間ファイナンスへのアクセス国家援助プロセスの合理化公正な税制措置強固な欧州の原子力サプライチェーンへの支援供給多様化に向けた明確な枠組み研究・人材育成・バリューチェーン・SMRに関する支援さらに、2050年にEUの総電力需要が3.6兆kWh~6.8兆kWhに拡大すると予想されるなか、EUのエネルギーミックスにおける原子力の将来像を明確にするためにも、原子力による発電目標の数字もPINCに盛り込むべきとした。nucleareuropeによると、2024年、原子力はEUの総発電電力量のほぼ4分の1を占め、低炭素電力の中で最大の供給源となった。現在、12の加盟国で計100基が運転中である。こうしたなか、ECは6月13日、第8次PINCを公表。そのなかで、加盟国の原子力計画を実現するためには、既存の原子炉の運転期間延長と新たな大型原子炉の建設の両方に、2050年まで約2,410億ユーロ(約40兆円)の投資が必要と試算。さらに、SMR、先進型モジュール炉(AMR)、マイクロ原子炉、そして核融合にも追加投資が必要と評価した。なお、PINCでは2050年のEUの原子力発電設備容量を約1億900万kWと見積もっており、nucleareuropeが提示する1億5,000万kWに比べて控え目な水準にとどまっている。PINCは今後、欧州経済社会委員会の意見を経て、最終版が公表される予定。また、2025年6月16日にルクセンブルクで開催されるエネルギー理事会においても、加盟国間で議論される見通しだ。
16 Jun 2025
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世界銀行の理事会は6月10日、原子力発電プロジェクトへの融資を禁止する措置の解除を決定した。電力需要の急増が予想される開発途上国での安定供給を支援していく。複数のメディアによると、世界銀行のA. バンガ総裁は翌11日、スタッフに送った電子メールの中で、すでに原子炉を保有する国での稼働期間の延長、送電網の更新や関連インフラへの支援のほか、小型モジュール炉(SMR)の開発への支援にも取組むなど、原子力への参入を進め、国際原子力機関(IAEA)と連携していく方針を示しているという。世銀発足以後、原子力発電への融資は、1959年、イタリア南部のガリリアーノ原子力発電所(BWR、16.4万kWe、1982年閉鎖)建設プロジェクトへの4,000万ドル相当、建設費のほぼ3分の2に充てる融資が最後で、以降は途絶えている。世銀は貧困削減や開発支援を目的とした国際機関。経済成長を促進し、生活水準を向上させるインフラプロジェクト等に低金利で融資を行い、加盟国の貧困層の発展を支援している。しかし、原子力インフラについては、2013年発表のエネルギー部門に対する方針の中で、原子力施設の安全性と不拡散は専門分野ではないため、原子力発電の資金提供またはその評価・開発に関する具体的な技術支援を行わず、原子力発電に係る内部能力の強化もしないとしていた。その一方、世界では、エネルギー需要の急増が予測されるため、持続可能な開発、脱炭素化の迅速な達成に向けて、クリーンで信頼性の高いエネルギーが大量に必要とされ、他の低炭素技術とともに原子力発電の展開を加速するよう求める新たな世界的コンセンサスが生まれている。こうした気運を受け、2023年12月、アラブ首長国連邦のドバイで開催された第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)の成果文書ではCOP史上初めて、炭素排出量を削減するための重要なアプローチの1つとして「原子力」が明記され、参加25か国(現在31か国)が2050年までのネットゼロ達成に向けて、世界の原子力発電設備容量を3倍に増加させるという誓約に署名。同誓約では世界銀行、国際金融機関、地域開発銀行に対し、原子力を融資対象に含めるよう呼びかけていた。また、2024年6月、国際原子力機関(IAEA)のR. グロッシー事務局長は、世銀グループの理事会に出席。世銀をはじめとする国際開発金融機関(MDB)に対し、途上国における原子力発電導入プロジェクトへの融資解禁を強く訴え、原子力発電への融資は、この「新たな世界的コンセンサス」にMDBが歩調を合わせることになると言及していた。今回の世銀理事会の決定を受け、世界原子力協会(WNA)のサマ・ビルバオ・イ・レオン事務局長は声明を発表。「国際エネルギー政策にとって重大な転換。クリーンで信頼性の高い原子力発電の恩恵の享受には、資金へのアクセスが重要である。当協会は、世界銀行や他のMDBとさらに協力し、原子力への融資に関する意思決定のための能力開発を支援していきたい」と意欲を示している。
13 Jun 2025
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中国の広東省恵州市で6月10日、中国広核集団(CGN)の太平嶺(Taipingling)原子力発電所の3号機(PWR=華龍一号、115.0万kWe)が着工した。太平嶺サイトでは、現在、1、2号機(華龍一号、各112.6万kWe)がそれぞれ2019年、2020年に着工しており、さらに3基、合計6基の華龍一号が建設される予定。華龍一号は、HPR1000と呼ばれる中国が独自開発した100万kWe級の第3世代PWR。中国国内で2020年代に入ってから5基(防城港3、4号機、福清5、6号機、漳州1号機)が運転を開始している。中国の主力輸出炉としても位置付けられており、中国核工業集団(CNNC)が輸出した、パキスタンのカラチ原子力発電所2、3号機が稼働しているほか、昨年末にはチャシュマ5号機が新たに着工した。
13 Jun 2025
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英国発の先進炉開発企業で、現在仏パリに本社を置くニュークレオ社は6月3日、スロバキア国営の原子力廃止措置企業であるJAVYSと、合弁会社の「使用済み燃料利用開発センター(CVP)」の設立に向け、イタリア・ローマで株主間契約を締結した。スロバキアでJAVYSが所有、廃止措置を実施する閉鎖済みのボフニチェ原子力発電所(V-1)の1、2号機(VVER-440、各44万kWe)のサイトで、ニュークレオ社が開発する第4世代の先進モジュール炉(AMR)である鉛冷却高速炉(LFR)の建設プロジェクトを進める。今回の契約は、2025年1月にニュークレオ社とJAVYSが締結した枠組み協定に続くもの。契約締結式には、スロバキアから、R. フィツォ首相、D. サコヴァ副首相兼経済相、イタリアからはG. ピケット=フラティン環境・エネルギー安全保障相が出席した。ニュークレオ社は現在、フランス、英国、イタリア、スイス、スロバキアを拠点とし、自社の先進炉開発プロジェクトだけでなく、サプライチェーンの開発も支援するなど、活動の場を広げている。設立された合弁会社は、JAVYSが51%、ニュークレオ社が49%の株式を保有し、ボフニチェV-1サイトに、ニュークレオ社が開発する鉛冷却高速炉LFR-AS-200(20万kWe)を4基建設する。その燃料には、スロバキア国内の既設炉から回収された使用済み燃料を再処理、MOX燃料として加工製造して利用。再処理はフランスで行い、燃料棒の組立はニュークレオ社がフランスで建設を計画するMOX燃料製造施設で行う。ニュークレオ社は、既存の使用済み燃料は、欧州の電力需要を数千年にわたり支える可能性があり、放射性廃棄物の量および放射性毒性を大幅に削減し、長寿命の放射性物質を高コストの深地層処分場に処分する必要性も大きく軽減されると指摘。この新たな運用モデルが、熱中性子炉と高速炉の相乗効果を生みだし、使用済み燃料の再利用によってクローズド・サイクルの確立に貢献すると強調している。同社は、欧州のエネルギー安全保障と自立を高めるソリューションとして、スロバキアのみならず、原子力発電を運用する他の国においても同モデルの事業展開を進める考えだ。合弁会社CVPが今後、ボフニチェV-1サイトでのLFR-AS-200配備に向けた包括的な実現可能性調査を開始するのと並行し、両社はフランス政府および燃料サプライチェーンとの連携を継続し、使用済み燃料の輸送・再処理事業の開発・展開、ならびにフランス国内におけるMOX燃料製造施設の建設プロジェクトを進めていくとしている。なお、ニュークレオ社は6月10日、LFR-AS-200の英国の包括的設計審査(GDA)への参加申請が受理されたと発表した。原子力規制庁(ONR)、環境庁(EA)、およびウェールズ自然保護機関(NRW)がLFR-AS-200設計の安全性、セキュリティ、および環境影響面について、英国の基準を満たしているかを2段階で評価する。ニュークレオ社は2024年12月、英エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)に、商業規模となるLFR-AS-200のGDAを申請。AMRとしては今回が初の受理となった。現在、ニュークレオ社の英国のプロジェクトチームが、英国内で建設可能性のあるサイトについて調査しているという。ニュークレオ社は、LFRの非核先行炉を2026年までにイタリアで完成させ、実証炉(LFR-AS-30、3万kWe)をフランスで2031年末までに、商業炉(LFR-AS-200)を2033年に稼働させる計画だ。
12 Jun 2025
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米国で先進炉と原子燃料リサイクル開発を進めているオクロ社は5月23日、韓国水力・原子力(KHNP)と第4世代炉の開発における協力促進を目的に覚書(MOU)を締結した。MOUの締結により、オクロ社とKHNPは、オクロ社が計画するオーロラ(Aurora)発電所(7.5万kWe)の標準設計開発とライセンス戦略について協力する。両社はまた、オーロラの主要機器の製造、BOP(バランスオブプラント=原子炉以外のタービン、発電機等の付帯設備)サプライチェーンの確立、市場における実現可能性評価においても協力していく方針。オーロラは、HALEU燃料を使用する液体金属高速炉のマイクロ炉で、出力は顧客のニーズに合わせて1.5万kWeと5万kWeのユニットで柔軟に調整。少なくとも20年間、燃料交換なしで熱電併給が可能である。オクロ社は、2027年末までに米アイダホ国立研究所(INL)サイト内でオーロラ発電所の導入を目標に、米原子力規制委員会(NRC)との間で許認可申請前活動を実施。年内に建設運転一括認可(COL)の申請を予定している。これに続き、顧客基盤の拡大に伴う、1,400万kWeを超える受注残向けの申請をしていく計画だ。オクロ社のJ. デウィットCEOは、「当社は、初号機のサイト特性調査のためのボーリング掘削を完了し、商業化を最優先課題として建設準備を進めている。世界有数の原子力発電所の建設企業であるKHNPとのMOUは、製造、建設、サプライチェーン開発などの重要要素において連携する貴重な機会をもたらすもの。KHNPが1971年から継続的に原子力発電所を建設してきた経験は、当社の取り組みを補完し、オーロラの商業化を効率的に進め、早期建設の実現を可能にするものだ」と述べた。KHNPのJ. ファン社長は、「当社は韓国独自のSMR(i-SMR)の継続的な技術開発を通じて世界的な競争力の獲得を目指している。急速に発展する第4世代のSMR市場では、安全性が引き続き最優先事項であり、早期の市場参入を実現するためには、世界の技術リーダーとの緊密な協力が不可欠」と指摘。「米国の大手SMR企業とKHNPの強みを合わせ、次世代SMRの設計・建設・運用では強力なシナジー効果が期待できる」と強調した。
12 Jun 2025
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英政府は6月10日、同国初となる小型モジュール炉(SMR)の建設に向けたコンペにより、ロールス・ロイスSMR社を支援対象に選定した。政府の最終承認後、今年後半にも政府機関のグレート・ブリティッシュ・エナジー・ニュークリア(旧グレート・ブリティッシュ・ニュークリア:GBN)がロールス・ロイスSMR社と契約を締結、共同開発会社を設立し、建設サイトを割り当てる予定。GBNは2023年7月、英国で建設するSMRを選定するコンペを開始。約2年間にわたって審査を続けてきた。選定されたロールス・ロイスSMR社が、国内に3基を建設する。2025年2月、GBNから最終入札への招請の段階で最終選考に残っていたのは、米GE日立・ニュクリアエナジー・インターナショナル社、米ホルテック・インターナショナル社英法人、英ロールス・ロイスSMR社、米ウェスチングハウス(WE)社英法人の4社であった。国際エネルギー機関(IEA)によれば、世界の発電量は2050年までに倍増。中でもSMR市場は、2050年までにおよそ5,000億ポンド(約97.7兆円)規模に成長する見込みである。英政府は、今回の選定を受け、英国が新しい原子力技術の国際競争でリードするための重要な一歩であると指摘、同プロジェクトは自国をクリーンエネルギー大国に変革する「変革の計画(Plan for Change)」の一環と位置づけている。また、国内のサプライチェーンより7割を調達するだけでなく、建設のピーク時に最大3,000人の高レベルの雇用創出と約300万世帯分の電力供給が可能になるとし、地域経済とエネルギー安全保障を強化するものと強調している。なお英政府は、2030年4月までの歳出見直し(Spending Review)期間中に総額25億ポンド(約4,884億円)以上をSMRプログラムに計上予定であり、2030年代半ばの送電開始を目指している。SMRを含む新規建設を容易にするため、計画規則(Planning Rules)を改正する方針も発表されている。従来の原子炉よりも小型かつ短期間で建設可能で、後続機ほどコストが低減されるため、SMRへの期待は大きい。英国の原子力発電電力量は、2030年代にSMR、サイズウェルC、ヒンクリー・ポイントCが運転開始することで、過去半世紀を上回ると見込まれている。ロールス・ロイスSMRは既存のPWRをベースとしており、電気出力が47万kWとSMRにしては大型なのが特徴。運転期間は60年以上。同SMRは、英国の規制評価プロセスにおいて、競合他社より18か月進んでいるという。詳細な特集記事はコチラ
11 Jun 2025
1249
ルーマニア国営原子力発電会社のニュークリアエレクトリカ(SNN)は6月2日、チェルナボーダ原子力発電所(CANDU炉×2基、各70万kWe級)のサイト内で、トリチウム除去施設(CTRF)を着工(初コンクリートを打設)した。韓国水力・原子力(KHNP)との提携プロジェクトである。SNNとKHNPは、2023年6月にチェルナボーダ・サイトにおけるCTRF建設に関する設計・調達・建設(EPC)契約を締結。SNNは2024年5月に建設許可を取得、同年6月に起工式を挙行した。KHNPによると、本プロジェクトは韓国の月城原子力発電所(CANDU炉×3基、各70万kWe)のトリチウム除去設備の建設経験を活用、総事業費は約2,600億ウォン(約275億円)規模であるという。CTRFは、ルーマニア国立超低温・同位体技術研究開発研究所(ICSI Râmnicu Vâlcea)によって開発された国産技術に基づいており、世界ではカナダ、韓国に次いで3番目、欧州では初のトリチウム除去施設となる。トリチウムは核融合炉の燃料となるが、CANDU炉から大量に発生する。ルーマニアは同施設が将来、トリチウムの生産・輸出の欧州拠点となることへ期待を寄せている。ルーマニアのS. ブルドゥージャ・エネルギー相は、「ルーマニアをITERのような核融合炉の燃料の一つであるトリチウムを生産・輸出する欧州における中心地とし、加えてウラン鉱山から重水製造、原子燃料、CANDU炉によるエネルギー生産までを含む、ルーマニアの原子燃料サイクルの再構築をしていきたい」と意欲を示した。同設備の設置は、CANDU炉の冷却および減速システムで使用される重水からトリチウム(三重水素)を回収・除去し、トリチウムによる環境負荷を低減、重水の再利用を可能にして原子力発電所の運転効率の向上を目的としている。建設プロジェクトは完成まで50か月を予定しており、除去・回収されたトリチウムは、将来の利用に向けて、専用容器に入れて安全に保管される。CTRF建設にあたっては、欧州投資銀行(EIB)から1.45億ユーロ(約240億円)の融資を受けており、こうした戦略的投資を通じて、ルーマニアは世界の原子力産業における地位を強化したい考えだ。チェルナボーダ発電所の1号機は1996年に、2号機は2007年に運転を開始。SNNは、1号機の運転期間を30年間延長する改修工事を計画中である。3号機と4号機(CANDU炉、各70万kWe級)は、1989年のチャウシェスク政権の崩壊を受けて建設工事は停止していたが、現在、建設再開の準備が進められている。
10 Jun 2025
775
北欧5か国の放射線および原子力安全当局は5月26日、地政学的な変化と原子力の関心の高まりを受け、共同で地域協力を強化するために13の戦略的提言を含む、報告書「原子力・放射線安全における北欧協力の強化―北欧戦略グループ報告書」を公表した。報告書作成に参加したのは、デンマーク緊急事態管理庁(DEMA)、デンマーク保健局放射線防護部門(SIS)、フィンランド放射線・原子力安全庁(STUK)、アイスランド放射線安全機関(GR)、ノルウェー放射線・原子力安全局(DSA)、スウェーデン放射線安全局(SSM)の6機関。DSAのP. ストランド局長は、「ロシアとウクライナの紛争を機に、原子力施設を有する国での現在の緊迫した安全保障状況を踏まえ、北欧諸国は国境を越えた原子力安全、放射線防護、緊急対策の必要性を認識。加えて、新たな原子力導入がノルウェーを含む複数の国で検討されており、これらの課題を北欧全体で議論することは有益である」と語った。北欧諸国は、放射線防護および原子力安全において長年にわたる協力の歴史を持ち、各国の取組みの連携や欧州・国際レベルでの貢献が可能であると自負している。本報告書は、この基盤を活かし、現在および将来の課題に対応するための指針になると指摘している。報告書では、13の提言を以下の4つの主要分野に分類している。原子力安全に関する法規制放射線防護に関する法規制緊急事態対応国際的な展開と支援この作業は、2023年8月にアイスランドのレイキャビクで開催された関係当局のトップクラスの会議で、北欧協力における戦略的優先課題を検討する決定によるもの。脱炭素化やエネルギー需要の増加に伴う原子力の再評価、さらに、世界的および地域的な安全保障環境の変化を受け、より緊密な地域協力を目指している。フィンランドとスウェーデンは最近、原子力発電所の新規建設を促進するエネルギー政策や方針を発表、ノルウェーでは、政府任命による原子力発電導入の検討委員会が来年春に提出する報告書の作成を進めている。デンマークでも原子力が公共の場で議論されるなど、原子力への関心が高まっている。各国の当局は、将来的な原子力の展開に備え、規制の調和、監督手法、専門人材の育成などに取組むほか、原子力利用の拡大に伴う、輸送や廃棄物処理にも対応する必要性を強調している。地政学的変化と新たな脅威については、特にロシアによるウクライナ侵攻が北欧諸国の地政学立場に大きな影響を与え、北西ロシアに位置する原子力発電所やコラ半島での放射性廃棄物の貯蔵に関連する地域的なリスクを懸念している。北極圏、北大西洋、バルト海での核兵器や原子力艦船の増加もリスク要因であり、同盟国の原子力艦船の寄港などの軍事活動の増加も規制の新たな課題をもたらすものと言及している。重大な事故が起これば、チョルノービリ事故のように放射性物質が国境を越えて拡散する恐れがある。国単独では対応能力に限界があるため、関係当局は協力して効果的な情報共有、安全評価、国民へのリスクコミュニケーション強化、さらに、国際的な支援の受入れや提供のための国内体制の強化を図る考えだ。
10 Jun 2025
553
イタリア・ジェノバに拠点を置く、電力エンジニアリング会社のアンサルド・エネルギア(Ansaldo Energia)社は5月29日、ウズベキスタン原子力庁(ウザトム=Uzatom)と、先進的な原子力技術と小型モジュール炉 (SMR)の開発分野における協力を目的に、覚書を締結した。本覚書は、イタリアのJ. メローニ首相、ウズベキスタンのS. ミルジヨーエフ大統領の立会いの下、アンサルド・エネルギア社のA. ベンベドゥティ上級副社長とウザトムのA. アフメドハジャエフ長官により調印された。これにより両社は、次世代原子力発電所の設計と建設、放射性廃棄物管理、専門家育成プログラムなどの分野で戦略的に協力していく方針。特に世界市場を見据え、SMR開発に重点を置く考えだ。アンサルド・エネルギア社は、傘下のアンサルド・ヌクレアーレ(Ansaldo Nucleare) 社を通じて、第3世代ならびに第4世代炉、および核融合炉などの幅広い経験を活用し、原子力発電の専門能力の開発を共同で実施する。両国は、本協力の推進により、戦略的パートナーシップの強化を図り、経済成長と技術革新の促進に期待を寄せている。なお、ウザトムは、ウズベキスタン・ジザク州で、ロシア国営原子力企業のロスアトム傘下にあるアトムストロイエクスポルト社(Atomstroyexport)との契約に基づき、合計出力33万kWeのSMR発電所の建設プロジェクトを進めている。プロジェクトは、舶用炉を陸上用に改良したPWR型SMRのRITM-200Nを6基採用。設計運転年数は60年。初号機は2029年に運転開始、2033年までに段階的に全6基を稼働させる計画だ。ロシアにとってはSMRの初の海外輸出プロジェクトである。現在、建設プロジェクトは設計段階にあり、設計文書の作成、工学的調査が行われている。建設予定サイトでは、原子力施設の高い安全性確保のため、地震監視、航空気象、地下水文調査、水理学的調査を実施中。また、ウズベキスタン国内の天然ウラン資源を用いた原子燃料の製造可能性についても検討しており、ウズベキスタンはコスト効率を高め、国のエネルギー自立の強化をねらう。
09 Jun 2025
682
チェコ電力(ČEZ)が運転するテメリン原子力発電所(VVER-1000×2基、各108.6万kWe)に5月23日、米ウェスチングハウス(WE)社から燃料集合体30体が初搬入された。WE社はこれまでのサプライヤーであったロシアのTVEL社に代わり、15年ぶりのテメリン発電所への供給となるという。チェコのエネルギー安全保障を大幅に強化する重要な一歩である。ČEZはテメリン発電所の他、ドコバニ発電所(VVER-440×4基、各51.0万kWe級)を所有・運転。現在、両サイトの発電所でチェコの電力需要の約40%をまかなう。ČEZ は2000年代末から燃料サプライヤーの多様化の取り組みを開始。2018年に開始された入札の結果、2022年、テメリン発電所向けの燃料集合体の供給契約をWE社および仏フラマトム社と締結した。また同年、エネルギー安全保障の強化を重視し、燃料の総備蓄量の増強方針を決定。2023年には、WE社とドコバニ発電所向けの燃料供給契約も締結し、今年内に最初の数十体の燃料集合体の搬入が開始される予定。なお、ドコバニ発電所向けの燃料供給契約については、フラマトム社とも交渉中である。テメリン発電所では現在、専門家が燃料の重量確認、目視検査、書類のチェックを行っており、その後、燃料は貯蔵容器に収納される。WE社製の新燃料は2026年秋に1号機に装荷予定。装荷にあたっては、国家原子力安全局(SÚJB)からの許可取得が必要である。新燃料は厳しい安全要件をクリアしなければならず、受入に先立ち5年間にわたる一連の分析と試験が行われた。WE社の燃料はより長い運転サイクルの要件を満たしており、ドコバニ発電所では16か月、テメリン発電所では18か月となる予定。ČEZはこれらの変更により、2030年以降、年間平均発電量が320億kWhに達すると見込む。テメリン発電所では今年すでに72億kWhを発電。ドコバニ発電所と合わせて最大のクリーン電源であり、ČEZの排出ゼロ発電に大きく貢献している。年間約2,000万トンのCO2の排出削減に匹敵するという。
09 Jun 2025
575
韓国水力・原子力(KHNP)は5月27日、アフリカ・ウガンダのエネルギー省とウガンダにおける新規原子力発電所のサイトの適合性評価に係る委託契約を締結した。今回の委託契約は、ウガンダの新規原子力発電所の候補地の一つであるブイェンデ(Buyende)県のサイトに、原子力発電所の建設が適しているかどうかを評価するもの。KHNPが主契約者として全体プロジェクトを管理し、ドーファ(Dohwa)エンジニアリング社と韓国電力技術(KEPCO E&C)が共に参加する。契約期間は、2027年7月までの26か月間で、この期間にKHNPと協力会社は、該当サイトの気候、洪水、地質、地震などの自然災害のリスク、冷却水の取水問題、航空機の墜落などの潜在的な危険性、放射性物質の拡散などについて、国際原子力機関(IAEA)の基準に則って評価する。KHNPはサイト評価とともに、韓国製原子炉(APR1400、140万kWe)×4基のサイトへの導入提案も含め、輸出を視野に協力を進める計画だ。ウガンダは、30年間の長期開発戦略である「ウガンダ・ビジョン2040」とそのエネルギー政策に基づき、原子力発電の導入を検討している。政府は新たな発電設備容量が追加されない限り、今後10年以内に供給不足に陥る可能性があると懸念。現在、ウガンダの総発電電力量のうち、約9割を水力発電が占めているが、原子力を含めたエネルギーミックスにより、発電設備を増強する方針である。ウガンダはKHNPがサイト評価を実施するブイェンデ県に2040年までにPWR×6基、合計出力840万kWe規模の原子力発電所の建設を計画している。KHNPは2023年3月、ウガンダのY. ムセベニ大統領の出席のもと、エネルギー省と原子力分野の協力覚書(MOU)を締結、その後、ウガンダと緊密な協力関係を維持している。KHNPのJ. ファンCEOは、「今回の契約締結は、成長の潜在力の大きいアフリカ市場に韓国型の原子力発電所の輸出に向けた意義ある一歩」とし、「ウガンダとの協力をベースにアフリカにおけるKHNPのプレゼンスを拡大していきたい」と意欲を示した。なお、エネルギー省は、ロシア国営原子力企業ロスアトム、中国核工業集団(CNNC)とも原子力分野における協力覚書をそれぞれ2017年、2018年に締結している。
06 Jun 2025
592
英国に本拠地を置く濃縮事業者のウレンコ社は5月19日、米ニューメキシコ州ユーニスにあるウレンコUSA社の濃縮プラントにおいて、拡張プロジェクトの第1段階として増設した新型遠心分離機のカスケードで濃縮ウランの生産を開始した。このカスケードは、2027年初めまでに稼働する予定の複数のカスケードの内、最初のもの。すべてのカスケードが完成すれば、生産能力が約15%増強される。ウレンコUSA社のJ. カークパトリック取締役は、「当社の経験豊富なチームは、濃縮プラントの拡張プロジェクトを引き続き実行し、長期的かつ信頼性の高い濃縮ウランを国内へ供給し、電力会社を支援していく」と述べた。ウレンコUSA社のプラントは、北米で唯一稼働する商業規模の濃縮施設。同社は2010年から米国でウラン濃縮を行っている。同プラントは、米国の重要な戦略資産であり、米国の国家エネルギーインフラと原子燃料サプライチェーンにおいて不可欠な存在。4,400tSWU/年(2024年12月時点)の生産能力により、米国の商業用原子力発電所の濃縮ウラン需要の約1/3をまかなっている。また、これまでに米国の遠心分離機などの製造分野に50億ドル(約7,143億円)以上の投資を行ってきたという。濃縮プラントの拡張の背景には、脱炭素化やロシア製原子燃料への依存の回避、エネルギーセキュリティの強化を要因とする、世界的な原子力発電への評価の高まりを反映した、濃縮役務の需要増がある。ウレンコUSA社は2024年10月、生産能力を約15%増とする約700tSWU/年の拡張プロジェクトを発表。同プラントで、生産能力をさらに10,000tSWU/年規模まで拡張できるスペースとライセンスを有し、市場ニーズに応じて、米国での生産能力をさらに拡大する用意があるとしている。同社は英国、ドイツ、オランダでも濃縮プラントを所有・操業するが、米国のプラントで最初の拡張プロジェクトを実施し、2027年の完成後、国内外向けに供給、燃料サプライチェーンを強化する計画だ。また、ドイツとオランダのプラントを含め、3プロジェクトで合計1,800tSWU/年規模を追加する拡張計画を示している。ウレンコ社の傘下にある、ルイジアナ・エナジー・サービス社は2024年10月、米エネルギー省(DOE)の原子力エネルギー(NE)局により、U235の濃縮度が5~20%の高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU)の国内サプライチェーン確立に向け、濃縮役務の提供に係る契約をする国内4社のうちの1社に選定されている。2024年12月には、新たなウラン生産能力の拡大を目的に、低濃縮ウラン (LEU) の調達に係る契約をする6社のうちの1社に選定された。さらに同月、ウレンコUSA社は、米原子力規制委員会(NRC)からU235濃縮度を最大10%に引き上げるライセンス修正が承認されている。NRCの承認により、既存の原子力発電所の燃料交換期間の短縮や、一部の先進炉への燃料供給が可能となる。但し、NRCによるライセンス修正要件の審査の必要があり、今年7月末までに完了予定である。
06 Jun 2025
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エストニア政府は5月22日、合計出力60万kWeの原子力発電所およびその運転に必要なインフラ整備のため、定められたサイト選定プロセスと戦略的環境影響評価を開始することを明らかにした。エストニアの新興エネルギー企業フェルミ・エネルギア社は2025年1月、計画している原子力発電所を建設する最適地を見つけるため、経済通信省に対し、原子力発電所のサイト選定プロセスの開始を申請した。フェルミ社は、エストニアのエネルギー安全保障と気候目標へのコミットメントの一環として、GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社製のSMRであるBWRX-300の2基から構成される、合計出力60万kWeの原子力発電所の建設を計画。2029年に規制当局に建設許可を申請し、早ければ2035年までに初号機の運転開始を予定している。サイト選定プロセスの実施にあたり、フェルミ社は5月12日、経済通信省と協力協定を締結。影響評価と調査を含む、すべての費用をフェルミ社が負担し、同省は計画の準備、取り纏めを行うという。E. ケルド経済通信相は、「サイト選定プロセス=イコール原子力発電所の建設開始、ではない。まずは、原子力発電所を建設する条件や具体的な場所について分析。投資家が原子力発電所の建設への投資を希望し、国が建設を決定した場合に、十分に検討され、評価された計画を持っているように、準備を進めていく」と説明。「建設が実現されれば、地域に新たな高レベルの雇用が創出され、地域経済の発展が見込まれる」と展望を示した。選定の計画区域の面積は西ヴィル郡と東ヴィル郡の両方で約1,285㎢と、発電所とその関連インフラが建設される区域よりも大幅に広い範囲に及ぶ。そのため、既存の電力網との接続の計画も含め、原子力発電所の最適な立地を徹底的に検討・評価することが可能になる。発電所が計画区域内の住民、その住宅および生活環境や自然環境、経済に及ぼす影響など、関連するあらゆる影響を評価していくという。サイト選定プロセスには、計画区域の住民、地方自治体、関連当局、およびその他の利害関係者が参加。予備的な選定において、発電所と運営に必要なインフラに最適地を、計画区域全体で調査し、複数の候補地を検討する。フェルミ社ならびに政府の原子力作業部会は、すでに原子力発電所の建設に適した可能性のある地域を分析している。フェルミ社が実施した予備調査では、西ヴィル郡クンダ近郊のヴィル・ニグラと、東ヴィル郡リュガヌセのアー村を候補地に挙げている。フェルミ社は、過去6年間にわたり、住民を対象とした説明会を16か所の自治体で50回以上実施し、500人以上が参加。これを経て、西ヴィル郡ヴィル・ニグラ、ならびに東ヴィル郡リュガヌセの各自治体議会はサイト選定プロセスへの参加について合意している。なおフェルミ社は、今年4月に委託・実施した世論調査の結果、エストニア国民の69%がSMR建設準備の継続を支持、または支持する傾向を示しており、この数字は過去5年間を通じて着実に増加していると指摘。また、エストニアにおいて発電電力量の約半分のシェアを占めるオイルシェールによる発電を段階的に廃止するにあたり、どのエネルギー源を優先すべきかを尋ねる設問では、回答者の56%が原子力を挙げているという。
05 Jun 2025
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米大手電力会社のコンステレーション社とIT大手のMeta社は6月3日、コンステレーション社がイリノイ州で運転するクリントン原子力発電所(BWR、109.8万kWe)からの電力を20年間購入する電力購入契約(PPA)を締結した。契約額は未公表。本契約は2027年6月に開始され、イリノイ州のゼロ・エミッション・クレジット(ZEC)((クリーンエネルギー発電事業者に対して、その発電した電力量に応じて一定のベネフィットを提供するもの。廃止予定だった原子力発電所の運転延長など、原子力発電もこれに含められるのが一般的である。))プログラム終了後も、同発電所の継続的な運転を支援することになる。同発電所の電気出力を3万kWe増強するとともに、地元では1,100人の高レベルな雇用を維持し、年間1,350万ドルの税収の確保が予想されている。コンステレーション社のJ. ドミンゲスCEOは、「昨年、当社が発表したクレーン・クリーン・エネルギー・センター(スリーマイル・アイランド1号機)の運転再開計画は多くの関心と圧倒的な支持にもかかわらず、重要な問題が見落とされていた。それは、そもそもなぜこのような価値のある発電所を閉鎖してしまったのかということ。閉鎖によって、地域社会の雇用と税収が失われ、大気汚染は拡大、電気料金が上昇した」と述べ、「Meta社はこの重要な問題を提起してくれた。既存発電所の運転期間延長と出力増強への支援は、新たなエネルギー源を見つけることと同じ影響力がある」と契約締結の意義を強調した。Meta社のU. パレク・グローバルエネルギー部門長は、「クリーンで信頼できる電力確保は、当社のAIの野望を前進させ続けるために必要不可欠。クリントン発電所の運転を維持し、エネルギー分野における米国のリーダーシップ強化に向けた重要な要素であると示していきたい」と語った。クリントン原子力発電所(別名:クリントン・クリーン・エネルギー・センター)は、イリノイ州で1987年に運転を開始、最も稼働率の高い原子力発電所の一つであったが、長年にわたる赤字で、運転認可期限である2027年を待たずに、2017年に早期閉鎖が予定されていた。同発電所の閉鎖は、イリノイ州のエネルギー法案である「未来エネルギー雇用法(Future Energy Jobs Act)」の制定によって阻止され、同法により、2027年半ばまで同発電所を財政的に支援するZECプログラムが設立された。今回のPPA契約は、実質的にZECプログラムに代わる市場ベースの解決策であり、料金支払者の追加負担なしに同発電所の長期的な運転を保証することとなる。コンステレーション社は2024年2月、米原子力規制委員会(NRC)に同発電所の20年間の運転期間延長(60年運転)を申請済み。本PPA契約の締結により、20年運転の継続が保証される中、コンステレーション社は同サイトでの改良型原子炉または小型モジュール炉(SMR)の開発に向けて、NRCに既存の事前サイト許可(ESP)の有効期間を延長申請するか、新たな建設許可を求めるか、戦略を検討中である。Meta社は自社データセンターの効率的な運用を最優先し、電力の100%をクリーンで再生可能なエネルギーで賄うとともに、新興のエネルギー技術の研究開発にも取り組んでいる。同社は、AIの進化に伴い、将来の電力需要の増大が予想される中、信頼性が高く安定した供給が可能な電源として原子力の価値を認識。原子力プロジェクトが地域経済を支えるとともに、米国のエネルギーリーダーシップの強化に資するとの考えから、新たな原子力発電の促進にも注力している。その一例としてMeta社は2024年12月初め、合計電気出力100万〜400万kWの原子力発電プロジェクトの早期開発を目的とする事業提案依頼を実施。電力会社、開発者、原子力技術メーカーなど、さまざまな参加者から50を超える提案が寄せられた。提案では、全米20以上の州で多様な技術オプション、取引条件、サイトの提示を受け、原子力開発を迅速に進め、実行可能性が高く、タイムラインの確実性が見込める場所を優先し、複数の州で有力な原子力プロジェクト候補を既に選定済み。現在、最終的な協議を進めており、年内にも完了する見通しだ。この他、Meta社は今年3月、大手IT企業を含む14社による「2050年までの世界の原子力発電設備容量を少なくとも3倍に増やす」という目標を支持する誓約書に署名している。
04 Jun 2025
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国際原子力機関(IAEA)原子力エネルギー局は5月13日、小型モジュール炉(SMR)とそのエネルギーミックスにおける潜在的な役割について、各国政府、規制当局、業界関係者への情報提供を目的とした新たなイニシアチブとして、SMRスクールを発足、実施したと明らかにした。初回のスクールは5月5日~9日にかけて、ケニア政府主催で首都ナイロビにて開催された。アフリカ諸国に焦点をあて、ケニアをはじめ、ガーナ、ニジェール、ナイジェリア、ウガンダ、ザンビアで原子力プログラムを実施している組織の公務員、政策立案者、管理者など28人が参加した。スクールでは、技術開発と実証、法的枠組み、利害関係者の関与、安全性、セキュリティ、セーフガードなど、SMRの主要な側面をカバー。参加した各国高官らは、将来の原子力導入に向けた理解を深めた。ケニア国営企業の原子力発電・エネルギー機構(Nuclear Power and Energy Agency: NuPEA)のS. エセンディCEO代理は、「ケニアは、原子力の新規参入国として、クリーンで手頃な価格のエネルギーへのアクセスのギャップを埋め、産業の成長を支え、再生可能エネルギーの野心を補完する上で、SMRの重要な役割を認識している」と述べ、「このスクールは、技術チーム、規制当局、将来のリーダーに、原子力技術を責任ある形で展開するためのノウハウを提供する触媒となる」とその意義を強調した。ナイジェリア原子力委員会のR. A. オグノラ氏も、「技術的な発表、議論、経験の共有により、SMRの展開と規制上の考慮事項について理解が深まった」「安全かつ効果的な原子力プログラムの構築を支援する出版物やサービスについて学ぶことができた。この知識は、原子力発電プログラム開発のマイルストーンを進める際の有益な情報となる」と評価した。アフリカでは原子力発電が拡大しつつあり、IAEAは各国が安全かつセキュアな原子力エネルギーに必要なインフラ整備を支援している。エジプトは4基のロシア製大型炉からなるエルダバ発電所(VVER-1200)を建設しており、南アフリカはアフリカ大陸で唯一稼働するクバーグ発電所(PWR、97.0万kW×2基)に加え、原子力発電プログラムの拡大を計画している。更に多くのアフリカ諸国が、エネルギーミックスの一環でSMRの導入を検討しているところだ。大型炉の数分の一のサイズのSMRは、世界中で現在開発が進められており、中国とロシアは既に初プラントを配備している。2023年にドバイで開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)で原子力発電の拡大に関する世界的なコンセンサスが浮上する中、SMRを太陽光や風力などの再生可能エネルギーと並行して取り組み、開発の初期費用を抑え、柔軟性を持つ原子力発電としてより身近な選択肢になることが期待されている。 IAEAのD. ハーン・プラットフォームコーディネーターは、「各国がエネルギーと開発の課題に向けてクリーンで信頼性の高いエネルギーの解決策を求める中、原子力エネルギー、特にSMRの選択肢がますます注目されている」と指摘。「IAEA SMRスクールは、この有望な新技術の開発と展開に関連する一連の問題について各国がより深く理解するため重大なギャップを埋めることを目的としている」と付け加えた。次回のIAEA SMRスクールは、タイ・バンコクで、7月21日~25日に開催され、アゼルバイジャン、カンボジア、エストニア、ヨルダン、カザフスタン、クウェート、マレーシア、モンゴル、サウジアラビア、セルビア、タイ、ウズベキスタンからの参加者を迎える。8月25日~29日には、アルゼンチン・ブエノスアイレスで開催され、アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、コロンビア、ドミニカ共和国、エルサルバドル、グアテマラ、ジャマイカ、パラグアイ、ペルーからの参加者が予定されている。
03 Jun 2025
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カナダを拠点とするARCクリーン・テクノロジー社は5月13日、カナダの新興エネルギーインフラ開発企業のニュークレオン・エナジー(Nucleon Energy)社とMOUを締結した。ニュークレオン社がカナダ・アルバータ州および米国・テキサス州で進める熱電併給施設および発電施設の開発において、ARC社製の先進SMR設計「ARC-100」(ナトリウム冷却小型高速炉)の設置可能性を共同で検討する。今回のMOU締結は、ARC社にとって北米における商業展開戦略の新たな重要な一歩であり、重工業や電力網の脱炭素化に向けたニュークレオン社のクリーンエネルギーサイトの開発方針に沿ったもの。両社はニュークレオン社が現在開発中の発電サイトへのARC-100の導入をはじめ、北米での複数展開を視野に設置候補地の評価で協力し、カナダと米国での規制手続きを進めていく考えだ。ARC-100は、第4世代のナトリウム冷却・プール型の高速中性子炉で、電気出力は10万kW。電力とプロセス熱の両方の用途向けに設計されており、石油・ガス、精製、化学分野などにおける脱炭素化イニシアチブに適している。同炉の技術は、米エネルギー省(DOE)傘下のアルゴンヌ国立研究所で30年以上運転された「実験増殖炉Ⅱ(EBR-Ⅱ)」で実証済みだ。ARC社はARC-100の導入計画について、カナダのニューブランズウィック・パワー(NBパワー)社と提携、同社のポイントルプロー発電所(Candu炉、70.5万kWe)サイトで進めている。NBパワー社は2023年6月、同サイトにARC-100を1基建設するため、サイト準備許可(LTPS)をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請した。ARC-100は現在、CNSCが実施する正式な許認可申請前の任意の設計評価サービス「ベンダー設計審査(VDR)」の第2段階(許認可上、障害となる点を特定)にある。
03 Jun 2025
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米国のニュースケール・パワー社は5月29日、米原子力規制委員会(NRC)から、同社製の小型モジュール炉(SMR)のニュースケール・パワー・モジュール(PWR型NPM、7.7万kWe)の標準設計承認(SDA)を取得した。NRCに2023年1月にSDAを申請、同7月に受理されていた。ニュースケール社は、米国でSMR設計の設計承認を受けた唯一のSMR開発企業であり、2020年9月のNPM(5万kWe)の設計に対するSDA取得に続き、今回で2回目。今回の7.7万kWe版の承認は、5月28日のNRCスタッフによる最終安全評価報告書(FSER)の発行に基づくもの。出力を増強した7.7万kWe版の設計は、当初、顧客であったユタ州公営共同事業体(UAMPS)が希望する出力レベルに応じて、同NPMを6基搭載した原子力発電設備VOYGR-6(合計出力46.2万kWe)の建設を念頭に置いていたものの、2023年11月に経済性を理由に同建設計画は打ち切りとなっている。今回のSDA発給により、ニュースケール社の独占的なグローバル戦略パートナーで、同社のSMRの商業化、流通、展開の独占権を有するENTRA1エナジー社は、同SMRを内蔵したENTRA1エナジー・プラントにより、オフテイカーや消費者に信頼性の高いカーボンフリーのエネルギーを供給していく計画だ。初号機は2030年までの導入目標としている。7.7万kWe版の設計は、すでに承認された5万kWe版のNPMを部分的にベースにし、運転システムと安全機能において、対流や重力などの自然の受動的安全機能を継続して採用。固有の安全性能により異常な状況下で原子炉を自動停止し、人の介入や追加の注水、外部からの電力供給なしで原子炉の冷却が可能である。また、出力増強とモジュール数の調整により増加する容量ニーズに対応、プラントの建設と運用の全体的な経済性も向上している。当初は今夏の終わりに承認される予定だったが、NRCの審査プロセスが早期に完了した。なお、ニュースケール社は2016年12月に5万kWe版の設計認証(DC)審査をNRCに申請しており、2017年3月にNRCは受理。その後、米国内で建設可能な標準設計の一つとして認証適用するための規制手続き「最終規則」の策定の完了を受け、2023年1月にSMRとしては初となるDCが発給された。DCの発給により、今後、建設運転一括認可(COL)や建設許可の申請(CPA)において設計に関する審査を受ける必要がなくなるため、審査の大幅な合理化が期待される。米エネルギー省(DOE)はこれまで、ニュースケール社のSMRプラント設計と許認可取得活動に5.75億ドル(約825億円)以上を支援しているという。ニュースケール社のJ. ホプキンスCEOは、「今回のSDA発給は、ニュースケール社だけでなく、業界全体にとって歴史的な出来事。当社は10年以上にわたり、厳格な安全基準で国内外に認められるNRCと設計承認に向けて協力してきた。当社はENTRA1社と、クリーンで信頼性が高く、安全なエネルギーをオフテイカーと消費者に幅広く供給していく」と語った。ニュースケール社のSMRはモジュール統合型のPWRで、7.7万kWの電力、25万kWの熱を生成するNPMを最大12基連結。顧客のニーズに合わせて柔軟に拡張可能である。発電、地域暖房、海水淡水化、商業規模の水素製造、その他のプロセス熱として供給し、世界中の多様な顧客にサービスを提供する体制を整えているという。ニュースケール社は現在、ルーマニアのロパワー・ニュークリア(RoPower Nuclear)社が計画する、NPM(7.7万kWe)を6基備えた合計出力46.2万kWeのSMRプラントの基本設計(FEED)作業を実施中。また製造パートナーである韓国の斗山エナビリティ社と協力して12基のNPMを製造中で、受注の拡大を目指している。
02 Jun 2025
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アラブ首長国連邦(UAE)の首長国原子力会社(ENEC)と米GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社は5月27日、UAEのアブダビで、GVH社製のSMRであるBWRX-300の国際展開に向けて、包括的なロードマップの評価と策定で協力するMOUに調印した。MOUは、次世代原子力技術の評価と潜在的な展開を加速するために創設されたENEC社のADVANCEプログラムの一部。ENEC社はバラカ原子力発電所(韓国製APR1400×4基)以外にも、クリーン電源である原子力による、エネルギー安全保障と持続可能性の推進のため、UAE国内外での投資、協力、展開の機会の開拓に重点を置いている。今回のMOUは、2023年にドバイで開催された第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)の際に締結された協力の覚書に続くもの。両社は、原子力が急増する電力需要を満たす重要なソリューションであるとの共通認識のもと、サイトの特定、許認可手続き、投資と商業化戦略、サプライチェーンの開発など、ロードマップの策定において協力を深化し、国際展開の機会を探っていく計画だ。今回のMOUにはENEC社のM. アルハマディCEOとGEベルノバ社の電力部門M. ジンゴーニCEOが世界公益事業会議への出席を機に調印。ENEC社のアルハマディCEOは、「先進炉によるUAEおよび国際市場での展開を加速するため、GVH社との協力の前進を嬉しく思う。両社のノウハウを結集し、安全で効率的かつ品質主導の原子力の展開に向けたロードマップを策定していく」と語った。ジンゴーニCEOは、「SMRは、エネルギーの安全な未来において重要な役割を果たす。カナダと米国でBWRX-300のプロジェクトが進められており、ENEC社との協業はUAEとの関係をさらに強化するものだ」と述べた。GVH社製BWRX-300は、電気出力30万kWの次世代BWR。2014年に米原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得した第3世代+(プラス)炉「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」をベースにしている。5月8日、カナダのオンタリオ州はダーリントン・サイトへのBWRX-300初号機の建設計画を承認。5月20日には、米テネシー峡谷開発公社(TVA)は、米国初となるBWRX-300の建設許可を申請している。
30 May 2025
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韓国水力・原子力(KHNP)は5月20日、新ハヌル3号機(PWR=APR1400、140.0万kW)を着工した。新ハヌル3、4号機は2023年6月に産業通商資源部(MOTIE)から実施計画の承認を受け、発電所建設のための用地取得工事を実施。2024年9月には原子力規制機関の韓国原子力安全委員会(NSSC)から建設許可を取得し、主要建物の基礎掘削工事を開始していた。新ハヌル3号機は、2032年に完成する予定。KHNPのJ. ファンCEOは「新ハヌル3、4号機の建設を安全に、スケジュール通り、予算内で実施する目標を達成し、世界の原子力発電所建設市場で、韓国の原子力産業の地位をさらに高めるよう最善を尽くす」と述べた。新ハヌル3、4号機をめぐっては、KHNPが2016年1月、NSSCに両機の建設許可申請を行ったが、当時のムン・ジェイン(文在寅)大統領による脱原子力政策下で、2017年の「エネルギー転換(脱原子力)ロードマップ」と「第8次電力需給基本計画」に基づき、建設計画が一時白紙化されていた。2022年5月に就任したユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領の政権下で両機の新設計画が復活した。新ハヌル3、4号機は韓国製の第3世代の140万kW級PWR設計「改良型加圧水型炉(APR1400)」を採用し、すでに運転中のセウル1、2号機(旧名称:新古里3、4号機)、新ハヌル1、2号機(旧名称:新蔚珍1、2号機)および建設中のセウル3、4号機(旧名称:新古里5、6号機)を含めると、韓国国内における7、8基目のAPR1400となる。 海外では、韓国が初めて海外に輸出したアラブ首長国連邦(UAE)のバラカ原子力発電所で同炉(計4基)が採用され、全基が運転中である。韓国では、2025年2月に産業通商資源部(MOTIE)が「第11次電力需給基本計画」を発表、原子力発電を拡大する方針を示した。同計画では、セウル原子力発電所3、4号機と新ハヌル原子力発電所3、4号機の建設プロジェクトは計画どおりに進められ、運転期間が満了となる原子炉の運転期間延長と並行して、2038年までに新規大型炉2基と小型モジュール炉(SMR)1基の建設が計画されている。
30 May 2025
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