
スウェーデン議会は11月5日、ウラン採掘を再び可能とする政府提案を賛成多数で承認した。2018年から続いていた探査・採掘禁止を撤廃し、2026年1月1日に施行される。同国は2035年までに大型原子炉2基、2045年までに小型モジュール炉(SMR)を含む10基相当の新増設を進める方針を示しており、エネルギー安全保障や脱炭素に向けて、原子力推進を着実に進めている。ウラン採掘の禁止は、放射性廃棄物管理や環境負荷などへの懸念から、2018年の環境法改正で導入されたもの。しかし近年、ネットゼロ目標達成や原子力拡大の必要性が高まる中、政府は資源政策の見直しにも踏み切った。今回の改正では、ウランが社会的有用性の高い「コンセッション鉱物」に分類され、許認可手続きが鉄鉱石や銅など他の鉱物と同じ枠組みに統一される。少量のウランを扱う事業では自治体の拒否権が廃止され、許可申請も不要となる。今回の決定により、外国企業による投資機会も拡大する見通しだ。豪州のオーラ・エナジー(Aura Energy)社はスウェーデン北部にあるヘガーン鉱床を100%保有しており、ウラン抽出が可能になることで資源開発価値が高まるとして歓迎のコメントを発表。同社エグゼクティブ・チェアマンのP. ミッチェル氏は「スウェーデンには欧州で確認されているウラン資源の約27%があるとされ、商業的ポテンシャルは極めて大きい。世界的に原子力の役割が再評価される中、ウランを廃棄物ではなく、資源として有効活用することは合理的だ」と述べた。
21 Nov 2025
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国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30、ブラジル・ベレン)で11月17日、世界原子力協会(WNA)主催、日本原子力産業協会(JAIF)、カナダ原子力協会(CNA)、欧州原子力産業協会(Nuclareurope)の共催による公式サイドイベント“Meeting the growing demand for clean electricity and heat with nuclear energy”が開催された。2023年にUAEのドバイで開催されたCOP28における、2050年までに世界の原子力設備容量を3倍化するとの国際宣言の進展状況と、クリーンエネルギー移行における原子力の役割をテーマに意見交換が行われた。3倍化宣言に署名した国は、先週新たに加わったセネガルとルワンダを含め、33か国に拡大。また、新規原子力プロジェクトへの資金供給を約束した16の主要金融機関にSTEFLとCIBCの2行が加わっている。冒頭講演した東京大学公共政策大学院の有馬純特任教授は、ウクライナ戦争や中東情勢の緊迫化、深刻化する気候変動と電力価格の高騰を背景に、エネルギー安全保障・脱炭素・価格抑制を同時に満たす現実的な選択肢として原子力が再評価されていると指摘。日本が第7次エネルギー基本計画で原子力と再エネを組み合わせる「包括的アプローチ」に転じたことは、世界的な潮流と軌を一にすると述べた。また、WNAのJ.コブ気候問題上級責任者は、11月14日にWNAが公開した「World Nuclear Outlook 2025」のプレビューとして、人口増加やAI・デジタル化により世界の電力需要は大幅に増加する一方、既存炉の長期運転や建設中・計画中の炉を積み上げれば、各国目標を総合して、2050年に12億kWe規模の原子力設備が十分達成可能だと報告した。ただし、「3倍化目標の実現には、各国政府や産業界、金融機関、規制当局が一体となった迅速な行動が不可欠」との認識を示し、原子力を電力用途だけでなく産業用熱供給やオフグリッド用途にも展開しながら、ウラン採掘、転換、濃縮、燃料製造など燃料サイクル全体の拡充も不可欠だと強調した。その後のパネル討論には、JAIFの増井秀企理事長が参加。日本が3倍化宣言に署名した意義について、「日本のエネルギー政策にとって強い追い風となり、『原子力依存度の低減』から『原子力の最大限活用』へと政策転換を後押しした」と強調した。そのうえで、原子力の位置付けが国際的にも明確になったことで、「世界的な推進機運と各国間の協力強化を促す契機となり、日本の産業界にはサプライチェーン維持や輸出拡大への期待が生まれている」と述べた。国内情勢については、エネルギー安全保障への懸念や電力価格の上昇、脱炭素技術としての役割が再認識されるなかで、「原子力に対する国民の支持は福島第一原子力発電所事故直後から大きく回復しつつある」と説明。運転再開地域では電気料金の抑制効果も見られ、「原子力をめぐる構造的変化が日本全体の新たなエネルギー政策を支えている」との見方を示した。一方、日本の金融機関、官民連携、国際協力は、原子力バリューチェーン全体での投資加速にどのような役割を果たせるかとの問いに対して、増井理事長は、日本の原子力新設に向け、資金調達や投資回収の制度が見直されつつあると説明。自由化された電力市場では、建設・運転・廃炉を含む長期事業への資金投入は困難だが、政府の金融支援や2024年開始の長期収入保証制度により、新設プロジェクトへの道が開かれつつあり、福島第一原子力発電所事故以降、途絶えていた新増設も、政策転換や関西電力の地質調査の開始など、現実的に再開可能の兆しがみえてきたと評価した。また、JAIFが設立した原子力国際協力センター(JICC)を通じ、原子力導入を目指す国々へ研修・支援を続けていることを紹介し、「3倍化宣言を実行に移すには、政府・産業界・金融界・市民社会を横断した国際的な協力こそが成功のカギだ」と訴えた。会場からは、送電網強化や投資環境整備、人材育成など、原子力を含む低炭素電源拡大に必要な制度面の整備を求める声が上がった。原子力3倍化への道筋は描かれつつあり、今後は「宣言から実行へ」と移せるかどうかが問われる局面に入っている。■N4C、COP30に合わせポジション・ペーパー発表COP30の開催に合わせ、世界150以上の原子力関連組織が参加する「Nuclear for Climate(N4C)」は11月12日、ポジション・ペーパーを公表した。各国政府に対し、パリ協定の2030年目標とネットゼロ達成に向け、原子力を包括的な気候問題へのソリューションとして政策支援の対象に位置付けること、特にグローバル・サウスの持続的成長に資する投資環境整備を加速するよう強く求めている。【N4Cポジション・ペーパーPDFへのリンク】(日本語版)
19 Nov 2025
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ブラジルの原子力発電事業者であるエレトロニュークリア社(Eletronuclear)は11月5日、建設が中断しているアングラ原子力発電所3号機(PWR、140.5万kWe)について、ブラジル国立社会経済開発銀行(BNDES)が実施した最新の調査報告書を公表した。同報告書では、建設プロジェクトを放棄した場合に発生する総費用が、建設を完了させる場合を上回る可能性が示されており、建設継続の費用優位性が裏付けられた形だ。調査結果は鉱山エネルギー省(MME)に提出され、国家エネルギー政策評議会(CNPE)が最終判断を下す見通しである。調査によれば、建設完了に必要な費用は239億レアル(約6,970億円)、一方で放棄した場合の費用は220億~260億レアル(約6,400億~7,600億円)に達するとした。放棄した場合、維持管理費として年間約10億レアル(約29億円)の負担も発生する。同機の建設進捗率は66%で、これまでに約120億レアル(約3,500億円)が投じられている。両者の差は大きくないものの、放棄を選択した方が国の財政的負担は大きくなると結論付けた。また報告書は、操業開始後の電気料金を778~817レアル/MWh(約2万2,700~2万3,800円/MWh)と試算。昨年の試算値である653レアル/MWh(約1万9,100円/MWh)から上昇した。建設遅延や金融コストの再評価が上昇要因とされるが、それでも同地域の火力発電所の平均値と比較しても依然として下回るという。アングラ3号機は1984年に着工したが、景気後退や汚職調査の影響で1986年と2015年の2度中断。2022年に工事が再開されたものの、2023年には地元自治体との環境補償を巡る対立から再び建設が阻止された。2024年に司法判断により建設禁止措置が解除され、現在は入札や契約協議が進行している。CNPEでは昨年12月、今年2月、10月の3回にわたり審議されたが、費用試算や資金調達の妥当性などをめぐり結論が先送りされてきた。最終判断は、2025年中に開催される次回会合で下される見通し。同社は、承認が得られれば建設作業を本格化させ、2033年の営業運転開始を目指すとしている。
19 Nov 2025
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国際エネルギー機関(IEA)は11月12日、最新の年次報告書「World Energy Outlook(WEO)2025」を公表した。化石燃料の供給不安に加えて、重要鉱物や電力インフラの脆弱性など、エネルギー分野全体でリスクが高まるなか、IEAは各国政府に対し、エネルギー供給の多様化と国際協力の強化を求めている。IEAによると、今後のエネルギー需要の中心はインド、東南アジア、中東、アフリカ、中南米へと移行する見通しだ。これらの地域は、過去10年以上にわたり世界の石油やガス、電力需要増をけん引した中国に代わり、「エネルギー市場の新たな中心地」になりつつある。今回の報告書では、2050年までの世界のエネルギーミックスを以下の3種類((2035年の電力ユニバーサルアクセス、2040年のクリーンクッキングアクセス達成を前提とした「Accelerating Clean Cooking and Electricity Services Scenario (ACCESS)」もある。))のシナリオで分析した。「現行政策シナリオ」(Current Policies Scenario, CPS):すでに実施中の政策や規制のみを反映。新技術導入には慎重な前提。「公表政策シナリオ」(Stated Policies Scenario, STEPS): 政府の公表済み戦略等を含むが、意欲的目標の完全達成は前提としない。「2050年実質ゼロ排出量シナリオ」(NZEシナリオ):2050年ネットゼロ前提。報告書は、電力が現代経済の中核であり、すべてのシナリオで総エネルギー需要を上回るペースで増加すると指摘。電力供給や電化関連の投資は、世界のエネルギー投資の約半分(約1.6兆ドル)を占めているとした。現在、電力は世界の最終エネルギー消費の約20%にとどまる一方、世界経済の4割超を占める部門で主要なエネルギー源になっているとも指摘。F. ビロル事務局長は「世界はすでに “電力の時代” に入った」と述べ、データセンターやAIの急速な普及が先進国の電力需要を押し上げているとの見方を示した。2025年のデータセンター投資額は5,800億ドルに達し、石油供給への投資(5,400億ドル)を上回る見通しだ。一方、電力システム整備は追いついておらず、送電網や蓄電など柔軟性確保が最大の課題となっている。発電分野への投資が2015年以降で約70%増の年間1兆ドルに達する一方、送電網への年間投資は4,000億ドルにとどまる。発電分野では、全シナリオで太陽光を中心とした再生可能エネルギーが最速で成長するものの、原子力発電も復活の兆しを見せている、2035年には、世界の原子力発電設備容量が少なくとも2024年比3割増の5億6,300万kWに拡大。2050年には、CPSで7億2,800万kW、STEPSで7億8,400万kW、NZEシナリオでは10億7,900万kWに増加すると予測した。原子力の発電シェアは、いずれのシナリオも約10%程度となる見込み。気候目標では、すべてのシナリオで世界の平均気温が1.5℃を超過する可能性を示している。気温上昇は、電力インフラへの影響など新たな脆弱性をもたらし得るが、NZEシナリオでは長期的に1.5℃未満へ戻す余地が残るとした。原子力回帰へ――投資拡大とSMRなど新技術の台頭IEAは今回、全シナリオの共通項として「原子力発電の復活」を強調した。従来型の大型炉に加え、小型モジュール炉(SMR)など新技術への投資が拡大し、2025年の原子力発電電力量は過去最高を記録する見通し。現在、40か国以上が原子力を自国のエネルギー戦略に盛り込んでいる。報告書によると、世界で建設中の原子力発電設備容量は7,000万kW超と、過去30年間で最大級の規模となっている。特にSMRを中心としたイノベーションが追い風となっており、IT企業がデータセンター向け電源として3,000万kW規模のSMR計画に合意・関心を示している。一方で、米欧の一部大型プロジェクトでは工期遅延やコスト超過、放射性廃棄物処分への懸念など課題も残る。しかし、CO₂排出増や安全保障リスクを背景に、原子力回帰の機運はむしろ強まっていると指摘した。地域別では、中国が世界の建設中原子力発電設備容量の約半分を占め、2030年頃には世界最大の原子力発電国となる見通し。米国も政策支援やIT企業のSMR需要を背景に、2035年以降は原子力発電設備容量が増加に転じるとみられる。欧州でも、フランス、ポーランド、チェコ、ハンガリー、スウェーデンなどが新増設や建設再開に向けた政策や投資確保を進めている。報告書はまた、建設や燃料製造、濃縮サービスなどが特定のプレーヤーに集中しがちな原子力産業において、サプライチェーンの多様化が不可欠と強調。持続的に拡大していくためには、イノベーションに加え、コスト管理や将来の収益見通しの透明性確保が不可欠と指摘している。また、燃料供給の多様化に向けた取組みが、米欧や中国で進みつつあるとした。さらにIEAは、2023年のCOP28で誓約された「2050年原子力3倍化」が実現した場合、世界の原子力発電設備容量は2020年の4億1,300万kWから2050年には12億4,000万kWへ拡大し、NZEシナリオの見通しを1億6,000万kW上回ると分析。達成には、2030年代~2040年代に年間4,000万kWの大規模な導入ペースが不可欠で、投資額も現在の700億ドル超から2035年頃に2,100億ドルへ急増すると試算した。強靭なサプライチェーンや高レベルな労働力、長期的な政策支援が不可欠とも指摘している。IEAは、米国がこうした世界的な動きで中心的な役割を果たす可能性にも言及。2025年5月の大統領令は、米原子力規制委員会(NRC)の改革を通じて国内原子力産業の再活性化をめざし、2050年までに3億kWを米国内で新設する方針だ。さらに、欧州連合(EU)、中東、アフリカ、東アジア、北米、中米でも、脱炭素化戦略の一環として原子力への関心が再燃している。
19 Nov 2025
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韓国の李在明大統領は11月14日、米国のD. トランプ大統領との10月29日の会談の成果文書となる合同説明資料(Joint Fact Sheet)を発表。米政府が韓国のウラン濃縮および使用済み燃料再処理の実施を支持し、さらに原子力潜水艦の建造の推進を承認したことを明らかにした。先月、慶州で開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議への出席を機に、両大統領は関税および安全保障関連の協議を実施。韓国側は、ロシア産原子燃料への大幅な依存や使用済み燃料のサイト内貯蔵の限界という喫緊の課題について、平和利用目的のためのウラン濃縮と使用済み燃料の再処理の実施が緊要であると主張。米国側は、原子力などの主要戦略産業における協力の機会を増やすために、高度な能力を強化する必要があるとの見解を表明した。また、北朝鮮の原子力潜水艦建造などの状況変化に対応して、原子力潜水艦の導入を必要とする韓国側の主張に対し、米国側は、両国の同盟に対する韓国の積極的な役割を高く評価し、引き続き協議を行う姿勢を示していた。今回公表された説明資料によると、米国側は、両国間の原子力協力協定(123協定)に準じて、米国の法的要件を遵守する範囲内で韓国の民生用のウラン濃縮および使用済み燃料の再処理の実施に関する手続きを支持し、大枠で合意した。現行の協定では、核拡散に対する米国の懸念から、韓国が米国の事前同意なしに20%未満の低濃縮も実施できず、再処理は原則的に禁止されている。韓国では現在、26基が運転中で、使用済み燃料貯蔵設備は飽和状態となっており、再処理なしに燃料の自給率を高めることができない。ウラン濃縮と再処理の実施は韓国にとって、長年にわたる悲願であった。今回の大枠合意を受け、米国が現在の123協定の枠組み内でウラン濃縮と使用済み燃料の再処理を許可するのか、それとも協定を改正するのか、今後、両国間で広範囲にわたり具体的に協議が行われる見通しである。また、仮に濃縮や再処理が認められたとしてもIAEAの査察の受入れなどの制度・設備の整備、国内の住民合意形成や国際社会からの信頼の醸成などの課題が山積しており、多くの時間がかかると予想される。さらに米国側は今回、韓国による攻撃型原子力潜水艦の建造を承認し、燃料調達を含む造船プロジェクトの要件について、韓国と緊密に協力していく方針を示した。
18 Nov 2025
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ウクライナのチョルノービリ原子力発電所は10月31日、同国の国家原子力規制検査局(SNRIU)が、同発電所にある機材の解体中に生成された炭素鋼バッチのクリアランスを初承認したことを明らかにした。その重量は約20トンにのぼる。ウクライナ企業は、規制対象から除外される同発電所の「クリアランス金属」を再利用することができる。クリアランスの検査作業の前に、廃材は断片化され、除染された後、定置型の高純度ゲルマニウムガンマ分光測定システムのFRM-03にて、ガンマ線分光モニタリングを用いて徹底的に検査され、再利用が可能なクリアランスレベルであることが確認された。FRM-03は、2022年のロシア軍による発電所の占拠にもかかわらず損傷を受けることなく、発電所の廃止措置を支えるインフラの重要な一部として、2025年9月に運転を開始。欧州委員会の原子力安全協力プログラムからの資金手当てにより、チェコ企業が納品し、1日あたり最大10トンの廃材の検査処理能力を有する。このクリアランスの適用開始は、放射性廃棄物の減容に役立つとともに、廃止措置活動向けの追加資金を生み出し、ウクライナの国家予算の負担の軽減に貢献するとされる。ウクライナの原子力発電会社であるエネルゴアトム社も、その傘下企業に同様の検査設備の導入を計画している。チョルノービリ発電所は、今後、廃止措置中の3基(1~3号機)の解体から発生する廃材のクリアランス作業に事業を拡大し、ウクライナの放射線モニタリングシステムの信頼性と有効性を示していく方針である。
18 Nov 2025
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南アフリカ国家原子力規制委員会(NNR)は11月6日、クバーグ原子力発電所2号機(PWR, 97万kWe)の運転期間を20年延長し、2045年11月9日までの運転を認可したと発表した。2号機は当初40年の運転期間を設定していたが、今回の延長により合計60年となる。昨年には1号機も2044年7月までの延長が認可されており、これに続く措置。両機の運転継続により、今後20年間にわたり約186万kWeのベースロード電源が確保される。NNRは今回の認可にあたり、安全評価や技術審査、設備更新の進捗状況を総合的に確認した。2025年9月末から10月初旬にかけて計3回の公開ヒアリングを開催し、地域住民の意見を含め幅広い観点を審査に反映した。2号機は延長に向けて蒸気発生器3基の交換や燃料交換などを実施して2024年末に送電網へ再接続されている。長期運転(LTO)を申請した国営電力会社エスコムの最高原子力責任者V.ントゥリ氏は、「延長は高度なスキルを持つ従業員と国内サプライチェーンの支えによる成果だ」と述べた。クバーグ発電所は1号機(運転開始1984年)、2号機(運転開始1985年)の総出力約194万kWeを有する南アフリカ唯一の原子力発電所。同国は総発電電力量に占める石炭火力シェアが約80%と高い上、慢性的な電力不足や計画停電が続く中、既存原子力の活用は重要政策となっている。南アフリカ政府は10月19日に公表した統合資源計画(IRP)2025で、原子力を「低炭素で費用対効果が高く、信頼性の高いベースロード電源」と評価し、2039年までに520万kWeの原子力導入を目指す方針を示した。今回の2号機延長はIRP2025の新規導入枠には含まれないが、既存原子力の安全な継続運転を確実にする措置であり、新規原子力と両立する電源構成の基盤を形成する。政府は小型モジュール炉(SMR)導入の可能性も検討しており、原子力を中長期のエネルギー戦略の柱とする姿勢を明確にしている。
18 Nov 2025
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米ニューヨーク州営のニューヨーク電力公社(NYPA)は10月30日、同州で少なくとも合計100万kWe規模の先進炉導入に向け、2件の情報提供要請(RFI)を開始した。今年6月、同州のK. ホークル知事(民主党)が、州北部での次世代原子力発電所建設の検討開始をNYPAに指示したことを受けた措置。NYPAは、系統の信頼性を確保、電力コストを抑制し、エネルギーの自立性とサプライチェーンを強化といった州のエネルギー政策を支える方針であり、再生可能エネルギーを補完する、排出量ゼロの安定した電力供給を目指している。ニューヨーク州では現在、米大手電力会社コンステレーション社が3サイト・計4基の原子炉を運転している。RFIのうち1件は、NYPAの先進原子力プロジェクトの誘致に関心のあるニューヨーク州北部のコミュニティを対象とし、もう1件は、原子力プロジェクトの開発、建設、運転またはサービス提供の経験を持つ開発事業者を対象としている。両RFIの提案提出期限は2025年12月11日。NYPAはホークル知事の指示を受け、直ちに人材育成について労働団体を含む幅広い利害関係者や、誘致に関心のあるコミュニティリーダーや選出議員と意見交換を行うなど、事前実現可能性調査を開始。NYPAのJ. ドリスコルCEOは、「この先進原子力プロジェクトの成功は、地域社会、政府機関、民間部門の協力にかかっている。今回のRFIを通じ、ニューヨーク州北部の開発業者やコミュニティから情報を収集し、サイト選定とパートナーシップの形成を目指す。州の経済を支え、雇用創出を促進し、クリーンエネルギーへの移行を後押しする豊富な電力供給を実現していく」と意欲を示した。NYPAは、州北部で立地可能性のあるサイトをその規模や水源、外的危険性や、地元からの支持の観点から特定し、技術的な推奨事項、立地に関する考慮事項、コストとスケジュールの前提条件、所有構造、パートナーシップモデルなど、実行可能なプロジェクトの概念の検討を進め、2033年までに建設開始を目指している。イリノイ州では大型炉建設を解禁一方、イリノイ州議会は10月30日、「クリーンで信頼性の高い送電網の手頃な価格法(Clean and Reliable Grid Affordability Act)」を可決した。同法は、大型炉建設の解禁を盛り込んでおり、J. プリツカー知事(民主党)の署名により2026年1月1日より施行される。同州では1987年以降、高レベル放射性廃棄物の恒久的な処分方法が確立されていないことを理由に、原子力発電所の建設が一時的に禁止されていた。2023年12月、小型モジュール炉(SMR)の建設を認める州法が制定されたが、プリツカー知事は同年8月、「先進炉」を広く定義する同様の法案に対し、この定義がコストのかかる大型炉の建設を許すものだとして、拒否権を行使していた。しかし、AIや量子コンピューティングの発展に伴い、全米で進む廃炉発電所の運転再開や新規建設の動きを受け、今回のモラトリアム解除に踏み切った。電力料金の値下げや、テクノロジー企業の誘致につながると期待されている。2024年時点で、イリノイ州では6サイト・計11基の原子炉が運転しており、すべてコンステレーション社によるもの。その発電量は、州の総発電量の53%を占め、他のどの州よりも多くの電力を原子力発電で賄い、全米の原子力発電量の8分の1に相当する。州内のバイロン、ドレスデン両原子力発電所は2021年に閉鎖予定であったが、州議会は同年、2040年までにクリーンエネルギー比率50%、2050年までに100%への移行を義務付ける法律を可決。カーボンクレジット計画を通じて州が原子力発電所を支援することとなり、これを受け、両発電所の運転が継続されることとなった。今年6月にはイリノイ州でコンステレーション社が運転するクリントン原子力発電所(クリントン・クリーン・エネルギー・センター)からの電力をIT大手のMeta社に20年間にわたり供給する契約を締結し、同発電所は継続的な運転を確保している。
17 Nov 2025
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米先進炉開発ベンチャーのテラパワー社は10月28日、自社が開発するナトリウム冷却高速炉「Natrium」およびエネルギー貯蔵システムについて、英国の安全・環境基準への適合性を確認する包括的設計審査(GDA)に正式申請したと発表した。国際市場での展開を見据えた最初の規制上のステップとなる。GDAは、英国で初めて導入される炉型に対して実施される設計認証審査。立地選定後の建設許可申請とは独立して、規制プロセスの早期段階で行われる。テラパワー社のC. レベスクCEOは「今回の申請は先進炉を英国にもたらす上で大きな一歩だ」と述べ、英政府と協力して審査を進める姿勢を示した。同社は米国でも初号機の建設準備と規制プロセスを進めている。2024年3月にはワイオミング州ケンメラーでの建設許可申請(CPA)を提出し、6月には本体工事に先行して非原子力部分を施工できる例外措置が米原子力規制委員会(NRC)により認められた。現在、基礎工事など非原子力部分の建設が進行中。さらに10月22日には、計画・開発中の「ケンメラー1号機」について、NRCの環境影響評価書(EIS)が完了したと発表した。商業用先進炉でEISが完了するのは初めてで、CPAに関しては年内に最終安全評価書(FSER)が示される見通しだ。テラパワー社は米国での規制審査で蓄積した知見や評価結果を、英国でのGDA審査にも反映させる考えだ。今年9月には米エンジニアリング大手KBR社とともに英国国内のサイト候補地の調査を開始しており、GDA申請と同時に、英国での導入を見据え、立地点候補の調査やパートナー選定、事業スキームの検討など具体的な選出準備を進めている。Natriumは、出力34.5万kWeのナトリウム冷却高速炉で、熔融塩を用いたエネルギー貯蔵システムを備える。貯蔵機能を活用することで、出力を50万kWeまで引き上げ、5時間半以上維持できる点が特徴で、再生可能エネルギーとの統合を容易にする。英国でのGDA申請と米国での建設・審査プロセスが同時進行で進むことで、商用化に向けた同社の取り組みは、米英両国で着実に前進している。
17 Nov 2025
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欧州投資銀行(EIB)は10月30日、フィンランドで原子力発電所を運転するティオリスーデン・ボイマ(TVO)社とオルキルオト1-2号機(BWR、各92万kWe)のバックフィット作業に向け、9,000万ユーロ(約162億円)相当の長期融資契約を締結した。今回のバックフィットでは、複数年にわたり、自動制御系のアップグレード、ならびに同1-2号機の原子炉気水分離器の交換を実施する。1号機は1979年、2号機は1982年に営業運転を開始。当初の計画運転期間は40年間だったが、両機とも2018年9月に、2038年12月末まで20年間の運転期間延長を認可されている。今回のバックフィット作業により、TVO社はさらに2048年または2058年までの運転期間延長と、出力(ネット値)を現状の89万kWeから97万kWeへの増強を想定している。EIBは本プロジェクトについて、フィンランドのエネルギー自立を高め、大規模な低炭素電源を支援するという融資政策と合致すると評価。欧州連合(EU)の気候目標に貢献するものとして位置づける。EIBのK. ネハンマー副総裁も、「オルキルオト発電所の安全性向上を後押しすることで、フィンランドが信頼性の高い低炭素電源により、エネルギーミックスを強化するのを支援する」と語った。一方、TVOのL. ピエッカリ財務担当上級副社長は、「EIBからの長期資金調達は、資本市場ベースの債務調達を補完する優れた手段」と評価。借り手の資金源の多様化に資するとともに、プロジェクトの実行可能性に対する信頼を示すものとして、地元の資金調達市場への好影響に期待を示した。本プロジェクトの総費用は1.9億ユーロ(約342億円)と見込まれ、今年4月、TVO社は北欧投資銀行(NIB)と7,500万ユーロ(約135億円)の長期融資を受けている。同社は2016年にも、EIBから1億ユーロの長期融資を受け、非常用ディーゼル発電機や原子炉内部ポンプの交換、緊急給水システムの新設導入など、安全性向上対策を実施した。オルキルオト発電所では1-2号機のほか、3号機(EPR、166万kWe)が2023年5月より営業運転を開始。2024年にはフィンランドの総発電電力量830億kWhの約28%を占める、同国最大の発電所。TVO社は欧州の原子力運転事業者の中でグリーンボンドを発行した最初の企業の一つである。なお同国には、オルキルオト発電所の他、フォータム社のロビーサ発電所(VVER-440×2基、各53.1万kWe)が稼働しており、両発電所による発電量のシェアは、約40%に達する。ElBは、加盟国が出資する欧州連合の長期融資機関。気候変動対策と環境、デジタル化と技術革新、安全保障と防衛、農業とバイオ経済、社会インフラなど、EUの政策目標に貢献する投資に資金提供する。欧州投資基金(EIF)を含むEIBグループは、2024年に900件を超える大規模プロジェクトに対する約890億ユーロの新規融資に署名し、欧州の競争力と安全保障の強化に貢献している。
14 Nov 2025
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英国で原子力発電所の新設計画を牽引する政府機関「Great British Energy – Nuclear(GBE-N)」は11月13日、北ウェールズのアングルシー島ウィルヴァを英国初の小型モジュール炉(SMR)の建設地として正式に選定したと発表した。本件は12日付の本紙既報(FT報道)を裏付けるもので、英国の次世代原子力政策が実行段階へ移行する大きな節目となる。GBE-Nによれば、同プロジェクトは出力最大150万kWeの原子力発電所を送電網に接続し、ネットゼロ目標およびエネルギー安全保障の強化を狙う。建設ピーク時には約3,000人の雇用創出が見込まれ、政府はSMRプログラムに25億ポンド(約4,700億円)を投じて民間投資と国内サプライチェーンの強化を図るとしている。GBE-NのS.ボウエン会長は声明で、「英国にとって歴史的な瞬間であり、原子力分野で世界をリードするという英国の潜在力を具現化する、もう一つの大きな一歩である」と述べ、ウィルヴァを中心とした“フリート(fleet)型”開発への移行が本格化すると強調した。同日、ロールス・ロイスSMR社もウィルヴァに自社設計SMR(PWR、47万kWe)×3基を建設する計画を正式に発表した。同社のC.チョラトンCEOは、「英国初のSMRフリート計画として、ウィルヴァに3基を建設できることは光栄である。今回の決定は、ウィルヴァにおける100年規模のクリーンエネルギー、技術革新、地域連携の始まりだ」と述べ、長期的な地域投資への強い意欲を示した。同氏は、SMRはモジュール化が進み工場生産方式が確立していることから、現地工事の負荷を最小化し、地域への影響を抑えた導入が可能になると説明した。ウィルヴァ・プロジェクトでは、関連産業を含め英国全体で年間平均約8,000人規模の高レベルの雇用を支える見込みとしている。このフリート構想は海外展開も見据えており、最初の輸出先としてチェコ(Czechia)が挙げられている。エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のE. ミリバンド大臣は、「この歴史的投資は、英国がいまなお息の長い大規模プロジェクトを実行する力を持つことを証明した。北ウェールズの若者に新たな機会が生まれ、英国全体の家庭にクリーンな電力を供給することになる」と述べるとともに、SMRを英全土に展開する政府方針を改めて示した。ウィルヴァはマグノックス炉を採用した旧原子力発電所の閉鎖(2015年)以降、日立製作所によるリプレース計画が2019年に中止され、以降長らく停滞していた。今回の正式決定により、同地域は再び英国の原子力拠点として再生する見通しが開けた。英国では大型炉建設プロジェクトとしてヒンクリーポイントC(EPR-1750、172万kWe×2基)の建設が進み、サイズウェルC(EPR-1750、172万kWe×2基)の資金手当てのメドがつきつつある中、SMRはフリート展開を前提にした次世代戦略の要として位置づけられている。英国政府およびGBE-Nは今後、地域コミュニティとの対話を継続し、透明性の確保と社会的受容性の向上に努めるとしている。今回の正式決定は、英国がSMR導入を軸に“新たな原子力フリート時代”へ踏み出した象徴的な動きといえる。金融・政策面での評価については、本紙既報にてハントン・アンドリュース・カース法律事務所のG.ボロバス氏のコメントを紹介している。Great British Energy – Nuclear(GBE-N)は、英国「エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)」のアームズ・レングス機関((政府方針の下で業務を行うが、専門的判断について一定の独立性を持つ公的実行機関のこと))であり、2023年に設立した「Great British Nuclear(GBN)」が前身。DESNZの後援を受け、英国の次世代原子力政策を実務面で支える中核組織となっている。
14 Nov 2025
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スペインの原子力事業者であるアルマラス・トリリョ原子力発電会社(Centrales Nucleares Almaraz-Trillo=CNAT)は10月30日、環境移行・人口問題省(MITECO)に対し、アルマラス原子力発電所(PWR, 100万kW級×2基)の運転期間を2030年6月まで延長するよう正式に要請した。現行の閉鎖予定時期は1号機が2027年11月、2号機が2028年10月となっている。CNATは声明で、同発電所の安全性や信頼性、効率性を確保しつつ、運転を継続する姿勢を強調。「世界でも高い運転水準を維持しており、引き続きその基準を維持していく」としている。同発電所は、世界原子力発電事業者協会(WANO)のパフォーマンス指標でも、最高評価にあたる「レベル1(エクセレンス)」を獲得。年間約5,000万ユーロ(約90億円)をバックフィットに投資している。発電所は、イベルドローラ(53%)、エンデサ(36%)、ナチュルジー(11%)の3社が共同所有する。アルマラス原子力発電所は、ポルトガル国境に近いエストレマドゥーラ州カセレス県に位置し、スペインの電力消費量の約7%(約400万世帯分)を供給。同発電所および関連事業を含め約4,000人が就業し、燃料交換時期には約1,200人の雇用が追加されるなど、地域経済を支える重要な雇用基盤となっている。スペインでは現在、5サイト・計7基、合計出力計739.7万kWeが運転中で、全基が40年超の運転認可を取得済み。2024年の原子力シェアは約20%を占め、稼働率は約84%。一方で、政府の脱原子力政策のもと、現行計画では2027~2035年までに順次閉鎖が予定されており、2030年までに約320万kWに縮小し(現在運転中の7基中4基が閉鎖)、2035年には0となる見込み。こうしたなか、今年2月、スペイン国会(下院)は中道右派の国民党(PP)が提出した、同国の原子力発電所の運転期間延長と安全性向上を政府に求める決議を可決。さらに同月には、スペイン原子力産業界が、長期運転を支持するマニフェストを発表し、原子力の段階的廃止政策が与える産業競争力と社会への悪影響について懸念を表明した。また4月にイベリア半島で発生した大規模停電を機に、国内では2035年までの原子力廃止計画の是非をめぐる議論が再燃。スペインの原子力産業団体であるForo NuclearのI. アラルース理事長は、「原子力は電力系統の信頼性にとって不可欠であり、段階的廃止方針を再考すべき」と主張している。
13 Nov 2025
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カナダのオンタリオ州とノバスコシア州は10月23日、小型モジュール炉(SMR)の導入に向けた覚書(MOU)を締結した。クリーンエネルギー移行を進めるノバスコシア州が、原子力先進州であるオンタリオ州の技術・制度運用のノウハウを活用し、SMR導入の可能性を具体的に検討する体制を整える。今回のMOUでは、SMR技術、サプライチェーン、規制制度、廃棄物管理といった幅広い分野で両州が協力を深めることを規定。また、カナダ政府に対し、SMR開発・導入に必要な手続きの迅速化を働きかけることも盛り込まれている。実務面では、両州のエネルギー担当省が協議を進め、進捗を年次で共有する体制も構築する。ノバスコシア州は2023年、カナダ政府および隣接するニューブランズウィック州と共同で、2030年までに石炭火力発電所を段階的に廃止し、クリーンで安価な電源に移行する方針を発表した。風力や太陽光など再生可能エネルギーの拡大を進める一方で、安定供給を確保するためのバックアップ電源の確立が課題となっており、SMRの導入も検討項目として位置づけている。2024年には「エネルギー改革法(Energy Reform Act)」を制定し、州営電力会社が将来的に原子力発電所を所有・運転できるよう法的制約を撤廃した。同法に基づき、送電網を担う独立系統運用機関(IESO)の設立が進められており、2025年末の発足を予定している。一方、オンタリオ州はこれまで同国内の原子力運転実績と規制対応の中心を担ってきた原子力先進州。現在はG7諸国で初となる商業用SMRの建設計画「ダーリントン新原子力プロジェクト(DNNP)」も進行中で、SMR建設をリードする存在でもある。また、このプロジェクトにはカナダ政府や州系基金が総額30億カナダドル(約3,300億円)を出資する。オンタリオ州との協力枠組みには、すでにニューブランズウィック州、サスカチュワン州、アルバータ州も同様に署名している。参加する州が広がったことで、SMR導入をめぐる連携の枠組みが全国的に広がりを見せている。カナダ政府は既に複数の州でSMR開発を支援しており、次世代原子力の活用を軸としたクリーンエネルギー移行が、今後さらに加速するか注目される。
13 Nov 2025
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英フィナンシャル・タイムズ紙は11月11日、英国政府が北ウェールズのアングルシー島ウィルヴァを、国内初となる小型モジュール炉(SMR)の建設候補地として選定する見通しだと報じた。報道によれば、政府はロールス・ロイス社製SMR×3基の建設を承認し、グロスターシャー州オールドベリーではなくウィルヴァを優先する方針だという。ただし、英政府は現時点でこの報道内容を否定しており、正式発表は行っていない。英国では労働党政権が、老朽化した大型炉に代わる電源としてSMR導入を推進しており、3年間で25億ポンド(約4,700億円)規模の開発支援を掲げている。政府は、FTSE100(ロンドン主要株価指数)に上場するロールス・ロイス社のSMRを中心に、「世界をリードするSMR開発国」を目指している。同SMRは電気出力が47万kWの加圧水型炉で、他のSMRより規模が大きいのが特徴。ウィルヴァでの建設が実現すれば、ピーク時には約3,000人の雇用を創出する見込みとされる。旧ウィルヴァ原子力発電所は2015年に閉鎖され、その後、日立製作所による後継プラント計画が2019年に中止となっていた。今回の動きは、同地で停滞していた原子力新設プロジェクトが再び動き出す可能性を示すものとなる。国際的な原子力法務の専門家であるハントン・アンドリュース・カース法律事務所のジョージ・ボロバス氏は、本件について次のようにコメントしている。「ヒンクリーポイントC(HPC)の建設が進み、サイズウェルC(SZC)プロジェクトの金融契約が締結された流れを受け、今回の報道は、英国の原子力新設プログラムにおけるもう一つの重要な節目を示すものとなる。英国は“初号機(FOAK)”となるSMRプロジェクトの開発に着手することになり、これは将来の英国および他国の新設計画におけるレファレンスプラント(参照モデル)となる可能性が高い。 HPCとSZCが、それぞれ差金決済(CfD)と規制資産ベース(RAB)の資金スキームを採用したように、SMRプロジェクトも官民パートナーシップ(PPP)型の枠組みを採用し、民間と政府が開発・資金調達・リスクを分担する形になるだろう。 こうした英国発の資金スキームは、各国が自国の原子力新設戦略を構築していく中で、日本を含む他国にも展開・応用される可能性が高い」地域の反応として、FT紙によると、プライド・カムリ党のリーノス・メディ議員が「高レベルな雇用と地域のサプライチェーンを確保し、環境・文化・ウェールズ語((ウェールズ全域で若者の流出が顕著であり、文化だけでなくウェールズ語の存続も危ぶまれている))を尊重する形で進められることを期待する」とコメントしたという。英政府はコメントを控えているが、正式発表は今週中にも行われる見通し。今回のウィルヴァ選定は、英国の原子力産業復興における次の段階を象徴する動きとして注目されている。
12 Nov 2025
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米国の先進原子力エネルギー企業であるナノ・ニュークリア・エナジー(NANO Nuclear Energy)社は10月22日、米ウルトラ・セーフ・ニュークリア(USNC)社の関連会社から、カナダを基盤とするグローバル・ファースト・パワー(GFP)社の買収を完了したことを明らかにした。NANO社は、米国とカナダで並行して建設および許認可プロセスを進めることで、北米におけるマイクロ炉分野のリーダーシップ確立を目指す。本買収によりNANO社は、カナダ原子力研究所(CNL)のチョークリバー研究所サイト(オンタリオ州)におけるマイクロモジュール炉「KRONOS MMR」実証プロジェクトをGFP社から引き継ぐ。これには、カナダ原子力安全委員会(CNSC)へのサイト準備許可(LTPS)取得に関する手続きも含まれる。GFP社は、CNSCによるベンダー設計審査(VDR)の第1段階を完了し、第2段階を開始しており、2019年3月にはLTPSの初期部分を提出するなど、重要な許認可前ステップを一部完了していた。NANO社はこの既存の基盤を活かして開発を再開する方針である。USNC社は2024年10月、米国破産法第11章第363条に従い、自社技術の売却プロセスを実施することを発表。競売により同年12月、NANO社はUSNC社のMMRを含む、原子力技術資産の一部を買収し、MMRをKRONOS MMRに改称した。KRONOS MMRは、TRISO燃料とヘリウム冷却を使用する第4世代の小型モジュール式の高温ガス炉。設置面積は5エーカー(約0.02平方キロメートル)未満とコンパクトで、最大4.5万kWt(1.5万kWe)の出力により、地域グリッドや再生可能エネルギーシステム、プロセス熱供給などと柔軟に連携可能。運転員の介入や外部電源なしに自動的に停止し安全状態を維持する(walk-away safe)設計であり、停電時にも独立して稼働できる完全自律マイクログリッド機能の確立を目指している。NANO社の最高技術責任者兼原子炉開発責任者であるF. ハイデット博士は、「今回の買収は、北米のマイクロ炉開発においてリーダーシップの地位を確立するという当社の目標にとって重要な進展。GFP社が中断していたカナダでの許認可取得の取組みを再開し、設計と規制対応の両面からKRONOS MMRの開発の継続に集中する。このプロセスの合理化により、許認可取得に伴う財務上およびスケジュール上の負担が大幅に軽減され、開発と導入を加速するための資本と技術的専門知識をより戦略的に割り当てることができる」として、GFP社の買収の意義を強調した。なお、NANO社によると、USNCは約10年間にわたりMMR開発と許認可に総額1.2億ドルを投じており、今回の取引に際し、GFP社がCNSCに対して負っていた約64万ドルの債務もNANO社が引き受けた。米UIUCでの建設準備も進行カナダにおける進展と並行して、NANO社は10月24日、米国のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)のサイトで研究用・商業用プロトタイプとなるKRONOS MMRの建設に向けた、サイト特性評価と地盤調査のための掘削作業を開始した。同施設が、エネルギーシステムの実用化における前例のない実証実験の場となり、将来的には北米および世界中の大学、政府関係、商業施設などにおける展開モデルとなると期待されている。同社は、サイト特性評価および掘削活動から得られる地質工学的データを活用し、2026年第1四半期にもKRONOS MMRの建設許可を申請予定である。さらにNANO社は、将来的な顧客候補として米国の技術・製造・インフラ企業であるBaRupOn社が、約15基のKRONOS MMRの導入に向けた実現可能性調査を開始すると発表した。BaRupOn社は、テキサス州ヒューストン近郊で、AIデータセンターと先進製造施設を備えた700エーカー(約2.8㎢)規模のキャンパスを建設予定で、必要電力は100万kWe超に達する見通しである。
12 Nov 2025
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米サウスカロライナ州営電力であるサンティー・クーパー社の取締役会は10月24日、同州で建設が中断されているバージル・C・サマー原子力発電所2-3号機の建設プロジェクト再開に向けて、カナダの資産運用会社であるブルックフィールド・アセット・マネジメント社との独占交渉に関する意向表明書(LOI)を承認した。同プロジェクトはウェスチングハウス社(WE)製の大型炉AP1000を採用しており、ブルックフィールド社はWE社の大口株主である。LOIでは、6週間の初期プロジェクト実現可能期間を設定。同期間中に、両当事者は共同でプロジェクトマネージャーを選定し、2基の建設再開を行う建設業者を評価。同発電所が発電する電力購入に関心のある事業体とも事前協議の実施を計画する。サンティー・クーパー社のP. マッコイ会長は、「当社の目標は、民間資金で原子炉を完成させ、料金支払者や納税者に負担をかけずに、サウスカロライナ州に大幅な発電設備を追加すること。ブルックフィールド社の提案はまさにそれを実現するものであり、その提案を支える財務能力がある」と語り、J. ステートンCEOは、「過去8年間にわたって設備を維持するという当社の戦略的な決定により、2基の完成をより迅速かつ低コストで完成させることができる」と指摘。建設が停止された2基の保存状態と、ジョージア州のA. W. ボーグル3-4号機および海外で運転実績のあるAP1000は、原子力産業にとって非常に魅力的な資産であるとし、同2基の完成により、初期投資を行った顧客に利益を還元していく考えを示した。家庭用および産業用の電力需要の急増と州の支援を受けて、サンティー・クーパー社は昨年、未完成の原子炉を完成させるために第三者に資産の売却を検討。2025年1月に提案依頼書(RFP)の募集を実施し、当初、70社以上から関心表明と15件の正式な提案を受けたという。2基の完成プロジェクトにより、数千人の建設雇用の創出、数百人の高度なスキルを持つ常勤雇用のほか、送電網の信頼性の向上、新たな産業誘致に伴うより多くの雇用と経済的利益が見込まれている。なお、この完成プロジェクトの権益を売却する競争プロセスにおいて、米投資銀行のセンタービュー・パートナーズ社やJPモルガン社がサンティー・クーパー社の財務アドバイザーを務めている。同発電所の建設プロジェクトの過半数(55%)を所有していたスキャナ(SCANA)社傘下のSCE&G社(2019年1月にドミニオン・エナジー社が買収)は、2-3号機の建設・運転一括認可(COL)を、2008年3月に米原子力規制委員会(NRC)に申請。COLは2012年3月に発給され、2013年3月に2号機、2013年11月に3号機が着工した。同じAP1000を採用したA. W. ボーグル3-4号機の着工とほぼ同時期である。しかし、長年にわたるコスト超過およびスケジュール遅延と、その後に続く2017年3月のWE社の破産申請を受け、SCE&G社は建設プロジェクトの残り45%の所有者であったサンティー・クーパー社とともに、2017年7月に2-3号機の建設中止を決定した。SCE&G社はその後、2018年12月に納入されていた機器の所有権をサンティー・クーパー社に譲渡。ほどなくサンティー・クーパー社とWE社との間で、プロジェクトに係る設備・機器所有権をめぐり係争に発展したが、和解が成立している。なおNRCは、SCE&G社とサンティー・クーパー社の合意により、2019年3月にCOLを失効させた。新たに建設・運転を希望する場合、再申請が必要となる。
11 Nov 2025
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米大手電力会社ネクストエラ・エナジー社は10月27日、米IT大手のGoogle社と共同で、アイオワ州のデュアン・アーノルド原子力発電所(BWR, 62.4万kWe)の再稼働に向けた協定を締結したと発表した。Google社は同発電所の再稼働後、供給される電力を25年間にわたり購入する電力購入契約(PPA)を結び、AIやクラウドサービスの拡大に伴い急増する電力需要を、エネルギー企業とIT企業が協力して支える新たなモデル構築を目指す。このPPAにより、Google社が25年間にわたり電力を固定価格で購入することで、ネクストエラ社は再稼働に必要な巨額投資を長期収益で回収できる見通しを得た。再稼働にかかる費用は州の電力料金に転嫁されず、一般家庭や地域企業への負担は生じない。電力需要家と発電事業者が直接契約を結ぶ仕組みは再生可能エネルギー分野では一般化しているが、原子力に適用されるのは異例であり、政府補助に依存しない「民間資金による原子力再稼働」として注目を集めている。アイオワ州唯一の原子力施設であるデュアン・アーノルド発電所は、1975年に運転開始。45年以上にわたり稼働したのち、経済性の悪化を理由に2020年に閉鎖された。当初は2034年までの運転が認可されていたが、地域電力会社との売電契約期間短縮と同年の自然災害による設備損傷により、閉鎖が前倒しされた。AIやデータセンター需要の急拡大により電力不足が顕在化し、ネクストエラ社は再稼働の可能性を模索。今年1月に米原子力規制委員会(NRC)への運転再開を申請しており、現在は2029年の運転再開を目指して審査が進められている。今回のGoogle社との契約は、同計画の実現に向けた“決定打”と位置付けられる。Google社にとってアイオワ州は、米国中西部におけるデータセンター運営の中核拠点である。同社は2007年に最初のデータセンターを開設し、AIやクラウドサービスの主要拠点として運営。今年5月には約70億ドル(約1兆円)の追加投資計画を発表し、データセンター新設や既存施設の拡張、人材育成プログラムなどを進めている。今回のPPAは、こうしたインフラ投資を持続可能に支えるクリーンで安定した電力確保策として位置づけられる。これまで民間企業による原子力投資は次世代炉の開発支援が中心だった。Google社が既存の大型炉に対し長期的なPPAを結ぶのは異例であり、投資の焦点が「新技術の開発」から「既存炉の再評価・再活用」へと移りつつあることを象徴している。AI時代の電力需要に応えるため、既存原子力資産を“クリーンで即応性の高い電源”として再評価する動きは、今後他の地域や事業者にも波及する可能性がある。
11 Nov 2025
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ウズベキスタン原子力庁(ウザトム=Uzatom)のA. アフメドハジャエフ長官率いる代表団は10月20日、イタリアのジェノバで、同国のアンサルド・エネルギア(Ansaldo Energia)社およびその原子力専門の子会社であるアンサルド・ヌクレアーレ(Ansaldo Nucleare)社と会談し、原子力分野での協力具体化に向けた協議を行った。協議では、ウズベキスタン初となる原子力発電所建設プロジェクトに関し、アンサルド・グループを技術コンサルタントとして起用し、同国の気候条件(高温・乾燥・砂塵など)に適応した補助システムの技術統合を進める可能性について検討した。また、放射性廃棄物処理の分野では、アンサルド・ヌクレアーレ社が独自開発した使用済み燃料管理システムの導入についても詳細な意見交換が行われた。さらにアンサルド・グループが関心を寄せるウズベキスタンの法規制基盤整備やライセンス取得支援、原子力分野における技術改良と人材育成を目的とした共同研究開発の実施についても協議された。アンサルド・グループは、蒸気タービンやガスタービンなどのエネルギー機器の設計・製造・供給を手掛ける、欧州有数のエネルギー企業であり、安全システム構築やソフトウェア開発、原子力発電所向け主要・補助設備の供給に豊富な実績を有する。中国、ベルギー、スロベニア、ハンガリー、ウクライナなどの原子力発電所向け評価・技術保守にも参画してきた。両者は今年5月、ウズベキスタンのS. ミルジヨーエフ大統領とイタリアのJ. メローニ首相立ち会いの下、先進的な原子力技術と小型モジュール炉(SMR)の開発に関する協力覚書(MOU)を締結。次世代原子力発電所の設計と建設、放射性廃棄物管理、専門家育成などの分野で戦略的に協力していく方針を確認していた。ウザトムは現在、ウズベキスタン東部のジザク州でロシア舶用炉を陸上用に改良したSMRの「RITM-200N」(PWR、5.5万kWe)×2基の建設を進めているほか、ロシア製大型炉VVER-1000×2基の建設も計画している。10月にはSMR初号機の原子炉建屋の基礎掘削工事が開始されており、同国における原子力開発は着実に次の段階へと進んでいる。
10 Nov 2025
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シンガポール通商産業省(MTI)は10月27日、報告書「シンガポールの原子力評価能力の構築(Developing Singapore’s Nuclear Energy Assessment Capability)」を発表した。報告書はMTI、持続可能性・環境省(MSE)、エネルギー市場庁(EMA)、国家環境庁(NEA)の4機関が共同で作成。原子力導入の可能性を科学的・客観的に評価するための手順と視点を体系化している。同国は再生可能エネルギー資源に乏しく、総発電電力量の約95%を天然ガスに依存している。太陽光発電の導入を進めても10%程度にとどまる見通しで、水素、地熱、先進原子力の3つを将来有望な低炭素エネルギー源として位置づけている。同国は2012年にも原子力発電の実現可能性を調査したが、国土が狭く人口密度が高いことを理由に、導入が見送られた経緯がある。その後小型モジュール炉(SMR)など安全性と柔軟性を高めた次世代技術が進展したことから、政府は検討を再開。報告書では、原子力が同国のエネルギー政策の三本柱である「エネルギー安全保障・経済性・環境の持続可能性(エネルギートリレンマ)」に対応し得ると評価している。同日開幕したシンガポール国際エネルギー週間(SIEW)の開会スピーチでタン・シー・レン大臣(人材大臣兼 通産省エネルギー・科学技術担当大臣)は、「SMRなどの新技術を含む原子力エネルギーは、安全で信頼性が高く、コスト競争力のある選択肢になり得る」と述べた。さらに、米国やフランスとの協定締結、米アイダホ国立研究所や米バテル記念研究所との協定を例示し、ノウハウ共有と人材育成を通じた評価体制の整備を進める方針を示した。
10 Nov 2025
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日本原子力産業協会(JAIF)は、2025年11月4~6日、フランスのパリで開催されたWNE2025(世界原子力展示会)に出展。同展示会の主催者である仏原子力産業協会(GIFEN)や、カナダ原子力協会(CNA)、韓国原子力産業協会(KAIF)、欧州原子力産業協会(Nucleareurope)、ブラジル原子力産業協会(ABDAN)などとともに、最終日の11月6日、第30回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP30)に向けて、各国の政治指導者や金融関係者に対し、エネルギーミックスにおいて重要な役割を果たす原子力へのより一層の支援を求める共同声明に署名した。声明では、気候変動対策における原子力の役割をあらためて強調するとともに、全人類が持続可能で安定したエネルギーにアクセスするためには、原子力を含むあらゆる低炭素技術への即時かつ協調的な投資が不可欠であると強調している。国際エネルギー機関(IEA)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)により、原子力は気候目標達成に不可欠な低炭素電源の一つとされた。アラブ首長国連邦のドバイで開催されたCOP28の最終合意では、初めて原子力が「排出量削減のための重要なアプローチの1つ」として正式に明記され、2050年までに世界の原子力発電設備容量を3倍とする目標が設定された。現在、31か国で約440基(総出力4.2億kWe)の原子炉が稼働中で、60基以上が建設中であり、約30の新興国が原子力開発を検討している。IAEAの最新予測では、2050年までに原子力発電容量が最大2.5倍に拡大する可能性があるとされ、この実現には、年間の新規導入を500~600万kWeから2,500万kWe以上に増加させる必要がある。そのうえで、原子力が、過去50年間で約700億トンのCO₂排出を削減した実績があり、2050年までにさらに900億トンの排出削減が可能であること、高いエネルギー密度により最小限の資源で大量の電力生産を可能にするほか、医療・水素・熱供給・宇宙分野など非電力用途も拡大し、地域の雇用・経済発展にも大きく寄与するなど、環境・社会的にも貢献すると指摘。特に、小型モジュール炉(SMR)や先進炉(AMR)、いわゆる第4世代炉の開発が、循環型エネルギー経済の構築と産業の脱炭素化を推進する技術革新の中心になると位置づけている。声明では、世界の指導者や金融界に対し、2050年までに原子力設備容量の3倍化目標の再確認のほか、既存炉の長期運転の政策支援と新規プロジェクトや研究開発を促進するグリーンファイナンス制度の整備を求めるなど、原子力の経済的・環境的利点を訴求し、気候目標の達成と安価でクリーンな電力の安定供給を両立させるため、原子力へのより一層の支援を訴えた。共同声明に署名した17原子力産業団体((署名17原子力産業団体: GIFEN(フランス)、 WNA、Nucleareurope、NIA(英国)、FinNuclear(フィンランド)、ABDAN(ブラジル)、BNF(ベルギー)、AIN(イタリア)、Nucleair Nederland(オランダ)、CNA(カナダ)、SNF(スイス)、JAIF(日本)、KAIF(韓国)、IGE OS(ポーランド)、CNEA(中国)、ROMATOM(ルーマニア)、Foro Nuclear(スペイン)))は、「原子力はクリーンで信頼性が高く、エネルギー安全保障と経済の安定を確保するための重要な資産。我々は、責任ある技術革新を通じて、気候変動や全人類のエネルギーアクセスなどの課題を克服し、人類の発展に貢献する」と力強くメッセージを発している。
07 Nov 2025
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脱炭素化を掲げるカナダにおいて、これまで原子力発電を導入していなかった2州で新設への動きが具体化しつつある。サスカチュワン州政府は10月20日、同州初となる「エネルギー安全保障戦略」を公表し、原子力を含む長期的な電源多様化方針を示した。一方、隣接するアルバータ州と米ウェスチングハウス(WE)社は10月21日、とAP1000(PWR, 125万kWe)の導入可能性を探る覚書(MOU)を締結。サスカチュワン州政府の新戦略は、エネルギー安全保障を最優先課題とし、単一電源への依存を避ける多様な電源構成の確立を目的とする。公式資料によると、州の発電量の約50%を天然ガスが占めており、石炭火力も依然として安定供給を支える重要な電源となっている。再生可能エネルギーの比率は35%に上るが、出力変動や土地利用の制約が課題とされる。同州は世界有数のウラン産出地でありながら、これまで原子力発電所は建設されてこなかった。新戦略では今後のエネルギー需要の拡大を見込み、2050年まで石炭火力の運転を認め、原子力導入までの「橋渡し電源」として活用する方針を示している。州電力会社のサスクパワー社は、SMR「BWRX-300」の導入を軸とした開発計画を進めており、エステバン近郊2地点を候補サイトに絞り込み、2026年中の立地決定を目指している。また、州内3大学に対してそれぞれ300万~400万ドル(約3.5~4.6億円)を投資し、原子力工学・安全・先端研究分野での人材育成や拠点整備を予定。ウラン資源と研究機関を活かし「採掘から発電まで」を一貫させた産業クラスターの形成も視野に入れる。一方、アルバータ州では、同州北部で「ピースリバー原子力発電プロジェクト」を推進するエナジー・アルバータ社が10月21日、WE社とAP1000の導入可能性を検討するMOUを締結した。同プロジェクトは最終的に4基、合計480万kW規模の原子炉建設を目指している。当初はCANDU炉の採用を前提としていたが、米国型PWRの適用可能性についても検討を進める。サスカチュワン州とアルバータ州は、2024年5月には原子力技術の導入や規制分野での協力に関するMOUも締結している。
07 Nov 2025
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南アフリカのK. ラモホパ電力・エネルギー相は10月19日の記者会見で、同月15日に閣議決定された統合資源計画(IRP)2025を発表した。公開協議の段階で4,000人以上の利害関係者の意見を反映した、国の電力構成を計画的に策定するための長期計画で、電力供給と需要のバランスを図りつつ、環境影響と電力コストを考慮したもの。同IRP-2025により、2030年までに国内総生産(GDP)を3%成長させることを目指しており、原子力発電については2039年までに520万kWを新たに導入する計画が示された。IRP-2025によると、政府は今後、GDPの約30%に相当する2.2兆ランド(約19.3兆円)を投じ、2039年までに1億500万kWeの発電設備容量の増強を計画。これは、国営電力会社のエスコム(Eskom)が現在保有する発電設備容量の2.5倍に相当する。具体的には、太陽光発電: 2,500万kWe、風力発電: 3,400万kWe、ガス火力発電: 1,600万kWe、エネルギー貯蔵: 850万kWe、分散型発電: 1,600万kWe、原子力発電: 520万kWeとなっている。同国では、総発電電力量に占める石炭火力発電の割合が約80%と高く、2050年のネットゼロ目標達成に向けて、石炭火力の割合を減少させ、再生可能エネルギー、ガス火力、原子力の拡大により、エネルギーミックスを推進していく方針。現在の原子力発電規模は計194万kWe(クバーグ発電所で2基運転中)、総発電電力量に占める割合は約4%である。ラモホパ大臣は、慢性的な電力不足が経済発展と雇用に深刻な影響を及ぼしていると指摘。「原子力がエネルギーソリューションとしてだけでなく、南アフリカ経済に何の利益をもたらすか、燃料サイクルのどの要素を国産化できるかが重要」と述べ、燃料サイクルにおける国内調達可能な要素の特定のほか、小型モジュール炉(SMR)技術の開発、地元産業の能力開発、原子力部門の雇用機会の創出に向けて、原子力産業化計画の策定に意欲を示した。また、原子力発電利用に対する世界的な気運の高まりに応え、世界の多くの金融機関が原子力プロジェクトへの融資を約束しはじめていることも、原子力部門への追い風になっているとした。さらに同大臣は、原子力発電の拡大にあたり、「国が先走ることはない。非常に慎重に、透明性をもつことを保証する」とプロセスを重要視する姿勢を強調。また、「新規原子力開発計画の停滞が、建設業界や科学者たちの能力を損なった。原子力産業化計画では、将来に向けてスキルをどのように生み出していくかが重要」として、大学、技術職業教育訓練カレッジ、特に建築と原子力に関連する工学部門と協力していく方針を示した。エスコムは声明で、南アフリカのエネルギー移行において、エネルギー安全保障、価格の手頃さ、環境の持続可能性、社会経済的配慮のバランスを重視するIRP-2025の策定を歓迎。同国の失業率が30%、若年層の失業率が50%を超える状況において、経済成長と社会的包摂(インクルージョン)を加速させるために必要な電力供給のための明確な投資枠組みを提供するものだと評価した。
06 Nov 2025
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米国で一度閉鎖された原子力発電所が、再稼働に向けて大きな節目を迎えた。米ホルテック・インターナショナル社は10月20日、ミシガン州のパリセード原子力発電所(PWR, 85.7万kWe)に68体の燃料集合体を受け入れたと発表した。同発電所は2022年5月に経済性の悪化を理由に閉鎖され廃止段階に移行していたが、ホルテック社は米エネルギー省(DOE)の最大15億2,000万ドル(約2,300億円)の融資保証や州政府の支援を受けながら、運転再開に向けた整備作業を本格化している。再稼働が実現すれば、米国で閉鎖後に再び運転を開始する初の事例となる。今回受け入れた燃料は米国製で、炉心装荷されるまでの間は使用済み燃料プール建屋内に保管される。設備の復旧作業も進んでおり、主要機器の検査や保守を1年以上にわたり実施。現在は主要タービン発電機の再組立てが進行中で、一次冷却ポンプモーターの2基目の設置が完了した。今夏初めには、蒸気発生器の伝熱管改修も完了している。運転再開の目標は2025年末だが、具体的な時期は未定としている。パリセード発電所は1971年に営業運転を開始。2022年5月の永久閉鎖後、翌6月に当時の所有・運転者であったエンタジー社からホルテック社に売却された。当初は廃止措置を前提とした取得だったが、新たに電力販売契約が成立したことなどにより採算性の見通しが立ち、方針を転換した。米原子力規制委員会(NRC)が今年7月24日、技術審査を完了し運転再開に必要な主要許認可を承認した。これにより、燃料の受け入れが可能となっていた。米国ではエネルギー需要の増加や気候変動対策への対応を背景に、かつて経済性を理由に閉鎖されたプラントを再稼働させる動きが見られる。パリセードのほか、2019年に閉鎖したスリーマイル・アイランド1号機(PWR, 89.0万kW, 現クレーン・クリーン・エネルギー・センター)や2020年に閉鎖したデュアン・アーノルド1号機(BWR, 62.4万kW)でも、運転再開に向けた検討が進められている。
05 Nov 2025
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ポーランド国営エネルギーグループ(PGE)は10月16日、民間エネルギー企業ZE PAK社から、PGE PAK原子力エネルギー(PGE PAK Energia Jądrowa= PGE PAK EJ)社の株式50%を取得し、同国の第2原子力発電所建設プロジェクトを完全管理下におくこととなった。これは、M. モティカ・エネルギー相の決定により成立したもの。PGEのD. マルゼックCEOは、「PGE PAK EJ社を完全子会社化し、その運営を一元的に管理することで、第2原子力発電所に関する調査や分析、意思決定を行うことができる。これには、モティカ大臣の決定を含む、正式な政府の承認が必要だったが、プロセス全体は円滑に進んだ」と述べた。モティカ大臣は、「PGEによるPGE PAK EJ社の全株取得は、PGEだけでなく、政府も推進する戦略の実現である」と強調した。政府は、原子力はポーランドのエネルギー移行における戦略的柱であり、安定かつ安全なエネルギーシステムの構築、化石燃料からの脱却、気候目標の達成に資するものとしている。ポーランド初の原子力発電所は国営の特別目的会社(SPV)のPEJが同国北部のポモージェ県ホチェボ自治体内のルビアトボ-コパリノに、米ウェスチングハウス社製のAP1000を3基建設する予定。現在、現地では準備作業が進められており、2028年に建設開始、初号機の運転開始は2036年、2、3号機の運転開始はそれぞれ2037年、2038年を予定している。政府の原子力開発計画(PPEJ)では、2番目の原子力発電所の建設候補地として、石炭・褐炭火力発電所のある同国中央部のベウハトフ地区やコニン地区の2か所が挙げられている。PGEグループの戦略でも、同地区での立地分析の実施や、トゥルフにある石炭火力発電所での小型モジュール炉(SMR)建設準備も検討されている。PGEと国有財産省が一部出資する民間のエネルギー企業のZE PAK社は2023年4月、合弁の特別プロジェクト企業であるPGE PAK EJ社を設立。韓国水力・原子力(KHNP)との協力により、コニン地区で韓国製140万kW級PWR「改良型加圧水型炉(APR1400)」を少なくとも2基(合計出力280万kW)建設を計画し、ポーランドの気候環境省は2023年11月、PGE PAK EJ社に対し、原則決定(decision-in-principle=DIP)を発給している。一方でKHNPのJ. ファンCEOは今年8月、韓国国会の委員会で、スウェーデン、スロベニア、オランダに続き、ポーランドの原子力発電プロジェクトからの撤退について言及。ポーランド政府と国営企業によるそれぞれの原子力建設プロジェクトが、新政権発足後に政府のプロジェクトに一本化されたことを理由に挙げていた。これに対し、モティカ大臣は、KHNPの決定はポーランド政府のいかなる行動にも起因するものではないと指摘。エネルギー省は今年7月、韓国側に対し、第2原子力発電所の競争手続きに参加するよう正式に招待し、この問題に関する公式の立場を待っていると説明した。また、すべての決定権が半分民間企業である投資家にあるため、政府はコニン地区でのプロジェクトを停止する決定もしていないと補足した。なお、ポーランドのD. トゥスク首相は今年7月下旬、内閣改造を実施し、エネルギー省を新設。産業省を吸収するとともに気候・環境省の所掌の一部を引き継ぎ、原子力部門(SMRを含む)と鉱山部門はエネルギー省に移管されている。
04 Nov 2025
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