キーワード:風評
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台湾による福島県産食品などの輸入停止が解除へ
福島第一原子力発電所事故後、台湾が講じていた福島県産食品などへの輸入規制が緩和される見込みだ。農林水産省が2月8日に発表したところによると、台湾側でこれまで輸入を停止していた福島、茨城、栃木、群馬、千葉の産品について、きのこ類や野生鳥獣肉などを除き、放射性物質検査報告書および産地証明書の添付を条件に輸出が可能になるという。台湾では、日本産品の輸入に係る緩和策について各界の意見を求め決定することとしている。〈農水発表資料は こちら〉2021年の農林水産物・食品の国・地域別輸出額で、台湾は、中国、香港、米国に次いで第4位。輸出額も対前年比27.0%増の大幅な伸びを見せており、日本にとって重要な輸出市場となっている。台湾が日本産品に対する輸入規制緩和の方向性を示したことを受けて、松野博一官房長官は同日午後の記者会見で、「大きな一歩であり、被災地の復興を後押しするもの」と、歓迎するとともに、日台間の経済・友好関係のさらなる深化に期待感を示した上で、輸入規制が継続する国・地域への働きかけに関し、「日本産食品の安全性について科学的根拠に基づき説明していく」などと発言。資源エネルギー庁では、「福島の復興や原子力災害に伴う風評の払拭に向けて追い風となるものとして歓迎するとともに、今後も国際社会に対し情報発信を続けていく」とのコメントを発表した。また、就任以来、各国を訪問し福島県産品のトップセールスに努めてきた内堀雅雄・福島県知事は、「震災前、本県産農林水産物の主要な輸出先であった台湾において輸入規制が緩和されれば、福島の復興をさらに前進させる大きな力となる」とコメント。引き続き国と連携しながら、県産品の魅力発信を強化し、輸入規制の完全撤廃、輸出拡大に取り組んでいくとした。昨今、台湾からの留学生らによる福島県産品の風評払拭に向けた生産者との意見交換などの活動が多く報道されている。台湾原子力学会でも学生を対象とした現地訪問を実施しており、海産物の検査を見学した医学生からは「人々は福島の食品を誤解している。真実を伝えることが重要」との声が聞かれている。
- 09 Feb 2022
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三菱総研が都民対象に福島復興に関する調査、五輪開催の効果も
三菱総合研究所のセーフティ&インダストリー本部は1月18日、福島の復興状況や放射線の健康影響に関し、東京都民を対象に実施したアンケート調査の結果を発表した。「復興五輪」とも呼ばれた東京オリンピックの開催をとらえ継続実施してきたもので、2017年、2019年、2020年に続き4回目となる今回の調査は、大会開催後の2021年8月25~27日、20~69歳の男女1,000名を対象としてインターネットにより行われた。〈三菱総研発表資料は こちら〉調査結果によると、福島第一原子力発電所事故発生から10年が経過し「自身の震災に対する意識や関心が薄れていると思うか」との問いに対しては、「そう思う」、「ややそう思う」との回答が55.8%で、2019年の調査以降、ほとんど変わっていなかった。2017年調査では51.6%だった。「福島県内の復旧・復興は進んでいると感じるか」との問いに対しては、「そう思う」、「ややそう思う」との回答が30.2%で、2020年調査から2.5ポイント増加。2017年調査では22.3%だった。また、福島の現状への理解については、「正しく理解していると思う」とする回答(「そう思う」、「ややそう思う」の合計)が10.3%で、2020年調査から1.8ポイント増加。一方、「正しく理解しているとは思わない」(「そう思わない」、「あまりそう思わない」の合計)とする回答は45.4%で、2017年調査の54.6%以降、調査年次につれて減少していた。福島県産食品に対する都民の意識に関しては、「自分が食べる」、「家族・子供が食べる」、「友人・知人に勧める」、「外国人観光客に勧める」の場合ごとに質問。「福島県産かどうかは気にしない」との回答は、それぞれ64.4%、62.2%、62.2%、63.2%で、いずれの場合についても、初回調査以降、2020年調査まで増加してきたものの、今回の調査では減少(最大2.4ポイント)に転じていたことから、福島県産食品に対する風評の再来が危惧される状況に関し「一時的なものか否かを継続的に調査し把握していく必要がある」としている。また、放射線による福島県民への健康影響に関しては、「がんの発症など、後年に生じる健康障害」、「次世代以降への健康影響」について尋ね、「起きる可能性が低い」とする回答が、それぞれ57.6%、63.1%と、いずれも半分以上を占め調査年次につれて増加していた。五輪開催を通じた復興の実感度に応じ回答者を3分類、各々について復興進展の感じ方を分析(三菱総研発表資料より引用)東京オリンピックを通じて、「福島の復興状況が世界に発信できていたと思うか」については、「あまり発信できていなかった」、「発信できていなかった」との回答が63.1%と、半数以上を占める一方、「発信できていた」、「やや発信できていた」との回答は9.3%と、1割にも満たなかった。さらに、「福島の復興を実感することができたか」については、「あまり実感できなかった」、「実感できなかった」との回答が67.5%で、「実感した」、「やや実感した」との回答は7.6%だった。今回の調査では、東京オリンピックを通じた復興の実感度合いに応じて、他の質問とのクロス解析も実施。「実感した」層では、「どちらともいえない」層、「実感できなかった」層に比べ、「福島県内の復旧・復興の進展を感じる」とする回答割合が顕著に高くなっており、「大会を通じた福島県の復興に対する実感」の効果が示唆された。
- 20 Jan 2022
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経産省他が震災発生10年でシンポ、福島産食品の魅力発信に向け議論
東日本大震災発生から10年余りが経過した今、改めて復興の現状と課題を知り「私たちにできることは何か」について考えるシンポジウム(経済産業省・復興庁主催)が12月4日、都内のホールで開催された(オンライン併用)。今回のシンポジウムでは、被災地復興の現状と課題、福島第一原子力発電所の廃炉に向けた取組について、それぞれ復興庁、経産省が説明。都内の飲食業、食品流通業の関係者らも会場に招かれ、パネルディスカッションでは、風評の払拭を復興を加速化するための一つの課題ととらえ、福島県産食品の魅力発信を中心に意見が交わされた。開会に際し、石井正弘経産副大臣、新妻秀規復興副大臣が挨拶。それぞれ、「被災地に対する誤解・偏見を取り除き、全国の方々に復興の現状、地域の魅力を知ってもらう」、「地元産品のPRを進め被災地が本来有している魅力を積極的に国内外に伝えていく」などと、風評払拭に向けた取組の重要性を強調した。パネルディスカッションには、経産省復興推進グループ長の須藤治氏、福島の食の魅力発信に関し、販路拡大に取り組む(一社)東の食の会専務理事の高橋大就氏(ファシリテーター)、飲食店・テイクアウトサービスを手掛ける(株)無洲社長の浅野正義氏、旅館と生産者を結ぶ地産地消のネットワークを立ち上げたNPO法人素材広場理事長の横田純子氏の他、モデル・女優のトリンドル玲奈さんが登壇。須藤氏は福島県産食品に係る徹底した安全管理を「検査に引っ掛かるものは市場に出ていない」と強調する一方、流通に関するアンケート調査から「卸売の人は小売の人が買ってくれないのでは、小売の人も消費者が買ってくれないのでは」といった忖度が風評の固定化を生んでいることを懸念。安全性や生産者らの取組について、「事実を正しく知ってもらう」重要性を述べた。ディスカッションに続き福島産品の試食(スクリーン上、左上から時計回りに、みしらず柿、福島牛のローストビーフ、メヒカリのから揚げ、「福、笑い」)また、須藤氏が「今の時期、メヒカリのから揚げ、ヒラメの刺身などが美味しく、これに合った日本酒も福島にはたくさんある」と切り出すと、横田氏も「農家が土地に合うものを作っているのが福島だと感じる。内陸部の魚も実は素晴らしく美味しい。酒に合うものは何でもある」と共感。浪江町に在住の高橋氏は、地元の日本酒「磐城寿」と魚の相性を絶賛し、東北発の新たな食体験の概念「テロワージュ」(その土地の風土と酒・食品を調和、テロワールとマリアージュの造語)をアピール。県産日本酒のPRイベントにも取り組む浅野氏は、例年行われる全国新酒鑑評会での金賞受賞銘柄数が都道府県別で福島県は2020年度まで8連覇を達成したことを紹介し、「地域の水と米によって味はすべて違いがあるが、全体的に非常に品質が優れている」と、高く評価した。メヒカリのから揚げを試食するトリンドルさん、福島産食品に「作っている方々のパワーを感じる。太らない程度に美味しいものをたくさん食べたい」とパネルディスカッションは、JA全農福島の鈴木崇氏、福島県水産事務所の寺本航氏も加わり、福島県産食品の試食に移った。今回紹介されたのは、福島県ブランド米「福、笑い」、メヒカリのから揚げ、福島牛のローストビーフ、みしらず柿。福島牛のローストビーフは、無州が都内に有する飲食店「PIASIS」が調理。「福島牛は脂のクセがない」と浅野氏は話し、トリンドルさんも「軟らかいですね~、あっさりしていてパクパク食べられる」と絶賛。さらに、14年の歳月を費やし開発され今秋本格デビューした「福、笑い」を口に運び、甘さ、香ばしさが自身のお気に入りという米「森のくまさん」(熊本)と「つや姫」(山形)の「いいとこどり」と、顔をほころばせた。今回のシンポジウムでは、福島の食に関し、「食べてもらう」、「美味しく食べていることを生産者に伝える」、「生産者の思いを知ってもらう」、「生産地の魅力も合わせて発信する」といった向きが示されたが、東京で福島の食と酒が味わえる店は、県発行のパンフレット「まじうまふくしま! 東京の店」で知ることができる。
- 14 Dec 2021
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東京電力、福島第一ALPS処理水の海洋放出に係る放射線影響評価を発表
東京電力は11月17日、福島第一原子力発電所におけるALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の海洋放出に係る放射線影響評価について発表した。〈東京電力発表資料は こちら〉ALPS処理水の処分に関する政府基本方針の決定(2021年4月)を受け、同社は風評影響を最大限抑制するための対応を徹底すべく具体化を進めてきた設備の設計や運用など、検討状況について8月に公表。今回の評価で、放出を行った場合の人および環境への影響について、国際的に認知されたIAEA安全基準文書、ICRP勧告に従う評価手法を定め、評価を実施したところ、「線量限度や線量目標値、国際機関が提唱する生物種ごとに定められた値を大幅に下回り、人および環境への影響は極めて軽微である」ことを確認したとしている。評価は、実際のALPS処理水に基づくものに加え、「非常に保守的な評価」として、トリチウムの他、被ばくの影響が相対的に大きい核種だけが含まれるとした「仮想ALPS処理水」の2つのモデルを用い、環境中の拡散・移行については、米国で開発された領域海洋モデル「ROMS」(Regional Ocean Modeling System)を福島沖に適用し、発電所周辺南北約22.5km×東西約8.4kmの海域を最密約200mメッシュの高解像でシミュレーション。人の外部被ばくについては、「年間120日漁業に従事し、そのうち80日は漁網の近くで作業を行う」、「海岸に年間500時間滞在し96時間遊泳を行う」とし、内部被ばくについては、厚生労働省の国民健康・栄養調査報告を参照し、魚介類を平均的に摂取する人と多く摂取する人(平均+標準偏差×2)の2種類で評価。生物に関する評価として、ヒラメ、カレイ、ヒラツメガニ、ガザミ、ホンダワラ、アラメの各魚介・海藻類を選定。海洋における拡散シミュレーション結果で、現状の周辺海域の海水に含まれるトリチウム濃度(0.1~1ベクレル/ℓ)よりも濃度が高くなると評価された範囲は、発電所周辺の2~3kmの範囲に留まった。放出を行う海底トンネル(全長約1km)出口直上付近では拡散前、30ベクレル/ℓとなる箇所もあったが、その周辺で速やかに濃度が低下。30ベクレル/ℓは、 ICRP勧告に沿って定められた国内の規制基準(6万ベクレル/ℓ)やWHO飲料水ガイドライン(1万ベクレル/ℓ)を大幅に下回るレベルだ。人の被ばくについては、「仮想ALPS処理水」による非常に保守的な評価でも、一般の線量限度(年間1mSv)の約2,000分の1~約500分の1、自然放射線による被ばく(年間2.1 mSv)の約4,000分の1~約1,000分の1、魚介類についても、ICRPが提唱する誘導考慮参考レベル(生物種ごとに定められ、これを超える場合は影響を考慮する必要がある線量率レベル)の約130分の1~約120の1程度となっていた。福島第一を視察するIAEA関係者(測定・確認用設備となるK4タンク群、東京電力発表資料より引用)東京電力では今後、評価結果を取りまとめた報告書について、IAEAの専門家によるレビューや各方面からの意見などを通じ見直していくとしている。なお、12月にIAEAによるALPS処理水の海洋放出に係る安全性評価、国際専門家の観点による助言を目的としたレビューが予定されており、11月16日にはその準備に向けて評価派遣団による現地視察が行われた。
- 18 Nov 2021
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処理済み水の海洋放出問題が象徴する
政府の本気度と外交力菅義偉前内閣は384日間の短命政権だった。昨年8月28日、安倍晋三首相(当時)による突如の辞任表明を受け、自民党総裁選挙が行われた際、菅前首相が勝利した理由は官房長官として新型コロナ対策の一翼の担ってきた実績に対する評価だろう。衆議院の任期満了まで残り1年となるなか、新型コロナを早期に収束させ、経済活動の再開を図ることは自民党にとって最優先課題だった。しかしながら、この点において菅政権は必ずしも十分な実務能力を示したとは言えない。だからこそ、菅前首相は自民党総裁選への立候補見送りに追い込まれたのではないか。もっとも、菅前首相が短い任期中にいくつかの重要な決断をしたことも事実だ。その1つが東京電力福島第一原子力発電所に貯蔵される「処理済み水」に関し、今年4月13日の関係閣僚会議で海洋放出を決めたことである。原子力発電に賛成か否かに関わらず、この判断は高く評価されるべきだろう。処理済み水の貯蔵は物理的な限界に近く、且つ純粋に科学的見地から見れば、希釈した上での海洋放出が最も安全で現実的な対応だからだ。もっとも、風評被害に対する懸念は残る。これに対して、菅前首相が「福島をはじめ被災地の皆様、漁業者の方々が風評被害の懸念を持たれていることを真摯に受け止め、政府全体が一丸となって懸念を払拭し、説明を尽くして行く」と語ったことが伝えられた。それは、当然、岸田文雄内閣にも受け継がれるだろう。特に国際社会に対する正確な情報開示が極めて重要なのではないか。国際原子力機関(IAEA)による調査団の受け入れなどを通じ、周辺国に対して丁寧に説明する必要があることは言うまでもない。ただし、それでも科学的とは言えない理屈で批判がある場合、政府には毅然とした対応が期待される。この件の政治利用を許せば、他の問題にも影響が及ぶことは明らかだ。例えば東京オリンピック・パラリンピックの際、メダリストに贈呈されるブーケに関して、韓国紙『国民日報』は「放射能への懸念が少なからずあるのが事実」と報じた。このブーケが宮城県産のヒマワリ、岩手県産のリンドウ、東京産のハラン、そして福島県産のトルコギキョウとナルコランで作られていたからだろう。全く事実無根の報道だが、実際に処理済み水の海洋放出が開始された場合、同国ではさらに過激な反応が予想される。それを看過できないのは、単に二国間の関係だけでなく、他国を巻き込む可能性があるからだ。韓国の場合、戦時中のいわゆる従軍慰安婦、徴用工の方々のケースにおいて、直接的な関係のない米国やドイツにまで問題を飛び火させた。それを考えれば、海洋放出前にしっかりと準備し、科学に基づく丁寧な説明を続けた上で、根拠のない中傷には明確な反論を相手が音を上げるまで繰り返す必要がある。悪意を持つ人々は、この件を通じて国際社会における日本への評価を貶めようと意図している可能性が否定できないからだ。 物理的な貯蔵の限界に近い処理済み水原子力に関わる方に対しては今更の感もあるが、原子力発電所は正常に稼働している時でも水の管理が極めて重要である。現在、世界的に広く使われている軽水炉の場合、沸騰水型(BWR)、加圧水型(PWR)の何れにも「水」の文字があるように、タービンを回す際や原子炉の冷却に水(水蒸気)が使われてきた。従って、日本の全ての原子力発電所は取水を考慮して海沿いに立地している。福島第一の事故の際、東日本を襲った大震災そのもので原子炉建屋が大きく損壊することはなかった。稼働していた1、2、3号機は巨大地震を感知して自動停止している。しかし、津波によって取水用のポンプが故障、原子炉を冷却するための水を供給できずに深刻な事態に陥った。原子力発電所の地下には地下水が流れており、雨が降れば雨水も所内の地面に染み込む。正常な稼働時においても、これらの水の漏出により管理区域外が放射性物質に汚染されないよう、日々、コントロールしなければならない。事故後の福島第一においては、1~4号機に核燃料がデブリとして残っており、水による冷却を継続する必要がある。さらに、原子炉建屋内に流入した地下水、雨水が炉の破損により高濃度の汚染水となるが、これも所外への漏出を絶対に止めなければならない。そこで大きく分けて2つの手が採られた。1つは、原子炉建屋への地下水・雨水の流入を食い止めることだ。地中に凍土壁を設けることや、山側にバイパスを作って建屋の下を通らずに地下水を海へ放出するなどにより、1日の汚染水発生量は当初の平均540㎥から2020年は135㎥へ抑制された。もう1つの手段が、多核種除去設備(ALPS: Advanced Liquid Processing System)の活用に他ならない。高濃度汚染水にはセシウム、ストロンチウムなど63核種の放射性物質が含まれているが、ALPSはこのうちの62核種をほぼ取り除くことが可能だ。その上で、最後に残ったトリチウムを含む「処理済み水」を発電所内に設けられたタンクに貯蔵してきた。東京電力によれば、10月21日現在、所内の処理済み水用タンクは全体で1,061基、うちALPSによる処理済み水用が1,020基であり、126万7千㎥のトリチウム水が貯蔵されている。既に福島第一の敷地内を埋め尽くすように136万8千㎡分のタンクの設置が終了した(図表1)。これ以上のタンクの建設が困難になる一方、1日当たり新たに150㎥の処理済み水を貯蔵しなければならず、2022年夏にも貯蔵能力は限界に達する可能性が強い。従って、最終処理へ向けた決断の先送りは許されない状況に至った。具体的な放出方法の検討、国際機関や周辺国への説明と調整、さらに地元への対策の期間を考えれば、菅前首相の判断は正にぎりぎりのタイミングだったと言えるのではないか。 科学的問題ではなく社会的問題トリチウム水(=処理済み水)は、通常、稼働中の原子力発電所から海洋へ排出されている。福島第一の場合、事故前、稼働状態におけるトリチウムの海洋放出は規制濃度が6万Bq/ℓ、年間の放出総量に関する管理目標は22兆Bq/年と決められていた。このレベルであれば、環境には何らの影響を与えないと科学的に証明されているからだ。もっとも、福島第一の実際のトリチウム放出量は2006~2010年度の平均で2.0兆Bq/年であり、管理目標を大きく下回る水準だった(図表2)。ちなみに、2017年10月、韓国原子力安全委員会は『使用済み燃料管理及び核廃棄物安全管理に関する共同会議の下での第6次報告書』を発表している。それによれば、2012~16年において韓国の4原子力発電所が海洋及び大気中に放出したトリチウムの量は、いずれも正常に稼働していた時期の福島第一を遥かに超えていた(図表3)。例えば、この間に6基の原子炉が稼働していたハンウル原子力発電所の場合、海洋放出されたトリチウムは平均50.9兆Bq/年だ。福島第一の25倍を超えるトリチウムの量だが、同報告書はその放出量を特に問題視してはいない。科学的見地から、環境に悪影響を及ぼす可能性はないと判断したからだろう。麻生太郎副総理(当時)は、菅内閣の関係閣僚会議が海洋放出を決めた際、会見において「科学的根拠に基づいてもっと早くやったらと思っていた」、「中国や韓国(の原子力発電所)が海洋に放出しているもの以下だ」と語っている。何かと発言が物議を醸すことの多い麻生氏だが、この時は全く正しい見解を示していたのではないか。福島第一の処理済み水に関する最終的な処分について、資源エネルギー庁多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会は、昨年2月10日に発表した『報告書』により、「社会的影響は大きい」としつつも、「海洋放出」、「水蒸気放出」を「現実的な選択肢」とした。この結論は、同年4月2日に公表されたIAEAによる『フォローアップレビュー報告書』において、「包括的・科学的に健全な分析に基づいており、必要な技術的・非技術的及び安全性の側面について検討されている」と評価されている。また、原子力規制委員会の更田豊志委員長は、2018年8月22日の会見において、「規制を満たす形での(トリチウム水の)放出である限り、環境への影響、健康への影響などは考えられない」と説明した。この時、同委員長は、記者による「希釈することによって、総和を考慮した上で法令濃度、法令基準を下回れば、規制委員会としては海洋放出については是とするということで良いか」との質問に対し、「おっしゃる通り」と回答している。そうした議論を踏まえて、福島第一の処理済み水の海洋放出は検討されてきたわけだ。今年7月12日、東京電力が特定原子力施設監視・評価検討会に提出した資料によれば、貯蔵されている処理済み水のトリチウム濃度は15~216万Bq/ℓ、平均62万Bq/ℓだ。現在の計画では、これを1,500Bq/ℓ未満に希釈した上で、年間放出量が22兆Bqを下回る水準にする。事故前の福島第一におけるトリチウム水の規制放出濃度の2.5%であり、年間放出総量の上限は稼働時と同水準に設定されているわけだ。麻生前副総理の指摘通り、現在運転を続けている韓国の原子力発電所と比較しても、強く環境に配慮した計画と言えるのではないか。日本国内だけでなく、IAEA、韓国原子力安全委員会を含む専門家の議論を見る限り、トリチウムを含む処理済み水の海洋放出は、厳格な管理の下で行われた場合、環境への被害は基本的にないと考えられる。つまり、福島第一敷地内のタンクに貯蔵された処理済み水の処分は、科学的な問題なのではなく、優れて政治・経済及び社会的な課題に他ならない。言い換えれば、菅前首相が指摘したように風評被害のリスクに尽きるのである。 異を唱える隣国の理解を得ることが喫緊の課題福島第一の事故後、55か国・地域が福島県など日本産食品の輸入を規制した。しかし、多くの国・地域が既にそうした規制を撤廃している。輸入を制限してきた米国も、今年9月22日、食品医薬品局(FDA)が撤廃を決めた。EU、英国、インドネシア、仏領ポリネシアは規制を残しているものの、放射性物質検査証明などを提出すれば、輸入が禁じられているわけではない。一方、福島県及び周辺県からの食品輸入停止措置を続けているのは香港、マカオを含む中国、台湾、そして韓国の3か国・地域だ。2015年、韓国による8県の水産物禁輸措置に関し、日本政府はWTOへ提訴した。2018年2月、第一審に当たるパネルは輸出規制を不当としたが、2019年4月11日、最終審に当たる上級委員会は実質的に韓国側の主張を認める判断を示している。この逆転敗訴は油断と過信による日本の外交政策の失敗であり、当然ながら関係する農業・漁業関係者を強く落胆させた。さらに、処理済み水の最終処分にも大きく影響したと言えるだろう。今年4月12日、韓国外務省は、菅政権による処理済み水の海洋放出決定を翌日に控え、「韓国国民の安全と周辺環境に直接、間接的に影響を及ぼし得る」として、日本政府を強く牽制した。この主張に十分な科学的根拠があるとは思えないが、WTOの敗訴により一定の説得力がもたらされた感は否めない。その3日前の4月9日には、中国外務省の趙立堅副報道局長が、記者会見の席上、福島第一の処理済み水の海洋放出に関し「積極的、タイムリー、且つ正確、透明な方法で情報を開示し、周辺国と十分に協議のうえで慎重に決めるべきだ」と語っている。米中関係の緊張感が高まるなか、中国の対日姿勢は厳しさを増しており、処理済み水に対する反応もその同心円上のあると考えるべきだろう。他方、先述のIAEAによるフォローアップレビューには、処理済み水の処分に関し、「安全性を考慮しつつ、全てのステークホルダーの関与を得ながら、喫緊に決定すべき」とあった。処理済み水の貯蔵量が増えれば増えるほど、日々の管理と出口戦略は難しくなる。結果として、国際基準を超える濃度のトリチウム水が福島第一の敷地外へ漏出するリスクが高まりかねない。そうしたリスクを軽減する唯一の道は、徹底した管理と情報開示の下で処理済み水を海洋放出することである。10月22日に閣議決定された『第6次エネルギー基本計画(エネ基)』は、第1章を「東京電力福島第一原子力発電所事故後10年の歩み」に充てた。そこには、処理済み水の問題について、関係閣僚会議を設けた上で「風評対策や将来へ向けた事業者支援、迅速かつ適切な賠償の実現などに、政府一丸となって取り組む」とある。書かれていることに違和感はない。もっとも、この件は極めて重大な時期を迎えている。そうした状況下、あまりにも表現が整然かつ淡々としており、淡泊に過ぎる印象を拭えない。今も福島県産などの食品の輸入を禁止している国・地域に対し、最大限の外交努力により輸入解禁への理解を得ることについて、より明確で具体的な施策が書かれるべきだったと思う。また、処理済み水の海洋放出に懸念を示す国へのアプローチについても、もっと踏み込んだ外交方針を示す必要があったのではないか。そうした政府の取り組みと経済的支援をセットにしなければ、処理済み水の海洋放出に関し地元の理解を得ることは難しいだろう。新たなエネ基の『はじめに』には、「10年前の未曽有の大災害は、エネルギー政策を進める上でのすべての原点であり、今なお避難生活を強いられている被災者の方々の心の痛みにしっかりと向き合い、最後まで福島復興に取り組んでいくことが政府の責務である」と書かれている。そうであるならば、まずは科学的根拠に基づかない輸入規制を続け、処理済み水の海洋放出を批判する隣国に対し、しっかりと日本の主張を受け入れてもらうことが重要だ。福島第一の廃炉作業を円滑に進めるためにも、処理済み水に関する決着は避けて通れない。第2次安倍政権において外務大臣を4年8か月務めた岸田首相には、この件での強いリーダーシップを望みたい。
- 18 Nov 2021
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福島大がシンポ、原子力災害発生後10年の環境修復から復興について議論
福島大学は10月11、12日、国際シンポジウム「原発事故から10年後の福島の“森・川・海”と“食” ~復興に向けて残された課題~」を福島市内で開催(オンライン併用)。国内外専門家による口頭・ポスター発表に続き、12日には市民向けのセッションが行われ、学長の三浦浩喜氏は、開会挨拶の中で、2013年に設置された同学環境放射能研究所の「地域とともに歩む」強み・責務を改めて強調し、「福島の復興に向けた科学的知見や思いを皆様と共有したい」と先鞭を付けた。森林の放射能汚染に関して、国立環境研究所福島地域協働研究拠点グループ長の林誠二氏は、宅地や農地と異なる環境修復の実態を説き、再生に向けたポイントとして、(1)森林生態系モデルの開発と活用、(2)地元が主導する地域資源としての活用、(3)将来の災害に対する備えとしての森林管理――をあげ、アカデミアによる積極的な参画の必要性を強調。河川における放射性物質の動態については、福島大環境放射能研究所特任助教の五十嵐康記氏が、阿武隈川での調査から、近年の水害や農作業による季節影響、中流部と上流部の濃度形成の違いなどを例示した。また、福島大環境放射能研究所准教授の和田敏裕氏は、「海と川の魚は語る」と題し、水産物の放射能汚染の推移・分析結果から漁業復興に向けた課題を示唆。海産魚種の放射性セシウム濃度については、事故後の指数関数的な減少傾向を図示し、その要因として、(1)物理的な減衰、(2)浸透圧調節に伴うセシウムの能動的な排出、(3)底生生態系(エサ)におけるセシウム濃度の低下、(4)成長に伴うセシウム濃度の希釈、(5)魚類の世代交代、(6)魚類の季節的な移動――をあげた。一方で、淡水魚については、一部の水系で出荷制限が続いており、「事故による影響は内水面(河川・湖沼域)では長引いている」と指摘。同氏は、内水面魚種の放射性セシウム濃度が「特に2017年以降で低下が鈍っている」要因の解明に向け実施した赤宇木川(浪江町)のイワナ、ヤマメの分析結果から、エサとなる陸生昆虫からの放射性物質の取り込みが継続していることを示し、「除染の困難な森林生態系とのつながりが主要因」と述べた。環境放射能に関する発表を受け、福島第一原子力発電所事故の発生直後から被災地支援に取り組んでいる長崎大学原爆後障害医療研究所教授の高村昇氏は、福島県の県民健康調査結果などから、「放射線に対する不安を持つ人は発災当初から減ってはきたものの、まだ一定数残っている」と、メンタルケアの課題を指摘。東日本大震災・原子力災害伝承館館長の立場から若者への啓発に努める同氏は、放射線に関する知識の普及とともに、「段々と事故を知らない世代も増えてくる」と、事故の記憶・教訓を次世代に伝えていくことの重要性を強調。さらに、浜通り地域8町村の今後の帰還者予測を示し、「事故後10年が経ち、自治体レベルで見て復興のフェーズが大きく異なっている。それぞれの地域に合った復興支援が求められており、住民と専門家が一体となった取組が必要となる」と訴えかけた。総合討論では、市民・オンライン参加者も交え、福島第一原子力発電所のALPS(多核種除去設備)処理水取扱いに伴うトリチウムの影響、山菜類の安全性、福島産食品の流通回復に関する質疑応答が交わされたほか、今回シンポジウムのテーマに関連し「永遠に『復興』を言い続けるのか。復興のイメージとはどういうものか」という問いかけもあった。これに対し、「今回シンポの登壇者では一番若手。バブル景気を知らない」という五十嵐氏は、「今、日本全体をみても人口が毎年30万人ずつ減っており、これは福島市の人口に相当する。復興は、『元へ戻す』というより、『新しい概念を創っていく』ことではないか」と、今後もさらに議論を深めていく必要性を示唆した。
- 22 Oct 2021
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東京電力、「発見!ふくしま」キャンペーンを明日より実施
東京電力は10月2日より、首都圏を対象に福島県産品の美味しさや魅力を伝える「発見!ふくしま」キャンペーンを実施する。〈東京電力発表資料は こちら〉「ふくしま!海と大地の収穫祭」と銘打ち、前回に続いて新型コロナまん延による影響にも配慮し、12月17日までの期間、首都圏や福島県内の小売店における県産品の販売促進イベント、飲食店とコラボしたグルメフェアなどを展開。収穫時期を迎える農産物の他、水産物の販売促進にも積極的に取り組み、事故の当事者として風評被害の最大限抑制、払拭に努める。東京電力では4月に、福島第一原子力発電所の処理水取扱いに係る政府の基本方針決定を踏まえた対応の中で、風評被害対策として、福島県産魚介類「常磐もの」の販路開拓を強化・拡充していくとしている。今回のキャンペーンでは、「常磐もの」料理20,000食を提供し美味しさ・魅力を伝える「お魚フェスティバル」を、11月19~21日に東京・日比谷公園で開催する予定(新型コロナ感染拡大の状況により開催方法に変更が生じる場合あり)。この他、キャンペーン期間中を通じ、飲食店や百貨店・スーパーと連携し、福島県産食材を使用したメニューを提供するキッチンカーの出店(首都圏各地)、福島県産米、福島牛、「常磐もの」の販売促進を行うほか、11月からはオンラインストア「ふくしま市場」の割引キャンペーン、首都圏の飲食店と連携したグルメフェアなども予定されている。
- 01 Oct 2021
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政府、福島第一処理水に関わる風評影響で水産物の一時買取り含む「当面の対策」まとめる
福島第一原子力発電所の処理水の取扱いに関する関係閣僚会議が8月24日に開かれ、(1)風評を生じさせないための仕組み、(2)風評に打ち勝ち安心して事業を継続・拡大できる仕組み――の構築に向けて10項目からなる「当面の対策」を取りまとめた。〈配布資料は こちら〉ALPS処理水(多核種除去設備等によりトリチウム以外の放射性物質を安全に関する基準値以下に浄化した水)の処分方法として、4月に「海洋放出を選択する」との基本方針が決定。関係閣僚会議では、年内を目途に放出後も含めた中長期的な行動計画を策定する。今回取りまとめられた「当面の対策」では、未だ残る風評影響や安全性への懸念を払拭すべく、IAEAやOECD/NEAによる監視・透明性の向上、風評影響の実態把握と適正な商取引の実現を図るとともに、「万一の需要減少に備えた機動的な対策」として、冷凍可能な水産物の一時的買取り・保管や、冷凍できない水産物の販路拡大に係る基金創設を盛り込んだ。今後、関係省庁にて具体的支援内容・予算措置を詰めていく運び。基本方針決定を受け福島県を始め各地で行われた関係者の意見を聴取するワーキンググループでは、漁業者より「安心して漁業を継続できる仕組みが必要」として、政府による水産物の買取りや次世代継承に関する意見も多く出されていた。関係閣僚会議の議長を務める加藤勝信官房長官は、会議終了後の記者会見で、「政府一丸となって必要なことはすべて実行するという姿勢で、スピード感を持ち、今回取りまとめた各施策を確実に実行していく」と述べた。復興庁は20日に行われたタスクフォース会合で、「消費者等の安心と国際社会の理解に向けて」とする情報発信施策パッケージをまとめたところだが、関係閣僚会議に出席した平沢勝栄復興相は「徹底した風評対策に取り組む」と改めて強調。「当面の対策」では、「安心が共有されるための情報の普及・浸透」として、若い世代を対象とした出前授業や教育現場での副読本活用が盛り込まれており、萩生田光一文部科学相は「文科省が制作してきた放射線副読本にALPS処理水に関する記載を追加するとともに、修学旅行の福島県誘致にも取り組んでいく」などと述べた。また、被災地における観光誘客促進・交流人口拡大に関して、赤羽一嘉国土交通相は、東北自動車道の相馬~福島間開通(4月)や常磐自動車道のいわき中央~広野間開通(6月)に触れ、「一人でも多くの方々に福島に足を運んでもらえれば」として、メディアを通じたPR効果にも期待。小泉進次郎環境相、井上信治内閣府消費者担当相は、それぞれ地元との意見交換、風評被害に関する消費者意識調査結果を踏まえ、「重要なのは信頼性」、「正確な情報発信が重要」との認識を示し、所掌の施策を具体化していく考えを述べた。「当面の対策」取りまとめについて、東京電力の小早川智明社長は、「大変重く受け止める。安全確保を大前提に風評影響を最大限抑制するため、モニタリングなどの具体的検討を進めるとともに、損害が生じた場合の賠償も早期に準備する」との考えを示した。
- 24 Aug 2021
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福島県・内堀知事、東京オリンピックの所感述べる
会見を行う福島県・内堀知事(インターネット中継)福島県の内堀雅雄知事は8月11日、記者会見を行い、コロナ対策として134億円を計上した2021年度8月補正予算について説明後、東日本大震災からの復興を世界に発信する「復興五輪」を掲げ8日に17日間の日程を終了した東京オリンピックの所感を述べた。内堀知事はまず、「『光と影』が混ざり合った『復興五輪』だった」と回想。その上で、「明るい光」として、(1)3月に聖火リレーがJヴィレッジをスタートし浜通り地域を巡り大会期間中には聖火台で浪江産の水素により輝き続けた、(2)県内で野球・ソフトボールの計7試合が開催された、(3)選手村で福島県産の農産物が活用された――ことをあげ、「これらが『復興五輪』の一つの形につながっていると思う」とした。一方で、「深刻な影」として、(1)聖火リレースタート直前の開催延期決定、(2)無観客での競技開催、(3)根強く残る風評被害――を指摘。特に、今回のオリンピックが無観客開催となったことに関し、内堀知事は、「『復興五輪』の重要な部分は、世界各国からの観客・報道陣が福島の地に来て、見て、感じてもらうことだ」と強調し、「一番根幹の部分が失われてしまった」と、無念の意をあらわにした。また、福島県産の農産物・花きに対する誤解・偏見に基づく風評が一部にみられたことを振り返り、「福島第一原子力発電所事故発生から10年5か月が経過したが、今なお根強く風評被害が続いている」とし、県産品の輸入規制を講じている国々の温度差に言及しながら「愚直に粘り強く事実を訴え続け、この状況を変えていかねばならない」と強調。内堀知事は、ソフトボール金メダリストの上野由岐子選手の言葉「あきらめなければ夢はかなう」を紹介。続くパラリンピアンの活躍に期待するとともに、「福島へのエール、『復興五輪』のレガシー」と受け止め、引き続き途上にある福島の復興、今回のオリンピックでなし得なかったインバウンドの集客にも取り組んでいく考えを述べた。
- 11 Aug 2021
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福島第一処理水で政府WGが茨城県で開催
福島第一原子力発電所で発生する処理水の取扱いに関する基本方針決定を受けた関係閣僚会議下のワーキンググループ(座長=江島潔経済産業副大臣)の第3回会合が6月25日、茨城県水戸市で行われた。5月31日の福島県、6月7日の宮城県での開催に引き続き、地元自治体・産業団体代表らより意見を聴取。経産省、復興庁、農林水産省、環境省、東京電力が対応策などについて回答した。〈配布資料は こちら〉茨城県・大井川知事今回の会合に出席した茨城県の大井川和彦知事は、政府による行動計画の策定に関し、「漁業関係者などの声をしっかりと受け止めた上で、具体的かつ効果的な対策を明確に打ち出し国民の理解を得ていくこと」と要望。その上で、処理水の取扱いに係る今後の対応について、(1)関係者に対する説明と理解、(2)国内外への情報発信、(3)海洋放出設備に係る安全対策の徹底、(4)万全な風評被害対策、(5)風評被害が生じた場合の政府が前面に立った損害賠償、(6)茨城県沖のモニタリングの強化、(7)国際社会の理解醸成、(8)東京電力の指導・監督――を求めた。茨城沿海地区漁業協同組合連合会会長の飛田正美氏、茨城県水産加工業協同組合連合会会長の髙木安四郎氏は、いずれも「海洋放出に反対」との立場を明示。飛田氏は漁師の後継者問題を、髙木氏は水産物加工品の新製品開発・販路拡大に及ぼす影響をそれぞれ懸念し、具体的・長期的な風評被害への対応策を求めた。情報発信に関しては、茨城県商工会議所連合会会長の大久保博之氏が、消費者の声を踏まえ女性の視点から見たわかりやすい説明の重要性を強調したほか、地元への風評被害相談窓口の設置を要望。この他、農業、ホテル・旅館業の関連団体も意見を陳述し、1999年に東海村で発生したJCO臨界事故の経験から「風評被害にさらされるのはこれで2度目」といった声もあがった。県内自治体からは漁港・海水浴場を有する大洗町の國井豊町長らが出席。同氏はマスコミの報道姿勢やSNSを通じた流言飛語を危惧し、「まずは今ある風評被害をしっかり解決すべき」と訴えた。茨城県産の水産物に関し、政府関係からは、葉梨康弘農水副大臣が自身の衆議院議員選挙区内に位置する霞ヶ浦の天然ナマズが最近出荷解禁となったことを紹介。江島副大臣は前職で市長を務めていた山口県下関市の名産でもあるアンコウを例に「日本の財産の一つ」と称え、それぞれ支援を惜しまない姿勢を示した。WGによるヒアリングなどを踏まえた対応すべき課題や必要な対策は関係閣僚会議に報告され、今夏の中間とりまとめ、年内を目途とする中長期的行動計画策定に資することとなる。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
- 25 Jun 2021
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原子力学会、福島第一処理水に関しオンラインセミナー開催
原子力学会・中島会長(原子力学会ホームページより引用)日本原子力学会は6月12日、福島第一原子力発電所で発生する処理水の取扱いに関するオンラインセミナーを開催した。4月に「海洋放出を選択する」との政府による基本方針が決定されたのを受け、同学会は6月7日、「廃炉の円滑な遂行と地元産業の再生・コミュニティの復興」の総合的推進を妨げない考えから、科学的・技術的に実行可能でリスクの少ない選択肢として、できるだけ速やかな実施を提言する見解を発表。今回のセミナーは、見解を踏まえ、福島復興・廃炉推進に向けた36学協会連携の連絡会「ANFURD」との共催で行われたもの。処理水中のトリチウム濃度希釈のイメージ(資源エネルギー庁発表資料より引用)処理水の取扱いに関する政府の基本方針については、資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室長の奥田修司氏が説明を行った。これを受け、原子力学会会長の中島健氏は、2年後を目途に開始される海洋放出に関し、処理水中に含まれるトリチウムの希釈濃度(WHO飲料水基準の約7分の1)と管理目標値(年間22兆ベクレル)を踏まえ、「完了まで40年程度はかかる」見通しから、今後の廃炉戦略構築に向けて課題となることを示唆。「ANFURD」では放射線被ばく・健康影響に係るリスクコミュニケーションなど、情報発信活動に取り組んでいるが、同氏は、地域社会の理解・合意形成の重要性を改めて強調する一方で、「風評被害について発信すること自体が却って風評被害の発端となっているのでは」とも懸念した。その上で、アカデミアの立場から、今後も原子力・放射線分野だけに留まらず、社会科学の専門家からも知見を受けるとともに、海外の学会とも連携しながら国・東京電力の取組を支援していく考えを述べた。また、トリチウムの海洋拡散予測について、日本原子力研究開発機構システム計算科学センター副センター長の町田昌彦氏が研究成果を説明した。数理科学が専門の同氏は、自然発生、核実験、原子力施設に由来するトリチウムの沿岸/沖合での存在量を「ボロノイ分割法」と呼ばれる手法で調査・分析した評価結果を披露。同氏は、海洋放出の管理目標値(年間22兆ベクレル)は、調査で設定した一定のエリアの沖合における平均存在量(250兆ベクレル)の11分の1に過ぎず、「放出による福島沖合への影響は僅か」であることを説いた。加えて、過去には核実験に伴いトリチウムの存在量が基本方針に示す管理目標値を遥かに上回る時期もあったとしている。風評被害対策については、社会学の立場から筑波大学社会学類准教授の五十嵐泰正氏が調査データや取材経験に基づき問題点を指摘した。同氏はまず、消費者庁が毎年実施する「風評被害に関する消費者意識の実態調査」結果を示し、福島県産品への忌避傾向が年々下がっている状況下、出荷制限体制・検査実施に係る認知度が最近1年間で大きく下落しているとして、「コロナの影響もあるが関心低下が極めて顕著に進んでおり、科学的な説明・啓発も時期を追うごとに効果が限定的になる」などと懸念。さらに、他の調査結果から、処理水が海洋放出された場合の福島県産海産物に対する購入の忌避傾向に関し、「2018年時点の2倍以下で、事故直後よりは低い」とした上で、いわゆる「買い控え」が長期化・固定化する市場的要因として、(1)取引順位の低下(代替産地の台頭)、(2)流通のスイッチングコスト(仕入産地を変える際のバイヤー交渉)、(3)関連業者の廃業、(4)過剰な忖度(取引先・贈答先に対するネガティブ評価)――をあげた。流通量が低迷する懸念に関しては、都内大手スーパーによる福島県産品販売促進イベントでの「売れ行きは良好でリピーターも多いが、十分な供給量がなく安定して売り場を作れず、取組店舗を増やせない」といった現場の声を例示。五十嵐氏は、「販路を絶対に閉ざさない」覚悟で、適切な供給量を維持し消費者に近いところからコミュニケーション促進を図っていく必要性を強調した。
- 16 Jun 2021
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福島第一処理水に関する政府WGが宮城県で開催
福島第一原子力発電所で発生する処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向け、関係閣僚会議のもとに置かれたワーキンググループが6月7日、宮城県内(県庁)で第2回会合を開催。同WGは5月31日に福島県内で初会合が行われたが、今回は、宮城県設置の処理水取扱いに関する連携会議との併催として、村井嘉浩知事(連携会議座長)他、同連携会議を構成する県産業団体・自治体関係者が意見を述べ、WG座長の江島潔経済産業副大臣らが質疑に応じた。宮城県・村井知事開会に際し挨拶に立った村井知事は、「インフラ復旧などのハード面については多くの被災地で取組が完了した一方で、被災者への心のケアや移転先でのコミュニティ形成の問題、産業の再生支援など、ソフト面については今後も中長期的な取組が必要となっている」と、東日本大震災発生から10年を経過した県内復興・再生の現状を概括。その上で、処理水の海洋放出に関し、「震災から立ち直りつつある本県の水産業を始め、多くの産業に多大な影響をもたらすもの」などと懸念を述べ、地元の意見を十分に受け止めるよう要望した。宮城県水産林政部長の佐藤靖氏は、県水産業界としての「海洋放出には反対」とする大勢の意見とともに、他の処理水処分方策の再検討、今後の風評抑制・賠償に係る具体策の提示、諸外国による輸入規制の撤廃に向けた働きかけなど、国や東京電力に対する要望事項を説明。宮城県水産物流通対策協・布施副会長県漁業協同組合代表理事組合長の寺沢春彦氏は、ホヤの輸入規制継続など、水産物への風評が根強く残る現状から、「放出するのであれば禁輸措置の解除まで待つなど、目標を定め強い信念をもった対応を求める」と訴え、県水産物流通対策協議会副会長の布施三郎氏は、トリチウム除去技術の実用化の見通しについて尋ねたほか、若手水産業者からも意見を聴取するよう求めた。江島経産副大臣これに対し、江島経産副大臣は、水産行政に対する思い入れを国政入りする前の山口県下関市長在任時に抱いたとし、ホヤ漁の乗船体験にも触れた上で、「宮城県の漁業が次世代に継承されるよう支援していく」と強調。トリチウム除去については、「専門家による評価から現時点で実用化できる方法は確立していないとの結論に至ったが、常に方針を見直せる体制をとっている」と、引き続き技術動向を注視していくものと説明した。また、観光産業の立場から県ホテル旅館生活衛生同業組合理事長の佐藤勘三郎氏はまず、昨今の新型コロナウイルス拡大に伴う集客の急激な落ち込みを踏まえ、2年後目途の海洋放出開始時期におけるホテル・旅館の経営状況に悲観的な見方を示した。その上で、処理水の処分方策に係るこれまでの説明を振り返り、「会話になっておらず、これでは絶対に風評被害はなくならない。まず信頼感を熟成すべき」と厳しく指摘。トリチウムの自然界への排出に係る情報発信に関し、県議会副議長の外崎浩子氏は、「宮城県は水産業を生業としている。『他国でも行われているから問題ない』という説明は、どこでも通用するものではない」などと述べ、慎重な対応を求めた。さらに、県市長会副会長で気仙沼市長の菅原茂氏は、現在放映中の同市を舞台とした連続ドラマ「おかえりモネ」に描かれる地元漁港のシーンをあげ、「被災地の漁業者たちは復興に向けた手応えを感じつつある」とした上で、国・東京電力に対し最大限の風評被害対策を切望。東京電力・髙原福島復興本社代表横山信一復興副大臣は、国際機関や地元とも連携した正確かつ臨機応変な情報発信の重要性を強調し、SNSやインフルエンサーも活用した「プッシュ型」の取組を進めていく考えを述べた。茨城県選出の衆議院議員である葉梨康弘農林水産副大臣はまず、最近の霞ヶ浦産天然ナマズの出荷解禁を紹介。農水産物の輸入規制撤廃に向け、農水省に7月に新設される「輸出・国際局」を通じ取り組んでいくとした。オブザーバーとして出席した東京電力福島復興本社代表の髙原一嘉氏は、「事故の当事者としての責任を自覚し、信頼回復に全力を挙げて取り組んでいく」との決意を示した上で、処理水の安全性に関する国内外への情報発信や風評影響の抑制に努めていく考えを述べた。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
- 08 Jun 2021
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福島第一処理水の処分で政府WGが初会合、地元関係者より意見を聴取
福島第一原子力発電所で発生する処理水の処分に向けた政府による基本方針決定を受け、風評被害対策などの諸課題について整理するワーキンググループが5月31日、福島県内2か所(福島市、いわき市)で初会合を行い、鈴木正晃副知事他、地元の産業団体より意見を聴取した。基本方針では、処分方法として「海洋放出を選択」、東京電力に対し「2年程度後を目途に福島第一原子力発電所の敷地から放出するための準備を求める」とした上で、風評被害対策については、政府が前面に立ち一丸となって、(1)国民・国際社会の理解の醸成、(2)生産・加工・流通・消費対策、(3)損害賠償――に取り組むとされている。同基本方針の着実な実行に向け、関係閣僚会議が新たに設置されたが、同WGでは今後他県でもヒアリングを実施し、調査・議論の結果を取りまとめた上、同会議が年内を目途に策定する中長期的な「行動計画」に資する運び。江島経産副大臣初会合には、WG座長を務める江島潔経済産業副大臣の他、政府関係者として、横山信一復興副大臣、葉梨康弘農林水産副大臣、神谷昇環境大臣政務官ら、東京電力からは小野明・福島第一廃炉推進カンパニープレジデントらが出席。開催に当たり、江島副大臣は、「現場の生の声を一つ一つ受け止め、関係省庁がそれぞれの課題に取り組むことを通じ、次に講ずべき対策に反映させていきたい」と述べた。鈴木福島県副知事福島市内の会場では、まず鈴木副知事が意見陳述に立ち、処理水処分の基本方針決定に関し、「県民の間にはこれまで10年にわたり積み重ねてきた復興や風評払拭に向けた努力の成果が水泡に帰する不安感が増大している」と、懸念を表明。その上で、風評被害対策について、「回復傾向にあった農林水産業の県産品価格や担い手に再度下落・減少が生じないよう、観光誘客に影響が及ばないよう、将来にわたり安心して事業を継続できるよう、県全域を対象とした具体的な対策を被害が顕在化する前に講じてもらいたい」と切望した。この他、福島県商工会議所連合会、福島県農業協同組合中央会、福島県水産市場連合会、福島県旅行業協会が意見を陳述。各者ともそれぞれの立場から風評被害対策の拡充を要望・提案したが、県水産市場連会長の石本朗氏は、卸売業者として「世界一の安全・安心」を自負しつつも県産水産物が置かれた厳しい流通状況を訴え、「一番の問題は『消費者の心』の部分にある」と、風評の本質に対する十分な理解を国に求めた。野﨑福島県漁連会長WG会場はいわき市内に移り、続いて福島県漁業協同組合連合会会長の野﨑哲氏、福島県水産加工業連合会代表の小野利仁氏より意見を聴取。両氏とも処理水の海洋放出に反対の立場を明示した上で、野﨑氏は今回の基本方針決定に至ったプロセスに関し「何とも割り切れないものがある」と疑問を呈したほか、小野氏は最近のクロソイからの放射性物質検出を受けた消費者への問合せ対応を振り返り、情報発信の工夫とともに、「信なくば立たず」として根底に信頼関係が必要なことなどを訴えた。福島県の漁業再生に関し、葉梨農水副大臣は、2020年の沿岸漁業・海面養殖業の水揚量が2010年比の18%にも満たない現状をあげ、「大変深刻。本格的な回復・再生に向けもっと力を入れていかねばならない」と強調。横山復興副大臣は、福島県産品に係る理解活動の一例として、1月に開催された県産魚介類「常磐もの」を使った全国オンライン料理教室を紹介するなどした。地元産業団体からは、風評被害対策の他、廃炉人材の確保に向け原子力教育の充実化を求める意見、最近の東京電力における核セキュリティ上の疑義に対する危惧の声もあがるとともに、漁業・水産加工業の後継者問題に関する質疑応答もあった。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
- 01 Jun 2021
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消費者庁、食品中の放射性物質に関しオンライン意見交換会
消費者庁はこのほど食品中の放射性物質に関する意見交換会を開催。食品に関するリスクコミュニケーションの一環として、消費者庁が食品安全委員会、厚生労働省、農林水産省と連携し全国主要都市で行ってきたもので、今回は感染症拡大防止に鑑み、ウェブサイトで収録動画を公開し、一般からの質問・意見を受け付ける格好となっている(質問・意見の受付は3月7日まで、収録動画の公開は3月31日までを予定)。〈動画および質問・意見の応募は こちら〉意見交換会ではまず、放射性物質の基礎知識、食品中の放射性物質に係る対策と現状について説明。厚労省と農水省によると、福島第一原子力発電所事故後17都県を中心とする地方自治体で行われてきた食品中の放射性物質に関する検査で、2019年度に基準値(100ベクレル/kg)を超えたものは、栽培・飼養管理が可能な田畑・果樹園の農産物(山菜類を除く)・畜肉と海産魚介類についてはゼロとなっている。一方、消費者庁が2012年度より実施している風評被害に関する消費者意識実態調査の結果で、2020年度は、放射性物質を理由に福島県産品の購入をためらう人の割合はこれまでで最小となった。また、買物をする際に食品の産地を「気にする」または「どちらかといえば気にする」と回答した人のうち、「放射性物質の含まれていない食品を買いたいから」と回答した人の割合は減少傾向にあるものの、前年と同程度の14.1%だった。続くパネルディスカッションでは、フリージャーナリストの葛西賀子氏(コーディネーター)が、こうした根強く残る被災地産食品を忌避する傾向について問題提起。これに対し、消費者の立場から、コープデリ生活協同組合連合会サービス管理部長の篠崎清美氏は、「避けるというよりは、漠然とした不安があるのでは」として、行政機関などによるわかりやすい情報発信を改めて求めるとともに、「生産者と消費者の相互理解が安心して食べることにつながっていくのでは」とも指摘。いわき市で農業を営むファーム白石代表の白石長利氏は、自身を「農家と消費者を結ぶ『畑の仲人』」と称し、「安心・安全はもとよりいかに美味しいものを作るか。生の福島の声を野菜と一緒に届けていきたい」と、生産者としての使命感を強調。流通事業者の立場から、「うまいもんドットコム」などの食品通販サイトを運営する(株)食文化取締役の井上真一氏は、昨今のステイホームの流れにより食品通販の利用者が増えつつあるとする一方、家庭での食事に加工品が多くなりがちなことを懸念し、「食材そのものの魅力を発信したい」と、販路拡大に意欲を燃やす。ディスカッションの結びで、産業医科大学産業保健学部長の欅田尚樹氏は、「この1年間はコロナという新しいものに対する不安が続いてきたが、おうち時間の充実など、色々な工夫がなされてきた」とした上で、福島第一原子力発電所事故後の食品安全についても同様に、前例のない困難に対し検査体制の構築や生産段階での管理など、様々な取組があったことを忘れぬよう訴えている。
- 04 Mar 2021
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政府の廃炉・汚染水対策チーム会合、福島第一の処理水取扱いで意見を整理
福島第一原子力発電所に係る政府の廃炉・汚染水対策チーム会合(チーム長=梶山弘志経済産業大臣)が10月23日、総理官邸で行われた。汚染水を浄化する多核種除去設備(ALPS)で取り除くことのできないトリチウムを含んだ、いわゆるALPS処理水の取扱いが課題となっている。ALPS処理水の取扱いに関しては、資源エネルギー庁の小委員会が2月に「制度面や技術面から、現実的と考えられるのは、海洋放出か水蒸気放出」とする報告書を取りまとめ、政府による方針決定に向けて関係者との意見交換、パブリックコメント、説明会が行われていた。同チーム会合では、経産相以下、関係省庁の副大臣、原子力規制委員会委員長他、日本原子力研究開発機構、原子力損害賠償・廃炉等支援機構、東京電力が出席のもと、これまでに寄せられた意見を整理した。4~10月に計7回にわたり開催された意見交換では、自治体・議会・町村会や、住民団体、経済、農林水産業、観光業、流通、消費者の各関連団体、計29団体・43名が公開の場で意見を表明。4~7月に実施されたパブリックコメントで寄せられた計約4,000件の意見を分類したところ、処理水の安全性への懸念で約2,700件、処分方法や分離技術開発の提案で約2,000件、風評影響・復興の遅延への懸念で約1,000件の他、「国民の合意がとれていない、時間をかけるべき」、海洋放出の方向性に関し「結論ありきの議論」、「国際社会から批判を受ける可能性がある」といった合意プロセスへの懸念も約1,400件に上ったという。梶山経産相は、チーム会合終了後の記者会見で、「いただいた意見に最大限対応することを前提にALPS処理水の取扱いを検討していく」と、今後の方向性を示し、「安全基準の厳格な遵守」を第一とし、関係各省に対して、意見を真摯に受け止め、風評被害の最大限の抑制、国内外に対する科学的根拠に基づいた正確な情報提供に努めるよう要請したと述べた。また、「27日にも政府方針を決定する」との一部報道に関しては、「具体的なタイミングを伝える段階にはない」と否定し、チーム会合での議論を踏まえ、「関係省庁で検討を深めた上で政府として責任を持って結論を出す」とした。
- 23 Oct 2020
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首都圏に福島の美味しさを届ける「常磐ものフェア2020」、今日から開催
首都圏を対象に福島県産水産物の美味しさを広くPRし販路・消費の拡大を図る「ふくしま常磐ものフェア2020」が10月15日に始まった。「福島の漁業関係者の熱い想いをより多くの人に届ける」というコンセプトのもと、日本有数の漁業とされる福島県沖「潮目の海」で獲れるヒラメ、メヒカリ、サワラ、スズキ、ホッキ貝など、「常磐もの」を使ったオリジナルメニューを首都圏の飲食店で提供するもの。12月23日までの開催期間中、約150店舗が参加。レストラン検索・予約サイト「食べログ」にも特設サイトが開設される。〈参加店舗は こちら を参照〉今回のフェアでは、ウェブサイトを通じた生鮮食品流通を手掛けるベンチャー企業のフーディソンが11月25日までを担当。2週間ごとのタームに分けられ、フェアに参加する各ターム25店舗、3タームで計75店舗が同社の仕入サービスサイト「魚ポチ」を通じて「常磐もの」を仕入れ調理する。第1タームには、都内に飲食店を展開する(株)ジリオンの「酒場シナトラ」、「大衆ビストロジル」など、計12店舗がこぞって参加。「酒場シナトラ豊洲店」(江東区)では、日本酒・焼酎とともに、ホッキバター焼きなど、期間限定メニューが味わえる。同じく第1タームに参加するイタリアンレストラン「オステリア イル レオーネ」(新宿区)では、ホッキ貝のパスタやメヒカリのインサオールを提供。同店シェフは「福島の新鮮で味のよい水産物を使った料理で皆様の笑顔が見られることを楽しみにしている」と、期待を寄せている。同フェアは昨秋に続き2年目となるが、前回も福島県や福島県漁業協同組合連合会とタイアップし開催を支えたフーディソンによると、参加した飲食店からは、「お客様が福島の今を知ったときの反応がよかった」、「今まで福島の魚を使ったことがなかったが、今回のフェアを通じて料理人や店舗スタッフの知識も増えた」といった声もあったという。また、フェア終了後も8割以上が福島県産水産物の仕入れの継続を希望するとしており、今回フェアの開催に際し、福島漁連の野﨑哲会長は、「どれも鮮度、味もよく自信を持ってお薦めする」と、「常磐もの」のPRに意気込みを見せている。
- 15 Oct 2020
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エネ庁、福島第一処理水の取扱いで全漁連他より意見聴取
資源エネルギー庁は10月8日、福島第一原子力発電所で発生する処理水の取扱いに係る関係者からの意見聴取を都内で行った。2月に「現実的な方法は海洋放出および大気放出」とする委員会報告書が取りまとめられてから7回目の開催。今回は、福島県水産加工業連合会(Web会議で参加)と全国漁業協同組合連合会が意見を述べた。福島県水産加工業連合会代表の小野利仁氏は、まず定価販売ではなく市場でのせりや入札で価格が決まる業界特有の「自分で値段を決められない」システムがあることを述べた上で、漁場を巡る隣県とのあつれき、冷凍業者への依存、昨今の新型コロナウイルス騒動による消費低迷など、県内水産業の置かれた厳しい現状を憂慮。同氏は、いわき市の郷土料理とされるさんま味りん干しの製造に携わっており、「食材は北海道産でも、加工は福島というだけで忌避される」と、水産物への根強い風評被害が生じていることから、処理水の取扱いに関し「特に海洋放出に関しては断固反対」と主張した。全国漁業協同組合連合会会長の岸宏氏も、「諸外国にも影響を与える極めて重要な問題」として反対意見を強調。同氏は、「風評被害の発生は必至で極めて甚大。これまでの漁業者の努力が水泡に帰すとともに、失望、挫折を引き起こし、わが国の漁業の将来に壊滅的影響を及ぼす」と、処理水放出への懸念を示し、「安心できる情報提供が第一。新たな風評被害を起こさないこと」などと、今後の取扱いに向けて慎重な判断が必要なことを訴えた。福島第一原子力発電所の処理水を貯蔵するタンクは2022年夏頃に満杯となる見込みだが、梶山弘志経済産業相は、9日の閣議後記者会見で、政府としての処理水の取扱い方針決定に向けて、「これまでに寄せられた意見をできるだけ早急に整理し、関係省庁と検討を深めた上で結論を出したい」と述べた。
- 09 Oct 2020
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エネ庁、福島第一原子力発電所処理水の取扱いで日商他より意見聴取
資源エネルギー庁は9月9日、福島第一原子力発電所で発生する処理水について、政府としての取扱い方針を決定するための「関係者のご意見を伺う場」を都内で行った。2月の委員会報告を踏まえたもので、4月の初回開催から6回目となる。今回は、日本商工会議所、千葉県、宮城県(WEB会議システムにて参加)、茨城県(同)が意見を表明。処理水の取扱い決定に関し、丁寧な情報発信・説明と風評被害対策の拡充を訴えた。日本商工会議所の久貝卓常務理事は、処理水の放出に関し、「いまだ払拭されていない風評被害がさらに上乗せされる」といった地元商工会議所の意見、韓国を始めとする輸入規制の継続も受け、特に水産業では震災前の水準と比較し売上が激減している現状から「本当に困る。われわれを殺す気か」との切実な声も出ていることをあげ、経済的補償スキームを国が明確に示すべきと要望。千葉県の滝川伸輔副知事は、昨秋の大型台風に伴う被害にも触れ、潮干狩場や観光農園・直売場などの来客減、年間水揚量が全国1位とされる銚子漁港を有する銚子市から「地域経済全体に影響を及ぼさないよう対応を求める」との要望書が提出されたことなど、観光業も含めた風評影響に懸念を示した。宮城県の遠藤信哉副知事は、「沿岸では津波による被害を受け、基幹産業の復旧・復興、生活・生業の再建におよそ10年を要した」と、茨城県の大井川和彦知事は「福島県の漁業者とは福島第一原子力発電所事故以前、お互いの海域に入りながら漁を行っていたが、今も中断されている」などと、地元水産業が置かれた厳しい現状とともに、魚介類の検査体制や販路拡大の取組について説明。大井川知事は、処理水の取扱いに関し「現実的な方法は海洋放出および水蒸気放出」とした委員会報告について、「結論ありきの取りまとめのように見えてならない」と指摘し、「地域社会や環境に対しより影響の出ない方法は本当にないのか」も含め、既定路線にとらわれずに議論した上で、具体的な説明がなされる必要性を訴えた。
- 10 Sep 2020
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エネ庁、福島第一原子力発電所処理水の取扱いで県議会議長他より意見聴取
資源エネルギー庁は7月17日、福島第一原子力発電所で発生する処理水の取扱いに関する「関係者のご意見を伺う場」を福島市内で開催した。2月に取りまとめられた委員会報告を受け、政府としての取扱い方針決定に資するため4月以降行われているもので、5回目となる。今回は、福島県議会、福島県青果市場連合会、福島県水産市場連合会他より意見を聴取。福島県議会の太田光秋議長は、昨今の新型コロナウイルス感染症拡大に伴う外食産業の営業自粛やイベントの中止により生じた農林水産業・観光業への影響を、被災地として「より深刻なもの」と憂慮。処理水の取扱いに関し、県内市町村議会による海洋放出に反対する決議などを踏まえ、「国民の理解は十分に得られていない」として、(1)風評対策の拡充・強化、(2)幅広い関係者からの意見聴取と様々な観点からの検討、(3)取扱い方針を決定するまでのプロセス公開と丁寧な説明――を要望した。また、福島県青果市場連合会の佐藤洋一会長、福島県水産市場連合会の石本朗会長は、生産・出荷者と小売業の中間に位置する立場から、それぞれ「山菜・きのこ類(野生)が痛手を負っている」、「試験操業から脱せず苦しい思い」と、農産物の出荷制限や水揚量回復の遅れなど、実質的被害が継続している現状を訴えた。県漁業協同組合連合会との協調姿勢から、石本氏は「早急な海の回復が望まれる」と強調した上で、処理水の取扱い決定に際しては慎重を期するよう切望。川俣町在住の菅野氏、トリチウム分離技術の確立や全国レベルでの風評対策を強調(インターネット中継)この他、「福島原子力発電所の廃炉に関する安全確保県民会議」から4名が意見を述べた。その中で、川俣町在住の菅野良弘氏は、福島第一原子力発電所の汚染水を浄化する多核種除去設備(ALPS)では取り除けないトリチウムを巡る課題に関し、「分離技術が確立するまで保管の継続を」と述べ、委員会報告で処理水取扱いの現実的な方法の一つにあげられている海洋放出には反対する考えを表明。また、同氏は、風評被害対策に関し「今海洋放出を行ったらこれまでの努力が水泡に帰す。これは、福島県民皆が持っている不安」とした上で、長期的観点からわが国全体の問題として考える必要性を訴えた。資源エネルギー庁は、福島第一原子力発電所で発生する処理水の取扱いに関する意見募集を、7月31日にまで延長し実施している。
- 20 Jul 2020
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福島県が新作CMで旬の果物・野菜や魚介類をPR
福島県は7月15日より、県クリエイティブディレクター・箭内道彦氏監修、アイドルグループのTOKIOの出演による新作CMを通じ、旬を迎える県産の果物・野菜や魚介類の魅力を発信する。 このほど制作されたCMは、「桃篇」(城島茂さん出演)、「夏野菜篇」(国分太一さん出演)、「カツオ篇」(松岡昌宏さん出演)の3編あり、県内の他、首都圏、関西などでも放映予定。「桃篇」では城島さんと農家の人たちが桃をまるかじり。福島の子供たちも登場する「夏野菜篇」では、縁側で涼む国分さんが氷水で冷やしたきゅうり、トマトのおいしさをPR。「カツオ篇」では、松岡さんがしょうがをすりおろし、カツオの刺身を食べるが、盛り付け方法やおいしさの秘訣は県産農林水産物のPR特設サイト「ふくしまプライド。」でも紹介されている。福島県の内堀雅雄知事は7月13日の定例記者会見で、新作CMの見どころとして、「生産者の皆さんとTOKIOの皆さんの素敵な笑顔」、「ベコ太郎(郷土玩具赤べこをモチーフしたキャラクター)と『んだんだ』のリズム」、「正に今、旬を迎えた県産の農林水産物」を強調。これまでも国内外で食品や観光のトップセールスを積極的に行ってきた内堀知事は、震災から9年余りを振り返り「ハード面での復興は間違いなく前に進んできたが、風評の問題はやはり根強い」として、今後も県産農林水産物の品質の高さをアピールしていく考えを示した。
- 13 Jul 2020
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