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【第55回原産年次大会】セッション1「各国におけるストラテジーとしての原子力開発利用」
セッション1では「各国におけるストラテジーとしての原子力開発利用」をテーマに、4か国から原子力政策が紹介された。モデレータを務めた日本エネルギー経済研究所・戦略研究ユニットの村上朋子原子力グループマネージャーは、セッション内容の説明に際し、世界の33か国・地域が原子力を利用している理由として、「人口や経済規模の大きい国が大量のエネルギーを必要としたから」という考え方に言及。あるいは逆に、原子力のように安定したエネルギーを利用してきたからこそ、多くの人口を維持し経済発展を遂げたとも考えられるが、実際の原子力利用国では単にエネルギー問題の解決のみならず、他の様々な事情も考慮されてきたことが想像できるとした。同氏はまた、日本の「原子力開発利用長期計画」では原子力はエネルギー政策としてだけでなく、長期的な産業振興政策の一つとしても優良な選択肢であった点を指摘した。その上で、原子力はある日突然、必要になったからと言って「泥縄式に」手に入るものではないし、何十年もの間に万が一の事態が発生することに備えて、二重三重の対策を講じておくことがエネルギー政策だと強調。本セッションでは、原子力の開発利用を巡る各国の諸事情を直接伺いたいと述べた。♢ ♢カポニティ次官補代理米国エネルギー省(DOE) 原子力局のA.カポニティ次官補代理(原子炉フリート及び先進的原子炉担当)は、CO2排出量が実質ゼロの経済で不可欠な先進的原子炉の開発について、米国の現状を次のように述べた。J.バイデン大統領は地球温暖化への取り組みを最優先に考えており、DOEは国内外のCO2排出量の削減目標達成に向けて、SMR等の先進的原子炉設計を早急に市場に出す準備を積極的に展開中。この意味で新規の原子炉建設は非常に重要なものになっており、バイデン政権は①2020年代末までに米国のCO2排出量を50%以上削減、②2035年までに米国の電源ミックスを100%クリーンなものにする、③2050年までにCO2排出量が実質ゼロの経済を獲得する、などの目標を設定。このような意欲的な目標を達成するには、原子力のようにクリーンで信頼性の高いベースロード電源が不可欠だとDOEは考えている。現在、米国の原子力発電所は総発電量の約20%を供給しているが、クリーン電力だけ見ると年間総発電量の半分以上が原子力によるもの。これらは平均92%という世界で最も高い設備利用率で稼働中であり、他のいかなる電源よりも高い数値である。このような事実から、原子力は米国で最も信頼性の高い、最大の無炭素電源と位置付けられており、既存の大型軽水炉の運転継続を支援し、SMRやマイクロ原子炉等の先進的原子炉設計を新たに市場に出すことは、米国における地球温暖化対応戦略の主要部分となっている。先進的原子炉設計の商業化を支援するに当たり、DOEでは次の3つのアプローチをとっている。すなわち、①DOE傘下の国立研究所で基礎研究開発を進める、②先進的原子炉の開発事業者が国立研究所の専門的知見や能力、関係インフラを利用しやすくなるよう連携する、③技術面と規制面の主要リスクに官民が連携して取り組み、2020年代の末までに先進的原子炉の初号機を送電網に接続する、である。そのためにDOEが具体的に実施している方策としては、先進的原子力技術の商業化支援構想「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」が挙げられる。GAINでは、技術開発支援バウチャー(国立研究所等の施設・サービス利用権)プログラムなどを通じて、民間企業が国立研究所のインフラ施設や専門的知見、過去のデータ等を活用できるよう財政支援を実施。DOEが2019年に傘下のアイダホ国立研究所(INL)内に設置した「国立原子炉技術革新センター(NRIC)」では、技術の実証に使える試験台や実験インフラを提供している。また、官民の連携アプローチでは、DOEは3つの先進的原子炉設計を選定して、実証炉の開発プロジェクトを支援中。その1つ目はニュースケール・パワー社の軽水炉型SMRで、2029年までにINL内で最初の実証モジュールを稼働させる。出力7.7万kWのモジュールを6基連結することにより、合計46.2万kWの出力を得る計画である。2つ目は、テラパワー社がGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と共同で進めている、ナトリウム冷却高速炉「ナトリウム(Natrium)」計画。ワイオミング州内で閉鎖予定の石炭火力発電所で電気出力34.5万kWの実証炉を建設することになっており、火力発電所のインフラ設備や人員を活用する予定になっている。3つ目は、X-エナジー社が開発している小型のペブルベッド式高温ガス冷却炉「Xe-100」。ワシントン州内で初号機の建設が予定されており、その高い出口温度によって水素製造に適した高品質の蒸気を生産するほか、4基のモジュールを組み合わせて32万kWの発電設備とする計画である。♢ ♢ポペスク局長ルーマニア・エネルギー省のE.ポペスク・エネルギー政策・グリーンディール局長は同国の原子力開発戦略を次のように紹介した。ルーマニアを含む欧州南東部は依然としてエネルギー安全保障の脆弱性という問題を抱えているため、供給保証の確保と調達先の多様化は引き続き、この地域におけるエネルギー政策の基本要素である。2030年までの期間、温室効果ガス(GHG)排出コストの上昇にともない、低炭素な風力や太陽光、原子力等の設備拡大ペースも早まっていくと想定。長期的なエネルギーシステムの開発に関するシナリオはすべて、大規模な水力発電や再エネ、原子力、エネルギー貯蔵など、利用可能なあらゆる低炭素技術の活用を前提としたものであり、これらの技術はルーマニアにおける「低炭素でバランスの取れた多様なエネルギーミックス」の構築に不可欠な貢献を果たす。欧州連合(EU)はエネルギーと気候関係で2030年までの目標を多数掲げているため、加盟国は2030年まで10年間の総合的な国家エネルギー・気候計画(NECP)を策定しなければならない。ルーマニアが2030年までを目処に設定した目標としては、EU排出量取引制度(ETS)の中でGHG排出量を2005年比43.9%削減;最終エネルギーの総消費量に占める再エネの割合を30.7%に拡大;ルーマニアの「国家復興・強靭化計画(RRP)」ではこの割合を34%とする、などがある。原子力に関しては、ルーマニアはその利用可能性や高い競争力、環境への影響が少ないこと等から、電力部門の持続可能な発展のための解決策と認識。発電における戦略的選択肢であるとともに、国家エネルギーミックスの安定した構成要素と考えている。現状では、チェルナボーダ1、2号機(各70万kW級のカナダ型加圧重水炉=CANDU炉)が送電開始以降、CO2を累計で1億7,000万トン削減したほか、毎年約1,000万トンを削減中。総発電量に占める原子力発電の割合は18~20%だが、クリーンエネルギーでは全体の33%を両炉が供給している。また、原子力関係の売上高は2017年の累計で5億9,000万ユーロ(約802億円)にのぼり、2030年までの総投資額は80億~90億ユーロ(1.09兆~1.2兆円)に達する見通しである。ルーマニアの脱炭素化目標では、2030年までにCO2排出量を現状から55%削減し、輸入エネルギーへの依存度も現在の20.8%を17.8%まで削減する。このため、原子力ではチェルナボーダ1号機の運転期間延長に加えて、建設工事が1989年にそれぞれ15%と14%で停止した同3、4号機(各70万kW級CANDU炉)を2031年までに完成させる。また、SMRを6モジュール分(46.5万kW)設置するほか、チェルナボーダ発電所内ではトリチウム除去施設(CRTF)を建設、回収したトリチウムは安全に長期保管するほか、国際核融合実験炉計画(ITER)等に役立てる方針である。1号機の運転期間延長については、フェーズ1の作業が終了間近となり、次の段階では延長プロジェクトの実施でEPC契約を締結するほか関係許認可を取得、最終投資判断(FID)も行われる。実際の改修工事は、フェーズ3で2026年12月から2028年12月まで効率的に遂行する。3、4号機を完成させる工事については、ルーマニア国営原子力発電会社(SNN)の子会社であるエネルゴニュークリア社が2021年11月、SNC -ラバリン社グループのCANDU炉製造企業であるCANDUエナジー社と契約を締結している。SMR関係では、SNNが米ニュースケール・パワー社製SMRの国内建設を目指して、2021年11月に同社と協業契約を締結した。欧州初のSMRとして約46万kW分を設置し、毎年400万トンのCO2排出を抑制するという計画。SNNは2022年4月末までに、建設サイトを決定する予定である。♢ ♢ギブルジェ-ツェトヴェルティンスキ次官ポーランド気候環境省のA.ギブルジェ-ツェトヴェルティンスキ次官は、同国における原子力発電開発とその利用戦略について、次のように解説した。ポーランド政府は、2040年までを見通したエネルギー戦略やCO2排出量の実質ゼロ化を達成する上で原子力の利用は欠かせないと考えており、そのための2つの重要文書「2040年に向けたポーランドのエネルギー政策」と「ポーランドの原子力開発計画」を策定した。ともに2043年までに原子炉を6基、600万~900万kW建設することを想定。出力100万~150万kWの初号機については2033年までに運転を開始し、その後2年おきに残りの5基を完成させていく計画である。「2040年に向けたエネルギー政策」では低炭素なエネルギー・システムに移行するための枠組みを設定しており、このようなシステムの構築に必要な技術の選定に関する戦略的決定事項を明記した。また、信頼性の高い電源として、原子力がポーランドの電源構成の中で極めて重要な部分を担っていることを再確認。原子力はまた、出力調整が可能なベースロード電源であるため、再生可能エネルギー源を着実に建設していく一助になる。2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成することは、未だに総発電量の約7割を石炭火力で賄っているポーランドにとって非常に大きな挑戦だが、それでもポーランドはエネルギーの安定供給と経済競争力を維持しつつ、電源構成を改善していくと決定。最終的に総電力需要の約20%を原子力で賄い、ポーランドの脱炭素化に向けた取り組みの主翼とする方針である。原子力発電の導入を実現する重要要素としては、「サイトの選定」、「事業モデルの構築」、「採用技術」の3点があり、立地点については最初の発電所の建設に適したサイトとして、事業会社のPEJ社が北部ポモージェ県ホチェボ自治体内の「ルビアトボ-コパリノ地区」を選定した。採用技術としては、確証済みの技術を採用した第3世代+(プラス)の大型PWRを検討。事業モデルに関しては、これから選定するパートナー企業が事業会社のPEJ社に最大49%出資し、事業リスクを分散してくれることを期待している。PEJ社については、2021年3月に政府が同社株を100%取得したことから、政府が同社を直接監督している。同社は最近、最初の発電所建設と運転が周囲の環境に及ぼす影響について評価報告書(EIA)を取りまとめており、現在は「サイトの評価報告書」を作成中。今後数か月の間に発電所に採用する原子炉技術を選定してベンダーと契約するほか、EPC(設計・調達・建設)コントラクターとも契約を締結、政府からは「環境条件に関する承認」を取得するため、原子力発電プログラムは特に忙しくなる。政府はまた、2020年後半に改訂版の「原子力発電計画」を採択。このため、原子力発電に必要な人的資源の開発や国民とのコミュニケーション、原子力発電所の建設と運転に参加する国内産業界の準備支援等を優先的に実施していく考えだ。政府はさらに、2021年12月に「地元の産業支援計画」を承認した。同計画では、様々な産業活動への国内企業の参加を促す予定。原子力では新たなイノベーション産業がポーランドで生まれると期待されており、原子力発電所建設事業の70%までを国内企業が実施することになる。♢ ♢ブイット部長フランス環境移行省エネルギー・気候局(DGEC)のG.ブイット原子力産業部長は、フランスにおける今後の原子力エネルギーの展望について以下のように説明した。フランスでは現在、56基のPWRで3,350億kWhを発電(2019年実績)しており、発電シェアは全体の67%、これらの平均稼働年数は36年である。2015年に「グリーン成長のためのエネルギー移行法(LTECV)」が成立し、2019年にはその内容を補完する「エネルギー気候法(LEC)」が公表された。これらではエネルギーの移行に向けて、野心的な国家中長期目標を設定。すなわち、「2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成」、「2030年までに化石燃料の消費量を2012年比で40%削減」、「2012年から2050年までの間に最終エネルギーの消費量を50%削減」、「2030年までに最終エネルギー消費量の33%を再エネとする」、などである。2020年4月には、LECの目標を達成するための補足文書として、①(2028年までの)多年度エネルギー計画(PPE)、②国家低炭素戦略(SNBC)が制定された。PPEの第一期(2019年~2023年)では、原子力部門の将来に向けた行動計画を提示。原子炉の運転年数を40年以上に延長することや、再処理戦略が再確認されている。一方、送配電企業のRTEは2021年10月、政府の指示により、国内の電源構成を完全に脱炭素化しつつ長期的な電力ニーズを満たすためのシナリオを6つ作成。それぞれの費用やリスク評価した結論として、「原子力を完全に廃止したシナリオでは、2050年までに電源構成の脱炭素化という目標を達成できないリスクがある」、「新規の原子炉建設は経済的観点から妥当」などと発表した。このような状況を受けてE.マクロン大統領は2021年11月、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するため、再エネ源の大規模開発継続に加えて、原子炉建設を行う新しいプログラムを設置したと発表している。2022年2月には、「国内で新たに6基の改良型EPR(EPR2)を建設し、さらに8基建設するための研究を開始する」、「効率的な発電能力を維持している既存の原子炉は、最高水準の安全性が確保されている限り廃止しない」などの方針を明らかにした。現在、フランス政府はエネルギー・気候政策の定期的な見直しとして、PPE第二期(2024年~2028年)の戦略策定に向けた意見を2021年秋から幅広く聴取中。議会は2023年の夏ごろ、新たな方針を盛り込んだ法律の制定に向け議論を実施する予定で、次回の改訂では新規原子炉の建設に関してさらなる詳細が示される。一方、原子力産業界ではフランス電力(EDF)が中心となってPWRタイプのSMR「NUWARD」を開発しており、2040年までに国内エネルギーミックスに組み込む方針。「NUWARD」では、1つの建屋に出力17万kWの原子炉を2基設置、静的安全システムによって様々な事故シナリオに対応可能になる。このような産業界を支援する戦略として、政府は2020年9月に「フランス復興計画」を発表した。原子力産業界の設備・能力の近代化関係で1億ユーロ(約136億円)、原子力研究開発に2億ユーロ(約272億円)の支援を行うほか、「NUWARD」の予備設計支援で5,000万ユーロ(約68億円)を投じることになった。また、2021年10月にはマクロン大統領が、将来に向けた新たな大規模投資計画「フランス2030」を発表。2030年までに国民の生活や生産活動をより良いものとするための目標10項目を掲げており、エネルギーを含む様々な重要分野に対応。原子力関係では、小型原子炉その他の革新的な原子炉の台頭促進が目標の一つであることから、10億ユーロ(約1,358億円)の公的資金の投入方針を明らかにしている。
- 13 Apr 2022
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仏大統領、国内で新たに原子炉を6基建設、8基調査検討すると表明
今年4月に大統領選挙を控えたフランスのE.マクロン大統領は2月10日、同国のCO2排出量を2050年までに実質ゼロ化するという目標の達成に向け、国内で改良型の欧州加圧水型炉(EPR2)を新たに6基建設するほか、さらに8基の建設に向けて調査を開始すると発表した。同大統領は建設サイトの確定など、このための準備作業を今後数週間以内に開始する方針で、今年の後半から国内でエネルギー関係の公開協議を幅広く実施。2023年には議会で複数年のエネルギー関係プログラムを改訂するための審議を行い、2028年までに最初の一基を着工、2035年までの完成を目指すとしている。また、電気事業者のフランス電力(EDF)が原子力・代替エネルギー庁(CEA)らと共同開発しているPWRタイプの小型モジュール炉(SMR)「NUWARD」に関しても、2030年までにプロトタイプを建設できるよう10億ユーロ(約1,300億円)の予算を付けてプログラムを進めていく考えである。エネルギー戦略に関するマクロン大統領の発表は、フランス東部ベルフォールにあるGEスチーム・パワー社で行われた。同大統領によると、新しいエネルギー政策の主な目的はフランス国内のエネルギー消費量を今後30年以内に40%削減しつつ、無炭素なエネルギー源の設備容量を拡大することにある。この政策を通じて、30年以内に化石燃料からの脱却を果たす最初の主要国になるとともに、産業界におけるエネルギーの自給を強化する。フランスはこのようにして、エネルギー関係の制御力を取り戻していくとした。また、発電電力量は現在より最大60%増産しなければならないが、大統領はこれらの大半を安全な発電方法による無炭素な電力とするため、再生可能エネルギーと原子力の両方を活用するとした。大統領によると、国内には「太陽光と風力のみで可能だ」という人もいれば、「100%原子力にし、再エネは不要」という人もいるが、現実的にフランスではこれら2つの電源に賭ける以外に方法はない。同大統領は、再エネと原子力の複数の発電割合による戦略こそ、エコロジー面で最も現実問題に直結した方法であり、経済面でもコストが最小になるなど、最も目的に適っていると指摘した。原子力に関しては、マクロン大統領は「今こそフランスの原子力ルネッサンスというべき時が来た」と述べており、そのための重要政策の1つとして「安全性を損なうことなく、すべての既存原子炉の運転期間を延長する」と言明した。「今後、国内の電力需要が大幅に伸びることを考えると、私としては安全性に問題がないのであれば、将来的に1基の原子炉も閉鎖したくない」と表明。2017年以降、いくつかの原子炉ですでに運転期間が40年以上に延長されたが、今後は50年を超える運転期間の延長についてもEDFに状況調査を依頼するとしている。もう1つ重要政策は、「昨年11月に発表した方針を再確認したものであり、(運転期間の延長ができないレベルに高経年化した既存炉の閉鎖や、電力需要の増加見通しを背景に)新しい原子炉の建設を再開する」と表明。大統領によれば、フランスの原子力産業界はフィンランドのオルキルオト原子力発電所3号機、および国内のフラマンビル原子力発電所3号機(FL3)で長期化している2基のEPR建設で多くの教訓を学んだ。EDFと国内の原子力部門は100万時間を超えるエンジニアリング作業を通じて、これらの教訓をEPR2に反映させており、その設計はFL3以降大幅に進歩。これらのことから、マクロン大統領は今後、国内の3サイトで2基ずつEPR2を建設するのに加えて、さらに8基の建設を検討するとしている。このほか同大統領は、昨年10月に発表した新たな産業政策「フランス2030」の中で、SMRや先進的原子炉の技術を実証すると発表したことに言及。新規のEPRとは別に、革新的技術を採用したこのような原子炉を建設し、安全性の向上や放射性廃棄物の発生量削減、核燃料サイクルの確立等を目指すとした。これらの新設計画により、フランスでは2050年までに、新たに2,500万kWの原子力発電設備が起動することになる一方、このような決定を実行に移すには、規制面や財政面、組織面など原子力部門の様々な状況を改善する必要があると指摘している。(参照資料:仏大統領府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 14 Feb 2022
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COP26のインパクト
原子力復権の予兆(後編)前編はこちら国連気候変動枠組条約は、現在、経済規模、成熟度、資源の有無など全く成り立ちの異なる197か国が批准している。締約国会議の採決は全会一致が原則であり、毎年、合意文書を取りまとめるのは生易しいことではない。国家間の利害の対立が極めて大きいからだ。COP26では、1)石炭の取り扱い、2)温室効果ガス排出枠取引のルール、3)先進国による途上国支援──の3点が最大の論点だったと言えよう。このうち、石炭については、議長国である英国が作成した原案では、“phase out(廃止する)”との表現が使われていたが、産炭国などの強い反発により最終的に“phase down(段階的に削減する)” に修正され、合意に漕ぎ着けた。また、先進国とブラジル、インドなど新興国が対立していた排出枠のキャップ・アンド・トレードは、2013年以降に国連へ届け出された排出枠(クレジット)を移管、売買を容認することで歩み寄っている。一方、2009年12月のCOP15で採択されたコペンハーゲン合意では、途上国の温暖化対策を支援するため、先進国は2012年までに共同で300億ドルの資金を拠出、2020年までに年間1,000億ドルの支援を行うと約束していた。しかし、2020年の支援額は796億ドルに止まり、途上国側が強く反発していたのである。COP26の合意文書では、先進国側が支援目標の未達に遺憾の意を表明した上で、2025年までに2019年の支援実績額を少なくとも倍増させるとの表現を盛り込んだ。一連の合意内容は、温暖化問題に熱心に取り組んで来たNGOなどの立場から見た場合、物足りないと感じられるかもしれない。もっとも、石炭の段階的使用削減、国際的な排出枠取引導入の両方で方向性を出せたことには大きな意味があるのではないか。ある程度の妥協がなければ、ガラス細工の枠組は簡単に崩壊してしまうだろう。現実的な落し所へ議論を収斂させた点について、議長を務めたボリス・ジョンソン英国首相は十分に評価されて然るべきだ。 欧州における変化の兆しCOP26が開催されていた最中の昨年11月9日、フランスのエンマニュエル・マクロン大統領は国民向けに演説、原子力を電力供給と産業の中核に位置付け、欧州加圧水型原子炉(EPR)の建設を再開する意向を表明した。同国は新たに6基を建設する計画だ。フランスでは56基の商業用原子炉が稼働、2020年は米国に次ぐ379.5TWh(=3,795億kWh)の電力を供給しており、総発電量に占める原子力比率が70.6%に達する原子力大国に他ならない(図表1)。もっとも、2012年5月に就任したフランソワ・オランド前大統領は、前年の福島第一原子力発電所の事故を受け、大統領選挙において原子力発電比率を2025年までに50%へ低下させると公約した。2017年5月に就任したマクロン大統領は、オランド前大統領の公約を踏襲しつつ、2018年11月、達成年限を2035年に10年間先送りしていたのである。今回は実質的に目標自体を見直したと言えるだろう。温室効果ガス削減が喫緊の課題になる一方、欧州では天然ガス価格が高騰し、結局、原子力への回帰が最も合理的と判断した模様だ。非常に興味深かったのは、この件を伝えた朝日新聞の記事だった。11月13日付け朝刊の見出しには『仏マクロン氏「原発回帰」鮮明 新設は脱・石炭の「強いメッセージ」』とあり、フランス政府の決断を肯定的に伝えている。日本国内における原子力発電には厳しい論調を繰り返してきた同紙だが、フランスの原子力回帰の動きに関しては、「脱・石炭」政策の一環としてポジティブな評価を下している模様だ。率直な感想としてダブルスタンダードの感が否めない。核兵器保有国であるフランスの原子力発電が肯定され、核兵器を持たない日本の原子力が否定される理由について、朝日新聞は積極的に説明すべきだろう。今後、注目されるのはドイツの動きである。福島第一原子力発電所の事故を受けた2011年6月6日、アンゲラ・メルケル首相(当時)は、2022年までにドイツ国内で稼働している全ての原子力発電所の稼働を停止すると閣議決定した。現在、ドイツでは6基の商業用原子炉が稼働、2020年の発電比率は11.3%だったが、現行の政府方針では来年中にその全てが止まる計画だ。しかしながら、ドイツはフランス以上に天然ガス価格の高騰に苦しんでおり、国内においてエネルギー政策の見直しを求める声が強まっていると言われている。去る12月8日には社会民主党(SPD)を中心とする連立によりオラフ・ショルツ内閣が誕生した。中道左派のSPD、中道右派の自由民主党に加え、脱原子力を主張する同盟90/緑の党が連立を組んでおり、政権としての原子力政策はかならずしもまだ明確ではない。ただし、昨9月26日の総選挙において、ショルツ氏は気候・環境保全、化石燃料産業の脱炭素化、カーボンニュートラルの達成を訴えて国民の支持を得た。天然ガスへの依存はロシアの影響力を強めかねない上、再生可能エネルギーのウェートをさらに引き上げ、脱石炭を加速させるのであれば、安定的なベースロードの確保は極めて重要な政策課題だ。ショルツ内閣が原子力政策を見直す可能性はゼロではないだろう。COP26を通じて議長国の英国、そしてEUは温室効果ガス排出量削減を積極的に主張した。一方、今春以降、欧州は異常気象に見舞われ、スペイン、英国などが風力不足に悩まされている。当然、化石燃料に依存せざるを得ず、需要が急増した天然ガス、石炭の価格高騰を招いてインフレ圧力が強まった。安定したエネルギー供給、温室効果ガスの排出削減、そして経済合理性、これらを同時に達成するため欧州、そして世界全体において原子力利用の機運が高まっても全く不思議ではない。COP26の開催期間中を敢えて狙った原子力大国フランスの決断は、そうした流れを反映しているのではないか。 スリーマイル、チェルノブイリ、そして福島第一国際原子力機関(IAEA)によれば、世界で稼働する商業用原子炉は2011年に448基だった(図表2)。その後、福島第一の深刻な事故を受け、日本だけではなくドイツや米国などでも廃炉、建設計画の中止が相次ぎ、2014年には439基へと減少している。しかしながら、中国を中心に新興国で原子炉の建設・稼働が進んだ結果、2018年には過去最大の457基になった。原子力による電力供給量も、2012年の2,346.2TWh(=2兆3,462億kWh)から、2019年には2,657.2TWh(=2兆6,572億kWh)へ13.3%増加している。日本を含む先進国で老朽化による廃炉が進む一方で、中国をはじめとして、インド、ロシアなど新興国において新たな商業用原子炉が運転を開始した。現在稼働している商業用原子炉は世界全体で442基、定格出力の総計は394.5GW(=3億9,450万kW)だ。稼働年数別に見ると、炉数、出力共に最もボリュームが大きいのは運転開始から31~40年の10年間で、その定格出力合計は全体の46.2%に達している(図表3)。これは第1次、第2次石油危機に見舞われた1970年代に建設が計画された原子炉に他ならない。その後、原子力発電所の建設が国際的に失速したのは、1979年3月28日のスリーマイル島事故(米国)、1986年4月26日のチェルノブイリ事故(旧ソ連・現ウクライナ)の影響と言えるだろう。しかしながら、2006年2月、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領(当時)の下、米国は新たな原子力平和利用の枠組として『国際原子力パートナーシップ(GNEP:Global Nuclear Energy Partnership)』を打ち出した。これは、核燃料サイクルを国際的に「P5+1」で管理する構想に他ならない。この「P」とは”Permanent”の頭文字である。つまり、「P5」は米国、英国、フランス、ロシア、中国の国連常任理事国の5か国を示し、「+1」は日本のことだった。商業用原子炉は当然ながら原子力の平和利用だが、イランの核開発が国際社会で問題視されているように、発電用よりも高度に濃縮したウラン、及び使用済み燃料に含まれるプルトニウム、この2つは核兵器の原料でもある。ブッシュ大統領は、世界の原子炉への濃縮ウラン供給と使用済み燃料の引き取り、再処理・最終処分をP5+1の6か国に集中することで、核不拡散の強化を図ろうと考えたのだった。その背景にあったのは、経済成長著しい新興国における原子炉の建設計画ラッシュである。新興国のエネルギー需要を満たす一方、核兵器の開発を阻止するためには、P5+1が商業用原子炉を建設し、核燃料サイクルを管理する必要があると考えたのだろう。しかしながら、2011年3月の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により、世界の原子力は再び冬の時代へ突入し、いつしかGNEPも忘れ去られて現在に至った。 新規建設で台頭する中国福島第一での事故から10年が経過、原子力は国際的に雪解けの季節を迎えつつあると言えよう。背景は地球温暖化問題とエネルギー安全保障だ。COP26に象徴される脱化石燃料の動きは、むしろ足下に関して石炭、天然ガス、石油の価格を高騰させている。長期的な需要の先細りが見込まれるなか、生産国・事業者が供給力維持の設備投資を躊躇うだけでなく、限られた資源を高値で売るため供給量を調整するのは経済的に見れば極めて合理的な行動だ。一方、カーボンニュートラルを目指すと言っても、消費国側の化石燃料需要が直ぐに大きく減少するわけではない。畢竟、需給バランスが崩れて価格への強い上昇圧力が生じているのである。フランスは原子力への回帰を明確にした。また、もう1つの原子力大国である米国のジョー・バイデン大統領も、小型原子炉(SMR:Small Module Reactor)の開発を政策的に後押しするなど、原子力の活用拡大に踏み込むようだ。昨年12月2日、日立製作所とGEの原子力合弁会社であるGE日立ニュークリア・エネジーは、カナダの電力大手、カナダ・オンタリオ・パワージェネレーション(OPG)からSMRを4基受注したと発表した。仮にドイツの新政権が原子力発電所の稼働継続へ傾けば、原子力を巡る国際社会の動きは一段と加速することになるだろう。もっとも、近年における商業用原子炉の建設は、国際的に見ると中国主導で進んできた。現在、公式に発表されているものでは世界で51基の炉が建設中だが、そのうちの14基は中国国内で進められている(図表4)。14基のうち1基は高速増殖炉(FBR)、もう1基は高温ガス炉(HTGR)のいずれも実証実験炉であり、中国は次世代炉の開発についても余念がないようだ。経済成長を支えるため国内のエネルギー需要を満たすだけでなく、新興国への国際展開を視野に入れているのだろう。ちなみに、中国で稼働中の商業用原子炉は52基であり、その定格出力は総計で49.6GW(=4,960万kW)、既に米国の96.6GW(=9,660万kW)、フランスの61.4GW(=6,140万kW)に続く規模になった。この52基のうち、37基は過去10年間に運転を開始した新鋭の炉に他ならない(図表5)。ブルームバーグによれば、中国国営メディアの『経済日報』は昨年11月3日、中国が今後15年間で150基の商業用原子炉を建設する計画であると報じた。話半分としても、同国は数年以内にフランスを抜いて世界第2位、そして10年以内に米国も凌駕して世界最大の原子力大国になるだろう。日米欧にとってこの件が非常に悩ましいのは、極めて複雑な構造を持つ原子炉の場合、第3国での建設受注における国際競争力は、燃料供給、使用済み燃料の引き取り保証、運転支援に加え、実際に発電所を建てた経験が大きく左右するからだ。反面教師はフィンランドのオルキルオト原子力発電所3号機である。フランスの国策企業である旧アレバ(現オラノ)が受注し、2005年に着工したのだが、幾度となく工期が延長され今も建設が続いている。最大の理由は、旧アレバの施行管理の弱さにあるとも言われており、この損失によって同社は経営が傾いた。1980年代以降、フランス電力からの原子力発電所の建設受注が激減、経験に基づく建設ノウハウを失ったことが背景のようだ。一方、現在、中国で稼働している最新鋭の原子炉は旧ウェスチングハウスの開発した「AP1000」、フランスの技術を導入した「EPR(欧州加圧水型炉)」である。ただし、中国版のAP1000と言われる「CAP1000」、独自技術を導入した「CAP1400」、そして完全な独自技術である「HPR1000」の3種類の原子炉が建設段階に入った。中国は明らかに自前の設計技術、建設施工能力を強化しつつある。それは、中国国内での建設のみならず、原子力技術の輸出を念頭に置いたものなのではないか。HPR1000、即ち「華龍一号」については、既に英国において包括的設計審査(GDA)が最終段階となった。今後、温室効果ガスの削減を目指して各国が商業用原子炉の建設を進める場合、中国が市場を席捲する可能性は否定できない。これにどう対抗するのか、それともしないのか、日本の原子力産業だけでなく、日本政府にとっても経済、安全保障の観点から極めて難しい判断が求められている。 総合力を問われる日本マクロン大統領によるフランスの原子力政策が、主要先進国による原子力回帰の嚆矢となる可能性は否定できない。再生可能エネルギーの拡大が最重要課題としても、ベースロード電源の確保の必要性が改めて確認されたからだ。また、自動車のEV化を進めるためには、夜間電力の供給力が必須だが、それは気候に左右されない安定的な電源の裏付けがなければ難しいだろう。さらに、カーボンニュートラルの切り札として期待される燃料電池についても、水素の生産には大量の電力が必要だ。結果として、各国はベースロードに化石燃料を選ぶか、原子力を選ぶか、実質的に二者択一を迫られている。冷静に考えれば原子力一択なのだが、非常に悩ましいことに、現実的にはしばらく化石燃料に依存せざるを得ない。国際エネルギー機関(IEA)は、昨年12月17日に発表した年次報告書において、2021年の石炭火力発電量が過去最大になるとの見通しを示した。もっとも、COP26の議論を考えれば、化石燃料の利用が長期化するとは考え難い。福島第一の事故から10年が経ち、原子力が見直される時代に入ったと言えるだろう。今後、国際的な新規原子力発電所の建設ラッシュが想定されるなか、国、電力会社、メーカーが一体にならない限り、特に新興国における受注獲得は覚束ない。原子力分野で中国が市場を席捲すれば、経済的にも安全保障の面でも日本にとっては大きな問題だ。そうしたなか、大きな懸念は日本政府の姿勢だ。昨年10月22日に閣議決定された『第6次エネルギー基本計画』は玉虫色の表現を散りばめ、日本の目指す方向が明確になったとは言い難い。これでは、原子力産業、電力業界が国際展開を視野に入れて人材育成、研究開発、設備投資に力を入れるのは困難だろう。世界の原子力は雪解けの季節を迎えつつある。そこで種を蒔き、芽を育て、花を咲かせて果実を収穫できるのか、日本は正に国家としての総合力を問われているのではないか。
- 24 Jan 2022
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仏EDF、フラマンビル3号機の燃料初装荷を2023年第2四半期に延期
フランス国内の商業用原子炉すべてを所有・運転するフランス電力(EDF)は1月12日、北部ノルマンディ地方で建設しているフラマンビル原子力発電所3号機(FL3)(163万kWの欧州加圧水型炉=EPR)の建設スケジュールの改定を発表。2022年末に実施予定だった燃料初装荷を、2023年第2四半期に延期した。新型コロナウイルスによる感染拡大の影響により、同炉の起動・運転準備が順調に進んでいない点を考慮したもの。これにともない、EDFは近年見積もった同炉の建設コスト124億ユーロ(約1兆6,170億円)が127億ユーロ(約1兆6,560億円)に増大したことを明らかにした。FL3の建設工事は2007年12月に始まったが、フランス国内で初のEPR建設だったこともあり、土木エンジニアリング作業の見直しや原子炉容器の鋼材組成の異常(炭素偏析)、2次系配管溶接部の品質上の欠陥等により完成が大幅に遅れている。同炉では冷態機能試験が2018年1月に完了した後、温態機能試験も2020年2月に完了。原子力安全規制当局(ASN)は同年10月に初装荷燃料の敷地内への搬入を許可しており、2022年末の燃料装荷を経て2023年には送電開始できると見られていた。今回の発表によると、EDFは要求されたレベルの安全性と品質をクリアしてFL3の運転を開始するため、2020年初頭に現場人員を増強した。格納容器の壁を貫通する配管の溶接部修理など、最も複雑な作業は無事に完了しており、ASNも基準に適合していると判断。同炉の最初の運転サイクルで使用する原子燃料は、手続き通り専用の建屋で保管中である。また、すでに機器類の90%が運転担当チームに引き継がれており、これまでに安全上重要な機器約7千点について、5万5千件以上の確認と書類チェックを実施済み。燃料の初装荷と起動に先立ち、残りの作業は以下の通り。・主要2次系の溶接部について改善作業を完了する。・設置した機器類の品質認定試験を改めて実施する。・EPR初号機として中国で運転開始した台山1号機の技術的課題をフィードバックしFL3に適用する。・これらの技術的課題の対策については、ASNから最終的な指示を受け承認を得る。・機器類の最終調整を行い、運転開始に必要な文書もすべて準備する。なお、昨年7月に台山1号機で小規模な燃料破損が見つかった問題については、EDFは燃料集合体の点検を実施した結果、集合体の一部機器に機械的摩耗が認められたと説明。このような現象はフランス国内の複数の原子力発電所でも生じており、EPRの設計自体に問題があるわけではないと強調している。(参照資料:EDFの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 14 Jan 2022
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EDF、今後のEPR輸出を見据えチェコ、ポーランド、インド等の企業と協力協定締結
フランス国内の商業炉をすべて保有・運転しているフランス電力(EDF)は12月1日、傘下のフラマトム社が開発した第3世代+(プラス)のPWR設計「欧州加圧水型炉(EPR)」を欧州のみならず、世界中で建設していくため、チェコやポーランド、インドなどの複数の大手関係企業と協力協定を締結したと発表した。協定への調印は、民間原子力コミュニティ最大のマーケットプレイスである「世界原子力展示会(WNE)」が11月30日 から12月2日まで、フランスのパリで開催されたのに合わせて行われた。EDFとしては低炭素な社会を将来、世界レベルで実現する上で原子力は欠かせないと考えており、地球温暖化の防止に資する今後数10年間の重要施策として、原子力の必要性を強力に提唱。また、長期的な連携協力を通じて原子力の恩恵や社会経済的価値を提供するため、フランスおよび国外での原子力発電所開発計画を支援している。実際にEDFは、原子力発電所の設計エンジニアリングから建設、運転、保守点検、人材育成と能力開発、廃止措置、放射性廃棄物の管理に至るまで、原子力関係の専門的知見を保有。このため、発電所の全期間で必要となる関連サービスやノウハウ、およびフランスの様々な原子炉技術の販売促進活動を展開している。これらを背景にEDFは世界中のEPR建設を成功に導きたいとしており、今回の協力協定はその建設プロジェクトに、相手国のサプライチェーンや産業界の実質的な参画を保証する意味を持つものである。まず、チェコとの協力では、EDFはドコバニ原子力発電所5、6号機増設計画の受注を念頭に、同国の産業界との連携を強化。同国のエンジニアリング関係企業で構成されるチェコ・エネルギー産業連合(CPIA)の立ち合いの下、スコダ社や国立原子力機関(UJV Rez)と協定を締結したほか、その他のエンジニアリング企業や関連機器製造企業のBAEST社、I&C Energo社、 Hutní montáže社、 MICo社、MSA社 、REKO Praha社、 SIGMA社とも協力協定を結んだ。ポーランドについては、EDFは今年10月、原子力発電の導入を計画している同国政府に対し、2~3サイトで4~6基(660万~990万kW)のEPR建設を提案している。これに基づき今回は、同国の主要エンジニアリング企業であるDominion Polska社やEgis Poland社、Energomontaż-Północ Gdynia社、発電関係のEPC(設計・調達・建設)契約企業のRafako社、Zarmen社と協定を締結している。インドとの協力に関しては、EDFは今年4月、南西部のジャイタプールでEPRを6基建設するプロジェクトについて、法的拘束力のある技術・商業面の契約条件提案書をインド原子力発電公社(NPCIL)に提出した。インド政府が世界の研究開発・製造ハブとなることを目指して掲げている国家産業政策「メイク・イン・インディア」に沿って、EDFはこれまでも数多くの地元サプライヤーと連携協力してきた。今回は確固たるインドの国産化戦略の一環として、インドの大手複合企業体であるラーソン&トゥブロ(L&T)社と2017年から続いている協力関係を延長した。EDFはこのほか、フランスの大手ゼネコンであるブイグ公共土木事業(Bouygues Travaux Publics)社とも協力を強化するための枠組み契約を締結している。チェコやポーランド、あるいはサウジアラビアでのEPR建設が実現した場合、両社はこの契約に基づいて世界レベルの協力活動を展開する。なお、ブイグ社は同じ世界原子力展示会の場で、サウジアラビアの土木建設企業であるNesma & Partners社と了解覚書を締結。EDFがサウジアラビア初の原子力発電所を建設することになれば、Nesma & Partners社とともにすべての土木建築作業に参加することになる。(参照資料:EDFの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 07 Dec 2021
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IEA、仏国の政策レビューで原子力の削減時期を見極めるよう勧告
国際エネルギー機関(IEA)は11月30日、加盟国のエネルギー政策をレビューした報告書のフランス版「France 2021 - Energy Policy Review」を公表し、同国が2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するには、原子力や再生可能エネルギー、およびエネルギーの効率化に一層投資する必要があると勧告した。原子力については特に、2035年までに発電シェアを50%まで引き下げるにあたり、これを定めた法制上の要件について、地球温暖化にともなう緊急性や気候中立の重要性、再エネの開発状況等とも照らし合わせて条件を精査し、明確にすべきだとしている。IEAによれば、フランスは地球温暖化問題への取り組みで国際的なリーダーシップを発揮しており、最も顕著な例として、2015年の国連気候変動枠組条約・締約国会議(COP21)におけるパリ協定の締結交渉や、これに先立ち仏国内で「緑の成長に向けたエネルギー移行法案」を可決成立させたことなどを挙げた。しかし近年、同国における低炭素エネルギー技術の開発やエネルギーの効率化対策は、温暖化防止目標を達成できるほど迅速に進んでおらず、フランス政府は将来のエネルギーミックスをどのようにすべきか、極めて重要な判断を下さねばならない状況に直面している。IEAとしては、フランスにはクリーンエネルギーに移行する長期目標の達成の促進で、政策面の一層の努力や関係投資の増額が求められるとしており、将来の電力供給設備の開発については特に、同国政府が明確な戦略を立てる必要があると強調している。報告書によると、フランス政府は高経年化した商業炉の改修工事計画など、2050年までのCO2排出量実質ゼロ化を確実に軌道に乗せるための決定を2022年に下す予定。同政府はまた、欧州連合(EU)全体で目標としている「2030年までにCO2排出量の55%削減」に歩調を合わせ、今後数年間に国内経済全般でクリーンエネルギー化の促進方策や誘導方策を強化する必要がある。このような背景からIEAはフランス政府に対する具体的な勧告事項として、(原子力発電シェアを削減するための法制要件の精査に加えて)以下の点を表明した。すなわち、・電力供給の脱炭素化、および2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化する観点から、既存炉の運転期間延長と新規の原子炉建設の割合に関して、様々な調査や社会経済分析、および関係協議等の結果に基づき、2035年以降に原子力が果たす役割についてタイムリーに判断を下す。・電力市場における競争原理を維持しながら、既存炉の改修や安全性向上、および2023年以降の新規原子炉建設に向けた資金調達など、原子力発電に対する長期的かつ持続可能な財政支援を確実なものにする。・原子力研究の中でも、エネルギーの移行に関するものを特に強化する。具体的には、小型モジュール炉(SMR)を活用した柔軟性のある電力供給、熱電併給や水素製造への活用、運転の長期化を見据えた材料試験の実施、などである。IEAのF.ビロル事務局長は、「将来のエネルギーシステムでCO2排出量のゼロ化を確実にするため、フランス政府は近々、重要な判断を下すことになっており、大きな岐路に差し掛かっている」と指摘。地球温暖化の防止対策に集中する一方で、エネルギーの供給保証についても引き続き対策を取っていく必要があり、新たなクリーンエネルギーに関しては必要な時期に市場に出すことを念頭に、技術革新のための研究開発支援を強化しなければならない。このような支援はまた、風力タービンや電気自動車の製造に不可欠なレアメタルの確保対策につながるほか、新しいエネルギーとの相性が良く、異常気象やサイバー攻撃にも耐えうるエネルギー・インフラの構築に向けた投資にもなると指摘している。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 02 Dec 2021
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仏マクロン大統領が原子炉新設を再開と表明
フランス大統領府のウェブサイトによると、同国のE.マクロン大統領は今月9日のテレビ演説で、数10年ぶりに国内で新規の原子炉建設を再開する考えを明らかにした。英国グラスゴーにおける第26回・国連気候変動枠組条約・締約国会議(COP26)の閉幕を12日に控え、同大統領は「これはフランスからの強いメッセージである」としている。演説の中で、同大統領はフランスのエネルギー自給に触れ、「天然ガスの価格や電気料金の上昇により仏国民の生活は大きな影響を受けている。こうした事態には緊急に対処する必要があり、政府は天然ガスの価格を固定化する措置を取った」とした。しかし、「国民がもしも、適切なレベルのエネルギー料金を支払い、外国から輸入するエネルギーへの依存を下げたいのであれば、我々は省エネを続けるだけでなく、国内で低炭素エネルギー源の建設に向けた投資を行わねばならない」と指摘。その上で、「フランスのエネルギー自給を保証するとともに国内の電力供給を確保し、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するため、国内での原子炉建設を再開し再生可能エネルギーの開発を継続する」と明言した。フランスでは2015年7月、約8か月間に及んだ全国的な討論の結果、「緑の成長に向けたエネルギー移行法」が成立した。これにより、F.オランド前大統領が約束していた「2025年までに原子力発電シェアを現在の75%から50%に削減する」ことや、「原子力発電設備を現状レベルの6,320万kWに制限する」ことが決定。これにともない、国内で最も古いフェッセンハイム原子力発電所の2基が2020年6月までに永久閉鎖されている。しかし、マクロン大統領は2018年11月、発電シェアの削減公約を「現実的で制御可能、経済的かつ社会的にも実行可能な条件下で達成するため、実施期限を2035年まで10年先送りする」と決定した。今年10月には、新たな産業政策「フランス2030」の中で、「2030年までに10億ユーロ(約1,307億円)を投じて、小型モジュール炉(SMR)や先進的原子炉の技術を実証し、放射性廃棄物のより良い管理で世界市場への参入を目指す」と表明。同大統領は、原子力はフランスの基幹製造技術であるため今後も必要な技術であり、その再編成は政策目標の第一番目に位置付けられ、継続的に開発していくことは非常に重要との認識を示している。今回の演説で、マクロン大統領は原子炉の建設再開に向けた具体策を一切示していない。また、来年4月には大統領選挙が控えていることから、この方針が正式決定するのは選挙後になるとの見方がある。一方、ロイター通信は今月10日、「フランス政府は今後数週間以内に、国内で大型PWRを新たに6基建設する計画を公表する模様だ」と報道している。フランス政府はこれまで、北西部のシェルブール近郊で建設中のフラマンビル原子力発電所3号機(163万kWの欧州加圧水型炉=EPR)が完成するまで、新たなEPRを建設しないとしてきた。しかし、欧州では10月の天然ガス価格の高騰など、国民生活の光熱費が連鎖的に増加している。ロイター通信では、フランス政府がこれらのことに配慮し、EPR新設の判断を早めたと伝えている。(参照資料:仏大統領府(仏語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 11 Nov 2021
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仏国の世論調査で国民の原子力支持率が増加
フランスの世論調査とコンサルティングの専門企業であるBVA(Brûlé Ville associés)社は10月26日、オラノ社の依頼を受けて国内で実施した世論調査で、原子力に対するフランス国民の支持率が増加しているとの結果を公表した。2019年に実施した初回の調査結果と比較して、今回7ポイント増の53%が「フランスのエネルギー自給にとって国内の原子力部門は必要不可欠だ」と回答したほか、10ポイント増の64%が「フランスの将来のエネルギーミックスは原子力と再生可能エネルギーで構成される」と回答。その一方で、前回調査から11ポイント減少したものの、国民の過半数である58%が依然として「原子力はCO2を排出して地球温暖化を促進している」との認識であることが明らかになった。この調査は今年5月3日から6日にかけて行われ、18歳以上の成人1,500名からインターネットで回答を得た。それによると、回答者の50%が国内の原子力部門はフランスにとって「強み」であると捉えており、数値は前回調査から3ポイント上昇していた。その理由として、「エネルギー自給にとって不可欠」と答えた53%のほかに、39%は「安定して発電が可能な電源」と答えるなど、原子力が果たす肯定的な役割を指摘している。また、国内の原子力産業を「弱点」と捉えている国民の割合は、前回調査の34%から15%まで減少した。「強み」でも「弱点」でもないとした人は今回35%だったが、41%の国民は「原子力産業は国内で雇用を創出している部門」と認識。「雇用を減らしている」と答えた人の割合は8%に留まった。さらに、「原子力は地球温暖化を促進している」と答えた人のうち、「(温暖化に)重要な影響を及ぼしている」とした国民の割合は、前回調査の34%から大幅に低下し19%となった。その理由としてオラノ社は、「この問題に関する啓蒙教育の効果」と説明している。これに加えて、「石油や石炭、天然ガスによる発電のCO2排出量は原子力より少ない」と考える国民の割合も、今回は半分に低下する結果となった。ただし、放射性廃棄物が原子力の否定的側面である認識に変わりはなかった。原子燃料がリサイクル可能であると知っているフランス国民の割合は、前回調査の61%から66%に上昇した。それにも拘わらず、今回は59%が「リサイクル不可能な放射性廃棄物が生成されることは、原子力における主要な懸念事項だ」と回答していた。世論調査の結果全般についてオラノ社のP.クノルCEOは、「原子力に対するフランス国民の認識が改善されたことが確認できた」と表明。「原子力は再生可能エネルギーと違って、途切れることなく低炭素な電力を供給できるため、地球温暖化との闘いにおいても大きく貢献する。エネルギーの移行で原子力が果たす重要な役割が一層幅広く認識されるよう、今後も当社グループや原子力産業関係者が一丸となって啓蒙努力を続けていかねばならない」と強調した。(参照資料:BVA社(仏語)とオラノ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 28 Oct 2021
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仏国とチェコ、EUのその他8か国とともに原子力支援の共同宣言
©ECチェコの産業貿易省は10月12日、原子力発電所を一層容易かつ低コストで建設するためのフランスとの共同アクションとして、EU(欧州連合)に加盟するその他の8か国からの協力を受けて「共同宣言」を発表した。EUは2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指すにあたり、環境上の持続可能性を満たした真にグリーンな事業に正しく投資するための枠組「EUタクソノミー」で投資対象の分類規制を行っている。チェコとフランスをはじめとするEUの10か国は、地球温暖化の防止とエネルギーの自給に貢献する原子力を、今年末までに持続可能な投資活動の対象に含めるようEUに求めており、今回そのための「共同宣言」を11日付けで仏ル・モンド紙やベルギーのル・ソワール紙など、主要な欧州メディア8紙に掲載した。この宣言は、チェコとフランス両国の「原子力アライアンス(Nuclear Alliance)」創設を念頭に置いたもので、内容に賛同したブルガリア、フィンランド、クロアチア、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、およびスロベニアの8か国が宣言に参加した。調整役は仏国のB.ルメール経済財務相が担った。「欧州になぜ原子力が必要か」と題された「共同宣言」の中で、10か国はまず地球温暖化との戦いは将来の課題ではなく今解決しなければならないと指摘。エネルギー価格の上昇は、第三国からのエネルギー輸入を出来るだけ早急に削減する重要性を示しており、脱炭素化した経済の実現に向けて、EUに加盟する各国がエネルギーの生産・消費活動を迅速かつ徹底的に低炭素なものに変える必要があるとした。こうした点から、欧州で無炭素電力の約半分を賄う原子力は解決策の一翼を担わねばならないと同宣言は指摘。原子力は価格が手頃なだけでなく、安定供給が可能な各国自前のエネルギー源であり、欧州の14か国で稼働する126基の原子炉は、過去60年以上にわたって信頼性と安全性の高さを実証、革新的な技術が用いられた安全な電源と強調した。同宣言はまた、欧州の原子力産業界は世界でも有数の技術集約型産業であると指摘。EU加盟国同士の協力により、EUでは近いうちに小型モジュール炉(SMR)プロジェクトという形で、新型炉を建設すると述べた。原子力はまた、環境影響面でその他の低炭素発電技術に劣るという科学的根拠がないため、これらと同等に扱われるべきであり、今年末までに何としてもEUタクソノミーに含める必要があると訴えている。チェコの産業貿易省は今回の宣言について、「欧州が地球温暖化との戦いに勝利するつもりなら、原子力発電は欠かせない。低炭素社会を目指すすべての国にとって不可欠で信頼性の高い電源だ」と表明。EUの執行機関であるEC(欧州委員会)は2018年の戦略的ビジョン「Clean Planet for All」の中で、エネルギーシステムを脱炭素化する主柱に原子力と再エネを据えたにも拘わらず、大型炉に投資するための環境を整備していないと指摘した。副首相を兼ねる同省のK.ハブリーチェク大臣も「だからこそ、原子力重視という共通項を持つフランスとチェコは共同アプローチを取ることにした」と説明。EU本部が、天然ガスとともに原子力をタクソノミーに含めることを認めれば、EU基金や民間からの投資が期待できるようになり、低いコストで新規原子力発電所を建設する道が拓けるとしている。(参照資料:チェコ政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 13 Oct 2021
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仏オラノ社、10億ユーロの契約で独4社に再処理後の廃棄物返還へ
仏国のラアーグ工場で、ドイツの使用済燃料を再処理した際に発生した中レベル放射性廃棄物を返還するため、同工場を操業するオラノ社は19日、ドイツの電気事業者4社と複数の返還契約を締結したと発表した。これらの契約総額は10億ユーロ(約1,288億円)を超えるとしている。これら4社は、ドイツで原子力発電所を保有・運転するプロイセン電力、RWE社、EnBW社、およびドイツの原子力発電所に一部出資していたスウェーデンのバッテンフォール社である。オラノ社は1977年から1991年にかけて、これらの電気事業者と使用済燃料の再処理契約を結んでおり、これに基づいて5,310トンの使用済燃料を再処理した後、残留廃棄物を保管してきた。これらの契約ではまた、使用済燃料に含まれていたのと等価の放射能をドイツに返還しなければならないと明記されており、これまでに合計放射能の97%を超える廃棄物がすでに返還された。しかし、長寿命の中レベル廃棄物だけ依然として仏国内に残されているため、両者は現行契約に沿ってこれらをドイツに戻すべく、新たな契約の締結に向けた交渉を続けていた。今回の契約は仏独の当局がともに了承した内容で、オラノ社とドイツの電気事業者が廃棄物関係で誓約した事項すべてを技術的に解決するもの。オラノ社は自ら提案したとおり、等価交換で余剰になった廃棄物をガラス固化した高レベル廃棄物と低レベル廃棄物のパッケージで、遅くとも2024年までにドイツに返還することになった。また、これらの契約を有効とするには両国政府の正式合意が必要になるとしている。オラノ社によると、今回締結した一連の契約はすべて、同社の今年後半の決算に一時的にプラスの影響を与える見通し。同社は2021年全体の決算を上方修正中である。これまで23%~26%としていた減価償却・控除前利益(EBITDA)が26%~29%となり、力強い増収が見込まれるほか、正味のキャッシュフロー(入ってくる現金から出ていく現金を差し引いた数字)もプラスになると予測している。(参照資料:オラノ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 23 Aug 2021
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米仏のエネ相 温暖化対策の共同声明に原子力を盛り込む
米エネルギー省(DOE)と仏エコロジー移行省の両大臣は5月28日、共同声明を発表。地球温暖化の防止に向けた共通の目的や解決策を共有し、パリ協定に明記された野心的な目標を達成するため、先進的原子力技術の利用も含めて協力する方針を明らかにした。地球温暖化にともなう近年の深刻な影響を早急に緩和するため、両省は最先端の科学技術や研究を活用。画期的な技術革新やエネルギー技術の利用を通して、一層安全でクリーンなエネルギーにより繁栄した未来を実現するための政策を進める。仏エコロジー省のB.ポンピリ大臣 ©Ambassade de France au JaponDOEのJ.グランホルム長官と仏エコロジー省のB.ポンピリ大臣によると、両国は今回、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するという共通目標の下で団結。そのためには、CO2を排出しない既存の技術すべてを活用する必要がある。また同時にCO2を排出しない新しいエネルギー源やシステムの研究開発や建設を加速する。こうしたエネルギーシステムの効率性・信頼性を確保しながら、再生可能エネルギーと原子力発電を統合することは、低炭素なエネルギー源への移行を加速する上で非常に重要である。また、CO2を出さない様々な電源やシステムに対しては、有利な融資条件等を幅広く提供する必要があるとした。こうした観点から両国は、CO2排出量の実質ゼロ化に向け、既存の「エネルギーの移行」、および新しい技術の開発で協力していくことを約束した。脱炭素化に貢献する革新的な発電システムとしては、小型モジュール炉(SMR)やマイクロ原子炉など先進的な原子力技術が含まれるが、これらのシステムによって再生可能エネルギー源のさらなる拡大や、地方の電化率の向上を図り、輸送部門の脱炭素化を促す水素製造などを促進。さらには、水不足の地域に対する飲料水の提供支援や、様々な産業の排出量クリーン化に向けて原子力を活用していく。両国はまた、地球温暖化がもたらした脅威を、エネルギー部門の再活性化やクリーン産業・技術のブレイクスルーとして活用すると表明した。米仏の関係省庁や産業界は、先進的原子力技術や長期のエネルギー貯蔵、先進的な輸送部門、スマート・エネルギー・システム、二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)といった革新的な脱炭素化エネルギー技術を複数の部門で開発中だ。これらはすべて、CO2を排出しないエネルギーの生産に大きく貢献するだけでなく、クリーンエネルギーへの移行にともない、高サラリーかつ長期雇用が保証されるとしている。今回の協力について、仏エコロジー省のB.ポンピリ大臣は「パリ協定の意欲的な目標の達成など、地球温暖化に効果的に取り組むには、世界の主要な経済大国が力を合わせて解決のための技術力を統合しなければならない」と述べた。DOEのグランホルム長官も、「世界で技術革新を牽引している米仏は、2050年までのCO2排出量実質ゼロ化に向けて、不可逆的な道筋を付けるための活動を強化する」と表明。原子力や再生可能エネルギー、CCUSなどのあらゆる無炭素技術を活用する方針を強調した。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 31 May 2021
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EDFエナジー社、コロナウイルスの影響でサイズウェルC原子力発電所の申請書提出を延期
仏国資本のEDFエナジー社は3月26日、英国南東部のサフォーク州で進めているサイズウェルC原子力発電所(PWR、163万kW×2基)建設計画について、新型コロナウイルスによる感染の拡大に配慮し、今月末までに予定していた「開発合意書(DCO)」の申請書提出を数週間延期すると発表した。「開発同意」は、申請された原子力発電所等の立地審査で合理化と効率化を図るための手続きである。「国家的に重要なインフラプロジェクト(NSIP)」に対して取得が課せられているもので、コミュニティ・地方自治省の政策執行機関である計画審査庁(PI)が審査を担当、諸外国の環境影響に関する適正評価もPIの担当大臣が実施する。本審査が完了した後は、PIの勧告を受けてビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)の大臣がDCOの発給について最終判断を下すことになる。EDFエナジー社は今回、DCO審査プロセスが公開協議段階に入った場合は、国民の参加登録期間に余裕をもたせると明言。これにより、地元住民が十分な時間をかけて申請書を検討できるとした。同社の原子力開発担当常務も、「地元コミュニティを含むサフォーク州民の多くが、現在コロナウイルス感染への対応に追われている。DCO申請書の提出は延期するものの、過去8年以上にわたる関係協議で当社はプロジェクトの透明性に配慮するとともに、プロジェクトに関心を持つ国民一人一人が意見を言えるよう努力を重ねており、今の難しい局面に際してもこの努力を続けたい」と述べた。同プロジェクトに関して、EDFエナジー社は2012年以降すでに4段階の公開協議を実施しており、1万人以上の地元住民や組織がこれに参加した。サイズウェルC発電所では、南西部サマセット州で建設中のヒンクリーポイントC(HPC)発電所と同じ欧州加圧水型炉(EPR)設計を採用しているため、同社は建設コストをある程度削減することが出来ると説明。サフォーク州のみならず英国全土に雇用や投資の機会をもたらすとともに、常時発電可能な低炭素電源として英国政府が目指すCO2排出量実質ゼロへの移行を後押しするとしている。なお、EDFエナジー社は3月24日にHPCプロジェクトの現状を公表し、作業員や地元コミュニティの安全を最優先に、新型コロナウイルスによる感染拡大から防護する措置を広範に取っていると強調した。(参照資料:EDFエナジーの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 27 Mar 2020
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仏電力、コロナウイルスの影響で原子力による今年の目標発電量を下方修正へ
仏国の商業用原子炉57基すべてを所有・運転するフランス電力(EDF)は3月23日、新型コロナウイルスによる感染影響について現状を公表し、2020年の「金利・税金・償却前利益(EBITDA)」は現段階で目標とする金額幅175億~180億ユーロ(2兆1,000億~2兆1,700億円)の低い方の数値に留めるものの、原子力発電所における目標発電量については下方修正中であることを明らかにした。発表によるとEDFグループは、感染影響下においても発電事業者としての重要な活動を維持するため全精力を傾注中。国内で予期される発電シナリオすべてに対応可能な運転能力と資金力があり、昨年末時点の現金同等物と売却可能な短期金融資産の総額は228億ユーロ(2兆7,400億円)にのぼるなど、健全な状態にあるとした。電力需要量の低下が送配電事業に及ぼす財政上の影響も限定的だと見ており、脆弱な小規模企業の電気料金で一時的な救済措置を取るため同グループの必要運転資金が暫時増加するものの、その影響は年末までに解消されるとした。その一方、E.マクロン大統領が3月17日に発表した2週間の「外出禁止令」により、発電設備のメンテナンス作業が中断され、EDFでは定期検査日程の再調整を余儀なくされている。2020年に予定していた原子力発電所による発電量3,750億~3,900億kWhも下方修正に向けた見直し作業中であり、設備利用率の見通しや関連コストが明確になってからこれらの目標数値の改定版を作成するとしている。2021年の影響見通しについては、現段階では正確に評価できないとEDFは述べた。現在進めている定期検査日程の再調整は、2020年末から2021年にかけて冬季の利用率を最大限にすることが主な目的だが、発電量は2021年もマイナス影響を受けると予想される。同様に電力卸市場においても価格の低下が見込まれており、これによって同年末時点の負債比率に深刻な影響が及ぶ可能性があるとしている。なお、EDFが運転するフェッセンハイム、ベルビル、カットノン3つの原子力発電所について、3月11日付のロイター電は「新型コロナウイルス検査で各1名ずつ合計3名の従業員に陽性反応が出た」と報道した。これに関してEDFからの発表はなかったが、濃厚接触があったその他の従業員とともにこれら3名を14日間の自宅待機とし、通常通りの運転を続けた模様。EDFが国家計画に沿って2009年に策定したという「パンデミック時に人員を削減して運転を継続するプラン」は、発動されなかったと伝えている。(参照資料:EDFの発表資料、ロイター電、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 25 Mar 2020
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仏オラノ社、米原子力発電所で使用済燃料を最新の乾式貯蔵システムに移送
仏オラノ社は1月15日、同社の米国子会社で放射性物質の梱包・輸送を専門とするオラノTN社が、米国のとある原子力発電所で通常より高い崩壊熱を発する使用済燃料を、貯蔵プールから敷地内の同社製・独立型乾式貯蔵施設(ISFSI)最新版に初めて移送する一連の作業を完了したと発表した。「NUHOMS拡張型最適化貯蔵(EOS)システム」と呼称されるこのISFSIは、原子力産業界における通常レベルの崩壊熱(キャニスター1基に付き14~34kW)よりはるかに高い熱負荷に耐えられるとしており、EOSキャニスター1基分の合計崩壊熱は平均44.75kW。今回、2019年の移送活動で最終となる第5回目の作業で使用済燃料296体の移送を終えたもので、「NUHOMS EOS 37PTHキャニスター」8基の使用済燃料が8つの「NUHOMS EOS水平貯蔵モジュール(HSM)」に安全に貯蔵されたとしている。使用済燃料の貯蔵方法に関して米原子力規制委員会(NRC)は、湿式と乾式どちらも住民の健康と安全および環境を防護する上では適切であり、乾式貯蔵施設への使用済燃料の移送を早めなければならないような安全・セキュリティ上の懸念は無いという見解である。しかし、2001年の9.11同時多発テロ事件や2011年の福島第一原子力発電所事故を受けて、米国の一部議員は米国の原子力発電所のどこかで使用済燃料貯蔵プール火災が発生すれば、大量の放射性物質が放出されて広域汚染が広がるなど、2兆ドル規模の損害がもたらされると考えている。また、プリンストン大学の調査では、使用済燃料を乾式貯蔵キャスクに移すことで火災の発生リスクが大幅に下がるとの結果が出ている。オラノ社の先進的なEOS技術を使った燃料集合体の移送はすでにNRCの認可を取得済みで、キャニスター1基あたりの崩壊熱は産業界ではこれまでで最大級の50kWまで。このキャニスターはノースカロライナ州カーナーズビルの同社施設で製造されたもので、PWR用の高燃焼度燃料集合体37体を貯蔵可能な設計になっている。また、「NUHOMS EOS水平貯蔵モジュール」はノースカロライナ州モヨックのプレキャスト・コンクリート施設で製造されており、外部事象に対して最大級の核物質防護が可能であると同社は説明。崩壊熱の消散能力も50kWと最高レベルであるほか、被ばく放射線量は垂直型モジュール・システムの約半分だと強調した。今後は米国内のその他の原子力発電所でも、崩壊熱の大きい使用済燃料集合体の移送にEOSシステムの先進的な能力が活用されることになっており、燃料貯蔵プールから乾式貯蔵に移す前の冷却期間の短縮が可能。燃料貯蔵プールの管理が簡素化されるだけでなく、同プール内で管理する使用済燃料集合体の数量を削減することにもつながるとしている。 (参照資料:オラノ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月16日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 20 Jan 2020
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ITER計画:2025年の運転開始に向けトカマク建屋の土木工事が完了
南仏のサン・ポール・レ・デュランス(呼称を「カダラッシュ」から行政住所に変更)にある国際熱核融合実験炉(ITER)建設サイト(=写真)で、主要建屋の建設を担当する仏国VINCI社の企業連合は11月8日、トカマク実験炉を格納するトカマク建屋の土木工事が完了したと発表した。 このプロジェクトを主導するITER機構、および欧州連合(EU)の担当組織である「フュージョン・フォー・エナジー(F4E)」と共同で発表したもので、前日の段階で、同建屋の上部に最後のコンクリートを注入する作業がスケジュール通りに終了。建屋内では間もなく、トカマク実験炉の組立てが行われるが、この作業により建屋は屋根部分に金属フレームを設置することが可能になり、「2025年にファースト・プラズマを達成する(運転開始)」という意欲的な目標に、これまでどおり変更はないと強調している。ITER計画は、平和目的の核融合エネルギーが科学技術的に成立することを実証するため、人類初の核融合実験炉を実現しようとする超大型国際プロジェクト。日本、EU、ロシア、米国、韓国、中国、インドの7極が技術開発や機器製造を分担して進めており、2005年6月に建設サイトを決定した後、2006年11月に参加7極がITER協定に署名。翌2007年10月に同協定が発効したのを受けてITER機構が正式に設立され、建設工事が始まった。トカマク建屋は、トリチウム建屋および計測建屋とともに「トカマク複合建屋」を構成しており、複合建屋の高さは73m、幅は120mとなる。土木工事は2010年に開始されたが、用途の特殊性から、並外れて複雑なプロジェクト管理能力と最先端の専門知識を要したという。建設作業が進むにつれITER科学チームが要請してくる設計変更すべてを統合するため、VINCI社の企業連合(仏国のRazel-Bec社、スペインのFerrovial社など)の作業チームは、効率的かつ迅速に動けるようプロジェクト組織を編成した。トカマク建屋に使用する非常に特殊なコンクリートの生産にあたっては、約10通りの製造方式を開発。これらのいくつかは、核融合エネルギーが発する放射線から作業員や環境を防護する特殊機能を備えたものとなった。同建屋ではまた、通常のアパート壁で使用する補強鋼材の10倍の密度を持つ鋼材を必要とした。最終的に、同建屋中心部へのアクセスに使われる46の特注遮へい扉については、各70トンのドイツ製の扉をサイトに搬入。コンクリートを充填した上で、同建屋の中心部で組み立てたとしている。(参照資料:VINCI社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月8日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 13 Nov 2019
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仏経済相、フラマンビル3号機建設計画の遅れとコスト超過で解決計画 要請
仏国のB.ル・メール経済・財務相は10月28日、北西部にあるフラマンビル原子力発電所3号機(FL3)の建設プロジェクトが大幅に遅延し、建設コストも超過していることについて、事業者であるフランス電力(EDF)のJ.-B.レビィ会長に対し「(問題解決に向けた)アクション計画を1か月以内に提示すること」を要請した(=写真)。これは、この件に関してPSA(プジョーシトロエン)グループのJ.-M.フォルツ元会長が独自に取りまとめた監査報告書が25日に公表され、「度重なる計画の遅れとコストの超過はEDFの失策」と指摘したことを受けたもの。ル・メール経済・財務相は記者会見で、「これは仏国の原子力産業界全体で挽回しなければならない問題だ」と述べ、仏国におけるエネルギー産業の存立に関わる重要問題と訴えている。フラマトム社製・欧州加圧水型炉(EPR)設計を採用したFL3の建設は2007年12月に開始されたが、原子炉容器鋼材の品質問題など様々なトラブルにより、2012年に予定されていた完成は2023年にずれ込む見通しである。EDFは2018年3月に2次系配管で事前点検を行った際、溶接部で複数の欠陥を検知。同年7月に修理を行ったものの、格納容器の2重壁を貫通する溶接部8か所については同年12月、仏原子力安全規制当局(ASN)に「十分な品質があり破断の心配はない」と保証した上で、修理対象から外していた。しかしASNは、諮問機関らの協力によりEDFの提案内容を引き続き検証。今年6月にはEDFに対して、「FL3の運転を開始する前に8か所の修理を終えること」を命じていた。今回の監査報告書は今年7月、EDFのレビィ会長がフォルツ氏に宛てた書簡の中で、10月末までに取りまとめることを依頼していた。この中でレビィ会長は、ASNが6月にEDF提案を却下した点に触れ、「プロジェクトにEPR設計を採用した理由や、スケジュールがたびたび遅延した原因、コストの初期見通しと完成までの差額、建設に関わる様々な企業の責任等について、株主である国に対し正確かつ完全な分析結果を示したい」と説明。同型設計ですでに営業運転を開始した中国の台山原子力発電所、およびフィンランドで完成に近づいているオルキルオト3号機と比較することも求めていた。フォルツ氏はEDFの内部資料や幹部職員へのインタビュー等を通じて検証を行い、2006年5月当時に33億ユーロ(約4,000億円)と見積もられていた建設コストが、今年10月までに7回改定され、現時点で124億ユーロ(約1兆5,000億円)に増加した事実に言及。完成の遅れと合わせて、これらはEDFの失策と考えられるが、台山発電所の2基が世界初のEPRとして営業運転を開始したことにより、EPRのコンセプトと設計が妥当であることが実証されたとフォルツ氏は見ている。当然のことながらEPRのシリーズ建設再開に向けて、これまでに得られた経験を保持しつつ、EPRのコスト削減と「建設可能性」について一層の改善を図るべきだとフォルツ氏は勧告。FL3計画の遅れは、必ずしも現行のプロジェクト管理チームが原因というわけでは無いが、最新のプロジェクト管理技術を持った常勤スタッフ、および潤沢な自己資金を備えた、強力なプロジェクト・チームに立て直すべきだとした。フォルツ氏はまた、EDFに対しても、安全規制当局やサプライヤーと更なる調整を図ることを進言。産業界に対しても、より一層協調していくことで作業員の訓練、とりわけ溶接作業員の能力が改善される。要求の高い分野で質の高い専門家を多数蓄えるためには、初期の訓練と能力の維持で多大な努力を積み重ねることが必要だと強調している。(参照資料:仏経済・財務省(仏語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月29日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 31 Oct 2019
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仏アレバ社のP.バラン会長、11月にY.デスカタ氏と交代
仏国のアレバ社(Areva SA)は10月25日、P.バラン会長の後任人事として、仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)の長官経験者であるヤニック・デスカタ氏(=写真)を、前日の理事会で全会一致で指名したと発表した。デスカタ氏は、11月13日に開催される総会で正式に会長職に就任する。アレバ・グループは2014年に48億ユーロ(約5,800億円)という巨額の損失を計上した後、仏国大統領の決定に従い2015年から大規模な再編計画が開始された。その結果、2017年に原子炉機器と燃料の設計・製造、関連サービス部門がフランス電力(EDF)に売却されて「フラマトム社」となったほか、ウランの採掘・濃縮・転換および使用済燃料の再処理を中核とする燃料サイクル部門は「オラノ社」として再出発した。残ったアレバ社(Areva SA)は100%仏国政府の所有となり、フィンランドで長期化しているフラマトム社製・欧州加圧水型炉(EPR)のオルキルオト3号機(OL3)建設プロジェクト等にあたっている。発表によると、同グループの再編が完了しOL3も完成に近づいていることから、バラン会長は今後、同社の非常勤理事に退くほか、オラノ社の会長職などその他の職務に集中する方針である。デスカタ氏は仏原子力産業界で30年以上の経験を積んでおり、エリート養成機関の1つである国立理工科大学卒業後、産業省の原子力発電所建設検査事務局長などを経て、1995年のCEA長官就任をはじめ、CEAが9割出資するテクニカトム社、EDFなどで要職を歴任。2003年から2013年までは、仏国立宇宙研究センター(CNES)の理事長を務めていた。(参照資料:アレバ社(仏語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 28 Oct 2019
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トルコの視点
本稿は、東京のMathyos社のトム・オサリバン氏によるゲスト投稿である。2015年4月2日、日本外国特派員協会(FCCJ)の記者会見でアフメット・ビュレント・メリチ駐日トルコ大使が「中東における最近の動向とトルコの視点」という演題で講演を行った。以下は同会見に出席したオサリバン氏による内容の紹介である。トルコの原子力計画トルコの新規原子力発電プロジェクトでは外国企業が発電所を建設・所有・運転(BOO)することとなっている。そうした計画を促進するに際してはトルコ政府が果たす役割が重要なものとなる。トルコの原子力発電計画におけるBOOは、英国において自由化市場の中で新規原子力を開発する際に採用された方式(例えば、ヒンクリー・ポイントC発電所の方式)と類似している。トルコ方式では、原子力発電所が運転開始した以降の一定の期間、その発電電力量の一定割合については電力売買契約で原子力発電所の所有者からの買電を保証した上で、さらに残りの電力量は所有者がトルコ電力市場で売電し追加で収入を得ることができる。トム・オサリバン氏は、トルコの原子力発電の必要性について説明した駐日トルコ大使による先週の東京での講演内容について以下の通り報告している。トム・オサリバン氏の報告昨日、筆者は記者仲間と共に、FCCJで駐日トルコ大使のアフメット・ビュレント・メリチ氏と過ごす機会に恵まれた。世界のエネルギー供給を考える場合、トルコはエネルギー輸送上、最も重要な経由国の1つであり、この機会はとても喜ばしく時宜を得たものであった。メリチ大使は、中東における地政学的最新状況について講演し、幸いにも、トルコのエネルギー事情、ならびに地中海や欧州への石油・ガス供給の経由国としてトルコが果たす重要な役割について長い時間を割いて話された。大使は駐日大使に就任される前、イスラエル、イラン、およびウクライナで勤務されていた。また駐日バーレーン大使も昨日の会見に出席し議論に参加された。トルコの名目GDPは、日本の5分の1であり、1人当たり名目GDPは、1万1,000ドル(日本の約3分の1)である。日本とトルコ間の年間貿易額は、約40億ドルと、それほど多くない。トルコは、NATOのメンバーである。日本は、トルコに対してこれまで累計約40億ドルの融資・無償資金援助を提供している。トルコの資源別エネルギー消費量は、石油は日量約80万バレル((これは、以前の数字から訂正された))(日本の石油消費量の約4分の1)、天然ガスは年間450億m3(日本の天然ガス消費量の約40%)、また、石炭は年間約1億トン(日本の石炭消費量の約50%)である。以下はトルコのエネルギー開発に関して筆者(トム・オサリバン)が要約したものであり、大使の見解を必ずしも反映していないかもしれない。今週は、以下の3つの理由からトルコにとって極めて重要な週だった。まさに前夜、国連安全保障理事会常任理事国5か国とドイツはイランとの間で原子力・制裁協定を締結した。トルコはイランと500 kmにわたり国境を接しており、イランはトルコの主要な石油・ガス供給国の1つである。この協定によって、イランに対するEU、米国および国連の金融・エネルギー制裁が段階的に撤廃される可能性がある。ブレント原油価格は、今朝すでに2ドル/バレル下がった。トルコは今週、過去数十年で最悪の停電を経験し、イランとの隣接県を除くすべての県が影響を受けた。トルコ議会は今週、黒海沿岸に日仏企業連合の原子炉4基を総額約200億ドルで建設することを承認した。一方ロシアは地中海沿岸に4基の原子炉を総額200億ドルで建設する予定である。これにより新規原子炉建設に関してトルコは中国に次ぐ世界2番目の地位を占めることになる。トルコ東部国境はシリア、イラク、イラン、アルメニア、アゼルバイジャン、グルジアと接しており、西部国境はブルガリア、ギリシャと接している。トルコは地政学的に見て、今最も課題が多く難しい地域に位置している。中東(マグレブを除く)の人口は、3億7,100万人で、1990年から2010年にかけ61%増加しており、人口増加率が世界で最も高い地域の1つである。トルコは現在、170万人のシリア難民を受け入れており、これまでの受け入れ費用は53億ドルに達している。推定ではさらに1,100万のシリア人が大規模な人道的支援を必要としている。トルコは、エネルギー資源に乏しく、国内産の石油・ガスの供給量はわずかであり、石炭資源のほとんどは、無煙炭である。トルコへの主要なエネルギー供給国は、ロシアとイランの2か国であるが、両国とも現在、制裁措置を受けている。トルコは、石油とガスの供給国数を増加させ、民生用原子力発電所を建設し、再生可能エネルギー・ポートフォリオを拡大させることで、エネルギー安全保障を確保向上させ多様化させることを政策目標としている。日本と同様、トルコは地震国であり、原子力施設の建設には様々な課題がある。国内消費用の石油とガスの全量は、ロシア、イラン、およびカスピ海沿岸地域からパイプラインを通して輸入されている。トルコのボスポラス海峡経由で、ロシアとカスピ海沿岸地域から欧州向けに1日当たり約350万バレルの石油がタンカー輸送されている。ボスポラス海峡は、ホルムズ海峡、マラッカ海峡、スエズ運河に次いで世界で4番目に過密な輸送通路である。トルコの地中海港湾都市ジェイハンは引き続き、欧州に輸出される中東の石油とガスの主要な通過地点となっている。クルド人情勢は引き続き、トルコにとって重大な外交上の難題である。EU加盟に関する交渉は続いているが、トルコとEUの双方の関心が薄れてきており、交渉は現在、ウクライナ/クリミア危機によってさらに複雑化している。トルコは引き続き、ロシアによるクリミア侵入に反対している。石油価格の低下はトルコにとって好ましく、これにより中東輸出国は、経済の多角化を促される可能性がある。イラクとシリアの国境は、この地域の歴史的な民族・宗教構成を反映させて今後はもっと柔軟性を持って風通しの良いものにする必要があるかもしれない。お問い合わせ先:Tom O’Sullivan : +1 (202) 370-7713 tomosullivan@mathyos.com PDF版
- 06 Apr 2015
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