カナダと米国に拠点を置くARCクリーン・テクノロジー社は7月8日、自社の開発する小型モジュール炉(SMR)「ARC-100」が、カナダ原子力安全委員会(CNSC) の実施する正式な許認可申請前の任意の設計評価サービス「ベンダー設計審査(VDR)」の第2段階(許認可上、問題となる点の特定)を完了したことを明らかにした。CNSCは報告書の中で、認可取得における根本的な問題は認められなかったと結論。ARC社は、ARC-100の商業化に向けた重要な一歩となったと歓迎している。ARC-100は、第4世代のナトリウム冷却・プール型の高速中性子炉で、電気出力は10万kW。電力とプロセス熱の両方の用途向けに設計されており、石油・ガス、精製、化学分野などにおける脱炭素化イニシアチブに適している。同炉の技術は、米エネルギー省(DOE)傘下のアルゴンヌ国立研究所で30年以上運転された高速実験炉EBR-Ⅱで実証済みだ。ARC-100は、CNSCによる事前審査を完了した初の先進ナトリウム冷却高速中性子炉となった。VDRの第2段階は、CNSCの規制要件や期待に関するフィードバックをベンダーに提供するもの。2022年2月に開始された同審査の一環として、ARC社はCNSCが定義する将来の認可申請にとって重要な19の重点分野をカバーする数百の技術文書を提出。これには、安全システム、安全解析、炉およびプロセスシステムの設計、規制遵守、品質保証に関する情報が含まれていた。ARC社は今回の審査完了が、カナダ・ニューブランズウィック州で進行中のARC-100実証機の認可申請活動にも、さらなる信頼と弾みを与えるものと指摘する。2023年6月には、ニューブランズウィック・パワー(NBパワー)社がポイントルプロー原子力発電所(Candu-600×1基、70.5万kWe)サイトにおけるARC-100建設に向けた「サイト準備許可」(LTPS)を申請し、認可取得プロセスが開始された。ARC-100は2030年までに運開を予定している。2018年以来、ARC社とARC-100を共同開発しているNB Power社のL. クラークCEOは、「当社は本事前審査を通じて技術支援を提供し、審査の完了をプロジェクト開発における重要な進展と認識している。今後も革新的なエネルギーソリューションの模索に、引き続き協力していく」とコメントした。ARC社は今年6月、スイスと米国に拠点を置くDeep Atomic社と次世代データセンターとAIインフラへの電力供給に向けて、ARC-100の展開を検討するための覚書を締結している。Deep Atomic社はSMRを電源とするデータセンターのプロジェクト開発サービスを提供しており、両社はARC-100をDeep Atomic社のデータセンターインフラプロジェクトに近接して展開できる場所を共同で評価する予定だ。
17 Jul 2025
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フランス電力(EDF)は7月8日、英国のサイズウェルC(SZC)プロジェクトに最大11億ポンド(約2,200億円)を投資することを正式に表明した。この投資は、英政府および他の投資家との合意交渉が最終化される、最終投資決定(FID)を待って実施される予定で、これによりEDFの出資比率は約12.5%となる見込みである。EDFは英政府と並ぶ最初の出資者。英政府は今年6月の歳出見直しの一環で142億ポンド(約2.8兆円)の投資表明をしていた。さらなる投資家や資金調達の詳細は、今夏に予定されるFID時に発表される予定だという。この発表は、7月10日の英仏首脳会談に先立ち、K. スターマー英首相がE. マクロン仏大統領を英国に迎えるタイミングで行われた。両国は、エネルギー、経済成長、防衛・安全保障、移民などの共通課題で協力を強化。スターマー首相は昨年の就任以来、英国の国際的地位の強化と近隣諸国との関係改善を目指している。英政府は今回の発表は、英国が投資先としてますます魅力的な国であり、信頼できるパートナーである証と強調している。またフランスの輸出信用機関Bpifranceは、SZCプロジェクトへ50億ポンド(約1兆円)の債務保証を提供する予定で、商業銀行からの融資を後押しするという。これは、消費者・納税者・民間投資家でコストを分担する新しい資金調達方式であるRABモデル((規制資産ベース(RAB)のコスト回収スキーム。個別の投資プロジェクトに対し、総括原価方式による料金設定を通じて建設工事の初期段階から、需要家(消費者)から費用(投資)を回収する。これにより投資家のリスクを軽減でき、資本コスト、ひいては総費用を抑制することが可能になる。))の適用によって可能になる。SZCプロジェクトは、既存のサイズウェルB原子力発電所サイトに欧州加圧水型炉(EPR)を2基建設する計画。これは、現在建設中のヒンクリーポイントC(HPC)のEPR×2基の複製版。SZCプロジェクトは業界の技術力向上や量産効果を促進し、フランスの原子力産業やEPR2×6基の新設計画(パンリー、グラブリーヌ、ビュジェイの各原子力発電所サイトに2基ずつ建設)にも貢献すると期待されている。英政府は、原子力は再生可能エネルギーと並ぶ低炭素エネルギーの中核をなし、英国が化石燃料依存から脱却し、エネルギーコストを恒久的に引き下げる唯一の手段と考えており、引き続きプロジェクトの重要な株主として、進捗管理と遅延の最小化に努めるとしている。スターマー首相は、「私はSZCプロジェクトにこれ以上の迷いや遅れは許さないと明言してきた。EDFの投資により、国民に恩恵をもたらすための一歩を踏み出せた。エネルギー料金の引き下げ、雇用・技能育成の機会創出、エネルギー安全保障の強化-これは英国が投資先として信頼されている証であり、『変化に向けた計画』(Plan for Change)の実行そのものだ」と語った。SZCの建設ピーク時には、1万人の雇用を支え、国内のサプライチェーンでも数千の高度技能と高レベルの雇用を創出すると言われている。英仏のエネルギー協力としては、英国に本拠地を置く濃縮事業者のウレンコ社がEDFと15年間にわたる燃料供給の数十億ユーロ規模の契約を締結。ウレンコUK社の1,400人超の雇用を支え、2023年には2.56億ポンド(約512億円)を超える経済効果を英国にもたらしている。仏エンジニアリング企業のAssystem社も、英国での原子力事業の人員を2030年までに倍増し、サンダーランド、ブラックバーン、ダービー、ブリストル、ロンドンを含む国内10拠点で新たに1,000のエンジニア、IT、マネジメントの職を創出する計画だという。
16 Jul 2025
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ルワンダの首都キガリで6月30日~7月1日、アフリカ原子力エネルギー・イノベーション・サミット(NEISA 2025)が開催された。アフリカの人口が今後数十年で30億人に達すると予測される中、同サミットでは、増大するエネルギー需要に対応し、工業化を促進し、持続可能な開発を達成するためのカギとして、原子力エネルギー、とりわけ、小型モジュール炉(SMR)とマイクロ炉(MMR)の可能性が議論された。同サミットは、ルワンダ政府が主催、国際原子力機関(IAEA)、国連アフリカ経済委員会(UNECA)、OECD原子力機関(NEA)、世界原子力協会(WNA)をはじめとする主要な国際機関および地域金融機関の協力のもとで開催された。アフリカでは、差し迫ったエネルギー需要に対応し、より持続可能で信頼性の高い原子力エネルギーヘの期待が高まっている。同サミットには40か国以上から政策決定者、産業界のリーダー、著名な原子力専門家が出席。エネルギーの自給自足、クリーンな電力へのアクセス、気候変動問題への対応、アフリカ大陸全体の産業成長を加速するため、大陸のエネルギー需要に対する実行可能で変革的なソリューションである、SMRとMMRに焦点を当て、その導入に必要な条件-インフラ、資金調達、政治のリーダーシップ、地域の技術開発-について議論された。サミットの開会式で、ルワンダのE. ンギレンテ首相は、アフリカの開発アジェンダを推進する革新的でクリーンなエネルギーソリューションを採用するために、アフリカの指導者たちが協力して取り組む必要性を強調。アフリカでは6億人以上が電力を利用できない中、アフリカの長期的なエネルギー安全保障と気候変動に対するレジリエンスを支えることができる原子力の役割を強調し、アフリカの指導者に対し、原子力技術がもたらす機会をとらえるよう呼び掛けた。サミットで演説したIAEAのR. グロッシー事務局長は、アフリカ諸国による原子力開発計画を支援するというIAEAのコミットメントを再確認し、アフリカ大陸における低炭素電源の価値を強調。進化する世界のエネルギー情勢において「アフリカがその地位を主張することを妨げるものは何もない」と述べ、クリーンで信頼性の高いエネルギーはもはや贅沢品ではなく、大陸にとって差し迫った必需品であると付け加えた。SMRとMMRの可能性に関するセッションでは、SMRやMMRはアフリカのエネルギー移行を加速させる大きな可能性を秘めているが、その展開の成功は、技術的な準備だけでなく、強固な支援インフラにもかかっていると指摘。アフリカの現在のインフラ状況は、大陸全体で発電能力の15%、4,000万kWの電力が、インフラの問題、送電網の不備等により、供給できなくなっており、インフラ計画と投資に対する包括的かつ体系的なアプローチが必要であると結論。また、SMR/MMRのクリーンで信頼性の高いエネルギー供給が、アフリカの主要産業である、広大な鉱業部門の発展を促進すると強調された。資金調達に関するセッションでは、SMR/MMRの可能性を現実に変えるには、多額の設備投資と革新的な財務アプローチが必要であると指摘された。アフリカは歴史的に外部からの低利融資に依存してきたが、現在はその依存度が減少しているという。そして、国内および地域の財源を活用した、長期的な民間インフラプロジェクトへの資金供給の必要性を指摘。アフリカは、国内の金融機関と緊密に協力し、公的資金や開発金融を通じてプロジェクトのリスクを軽減することで、現在、重要なプロジェクトに流入していない膨大な資本プールを活用することができるとも言及された。国内金融セクターの長期インフラへの積極融資のほか、世界銀行などの国際開発金融の活用、原子力プロジェクトと地球規模の気候目標との戦略的整合など、多面的なアプローチをとるべきとの見解が示された。さらにアフリカでは、原子力部門を支えるために必要なスキルを育成する必要があるとし、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)は、アフリカの若者が加盟国間で自由に移動して学び、働くことができ、スキルギャップに対処するものとして、地域の専門知識を育成するための貴重なメカニズムであると強調された。
15 Jul 2025
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仏原子力安全・放射線保護局(ASNR)は7月3日、フランス電力(EDF)が所有する130万kW級PWR×20基の運転を、必要な安全性の強化措置を着実に実行することを条件に、40年を超えて運転を継続することを承認すると発表した。対象となるのは、1980年代後半から1990年代前半に運転を開始した、パリュエル発電所の4基、カットノン発電所の4基、サンタルバン・サンモーリス発電所の2基、フラマンビル発電所の2基、ベルビル発電所の2基、パンリー発電所の2基、ゴルフェッシュ発電所の2基、ノジャン・シュール・セーヌ発電所の2基の8サイト、計20基。フランスでは商業炉の運転期間に制限がなく、国内57基の商業炉すべてを保有・運転するEDFが環境法に基づいて10年毎に詳細な定期安全審査を実施し、次の10年間の運転継続で課題となる設備上のリスクへの対応策等を検討。ASNRがこれらの対応策を承認し、関係要件がクリアされると判断すれば、次の10年間の運転許可が付与される。ASNRは、2019年から2024年にかけて、放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)や常設の専門家グループに、EDFが130万kW級原子炉の4回目の定期安全審査の一環として提出した大量の調査報告書の審査、分析評価を依頼。さらに、評価プロセスへの一般市民の広範な関与を経て、130万kW級原子炉の今後10年間の運転継続の条件ならびに定期審査時にEDFが実施すべき安全性の向上措置を決定した。今回の4回目となる審査は特に重要とされており、一部の原子炉部品が当初40年間の使用を前提に設計されていたため、運転期間の延長には設計の見直しや部品の交換が必要とされている。ASNRによる今回の決定は、同一モデルで設計されたすべての130万kW級原子炉に共通する事項に焦点を当てた「包括的評価段階」の審査を締めくくるもので、EDFが計画した主要な安全対策の実施と、安全目標を達成するために、ASNRが必要と考える追加対策を実施するよう求めている。EDFは今後、「各原子炉に特有の事項」、特に地理的立地(海岸、川、工業地帯など)を考慮した個別の評価や安全性向上の措置を実施し、各原子炉の審査報告書を提出する。報告書はパブリックコメントの対象となる。最後の審査は2040年まで続く見込みだという。またEDFは、ASNRが求める安全要件の履行状況と、自社および協力会社の技術的能力を証明する年次報告書の公開、年次報告書の各地の情報委員会への送付など、長期的な安全強化プロセスにおける透明性と説明責任が強く求められている。
14 Jul 2025
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リトアニア政府は7月3日、リトアニアにおける原子力開発の可能性について協議を行い、国内における原子力開発の準備に向け、国営企業イグナリナ原子力発電所を含む作業部会をエネルギー省に設置することを決定。同時に原子力安全検査局(VATESI)に対し、安全規制に関する提案の提出を指示した。リトアニアでは、イグナリナ原子力発電所(軽水冷却黒鉛減速炉:RBMK-1500×2基、各150万kWe)が1980年代から稼働していたが、欧州連合(EU)は、ウクライナのチョルノービリ原子力発電所と同型であるRBMK炉の安全性への懸念から閉鎖を要求、リトアニアはEU加盟と引き換えに同発電所を2009年までに閉鎖した。同発電所は閉鎖されるまで、リトアニアの電力の70%を供給していた。その後、イグナリナ原子力発電所近傍のヴィサギナスに日立製作所が主導する新規原子力発電所プロジェクトも浮上したが、福島第一原子力発電所の事故により、原子力発電に対する国民の支持は低下。2012年の原子力発電所の新規建設への支持を問う国民投票では否定的な意見が優勢となり、2016年10月の総選挙による政権交代を経て、翌11月にヴィサギナス・プロジェクトは凍結された。その後、リトアニアでは電力不足を補うため、電力供給源の多様化を図り、再生可能エネルギーの導入を促進。現在、総発電電力量の約7割を再生可能エネルギーで賄うものの、近隣諸国からの電力輸入量も多い。イグナリナ原子力発電所のL. バウジス所長は、「原子力が再び国家戦略の重要課題として取り上げられたことは、リトアニアが長期的安定、エネルギーの自立を目指していることの表れ。リトアニアの電力需要が2050年までに3倍以上になると予測される中、クリーンで信頼性が高く、競争力のあるエネルギー確保のため、さまざまな電源について現実的な評価が必要」とし、「小型モジュール炉(SMR)は、有望な選択肢の一つであり、真剣かつ専門的に評価されるべき」と語った。さらに「イグナリナ原子力発電所は、運転のみならず廃止措置においても長年にわたるノウハウを蓄積しており、この経験は新たな原子力開発計画において極めて重要である」と述べ、作業部会に積極的に協力し、実現可能性調査の準備に貢献していく意向を示した。作業部会では関連する国家機関、学術機関、エネルギー関連企業の代表が参加し、原子力開発の可能性を評価する。詳細な分析を行い、一般市民の参加を促し、国内外の専門家と協力しながら、小型炉プロジェクトの評価について報告書を作成し、リトアニアにおける原子力開発の戦略的方向性と行動計画を提示することとしている。昨年承認された国家エネルギー自立戦略では、電力需要の増加と気候目標の達成に対応するため、あらゆる電源を検討する必要があると強調されている。リトアニアの電力需要は、2030年の240億kWhから2050年には740億kWhと、3倍以上に増加する可能性があり、気候変動への対応やエネルギー安全保障、各種調査結果を踏まえると、合計して最大150万kWeの原子力導入が一つの有力な選択肢とされている。同戦略では、2028年までに小型炉の設置に関する決定を行い、最初の50万kWの初号機を2038年までに稼働可能とし、後続機を2050年までに稼働させるとしている。リトアニア政府は、原子力は、太陽光や風力の発電量が不安定な時期にも安定した電力供給を維持する、エネルギーシステムのバランスと信頼性を確保する補完エネルギー源の役割があると指摘。原子力との統合により、気候中立目標の達成をより効果的に進め、電力供給の安定性と競争力の向上に期待している。昨年9月にイグナリナ原子力発電所が実施した世論調査によると、リトアニア国民の42%が新世代の原子力開発を支持しているという。さらにイグナリナ原子力発電所は7月9日、イタリア・ローマで、仏パリに本社を置く先進炉開発企業ニュークレオ社と協力覚書を締結した。この覚書は、リトアニアにおける先進高速炉(LFR)技術の実現可能性を共同で分析するため、両者が協力することを想定したものである。ニュークレオ社は第4世代の先進モジュール炉(AMR)である鉛冷却高速炉(LFR)と使用済み燃料を利用する技術を開発中で、原子力発電の運転経験がある国々や持続可能かつ安全な使用済み燃料の管理に向けて、その高度な運用モデルを適用することを目指している。同様のモデルは、すでにスロバキアによって選択されており、今年6月、スロバキア国営の原子力廃止措置企業であるJAVYSは、国内の既設炉から回収された使用済み燃料由来のMOX燃料を使用する、ニュークレオ社製のLFRを4基、JAVYSが所有、廃止措置を実施するボフニチェ原子力発電所(V-1)サイトに建設する計画を発表している。覚書の調印に立会った、リトアニアのZ. ヴァイチウナス・エネルギー相は、「イグナリナ原子力発電所の有するノウハウは現在、廃止措置にのみ活用されているが、先進的な原子力技術開発や使用済み燃料削減に向けた技術の可能性を評価する機会を逃すべきではない」と述べ、革新的な解決策の早期評価の必要性を強調した。
11 Jul 2025
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米原子力規制委員会(NRC)は7月2日、Natrium炉の建設許可申請の審査を予定より6か月前倒し、2025年末までに完了させる方針を明らかにした。Natrium炉は出力34.5万kWeのナトリウム冷却高速炉で、米国の原子力開発ベンチャー企業であるテラパワー社が開発している。同炉は、ワイオミング州ケンメラーの石炭火力発電所の近傍にケンメラー原子力発電所1号機として建設される。テラパワー社は、同社の子会社として同発電所の所有者・運転者となるUS SFR Owner(USO)に代わり、2024年3月に建設許可申請を行った。NRCがNatrium炉の建設許可申請を審査するスケジュールを短縮したのは、これが2回目。NRCは2025年2月、安全評価(SE)のドラフトが予定より1か月早く完成し、建設許可の審査が、当初予定の2026年8月よりも2か月早い同年6月に完了すると、テラパワー社に通知していた。その後、環境影響評価書(EIS)のドラフトを、予定より1か月早い2025年6月に発行。テラパワー社との緊密な情報交換の効果と2025年5月のNRC改革に関する大統領令も考慮して、最終安全評価と最終EISが6か月早く完了すると予測し、2025年12月31日までに建設許可の審査が完了すると今回、通知した。Natrium炉は、熔融塩ベースのエネルギー貯蔵システムを備えており、貯蔵技術は、必要に応じてシステムの出力を50万kWeに増強し、5時間半以上維持することができる。これにより、Natrium炉は再生可能エネルギーとシームレスに統合され、費用対効果の高い電力網の脱炭素化を実現すると言われている。なおテラパワー社は、Natrium炉の完成を2030年と見込んでいる。
10 Jul 2025
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米グローバル・レーザー・エンリッチメント(GLE)社は7月2日、同社が建設を計画するパデューカ・レーザー濃縮施設(PLEF)の安全分析報告書(SAR)を米原子力規制委員会(NRC)に提出した。2024年12月には環境報告書(ER)を提出しており、今回と合わせ、PLEFの建設と操業に向けたライセンス申請を完了した。SARでは、PLEFの安全対策、運用手順、リスク軽減策が包括的に評価されており、原子力の安全性とセキュリティに関する規制基準を満たす内容となっている。ERでは、ガス拡散プラントにおける劣化六フッ化ウラン(DUF6)の再濃縮による環境浄化作業の加速、既存および新規の原子力発電所向けに国内産のウラン、濃縮ウランを供給することで脱炭素化を支援し、西ケンタッキー地域での雇用創出、エネルギー安全保障の強化などを利点として掲げている。GLE社は審査プロセスの効率化と迅速化の促進を期待し、NRCにERとSARを分離して提出することを申請、2024年8月に承認されていた。GLE社は、新たな国産ウラン供給源の確保・転換・濃縮の実現を目指しており、それに特化した米国の唯一企業となる。GLE社はライセンスの取得後、2030年までに米エネルギー省(DOE)が所有するケンタッキー州のパデューカ・ガス拡散濃縮プラントにあるDUF6の再濃縮を開始したい考えだ。パデューカ・サイトでは、1960年代からガス拡散濃縮プラントが民生用の濃縮ウランを生産していたが、2013年に操業を停止し、サイトは現在、環境復旧プログラム下にある。GLE社はレーザー濃縮技術の商業化を目指し、豪サイレックス・システムズ社が51%、加カメコ社が49%所有する合弁企業。GLE社はサイレックス法(サイレックス社独自のレーザー分子法によるウラン濃縮技術)の独占行使権を保有しており、DOEと2016年11月、DOEが保有する約30万トンのDUF6の40年間の売買契約を締結した。PLEFで天然ウラン・グレードまで濃縮し、六フッ化ウラン(UF6)の形で、世界のウラン市場で販売する計画だ。PLEFのライセンス申請は、GLE社が2012年に取得した、ノースカロライナ州ウィルミントンにおける商業規模のレーザー濃縮施設のNRCの建設・操業許可に基づいている。当時は市場環境が悪く、計画は進展しなかった。GLE社は2024年11月にパデューカ・ガス拡散工場跡地に隣接する665エーカー(約2.7㎢)の土地をPLEFの建設サイトとして取得しており、NRCの事前承認とPLEFサイトの良好な特性から、PLEFのライセンス取得は早まると予想している。サイレックス社は、自社の濃縮技術により、天然ウラン(UF6形態)、低濃縮ウラン(LEU)およびLEU+、次世代炉(小型モジュール炉を含む)向けの高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU)など、複数の形態のウラン生産が可能となり、世界中の原子炉向けの燃料生産で重要な役割を果たすと指摘している。
09 Jul 2025
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米国民の原子力支持が依然として高い水準を保っていることが、最新の世論調査で明らかになった。米国のビスコンティ・リサーチ社が6月18日に発表した世論調査結果によると、米国の原子力支持の割合が72%となり、前年から5ポイント減少したものの、引き続き高い水準を維持している。同調査はビスコンティ・リサーチ社が5月28日から6月8日にかけて、1,000人を対象に調査を実施した。同調査によれば、回答者のうち29%が原子力を「強く支持する」と回答し、「強く反対する」(6%)の約5倍に上った。また、知識量が多い人ほど原子力を支持する傾向にあり、知識量が非常に多い層では、66%が原子力を「強く支持」すると回答した一方、「強く反対する」と回答した人はわずか6%に過ぎなかった。「原子力発電所の運転認可更新」については、87%が「安全基準を満たす限り認可を更新すべき」と回答。また、「将来の新規建設」についても64%が支持した。新規建設の支持率は3年連続で70%を超えていたが、今回は7ポイント低下した。一方、小型モジュール炉(SMR)について「知っている」と答えたのは26%にとどまった。ただし、SMRについて聞いたことがある層では、クリーンエネルギーや信頼性、安全性、手頃な価格といったイメージを持つ傾向が、聞いたことがない層に比べて高いことが分かった。調査では、電源を評価する際に「極めて重要」と考える8つの要素についても尋ねた。その結果、上位は「信頼性」(63%)「手頃な価格」(63%)、「きれいな空気」(61%)、「効率性」(52%)、「良質な雇用」(49%)、「エネルギー・セキュリティ」(48%)、「気候変動対策」(46%)、「エネルギーの自給」(43%)が続いた。なかでも「信頼性」を「極めて重要」または「非常に重要」と回答した人は94%にのぼったが、原子力をその特性と結び付けた人は59%にとどまった。「手頃な価格」では93%が重視した一方、原子力と結び付けた人は49%だった。さらに、女性やZ世代((一般的に1990年代半ばから2010年序盤生まれの年齢層の若者を指す。))では、「きれいな空気」「信頼性」と原子力との関連性を認識している割合が低かった。ビスコンティ・リサーチ社は、この8項目はいずれも本来、原子力に当てはまる特性であるにもかかわらず、多くの米国人が原子力と結び付けて認識していないと分析している。また、太陽光、風力、水力と比較して、原子力を「最も信頼できるクリーンエネルギー源」と評価した人は30%で、太陽光(41%)が最も高かった。なお、水力と風力は原子力よりも評価が低く、それぞれ15%、14%だった。
08 Jul 2025
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米国電力大手のコンステレーション・エナジー社は6月25日、予定よりも早く、最短で2027年にもスリーマイル・アイランド原子力発電所(TMI)1号機(同機は、クレーン・クリーン・エナジー・センター:CCECに改名)を運転再開する予定であることを明らかにした。コンステレーション社は2024年9月、米マイクロソフト社と20年間の売電契約を締結しており、マイクロソフト社のデータセンター向けに原子力による高品質な電力を供給すべく、運転再開の時期を2028年と見込んでいた。TMI1号機(PWR、89万kWe)は1974年に営業運転を開始。安価なガス火力に押されて経済性が悪化し、2034年までの運転認可を残したまま2019年に閉鎖された。なお同2号機は、1979年に炉心溶融事故を起こし、廃止措置が進められている。TMI1号機の運転再開時期が早まったことを受け、6月25日、400人を超える新規および復職したコンステレーション社のスタッフ、ペンシルベニア州の建設労働者がCCECに集まり、祝賀会が開催された。祝賀会には、J. シャピロ・ペンシルベニア州知事、地元有力者、マイクロソフト社およびコンステレーション社の幹部らも出席した。コンステレーション社によると、ペンシルベニア州を含む地域の系統運用者PJMから早期連系申請が承認され、人員採用、運転員の訓練、主要機器の調達などが順調に進んでいる。シャピロ州知事は、PJMに早期連携の承認を促す書簡を提出し、このプロセスを後押ししたという。PJMは、ペンシルべニア州の経済成長により、2029年までにさらに1,000万kWeの追加設備容量が必要と予測している。祝買会の席上、コンステレーション社のJ. ドミンゲスCEOは、「信頼性が高く排出ゼロの原子力エネルギーの新たな章が開かれ、数千の良質な雇用と、数十億ドルの経済効果がペンシルベニア州にもたらされる。PJMによる承認、マイクロソフト社の歴史的な投資、そしてシャピロ知事や地域の支援により、予定よりも早く運転再開への道を進んでいる。米国のエネルギー自立、経済成長、そしてグローバルなAI競争において勝利に導くものだ」と語った。シャピロ知事は、「TMI1号機の運転再開は、既存インフラを安全に活用しつつ、数千の雇用の創出と安定した電力網の構築を後押しし、ペンシルベニア州を国家的なエネルギーリーダーとしてさらに強化するものだ」と強調した。CCECでは、すでに人員の64%以上が確保されており、400人近いスタッフが在籍、今後数週間でさらに58人が加わる予定。設備面でも、16億ドル(約2,340億円)を投資し、ディーゼル発電機、蒸気発生器、発電機、タービンなどの主要設備を更新し、検査は完了。事務棟の多くが改修され、訓練センターや制御室シミュレーターもほぼ完成している。新しい変圧器も来年搬入される予定で、これには数百人の地元の熟練工や電気技術者の技能が活かされると見込まれている。また、運転再開に向けて米原子力規制委員会(NRC)への許認可修正申請に係わる手続きが進行中であり、コンステレーション社はCCECの運転認可を少なくとも2054年まで延長したい考えだ。なお、「クレーン・クリーン・エナジー・センター」のクレーンは、親会社エクセロン社のC. クレーン前CEO(2024年逝去)にちなんで名付けられた。同発電所が立地するペンシルベニア州の建設労働組合協議会の調査によると、CCECの20年間の運転により、3,400人もの直接的・間接的な新規雇用が創出され、州内総生産は160億ドル(約2.3兆円)増加、州税および連邦税も計36億ドル(約5,260億円)が増加すると予想されている。
08 Jul 2025
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欧州における記録的な熱波の影響で、冷却水に利用される河川の水温上昇を受け、フランスとスイスの原子炉の一部が停止した。停止した原子炉はいずれも内陸部に立地し、冷却に河川水を利用している。フランスとスイスの規制では、河川の水温が地域の生態系に影響を及ぼす可能性がある場合、原子力発電所の出力制限や停止が義務付けられている。フランスのゴルフェッシュ原子力発電所(PWR、136.3万kWe×2基)では、6月30日にガロンヌ川の水温が28℃を超える見込みとなったため、29日深夜に1号機を停止した。同発電所では冷却水をガロンヌ川から取水し、出力に応じて平均で0.2℃高い温度で、大部分が川へ戻される。2006年9月の規制により、発電所下流のガロンヌ川の日平均水温が28℃を超える場合には、全国送電系統管理会社(RTE)の要請に応じて、原子炉の出力調整、または一時的に停止が要求されることがある。同2号機は現在、3回目となる10年毎の定期安全レビューにより停止中。さらに、フランス南西部のジロンド川沿いのル・ブレイユ発電所1号機(PWR、56.1万kWe)では、出力を低下して運転しており、今後も暑さが続くようならば停止する可能性があるという。フランスの電力の約70%は、18サイトで57基の原子炉から供給されている。フランスは自国の消費電力よりも多くの電力を生産し、近隣諸国にも輸出するなど発電量は豊富。熱波による原子力発電所の運転への影響はこれが初めてではない。EDFによると、2003年以降の環境要因(河川の高温化、低流量)による生産ロスは、年平均で発電量の0.3%で、現在の発電量の削減は電力網に深刻な影響を与えていないものの、2050年までに生産ロスは3~4倍に増加すると予想されている。会計検査院は2024年の年次公開報告書で、フランスでは2014年から2022年の間に、原子力発電が総発電量の62%から77%を占め、その運営と安全性は地球温暖化の影響を受ける水資源に依存している、と言及。気候変動による影響は中長期的には強まるとし、2050年までに熱波による原子力発電所の運転停止や出力抑制の回数増加への懸念から、気候変動に適応する水効率の高い冷却システムの導入の加速を勧告している。スイスでも熱波の影響で原子炉2基が運転を停止した。スイスの電力会社Axpo社は、アーレ川の水温上昇を受け、発電所からの冷却水排水による過度の水温上昇からアーレ川の生態系を保護するため、6月29日、同社が所有・運転するベツナウ原子力発電所の1、2号機を50%出力で運転、7月1日には1号機の運転を停止した。2号機も、7月2日には運転を停止した。原子炉の出力制限や停止の措置は、スイス連邦エネルギー庁(SFOE)の指示に従って実施されている。Axpo社は、水温の推移を常に監視しており、当面は現状の措置を維持するとしている。
07 Jul 2025
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フィンランドの電力大手フォータム社は6月25日、フィンランドおよびスウェーデンでの新規原子力発電所プロジェクトに関して、大型炉のベンダーである、フランス電力(EDF)および米ウェスチングハウス(WE)社-韓・現代E&C(現代建設)社、さらに小型モジュール炉(SMR)の開発企業である米GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社と、それぞれ先行作業契約(Early Works Agreements: EWA)を締結したことを明らかにした。これにより、各陣営との選定プロセスを継続し、協力関係を正式化する。フォータム社は2022年10月に、フィンランドとスウェーデンの2か国における新規原子力発電所の商業面、技術面、社会面での前提条件を調査する、実行可能性調査(F/S)を開始。2年間にわたる調査では、複数のベンダーやパートナー候補、顧客、社会的利害関係者と詳細な協議を重ね、2025年3月にF/Sの結果を発表した。将来の北欧地域における電力需要に応えるための長期的選択肢として、既存原子力発電所のリプレースを視野に、原子力発電開発の継続を決定した。その一環として、フォータム社は、大型炉では仏EDFおよび米WE社-韓・現代E&C(現代建設)社 、さらにSMRでは米GVH社との連携を強化する意向を示していた。今回締結したEWAには、初期プロジェクト計画、サイトおよび設計の適応性、さらにフィンランド放射線・原子力安全庁(STUK)およびスウェーデン放射線安全局(SSM)などの原子力安全規制当局との予備的な許認可活動なども含まれる。各陣営はそれぞれ、EDFはEPR、WE社はAP1000、GVH社はSMRのBWRX-300の導入をめざす。フォータム社のL. レベグル副社長(新規原子力担当)は、「投資決定に先立ち、技術への信頼性を強化し、国別の設計変更のリスクを最小限に抑え、開発段階からベンダーの能力を評価することが不可欠。EWAに基づく作業は、プロジェクトリスクの軽減に大きく貢献する」と指摘した。フォータム社は現在、VVER-440(PWR、53.1万kW×2基)で構成されるロビーサ発電所を運転中。同発電所はフィンランド初の原子力発電所であり、現在、同国の総発電電力量の10%を供給している。1号機は1977年、2号機は1981年に営業運転を開始。両機は2023年2月、20年間の運転期間延長の認可を取得し、2050年末までの運転が可能となった。なお同社は、フィンランドのオルキルオト原子力発電所(1,2号機:BWR、92.0万kW×2基、3号機:PWR=EPR、166.0万kW)のほか、スウェーデンのオスカーシャム原子力発電所(3号機:BWR、145.0万kW)、フォルスマルク原子力発電所(BWR、100万kW級×3基)の共同所有者でもある。
04 Jul 2025
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米大手IT企業のGoogle社は6月30日、米国のCommonwealth Fusion Systems(CFS)社と戦略的パートナーシップ強化の一環として、CFS社が開発する商業用核融合発電所「ARC」から20万kWeの電力購入契約(PPA)を締結した。CFS社は、核融合エネルギーの商業化を目指す米国のスタートアップ企業。マサチューセッツ工科大学(MIT)からスピンアウトし、高温超伝導(HTS)磁石技術を活用した核融合炉の開発を行っている。2030年代初頭のARCの送電開始を目標に、その先駆となる実証炉SPARCの建設を進めているところ。トカマク型の核融合炉であるSPARCはARCの建設に必要な技術や物理学などの検証を目的に、2026年の初プラズマの生成を計画する。ARCは「affordable(手頃で)、robust(頑強な)、compact(コンパクト)」の略で、SPARCは前述の頭文字に「smallest possible(可能な限り小さい)」を加えたもの。ヴァージニア州チェスターフィールド郡に立地予定のCFS社のARC発電所の出力は40万kWe。Google社はその半分の電力を調達することになる。今回の契約では後続のARC発電所からも電力を購入するオプションを含む。CFS社は2018年の設立以後、20億ドル以上の資金を調達しており、Google社は2021年からCFS社にマサチューセッツ州デヴェンズでのSPARCの開発に向けて投資している。今回の契約と併せて、同社への出資比率をさらに増やしたというが、詳細は非公開。CFS社は、核融合エネルギーは他のエネルギー源のように燃料や天然資源の制約がないため、変革をもたらすエネルギー源となる可能性を秘め、安定してクリーンな24時間発電が可能であると指摘している。電力需要の急増に対応し、産業の成長、輸送の電化、家庭や企業の電化、さらには人工知能(AI)やその他の高度なコンピューティングの利用増加に貢献すると強調する。順調に進めば、ARCが世界初のグリッド規模の核融合発電所になるという。Google社の先進エネルギー部門の責任者であるM. テレル氏は、「核融合技術には、世界のエネルギー需要に応えるための変革的な潜在能力があると確信しており、CFS社が必要とする科学的および工学的なマイルストーンを達成するために支援をしていきたい」と語った。CFS社のB. マムガードCEOは、「Googleとの戦略的契約は、SPARCで核融合エネルギーを実証し、商用ARC発電所を稼働させるための第一歩。当社は核融合エネルギーによって信頼性のある豊富なクリーンエネルギーの提供能力を実証し、経済成長の促進と生活向上のために必要な規模で、市場最大の市場転換の実現を目指していく」と意欲を示した。昨今、急速に進むデジタル化と生成AIの台頭により、Amazon、Google、Microsoftといった巨大IT企業は大量の電力を必要とするデータセンターを拡充しており、クリーンで安定的かつ持続可能な電力供給源として原子力発電が注目されている。Google社は2024年10月、米原子力新興企業のケイロス・パワー社と2035年までにケイロス社が開発する先進炉の複数基、合計出力にして最大50万kWeの導入による電力購入契約(PPA)を締結したほか、今年3月、2050年までに世界の原子力発電設備容量を少なくとも3倍に増やすという目標を支持する、大手IT企業を含む14社による誓約にも参加。今年5月には、米国の先進原子力プロジェクト開発会社Elementl Power社と先進的原子力プロジェクトのサイト開発への資金提供に関する契約を締結した。Google社は、今後10年以内にクリーンな電力供給に有望な初期段階の技術への支援として、豊富で持続可能なエネルギー供給の上で変革をもたらす可能性のある核融合を電力供給源のラインナップに加えた。
03 Jul 2025
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ロシアの原子力発電所運転機関であるロスエネルゴアトム社は6月23日、国営原子力企業ロスアトムがロシア極東の沿海地方に沿海原子力発電所(Primorsk NPP)を建設するロードマップを承認したことを明らかにした。この決定は、ロシア大統領の指示による極東連邦管区の先行開発を加速する目的で、2035年までに、沿海発電所の2基を早期稼働させる計画。運転実績のある標準設計「VVER-1000」(各100万kWe)を採用し、全長200kmを超える500kVの送電線を2本接続。1号機の初コンクリート打設は2027年12月、送電開始は2033年、2号機は2035年に送電開始を予定している。沿海地方政府は、合計出力200万kWeの原子炉2基への投資意向書に同意しており、複数の候補地も選定されている。自然条件の予備分析によると、最も有望な候補地は、ウラジオストク南東の日本海に面した閉鎖都市フォーキノ(Fokino)付近とされている。最終的な設置場所は、投資根拠の調査において確定される。今年中には設置場所に関する公聴会が実施される予定であるという。沿海発電所の建設によって、安定した電力供給のほか、地域の社会・産業の発展にも大きく寄与し、数千の新たな長期雇用の創出と税収増、地元の民間ビジネスも活性化が期待されている。
02 Jul 2025
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米エネルギー省(DOE)と米原子力規制委員会(NRC)は6月18日、それぞれ、先進炉導入の迅速化に向けた取組みを発表した。米国の国家安全保障を強化し、エネルギー目標を達成するために不可欠な、原子力エネルギーの促進、規制の合理化を目的に、米トランプ大統領が5月23日に署名した一連の大統領令を反映したもの。DOE 先進炉の新たなパイロットプログラムを発表DOEは6月18日、傘下の国立研究所以外でDOEの管理権限のもと、先進炉の設計試験を迅速に進める柔軟な措置として、新たなパイロットプログラムを開始すると発表した。原子炉試験の簡素化と、2026年7月4日までに少なくとも3基の試験炉を臨界状態に到達させることが目的。トランプ大統領は、米国を再び原子力分野のリーダーとし、信頼性が高く、多様で、手頃な価格のエネルギー供給を確保して、米国の繁栄と技術革新を推進することに取り組んでいる。大統領令「エネルギー省における原子炉試験の改革」に従った、この新しいパイロットプログラムは、米国の原子力技術を最大限に活用、米国内の雇用を支援し、イノベーションの促進とともに、国家安全保障の強化に資するとの考えだ。このパイロットプログラムは、DOEの施設内で実施されるマイクロ炉のテストベッドでの試験のほか、国防総省(DOD)が主導する「プロジェクト・ペレ」や民間産業主導の既存プロジェクトを元に構築されている。あくまで原子炉の研究・開発を促進するためのものであり、商業的な適合性を実証するためのものではないという。このプログラムの下で建設された試験炉はNRCの認可を必要とせず、原子力法の下でDOEから認可を受けることで、民間資金の活用を促進し、将来的なNRCからの商用ライセンス取得に向けた迅速なアプローチが可能になると予測されている。DOEは同パイロットプログラムにより、国立研究所以外で試験炉を建設・運転することに関心のある、米国の原子炉開発企業を募集している。2026年7月4日までに稼働の見込みがある先進炉が対象。申請者は、各試験炉の設計・製造・建設・運転・廃止措置に関するすべてのコストを自己負担。技術の実用性、サイト評価、財政的な健全性、臨界状態達成までの詳細な計画などに基づき、競争により選定される。初回申請の締切は2025年7月21日。その後の申請も随時受け付けるという。NRC マイクロ炉の工場製造・運用に向けた方針を決定米原子力規制委員会(NRC)は6月18日、マイクロ炉の新たな導入手法を可能にするため、以下に示す3つの政策方針を明らかにした。マイクロ炉は、工場で製造・燃料装荷・試験を行った後に運転サイトへ輸送することを想定。なお、これらマイクロ炉は、現在の大型炉の1%以下程度の出力となると見込まれている。連鎖反応を防止する機能を備えた工場製造のマイクロ炉については、燃料装荷されていても、それを「運転中」とみなさない。連鎖反応を防ぐ設計を持つマイクロ炉であれば、NRCが発行する燃料保有を許可するライセンスのもとで、工場で燃料装荷を行うことが可能である。運転サイトへ輸送する前に、工場でマイクロ炉の試験を実施する際に、NRCの「非動力炉」の規制を準用して許可する。NRCは、先進炉の導入促進法(ADVANCE法)や関連する大統領令に基づき、ライセンス手続きを効率化し、マイクロ炉の商業化への移行を円滑に行うため、DOEやDODと協力して、DOE/DODのサイトに、または国家安全保障インフラの一部として、マイクロ炉を建設・運用する取組みに関与していく方針だ。
02 Jul 2025
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GEベルノバ日立ニュークリアエナジー(GVH)社は6月23日、カナダ・オンタリオ州で州営電力のオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社が取組む、ダーリントン新・原子力プロジェクト(DNNP)近くのダラム地域に、BWRX-300のエンジニアリング&サービスセンターを設立する計画を発表した。同センターには最大5,000万米ドル(約71.8億円)を投資する予定で、DNNPに配備予定のGVH社製SMRのBWRX-300の長期的な運転と保守を支援するためのエンジニアリングならびに技術サービスを提供する。また、イノベーションとトレーニング、知識共有、サプライチェーンへの関与、労働力開発のハブとしての役割ももたせる。年間最大2,000人の原子力専門家、サプライヤー、国際パートナーがオンタリオ州に集まり、ダラム地域に大きな経済的利益をもたらすことが期待されている。GEベルノバ・カナダ社のH. チャ―マーズCEOは、「本センターは、オンタリオ州の原子力リーダーとしての地位をさらに強化し、業界をリードする研修体制を通じてカナダの原子力人材の育成を促進する。原子力分野の最先端の人材と技術革新を州にもたらし、BWRX-300の世界展開を後押しするものだ」と語った。同センターは2027年末までに稼働予定。最先端のバーチャルリアリティ・シミュレーターが設置され、安全で効率的なSMRの燃料補給や保守作業の研修が可能になる。また、SMRに特化した高度な保守・点検技術の開発や、BWRX-300の停止期間に備えた計画・実行準備の拠点としての機能も果たす。さらに、原子力事業に加えてGEベルノバ社の他事業の支援拠点としての役割も担うほか、GVH社の米ノースカロライナ州ウィルミントンにある生産拠点も補完する。BWRX-300は、電気出力30万kWの次世代BWR。2014年に米原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得した第3世代+(プラス)炉「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」をベースにしている。カナダ原子力安全委員会(CNSC)は今年4月、OPG社に対し、DNNPサイトにおけるBWRX-300の初号機の建設許可を発給。翌5月、オンタリオ州はダーリントン・サイトへのBWRX-300初号機の建設計画を承認した。
01 Jul 2025
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米連邦最高裁判所は6月18日、テキサス州アンドリューズ郡の使用済み燃料の統合型中間貯蔵施設(CISF)に関する米原子力規制委員会(NRC)の許認可をめぐる訴訟で、テキサス州および同州の石油・天然ガス鉱区権益保有者のファスケン・ランド・アンド・ミネラルズ(Fasken)社が、司法審査を求めることはできないとして、両者を当事者適格とした第5巡回区控訴裁判所の判決を、手続き的に無効と判断し、却下した。ただし、最高裁は、原子力法ならびに放射性廃棄物政策法の下で、NRCがオフサイトで使用済み燃料を保管する民間企業に対して許可を与える権限があるかどうかについての判断は保留した。その代わりに、最高裁はこの訴訟を控訴裁判所に差し戻し、テキサス州およびFasken社による審査請求(=NRCの許可に対する異議申し立て)を棄却または却下するよう指示した。最高裁による却下の理由として、「ホッブズ法によれば、行政機関の最終決定に司法審査を求めることができるのは“不利益を被った当事者”に限られる。原子力法では、“当事者”とは許認可申請者か、許認可手続きに正式に介入した者だが、テキサス州もFasken社も許認可の申請者ではなく、正式な介入にも至っておらず、そもそも、両者は控訴裁での司法審査を受ける資格はなかった。このため、控訴裁の判決を却下し、NRCにオフサイトの民間貯蔵施設を許可する権限があるかという根本的な法的争点には踏み込まない」と述べている。NRCは2021年9月、Interim Storage Partners(ISP)社に対し、テキサス州アンドリューズ郡にある放射性廃棄物処理・処分専門業者のWaste Control Specialists(WCS)社の敷地内に、CISFを建設・操業することを許可した。ISP社は、WCS社と、仏国オラノ社の米国法人が2018年3月に立ち上げた合弁事業体(JV)。テキサス州とFasken社は、NRCによる許可発給を「越権行為」とし、ニューオリンズを拠点とする第5巡回区控訴裁判所に訴えた。2023年8月、控訴裁は原子力法に照らし、「NRCにそのような許可を与える権限はない」と判断し、NRCによる許可を無効とした。この判決を不服とするNRCとISP社は2024年6月に最高裁に上告していた。今回の最高裁の判断により、NRCが発行したCISFの建設・操業許可は有効となったが、ISP社は「これまでに表明してきたように、テキサス州の同意なしにWCSサイトにおいて使用済み燃料のCISFの開発を進めることはない。州および国全体が、原子力発電やその他の重要な原子力技術の利用価値をますます認識し探求する中で、当社は州および連邦の指導者たちが協力し、実証済みの技術的解決策を適用して、米国の使用済み燃料管理の課題に対処していくことを期待している」と表明した。ISP社は、2021年発給のCISFの建設・操業許可では、最大5,000トンの使用済み燃料と231.3トンのGTCC(クラスCを超える)((米国における低レベル放射性廃棄物(LLW)は含有核種(長寿命、短寿命の核種)と濃度によってクラスA、B、Cに分類される。クラスA:ドラム缶、金属箱等に収納した放射性核種濃度の比較的低いもの、クラスB:300年間耐用の高健全性容器に入れられる濃度の廃棄物、クラスC:放射化された鋼・ステンレス鋼等の廃棄物。さらにクラスCを超える放射性濃度の廃棄物はGTCC(Greater Than Class C)とされ、炉内構造物相当の放射性核種濃度の廃棄物のため、浅地中処分に適さないものとされており、NRCの許可を受けた施設に処分される。))低レベル放射性廃棄物を40年間貯蔵することを想定。さらに5,000トンずつ、追加7フェーズで拡張し、最終的に最大4万トンの使用済み燃料の貯蔵を計画している。これには、NRCが各フェーズで改めて安全面と環境影響面の審査を行い、すでに発給された建設・操業許可に修正を加えるという。
01 Jul 2025
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米国のウラン濃縮事業者のセントラス・エナジー社(旧・米国濃縮公社:USEC)は6月25日、オハイオ州パイクトンにある米国遠心分離プラント(ACP)が、米エネルギー省(DOE)向けに高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU)900kgを製造および納入したことを明らかにした。今回の製造および納入により、セントラス社はDOEとの契約第IIフェーズの目標を達成し、これまでに第Ⅰフェーズの契約と合わせ、合計920kg以上のHALEUを納入した。セントラス社のA. ベクスラーCEOは、「HALEU濃縮が可能な唯一の西側供給源として、当社の製品は次世代炉の稼働に不可欠。DOEとの契約の第Ⅲフェーズに進む今、当社は生産能力を拡大し、既存炉向けの低濃縮ウラン(LEU)とHALEUの両面で、米国の商業的および国家安全保障上の需要に応えていく」と語った。セントラス社は現在、契約第IIIフェーズに基づくHALEUの製造に進んでいる。6月20日には、DOEから第IIIフェーズの一環として、製造期間を2026年6月30日までの1年間延長する延長契約、約1.1億ドル(約159億円)相当を獲得した。第IIIフェーズではDOEの裁量および予算措置にもよるが、さらに最大8年間(年間900kg製造)の追加オプションが含まれている。DOEは2019年、セントラス社と契約を締結し、ACPでHALEU製造を実証するための先進遠心分離カスケードの認可および建設を委託。その後2022年、セントラス社は3段階の契約を競争入札により獲得した。ACPの先進遠心分離機カスケードを稼働させ、2023年末に契約の第Iフェーズを完了し、最初のHALEU 20kgをDOEに納入。第IIフェーズでは、2025年6月30日までにHALEU 900kgの製造が求められていた。契約に基づき製造されたHALEUはDOEの所有物であり、HALEU燃料を用いた先進炉の実証や商業化といった国家の重要政策の推進に活用される。
30 Jun 2025
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世界銀行グループのA. バンガ総裁と国際原子力機関(IAEA)のR. グロッシー事務局長は6月26日、フランス・パリで、開発途上国における原子力の安全かつ確実で責任ある利用に向けた協力に関するパートナーシップ協定に調印した。本協定は、両者の過去1年間にわたる複数の連携を正式な枠組みにまとめるものであり、世界銀行グループが数十年ぶりに原子力分野への関与を再開する最初の具体的な一歩となる。同協定はまた、世界銀行グループが進める、アクセス性・経済性・信頼性を重視しつつ炭素排出量にも責任を持つ新たな電化アプローチを反映。開発途上国の電力需要は2035年までに2倍以上になると予測されており、同アプローチは各国の開発目標や国別気候目標(NDC)に応じた最適なエネルギー移行の実現を支援するものである。両機関は、原子力は系統の安定性とレジリエンスを強化する継続的なベースロード電源であり、安定した電力供給は、インフラ、農業、医療、観光、製造業など、雇用創出を担う産業にとって不可欠であるとの共通認識にたつ。さらに、原子力は高レベルな人材雇用を創出し、経済全体への投資を刺激するほか、電力需要の変動への対応や周波数調整も可能で、再生可能エネルギーの導入拡大にも貢献するものだと指摘する。世界銀行グループのA. バンガ総裁は、「工場も、病院も、学校も、水道インフラも、そして雇用も、電力を必要としている。AIの進展と経済開発が進む中で、信頼性が高く、手頃な価格の電力供給を各国が確保できるよう支援していく。だからこそ、原子力を解決策の一部として受入れ、世界銀行グループとして再び選択肢に加えることとした。特に原子力は、現代経済に不可欠なベースロード電源を提供する。IAEAとの連携は重要な一歩。今後は専門知識を深め、原子力を選択する国々を支援し、安全・安心・持続可能性を原則にすべての取組みを進めていく」と意欲を示した。世銀発足以後、原子力発電への融資は、1959年、イタリア南部のガリリアーノ原子力発電所(BWR、16.4万kWe、1982年閉鎖)建設プロジェクトへの4,000万ドル相当、建設費のほぼ3分の2に充てる融資が最後で、以降は途絶えていた。IAEAのグロッシー事務局長は、「本協定は、昨年6月にワシントンで開催された世界銀行グループ理事会で原子力への融資解禁を訴えてから以降1年間の共同作業の成果であり、記念すべき節目である」と述べた上で、「この画期的なパートナーシップは、原子力に対する世界の現実的な再評価を象徴するものであり、他の多国間開発銀行や民間投資家が原子力をエネルギー安全保障と持続可能な繁栄のための有効な手段と見なす道を開く」と語った。本協定により、IAEAは以下の3つの主要分野で世界銀行グループと連携する。原子力に関する知識の構築原子力安全・セキュリティ・保障措置、国家エネルギー計画、新技術、燃料サイクル、原子炉のライフサイクル、廃棄物管理などに関する世界銀行グループの理解を深める。既存の原子力発電所の運転期間延長多くの原子炉が40年の運転期限を迎える中、既存炉の安全な運転期間延長を通じて、低炭素でコスト効率の高い電力供給を支援する。小型モジュール炉(SMR)の推進柔軟な展開が可能で初期費用が低く、途上国での広範な導入が期待されるSMRの開発を加速する。現在31か国が原子力発電を導入しており、原子力発電は世界の電力の約9%、低炭素電力の約4分の1を生み出している。また、開発途上国を中心とする30か国以上が原子力導入を検討または準備しており、安全・安心・持続可能な導入に向けIAEAと連携してインフラ整備を進めているという。グロッシー事務局長は、「SMRは、貧困削減と発展の原動力となる、クリーンで信頼できる電源になる大きな可能性を秘めているが、資金調達は依然として大きな課題。本協定は、その課題を取り除くための重要な第一歩だ」とその意義を強調した。
27 Jun 2025
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イタリアのアンサルド・ヌクレアーレ(Ansaldo Nucleare)社、同経済開発省傘下の新技術・エネルギー・持続可能経済開発局(ENEA)、ベルギー原子力研究センター(SCK-CEN)、およびルーマニアの国営原子力技術会社(RATEN)の4者は6月16日、第4世代の鉛冷却式の小型モジュール炉(SMR)の設計と商業化に取組むため、「イーグルス・コンソーシアム(Eagles Consortium)」を設立した。設立の調印式は、ルクセンブルクにおける欧州委員会のエネルギー理事会の開催に合わせて執り行われ、イタリアのG. ピケット=フラティン環境・エネルギー安全保障相、ベルギーのM. ビエ・エネルギー相、ルーマニアのC. ブショイ・エネルギー省次官らも同席した。同コンソーシアムは、欧州の産業界のリーダーと原子力研究機関とのユニークなコラボレーション。純粋に研究ベースのイニシアチブとは異なり、ワーキンググループのすべての活動は商業化に焦点を当てている。ベルギー、イタリア、ルーマニアの産業のノウハウと液体金属に関する深い専門知識を組合わせ、研究開発から市場展開までの明確な見通しを確保し、ヨーロッパの次世代炉分野におけるリーダーシップのさらなる強化を目指している。「EAGLES-300」と名付けられる第4世代の鉛冷却高速炉のSMR実証炉を2035年までに稼働、2039年までに完全な商業用の鉛冷却高速炉(LFR)を実現させたい考えだ。2024年には、EAGLES-300が、欧州SMR産業アライアンスの理事会によって、選定されている。EAGLES-300の主な特長は以下のとおり。高出力かつ電力網への柔軟性:出力は約35万kWeで、産業用熱供給や水素製造にも適応可能モジュール設計:建設コストの低減、建設期間の短縮、柔軟な展開を実現最適化された燃料管理:燃料リサイクルによるMOX燃料を使用し、放射性廃棄物の削減と持続可能性の向上を図る技術的・エンジニアリングの成熟度の確保のため、同コンソーシアムは以下の2つの主要な試験施設を活用するという。ベルギー・モル(Mol):LEANDREA技術実証施設で、燃料や材料の試験を中心に実施。ルーマニア・ピテシュティ(Pitești):既存のALFRED(Advanced Lead-cooled Fast Reactor European Demonstrator) プロジェクトを改修し、商業展開への橋渡し役に。
27 Jun 2025
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米国の原子力開発ベンチャー企業のテラパワー社は6月18日、6.5億ドル(約941億円)の資金調達を完了したことを明らかにした。この資金調達には、米国の半導体大手であるエヌビディア(NVIDIA)社の投資部門であるNVentures社を含む新規投資家と、既存投資家であるテラパワー社の創業者のB. ゲイツ氏と韓国のHD現代重工業が参加したという。資金調達の詳細は明らかにされていない。生成AIの拡大による電力需要の急増に対応するため、米国のIT大手各社がクリーンで安価かつ安定した電力供給が可能な原子力分野への投資を急速に拡大しており、今回のエヌビディア社の出資もその一連の動きのひとつ。今回の資金調達により、テラパワー社は自社が開発するNatrium炉の初号機ならびに米国内外での追加ユニットの迅速な配備計画を推し進める計画だ。Natrium炉は、熔融塩ベースのエネルギー貯蔵システムを備えた34.5万kWeのナトリウム冷却高速炉。貯蔵技術は、必要に応じてシステムの出力を50万kWeに増強し、5時間半以上を維持することができる。これにより、Natrium炉は再生可能エネルギーとシームレスに統合され、より迅速に費用対効果の高い電力網の脱炭素化を目指している。テラパワー社は、2024年3月に米原子力規制委員会(NRC)に建設許可申請(CPA)を行った。NRCとの間ではCPAおよびトピックレポートの提出に関して1年以上にわたるレビューが行われ、NRCは最近、レビューのスケジュールを前倒ししている。また、初号機建設サイトのある米ワイオミング州からは州レベルの建設許可を得ており、2024年6月に起工式を挙行、非原子力部の建設工事を開始した。2026年にNRCから建設許可を取得し、早ければ同年に「ニュークリア・アイランド」(原子力部)を着工、2030年に送電開始を予定している。テラパワー社のC. レベスクCEOは、「当社は、原子力科学のイノベーションが世界にポジティブな影響を与えるという考えに基づき設立された。NVIDIA社による出資は、当社の高い資金調達力の表れ。NVIDIA社が投資家グループに加わったことを誇りに思う」と語った。NVentures社のM. シデーク副社長は、「生成AIが産業を変革し続ける中で、原子力はこれらの能力を強化するより重要なエネルギー源になる」「テラパワー社の技術は、環境への影響を最小限に抑えながら、世界のエネルギー需要を満たす革新的かつ炭素フリーなソリューションだ」と述べた。
25 Jun 2025
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国営タイ電力公社(EGAT)は6月10日、韓国水力・原子力(KHNP)と小型モジュール炉(SMR)の分野における協力覚書(MOU)を締結した。両者は、SMRに関する基本的な技術知識を共同で研究・交換し、将来のSMRプロジェクトの実現可能性を評価するほか、ワーキンググループを結成してエネルギー関連の経験やベストプラクティスを共有、研修プログラム、現地視察、その他の技術協力などを推進、将来のプロジェクトを支援するための人材育成のためのガイドラインを策定することとしている。タイの電力需要の約6割は天然ガス火力でまかなっており、輸入も25%を占めている(2024年実績)。なお、EGAT発電分は3割であり、残りは中小の独立系電気事業者らが発電している。同国エネルギー省が策定する電力開発計画(PDP)では、エネルギー源を多様化しクリーンエネルギーの割合を増やす必要性を強調しており、「カーボンニュートラル2050」の目標達成に向けて、原子力を含む低炭素エネルギー源の拡大を目指している。両国は原子力安全や人材育成などの分野ですでに長年にわたり協力しているが、今年3月に両政府間で「原子力平和利用に関する協力協定」が締結。協力の枠組みが確立され、両国の原子力協力の大きな転換点となった。MOU締結により、タイの原子力の平和利用基盤を強化し、SMRを通じた脱炭素移行の実現に期待を寄せている。タイEGAT側の調印者である、T. イアムサイ発電所開発・再生可能エネルギー担当副総裁は「SMRはエネルギー安全保障とカーボンニュートラルを同時に達成できる有望な技術」だとし、「世界的に指折りの原子力発電所の運転経験と専門性、技術ノウハウを持つKHNPとの協力は、EGATのエネルギー移行戦略に大きく貢献するだろう」と語った。KHNP側の調印者である、P. インシク海外事業担当副本部長は、「今回のMOU締結は、当社の技術力を共有する重要な出発点だ」と述べ、「今後もEGATと緊密に協力し、タイの持続可能なエネルギーの未来を共に作り、タイをはじめとするASEAN地域のSMR市場への進出を本格化してグローバルなエネルギー移行に貢献する協力モデルを構築していく」と強調した。なお、2022年11月、米国のK. ハリス副大統領(当時)が気候変動対策を目的としたプログラムの一環として、SMRを通じてタイの原子力発電を支援するとの声明を発表。これを受けタイでは電力源としてSMR導入が検討されており、米国務省主導による「SMRの責任ある利用のための基礎インフラ(FIRST)」プログラム下で、エネルギーミックス等に関するワークショップが開催されるなど、協力活動が実施されている。
25 Jun 2025
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米国のエネルギーコンサルタント会社のラディアント・エナジー・グループ社がこのほど発表した2024年の多国間世論調査結果によれば、原子力発電を支持する人の割合が反対の割合の2倍となる結果となり、世界的に原子力に対する支持が一層高まっている傾向が明らかになった。2023年の調査結果より、支持の割合が増加している。同調査は、ラディアント社が英国の市場調査会社サバンタ社に委託して、2024年11月25日~12月20日(一部の国は別日程)に31か国(うち、運転中の原子力発電所を所有する国は19か国。全運転基数の91%が含まれる)の成人約31,000名を対象にオンラインで実施したもの。本調査は、原子力に対する一般市民の考えを調査した世界最大規模のもので、業界、政府、投資家に対し、国民の期待やニーズを伝えるために一般公開されている。世論調査の結果は以下のとおり。■世界的な世論の動向原子力の支持は反対の倍に世界人口のほぼ3分の2を占める31か国を調査対象とし、うち、原子力を「支持する」と回答した人は46%、一方「反対」は23%。22か国で、支持が反対を上回る。中国、ポーランド、ロシアでは支持が反対の3倍以上に。2023年と比べ、原子力、大規模太陽光、陸上風力への支持が減少多くの国でみられた原子力の純支持(支持-反対の差)の減少は、「支持」から「中立」(支持も反対もしない)への移行によるもの。スペインだけは前年から純支持が増加。原子力は、気候変動対策のセーフガードとして機能し、ネットゼロ目標に対する潜在的な反発に対する保険となる可能性G7諸国の「気候変動懐疑派」の間では、原子力が最も高い純支持(+23%)を得ており、バイオマス(+13%)や陸上風力(+11%)より高い。原子力は大規模太陽光発電よりは支持は低いが、陸上風力やバイオマスより高い回答者の5人に1人が、他のエネルギー源よりも自国で原子力を優先すべきとの考え。原子力が陸上風力やバイオマス、CCS付き天然ガスよりも高い割合。風力や太陽光と並んで原子力を「技術中立的に支持する」層の中で、原子力の優先度が相対的に上がる傾向に。原子力の継続使用と新規建設に賛成「原子力を使い続けたい」人は、「廃止すべき」と答えた人の3倍以上。ほとんどの国で、40%以上が「原子力の新規建設」に賛成。ロシア、ポーランド、ノルウェー、フィンランド、オランダ、スウェーデン、フランスでは、原子力の新規建設への公的補助への支持が、大規模太陽光・陸上風力への補助支持と同水準に。■エネルギー特性に関する認識ほぼすべての国で、健康・安全、信頼性、気候変動対策が三大重要の優先事項に調査対象者の約半数が、「健康と安全」をエネルギー選定の三大重要事項に。一方、86%が原子力使用による健康・安全への影響を懸念。原子力の炭素排出量についての認識は分かれる42%が「原子力は炭素排出がないか、少ない」と答えた一方、48%は「中程度または多い」と回答。原子力のコストは、かつて原子力を廃止した国々で「風力・太陽光より安い」と認識ドイツ、台湾、日本、韓国、スウェーデンのような原子力の段階的廃止を経験した国々では、原子力が「エネルギーコストを下げる技術」として最も高く評価。すべての国で「放射性廃棄物への懸念」は強いが、処分方針・施設がある国では懸念が緩和フィンランド、オランダ、エジプトやトルコ(使用済み燃料をロシアへ返還予定)などでは、放射性廃棄物への懸念は比較的低め。■人口統計別の傾向政治的立場が最大の分断要因。次いで性別・気候変動への関心原子力支持は一般に、右派政党支持者、男性、気候変動に関心のない人、高所得者、60歳以上の人々で最も高い傾向に。オーストラリア、ドイツ、イタリア、日本、韓国、フィリピン、台湾、南アフリカで「政治的立場」が最大の分断要因特に南アフリカでは他国と異なり、左派寄りの有権者が原子力支持層に。■詳細分析原子力に関する基本知識の正誤は、必ずしも支持と相関しない女性、政治的に左派寄りの人々、および気候変動に非常に懸念を持つ層では、回答者が「ウランは原子力の燃料として使用される」という質問に正しく回答したかどうかに関わらず、原子力への支持は一様に低い。風力・太陽光について詳しくない人は、「支持」に流れるが、原子力について詳しくない人は「反対」に傾く傾向環境への懸念項目では、「放射能汚染」を三大懸念に挙げたのは2割未満上位3つの環境懸念は、「気候変動」「大気汚染」「水質およびマイクロプラスチック汚染」。この傾向は性別や国を超えて共通。情報源は「ニュース・テレビ」と「SNS」が主流原子力に関する情報源として最も多く挙げられたのはニュース/テレビとSNS。唯一、ウクライナでは「自分で調べた」が最多に。開発途上国や原子力産業が未成熟な国ほど、新規建設における支援国を最も信頼できると位置づけ開発途上国や原子力産業がまだ初期段階にある国々の回答者の大多数が原子力についてほとんど知らないと答えていることを踏まえると、地政学的要因や技術的以外の要因が、特定の国の原子力信頼度に原子力専門知識よりも大きな影響を与える可能性も。ラディアント・エナジー・グループ社のパートナーである、R. オリントン氏は、「米国のパリ協定からの離脱は、気候政策がいかに不安定であるかの証左。この世論調査では、クリーンエネルギーのうち、気候変動対策に懐疑的な人々が最も支持している原子力が、民主主義社会において脱炭素化の最良の保険手段となる可能性がある」と指摘。同じくパートナーのM. ヒル氏は、「原子力の登場から70年、放射性廃棄物は最も重要な議題として浮上してきた。世界中で共有されている重大な懸念事項であり、原子力の一般的な受け入れを妨げている。放射性廃棄物の解決策を約束していない数十か国と、対策を講じる数か国を調査したが、今後数年間でこの問題に大きな進展があることを期待している」と言及している。
24 Jun 2025
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米空軍省(DAF)と国防兵站局(DLA)エネルギー部は6月11日、米国で先進炉と燃料リサイクル開発を進めているオクロ社に、アラスカ州アイルソン空軍基地向けに電力と蒸気を供給する、同社の「オーロラ」発電所の配備に向けて、発注意向書(NOITA)を発出したことを明らかにした。オーロラ発電所の配備は、重要な国家安全保障インフラのエネルギーレジリエンスと信頼性の強化を目的とした、DAFのマイクロ炉のパイロットプロジェクトの位置づけ。オクロ社によるとオーロラ発電所は、実証済みの高速炉技術を活用し、電力網から独立して稼働できるため、アイルソン空軍基地のような遠隔地にある重要任務施設のエネルギーセキュリティにとって最適だという。NOITAは、包括的な評価プロセスを経て、オクロ社を再度指定して発出された。DAFが進める「マイクロ炉パイロット・プログラム」に則して、国防総省(DOD)のDLAエネルギー部はDAFとDODを代表して、2023年8月、オクロ社にNOITAを発出。しかし、連邦請求裁判所に提出された事前異議申立通知を受け、米司法省による適正調査と業者選定プロセスの審査が完了するまで、NOITAは撤回されていた。オクロ社は今後の契約条件下で、オーロラ発電所の設計、建設、所有、運営を行うため、米原子力規制委員会(NRC)から認可取得後、DLAと30年間の固定価格による電力購入契約(PPA)の締結に向けた交渉を開始する予定。なお、DAFとNRCは現在、環境影響評価を準備中であるという。オクロ社のJ. デウィットCEOは、NOITAの発出を受け、「重要任務施設にクリーンで安全なエネルギーソリューションを提供する当社の能力に対する継続的な信頼の証。米国が開拓した高速炉技術の価値を実証しながら、国防のレジリエンス目標を支援できることを光栄に思う」とコメントしている。オーロラは、高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU)燃料を使用する液体金属高速炉のマイクロ炉で、出力は顧客のニーズに合わせて1.5万kWeと5万kWeのユニットで柔軟に調整。少なくとも20年間、燃料交換なしで熱電併給が可能である。オクロ社は、2027年末までに米アイダホ国立研究所(INL)サイト内でオーロラ発電所の導入を目標に、NRCとの間で許認可申請前活動を実施。年内にCOLの申請を予定している。
23 Jun 2025
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カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は6月5日、中レベルおよび高レベル放射性廃棄物を地層処分するための新たなサイトの選定プロセスに対する意見の募集を開始した。これはNWMOにとって2番目となる地層処分場プロジェクトであり、2028年から開始するサイト選定プロセスをさらに改善させることが目的。カナダにおける中レベル、高レベル放射性廃棄物は現在、安全に一時貯蔵されているが、超長期的には適していない。NWMOのL. スワミCEOは「国際的な科学的合意により、中・高レベル放射性廃棄物を長期的に管理する最も安全な方法は、地層処分である」と指摘した。NWMOは2024年11月、包括的なサイト選定プロセスを経て、オンタリオ州北西部のワビグーン・レイク・オジブウェイ・ネーション(WLON)–イグナス地域をカナダの使用済み燃料の地層処分施設の建設予定地に決定した。同地域は間もなく、複数年にわたる関係規制当局による許認可プロセスに入る予定である。それに続く第2地層処分場のサイト選定においても、技術的な安全性と地域社会の受入れ意思を主要な選定基準とする方針を堅持するが、2028年からのサイト選定プロセスの開始に先立ち、NWMOは同プロセスについて、前回の使用済み燃料の地層処分向けのサイト選定プロセスで得た教訓を反映するだけでなく、さらに改善するため、広く意見を募集する。第2地層処分場は、中レベル廃棄物および非燃料の高レベル廃棄物、さらに将来的にカナダで新設される原子炉の使用済み燃料を含む可能性もあるという。中レベル廃棄物には、炉内の機器や部品が含まれる。また、非燃料の高レベル廃棄物の例としては、医療用アイソトープの製造プロセスで用いられた微量の材料がある。カナダは世界有数の医療用アイソトープの生産国であり、その多くは、がんの治療や診断、医療機器の滅菌などに使用されている。NWMOで第2地層処分場のサイト選定を担当するJ. ジャシク部長は、「第2地層処分場のサイト選定プロセスの開始前の2年間に、カナダ国民、先住民、ステークホルダーと幅広く対話活動などを通じて市民参加を促進し、信頼と透明性に基づいた関係の構築に尽力する」と強調した。なおNWMOは、第2地層処分場に係わる今後のスケジュールの大枠を示しており、2030年半ばまでに、選定プロセスへの参加に関心を表明したコミュニティを対象に、サイト特性調査や予備的評価を行った上で、サイトを絞り込み、選定。その後、追加的なサイト調査や詳細設計を実施し、関係規制当局による許認可プロセスを経て着工、2050年代には操業開始を予定している。
23 Jun 2025
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