キーワード:エネ基
-
総合エネ調 経済3団体他よりヒア
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動火災保険相談役)は8月2日、日本経済団体連合会、経済同友会、日本商工会議所他よりヒアリングを行った。同分科会は、5月よりエネルギー基本計画の見直しに向け検討を開始しており、今回の会合はその6回目となる。〈配布資料は こちら〉経団連の岩村有広常務理事はまず、日本の有する「供給面の制約が厳しい」、「需要規模が大きい」といったエネルギー事情を踏まえ、「単一のエネルギー源に過度に依存することなく、バランスの取れたエネルギーミックスの実現を志向すべき」と強調。その上で、今後の論点として、「化石燃料依存度の低減」、「ゼロエミッション電源の最大限活用」を示した。再生可能エネルギーの主力電源化とともに、原子力の最大限活用を挙げ、次世代炉の開発に向け各技術の置かれた現状を、実用化に近い順に「実装段階」、「実証段階」、「実験段階」に分類。当面は、革新軽水炉(実装段階)の建設・活用を進めつつ、並行して高速炉や高温ガス炉(実証段階)の実証を進めていく必要性を指摘した。経団連の十倉雅和会長は7月8日の記者会見で、GX推進や国際プロジェクトにおける日本のプレゼンス向上に関連し、ITER計画への期待を述べている。今回の分科会会合における発表でも、経団連は、核融合発電(実験段階)について、「高レベル放射性廃棄物を発生させない」などの利点から、その実用化を強く求めた。再稼働に関し規制側の判断や地元の理解が注目されているが、経団連は、日本原子力産業協会他のデータに基づき、今後の原子力発電設備容量の見通し(電源構成に占める割合は20%水準、60年までの運転を想定)を図示。それによると、新増設・リプレースがなければ、2040年代から設備容量が急減することから、建設に要するリードタイムも考慮し、「次世代革新炉の建設具体化」とともに、産業界の立場から「予見性確保、資金調達の観点も踏まえた事業環境整備」の必要性を訴えた。経済同友会の兵頭誠之エネルギー委員長らも、発表の中で、2040年をポイントとして指摘。同会は東日本大震災後の「縮・原発」の姿勢を改め、昨年末に長期的な原子力活用に向けて「活・原子力」を提唱した。今回、供給側の取組として、短期、短中期、中期、中長期のタイムスパンで課題を整理。原子力に関して、短期的には、「審査合格後の早期再稼働に向け、国民にファクトベースの説明」を行う必要性を指摘した。同会の新浪剛史代表幹事は、7月16日の記者会見で、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に関連し、電力消費地域の理解を進める必要性を述べている。また、中長期的な課題としては、核燃料サイクル・最終処分事業の推進とともに、「革新炉の特性を最大限に活かし、実態に即した新たな規制のあり方を検討する」、「人材・技術・サプライチェーン維持の取組を産官学一体となって推し進める」ことなどを提示。原子力の国民理解に関し、同会は、意見交換会「未来選択会議」などを通じ、若手との議論に取り組んできたが、今回の分科会でも、「社会全体を覆う『原子力を語れない空気』の払拭」が図られるよう、引き続き熟議に努めていく姿勢を示した。日商は、中小企業のエネルギーを巡る現状として、88%の企業がエネルギー価格の上昇により「経営に何らかの影響がある」と懸念していることなどを指摘。さらに、地方の観点からも、電源立地地域への産業誘致など、脱炭素化と産業活性化を両立する地域特性を踏まえたエネルギー戦略の立案を今後の議論に向け期待した。立地地域として、杉本達治委員(福井県知事)は、引き続き原子力に対する国の姿勢の明確化を切望。先般の能登半島地震にも鑑み、災害対応に資する蓄電池の活用にも言及し、電力安定供給を支える基盤確保の重要性をあらためて訴えた。今回の同分科会では、経済団体の他、日本労働組合総連合会、全国消費者団体連絡会からもヒアリングを行った。
- 05 Aug 2024
- NEWS
-
総合エネ調 安定供給と火力の脱炭素化で議論
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動火災保険相談役)は7月23日、安定供給の現状・課題と火力の脱炭素化のあり方について議論した。〈配布資料は こちら〉同分科会は5月15日、エネルギー基本計画の見直しに向け検討を開始。7月23日の会合で、資源エネルギー庁の村瀬佳史長官は、これまでの議論を振り返り、「需要が増加していく中で、脱炭素電源を最大限増加していかねばならない」と強調。去る6月6日の会合では、通信ネットワーク関連企業からの発表も受け、データセンターの拡大など、AI技術普及に伴う電力需要増に関し議論されている。村瀬長官は今回、オイルショックを受け半世紀前に設立された資源エネルギー庁の理念に立ち返り、「安定供給をしっかり確保していく必要がある」との使命感をあらためて示した上、引き続き有意義な議論を期待した。脱炭素電源の現状と課題については、前回、7月8日の会合で議論。各電源のCO2排出量比較などが示された上で、委員からは、原子力の安全性、再生可能エネルギー設置に伴う環境影響、国民理解の必要性などをめぐり意見が出された。一方で、日本の一次エネルギー供給・電源構成における化石エネルギー比率(2021年)は83%と、G7各国と比較し、依然と高いレベルにある。今回、火力の脱炭素化に係る議論に際し、資源エネルギー庁は「日本は最も化石燃料のリスクにさらされている」と危惧。さらに、電力需給に関しても、7月8日には、首都圏で最高気温37℃を記録し、東京電力管内では中部電力からの電力融通が行われるなど、需給バランスは予断を許さぬ状況にある。実際、夏季・冬季の電力最大需要発生時の予備率見通しについては、2015年度以降の推移から、特に、近年では、東日本の予備率が相対的に低くなっている。安定供給に関連し、資源エネルギー庁は、近年で電力需給がひっ迫した2020年度冬季(継続的な寒波/LNG在庫減少)、2022年3月(真冬並みの寒波/福島県沖地震)、2022年6月(異例の暑さ/発電設備の補修)について、要因・対応策を整理したほか、化石燃料輸入に伴う国富流出にも触れた上で、委員より意見を求めた。委員からは、東京湾岸に集結する火力発電の電源脱落リスクに関し、「高度成長期の産業政策『太平洋ベルト地帯』は今や、首都圏直下型地震のリスクからもレジリエンス上のネックとなっている」と懸念し、火力プラントの移設とともに、原子力発電の早急な再稼働を求める意見があった。また、地域の立場から、杉本達治委員(福井県知事)は、新たなエネルギー源として期待される水素・アンモニアに関し、敦賀港を中心とした貯蔵タンクの拠点整備の一方で、「日本海側は都市が点在しており、大規模な需要が存在しているわけはない」と、産業振興の課題を述べた上で、日本海側と太平洋側が相互に連携し合う体制が構築されるよう国の支援策を求めた。
- 24 Jul 2024
- NEWS
-
総合エネ調 発電コストの検証開始
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会は7月22日、発電コストワーキンググループ(座長=秋元圭吾・地球環境産業技術研究機構主席研究員)を始動した。同分科会では、5月よりエネルギー基本計画の見直しを開始しており、その参考とすべく、各電源の発電コストについて試算し検討に資するもの。〈配布資料は こちら〉議論開始に先立ち、資源エネルギー庁が現行のエネルギー基本計画策定に向け行った「2021年の発電コスト検証」について説明。石炭火力、LNG火力、原子力、風力(陸上/洋上)、太陽光(事業用/住宅)など、15の電源別に、新たな発電設備を更地に建設・運転した際のkWh当たりのコストを、一定の計算式に基づき、2020年時点と、2030年時点で機械的に試算したもの。今後、燃料費の見通し、設備の稼働年数・利用率、再エネの導入量の他、実際の発電設備建設に際し立地点ごとに異なる条件を勘案する必要など、不確定要素が関わることから、あくまで参考モデルとして評価・分析している。それによると、原子力(設備利用率70%、稼働年数40年)は11.7円/kWh~で、LNG火力の10.7~14.3円/kWh、太陽光(事業用)の8.2~14.9円/kWhなどと比して遜色ない水準が示されている。今回、新たな発電コスト試算に際し、有識者の立場から日本エネルギー経済研究所特別主幹研究員の松尾雄司氏が発表。同氏は、「基本的な考え方は前回から大きく変えることはない」との前提に立ち、LCOE(均等化発電原価)手法による評価結果を紹介した。OECD/NEA、IEAなどの試算も参考としたLCOE手法では、各電源の稼働年数・設備利用率を通常運転で可能な最大値を想定。原子力については、それぞれ60年、85%と設定し評価した。その結果、事業用太陽光11.2円/kWh、陸上風力14.7円/kWh、原子力11.7円/kWh、LNG火力10.7円/kWh、石炭火力13.6円/kWhとのベースラインを示した上で、電気自動車やヒートポンプの普及など、今後の電力システムの柔軟性向上に応じ変化する可能性を図示。まとめとして、LCOE手法以外の有用な指標も有効活用し、電源ごとの経済性の変化や、各指標の比較などを行い、「将来のエネルギーシステムの中での各電源の特性や役割を把握し正しく国民に伝える努力が求められる」と指摘し、今後の議論に先鞭をつけた。委員からは、新たなエネルギー源として注目される水素・アンモニアに係るコスト検証を求める意見も出された。資源エネルギー庁は、発電技術そのものの評価に適した「モデルプラント方式」による試算を提案。また、中東情勢の緊迫化に伴う不確実性の高まり、GX推進など、現行のエネルギー基本計画策定以降の動きが発電コストに与える影響を考慮する必要性も示した。基本政策分科会は、概ね隔週の頻度で開催されており、エネルギー価格に対する関心が高まる昨今、WGでの検討状況がエネルギー基本計画見直しの議論に反映されていくこととなりそうだ。
- 23 Jul 2024
- NEWS
-
経済同友会 エネ基改定に向け消費地の理解に言及
エネルギー基本計画改定に向けた議論が本格化する中、経済同友会代表幹事の新浪剛史氏は、7月16日の記者会見で、9日に開かれた新潟経済同友会「30周年記念行事」への出席などに触れながら、エネルギー政策に対する考え方について発言。その中で、同氏はまず、「今後策定される第7次エネルギー基本計画については、第6次エネルギー基本計画の振り返りをきちんとして欲しい」と強調。現行計画における蓋然性、予見性、具体性の乏しさを厳しく指摘した上で、「エネルギーの問題解決なくして日本の将来は明るくない」と述べ、年末に向け、総合資源エネルギー調査会における有意義な議論を期待した。同調査会基本政策分科会では5月より、エネルギー基本計画改定に向けた検討を開始しており、7月23日には5回目の会合が行われる予定だ。同友会では2023年12月、カーボンニュートラル実現や将来のエネルギー需要の観点から、これまでの「縮・原発」の方針から、新たな考え方「活・原発」を提唱。今回の会見で、新浪氏は、現在、地元の判断が大詰めとなっている柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に関し、「新潟県内では『安心』はしていないことが実態」と述べるとともに、元旦に発生した能登半島地震にも鑑みた原子力防災における防護措置の課題も憂慮した。一方で、首都圏への電力供給の貢献に関し、大正時代に新潟県内の水力発電が山手線の走行を支えてきた実績を紹介。電力消費地の理解に向けて、同氏は「正に新潟県は首都圏の電気のふるさとだ。地元ではなく、首都圏で使う電気であることをしっかり理解した上で、今、どのような議論がされているのか、恩恵を受ける首都圏は、新潟県に対しありがたいと思っているのか、という点が重要なポイントだ」と、強調した。柏崎刈羽原子力発電所に関しては、7月15日より、国の取組に関する「県民説明会」が長岡市を皮切りに開始しており、今後、8月上旬にかけて、県内7か所で開催される予定だ〈既報〉。
- 19 Jul 2024
- NEWS
-
総合エネ調基本政策分科会 脱炭素電源について議論
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京日動火災保険相談役)は7月8日、脱炭素電源の現状と課題について議論した。〈配布資料は こちら〉5月よりエネルギー基本計画の見直しを開始した同分科会だが、冒頭、資源エネルギー庁の村瀬佳史長官は、今回、供給面の議論に入るのに際し、「巨額の投資、一定のリードタイムを要することから、予見性確保や時間軸を踏まえた対応が必要」と強調。技術面の課題にも言及し、有意義な議論を期待した。各電源の現状と課題に関する整理の中で、資源エネルギー庁は、原子力の脱炭素電源としての特長について、ライフサイクルCO2排出量を数値比較。電源別に、石炭火力943g-CO2/kWh、石油火力738g-CO2/kWh、LNG火力474g-CO2/kWh、太陽光38g-CO2/kWh、陸上風力26g-CO2/kWh、原子力19g-CO2/kWh、地熱13g-CO2/kWh、水力11g-CO2/kWhとなっており、「水力・地熱に次いで低い水準」と説明した。また、電力需要増の要因となるデータセンターについては、前々回の会合で、その拡大に応じた電力設備の建設リードタイムも議論となっているが、IT分野における脱炭素電源活用の海外事例として、米国企業による原子力発電所直結のデータセンター整備などが紹介された。これを受け、立地地域の立場から、杉本達治委員(福井県知事)は、原子力政策の明確化をあらためて強調。次期エネルギー基本計画策定に向け、2040年以降、発電設備容量が激減する見通しから、「開発・建設をどのように具体化していくのか」と、必要量・時間軸の明確化とともに、再処理工場の竣工時期、高経年化、人材育成など、課題を列挙し、国の責任ある対応を求めた。澤田純委員(NTT会長)は、「福島第一原子力発電所事故を忘れるべきではない」と、原子力の安全確保の重要性をあらためて強調。インフラのレジリエンスをめぐっては、昨今、集中豪雨も頻発しており、住宅密集地では大規模水害対策に備える自治体も多いようだ。同氏は、江戸川区の「水害ハザードマップ」を例示し、原子力防災に関して「天候などの状況にも応じた避難対策を準備しておくべき」などと、複合災害に備えておく必要性を訴えた。また、革新技術開発の一例として、政府主導による高温ガス炉建設を通じた投資の予見可能性向上にも言及。発生熱によるクリーン水素製造、近隣データセンターへのオンサイト直流送電などを実施することを提案した。消費者の立場からは、河野康子委員(日本消費者協会理事)が、「これまで各電源の長所・短所が細切れで情報提供がなされてきた」などと指摘。国民自らがエネルギーについて考えるよう、的確なデータ開示の必要性を主張した。再生可能エネルギーに関しては、設置に伴う環境影響や地域理解、地産地消に係る意見も多く出された。この他、新たなエネルギー源として期待される水素・アンモニアの市場形成・投資判断促進に向けた国の関与、ガス火力発電とCO2回収・有効利用・貯留(CCUS)の組合せを通じたASEANとの連携、蓄電池の再利用などについても言及があった。
- 08 Jul 2024
- NEWS
-
総合エネ調原子力小委 核燃料サイクルをテーマ
総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=黒﨑健・京都大学複合原子力科学研究所所長・教授)が6月25日、4か月ぶりに開かれ、核燃料サイクルの確立に向けた取組を中心に議論した。〈配布資料は こちら〉黒﨑委員長は、今回、前任・山口彰氏を引き継ぎ、初の議事進行に臨んだ。冒頭、原子力・エネルギー政策立案をリードする責務を認識した上で、「是非前向きな議論を」と述べた。続いて、議論に先立ち、資源エネルギー庁が原子力に関する国内外動向、課題・論点を整理。同調査会の基本政策分科会では、5月にエネルギー基本計画改定に向けた検討が開始されているが、久米孝・電力・ガス事業部長は、2021年の現行基本計画策定以降、ロシアによるウクライナ侵略など、エネルギーをめぐる地政学的リスクの高まり、AIの社会実装に伴う急速な電力需要増を見据え、「脱炭素電源の安定供給をいかに確保するか」と、極めて困難な局面にある現状を強調。その中で、「原子力を活用していく上での課題」については、原子力小委員会において着実に議論していく姿勢を示した。委員からは、次期エネルギー基本計画策定に係る発言も多く、基本政策分科会の委員も兼ねる遠藤典子委員(早稲田大学研究院教授)は、最近の通信関連企業からのヒアリングに言及。データセンターの増加に伴う電力需要増に対し、「供給力をどう確保するか」を政策的課題としてあげた上で、原子力発電の建設リードタイムも見据え、今後の新増設に民間企業が投資できる制度設計を検討していく必要性を指摘した。同じく、村上千里委員(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会)は、原子力発電所の建設コスト上昇を、最近の欧米における状況から懸念した上で、「新増設の賛否にかかわらず納得できるコスト検証を行って欲しい」と要望。さらに、消費者の立場から、再稼働に伴う電気料金への影響、バックエンドコストに関し使用済み燃料の直接処分にも言及した。核燃料サイクル政策について、資源エネルギー庁は、「高レベル放射性廃棄物の減容化」、「有害度低減」、「資源の有効利用」などの観点から、今後も原子力発電を安定的に利用する上で、関係自治体や国際社会の理解を得ながら、「引き続き推進することが重要」とあらためて明示。立地地域の立場から、杉本達治委員(福井県知事)は、原子力政策の明確化、立地地域の振興、原子力防災の強化とともに、核燃料サイクルの確立について要望。その中核となる六ヶ所再処理工場のしゅん工に向けては、「国が責任をもって事業者の取組状況を管理するとともに、原子力規制委員会も遅滞なく効率的に審査を行う」など、政府全体での取組が図られることを求めた。技術的観点からは、竹下健二委員長代理(東京工業大学名誉教授)が発言。ウラン濃縮については、投資促進に関する日本・カナダ・フランス・英国・米国による共同宣言「札幌ファイブ」(2023年12月、産業界による共同声明は こちら)など、国際的な動きもみられる。同氏は、「ウラン濃縮は機微技術のため、国内で開発するしかない」との基本姿勢に立ち、濃縮能力の増強、経済性の向上に向け、日本原燃による遠心分離機開発に期待。さらに、将来的な資源の有効利用を見据え、回収ウラン利用に係る技術開発、高速炉MOX燃料の再処理にも言及した。専門委員として出席した日本原子力産業協会の新井史朗特任フェローは、「既設炉の最大限の活用」、「新増設・リプレースを含めた必要容量・時間軸の明記」、「事業者が適切な時期に新規建設の投資判断ができる事業環境整備」、「革新軽水炉に関する規制基準の検討」、「原子力の価値を広く知ってもらう国民理解の促進」の5点を、次期エネルギー基本計画に向け要望した。
- 25 Jun 2024
- NEWS
-
三村会長が「エネ基への新設明記」を 新理事長に増井氏
日本原子力産業協会は6月18日、定時社員総会を日本工業倶楽部(東京・千代田区)で開催し、2023年度決算および事業計画、2024年度の事業計画・予算案がそれぞれ承認、報告された。また、理事8名の改選を承認。総会終了後の理事会で、東原敏昭氏(日立製作所会長)が副会長に、増井秀企氏(東京電力原子力・立地本部副本部長)が理事長に就任することが決定された。総会の冒頭、三村明夫会長は、「原子力は優れた安定供給性と経済効率性を有しており、運転コストが低廉・安定な準国産の脱炭素電源であることから、長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する、重要なベースロード電源」と強調。現在、検討が進められている次期エネルギー基本計画策定に向けては、「原子力の持続的かつ最大限の活用、ならびに早期の新規建設開始を明記するべき」とした。その上で、「産業界の声」として、既設炉の最大限の活用原子力サプライチェーンの維持・強化新規建設の投資判断を可能とするための事業環境整備国民理解の促進――の4点をあげ、既設炉の活用に関しては、再稼働の他、長期サイクル運転の導入、運転中保全の導入拡大、既設炉の出力向上など、設備利用率の向上に言及。新規建設に向けては、電力の事業予見可能性の著しい低下を懸念し、「投資回収面および資金調達面での課題に対処し、約20年にも及ぶ建設リードタイムを踏まえた適切な時期に事業者が投資判断できる事業環境整備が必要」と訴えた。核燃料サイクル事業をめぐっては現在、六ヶ所再処理工場の年内しゅん工が見込まれ、高レベル放射性廃棄物の地層処分地選定に向けた文献調査が佐賀県玄海町で開始されている。三村会長は、日本原燃の再処理工場・MOX燃料工場について「サイクルの要」との認識をあらためて述べ、しゅん工への取組を着実に進め、バックエンドに関しても「国・原子力発電環境整備機構(NUMO)と密接に連携していく」と、原子力産業界として着実に支えていく姿勢を示した。〈挨拶文は こちら〉来賓として訪れた齋藤健経済産業相は挨拶の中で、日本のエネルギー情勢をめぐり、化石燃料の輸入に伴う国富流出など、昨今の状況から、「戦後最大の難所を迎えている」との危機感を示した上で、エネルギー安定供給とGXの両立を実現するため、「原子力の活用が不可欠」と強調。一方で、「福島第一原子力発電所事故の反省を一時も忘れることなく、高い緊張感を持って安全最優先で万全を期すこと」をあらためて述べた上で、原子力産業界との連携に関し、サプライチェーンの維持・強化、人材育成、国際競争力の強化、事業環境整備などの課題を列挙。5月に開始した次期エネルギー基本計画策定の関連では、将来的な電力需要の増大、それに伴う大規模な脱炭素電源投資の必要性に鑑み、今後、「政府のみならず、電力・産業、金融など、官民の様々なプレイヤーが危機感を共有し、それぞれの役割を果たしていくことが重要」と、訴えかけた。続いて、本田顕子・文部科学政務官が挨拶。研究開発・人づくりを担う立場から、日本原子力研究開発機構の「JRR-3」や「常陽」の活用とともに、現在、作業部会で検討が進められる「もんじゅ」跡地の試験研究炉設置にも期待を寄せ、産業界による理解・支援を求めた。新任の増井理事長は、19日に就任挨拶を発表。その中で「稼働する原子力発電プラントは12基と、現存する33基の約3分の1にとどまっている」と、原子力発電をめぐる現状を懸念。次期エネルギー基本計画の策定に向け、原産協会として、「IT需要や脱炭素化の進展で増加すると予想される電力需要に応えるため、既存プラントの再稼働はもとより、リプレースや新増設の必要性の明記、そしてそれらを実現するために必要な事業環境の整備について明示してもらうよう求めていきたい」と強調した。
- 19 Jun 2024
- NEWS
-
総合エネ調 国際情勢について有識者からヒア
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動火災保険相談役)は6月17日の会合で、エネルギーを巡る国際情勢について有識者からのヒアリングを行った。〈配布資料は こちら〉冒頭、齋藤健経済産業相は、「世界的に不確実性が高まる中で、いかにエネルギー安定供給と脱炭素化の両立を確保するか、コストの上昇にどのように対応するかが各国共通の課題。その状況を把握することは、わが国の対応を考えていく上で重要」と、今回のヒアリングを行う意義を強調。同分科会では、次期エネルギー基本計画策定に向けた検討を5月15日にキックオフ。以降、3回目となる会合に際し、齋藤経産相は、「野心を持ちつつ、着実かつ現実的なアプローチを追求していくためにも、今後、イノベーションを積極的に進めた上で、その進展状況を踏まえ、コスト面での検証を行いながら、あるべき政策の方向性を見出していく」と、さらに議論を深めていく姿勢を示した。ヒアリングでは、コスト面の課題について、中東情勢・化石燃料市場に詳しい日本エネルギー経済研究所専務理事の小山堅氏が、ウクライナ危機に伴い高騰したエネルギー価格が下降傾向にあると概観しながらも、原油価格は「歴史的観点で高水準」にあると指摘。過去のオイルショックを振り返り、中東・ウクライナ・東アジアを中心とする「地政学リスク」を筆頭に、「政策変更リスク」、「過少投資リスク」、「マーケットパワーリスク」、「需給構造変革リスク」、「自然災害・サイバーリスク」など、様々なリスクの存在をあげ、「国際エネルギー情勢にはまだまだ先行き不透明な要素がある」ことを強調。その上で、ウクライナ危機発生以降、中長期的な脱炭素化に向けた世界動向の一つとして、小山氏は、「原子力重視の潮流顕在化」をあげ、既存炉の有効活用、新規建設、新型炉の開発の他、米国で動きのある「廃炉が決定していたプラントの再稼働」にも言及した。脱炭素化に係る課題・不確実性に関しては、コスト抑制を「重要なカギ」と指摘。その他、「政策変更リスク」に関連し、11月に予定される米国大統領選挙も注目すべきとした。小山氏は、先進技術・イノベーションの役割、経済安全保障の重要性についても述べた上で、次期エネルギー基本計画に向けた論点として、新情勢を踏まえ、あらためて「S+3E」の同時達成を目指すこと総合的な観点でのコスト最小化・最適化の追求エネルギー戦略と成長戦略・産業政策の一体化・融合――などを提案。エネルギー安全保障政策を国家戦略ととらえ、GXを踏まえた政策策定を政府一体となって進める必要性を示唆した。同分科会会合のヒアリングでは、この他、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた課題に関連し、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インコーポレイテッド・ジャパン・シニアパートナーの堀井摩耶氏が、水素・アンモニア、CO2回収・貯留(CCUS)など、各技術の普及ペースとコスト低減の関係を整理した上で、投資加速化の重要性を主張。三菱UFJ銀行サステナブルビジネス部長の西山大輔氏は、同行が刊行する「MUFGトランジション白書」および欧米視察調査について紹介。ドイツにおける世論調査結果で、「原子力を許容」とする回答割合が、電力価格高騰を背景に、東日本大震災直後の24%から、2023年4月には59%に増加していることなどを示した。
- 18 Jun 2024
- NEWS
-
政府「新しい資本主義実現会議」 GX国家戦略策定へ
政府の「新しい資本主義実現会議」は6月7日、実行計画の2024年改訂版案を取りまとめた。6月下旬にも閣議決定となる運び。「新しい資本主義」の実現は、2021年10月に発足した岸田内閣が「成長と分配の好循環とコロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトに目指した経済政策。「新型コロナというピンチをチャンスに変え、希望のある未来を切り開いていく」ことを目指し、有識者らによる「新しい資本主義実現会議」を同月に始動。当初のメンバーとして、産業界からは、現在、日本原子力産業協会会長を務める三村明夫氏(当時、日本商工会議所会頭)も参画し、国内サプライチェーン企業を代表して意見を述べてきた。今回、2回目の改訂となる実行計画は、中小・小規模企業で働く労働者の賃上げ定着三位一体の労働市場改革の早期実行企業の参入・退出の円滑化を通じた産業の革新国内投資の推進GX・エネルギー・食料安全保障資産運用立国の推進 ――などが主な柱。GX・エネルギーについては、「安定的で強靭なエネルギー」の重要性を強調。「エネルギーの輸入によって海外に数十兆円が流出している現状は変えなければならない」とするとともに、「脱炭素化につながり、競争力強化に貢献するエネルギー構造に転換していくための国家戦略の策定・実行が不可欠」として、年度内を目途にエネルギー基本計画改定の議論を集中的に行うとした。その上で、同計画の裏打ちとして、前年に策定の「GX推進戦略」をさらに発展する内容として「GX国家戦略」を展開することを表明。「原子力の活用」については、安全性の確保を大前提に原子力規制委員会の審査・検査により規制基準の適合が確認され、地元の理解を得た原子炉の再稼働を進めるほか、高速炉・高温ガス炉・核融合など、次世代炉の開発・建設に取り組むとしている。
- 10 Jun 2024
- NEWS
-
総合エネ調 データセンター等による需要急増でヒア
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動火災保険相談役)は6月6日の会合で、将来的な電力需要に関し、通信・半導体・鉄鋼関係企業よりヒアリングを実施。電力インフラへの先行投資の重要性が浮き彫りとなった。〈配布資料は こちら〉同分科会は、5月15日に次期エネルギー基本計画策定に向けた検討をキックオフ。その中で、GX(グリーントランスフォーメーション)に向けた取組の進展や、AIの社会実装に伴うデータセンター拡大など、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展による電力需要増加の可能性が指摘された。今回の会合ではまず、資源エネルギー庁がデータセンター需要の予測について整理。IEAの予測によると、2024年1月時点で、世界に8,000以上あるデータセンターの33%が米国、16%がEU、10%が中国に立地し、2022年から2026年にかけて、その電力需要はいずれも1.3倍程度増加する。また、世界のデータセンター・AIなどの電力需要は、同じく4,600億kWhから8,000 億kWhまで急増する見通しだ。英国の電力系統企業による調査では、同国のデータセンターの電力消費量が、2050年に2020年のおよそ10倍にまで達する可能性もあるという。国内のデータセンターの電力消費量については、科学技術振興機構の調査から、2018年の140 億kWhが、省エネの進展度合いに応じ、2030年に60~900億kWhに、2050年に1,100億~12兆kWhに変動すると説明した。これを受け、ソフトバンク、キオクシア、NTT、JFEホールディングスよりヒアリング。ソフトバンクは、同社が北海道苫小牧市に2029年までに整備する総受電容量30万kW級の大型AIプロジェクトなどを紹介した上で、将来的な計算需要の伸びから、国内のデータセンターが必要とする発電設備容量は、2030年から2040年の10年間で約8倍の3,300万kW(現在の国内原子力発電総設備容量に相当)に急増すると試算。電力需給それぞれの建設リードタイムに関し、データセンターが3年なのに対し、発電所はLNG6年、風力・地熱8年、原子力17年と、大きな開きがあることを示し、「発電所や系統への先行投資が必要」と、指摘した。NTTは、光通信を利用した未来のネットワーク構想「IOWN」(Innovative Optical and Wireless Network)を紹介。超低消費電力実現の可能性を述べながらも、電力事業の将来的課題として、「電力量確保」、「価格コントロール」、「連系線確保」、「法制度見直し」をあげた。半導体製造のキオクシアは「基本的に24時間・365日のフル稼働」が必要な現状を述べ、鉄鋼業のJFEホールディングスは、脱炭素化に向けて取り組む倉敷製鉄所(岡山県・水島コンビナート)の「高効率・大型電気炉」導入計画を紹介。電力需要の大幅増を見通し、それぞれ、原子力発電に係る課題として、東日本で再稼働が進まないこと、中国電力島根2・3号機の早期再稼働・運転開始の必要性などを訴えた。委員からの意見では、AIを利用した省エネの進め方・定量化の検討、需給調整に加え災害対策も見据えた蓄電池の活用などに関する提案もあった。
- 07 Jun 2024
- NEWS
-
電事連 エネ基見直しに向け「重要な論点と期待事項」まとめる
電気事業連合会は5月27日、エネルギー基本計画の見直しに向けて、電気事業者として考える「重要な論点と期待事項」をまとめた解説資料を作成し発表した。現行のエネルギー基本計画は2021年に策定され、法令に定める3年後の見直し時期を間もなく迎えることから、5月15日に総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会で改定に向けて検討が始まっている。電事連の林欣吾会長(中部電力社長)は、17日の定例記者会見で、「エネルギー基本計画は、わが国のエネルギー政策の羅針盤となるものであり、国の経済と国民の暮らしを支える政策として、責任ある議論を丁寧に進めていく必要がある」との基本認識を示した上で、「重要な論点と期待事項」として、将来の不確実性を見据えたシナリオ設定安定供給とエネルギー安全保障の重要性の明確化再生可能エネルギーの推進原子力発電の活用の明確化火力発電の維持・確保、脱炭素化の推進電化の推進GX実現に向けた環境整備――を掲げた。27日に発表された解説資料は、その各項目に係る「背景と課題」、「今後求められる事項」を整理したもので、「将来の不確実性を見据えたシナリオ設定」に関しては、各電源の開発において各種調査・環境アセス、建設工事のリードタイムを考慮した上で、現実的な設備形成・電源構成につながるよう、将来の不確実性に備えた柔軟なシナリオ設定を求めている。原子力に関しては、「国民理解が途上にあり、エネルギー政策における位置づけが不十分」、「再稼働が十分に進んでいない」、「投資・コスト回収の予見性が不十分」との課題を指摘。「今後求められる事項」として、エネルギー安全保障に寄与する脱炭素電源として「最大限の活用」(再稼働や新増設・リプレース)の明確化投資・コスト回収促進につながる事業環境の整備やファイナンス支援等の制度措置の構築原子燃料サイクルを始めとするバックエンド事業における一定の国の関与適切な賠償を前提とした原子力損害賠償制度の見直し――をあげている。
- 27 May 2024
- NEWS
-
原産協会・新井理事長 エネ基見直しに向け提言
日本原子力産業協会の新井史朗理事長は5月24日、記者会見を行い、「第7次エネルギー基本計画の策定に向けて」と題した理事長メッセージを発表した。エネルギー基本計画の見直しに向けては、5月15日に総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会で検討が始まった。現行の同計画は、2021年に策定され、法令に定める3年後の見直し時期を間もなく迎える。関係筋によると、次期計画は年内にも原案がまとまり、年明け2月頃に閣議決定となる見通しだ。新井理事長はまず、「エネルギー政策は、わが国の経済と国民の暮らしの根幹であり、政府には丁寧な検討を期待する」との基本姿勢を強調。現行のエネルギー基本計画が策定された2021年以降を振り返り、「世界の地政学的情勢は大きく変化し、エネルギーの脱炭素化はもとより、エネルギー安全保障における原子力発電への期待は高まった」との認識を示した。また、海外に目を向け、英国での2050年までに最大2,400万kWの新規原子力発電所を稼働させる計画や、昨年末のCOP28(UAE・ドバイ)での日本を含む25か国による「世界の原子力発電設備容量を3倍に増加させる」宣言文への支持にも言及。国内においては、「GX実現に向けた基本方針」(2023年2月閣議決定)による原子力を最大限活用する方針の一方で、電力自由化の進展に伴う様々な課題が指摘されていることをあげた。原子力については、現行計画に記載の「依存度を可能な限り低減する」との表現を見直し、新増設・リプレースの必要性を明記するなど、「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(GX推進戦略、2023年7月閣議決定)を踏まえ、「原子力の最大限活用の方針」が反映されるよう求めた上で、既設炉の最大限活用原子力サプライチェーンの維持・強化適切な時期に投資判断を可能とするための事業環境整備国民理解(原子力の価値の共有)――について、前向きに検討されることを要望した。その中で、国内でデータセンターや半導体工場の新増設により、増加が見込まれる電力需要を考慮するとともに、安定的に発電できる動力源、つまりベースロード電源としての原子力への期待を踏まえ、原子力の必要容量と時間軸を明記するよう要請。経済成長や産業競争力強化にも貢献する「原子力の価値」を広く国民と共有することについても、丁寧な議論がなされるよう期待した。今後、総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会などを通じて、意見を表明していく考えだ。
- 24 May 2024
- NEWS
-
総合エネ調分科会 エネルギー基本計画の見直しに向け検討開始
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動保険相談役)が5月15日、新たな委員構成のもと、5か月ぶりに開かれ、エネルギー基本計画の見直しに向け議論を開始した。2021年10月に閣議決定された現行の「第6次エネルギー基本計画」は、今秋にも法令に定める再検討の時期を迎える。〈配布資料は こちら〉冒頭、挨拶に立った齋藤健経済産業相は、ロシアによるウクライナ侵略、中東情勢の緊迫化など、地政学リスクの高まりから、「世界はエネルギーの量・価格の両面でリスクに直面している」と、エネルギー安全保障に係る危機感をあらためて指摘。さらに、国内のエネルギー事情に関して、「化石燃料の輸入金額は2022年に34兆円にまで上昇しており、輸出で稼いだ国富をすべて失っている」と危惧。また、昨今、AIの社会実装やデータセンターが拡大する中、それに応じた電力の安定した供給が欠かせないとした上で、「脱炭素エネルギーへの転換は極めて困難な課題」、「今、日本はエネルギーにおける戦後最大の難局にある」と、強調した。先立つ13日には政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で、2040年頃の日本の産業構造も含めた国家戦略「GX2040ビジョン」を策定する方針が示され、今後、有識者によるパネル討論など、集中的な議論が見込まれている。齋藤経産相は、GX実行推進担当相の立場からも、同ビジョンの検討に資するべく、「将来のエネルギー政策のあるべき姿を議論して欲しい」と、活発な議論を期待。エネルギー基本計画は、地球温暖化対策計画など、関連する政策と合わせて年度内にも改定され、「GX2040ビジョン」に盛り込まれる見通しだ。同分科会の議論再開に際しては、資源エネルギー庁が、昨今のエネルギー安全保障を巡る内外の環境変化、脱炭素に向けた世界の動向、日本の現状と課題についてあらためて整理。委員からの意見を求めた。その中で、山口彰氏(原子力安全研究協会理事)を引き継ぎ、同調査会の原子力小委員会委員長を務めることとなった黒﨑健委員(京都大学複合原子力科学研究所教授)は、大量で良質な脱炭素電源を提供できる特性、世界の趨勢などから「原子力を使わない手はない」と、原子力の価値を強調。国内においては、再稼働の速やかな推進、設備利用率の向上とともに、2050年以降に向け新増設の必要性を示唆した上で、今後の課題として、長期にわたる事業環境の整備、国民の信頼醸成、技術基盤・人材確保を図っていくことを指摘した。産業界からは、澤田純委員(NTT会長)、橋本英二委員(日本製鉄会長兼CEO)が、それぞれ核融合研究、電力多消費型産業に係る立場から「原子力開発の方向性を明確に」、「脱炭素は地球規模のニーズで、日本経済復活の大きなチャンスだ」として、多様な技術開発や電力の総合的機能発揮の重要性を強調。今回から新たに参加する小堀秀毅委員(旭化成会長)は、現行のエネルギー基本計画の進捗状況を問うた上で、地方創生や災害対策の観点から「エネルギーの多様性・分散化」を主張。いずれも政策立案における予見可能性を重視すべきことが示唆された。この他、消費者団体からは、生活への影響や原子力のバックエンド対策に対する不安、若者からの声を求める必要性などに鑑み、かつて東日本大震災後のエネルギー政策見直し時に実施された「討論型世論調査」の再度実施を求める意見も出された。資源エネルギー庁では、今後の検討に資するべく「エネルギー政策に関する意見箱」を設置し、一般からの意見公募を開始している。
- 16 May 2024
- NEWS
-
政府「GX2040ビジョン」策定へ エネルギー基本計画見直しも明日始動
政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」が5月13日、5か月ぶりに開かれ、今後、経済社会の大変革と脱炭素の取組を一体的に検討し、2040年を見据えた国家戦略「GX2040ビジョン」を策定する方針が示された。同会議の議長を務める岸田文雄首相は、議論の再開を「GX2.0の検討を始める」ものと位置付けた上、「2050年カーボンニュートラルに至る最大の難所を、一歩一歩登っていく。そのために、官民で共有する脱炭素への現実的なルートを示す」と強調。その根幹となるエネルギー基本計画と地球温暖化対策計画を、年度内にも改定する考えをあらためて示した。〈配布資料は こちら〉「GX実行会議」は、「2050年カーボンニュートラル」の目標達成、エネルギー、全産業、経済社会の大変革を実行していくことを標榜し、2022年7月に始動。同年8月には、ウクライナ情勢に起因する石油・ガス市場のかく乱、福島第一原子力発電所事故後のエネルギー政策の遅滞など、エネルギーを巡る内外事情に鑑み「日本のエネルギーの安定供給の再構築」を掲げており、その中で、原子力発電所の再稼働加速も緊急対策として盛り込んでいる。5月13日の会合で、齋藤健経済産業相(GX実行推進担当)は、エネルギーの安定供給確保、経済成長、脱炭素の同時実現を目指し取り組んできたこれまでのGXに係る議論を整理。10年間で150兆円規模の官民GX投資、昨夏には、原子力発電所の運転期間延長を盛り込んだGX脱炭素電源法が成立するなど、所要の予算措置や法整備も進んだ。これを踏まえ、齋藤経産相は、「産業構造、産業立地、エネルギーを総合的に検討し、より長期的視点に立った『GX2040ビジョン』を示す」とした。具体的には、6月以降、「GX2040リーダーズパネル」(仮称)を始動し、有識者からの見解を聴取する。また、これと並行して行うエネルギー基本計画の見直しに向けては、14日の閣議後記者会見で、15日より総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会で議論を開始することを表明。「『S+3E』のバランスを取りながら、わが国の目指す将来のエネルギーの方向性について、重厚な議論をしていきたい」と、強調した。
- 14 May 2024
- NEWS
-
経団連 産業基盤強化に向け原子力の最大限活用を強調
日本経済団体連合会は4月16日、「日本産業の再飛躍へ ~長期戦略にもとづく産業基盤強化を求める~」とする提言を発表した。提言は冒頭、日本のGDP世界比率に占めるシェア低下、少子高齢化・人口減少などの社会的課題が山積みしていることや、エネルギー資源や食料の海外依存度が高まり対外収支を圧迫している現状を懸念し、「人手不足やエネルギー問題など、先送りできない課題の解決によって、足元の基盤固めを行い、未来志向の挑戦によって積極的な投資を促すことが必要」と強調。今後、産業基盤の強化に向けて、取り組むべき課題と施策を整理した。現在、政府では「新しい資本主義実現会議」などの会議体を通じ、日本産業の目指すべき方向性が議論されているところだが、今回の提言では、エネルギー基本計画も含め、「各分野の短中期的な戦略や計画は策定されているものの、わが国産業全体を見据えた長期的かつ統合的な産業戦略が確立されていない」と指摘。次世代を担う若い人材も含めた産学官による集中的議論を通じ、2040年頃をターゲットとした「産業戦略2040」の策定を求めている。産業基盤強化に向けて、具体的施策を、国内投資促進/法制度・規制デジタルエネルギー国土・地域自由で開かれた国際経済秩序スタートアップ新興/産業の新陳代謝サプライチェーン知的資本人的資本金融資本――の各項目に整理した上で、「世界市場を牽引しているのはデジタル技術」、「デジタル化は電力を消費する」との現状を踏まえ、「S+3Eを満たすエネルギーの供給体制、特に原子力の最大限の活用が不可欠」と強調。国際エネルギー機関(IEA)が1月に公表したレポートから「データセンターの消費電力が2026年までに倍増」との推計値を示し、カーボンニュートラルの観点にも留意し、安価で安定的な電力供給の重要性をあらためて述べている。その上で、民間企業が国内投資を行う際の予見性・限界を懸念し、政府に対して「2030年・40年・50年といった長期的スパンでの見通しを具体的に示すべき」と要望。間もなく検討が本格化する次期エネルギー基本計画については、「半導体・デジタルを始め、各種産業政策との整合性をとった形で策定すべき」としている。原子力発電に関しては、国民・地域による理解醸成、早期再稼働、核燃料サイクルの確立を始め、リプレース・新増設を推進することを強く求めたほか、高速炉・高温ガス炉・核融合など、次世代革新炉の開発・実装についても「官民で大胆に開発資金を投入し、スケジュールを前倒しするなど、抜本的な支援強化が重要」と指摘している。
- 17 Apr 2024
- NEWS
-
新年度内にエネ基改定へ 首相表明
岸田文雄首相は3月28日、「2024年度中を目途とするエネルギー基本計画改定に向けて、議論を集中的に行う」ことを表明した。現行の第6次エネルギー基本計画は2021年10月に閣議決定。エネルギー政策基本法に基づく3年ごとの見直し時期を間もなく迎え、今後、総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会を中心に議論が本格化しそうだ。岸田首相は同日、2024年度予算の国会成立を受け、記者会見を行い、まず、震災対応の取組を被災地のニーズに沿いながら進めていくことを述べた上で、デフレ経済からの脱却に向けた「最大のカギ」として、賃上げ、人手不足対策など、中小企業の支援方針を示した。それに伴い、「中小企業を含め、日本の稼ぐ力を復活させる上で今後重要なのは、低廉で強靭なエネルギー」との認識を示すとともに、「エネルギーの輸入によって海外に数十兆円が流出している現状は変えなければならない」と、経済安全保障の観点からもエネルギー政策の重要性をあらためて強調。「脱炭素につながり、国内で稼ぐ力を強くするエネルギー構造に転換していくため、国家戦略の実行が不可避」として、エネルギー基本計画改定に着手する考えを述べた。第6次エネルギー基本計画は、2050年カーボンニュートラル、「2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減」の実現に向け、エネルギー政策の道筋を示すことが重要テーマとなった。2030年度のエネルギーミックスについては、総発電電力量に占める電源別シェアが、石油2%、石炭19%、LNG20%、原子力20~22%、再生可能エネルギー36~38%、水素・アンモニア1%となっている。同計画の策定以降、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻に伴い、エネルギー供給保障が世界的に大きな課題となる中、脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長の3つを同時に実現すべく、2023年2月に「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」が閣議決定され、関連法が成立。7月には政策を具体化する「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(GX推進戦略)が閣議決定。岸田首相は、会見の中で、「GX推進戦略」をさらに発展させ、次期エネルギー基本計画の裏打ちとなる「GX国家戦略」を策定することも表明した。現在、電力政策関連では、総合資源エネルギー調査会において、電力システム改革の検証、元旦に発生した能登半島地震を踏まえた対応など、また、電力広域的運営推進機関(OCCTO)においては、将来の電力需給シナリオに関する検討が行われており、これらの検討結果が次期エネルギー基本計画の議論に資することとなりそうだ。
- 01 Apr 2024
- NEWS
-
エネ基改定に向け有識者らが「エネルギードミナンス」を発表
第6次エネルギー基本計画の策定(2021年10月閣議決定)から間もなく2年半となり、法令に定める見直しの時期を迎えつつある中、原子力委員会前委員長の岡芳明氏を含む9名の有識者らが「第7次エネルギー基本計画」の検討に向けて、2月24日に報告書「エネルギードミナンス」を発表した。これまでも政府審議会などで意見を述べてきたキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏が全体を取りまとめている。同報告書では、「強く豊かな日本を造るために、豊富、安価、安定なエネルギーを供給し、エネルギーに関する優勢(ドミナンス)を築く」という概念から、「電気料金は東日本大震災前の水準を数値目標とする」など、計11項目の提言を発表。エネルギー需給に関しては、「原子力を最大限活用する(全電源に占める比率50%を長期的目標)」、「化石燃料の安定利用をCO2規制で阻害しない」こと、さらに、再生可能エネルギーの導入や省エネに係るコスト低減や規制制度とともに、EV推進に伴う日本の自動車産業振興への影響にも留意。国際公約の関連では、「パリ協定を代替するエネルギードミナンス協定を構築する」ことにも言及している。現行のエネルギー政策については、「極端なCO2排出削減目標に束縛され、かつイデオロギー的に技術選択が太陽光・風力・電気自動車などに偏狭に縛られているがゆえに、コストが高く、持続不可能に陥っている」と指摘。その中で、太陽光発電に関しては、天候に左右されるデメリットを「間欠的」と懸念したほか、昨今の自然災害多発に鑑み「破損しても発電し続ける特徴から、感電による二次災害が発生する恐れがある」と危惧し、大量導入を停止する必要性を述べている。原子力については、「発電量当たりの人命リスクが最も低く安全な電源」と評価した上で、安価で安定な電力の安定供給に向けて、早期の再稼働、運転期間延長、更新投資、新増設が不可欠と強調。その一方で、安全規制と防災に関し「リスク・ベネフィット」の考え方がないバランス感の欠如から、「リスクゼロ」を追い求める姿勢を危惧。さらに、「原子力を利用しないことによるエネルギー安全保障上のリスク、経済上の不利益も大きい」ことを指摘し、今後のエネルギー基本計画改定の中で、さらに議論を深めていく必要性を示唆している。福島第一原子力発電所事故から間もなく13年。報告書では、昨今の原子力発電を巡る状況に関して、BWRプラント停止の長期化、電気料金高騰による国民生活への悪影響などを踏まえ、「個別の審査だけではなく、中長期的な課題を含め検討すべき時期にある」とも述べている。
- 05 Mar 2024
- NEWS
-
COP28 復活する原子力
Transitioning away from fossil fuels in energy systems, in a just, orderly and equitable manner, accelerating action in this critical decade, so as to achieve net zero by 2050 in keeping with the science.(正義、秩序、公平な方法でエネルギーシステムにおける化石燃料からの移行を進め、科学に沿って2050年までにネットゼロを達成するために、この重要な10年間の行動を加速する。)第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)は、『最初の地球規模の見直しに関する成果』と題した合意文書を発表、予定より23時間遅れて13日に閉会した。産油国であるアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催され、議長がスルタン・アル・ジャベールUAE産業・先端技術相であったことから、当初、この会議に関してはかなり懐疑的な見方が強かったと言える。『不都合な真実』でノーベル平和賞を受賞した米国のアルバート・ゴア元副大統領は、UAEが議長国であることを「馬鹿げている」と批判していた。アル・ジャベール氏は形の上でUAEの大臣ではあるものの、本業は国営アブダビ石油会社のCEOであり、化石燃料を守る立場と見られても止むを得ないだろう。しかしながら、この合意文書が発表されると、13日付けフィナンシャルタイムズ(電子版)が“Countries reach ‘historic’ COP28 deal to transition from fossil fuels(参加国は化石燃料からの移行に関しCOP28で「歴史的な」合意を達成)”と評価を一変させている。当初、合意案には化石燃料からの“phaseout(脱却)”が盛り込まれていた。これにはサウジアラビアなど化石燃料の産出国が異議を唱えて“phaseout”の表現が消えた段階で、COP28の成果にはかなりの懸念が生じたことは間違いない。もっとも、最終合意案には“transition away(移行を進める)”との表現が盛り込まれ、COPの歴史で初めて化石燃料へ明確な言及がなされたのだった。12月14日付けの日本経済新聞が「化石燃料『廃止』消える 中東反対、妥協の色濃く COP28成果文書 実効性は見通せず」と批判していた通り、今回のCOPの結果が全面的に支持されているわけではないだろう。しかしながら、脱化石燃料へ向けた方向性を示したことで、「歴史的」との表現は間違っていないのではないか。会議をまとめたアル・ジャベール産業・先端技術相への評価も一変した。COP29はアゼルバイジャンの首都バクーで開催されることが決まっている。同国は旧ソ連を構成するが、ナゴルノ・カラバフの領有を巡りアルメニアを支援するロシアとは一線を画してきた。実はカスピ海沿岸の油田による石油収入で経済を支えて来た産油国でもある。第2のスルタン・アル・ジャベールが登場するか、注目されるところだろう。 対立が解けない先進国 vs 新興国・途上国2015年にパリで開催されたCOP21では、京都議定書の後継として『パリ協定』が採択された。気候変動枠組条約に加盟した196か国全てが参加したこの条約は、産業革命前からの世界の気温上昇幅を2℃未満に抑え、1.5℃未満を目指すことをミッションとしている。さらに、2021年におけるグラスゴー(英国)でのCOP26において、パリ協定から一歩踏み込んで「産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑える努力を追求する」ことが決まった。その実現には、温室効果ガス排出量を2030年までに2010年と比べて45%減らし、2050年には実質ゼロ、即ちカーボンニュートラルの達成が必要とされている。世界の先陣を切った英国の産業革命の時期は、一般に1760年代から1830年代と定義されているだろう。英国のハドレー気候予測研究センターによれば、1961~1990年までの30年間を基準とした場合、信頼できるデータのある1850~99年までの平均はそれを0.36℃下回っていた(図表1)。一方、2004~2023年までの30年間だと、基準値を0.71℃上回っている。 つまり、既に産業革命期から1.07℃の上昇となったわけだ。世界的に高温となった今年の場合、現時点での推計値で19世紀後半の平均を1.36℃上回っており、1.5℃は目前に迫っている。世界的に大規模な天災が頻発し、かなり危機感の強い状況でCOP28が開催されたことは間違いない。ちなみに、COPにおける温暖化抑止のベースとなる科学的検証を提供しているのが、気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)だ。ジュネーブに事務局を置くIPCCは、1988年に、国連環境機関(UNEP)と世界気象機関(WMO)により専門家集団として設立された。昨年5月に公表された『第6次評価報告書第1作業部会報告書』(以下、「第1作業部会報告書」)では、「1750年頃以降に観測された温室効果ガス(GHG)の濃度増加は、人間活動によって引き起こされたことに疑う余地がない」とした上で、「1850~1900年から2010~2019年までの人為的な世界平均気温上昇は 0.8~1.3℃の可能性が高く、最良推定値は 1.07℃である」と結論している。少なくとも1850年以降の170年間、急速に増加した温室効果ガス排出量に連動して、世界の気温は上昇した(図表2)。温室効果ガス排出量の削減に関しては、米国のドナルド・トランプ前大統領やブラジルのジャイール・ボルソナロ前大統領など例外的な政治家を除けば、既に世界のコンセンサスと言えるだろう。問題は誰が温室効果ガスを削減し、誰がそのコストを負担するかである。直近20年間を見ると、世界の温室効果ガスの排出量の増加率は年1.4%であり、なかでも中国は同4.8%、インドも同3.3%に達した(図表3)。一方、日本は▲0.8%、米国▲0.7%、ドイツ▲1.5%、ドイツを除くEUは▲1.2%だ。新興国の排出量が急速に伸びているのに対し、先進国は軒並み抑制を実現してきた。結果として、2021年における世界の排出量では、中国が28.0%を占め、新興国・途上国全体で68.5%と3分の2を超えている(図表4)。2001年3月28日、米国のジョージ・ブッシュ大統領(当時)は、京都議定書から離脱する意向を表明した。地球温暖化と温室効果ガスの因果関係を認めつつも、1)温室効果ガスの排出削減が米国経済の成長力を阻害すること、2)排出量の大きな中国など途上国に削減目標が設けられなかったこと──の2点が理由だ。また、パリ協定についても、2017年6月1日、米国のドナルド・トランプ大統領(当時)が離脱を表明した。同前大統領は地球温暖化そのものに懐疑的だったが、やはり中国が排出量を急速に増加させるなかで、米国の産業が不利益を被りかねない状況を指摘したのである。もっとも、米国はジョー・バイデン大統領が就任して直後の2021年2月19日、正式にパリ協定へ復帰した。一方、1970年時点での排出量のシェアを振り返ると、中国6.5%、インド3.4%に対し、米国19.7%、ドイツ4.4%、日本3.2%とかなり足下とは異なる。従って、産業革命以降、温室効果ガスを大量に排出して豊かになった先進国が、資金と技術を供与すべきと新興国・途上国は主張している。この点が、先進国と新興国・途上国の大きな対立点となり、COPの議論は集約が難しくなった。昨年のCOP27でもこの対立が最大の論点であり、干ばつや洪水など気候変動による「損失と被害」に対し、最終段階で辛うじて合意が成立、新興国・途上国が求めていた基金の創設が決まった。新基金に関する合意の部分には「この資金面での措置(基金を含む)の運用化に関して、COP28に向けて勧告を作成するため、移行委員会を設置する」と書かれている。議論が集約したとは言えないものの、12月1、2日のCOP28首脳級会合では、加盟国から総額約4億ドルの資金拠出の申し出があった。もっとも、それは途上国を納得させ、温室効果ガスの排出抑制を達成するのに十分な規模とは到底言えないだろう。また、今回の首脳級会合には、世界最大の排出国である中国の習近平国家主席は姿を見せず、パレスチナ問題を理由に米国のバイデン大統領も出席していない。そうしたなか、岸田文雄首相は、1日、首脳級会合で短い演説を行い、「排出削減対策の講じられていない新規の国内石炭火力発電所の建設を終了していく」と明言した。それでも、脱石炭の年限を明らかにしなかったことに加え、「アジアゼロエミッション共同体(AZEC)の枠組みの下で各国との協働を進め」、石炭火力発電所について「各国の事情に応じたそれぞれのネットゼロへの道筋の中で取り組まれるべき」と述べたことで、世界のNGOが参加する『気候行動ネットワーク』より恒例の「化石賞」を受賞している。同じく石炭・褐炭を依然として活用しているドイツが高く評価されているのに対し、日本への酷評が続くのは、情報発信力の問題が大きいだろう。 再確認された原子力の役割今回のCOP28において、温暖化対策の主役の1つとして改めて脚光を浴びつつあるのは原子力ではないか。12月2日、ドバイにおいて、“Declaration Recognizes the Key Role of Nuclear Energy in Keeping Within Reach the Goal of Limiting Temperature Rise to 1.5 Degrees Celsius(気温を1.5度上昇に止める目標へ到達するための原子力の重要な役割を認識する宣言)”が22の有志国により採択された。米国が発案したこの宣言に参加したのは、日本、フランス、韓国、オランダ、英国などだ。2050年までに原子力発電の設備容量を2020年比で3倍とすることに加え、小型モジュール炉(SMR)の開発加速や原子力を活用した水素の製造などが盛り込まれた。2011年3月の福島第一原子力発電所の事故以降、国際的に厳しい見方が拡大していたが、温室効果ガス排出抑止と経済成長の両立に向けた現実的な解決策として、原子力が見直されつつあると言えるだろう。日本を含む多くの国が2021年秋に英国のグラスゴーで開催されたCOP26において、2050年までのカーボンニュートラルを宣言した。世界な異常気象により大規模災害が頻発したことに加え、この年の1月20日、米国で温暖化問題を重視するジョー・バイデン大統領が就任したことも大きかったと言える。カーボンニュートラルを実現する現実的な方法としては、EVに象徴されるように末端のエネルギー供給を電力とした上で、発電時に化石燃料を使わず、化石燃料の利用が止むを得ない場合は森林(植林)やCCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・地中貯留)により吸収することが主流になると見られる。また、水素の活用、即ち燃料電池として発電するか、直接、もしくはアンモニアを生成して燃やして発電するか、これも中長期的な課題に他ならない。カーボンフリーの発電方法として、再生可能エネルギーが主役であることは万人の認めるところだろう。2022年までの20年間で見ると、世界の総発電量は年率3.0%のペースで増加した(図表5)。太陽光、風力、バイオマス、その他の再生可能エネルギーは年率14.8%で伸びており、総発電量に占めるシェアは2002年の1.7%が2022年には14.7%になっている。この間、太陽光は年率39.4%、風量も同20.4%の高い成長率を記録した(図表6)。一方、当該20年間では、原子力による発電量は横ばいになっている。2011年3月の東日本大震災を原因とする福島第一原子力発電所の事故は、日本国内だけでなく、世界の原子力に大きな影響を与えてしまった。安全性を向上させるためのコストが急増、米国では原子炉の建設計画が相次いで白紙になった。今年4月にはドイツが原子力発電から脱却したが、これは福島第一の事故直後の2011年6月8日、アンゲラ・メルケル首相(当時)が稼働していた原子炉17基の段階的廃炉を決めたことが背景だ。結果として、脱化石燃料を実現する上で原子力は主役の座を降り、再エネの拡大が国際社会の大きな課題とされた。もっとも、2022年の段階で、世界の総発電量の35.7%を石炭火力、22.1%をガス火力が担っている(図表7)。そうしたなか、EVの普及、そしてIT化を強化する上でのデータセンターなどへのニーズを考えれば、省エネ化が進むとしても、世界の電力需要は趨勢的に伸びる可能性が強まった。一方で脱化石燃料化を進め、同時に電力需要の拡大への対応を迫られるなか、再生可能エネルギーだけでは限界があることは明らかだろう。また、化石燃料のなかでは最も温室効果ガス排出量が少ない天然ガスは、カーボンニュートラルへ向けた重要なカードの1枚だったと言える。しかしながら、最大の供給国であるロシアが2022年2月にウクライナへ侵攻、西側諸国にとり調達のハードルは確実に上がった。バルト海の海底に敷設したパイプライン、『ノルドストリーム』、『ノルドストリーム2』を活用したロシア産天然ガスの調達を脱原子力、脱石炭の代替と想定してきたドイツにとり、ウクライナ戦争は極めて大きな誤算ではないか。ドイツの電気料金は高騰し、家計、企業の重い負担となっている。COP28が開催されているドバイにおいて、2日、22か国が原子力の役割を再認識する宣言を採択したのは、再エネと共に原子力の活用を拡大しない限り、カーボンニュートラルと電力供給の拡大の両方のニーズを満たすことが困難との現実的な認識があるだろう。 背景にある先行する中国への危機感世界最初の発電用原子炉が稼働したのは、1954年6月27日、旧ソ連のオブニンスク発電所だった。国際原子力機関(IAEA)によれば、それ以降、632基が運転を開始し、現在は412基が稼働している(図表8)。稼働時期別に見ると、1984、85年の33基がこれまでのピークだった。1960年代に先進国が高度経済成長期を迎えてエネルギー消費量が急拡大したことに加え、1973~75年の第1次石油危機が各国に原子力の平和利用を迫ったのだ。しかしながら、1986年4月26日に旧ソ連でチェルノブイリ(チョルノービリ)原子力発電所の事故が起こり、1990年代に入って原油、天然ガスなど化石燃料価格が低位安定化したことから、発電用原子炉の建設ラッシュも一段落した。このところ、原子炉の稼働がやや増える傾向にあるのは、中国が牽引しているからだ。同国では、2015年以降に商業運転を開始した炉が33基に達した。この間、世界で稼働した発電用原子炉は56基なので、その58.9%を中国が占めていることになる。人口が14億人を超える中国では、経済成長に伴い電力需要が急増している上、温室効果ガスの排出量削減が喫緊の課題として浮上した。中国広核集団(CGN)と中国核工業集団(CNNC)が共同で第3世代の加圧水型原子炉(PWR)『華龍一号』を開発、これまで3基が商業運転を開始している。国家的な原子力シフトへの努力により、2022年の原子力による発電量は3,954億kWhに達し、発電量ベースではフランスを追い越し、米国に次ぐ世界第2位の原子力大国となった。もっとも、総発電量に占める原子力の比率はまだ5.0%に過ぎない(図表9)。習近平政権は、さらに原子力に注力し、これまでの発電の主流であった石炭火力のウェートを低下させる方針を示している。現在、世界で建設中の発電用原子炉は58基だが、うち20基が中国だ(図表10)。中国は国内での実績をテコに外国への売り込みも強化、既にパキスタンのカラチ原子力発電所で2基が運転している他、アルゼンチンでも受注契約に至った。22か国による原子力強化の宣言は、米国、日本、フランス、英国、韓国などが牽引しており、中国は加わっていない。2050年までに原子力発電の設備容量を3倍に引き上げる野心的な目標は、電力需要拡大下でカーボンニュートラルを達成することに加え、国際的な原子力商戦における中国との競争を意識していると言えるだろう。いずれにしても、カーボンニュートラルを達成する上での主役は、再エネと原子力、それに水素(アンモニア)となることが確実な情勢だ。 第7次エネ基へ向けて福島第一原子力発電所の事故は、原子力に大きな教訓を残した。この事故で人生が変わってしまった方、未だに故郷へ帰還できない方も少なくない。その事実を忘れてはならないだろう。その上で、国際社会は、現実的な選択肢として再び原子力をカーボンニュートラルの中核に据えようとしている。日本国内においても、福島第一からの処理水の海洋放出が始まり、長期に亘る廃炉計画は1つの節目を迎えた。また、原子力規制委員会は、福島第一の事故の当事者である東京電力が保有、運営する柏崎刈羽原子力発電所6、7号機に関し、規制基準に則って運転禁止命令の解除へ向けたプロセスを進めている模様だ。規制委員会が正式に運転禁止命令を解除した場合、そこから先は政治の分野となるだろう。柏崎刈羽6、7号機の再稼働は、日本の原子力発電にとって大きな転機となり得る。次のステップは、廃炉が決まった原子炉のリプレースに他ならない。多様な目標を打ち上げるものの、具体策の決定が遅いと批判される岸田政権だが、原子力関係に関しては、思い切った判断を下してきた。COP28は、岸田政権のエネルギー政策が国際社会の潮流に沿ったものであることを示したと言える。2024年は『第7次エネルギー基本計画』策定の年だ。地球温暖化抑止へ向け、政治がさらに一歩、二歩、前に踏み込むことに期待したい。
- 22 Dec 2023
- STUDY
-
エネ庁長官「再び大きな危機・転換点」
資源エネルギー庁の村瀬佳史長官がこのほど、記者団のインタビューに応じ、今後の資源・エネルギー行政の推進に向け抱負を語った。この7月、折しもエネ庁設立から半世紀となる節目の年に就任した村瀬長官は、1973年の第一次石油危機を振り返りながら、「同じように、エネルギー安全保障という意味で、大きな危機・転換点を迎えている時期に着任した。正に歴史を感じており、非常に重いミッションを負っている」と強調。その上で、エネルギー政策における最大の課題として、「日本が再び50年来の大きな危機に瀕している中で、エネルギーの安定供給をいかに確保していくのか」と指摘。加えて、ロシアによるウクライナ侵攻に関連し、「従来の常識では考えられないような国際経済上のリスクが明らかとなっており、エネルギーを巡る国際的な構造は大転換を迎えている」と、あらためて危機感をあらわにした。さらに、同氏は、「カーボンニュートラルへの挑戦」を標榜。「各省庁が推進する取組を総動員し、産業・国民生活のあり方自体を変革しなければならない」とした上で、第一次石油危機時の省エネ対策を例に、「まったく新しい大きな挑戦を求められている。今後、大胆な政策を進めていく」と、意気込みを示した。丁度50年前、1973年秋に公表されたエネルギー白書では、石油の量的確保の不安定性と環境面の制約から、省エネ対策について述べており、「入手ないし使用可能なエネルギーをできる限り有効活用することによって、国民経済活動におけるエネルギー消費量の相対的引き下げを図ること」と、位置付けている。また、村瀬長官は、電力システム改革に関し、「競争するというのは事業者の体力を奪うことではなく、競争を通じて切磋琢磨されていく中で、世界と戦えるエネルギー産業が生まれるようにすること」と強調。官民連携による取組を通じ、「日本発の技術、強い企業」が台頭することに期待を寄せた。原子力政策に関しては、「安全確保を大前提とした原子力の活用」の必要性をあらためて強調。既設炉の最大限活用を始め、核燃料サイクルの推進、放射性廃棄物対策など、原子力特有の問題にも取り組むとともに、小型モジュール炉(SMR)の開発など、革新技術にもチャレンジしていくとした。次年度にも本格化する次期エネルギー基本計画の検討に際しては、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、「あらゆる手段・可能性を追求することは必須」などと、資源小国である日本におけるエネルギー需給の厳しさを再認識。水素・アンモニア、CCUS(CO2の回収・有効活用・貯留)の導入促進など、あらゆる新技術を手掛け、「柔軟性をもった検討をしていきたい」と述べた。内閣府政策統括官(経済財政運営)から資源・エネルギー行政を担う要職に移り、今後、多くの政策課題をリードする村瀬長官。座右の銘としては、夏目漱石の文学観とされる「則天去私」をあげ、「正しいことをしっかり行う」と、行政マンとして使命を果たす姿勢を強調。最近はテニスに興じ、「『国難を乗り切る』体力を養っている」と、顔をほころばせた。現在56歳。
- 20 Sep 2023
- NEWS
-
基本政策分科会 半年ぶりに
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)が6月28日に開かれ、「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」と関連法成立を受けた今後のエネルギー政策のあり方について意見交換を行った。同分科会の開催は半年ぶり。〈配布資料は こちら〉その中で、杉本達治委員(福井県知事)は、GX脱炭素電源法(脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律)の成立に関し「国の責務や基本的施策が示され、原子力政策の明確化に向けた大きな一歩となった」と評価。一方で、「将来の原子力の必要な規模とその確保に向けた道筋についてはまだ明らかになっていない」と述べ、エネルギー基本計画の見直しをできるだけ早期に検討するよう求めた。現行のエネルギー基本計画(第6次)は2021年10月に閣議決定。エネルギー政策基本法で少なくとも3年ごとの見直しが求められている。この他、原子力技術の重要性を訴え続けてきた隅修三委員(東京海上日動火災保険相談役)は、「地域間の電力価格格差の最大要因は原子力が稼働しているかだ」と指摘し、再稼働の促進に向け国が前面に立った取組を切望。遠藤典子委員(慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授)は、原子力発電所部材製造現場の内外視察経験にも言及し、日本の国際競争力停滞やサプライチェーン消滅の危惧から「新増設に向けた具体的制度設計が急務」と強調した。また、最近のエネルギー戦略の動きから、水素・アンモニアの導入促進、浮体式洋上風力発電による産業競争力強化への期待や、エネルギー政策と雇用対策・産業政策・資源循環政策との連携、脱炭素化における企業評価に関する意見、今後のエネルギー基本計画見直しに向けては、科学的レビューや国民対話を求める意見も出された。
- 30 Jun 2023
- NEWS