キーワード:SMR
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英産業連盟、SMR等の原子炉新設に向け財政支援モデルの構築を政府に提案
英国最大の産業組織で日本の経団連に相当する英国産業連盟(CBI)は11月4日、国内の温室効果ガス(GHG)排出量を2050年までに実質ゼロとする目標を掲げた英国にとって、「クリーン・エネルギー産業中心の経済成長に向けた投資の促進」といった国家的なアクションが緊急に必要とする報告書を公表した。発電部門においては、再生可能エネルギーに加えて原子力に対する支援を(12月の総選挙後の)次期政権に要請する考えで、2030年までに小型モジュール炉(SMR)の初号機を完成させるため、新設計画への資金調達用に「規制資産ベース(Regulated Asset Base=RAB)モデル」を構築すべきだと強調している。英国は2020年11月の国連気候変動枠組条約・締約国会議(COP26)を国内で開催予定であり、CBIによれば、GHGの削減で英国が世界的リーダーとなるための国際的協調活動と並行して、長期の国家的アクションの重要性を実証することになる。このため、直面している事態の複雑さと早急に動く必要性等に鑑み、ビジネス界が今後10年間で加速していくアクションに対し、政府による支援策の中でも優先すべき決定項目のいくつかを今回の報告書の中で指摘した。分野としては具体的に、(1)CO2の削減に向け輸送部門全体で必要となる(電気自動車の導入など)重要な変更事項の促進、(2)熱源の低炭素化とエネルギー効率の改善、に加えて(3)発電部門におけるCO2排出量の削減――など。(3)の中でCBIは、SMRの初号機建設を支援する資金調達の枠組整備を挙げた。政府は新規の原子炉建設に対する支援方針を明確に表明しているが、それは適正なコストでの建設であり、その他の低炭素電源に対してもコスト面の競争力を実証しなくてはならない。また、資金調達の新たなアプローチにより、将来的な原子炉建設プロジェクトでコストを削減できることも判明した。この点に関してCBIは、「RABモデル」を詳細に検討する方向性を支持しており、これにより建設期間中のリスク共有と収益確保の可能性が高まるとした。RABモデルはまた、資本コストの大幅な削減により、電気料金の削減という形でエンド・ユーザーに利益をもたらすことも可能。CBIは、政府が「環境と社会およびガバナンス(ESG)を考慮した責任投資」の中に原子力を含める努力を続けるべきだと指摘している。CBIはまた、従来の大型炉に加えてSMRも、コスト面や革新的技術の側面で英国のエネルギー・ミックスに貢献できる可能性があるとした。もちろん、2030年までに初号機の運転開始を可能とするためには、政府が時宜を得たタイミングで行動する必要がある。CBIによると、この目標の達成に向け、政府は可能な限り早急にSMRの建設サイトを特定しなければならず、SMRへの将来的な投資を支えていく政策面での支援も必要。政府はまた、今後のSMR建設プロジェクトでコストを削減するためには、サイト許可が継続的に発給されるよう規制手続の整備を確実に進める必要があるとしている。今回の報告書に関してCBIのC.フェアバーン事務局長は、「温暖化防止への取組みで残されている時間を考えると、我々はこれまで以上に迅速、かつ一層踏み込んだ取り組みが必要で、これからの10年間は非常に重要な時期だ」と指摘。「技術開発が急速に進展しコストも低下しているため、CO2排出量の実質ゼロという目標達成は可能だが、ビジネス界だけで成し遂げることはできない。目標達成までのあらゆる段階で、政府と連携することが必要だ」と訴えている。(参照資料:CBIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月4日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 05 Nov 2019
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GEH社、ポーランドで「BWRX-300」の建設可能性を探るため現地企業と覚書
GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は 10月21日、ポーランドで同社製小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」を建設する可能性を探るため、同国最大の化学素材メーカー「シントス社(Synthos SA)」と協力していくことで合意し、了解覚書を締結したと発表した。シントス社は合成ゴムなどの製造で知られる大手企業で、CO2を排出しない発電技術による電力を需要に応じて適正価格で、信頼性の高い専用電源から得ることに関心を持っている。今回の覚書で両社は具体的に、「BWRX-300」の建設可能性調査をポーランドで共同実施することで合意。また、同国におけるエネルギー部門の近代化や現実性を踏まえた脱炭素化達成など、ポーランドが抱えるエネルギー問題への取組みでSMRが果たす役割に期待をかけるとしている。一方、ポーランド政府は昨年11月、公開協議に付した「2040年までのエネルギー政策(PEP2040)」(ドラフト版)の中で、2033年までに出力100万~150万kWの原子力発電初号機の運転を開始し、その後2043年まで2年毎に、追加で5基(合計出力や600万~900万kW)建設していくと発表。これらの原子力発電設備で、国内電力需要の約10%を賄うとしていた。GEH社の発表によると、「BWRX-300」は自然循環を活用した受動的安全システムなど、画期的な技術を採用した出力30万kWの軽水炉型SMR。2014年に米原子力規制委員会(NRC)から設計認証を受けた第3世代+(プラス)の同社製設計「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」がベースとなっており、原子力産業界で深刻な課題となっているコスト面の対策として、開発設計の全段階を通じてコストが目標内に収まるよう管理するアプローチを採ったという。これにより同設計は、コンバインドサイクル・ガス発電や再生可能エネルギー、その他の発電技術に対しても、コスト面で競争力があるとGEH社は強調。1MWあたりの資本コストも、既存の大型炉やその他の軽水炉型SMRとの比較で最大60%削減するとしており、このようなSMR技術に注目し、ポーランドでクリーン・エネルギーの利用オプションも提唱しているシントス社への期待を述べた。シントス社側も、「クリーンなSMRを活用することで石炭火力から脱却する機会が増し、産業界やポーランド全体に良い影響が出る」とコメントしている。なお、GEH社は今年5月、同設計についてカナダで申請していた許認可申請前ベンダー審査が始まったと発表した。今月初旬には、バルト三国の1つであるエストニアでも同SMRが建設可能かを調査するため、同国のエネルギー企業フェルミ・エネルギア社と協力覚書を締結している。(参照資料:GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、WNAの10月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 23 Oct 2019
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小型炉資金調達のための市場の枠組み
英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は 2018 年 1 月に小型炉資金調達ワーキンググループ(EFWG((The Expert Finance Working Group on Small Reactors)))を設置した。BEIS は EFWG に、小型炉建設計画に対し民間資金を募る上で必要となる主要な政策案と市場の枠組み、ならびにその英国議会での審議に資するための提言案につき諮問した。原子力資金調達の専門家で NECG のアフィリエイトでもあるアムジャド・ゴーリ氏はこの EFWG の主要なメンバーの一人であった。「小型炉資金調達のための市場の枠組み」はこの EFWG での何か月にもわたる議論を経て取りまとめられた報告で、小型モジュール炉(SMR)建設計画とその資金調達を市場メカニズムに基づいて円滑に進めるための政策案を英国政府に対して答申したものである。NECGのアフィリエイトであるアムジャド・ゴーリ氏はEFWG の主要なメンバーの一人として、そのエネルギー・原子力分野の資金調達についての専門性を発揮して同報告取りまとめに貢献した 。EFWG 報告とその提言は SMR を産業として確立させるのに必要となる SMR 初号機の建設計画に焦点を当てたものである。A. EFWG 報告以下は EFWG 報告を短くまとめたものである。これだけで実際の報告を読むのに代えることはできないから詳細については原文を参照されたい。EFWG での検討は小型炉建設計画に対して民間の投資資金募集の可能性を評価するべく行われた。第 2 章では英国政府の意欲的な低炭素化政策である「クリーン成長戦略」達成のために、いかに小型炉がクリーンで安全、かつ経済的にも魅力あるか、そしてその実現のためには民間部門の投資が必要であることが併せて示されている。しかし現実には市場の失敗の問題があって民間投資が行われることにはならないので、小型原子力プロジェクトの初号機建設計画では、まず英国政府が先鞭をつけるとともに成し遂げ、産業界を支援するという英国政府の役割が不可欠であることが示されている 。第 3 章では SMR が持つ将来的なメリット(例えばモジュール化やリードタイム短縮化によるコストダウン)について、大型炉と比較しながら解説がされている。そうしたメリットは技術開発ならびに製造能力確保が適切になされれば一層大きなものとなる。第 4 章では SMR に関する技術開発、製造能力確保、および建設計画立案のどれをとってもコーポレートファイナンスあるいはプロジェクトファイナンスによる資金調達が必要となることが示されている。第 5 章では小型炉建設計画が持つリスク特性を考えると大型炉建設計画よりは投融資の機会を得やすいと考えられることが示されている。第 6 章では世界各地のエネルギー関係施設等の建設計画実例を踏まえ、小型炉への資金調達方法を 9 種類に類型化して示したうえで、リファイナンスの可能性についても検討がなされている。第 7 章では英国政府に対する以下の 7 点からなる提言がまとめられている。初めから技術の選択肢を狭めて決めつけるのではなく、政策や市場の枠組みを通じて実現を図る。初めから技術の選択肢を狭めて決めつけるのではなく、政策や市場の枠組みを通じて実現を図る。小型炉の初号機建設計画は 2030 年までに市場に投入できるよう注力する。革新的な小型炉製造サプライチェーン確立に向けた計画を主導的に作る。規制当局の協力を得ながら小型炉建設計画に関する最適かつ柔軟性に富んだ安全審査プロセスを作り上げる。小型炉の初号機建設サイトを政府が準備し、小型炉建設を行う事業者のリスクを低減する。小型炉の初号機建設計画の資本費を低減させ、また民間投資家のリスクを一部分担して負う。付録 A には EFWG のメンバー、報告作成の手順、および報告の根拠となる資料を提供した関係者名が記されている。付録 B では大規模建設計画(すなわち大型炉建設計画)ではどうして工期遅延や費用超過が発生するのか、リーズ大学ジョルジオ・ロカテリ博士が解説をしている。付録 C では設計、製造、建設の 3 段階について詳細なリスクマップを示し、どこにどんなリスクがあるかを実際に示している。これらは IAEA の一般的なリスクマップ表示手法に基づいている。付録 D では第 6 章で示された 9 種類の資金調達方法の詳細な内容が示されている。B. 評価英国政府が報告の提言内容を承認しそれが実行に移されたとしても、最初の小型炉が実際に建設され、SMR のバリューチェーンと製造能力が英国内で確立されるまでには長期間を要することになる。市場だけに依存していても原子力産業が発展成長することにはならず、原子力推進のためには政府が大きな役割を担うことが必要となることが本報告で再び示されていることが重要なポイントである。この EFWG 報告の提言では原子力産業は国有化すべきだ(例えば中国、ロシアなどのように)というところまでは踏み込んでいないが、原子力産業における市場の失敗については注記されている。アムジャド・ゴーリ氏は以下の通り述べている。「原子力建設計画立案と資金調達の仕組みを市場だけに委ねて考えるのは不適切だ。小型炉建設計画を具体化し産業界を支援するためには、具体的プロセスの一つ一つについて政府が措置を講じていくことが必須である。」 PDF版
- 22 Aug 2018
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