キーワード:再稼働
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				  高浜2号機が本格復帰 3基目の40年超運転 運開当時の高浜2号機(左)、隣接の1号機とともに現在は事故時環境線量低減のため鉄筋コンクリート造のドーム型屋根が設置されている(原産新聞1975年11月20日号より)関西電力の高浜発電所2号機(PWR、82.6万kW)が10月16日、原子力規制委員会による最終検査を終了し、およそ12年ぶりに営業運転を再開した。同社、美浜3号機、高浜1号機に続き、国内3基目の40年超運転となる。高浜2号機の再稼働に向けては、同1号機、美浜3号機とともに、2015年3月に規制委員会への新規制基準適合性に係る審査が申請された。運転開始から60年までの運転期間延長については、高浜1・2号機合わせて2015年4月に認可申請がなされ、本体審査は両機並行の格好で進捗。2016年4月に揃って審査合格となった。その後、安全対策工事、地元の了解を経て、テロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」については、それぞれ2023年7月14日、8月31日に整備を完了し運用開始。1号機は先行して、8月2日に発電を再開し、同28日に営業運転に復帰。2号機も9月20日に発電を再開した。高浜2号機の営業運転再開により、関西電力では原子力発電プラント7基体制(美浜3、高浜1~4、大飯3・4)が確立。これについて、同社・森望社長は、「原子力発電所を最大限活用していくことは、S+3E(安全確保、エネルギーセキュリティの確保、経済性、地球環境問題への対応)の観点から、非常に有意義である」とコメント。今後も安全・安定運転の実績を着実に積み重ねていく考えをあらためて述べた。高浜2号機は、同1号機からちょうど1年後となる1975年11月14日に、国内10基目の商業炉としてデビュー。これにより日本の原子力発電設備容量が500万kWを超えた。当時、国内では13基の商業炉が建設中にあった。 - 17 Oct 2023
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				  米国 閉鎖したパリセード発電所の再稼働を申請 米ホルテック・インターナショナル社は10月6日、ミシガン州で2022年5月に閉鎖されたパリセード原子力発電所(PWR、85.7万kW)の再稼働を目指し、運転認可の再交付を米原子力規制委員会(NRC)に申請した。同社は既存の規制の枠内で再稼働に向けた道筋を固めるため、事前にNRCスタッフと複数回にわたり協議を重ねていた。今回の申請は、同発電所を全面的に復活させるための正式手続きの端緒となる。米国では市場設計の失敗により、自由化市場環境下で運転する発電所の経済性が悪化。パリセード原子力発電所を最後に所有・運転していたエンタジー社は2022年5月に同発電所を閉鎖した後、6月には廃止措置を実施するため同発電所を運転認可とともにホルテック社に売却していた。一方で、同発電所には運転開始後50年以上安全に稼働した実績があり、閉鎖直前には577日間の連続運転を記録するなど、NRCは同発電所を「最も高い安全性を有する原子炉」のカテゴリーに分類。原子力産業界でも高パフォーマンスの発電所として評価されていた。ホルテック社は、近年はCO2の排出に起因する環境の悪化等から、各国が炭素負荷の抑制に取り組んでおり、原子力のようにクリーンなエネルギー源が重視される時代となったと説明。このため同社は、米エネルギー省(DOE)が原子力発電所の早期閉鎖を防ぐために2022年4月に設置した「民生用原子力発電クレジット(CNC)プログラム」に同発電所の適用を申請。この時は他のプラントへの適用が決定したためパリセード発電所への適用は認められなかったものの、同社は今年2月、再稼働に必要な融資を求めて同プログラムに再度申請している。ホルテック社が進めるパリセード発電所の再稼働方針については、ミシガン州のG.ホイットマー知事も2022年9月に支持を表明。今年7月には、同発電所の再稼働に1億5,000万ドルの支援を盛り込んだ2024会計年度の州政府予算法案に署名した。ホルテック社も、同発電所が発電する電力を州内のウルバリン電力共同組合(Wolverine Power Cooperative)に販売するため、今年9月に子会社を通じて長期の電力売買契約(PPA)を締結している。ホルテック社の予測では、パリセード発電所の再稼働が実現した場合、ミシガン州では無炭素なエネルギーの供給量が大幅に増大するため、送電網の信頼性向上につながるほか輸入エネルギーへの依存度が低下する。同発電所が雇用する600名以上の従業員には総額8,000万ドルの給与が支払われる予定で、州内にもたらされる2次的経済活動は5億ドル以上の規模。また、閉鎖前に同社が毎年支払っていた同発電所の固定資産税は1,000万ドルにのぼり、地元最大の納税者として立地エリアの学校や警察、消防署、公園、図書館などに貢献していたという。ホルテック社のJ.フレミング副社長は、「米国のエネルギー・ミックスの中で原子力は重要な役割を果たしており、ミシガン州においても安全で信頼性の高い無炭素電力を供給している」と指摘。パリセード原子力発電所では機器・システム等が現在も良好な状態で管理されていることから、「規制基準を満たしながら高い安全性を維持し、供給区域の経済成長やエネルギー供給に持続的に貢献するよう可能性を模索する」としている。(参照資料:ホルテック社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」) - 10 Oct 2023
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				  米国 閉鎖済み原子炉を再稼働方針 米国のホルテック・インターナショナル社は9月12日、ミシガン州で2022年に永久閉鎖となったパリセード原子力発電所(PWR、85.7万kW)を再稼働させるため、子会社を通じて、同原子力発電所が発電する電力を州内のウルバリン電力協同組合(Wolverine Power Cooperative)に長期にわたり販売する契約を締結した。ホルテック社は今年2月、同発電所の再稼働に必要な融資依頼を米エネルギー省(DOE)に申請している。米原子力規制委員会(NRC)のスタッフとは、すでに複数回の公開協議を通じて、同発電所の運転再認可に向けた規制手続について議論を重ねており、「パリセード発電所は閉鎖後に再稼働を果たす米国初の原子力発電所になる」と強調。再稼働を必ず実現させて、ミシガン州の各地に無炭素エネルギーによる未来をもたらしたいと述べた。また、長期停止中の原子力発電所を数多く抱える日本や脱原子力を完了したドイツでも、同様の流れになることを期待するとした。米国では、独立系統運用者が運営する容量市場取引きの台頭など、電力市場の自由化が進展するのにともない、電力事業者間の従来通りの電力取引をベースとしていたパリセード発電所の経済性が悪化。2007年に同発電所をコンシューマーズ・エナジー社から購入したエンタジー社は2022年5月、当時の電力売買契約が満了するのに合わせて、合計50年以上安全に稼働していた同発電所を閉鎖。その翌月には廃止措置を実施するため、同発電所を運転認可とともにホルテック社に売却していた。ホルテック社は、原子力発電所の廃止措置のほか、放射性廃棄物の処分設備や小型モジュール炉(SMR)の開発など、総合的なエネルギー・ソリューションを手掛ける企業。同社によると、近年CO2の排出に起因する環境の悪化から各国が炭素負荷の抑制に取り組んでおり、原子力のようにクリーンなエネルギー源が重視される時代となった。パリセード発電所の購入後、ホルテック社は、DOEが既存の原子力発電所の早期閉鎖を防止するため実施中のプログラムに同発電所を対象に申請書を提出。これを受けてミシガン州のG.ホイットマー知事は2022年9月、この方針を支持すると表明していた。ホルテック社が今回結んだ電力売買契約では、パリセード発電所が発電する電力の3分の2をウルバリン電力協同組合が買い取り、同組合に所属する他の電力協同組合を通じてミシガン州主要地域の家庭や企業、公立学校等に配電する。残りの3分の1は、ウルバリン協同組合が協力中のフージャー・エナジー(Hoosier Energy)社が買い取る予定。なお、今回の契約では、ホルテック社がパリセード原子力発電所敷地内で、出力30万kWのSMRを最大2基建設するという契約拡大条項も含まれている。これらを追加建設することになれば、ミシガン州では年間約700万トンのCO2排出量が削減される見通し。ホルテック社の説明では、パリセード発電所の再稼働に対する地元コミュニティや州政府、連邦政府レベルの強力な支持は、CO2の排出削減における原子力の多大な貢献に基づいている。ホルテック社で原子力発電と廃止措置を担当するK.トライス社長は、「パリセード発電所を再稼働させることで、ミシガン州は今後のエネルギー需要を満たしつつ地球温暖化の影響を緩和できるほか、高収入の雇用を数百名分確保し地方自治体の税収を拡大、州経済の成長にも貢献できる」と指摘している。(参照資料:ホルテック社、ウルバリン電力協同組合の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」) - 15 Sep 2023
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				  設備利用率が新規制基準施行後初の3割超え 原子力産業新聞が電力各社から入手した毎月のデータによると、国内原子力発電所の設備利用率は2023年8月、33.2%となり、2013年7月の新規制基準施行後、初めて30%を超えた。国内の原子力発電所は、2011年3月の福島第一原子力発電所事故後、順次停止し、一部政治判断による再稼働はあったものの、2013年9月~15年8月のおよそ2年間にわたり全基停止の状態が続いた。新規制基準の施行後は、九州電力川内1・2号機が先陣を切って、それぞれ2015年8、10月に再稼働。その後、2018年にかけて、関西電力高浜3・4号機、同大飯3・4号機、四国電力伊方3号機、九州電力玄海3・4号機が新規制基準をクリアし運転を再開。以降、新たな再稼働は滞り、司法判断や新規制基準で要求されるテロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の設置期限満了に伴う停止も加わり、設備利用率の低迷する時期がみられた。一方で、2021年6月には、3年ぶりの新規再稼働となる関西電力美浜3号機が国内初の40年超運転として発電を再開。2023年8月には同高浜1号機が、これに続いて40年超運転入り。同2号機も3基目の40年超運転に向け9月15日に原子炉を起動した。各プラントの特重施設整備も進んでおり、今春以降、設備利用率が徐々に回復してきている。これまでに再稼働(発電再開)したプラントは、計11基・1,078.2万kWで、いずれもPWR。今後、BWRについても、近時では、東北電力女川2号機、中国電力島根2号機の、それぞれ、来春、来夏の再開が見込まれている。*月ごとの原子力発電所運転状況は、こちら をご覧ください。 - 15 Sep 2023
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				  高浜1号機が発電再開 国内2基目の40年超運転 関西電力の高浜発電所1号機(PWR、82.6万kW)が8月2日15時、およそ12年半ぶりに発電を再開した。国内の40年超運転としては同社・美浜3号機(新規制基準施行後、2021年6月に原子炉起動、同7月に営業運転再開)に続き2基目。新規制基準をクリアし再稼働したプラントとしては11基目となる。高浜1号機は、日本が高度経済成長期の真っ只中にあった1969年に建設が開始され、1974年11月14日に、国内では8基目、関西電力では美浜1・2号機に続く3基目の原子力発電プラントとしてデビュー。出力82.6万kWは、当時、国内最大級だった。1年後の1975年11月14日には高浜2号機(PWR、82.6万kW)が運転を開始。高浜1・2号機は、その後、同社で、美浜3号機、大飯1・2号機へと続く大型プラントの先駆けとなった。高浜1号機は2011年1月に定期検査に伴い停止した後、東日本大震災を経て、2015年3月に同2号機、美浜3号機とともに新規制基準適合性に係る審査が開始。2号機とともに、2016年4月に原子炉設置変更許可となり、2021年4月までに再稼働に対する地元の「理解表明」を得た。一方で、高浜1・2号機は、新規制基準で要求されるテロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の設置期限(プラント本体の設計・工事計画認可から5年)を2021年6月9日に満了。整備期間を経て、1号機については、2023年7月14日に特重施設が運用を開始し、同28日に原子炉起動となった。今後、定期検査の最終段階となる国の総合負荷性能検査を経て、8月28日に営業運転に復帰する見通しだ。原産協会の新井史朗理事長は、コメントを発表し、関西電力のこれまでの再稼働実績にも言及した上で、「安全・安定運転の積み重ねが、地元を始め、国民の皆様の原子力への信頼を深めてもらうためにとても大切」と強調。今後、高浜2号機やこの他のBWRプラントの再稼働に向けても、引き続き安全最優先で作業が進められることを期待した。 - 02 Aug 2023
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				  気候変動への対応はもはや待ったなし 今年の東京地方は梅雨明け前から連日の猛暑になった。都心部における7月の平均気温の過去最高は、2001年、2004年に記録した28.5℃だが、今年はそれを更新する可能性がある。気象庁にデータの残る1876年以降、東京都心部の年平均気温は10年に0.2℃のペースで上昇してきた(図表1)。具体的には、1876年から20年間の平均気温は13.9℃だが、2022年までの10年間だと16.4℃だ。温暖化は着実に進みつつあると言えるだろう。日本全国では、九州、中国、そして東北地方において梅雨前線の停滞による記録的大雨があった。豪雨災害に関する報道によると、被災地域において多くの方が異口同音に「経験のない降水量」に言及されていたのが印象に残る。今年は6月にも和歌山、三重、愛知、静岡の各県を中心に激しい豪雨が発生した。1時間に50㎜以上の非常に激しい雨の発生件数は、年毎に大きな振幅があるものの、趨勢として増加基調にある(図表2)。2018年以降の5年間では、2018年7月の西日本豪雨、2019年8月の九州北部豪雨、同9月の台風15号、19号、2020年7月の熊本豪雨、2021年7月の熱海市豪雨、同8月の西日本豪雨、2022年8月の東北地方豪雨、同9月の台風14号、15号など、「これまでにない」、「記録的」と表現される水害が続いた。国土交通省によれば、2017~2021年の5年間、水害による被害額は年平均1兆300億円に達する。その前の5年間が同3,805億円なので、一気に3倍になったわけだ。これは看過できない規模の経済的損失と言えるだろう。天気予報において、「線状降水帯」との言葉を初めて使用したのは、加藤輝之気象庁気象研究所台風・災害研究部部長、吉崎正憲大正大学教授(※いずれも2023年7月現在の役職)が執筆、2007年1月に出版された『豪雨・豪雪の気象学』(朝倉書店)だそうである。こうした専門用語が生まれてからわずか16年間の間に一般化したのは、該当する現象がそれだけ人々の生活に影響を及ぼしている証左と言えるのではないか。そして異常気象により大きな経済的被害が繰り返されるだけでなく、生態系の変化を通じて農業や漁業にも大きなインパクトが及んでいる。地球規模の気候変動は、日本にも多大な影響を与えつつあると考えるべきだろう。 頻発する山林火災、水害が変える米国の意識さる7月12日付け日本経済新聞に『世界で熱波・水害拡大 経済損失は数年で420兆円』との記事があった。日本を含め熱波や水害による被害が世界中で頻発し、それを象徴する現象が様々な地域で顕在化している。例えば森林が美しいカナダは、例年、5~8月にかけて山火事が頻発することが珍しくない。もっとも、東部のケベック州を中心とする今年の山火事は、いつになく巨大な規模になった模様だ。その煤煙は国境を越えてニューヨークの空を覆う事態に至った。米国のジョー・バイデン大統領は、6月8日、この件で国民に向け声明を発表したが、冒頭で深刻な制御不能の森林火災に関し、「今朝、多くの米国国民がカナダの圧倒的な山火事による煙害を経験している。それは、気候変動による影響のさらなる厳しい警鐘だ」と地球温暖化の影響であることを訴えている。山林火災については、米国も人ごとではない。特に西部の主要州であるカリフォルニアでは旱魃が続き、例年のように大きな山火事が発生している。全米省庁合同火災センター(NIFC)によると、米国における野火の被害は2000年代に入って急増、1990年代に年平均1万3,450平方キロメートルだった焼失面積は、2020~22年の3年間だと倍以上の同3万3,487平方キロメートルに達した(図表3)。九州の面積が3万6,782平方キロメートルなので、年毎にその9割程度が焼失したことになる。これは、米国の平均気温上昇と無関係ではないだろう。また日本同様に、豪雨による被害も深刻さを増しつつある。異常降水量を記録した地域の面積は、2020年までの5年間の平均で国土の6.3%に達した(図表4)。これは、米国海洋大気庁(NOAA)が信頼度の高いデータを持つ1895年以降で最も高い水準に他ならない。ちなみに、エネルギー多消費社会の米国では、近年まで環境問題に関する国民の関心はあまり高くないと見られてきた。それが変化する起点となったのは、2005年と言われている。この年の2月27日、第77回アカデミー賞授賞式が行われたのだが、『アビエイター』で主演男優賞にノミネートされたレオナルド・ディカプリオが、会場のコダック・シアターへ大型のリムジンではなくプリウスに乗って登場した。プレゼンターを務めたシャーリーズ・セロンなども乗っていたのはプリウスだ。ハリウッドのスター達が敢えてハイブリッド車を使ったことは、一般の消費者にも一定の影響を及ぼした。より大きなインパクトになったのは、この年の8月、米国南東部を襲ったハリケーン・カトリーナではないか。メキシコ湾に面し、ミシシッピ川の河口に位置する重要都市、ニューオリンズの中心市街が水没、死者は1,836名に及んだ。米国を襲ったハリケーンとしては、約1万が犠牲になったとされる1900年のガルベストン、2,500名以上が亡くなった1928年のオキーチョビーの両ハリケーンに続く規模だ。ビル・クリントン政権で副大統領を務めたアルバート・ゴア氏の『不都合な真実』(ランダムハウス講談社)が出版され、映画が公開されたのは2007年1月のことである。この書籍と映画が米国で大きな話題となったのは、ハリケーン・カトリーナの記憶が生々しく残っていたことも一因だろう。ゴア氏は環境問題への取り組みが評価され、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)と共に2007年のノーベル平和賞を受賞した。その後、土木・鉱業が大きく前進して水平坑井と水圧破砕の技術が開発され、2010年代に入ってからの米国はシェール革命に沸き、エネルギーの自給へ向けて大きく舵を切ったと言える。自前の化石燃料が確保できたことから、必然的に地球温暖化問題への関心は低下した。世界最大の産油国になるなか、例えば自動車では大型のピックアップトラックが売れ筋になったのである。しかしながら、2020年の大統領選挙において、バイデン大統領は温暖化対策を公約の柱の1つに掲げて勝利した。森林火災やハリケーン、竜巻による深刻な被害が頻発するなか、米国でも再び気候変動問題が脚光を浴びつつあると言えるだろう。共和党を中心に懐疑論も根強い一方で、温暖化対策への取り組みは米国にも確実に根付いたのではないか。 「努力目標」から「必達目標」となった2050年のカーボンニュートラル気候変動は生態系に大きな影響を及ぼしつつあるだけでなく、自然災害を通じて人的被害、そして経済へのインパクトも甚大な規模になった。ベルギーのルーヴァン・カトリック大学の調査によれば、2018~2022年の5年間、地震や火山活動を含めた自然災害の被害額は7,182億ドルである。特に嵐は全体の5割を超える3,710億ドルに達し、水害の2,030億ドルが続いた(図表5)。これらは直接、間接的に地球温暖化による異常気象が要因と考えられる。温暖化が人類の営みにより進んでいるとすれば、産業革命以降の急速な経済・社会の近代化が、極めて大きな負の効果をもたらしつつある可能性は否定できない。特に看過できないのは、その影響が急速に拡大していることだ。気候変動が影響した可能性のある自然災害、即ち旱魃、水害、山崩れ、地滑り、嵐、森林火災が世界に及ぼした経済的ダメージは、2020~22年の3年間における年平均で1,567億ドルに達した(図表6)。これは、1950~59年の年平均に対して物価上昇の影響を除いた実質ベースで、36.3倍にあたる。2015年11月30日から12月12日に開催された第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された『パリ協定』では、周知の通り「産業革命以前と比較し、世界の平均気温の上昇を2℃より低く保ち、かつ1.5℃に抑えることを目標」にすることが決まった。英国から広がった産業革命の起点については諸説あるようだが、1764年、ジェームズ・ハーグリーブズが複数の糸を同時に紡げる『ジェニー紡績機』を発明した頃とする学説が一般的だろう。紡績の生産量が飛躍的に拡大したのは1787年におけるエドモンド・カートライトの蒸気機関を使った『力織機』の発明が大きな転機だった。ただし、温室効果ガスの排出量が飛躍的に増えたのは、1830年9月15日、ロバート・スティーブンソンの発明した蒸気機関車によるリバプール・マンチェスター鉄道の開業が契機と言える。蒸気を作るエネルギー源として石炭が使われたことにより、温室効果ガスの排出量は飛躍的に増加した。さらに、第2次世界大戦後の1960年代から米国を中心として『黄金の60年代』へ突入、主要先進国では第1次モータリゼーションの下で自動車が普及した。それが、化石燃料の利用を大きく拡大させ、温室効果ガス排出量と世界の平均気温は角度の大きな右肩上がりとなったのだ。オックスフォード大学を拠点とする "Our World in Data" によれば、1850~1899年の50年間に年平均で55億トンだった世界の温室効果ガス排出量は、2002~2021年の20年間の年平均では9倍の年503億トンになっている(図表7)。その結果、1850年に大気中の濃度が284.0 ppmだった二酸化炭素濃度は、2022年には417.7 ppmに上昇した。英国気象庁ハドレー気候予測研究センターのデータを見ると、世界の平均気温は温室効果ガスの排出量拡大に伴い1900年代に入って明らかな上昇トレンドをたどっている。具体的には、2022年まで直近20年間の平均気温は、1850~1899年の50年間の平均に比べ1.04℃上昇した。ここ50年間は上昇のペースが速まっており、パリ協定で示された「産業革命以前と比較して1.5℃」の目標を維持するのは容易なことではないだろう。しかしながら、それが達成できなければ、気候変動はさらに加速、経済的なダメージも拡大して人類は自分で自分の首を絞めることになりかねない。日本を含む主要国が既に2050年までのカーボンニュートラル実現を国際公約した。それが努力目標である時期は既に過ぎ、必達目標になったと言えるのではないか。 「異常」の「常態化」に立ち向かうカーボンニュートラルの達成に必要なのは、制度設計と技術革新、そして投資である。このうち、日本にとって喫緊の課題はカーボンプライシングの早期導入だ。特に民間の自律的な投資を促し、新技術の開発を進める上で、キャップ・アンド・トレードの市場整備が必要だろう。昨年11月29日の第4回グリーントランスフォーメンション実行会議(GX実行会議)において、カーボンプライシングを活用する方向は決まった。しかしながら、スピードや効果の点でまだ多くの疑問が残る。温室効果ガスは、二酸化炭素ベースでの換算が容易であり、基本的に規格化可能な対象である以上、早晩、国際的なマーケットで裁定取引が行われる可能性が強い。その場合、2005年から欧州排出量取引市場(EU-ETS)を開設、敢えて厳しい基準を設けて排出量のクレジット価格を引き上げ、域内企業の競争力を強化する戦略を採るEUは、明らかに先行していると考えるべきだろう。また、金融に関するテクノロジーの進んだ米国も、市場の主導権を狙うことが想定される。さらに、今年4月18日、欧州議会は1990年比55%削減のための政策パッケージである "Fit for 55" に関連した5つの法案を承認した。その柱は炭素国境調整メカニズム(CBAM: Carbon Border Adjustment Mechanism)の導入だ。CBAMは、水素、セメント、鉄・鉄鋼、アルミニウム、肥料、電力に関し、EU域内の事業者が域外から製品を輸入する際、域内で製造した場合にEU-ETSの市場価格に基づいて課される炭素価格と同等の価格の支払いを義務付ける制度に他ならない(図表8)。これは、第一義的には温室効果ガス削減のコストを負担した域内企業が、国際競争の上で不利にならないことを目指した措置と言える。ただし、狙いはそれだけではないだろう。EUだけが厳しい規制を設けると、結局、中国など環境規制の緩い国に製造拠点がシフトする結果、地球規模で見れば温室効果ガスの排出量がむしろ増えてしまうことへの対策の意味もある。加えて、EUが国境調整を主導することにより、国際的なカーボンプライシングをEU-ETSの価格に収斂させることを意図しているのではないか。CBAMは今年10月から移行期間に入り、2026年から本格的に導入されることが決まった。EUの取り組みは、単に再生可能エネルギーの活用で温室効果ガスの排出量を削減するだけでなく、国際競争力の確保など広範な影響に目配りした極めて戦略的なものと言える。日本の対応が遅れれば、追い付くことが難しい差が付きかねない状況だ。温室効果ガスの排出削減は、特にエネルギー源での対応が極めて重要であることに疑問の余地はない。カーボンプライシングを軸とする制度を早期に導入し、インセンティブとペナルティにより民間投資を喚起する必要があるだろう。洋上風力、バッテリー、水素(アンモニア)、高効率の送電システム、二酸化炭素の埋設処分(CCS)がテクノロジーにおける国際競争の核になる確率が高まるなかで、政府主導ではなく、民間の技術開発と実用化を後押しする政策が期待される。さらに、原子力発電所の再稼働、リプレースを促進し、エネルギーの安定供給と経済合理性、そして安全の確保に努めることが必要だ。今夏は世界中で異常気象が猛威を振るっている。最早、これは「異常」とは言えず、「異常の常態化」に他ならない。さらなる異常が当たり前にならぬよう、思い切った決断と投資が求められる。 - 25 Jul 2023
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				  東芝ESS 革新軽水炉「iBR」などを発表 東芝エネルギーシステムズ(東芝ESS)は7月11日、同社が取り組む「カーボンニュートラルやエネルギー安定供給に貢献する原子力技術」をテーマに、報道関係者らと意見交換を行う「東芝技術サロン」を開催。その中で、革新軽水炉「iBR」のコンセプトが紹介された。冒頭、薄井秀和取締役(原子力技師長)は、火力、原子力、再生可能エネルギー、水素エネルギー、電力流通、医療分野の技術(重粒子線治療装置など)と、同社の手掛けるエネルギー事業領域を掲げ、「多くの事業で世界トップレベルの技術力を持っており、これまで数多くの実績を残している」と強調。その上で、電気を「つくる」、「おくる」、「ためる」、「かしこくつかう」ことを通じ、「将来のエネルギーのあり方そのものをデザインし社会に貢献していく」と、東芝グループのカーボンニュートラルやエネルギー安定供給に対する取組姿勢をあらためて示した。原子力発電所の設計・工事の効率化、再稼働、稼働率向上に向けては、軽水炉技師長の松永圭司氏が説明。東芝独自の技術により、例えば、東北電力女川2号機のサプレッションチェンバ(原子炉格納容器下部を囲むドーナツ型の容器)の耐震強化工事では、実物大のモックアップを用いた溶接員の習熟訓練などに努め、厳しい精度が要求される工事が工程・予算通りに進められてきたという。この他、現在・過去・未来の現場状況をパノラマ化する「3Dプラントビューア」、現場作業エリア管理をデジタル化する「エリア管理システム」などを紹介。東芝が培ってきた技術力の強みをアピールし、「デジタル技術を組み合わせることで付加価値の高いサービスを提供していく」と強調した。革新炉開発については、パワーシステム事業部シニアフェローの坂下嘉章氏が、革新安全軽水炉「iBR」のコンセプトを紹介。堅牢な建屋、静的メカニズムを取り入れた安全システムを採用し、さらなる安全性向上と安全設備・建屋の合理化を同時に達成するほか、再循環流量の加減により原子炉出力を容易に調整するABWRの特性を活かし再生可能エネルギーとの共存も図る。また、同氏は、将来の原子力のあるべき姿を多様な部門の幅広い年齢層の社員で討議してまとめた「原子力発電所Vision」を披露。「私たちの原子力発電所は、安全、安心はもちろんのこと、その技術の先進性をもって、発電所の存在が、関わる人々にとって心身ともに快適であり、誇りであり、将来の人々の営みにエネルギーを送り続けることで、豊かな生活の実現に貢献する」というもの。東芝は「iBR」の開発を通じ「新たな社会との共生の関係を築きあげる」ことを目指している。 - 18 Jul 2023
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				  全原協総会 米澤新会長「国が前面に立って」 全国原子力発電所所在市町村協議会(全原協、会長=米澤光治・敦賀市長)の2023年度総会が5月30日、都内のホールで行われた。全原協は、「原子力発電所の立地によって生じる諸問題に結束して解決し、住民の安全確保と地域発展を目指す」ことを目的とした全国の原子力施設が立地・計画される地域28市町村を会員とする団体。総会では、2023年度事業計画の一つとして、「被災地の復興」、「安全規制・防災対策」、「原子力政策」、「立地地域対策」に係る計58項目の要望事項について、国および関係機関に強く要請し早期実現を図っていくことを確認した。4月の敦賀市長交替に伴う就任後、初の総会に臨んだ米澤会長は、冒頭、挨拶に立ち、「全原協の発展のため、誠心誠意努めていく」と強調。前週に帰還困難区域を含む福島県浜通り地域を訪問・視察したという同氏は、「福島第一原子力発電所事故発生から12年が経過した今なお、帰還することのできない地域をこの目で見て、福島の現状に向き合わねばならないとの思いを強くした」として、復興に向けた長期的な取組の必要性を改めて述べた。また、政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」の議論を踏まえた最近の原子力政策を巡る動きにも言及。次世代革新炉の開発・建設に取り組む方針が示されたことに関し「長期的に原子力発電所を活用していくという将来を見据えた姿勢が明確になった」などと評価する一方、放射性廃棄物、核燃料サイクル、原子力防災に係る停滞を指摘した上で、立地地域として「国が前面に立って責任を果たすよう声を上げていく」と強調した。来賓挨拶に立つ細田博之氏総会には、来賓として、およそ20年前に「原子力発電施設等立地地域の振興に関する特別措置法」の制定に関わった衆議院議員で現在、同議長を務める細田博之氏(自由民主党)らが出席。細田氏は、来賓挨拶の中で、エネルギー政策に係る立地地域の理解・協力を労う一方、原子力発電所の再稼働が進まぬ状況を憂慮したほか、CO2を排出する化石燃料や気象条件に左右される太陽光・風力発電への過度の依存を「カーボンニュートラルのマイナス要因」と指摘。電力安定供給に係る議員連盟をリードしてきた同氏は、電気自動車や鉄鋼生産も「全部電力で賄われている」として、日本のエネルギー・経済安全保障に向け低廉な原子力発電を活用する必要性を改めて述べた。政府からは、内閣府、経済産業省、文部科学省、国土交通省、原子力規制庁の政務・行政官が出席し、全原協による要望事項を踏まえ地域の首長らと意見交換。経産省の中谷真一副大臣は、4月に立ち上げた政策対話の場「原子力政策地域会議」について紹介し、引き続きコミュニケーションを図っていく姿勢を示した。 - 31 May 2023
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				  原子力文化財団が世論調査 「原子力発電の積極的な利用」が増加へ 日本原子力文化財団はこのほど、「原子力に関する世論調査」の2022年度調査結果を発表。「今後日本は、原子力発電をどのように利用していけばよいと思うか」との問いに対し、「原子力発電を増やしていくべきだ」と「東日本大震災以前の原子力の状況を維持していくべきだ」を合わせた回答(増加・維持)は17.4%、「原子力発電は即時、廃止すべきだ」との回答は4.8%と、2014年度の調査以降で、それぞれ最大、最小となり、「原子力発電の積極的な利用」を支持する意見が増加傾向にあることが示された。今回の調査で、原子力発電の再稼働に対する考えについて(複数回答可)、最も多かったのは「国民の理解は得られていない」(46.0%、前年度は46.3%)で、「電力の安定供給を考えると、再稼働は必要」(35.4%、同30.0%)がこれに次いだ。また、「原子力やエネルギー、放射線の分野において関心のあること」については(複数回答可)、「地球温暖化」(52.8%、同50.5%)を筆頭に、「電気料金」(48.3%、同30.0%)、「日本のエネルギー事情」(39.1%、同31.5%)がこれに次いだほか、「電力不足」や「災害による大規模停電」をあげた人も多く、エネルギー安定供給への関心の高まりが示される結果となった。さらに、最近の原子力やエネルギーに係るニュースに関して尋ねたところ(複数回答可)、「気になる事柄」として、約7割の人が地球温暖化による気候変動が自然環境・暮らしに与える影響を、ほぼ半数の人がロシアのウクライナ侵攻に伴う日本のエネルギー需給への影響を回答。一方で、総理による原子力発電利用に関する発言をあげた人は2割未満にとどまった。今回の調査では、福島第一原子力発電所で発生する処理水の海洋放出についても質問。汚染水の発生・浄化、処理水の海洋放出時の希釈、取り除くことのできないトリチウムの性状、風評対策など、14項目の認知度に関し、「どの項目も聞いたことがない」、「どの項目も説明できない」という人がそれぞれ約3割、約8割に上っており、「汚染水をそのまま海洋放出する」と誤解している可能性があることなどが示された。原子力やエネルギーに関する情報源に関しては、年代による差が顕著に表れており、新聞をあげた人は、44歳以下では30%を下回っていたが、45歳以上では5割を超えていた。若年世代(24歳以下)では学校、Twitterが高く、高齢世代(65歳以上)では近年、インターネット関連の回答が増加し、マスコミのニュースサイトをあげた人は他の年代を凌ぎ約2割に上っていた。「原子力に関する世論調査」は、同財団が原子力に関する世論の動向や情報の受け手の意識を正確に把握することを目的として、2006年度より継続的に実施しているもの。今回、2022年10月に調査を実施し、全国の1,200人(15~79歳の男女)から回答を得た。 - 28 Mar 2023
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				  GX脱炭素電源法が閣議決定 原子力の活用を明記 政府は2月28日、エネルギー関連の5つの法改正案を閣議決定。これらをまとめた束ね法案「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」(GX脱炭素電源法)として、今通常国会に提出された。GX脱炭素電源法のうち、原子力に関しては、原子力発電の利用に係る原則の明確化(原子力基本法)高経年化した原子炉に対する規制の厳格化(原子炉等規制法)原子力発電の運転期間に関する規律の整備(電気事業法)円滑かつ着実な廃炉の推進(再処理等拠出金法)――が柱となっている。原子力基本法の改正では、従前の条文に対し、目的、基本方針の中に、それぞれ「地球温暖化の防止」、「福島第一原子力発電所事故を防止できなかったことを真摯に反省」との文言が追加され、安全最優先、原子力利用の価値を明確化。さらに、廃炉・最終処分などのバックエンドプロセスの加速化、自主的安全性向上・防災対策に係る「国・事業者の責務」について、新たに条文立てされている。高経年化炉の規制については、関連法案の成立を前提として既に原子力規制委員会で技術的検討が開始されているが、事業者に対し、①運転開始から30年を超えて運転しようとする場合、10年以内ごとに、設備の劣化に関する技術的評価を行う、②その結果に基づき長期施設管理計画を作成し、規制委員会の認可を受ける――ことを義務付ける。運転期間については、原子炉等規制法から電気事業法に移され、これまで通り「運転期間は40年」、「延長期間は20年」の原則を維持。安定供給確保、GX(グリーントランスフォーメーション)への貢献、自主的安全性向上や防災対策の不断の改善につき、経済産業相の認可を受けた場合に限り延長を認め、「延長しようとする期間が20年を超える」場合は、事業者が予見しがたい事由(東日本大震災以降の安全規制に係る制度・運用の変更、司法判断など)に限定して運転期間のカウントから除外することで、実質的に60年超運転を可能とする。また、再処理等拠出金法では、経済産業省の認可法人「使用済燃料再処理機構」の業務に、「各地の廃炉作業の統括」を追加している。 - 28 Feb 2023
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				  「12年間のプラント停止は非常識」エネ研が原子力規制でシンポ 日本エネルギー経済研究所(エネ研)は2月21日、都内のホテルで、「原子力規制のベストプラクティス」をテーマにシンポジウムを開催「原子力規制のベストプラクティス」をテーマにシンポジウムを開催。OECD原子力機関(NEA)のW.マグウッド事務局長をはじめ、カナダ、英国の原子力規制専門家が登壇し、「合理的な規制」のあるべき姿について議論した。シンポジウムは対面式で開催され、多くの関係者が詰めかけた。マグウッド氏は、世界規模で原子力発電の新規導入が検討されている中で、最も重要なことは「スキルを備えた力強い規制当局」の存在だと強調。世界の規制分野で、優秀な規制人材の確保が課題となっていると述べた。そして規制当局の意思決定に関しては、透明性を持ちつつ “誰が見てもわかる明確な原則” を示すことで、信頼を得ることができるとし、規制者側にも「自らに対しても批判的である」よう求めた。また福島第一事故以降、日本の規制当局がとってきた対応を「緊急性の高い危機対応であり、妥当」と一定の評価をしつつも、「もはや危機は脱した」として、これまでの規制対応などのアプローチ自体を「見直す時期に来ている」と指摘。規制当局にはイノベーションを受け入れる姿勢が大切だとした上で、AI等の最新手法を貪欲に取り入れ、“reasonable(合理的)” かつ実用的な安全性向上へ取り組むべきだと訴えた。そして私見としながらも、規制当局の意思決定は、将来に渡ってリピートされる模範例となることが大事だとし、規制当局のグローバル規模での連携により、より良い規制が生まれるのではないかと、規制当局間のコミュニケーション強化を呼びかけた。CNSCの上席副長官兼最高規制業務責任者を務めるジャマル氏カナダ原子力安全委員会(CNSC)や米原子力規制委員会(U.S.NRC)の委員を歴任したR.ジャマル氏は、カナダでの規制事例を紹介。その規制手法は柔軟であり、常に原子力安全規制分野の変化に対応できるよう心掛けているとした。そして規制にあたって最も重要視すべきこととして、「合理的でないリスク防止策」を除外することを挙げた。これは、原子炉を停止してしまえば簡単にリスクは防止できるが、そうした安易な手法は取らず、さまざまなリスク情報を分析した上で対応するということで、こうした姿勢も、規制当局にそれだけの力量があってはじめて可能になると強調した。英国のR.キャンベル氏は、英原子力規制庁(ONR)等で30年以上のキャリアを積んだベテラン。今回が初来日となった。同氏は規制において「タイムスケールの透明性」が不可欠だと指摘。申請から認可までいかに迅速に結論を出せるかがカギであり、「法律や規則で決まっているものではないが、規制当局としてのサービスの一環として示す必要がある」と強調した。また、事業者と規制当局は常に対話を継続するべきだとした上で、規制当局は「外部からどのように見られているかを常に意識しなければならない」との認識を示した。モデレーターを務めたエネ研の村上朋子・研究主幹が質疑の中で、「規制プロセスとプラント利用率向上のバランス」について問い掛けたところ、3者とも「設備利用率は事業者の管轄であり、規制当局は関知しない」と断言。また「規制当局は電力供給の安定性も考慮すべきなのでは?」との会場からの声に対し、これも3者とも「規制当局は電力の供給に責任を持つものではない」との考えで一致した。ただし、「優れた規制当局は、どこで何が起きているかを把握しなければならない。場合によっては規制当局は、状況を踏まえて意思決定を行なうこともある。必ずしもプラントを今すぐ止めなければならない問題でなければ、当局も相応の対応が取れるはずだ」(マグウッド氏)、「国民のwell-being(幸福)のためという目標を忘れてはならず、graded approach(リスクに見合った規制)を適用すべきだ」(ジャマル氏)──等のコメントがあった。昨年ONRを退任したばかりのキャンベル氏一方、「合理的な規制とは?」との問いに関しては、マグウッド氏とジャマル氏が「安全目標に照らし合わせ、それを十分に達成した状態でプラントが稼働することが基本」と、バランスを取りながら合理性を判断するとしたのに対し、キャンベル氏は「合理性とは、余計なコストをかけないこと」と即答。規制当局としてはリスクが十分に低ければ、合理性の観点から十分にacceptable(受容可能)であり、わずかなリスクを下げるために過大なコストを投じることは馬鹿げていると指摘した。キャンベル氏は日本のプラントが置かれた状況にも言及。「再稼働を目指すというが、12年間の停止期間は非常識。これは全てイチからやり直すようなもので、人材が足りないだけでなく、数多くのトラブルが起きることが目に見えている。規制当局を納得させることは難しいだろう」と指摘した。その上で、そこまでして旧いプラントを再稼働させるよりも「最新知見を結集した新型炉にリプレースする方が、明らかに合理的」との考えを明らかにした。 - 24 Feb 2023
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				  2022年の貿易統計速報 燃料輸入増に伴い約20兆円の赤字 財務省は1月19日、2022年の貿易統計(速報)を発表した。輸出額は98兆1,860億円で対前年比18.2%増、輸入額は118兆1,573億円で同39.2%増。その結果、貿易収支がマイナス19兆9,713億円(対前年比およそ10倍)と、過去最大の赤字額となったことに関し、松野博一官房長官は、同日の記者会見で、鉱物性燃料(石炭、石油、LNGなど)の輸入額増による主要因に言及した上で、「輸出を通じた成長は企業にとっても日本経済にとっても引き続き重要であり、しっかり支援していく」と述べ、所要の予算措置を図るとともに今後の動向を注視していく姿勢を示した。鉱物性燃料輸入額は、対前年比96.8%増の33兆4,755億円に上り、他の品目を大きく凌駕。中でも石炭は同178.1%増の顕著な上昇となっている。〈財務省発表資料は こちら〉2022年は、2月にロシアによるウクライナ侵攻が起こって以降、世界的なエネルギー供給危機となり、日本もエネルギー価格の高騰に見舞われた。政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」が昨夏に示した「日本のエネルギーの安定供給の再構築」によると、今夏・来冬以降に目指す原子力発電プラント17基の稼働により、約1.6兆円の国富流出が回避できると試算されている。 - 19 Jan 2023
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				  2022年の国内原子力発電 設備利用率は18.7% 原子力産業新聞が電力各社から入手したデータによると、2022年の国内原子力発電所の設備利用率は18.7%(対前年比3.4ポイント減)となった。年内、新規制基準をクリアし新たに再稼働したプラントはなく、現存の計36基のうち10基・995.6万kWが稼働。いずれもPWRである。2022年は四国電力伊方3号機と九州電力川内1号機が年間を通じて稼働。川内1号機の設備利用率は106.8%に達した。近年、テロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の整備に伴い停止しているプラントもあるが、2021年に国内初の40年超運転に入った関西電力美浜3号機は、2022年7月に同施設の運用を開始し、9月に本格運転に復帰。この他、関西電力大飯3、4号機、九州電力玄海3号機も12月までに特重施設の運用を開始し発電を再開している。現在、特重施設の設置工事を含む定期検査により停止している玄海4号機は、2023年2月に発電を再開する予定。新規制基準適合性審査に係る設置変更許可に至ったものの再稼働していないプラントは7基、同審査中のプラントは10基となっている。美浜3号機に続く40年超運転が見込まれる関西電力高浜1、2号機は、それぞれ2023年6、7月に本格運転に復帰する見通し。2021年9月に設置変更許可に至った中国電力島根2号機については、2022年6月に島根県知事が再稼働に関し同意を表明している。*各原子力発電プラントの2022年運転実績(2022年12月分を併記)は こちら をご覧下さい。 - 17 Jan 2023
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				  エネ研 2023年度のエネルギー展望を発表 日本エネルギー経済研究所は12月27日、2023年度のエネルギー展望を発表した。それによると、一次エネルギー国内供給は、2022年度に対前年度比0.7%の微減となるが、人の移動の増加に伴う輸送量回復に加え、鉄鋼や自動車の増産により2023年度には同0.9%増と、2年ぶりに増加に転じる見通し。また、エネルギー起源CO2排出量は、2022年度に9.75億トンと、2年ぶりに減少。2023年度には原子力の増加などにより、9.62億トンと、さらに減少するものの、2013年度比22.1%減で、「2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減」(2021年4月に菅首相が表明)の目標には程遠く、「削減の進捗は遅れたまま」と懸念している。原子力発電については、新規制基準適合性審査などの進捗を踏まえ、再稼働が進むと想定。2022年度はテロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の完成の遅れで3基の停止が長引き、計10基が平均8か月稼働して、発電電力量は対前年度比20.2%減の541億kWhに後退するも、2023年度は新たに5基が順次再稼働し、計15基が平均10か月稼働することで発電電力量は対前年度比85.1%増、1,002億kWhの大台に回復するとの見通し。政府は2022年8月に「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で示した「日本のエネルギーの安定供給の再構築」の中で、今夏以降、7基の新たな再稼働を目指す方針を打ち出している。今回のエネルギー展望では、特重施設完成の前倒しなどにより原子力発電所の再稼働がより進むシナリオも想定し、化石燃料輸入額やCO2排出量の削減につながる試算結果を示した上で、「個々のプラントに応じた適切な審査を通じた再稼働の円滑化がわが国の3E(安定供給、環境への適合、経済効率性)に資する」と述べている。 - 10 Jan 2023
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				  総合エネ調原子力小委 行動指針案まとめる 総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=山口彰・原子力安全研究協会理事)は12月8日、「今後の原子力政策の方向性と実現に向けた行動指針」(案)を取りまとめた。前回11月28日の会合で、「アクションプラン」として提示され、委員らの意見を踏まえ修文を図ったもの。「開発・利用に当たって『安全性が最優先』であるとの共通原則の再認識」を筆頭とする基本原則のもと、再稼働への関係者の総力結集運転期間の延長など、既設原子力発電所の最大限活用新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設再処理・廃炉・最終処分のプロセス加速化サプライチェーンの維持・強化国際的な共通課題の解決への貢献――が柱。今回の行動指針案については、近く同調査会の基本政策分科会に報告され、政府「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で年末までに具体論の取りまとめが求められている「原子力政策の今後の進め方」に資する運び。〈配布資料は こちら〉 前回の同小委員会会合では、運転期間の取扱いに関する仕組みの整備として、「一定の運転期間の上限は設けつつ、追加的な延長の余地は勘案」するという選択肢で概ね委員間のコンセンサスを得ていた。つまり、現行の「40年+20年」をベースに、東日本大震災発生後の (1)法制度の変更 (2)行政命令・勧告・行政指導等(事業者の不適切な行為によるものを除く) (3)裁判所による仮処分命令等、その他事業者が予見しがたい事由――に伴って生じた運転停止期間はカウントに含めない(いわゆる「時計を止めておく」)ことが、今回、同行動指針案に盛り込まれた。次世代革新炉の開発・建設については、同小委員下のワーキンググループにおける議論も踏まえ、「まずは廃止措置決定炉の建て替えを対象に、バックエンド問題の進展を踏まえつつ具体化」と明記。これに関し、小野透委員(日本経済団体連合会資源・エネルギー対策委員会企画部会長代行)は、原子力産業の競争力維持の観点から「革新炉開発は重要。検討を加速して欲しい」と要望。遠藤典子委員(慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授)は、昨秋策定のエネルギー基本計画との整合性に関して、現状での「2030年における総発電電力量に占める原子力の割合20~22%」の目標達成に危惧を示し、早急な検討が図られるよう訴えた。専門委員として出席した原産協会の新井史朗理事長は、サプライチェーンの維持・強化に関し、「原子力発電プラントの建設はおよそ9割を国内で調達しており、技術は国内に集積している。原子力の持続的活用の観点から、高品質の機器製造・工事保守の供給は必須であり、エネルギー自給率が重要であることと同様、これらが国内で一貫して行われることが重要」と強調。さらに、海外プロジェクトへの参画に向け、「わが国の高い原子力技術を世界に示す場であり、世界の原子力安全と温暖化防止に貢献する機会」ととらえ、積極的に取り組んでいく姿勢を示した。〈発言内容は こちら〉この他、委員からは、MOX燃料再処理も含めたバックエンド対策の強化、電力消費地域も交えた双方向コミュニケーションの必要性などに関し意見が出された。 - 08 Dec 2022
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				  原子力利用に一歩を踏み出した岸田政権 ロシアの暴挙が引き起こしたエネルギー危機を踏まえ、原子力発電の問題に我々は正面から取り組む。10数基の原発の再稼働、新たな安全メカニズムを組み込んだ「次世代革新炉」の開発など集中的な専門的検討を指示した。専門家の意見も踏まえ、年末までに具体的な結論を出せるよう検討を加速して行く。(ニューヨーク証券取引所における岸田首相スピーチより)9月22日、ニューヨーク証券取引所で講演した岸田文雄首相は、5つの優先課題として、人への投資イノベーションへの投資グリーン・トランスフォーメーション(GX)への投資資産所得倍増プラン世界と共に成長する国づくり──を挙げた。このうち、3番目のGXへの投資では、原子力に関して積極的に取り組む姿勢を示している。敢えて米国の機関投資家、金融機関を前に原子力に関して踏み込んだ発言をしたのは、ウクライナ戦争により、日本のエネルギー調達が不安定化した上、化石燃料価格と円安が貿易収支の大幅な赤字化を招いているからだろう。社会・経済のデジタル化にせよ、EVの普及を推進するにせよ、それを支えるのは安定した電力供給だ。エネルギー供給不安定化の懸念に対して明確な戦略を示せなければ、日本への投資を呼び込むことはできない。内閣総理大臣就任から1年間、多くの政策において「検討」との単語が多く、具体策と決断に欠けた感のあった岸田首相だが、エネルギー・原子力に関しては具体的な課題へ取り組む方向へと、一歩踏み込んだと言えるのではないか。 再稼働に関する政府の「あらゆる対応」ニューヨークでの原子力に関する発言のベースになったのは、8月24日に開催された第2回GX実行会議だ。この日の議題は「日本のエネルギーの安定供給の再構築」だったのだが、新型コロナ感染のためリモートで出席した同首相は、締め括りの挨拶において、原子力に関し以下の3点で従来のスタンスを転換したと見られる。原子力規制委員会による設置許可審査を経たものの、稼働していない7基の原子力発電プラントの再稼働へ向け、国が前面に立つ既設原子力発電プラントを最大限活用するため、稼働期間の延長を検討する新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発/建設を検討する7月14日の記者会見では、岸田首相は「今冬に最大で9基(の原子炉)を稼働する」としていた。もっとも、これは既に原子力規制委員会による設置審査に合格、再稼働した10基のうち、9月12日に定期検査のため停止した九州電力・玄海4号機を除く9基のことであり、特に新しい何かを決めたわけではない。当時は10基のうち5基が定期検査で止まっていたことが、夏の電力供給に大きく影響していたことから、そうした表現になったのだろう。ちなみに、現在、国内には33基の稼働可能な発電用原子炉があり、新たに2基が建設中だ(図表1)。33基のうち、10基が既に稼働した一方、7基は審査に合格したもののまだ稼働していない。8基は現在審査中であり、残り8基は電力会社が判断を保留、原子力規制委員会に審査の申請を行っていない原子炉だ。GX実行会議での岸田首相の発言は、規制委員会が設置許可を決めたものの、立地自治体の反対などで稼働していない7基に関し、国が再稼働へ向け前面に立つことを強調した点において、7月14日とは大きく異なるものだった。当該の7基には、東京電力・柏崎刈羽原子力発電所6-7号機が含まれている。ただし、『核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律』(原子炉等規制法)によれば、規制委員会による設置基準を満たした原子力発電所の場合、稼働を決めるのは当該原子炉の設置者、即ち電力会社に他ならない。電力会社との間で安全協定を締結する立地自治体が稼働・停止に関して具体的な権限を持つとの報道も少なくないが、安全協定はあくまで紳士協定であって、法令上の拘束力を持つわけではないのである。例えば、柏崎刈羽原子力発電所に関して東京電力と新潟県及び柏崎市、刈羽村が締結した『安全確保に関する協定書』を読むと、自治体側が「特別の措置を講ずる必要があると認めたとき」には、「原子炉の運転停止を含む適切な措置を講ずることを求めるものとする」(第14条)と書かれていた。つまり、立地自治体は運転停止を求めることはできるものの、決めるのはあくまで設置者たる東京電力なのだ。もっとも、法令上の制度とは別に、これまで政治的な配慮が極めて重視されてきた。その結果、立地自治体の理解なくして原子力発電所の稼働は困難というのが通説になっている。また、例えば県知事は港湾や県道の使用に関しては権限を有するため、間接的に原子力発電所の運転に影響を及ぼすことも理屈の上では可能だ。結果として、立地県のみならず、市町村にも稼働・停止の実質的、みなし的な権限があるこの慣行は、むしろ負い切れない責任を自治体に押し付けていると言えるかもしれない。それもあって、岸田首相は「国が前面に立ってあらゆる対応を採る」と明言したのだろう。しかし、行政組織法第3条に基づく独立性の極めて高い原子力規制委員会を除けば、稼働に関しては国の法的権限は曖昧であり、「あらゆる対応」が具体的に何を指すのかを問われるところではある。特に、柏崎刈羽6-7号機は、夏、冬の需要期における電力安定供給の鍵を握ると共に、実質的に国家ファイナンスに依存した東京電力の経営を立て直す上での重要な条件に他ならない。再稼働に難色を示す新潟県に対し、国がどのような働き掛けを行うのか、岸田政権の本気度を試す上で注目されるところだ。 運転期間延長の意味岸田首相が第2回GX実行会議において言及した、原子炉の運転期間延長も大きな課題だ。原子炉等規制法により、発電用原子炉の運転期間は規制委員会による使用前検査を「受けた日から起算して40年」(第43条3の32)である。その上で、規制委員会の認可により、最長20年まで「1回に限り延長することができる」とされた。これは、定期検査などで止まっていた期間を含むのだが、福島第一原子力発電所の事故以降、国内の原子力発電所は順次停止されたことから、既に10年以上動いていない原子炉も少なくない。岸田政権は、現行の規定を維持しつつ、この長期に亘る停止期間を運転期間から除外する方向で検討を進めている模様だ。一方、規制委員会は、運転開始から30年を起点に10年ごとに設備の劣化を評価する新たな審査の仕組みを打ち出している。原子力発電を行なっている主な他国の例を見ると、明確な運転期間を決めている国はあまりない(図表2)。例えば欧州の原子力大国であるフランスの場合、10年毎に安全審査を行い、稼働の是非を判断する方式を採用している。つまり、致命的な不具合があれば30年でも廃炉にするし、基幹部に問題がない場合、補修をしつつ使い続けるわけだ。原子力発電所は機械の塊なので、これは運転期間を年数で切るより本来は合理的だろう。ちなみに、世界最大の原子力国である米国の場合、稼働中の92基の発電用原子炉のうち、最も古いのは1969年11月9日に稼働したナインマイルポイント原子力発電所1号機である。ニューヨーク州スクリバにあるこの原子炉は、運転期間が既に52年11か月に達しようとしている。日本の規制は原子炉の状態に関わらず期間で縛る国際的は珍しい方式を採用してきた。岸田政権はこの制度の根幹は変えず、とりあえず既存原子炉の延命を図る意向のようだ。背景は、現在の運転期間のままだと、仮に稼働可能な全ての原子力発電所が稼働し、20年の運転延長をしても、2040~50年代に原子力による発電量が急速に減少することになるからだろう(図表3)。これでは2050年のカーボンニュートラルが全く見通せなくなりかねない。まずは時間を稼ぎ、その間に原子力発電所の新設を進める意向があると考えられる。 岸田首相は、「次世代革新炉」に関し新設を検討する方向を示した。仮に政権がその方向へ舵を切るとしても、新たな原子炉が発電を開始するには10年単位の時間が必要と見られる。その間の電力不足の可能性を考えた場合、定期的に安全性を確認しつつ、既存原子炉の運転延長を図るのは現実的な対策と言えるのではないか。 「次世代革新炉」とはどのような炉か?第2回GX実行会議における岸田首相の発言で最も注目を浴びたのは、言うまでもなく次世代革新炉についての部分だった。8月25日付けの毎日新聞は、『原発新増設を検討 次世代炉、首相指示』との見出しでこの会議の結果を報じている。議事録を読むと、同首相は「原子力についても、再稼働に向けた関係者の総力の結集、安全性の確保を大前提とした運転期間の延長など、既設原発の最大限の活用、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設など、今後の政治判断を必要とする項目が示された」と語っている。その上で、「再エネや原子力はGXを進める上で不可欠な脱炭素エネルギーだ。これらを将来に亘る選択肢として強化するための制度的な枠組、国民理解を更に深めるための関係者の尽力の在り方など、あらゆる方策について年末に具体的な結論を出せるよう」検討加速を指示した。依然として「検討」ではあるが、第2次政権下において故安倍晋三元首相も言及しなかった原子炉の「開発・新設」に触れた点は大きな変化に他ならない。年末へ向け次世代革新炉の開発、新設が岸田政権の重要な政策課題の1つになるだろう。そこで問題となるのは「次世代型革新炉」が何を指すのか、である。一般にはSMR(Small Modular Reactor:小型モジュール炉)、高温ガス炉、高速炉などがイメージされているようだ。GX実行会議に西村康稔GX実行推進担当相(経産相)が提出した資料のなかに、「参考」として付された『各国における原子力発電所の新規建設と運転期間の延長に向けた動き』との表があった。これが、政府の考える次世代革新炉のヒントになりそうだ。具体的に炉型が示されているわけではないものの、プロジェクトとしてSMRの他、改良型の大型軽水炉として米国で2基が建設中のAP-1000、フランスのEPR2、韓国のAPR1400などが暗に取り上げられている。これらは「第3世代+」と呼ばれており、海外では既に稼働例のある炉型だ。つまり、日本政府の考える次世代革新炉には、原子力発電を行っている他の主要国同様、まだ実証研究段階にあるSMR、高速炉などに加え、第3世代+の大型軽水炉がその範疇に入っていると言えるだろう(図表4)。9月30日付けの日本経済新聞は、日立とGEの合弁企業である日立GEニュークリア・エナジーが沸騰水型炉(BWR)で、三菱重工と関西電力、北海道電力、四国電力、九州電の4社が加圧水型炉(PWR)で、いずれも2030年代の実用化を目指してそれぞれ新型炉を開発すると報じていた。日立GEニュークリア・エナジーは、第2世代のBWRを改良、第3世代としてABWR(改良型BWR)を既に実用化しており、国内では東京電力・柏崎刈羽6-7号機、中部電力・浜岡5号機、北陸電力・志賀3号機の4基が既に稼働している。さらに、建設中の中国電力・島根3号機、電源開発・大間発電所もABWRだ。一方、三菱重工は、同じく第2世代のPWR(加圧式型)を改良、第3世代としてAPWR(改良型PWR)を開発した。もっとも、福島第一原子力発電所の事故によって原子炉の新増設が止まり、同炉型はこれまで建設実績がない。両グループは、ABWR、APWRをベースにして、国際的に第3世代+と評価される「革新軽水炉」の開発を目指すと見られる。日経の記事では何れも「実用化は2030年代半ば」とされていたが、岸田政権が今年末に新たなGX戦略をまとめ、それに沿って新増設計画の具体化に着手する場合、新たな原子炉の稼働は早くても2030年代になる可能性が強い。新規に開発される炉型は、日本が原子力発電所の新設に踏み切る場合、建設計画の中核になりそうだ。 課題は山積だが…政府、電力業界にとってのもう1つ残された課題は、福島第一原子力発電所の事故前に既に建設の初期段階にあった東京電力・東通1号機、建設準備中だった日本原電・敦賀3-4号機、東北電力・東通2号機、中国電力・上関1-2号機、九州電力・川内3号機、計7基についても結論を出すことだろう(図表5)。これらの内訳はABWRが4基、APWRは3基である。仮に計画を進める場合、ABWRは技術水準こそ全く異なるものの、福島第一とベースは同型式の沸騰水型であることも論点になる可能性は否定できない。政府、電力会社の判断が注目される。10年以上に亘って止まっていた時間を動かすには、課題が山積だ。それでも、内閣総理大臣が原子力の活用継続に一歩踏み込んだ意味は大きい。再生可能エネルギーと原子力、水素(アンモニア)を組み合わせ、且つ使用を避けられない化石燃料については、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)((Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage))などの技術を活用してカーボンニュートラルを達成する…これが次世代の日本のエネルギー戦略の基本になる道筋がようやく見えてきたと言えるだろう。 - 15 Nov 2022
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				  三菱総研、長期的な原子力利用のあり方を提言 三菱総合研究所は10月7日、「カーボンニュートラル時代の長期的な原子力利用のあり方」との提言を発表した。7月発表の同社の提言「2050年カーボンニュートラルの社会・経済への影響」では、「長期的な目線に立ち原子力というオプションを『日本に残す』というメッセージを明確に発することが重要となる。そのためには、技術・人材の維持、そして原子力自体のイノベーションが必要」と述べられている。今回の提言では、それを具体化するものとして、ウクライナ情勢に伴う世界のエネルギーリスクの顕在化や、脱炭素化とエネルギー安全保障の両立に向けた動きの加速化をとらえ、2050年以降も見据えた原子力利用のあり方として、短期視点 規制基準に適合した既存原子力発電所を再稼働し、電力の安定供給に寄与すべき中期視点 2050年までは原子力利用を継続すべき長期視点 2050年以降は、2040年頃を目途に代替する他の脱炭素技術の見通し・安全保障動向等から、その利用方針(拡大、維持、卒原子力等)を改めて判断すべき将来の選択肢の一つとすべく、水素・アンモニア・CCS(CO2回収・貯留)等の技術と同様、原子力イノベーションも進めるべき――との考えを提示した。加えて、「原子力利用のあり方を曖昧なままにしておけば、技術・人材・サプライチェーンが弱体化し、2050年までの維持は難しく、さらには、原子力利用を選択肢として残すことは非現実的となる」と、警鐘を鳴らしている。2050年時点での原子力の必要量について、今回の提言では、水素・CCS等の脱炭素技術の開発の不確実性の補填多様な供給力原子力の安全基盤(技術・人材)維持――の3つの観点で試算。設計や高度な設備製造に係る技術・人材・サプライチェーンの維持については、同社による調査結果などに基づき、運転・保守のみならず、設計・建設に係わる固有技術を継承すべく「今後数年に1基程度の建設が必要」と指摘。総合的に勘案し、「少なくとも発電電力量の10~15%程度を原子力が担うことが現実解」と述べている。原子力の社会受容に関するアンケート結果、原子力の活用に肯定的な見方が増加傾向にある(三菱総研発表資料より引用)今回の提言発表に際しては、全国30,000人を対象とする独自のアンケート調査(2022年6月)も実施された。それによると、原子力を「積極的に活用した方がよい」、「活用した方がよい」との回答割合が各年代とも、この2年間で増加していたが、福島第一原子力発電所事故の経験やウクライナ情勢に伴う不安感なども踏まえ、提言では、「安全性の向上、信頼性の醸成に向けた継続的な取組は不可欠だ」と述べている。さらに、原子力業界に対する信頼に関しても、別途、独自のアンケート調査を実施しており、調査結果の分析から、「多様な社会の思い・価値観を適切に汲み取りながら、これに応える業界としての姿勢を示し続けることが信頼醸成の第一歩」と指摘している。 - 12 Oct 2022
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				  原子力小委、GX実行会議を踏まえ今後の検討事項を整理 総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=山口彰・原子力安全研究協会理事)が9月22日に開かれ、8月の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」(議長=岸田文雄首相)で西村康稔経済産業相が示した「日本のエネルギーの安定供給の再構築」を踏まえ、原子力政策に関する今後の検討事項を、再稼働への関係者の総力結集運転期間の延長など、既設原子力発電所の最大活用次世代革新炉の開発・建設再処理・廃炉・最終処分のプロセス加速化――に整理し議論した。〈配布資料は こちら〉杉本達治委員(福井県知事)は、昨秋に策定されたエネルギー基本計画を早急に見直す必要性に言及した上で、「今後、GX実行会議で決めていく内容を、わが国のエネルギー政策にどう位置付けていくべきか、政府の考えを明確にすべき」と主張。福井県内では昨夏に国内初の40年超運転として関西電力美浜3号機が再稼働。折しも22日には、同高浜3、4号機の40年以降運転に向けた特別点検の実施が発表されたが、同氏は原子力発電所の運転期間延長に関し、「科学的・技術的な根拠をもとに、規制当局も含め十分に議論すべき」と述べた。また、六ヶ所再処理工場の度重なるしゅん工延期に対し「原子力政策全体への不信につながりかねない」と危惧。「核燃料サイクルの中核を担う施設」の着実な稼働に向け、審査対応を含め政府全体での取組を求めた。運転期間の延長に関し、資源エネルギー庁は今世紀末頃までを見据えた原子力発電所の設備容量の見通しを図示。60年間までの運転期間を想定しても、このままでは設備容量が2045年以降、急激に減少し、2090年にはゼロとなる見通しだ。こうした現状を踏まえ、安全性最優先を大前提とした原子力利用政策の観点から、運転期間など、規制面の制度のあり方に関して、原子力規制委員会に対しコミュニケーションを図っていく方向性が示された。朝野賢司委員(電力中央研究所社会経済研究所副研究参事)は、「革新炉の商用運転には相当の期間を要する」ことから、国際エネルギー機関(IEA)による勧告も踏まえ、運転期間の延長に係る意思決定を第一に据え、既に建設が進められているプラントの運転開始、新増設・リプレースと、時間軸を考慮した進め方を提唱。専門委員として出席した原産協会の新井史朗理事長は、早期再稼働、運転期間の延長、新増設・リプレースについて意見を陳述。運転期間の延長に関し、「取替困難な機器の劣化状況に着目し、科学的・技術的に評価し見極めるもの」とした上で、安定供給確保とともに最も経済的なCO2削減策として「既存の原子炉を最大限に活用する」必要性を強調した。〈発言内容は こちら〉また、同じく電気事業連合会の松村孝夫原子力開発対策委員長(関西電力副社長)は、六ヶ所再処理工場のしゅん工を支援する「サイクル推進タスクフォース」の設置について紹介した。 - 22 Sep 2022
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				  規制委・更田委員長が最終会見、発足からの10年間を振り返る 原子力規制委員会の更田豊志委員長が9月21日をもって任期満了となり、同日の定例会合後の委員長記者会見(毎週水曜午後に開催)が折しも最後の会見となった。日本原子力研究開発機構で原子炉の安全研究に従事し、旧原子力安全・保安院の高経年化ワーキンググループなどにも参画していた同氏は、委員会発足時の2012年9月、「原子炉に最も近い立場」として委員に選任。主にプラント関係の審査を担当した後、2017年9月に初代委員長の田中俊一氏を引き継いで2代目委員長に就任。都合10年間にわたり委員・委員長を務めた更田委員長は、退任に当たっての所感を問われたのに対し、「率直なところ実感がない。任期を終えるまで、一旦事故が起きれば自身が指揮を執らねばならない。振り返れるようになるのは退任してから」と繰り返し述べ、後任の委員長となる山中伸介委員に常時携行する「防災携帯電話」を引き渡すまで、緊張感を緩めず職務を全うする姿勢を示した(新委員長就任は認証の関係で26日の予定)。規制委員会は9月19日に発足から10年を迎えている。更田委員長は、同委発足時から持ち続けていた意識として、「『規制の虜』になってはならない」、「『安全神話』の復活を許してはならない」の2点をあげ、「その姿勢を貫くことはできたが、緩んだらまた逆戻りする。ずっと注意し続けることが必要」と強調。さらに、委員に就任してから最初の1、2年を振り返り、「新規制基準の策定およびこれに基づく適合性審査を開始した頃(2013年7月)、時間的にも仕事の密度的にも最も厳しい時期ではあったが、自身にとって最も印象に残っている」とした。これまでに審査が申請された原子力発電プラントは計27基で、そのうち再稼働に至ったのは10基。現在も10基が審査途上にあり、新規制基準策定当初から約9年の審査期間を経過したプラントもあるが、更田委員長は「基数を斟酌するものではない」と、予断を持たずに審査に当たってきたこと明言した。直近の課題である東京電力柏崎刈羽原子力発電所の核物質防護に係る不適切事案に関しては、セキュリティ上、情報公開が限られる特殊性にも言及し、「規制側も改めるところが多々あることに気付かされた」と述べ、一例として、追認に甘んじず常に問いかけ続けることの重要性を、「『ちゃぶ台返し』を恐れてはいけない」と、改めて強調。同発電所については現在、法令に基づく是正措置命令を発出し追加検査を進めているが、更田委員長は、「トップマネジメントに関しては明らかに改善の兆しがみられる。是非、この危機感を組織全体に浸透させ改善を進めて欲しい」と期待した。また、今後の課題として、現行の運転期間制度に関連し、審査期間をカウントしないいわゆる「時計を止める」に関して問われたのに対し、「個々の炉によって耐震性など、様々な条件が異なる。高経年化対策の有効性は個別にみるしかない」と回答。次世代革新炉の規制に向けては、各国の動向をウォッチしているとしながらも、「まだ日本では事業者からの発信は何もない。炉型によって千差万別で、まったくアプローチが異なる。個別の炉型に係る提案があって要求水準の策定に当たることとなる」とした。さらに、現在、設計・工事計画認可の審査が進められている日本原燃六ヶ所再処理工場に関連し、使用済燃料の発生量などを踏まえ、将来的に第二再処理工場を検討する必要性を示唆。福島第一原子力発電所の廃炉については、固体廃棄物の保管管理を例に「まだまだこれから難しい問題が残っている」と述べ、引き続き注視していく考えを示した。規制に携わる人材確保に関し、更田委員長は、「技術的能力は最も重要な『基本中の基本』で、発足時に比べ格段に伸びている」とする一方、原子力界全体の課題として採用の難しさを憂慮。「事故の分析を続けることも若手を惹きつける一つの有効な手段」と述べ、地道に取り組んでいく必要性を強調した。 - 22 Sep 2022
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				  規制委、審査の効率化に向け対応方針示す 原子力規制委員会は9月7日の定例会合で、今後の新規制基準適合性審査に係る審査効率化に関し、事業者から示された提案も踏まえ、できるだけ早い段階での確認事項や論点の提示公開の場における「審査の進め方」に関する議論および共有審査会合における論点や確認事項の書面による事前通知原子力規制委員または原子力規制庁職員の現地確認の機会を増加基準や審査ガイドの内容の明確化――を図っていく対応方針を概ね了承した。規制委員会では、公開の場において事業者の経営トップらを招き安全性向上に係る取組について意見交換を順次実施。2022年度は、4月に北海道電力と、その後、4か月のブランクを挟んで8月以降、東北電力、電源開発、中部電力、北陸電力と、主に審査の効率化を焦点に意見交換を行っている。審査に関しては、2013年に新規制基準が策定された後、これまでに計27基についてその適合性に係る申請がなされており、現在10基が審査中。最も新しい中国電力島根3号機でも8月10日に申請から4年が経過したところだ。審査をクリアし再稼働したのは10基。7基が設置変更許可に至るも安全・防災対策や地元の理解などが対応途上のため再稼働していない状況。8月以降に行われた同委との意見交換で、東北電力は、女川2号機(2020年2月設置変更許可)の約6年間にわたった審査を振り返り、東京電力柏崎刈羽6・7号機、日本原子力発電東海第二に係る集中審査に伴い中断期間が生じたことをあげ、「自ら提示したスケジュール通りに審査資料の準備・提出ができなかった」、「審査対象の早期決定と審査リソースの充実化が課題」などと問題提起。電源開発は大間(建設中)の審査効率化に向け、厳しい気象条件や交通事情について懸念が示されたが、「現地状況の認識の共有は、審査において理解促進につながる」として、現地確認の活用を要望。中部電力は浜岡3・4号機の並行審査の合理性を主張した。事業者との意見交換の中で、地震・津波関連の審査を担当する石渡明委員は、地質調査に関し「掘ってみなければわからない」として、サイトごとに異なる審査の予見可能性確保の難しさを指摘。更田豊志委員長は、7日の会合で、自然ハザードに係る対応に関し、審査過程で新たな立証材料が求められる可能性を繰り返し強調した上で、「なぜ審査期間が伸びるのかを詳らかにすべき」などと述べた。審査の効率化に向けて、審査会合の柔軟な設定も改善の方向性として委員間で概ね一致したが、基準や審査ガイドの内容の明確化について、更田委員長は予断を持った審査に陥ることに危惧を示した。 - 07 Sep 2022
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