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次期エネ基に向け「原子力の活用が不可欠」、原産協会・新井理事長
日本原子力産業協会の新井史朗理事長は6月25日、記者会見を行い、現在検討作業が佳境となっている次期エネルギー基本計画に関して、「『原子力の依存度を可能な限り低減』とする現行方針の見直しと、新増設・リプレースへの言及」を改めて訴えた。新井理事長は、4月に菅首相が表明した「2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減」および「2050年カーボンニュートラル」の達成に向け、「原子力の活用が不可欠」と明言。原子力が役割を果たすため、4月26日の理事長メッセージで示す通り、新規制基準に適合したプラントの再稼働を着実に進めるとともに、設備利用率の向上や運転期間の延長が必要だと再度述べた。さらに、2050年を見据え、「今から新増設・リプレースの明確な方針を打ち出し必要な準備を進めるべき」とした上で、「より高い安全性を目指すことは大前提。そのための技術開発、人材育成を官民挙げて進める必要がある」と強調。原産協会として、「脱炭素社会の実現と持続的発展に貢献する『原子力の価値』に対する国民理解が深まるよう、精一杯努めていく」と述べた。また、国内初の40年超運転に向け関西電力美浜3号機が6月23日に原子炉を起動したことに関して、5月18日発表の理事長メッセージ「高浜発電所1、2号機および美浜発電所3号機の60年運転について」を配布。3基は1970年代に運転を開始しているが、10年ごとの定期安全レビュー、運転開始から30年以降は高経年化技術評価の実施とそれに基づく長期保守管理方針の策定、40年を超える運転期間延長に際しては、原子炉圧力容器などの取替が困難な設備の健全性確認が行われており、「延長期間における運転に問題がないことが確認されている」と説明。他プラントでの運転期間延長にも期待を寄せた。さらに、「世界の40年以上運転している原子力発電所」一覧表(原産協会作成、2021年1月現在)から、米国における近年の長期運転に向けた動きを述べ、5月に原子力規制委員会(NRC)より2回目の運転期間延長認可の承認を受けたサリー発電所1、2号機(バージニア州、PWR、各87.5万kW)を始め、80年までの延長認可が6基に上っていることを紹介。各国で進む原子力の長期運転について、IEAとOECD/NEAによる経済性評価にも触れ、電力安定供給における優位性とともに、エネルギーの脱炭素化にかかる期待も述べた。記者から、長期サイクル運転(定期検査の間隔を現在国内すべてのプラントが区分されている13か月を超えて運転すること)導入や運転期間制度の見直し(いわゆる「審査中は時計を止める」)について質問があったのに対し、新井理事長は、原子力エネルギー協議会(ATENA)による技術的取組・原子力規制員会との対話への期待や地元理解の重要性などを述べた。原子力発電所の新規建設計画が進まぬ中、既存プラントを通じた技術の蓄積・継承に関しては、今後の長期運転に向けた大規模改造が場を提供する可能性にも言及。この他、新井理事長は、6月24日の原産協会とカナダ原子力協会との協力覚書締結について紹介。同協力覚書のもと、新たなパートナーシップの構築を通じ、カナダの国家レベルでの小型モジュール炉(SMR)開発、ウラン供給を通じた原子力産業界との長いつながりを背景に、気候変動対策における原子力発電の推進、原子力イノベーション促進に資する活動を進めていく。
- 28 Jun 2021
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総合エネ調査基本政策分科会、2050年のシナリオ分析に基づき議論
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)は5月13日、前回4月28日の会合に引き続き「2050年カーボンニュートラル」実現を見据えた今後のエネルギー政策について議論。委員の秋元圭吾氏(地球環境産業技術研究機構〈RITE〉システム研究グループリーダー)より、技術課題克服の道筋を複数想定し電源構成やコストなどを評価するシナリオ分析の結果説明を受け意見が交わされた。〈配布資料は こちら〉同分科会は12月に、2050年の発電電力量で、再生可能エネルギーを約5~6割、原子力と化石燃料+CCUS(CO2回収・有効利用・貯留)を合わせて約3~4割、水素・アンモニアを約1割とする「参考値」を提示。これを基軸としRITEに複数シナリオの分析を依頼した。RITEによるシナリオ分析結果(RITE発表資料より引用)RITEが想定したシナリオは、「参考値」ケースの他、(1)再生可能エネルギー100%、(2)再生可能エネルギーの価格が飛躍的に低減する、(3)原子力の活用が進む、(4)水素・アンモニアの価格が飛躍的に低減する、(5)CCUSのCO2貯留量が飛躍的に増大する、(6)需要が変容する(自動車利用など)―各ケースに基づくもの。今回会合で秋元氏は、シナリオ分析の元となる世界エネルギー・温暖化対策評価モデル「DNE21+」を紹介。日本における原子力や再生可能エネルギーの導入に係る社会・物理的制約などの特性上、「DNE21+」活用には限界があることから、他の分析ツールも併用したとしている。分析結果によると、電力コストは「参考値」ケース(原子力10%、化石燃料+CCUS23%)で24.9円/kWhと、2020年の試算値13円/kWh程度のほぼ2倍に上り、「再生可能エネルギー100%」ケースでは53.4円/kWhとさらに増加。リプレース・新増設が行われることを前提に原子力比率2割の電源構成を想定した「原子力活用」ケースでは、24.1円/kWhとなった。これに対し委員からは、今後の議論に向けた基盤として評価が示される一方、わかりやすい情報発信や産業政策との整合性の観点からさらなる精査を求める声もあがった。水素・アンモニアの価格が低減するケース、CCUSのCO2貯留量が増大するケースで、電力コストは、それぞれ23.5円/kWh、22.7円/kWhと試算されたが、CO2を多く排出する鉄鋼産業として橋本英二氏(日本製鉄社長)は、水素利用実用化の不透明さを懸念するとともに、「安定供給とコスト抑制は絶対外せない。ゼロエミッションの生産プロセスを確立し日本の成長力につなげたい」と強調。これまでも技術イノベーション推進に関し多くの意見を述べてきた隅修三氏(東京海上日動火災保険相談役)は、CCUSにおけるCO2輸送・海外貯留に伴う地政学的リスクなどを指摘した上で、原子力発電を維持しバランスのとれたエネルギー構成を図っていくべきとした。また、同調査会原子力小委員会の委員も務める山口彰氏(東京大学大学院工学系研究科教授)は、「不確かさを政策でどうカバーするのか」などと、より現実的なエネルギー基本計画を検討していく必要性を強調。12日には国内初の40年超運転となる関西電力美浜3号機の運転方針が示されたところだが、同氏は、海外の長期運転のニュースとして、米国サリー1、2号機の80年運転の承認取得を紹介したほか、新増設・リプレースに関し、「技術開発のリードタイムを考えると新型炉の計画は今から取り組むことが必要」と訴えた。会見を行う梶山経産相、今夏・今冬の電力需給を始めエネ政策推進に緊張感を示した(インターネット中継)エネルギー政策の方向性に関し、梶山弘志経済産業相は14日の閣議後記者会見で、コスト、安定供給、安全性などを総合的に勘案し議論する必要性を改めて述べた上で、「日本は資源のない国で、他国のように『このエネルギーでいく』と決め打ちできる状況にない」として、多様な意見が寄せられることはいとわない考えを示した。
- 14 May 2021
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総合エネ調基本政策分科会、「46%削減」目標を踏まえ議論
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)は4月28日、「2050年カーボンニュートラル」を見据えた2030年に向けてのエネルギー政策について議論した。〈当日の 配布資料 動画〉議論に先鞭を付ける梶山経産相(インターネット中継)前回22日の会合では、「2030年に向けたエネルギー政策のあり方」として、資源エネルギー庁が同調査会下の原子力小委員会における議論も整理した大部にわたる資料を提示した。今回会合の冒頭、梶山弘志経済産業相は、22日夜から行われた米国主催の気候サミットに向けて菅首相が表明した「2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す」ことに言及。新たな目標について、「これまでの目標を7割以上引き上げるもので、達成は決して容易ではないが、一つ一つの課題を解決していくことは新たなビジネスチャンスにもつながる。この挑戦は日本の成長戦略そのもの。これを目指す道筋として、どのようなエネルギー政策が考えられるか」と述べ、委員らに対し集中的な議論を求めた。委員からはまず、福井県知事の杉本達治氏が同日関西電力美浜3号機、高浜1、2号機の再稼働(40年超運転)に同意したことを述べた上で、今後の原子力政策に関し、(1)県が消費地域から批判を受けることのないよう国民理解活動は効果の検証も合わせて行う、(2)地域振興策を継続的に充実していく、(3)新増設・リプレースの議論は安全性を高めていく観点も加える――ことを要望。福井県議会は23日に、エネルギー基本計画の見直しに向け、「原子力の位置付けを改めて明記し、安全性を最優先した既設発電所の再稼働のみならず、新技術の開発等も含めた具体的なロードマップを示すべき」とする意見書を決定している。また、日本エネルギー経済研究所理事長の豊田正和氏は、水素・アンモニアによる火力の脱炭素化加速とともに、原子力の位置付けに関し、(1)新増設・リプレースを明確化する、(2)現行エネルギー基本計画の「依存度を可能な限り低減」の表現維持には矛盾がある、(3)未稼働年数を法令に定める運転期間から除く――ことを主張。 「46%削減」を踏まえた「2050年カーボンニュートラル」実現に関しては、「環境保全、経済成長、エネルギー安定供給のトリレンマ解決に向けた投資は長期的視野で。産業が国外に流出してCO2排出量が低減しても、国力が落ちてしまっては意味がない。そのためにも原子力技術は選択肢」といったイノベーションの戦略的推進や、需要側の構造変革など、具体的な施策検討を求める意見が多く出された。委員からの発言を受け、白石部会長は、「極めて野心的。これまでの発想を転換しなければ道筋を描くのは難しい」などと述べ、次回以降さらに議論を深めていくとした。
- 30 Apr 2021
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日本におけるゼロエミッションの最適解
昨年10月26日、臨時国会初日に初めて所信表明演説を行った菅義偉首相は、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすると公約した。もっとも、現時点で政府に明確なロードマップがあるわけではなさそうだ。そもそも、日本ではカーボンプライシングが導入されておらず、政策として計画的な温室効果ガスの削減がなされてきたとは言えない状況にある。それにも関わらず菅首相が思い切った目標を掲げたのは、11月3日の米国大統領選でジョー・バイデン候補(当時)が勝てば、欧州に加え米国が積極的な地球温暖化対策に乗り出す可能性があったからだろう。米国にゼロエミッション宣言で先を越された場合、菅政権は「後追い」との批判を免れなかったのではないか。もっとも、辛うじて先手を打ったとは言え、具体策が詰まっていない点はどうにもならない。菅首相は、昨年12月21日、官邸に梶山弘志経済産業相、小泉進次郎環境相を呼び、カーボンプライシングの検討を指示した。対立する両省に共同で具体策を決めるよう求めたのである。これで、ようやく日本でも実質ゼロエミッションへ向けた政策の議論が本格的に始まった。 意外な日本のエネルギー事情2019年における二酸化炭素の排出量は、製造業のシェアが32.9%で最も多く、これに運輸18.7%、サービス産業17.3%、家庭14.3%が続いていた(図表1)。キャップ・アンド・トレードで市場価格により排出を抑制するにせよ、炭素税を導入するにせよ、カーボンプライシングにより企業に温室効果ガス排出削減を求めるのは制度的には設計が比較的容易だ。また、国際社会におけるESG((Environment/Social/Governance(環境/社会/ガバナンス)))の流れから、企業側も準備を進めているだろう。一方、家庭の新たな負担につながる政策は、国民個々の暮らしに直結するだけに政治的な観点から非常にハードルが高い。また、2019年度における最終エネルギー消費の内訳を見ると、意外なことが明らかになる。温室効果ガスの排出に直結するエネルギー消費と言えば、何となく電力中心とのイメージがあるものの、電力の比率は25.8%に過ぎない(図表2)。実はエネルギーの最終消費段階における化石燃料の燃焼が、日本の温室効果ガス排出の最大の要因なのだ。一般的には太陽光、風力など再生可能エネルギーによる発電比率を大きく増やすことにより、温室効果ガスの排出量が劇的に減るとの見方がコンセンサスと思われる。しかしながら、他の条件を変えずに現状の電源を再エネ化しても、効果は限定的なのではないか。エネルギーの需要と供給の両面において、抜本的な改革を進めなければならない。具体的には、需要サイドにおいて「オール電化」を進めることが重要だ。多様な需要家がエネルギー源を電力に一本化すれば、少なくともエネルギー消費において温室効果ガスは発生しない。同時に供給側では化石燃料を使わずに発電するのである。川下と川上を同時にゼロエミッション化するわけだ。この需要と供給の組み合わせこそが、日本においてマクロ面から見たゼロエミッション達成への最短距離に他ならない。つまり、需要側のオール電化、供給側のオール再エネ発電化... 理屈の上では、これで日本のゼロエミッション達成は可能だ。ただし、それはあくまで机上の空論に過ぎない。最大の課題は、電力需要に関する供給との時間的・空間的なずれである。また、日本の自然環境と地理的な制約の下、経済合理性を維持しつつ、再エネの発電量をどこまで増やせるかのかについても、慎重に検討しなければならない。再エネがエネルギー供給サイドにおける重要な電源の1つであることに疑いの余地はないが、限界も理解した上でないと、持続可能なゼロエミッションの制度設計はできないだろう。 再エネを主軸にできるのか?電力は基本的に大規模な貯蔵、そして超長距離の輸送(送電)に難のあるエネルギーだ。つまり、電力の活用には原則として需要と供給の時間的・空間的一致を確保しなければならない。この問題を考える上では、電気自動車(EV)の例が分かり易いだろう。EV化が進めば、充電のために夜間の電力消費量が大きく増えると予想される。これを昼間にしか発電しない太陽光発電で賄うのは難しい。また、風力も風がなければ安定的に電力を供給できない。これまでは、超長距離輸送の可能な石油、石炭、LNGなどの化石燃料が、エネルギー需給の時間的・空間的調整弁の役割を果たしてきたのである。また、日本には再エネの適地が少ないことも大きな障害だ。例えば、再エネによる発電比率が40%に達するドイツの場合、国土は357万平方キロメートルで日本(379万平方キロメートル)とほぼ同規模だが、標高500メートル以下の可住地が66.7%に達し、日本の27.3%を大きく上回っている。従って、太陽光発電の適地が多い上、耕作地の比率が国土の34.2%に対し、日本の12.1%の約3倍の規模だ。その結果、ドイツはバイオマス発電の燃料が豊富なのである。さらに、ドイツは北側の北海、バルト海沿岸に非常に強い風が吹く。そのため、これらの地域は風力、洋上風力には極めて適している。2019年におけるドイツの電源構成を見ると、風力が20.7%、バイオマスが8.3%に達しており、この2つで総発電量の29.0%を占めていた(図表3)。それは、自然条件に恵まれていたことが重要な要因だ。一方、太陽光、風力の適地が少なく、バイオマス燃料の調達が難しい日本において、今、最も期待されているのは洋上風力だろう。ただし、火山噴火によって成り立った日本列島の沿海は、海岸近くから急激に水深が深くなる場所が多く、遠浅が条件である着床式風力の設置には向かない。畢竟、浮体式が中心になるが、構造が複雑でコストが高くなる上、高波時の復元性喪失リスクなどが問題になり、地元の漁業者などとの調整に時間を要して活用は思うようには進んでいない模様だ。ちなみに、環境先進国と言われるドイツでも、不安定な再エネの利用には幾重にも保険を掛けてきた。例えば、大陸に位置する特性を活かして国境を越えたグリッドが張り巡らされているため、隣国のフランスから電力を買うことが可能だ。また、黒海海底を通る天然ガスのパイプライン「ノードストリーム」により、ロシアから天然ガスの供給を受けている。現在、「ノードストリーム2」が建設の最終段階にあるが、米国などはロシアへの警戒感から開通に反対してきた。しかし、ドイツはエネルギー確保の観点から運用への積極姿勢を崩していないようだ。((『老獪なドイツに学ぶべき日本のエネルギー戦略 後編』に詳しい))日本ではドイツの再エネ比率が総発電量の40%に達することへの評価が高い。もちろん、日本にはドイツに学ぶべき点がある。ただし、発想を逆転して考えれば、ドイツはこれだけの保険措置を講じても、現段階で再エネ比率が40%に留まるのである。日本の場合、自然環境・地理的課題が簡単には解決するわけではない。つまり、再エネ比率を劇的に引き上げるには様々なハードルがある。日本においてエネルギー需要サイドのオール電化、供給サイドの脱化石燃料化によるゼロエミッションを達成するには、再エネだけでなく他の方法を併用しなければならないだろう。 “Power to Gas”の切り札となる可能性のある物質日本をゼロエミッション化する上での切り札の1枚として注目されるのが“Power to Gas”の考え方である。ごく単純化すれば、再生可能エネルギーの適地であり、且つ化石燃料資源の豊富な国・地域において、再エネによる電力を活用して化石燃料から水素を生成し、それを液化して日本に運ぶ方法に他ならない。日本で水素による火力発電を行えば、脱化石燃料の電力を供給することが可能になる。例えば、条件を満たす国としては、オーストラリアやサウジアラビアなどが有望なプロジェクトのパートナーになり得るだろう。水素の生成過程で二酸化炭素を排出するが、これはプラントから生じるものであり十分に管理可能だ。最終的にはCCS (Carbon Dioxide Capture & Storage:CO2回収・貯留)によって地中に貯蔵することになる。つまり、“Power to Gas”は、需要と供給の時間的・空間的一致が必要な電力(Power)を運送手段(キャリア)としてのガスに転換することで、劇的な温室効果ガス排出削減達成を目指す戦略に他ならない。再エネの適地に恵まれない日本にとっては、具体化のプロセスが明確なだけに、実現可能な画期的手法と言えるのではないか。もちろん、当然ながら障害は少なくない。まず誰もが思い付くのはコストではないか。十分な量の水素を生成し、発生するCO2をCCSで処理、水素を日本に運ぶにはサプライチェーンの確立に大きな投資が必要だ。また、オペレーションコストも勘案しなければならない。さらに、エネルギーの運搬手段として水素をそのまま活用するには、課題が山積していることは既に多くの指摘がある。最大の問題は水素のエネルギー密度が非常に小さいことだろう。気体のままでは容積が極めて大きいため、輸送・貯蔵には液化の必要があるが、水素の融点は▲259.2℃と極めて低く、圧力を加えても液化する温度が大きく変化しない(図表4)。また、水素は着火し易く爆発のリスクも高いため、非常に扱い難い物質と言える。従って、水素を大量に液化して長距離を輸送するには、相当な技術開発、インフラ投資、そしてオペレーションコストを要するのではないか。もちろん、日本国内においても、サプライチェーンの整備・運営費用はかなり大きなものとなりそうだ。 こうした水素のデメリットを乗り越えるため、最近、注目を集めているのがNH3、つまりアンモニアに他ならない。アンモニアは水素と窒素から合成可能であり、再び水素を取り出すことも可能だ。融点は▲77.7℃と高く、0.857MPaの圧力を掛けると常温(20℃)でも液化することが重要な特徴と言える。この0.857MPaは、プロパンガスの液化に要する圧力とほぼ同等だ。つまり、水素と比べて非常に扱い易い。アンモニアは、日本では『毒物及び劇物取締法』によって劇物に指定されてきた。例えば液化したアンモニアに触れると、皮膚がただれるなどの危険がある。ただし、農業用肥料として広く活用されており、2020年にはインドネシア、マレーシアなどから18万トンが輸入された(図表5)。従って、大量輸送や貯蔵の技術、取り扱いの方法は既に確立されているわけだ。また、水素に比べてアンモニアは着火し難く、火の回りが遅いため、火力発電の燃料として使用するには工夫が必要と言われる。ただし、既に日本国内では化石燃料との混合燃焼実験も行われており、既存の炉で使えるとの結果も報告された。アンモニアそのものでの活用、水素の生成など、今後、実用化へ向けた実験が加速するだろう。米国地質調査所(USGS)によれば、2020年には世界で1億4,400万トンのアンモニアが製造された。主な生産国は、中国3,800万トン、ロシア1,500万トン、米国1,400万トン、インド1,300万トンなどだ。もっとも、日本がエネルギーの運送手段としてアンモニアを活用するのであれば、オーストラリア、そして中東における大規模なプラントが必要と考えられる。 重要な安全保障の視点菅首相が公約した2050年まで既に30年を切っており、立ち止まって考える時間的余裕はない。また、地球温暖化対策は、国際的にコストではなく成長戦略となりつつあるなかで、競争を戦い抜く上で、日本は早期に明確で実現可能な具体策を持たなければならない。そうした観点から、実質ゼロエミッション化については、エネルギーの需要側におけるオール電化、そして供給サイドにおける電源の脱化石燃料化... 現状、この組み合わせが最も有望と言えるだろう(図表6)。電源に関しては、1)再生可能エネルギー、2)水素(アンモニア)、3)原子力――を組み合わせる方向へ政策の議論は収斂して行くのではないか。このなかでは、特に新たなソリューションであるアンモニアの活用への注目度が高まると考えられる。ただし、再エネ、原子力も極めて重要だ。水素・アンモニアについて実用性の高いサプライチェーンが確立された場合、この“Power to Gas”の戦略に残された課題の1つはエネルギー安全保障に他ならない。水素・アンモニアをオーストラリア、中東などから輸入するには、南シナ海、東シナ海を通過するシーレーン確保が極めて重要だ。もっとも、これらの海域では中国が南沙諸島の人工島建設に加え、台湾への影響力拡大を目指している模様であり、緊張感が高まることは十分に考えておく必要がある。つまり、オール電化の下、電源を水素・アンモニアのみに依存することは極めて危険だ。“Power to Gas”を積極的に活用する上で、日本は有事に際してもエネルギーの供給が可能な自前の電源を持たなければならない。脱化石燃料化との両立を考えた場合、それは再エネと原子力にならざるを得ないだろう。つまり、ゼロエミッションへ向け、再エネ、水素・アンモニア、原子力のバランスの採れた電源構成こそが求められているのである。
- 16 Apr 2021
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総合エネ調・発電コスト検証WG、原子力について議論
総合資源エネルギー調査会の発電コスト検証ワーキンググループ(座長=山地憲治・地球環境産業技術研究機構副理事長)は4月12日の会合で、火力と原子力について取り上げた。〈資料は こちら〉同WGは2015年に15種類の電源について発電コストに係る試算をまとめているが、昨秋からのエネルギー基本計画見直しの本格化に伴い、3月末に約6年ぶりに再開。資源エネルギー庁は、前回会合で取り上げた再生可能エネルギーに続き、火力発電と原子力発電のコスト算定方法と必要となる各諸元を整理し、火力については、石炭、LNG、石油の他、CCS(CO2回収・貯留技術)付火力発電、水素、アンモニアに係るコスト試算の考え方を新たに示した。原子力については、2015年の試算時に整理された考え方を踏襲した上で、(1)新規制基準への対応を踏まえた追加的安全対策、(2)事故リスク対応、(3)核燃料サイクル――に係る増額などを適切に反映することとしている。委員からは、増井利彦氏(国立環境研究所社会システム領域室長)が、IEAの「ワールド・エナジー・アウトルック」が示すシナリオや米国の炭素の社会的費用評価(自動車の燃費規制など)を巡る動向を踏まえ、発電コストの検討におけるCO2対策費用の論点を提示。松尾雄司氏(日本エネルギー経済研究所研究主幹)は、OECD/NEAが試算した原子力発電所建設単価の各国比較を示した。松尾氏は、「継続的に原子力発電建設を進めてきた韓国やロシアにおいて建設単価は低い水準にある」としたほか、日本の再稼働プラントの設備利用率を示した上で、原子力発電の経済性維持のため、遅延のない建設の遂行と安定的な運用が必要なことを示唆。また、高村ゆかり氏(東京大学未来ビジョン研究センター教授)は、日本原子力学会が昨夏取りまとめた福島第一原子力発電所廃炉に係るエンドステート(最終的状態)までを見通した報告書「国際標準からみた廃棄物管理」に触れ、事故廃炉費用について改めて精査する必要性を述べた。これに対し、今回オブザーバーとして出席した原子力損害賠償・廃炉等支援機構理事長の山名元氏は、福島第一原子力発電所における燃料デブリ取り出し・廃棄物に関し、「工法によって発生量も大きく変わってくる。規制基準、社会的問題も含め、まったくの『白紙状態』」などと述べ、現状ではコスト算定に採り入れられる十分なデータは皆無であることを強調した。
- 12 Apr 2021
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原産協会・新井理事長が会見 「第54回原産年次大会」など紹介
原産協会の新井史朗理事長は4月7日、記者会見を行い、13、14日に開催される「第54回原産年次大会」(東京国際フォーラムよりオンライン配信)について紹介した。今回は「コロナ禍の世界と日本-環境・エネルギーの課題と原子力」がテーマ。コロナ禍の影響を含め、地球規模で人々が直面する課題(変化する世界情勢・経済の変化、気候変動、エネルギー・原子力利用)を俯瞰。また、事故から10年が経過した福島第一原子力発電所廃炉の現状と福島復興を展望するとともに、昨秋より本格的に検討が開始された次期エネルギー基本計画を念頭に、あるべき日本のエネルギー・原子力の課題について考える。原産年次大会は、新型コロナウイルス感染症による影響を考慮し2020年は中止となった。新井理事長はまず、2年ぶりの開催となる今回大会について「海外の非常にハイレベルな方々の登壇も適うこととなった」と、オンライン併用による開催のメリットを強調。今回のテーマに関し、昨今のエネルギー安定供給を巡り、「世界的なパンデミックにより、エネルギーにおけるサプライチェーンの課題がクローズアップしてきた」などと、国際情勢の変化を概観するとともに、「わが国は化石燃料の大部分を海外からの輸入に頼っており、一次エネルギー自給率は約12%と、先進国の中でも特に低い」と、日本の現状を改めて述べた。さらに、今冬の電力需給ひっ迫に関し、「特に厳しかった1月6~12日の間、全国で稼働していた原子力発電プラントはわずか3基だった」と振り返り、原子力の電力需給における位置付けを考える契機となったことを強調。原子力発電の環境適合性については、「日本の年間CO2排出量は約11億トン。100万kW級のプラント1基が稼働すれば年間310万トンのCO2を削減できる。2050年カーボンニュートラル実現に不可欠」とした上で、今回の年次大会を通じ「脱炭素社会の実現と持続的発展に貢献する原子力の価値について国民の皆様の議論が深まることを期待する」と述べた。次期エネルギー基本計画に関する記者からの質問に対し、新井理事長は「安全を大前提とした3E(安定供給、経済効率性、環境適合性)の観点のもと、将来にわたって一定規模の原子力発電を利用していくというメッセージを発信して欲しい」としたほか、再稼働が進まぬ状況下、「既存炉の徹底活用」の重要性を繰り返し強調。また、原子力イノベーションに関し、先般の日揮ホールディングスによる米国ニュースケール社の小型モジュール炉(SMR)開発への出資について触れ、「日本の企業が海外と連携することは技術力の維持にもつながり喜ばしいこと」と、歓迎の意を述べた。
- 08 Apr 2021
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総合エネ調、発電コストの検証開始
総合資源エネルギー調査会は3月31日、各電源の発電コストなどを試算するワーキンググループを始動した(=写真、オンライン中継)。エネルギー基本計画の見直しに向け「現実的かつバランスのとれたエネルギー需給構造の将来像」の検討に資するべく、同調査会基本政策分科会のもと、「発電コスト検証ワーキンググループ」(座長=山地憲治・地球環境産業技術研究機構副理事長)が約6年ぶりに再開。〈資料は こちら〉同ワーキンググループでは2015年に、2014年策定のエネルギー基本計画に基づき、エネルギーミックス検討に向けて試算結果をまとめた。原子力、石油火力、石炭火力、LNG火力、地熱、水力、バイオマス、風力(陸上)、太陽光など、15種類の電源ごとに、モデルプラントを想定し、資本費、運転維持費、燃料費、社会的費用(事故リスク対応費、政策経費、環境対策費など)の総和を稼働期間の発電電力量で除したものとして算出。原子力については、発電に直接関係するコストだけでなく、将来発生する廃炉・核燃料サイクル(放射性廃棄物最終処分を含む)に係るコストや、事故対応費用、電源立地交付金などの社会的費用も織り込んで試算し、全電源の中では最もコストが低かった(設備利用率70%、稼働年数40年、事故リスク対応費用を最小とした場合)。今回、再開したワーキンググループで、発電技術そのものの評価に適した「モデルプラント方式」によるコスト試算方法を継続することについては概ね合意。これに関し、OECDのコスト試算専門家会合に参画する松尾雄司氏(日本エネルギー経済研究所研究主幹)は、OECD/NEA・IEAが12月に公表した世界の電源別発電単価に係る最新の評価レポートを紹介し、(1)CO2回収・利用・貯蔵技術や原子力の寿命延長、(2)蓄電池の評価、(3)非OECD諸国のデータ、(4)新たな評価指標――に注目すべきとした。同氏は、欧米で用いられる種々の発電コスト評価指標を例示した上で、「各電源のコストは単一の値によって示されるものではなく、それが存在するエネルギーミックスの状況によって変化する」などと示唆。委員からは、新たな脱炭素技術として期待される水素・アンモニアに関する評価や、今冬の電力需給ひっ迫を省み送配電網の強靭化についても考慮すべきといった意見、2050年カーボンニュートラル実現を踏まえ「大きな政策目標との観点から議論していく必要」との声もあった。
- 31 Mar 2021
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関経連など西日本の経済6団体、エネ基本計画見直しで意見書
関西経済連合会など、西日本の6つの経済団体(他、九州経済連合会、四国経済連合会、中国経済連合会、中部経済連合会、北陸経済連合会)は3月9日、総合資源エネルギー調査会で検討が行われているエネルギー基本計画の見直しに向けて連名による意見書を発表した。2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、(1)研究開発戦略の明確化、(2)革新的イノベーションによる需要の高度化、(3)電源の低炭素化・脱炭素化、(4)適正な企業評価につながる情報開示の仕組み作り、(5)世界のCO2排出削減に対する貢献、(6)カーボンプライシング(温室効果ガス排出量に対し均一の価格を付けコスト意識を持たせる経済的手法)の慎重な議論、(7)国内外に向けたPR戦略の策定――を提言。革新的技術の研究開発戦略を明確化し、その成果をあらゆる部門に実装することで、最終エネルギーを電気または水素の利用に転換する「需要の高度化」に取り組むとともに、「電源の低炭素化・脱炭素化」を同時に進めるという考え。原子力発電については、「エネルギー安全保障の向上に加え、CO2フリー水素の安価で安定的な製造にも寄与する」と、重要性を改めて述べた上で、新増設・リプレースや次世代原子炉の開発・普及に取り組むことを明確に示すとともに、現行のエネルギー基本計画が掲げる「可能な限り原発依存度を低減する」との方針を見直すべきとしている。また、再稼働が進まぬ現状から、諸外国の事例や保全技術の進展などを踏まえ、運転期間延長認可制度の見直しにも言及した。意見書では、エネルギー政策に関する基本的考え方として、中長期的に「3E+S」(安定供給、経済効率性、環境適合性、安全性)を根幹とすることを第一にあげ、まずは2030年エネルギーミックスの達成に向け、原子力、再生可能エネルギー、石炭火力について取組を加速すべきことを強調。昨今の新型コロナ拡大による厳しい経済状況下、「再生可能エネルギーの大幅な積み上げによる温室効果ガス削減目標の上積みは、電力コストの上昇、わが国の産業競争力のき損につながる」と危惧し、今冬の電力需給ひっ迫にも鑑み、「3E+S」のうち、特に安定供給と経済効率性の重要性を訴えている。
- 10 Mar 2021
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新井理事長、福島第一事故から10年を前に所感
原産協会の新井史朗理事長は2月26日、月例のプレスブリーフィングを行い、同日発表の理事長メッセージ「福島第一原子力発電所事故から10年を迎えるにあたって」を配布し説明(=写真)。改めて被災者の方々への見舞いの言葉とともに、復興・再生に向け尽力する多くの方々への敬意・謝意を述べた。事故発生から10年を迎えるのを間近に、復興が着実に進展し生活環境の整備や産業の再生などの取組が期待される「ふくしまの今」を伝える情報発信サイトを紹介。原子力産業界として、「福島第一原子力発電所事故の反省と教訓をしっかりと受け止め、二度とこのような事故を起こさないとの固い誓いのもと、たゆまぬ安全性向上に取り組んでいく」とした。また、昨夏東京電力より現職に就いた新井理事長は、福島第一原子力発電所に配属された新入社員当時を振り返りながら、「私を育ててくれた場所、思い出がたくさん詰まった場所」と思いをはせたほか、発災後、富岡町における被災住宅の家財整理など、復旧支援活動に係わった経験に触れ、「住民の方々の生活が事故によって奪われたことに対し誠に申し訳ない」と、深く陳謝。福島第一原子力発電所の廃炉に向けて「現地の社員たちが最後までやり遂げてくれると信じている」とした上で、「1日も早い福島の復興を願ってやまない」と述べた。将来福島第一原子力発電所事故を知らない世代が原子力産業界に入ってくる、「事故の風化」への懸念について問われたのに対し、新井理事長は、会員企業・団体を対象とした現地見学会などの取組を例に、「まず現場を見てもらい肌で感じてもらう」重要性を強調。事故を踏まえた安全性向上の取組に関しては、「一般の人たちにわかりやすく広報していく必要がある」などと述べた。また、2050年カーボンニュートラルを見据えたエネルギー政策の議論については、「まず再稼働プラントの基数が増えていくこと」と、既存炉を徹底活用する必要性を強調。経済団体から新増設やリプレースを求める声が出ていることに対しては、「60年運転まで考えてもやはり足りなくなる」などと、首肯する見方を示した。
- 01 Mar 2021
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エネ調基本政策分科会、エネルギー基本計画見直しの議論開始
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(部会長=白石隆・熊本県立大学理事長)は10月13日、次期エネルギー基本計画の策定に向け議論を開始した。現行エネルギー基本計画は2018年7月に閣議決定されており、2030年の計画と2050年の方向性として、それぞれ「エネルギーミックス(原子力:20~22%、再生可能エネルギー:22~24%)の確実な実現」、「エネルギー転換・脱炭素化への挑戦」を示している。冒頭挨拶に立った梶山弘志経済産業相は、法令上エネルギー基本計画見直しの期限となる2021年を控え、「東日本大震災から10年目の節目の年となる」とした上で、「福島復興を着実に進め安全最優先でエネルギー政策を進めていくことが大前提」と、原子力災害の教訓が議論の原点にあることを改めて強調した。同分科会では今後、「S+3E(安全性、エネルギーの安定供給、経済効率性の向上、環境適合性)を目指す上での課題整理」、「今世紀後半のできるだけ早期に『脱炭素社会』を実現するための課題検証」、「2030年目標の進捗とさらなる取組の検証」の順に検討を進めていく。前回7月の同分科会会合では、「コロナショック」に伴うエネルギー情勢の変化を軸に議論が行われたが、13日の会合では、資源エネルギー庁が現行エネルギー基本計画策定以降の国内外の状況変化を整理し、次期基本計画検討に向けた課題を提示。これを踏まえた論点として、世界的な脱炭素化に向けた動き、エネルギー自給率の向上、サプライチェーンの再構築、需要サイドからの取組、日本の技術開発リードなどがあげられた。基本政策分科会の模様(経産省庁舎にて、インターネット中継)現行エネルギー基本計画で原子力は「長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置付けられており、総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会委員長代理を務めている山口彰氏(東京大学大学院工学系研究科教授)は、「原子力の持続的な活用はエネルギーの自立に不可欠」として、効率的な活用に向け制度・プロセス面の構築も必要なことを指摘。また、杉本達治氏(福井県知事)は、北海道における高レベル放射性廃棄物処分地選定に向けた文献調査、核燃料サイクル施設の審査、女川発電所再稼働を巡る自治体の判断など、立地地域の立場から原子力政策に係る最近の動きを述べた上で、「これまでの受動的な対応では国民の理解は進まない」として、国に対しより前面に立った取組姿勢を求めた。今回初出席となった澤田純氏(NTT社長)は、デジタル化が進む中で増加傾向にある自社の電力需要に備えた自家発電計画のコスト的課題を述べ、蓄電池技術や直流・交流のハイブリッドシステムを例に、長期的な研究開発における国のリーダーシップ発揮を期待。また、NTTが5月にITER機構と包括連携協定締結を行ったことなど、革新的原子力技術への進出機運に触れ、「安全性が高くコンセンサスを得やすい」として、小型炉による新増設・リプレースの展望にも言及した。この他、委員からは、水素・燃料電池の導入、石炭火力のフェードアウト、産業競争力の強化、教育に関する意見や、脱炭素化に係る国民・企業の価値観や行動の変化を指摘する声、基本計画の議論に関し目標とするタイムスパンへの疑問や思考停止を招くことへの危惧などもあがった。
- 14 Oct 2020
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規制委、日本原燃の六ヶ所再処理工場に係る新規制基準審査で変更許可を発出
原子力規制委員会は7月29日、日本原燃の六ヶ所再処理工場について、新規制基準に「適合している」との審査書を決定し、同社に対し原子炉等規制法に基づき変更許可を発出。2014年1月の審査申請から約6年半を要した。同案件については、2020年5月13日に審査書案が取りまとめられ、30日間のパブリックコメントが行われていた。また、再処理施設の運転に係る審査は同委として初めてのケースであることから、審査書の決定に際して行われる経済産業相への意見照会では、エネルギー基本計画との整合性を含め意見を求めており、これに対し、原子燃料サイクル推進の基本的方針から、六ヶ所再処理工場のしゅん工に関して「同計画と整合している」との回答があった。29日の規制委員会定例会合で、原子力規制庁の市村知也新基準適合性審査チーム長代理らがパブリックコメント結果について説明。計574件の意見が寄せられたとしている。これを受けて取りまとめられた審査書の最終案を、更田豊志委員長他、4名の委員いずれも決定することで了承した。更田委員長は、同日の定例記者会見で、「品質管理の問題で審査が一旦中断することもあり、共通の理解を得る上で結構な時間がかかった」と、長期にわたった審査を振り返った。今後、六ヶ所再処理工場の運転開始に向けて設備工事計画の審査などが必要となるが、膨大な数の対象機器類を擁することから、更田委員長は「非常にチャレンジングだ」と、かなり難航する見通しを示した。今回の変更許可を受け、日本原燃の増田尚宏社長はコメントを発表し、「再処理工場のしゅん工、その後の安全な操業に向けての大きな一歩」との認識を示した上で、安全性向上対策の確実な実施、継続的な改善に努める決意と、立地地域からの支援に対する謝意を述べた。同社では2021年度上期の再処理工場しゅん工を予定。また、電気事業連合会の池辺和弘会長も「再処理工場のしゅん工に向けた大きな節目であり、大変意義深い」とコメント。原子力発電のベースロード電源としての活用、原子燃料サイクルの重要性を強調し、今後も業界一丸となって日本原燃を支援していくとしている。
- 29 Jul 2020
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エネ調基本政策分科会、コロナショック踏まえ次期エネ基に向けて議論
総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)が7月1日に開かれ、新型コロナウイルス感染症拡大を起因とする国内外の情勢変化を踏まえ、次期エネルギー基本計画の検討に向けて意見交換を行った。現行のエネルギー基本計画は2018年に策定されており、間もなくエネルギー政策基本法に基づく「少なくとも3年ごと」の見直し時期を迎える。同分科会の開催はおよそ10か月ぶりで、冒頭、昨今の新型コロナウイルス感染症を起因とする情勢変化と、それを踏まえた課題と方向性について資源エネルギー庁が整理。IMFやIEAによる試算を示し、過去の第一次オイルショック(1973年)、第二次オイルショック(1979年)、リーマンショック(2008年)と異なり、物理的な行動が制限される「コロナショック」により、「2020年は世界的にGDPもエネルギー需要も大きく低下」などと見通した。また、国内においては、例えば電力需給で、4、5月は前年同月と比較し消費量がそれぞれ約3.6%(速報値)、9.2%(同)減少するなど、影響はあったものの、中央給電指令所や発電所での担当班が相互接触しないローテーション業務・バックアップ体制構築により、電力の安定供給に支障は生じていないと説明。その上で、今後の課題として、(1)新たな日常・生活様式・企業活動を踏まえたエネルギー需要高度化・全体最適化に向けた取組の検討、(2)エネルギー転換(電化・水素化など)の支援・推進、(3)資源・燃料の安定的な調達、(4)エネルギー・環境イノベーション投資に向けた環境整備・デジタル化の促進、(5)脱炭素エネルギー供給のさらなる導入、(6)レジリエンスの強化――をあげた。初出席の白石分科会長今回、分科会長として初めて会合に出席した白石氏は、2021年に見込まれるエネルギー基本計画の改定に向けて「大きな視点から方向性を議論して欲しい」と述べ、委員らに意見を求めた。これに対し、化石燃料に関して、豊田正和氏(日本エネルギー経済研究所理事長)は、石炭火力発電でのアンモニア混焼など、脱炭素化に向けた技術導入・国際協力の可能性を披露。原子力立地地域からは、杉本達治氏(福井県知事)が、「総発電電力量に占める比率は現在6%」と、2030年エネルギーミックスの掲げる「20~22%程度」に遠く及ばない状況を指摘し、次期エネルギー基本計画に向けて、MOX燃料の再処理、リプレース、廃炉の進展を踏まえた交付金制度のあり方、電力業界の不祥事なども「真正面から議論していく」必要性を強調。また、市民との対話活動に取り組む崎田裕子氏(ジャーナリスト)は、海洋プラスチック問題やレジ袋有料化など、SDGsを巡る最近の話題に触れたほか、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による水素社会構築の情報提供事業に対し若年層が高い関心を示していることを述べ、「社会との情報共有の定着化」の重要性を指摘。今回、委員として初出席した隅修三氏(東京海上日動火災保険相談役)は、官民一体となったイノベーション創出を図るべく「小型モジュール炉(SMR)のような安全性の高い原子力技術についても議論を」と主張した。資源エネルギー庁は「コロナショック」に伴うエネルギー需給への影響の一つとして、人流・物流の変化により「需要が集中型から分散型にシフト」したことをあげた。武田洋子氏(三菱総合研究所政策・経済研究センター長)は、最近のアンケート調査結果から「コロナ前後で一番の違いは地方中核都市への分散」と、住まい方に変化が生じつつあることを述べた上で、「コロナ以前から日本が抱えていた社会課題への投資、産業育成や雇用創出につなげていくことが重要」として、次期エネルギー基本計画で、生活者の行動変化を見据えながら中長期的方針を示す必要性を強調した。この他、中東の地政学的リスクへの対応、エネルギー教育・技術基盤の強化、原子力規制のあり方などに関する意見があった。
- 02 Jul 2020
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産業構造審が新型コロナ踏まえた今後の政策について議論、エネ計画の着実な実施も
経済産業省の産業構造審議会(会長=中西宏明・日本経済団体連合会会長)総会が6月17日に行われ、新型コロナウイルスの影響を踏まえた今後の経済産業政策のあり方について議論した。「新型コロナウイルス感染症の影響により、世界経済は大恐慌以来の大きな打撃を受けている」との認識のもと、「足下の緊急時対応」、「新たな日常への移行」、「新たな日常への適応」と、時間軸と連続性を意識した政策議論が必要との考えから、同審議会下の各部会長らが参集し意見交換を行ったもの。経産省の説明によると、2020年の世界全体の実質GDP成長率はマイナス5.2%と、リーマンショック時のマイナス0.1%を下回る水準となるものと予測。日本においても、多くの企業で前年同月と比較し売上に落ち込みが生じるなど、産業界や労働市場にもたらされた影響に関するデータを提示した上で、新型コロナウイルスによって「どのようなトレンドが見られ、どういうものが定着するのか」を見極め「新たな日常への移行」を念頭に必要となる政策の方向性を整理した。さらに、日本経済が「新たな日常」を迎えたときに抜本的な取組を強化すべき政策分野として、「医療・健康」、「デジタル」、「グリーン(気候変動への対応・エネルギー安全保障)」と、分野横断的に「レジリエンス」を提示。気候変動・エネルギー問題の関連で、IEAの試算によると、新型コロナウイルスの影響を受けた経済活動の停滞により2020年の世界のCO2排出量は8%減少する見通しだが、パリ協定で掲げる長期目標の達成には、世界全体でこの減少幅が続く必要があると分析。その上で、脱炭素化社会の実現に向けて日本がリーダーシップを発揮すべく、非効率な石炭火力のフェードアウト、さらなる再生可能エネルギーの導入・原子力の活用、需要側の電化、水素やカーボンリサイクルの技術開発などを進めるべきとしている。このほど総合資源エネルギー調査会会長に選ばれた白石隆氏(熊本県立大学理事長)は、「原子力の比率はまったく満たされていない。エネルギー基本計画をきちんと実施する意識が求められている」などと、エネルギー政策に対する意見を述べた。直近の政策課題の一つとして、雇用システム・人材育成のあり方があげられたが、武田洋子氏(三菱総合研究所政策・経済研究センター長)は、最近の生活者アンケート調査の結果を紹介し、「これまでなかったデジタル化、テレワークの継続」を求める多くの意見があったことを述べた上で、若手の育成や労働需給における分断・格差の問題を指摘。また、高等教育の立場から、益一哉氏(東京工業大学学長)がオンライン講義の有用性、研究開発の強化や公益性を考慮したオープンイノベーションの必要性を、被災地企業の立場から、御手洗瑞子氏(気仙沼ニッティング社長)が「予期せぬことは起きるもの」として、自然災害などのリスクも政策に織り込んでいくことを主張。中小企業政策審議会会長の三村明夫氏(日本商工会議所会頭)は、「大災害を乗り切った日本の強みを明確に示すべき」として、中小企業の活用や地方創生推進の重要性を強調した。
- 18 Jun 2020
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