キーワード:小型モジュール炉(SMR)
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英国 SMRへの官民投資拡大でコンペを開始
©British Government英国エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のG.シャップス大臣は7月18日、革新的な技術を用いた小型モジュール炉(SMR)の開発を促進するため、支援金の交付対象を選定するコンペを開始した。これにともない、支援金を希望する企業は同日からこのコンペに参加登録することが可能になった。英国で原子力発電所の新設計画を牽引する新しい政府機関「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」は、同コンペの担当機関として、今秋にも基準を満たした企業の最初の絞り込みを行い、詳細協議の段階に移行する計画だ。このコンペの実施は、今年3月にDESNZが公表したクリーン・エネルギーによる長期的なエネルギー供給保証と自給の強化に向けた新しい投資政策「Powering Up Britain」に基づいている。英国でエネルギーを自給していくため、GBNは前例のない規模とスピードで原子力発電の復活・拡大政策を進めており、このコンペを通じてSMRの開発プロジェクトに数十億ポンド規模の官民投資を促す方針。英国のエネルギー供給保証を強化し、価格が変動しやすい化石燃料の輸入量を削減するほか、原子力の生み出す安価な電力で経済成長や良質の雇用創出を英国全土で実現することを目指している。政府の発表によると、SMRは従来の大型炉と比べて設備が小さいため、工場での製造および迅速で低価格な建設が可能になる。ただし、ヒンクリーポイントC発電所やサイズウェルC発電所など、大型原子炉を備えた発電所の建設計画も引き続き支援する方針で、GBNとともにこれらの発電所に続く大型炉の発電所が英国のエネルギー・ミックスの中で果たす潜在的な役割を考慮していく。GBNも、2050年までに国内の総発電量の4分の1を原子力で供給するという政府目標の達成を下支えし、国内の雇用を維持しながら欧州で最も低価格な電力卸売価格を実現するとしている。DESNZのG.シャップス大臣は今回、「原子力やその他のクリーン・エネルギー源の供給量を急拡大して各世帯の電気代を抑え、プーチンのような暴君に英国がエネルギーの身代金を支払わずに済むようにしていく」と明言。「GBNが最先端のSMR開発でコンペを始めたことは、今後数十年にわたり英国と英国経済をパワーアップしていく原子力ルネッサンスの最初の一歩になった」と指摘している。原子力に1.6億ポンドの助成金交付DESNZはこのほか、政府が同じ日に原子力関係で合計約1億5,700万ポンド(約283億3,400万円)の助成金交付を決定したことを明らかにした。このうち最大7,710万ポンド(約139億1,400万円)が英国内で先進的原子炉の開発事業を進める企業に支払われる予定。次の議会の会期中(2024年~2029年)に出来るだけ多くのSMRや先進的モジュール炉(AMR)を建設するため、これらの原子炉設計が規制手続きに入れるよう支援する。また、最大5,800万ポンド(約105億円)をAMRと次世代型原子燃料のさらなる設計・開発に充てる。AMRはSMRよりも高温で運転されるため、水素製造その他の産業利用に適した高温熱を供給可能。具体的には、米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)の英国法人が進めている第4世代の小型モジュール式高温ガス炉「MMR」の開発促進に最大2,250万ポンド(約40億6,000万円)、国立原子力研究所(NNL)が日本原子力研究開発機構(JAEA)の実績に基づいて進める高温ガス炉の設計開発促進に最大1,500万ポンド(約27億円)、および同炉用の国産被覆燃料粒子の開発継続に最大1,600万ポンド(約28億9,000万円)となっている。さらに、2,230万ポンド(約40億2,200万円)が「原子燃料基金」から、ロシアからの輸入に依存しない新しい燃料の製造能力開発プロジェクト8件に提供される。これには、英スプリングフィールドにあるウェスチングハウス(WH)社の燃料製造プラントへの支援金、最大1,050万ポンド(約19億円)や、英カーペンハーストにあるURENCO社のウラン濃縮工場に対する最大950万ポンド(約17億1,000万円)の支援などが含まれている。(参照資料:英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 19 Jul 2023
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スロバキア WH社製原子炉の建設可能性模索で覚書
スロバキアの国営バックエンド企業であるヤビス(JAVYS)社は7月17日、国内で米ウェスチングハウス(WH)社製の第3世代+(プラス)PWRのAP1000や小型モジュール炉(SMR)AP300を建設する可能性を探るため、同社と2件の了解覚書(MOU)を締結した。スロバキアでは現在、WH社製原子炉を導入して国内の原子力発電設備容量を拡大できるか評価中。1件目のMOUで技術面やビジネス関係の詳細協力の枠組みを設定し、もう一件では、これらの原子炉の将来的な建設プロジェクト実施に向けた道筋を模索する。経済省が100%出資するヤビス社は、スロバキアで放射性廃棄物の管理を担当するほか、原子力施設の廃止措置のみならず増設と運転にも責任を負っている。同社はボフニチェ原子力発電所(ロシア型PWR×2基、出力各50万kWの3、4号機のみ稼働中)で将来的に5号機を増設するため、2009年にチェコ電力(CEZ社)との共同出資で建設および運転を担当するJESS社を設置。その際、ヤビス社が51%を出資した。ヤビス社はJESS社の親会社としてスロバキアの国益のため、利用可能な原子炉をすべて評価し、スロバキア政府が新たな原子炉の炉型や出力、立地点を最終決定するに当たり、選択肢を提示することになっている。今回の覚書で、ヤビス社は特にSMR建設プロジェクトの実施を念頭に置いており、このような新技術に関する情報をWH社と幅広く交換し、スロバキアのエネルギー供給網に加えられるかの適性を精査する。100万kW級のAP1000の出力縮小版となるAP300(出力30万kW)について、同社はWH社から「AP1000と同じ実証済みの技術を採用しているため、同様の許認可手続きが適用され、サプライチェーンも同じものが利用可能。同じく受動的安全系や負荷追従運転の能力も備えている」と説明されており、その建設と運転・メンテナンスを通して両設計の間でかなりの相乗効果が期待できると考えている。WH社は今年5月にAP300を発表。今回新たに、2027年までに米原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得し2030年までに初号機の建設を開始、2033年までに運転開始するとの見通しを明らかにした。WH社との協力について、ヤビス社のP.シュトレル会長兼CEOは、「ボフニチェ原子力発電所1、2号機の廃止措置など、WH社とは以前から長期的な協力関係にある」と指摘。これに加えて、WH社はスロバキアで稼働するロシア製原子炉向けに新燃料を提供するなど、燃料の調達先多様化にも貢献している。在スロバキア米大使館のG.ラナ大使は、「2件の了解覚書を通じて両国の企業が民生用原子力部門で商業レベルの協力を一層緊密にする基盤が築かれた」と歓迎している。(参照資料:WH社、ヤビス社(スロバキア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 18 Jul 2023
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米オクロ社 SPACとの合併で上場へ
対話型人工知能「ChatGPT」の開発者、S.アルトマン氏が会長を務める米国のオクロ社(Oklo Inc.)は7月11日、同氏がCEOとして統括している特別買収目的企業(SPAC)((未公開会社の買収を目的として設立される法人))のアルトC・アクイジション社(AltC Acquisition Corp)との合併を発表した。この合併により、先進的原子炉開発企業のオクロ社は同じ名前でニューヨーク証券取引所に上場し、開発中の次世代型マイクロ高速炉「オーロラ(Aurora)」の商業化を加速する。合併手続きは、両社の株主の承認を経て来年初頭にも完了する見通しである。「オーロラ」は燃料としてHALEU燃料((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))を使用する液体金属高速炉のマイクロ原子炉で、電気出力は0.15~1.5万kW。燃料交換なしで20年以上の熱電併給が可能なほか、放射性廃棄物をリサイクルしてクリーン・エネルギーに転換すると謳っている。米エネルギー省(DOE)は2019年12月、先進的原子力技術の商業化を支援するイニシアチブ「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」の一環として、傘下のアイダホ国立研究所(INL)敷地内での「オーロラ」建設を許可。これを受けてオクロ社は翌2020年3月、原子力規制委員会(NRC)に「オーロラ」初号機の建設・運転一括認可(COL)を申請したが、NRCはオクロ社の審査情報提出が不十分として、2022年1月にこの申請を却下している。その約9か月後、オクロ社は将来的な許認可手続きの効率的かつ効果的な推進のため、NRCに事前の協議活動の実施を提案した。現時点では、INLで2026年か2027年に商業規模の「オーロラ」初号機の起動を目指しており、今年5月に同社は商業規模の「オーロラ」を将来的に2基建設する地点として、オハイオ州南部を選定。同地域の4郡で構成される「オハイオ州南部の多様化イニシアチブ(SODI)」と土地の利用に関する合意文書を交わしている。今回の合併でオクロ社の総資本は最大5億ドルに増大、総資産評価額は8億5,000万ドルに達する見通し。これにより「オーロラ」用の資機材調達やサプライチェーンの強化など、初号機建設が加速され、同社は高速炉を用いた高度な燃料リサイクル技術を確立して、「オーロラ」で使用済燃料をクリーン・エネルギーに変換。長期契約で電力を直接販売するというビジネス・モデルを構築し、クリーンで安価、かつ信頼性の高いエネルギーの大規模供給という目標を達成していく。 2013年に創設されたオクロ社は、2015年にアルトマン氏が会長に就任。同氏は「輝かしい未来の実現で重要なのは豊富な知識とエネルギーだ」と指摘しており、原子力の持つ可能性に同氏は長い間関心を抱いてきたという。同氏はまた、「先進的原子力技術の商業化を進める上で、オクロ社は正に最良の企業である」と明言。同社の技術はDOE傘下の国立研究所で30年以上運転された「実験増殖炉II(EBR-II)」で実証済みであり、シンプルな設計により建設に要するコストや期間が縮減されるという。また、INLが2020年2月、使用済燃料からの回収物質の提供を約束したことから、2026年頃の初号機起動に際し必要な燃料とサイトは確保済み。さらに、同氏にとって最も重要な点は、オクロ社がJ.ドワイトCEOのように高度な技術的専門知識を備えた創業者が主導する、強力なチームを備えていることだと強調している。(参照資料:オクロ社、アルトC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 14 Jul 2023
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気候専門ファンドがスウェーデンのSMR計画に出資
スウェーデンで小型モジュール炉(SMR)の建設を計画しているシャーンフル・ネキスト(Kärnfull Next: KNXT)社は7月4日、デンマークのクリメンタム・キャピタル(Climentum Capital)社、およびスウェーデンのグラニトル・グロウス・マネージメント(Granitor Growth Management)社から合計200万ユーロ(約3億1,000万円)の資金供与を受けたと発表した。SMRプロジェクトの開発企業であるKNXT社は2022年3月、米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と了解覚書を締結しており、スウェーデン国内で複数のGEH社製「BWRX-300」(電気出力30万kW)を早期に建設することを目指している。一方のクリメンタム・キャピタル社は、気候変動の影響を緩和する技術やサービスの提供企業向け専門の投資を行う気候テック・ファンドであり、環境上の持続可能性を備えたグリーン事業への投資基準「EUタクソノミー」においては、規定が最も厳格な「9条ファンド」((EUタクソノミーにおいて、環境面で持続可能な経済活動に対してのみ投資(サステナブル投資)を行うファンドで、同タクソノミーに適格な投資の割合の開示が義務付けられている。))に認定されている。また、グラニトル・グロウス・マネージメント社は、スウェーデン国内でより良いコミュニティの構築に貢献する技術の開発に投資している。KNXT社によると、同社のSMR建設事業に対する今回の出資は、欧州の9条ファンドが原子力発電に対して行う最初の出資例となった。2030年代初頭までにスウェーデン初の商業用SMRを稼働させ、地域経済の活性化や雇用の創出を図る方針だ。同社はまた、スウェーデン全土の有望な候補サイト数地点で、SMR建設に係わる権利を確保済みである。スウェーデンでは今後25年間に無炭素電力の発電量を現在の1,600億kWhから3,600億kWh 以上に拡大することを計画しており、エネルギー庁の最新のシナリオ分析では、経済面や環境面、供給保証面の利点を最大化するには、原子力で総発電量の35~45%を賄う必要がある。これらのことから、KNXT社は再エネ関係のプロジェクト開発企業と同様に、SMRを通じてあらゆる産業部門の脱炭素化を支援していく。同社のSMR建設計画はEUタクソノミーとスウェーデンのエネルギー需要の両方に合致しているため、送電網に電力を供給するプロジェクトのみならず、輸送部門などCO2の削減が困難な産業部門の脱炭素化も推進する予定である。今回2社から獲得した資金は、KNXT社が現在実施中の事前調査や実行可能性調査に役立てるほか、スウェーデン国内でSMR建設の新たな候補地点を特定するのに活用する。(参照資料:シャーンフル・ネキスト社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 11 Jul 2023
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加オンタリオ州 大型炉を建設へ SMRも3基追加
カナダのオンタリオ州政府は7月5日、州内で約30年ぶりとなる大型炉(最大480万kW分)をブルース原子力発電所で建設するため、ブルース・パワー社と開発前段階の準備作業を開始すると発表した。また、ダーリントン原子力発電所で計画している小型モジュール炉(SMR)の建設についても、追加で3基建設する方針を表明。州営電力のオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社と、具体的な計画の立案や許認可手続きに向けた作業を開始したことを7日付で明らかにした。同州では2000年代、ブルース・パワー社とOPG社が既存のブルース、ダーリントンの両原子力発電所における増設計画や複数の新規サイトで建設計画を検討していたが、2009年~2013年までに両社はこれらすべての計画を凍結。カナダ原子力安全委員会(CNSC)にサイト準備許可(LTPS)申請の取り下げを要請した上で、既存炉の大規模改修工事を開始していた。今回、大型炉の建設準備を開始した理由として、州政府は州内で進展する電化と、それにともない2030年代以降に増加が見込まれるクリーンで信頼性の高い電力への需要、および同州の人口増加と安定した経済成長に対応するためと説明。また、同州の独立系統運用者(IESO)がこの需要増への対応策として、原子力のように10年以上のリードタイムを必要とする発電資産の計画立案と立地、環境影響評価といった作業を開始するよう同州に勧告したことを挙げた。IESOが昨年公表した報告書「脱炭素化への道筋(P2D)」によると、同州がCO2排出量の削減目標を達成しつつ電力需要の増加に対応するには、2050年までに州内の発電設備容量を8,800万kWに倍増する必要がある。州内の総発電量の約50%を賄う原子力については、ベースロード電源として1,780万kWの設備が追加で必要だと予測している。こうした背景から、ブルース・パワー社が今回、ブルース発電所サイトでの原子炉増設について連邦政府の承認を得るため、環境影響評価(IA)や関係コミュニティとの協議を開始する。大型炉のIA実施プロセスについては、連邦政府の環境影響評価庁(IAAC)が全体的な責任を負っているが、オンタリオ州政府は承認手続きにおける重複を排除するなどして効率性を高め、クリーンなエネルギー源の建設プロジェクトが速やかに進められるよう連邦政府と協力していく考えだ。また、開発前段階の準備作業には、複数の先住民コミュニティとの協議や一般国民からの意見募集などが含まれるため、完了まで数年を要する見通し。周辺環境や国民に対する新たな原子炉の影響を検証することにより、サイトの適性を適切に評価することになる。ダーリントンで4基のSMR建設へダーリントン発電所ではOPG社が2012年8月、大型炉の増設(最大4基、480万kW)用としてCNSCから「サイト準備許可(LTPS)」を取得した。大型炉計画を中止した後、同社は同じ場所でSMRを建設する計画を進めており、CNSCに要請して2021年10月にこのLTPSを10年更新。同年12月には、「ダーリントン新規原子力開発プロジェクト(DNNP)」に採用する設計として、3つの候補SMRの中からGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の「BWRX-300」(電気出力30万kW)を選定していた。その後OPG社は、2022年10月に初号機の建設許可申請書をCNSCに提出しており、2028年第4四半期の完成を目指して準備作業を進めている。オンタリオ州政府は今回、この初号機に3基を追加して合計4基の「BWRX-300」を建設すると表明。これはOPG社が今年1月、GEH社およびカナダで加圧重水炉(CANDU)事業を手掛けるSNC-ラバリン社、建設大手エーコン(Aecon)グループと6年契約で結んだ初号機建設のための協力協定に基づいている。今後は追加設備についてもCNSCに建設許可を申請し、2034年から2036年までの間に運転を開始する計画だ。州政府によると、追加の3基を建設する頃には、初号機の建設経験等を通じてコストの削減やスケジュールの短縮方策を適用できるようになる。例として、冷却水の取水や送電網への接続、4基すべての運転を制御可能な中央制御室など、複数ユニットによる共通インフラの活用を挙げた。また、OPG社はダーリントン発電所の改修工事を通じて、大型原子炉の建設プロジェクトを予算内・スケジュール通りに進める知見を培っており、同様のアプローチをSMR建設に適用できると強調している。(参照資料:オンタリオ州政府①、②、③、ブルース・パワー社、GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月6日、7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 10 Jul 2023
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韓国 官民合同の「SMRアライアンス」発足
韓国の産業通商資源部(MOTIE)は7月4日、国際的な次世代小型モジュール炉(SMR)の市場を韓国が主導するため、官民の総力をワン・チームに統合した「SMRアライアンス」を発足させた。SMR関係の国家レベルの競争力強化に向け、年内にもSMRを活用する事業の開発や関係する制度基盤の整備について、分野別ワーキング・グループが企業を中心に据えた具体的な戦略を策定。来年前半には、法人格を持ったSMR協会の発足を目指す。同アライアンスに参加するのは合計42の組織で、MOTIEや韓国水力・原子力会社(KHNP)、エネルギー経済研究院など11の政府・公共機関のほか、民間からはサムスンC&T社(サムスン物産)、大宇E&C社(大宇建設)、斗山エナビリティ社、GSエナジー社などの31社である。アライアンスの初代会長は、大手財閥企業SKグループの持ち株会社であるSK社(SK Inc.)から選任する。SK社によると、環境に優しいSMRは世界中のエネルギー業界でCO2排出量を実質ゼロに導くゲームチェンジャーになり得る。従来の大型炉と比べて、電気出力は50万kW以下(MOTIEの発表では30万kW以下)と小さいものの、自然の循環や対流を利用した受動的安全系で原子炉の冷却が可能。またSMRのモジュールは工場での製造が可能なほか、サイトへの輸送と設置方法も経済的で設置面積も小さい。ソウルのホテルで開催されたこのSMRアライアンスの発足式では、MOTIEが今後の運営方針を発表し、参加機関/企業の間で業務協約を締結した。MOTIEのイ・チャンヤン長官は、「SMRがもたらすエネルギー情勢の変化に官民が総力を挙げて対応しなければならない」と指摘。「国民が信頼できる事業戦略を参加企業が策定する一方、政府としてはSMR産業育成のための政策的支援を惜しまない」と強調した。SK社のチャン・ドンヒョン副会長は、「SMRがクリーンなエネルギー源としての役割を果たせるよう、SMRアライアンスは国民にSMRの安全性を説明し関係制度を改善、産業としての育成策も整備するなど、多方面の努力を傾注する」と表明。「世界中のSMR市場で韓国がリーダーシップを確保するため、サプライチェーンの構築や関係事業への参加についても官民が力を合わせていく」と述べた。韓国ではこれまでに、韓国原子力研究院(KAERI)が海水脱塩と熱電併給が可能なシステム一体型モジュール式PWRの「SMART」炉(熱出力33万kW、電気出力10万kW)を開発。2012年半ばに、同炉は韓国の規制当局から標準設計認証を取得している。韓国企業は国外企業のSMR開発にも積極的に参画しており、斗山エナビリティ社は米ニュースケール・パワー社のSMR「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の開発に出資し、主要機器の製造契約を獲得。SK社と同社のエネルギー関係子会社であるSKイノベーション社、およびKHNP社は、米国でナトリウム冷却式・小型高速炉「Natrium」を開発中のテラパワー社に事業協力している。また現代E&C社(現代建設)は、米ホルテック・インターナショナル社の「SMR-160」の商業化と建設プロジェクトに協力中。サムスン重工業は、デンマークのシーボーグ社製コンパクト溶融塩炉(CMSR)を搭載した海上浮揚式原子力発電所の概念設計に協力している。(参照資料:MOTIE、SK社の発表資料(韓国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 06 Jul 2023
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スタートアップ企業がSMRで熱供給目指す フィンランド
フィンランドのステディ・エナジー(Steady Energy)社は6月27日、小型モジュール炉(SMR)を活用して地域熱暖房プラントを建設するため、約200万ユーロ(約3億1,500万円)の研究開発資金を調達したことを明らかにした。ステディ社は、フィンランド国営の「VTT技術研究センター」からスピンアウトしたばかりのスタートアップ企業。今回の設立資金は、VTTのほか投資会社のYes VC社とLifeline Ventures社が提供した。また、ステディ社の今回のプロジェクトは、VTTの持つノウハウの商業化に際し起業支援を行っているスピンオフ企業、VTTローンチパッド(VTT LaunchPad)社のプロジェクトの一部である。ステディ社は、VTTが2020年から開発中のSMR「LDR-50」(熱出力5万kW)を複数基備えた熱暖房プラントを2030年までに完成させ、地域熱供給業を手始めに、その他のエネルギー集約型の産業を脱炭素化していく考えだ。ステディ社の計画ではまず、熱暖房プラントの実物大モックアップ(電気加熱式)を作製して、その機能を実証する。その後、顧客のニーズに合わせてビジネス・モデルを作成しプラント供給を開始、将来的には世界中で複数のプラントを運転する方針だ。「LDR-50」の原子炉モジュールは二つの圧力容器を「入れ子」状に組み合わせた構造で、これらの隙間の一部に水を充填。熱交換器の熱除去機能が損なわれた場合、この水が沸騰し始めて受動的な熱伝導ルートを形成、電動機器に頼らず効率的に熱を除去することが出来るという。また、同炉の稼働条件は温度が約150°C、圧力は10バール以下と大型炉より緩やかで、設計を簡素化し、厳しい安全基準をクリアしている。ステディ社によると、10バール以下の圧力は一般家庭にあるエスプレッソ・マシンと同程度で、既存の地域熱供給ネットワークよりも低い。このため、リークにつながる故障が内部機器で発生した場合でもプラント外にリークする恐れはなく、周辺住民や環境は保護される。また、欧州連合(EU)域内の世帯が消費するエネルギー全体の約50%が暖房用で、年間の総消費量は約5,000億kWh。このうち約3,000億kWhが化石燃料発電起源のため、欧州の地域熱暖房を脱炭素化するだけで数千億ユーロ規模の成長市場が見込まれるほか、温室効果ガス排出量の大幅な削減につながると同社は強調している。ステディ社のT.ナイマンCEOは、「この惑星を守り健全な地球を後の世代に残していくには、化石燃料の燃焼による暖房をすべて終わらせねばならない」と指摘。「再生可能エネルギーに加えて、原子力を活用することで熱やエネルギーが安定供給され、近代的な社会のニーズに応えるとともに地球温暖化への対処も可能になる」としている。(参照資料:VTTの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 28 Jun 2023
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ノルウェー社 国内でのSMR建設に向けTVOと協力へ
ノルウェーの民間企業であるノルスク・シャーナクラフト社(Norsk Kjernekraft AS)は6月22日、同国初の商業用原子力発電所となる小型モジュール炉(SMR)の建設に向けて、フィンランドのティオリスーデン・ボイマ社(TVO)のコンサルティング子会社であるTVOニュークリア・サービシズ社(TVONS)から支援を受けるため、基本合意書を交わした。ノルスク社はまた、SMRの立地可能性調査の実施を依頼してきた国内4つの自治体すべてと、協力協定を締結したことを明らかにしている。ノルスク社は昨年7月、ノルウェーでSMRを建設・所有・運転することを目的に、同国の民間投資会社Mベスト・グループが設立。ノルスク社は、ノルウェーは今後数十年の間に化石燃料発電から段階的に撤退していくが、これには大規模な代替電源が必要と指摘。ノルウェー社会の電化を進めるにも、原子力のように確実なベースロード電源なしでは不可能とし、SMR計画についてはノルウェーの放射線防護・原子力安全当局に通告済みという。ノルスク社はその企業戦略として、ノルウェー国民や産業界がクリーンで価格も手ごろなエネルギーを確実に得られるようにすることを目指している。今後は電力多消費産業と協力し、SMRの立地に適したサイトを国内で選定し、国の原子力規制や国際的な基準に準じて許認可手続きの実施準備を進めていく。その際、各段階で国際原子力機関(IAEA)のアプローチを踏襲するほか、資金調達も慎重に検討する方針である。今回TVONS社と交わした基本合意書で、ノルスク社はTVOが原子力関係で保有する半世紀近いノウハウを活用し、安全・確実な原子力発電所の運転に必要な作業を実施する。TVOはまた、原子力発電所の運転のみならず、子会社のポシバ社を通じて使用済燃料の最終処分場も建設中であることから、ノルスク社はバックエンド分野についてもTVOと協力していきたい考えだ。ノルスク社はすでに今年3月、英国のロールス・ロイスSMR社と了解覚書を締結しており、将来的に同社製SMRの建設プロジェクトを立ち上げる可能性について協力していくことになった。また、立地点に関しても、ノルスク社はノルウェー海に面した西海岸のアウレ村とハイム村、北極圏のナルビク町およびバレンツ海に面したヴァードー町の自治体からSMR立地可能性調査の実施要請を受けた。このうちアウレ村とハイム村、およびナルビク町については今年4月に、また、ヴァードー町については6月22日に、それぞれ1基以上のSMR建設に向けた技術面や経済面、安全面の立地可能性を共同で調査するため、協力協定を締結している。今回のTVONS社との協力合意について、ノルスク社のJ. ヘストハンマル会長は、「ノルウェーが石油や天然ガス部門で優れた能力を身に着けた時の教訓に基づき、原子力発電開発も同様のやり方で進めていく」と説明。同社が必要とする原子力関係の経験が豊富な国や企業と協力しながら、ノルウェーにも原子力発電所を建設していくと述べた。(参照資料:ノルスク・シャーナクラフト社の発表資料(ノルウェー語)①、②、③、④、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 26 Jun 2023
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ベルギーのトラクテベル社 EDFが主導するSMR開発への協力を強化
ベルギーの大手エンジニアリング企業トラクテベル社は6月15日、フランス電力(EDF)が中心となって進めている小型モジュール炉(SMR)「NUWARD」開発への協力を強化・延長するため、EDFグループ内でSMR事業を担当するNUWARD社と枠組み協力協定を締結した。トラクテベル社はフランスに基盤を置く電気・ガス事業者エンジー(Engie)社の傘下企業で、原子炉の設計や建設、運転におけるトラクテベル社とEDFグループの協力はフランスの国内外で50年以上に及んでいる。同社は2021年から欧州初のSMRとなる「NUWARD」の開発プロジェクトで概念設計作業に貢献。基本設計段階では、原子炉系やタービン系の作業にも協力している。2022年5月には、仏トゥールにあるEDFのエンジニアリング・センター(CNEPE)から「NUWARD」の概念設計調査を受注している。EDFは2019年9月、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)と政府系造船企業のネイバル・グループ、および小型炉専門開発企業のテクニカトム社と共同開発したSMR「NUWARD」を発表した。同炉はフランスで50年以上の経験が蓄積されたPWRベースで、出力17万kWの小型PWR×2基で構成される「NUWARD」プラントの合計出力は34万kW。実現すれば高圧送電網から外れた遠隔地域の需要に応えるとともに、老朽化した火力発電所をリプレースする。また、水素製造や地域熱供給、脱塩などにも応用できるとしている。NUWARD社は、これらの目標達成を目指してEDFが今年3月に発足させた100%子会社で、同炉の基本設計と予備的な許認可手続きの作業を開始。2025年からは詳細設計と正式な許認可手続きを行う予定で、2030年までにフランス国内で実証炉着工を目指している。NUWARD社の今回の発表によると、同社が発足したことにより開発プロジェクトのスタッフが大幅に増員。トラクテベル社も同炉の開発に長期的に協力していくことを決め、原子力エンジニアリング関係の一層多くの資源を同プロジェクトに投入する。すでに同社から約50名のエンジニアがプロジェクトに携わっており、今後数年間でこの人数は倍増する見通しである。トラクテベル社でグローバルな原子力事業を統括するD.デュモン最高責任者は、「過去5年にわたりSMRの技術革新を主導してきた経験から、当社は欧州その他の世界がクリーン・エネルギーに移行する際、この技術が中心的な役割を担うと確信している」と表明。NUWARD社と結んだ協力協定を通じて、同社はフランスの外側から「NUWARD」の開発を支援し、重工業や石炭火力発電所等の脱炭素化にSMR技術が活用されるよう、また、CO2排出量が実質ゼロになるよう、これまでの経験を生かしていきたいと述べた。(参照資料:トラクテベル社、NUWARD社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 21 Jun 2023
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SMR導入に向け協力覚書 スロバキア政府ら
スロバキア政府は6月12日、小型モジュール炉(SMR)の国内建設を目指して、政府が34%出資するスロバキア電力(SE社)をはじめとする複数のエネルギー部門の関係機関・企業と協力覚書を交わした。また、その実行可能性調査(FS)の実施支援金を米国政府から獲得するため、これらの機関と申請のための共同手続き文書にも調印した。協力覚書と共同手続きに参加したのは経済省とSE社のほか、原子力規制庁(ÚJD)、スロバキア送電システム会社、スロバキア原子力研究所、米国の鉄鋼大手USスチール社が同国で所有するUSスチール・コシツェ社、およびスロバキア工科大学である。協力覚書を通じてSMR建設に必要な条件を整え、建設にともなうエネルギー部門や環境へのマイナス影響を最小限にとどめる。また、このような連携協力の最初の一歩として、スロバキアは米国が昨年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP27)で発表した「プロジェクト・フェニックス」に申請することを決定。同イニシアチブでは、欧州の石炭火力発電所をSMRに移行させるのと同時に、旧発電所スタッフの再訓練を通じて地元の雇用維持を目的としている。中・東欧諸国のエネルギー供給保証に向けて、米国が移行の可能性調査等を直接支援することから、SE社は同イニシアチブを通じて200万ユーロ(約3億円)の支援金獲得を目指す一方、50万ユーロ(約7,500万円)を自ら拠出するとしている。スロバキアでは現在、出力約50万kWの商業炉4基と今年2月に送電開始した1基の原子力発電所で総発電量の約半分を賄っており、さらに同規模の新規炉1基を建設中。電力を今後も安定的かつ確実に確保し、産業界や一般世帯で高まる電力需要を満たすには、再生可能エネルギーとともに原子力が重要とSE社は考えており、既存炉のリプレースとしてではなく石炭火力発電所のリプレースとしてSMRを導入する計画だ。また、同国では昨年、原子力が無炭素電力の95%以上を供給するなど、同国のクリーン・エネルギーミックスにおける主要な柱となっている。石炭火力発電所の閉鎖と産業界の脱炭素化、またあらゆる分野で電化が加速するのにともない、スロバキアでは今後10年間に年間26億kWhの電力が新たに必要となるため、SMR等を通じてこのような需要を満たしていく考えである。SMRの利点として、SE社は機器・システムのすべてを工場内で製造・組み立てられるほか、設置点までの輸送も容易な点を指摘。従来の大型炉と比べて、安全であると同時に柔軟な運転が可能な点も挙げており、FSの結果が満足のいくものであれば、直ちに許認可手続きと建設のためのスケジュール準備を始めたいとしている。経済省のP.ドバン大臣は今回、「我々が最優先事項の一つとしているのは、価格が手ごろで温暖化の防止にも資する電力を確保するため、合理的で段階的な計画の準備をすることだ」と表明。「様々な事実を論理的に踏まえた結果、我が国のエネルギーミックスには原子力が必要であり、その経験も長期にわたり積み重ねてきていることから、それらを欧州の他のパートナーと共有するためにも『プロジェクト・フェニックス』への申請を決めた」と説明している。(参照資料:スロバキア政府(スロバキア語)、スロバキア電力、「プロジェクト・フェニックス」の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 14 Jun 2023
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加OPG社 同型SMRを建設予定のポーランド企業を支援
カナダのオンタリオ州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社は6月2日、ポーランドで同社と同じくGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製SMR「BWRX-300」(電気出力30万kW)の建設を計画しているオーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社を追加支援するため、同社と基本合意書(LOI)を交わした。両社がこれまでに交わした複数の協力合意に基づくもので、OPG社とその子会社は同LOIを通じてSMR運転員の訓練など、関連サービスの提供に向けた協定をOSGE社と将来的に締結する。支援分野はこのほか、SMRの開発と建設、発電所の運転管理と保守点検(O&M)、起動と規制に関するサポートなど。LOIへの調印は、ポーランドのM.モラビエツキ首相がカナダのダーリントン原子力発電所を視察したのに合わせて同発電所で行われた。OPG社は2021年12月、オンタリオ州内のダーリントン原子力発電所内で建設するカナダ初のSMRとして「BWRX-300」を選定。2022年10月には「BWRX-300」の建設許可申請書をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に提出しており、同サイトで取得済みの「サイト準備許可(LTPS)」に基づき、2028年第4四半期の完成を目指して準備作業を始めている。この計画を参照プロジェクトとして、OSGE社はポーランドやその他の欧州地域で複数の「BWRX-300」建設を計画している。初号機を2030年頃までにポーランド国内で完成させる方針で、建設サイトについては同社が今年の4月中旬、一連の「BWRX-300」建設候補地の中から有望な7地点を絞り込んで公表。同月下旬には、同社のD.ヤツキエビッチ副社長がこれらのうち6地点について、政府に「原則決定(DIP)」を申請したことをSNS上で明らかにしている。OSGE社との協力としては、OPG社傘下のコンサルティング企業であるローレンティス・エナジー・パートナーズ(Laurentis Energy Partners)社が2022年10月、OSGE社の親会社のSGE社と「マスター・サービス協定(MSA)」を締結しており、複数のSMRをポーランドで建設する際の初期的な計画立案を支援している。また、OPG社とSGE社は今年3月、米国で「BWRX-300」の建設を検討しているテネシー峡谷開発公社(TVA)とGEH社が結んだ技術協力協定に参加することで合意。「BWRX-300」の世界展開に向け、GEH社が発電所の標準設計や主要機器の詳細設計開発で予定している約4億ドルの投資について、残り3社が一部を負担することになった。また、米国の2つの政府系金融機関は、OSGE社がポーランドで複数の「BWRX-300」を建設する際、合計で最大40億ドルの資金を支援すると表明している。OSGE社のR.カスプローCEOはLOI締結に続くステップとして、ポーランドで建設する複数の「BWRX-300」用として運転員組織を共同で設置すると表明。その際、英国やその他の欧州連合(EU)加盟国で、同炉の建設をさらに拡大していく可能性も視野に入れていることを明らかにした。(参照資料:OPG社、OSGE社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 07 Jun 2023
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国際規制者会議 SMRの設計評価と許認可で連携促進へ
国際原子力規制者会議(INRA:International Nuclear Regulators’ Association)は5月24日に共同声明を発表し、小型モジュール炉(SMR)の包括的な設計評価と許認可を効率的かつ効果的に進めていくため、各国の規制当局者間の協力を強化するなどグローバルな方式で積極的に取り組む方針を表明した。INRAは原子力発電を活用している主要9か国((カナダ、フランス、ドイツ、日本、韓国、スペイン、スウェーデン、英国、米国))の規制当局者によるフォーラムで、今月5日にカナダのトロントで第51回会合を開催。声明文は同会合での議論に基づき、取りまとめられた。共同声明によると、地球温暖化にともなう脱炭素化やエネルギー供給保証の観点から、世界中の国々がSMRの導入を検討中であり、いくつかの国では主な選択肢になりつつある。SMRの持つ安全・セキュリティ上のメリットや工期の短さ、比較的低コストであるという側面が主な理由だが、SMRには取り組まねばならないリスクや課題もある。INRAの参加国はSMRの潜在的安全性能を認めており、規制当局者はこのような技術が原子力安全および核不拡散上の要件を順守しつつ建設されるよう保証する責務を負っている。参加国のうち、新たな原子力発電所の建設プログラムを進めている国では、SMRの包括的な設計審査と許認可で互いに協力し合っているが、今後は2国間や多国間の協力取り決めをさらに拡大して、助言やガイダンス、規制関係の評価経験を共有。それぞれが国内の規制審査を円滑に進め、専門的知見や様々な資源を確保できるようにしていく方針だ。共同声明ではまた、原子炉の設計評価を共同で行う価値を最大限に高めるには、ベンダー側でSMRの安全性向上に向けた安全解析等を実施する必要があるとしており、INRA参加国の規制当局者は評価課題を絞り込むとともに、リスク情報を活用した設計評価に全力で取り組んでいる。また、採用設計が決まった段階で即座に評価が行えるよう資源を投じていく。INRA参加国としては、設計評価を効率的に行うには標準化が重要と認識しているが、立地点の選定や環境影響など現地ならではのファクターにはさらなる対応が必要であり、その部分は各国の規制当局者に委ねられている。また、事前の設計評価は法的拘束力を持つ建設承認ではなく、建設を許可するには透明性を確保したやり方で別途、最終的な規制判断を下さねばならない。国際原子力機関(IAEA)は2022年7月、SMRを始めとする先進的原子炉設計の標準化や関係する規制活動の調和を図ることにより、その開発と建設を安全・確実に進めていくという新しいイニシアチブ「Nuclear Harmonization Standardization Initiative(NHSI)」を開始。INRA参加国もこれを支持しているが、それ以上に、その国独自の国家的規制審査を国際的アプローチに置き換えるべきではないとも考えている。したがってINRA参加国は、SMRその他の先進的原子炉設計の導入にともなう設計評価に一層グローバルなアプローチを取り入れる裏付けとして、それぞれの規制当局が担う重責と役割を強調しつつも、規制関係の2国間や多国間の協力取り決めが重要になるとした。また、産業界からは適切な情報提供を受け、設計評価の効率性を最大限に高める最善の対策も必要。INRA参加国としては、SMRの一層効率的な評価方法として共同アプローチを支持する用意ができている。(参照資料:INRAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 31 May 2023
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G7でルーマニアのSMR計画に合計2.75億ドルの支援を決定
米国務省は5月20日、米国が日本と韓国、およびUAEの官民パートナーとともに、ルーマニアが進めている米ニュースケール・パワー社製小型モジュール炉(SMR)の導入計画に共同で最大2億7,500万ドルの支援を提供すると発表した。これは昨年6月のG7エルマウ(ドイツ)サミットの際、設立された発展途上国へのインフラ投資を促す枠組み「グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)」に基づく具体的な活動で、PGIIでは2027年までに世界中で6,000億ドル規模のインフラ投資を目指している。米国では今回、輸出入銀行(US EXIM)が「エンジニアリング波及プログラム(EMP)」の中から、最大9,900万ドルの支援をルーマニアに提供するという「意向表明書(LOI)」を発出。米国からはこれに加えて、EXIMがさらに30億ドル、および政府の独立機関として民間の開発プロジェクトに資金提供を行っている国際開発金融公社(DFC)が10億ドルの資金提供を行う可能性に向けて、LOIを発出している。ルーマニアでは、国営原子力発電会社(SNN社)が南部ドゥンボビツア県のドイチェシュテイ(Doicesti)にある石炭火力発電所の跡地で、ニュースケール社のSMR「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」(出力7.7万kW)を6基備えた発電設備「VOYGR-6」(合計出力46.2万kW)の建設を計画。同計画のプロジェクト企業として、SNN社は2022年9月に民間エネルギー企業のノバ・パワー&ガス社と合弁でロパワー・ニュークリア(RoPower Nuclear)社を設立しており、2029年までに同設備を完成させる考えだ。この計画に対し米国政府はすでに2021年1月、貿易開発庁(USTDA)を通じてSNN社にSMR建設サイトの選定作業支援金約128万ドルを交付。前回サミットではPGIIの下で、「(予備的な)基本設計(FEED)調査」を実施する費用として1,400万ドルの提供を約束していた。今回、米国の EXIM、DFCとともに同計画への支援を表明したのは、日本国際協力銀行(JBIC)と韓国の資産運用会社であるDSプライベート・エクイティ(DSPE)社、UAEの原子力導入計画を主導している首長国原子力会社(ENEC)、およびルーマニアのEXIMとSNN社、ノバ・パワー&ガス社である。具体的な支援項目としては、長期を要する資機材の調達、ロパワー社がニュースケール社と実施している第1段階のFEED調査の完了作業(第2段階)、プロジェクト管理関係の専門的知見の提供、サイト特性と規制に関する分析評価、建設スケジュールと予算の正確な見積もりなどを挙げている。UAEのENECは原子力関係の専門家派遣等を通じて同計画に協力する方針で、これは昨年11月にUAEが米国と結んだ「クリーン・エネルギー加速のためのパートナーシップ」に基づく原子力関係の最初の活動である。米国務省によると、安全・確実な民生用原子力技術に対する今回の多国間の支援協力によって、世界規模のクリーン・エネルギーへの移行と地球の気温上昇を1.5℃に抑える上で、原子力が果たす重要な役割が明確に示された。米国としては、脱炭素化への世界的な動きに力を与える革新的なクリーン・エネルギー技術の活用を引き続き支援し、世界中のパートナー国にエネルギーの供給保証と自立をもたらしたいとしている。ロパワー社の社長を兼務しているSNN社のC.ギタCEOは、「チェルナボーダ原子力発電所で26年以上積み重ねてきた安全運転の経験に基づき、ルーマニアが原子力発電所の戦略的開発プロジェクトを進められることを誇りに思う」と表明。ルーマニアがニュースケール社製SMRを建設する米国に次ぐ2つ目の国として、また欧州では初の国として世界中の金融機関から信頼と支援を勝ち取ったこともまた、大きな誇りであると強調した。(参照資料:米国務省、US EXIM、SNN社、ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 23 May 2023
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米鉄鋼大手ニューコア社 SMR導入へ
北米最大の鉄鋼メーカーであるニューコア(Nucor)社は5月16日、ニュースケール・パワー社の小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の導入に向けて、同社と了解覚書を締結した。ニュースケール社が明らかにしたもので、ニューコア社は「NPM」を複数備えた発電設備「VOYGR」をベースロード電源とし、製鋼所の電気アーク炉(EAF)にクリーンな電力の供給を計画。今回の覚書に基づいて、ニュースケール社とその可能性を模索していく。具体的に両社が実施する作業は、立地点の適性評価のほかに「VOYGR」建設にともなう送電網との接続方法や資本コストの確認など。これに加えてニュースケール社側は、NPMの製造工場をニューコア社施設の近隣に建設する事例についての実行可能性も調査する。両社はまた、この協力関係をさらに拡大することも検討中。ここでは、ニューコア社のCO2排出量実質ゼロ製法による鋼製品「Econiq」を、ニュースケール社のその他のSMRプロジェクトに適用していくことを念頭に置いている。両社は2022年時点ですでに協力関係にあり、ニュースケール社が同年4月、「NPM」の商業化を加速するためスプリング・バレー社と合併した際、ニューコア社はこの合併を促進するため、ニュースケール社に1,500万ドルの民間投資を行っていた。「NPM」はPWRタイプの一体型SMRで、電気出力が5万kW~7.7万kWのモジュールを最大12基連結することが可能。顧客の要望に応じて、接続基数を変えることで出力調整が行える。受動的安全系を全面的に採用しているため、主要な安全機能は外部電源を必要としない。米国の原子力規制委員会(NRC)は2020年9月、モジュール1基の出力が5万kWの「NPM」に対し、SMRとしては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給。ニュースケール社は7.7万kW版のモジュールについても、2023年1月にSDAを申請している。一方、ニューコア社は電力集約型産業ならではの課題解決に取り組んでおり、「Econiq」ブランドでは100%再生可能エネルギー源による電力で鋼製品を製造。ニュースケール社との覚書締結について、同社のL.トパリアン社長兼CEOは、「この協力を通じてCO2排出量が実質ゼロのエネルギー社会に向けて道を拓くとともに、最もクリーンな製造方法による鋼製品を世界中に広めたい」と述べた。「NPM」の初号機については、ユタ州公営共同事業体(UAMPS)が電気出力7.7万kWの「NPM」を6基備えた「VOYGR-6」(出力46.2万kW)を、DOE傘下のアイダホ国立研究所(INL)内で建設する計画を進めており、最初のモジュールは2029年の運転開始を目指している。「NPM」導入に向けた動きは米国にとどまらない。ルーマニアでは、国営原子力発電会社(SNN)が「NPM」を国内で建設するため、民間エネルギー企業と共同でプロジェクト企業の「ロパワー・ニュークリア(RoPower Nuclear)社」を設立。ロパワー社は2022年11月に国内鉄鋼メーカーのドナラム(Donalam)社と協力覚書を交わし、CO2排出量を低減した「グリーン・スチール」を製造する方針である。ポーランドでは、鉱業大手のKGHM銅採掘会社(KGHM社)が「NPM」の導入計画を推進中。同社は今年4月、この計画に対する「原則決定(decision-in-principle=DIP)」の発給を気候環境省に申請している。(参照資料:ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 17 May 2023
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米ダウ社 X-エナジー社製SMRの立地点を選定
米国の大手化学メーカーであるダウ(Dow)社は5月11日、X-エナジー社製の小型高温ガス炉(HTGR)「Xe-100」(電気出力8万kW)を建設する地点として、テキサス州のメキシコ湾沿いに位置するシードリフト(Seadrift)市を選定した。同社とX-エナジー社は「Xe-100」を4基備えた出力32万kWの発電所を2026年に着工し、2020年代末までに完成させることを目指しており、今後は原子力規制委員会(NRC)に「Xe-100」の建設許可申請の準備を共同で開始する。シードリフト・サイトには、ダウ社が2001年に吸収合併したユニオン・カーバイド社の製造施設が立地。「Xe-100」発電所で温室効果ガスを排出せずに安全かつ信頼性の高い電力と蒸気を確保できれば、ダウ社は同施設の温室効果ガスをCO2換算で年間約44万トン削減出来る。「Xe-100」は熱電併給可能な第4世代の非軽水炉型・先進的SMRで、ベースロード用電源としての役割に加えて、水素製造や海水脱塩など幅広い用途に適用出来る。米エネルギー省(DOE)は2020年10月、X-エナジー社を「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」での支援対象企業の一つに選定。実証炉建設のための支援金8,000万ドルがDOEから交付され、その一部は「Xe-100」で使用する3重被覆層・燃料粒子(TRISO燃料)の製造施設建設にも活用可能である。2022年10月に同社の100%子会社であるTRISO-X社は、テネシー州オークリッジの「ホライズンセンター産業パーク」内で商業規模の「TRISO-X燃料製造施設(TF3)」の起工式を行っている。X-エナジー社は2022年8月に「Xe-100」の基本設計を完了、同じ月にダウ社と基本合意書を交わし、ダウ社がメキシコ湾沿いに保有する施設の一つで同炉を建設することになった。両者はその後「共同開発合意書(JDA)」に調印しており、その中で最大5,000万ドルを「Xe-100」のエンジニアリングに充てると明記。その半分までを、DOEとX-エナジー社が結んだARDP協力協定の支援金から再配分、残り半分はダウ社が提供する。ダウ社のシードリフト・サイトは面積が約19km2で、電線の絶縁体や太陽光パネル用の薄膜など、年間180万トン以上の化学製品を製造している。同社のJ.フィッタリング会長兼CEOは、「設置面積が小さくコストも割安な先進的原子炉は、その他のクリーン電源と比べて大きな強みを持っている」と指摘。同社が追及する持続可能な開発目標の達成では、同サイトが重要な役割を果たすとした。X-エナジー社のC.セルCEOは、「当社の革新的な技術により、シードリフト・サイトが必要とする電力や熱を効率的かつ確実に脱炭素化できる」と強調している。「Xe-100」の実際の建設については、米ワシントン州の2つの公益電気事業者が同州内での共同建設を目標に、2021年4月にX-エナジー社と覚書を締結。メリーランド州のエネルギー管理局も2022年6月、「Xe-100」で州内の石炭火力を代替可能かについて、経済面や社会面の実行可能性を調査すると発表した。国外では、カナダ・アルバータ州の外国投資誘致機関が今年1月、「Xe-100」の州内建設を通じて同州経済を活性化する可能性を探るため、X-エナジー社のカナダ法人と了解覚書を締結している。(参照資料:ダウ社、X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 15 May 2023
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ウクライナ 最大20基のSMR建設に向け米ホルテック社と協力協定
ウクライナ民生用原子力発電公社のエネルゴアトム社は4月21日、米ホルテック・インターナショナル社製・小型モジュール炉(SMR)「SMR-160」(電気出力16万kW)の初号機を、2029年3月までにウクライナで送電開始するというパイロット・プロジェクトの実施に向け、同社と協力協定を締結した。同協定で、エネルゴアトム社は最終的に最大20基の「SMR-160」の国内建設を視野に入れ、「SMR-160」に使用する様々な専用機器の製造施設建設など、同技術の一部国産化も検討している。両社はこれら20基の運転と機器製造施設の操業開始を早期に実現するため、効率的な実施計画を共同で策定する。ホルテック社はウクライナで使用済燃料の集中中間貯蔵施設(CSFSF)の建設計画を請け負うなど、20年以上にわたりエネルゴアトム社と協力。同CSFSFは、2022年4月に操業を開始している。SMR関係では2018年3月に協力のための了解覚書を締結しており、両社はウクライナ北西部のリウネ原子力発電所で6基の「SMR-160」建設を目指すとしていた。2019年6月には、これら2社にウクライナ国立原子力放射線安全科学技術センター(SSTC NRS)を加えた3者が「SMR-160」の国内建設を進めるため、国際企業連合を設立している。今回の協定への調印は、エネルゴアトム社のP.コティン総裁がウクライナの首都キーウで、同時にホルテック社のK.シン社長兼CEOが米ニュージャージー州のカムデンにおいて、オンラインで行った。このほか、ウクライナ・エネルギー省のG.ハルシチェンコ大臣、ホルテック社でウクライナ事業を担当するR.エイワン副社長らも調印式に参加した。今回の協定を通じて、エネルゴアトム社はウクライナにおけるエネルギー供給保証の強化に向け、一層広範な協力関係をホルテック社と確立する方針である。SMRはウクライナのエネルギー部門全体の脱炭素化とエネルギーの自給促進に有効であるだけでなく、専用ハイテク機器の製造業創業にも有効だと同社は指摘。ロシアによる軍事侵攻の終了後を見据え、SMRを通じて破壊された火力発電所などエネルギーインフラの再構築を図るとともに脱炭素化も進めていく。具体的には双方の活動を調整するため、両社は同協定の下で「共同プロジェクト事務所」を設置する。石炭火力発電所の跡地等を中心に、ウクライナ全土で「SMR-160」を設置するのに必要な作業や許認可手続き等を協力して遂行。同事務所には両社のスタッフに加えて、ウクライナの国家原子力規制検査庁(SNRIU)やエネルギー省、SSTC NRS、ホルテック社のSMR事業に協力している三菱電機や韓国の現代E&C社(現代建設)のスタッフも常駐する見通しである。エネルゴアトム社のコティン総裁は、「クリーンエネルギーへの移行に有効な革新的技術の実証をウクライナはこれまで懸命に進めてきたが、エネルギーの自給や多様化を進めるには先進的な原子力技術が不可欠。原子力はウクライナの総電力需要の55%以上を賄う重要電源であることから、今回の協定を通じてウクライナは安全でクリーンかつ信頼性の高い有望なSMRを建設し、主要なクリーンエネルギー国になる」と表明。同時に、経済開発や雇用の創出、製造施設や訓練施設の建設も進め、ホルテック社の原子力技術を世界中に普及させる地域ハブとする考えを明らかにしている。(参照資料:エネルゴアトム社、ホルテック社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 28 Apr 2023
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ポーランドの銅採掘企業 ニュースケール社製SMRでDIP申請
ポーランドの鉱業大手KGHM銅採掘会社(KGHM社)は4月14日、米ニュースケール・パワー社製小型モジュール炉(SMR)の国内建設に向け、この計画に対する「原則決定(decision-in-principle=DIP)」の発給を気候環境省に申請した。「DIP」の発給は、その投資計画がポーランド社会全体の利益につながるとともに、国家政策にも則していると政府が確認し、正式承認したことを意味している。事業者がそれ以降、立地点の決定や建設許可など様々な行政承認を申請していく上で必要な大枠の手続きとなる。この前日には、ポーランド国営エネルギー・グループ(PGE)の原子力事業会社であるPEJ社(=Polskie Elektrownie Jądrowe)も、北部ポモージェ県における同国初の大型原子炉建設に向けて「DIP」の発給を気候環境省に申請した。政府が株式の約4割を保有するKGHM社は、ポーランド南西部にある欧州最大規模の銅鉱床で採掘を行っており、持続可能な開発というコンセプトに沿った活動も展開中。2050年までに同社が排出するCO2の実質ゼロ化を目指しており、事業に必要な電力や熱エネルギーの約半分を2030年までに自社で賄うため、SMRや再生可能エネルギー源の設置プロジェクトを進めている。ニュースケール社が開発した「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」はPWRタイプの一体型SMRで、電気出力が5万kW~7.7万kWのモジュールを最大12基連結することで出力の調整が可能である。米国の原子力規制委員会(NRC)は2020年9月、モジュール1基の出力が5万kWの「NPM」に対し、SMRとしては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給。ニュースケール社は7.7万kW版のモジュールについても、2023年1月にSDAを申請している。2022年2月にKGHM社は、7.7万kW版の「NPM」を複数基備えた発電設備「VOYGR」の建設に向けて、ニュースケール社と先行作業契約を締結した。早ければ2029年にも同プラントを完成させる計画で、2022年7月には5万kW版の「NPM」について、国家原子力機関(PAA)に事前の安全評価を要請。これは原子力法に規定された予備的な許認可手続きの一つであり、PAA長官は約9か月かけて見解を取りまとめる。政府の出資企業が国のクリーンエネルギーへの移行に参画することは、J.サシン副首相兼国有資産相も奨励しており、「原子力は安全でクリーンかつ安価なエネルギー源であり、ポーランドのさらなる発展に寄与する」と明言。国内企業がポーランドのエネルギー供給保証に関われば、より効率的に国を強化できると指摘した。KGHM社のT.ズジコット社長はSMRを建設する理由として、「当社は国内最大規模の企業であると同時に、最大のエネルギー消費企業でもある」と説明。同社は最重要プロジェクトと位置付けるSMRの建設を通じて、今後の企業運営を安定化する方針であり、原子力も含めた同社のクリーンエネルギーへの移行は、ポーランド全体のエネルギー・ミックスの重要な柱になるとしている。(参照資料:KGHM社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 26 Apr 2023
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ポーランドで大型炉とSMRの建設計画が進展
ポーランド国営エネルギー・グループ(PGE)の原子力事業会社であるPEJ社(=Polskie Elektrownie Jądrowe)は4月13日、北部ポモージェ県内における同国初の大型原子炉建設に向けて、「原則決定(decision-in-principle=DIP)」の発給を気候環境省に申請した。また、同国内で小型モジュール炉(SMR)の建設を計画しているオーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社は、4月17日に建設候補の7地点を公表している。PEJ社の「AP1000」建設計画気候環境省による「DIP」の発給は、その投資計画がポーランド社会全体の利益につながるとともに、国家政策にも則していると正式に確認したことを意味している。建設サイトとなるポモージェ県ルビアトボ-コパリノ地区の承認やその後の建設許可など、PEJ社が今後様々な行政承認を申請していく上で必要な手続きの大枠としての承認となる。このためPEJ社は今回、原子力施設と関係インフラの開発と実行に関する改正特別原子力法が発効するのに合わせて、このDIP発給の申請書を提出したもの。ポーランド政府は現在、改訂版の「原子力開発計画(PPEJ)」に基づいて、2043年までに国内複数のサイトで100万kW級の原子炉を最大6基、合計600万~900万kW建設することを計画中。2022年11月には最初の3基、計375万kW分に採用する設計として、ウェスチングハウス(WH)社製の第3世代+(プラス)PWR設計である「AP1000」を選定した。2026年にも初号機の建設工事を開始し、2033年の完成を目指している。PEJ社によると「DIP」の申請書には、設置される設備の最大容量や稼働期間、採用設計の詳細など、プロジェクトの諸条件を記した文書が含まれる。また、ポーランドの電力確保に原子炉建設が必須である理由など、プロジェクトとしての正当性を示すことが不可欠の要素。この申請はさらに、2021年2月に決定した「2040年までのエネルギー政策」など、政府の戦略文書との整合性も要求される。OSGE社の「BWRX-300」建設計画一方のOSGE社は、ポーランド最大の化学素材メーカーであるシントス社のグループ企業シントス・グリーン・エナジー(SGE)社と、同国最大手の石油精製企業であるPKNオーレン社が50%ずつ出資する合弁事業体(JV)である。SMRのなかでもGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製「BWRX-300」の建設に絞り込んでおり、2030年の初号機完成を目指している。同社は17日にPKNオーレン社の本部で記者会見を開き、数十の候補地点の中から最も有望な7地点を選定したと発表。具体的には首都ワルシャワ、オストロウェンカ(Ostrołęka)、 ブウォツワベク(Włocławek)、スタビ・モノフスキエ(Stawy Monowskie)、ドンブローヴァ・グルニチャ(Dąbrowa Górnicza)、ノバ・フタ(Nowa Huta)それぞれの近郊地点、およびタルノブジェク(Tarnobrzeg)の特別経済区である。今後は、これらの地点でさらなる地質調査を実施し潜在的な可能性を確認、それぞれの地域コミュニティとは予備的な協議を開始する。これらを終えた後、2年ほどかけて最初のSMRの建設可能性を徹底的に分析し、合意が得られた場合にのみプロジェクトの実施判断を下す方針である。OSGE社によると、SMRへの投資はクリーンエネルギーへの移行を効率的かつ早いペースで進めることができる。最先端の技術を採用しているため最大限の安全性が保証されており、世界では数多くのSMRが都市部やその周辺での建設が計画されている。同社は一例として、カナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション社が、オンタリオ州内のダーリントン原子力発電所内で「BWRX-300」の建設を計画している事実に言及。同発電所は、同州有数の商業都市で14万人の人口を抱えるオシャワから5kmの地点にある。なお、OSGE社が建設する「BWRX-300」の最初の複数基に対しては、米国政府の融資機関である米輸出入銀行(US EXIM)が最大30億ドル、国際開発金融公社(DFC)が最大10億ドルの財政支援提供の意思を表明した。17日に拘束力のない声明文である意向表明書(a letter of interest)に署名したもので、既定の輸出取引で申請書が提出された場合に、財政支援を行う用意があることを示している。OSGE社によると、ポーランド国内の主要な3銀行も同様に資金提供を表明している。(参照資料:PEJ社の発表資料、OSGE社の発表資料①、②、US EXIMの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 25 Apr 2023
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カナダの2州がSMR建設で協力
カナダのニューブランズウィック(NB)州とサスカチュワン(SK)州の両政府は4月17日、両州で第4世代小型モジュール炉(SMR)の建設を念頭に置いた協力の強化で合意し、了解覚書を締結した。この覚書は、両州およびオンタリオ州がカナダ国内におけるSMRの開発と建設に向けて、2019年12月に交わした「協力覚書」に基づくもの。同覚書には2021年4月にアルバータ州も参加し、2022年3月には4州で「SMR開発・建設の共同戦略計画」を策定している。今回の覚書により、双方の州営電力であるNBパワー社とサスクパワー社は、SMRの建設計画や関係するサプライチェーンと雇用環境の構築、規制等に関する知見や経験を共有する。具体的には、NB州が州内の複数地点で建設を計画している米ARCクリーン・テクノロジー社製の第4世代SMR「ARC-100」(電気出力10万kW)を、SK州にも建設する方向での協力になる。SK州はすでに2022年6月、2030年代半ばまでに州内で建設する最初のSMRとして、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の「BWRX-300」(電気出力30万kW)を選定した。同炉については、オンタリオ州営電力のオンタリオ・パワー・ジェネレーション社がそれよりも先に2021年12月、州内のダーリントン原子力発電所内で、早ければ2028年初頭までに完成させるSMRとして選定。SK州は、オンタリオ州の方針に追随すれば初号機建設にともなうリスクが回避されるなど、カナダ全体で多数のSMRを建設していく上で多くの利点があると説明していた。一方のNB州では、2018年にNBパワー社が同社のポイントルプロー発電所内で、第4世代のSMR実証炉を2種類建設するというプロジェクトを開始。第4世代のSMR開発は同州の「気候変動アクション計画」に盛り込まれており、同州が2035年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指す上で重要な部分を担う。第4世代のナトリウム冷却高速炉技術に基づく「ARC-100」はこの2種類の1つであり、2029年の運転開始が見込まれている。同州ではまた、北部ベルドゥーンの港湾管理局が2022年11月、北部地域の経済成長に向けて開発中の「グリーン・エネルギー・ハブ特別区」における活動の一環として、「ARC-100」の導入を目指すと発表していた。NB州は今回、SMR開発は両州のみならず世界中で、安全かつ信頼性の高い無炭素エネルギーを提供できると指摘。その中でも、第4世代の先進的なSMRは電力のみならず高温熱を生産できるため、様々な産業プロセスの脱炭素化やクリーンな水素の製造には理想的だと述べた。NB州のM.ホランド天然資源・エネルギー開発相も、「原子力発電所の運転では40年の経験があるので、クリーンエネルギーや再生可能エネルギーの開発でNB州はカナダのみならず世界中で主導的役割を担っていく」と明言。原子力は今後、低炭素な社会に移行する際の重要電源になると指摘している。SK州のD.モーガン・サスクパワー社担当相は、「SMR関連で両州はここ数年間に強力な協力関係を築いており、今後は国内外のSMR事業で互いに利益を得ていきたい」と表明。SMR技術の活用で脱炭素化が加速されると述べた。なお、「ARC-100」については、アルバータ州政府も今年3月、州内での建設と商業化に向けてARCクリーン・テクノロジー社と協力する考えを発表している。(参照資料:NB州政府、SK州政府、ARCクリーン・テクノロジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 21 Apr 2023
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加アルバータ州 ARC社製SMRの建設に向け覚書締結
カナダ中西部アルバータ州の外国投資誘致機関であるインベスト・アルバータ社(IAC)は3月23日、米ARCクリーン・テクノロジー社のカナダ法人(ARCカナダ社)と了解覚書を締結、同州内でARC社製の第4世代小型モジュール炉(SMR)「ARC-100」の建設と商業化に向けて協力することになった。「ARC-100」はナトリウム冷却・プール型の高速中性子炉で、電気出力は10万kW。同炉の技術は、米エネルギー省(DOE)傘下のアルゴンヌ国立研究所で30年以上運転された「実験増殖炉II(EBR-II)」で確認済みのものである。アルバータ州は天然資源豊富なカナダの中でも特に、石油や天然ガスの資源に恵まれており、州内には重工業やエネルギー企業の本社が多数置かれている。今後はSMRが生み出す無炭素な電力や熱を活用して、水素製造や医療用放射性同位体の生産、オイルサンドからの燃料抽出、化学製品の製造、鉱山業、海水脱塩といった産業の脱炭素化を推進。低炭素社会への移行に際しても、エネルギー生産州としての立場を維持していく方針だ。ARCカナダ社によると、「ARC-100」の小規模な設計や熱電併給可能という柔軟性、化石燃料に対するコスト面の競争力の高さは、同州にとって理想的な無炭素エネルギー源となる。そのためIACは、今回の覚書を通じて州内複数地点での「ARC-100」建設に向けた支援を行うとしており、間欠性のある再エネをSMRで補うことで同州の脱炭素化戦略を進める。一方のARCカナダ社は、IACによる支援の下で同州の関係者や産業界との連携を深め、複数の「ARC-100」の製造・建設と運転に不可欠のサプライチェーンを構築し、関連サービスを提供していく考えだ。アルバータ州は2021年4月、カナダ国内のオンタリオ州とニューブランズウィック(NB)州およびサスカチュワン州の3州が2019年12月に締結した「多目的SMR開発・建設のための協力覚書」に参加。2022年3月には、これら4州でSMRの開発と建設に向けた共同戦略計画を策定している。アルバータ州ではまた、テレストリアル・エナジー社が開発した小型モジュール式・一体型溶融塩炉(IMSR)の建設を念頭に、IACが2022年8月に同社と覚書を締結。今年1月には、米X-エナジー社の小型ペブルベッド型高温ガス炉「Xe-100」の州内建設を通じて同州経済活性化の可能性を探るため、IACが同社のカナダ法人と了解覚書を締結している。ARC社の社名は元々、アドバンスド・リアクター・コンセプツ社だったが、その後はARCニュークリア社、ARCクリーン・エナジー社と変更していき、現在はARCクリーン・テクノロジー社と呼称している。ARC社は2018年7月、カナダ東部NB州の州営電力であるNBパワー社と協力合意しており、同社が州内で運転するポイントルプロー原子力発電所内で、2029年までに「ARC-100」を完成させる計画だ。これにともない、同社はNB州セントジョンに初のカナダ事務所を設置している。同州ではまた、北部ベルドゥーンの港湾管理局が2022年11月にARCカナダ社の提案を受け入れ、「ARC-100」の建設に向けて米国のプロジェクト開発企業と協力することになった。(参照資料:ARCクリーン・テクノロジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 29 Mar 2023
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