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エネ庁 人材確保に向けた司令塔機能の創設へ 原子力委員会で報告
原子力委員会は12月2日、今年9月に経済産業省で開催された「第1回原子力人材育成・強化に係る協議会」での議論を踏まえ、資源エネルギー庁・原子力政策課と、原子力産業界の人材育成の現状と課題について意見交換を行った。今後、資源エネルギー庁では海外事例に倣い、原子力人材育成を統括する「司令塔機能」を担う組織の立ち上げを目指すという。「原子力人材育成・強化に係る協議会」は、原子力人材の確保・育成が難化している現状を踏まえ、課題解決に向けた取り組みを具体化していくため、経済産業省らが今年9月に設置した。同協議会では、産業界の現状把握や各国事例の共有、政策立案に向けた議論を定期的に実施する。同日の原子力委員会では、先般の第1回同協議会で「原子力人材」は産業の裾野の広さゆえに、必要となる人材の分野や階層が多岐にわたる点が共有されたこと。また、電力事業者やプラントメーカーは、人材状況の把握や育成・確保の取り組みが一定程度進んでいる一方、より現場に近い領域である機器・部素材のサプライヤー、建設・工事を担う企業では、人材の現状把握や育成・確保が十分とは言えず、課題が残るとの認識が示された。また、人口減少が進む中、すべての領域で人材確保を実現することは現実的ではないとの意見もあり、企業単独では十分に育成・確保が難しい専門性の高い人材など、今後優先的に育成すべき領域を見極める必要があると指摘された。さらに、企業単独で人材育成・確保の具体的な施策を進めるのではなく、省庁や関係機関、企業らが横断的に連携して効率化・高度化を図るべきだという考えが示され、フランスの先行事例が紹介された。同国では、政府、産業界、労働組合の三者から成る原⼦⼒産業戦略委員会(CSFN)が原⼦⼒産業全体を俯瞰し、仏原子力産業協会(GIFEN)やフランス電力(EDF)らが、全体戦略に基づき個別の施策を実⾏する構図が確立されている。GIFENでは人材需給ギャップ分析の実施、CSFNでは産官学労の主要関係者の意⾒集約や利害調整を⾏われているという。なお、同協議会では今後、海外事例を参考に、原子力人材育成を統括する「司令塔機能」の具体像について議論を深めていく。司令塔組織が備えるべき役割としては、産官学それぞれの現状把握を行う機能、業界動向を踏まえた中期的な育成計画の策定、さらにその計画の実行状況を継続的にフォローアップする仕組みが挙げられている。産業界の現状把握の確認方法については、⽇本原⼦⼒産業協会が手掛ける「原⼦⼒発電に係る産業動向調査」などが紹介されている。
- 09 Dec 2025
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JSW 原子力製品の生産増強へ
日本製鋼所(JSW)は11月14日、松尾敏夫社長がオンラインで行った第2四半期決算説明会において、火力・原子力発電関連製品の増産に向けた約100億円規模の設備投資を発表した。室蘭製作所の発電機部材の製造設備を増強し、発電機用ロータシャフトや蒸気タービンの設備能力を2028年度末までに現在の1.5倍に引き上げる。なお、今回の投資には人員の増強なども含まれる。同社の素形材・エンジニアリング事業では、電力・原子力製品や防衛関連機器が想定を上回る受注を確保し、売上や営業利益が前年同期比で増収・増益となった。特に、電力・原子力分野の需要拡大が顕著であり、市場の回復基調が明確になっていることから、2026年度末の受注高・利益見通しを上方修正した。松尾社長は会見で「特に欧米で原子力発電の新設計画や運転期間の延長が進んでいる。フランスは改良型欧州加圧水型炉(EPR2)を計6基新設するほか、カナダではSMRの建設計画が進んでいる。米国でも既設炉の運転期間延長や小型モジュール炉(SMR)の新設計画が本格化しており、将来の市場の一つとして期待している」と展望を語った。記者から「資料にはAP1000やSMRに関する記載があるが、受注状況はどうか」と問われた松尾社長は「SMRは昨年度に受注済みである。AP1000は建設が決まり、機器製造メーカーが固まれば、当社にとって大きなビジネスチャンスになるだろう」と答えた。また、日本国内でも原子力の最大限活用方針の下、既存炉の運転期間延長や次世代革新炉の開発が進む中、「使用済み燃料の輸送・保管用のキャスク部材の需要が顕著だ」と述べ、「長期的な需要増に対応する体制整備を急ぎたい」と意欲を示した。今回の設備投資では、原子力・高効率火力向け大型部材製造に必要な二次溶解装置(ESR)の更新・大型化に加え、鍛錬工程の効率を向上させる鋼材搬送装置(マニプレータ)を増設する。さらに、大型ロータシャフト需要の高水準な継続を見込み、超大型旋盤を新たに導入し、生産能力の拡大を図る。
- 20 Nov 2025
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関西電力 高浜発電所でMOX利用継続へ
MOX燃料を搭載した輸送船「パシフィック・ヘロン号」が11月17日、フランスから福井県の高浜発電所に到着した。輸送船は、9月7日にフランス北西部シェルブール港を出発し、喜望峰・南西太平洋ルートを経由し約2か月かけて到着した。関西電力によると、MOX燃料32体を積載した輸送船は17日早朝に接岸し、午前10時すぎに荷下ろしを開始。同日18時半ごろまでに、全作業工程を完了したという。同発電所へのMOX燃料輸送は、2022年11月以来で、累計7回目となる。燃料は仏オラノ社が加工したもの。使用された輸送容器は、長さ約6.2m、外径約2.5m、重量約108トンの炭素鋼製円筒容器。輸送船には自動衝突予防装置や二重船殻構造の採用、緊急時の通報体制整備など、多重的な安全対策が施されている。また、同社が実施した輸送容器の放射線量測定では、表面線量は0.03mSv/h、表面から1m地点でも0.008mSv/h以下と、いずれも国の基準値を大幅に下回った。表面汚染密度についても基準値の半分以下で、同社は「法令の基準値を満足していることを確認した」としている。MOX燃料とは、使用済み燃料から再処理で取り出したプルトニウムをウランと混合して製造する燃料。関西電力では、使用済みのMOX燃料の再処理実証に向け、2027〜29年度に使用済み燃料約200トンをフランスへ搬出する計画も進めている(既報)。
- 18 Nov 2025
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東洋炭素グループ 米Xエナジーから高温ガス炉向けの構造材を受注
東洋炭素株式会社は11月7日、同社の子会社であるTOYO TANSO USA, INC.(TTU)が、米国のX-energy社(以下:Xエナジー社)から高温ガス炉用黒鉛製品(黒鉛製炉心構造材など)を受注したと発表した。今回受注したのは、Xエナジー社が開発を進める小型モジュール炉(SMR)の高温ガス炉「Xe-100」(8.0万kWe)向けの製品で、炉心構造材として同社の等方性黒鉛材「IG-110」が用いられる。納品は2028年を予定しており、現在は部品試作・材料認定等を行っている。来年中には最終設計を決定した上で、製造および加工を開始するという。売上高は約50~60億円規模と見込んでいる。「IG-110」がXe-100の炉心構造材等に採用された背景として同社は、優れた熱的・機械的特性と耐中性子照射特性等を備えた信頼性や、日本や中国、フランスの高温ガス炉の試験炉・実証炉・商業炉において採用実績を有していることなどを挙げた。高温ガス炉は、黒鉛を中性子減速材に、ヘリウムガスを冷却材に使用する次世代型の原子炉で、約950℃の高温熱を得られることが特長だ。発電のみならず、水素製造や化学プラントなど幅広い分野への応用が期待されている。高温環境・高線量下で使用されるため、炉心構造材には極めて高い耐熱性と放射線耐性が求められるが、同社の「IG-110」は、長期間にわたり安定した物性を維持し、優れた耐熱衝撃性や高純度・高強度を備える。国内外の公的機関と共同で実施した照射試験データにより、その信頼性が科学的に裏付けられている点も大きな強みだという。今年2月に策定された第7次エネルギー基本計画では、次世代革新炉(革新軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合)の研究開発を進める必要性が示され、世界的にも次世代革新炉の開発・導入が加速する中で、日本製の黒鉛材料が国際的な次世代炉プロジェクトに採用されたことは、原子力サプライチェーンにおける日本企業の存在感の高まりに繋がっている。Xe-100をめぐっては、米化学大手のダウ・ケミカル社が、テキサス州シードリフト・サイトで、熱電併給を目的にXe-100の4基の導入を計画中。同社は今年3月、建設許可申請(CPA)を米原子力規制委員会(NRC)に提出し、5月に受理された。2026年に建設を開始し、2030年までの完成をめざしている。そのほか、Amazonが出資するワシントン州で計画中の「カスケード先進エネルギー施設(Cascade)」でも、最大計12基のXe-100を導入する計画が進められており、2030年末までの建設開始、2030年代の運転開始を想定している。さらに、Xe-100の展開加速に向けて、韓国の斗山エナビリティ(Doosan Enerbility)および韓国水力原子力(KHNP)が協力し、米国内でのXe-100の展開を支援している。
- 12 Nov 2025
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フランス 熱供給向けSMR導入を検討
フランスのSMR開発事業者のカロジェナ(Calogena)社は8月26日、仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)と、CEAのカダラッシュ研究所でカロジェナ社製SMR(小型モジュール炉)の設置と熱供給ネットワークへの接続可能性の調査を実施する基本合意書(LOI)を締結した。カロジェナ社は、ハイテク産業を専門とする仏ゴルジェ(Gorgé)グループの子会社で、熱出力3万kWのSMR「CAL30」を利用した出力ボイラーを開発中。同炉はシンプルな設計、低温と低圧、競争力のあるコストに特徴があり、特に都市の地域熱供給ネットワーク向けカーボンフリーエネルギー源として設計されたもの。フランスでは、暖房エネルギーの95%は化石燃料またはCO2排出由来である。カダラッシュ研究所では2032年までの運転開始を目指している。カロジェナ社は2023年、仏政府の投資総局(Secrétariat Général Pour l'Investissement, SGPI)を通じて実施された「革新的原子炉」公募プロジェクトに採択され、原子力技術の開発支援を受けている。CEAは、原子力分野のイノベーションに重要な役割を果たしており、フランス産業界や主要研究プログラムを支援。近年では、「フランス2030」計画における採択プロジェクトの開発・産業化支援にも取組んでいる。カダラッシュ研究所は、原子力(核分裂・核融合)、太陽エネルギー、バイオエネルギー、水素のようなカーボンフリーエネルギーの研究・技術開発の拠点。また、仏海軍向けの原子力推進システム関連事業、原子力施設の廃止措置や除染、原子力安全に関する研究にも従事している。現在、CO2を排出する化石燃料(ガスや石炭)に大きく依存している暖房市場に対応するため、暖房分野での原子力利用が国際的に検討され始めている。フィンランドのクオピオ市の地域熱供給事業者であるクオピオン・エネルギア(Kuopion Energia)社は熱出力が9万~12万kWの原子力による熱供給の可能性を検討しており、カロジェナ社は、クオピオン社の環境影響評価(EIA)プロセスに招請された。クオピオン社は、2030年代半ばまでにバイオマス発電所を閉鎖する計画。原子力地域熱供給の候補地として、市の北部のソルササロ(Sorsasalo)と南部のヘポマキ(Hepomäki)に位置する2地点を選定している。なおクオピオン社は、フィンランドのSMR開発企業であるステディ・エナジー(Steady Energy)社とも2024年7月、SMRによる地域暖房用の熱供給の開始に向けて、事前準備の実施で合意している。
- 08 Sep 2025
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日本製ジャイロトロン ITERに初号機据付け完了
量子科学技術研究開発機構(QST)は8月21日、南フランスのサン・ポール・レ・デュランス市で建設中の国際核融合実験炉(ITER)にて、日本製の高出力マイクロ波源「ジャイロトロン」の初号機の据付けを完了したと発表した。「ITER」プロジェクトは、日本・欧州・米国・ロシア・韓国・中国・インドが協力し、核融合エネルギーの実現に向けて科学的・技術的な実証を行うことを目的とした国際プロジェクトだ。日本は、主要機器の開発・製作などの重要な役割を担っており、QSTが同計画の日本国内機関として機器などの調達活動を推進している。据え付けが完了したジャイロトロンの開発では、日本が高いプレゼンスを発揮しており、ITERで使用する全24機のうち8機が日本製だ(キヤノン電子管デバイス株式会社が製造)。QSTは、ジャイロトロンの研究開発を1993年に開始し、2008年に世界で初めてITERが要求する出力、電力効率及びマイクロ波出力時間を満たすジャイロトロンの開発に成功した。このほど、世界に先駆けて1号機を設置したことは、同分野における日本の技術的な優位性を改めて示す結果となった。ジャイロトロンは出力のマイクロ波を発生させる大型の電子管(真空管)で、磁力線に巻き付いた電子の回転運動をエネルギー源としている。名前の由来は、磁場中の回転運動(ジャイロ運動)から来ている。核融合反応を起こすために高温状態をつくりだす役割を担っており、電子レンジのようにマイクロ波を発生させて加熱する。装置の全長は約3メートルで、出力100万ワットは電子レンジの約2000倍に相当する。
- 27 Aug 2025
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大林組 総合展示会「OBAYASHI VISION SHOWCASE 2025」を開催
大手ゼネコンの大林組はこのほど、脱炭素をテーマにしたさまざまなソリューションや技術を紹介する総合展示会、「OBAYASHI VISION SHOWCASE 2025」を開催した。同社では「MAKE BEYOND つくるを拓く」をブランドビジョンに掲げ、脱炭素や資源循環、自然共生を目的としたサステナブルな社会の実現を目指している。同展示会では、「SOLUTION」「VISION」「CREATION」と大きく3つのテーマに分け、さまざまな技術や施工実績、同社が掲げる構想などを紹介した。例えば、建設プロセスにおける低炭素技術を紹介するセクションでは、建設に欠かせない資材であるセメントの量を減らし、別の材料に置き換えることでCO2排出量を抑えた低炭素型のコンクリート、「クリーンクリート」が紹介された。また、ロボットやドローン技術を活用し、工程の簡素化やCO2の排出を最小限に抑える試みとして、AIを活用した図面の照合システムや、施工箇所にBIMデータを重ね合わせて施工確認や検査などを行う品質管理システム等の展示があった。他にも、建設機械の操作レバーなどに装置を装着することで遠隔からの無人化運転を可能にした汎用遠隔操縦装置(サロゲート®)のシミュレーターを展示。同装置は、搭乗操縦と遠隔操縦の切り替えが容易なため、施工場所の作業環境に応じて、柔軟に工事を進めることができ、危険な場所や災害復旧作業において、最大限効果が発揮される。令和6年能登半島地震の災害復旧作業にも使われており、同展示会では、実際に現場で作業する社員による実演など、来場者が間近で見学することができた。そして、日本全国で高速道路のリニューアル工事を手掛ける同社では、トンネル覆工のスピードをより高めたワンバインドクロスや、高速道路の橋の更新作業にかかる時間を従来の半分に短縮した工法「HOLLOWAL(ホローワル)」の紹介、そして、文化財の恒久的な保存を目指し鉄骨を使わない耐震強化技術など、多様な分野で活用される同社の高い技術力が社会インフラの安全性向上や効率化に寄与するとともに、未来志向のものづくりを支える原動力となっていることが来場者に強く印象付けられた。また、会場にて放映されたプロモーションビデオ内には、原子力産業界で大きく注目を浴びている自律4足歩行ロボット「Spot」の紹介があった。将来的には、原子力発電所の廃止措置における建屋周辺および内部のモニタリング、放射性廃棄物の埋設後の点検作業において活躍が期待されている。そして、核融合発電への取り組みを紹介するコーナーでは、同社が出資する核融合炉開発のスタートアップ「株式会社 LINEA イノベーション」が構想する核融合発電施設のイメージ模型が展示され、ITER プロジェクトにも出向経験のある同社の社員による解説があった。ここでも、同社が培ってきた安全管理のノウハウや、耐震・免震技術を活かした建屋設計の観点が核融合発電の開発事業においても、いかんなく発揮されていることが紹介された。同施設は、「FRC ミラーハイブリッド方式」の先進燃料核融合で、中性子フリーの環境にやさしい核融合炉として期待されている。FRC とは、(Field-Reversed Configuration)、磁場反転配位と呼ばれるプラズマの磁場閉じ込め方式のひとつで、炉構造がシンプルであるため、メンテナンス性が高く経済的な核融合炉として注目されている。
- 21 Aug 2025
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Pu保有量44.4トン 前年からわずかに減少
内閣府は、8月5日に開催した原子力委員会の定例会議にて、日本が2024年末時点で国内外に保有するプルトニウムの総量が約44.4トンであることを明らかにした。内訳は、国内の保管量がおよそ8.6トン、海外での保管量がおよそ35.8トン(英国に約21.7トン、フランスに約14.1トン)であった。2023年末時点の総量は約44.5トンであったため、わずかながらに減少した。減少は4年連続。海外に保管中のプルトニウムとは、国外(英仏)に再処理を委託しているが、まだ日本国内に返還されていないものを指す。これらは原則として、海外でMOX燃料に加工され、国内の発電プラントで利用されることになっている。日本政府は、プルトニウム利用の透明性の向上を図り、国内外の理解を得ることが重要であることから、国際原子力機関(IAEA)の管理指針(プルトニウム国際管理指針)に基づき、国内外において使用及び保管している未照射分離プルトニウムの管理状況を、1994年から毎年公表するとともに、IAEAに提出している。プルトニウムの削減が進まなかった理由として原子力委員会は、2024年は、日本がイギリスとフランスに委託してきた使用済み燃料の再処理が行われず、プルトニウムの回収がなかったことや、MOX燃料の装荷実績がある関西電力高浜発電所3・4号機(PWR、87.0万kWe×2)、四国電力伊方発電所3号機(PWR、89.0万kWe)にて、昨年、新たなMOX燃料が装荷されなかった影響だとしている。
- 06 Aug 2025
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日立とQST ITER向けダイバータ部品の試作に成功 認証試験に合格
日立製作所と量子科学技術研究開発機構(QST)は7月23日、国際核融合実験炉「ITER」向けに、炉内機器のひとつであるダイバータの主要部品「外側垂直ターゲット」の試験体を製作し、ITER機構による認証試験に合格したと発表した。「ITER計画」とは、日本・欧州・米国・ロシア・韓国・中国・インドの7か国と地域が協力し、核融合エネルギーの実現に向けて科学的・技術的な実証を行うことを目的とした国際プロジェクト。現在、実験炉の建設がフランスのサン・ポール・レ・デュランス市で進められている。日本は、ダイバータやトロイダル磁場コイル(TFコイル)をはじめ、ITERにおける主要機器の開発・製作などの重要な役割を担っており、QSTは、同計画の日本国内機関として機器などの調達活動を推進している。ダイバータは、トカマク型をはじめとする磁場閉じ込め方式の核融合炉における最重要機器のひとつ。核融合反応を安定的に持続させるため、炉心のプラズマ中に燃え残った燃料や、生成されるヘリウムなどの不純物を排出する重要な役割を担っている。トカマク型装置の中でプラズマを直接受け止める唯一の機器で、高温・高粒子の環境にさらされるため、ITERの炉内機器の中で最も製造が困難とされる。日立は、長年にわたる原子力事業で培った技術と経験を結集し、高品質な特殊材料の溶接技術と高度な非破壊検査技術を開発し、検証を重ねた結果、ITER機構から要求される0.5ミリ以下の高精度な機械加工と組み立てを実現。また、製作工程や費用の合理化を図るため、ダイバータ専用に最適化した自動溶接システムを開発した。2024年7月には、三菱重工業がすでにQSTとプロトタイプ1号機を完成させていたが、今回、日立の製作技術も正式に評価されたかたちだ。QSTはこの部品を全58基に納入予定。うち、18基は先行企業が製作を担当し、残る40基の製作企業は今後決定される見通し。
- 24 Jul 2025
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フランス原子力産業界 戦略協定に署名
フランス原子力産業界の戦略協定の署名式が6月10日、原子力産業戦略委員会(CSFN)の主導により、パリで開催された。原子力産業の復興を目指した2025年~2028年までの共通ビジョンを策定し、エネルギーと産業主権、欧州の競争力、低炭素エネルギーへの移行を目標に、主要なプロジェクトを中心に原子力産業界全体を動員することを目的としている。署名式には、E. ロンバール経済・財務・産業・デジタル主権相、M. フェラチ産業・エネルギー担当相のほか、フランス電力(EDF)、オラノ、仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)、フラマトム、放射性廃棄物管理機関(ANDRA)など主要な原子力関連機関・企業、企業労働組合の代表者らが出席。CSFNは2011年に設立され、政府、企業、労働組合の三者間の連携と、原子力産業の組織化の促進を役割とする団体。今回の署名を受け、CSFNのX. ウルサット会長は、「この協定は、私たち全員を団結させるコミットメント。行動と信頼の協定だ」とその意義を強調した。CSFNは、2022年2月にE. マクロン大統領が行ったベルフォール演説で、原子力復興をエネルギー戦略の要とするとしながらも、様々なステークホルダーを調整するための共通枠組みが存在しなかったと指摘。同大統領はベルフォール演説で、安全性を損なわないことを条件にすべての既存炉の運転期間延長と、EPR2×6基の新設(さらに8基建設の調査も)を提案しており、最初の6基はパンリー、グラブリーヌ、ビュジェイの各発電所サイトで建設をする計画を示していた。またCSFNは、今回の戦略協定を、ベルフォール演説に沿って、フランスの原子力産業を長期的に構造化、強化し、予測するための戦略的な一歩と捉え、産業、エネルギー・気候変動に関する主要な課題に対する具体的な取組みとして、6基のEPR2の建設と燃料サイクル施設の更新既存炉などの運転期間延長研究開発の強化および小型モジュール炉(SMR)の開発燃料サイクル技術の促進とそのクローズド化旧原子力施設の解体と核物質・放射性廃棄物の管理を掲げた。また、以下4つの主要な戦略的優先事項を中心としたロードマップを示した。産業パフォーマンス:建設の納期・コスト・品質を最適化、設備近代化・サプライチェーンの強化技能と雇用:年間1万人の採用目標。初期トレーニング、見習い、キャリアの移行、および地域全体での人材誘致と動員の実施。イノベーションと将来技術:SMR、次世代炉、産業デジタル化、高度な燃料サイクル管理など、戦略分野での研究開発を加速。エネルギー移行:原子力を仏・EUの脱炭素戦略の柱に。信頼性と競争力ある電力供給を確保。CSFNは、政府と産業界と連携してこの協定の実施を監視し、取組みの調整、優先プロジェクトの支援、進捗の評価、必要に応じて修正を行う役割を担うこととしている。
- 19 Jun 2025
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三菱重工 英SZC向けポンプを受注
三菱重工業は6月17日、英国のサイズウェルC(SZC)原子力発電所1~2号機(EPR-1750、172万kWe×2基)向け海水ポンプなど、計5機種34台を受注したことを明らかにした。同社は今後、兵庫県の高砂製作所にてポンプを製造し、運転試験を実施予定の英国トリリアム・フロー・テクノロジーズ社に、順次納入を進める。このトリリアム社が、プロジェクト管理、モーターの調達、工場試験、現地据付指導を手掛ける予定だ。SZCは、フランス電力(EDF)と英国政府が英国東部のサフォーク州サイズウェルにて計画するプロジェクトで、英国ですでに建設が始まっているヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所1~2号機(EPR-1750、172万kWe×2基)と同一設計。三菱重工はこれまでに、HPC向けにポンプ5機種、計34台を受注・製作しており、今回もその流れを受けた受注となった。
- 18 Jun 2025
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美浜発電所 仏ビュジェイ発電所と姉妹プラントに
関西電力とフランス電力(EDF)は6月3日、美浜発電所(PWR、82.6万kWe×1基、ほか2基が閉鎖)とビュジェイ発電所(PWR、94.5万kWe×2基、91.7万kWe×2基、ほか1基が閉鎖)との間で「姉妹発電所交流協定」を締結した。協定の締結期間は5年で、当日は福井県美浜町の美浜原子力PRセンターにて調印式が実施された。双方の発電所長らが年に1回程度、交互にプラントを訪問し、設備運用、技術、人材育成など幅広い分野で知見を共有することが目的。両社はすでに、2010年から原子力分野における包括協力協定を締結しており、今回の協定はその関係をさらに深めることになる。両発電所は、ともに40年超運転や廃止措置を実施しており、安全性や信頼性向上に向けた情報交換の強化が期待されている。
- 05 Jun 2025
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フランス 世界最大級の原子力利用AIスーパーコンピューターを構築へ
英国を拠点とするAI(人工知能)クラウドプラットフォームのフルードスタック(Fluidstack)社は2月10日、原子力を活用した世界最大級のAIスーパーコンピューターを構築するため、フランス政府と提携に関する覚書を締結した。2028年までに100万kW超の電力を供給するAIコンピューターの構築を目指している。この提携は、パリで開催されたAIアクションサミットの場で発表され、フランスのE. マクロン大統領のリーダーシップの下、E. ロンバール経済・財務・産業・デジタル主権相、M. フェラッチ産業・エネルギー相、フルードスタック社のS. マクラリー共同創業者兼社長が調印した。フランスは、このスーパーコンピューターに豊富な無炭素電源である原子力エネルギーを活用し、次世代AIモデルに比類のない計算能力を提供することを目指している。これにより、AIインフラ、エネルギーセキュリティ、デジタル主権の面で、フランスのリーダーシップを強化したい考えだ。フランスの原子力資産、送電網を管理する国営企業RTEの高速グリッドインフラ、AI人材、最先端のコンピューティング技術がバックアップする。マクロン大統領は、フルードスタック社との提携にあたり、「フランスは2017年以来、人工知能の分野で、人材を訓練し、研究を発展させ、ヘルスケア、宇宙、防衛、大規模言語モデルにおいてキープレーヤーを育成・強化しており、欧州をリードしている。原子力エネルギーは制御可能で安全かつ安定、脱炭素化されたエネルギー源であり、AIコンピューター能力の拡大に最適。フルードスタック社との100億ユーロ(約1.6兆円)の契約は、私の野心を具現化したもの。世界は加速し、イノベーションのための戦いが起きている。我々は減速してはならない」と語った。このプロジェクトは既に、金融業界から強い関心を集めており、プロジェクトのフェーズ1ではフルードスタック社が100億ユーロの初期投資を実施、2026年にAIスーパーコンピューターの稼働開始を予定している。フェーズ1では、最終的に50万個近くの次世代AIチップが搭載され、AIインフラ、AI研究、高性能コンピューティング分野において数千もの雇用創出が見込まれている。なお、AIアクションサミットの開催を機に、フランス電力(EDF)は2月10日、フランスで新たにデータセンターを開発するデジタル企業向けに、EDFのサイトアクセスへの関心表明の呼びかけを近日中に開始すると発表した。この取組みは、潜在的な投資障壁を取り除き、電化プロジェクトの開発を促進することが目的。EDFは関心のあるデジタル企業に、電力網に接続済みの使用可能な土地スペースを提供する計画で、これにより開発期間を数年間短縮できるという。EDFは既に、自社サイトで4つの工業用地を特定しており、利用可能な総設備容量として200万kWeを想定。2026年までにさらに2サイトで用地を確保予定である。
- 19 Feb 2025
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フランス SMRの再設計作業を開始
フランス電力(EDF)の子会社であるNUWARD社は1月6日、同社製小型モジュール炉(SMR)である「NUWARD」の再設計作業を開始したことを明らかにした。EDFとNUWARD社は2024年6月、プロジェクトの遅延や予算超過を避けるためにNUWARD SMRの設計を見直し、既存の実証済みの技術を利用し、設計を最適化する計画を決定。その後まもなく、英国の原子力発電所の新設計画を牽引する政府機関「大英原子力(Great British Nuclear:GBN)」が実施するSMR支援対象選定コンペから撤退した。NUWARD社は、「ここ数か月に実施された研究は極めて重要であり、当社は電力会社と産業界の期待に完全に応えるべくSMR戦略を見直してきた。NUWARD SMRは、電気出力40万kW、熱出力約10万kWのコジェネのオプションを提供する。市場のニーズに適合した安全な製品を提供するため、原子力部門でよく知られ、完全に習得された実績ある技術コンポーネントのみから構成される設計に見直す」と説明。「NUWARD SMRの付加価値は、競争力と建設時間の最適化を目的とした、シンプルさとモジュール工法にある」と強調した。同社は現在、2026年半ばまでに概念設計を完成させ、2030年代に市場投入し、国内に初号機の建設を計画している。2019年9月、EDFは仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)などと協力して、欧州主導のSMR「NUWARD」(電気出力17万kWの小型PWR×2基)の開発を発表。2基の独立した原子炉圧力容器(RPV)を鋼製格納容器内に収納、格納容器は水中設置を特徴とし、基本設計段階に進んでいた。
- 17 Jan 2025
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イタリア 鉄鋼業界の競争力強化と脱炭素化に向けSMRの活用を摸索
フランスおよびイタリアの5者が7月23日、イタリアの鉄鋼業界の競争力強化と脱炭素化をめざし、原子力利用の推進協力に係る覚書に調印した。5者は、フランス電力(EDF)とそのイタリア法人であるエジソン社、イタリア鉄鋼連盟、イタリアのアンサルド・エネルギア・グループ、およびその100%子会社のアンサルド・ヌクレアーレ社。協力を通じて、各者が有する専門知見を活用し、今後10年間でイタリアでの新規建設、とりわけ小型モジュール炉(SMR)の建設に向けた共同出資を検討する。また、5者は、両国間で既に稼働している国際連係線を活用し、イタリアにおける鉄鋼生産の脱炭素化に貢献すべく、原子力による電力の中長期的な供給契約の締結も検討していく。今回の覚書について、イタリア鉄鋼連盟のA. ゴッツィ会長は、鉄鋼メーカーとして、持続可能な鉄鋼産業への移行をリードする意向を表明。同会長は、「原子力は、野心的な脱炭素化目標を達成するために戦略的に必要な要素、かつ唯一の実行可能な方法。排出削減が難しいとされるあらゆる産業部門の模範となるよう取り組んでいく」と意気込みを語った。なお、今回覚書に調印したイタリア鉄鋼連盟以外の4社は2023年3月、欧州でSMR等の原子炉開発や建設での協力可能性を探るための基本合意書(LOI)に調印。これは、イタリアで将来的に、エネルギー政策変更の可能性があることを見越し、同国での原子力発電所建設を念頭に締結されたものだ(既報)。脱原子力国であるイタリアでは、昨年から同国で原子力発電復活の可能性に関する議論を再開。最近では、トリノで4月に開催されたG7気候・エネルギー・環境閣僚会合の議長を務めた同国のG.ピケット=フラティン環境・エネルギー安全保障大臣が、米シンクタンク主催のイベントでの基調講演のなかで、2050年CO2排出実質ゼロの目標達成には、短・中期的には原子力の利用を検討しなければならず、特にSMRに注目していると述べている(既報)。また、政府がこの7月に欧州委員会(EC)に提出した「国家エネルギー・気候計画」(NECP)の最終文書では、原子力発電計画の再開を決定した場合、2035年からSMRなどの先進原子力の導入を想定したシナリオが描かれている(既報)。
- 29 Jul 2024
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フランス 極低レベル廃棄物処分場の処分容量拡大
フランスの放射性廃棄物管理機関(ANDRA)は7月12日、極低レベル放射性廃棄物(VLLW)処分施設(CIRES)の処分容量拡大認可を地元であるオーブ県から取得した。CIRESは、フランス北東部のオーブ県モルヴィリエに立地し、2003年に操業を開始。原子力施設の解体や、低レベルの放射性物質を扱う非原子力サイトで発生した廃棄物、放射性物質で汚染されたサイトの除染により発生した廃棄物を処分する。今回の認可により、処分面積を増やすことなく、当初認可された処分容量65万m3を95万m3に拡大する。CIRESは、同じくANDRAが管理運営する、オーブ低中レベル放射性廃棄物処分場(CSA)に近接。CSAは原子力発電所と同様、原子力施設に分類され、原子力安全規制当局(ASN)による規制の対象である。一方、CIRESのようなVLLW処分場は、廃棄物の放射能レベルが低いため、原子力施設ではなく環境保護指定施設となり、県知事の委任により地域圏環境・整備・住宅局(DREAL)が建設及び操業に係る許認可や規制を実施する。県知事による認可決定にあたっては、環境庁を含む関係省庁による審査、一般市民と地元当局が参加する共同調査も実施されている。CIRESのサイト面積は46 ha。3つの処分エリア(第1、2、3トレンチ)でのVLLW受入を設計し、認可された。毎年、約3万m3のVLLWが粘土質状の土壌に掘られたトレンチに処分され、第1トレンチはすでに満杯。2023年末までに処分量は、全体の許容量である65万m3の72%に達している。今後数年間の搬入予測によると、2028年~2029年頃には許容量に達する。国の放射性物質・廃棄物管理計画のもとで、代替の管理方法が検討されているとしても更なる処分容量が必要となる。ANDRAが発表した放射性物質・廃棄物国家目録では、現在稼働中の原子力施設の解体中に、210万m3~230万m3のVLLWの発生が予測されている。これを受け、ANDRAは2023年4月上旬、オーブ県に処分容量の拡大を申請。第3トレンチの開発と設備工事費用は、2,100万ユーロ(35億円)と見積もられている。2025年4月から作業を開始し、第2トレンチの運用が終了する前、2028年には最初のセルの運用を開始したい考えだ。
- 26 Jul 2024
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フランス 米GEの蒸気タービン設備事業を買収
フランス電力(EDF)は5月31日、米GEベルノバ社(電力・エネルギー事業担当)の南北アメリカ地域におけるサービス事業を除く、原子力発電所の蒸気タービン設備事業の買収を完了した。2022年2月10日のEDFとGE社間の買収に係る独占契約締結以後、買収手続きが進められていた。この買収対象は、新規の原子力発電所向けアラベル蒸気タービンを含むタービン設備の製造と、既存の原子力発電所向けの保守および改修事業。買収総額は明らかにされていない。GEベルノバ社は南北アメリカ地域における原子力サービス事業を継続し、集中的に蒸気タービン設備事業を推進するとともに、日立製作所と小型モジュール炉(SMR)のBWRX-300などの原子炉設備、原子燃料およびサービス供給事業を展開する。EDFは完全子会社であるアラベル・ソリューションズ社を設立、約3,300人を雇用し、アラベル・ソリューションズ社の蒸気タービンを、特にEPR(欧州加圧水型炉)、EPR2、SMR向けに供給する計画だ。なお、同社のタービン設備とサービスは、世界シェアの3分の1を占めているという。EDFのL.レモント会長兼CEOは、「今回の買収は、欧州経済の脱炭素化とエネルギー安全保障の達成に必要な原子炉建設の再開を支援し、欧州の産業部門を完全に自立させるもの。アラベル・ソリューションズ社はフラマトム社とともに原子力サプライチェーンにおける当社の専門性を強化する」とコメントした。なお、フラマトム社のB.フォンタナCEOがアラベル・ソリューションズ社の会長に任命された。EDFはフラマトム社の株式80.5%を保有する。フランスのE.マクロン大統領は2022年2月、フランス東部にあるGEスチーム・パワー社(当時)のベルフォール工場を訪問した際、EPR2の新設計画を発表した。マクロン大統領は、Xの声明で今回の買収を歓迎し、「これは私がベルフォールで行った約束であり、EDFはGEの原子力事業、特にアラベル蒸気タービンの製造を引き継ぐ。エネルギー主権獲得への大きな一歩だ」とポストしている。
- 11 Jun 2024
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【第57回原産年次大会】各国のバックエンド進捗を議論
大会初日最後のセッション2では、「バックエンドの課題:使用済み燃料管理・高レベル放射性廃棄物(HLW)最終処分をめぐって」というテーマの下、(公財)原子力安全研究協会の山口彰理事がモデレーターを務め、国内外の専門家4名が講演した。高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定、使用済燃料管理の柔軟性確保について、海外事例も参考に、地元との共生という視点を取り入れた議論を通じて、今後のわが国の原子燃料サイクルに係る示唆を得ることが狙い。山口氏は冒頭、原子力の持続的活用には、GX実現に向けた基本方針と国が決定する貢献(NDC)に合致する「正当性」、原子力基本法第一条にある目的(エネルギー資源の確保、学術の進歩、産業の振興、地球温暖化防止)との「合目的性」、革新技術による安全向上や合理的なバックエンドプロセスといった「将来性」、そして、社会的信頼と国民理解、立地自治体との信頼関係、中長期的な対応の柔軟性の「実現性」がカギであるとし、高レベル放射性廃棄物の最終処分へ向けた取組みは、国が前面に立つだけでなく、使用済み燃料の安全管理と貯蔵能力の強化により、対応の柔軟性を高め、中長期的なエネルギー安全保障に繋げるべきと指摘した。その後、原子力発電環境整備機構(NUMO)理事長の近藤駿介氏が、日本の取組状況を発表。最終処分場の選定プロセスにおいて、2002年から文献調査の受入れを公募し、2017年に地層処分に係る科学的特性マップを公開。2020年に北海道寿都町と神恵内村から文献調査の申し出を受け、2024年2月に文献調査報告書草案が完成したばかりだと説明。「容易な道ではないが、原子力発電の持続的利用のために真摯に取り組む」との決意を示した。最後に同氏は、数々の地域社会との対話活動を通じて、事業者が正しい情報を提供し多様な意見に耳を傾け、信頼できる存在であること、事業者の提案する取組みがそこで実施する正当性を有すると認められること、そして事業者が地域社会を大切に考え、信用できる存在であること、が大切であると強調した。続いて、フランス放射性廃棄物管理機関(ANDRA)国際関係部長のダニエル・ドゥロール氏が、「仏深地層処分場の立地から許認可取得までの主な課題と成功要因」と題して講演。ANDRAは2023年1月、高レベルならびに長寿命中レベル放射性廃棄物の深地層処分施設「Cigéo」の建設許可を申請しているが、同氏によると、「Cigéo」プロジェクトは段階的に進められ、フランス議会の継続的かつ強力な関与を受け、役割と責任の明確な分担の下、安定して資金を調達しているという。同氏は「Cigéo」プロジェクトの重要な成功要因について、①明確なガバナンスとステークホルダーとの継続的な対話、②意思決定に余裕のあるロードマップとマイルストーン、③各決定マイルストーンで科学的根拠を示せる研究開発、④安定した資金調達と複数年開発計画を可能にする法と政令──の4点を挙げた。スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)広報担当上級副社長のアンナ・ポレリウス氏は、スウェーデンのバックエンド進捗状況と地元での合意形成について発表。スウェーデンでは、高レベル放射性廃棄物はオスカーシャムの集中中間貯蔵施設(CLAB)で中間貯蔵し、短寿命の低中レベル放射性廃棄物は海底岩盤で処分するほか、使用済み燃料の最終処分場の建設がフォルスマルクで計画中であることなどを紹介した。同氏は、最終処分場をめぐっては、過去に住民とのコミュニケーション不足からデモ騒動にまで発展したが、2023年時点で支持する意見が86%に達していることを明らかにした。そして立地選定プロセスでは、安全第一を原則に、自治体の自発的参加を促し、オープンかつ透明性を確保しつつ合意形成に取り組むほか、調査、評価、運用の段階的な実施がプロジェクトの成否を握る、とその重要性を強調した。最後に同氏は、スウェーデンでは、規制当局が中立の専門家として信頼性が高いことに触れ、事業者は社会の一員となり、一緒に社会を築いていく意識が必要であると強調した。またフィンランドPOSIVA社上級副社長のティナ・ヤロネン氏は、同国で建設中の使用済み燃料最終処分施設(オンカロ)について講演した。POSIVA社は、2001年に最終処分施設サイトとして正式に選定されたオルキルオトのオンカロの操業許可を2021年12月に申請。現在、建設とシステムの試運転を継続中で、今年中に試験操業を見込んでいる。また、オンカロの地上には使用済み燃料の封入プラントも建設している。同氏は、オルキルオトを処分地に選定した理由として、地質学的・長期使用の適切性、サイト面積の広さ、使用済み燃料の大部分がオルキルオトにあること、地元の既存インフラの活用、地元住民の理解、地域の将来戦略上の重要性を挙げた。同氏によると、地元との会合を2か月毎に実施するなど理解促進に努め、処分場を選定する直前に実施された住民調査では住民の約60%が建設候補地になることを支持、全国調査では地層処分の安全性について、1990年の肯定的回答の約10%が2020年には40%前後まで増えたという。立地決定の成功のカギは、①事業者の信頼性と透明性の堅持、②信頼できる当局、明確なプロセスと責任・役割分担、③国民に有益な原子力産業──と指摘した。モデレーターの山口氏は最後に、日本が学ぶべき点として、地域の信頼を得るために原子力や最終処分の正当性を伝えること、ステークホルダーの役割と責任を明確にすること、独立性と専門性の高い信頼される規制機関が安全性を地域住民や国民に伝えること、といった貴重な示唆を得たと評価し、セッションを総括した。
- 11 Apr 2024
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【第57回原産年次大会】事業環境整備を議論 英仏事例を参考に
大会初日午後のセッション1では、「カーボンニュートラルに向けた原子力事業環境整備」と題し、パネル討論が行われた。原子力発電所の新規建設プロジェクトを掲げる英国およびフランスの、プロジェクト実現に向けた技術開発、資金調達、法規制、サプライチェーン・人材確保面での取り組み事例を参考に、エネルギー基本計画の改定を控えた日本への示唆を検証する内容となった。モデレーターを務めたみずほ銀行・産業調査部次長の田村多恵氏は冒頭、英仏両国の特徴として、政府が原子力の価値・役割を明確にし、新規建設実現に向けたロードマップを明示していることを強調。その上で、英国のRABモデル((個別の投資プロジェクトに対し、総括原価方式による料金設定を通じて建設工事の初期段階から、需要家(消費者)から費用(投資)を回収するスキーム。これにより投資家のリスクを軽減でき、資本コスト、ひいては総費用を抑制することが可能になる。))やフランスのMatchプログラム((能力開発プログラム))等、海外事例から学ぶことは多いと指摘した。フランス原子力産業戦略委員会(CSFN)のエルヴェ・マイヤール氏は、同国が2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、既設炉の運転期間を60年以上に延長したことや、新型炉であるEPR2を14基新設する計画であること、SMRプロジェクトにも支援していく方針であること等を紹介。そのためにMatchプログラムや原子力専門大学などを通じて、技能者を育成し、必要となる人材のギャップを埋めていく取り組みを示した。またウクライナ戦争、コロナを経て、国民の間でエネルギー安全保障の観点から原子力への肯定的な意見が増えてきているとし、「長期的に電力価格が安定していることが大切」と強調した。英国エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のマーク・ヘイスティ・オールドランド氏は、今年1月に発表された「2050年に向けた民生用原子力のロードマップ」について紹介。原子力人材の高齢化に伴うスキル継承が、英国最大の課題であると指摘した。そしてサイズウェルC原子力発電所(SZC)建設プロジェクトへの適用が検討されているRABモデルについて、「これまで水道や送電線、洋上風力などのインフラに適用してきた実績があるが、原子力へは初適用のため課題が多い。また各国の事情は異なることから、英国の制度をそのまま他国へ導入してもうまくいくとは限らないが、自由市場における民間事業者による運用に限れば、RABモデルは有効である」との認識を示し、「RABモデルを選ぶか、差金決済(CfD)を選ぶかは目標設定によって変わる」と述べた。また、「エネルギー安全保障、気候安全保障、国家安全保障の観点から原子力は重要であり、原子力があるリスクだけでなく、原子力がないときのリスクも考慮すべきだ」との考えを示した。経済産業省原子力政策課長の吉瀬周作氏は、脱炭素化とエネルギー安全保障を両立させる原子力が世界的に脚光を浴びていると強調。COP28での原子力の位置付けや、原子力3倍宣言、世界初となる原子力サミット(於ブリュッセル)の開催等、国際的な機運が高まっていることに加え、IT産業や製造業など幅広い産業において原子力利用の可能性が拡大していると指摘した。そして国内では、データセンターや半導体工場の増加により、電力需要の増加が予測されており、既設炉の再稼働を加速する必要があるとの考えを示した。また吉瀬氏は、人材育成についても、文科省とも連携して力を入れていく考えを示した。電気事業連合会副会長の佐々木敏春氏は、2024年はBWRの再稼働に力を入れていくと言明。新増設については、「民間事業である以上、株主・金融機関などのステークホルダーに対し、収益性が確保されていることを示さなければならない」とした上で、電力市場自由化後の事業予見性の低下や、安全対策投資の大幅増加など、ファイナンス面が改善されない限り状況は厳しいと強調した。また、日本の原子力損害賠償が無過失無限責任である点にも触れ、「このことが民間事業にとって投資判断やファイナンスにおけるネックとなっている」とし、事業予見性が確保されるよう現行制度の見直しを訴えた。同時に佐々木氏は、「原子力の必要性については国民のコンセンサスが得られていると考えている。むしろ原子力発電設備の規模感が重要だ。電力需要増が予想される中で、既設炉の稼働延長にも限界があることから、新増設が不可欠だ」と強調した。最後に田村氏は、オールドランド氏が指摘した「原子力を活用しないリスク」を踏まえた上で原子力の価値をしっかりと認識していく必要があるとし、「一体何のために事業環境を整備するのかを改めて考え、官民で取り組んでいく必要性を再確認できた」と、セッションを締め括った。
- 10 Apr 2024
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コンステレーション社 原子力向けにグリーンボンドを発行 米国初
米国最大のカーボンフリー電力の発電事業者であるコンステレーション・エナジー社(以下、コンステレーション社)は3月18日、同社の原子力プロジェクトの資金調達向けに9億米ドル(約1,350億円)相当の環境債(グリーンボンド)を発行したと発表した。同社は今後、調達した資金をCO2の削減やクリーンで信頼性の高い原子力発電の維持/拡大、運転期間延長などの投資に充てる予定。グリーンボンドは、地球温暖化対策や再生可能エネルギーなど、環境分野への取組に特化した資金を調達するために発行される債券で、私企業による原子力プロジェクトの資金調達に利用できるものとしては米国初。最近では、グリーンボンドは、持続可能なプロジェクトへの投資を求める投資家の間で人気が高まっているという。今回のグリーンボンド発行について、コンステレーション社取締役副社長兼CFOのD. エガース氏は、「市場の大きな反響は、原子力が今後数十年にわたって重要な役割を果たすユニークなクリーン・エネルギー技術であり、投資家が安全で長期的な投資であると認識している証左」とコメント、原子力への投資は、長期的な持続可能性への投資であることを強調している。グリーンボンドをめぐっては、カナダのブルース・パワー社が2021年11月、原子力発電向けに世界で初めてグリーンボンドを発行、これまでに3回の募集で累計17億加ドル(約1,900億円)のグリーンボンドを発行している。さらに、カナダの州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社も2022年7月、ダーリントン原子力発電所(CANDU-850×4基)の改造工事の資金調達用に3億加ドル(約340億円)のグリーンボンドを発行しているほか、フランスでは2023年11月、フランス電力(EDF)が既存の原子力発電所の資金調達に特化した10億ユーロ(約1,600億円)のシニアグリーンボンド(低リスクの債権)を発行している。メリーランド州・バルチモアに拠点を置くコンステレーション・エナジー社は全米で14サイト・計21基、1,900万kW以上の原子力発電設備容量を保有する電力会社。同社によれば、原子力発電のほか、水力、風力、太陽光による発電事業により、米国の1,600万世帯以上の家庭や企業に電力を供給し、米国全体で生産するカーボンフリー電力の約10%を賄っている。
- 25 Mar 2024
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