カナダ中西部アルバータ州の外国投資誘致機関であるインベスト・アルバータ社(IAC)は3月23日、米ARCクリーン・テクノロジー社のカナダ法人(ARCカナダ社)と了解覚書を締結、同州内でARC社製の第4世代小型モジュール炉(SMR)「ARC-100」の建設と商業化に向けて協力することになった。「ARC-100」はナトリウム冷却・プール型の高速中性子炉で、電気出力は10万kW。同炉の技術は、米エネルギー省(DOE)傘下のアルゴンヌ国立研究所で30年以上運転された「実験増殖炉II(EBR-II)」で確認済みのものである。アルバータ州は天然資源豊富なカナダの中でも特に、石油や天然ガスの資源に恵まれており、州内には重工業やエネルギー企業の本社が多数置かれている。今後はSMRが生み出す無炭素な電力や熱を活用して、水素製造や医療用放射性同位体の生産、オイルサンドからの燃料抽出、化学製品の製造、鉱山業、海水脱塩といった産業の脱炭素化を推進。低炭素社会への移行に際しても、エネルギー生産州としての立場を維持していく方針だ。ARCカナダ社によると、「ARC-100」の小規模な設計や熱電併給可能という柔軟性、化石燃料に対するコスト面の競争力の高さは、同州にとって理想的な無炭素エネルギー源となる。そのためIACは、今回の覚書を通じて州内複数地点での「ARC-100」建設に向けた支援を行うとしており、間欠性のある再エネをSMRで補うことで同州の脱炭素化戦略を進める。一方のARCカナダ社は、IACによる支援の下で同州の関係者や産業界との連携を深め、複数の「ARC-100」の製造・建設と運転に不可欠のサプライチェーンを構築し、関連サービスを提供していく考えだ。アルバータ州は2021年4月、カナダ国内のオンタリオ州とニューブランズウィック(NB)州およびサスカチュワン州の3州が2019年12月に締結した「多目的SMR開発・建設のための協力覚書」に参加。2022年3月には、これら4州でSMRの開発と建設に向けた共同戦略計画を策定している。アルバータ州ではまた、テレストリアル・エナジー社が開発した小型モジュール式・一体型溶融塩炉(IMSR)の建設を念頭に、IACが2022年8月に同社と覚書を締結。今年1月には、米X-エナジー社の小型ペブルベッド型高温ガス炉「Xe-100」の州内建設を通じて同州経済活性化の可能性を探るため、IACが同社のカナダ法人と了解覚書を締結している。ARC社の社名は元々、アドバンスド・リアクター・コンセプツ社だったが、その後はARCニュークリア社、ARCクリーン・エナジー社と変更していき、現在はARCクリーン・テクノロジー社と呼称している。ARC社は2018年7月、カナダ東部NB州の州営電力であるNBパワー社と協力合意しており、同社が州内で運転するポイントルプロー原子力発電所内で、2029年までに「ARC-100」を完成させる計画だ。これにともない、同社はNB州セントジョンに初のカナダ事務所を設置している。同州ではまた、北部ベルドゥーンの港湾管理局が2022年11月にARCカナダ社の提案を受け入れ、「ARC-100」の建設に向けて米国のプロジェクト開発企業と協力することになった。(参照資料:ARCクリーン・テクノロジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Mar 2023
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ロシアの原子力総合企業ロスアトム社の発表によると、同社の傘下企業がベラルーシで建設しているベラルシアン原子力発電所2号機(120万kW級ロシア型PWR:VVER-1200)が3月25日、初めて最小制御可能出力(MCP)レベルに到達した。MCPレベルとは、原子炉が核分裂連鎖反応を安定した状態で維持する臨界条件に十分な1%未満の出力を指す。同国のA.ルカシェンコ大統領は今月6日にベラルシアン原子力発電所を視察した際、同機を4月にも国内送電網に接続する方針を表明。同日の国営ベルタ通信は、エネルギー省のV.カランケビッチ大臣が今年10月に同機の商業運転を開始すると述べたことを伝えている。同機は今後、起動試験の最終段階に移行し、設計性能や物理的諸特性を確認、安全系や制御システム全体の信頼性もチェックする。これらの結果を規制当局に報告し、起動許可を取得した後は出力を徐々に上昇させていき、40%レベルで試験的に送電網に接続。4月から9月までの試運転期間中に、定格まで出力を上げていく計画である。旧ソ連邦に属していたベラルーシはウクライナと国境を接しており、1986年のチョルノービリ原子力発電所事故では甚大な放射線被害を被った。しかし、エネルギー資源が乏しいため、1次エネルギーの8割を輸入に依存。同国はこのため、1990年代後半に原子力の導入に関する実行可能性調査を実施していた。同国初となるベラルシアン原子力発電所については、福島第一原子力発電所事故直後の2011年3月15日、ルカシェンコ政権がロシアと政府間協定を締結、これに基づいて建設することになった。総工費の90%をカバーする100億ドルの低金利融資など、ロシア政府の全面的な支援を受けて2013年11月に1号機(VVER-1200)がベラルーシのフロドナ州オストロベツで本格着工した後、翌2014年4月には2号機の建設工事を開始した。 1、2号機はともに、第3世代+(プラス)のVVER-1200 の最新モデル「AES-2006」を採用しており、ロスアトム社は同設計が国際原子力機関(IAEA)の求める安全要件や国際基準を満たしていると強調。動的と静的の2種類の安全系を備えており、コンクリート製の二重格納容器や、設計基準外事象の発生時に放射性物質の漏洩を防ぐコア・キャッチャーも装備している1号機はすでに2020年11月に国内送電網に初めて接続され、2021年6月に同国初の商業炉として営業運転を開始した。ルカシェンコ大統領によると、同機はこれまでに125億kWh以上発電するなど順調に稼働しており、電力供給の大部分をロシアからの輸入天然ガスに依存する同国で、30億m3以上の天然ガス利用を削減。同国が節約した天然ガスの輸入経費は、4億ドル以上にのぼっている。(参照資料:ロスアトム社、ベラルシアン原子力発電所の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Mar 2023
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カナダ、米国およびポーランドで、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」の建設を計画している各事業者は3月23日、GEH社が世界中で同炉の建設プロジェクトを円滑に進められるよう、チームを組んで「BWRX-300」の標準設計開発に協力することで合意した。これら4者の協力合意は同日、関係3か国の政府代表が参加した米ワシントンDCでのイベントで明らかにされた。カナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社は、ダーリントン原子力発電所で2028年末までに「BWRX-300」初号機を完成させることを計画中。2022年10月にカナダ原子力安全委員会(CNSC)に建設許可申請を行うとともに、サイトの準備作業も実施している。米国のテネシー峡谷開発公社(TVA)は、テネシー州クリンチリバー・サイトで「BWRX-300」を建設する可能性に基づき、2022年8月に予備的な許認可手続きを開始した。ポーランドのシントス・グリーン・エネルギー(SGE)社は同国のPKNオーレン社との合弁企業により、2033年以降の完成を念頭に「BWRX-300」初号機の建設サイトの選定作業を始めている。「BWRX-300」の原子炉容器や炉内構造物など、主要機器の標準設計開発や詳細設計にかかる約4億ドルと見積もられる費用の一部をこれら3事業者が負担。カナダや米国、ポーランドも含め、様々な法制が敷かれている複数の国で、「BWRX-300」の許認可手続きや建設工事が可能になるよう、標準設計開発のための「設計センター作業グループ」を共同で設置する方針である。GEH社のJ.ワイルマン社長兼CEOは、「今回の協力体制によってチームのメンバーそれぞれに利益がもたらされるだけでなく、エネルギーの供給保証や脱炭素化を推進するその他の国においてもSMRが果たす役割の有効性が実証される」と指摘。GEH社はSMRの開発と製造にかかるコストの管理に体系的に取り組んでいることから、この協力を通じて「BWRX-300」のコスト面の競争力も強化されるとしている。「BWRX-300」は出力30万kWの次世代原子炉で、2014年に米国の原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得したGEH社の第3世代+(プラス)型炉「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」の技術や機器を最大限に活用している。カナダではすでに今月15日、「BWRX-300」はCNSCが提供している任意の予備的設計評価サービス「ベンダー設計審査(VDR)」の主要部分をクリア。VDRは対象設計がカナダの規制要件に適合しているか、正式な許認可手続きに先立ち評価するもので、GEH社はこの直後の同月21日、「BWRX-300」の原子炉圧力容器(RPV)のエンジニアリング契約を、BWXテクノロジーズ(BWXT)社のカナダ支社に発注した。ポーランドでは、SGE社とPKNオーレン社の合弁企業であるオーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社が2022年7月、「BWRX-300」に対する国家原子力機関(PAA)の包括的な評価見解を求めて、GEH社の技術文書に基づいてまとめた文書を提出している。GEH社はこのほか、同炉を英国の包括的設計審査(GDA)にかけるため、昨年12月に申請書をビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)に提出した。同国の原子力規制局(ONR)と環境庁(EA)は約5年をかけて、対象設計が安全・セキュリティ面と環境影響面で英国の基準を満たしているか評価中である。(参照資料:GE社、OPG社、TVAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Mar 2023
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米国のBWXテクノロジーズ(BWXT)社は3月21日、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」について、原子炉圧力容器(RPV)のエンジニアリング契約を受注した。実際の契約業務はカナダ・オンタリオ州にあるBWXT社のカナダ支社が実施予定で、具体的にはRPVのエンジニアリング解析や設計支援、製造および資機材調達の準備など。これは2021年10月、GEH社とBWXTカナダ社が「BWRX-300」の商業化促進に関する協力で合意したことに基づいている。BWXT社のJ.マッコーリー商業活動担当社長は、「『BWRX-300』用RPVのように複雑な機器のエンジニアリング・プロジェクトは当社の得意とするところだ」とコメント。原子力機器の設計・製造で同社が保有する優れたエンジニアリング能力により、北米でのSMR建設に向けた最初の設計契約の一つを効率的に実行していくと述べた。GEH社によると、「BWRX-300」は電気出力30万kWの軽水炉型SMRで、2014年に米原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得した第3世代+(プラス)の同社製原子炉「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」の技術や機器を最大限に活用している。同炉では受動的安全システムが様々な形で組み込まれており、設計を大幅に簡素化したことで、単位出力当たりの資本コストはその他のSMRと比べて大幅に削減されている。 「BWRX-300」はまた、今月15日にカナダ原子力安全委員会(CNSC)が提供している任意の設計評価サービス「ベンダー設計審査(VDR)」の主要段階をクリア。実際の建設に向けて、GEH社は指摘された事項を同炉にフィードバックする方針だ。「BWRX-300」の初号機としては、カナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社がダーリントン原子力発電所内での建設を計画中で、2022年10月に建設許可申請書をCNSCに提出。2028年第4四半期の完成を目指して準備作業を進めており、今年1月に同社はGEH社に加えて、カナダで加圧重水炉(CANDU)事業を手掛けるSNC-ラバリン社、および建設大手のエーコン(Aecon)グループと6年契約でチームを組む協定を締結している。カナダではこのほか、中西部サスカチュワン州のサスクパワー社が州内で「BWRX-300」を建設すると発表、米国ではテネシー峡谷開発公社(TVA)がテネシー州での建設可能性に基づき、予備的な許認可手続きを開始した。また、エストニアのフェルミ・エネルギア社とポーランドのオーレン・シントス・グリーン・エナジー社も、「BWRX-300」の建設を計画している。(参照資料:BWXT社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Mar 2023
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米ジョージア・パワー社は3月20日、ジョージア州のA.W.ボーグル原子力発電所で建設中の4号機(PWR、110万kW)で、温態機能試験を開始したと発表した。燃料の装荷に先立ち、同試験では4台の冷却材ポンプが放出する熱を使って、原子炉システムで通常運転時の温度や圧力が得られるか確認。これらの定常化後は、メイン・タービンについても通常速度で安定的に回転すること等を確認する。同発電所では今月6日、4号機と同型で同じく2013年から建設中の3号機(PWR、110万kW)が米国で約30年ぶりの新規炉として、また同国初のウェスチングハウス(WH)社製AP1000として臨界条件を達成。同機の運転開始は5月か6月になる見通しである一方、4号機については今年の第4四半期後半~2024年第1四半期の終わり頃になるとしている。(参照資料:ジョージア・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Mar 2023
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英国のロールス・ロイスSMR社は3月21日、フィンランドとスウェーデンで同社製小型モジュール炉(SMR)の建設機会を共同で模索していくため、フィンランドの国有エネルギー企業フォータム社と協力覚書を締結した。同社はまた、ロシアと戦争中のウクライナで住宅や電力設備を再建する動きがあることから、将来的な戦後の復興支援として同国でSMRを建設することを念頭に、20日付でウクライナの民生用原子力発電公社であるエネルゴアトム社とも協力覚書を交わしている。フォータム社は、フィンランド国内でロビーサ原子力発電所を所有・運転する大手エネルギー企業。2022年11月からは、同国とスウェーデンの両国で大型炉やSMRなど原子炉の新設に向けた2年計画の実行可能性調査(FS)を開始した。原子炉の新設を可能にするための必須条件を、これら2か国で技術面や商業面、社会面から特定する方針。同社の戦略的優先事項として、北欧諸国に原子力で信頼性の高いクリーン・エネルギーをもたらし、産業界の脱炭素化を促すとしている。同社がロールス・ロイスSMR社と結んだ協力覚書はこのFSの一部であり、フォータム社は新しいパートナーシップやビジネスモデルに関する調査も実施する。ただし、フォータム社はロールス・ロイスSMR社のほかに、独自のSMRを開発中のフランス電力(EDF)やスウェーデンのプロジェクト開発企業であるシャーンフル・ネキスト(Kärnfull Next)社、およびフィンランド・ヘルシンキ市営のエネルギー企業であるヘレン社ともSMR建設に向けた協力覚書を締結済み。フォータム社としての最終的な投資判断は、後の段階で下すとしている。ロールス・ロイスSMR社は、英ロールス・ロイス社が80%出資する子会社として2021年11月に設立された。同社製SMRは既存のPWR技術を活用した出力47万kWのモジュール式SMRで、少なくとも60年間稼働することができる。同炉はベースロード用電源としての役割を果たすほか、間欠性のある再生可能エネルギーを補うことで、再エネ電源の設置容量拡大を支援。英国では2030年代初頭にも、SMR発電所を送電網に接続することを目指している。ロールス・ロイスSMR社とエネルゴアトム社の協力覚書 ©Energoatomエネルゴアトム社と結んだ協力覚書では、ロールス・ロイスSMR社はSMRの建設を通じて、ウクライナの100万戸以上の世帯に十分な無炭素電力を60年以上にわたり供給し、エネルギーの自給と供給保証の再構築を支援すると表明。同社のT.サムソン社長兼CEOは、「英国の原子力技術でウクライナの速やかな再建を後押ししていきたい」と述べた。これに対してエネルゴアトム社のP.コティン総裁は、「ウクライナは引き続きエネルギーの自給に向けた努力を続けていくが、先進的な原子炉技術が無ければ難しい」と指摘。「今回の協力覚書を通じて、ウクライナは戦後のエネルギー・インフラを高品質なものに作り替え、有望なSMR技術を導入した最初の国の一つになる」と表明している。(参照資料:ロールス・ロイスSMR社、フォータム社、エネルゴアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Mar 2023
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米国政府で海外援助を担当する貿易開発庁(USTDA)は3月20日、インドネシアで米国製小型モジュール炉(SMR)の建設を支援するため、同国の国有電力会社であるインドネシア・パワー社に技術支援金を提供すると発表した。インドネシアがクリーン・エネルギー経済に移行する際の一助となるよう、インドネシア・パワー社は西カリマンタン州で建設する同国初のSMRとして、米ニュースケール・パワー社の「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を選定。同社はUSTDAの支援金を使って、ニュースケール社に出資するEPC(設計・調達・建設)サービス企業の米フルアー社や日揮とともに、ニュースケール社が提案する出力46.2万kWのSMR発電設備「VOYGR-6」(出力7.7万kWのNPM×6基)の建設について、技術面や経済面の実行可能性を評価する。具体的な作業としては、詳細なサイト選定計画の策定や送電網に接続するシステムとSMR発電所の設計、環境や社会に対する影響の予備的評価、リスク評価、コスト見積もり、規制体制の見直し等を実施する。USTDAの今回の決定は、バリ島で開催されていた「インド太平洋ビジネス対話」にともない発表された。インドネシアが現在、エネルギー供給を確保しつつ温室効果ガスの排出量を抑える目的でSMRの建設を検討していることから、米国は同国の原子力によるクリーン・エネルギー・プログラムの策定をサポートするため、同国と戦略的パートナーシップを締結している。両国政府が交わしたこのような合意覚書や支援金の交付決定は、G7諸国が発展途上国のインフラ・プロジェクトに資金提供するため設置した「グローバル・インフラと投資のためのパートナーシップ(PGⅡ)」の成果。この合意により、昨年11月に米国や日本がクリーン・エネルギーへの移行に向けたインドネシアの取り組みを支援するため、同国で立ち上げた、「公正なエネルギー移行パートナーシップ(インドネシアJETP)」の目標達成を目指すことになる。米国政府はまた、国務省(DOS)が2021年4月に開始した「SMR技術の責任ある利用のための基盤(FIRST)」プログラムの下、両国間のこれまでの連携協力に基づきインドネシアで新規電源を建設するための支援金として、米国側から新たに100万ドルを交付すると決定。SMR分野の人材育成や許認可、規制関係の支援を提供することになる。これらを通じて、米国はASEAN諸国における安全・確実かつ先進的な原子炉の建設でインドネシアの主導的立場が強化されるよう協力し、2060年までに同国が目指しているCO2排出量の実質ゼロ化をサポートしていく考えだ。インドネシア・パワー社のE.N.プトラ社長は、「長い年月を経て我が国は今こそCO2を排出しないエネルギーで自給自足を達成する」と表明。「SMR建設に向けたUSTDAの技術支援協力を通じて、当社は国立研究革新庁(BRIN)や経済担当調整省、ニュースケール社とともに原子力発電による新たな時代への扉を開けた」と述べた。USTDAのE.T.エボン長官は、「クリーン・エネルギーへの移行に際しインドネシアは米国との協力を強く望み、目標達成の手段として米国の画期的な技術を選択した」と指摘。インドネシアで最も意欲的かつ注目すべきインフラの建設プロジェクトを進めるため、USTDAは唯一無二の役割を果たしていくと表明している。インドネシアでは電力需給のひっ迫等を理由に、1980年代に原子力発電の導入が検討されたが、建設予定地における火山の噴火や地震の可能性、福島第一原子力発電所事故などが影響し、100万kW級大型炉の導入計画はこれまで進展していない。一方、初期投資の小ささや電力網への影響軽減等の観点から、中小型炉への関心は維持されており、インドネシア原子力庁(BATAN)は2018年3月、大型炉導入の前段階として小型高温ガス炉(HTGR)を商業用に導入するため、熱出力1万kWの実証試験炉の詳細工学設計を開始している。(参照資料:USTDA、在インドネシア米国大使館の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Mar 2023
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台湾電力は3月14日、台北に近い國聖原子力発電所2号機(BWR、103.4万kW)を永久閉鎖した。同機は40年の運転期間を満了した。翌15日から同機は廃止措置期間に入っており、行政院の原子能委員会(AEC)は閉鎖後も同機が安全要件を満たしているか引き続き監督する。台湾電力の廃止措置計画では、25年間以内に廃止措置を完了する予定である。AECによると、國聖発電所の使用済燃料貯蔵プールはほぼ満杯であるため使用済燃料を直ちに取り出すことができない。AECは同様の状況にある原子炉の国際的な管理方法を参照して、対応する方針だという。台湾では2016年に民進党の蔡英文総統が就任し、脱原子力に向けたエネルギー政策を立案。立法院は翌2017年1月、「非核家園(原子力発電のないふるさと)」を2025年までに実現するという方針を電気事業法改正案に盛り込み可決したが、2018年11月の公民投票により「2025年まで」という期限は条文から削除されている。 非核家園を目指す方針はその後も維持されており、台湾電力は2018年12月に台湾の商業炉として初めて、金山1号機(BWR、66.6万kW)を閉鎖したほか、翌2019年7月には同2号機(BWR、66.6万kW)を閉鎖。國聖1号機(BWR、102.7万kW)については、40年の運転認可が満了する約半年前の2021年7月に閉鎖している。台湾電力は、國聖2号機の閉鎖にともなう電力不足への懸念に対し、電源開発と送電網の整備に関する長期計画で対応中だと説明。原子力以外の発電設備の年次メンテナンス期間や発電スケジュールを事前に調整し、3月末までに石炭や天然ガスなどの火力で中型と大型のユニットを複数、保守点検から復帰させる。4月にはさらに複数基が再稼働するため、これらの総設備容量は國聖2号機の出力を上回るとした。また、天然ガス火力はCO2の排出量が少ないことから設備の新設を積極的に推進しており、現在5カ所のプロジェクトを同時並行的に進めている。送電網の整備も引き続き強化中で、台湾電力は過去5年間に合計1,000億元(約1兆6,900億円)以上を送電網の改善に投資した。これにより、自然災害や故障等による配電事故や停電件数も、2015年の約15,000件が2022年には約5割減少し、約8,000件になったと強調している。國聖2号機の閉鎖により、台湾で稼働可能な商業炉は馬鞍山原子力発電所の2基(各PWR、約100万kW)のみとなった。建設中だった龍門原子力発電所については、反原子力運動の高まりを受けて国民党の馬英九・前政権が2015年7月、ほぼ完成していた1号機(ABWR、135万kW)を密閉管理としたほか、2号機(ABWR、135万kW)の建設工事を2014年4月に凍結している。(参照資料:原子能委員会、台湾電力の発表資料(中国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Mar 2023
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米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は3月15日、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が同社の小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」(出力30万kW)で実施している「ベンダー設計審査(VDR)」で、主要部分である第1、第2段階が完了したと発表した。CNSCは19の審査分野についてGEH社が提出した200以上の文書を審査した結果、「BWRX-300」には正式審査の際に根本的障害となるような課題は認められなかったと指摘。「GEH社はCSNCがカナダの原子力発電所に課している要件の意図を正しく理解している」と結論づけた。最終段階にあたる第3(フォローアップ)段階では、カナダの規制要件を厳格に順守できるよう、GEH社はCNSCが第2段階で指摘したいくつかの技術分野について詳細に検討を加え、建設に向けた設計準備で追加の策を講じるとともに、この策に対するCNSCの評価も得ていく考えだ。VDRはベンダーの要請に基づき、CNSCが提供している任意の設計評価サービス。第1段階では主に、カナダの規制要件に対する適合性を評価する一方、第2段階では根本的な課題の有無について、正式な許認可プロセスの申請に先立ち審査する。当該設計や技術に致命的な欠陥があれば、それを早い段階で特定し解決につなげていくことになる。これら2つの段階の審査を同時に進めることも可能で、CNSCは2019年12月にGEH社と交わした合意文書に基づき、2020年1月からこれらの審査を並行して開始。GEH社からは「BWRX-300」の概要のほか、制御システム等の設備、研究開発、設計プロセスなどに関する文書の受け取りを開始していた。出力30万kWの次世代原子炉である「BWRX-300」は、2014年に米国の原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得したGEH社の第3世代+(プラス)型炉「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」の技術や機器を最大限に活用。受動的安全系を採用しており、原子炉上部に設置した大容量冷却プールの水で、外部電源や人の介在なしに燃料を冷却することができる。GEH社で先進的原子力技術を担当するS.セクストン上級副社長は、「当社の『BWRX-300』はVDRの主要2段階の審査を完了した最初のSMRになった」と指摘。「BWRX-300」の建設に向けた重要ステップとして、指摘された事項を同炉にフィードバックしていくと述べた。「BWRX-300」の実際の建設に関しては、2021年12月にカナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社が、ダーリントン原子力発電所内で建設するカナダ初のSMRとして「BWRX-300」を選定。2022年10月には「BWRX-300」の建設許可申請書をCNSCに提出しており、同サイトで取得済みの「サイト準備許可(SPL)」に基づき、2028年第4四半期の完成を目指して準備作業を始めている。同社はまた、GEH社やSNC-ラバリン社などの関係企業3社と、今年1月に6年契約でチームを組む協力協定を締結している。GEH社によると「BWRX-300」に対する関心は世界中で高まっており、カナダではこのほか、中西部サスカチュワン州のサスクパワー社が昨年6月、同州内で2030年代半ばまでに建設するSMRとして同炉の採用を決定した。米国ではテネシー峡谷開発公社(TVA)が2022年8月、テネシー州のクリンチリバー・サイトで同炉を建設する可能性に基づき、予備的な許認可手続きを開始している。北米以外では、エストニアのフェルミ・エネルギア社が先月、2030年代初頭の完成を目指して同国で建設する最初のSMRとして選定。ポーランドでも、大手化学素材メーカーのシントス社のグループ企業が、石油化学企業大手のPKNオーレン社と合弁で2033年以降に「BWRX-300」を建設する方針である。(参照資料:CSNC、GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Mar 2023
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英国財務省のJ.ハント大臣は3月15日、議会下院で新年度の予算案を公表。その中で、原子力を環境上の持続可能性を備えたグリーン事業とみなし、英国グリーン・タクソノミーの投資対象に含める方針を明らかにした。同相はまた、小型モジュール炉(SMR)関係で政府が最初のコンペの実施を計画しており、このコンペを通じて年末までに国内外のベンダーの優れたSMR炉型をいくつか選定。建設の実行可能性が実証されたものは、政府が共同出資するとしている。同相はまず、国内で原子力を強力に支持している自治体として、かつてガス冷却炉が稼働していたウェールズのアングルシー島や現在も稼働中のイングランド北東部ハートルプール、地層処分場の受け入れを検討中のイングランド北西部カンブリア州のコープランド、国立原子力研究所の分室が存在しSMRの誘致にも関心表明している同州ワーキントンを列挙。これらの自治体が、「CO2排出量の実質ゼロ化という目標を英国が達成するには、原子力設備の拡大が極めて重要」と述べている点を指摘した。その上で同相は、国内原子力プログラムへの民間投資を促すだけでなく、公開協議という手続きにより原子力を英国のグリーン・タクソノミーに含めていくことを確認したと表明。再生可能エネルギーと同様に、原子力も投資対象となるよう促すとした。この関係で、同相はビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が昨年11月、サフォーク州のサイズウェルC原子力発電所(167万kWの欧州加圧水型炉:EPR×2基)建設プロジェクトに、政府として初めて6億7,900万ポンド(約1,089億円)の直接投資を行うと発表した事実に触れた。同相はまた、政府がこれまでの約束を踏まえ、2022年4月の「エネルギー供給保証戦略」で明示していた「大英原子力(Great British Nuclear)」を立ち上げると述べた。同組織は、明確な費用対効果を確認しながら、原子力発電施設の開発プロセスの各段階で事業者に支援を提供。これにより開発コストを削減し、原子力サプライチェーン全体にビジネス・チャンスをもたらすもので、2050年までに英国の総発電量の四分の一までを原子力で賄えるようにする考えだ。英国では、SMR関係でBEISがすでに2021年11月、ロールス・ロイスSMR社製のSMR(PWR、47万kW)に対し、民間部門の投資に対するマッチング・ファンドとして2億1,000万ポンド(約337億円)の提供を約束。2022年3月には、同SMRの包括的設計審査(GDA)の実施を原子力規制庁(ONR)に要請しており、同年4月から審査が始まった。その後ロールス・ロイスSMR社は、同年11月にSMRの建設候補地としてイングランドとウェールズの旧原子力発電サイトなど、4地点を選定している。政府の今回の予算案に対しては、英国原子力産業協会(NIA)のT.グレイトレックス理事長が同日、歓迎のコメントを発表。英国のグリーン・タクソノミーに原子力を加えることで、英国のエネルギー供給保証は一層強化され、CO2の排出量も実質ゼロ化に向けて大きく前進するとした。新たな原子力開発プロジェクトに極めて重要な投資が行われることで、原子炉開発プロジェクトへの資金調達は一層容易になり、建設コストも抑えられると指摘した。同理事長はまた、「大英原子力」が始動して新たな原子力発電所開発プロジェクトのサイト選定が進めば、発電所建設の効率性が飛躍的に増すとともにサプライチェーンの受注ルートも明確になると表明。SMRコンペにより、英国原子力産業界は世界レベルの競争に返り咲くことになり、国産その他の技術を通じてビジネス・チャンスや新たな雇用、投資の機会を確保、世界的な巨大市場に輸出するチャンスも得られると強調している。(参照資料:英政府、NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Mar 2023
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米原子力規制委員会(NRC)は3月3日、モンティセロ原子力発電所(BWR、60万kW)の運転期間延長申請を受理。22日に公開ヒアリングを開催する。1970年に運転開始した同発電所が運転期間延長を申請するのは2度目となる。モンティセロ発電所はエクセル・エナジー(Xcel Energy)社が所有しており、1970年に送電を開始。NRCは2006年11月、同発電所が当初の運転期間の40年に20年追加して運転することを承認しており、この認可は2030年9月まで有効である。エクセル・エナジー社の子会社で運転者であるノーザン・ステーツ・パワー社は今年1月、この認可にさらに20年を追加し、2050年9月まで80年間運転継続するための申請書をNRCに提出。NRCはこの申請書を受理できるか、過不足の有無を点検していた。3月22日の公開ヒアリングでは、まずNRCスタッフが運転期間の延長にともなう環境影響の評価プロセスを説明し、実施すべき評価の範囲等についてコメントを受け付ける。また、4月10日までの期間に、バーチャル会合も追加で開催する方針である。NRCはこれまで、送電開始以降の運転期間を合計で80年とする認可をターキーポイント3、4号機とピーチボトム2、3号機、およびサリー1、2号機に発給した。また、後続案件として、セントルーシー1、2号機、オコニー1~3号機、ポイントビーチ1、2号機、ノースアナ1、2号機についても、2回目の運転期間延長申請を審査中である。しかしNRCは2022年2月、今後これらの審査では地球温暖化など潜在的な環境リスク関係の基準を見直すと表明。運転期間延長の環境影響を評価する際に使われている「包括的環境影響評価書(GEIS)」の改訂方針を示した。現行GEISでは2013年時点の判明事項がまとめられているが、NRCによると同GEISでは運転期間を60年から80年に延長する際の環境影響がカバーされない。これにともない、ターキーポイントとピーチボトムの計4基については、NRCスタッフが2024年頃に環境影響問題の再評価を完了するまで、運転期間の延長が実質的に取り消された。今月3日になると、NRCはGEIS改訂方針への対応として、初回やそれ以降の運転期間延長に関する規則の修正を提案するとともに、個々の延長申請を審査する際に取り組むべき環境問題の数や範囲などを再定義した。これに対する意見を募集するため、5月2日までの期間に公開会合を複数回開催する。これらの会合で得られたコメント等を参考に、改訂規則やGEISの最終版を確定するとしている。(参照資料:NRCの発表資料①、②、③、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Mar 2023
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米国のニュースケール・パワー社は3月9日、同社製小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を備えた最初の発電所建設に向けて、昨年末に最初の長納期品(LLM)製造を韓国の斗山エナビリティ社に発注しことを明らかにした。これは昨年4月に両社が締結した契約に基づくもので、その際ニュースケール社はLLM発注の準備として、原子炉圧力容器(RPV)の上部モジュール製造に必要な鍛造金型の作製を斗山エナビリティ社に依頼。その後この鍛造金型が完成したことから、斗山エナビリティ社は今回の受注でRPV上部モジュールを構成する大型鍛造品や蒸気発生器(SG)の配管、溶接材など、6基分の総重量2,000トンを超える機器を製造する。ニュースケール社初のSMR発電所は、ユタ州公営共同電力事業体(UAMPS)が米アイダホ国立研究所(INL)の敷地内で、1モジュールの出力が7.7万kWのNPMを6基備えた発電設備「VOYGR-6」(46.2万kW)として建設する。最初のモジュールを2029年までに完成させるため、UAMPSは2024年の第1四半期を目途に建設・運転一括認可(COL)を原子力規制委員会(NRC)に申請し、2026年前半に認可を受け着工したいとしている。NRCは出力5万kWのNPMについて、2020年8月にSMRとしては初となる「標準設計承認(SDA)」を発給した。その後、最後の規制手続として「最終規則」の策定が完了したことから、今年1月にはSMRとして初の「設計認証(DC)」を発給している。ニュースケール社も同月、出力7.7万kWのNPMでSDAの取得申請をNRCに対して行った。ニュースケール社のJ.ホプキンズ社長兼CEOはLLMの発注が最終決定したことについて、「当社のSMR開発がモジュールの製造段階に移行したことを意味しており、2020年代終わりまでに最初のNPM完成が現実的となるなど、SMR市場における当社の主導的地位が一層鮮明になった」と強調している。両社はまた、将来的に実施する「VOYGR」建設プロジェクトについても、今回と同様の納期でモジュール製造が可能になるよう調整中であることを明らかにした。(参照資料:ニュースケール社、斗山エナビリティ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Mar 2023
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米国のコンステレーション・エナジー社は3月7日、ニューヨーク州北部で保有するナインマイルポイント(NMP)原子力発電所(BWR×2基、60万kW級と130万kW級)で、米国初となる水素の実証製造を開始した。同発電所では、ノルウェー企業が製作した「プロトン交換膜式(PEM)電解槽(0.125万kW)」で、一日当たり560kgの水素を製造する。発電所の冷却等に使用する水素としては十分な量だが、同社は2025年までに9億ドル以上の投資を行って商業規模の水素製造を実現し、同社のその他の原子力発電所でも水素を製造・貯蔵・活用する方針。米国社会がクリーンエネルギー経済に向かって移行するなか、原子力発電所の無炭素電力を活用したクリーンな水素の製造能力を実証するとしている。この実証プロジェクトは、同社が進めている幅広い脱炭素化戦略の一部。水素の大規模製造が成功すれば、次世代のエネルギーとして脱炭素化が難しい航空業界や長距離の輸送業、鉄鋼生産業、農業などの脱炭素化に貢献できると同社は考えている。コンステレーション・エナジー社はこのため、地方での水素製造から流通ハブの開発に至るまで、各段階に関わる国営や民営の事業体と連携協力を進めている。米エネルギー省(DOE)は昨年、水の電気分解で水素製造するシステムをNMP発電所に建設・設置するという同社の計画を承認し、「H2@Scaleプログラム」の中から580万ドルの補助金交付を決定した。同プログラムはDOEのエネルギー効率・再生可能エネルギー局(EERE)と水素・燃料電池技術室が進めているもので、水素を適正な価格で製造・輸送・貯留・活用できることを実証し、様々な産業部門の脱炭素化促進を目指している。同社の発表によると、9億ドルの投資計画の中には、DOEとの連携協力により水素製造インフラの開発プロジェクトを進めている「中西部州クリーン水素連合(MachH2)」や「北東部州クリーン水素ハブ」、「中部大西洋地域水素ハブ」に参加することも含まれている。コンステレーション・エナジー社のJ.ドミンゲス社長兼CEOは、「水素利用は温暖化問題の解決に不可欠のツールであり、当社は原子力発電所の無炭素電力活用が最も効率的かつコスト面の効果も高いことをNMP発電所で実証する」と表明。DOEとともにクリーンエネルギー関係の雇用を創出し、米国のエネルギー供給保証を強化しつつ、化石燃料に依存する多くの産業界について脱炭素化への道筋を原子力で開きたいと述べた。DOEのK.ハフ原子力担当次官補は今回、「既存の原子力発電所での水素製造が可能であることが明らかになった」と指摘。DOEは引き続き、2021年11月の「インフラ投資法」と2022年8月の「インフレ抑制法」に基づいて開始した投資を継続し、低価格な水素の提供に向けた費用分担方式のプロジェクトを支援する。水素市場を一層拡大するとともに、経済面や環境保全面における原子力の利点をさらに活用していくもの。なお、DOEはNMP発電所のほか、オハイオ州のデービスベッセ原子力発電所とミネソタ州のプレーリー・アイランド原子力発電所、およびアリゾナ州のパロベルデ原子力発電所で行われている水素製造実証プロジェクトに対しても、支援を提供中。米国では現在、水素の約95%を天然ガス火力発電所でのガス改質法によって製造しており、製造過程でCO2を排出している。DOEとしては100万kW級の原子炉一基で、電解法により年間最大15万トンの水素をCO2を排出せずに製造できると見込んでいる。(参照資料:コンステレーション・エナジー社、DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Mar 2023
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米ウェスチングハウス(WH)社は3月2日、ブルガリアのコズロドイ原子力発電所(100万kW級ロシア型PWR=VVER-1000×2基)にAP1000を1基以上建設することを視野に、コズロドイ原子力発電所増設会社(KNPP-NB社)と協力覚書を締結した。KNPP-NB社は、既存インフラや認可を活用して1~2基の原子炉増設計画を管理するため、コズロドイ発電所が設立したプロジェクト企業。この覚書に基づき、WH社とKNPP-NB社はAP1000の建設計画を立案する共同作業グループを設置する。両社間の協力を拡大して、ブルガリアにおけるエネルギー供給の強化や気候変動防止目標の達成を推進。また、同国の原子力規制に則した建設計画を合理的に進めるため、共同作業グループは同国の設計面や許認可関係の規制体系に改めて取り組んでいく方針だ。ブルガリアは2007年に欧州連合(EU)に加盟する際、設計上の安全性に懸念が表明されていた同発電所1~4号機(各44万kWのVVER)を2006年までにすべて閉鎖した。現在は5、6号機の2基だけで総発電量の約35%を賄っているが、追加の原子炉建設は1980年代から継続的に検討中。採用炉型は、その時々の政府の意向により二転三転している。2012年に経済的理由でベレネ原子力発電所建設計画を中止した際、代わりにコズロドイ発電所でWH社製AP1000を採用した7号機の建設案が浮上したものの、資金不足のためWH社との当時の協力合意は期限切れとなった。2020年に政府が7号機の建設を再検討した時点では、規制当局が建設サイトの環境影響声明書の中でWH社製AP1000とロシアのVVERの両方を承認していたが、2021年1月に政府は最終的に、「ベレネ発電所用に購入済みのVVER機器で7号機を建設するのが経済的で合理的」と表明。その一方では、同年2月にKNPP-NB社が米国のニュースケール・パワー社と協力覚書を締結しており、コズロドイ発電所では小型モジュール炉(SMR)を建設する可能性も出てきた。今年1月には、エネルギー省が2050年までカバーする新しいエネルギー戦略を公表し、コズロドイ発電所と計画中のベレネ発電所で2基ずつ建設する方針を明示している。同国議会はこれに先立ち、コズロドイ発電所の増設計画について票決を行っており、WH社製AP1000の導入に向けて、米国政府と政府間協力協定(IGA)の締結交渉を開始する方針が確定。これにともない、関係閣僚らは7号機の建設承認手続きと8号機の環境影響声明書作成を迅速化するため、3月1日までに必要な措置を講じることになっていた。WH社はすでに昨年12月、コズロドイ発電所5、6号機の1基に対し、2024年から10年間にわたり燃料供給する契約を獲得している。今回の覚書について、同社のD.ダーラム・エネルギーシステム担当社長は、「当社の技術でブルガリアに経済面や環境面の利点をもたらしつつ、エネルギーの供給保証にも貢献していきたい」と抱負を述べた。(参照資料:WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月2日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Mar 2023
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ポーランドの国営エネルギー・グループ(PGE社)と国有資産省(MOSA)が一部出資するエネルギー企業のZE PAK社は3月8日、同国中央部ポントヌフにおける韓国製原子炉の建設に向け、合弁の特別プロジェクト企業を設置する方向で予備的合意に達した。新会社はこの建設プロジェクトにおける実行可能性調査やサイト調査、環境影響評価など、両社の協力活動を実施する。これまでに行った4か月間の予備的分析調査の結果、両社はヴィエルコポルスカ県東部に位置するコニン地区のポントヌフで、韓国電力公社(KEPCO)の主導で開発された140万kW級PWR「改良型加圧水型炉(APR1400)」を少なくとも2基(合計出力280万kW)建設する可能性を視野に入れている。ポーランドの主要エネルギー・ハブの一つであるポントヌフでは、現在ZE PAK社の大規模な石炭火力発電所が稼働中だが、これら2基を新たに建設することで、ポーランドの総電力需要の約12%に相当する約220億kWhの発電が可能になる。早ければ2035年にも初号機が完成するとの見通しである。ポーランドでは2021年2月に閣議決定した「2040年までのエネルギー政策」に基づき、政府が約100万kWの大型原子炉を2043年までに6基、合計600万~900万kW建設するプログラムを進めている。PGE社が設立した原子力事業会社のPEJ社は2021年12月、北部ポモージェ県のルビアトボ-コパリノ地区を建設サイトに選定しており、最初の3基、375万kW分についてはウェスチングハウス(WH)社製AP1000の採用が決定している。J.サシン副首相兼国有資産相によると、ポーランド経済のさらなる成長を促すには強靭かつ他国に依存しないエネルギー部門が必要であり、無炭素電力を安定的に供給できる原子力発電は再生可能エネルギーと同様に重要なもの。その意味から、ZE PAK社が韓国水力・原子力会社(KHNP)との協力で進めているポントヌフのプロジェクトは同じPGE社が関わっているが、政府の原子力プログラムを補完するという位置づけであり、今回設置が合意された新会社はKHNP社の直接的なパートナー企業ということになる。企業活動用のプロジェクトという側面はあっても、実現すればポーランドにおけるエネルギーの供給保証と自給強化に資することから、政府としてはこのポントヌフのプロジェクトを全面的に支援していく考えだ。このプロジェクトについては、2022年10月に韓国の産業通商資源部(MOTIE)とポーランドのMOSAが関係情報の交換等で協力するための覚書を締結。PGE社とZE PAK社およびKHNP社はその際、企業間協力意向書(LOI)を締結した。同年末までの期間にこれら3社はポントヌフでのAPR1400の建設に向けた予備計画を作成しており、その一部としてサイトでの地震や環境面、地質工学面の条件についても予備的分析調査を実施。このような準備作業や建設段階で必要な予算の見積もりも行っている。今回、設立が決まった新会社への出資比率はPGE社とZE PAK社はともに50%で、会社としての方針は双方の合意に基づき決定する。この新会社はプロジェクトのすべての段階でポーランド側を代表することになるため、サイト調査や環境影響調査のみならず、詳細な資金調達計画の準備やその後の許認可取得等についても、韓国側と協力しながら進めていく。正式な設立までには、ポーランド競争消費者保護庁(UOKiK)の同意が必要なことから、PGE社とZE PAK社は今後直ちに申請書を提出する方針である。(参照資料:PGE社、ZE PAK 社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Mar 2023
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フランス電力(EDF)とそのイタリア法人であるエジソン社、イタリアのアンサルド・エネルギア・グループ、およびその100%子会社のアンサルド・ヌクレアーレ社は3月6日、欧州で小型モジュール炉(SMR)等の原子炉開発や建設で協力する可能性を探るため、基本合意書(LOI)に調印した。この合意は、脱原子力国であるイタリアで将来的に、エネルギー政策変更の可能性があることを見越したもので、同国での原子力発電所建設を念頭に置いている。アンサルド・ヌクレアーレ社がイタリアで主導する原子力発電部門の知見を活用し、EDFグループの新規原子力プロジェクトをともに推進。イタリアがクリーンエネルギーに移行する際、原子力発電が果たす役割についても4社は議論の口火を切る方針だ。イタリアでは1973年の石油危機を契機に原子力発電開発が加速し、1963年以降4基の商業炉が稼働したものの、チョルノービリ原子力発電所事故の影響で1990年までにこれらはすべて閉鎖された。2008年に発足したS.ベルルスコーニ政権は原子力発電の再開を試みたが、福島第一原子力発電所事故が発生したため国民投票では9割以上が原子力発電所の建設に反対、新たな国家エネルギー戦略では原子力が排除された。しかし近年は、原子力発電所が国内に存在しないにも拘わらず、原子力コースを選択する学生数が徐々に増加している。4社の協力に向けた今回の合意にともない、各社はそれぞれの技術力が生かされる協力方法を模索していく。アンサルド・エネルギア・グループが原子力を含むエネルギー分野で、関係機器の開発やサービスの提供に携わる一方、EDFは世界最大の原子力発電事業者として、新たな原子炉の開発プロジェクトも実施。これにはSMRの「NUWARD」が含まれており、アンサルド・ヌクレアーレ社とEDFは最近、同設計のエンジニアリング調査の実施契約を交わしている。また、出力120万kWの中型欧州加圧水型炉(EPR)や、通常の大型EPR(165万~175万kW)もこれに含まれている。4社はまた、イタリア国内でエネルギーの供給保証と輸入に依存しない電力供給システムの必要性が高まっていることから、同国で新しい原子力発電所の建設可能性を評価していく。イタリアでは総発電量の4割を再生可能エネルギーで賄う一方、依然として6割を天然ガス等の化石燃料で発電している。今回の協力を通じて、再エネ設備を新しい原子力発電所で補い、電力供給システムの安定性や環境面の持続可能性を確保。欧州全体やイタリアが掲げる「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化」という意欲的な地球温暖化防止目標の達成を目指す。4社はともに、原子力が最良の低炭素電源の一つであり、設備容量あたりの設置面積も小さいと認識。さらに、SMRのような革新炉では、安全性が非常に高い上に必要とされる投資額が少ない。熱電併給も可能なことから、エネルギー供給上の様々な要求にも柔軟に対応できると考えている。アンサルド・ヌクレアーレ社のR.カサーレCEOは、「今回の合意の正当性を当社は信じており、イタリアの産業界や研究機関とともに、欧州諸国の様々な原子力プロジェクトに積極的に参加する」とコメント。欧州の原子力発電に寄せられている新たな関心に対し、イタリアが提供できる高い付加価値を実証していくと表明した。(参照資料:EDF、アンサルド・エネルギア社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Mar 2023
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米ジョージア州で建設中のA.W.ボーグル原子力発電所3号機(PWR、110万kW)が3月6日、初臨界を達成した。同機は米国で約30年ぶりの新規炉であり、国内初のウェスチングハウス(WH)社製AP1000となる。同機では今後、起動試験を引き続き実施して、一次冷却系や蒸気供給システムで設計通りの性能が得られることを実証する。出力を徐々に上げて送電網に接続した後は、複数の出力レベルで試験を行いフル出力の達成を目指す。営業運転の開始までにすべてのシステムの機能と運転手順を確認する方針で、同機が供用を開始するのは2月中旬の発表通り5月か6月になる見通し。後続の4号機については、今年の第4四半期後半~2024年第1四半期の終わり頃を見込む。ボーグル3、4号機の建設工事はそれぞれ、2013年3月と11月に開始されており、サザン社傘下のジョージア・パワー社はこの建設プロジェクトに45.7%出資。このほか、オーグルソープ電力とジョージア電力公社(MEAG)およびダルトン市営電力がそれぞれ、30%と22.7%、および1.6%出資している。これら2基の運転は、同じくサザン社傘下のサザン・ニュークリア社が担当する。ジョージア・パワー社の会長と社長を兼任する C.ウォマックCEOは、「今後も起動試験のあらゆる段階で課題の解決に取り組み、3号機を安全に稼働させる」と表明した。WH社のP.フラグマン社長兼CEOも同日、「ジョージア州でこれから数世代の州民に安全で信頼性の高い電力を供給していく重要な一歩になった」とコメント。同社のAP1000により、米国の原子力開発利用に新たな時代が到来したとしている。同社は第3世代+(プラス)のAP1000について、受動的安全系を全面的に採用しておりモジュール工法が可能な省スペース型の設計だと説明。中国ではすでに世界初のAP1000が4基営業運転中であるほか、ポーランドは最初に建設する大型炉3基にAP1000の採用を決定した。ロシア型PWR(VVER)を15基備えたウクライナでも、AP1000を9基建設する計画が浮上するなど、世界中の様々なサイトで建設される可能性があると強調している。(参照資料:ジョージア・パワー社、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
07 Mar 2023
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米原子力規制委員会(NRC)は3月2日、カリフォルニア(加)州のディアブロキャニオン原子力発電所(DCPP)(各PWR、約117万kW×2基)の運転継続が同州の送電網の信頼性向上等、様々な点で有益であることを考慮し、運転期間の延長に向けた規制手続の実施を承認した。これは、DCPPの事業者であるパシフィック・ガス&エレクトリック(PG&E)社の要請を受け入れた判断。これにともない、同社はNRCが今年1月に提示した条件に従って、12月末日までにDCPPの運転期間の最大20年延長に向け、最新の申請書をNRCに改めて提出する。1984年と1985年に送電開始した同発電所1、2号機の現行の運転認可は、それぞれ2024年11月と2025年8月まで有効。PG&E社は2009年11月、これらの運転期間を60年に延長するための申請を行ったが、2016年6月には「現行認可の満了時にDCPPを永久閉鎖する」と決定、2018年3月にこの申請を取り下げていた。NRCの規制では、運転期間の延長申請書は現行認可が満了する少なくとも5年前までに提出しなければならない。NRCはこの規制の適用除外を求めるPG&E社の要請書を審査した上で、適用除外が法的に認められていることや、認めた場合でも州民の健康や安全が過度に脅かされるリスクがないこと、加州の送電網の信頼性を維持する上でも有効である点を考慮、今回の判断を下したと説明している。申請書の審査は通常約22か月かかるが、今回の適用除外により、NRCの審査期間中は現行の運転認可が有効になる見通しだ。DCPPを送電開始後40年で閉鎖するという2016年時点の判断は、この当時、供給地域における電力需要が伸び悩み、再生可能エネルギーの発電コストが低下したことなどが背景にあった。加州の公益事業委員会(CPUC)もこの計画を承認していたが、同州では2020年夏に厳しい熱波に見舞われ、G.ニューサム知事は緊急事態を宣言、電力会社には計画停電を指示する事態となった。同様の宣言は、同じく熱波と電力需給のひっ迫が懸念された2022年も発出されており、ニューサム知事は州議会議員に対しDCPPの運転期間延長に向けた立法を提案している。DCPPはまた、加州における総発電量の約9%を賄っているほか、無炭素電力については約17%を供給。DCPPの運転を継続することは、加州の天然ガスへの依存度を軽減するだけでなく一層多くの無炭素電力を州民に提供することになる。このような事実や州知事の提案を踏まえ、加州の議会下院は2022年9月、DCPPの運転期間を2030年まで延長する法案(上院846号)を圧倒的多数で可決。これを受けてPG&E社は、運転期間延長申請書の提出期限に関する規制の適用除外と、2018年に中止された審査の再開をNRCに求めていた。DCPPはこのほか、2022年11月に米エネルギー省(DOE)の「民生用原子力発電クレジット(CNC)プログラム」で、初回の適用対象に選定された。CNCプログラムでは、早期閉鎖のリスクにさらされている商業炉の救済とCO2排出量の削減を目的としている。(参照資料:米規制委の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Mar 2023
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欧州連合(EU)域内で原子力利用を推進する11か国のエネルギー相は2月28日、原子力協力を一層強化することを改めて確認。欧州原子力共同体(ユーラトム)条約の目標に沿って原子力研究を促進し、技術情報の普及に努めるべきだと訴えた。この声明は、EU理事会の今期議長国を務めるスウェーデンが、27日と28日に首都ストックホルムで開催したエネルギーと輸送関係の閣僚および代表高官の非公式会合で取りまとめられた。共同議長はスウェーデンのE.ブッシュ副首相兼エネルギー・ビジネス・産業大臣と、A.カールソン住宅・インフラ大臣が務めており、声明に賛同した11か国はブルガリア、フランス、ハンガリー、フィンランド、オランダ、ポーランド、チェコ、スロバキア、ルーマニア、スロベニア、クロアチアである。欧州諸国が現在、未曽有のエネルギー供給危機に瀕していることから、会合では共通エネルギー市場の構築に向けた長期の見通しに焦点を当てる一方、次回以降の冬季を念頭にエネルギーの供給準備についても議論を実施。加盟国すべてがエネルギー危機を克服できるような将来のエネルギー政策や、域内で2030年までに温室効果ガスを1990年比55%削減するための政策パッケージ「Fit for 55」の実施準備についても意見を交わした。仏エコロジー移行・地域結束省とエネルギー移行省の発表によると、原子力は欧州における地球温暖化の防止目標達成とベースロード用電力の確保、エネルギー供給保証のための重要電源の一つ。声明に合意した各国は、それぞれの原子力部門相互の協力を一層緊密化することにより、サプライチェーン全体の協力を最大限に拡大し、人材育成プログラムや産業プロジェクトを共同実施していく。革新的な原子力技術の開発や既存の原子力発電所の運転についても、新たな原子力プロジェクトの実施を後押しするとしている。このほか、安全分野における科学協力の強化や、国際的な良好事例の共有についても協議が行われた。なお現地の報道によると、この会合に先立ち仏エネルギー移行省のA.パニエ=リュナシェ大臣が、「フランスが目指しているのは原子力利用促進同盟の樹立だ」と述べた模様。フランスは、欧州諸国が地球温暖化の防止目標を達成し、輸送用の水素を製造する上でも原子力が有効だと確信している一方、この問題についてEU域内では意見が分かれており、ストックホルムの会合ではドイツとスペインを筆頭にオーストリアとルクセンブルクが反対の立場を確認したと伝えている。(参照資料:仏政府(フランス語)、欧州理事会の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Mar 2023
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国営のチェコ電力(CEZ社)は2月27日、国内で2基目と3基目の小型モジュール炉(SMR)の建設に向けた予備的評価の結果、候補サイトとして北東部のポーランド国境に近いジェトマロヴィツェ(Dětmarovice)と、北西部のドイツ国境付近のトゥシミツェ(Tušimice)を暫定的に指定した。同社は大型炉が稼働する国内2つの原子力発電所のうち、ドコバニ発電所の増設計画を進める一方、SMRの導入プログラムも進めている。これまでにSMRデベロッパーである米国のニュースケール・パワー社やGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社、ウェスチングハウス(WH)社、ホルテック・インターナショナル社とSMR関係の協力覚書を締結したほか、英国のロールス・ロイスSMR社やフランス電力(EDF)、韓国水力・原子力会社(KHNP)とも同様の覚書を結び、建設の実行可能性等を調査中である。チェコ初のSMRについては、CEZ社は2022年3月に既存のテメリン原子力発電所の敷地南西部を建設サイトとして選定。同発電所が立地する南ボヘミア州の州政府、および傘下の国立原子力研究機関(UJV Rez)とともに、SMR建設を加速する「南ボヘミア原子力パーク」プロジェクトを始動させており、CEZ社のD.ベネシュCEOが非公式に「2032年の完成を目指す」と述べたことが伝えられている。後続SMRの建設が検討されているジェトマロヴィツェとトゥシミツェは、ともにCEZ社の石炭火力発電所が立地しており、SMRでこれらをリプレースする計画である。同グループは「2030年代の事業ビジョン」の中で、2040年代以降に合計100万kW以上のSMR建設に向けた準備を進めるとしているが、2、3号機については早ければ2030年代後半に完成する可能性を指摘。SMRを通じて、無炭素なエネルギーを長期にわたり安定供給する方針である。CEZ社のT.プレスカッチ再エネ担当理事は、SMRについて「大型炉の代用品という位置付けではなく、石炭等の大型火力発電所を代替する適切な電源として役割を担っている」と説明。SMRの建設プログラムでは、機器の製造やサプライチェーンに参加する機会や、関係地域にサービス・訓練センターを設置する可能性があるなど、チェコ経済の発展に向けた大きな機会になると述べた。CEZ社は今後、これら2か所の候補サイトの最終決定に向けて、今秋までさらなる調査やモニタリングを継続する。このような活動も含め、許認可申請までに3~5年を要すると同社は説明している。(参照資料:CEZ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Mar 2023
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米国のコンステレーション・エナジー社は2月21日、イリノイ州で運転中のブレードウッド原子力発電所(PWR×2基、各約120万kW)とバイロン原子力発電所(PWR×2基、各約120万kW)で合計約13.5万kW相当の出力増強を行うため、8億ドル投資すると発表した。これらの発電所は、電力市場の自由化にともなう経営の悪化で一時期早期閉鎖のリスクに晒されていたが、2021年に成立した州法と昨年8月に米国議会で成立したインフレ抑制法(IRA)により、税制優遇措置等の経済的支援が得られるようになった。今回の投資も、これらの法に基づいて可能になったと同社は説明。2つの原子力発電所では今後、燃料の交換時にメイン・タービンを高効率の最新鋭設備に段階的に取り換えていく。これにより、2026年~2029年に計13.5万kW分の出力が増強される。同社の発表では、今回の出力増強は風力発電換算で216基のタービンを新たに追加したことになる。また、このプロジェクトにともない、発電所周辺のコミュニティで経済の活性化が期待され、実施期間中に2つの発電所では合計で数千人規模の雇用が新たに生み出されるとしている。コンステレーション社はメリーランド州のボルチモアを本拠地としており、米国北東部の卸売電力市場「PJM」の管内で同社が運転する原子力発電所は、8サイト・16基に及ぶ。同社は2012年、米国最大手の原子力発電事業者エクセロン社に買収されたが、米国社会が無炭素な未来に向けて移行するなかでエクセロン社は2022年1月、この動きを加速するのに最適な企業としてコンステレーション社を分離独立させると発表。翌2月にこの分離手続きは完了した。コンステレーション社はその後、2022年10月にイリノイ州内で保有するクリントン原子力発電所(BWR、109.8万kW)とドレスデン原子力発電所(2、3号機、各BWR、91.2万kW、1号機は閉鎖済み)の運転期間を、それぞれ20年延長する方針を表明している。(参照資料:コンステレーション・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Feb 2023
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カナダ政府は2月23日、小型モジュール炉(SMR)の商業化を支援するため、サプライチェーンの構築や燃料の確保、放射性廃棄物の安全な管理に資する研究開発プロジェクトに、今後4年間で総額2,960万加ドル(約29億6,200万円)の資金援助を実施すると発表した。連邦政府の天然資源省(NRCan)は2018年、SMRをカナダ国内で開発・利用するだけでなく、将来世界のSMR市場で主導的地位を占めることを目指し、州政府や産業界、電気事業者などを交えた協議を10か月にわたって実施。その結果をSMRの戦略ロードマップとして取りまとめており、2020年にはCO2排出量の削減と国内原子力産業の拡大を図るため、SMR開発の努力目標やSMRが発電分野で果たす役割などを示したSMR行動計画を公表している。政府は今回、2022会計年度(2022年4月~2023年3月)予算から支援金を拠出し、SMR開発・利用への支援を継続すると改めて表明。カナダが世界のクリーンエネルギー開発でトップランナーに位置付けられるよう、同プログラムではニューブランズウィック州やサスカチュワン州などと同じく、各州の送電網の脱炭素化を推進する。また、CO2を大量に排出する産業の脱炭素化も進め、遠隔地域のコミュニティに対してはディーゼル発電からSMRへの転換を促す方針である。支援金として研究開発プロジェクト一件につき、期間や規模等に応じて平均50万加ドル~250万加ドル(約5,000万円~2億5,000万円)を交付する予定。原則として総コストの75%まで、500万加ドル(約5億円)を上限とする。受給資格は営利・非営利を問わず、カナダ国内で登録された電気事業者やその他企業、州政府や地方自治体、大学および学術機関など。申請書の受け付けは4月7日までとなっている。今回の政府発表によると、カナダが低炭素経済に移行するには、クリーンで低価格な電力の需要拡大のため、原子力のようにCO2を排出しない安全で安定した発電技術も含め、様々な無炭素エネルギー源が必要である。その中でも、次世代の原子力技術は重要な役割を担っており、中でも従来の大型炉と比べて構造がシンプルで操作し易く、安価なSMRは大いに貢献すると見込まれる。連邦政府はすでに、地球温暖化の影響緩和を目的としたSMR開発の支援活動を行っており、カナダ・インフラストラクチャー銀行(CIB)は2022年10月、オンタリオ州のダーリントン原子力発電所で世界初のSMRを建設するというプロジェクトに過去最高規模の9億7,000万加ドル(約970億円)の融資を約束した。今月6日には、政府機関のカナダ自然科学・工学研究会議(NSERC)がNRCanとの協力により、独自の補助金プログラムの下でSMR開発プロジェクトを募集すると発表。サプライチェーンの構築や廃棄物の管理に取り組む大学からの申請に資金を提供するとしており、次世代の原子力技術者の養成や大学の能力拡大などで、NRCanの今回の資金援助プログラムを補完する。 (参照資料:NRCanの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Feb 2023
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ポーランド国営エネルギー・グループ(PGE)の原子力事業子会社Polskie Elektrownie Jądrowe (PEJ)社は2月22日、同国初の大型原子炉の建設に向け、米ウェスチングハウス(WH)社とフロントエンド・エンジニアリング等の初期活動を実施する契約を締結した。ポーランド政府は国内の複数のサイトで、2043年までに100万kW級の原子炉を最大6基、合計600万~900万kW建設する計画で、2022年11月には最初の3基、小計375万kW分に採用する設計として、WH社製の第3世代+(プラス)PWRであるAP1000を選定した。同国北部のルビアトボ-コパリノ地区で2026年にも初号機の建設工事を開始し、2033年の完成を目指している。2022年12月には発電所のレイアウトなど、プロジェクトの細かな取り決め事項についてWH社と合意している。今回結ばれた契約は、建設プロジェクトの実施契約締結に先立ち、WH社が進める10項目の準備作業を定めたもの。発電所の詳細な開発モデルの作成や予備的リスク評価に先立つ準備作業が含まれるほか、AP1000技術を現地の要件すべてに適合させるため投資の実施要件をリスト化し、ポーランドのサプライヤーを中心とした資機材調達戦略の枠組みを設定、建設プロジェクトに対する外部資金の調達についても原則を定める。PEJ社によると、このような作業は建設プロジェクトの実施スケジュールを維持していく上で重要であり、これまで世界中で行われてきた原子力発電所建設プロジェクトの教訓に基づいている。同社はすでに2022年、建設許可の取得に向けてプロジェクトの環境影響評価報告書をポーランド気候環境省に提出しており、関係インフラを建設する計画の策定やサイト周辺自治体との交流なども始めている。今回の契約締結について、気候環境省のA. モスクヴァ大臣は、「原子力はエネルギー・ミックスの重要な構成要素となり、ポーランドのエネルギー供給を保証する」と説明。「このような戦略的投資により、将来の電力価格が低く抑えられるだけでなく、クリーンで安全な国産エネルギーを確保できる」とした。また、この計画で数多くの国内企業が刺激を受け、関係サプライヤーやパートナー企業になるなど、国家経済や雇用にも良い影響があるとしている。一方、WH社の発表によると、同社はすでにポーランドの国内企業35社と提携契約を結んでおり、同国内で大規模なエンジニアリングセンターの設置も計画している。追加の産業投資を通じて、ポーランドの人材育成や機器供給基盤の構築も支援していく方針である。同社はまた、本格的な受動的安全系を備えたAP1000はモジュール方式で建設することができ、クリーンな電力や蒸気、水素も製造可能だと指摘。米ジョージア州では現在、2基のAP1000が建設中だが、中国ではすでに世界初のAP1000が4基営業運転中だとした。さらに、ロシア型PWR(VVER)を15基備えたウクライナでも、AP1000を9基建設する計画が浮上するなど、世界中のサイトで建設される可能性があると強調している。(参照資料:PEJ社、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Feb 2023
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カナダ原子力研究所(CNL)は2月13日、ベルギー原子力研究センター(SCK-CEN)と共同で、昨年10月にドローンを使って原子炉施設上空の放射線検知実験を行ったことを明らかにした。ベルギー北部のモルにあるSCK-CENの研究炉「BR1」の上空に、クロメック社製ガンマ線検知器やCNLが設計したタングステン合金視準器(コリメーター)などを搭載したドローンを飛ばし、同炉の通常運転時に堆積したプルーム(放射性雲)を検知・計測できるか調査したもの。CNLはすでに何度か、ドローン搭載用の放射線検知器を製造しており、このような機器を搭載したドローンをチョークリバー研究所の「国立研究ユニバーサル(NRU)炉」(2018年閉鎖)上空で飛行させた実績がある。今回のようにシールドされた検知器を上向きに設置し、プルームの真下を既定のコースで横切りながら特定の同位体の量を測ることは、CNLにとっても貴重な試みだったという。このプロジェクトは、カナダ政府が2015年にカナダ原子力公社(AECL)と共同で策定した「原子力科学技術(FNST)ワークプラン」の下で行われており、CNLは今回の結果から、「特定のプルームを検知することは可能だ」と指摘。得られた情報は、事故時の緊急時対応チームやその後に活動する復旧チームにとって、極めて貴重なものになると強調している。CNLによると今回の試験飛行で重要な点は、飛行プランを作成した上で専用に製造した検知器でプルームを計測し、結果の分析評価を行ったこと。ドローンによるプルームの計測実績は過去に多々あるものの、同試験飛行により事故発生時に備えた訓練や計測技術の開発が進展し、データの蓄積も進む。検知器から送られるデータによって、放射能がどの方向から来ているのか正確に知ることも出来るとしている。一方、SCK-CENも昨年12月、ベルギーの航空宇宙企業サブカ(SABCA)社と共同で、SCK-CENのPWRプロトタイプ「BR3」(1987年閉鎖)の上空に、特製のヨウ化セシウム・シンチレータを搭載したサブカ社製ドローンを飛ばす実験を行っている。閉鎖後も放射線を発している原子力関係施設やその他の一層広いエリアで放射線の地図を描き、これら施設の廃止措置や監視プログラムに役立てることが目的。これは両者が進めている「半自立制御型ドローンの活用に関する技術革新(BUDDAWAKU)研究プロジェクト」の一環であり、ベルギー連邦政府の「エネルギー移行基金(ETF)」から資金援助を受けている。SCK-CENは「放射線の地図作成において、両者の機器の組み合わせは理想的なツールになる」と表明。今年の後半には、両者はSCK-CENサイト全体の上空に固定翼のドローンを飛ばし、長時間の計測飛行が可能なことを実証する計画である。(参照資料:CNL、SCK-CENの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Feb 2023
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