キーワード:英国
-
英政府、サイズウェルC建設計画にDCO発給
英国イングランド南東部のサフォーク州でEDFエナジー社が計画しているサイズウェルC(SZC)原子力発電所(約167万kWの英国版欧州加圧水型炉:UK-EPR×2基)建設プロジェクトに対し、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)のK.クワルテング大臣は7月20日、「開発合意書(DCO)」の発給を決定した。DCOは国家的重要度の高いインフラ設備の建設・操業プロジェクトで取得が義務付けられている主要認可で、原子力発電所の新規建設で必要とされる最終的な手続き。英国政府は先月、SZC建設計画では「規制資産ベース(RAB)モデル」による資金調達が適していると発表するなど、EDFエナジー社と資金調達関連の交渉を継続中だが、DCO発給を受けた同社は「すべてがうまく行けば、2023年にもSZC建設計画で最終投資判断(FID)を下す」と表明している。EDFエナジー社の下でSZC計画を担当する子会社の「NNB Generation (SZC)社」は2020年5月、計画法(2008年制定)に基づいて、DCOの申請書を計画審査庁(PI)に提出した。5名の審査官で構成されるPIの審査当局(ExA)は2021年4月から10月にかけてこの申請書を審査し、今年2月にExAとしての結論と勧告を報告書にまとめてBEIS大臣に提出している。BEIS大臣は今回、同報告書およびその他の関係文書を熟慮した上で、「この建設計画には非常に高い緊急性と必要性があり、それは同計画がもたらす損失可能性を大きく上回る」と指摘、この点を踏まえてDCOを発給すべきだと結論付けている。 EDFエナジー社の発表によると、DCOを申請した際にNNB Generation (SZC)社は、SZC発電所の建設が地元コミュニティに及ぼす影響を最小限にとどめる方策と、恩恵を最大限もたらす方策を申請書に盛り込んだ。これについては、審査期間中に1,000人以上の関係者や諮問当局が根拠を提示してくれたとEDFエナジー社は指摘。また、2012年に地元サフォーク州で始まった合計4回の公開協議では、同州東部の住民1万人以上が関わったとしている。DCOの発給決定について、NNB Generation (SZC)社のC.ビンス最高企画責任者は「当社の提案を政府が全面的に支持したことを示すもので、サイズウェルC原子力発電所は必ず地元の事業や住民に様々なチャンスをもたらすとともに、サフォーク州が誇れるようなものを後に残すはずだ」と表明。同発電所はまた、CO2排出量を実質ゼロ化に導く英国最大規模のインフラ設備になるだけでなく、約600万戸の世帯に低炭素で信頼性の高い電力を供給。火力発電所を代替することで、同発電所によるCO2排出抑制量は年間約900万トンになると指摘している。 英国原子力産業協会(NIA)のT.グレイトレックス理事長は同日、「英国におけるエネルギー供給保証の強化とCO2排出量の実質ゼロ化に向けて、非常に大きな一歩になった」と表明。サイズウェルC原子力発電所は今後80年以上にわたり無炭素な電力を安定的に供給するほか、天然ガスの使用量を削減し高サラリーの雇用を数千人規模で創出、英国全土で投資や事業の機会を長期的に提供していくとした。また、同発電所の建設が認められたことで、英国では今後原子力発電所を新たに建設していくための道筋が格段に強化されたと指摘している。(参照資料:英国政府、EDFエナジー社、NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 22 Jul 2022
- NEWS
-
英政府、原子燃料基金構想を発表
英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は7月19日、原子力部門で高度なスキルを要する雇用を維持しつつ新たな原子力インフラへの投資を促進するため、原子力発電所用原子燃料の国内生産量拡大を目的とした「原子燃料基金(NFF)」を7,500万ポンド(約124億円)の予算で始動すると発表した。同基金で支援するプロジェクトの選定入札を今秋に控えて、BEISは同基金を通じて原子力部門における費用対効果を確実なものにし、英国のエネルギー需要を十分に満たせるよう同基金の構造設計を検討している。このためBEISは同日、入札に関心を持つ企業に同基金への登録を促すとともに、入札の意思がないステークホルダーからは、原子力部門が抱える課題や今後のビジネス機会について知見に基づく見解など、基金設計の構築に役立つ情報を得るため、「情報提供依頼書(RFI)」を産業界に向けて発出したことを明らかにした。8月4日までの期間、書面で情報を提供してほしいと要請している。BEISは今年4月、クリーンで安価な国産エネルギーの開発を英国で大幅に加速し、エネルギー自給を長期的に改善するという「英国エネルギー供給保証戦略(BESS)」を発表した。このなかで安全でクリーンな原子力発電については、2050年までに現在の約3倍に相当する最大2,400万kWの設備容量を確保し、現時点で約15%に留まっている発電シェアを最大25%に引き上げる方針だと明記。既存の技術を使った軽水炉(LWR)や小型モジュール炉(SMR)に加えて、先進的原子炉設計(AMR)など、今後は様々なタイプや出力の原子炉を建設していくとしており、今年5月には新規の原子力発電所開発プロジェクトを支援するため、1億2,000万ポンド(約199億円)の補助金制度「将来の原子力開発を可能にするための基金(Future Nuclear Enabling Fund)」を起ち上げたと発表している。英国はこれまで、既存の原子炉で使用する原子燃料のほとんどすべてを国内サプライチェーンで確保してきたが、BEISによれば、民生用原子力発電所の開発規模拡大にともない、様々な原子炉設計を利用する可能性が高まり、原子燃料部門の重要性は一層高まっている。供給途絶を回避する確実な燃料供給により、原子力が英国のエネルギー供給システムに最大限に貢献すると指摘した。燃料部門のこのような潜在能力を現実化するため、英国政府は今回、「2021年の包括的歳出レビュー」で原子燃料基金の設置を決めた。同基金の入札では、国内での原子燃料生産量の拡大や諸外国からの燃料輸入量削減に資する様々な施設の設計・建設プロジェクトを選定し、それぞれに対し最大50万ポンド(約8,300万円)を提供。支援を受けたプロジェクトの諸活動は、2025年3月末までにすべて完了することになる。このような政府支援では、プロジェクトへの共同投資を民間部門から引き出すことも狙っており、BEISのK.クワルテング大臣は「原子力発電を大幅に拡大する計画を立てたため、それに見合う強靱で確実な燃料サプライチェーンを国内で確保することは理に適っている」とコメント。「この資金援助により、英国では既存の原子炉や将来の先進的原子炉設計に燃料を供給する様々なプロジェクトが始動し、民間部門からの投資も促される。これらは関係雇用を創出するだけでなく、英国のエネルギー供給保証を一層強化することにも繋がる」と指摘している。(参照資料:英国政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 20 Jul 2022
- NEWS
-
英政府、サイズウェルC建設計画で環境認可関係のパブコメ開始
英国の環境庁(EA)は7月4日、イングランド南東部サフォーク州でサイズウェルC(SZC)原子力発電所を建設・運転した場合の環境影響に関して、3種類の許可を発給する方針を提案。同提案を9月25日まで12週間にわたりパブリックコメントに付した。同提案について、国民やエネルギー関係の産業界、学界、NGO等から幅広く意見を募集、その上で最終的な判断を下し2023年初頭に結果を公表するとしている。EDFエナジー社の下でSZC計画を担当する子会社のNNB GenCo(SZC)社は2020年5月、SZC発電所の運転に際して放射性廃棄物を排出・処分する方針と、同発電所の予備電源としてディーゼル発電機を使用すること、および温排水と液体排出物を北海に放出する方針について、EAに許可申請書を提出した。EAは同年7月から10月までこの3つの申請書を審査した上で今回の判断を下したもので、これについては放射線影響に関する評価や周辺生態系の規制に関する評価、関係水域の水質や量に関する対策の枠組み評価等からも、EAの判断を支持する結果が得られたとしている。EAでSZC計画を担当するS.バーロー・マネージャーは、「これは発電所を建設する何年も前からNNB GenCo社が申請していた許認可。プロジェクトの開始前に発給の判断を下せば、発電所の設計や資機材の調達、起動などの面で良い影響があるし、周辺環境や野生生物の保全という点でも万全だ」と指摘した。パブコメの募集に関しては「我々の提案を関係者およびその他の人々に広く知らしめた上で意見を伺いたいし、我々が見落としているかもしれない情報の提供もお願いする」と表明。最終判断を下す際には、得られた意見を注意深く考慮すると約束している。SZC計画では、フラマトム社製の167万kWの欧州加圧水型炉(EPR)を2基建設する予定で、NNB GenCo(SZC)社は2020年5月、計画法(2008年制定)に基づき「開発合意書(DCO)」の申請書を計画審査庁(PI)に提出した。計画法によると、担当大臣は審査機関がDCO発給の可否に関する審査報告書を提出してから3か月以内に可否の判断を下さねばならず、SZC計画のDCOに関しては7月8日が、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)のK.クワルテング大臣が議会に結果を報告する現時点での期限となっていた。しかし、住宅・コミュニティ・地方自治省のP.スカリー閣外大臣は今月7日(※スカリー大臣は同日付でBEIS政務次官から異動)、議会の下院に対し「DCO発給の可否を公表する期限として新たに7月20日を設定した」と発表。理由として、BEIS大臣に十分な検討時間を与えるためだと説明している。EDFエナジー社は現在、イングランド南西部サマセット州でヒンクリーポイントC原子力発電所(172万kWのEPR×2基)を建設中だが、このプロジェクトでは中国広核集団有限公司(CGN)が2016年9月に33.5%の出資を約束した。その際、CGNはSZC計画に関しても20%の出資を約束していたことから、DCOの発給判断を下すのに先立ち今一度熟慮が必要と見られている。(参照資料:英国政府の発表資料①、②、英国議会の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 11 Jul 2022
- NEWS
-
英国の原子炉開発新興企業、MOX燃料製造工場の建設に向け資金調達
クリーンで安全な第4世代の先進的原子炉を開発するため、2021年9月に英国で設立された新興企業のニュークレオ(Newcleo)社は6月20日、今年3月の初回の株主総会を契機に開始した資金調達で、2か月間で3億ユーロ(約429億円)の調達に成功したと発表した。この資金を活用して、同社は今後5年から7年の間に、英仏の両国で鉛冷却高速炉(LFR)の電熱加熱式プロトタイプ装置(出力3万kW)を建設するほか、LFRで使用するウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の製造工場についても建設を進める方針。このため、グローバルな原子力産業企業である仏オラノ社には、同工場建設の実行可能性調査を依頼中であり、今年の後半にもLFRプロトタイプとMOX燃料製造工場の建設サイトの確保に向けて、優先業務を進めていきたいとしている。ニュークレオ社は最終的に、モジュール式で受動的安全系を備えた小型の可搬式LFR(出力20万kW)の開発を検討しており、今年3月にはイタリア経済開発省の新技術・エネルギー・持続可能経済開発局(ENEA)と協力する枠組協定を締結した。ENEAは液体鉛の分野で世界レベルのノウハウを蓄積しており、欧州原子力共同体(ユーラトム)が進めているLFR開発プロジェクトでは、イタリアのアンサルド社とともに主導的役割を担っている。ニュークレオ社はまた、LFRの製造販売に向けた国際拠点として、子会社の「ニュークレオSA社」をフランスで設立した。同国では今年2月、CO2排出量を2050年までに実質ゼロ化するため、E.マクロン政権が既存の商業炉の運転期間延長と新たな原子炉の建設を含むエネルギー政策を公表したことから、同社にとって戦略的に重要な市場になると考えている。フランスではすでに高速炉でのMOX燃料使用が認められているため、同社はLFRでこの燃料を使えばコスト面の競争力が上がるだけでなく、本格的に持続可能な原子力アプローチになると考えている。具体的には、長寿命の放射性廃棄物を処分する環境面や財政面の負担を減らせるほか、核拡散上のリスクも軽減、新たな原子燃料の入手でウランを採掘する必要性も完全になくなるとした。これらのことから、ニュークレオ社は産業規模のMOX燃料製造工場を建設して、LFRプロトタイプの将来的な運転に必要な燃料を確保、その後に英仏の両国で建設する複数のLFRにも活用すると述べた。重要な点は、同社のLFRが英仏両国の原子力増強戦略に合致するとともに、これらを補完する手段にもなることだと強調。ニュークレオ社は、すでに排出された廃棄物と新たに発生する廃棄物を持続的に管理する安全かつ効率的な方法としてMOX燃料を製造し、最終処分しなければならない廃棄物の量を大幅に削減していく考えだ。ニュークレオ社のS.ブオノ会長兼CEOは、「(ロシアによるウクライナへの軍事侵攻など)近年の地政学的展開は、世界レベルのエネルギー供給保証や脱炭素化に必要な措置として、原子力がますます重要になることを明確に示している」と指摘。「当社はクリーンで持続可能なエネルギーの必要性という差し迫った課題に迅速に対応中で、市場の状況から見て今こそ、原子力の枠組みを新たな技術に変化させる時期だと考えている。この新しい原子力技術なら、コストと安全性、放射性廃棄物という産業界の大きな懸念事項にも、効率的に取り組むことが可能になる」と強調した。(参照資料:ニュークレオ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 22 Jun 2022
- NEWS
-
SZCプロジェクトへのRABモデル適用が進展 英国
英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)のK.クワルテング大臣は6月14日、イングランド南東部のサフォーク州でEDFエナジー社が計画している「サイズウェルC(SZC)原子力発電所建設プロジェクト(約167万kWの欧州加圧水型炉=EPR×2基)」に対し、「規制資産ベース(RAB)モデル」を通じて資金調達を行う手続が大きく進展したと発表した。今年3月に成立した「原子力融資法」の基準に基づき、同相はこの日、同モデルの支援を受けるSZC発電所の開発事業者として、EDFエナジー社の子会社であるNNB GenCo(SZC)社を指名した。指名理由をまとめた文書案は7月4日までの期間、NNB GenCo(SZC)社と規制当局の原子力規制庁(ONR)と環境庁(EA)、ガス・電力市場局(Ofgem)に提示される。また、資金の調達方法や収益調整など同モデルの詳細に関する見解も、複数の原子力開発事業者やエネルギー企業、英国の送電系統運営者、スコットランドとウェールズの関係閣僚といったステークホルダーから聴取する。これらは同モデルで事業者支援を行う最初のステップになるとしている。これとは別に、SZC建設プロジェクトを正式に進めるには、主要認可である「開発合意書(DCO)」を英国政府から取得しなければならない。NNB GenCo(SZC)社は2020年5月、計画審査庁(PI)に「DCO」の申請書を提出しており、BEISの担当相はPI勧告に基づいて7月8日までに可否の最終判断を下す予定。この締め切り日は当初、今年の5月22日に設定されていたが、関係情報を十分検討する時間が必要だとして、PIが5月12日に日程の延期を発表していた。英国では現在、EDFエナジー社が南西部サマセット州でヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所(172万kWのEPR×2基)を建設中だが、開発リスクに対する英国政府の保証として発電電力の売買に「差金決済取引(CfD)」を適用することが決まっている。しかし、CfDでは開発事業者が建設資金を全面的に賄わねばならない上、発電所の運転開始後に初めて資金の回収が可能になることからリスクが大きく、後続のカンブリア州のムーアサイド計画や、ウェールズにおけるウィルヴァ・ニューウィッド計画は撤回された。これに対して、RABモデルで建設資金を調達した場合、事業者は経済規制当局の認可に基づき、建設工事の初期段階から平均的な世帯の年間電気代に数ポンドを上乗せできるほか、本格的な工事期間中は月額平均で約1ポンド(約162円)が徴収可能。資金の調達コスト(借入利子)も軽減されるため、プロジェクトの確実性という点で民間部門の投資家に安心感を与え、最終的には消費者の電気代が削減される。英国政府は、大型炉建設プロジェクトの全期間中に節約される金額は、1件当たり300億ポンド(約4兆8,700億円)を超えると試算している。このような手続を通じて、原子力発電所の新設交渉はまた一歩、実現に近づいたとBEISは指摘。SZC建設プロジェクトは、新しい資金調達の枠組を原子力で活用する最初の事例となり、英国では2030年までに新たな原子炉の建設計画を最大で8基分承認するほか、2050年までに原子力発電設備を2,400万kWまで拡大、「英国の原子力ルネサンス」を実現に導くことができると強調している。(参照資料:BEIS、EDFエナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 15 Jun 2022
- NEWS
-
英国で建設中のHPC 1号機、送電開始時期を1年延期
フランス電力(EDF)は5月19日、英国子会社のEDFエナジー社が同国で約20年ぶりの原子力発電所として建設しているヒンクリーポイントC(HPC)発電所(172万kWの欧州加圧水型炉=EPR×2基)について、1号機の送電開始日程を前回2021年1月の予測からさらに1年先送りし、2027年6月に設定したと発表した。総工費に関しても、建設プロジェクトの最終投資判断(FID)を下した2016年9月当時、EDFエナジー社は196億ポンド(約3兆1,400億円)と試算していたが、2019年9月にこの数値を215億~225億ポンド(約3兆5,200億~3兆6,000億円)に改訂。2021年1月時点の見積もりでは220億~230億ポンド(約3兆5,300億~3兆7,000億円)に拡大しており、今回の日程先送りにともなう金額は250億~260億ポンド(約4兆~4兆1,700億円)に増加した。しかしEDFは、「同プロジェクトでは差金決済取引(CfD)((電力取引において、売電側と買電側で事前に一定の「行使価格」を設定。電力市場価格が行使価格を上回った場合、売電側がその差額を買電側に支払う一方、電力市場価格が行使価格を下回った場合は、買電側がその差額を売電側に支払う。))が適用されるため、英国民が支払う電気代に影響はない」と強調している。2018年12月の1号機着工以降、EDFエナジー社はコロナ禍においても建設を継続。2019年12月には2号機の建設工事も開始し、EDFは適宜スケジュールとコストを見直している。その結果、同社は2021年1月に、1号機で当初予定していた送電開始を2025年末から2026年6月に延期すると発表、今回はその日程をさらに先送りする判断を下した。また今後、新たな感染拡大の波やウクライナでの戦争がこれ以上影響を及ぼさないと仮定した場合でも、これら2基の作業がさらに15か月遅延する可能性があると指摘。今回の見直し作業においては、電気機器関係の作業と最終試験のスケジュールとコストは考慮しなかったとしている。コロナ禍で建設工事を継続した成果として、EDFは「サプライチェーンの健全性が保たれたほか、いくつかの重要な節目の作業が完了した」と指摘した。しかし、人的資源や資金、サプライチェーンが大きな制約を受けたのも事実であり、作業効率が低下。作業量などが増加し、延期の要因になったという。なお、同プロジェクトで次に実施する節目の作業として、EDFは2023年第2四半期に格納容器ドーム屋根の吊り上げと設置を予定している。(参照資料:EDFエナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 23 May 2022
- NEWS
-
英国政府、新規の原子力開発を可能にするための基金を立ち上げ
英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は5月13日、原子力産業界における競争を促し英国全土で関係投資が行われるよう、新規の原子力発電所開発プロジェクトを支援する1億2,000万ポンド(約192億円)の補助金交付制度として、「未来原子力実現基金(Future Nuclear Enabling Fund=FNEF)」を立ち上げたと発表した。今年の後半にも補助金の交付を始めたいとしており、関係企業に対しては交付先を決める際に実施する入札への登録を済ませるよう依頼しているほか、新たな原子力発電所の開発プロジェクトに関する情報も募集。今回のFNEFへの応募を考えていない企業にも、自社の経験に基づく知見をFNEFの制度設計に反映するため提供することを希望している。7月から8月にかけて入札書を受領した後、英国政府は入札者の適格性試験を実施する予定で、その次の段階ではさらに詳細な評価作業も実施。交付条件等で双方が折り合えば、12月からFNEFの補助金を交付するとしている。FNEFの設置は、BEISが今年4月に発表した英国の新しい「エネルギー供給戦略」の中で約束していたもので、2030年までに新しい原子炉8基の建設承認を済ませるという英国政府の意欲的な計画を実現するため、原子力市場への新たな参入希望者を奨励するとともに、新しい原子力技術の開発加速で投資を促す。このため、小型モジュール炉(SMR)を含む新規の原子力建設プロジェクトに補助金を交付する際は、的を絞った上でプロジェクト同士が競合することの利点を発揮するよう入札を設定し、その実現に向けて民間投資を呼び込む方針である。BEISは、原子力発電が英国エネルギーミックスの重要部分を担うと考えており、世界の天然ガス市場における英国の依存度を下げるとともにエネルギーの自給を改善すると指摘。英国民も原子力によって高いエネルギー料金を払わずに済むことから、将来のクリーンエネルギー技術の一つとして原子力への投資を促進する。FNEFはそれを支援するための制度であり、英国のあらゆる地域で新規建設の機会を提供し雇用を創出、国内の原子力サプライチェーンではこれにより、レジリエンス(供給力の一時的な低下等からの回復力)の強化と、関係機器の製造能力増強が図られる。BEISは今回、FNEFと同様に設置すると約束している新しい政府組織「大英原子力推進機関(Great British Nuclear=GBN)」の立ち上げ計画を練るため、産業アドバイザーとしてバブコック・インターナショナル・グループで原子力担当CEOを務めていたS.ボウウェン氏を起用すると発表した。GBNは一年に1基という早いペースの新規原子力発電所開発プロセスを支援するための組織で、「エネルギー供給戦略」に明記された目標「2050年までに原子力で最大2,400万kWの発電設備」の実現に向けて活動する。GBNを通じて英国政府は2023年から、最も有望な原子力新設プロジェクトをさらに選定する作業や事業者との交渉を開始する方針。ウェールズのアングルシー島にあるウィルファ・サイトへの支援も含め、英国政府はFNEFを通じた支援を出来るだけ早急に可能にしたいとしている。(参照資料:英国政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 17 May 2022
- NEWS
-
英国のHTGR開発で米X-エナジー社が英キャベンディッシュ社と協力
米メリーランド州で次世代の原子力技術を開発しているX-エナジー社と、原子力発電所のあらゆる側面でサービスを提供している英国のキャベンディッシュ・ニュークリア社は5月11日、英国内でX-エナジー社製の高温ガス炉(HTGR)を建設するため、協力覚書を締結したと発表した。X-エナジー社は現在、小型のペブルベッド式HTGR「Xe-100」を開発中。電気出力8万kWのHTGRを4基連結することで、出力を32万kWまで拡大できる。X-エナジー社はこのようなHTGR設計を通じて、電力や産業用の熱生産、大規模な水素製造等で脱炭素化を促進するなど、世界中で高まりつつあるクリーン・エネルギーの需要に応えられると考えている。米国内では2027年以降に初号機を建設する計画で、英国での建設はそれ以降になるとしている。英国ではビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が2021年12月、2030年代初頭の実証を目指して建設する先進的モジュール式原子炉(AMR)技術として、高温ガス炉(HTGR)を選択した。柔軟性の高い活用が可能な原子炉開発予算3億8,500万ポンド(約605億円)のうち、1億7,000万ポンド(約267億円)を「AMRの研究開発・実証プログラム」に投じ、HTGRの初号機を建設する考えだ。BEISはまた、今年4月に新しい「エネルギー供給保証戦略」を発表しており、この中で原子力開発における3つの方向性として、100万kW級の大型炉のほかに小型モジュール炉(SMR)、およびHTGRなどのAMR(*)を開発する方針を示している。米英の2社による今回の共同発表によると、HTGRの開発と建設に関する両社の協力は、「これら3つの方向性すべてに貢献する」というキャベンディッシュ・ニュークリア社の方針を支えるとともに、英国のエネルギー供給保証を一層確実なものとし、2050年までに英国がCO2排出量の実質ゼロ化を達成する一助になる。両社はまた、英国の原子力サプライチェーンにも、新たなビジネスの機会が相当量創出されると強調している。キャベンディッシュ・ニュークリア社は「世界をリードする米国の原子炉技術と、当社のプロジェクト統合能力や機器の製造・モジュール化技術、運転保守(O&M)能力などを組み合わせることで、双方の豊富な経験と幅広い専門的知見が一つにまとまり、英国でHTGRを開発・建設するための絶好の機会が生み出される」と表明した。「Xe-100」に関連する動きとしては、米エネルギー省(DOE)は2020年10月、「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」における7年間の支援対象企業の一つとしてX-エナジー社を選定。米国内では、ワシントン州の2つの公益電気事業者(グラント郡PUDとエナジー・ノースウエスト社)が、「Xe-100」をエナジー・ノースウエスト社保有のコロンビア原子力発電所と同じサイト内で建設することを計画している。同設計についてはまた、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が2020年8月から予備的設計評価(ベンダー設計審査)を実施中。建設・運転許可の取得に向けた正式な申請手続に先立ち、同設計がカナダの規制要件を満たしているか、X-エナジー社の要請に基づいて評価している。さらに、ヨルダンが2030年までに「Xe-100」を国内で4基建設することを希望しており、X-エナジー社とヨルダン原子力委員会は2019年11月、基本合意書を交わしている。【注*】BEISは既存世代の原子力発電所の後に出現する新しい原子炉技術の説明としては、一般的に理解されている「SMR」という表現では意味が狭すぎると考えており、①水で冷却する方式の第3世代SMR:既存の原子力発電所と似たタイプの技術で出力が小さい、②新たな冷却システムや燃料を使う第4世代以降の新型モジュール式原子炉:産業プロセス熱などの新機能を提供できる――などの2グループに分類している。(参照資料:X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 13 May 2022
- NEWS
-
英国の新しいエネルギー供給保障戦略、電力自給の改善で原子力を大幅拡大
©BEIS英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は4月6日、クリーンかつ安価な国産エネルギーの開発を大幅に加速し、英国のエネルギー自給を長期的に改善するという新しい「エネルギー供給保障戦略」を公表した。 その中で原子力は中心的役割を担っており、これまでのように原子炉を10年に1基ではなく「年に1基」という早いペースで建設していき、2050年までに最大8基を稼働可能にすると表明している。同国のB.ジョンソン首相は、エネルギー価格の世界的な高騰や国際エネルギー市場における激しい価格変動を背景に、この「大胆な」戦略を通じて英国のエネルギー供給保障を一層強化する方針。2030年までに英国の供給電力の95%までを低炭素化するため、原子力や風力、太陽光、クリーン水素等のクリーンエネルギー設備を迅速かつ意欲的に建設、短期的には国産石油や天然ガスの増産も支援していく考えだ。同戦略では原子力を、国内総電力量の約15%を安定的に供給する必要不可欠な電源であるとともに、間欠性の高い再生可能エネルギー源を補う存在と位置付け、同じ広さの太陽光発電設備の100倍以上の電力をもたらす、英国のエネルギーの根幹をなす低炭素電源であるとした。島国の英国でベースロード用の電源を十分に確保するには、原子力を活用する以外に方法はないとも指摘しており、英国は原子力で再び世界をリードしていくと明言。小型モジュール炉(SMR)も含めて、2050年までに現在の約3倍にあたる最大2,400万kWの発電容量を安全でクリーンな原子力発電で確保し、国内電力需要の最大25%までを賄う計画である。このための方策として、同戦略はまず、英国を原子力投資に最適な国の一つにすると表明。具体的に、上記の開発目標や2030年までに最大8基建設する方針に言及したほか、現行議会の期間中にSMRも含めて1プロジェクトの原子力発電所建設計画、次期議会ではさらに2プロジェクトで最終投資判断(FID)が下されるよう進めていくとした。また、新規の原子力発電所建設プロジェクトの進め方を大幅に変更する方針で、今月中に1億2,000万ポンド(約194億円)の予算で「将来の原子力開発を可能にするための基金(Future Nuclear Enabling Fund)」を設置。開発プロセスの全段階で支援を提供する新しい政府機関として、年内にも「大英原子力(Great British Nuclear)」を立ち上げ、新設プロジェクトの投資準備や建設期間中の支援が可能になるよう、同機関に十分な予算措置を講じる。これにともない、英国政府は2023年にも、新たな支援対象プロジェクトの選定作業を開始すると表明。可能な限り迅速に政府支援を提供できるよう、有望なプロジェクトの事業者と交渉に入りたいとしている。さらに、英国内では現在、新規の原子炉建設が可能なサイトが8か所あるが、今回の意欲的な計画を円滑に進めるため、長期間を見渡した包括的な立地戦略を策定する。このほか、SMRや先進的モジュール式原子炉(AMR)など先進的な原子力技術の開発を加速するため、諸外国と協力していく。ジョンソン首相は今回の戦略について、「新たな原子力設備から洋上風力に至るまで、今後10年の間にクリーンで安価な国産エネルギーの設備を拡大、価格変動の激しい輸入エネルギーへの依存を減らして、一層安価な国産エネルギーを享受する」と説明。BEISも、「新型コロナウイルスによる世界的感染の拡大後、エネルギー需要の急増で価格が世界的に上昇したことや、ロシアがウクライナに軍事侵攻したこと等により、今回の戦略を策定するに至ったが、この戦略は英国が高価格の化石燃料による発電を止め、長期的なエネルギー供給保障の確保で多様な国産エネルギーを推進する上で中心的役割を果たす」と強調している。(参照資料:BEISの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 08 Apr 2022
- NEWS
-
英国の新興企業、小型の鉛冷却高速炉の開発でイタリアのENEAと協力
昨年9月に英国で設立された先進的原子力技術の開発企業、ニュークレオ(Newcleo)社は3月16日、第4世代の原子力システムである(小型の)鉛冷却高速炉(LFR)の開発に向け、イタリア経済開発省の新技術・エネルギー・持続可能経済開発局(ENEA)と協力する枠組み協定を締結したと発表した。イタリアでは1990年までにすべての商業炉が閉鎖されているが、ENEAは液体鉛の分野で世界レベルのノウハウを蓄積。欧州原子力共同体(ユーラトム)が進めているLFR開発プロジェクトでは、同国のアンサルド社とともに主導的役割を担っている。このため、ニュークレオ社はENEAとの協力を通じて、今後7年以内に原子燃料や放射性物質を使わない電気加熱式のLFRプロトタイプ装置を、原子力推進の国で建設する。ニュークレオ社とENEAの共同研究では、LFRの熱力学的性能や機器の性能を研究するだけでなく、加速器駆動核変換システム(ADS)の設計研究も進め、現存する放射性廃棄物の大幅な削減を目指す。最終的に同社は、革新的技術を用いた安全で信頼性の高い小規模のモジュール式・先進的原子力システム(AMR)を(商業炉の運転が行われていない)イタリア以外の国で完成させ、国際市場に売り出す方針。これにより同市場では、第2世代や第3世代の原子炉設計が徐々に第4世代炉に切り替わっていくとしている。開発に際してニュークレオ社は、ENEAが保有するブラジモネ研究センターのインフラや技術力を活用。安全性分析や試験等を行うが、今回の協力協定の一環として新たな研究設備も同センターに設置する。そのために同社が投資する金額は10年間で5,000万ユーロ(約67億円)を上回る見通しで、新たに25~30名のエンジニア・チームも雇用する。同チームは今後約10年にわたり、ブラジモネ研究センターで働くことになる。ニュークレオ社のS.ブオノCEOは、ENEAとの協力について「当社には地球の今後のエネルギー・バランスを保つという重要な使命があり、そのための意欲的なスケジュールも設定した」とコメント。「ENEAの研究者との協力やブラジモネ研究センターへの投資を通じて、プロジェクトを実現するだけでなく、イタリアにおける研究開発の進歩にも貢献したい」と抱負を述べた。ENEAのG.ディアルーチェ局長も、LFRで安全かつ長期的な発電を行うという目標の達成に向け、ともに協力していく考えを表明。両者が研究活動を実施するブラジモネ研究センターの立地地域では、核融合技術の開発や放射性医薬品の製造など、その他の戦略的プロジェクトも行われている点を強調した。(参照資料:ニュークレオ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 25 Mar 2022
- NEWS
-
英国の超党派議員連盟、原子力で少なくとも1,500万kWの新設が必要と訴える
英国原子力産業協会(NIA)の3月17日付けの発表によると、英国議会における超党派議員連盟(APPG)の原子力推進派(原子力APPG)が同日、「英国がエネルギーの供給保証を強化するには、大小様々な規模の原子炉で2035年までに少なくとも1,500万kWの設備が新たに必要」と政府に訴える声明文を発表した。折しも、英国のB.ジョンソン首相は3月15日付けのThe Daily Telegraph紙で、「今こそ新たに原子力で大きな賭けに出るべきだ」との原稿を寄稿。労働党政権時代の歴史的な過ちを正し、ベースロード用電源として天候に左右されない原子力発電を大幅に拡大、ロシアのプーチン大統領の脅迫に翻弄されることのない盤石なエネルギー供給保証を英国内で確立すべきたと述べていた。英国政府は近々、ジョンソン首相のこのような方針を盛り込んだ国家エネルギー供給保証戦略を公表する予定である。このため原子力APPGは、同戦略に原子力を含めるという政府の方針を全面的にサポートしていくと表明。英国が天然ガスの輸入依存を断ち切り、国内の原子力再生に向けて必要とする5つのステップは以下の通りだと説明している。・「原子力発電開発に意欲的であれ」:政府の原子力開発ロードマップに、2035年までに新たに1,500万kW、2050年までに少なくとも3,000万kWの原子力発電設備を開発するとの目標を明記する。これにより、英国が先進的原子炉や大小様々な規模の原子炉を複数建設していく覚悟であることを明確に示す。・「原子力に投資する権利を獲得する」:4月の復活祭(イースター)までに、環境上の持続可能性を備えたグリーン事業への投資対象(英国タクソノミー)に原子力を含め、英国財務省が2021年6月に公表した「グリーン事業に対する資金調達の枠組み」の中で原子力を有資格の事業とする。・「原子力発電所の新設プロジェクトを加速する」:EDFエナジー社のサイズウェルC原子力発電所建設計画について、1年以内に最終投資判断が下されるよう促すほか、ウェールズ北部のウィルファ地点で大型炉の建設を提案している米ベクテル社とウェスチングハウス社のJVに対し、今日にも開発前段階の財政支援を与える。また、現政権期間中に小型モジュール炉(SMR)を10基発注するほか、その他の様々な規模の原子炉開発プロジェクトを前進させる。・「開発事業者に建設候補地へのアクセスを許可する」:使われていない原子力サイトの管理者である原子力廃止措置機構(NDA)に権限を与えて、これらのサイトを有望な開発事業者に貸与できるようにする。また、建設の可能性がある用地を保有する民間企業に対しては、原子力発電所開発に使用しなければならないことを明確に示す。・「開発プロジェクトの実施を支援する」:開発プロジェクトの実施に必要な「開発合意書(DCO)」の取得プロセスを簡素化するほか、基準に沿った形で開発事業者が時間を節約し、複数の計画立案や許認可取得手続きを同時に進められるようにする。関係するすべての規制機関にCO2排出量の実質ゼロ化を義務付けるとともに、「今後の原子力開発を可能にするための基金」に追加の資金を投入、入札の実施基準やプロセスについては詳細を公表する。今回の声明文について、原子力APPGのI.リデル=グレインジャー議長は、「最も重要視しているのは不安定な輸入燃料からどのようにして英国民の生活を守るかということだ」と表明。同議長によると、政府はCO2排出量の実質ゼロ化に必要な、信頼性の高い国産電力を原子力が提供できることに気付いている。その上で、「我々原子力APPGが今回提示した5つのステップは、英国が緊急に必要としている国家的重要インフラの獲得を可能にする」と強調している。ジョンソン首相の円卓会議©UK Governmentなお、英国のジョンソン首相はその後の3月21日、首相官邸に英国原子力産業界の首脳を招いて円卓会議を開催している。英国の原子力発電開発を加速する方法や、国内のエネルギー供給保証の改善方法について協議したもので、首相からは「クリーンで安全なエネルギー源である原子力が、英国の将来のエネルギー供給システムの中で主要部分を占める」という明確なビジョンを提示。原子力産業界の代表者からは、それぞれが国内外の専門的知見に投資して開発中の大型炉やSMRなど、様々な原子力技術やプロジェクトを紹介している。(参照資料:NIA、英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 24 Mar 2022
- NEWS
-
英規制当局、ロールス・ロイス社製SMRの設計認証審査を開始
英国の原子力規制庁(ONR)は3月7日、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)からロールス・ロイスSMR社製の小型モジュール炉(SMR)設計について、包括的設計認証審査(GDA)の実施を要請されたと発表した。審査に必要な財源の確保や審査スケジュール等の調整がつき次第、ONRは同設計の安全面について、環境庁(EA)とウェールズ自然保護機関(NRW)は環境影響面について審査を開始する。ロールス・ロイス社のSMR開発子会社であるロールス・ロイスSMR社は昨年11月、BEISに対してGDA申請の意思を表明しており、これにともなう最初の手続きとして、BEISは同社に関する初期スクリーニングを実施した。今回のONRへの要請は、同スクリーニングの結果、ロールス・ロイスSMR社には審査に値する能力と資質が備わっているとBEISが結論付けたことによる。ロールス・ロイスSMR社の発表では、同社製SMRは世界中の既存のPWR技術を活用した設計であり出力は47万kW。これは、陸上風力発電のタービン150台分以上に相当する。同設計はまた、工場内で機器を製造した後、設置場所で組み立てることができる。少なくとも60年間稼働してベースロード電源としての役割を果たすほか、間欠性のある再生可能エネルギーを補って、その設備容量拡大を支援。同社としては、2030年代初頭にも最初のSMRを国内送電網に接続する計画である。同社は2021年11月、米国の大手電気事業者であるエクセロン・ジェネレーション社、およびフランス国籍の投資目的企業のBNFリソーシズUK社とともに、英国内でのSMR開発に今後3年間で合計1億9,500万ポンド(約295億円)投資する計画を発表している。これを受けてBEISは、同社へのマッチングファンドとして2億1,000万ポンド(約318億円)を提供する方針を表明。英国政府からの資金提供は、同国の戦略的政策研究機関「UKリサーチ&イノベーション(UKRI)」が「低コストな原子力の課題(LCN)」プロジェクトで、2019年11月に「産業戦略チャレンジ基金(ISCF)」の中から1,800万ポンド(約27億円)をロールス・ロイス社が率いる「英国SMR企業連合」に提供したのに続くもの。2億1,000万ポンドは、同様にLCNプロジェクトから拠出される。BEISのGDA開始要請について、ロールス・ロイスSMR社のT.サムソンCEOは、「複数のSMRを英国内で建設して低炭素な電力を適正価格で発電、英国が目指すCO2排出量の実質ゼロ化に貢献するという当社目標の達成にまた一歩近づいた」と表明。同社で規制・安全問題を担当するH.ペリー取締役も、「当社にはGDAや許認可手続きで対応経験がある専門チームが設置されており、規制当局とは協力的な関係にある。当社のこれまでの経験や教訓を駆使してGDAプロセスを進めていきたい」と述べた(参照資料:ONR、ロールス・ロイスSMR社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 08 Mar 2022
- NEWS
-
英国、HTGR実証炉建設計画の入札に先立ち産業界と情報交換
©BEIS英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は2 月16日、「先進的モジュール式原子炉(AMR)の研究開発・実証プログラム」の下で2030年代初頭までに高温ガス炉(HTGR)の実証炉を建設するため、原子力産業界と事前の情報交換を行うと発表した。建設計画の「フェーズA」として、BEISは今年の春にも正式な入札招請(ITT)を開始するとしており、それに先駆けて関係情報を収集するのが主な目的。同プログラムの詳細と建設計画の指標となる概略的なスケジュールを提示した上で、資機材と燃料のサプライチェーン、機器製造や建設工事の関係企業、高温熱のエンドユーザーなど、HTGR開発に関心を持つ潜在的なサプライヤーから3月4日までの期間に要望や意見を聞き、実際の調達活動に備える方針である。BEISは2021年7月、「AMRの研究開発・実証プログラム」における初号機として、1億7,000万ポンド(約265億円)の予算でHTGRを建設する計画を発表。この提案は、CO2排出量の実質ゼロ化に向けた重要施策としてB.ジョンソン首相が2020年11月に公表した「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」、および翌12月に英国政府が発表した「エネルギー白書」で約束した施策である。これらは、2050年までに英国がCO2排出量の実質ゼロ化を目指すにあたり、政府がHTGRを最も好ましい技術と認識していることを示したもので、2021年12月にBEISは、2030年代初頭の実証を目指して建設するAMR技術のひとつとして、HTGRを正式に選択したことを明らかにした。今回の発表でも、BEISは同プログラムの目的について、「低炭素な水素製造や様々な産業界で利用する高温熱の生産、コスト面の競争力がある発電等でHTGRの高温熱が役に立つと実証することだ」と説明している。同プログラムの概略スケジュールによると、「フェーズA」の段階では今年の春以降、最大250万ポンド(約3億9,000万円)をかけて、6~9か月間にわたり基本設計(FEED)関係の予備調査5件を実施する。入札招聘も実施してBEISはHTGR実証炉の概念をまとめるほか、研究開発上の課題や技術課題を特定して、その実行可能性を探る。また、2030年代初頭の完成を念頭に置いた開発ロードマップも作成する。これ以降の段階に進むには政府の承認取得が条件になるが、BEISは2023年初頭から「フェーズB」として、詳細設計の基礎となるFEED調査を実施する。ここでは、「フェーズA」で選定された複数の提案者がHTGRの概念設計を詳細に評価し、投資総額やライフサイクル・コストを正確に見積もる予定。BEISは「フェーズA」で選定されなかった提案者も含めて、提案者の最終的な絞り込みを行うとしている。最後の段階となる「フェーズC」への移行は2025年の半ばに予定されており、「フェーズB」で選定された提案者が建設サイトに最適の詳細設計作業を実施する。サイト許可や建設許可なども取得する方針で、これらの許認可活動が順調に進めば、計画通りにHTGR実証炉の起動と運転が実現する。(参照資料:英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 24 Feb 2022
- NEWS
-
英規制当局、中国の「華龍一号」設計を承認
英国の原子力規制庁(ONR)は2月7日、中国が知的財産権を保有する「華龍一号」設計の英国版(UK HPR1000)について、実施していた全4段階の包括的設計審査(GDA))が完了し、ONRが「設計承認確認書(DAC)」を、環境庁(EA)が「設計承認声明書(SoDAC)」を関係企業に発給したと発表した。GDAは、英国内で初めて建設される原子炉設計に対して行われる設計認証審査で、DACの発給は対象設計の安全・セキュリティ面、SoDACは環境保護と放射性廃棄物管理の側面で、英国の厳しい基準をクリアしたことを確認。これにより、同設計が英国内で直ちに建設可能になるわけではないが、中国広核集団有限公司(CGN)とEDFエナジー社が、英国エセックス州で共同で進める予定のブラッドウェルB原子力発電所建設(UK-HPR1000×2基)計画は技術的には大きく前進した。EDFエナジー社は現在、サマセット州でヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所(172万kWの「欧州加圧水型炉:EPR」×2基)を建設中だが、同社は2015年10月、英国と中国の両政府が2013年に交わした覚書に基づき、CGNと共同で同計画に投資する内容の戦略的投資協定で合意。CGNはHPC計画の総工費180億ポンドのうち33.5%を投資することを約束したほか、EDFエナジー社がサフォーク州で計画しているサイズウェルC原子力発電所(167万kWのEPR×2基)建設計画にも20%出資する。また、後続のブラッドウェルB計画については「華龍一号」設計を採用し、CGNが建設段階において66.5%を出資、EDFエナジー社をパートナーとしてCGNが同計画を主導することになった。ONRとEAが2017年1月に開始した「UK HPR1000」のGDAに関しても、EDFエナジー社とCGNは合弁で審査活動の管理会社「ジェネラル・ニュークリア・システム(GNS)社」を設立した。同社の株式の66.5%は、CGNが持ち株会社として立ち上げたジェネラル・ニュークリア・インターナショナル(GNI)社が保有。このため、今回のDACとSoDACはCGNとEDFエナジー社、およびGNI社に対して発給されている。 「華龍一号」はCGNと中国核工業集団公司(CNNC)、双方による第3世代の100万kW級PWR設計を一本化して開発されたもので、CGNはブラッドウェルB計画でCGNバージョンの「華龍一号」を採用する。この「華龍一号」は現在、中国・広西省の防城港3、4号機、広東省の太平嶺1、2号機、浙江省の三澳1、2号機として建設中であり、防城港の2基はブラッドウェルB発電所の参照炉に位置付けられている。今回、その英国版にDACを発給したことについて、ONRのM.フォイ主席原子力検査官(CNI)は「ONRの特別検査官が詳細かつ厳密に審査した結果であり、この設計が英国内での建設に適したものであることを示している」と述べた。EAのS.フィナーティ原子力規制担当局長は、「当庁の2025年までの行動計画にも示したように、審査は急を要する地球温暖化への影響を最優先としたもので、エネルギー供給の脱炭素化は英国における主要目標の一つだ」と説明した。原子力については、「CO2排出量の実質ゼロ化に向けて英国政府が進めているエネルギー政策の重要部分を担っている」と指摘。こうした背景から、審査では新たな原子力発電所が英国の厳しい基準を満たすだけでなく、周辺コミュニティや環境も適切に防護されるよう配慮したとしている。(参照資料: ONR、EA、ブラッドウェルB発電会社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 08 Feb 2022
- NEWS
-
英国政府、サイズウェルCの開発継続で1億ポンドの支援を約束
英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は1月27日、イングランド南東部のサフォーク州でEDFエナジー社が計画しているサイズウェルC(SZC)原子力発電所開発プロジェクト(160万kWの欧州加圧水型炉:EPR×2基)を存続させるため、今年3月までの現行会計年度予算から1億ポンド(約155億円)の支援を提供すると発表した。英国政府は昨年10月、大型原子力発電所を少なくとも1か所建設する計画について、現政権の在任期間中に最終投資判断(FID)が下されるよう、最大で17億ポンド(約2,600億円)を歳出すると表明した。その場合は費用対効果が高いことと関係承認が得られることが条件だが、BEISのK.クワルテング大臣は今回の新たな支援を通じて、さらなる民間投資が新しい原子力発電所の開発に呼び込まれると指摘。SZC発電所は完成すれば320万kWの電力を供給するが、これは約600万世帯が必要とする電力量に相当するほか、英国全土で1万人分の雇用を支援する。低炭素な電力が大規模かつ継続的に英国にもたらされ、高価格な天然ガスの影響を軽減、英国内で信頼性の高い安定的な低炭素エネルギーの供給を保証すると強調している。EDFエナジー社はこの支援金を通じて、政府と昨年から実施している同プロジェクトの実施交渉を次の段階に進めるほか、国家的に重要なプロジェクトであるとの確信を投資家に最大限に与えることで、新たな民間投資を呼び込んでいく。今回の支援は、政府からの直接投資という形態を取っておらず、政府はSZC発電所の開発を担当するNNB GenCo社(EDFエナジー社の子会社)の一部株式、および建設用地の一部を統合オプションの形で購入。プロジェクトが最終的にうまく行かなくても、政府は同サイトで原子力に限らず、その他の低炭素な代替エネルギー・インフラを継続して開発できるよう機会を提供していく。一方、SZC計画がFIDの段階に進展した場合、政府は同社から投資収益と1億ポンドの払い戻しを受けられるが、返金形態は現金かプロジェクト権益になる。また、プロジェクトがFIDに到達しなかった場合、政府はNNB GenCoの一部株式、あるいは建設用地の一部をEDFエナジー社に要求できるものの、政府の希望する形で同社が資産を提供できなければ、同社は投資収益と1億ポンドの現金を返済することになる。いずれにしても、英国政府は「現段階では、サイズウェルCプロジェクトへの投資構成は何も決まっていない」と表明している。今回の政府発表は、大型原子力発電所の新規建設を支援する資金調達の枠組みとして、「規制資産ベース(RAB)モデル」の導入を目指した法案が議会で審議されている最中に行われた。BEISによると、RABモデルを導入することにより、大型原子力発電所の開発コストは、(ヒンクリーポイントC原子力発電所の建設計画で適用されている「差金決済取引(CfD)」との比較で)、一件あたり300億ポンド(約4兆6,500億円)の削減が可能だ。RABモデルはまた、年金基金など英国内の民間部門投資を幅広く呼び込むことになるため、中国広核集団有限公司(CGN)のように、英国の原子力発電開発プロジェクトに一定割合の資金提供を約束している海外デベロッパーへの依存が軽減されるとしている。EDFエナジー社のS.ロッシCEOは今回、「英国政府がSZC計画の成功に自信を示してくれたことは本当に喜ばしい」とコメント。この方針が承認されれば、消費者が支払うエネルギー料金は大幅に削減され、英国は世界的に変動が激しい天然ガスの価格から影響を受けずに済む。この方針はまた、SZC計画がFID段階に進めるよう後押ししてくれると評価した。英国原子力産業協会(NIA)のT.グレイトレックス理事長も、「政府の発表はSZCプロジェクトを前進させる大きな一歩になった」と表明した。同理事長によると、英国で現在稼働中の改良型ガス冷却炉(AGR)、および唯一の軽水炉であるサイズウェルB原子力発電所は、英国史上最も安価で生産的な低炭素発電資産であり、これまでに14億トンのCO2排出量を削減。現在の炭素価格にして、約1,100億ポンド(約17兆円)の税負担を抑制したことになると強調している。(参照資料:BEIS、NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 31 Jan 2022
- NEWS
-
英国でハンターストンB-2号機が永久閉鎖
英国の商業用原子炉すべてを保有しているEDFエナジー社は1月7日、スコットランドのハンターストンB原子力発電所で2号機(B-2)(64.4万kWの改良型ガス冷却炉:AGR)を永久閉鎖したと発表した。同発電所ではすでに昨年11月26日、B-1号機(64.4万kWのAGR)を永久閉鎖しており、EDFエナジー社は「ハンターストンB発電所は生産性が高かったが1976年に送電開始して以降、約46年間の発電業務を終えた」と表明した。同発電所では、2018 年に両炉で黒鉛レンガ製の燃料チャンネル部にヒビが確認されたことから、近年発表していたスケジュールより閉鎖時期が約1年早まった模様。今後は3年ほどかけて両炉から燃料を抜き取った後は原子力廃止措置機構(NDA)に譲渡され、NDA傘下のマグノックス社が廃止措置を実施する予定である。EDFエナジー社は昨年6月にも、イングランドのケント州で約40年間稼働したダンジネスB原子力発電所(61.5万kWのAGR×2基)を永久閉鎖している。これに続いて、ハンターストンB発電所の2基を永久閉鎖したことで、英国内で稼働する商業炉は合計11基、784.4万kWとなった。同発電所のP.フォレスト所長によると、ハンターストンB発電所ではこれまでに3,000億kWh以上の無炭素電力を供給しており、地元には安定した高サラリーの雇用を保証。この総発電量はスコットランドの全世帯が消費する電力の約31年分に相当する。同発電所ではまた、運転開始当初は25年間の稼働を予定していたが、設備の更新等に投資したことで46年もの間、安全に運転することが出来たと強調。従業員も多くが同発電所での継続勤務を希望しているため、同社は優秀な従業員を燃料の抜き取り作業で継続雇用する方針である。なお、EDFエナジー社は昨年12月15日、英国全土で稼働するAGRの運転期間の見直し作業を実施した結果、イングランドのヘイシャムB原子力発電所(68万kWのAGR×2基)とスコットランドのトーネス原子力発電所(68.2万kWのAGR×2基)の永久閉鎖時期を2年前倒しし、2028年3月末に再設定したと発表している。2016年の見直しでは、1988年に送電開始したこれらの運転期間を7年延長して2030年までとしていたが、その後の定期的な見直し作業や点検、モデリング、およびその他のAGRサイトでの運転経験等から、両発電所では予定していた25年~30年の運転期間がすでに終了し経年化が進んでいると判断したもの。一方、1983年~1984年にかけて送電開始したヘイシャムA原子力発電所(62.5万kWのAGR×2基)とハートルプール原子力発電所(65.5万kWのAGR×2基)については、2024年3月末までの運転継続に変更がないことを確認している。(参照資料:EDFエナジー社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月7日、11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 12 Jan 2022
- NEWS
-
英国政府、2030年代初頭の実証に向けた先進的原子炉プログラムにHTGRを選択
英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)のG.ハンズ・エネルギー担当相は12月2日、2030年代初頭の実証を目指して建設する先進的モジュール式原子炉(AMR)技術として、高温ガス炉(HTGR)を選択したことを明らかにした。BEISは今年の7月末、柔軟性の高い活用が可能な原子炉開発のため確保した予算3億8,500万ポンド(約580億円)のうち、「AMRの研究開発・実証プログラム」の予算1億7,000万ポンド(約250億円)を使って、2030年代初頭までにHTGRの初号機を完成させるという提案を発表。英国が2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指すにあたり、政府がHTGRを最も好ましい技術と認識していることを示したもので、BEISは9月初頭までの期間、この提案に対するコメントを産業界や一般国民から募集していた。ハンズ大臣の今回の発表は、英国原子力産業協会(NIA)の年次大会で述べられており、「得られたコメントを評価した上で、HTGRに重点的に取り組む判断を下した」と説明。ただし、BEISの幅広い活動の一環として、今後もすべてのAMR開発を継続的に支援していく方針であり、将来的な可能性を秘めた先進的原子炉技術の実現に向け、原子燃料の強力なサプライチェーンを国内で構築・維持するための予算7,500万ポンド(約110億円)を確保したと述べた。同大臣は今年9月にエネルギー担当相に就任したばかりだが、NIAの発表講演では「新規原子力発電設備の建設に英国政府は本腰を入れている」と明確に示した。「エネルギー白書」や「CO2排出量の実質ゼロ化戦略」等を通じて、政府は過去一年間にこのような意図を再三にわたって表明しており、これらを通じて、投資家やビジネス界は自信をもって英国の原子力部門に投資してくれるだろうと述べた。同大臣はまた、「CO2の排出量を実質ゼロ化するには原子力が必要だ」と明言している。近年はとりわけ、天然ガス価格の世界的な乱高下により、エネルギーミックスの多様化に向けた勢いが加速。エネルギーの自給を確実なものにするためにも、原子力など英国内の一層強力なエネルギーシステムに投資する推進力が増していると指摘している。同大臣によると、英国では1990年以降、CO2排出量の44%削減を達成するなど、実質ゼロ化に向けた取り組みが驚くほど進展した。しかし、今後30年の間はこのペースをさらに上げ、2035年までに発電部門を確実に脱炭素化する必要がある。そのためには低炭素なエネルギー技術を広範囲に取り入れること、新たな原子力発電設備については特に、大規模かつ迅速に開発していかねばならない。再生可能エネルギー等のポテンシャルを全面的に活用するのに加えて、風が吹かなくても太陽が照らなくても、低炭素な電力を安定的かつ確実に供給可能な原子力が必要だと同大臣は訴えている。今後の計画については、ハンズ大臣は新たな原子力開発プロジェクトの設定に向けた「ロードマップ」を2022年の前半に公表する方針だと述べた。その一環としてBEISはすでに今年10月、新規建設を支援する資金調達の枠組みとして「規制資産ベース(RAB)モデル」を導入するための法案を議会に提出している。BEISはまた、原子力新設プロジェクトへのさらなる投資を促すため、グリーン事業の分類投資である「英国版タクソノミー」に原子力を含められないか検討中であることを明らかにした。(参照資料:英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 06 Dec 2021
- NEWS
-
台湾問題と日本のエネルギー政策
アップデート11月5日、ドイツのフリゲート艦「バイエルン」が東京港へ入港した。ドイツ海軍の艦艇が日本に寄港するのは20年ぶりのことだ。また、今年は英国海軍の空母「クイーン・エリザベス」、フランス海軍の攻撃型原子力潜水艦「エムロード」などが相次いでアジア太平洋地域を訪れ、周辺国を巻き込んだ米国と欧州主要国によるこの海域での洋上訓練も数多く行われた。さらに、第1次政権の際に安倍晋三元首相が提唱した日本、米国、オーストラリア、インドによる“QUAD(クアッド)”の連携が一段と強化され、米国、英国、オーストラリアの3か国首脳は9月15日のオンライン共同会見で“AUKUS(オーカス)”の新たな枠組みを表明している。こうした日米欧にインド、オーストラリアなどを加えた安全保障上の結び付きは、明らかに中国を意識したものだろう。より具体的には、台湾情勢が影響しているのではないか。特に大きな特徴は、地理的には遠く離れた欧州が南シナ海、東シナ海、台湾海峡における中国の動きを強く牽制していることだ。政治的には民主主義国による価値観の共有、経済的には台湾企業の持つ半導体製造技術の中国への流出阻止──一般的にこの2つが主な理由とされている。特に重視されているのは半導体だ。新型コロナ禍からの経済活動再開に当たり、世界の主要産業は半導体不足に直面、今やそれなくして経済が成り立たないことを再確認した。インテル、アップルなどから最先端半導体の製造を請け負っている台湾のTSMCは、世界で唯一10ナノメーター以下の微細加工技術を持つファウンドリに他ならない。このTSMCを中心に台湾メーカーは世界の半導体ファウンドリにおいて7割のシェアを有している(図表1)。AIや通信分野では既に最先端に近い技術を獲得した中国だが、半導体だと3、4世代遅れているのが実情だ。台湾の統一を成し遂げることは、即ち半導体製造技術でも同国がトップランナーになることを意味する。今年4月16日、ワシントンを訪問した菅義偉首相(当時)とジョー・バイデン大統領による日米首脳会談を受けた共同声明には、「両国の安全及び繁栄に不可欠な重要技術を育成・保護しつつ、半導体を含む機微なサプライチェーンについても連携する」とあった。TSMCは、最先端の半導体工場をアリゾナ州フェニックスに建設中であり、先端半導体工場を熊本県菊池郡菊陽町に建設する計画を発表している。これは、TSMCにとっても、日米にとっても、台湾有事に備えたリスクヘッジの一環だろう。もっとも、米欧主要国が台湾問題に深刻になっているのは、民主主義や半導体だけが理由ではない。より以上に緊迫した問題は安全保障である。それは、日本のエネルギー問題にも大きな影響を及ぼす可能性があるのではないか。 米国、欧州主要国は何を懸念しているのか?ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推計によれば、昨年、世界のなかで最も国防費の支出が大きかったのは米国の7,782億ドルだ(図表2)。それに次ぐのが中国の2,523億ドルである。日本の防衛費が1990年代後半からほぼ横ばいなのに対し、中国は過去20年間に亘って年率12.9%の高い伸びを維持してきた。その中国が最も重視しているのは海軍力及び空軍力の強化だろう。1927に創設された人民解放軍は、元々、抗日戦及び国民党軍との戦いが最大のミッションだった。また、1950年6月〜1953年7月の朝鮮戦争、1979年2〜3月にベトナムとの間で戦った中越戦争、インドやロシアとの国境を巡る緊張関係に関しても、中国が経験した主要な実戦の主戦場は陸だ。従って、1970年代まで、人民解放軍と言えば陸軍が主だった。しかしながら、15世紀半ばに始まった大航海時代以降、ポルトガル、オランダ、英国、そして現在の米国を含め、制海権を握れる海軍力が覇権国になる上で鍵となる要素に他ならない。さらに、第2次大戦では空軍力、戦後は核戦力、そして今はサイバー空間と宇宙の重要性が急速に高まりつつある。同時に抑止力とされているのが核弾頭を搭載できる大陸間弾道弾だ。中国は、なかでも衛星などから事前に発射準備を捕捉できる陸上発射型ではなく、海中から打ち上げることができる潜水艦発射型大陸間弾道弾(SLBM)の開発に注力している模様である。SLBMは高い技術力を要する一方で、発射の兆候が極めて捕捉し難く、迎撃が困難だからだろう。中国は2016年頃にSLBM「JL-2(巨浪2号)を実戦配備したが、その射程は7,000km程度のようだ。中国近海の東シナ海、南シナ海、フィリピン海から発射して、インドを含むアジア全域を圏内に捉えられるレンジを持つ。しかしながら、この海域から米国東海岸までの距離は1万2,000㎞を超えるため、JL-2では米国全土を射程に捉えることはできない。一方、現在、開発が最終段階にあると見られるJL-3(巨浪3号)は、射程が1万2,000㎞に達す見込みだ。台湾周辺からロンドンまでの距離は1万㎞なので、JL-3は米国のほぼ全土、欧州全域を射程内に収めることになりかねない(図表3)。東シナ海、南シナ海、そしてフィリピン海の海中における中国潜水艦の行動をリアルタイムで把握できるのは、台湾のみと言われている。仮に台湾が中国に統一された場合、安全保障のバランスは大きく変化するだろう。米国、欧州が直接のSLBMによる脅威に晒されることになるからだ。米欧主要国が台湾問題に真剣にならざるを得ないのは、自らが軍事的リスクに直面しているからではないか。もちろん、先制核攻撃は当然ながら報復攻撃を受けることになる。それは、世界が滅亡するシナリオに他ならない。従って、核保有国が非核保有国を攻撃する場合か、テロリストなど国家を持たない組織による攻撃以外、現代の戦争において核の使用は不可能と言えるのではないか。もっとも、このバランスはある大国が核兵器を保有することにより、他の大国に核兵器を使わせないとの戦略で成り立っている。中国のSLBMが米国全土、欧州全域を射程圏内に置くとすれば、それは中国の国際的な発言力に大きな影響を与えることになるだろう。 2024~27年に東アジアの緊張が高まるリスク中国と台湾の間では、戦後、台湾海峡を挟んで今の2政治体制状態になって以降、深刻な軍事衝突になりかねない危機が3回あったと言われている。このうち、第1次は1954〜55年、第2次は1958年であり、いずれも1979年の米中国交正常化以前の事件だった。これに対して、第3次台湾海峡危機は1995〜96年であり、それほど遠い昔ではない。1995年6月、独立派の李登輝総統(当時)が母校であるコーネル大学での講演のため米国を訪問、敏感に反応した中国人民解放軍は台湾周辺で大規模な軍事演習を行った。この圧力に対して、米国のビル・クリントン大統領は空母『ニミッツ』、『インデペンデンス』を中心とする2個の空母打撃群を台湾海峡へ派遣、一触即発の事態に至ったのだ。もっとも、当時、米国と中国の海・空軍力の差は歴然としており、結局、中国が矛を収めるかたちで危機は収束した。この苦い経験は、中国による海・空軍力強化の強い動機になり、1998年にウクライナから空母『ワリヤーグ』(現在は人民解放軍の空母『遼寧』)を購入したと言われている。現在の中国の軍事力だが、今年6月17日、米国連邦議会上院歳出委員会の公聴会に出席したマーク・ミリー統合参謀本部議長は、「近い将来、中国が台湾を掌握するほどの軍事的能力を持つことはない」と語った。これが米軍制服組トップの現状認識だろう。一部のメディアは台湾海峡有事のリスクを強調するものの、日米欧の安全保障担当者の間で中国が軍事的に台湾を制圧するとの見方は少なく、恐れているのは全く別のシナリオなのではないか。現在の蔡英文台湾総統の任期は2024年5月までだ。台湾は選挙により次期総統を選出するが、中国が目指すのは親中派の政治家を後継者に据えることだと考えられる。新たな台湾の政権が統一促進の政策を採れば、当然、独立維持派は強く反発し、反行政院(政府)運動が盛り上がる可能性は強い。一部が暴徒化して行政組織や議会へ乱入、空港を占拠するかもしれない。この時、新総統は中国に治安維持のため協力を要請、大陸から人民武装警察隊が派遣され、暴徒化した民主体制維持勢力を警察力により鎮圧、台湾の統一を内側から一気に進めるのだ。これと似たシナリオを世界はつい先ごろ別の場所で目撃した。言うまでもなく香港である。日米欧の対応が非常に難しいのは、これは法制上は中国の内政問題であるからに他ならない。日本は1972年9月の日中国交正常化、そして米国は1979年1月の米中国交正常化により、中国の主権が中華人民共和国にあり、台湾は中国の一部であると認めた。現在、台湾を国家として承認、国交関係を持つ国は15ヶ国しかなく、そのなかにG7をはじめとした先進国は含まれていない。中国が軍隊を使うミスを犯せば米国は再び台湾海峡に空母打撃群を派遣、欧州も協力して全力でその動きを阻止すると考えられる。しかしながら、警察力による治安維持の場合、反民主的であると抗議し、経済制裁を課すことが精一杯であり、実力を持って阻止するのが極めて難しいことは香港で証明された。つまり、習近平中国国家主席にとり、香港は台湾の統一へ向けた格好のシミュレーションだったと言えるだろう。そして、日米欧は外交的な抗議以外にこれに手出しができず、香港にアジアの拠点を置く先進国の金融機関は1社もこの地域から撤退していない。中国人民解放軍は、2027年8月1日に建軍100周年を迎える。また、中国共産党による1期5年2期までの内規を改正し、3期目に突入すると見られる習近平共産党中央委員会総書記(国家主席)の任期は2027年11月までだ。つまり、中国にとって2027年は非常に重要な年になる。習主席は、薄熙来共産党中央政治局委員兼重慶市党委員長にはじまり、腐敗撲滅運動の下で数々の政敵を失脚させてきた。このなかには、周永康共産党政治局常務委員や令計画人民協商会議副主席など超大物の政治家の他、徐才厚上将(共産党中央軍事委員会副主席兼党中央政治局委員)、郭伯雄上将(党軍事委員会第一副主席兼党中央政治局委員)など、人民解放軍の制服組トップも含まれている。中国共産党には江沢民元国家主席に連なる上海閥、胡錦涛前国家主席、李克強現国務院総理などが属する共青団(共産主義青年団)、そして革命期の元老の子孫である太子党・・・3つの派閥があるとされてきた。共産党八大元老の1人である習仲勲党中央政治局委員を父に持つ習主席は、一般的に太子党と見られている。共産党総書記に就任した当初、習主席は共青団系と組んで上海閥の弱体化を図り、それを成し遂げて以降は共青団を追い落すことで自らの権力基盤を強化してきたと言えるだろう。しかしながら、9千万人の団員を持つとされる共青団は中国の権力基盤に浸透した強固な組織であり、人民解放軍と共にその力は依然として強いと考えられる。粛清には恨みや怒りが付き物であることから、習主席が仕返しを心配せず引退するためには、もう1期を全うして建国以来の悲願である台湾統一を達成する必要があるのかもしれない。つまり、蔡英文台湾総統が退任する2024年から、習近平中国国家主席が第一線を退く2027年まで、東アジアの緊張感が極めて高くなる可能性がある。その中心にあるのが台湾だ。このシナリオが大きく間違っていないとすれば、その影響は東アジア地域だけでなく世界全体に及ぶことが予想される。緊張と分断は経済にとって大きなリスクであり、日本は有事に備える必があるのではないか。 原子力の平和利用が安全保障を担保する中国人民解放軍が海・空軍力を強化しているのは、台湾を軍事力により制圧するためではなく、治安維持のための警察力によって統一した台湾を防衛するためと考えれば納得できる。米国全土、欧州全域を射程圏内に捉えるSLBMの開発も、台湾への主権を認めさせるためのツールなのではないか。日本にとって台湾が経済的に重要な意味を持つのは、半導体だけが理由ではない。日本が輸入している石油、石炭、天然ガスを含む多くの資源が、南シナ海から台湾沖を通って東シナ海へ抜けるルートを通過するからだ。即ち、台湾は日本にとってのシーレーンのど真ん中に位置している。仮に台湾が中国に統一され、日米欧と中国の緊張関係が高まれば、日本はシーレーンが寸断されることにより、資源確保で極めて厳しい状況に陥る可能性があるだろう。エネルギーに関して、再エネの拡大は自給率を上げる上での重要な対応策の1つと言える。もっとも、今年、異常気象に見舞われたスペインで風不足から風力発電が機能しなかったように、再エネの普及には安定的な電源によるバックアップが欠かせない。地球温暖化問題だけでなく、安全保障上の脅威を考えた場合、天然資源に恵まれない日本では原子力の活用が必要だ。岸田文雄首相は経済安全保障を重視、担当大臣を置いた。しかしながら、10月22日に閣議決定された『第6次エネルギー基本計画』は、率直に言って安全保障の概念が抜け落ち、極めて中途半端なものとなった感が否めない。国際情勢と内政・外交をしっかり連動させないと、国民の安全と安心は守れないだろう。
- 06 Dec 2021
- STUDY
-
英政府、ロールス・ロイス社のSMR開発企業に2.1億ポンドの資金提供
英国政府のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は11月9日、ロールス・ロイス社グループが80%出資して設立した小型モジュール炉(SMR)の開発企業「ロールス・ロイスSMR社」に対し、マッチングファンドとして2億1,000万ポンド(約321億円)を提供すると発表した。ロールス・ロイス社は前日の8日、低コスト・低炭素な次世代原子力技術の開発と商業化を大規模に進めていくため、新たな株式の発行により「ロールス・ロイスSMR社」を設立したと表明。また、米国の大手電気事業者のエクセロン・ジェネレーション社、および仏国の投資目的企業であるBNFリソーシズUK社とともに、今後3年間で合計1億9,500万ポンド(約298億円)を英国でのSMR開発に投資すると発表していた。英国政府からの今回の資金提供は、民間部門で2億5,000万ポンド(約382億円)を越える資金がSMR開発に投入されていることに対応したもので、同国の戦略的政策研究機関である「UKリサーチ・アンド・イノベーション(UKRI)」は2019年11月、「低コストな原子力の課題(Low Cost Nuclear Challenge)」プロジェクトの実施で、「産業戦略チャレンジ基金(ISCF)」の中から1,800万ポンド(約27億円)をロールス・ロイス社のSMR企業連合に提供。今回の2億1,000万ポンドはこれに続いて、同プロジェクトから拠出することになる。英国政府はこのような活動を通じて、SMR設計の開発を一層促進し、英規制当局の包括的設計認証審査(GDA)にSMR設計をかけるなど、UKRIの「低コストな原子力における課題」プロジェクトを第2段階に進めていく。また、2050年までに英国内の温室効果ガス排出量を実質ゼロ化するため、B.ジョンソン首相が昨年11月に公表した「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」を着実に進め、高度な技術を必要とする関係雇用の創出を促す方針である。UKRIによると、同プロジェクトの第1段階は今年8月に完了しており、SMRの概念設計が完成したとしている。BEISの今回の発表は、大型原子力発電所の新規建設を支援する資金調達の枠組として、「規制資産ベース(RAB)モデル」の導入を目指した「原子力資金調達法案」を英国議会が審議している最中に行われた。BEISによると、英国が化石燃料発電への依存度を下げ、天然ガス価格の乱高下に対応するには、低炭素なエネルギーを低価格で生産できる新しい原子力発電設備が非常に重要な役割を担う。その中でもSMRは、従来の大型原子力発電所と比べて建設コストを低く抑えることができ、モジュール式の機器類は専用の設備で製造し、設置場所まで車両や鉄道で輸送することが可能である。結果としてBEISは、建設期間とコストの両方が縮減される点を強調。BEISのK.クワルテング大臣は「英国が低炭素なエネルギーをかつてない規模で開発し、エネルギー自給率を増強する上で二度と無い機会だ」とコメントしている。一方、ロールス・ロイス社の8日付け発表によると、同社は新たに設立した事業体を通じて、年内にもGDAの実施を同社製SMRで申請できるよう活動するだけでなく、SMR用モジュール製造工場の建設地を決定するなど、幅広い活動を並行して進めていく。SMRの設置場所に関する英国政府との協議は今後も継続するほか、同技術を必要とする国々との協議も続けていくと述べた。同社のSMR発電所は出力47万kWとすることを想定しており、これは陸上風力発電のタービン150台以上に相当する。少なくとも60年間はベースロード用電源として着実に発電を行い、間欠性のある再生可能エネルギーを補完。2030年代初頭にも英国の送電網に接続する計画で、それ以降は世界に輸出することも視野に入れていることを明らかにした。(参照資料:BEIS、ロールス・ロイス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 10 Nov 2021
- NEWS
-
英国政府、サイズウェルC原子力発電所計画に17億ポンドの予算措置
英国財務省のR.スナク大臣は10月27日、毎年一回秋に取りまとめている予算案の修正報告書と、2025年まで今後4年間の歳出計画案を発表した。このなかで同大臣は、大型原子力発電所を少なくとも1つ建設する計画について、現政権の在任期間中に最終投資判断が下されるよう、費用対効果が高いことと関係承認が得られることを条件に、最大で17億ポンド(約2,656億円)を新たに歳出すると表明。現在ヒンクリーポイントC原子力発電所(160万~170万kWの欧州加圧水型炉:EPR×2基)を建設中のEDFエナジー社に対しては、イングランド南東部のサフォーク州でサイズウェルC原子力発電所(160万~170万kWの欧州加圧水型炉:EPR×2基)を新たに建設するため、昨年12月以降、積極的に交渉を進めている点を強調した。折しも、英国政府のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は前日の26日、大型原子力発電所の新規建設を支援する資金調達の枠組みとして、「規制資産ベース(RAB)モデル」の導入を目指した「原子力資金調達法案」を立案したと発表した。スナク財務大臣も今回の歳出計画案ではこのほか、B.ジョンソン首相が英国内の温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロ化するため昨年11月に発表した「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」に沿って、「排出量実質ゼロ化のための技術革新ポートフォリオ」に10億ポンド(約1,562億円)歳出すると表明。10ポイント計画では具体的に、販売間近の革新的な低炭素技術の開発を促進するとしている。また、小型モジュール炉(SMR)や先進的モジュール炉(AMR)など次世代原子炉技術の開発を支援するため、BEISが「CO2実質ゼロ化戦略」の中で投入を誓約していた「先進的原子力基金」の3億8500万ポンド(約599億円)についても、同様に調整したことを明らかにしている。歳出計画案ではこれらに加えて、クリーンエネルギー社会の構築に向けたその他の方策として、輸送部門の脱炭素化計画の支援に61億ポンド(約9,530億円)を投入する計画である。CO2を排出しない電気自動車の台数を大幅に拡大しつつ、クリーンな航空機や船舶の開発を後押し。バスや自転車、徒歩による小旅行の実施も奨励するとしている。このような予算案について、英国原子力産業協会(NIA)のT.グレイトレックス理事長は同日、歓迎の意向を表明。「原子力に対する信任投票のようなもので、将来的にSMRやAMRの建設を可能にするとともに、大型原子力発電所の建設計画についても投資を促進する歴史的一歩だ」と評価した。「実際、新たな原子力発電所への投資抜きで英国がCO2排出量を実質ゼロ化することは難しいし、英国政府は今回、クリーンエネルギー社会への移行で原子力が重要と考えていることを、投資家に対して明確に示した」と述べた。同理事長はまた、「この投資は一層グリーンな将来に向けた投資であるだけでなく、英国全土で雇用や専門技術を生み出すことになる」と指摘している。(参照資料:英国政府とNIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 01 Nov 2021
- NEWS