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原産協会・新井理事長 「産業界の責務果たす」
原産協会の新井史朗理事長は1月27日、定例記者会見を行い、昨年末、政府が示した「GX実現に向けた基本方針」について、「非常に意義深い」と述べた。加えて、原子力の最大限活用を記載した同方針を支持するとともに、法制化などにより将来にわたってこれが維持・継続することを要望。次世代革新炉の開発・建設についても支持し、産業界からの投資を促す観点から、政府による支援、制度措置など、事業環境整備の早期具体化を要望した。〈関連の理事長メッセージは こちら〉2023年の原産協会の取組として、新井理事長は、原子力に対する理解促進福島復興支援人材確保・人材育成国際協力――の4点を列挙。「原子力発電の最大限活用には、原子力の優位性や、原子燃料サイクルの重要性、事業者の安全性追及への取組などについて、多くの方々に知ってもらうことが肝要」と、述べた上で、原子力が持つ価値の発信に取り組むとともに、立地地域との対話を通じて、理解活動に取り組んでいくことを強調した。福島復興支援に向けては、福島第一原子力発電所の廃炉作業の進捗、処理水の海洋放出などに対し、理解を深めてもらうよう、福島に関する情報発信、現地視察の実施、福島物産の紹介や販売協力を通じた情報提供提供に取り組むとしている。人材確保・人材育成については、企業説明会などを通じて、原子力が夢とやりがいのある魅力的な産業であることを、若い世代に知ってもらうとともに、産業界の原子力人材の確保を支援。「原子力人材育成ネットワーク」((産業界、学術界、地方自治体、行政庁からなる国内外の人材育成のプラットフォーム))を通じ、効率的、効果的、戦略的に人材育成の取組を進めていくとした。国際協力については、「高い技術と品質で定評のあるわが国の企業が海外のプロジェクトに参加できれば、技術力の維持・強化とともに、世界の原子力発電所の安全性向上に寄与できる」と述べ、わが国の原子力産業振興の一助となる情報発信やビジネス交流を行っていくとした。
- 30 Jan 2023
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「原産シンポジウム」開催 福島県立医大・坪倉氏が講演
原産協会は1月19日、日本工業倶楽部(東京・千代田区)で「原産シンポジウム」を開催。今回は、福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授の坪倉正治氏が「放射線の健康影響の基礎知識と原発事故後の健康課題」と題して講演を行うセミナー形式となり、会員企業・組織から約60名が参集した。坪倉氏は、もともと東京で血液内科医として医療に従事していたが、東日本大震災後は、福島県の相馬中央病院と南相馬市立総合病院を往復しながら、通常の診療に加え、ホールボディカウンターを用いた内部被ばく検査や住民への放射線影響に関する説明会など、被災地支援に取り組んできた。講演の中で、同氏は、発災後のおよそ12年間を振り返り、「どのような健康課題に住民は直面してきたか」を時系列的に整理。特に、避難後、施設に入所していた高齢者の死亡リスクが急増したことに関し、南相馬市内5施設の集計から「避難後3か月間以内で、実に25%の方々が亡くなった。これはすさまじい数だ」と指摘。仮設住宅への移住に伴うメンタル面・地域コミュニティの問題を始め、生活習慣病の増加、かかりつけ医との疎遠・がん検診の希薄化などを要因に掲げ、医療従事者の立場から「避難中に亡くなられる災害関連死を忘れてはならない」と強調した。発災から数年以降に関しては、介護サービスに係る地域間格差の他、偏見・デマの影響など、社会環境の変化に伴う要因にも言及。総じて、「健康問題を個人の意思や行動の帰結として捉えるのではなく、社会や周辺環境によって規定されている、と考えることが重要」と訴えかけた。さらに、福島第一原子力発電所事故に伴う放射線被ばくによる健康影響については、「リスク的にはゼロとはいえないが、健康問題をトータルでみた場合、中心となる放射線被ばくよりも、周辺の影響の方が爆発的に大きい」と強調。これまでにみられた被災地住民の健康状態悪化・回復のジグザグ傾向に関し、「半年から1年のタームで様々な環境変化が繰り返されてきた」ことを要因としてあげた上で、現状の行政支援システムから、避難指示解除以降の「戻りたくても戻れない人へのケア」の手薄さに懸念を示した。坪倉氏は、放射線の健康影響の基礎知識や福島県民の健康調査についても概説。同氏は、地元の学校に赴き生徒・教員に対し放射線に関する講義を行うなど、次世代層への普及・啓発に努めているが、「最近では震災を知らない子供たちが増えてきた。まず『なぜ学ぶのか』から説明しないといけない」と、課題をあげた上で、環境省が開設し若手中心で放射線の正確な情報発信に取り組む「ぐぐるプロジェクト」を課題解決に向けた一例として紹介した。福島第一原子力発電所事故による放射線影響の評価について、坪倉氏は、UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の2020年報告書(2021年3月公表)を紹介。同報告書の主な結論として、「放射線被ばくが直接原因となるような将来的な健康影響はみられそうにない」ことなどをあげた。UNSCEARは科学的・中立的な立場から放射線の人・環境への影響調査・評価などを行う国際機関で、昨夏、2020年報告書の日本政府への手交のため来日した同組織のギリアン・ハース前議長は、取りまとめに当たった者として、「この報告書がもたらす主たる結論は堅固なもので、見通しうる将来に向け大きく変わるものではない」と、普遍性を強調している。
- 25 Jan 2023
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原子力新年の集い 今井会長「原子力を積極活用すべき」と
「原子力新年の集い」(原産協会主催)が1月6日、東京プリンスホテル(東京・港区)で開催され、会員企業・組織、国会議員、駐日大使館関係者ら、約500名が参集し、新しい年の幕開けを祝し親睦を深めた。年頭挨拶に立った原産協会の今井敬会長は、昨今の化石資源への投資低迷や新型コロナによる経済停滞からの回復に伴うエネルギー需給のひっ迫・価格高騰に加え、2022年2月からのウクライナ情勢がこの傾向にさらに拍車をかけたとして、「安定したエネルギー供給が各国の喫緊の課題となっている」と強調。「カーボンニュートラル」達成のためにも、「原子力を積極活用すべきであることは、国際的にはもやは論を俟たない段階にあり、これはわが国も同様」と述べた。2022年の国内における原子力政策の動きに関しては、「『GX実行会議』において、政府が主導となり、ようやく新たな一歩を踏み出せた」と高く評価。「今後、法制化などの国による環境整備が行われることを強く期待する」とした。また、今春開始予定の福島第一原子力発電所のALPS処理水((トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水))の海洋放出に関しては、関係者に対し「確実な工事の遂行と、引き続きの理解活動の推進」を要望。しゅん工時期が延期となった六ヶ所再処理工場については、「確実なしゅん工に向け、関係者の総力を結集して対応してもらいたい」と期待を寄せた。続いて来賓挨拶に立った中谷真一・経済産業副大臣は、「わが国には原子力に関して世界に誇る優れた技術・人材、強固なサプライチェーンが存在するが、福島第一原子力発電所事故以降、具体的な建設が進まなかったこともあり、こうした強みが失われつつある」と憂慮。官民連携による海外プロジェクト参画の構想にも言及した上で、特に将来の人材育成について、政府として支援を図る考えを示すとともに、原子力産業界に対してもより注力するよう求めた。電気事業連合会の池辺和弘会長は、2023年初頭に際し、「日本のエネルギーを安定的に供給するシステムを再構築し実行に移す年になる」と展望。事業者として、「わが国のエネルギー安定供給と『2050年カーボンニュートラル』実現のため、様々な課題に挑戦し、社会の発展と変革に貢献していく」と抱負を述べた。一同は、島田太郎副会長(東芝社長)の音頭で祝杯を上げた。
- 06 Jan 2023
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日韓原子力専門家会合 3年ぶりに対面開催
日本原子力産業協会(JAIF)と韓国原子力産業協会(KAIF)との共催による「日韓原子力専門家会合」が12月6日、都内で開催された。対面での開催は3年ぶりとなる。同会合は、JAIFとKAIFとの協力覚書に基づき、原子力開発・利用に関する情報・意見交換を行うことにより、日韓両国の原子力産業界レベルでの協力を促進し、原子力関連産業の一層の発展を目的として、1979年以来、開催されているもの。2017年以降は、開始当初の名称「日韓原子力産業セミナー」を改称し、現在に至っている。韓国側からは、KAIFの他、韓国電力公社(KEPCO)、韓国水力・原子力(KHNP)、韓国原子力環境公団(KORAD)などから15名が来日し出席した。今回会合では、福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策、韓国におけるエネルギー政策に関する特別セッションが設けられ、それぞれ、日本側から東京電力、韓国側から慶熙(キョンヒ)大学校が発表。また、両国において関心の高い原子力発電所の廃止措置、放射性廃棄物の処理・処分など、バックエンド対策をテーマに議論がなされた。これらを踏まえたQ&Aセッションでは、韓国側、日本側からの質問に対し、それぞれJAIFの新井史朗理事長、KAIFのカン・ジョヨル常勤副会長が回答。韓国側から寄せられた原子力産業に係る国内市場や国際展開のリサーチに関する質問に対し、新井理事長は、JAIFが毎年、会員企業などを対象に実施している「原子力発電に係る産業動向調査」を紹介。一方、日本側からUAEバラカ1~4号機プロジェクトの成功要因に関連して韓国の原子力人材確保・育成について問われたのに対し、カン常勤副会長は、これまでの韓国における原子力開発の歴史を振り返りながら、「教育は人材育成の重要な要素」と強調。大学の原子力関連学科の充実化とともに、企業においても早い段階から海外への派遣を通じ教育・訓練に努めているなどと説明した。韓国一行は、会合終了後、福島へ移動し、福島第一・第二原子力発電所や日本原子力研究開発機構の楢葉遠隔技術開発センターなどを訪れた。
- 09 Dec 2022
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「IYNC2022」が郡山で開幕 世界から若手原子力関係者が参集
原子力業界の若手を対象とした世界最大規模の国際会議「IYNC(国際青年原子力会議)2022」(主催=日本原子力学会若手連絡会)が11月27日、福島県郡山市内のホテルで開幕した。12月2日まで、世界各国から概ね39歳以下の若手原子力関係者ら約350名(オンライン参加も含む)が参集し、コミュニケーション・人材戦略、イノベーションなどをテーマに話し合うほか、少人数でのワークショップではロールプレイングやカードゲーム体験を通じ参加者同士の交流も深める。「IYNC」は、原子力平和利用の促進や世代・国境を超えた知識継承を目的に、2000年以来隔年で開催。30か国から300名以上が参加しており、英語での発表経験や人的ネットワーク構築の機会ともなっている。今回、当初はロシア・ソチでの開催が予定されていたが、昨今の情勢を踏まえ、急遽、日本で初開催されることとなった。福島第一・第二原子力発電所の見学や、廃炉・汚染水対策について考える福島特別セッションも設定。原子力発電所の高経年化対策や長寿命運転などの機運を背景に、ベテラン技術者と若手との世代間ネットワークの強化も視点となっている。11月28日のキーノートセッションで講演を行った原産協会の新井史朗理事長は、「IYNC2022」がテーマとして掲げる「You are the Core」を改めて強調し、「これから10年、20年、それ以降の世界の原子力利用を盛り立てていって欲しい」と、将来の原子力産業における若手の活躍に期待。また、日本の原子力政策の動きを紹介した上で、「原子力の価値を生かすために必要なアクション」として、早期再稼働、運転期間の延長、新増設・リプレース、研究・開発をあげた。そのアクションを着実に進めていくため、原子力産業界がクリアすべき課題として、予見性の確保、「ものづくり基盤」とサプライチェーンの強化、海外における原子力発電に対する価値の見直しに加え、若い年代層とのコミュニケーションの必要性に言及。「若手の方々や、今後の原子力技術・産業の担い手となる学生など、若い層へ原子力の価値の浸透を図ることが重要だと考える。学生には、原子力産業が有望な職業であることを確信してもらい、原子力を将来の職業として考えてもらえるよう訴えたい」と述べた。
- 30 Nov 2022
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原産協会 「原子力発電に係る産業動向調査」報告書を発表
原産協会は11月25日、「原子力発電に係る産業動向調査2022報告書(2021年度対象調査)」を発表した。1959年以来、わが国における原子力産業、特に原子力発電に係る産業の全体像を把握し、会員企業・組織や関連省庁への情報提供および同協会の事業活動に活かすことを目的として実施しているもの。今回の報告書は、2021年度を対象とした電気事業者、重電機器メーカー、燃料メーカー、商社、建設業、サービス業など、243社からの回答による調査結果。それによると、電気事業者の原子力関係支出高は1兆7,646億円で対前年度比16%減。うち、「機器・設備投資費」、「土地・建物・構築物」、「運転維持・保守・修繕費」が、前回の調査と比べ大きく減少。新規制基準対応支出額は3,521億円で全体の約20%を占めていた。また、鉱工業他の原子力関係売上高は1兆8,020億円で同0.7%減。納入先別にみると、「電気事業者向け」が1兆2,681億円で同7%減となった一方、「鉱工業等向け」は4,259億円で同19%増となった。さらに、産業構造区分別にみると、「プラント既設」関連が9,846億円で同11%減となった。原子力発電に係る産業の景況感に関しては、現在を「悪い」とする回答が前回から8ポイント減の68%となり、1年後を「良くなる」とする回答も5年ぶりに「悪くなる」との回答を上回ったことから、若干の改善傾向がみられている。一方で、原子力発電所の長期停止に伴う影響について尋ねたところ(複数回答可)、「技術力の維持・継承」をあげた割合は60%で、近年で最も高くなった。さらに、「技術力の維持・継承」への影響としては、「OJT機会の減少」との回答が格段に最も多く、「調達先の消失によるモノ・役務の入手が困難」となる企業も近年増加傾向がみられている。また、他社の撤退の影響を受ける、若しくは受ける恐れのある分野としては、「技術者・作業者」との回答が引き続き最も多く、人材への懸念が高まっているものとみられる。今回の調査では、原子力人材の採用状況や革新炉への関心についても尋ねた。採用状況については、「十分に採用できている」が28%、「必要な人数より2~3割足りない」が46%、「必要な人数の半分以下しか採用できていない」が14%と、多くの企業で思うように採用できていない実情が明らかとなった。また、新型炉・革新炉事業への関心については、「関心がある」との回答が、国内向け、海外向けでそれぞれ69%、52%を占めていた。原子力発電に係る産業を維持する上での課題について尋ねたところ(複数回答可)、「政府による一貫した原子力政策の推進」が83%で最も多く、「原子力発電所の早期再稼働と安定的な運転」が67%で、これに次いでおり、いずれの回答割合とも近年で最も高くなっていた。原産協会の新井史朗理事長は、11月25日の記者会見で、今回の調査結果について説明。景況感に若干の改善がみられた一方で、「新規制基準対応のための安全対策工事がピークを越えた電気事業者が出てきたことや、化石燃料高騰などにより電気事業者がコスト削減に努めているとみられ、原子力関係売上高は減少している」と述べ、現状は依然として厳しい市場環境にあるとの認識を示した。
- 25 Nov 2022
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原産協会・新井理事長 「原子力産業セミナー2024」の開催結果発表
原産協会の新井史朗理事長は11月4日、記者会見を行い、原子力産業界における人材確保支援と理解促進を目的として関西原子力懇談会との共催で毎年実施している「原子力産業セミナー2024」の開催結果(速報)を発表した。同セミナーは、主に2024年卒の大学生・大学院生・高専生が対象。今回、10月15日に東京で、同29日に大阪で開催された。両会場を合わせた学生参加者数は計473人(前年比24%増)で、2012年度以降、最高の参加者数となったほか、前々回の開催より採り入れたオンライン参加も各々31名に上っており、「対面・オンラインのハイブリッド方式をとる本セミナーの価値が高まっている」と分析している。出展企業・機関数は両会場を合わせ76社で、前年度より11社増加。新井理事長は「コロナ前の状況に戻りつつある」と述べ、また、会場で学生らと交わした話を振り返り「原子力の仕事したいという強い意志を持って来場している学生や、福島の復興に貢献したいという思いを持つ学生もいた」と語った。今後の原子力人材確保に向け、新井理事長は、「原子力産業は原子力工学だけでなく、電気、化学、土木、建築など、様々な分野の人材が必要。文系も含めてできるだけ多くの学生にアピールできるよう努力している。また、様々な業界が集う就活イベントに出展するなどして、原子力専攻以外の学生にも知ってもらえるよう努力している」と強調。近年の文系学生の来場者増加傾向にも好ましい見方を示した。また、新井理事長は、10月26日に原産協会が米原子力エネルギー協会(NEI)と発表した「未来の原子力に向けた日米産業界共同声明」について紹介。カーボンニュートラル社会の実現とエネルギー安全保障の持続的確保を念頭に、日米両国の原子力産業界がサプライチェーンを強靭化し世界で安全性の高い原子力の利用を促進することを目指すもので、第三国への原子力導入支援も視野に入れている。新井理事長は、「経験豊かな両国の原子力産業が、カーボンニュートラル、エネルギー安全保障といった地球規模の課題において、さらに協力を深めていくことを確認できたことの意味は大きい」と強調した。先般、原子力規制委員会が原子力発電所の60年超運転の可能性を見据え高経年化プラントの安全規制で新たな制度案を示したことについて、新井理事長は「科学的にも技術的にも合理的」と述べた上で、「事業者にとって選択肢が増えることになる」と評価した。
- 07 Nov 2022
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原産協会と米NEI 原子力輸出へ向け共同声明
日本原子力産業協会と米原子力エネルギー協会(NEI)は10月26日、「未来の原子力に向けた日米産業界共同声明」を発表した。同共同声明を契機に、日米原子力産業界として、日米協力に基づく第三国への原子力導入を加速すべく両国政府・金融機関から外交・産業政策・財政支援を得ることが重要との考えのもと、両国の原子力サプライチェーンを強靭化し世界で安全性の高い原子力利用の促進に貢献していく。共同声明では、原子力について、脱炭素社会の実現とエネルギー安全保障の確保という地球規模の課題を解決する有力な手段であり、「頑強で安定した電源であり、再生可能エネルギーと併せて活用することで、クリーンで確実なエネルギーシステムへの移行をさらに加速させることが可能」、「発電のみならず、熱供給や水素製造を通じて、輸送、化学、鉄鋼など、他の経済部門の脱炭素化にも大きな可能性を持っている」とメリットを強調している。これを踏まえ、原子力の有する付加価値を最大化すべく、日米両国の政府に対し、運転期間延長を含めて既設原子炉を最大限活用し、革新的な原子炉の研究開発、建設への支援を強化するとともに、原子力事業の中長期的な予見性を高め設備・人材への投資を促進すべく、市場・規制などの制度の改善や政策支援などを要請。さらに、金融界に対しては、グリーン資金調達の枠組における柱の一つに原子力を含めることで脱炭素化とエネルギー安定供給に貢献する原子力の役割が金融市場において適正に価値換算されるようなシステムの導入など、課題解決に向けた金融インセンティブの強化を要請している。その上で、「日米の原子力産業の発展に責任を負う」立場から、今後の行動目標として、日米を始め価値観を共有する国の事業者間での連携を深め、世界の原子力利用を促進すると宣言。具体的には、国際的秩序の攪乱に対応するため、相互信頼と共有する価値観のもとで結束する産業の協力により、原子力サプライチェーンを強靭化小型モジュール炉(SMR)を含む先進的原子炉の世界展開で両国政府が価値観を共有する他の国々と協力して必要な政策支援を行い、世界市場での産業競争力を実現するよう日米協力を促進――するとしている。今回の共同声明について原産協会は、「今後、原子力への期待が世界中で大きくなっていく中で、日米両国の原子力産業界はパートナーとして、世界中の原子力発電の需要に応えられると確信している。そしてそれが日米両国の原子力のサプライチェーンの維持・強化につながるものと期待している」とコメント。また、共同声明の調印に同席した太田房江経済産業副大臣は、「日本とアメリカは原子力における協力関係、あるいは技術の連携ということについて長い歴史を持っているが、今日、この日を一つのエポックとして、同じ価値観を持つ国同士でこの分野における日米協力をより進化させていきたい」と述べた。
- 28 Oct 2022
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文科省 次世代革新炉の研究開発に向け検討開始
文科省の革新炉開発に関する検討会の主査を務める山口氏文部科学省の「次世代革新炉の開発に必要な研究開発基盤の整備に関する検討会」(主査=山口彰・原子力安全研究協会理事)が10月17日、初会合を開催した。「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」での岸田文雄首相の指示を踏まえ、経済産業省を中心に、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に係る検討が進められている。同検討会は、文科省として、必要な基盤的研究開発・インフラの整備に向け、研究開発用原子炉燃料製造バックエンド対策――などの観点から、今後10年以内に着手すべき事項を議論。さらに、次世代革新炉に係る人材育成の課題の他、日本原子力研究開発機構が「大学の知の集約拠点」として産業界をつなぐ役割についても検討を行った上、関係審議会に報告を行うもの。〈配布資料は こちら〉電工会(JEMA)が試算する将来の原子力利用、2050年の電源構成比20%達成には震災前に計画されていたプラント8基も60年運転させる必要がある(JEMA発表資料より引用)17日の会合では、小澤隆委員(日本電機工業会原子力部長)が2050年までの原子力発電による電源構成比、年間発電電力量、設備容量、設備利用率の試算結果を披露。それを踏まえ、「既存炉の再稼働に向けた審査の加速化」に取り組む必要性のもと、さらなる導入の選択肢として、既設サイトへの中大型炉の増設・リプレース等の追加静的安全システムを備えた小型炉など、原子力イノベーションの社会実装米国など、国際的に進められている60年を超える運転の検討・実現――を提起。自然災害への耐性強化、事故耐性燃料など、最新の知見・技術を取り入れたシビアアクシデント対策、テロへの耐性強化を実現する「安全性を強化した革新軽水炉での新増設・リプレ―ス」の早期市場投入を図る考えを示した。続いて、原子力機構の大島宏之理事が高速炉サイクルと高温ガス炉に関する研究開発の取組状況を説明。これに対し、小澤委員は、メーカーの立場から、それぞれ「もんじゅ」、「HTTR」の建設・臨界達成時と比較した技術基盤に係るギャップを懸念し、今後の実証炉に向けたスケールアップも見据え「プラント全体のシステムの実力発揮」を検討していく必要性を示唆した。高温ガス炉の開発課題については、次回以降に議論する予定。この他、委員からは、産業界におけるサプライチェーンの維持・強化などに関し意見があった。
- 19 Oct 2022
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「原子力産業セミナー2024」が東京で開催
企業と学生の採用・就職活動支援と原子力産業界への理解向上を目的とした「エネルギー未来フォーラム『原子力産業セミナー2024』」(主催=原産協会/関西原子力懇談会)が10月15日、東京都立産業貿易センター(東京・港区)で開催され、企業・機関42社が出展し、258名(速報値、オンライン参加の31名を含む)の学生らが訪れた。主に2024年卒の大学生・大学院生・高専生が対象。同セミナーは例年同様、大阪でも開催(10月29日)される予定で、東京会場に参加した企業・機関も含め34社が出展する。いずれの会場とも参加企業・機関数は昨年度を上回り、東京会場の来場者数はおよそ3割増となった。ブースで説明に当たるBlossom Energy・濱本CEO(左)と同・近岡COO今回、初参加の(株)Blossom Energyは、革新炉研究開発に取り組む設立から間もないベンチャー企業。日本原子力研究開発機構で20年間にわたり高温ガス炉の運転・保守・研究開発に従事してきたというCEOの濱本真平氏は、かつて指導を受けた上司の気概を回顧しながら、「人が減ってしまえばどんな産業も衰退する」との思いを強く感じ後進の育成を目指してセミナーに出展したと話している。放射線検出機器を手がけるセーコー・イーアンドジー(株)は今回、2年ぶりの参加。学生の頃、セミナーに参加したという担当者もブースに立ち、同社の事業に対し機械関係、食品関係他、幅広い分野の学生から関心が寄せられており、特に、小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」から採取したサンプルの分析など、大型プロジェクトへの関わりに「反応がよかった」と印象を語った。初回(2006年度)からセミナーに参加している原子力発電環境整備機構の担当者は、今回の傾向に関し、「例年と比べ、原子力関係の学生が多く文科系は少ない」、「学校の授業で地層処分について聞き知っているという学生も増えてきた」などと話している。セミナーに訪れた原子力専攻の学生3名グループ(いずれも学部3年生)に話を聞いたところ、Aさん 普段、耳慣れない企業もあり、色々なブースを回り知識を深めていきたいBさん 新型炉、SMR (小型モジュール炉)、高速炉に関する話も聞けて、ためになったCさん 原子力に関する知識を一般に提供する場が必要だと思う――などと語った。
- 17 Oct 2022
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原産協会・新井理事長、次世代革新炉開発の動きを歓迎
原産協会の新井史朗理事長は9月30日、記者会見を行い、同月22日に行われた総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会で専門委員として発言した早期再稼働、運転期間の延長、新増設・リプレースについて改めて紹介。同小委員会は、西村康稔経済産業相が8月に示した「日本のエネルギーの安定供給の再構築」を受け、再稼働への関係者の総力結集運転期間の延長など、既設原子力発電所の最大活用次世代革新炉の開発・建設再処理・廃炉・最終処分のプロセス加速化――について検討を行っている。新井理事長は、「今後、原子力がその価値を十分に発揮できるよう、様々な視点から議論が進むことを期待する」と強調した。次世代革新炉の開発に関連し、9月29日に三菱重工業がPWRを運転する4つの電力会社(北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力)と共同で革新軽水炉「SRZ-1200」の基本設計を進めると発表したこと〈既報〉については、原子力を持続的に活用していく上での必要性を認識し、「人材育成・確保という観点でもよい影響を与える」などと歓迎。一方で、記者から今後の建設具体化に関して問われ、立地点も見通した開発プロジェクトを持つ北米と比べやや遅れをとっている日本の状況に懸念を示したほか、事業の予見性を確保していく必要性、サプライチェーンに与える好影響にも言及した。また、運転期間の延長については「世界的な潮流」と強調。米国で進められている80年運転の動きにも関連し、運転期間延長の判断に係る不確かさについて問われたのに対し、「運転実績が積み上がれば積み上がるほど、先の見通しがつきやすくなる」と述べ、不確かさの幅も含めた判断の必要性を示唆した。今回、新井理事長は、9月26~30日にウィーンで開催されたIAEA通常総会へのオブザーバー出席から帰国直後に会見に臨み、今次総会の所感として、「多くの国からウクライナ原子力施設に対する軍事行動への非難と、事故を未然に防ぐためのIAEAの役割に対する期待が述べられ、IAEAの取組の重要性がこれまでになく高まっていることを実感した」と述べた。その上で、改めて「ウクライナの原子力施設に対する軍事行動や、ウクライナの原子力安全を脅かすすべての行為」への断固たる反対を明言した。
- 03 Oct 2022
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三菱重工、電力と共同で革新軽水炉「SRZ-1200」開発へ
三菱重工業は9月29日、PWRを運転する4つの電力会社(北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力)と共同で、将来にわたる日本のエネルギー安定供給に向けて、従来のPWRよりもさらなる安全性向上が図られた革新軽水炉「SRZ-1200」のプラントのコンセプトを確立し、今後、基本設計を進めていくと発表した。〈三菱重工発表資料は こちら〉同社の発表によると、「SRZ-1200」は120万kW級の発電炉で、安全系設備の強化、地震・津波などの自然災害への耐性、テロ・不測事態に対するセキュリティ強化といった安全性・信頼性向上について新規制基準を踏まえ開発を進めている。新たな安全メカニズムとしては、プラントの状態に応じて自動作動する設備(パッシブ設備)となる三菱重工独自の高性能蓄圧タンク(窒素ガス加圧による自動炉心注水)やコアキャッチャー(溶融デブリを格納容器内に確実に保持・冷却する設備)を設置するほか、万一重大事故が発生しても放出される放射能量を低減し影響を発電所敷地内に留めるためのシステム設計にも取り組む。さらに、再生可能エネルギーなど、他電源の電力量変化に柔軟に対応可能な出力調整運転や水素製造も視野に入れていく。開発を進める革新軽水炉の名称“SRZ”には、S:Supreme Safety(超安全)、Sustainability(持続可能性)R:Resilient(しなやかで強靭な)Z:Zero Carbon(CO2排出ゼロ)の意味が込められている。三菱重工が標榜する原子力技術開発の展望(三菱重工発表資料より引用)三菱重工では、これまでも原子力技術の継続的な利用に向け、既設軽水炉の再稼働推進とともに、次世代軽水炉、将来炉(小型炉、高温ガス炉、高速炉、マイクロ炉)、核融合炉の開発・実用化を目指し、短・中・長期にわたる開発計画を策定し取り組んできた。総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会では8月に、「カーボンニュートラルやエネルギー安全保障の実現に向けた革新炉開発のロードマップ」(骨子案)を取りまとめ、2050年以降を見据えた革新軽水炉、小型軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合炉の各炉型に係る研究開発、建設・運転に向けた技術ロードマップとともに、原子力サプライチェーンによる市場獲得戦略を示している。原産協会の新井史朗理事長は、30日に行われた月例の記者会見で、次世代炉の開発に関し、中長期も見据え「原子力を最大限活用していく」ことへの意義を強調した。
- 30 Sep 2022
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原産協会、サプライチェーンの維持・強化に向け提言
原産協会の新井史朗理事長は7月22日、記者会見を行い、同日発表の「サプライチェーンの維持・強化に向けた提言」について説明し質疑に応じた。新井理事長はまず、先般の岸田首相による「この冬に向けて最大9基の原子力発電所の稼働を進め、日本全体の電力消費量の約1割に相当する分を確保する」との発言に言及。同発言は「(岸田首相の)原子力に対する強い期待が述べられたもの」と指摘した。その上で、今回の提言に至った経緯について、「昨年10月に策定された第6次エネルギー基本計画に明記された原子力の持続的活用を可能にするためにはサプライチェーンの維持が極めて重要」との問題意識から、会員企業へのアンケート調査や分析を実施したと説明した。提言は、原子力発電所早期再稼働のためのあらゆる取組の実施新増設・リプレースを明記したエネルギー計画の明示原子力発電所の新増設・リプレースに投資が可能な事業環境整備大型軽水炉を含む革新炉の技術開発や実証事業への支援拡大機器や部品の輸出振興に関する包括的支援策の検討──の5項目からなる。新井理事長は、同提言に先立ち原産協会が2021年9~11月に実施し会員企業154社から回答を得たアンケート調査の結果について紹介した。それによると、2010年度と比較した売上高は22%が増加傾向と回答している一方で、48%が減少傾向と回答。また、減少傾向と回答した企業はその理由を「発電所の停止」と回答していることなどから、新規制基準対応のための安全対策工事に従事する企業は売上高が増加しているものの、運転・保守に従事する企業では売上高が減少していると分析した。原子力発電所の運転停止に伴う影響として、「技術力の維持・継承」をあげた企業は56%に上っており、これに関し、新井理事長は「新設経験のない国はもとより、欧米でも10年間建設が途絶えると予算・工程通りに進まない状況にある」などと、空白期間が長くなるほど技術力の回復に時間を要することを懸念。また、足下の課題となる再稼働に向けた効率的な審査に関しては、電気事業連合会による「再稼働加速タスクフォース」を通じた業界横断的な取組の他、原子力規制委員会で随時行われる事業者の原子力部門責任者との意見交換(CNO会議)や原子力エネルギー協議会(ATENA)の活動に期待を寄せた。革新炉の技術開発や国際展開に関しては、技術力の維持・向上や学生への関心喚起に向け「魅力的なプロジェクト」となるよう切望した。
- 22 Jul 2022
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原産協会、島根2号機の再稼働に期待
会見を行う原産協会・新井理事長原産協会の新井史朗理事長は6月24日、記者会見を実施。中国電力島根原子力発電所2号機(BWR、82万kW)の再稼働に向けた期待を改めて述べた。新井理事長はまず、6月2日に島根2号機の再稼働に係る島根県・丸山達也知事の同意を受けて発表した理事長メッセージを紹介。「PWRに比べて再稼働が遅れているBWRに関し、地元自治体から了解をいただいたことは大きな意義を持つ」と強調した。また、昨今のエネルギーを巡る世界情勢に関し、「ロシアによるウクライナ侵攻開始から丁度4か月となった」とした上で、化石燃料のロシア依存度低減に向けた動き、国際的な資源・エネルギー価格の高騰や円安の進行によるエネルギーコストの負担増を踏まえ、エネルギー自給率の低い日本にとって「各国による資源争奪戦の影響は小さくない」と懸念。日本の国富流出への強い危機感を示すとともに、今夏の、特に東京エリアにおける厳しい電力需給見通しを見据え、「エネルギーの安定供給は、国民生活とあらゆる経済活動の土台であり、エネルギー安全保障なしには脱炭素の取組もなしえない」との考えを改めて述べ、「S+3E」(安全、安定供給、経済効率性、環境への適合)の観点から「原子力の活用が不可欠」と訴えかけた。また、新井理事長は、G7サミット(6月26~28日、ドイツ・エルマウ)に向け、原産協会がカナダ原子力協会、欧州原子力産業協会、米国原子力エネルギー協会、英国原子力産業協会、世界原子力協会とともに発出する共同声明を紹介。共同声明は会見終了後に公表されており、「原子力はエネルギー安全保障を強化し環境目標に貢献できる」と強調している。新規制基準の施行から間もなく9年を迎えるが、記者から事業者側の再稼働に係る姿勢に関して問われたのに対し、新井理事長は、「27基の審査申請がなされたうち、10基が再稼働したが、ややスローペースではないか」と振り返った上で、原子炉設置変更許可に続く設計・工事計画認可や地元了解に要する時間、審査の効率化に向けた動きにも言及しながら、審査において迅速にレスポンスを図る努力に期待を示した。
- 27 Jun 2022
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原産協会が定時社員総会開催、今井会長「原子力の最大活用」を強調
原産協会は6月16日、日本工業倶楽部(東京千代田区)で定時社員総会を開催した。開会に際し、今井敬会長(日本経済団体連合会名誉会長)が挨拶。今井会長は、昨今のウクライナ情勢に伴うエネルギー需給ひっ迫への懸念も示し、「エネルギーの危機的な状況を、原子力の最大活用によって一刻も早く改善していかねばならない」と強調。さらに、5月に政府が「クリーンエネルギー戦略」策定に向けた中間整理を取りまとめ、その中で「再生可能エネルギーと並んで、原子力を最大限活用する」ことが明記されたことに触れ、改めて「再稼働の着実な進展や、既設炉の徹底活用、将来の新増設・リプレースなど、原子力の最大限活用について強く訴えていきたい」と述べた。また、原子燃料サイクルの中核として2022年度上期にしゅん工が予定される六ヶ所再処理工場については、「今回こそは無事にしゅん工することを願っている」と期待を寄せた上で、「わが国における原子燃料サイクルの一日も早い確立と、最終処分事業の着実な進展に一層の努力をしていきたい」と表明。この他、高品質なサプライチェーンの維持、優秀な人材の育成と確保、原子力に係る社会全体の理解の必要性を述べた上で、原産協会として、「国民理解の促進」、「人材の確保・育成の推進」、「国際協力の推進」を3本柱に、原子力産業の再生に向けて取り組んでいく姿勢を示した。続いて、来賓挨拶に立った経済産業省の岩田和親大臣政務官はまず、福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策、福島の復興を最重要課題に位置付け取組を進めていくことを改めて強調。さらに、昨今のウクライナ情勢や3月の東日本における電力需給ひっ迫を振り返り、「原子力を含め、わが国のエネルギー安定供給の重要性を再確認するきっかけとなった」とした上で、2022年度の厳しい電力需給見通しを踏まえた政府による対策に関し、参集した会員企業らに対し理解・協力を求めた。再稼働の円滑な進展に向けては、「産業界と連携し的確な安全審査対応をサポートするとともに、国も前面に立ち、立地自治体、関係者、社会全体の理解と協力を得られるよう粘り強く取り組んでいく」と述べた。また、文部科学省研究開発局長の真先正人氏が末松信介大臣の挨拶を代読。「原子力イノベーションの創出に向け産業界と一体となって取り組んでいく」などと、原子力人材・技術基盤の維持・強化に向けた姿勢を示した。島田新副会長が総会後の会員交流会で就任挨拶今回の総会では7名の理事交替を決定。副会長については、宮永俊一氏(三菱重工業会長)が退任し、島田太郎氏(東芝社長)が就任した。
- 17 Jun 2022
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原産協会、「原子燃料サイクルを考える座談会」を八戸で開催
「原子燃料サイクルを考える座談会」(原産協会主催、東奥日報社共催)が5月12日、青森県八戸市内のホテルで開催された。原子燃料サイクルの中核となる施設の一つ、日本原燃六ヶ所再処理工場の2022年度上期しゅん工に向け、地元関係者を対象とした座談会開催を通じ同社の県内における理解活動を支援するもの。NPO法人あすかエネルギーフォーラム理事長の秋庭悦子氏(モデレーター)、ユニバーサルエネルギー研究所社長の金田武司氏、八戸工業大学工学部教授の佐藤学氏の3氏が登壇し、地元の行政関係者、商工団体関係者、地域オピニオンリーダーら約70名が来場・傍聴した。「暮らしの視点でエネルギーを考える」をモットーに全国で原子力・エネルギーに係る理解活動に取り組む秋庭氏は、「資源の有効利用の観点から今、リサイクルは大変重要な問題となっている」と議論に先鞭。てい談に先立ちまず、金田氏と佐藤氏がそれぞれ、昨今のエネルギーを取り巻く世界情勢、地元のエネルギー教育からみた原子力の意義を説くショートスピーチを行った。世界のエネルギー事情を力説する金田氏、スクリーン上にはテキサス州の電気料金暴騰を示すグラフが「サボテン、砂漠、西部劇を連想させる米国テキサス州で雪が降るなんて想像できるだろうか」と切り出し、金田氏は、2021年2月にテキサス州を襲ったまさかの大寒波、それに伴う380万件以上に上った大規模停電の要因を分析。当時の状況は、「州の電力供給のうち、約4分の1を占めている風力発電設備が寒波で凍りつき大停電が発生。コートも着たことがないような人たちが、マイナス18℃の極寒にさらされ死者も出た」という。テキサス州は米国最大の天然ガス生産地であることから、海外メディアの報道を引用し「食料品店で餓死するようなもの」と例えた。また、「一般家庭で月180万円の電気代が請求され払えない人が続出した」背景として、州の外から入る送電線がほとんどなく自由化の進むテキサス州の電力事情に触れた上で、市場原理から「選択肢があるときは一番安いものを選べるが、選択肢がなくなったとき、価格が高騰し自由が仇となってしまう」と説明。寒波を教訓としてテキサス州では発電事業者に対し冬季対策を要求する法律・ガイドラインを制定している。この他、金田氏は、ウクライナ危機に伴う欧州における天然ガス価格の急騰、日本に関しては、政情不安なホルムズ海峡を含む「オイルロード」を経由し輸送される石油への依存などに触れ、「エネルギーの問題は昨今の世界情勢と非常に深く関っている」と強調した。八戸工大の原子力基礎教育について語る佐藤氏(表は青森県制作のパンフレットより引用)続いて、佐藤氏は、八戸工業大学が取り組んできた地域のゼロカーボン化を図る地産地消の電力供給「再生可能エネルギー100%による自営線マイクログリッド実証システム」(新エネルギー・産業技術総合開発機構〈NEDO〉のプロジェクト)への協力や、原子力基礎教育について紹介。同学は学科横断型プログラムの一つとなる「原子力工学コース」を開講しており、佐藤氏は、「機械、電気、情報など、それぞれの工学分野の課題解決力に加え、原子力・放射線の知識も養うことで、原子力立地地域で貢献できる人材育成に努めている」と、原子力基礎教育の意義を強調。座学だけでなく、県内に多数立地する原子力関連施設での実習や他大学との連携なども通じ、「学生の原子力に対する関心や知識が高揚するとともに、原子力関連分野への従事意欲も高まっている」とした。また、同氏は、今回の座談会のテーマに関連し、小坂製錬の複合リサイクル製錬所(秋田県)に言及。同所はかつて、同和鉱業小坂鉱山として非鉄金属を産出し、市街地を温泉経由で結ぶ鉄道が知られていたが、現在では、廃品から金、銀、銅、亜鉛など、約20種類の有価金属を回収し製品化する「都市鉱山」として機能している。トークセッションが開始、秋庭氏(左)はスクリーン上に原燃サイクル施設の概要を示し「これだけ集結しているのは世界でも六ヶ所村が唯一」と強調トークセッションに移り、座談会前日に六ヶ所再処理工場を訪れ安全性向上に向けた取組についても説明を受けたという秋庭氏は、「なぜ日本は原子燃料サイクルを推進しているのか考えてみたい」と問題提起。これに対し、金田氏は、「エネルギー資源のない国だからこそ、リサイクルするのは当然」としたほか、「廃棄物の量・有害度を低減することもできる」と、そのメリットを強調。さらに、安全性の理解に関し、「まず、再処理工場で何が行われているのかを知って欲しい。原子力発電所と異なり、再処理工場は基本的に一種の化学工場、そこで核分裂反応が起きているわけではない」と説明した。また、大学で教鞭を執った経験もある秋庭氏は、教育の観点から原子燃料サイクルの地域貢献に関して質問。これに対し、佐藤氏は、「直接的に事業者に関連した仕事だけでなく、やはり地域経済に深く関った産業だと思う」とした上で、地元で人材を育成する意味でも初等中等教育段階から原子力・放射線の知識を養っていく必要性を改めて強調した。来場者からは、昨今の世界情勢からエネルギーだけでなく食料供給に関する不安の声も来場者との質疑応答の中で、昨今の原子力教育の低迷を危惧する声があがったのに対し、佐藤氏は、八戸工大で企業の定年後に大学院聴講生として勉学に励む人がいることを紹介し、「『学ぶ』ことはいつからでもできる」と繰り返し強調。一方で、「教える側がしっかり存在している必要がある」と、高等教育における教員の確保や実験・実習設備の維持に係る懸念を示した。また、六ヶ所村の原子燃料サイクル施設の一つ、廃棄物管理施設では、高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)を、最終処分に向けて搬出されるまでの間、冷却・貯蔵しているが、地元の女性団体のメンバーからは、その資源化に係る研究に取り組む藤田玲子氏(元日本原子力学会会長)を囲む勉強会に参加した経験を踏まえ、「私たちは、『核のごみ』ではなく、将来使えるものを預かっている」と、さらなるリサイクルの必要性を強調する声もあがった。結びに秋庭氏は、「一番大事なことは国民の理解と信頼だと思う」と述べ、原子燃料サイクルの確立に向けて、全国レベルでの理解・支援が進むことを期待し締めくくった。
- 17 Jun 2022
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総合エネ調原子力小委、安全性向上の取組と廃止措置について議論
総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=山口彰・原子力安全研究協会理事)は5月30日の会合で、安全性向上の取組と廃止措置について取り上げた。〈配布資料は こちら〉同小委員会では2014~18年、「自主的安全性向上・技術・人材ワーキンググループ」において、廃炉を含む軽水炉の安全技術・人材の維持・発展について重点的に議論。これを受けて、2018年7月、電気事業者・メーカーが中心となり関係者の連携をコーディネートし安全性向上の取組を進める中核的組織として原子力エネルギー協議会(ATENA)が設立された。自主的安全性向上に向けた産業界の枠組(資源エネルギー庁発表資料より引用)今回の会合で、資源エネルギー庁は、産業界が自主的・継続的な安全性向上の取組を進めるため立ち上げたATENA、原子力安全推進協会(JANSI、2012年設立)、電力中央研究所原子力リスク研究センター(NRRC、2014年設立)の役割を整理した上で、議論の視点として、(1)自己評価、(2)外部の目(組織外からの意見を積極的に取り入れ改善に活かしていく仕組みの検討)、(3)役割の最適化、(4)双方向コミュニケーション――を提示。廃止措置については、国内で廃炉が決定した18基(福島第一原子力発電所を除く)に係る工程を見据え、原子炉を解体する「第3段階」が2020年代半ば以降に本格化する見通しを示し、事業者間連携、廃炉実務(解体廃棄物の処分・保管場所など)、資金確保などの課題を掲げ議論に先鞭をつけた。また、電気事業連合会原子力開発対策委員長を務める関西電力の松村孝夫副社長は、安全性向上の取組に関し「ATENA、JANSI、NRRCは、設立後一定の成果を上げてきているが未だ道半ばの状況」と、廃止措置については「国内での廃止措置作業に係るノウハウの蓄積はまだ不十分」などと、事業者を取り巻く現状を自己評価。今後本格化する廃止措置作業を安全かつ円滑に進め、工程・費用のさらなる効率化を図るため、(1)電力会社間の連携、(2)グレーデッドアプローチ(分類したリスクに応じ最適な安全対策を講じていく考え方)の適用、(3)クリアランスの推進、(4)解体廃棄物の処理・処分の推進――に係る課題について関係者と協議していくとした。有用資源の再利用につながるクリアランスに関しては、現在、廃止措置が進展する中部電力浜岡原子力発電所1、2号機の解体作業で発生したクリアランス金属が同発電所敷地内の側溝用蓋に加工・再利用されている事例を紹介。今後も確実・早急な社会定着を目指し、電力業界内だけでなく業界外での再利用方法も含め、電力会社間で連携し検討していくことが必要だとした。これを受け委員らによる意見交換の中で、福井県知事の杉本達治氏は立地地域の立場から発言。先般、関西電力が国内初の40年超運転を昨夏開始した美浜3号機の長期運転支援に向けてIAEAの「SALTO」(Safety Aspects of Long Term Operation)チーム受入れを決定したことに言及したほか、ATENAに対して「海外における最新の知見も収集しながら、単に効率化ということではなく地元の安全をより高めていく観点からも効果的な安全対策を提言してもらいたい」と要望。また、廃止措置に関し、周辺設備を解体する「第2段階」にあるプラント6基のうち3基が福井県内に立地するとして、廃炉に伴い発生する放射性廃棄物の処分に係る国の関与、廃炉・リサイクル産業の創出を課題として掲げ、合理的な規制基準の整備、クリアランス制度の社会定着に向けた国民理解促進の必要性などを訴えた。諸外国における廃炉実施体制(資源エネルギー庁発表資料より引用)廃炉の実施体制に関し、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授の遠藤典子氏は、民間エンジニアリング会社や国営機関が主体となる米国・英国の事業環境を参考に「日本も決定しなければならない時期にきている」と示唆。また、WiN-Japan(原子力・放射線分野で働く女性たちによる組織)理事の小林容子氏は、5月23~26日に東京で開催された「WiN年次大会」の廃炉に関するセッションで、各国参加者から作業者のリスク低減や社会とのコミュニケーションの重要性が述べられたことを紹介した。専門委員として出席した原産協会の新井史朗理事長は、安全性向上に向けて、ATENA、JANSI、NRRC、それぞれによる取組の成果が上がることを強く期待。さらに、「米国では産業界による活動が安全規制にも適切に反映され、結果、原子力発電所の設備利用率が毎年90%を超えている」などと、海外の動きにも言及し、高品質な運転管理が達成されるよう「周辺事業者も含めたサプライチェーン全体の安定した事業環境」構築の重要性を強調した。〈発言内容は こちら〉
- 31 May 2022
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原産協会理事長会見 「世界の原子力発電開発の動向」紹介
原産協会の新井史朗理事長は5月20日、記者会見を行い質疑に応じた。新井理事長はまず、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水(トリチウム以外の核種について環境放出の規制基準を満たす水)の取扱いに係る設備・関連施設の基本設計について原子力規制委員会が18日に「審査書案」を了承したことに関し、「東京電力には引き続き安全を確保しながら設備の設計・運用を進めるとともに、周辺地域の方々の不安や懸念を解消してもらうよう努めてもらいたい」とコメント。引き続き国内外に向けて、ALPS処理水の処分に係る正確な情報の提供と理解促進に努めていく考えを述べた。また、原子力・放射線利用分野で働く女性たちによる国際NGO「WiN」(Women in Nuclear)の年次大会が5月23~26日に東京で開催されることを紹介〈大会サイトは こちら〉。今回の大会は「福島第一原子力発電所事故から11年を経た廃炉と復興の進展」をテーマに掲げ、カーボンニュートラル実現に向けた原子力の役割、科学技術におけるジェンダーバランスについても話し合われる。原産協会は同大会の「ゴールドスポンサー」として開催に協力しており、新井理事長は、「原子力が社会からの信頼を得るためにも、WiNのような女性専門家によるネットワークの力に期待している」と強調した。原産協会ではこのほど「世界の原子力発電開発の動向 2022年版」を刊行。今回の会見では、その概要について記者団に説明した。世界の原子力発電所は2022年1月1日現在、2021年中に中国、ベラルーシ、パキスタン、アラブ首長国連邦(UAE)、ロシアで7基・829.1万kWが運転を開始したほか、ドイツ、パキスタン、英国、ロシア、台湾、米国で10基・936.8万kWが閉鎖され、運転中は計431基・4億689.3万kW。また、中国、インド、ロシア、トルコで10基・987.4万kWが着工し建設中は計62基・6,687.4万kWに、中国とポーランドで各1基が新たに計画され計画中は計70基・7,970.3万kWとなった。特に、中国では7基が運転を開始、6基が着工しており、新井理事長は「躍進ぶりには目を見張るものがある」と強調。また、2021年中、ベラルーシとUAEでの運転開始により「原子力発電国・地域は33となった」としたほか、トルコ、バングラデシュ、エジプトなど、新規導入国における建設・計画、小型モジュール炉(SMR)の開発・導入、英国とフランスの原子力発電推進に向けた国家戦略、既存炉の運転期間延長の動きにも言及。同年を振り返り、「カーボンニュートラルの推進が各国のエネルギー政策の要となる中、化石燃料価格上昇の影響もあり、2021年は原子力利用に注目する動きが国際的に顕著であった」と概括した。記者から将来のSMR開発に向けて日本の原子力産業を支えるサプライチェーンの存続、人材・技術基盤の維持に係る危機感が示されたの対し、新井理事長は、東日本大震災以降の運転停止継続や建設中断によるサプライチェーンを構成する企業の離脱を懸念。「技術力を高めていく」必要性を繰り返し強調した上で、日揮・IHIが昨春、米国ニュースケール社によるSMR開発への出資を発表したことを例に、国内企業の国際プロジェクト参画にも期待感を示した。
- 23 May 2022
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原産協会、2022年版「世界の原子力発電開発の動向」を刊行
原産協会は4月28日、「世界の原子力発電開発の動向」(2022年版)を刊行した。2022年1月1日現在の世界の原子力発電に係るデータを集計したもので、国・地域別の各発電所の状況、炉型・原子炉モデルを始め、着工から営業運転までの年月や設備利用率、主契約者、供給者、運転サイクル期間・燃料交換停止期間など、広範な情報を網羅。2022年版では、前年に引き続き、小型モジュール炉(SMR)開発動向の他、運転期間延長に関する調査結果、世界の使用済燃料貯蔵の状況、原子炉廃止措置への取組についても掲載している。〈ご購入の申込は こちら〉それによると、世界で運転中の原子力発電所は431基・4億689.3万kWで、前年より3基・98.9万kW分減少(出力変更を含む)。2021年中は、中国、ベラルーシ、パキスタン、アラブ首長国連邦、ロシアで7基・829.1万kWが新設されたほか、ドイツ、パキスタン、英国、ロシア、台湾、米国で10基・936.8万kWが閉鎖された。また、中国、インド、ロシア、トルコで10基・987.4万kW分が着工し、建設中のプラントは計62基・6,687.4万kWとなった。なお、計70基・7,970.3万kWが計画中だ。中国では2021年中、3基が新設、6基が着工しており、躍進が際立っていた。同書で特筆するSMRの開発・導入の動きについては、政府主導による開発支援や海外展開、国際提携、導入に向けての検討や協議が世界的規模で活発化。また、既存炉の有効活用に関して、米国ではほとんどのプラントで運転期間が60年までに延長されており、カナダやフランスでも運転期間の延長に向けた大規模改修が進められていると概括。日本では2021年、関西電力美浜3号機が国内初の40年超運転を開始しており、「低炭素な電力を供給する最も経済的な方法であり、今後も安全確保を大前提に運転期間の延長が進められていく」との見込み。2021年の日本の原子力発電による発電電力量は639億9,786万kWh、設備利用率22.1%で、それぞれ前年比42.3%増、6.6ポイント増と、回復傾向にある。
- 10 May 2022
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【第55回原産年次大会】セッション5「若手が考える原子力の未来」
第55回原産年次大会を締めくくるセッション5では、原子力の将来を担う若手が原子力の現状をどのように捉え、原子力の未来をどのように描くのかについて、国内外の有識者を迎え、パネル討論を実施。東京大学大学院工学研究科付属レジリエンス工学研究センター 准教授の村上健太氏がモデレーターを務めた。パネリストの発表に先立ち、村上氏からは「既存の原子力施設から新しい価値を生み出すには」という題で、ステークホルダーの孤立と不健全あるいは不十分な関与を問題設定として挙げ、将来の原子力技術がどのように社会的受容性を高めながら活躍の場を確保し続けることができるのかが問われた。事業者、規制機関、ステークホルダー がどのように対話しながら安全性を高めていけるのかという観点でINSAG(国際原子力安全諮問グループ)の2017年の報告書からR.メザーブ議長の提言を引用。独立した規制機関によって原子力事業の安全性を監視すること、事業者同士が協力し安全性を高めていくこと、規制機関も国際的なピアレビューの中で安全性を高めることが求められているとした。日本においては、日本の特徴的な組織構造と、それを当然と考える日本人のマインドセットが指摘されている。国際原子力機関の福島事故の報告書の中では人的・組織的および技術的要因との相互作用を考慮して安全に対する体系的なアプローチを確立することが謳われている。2022年に第二民間事故調が、福島第一事故から10年後の検証をまとめた。その中で東京大学公共政策大学院教授の鈴木一人氏が、規制当局が設定した「宿題」を、事業者がこなすという宿題型の規制のあり方に警鐘を鳴らしている。本来は、規制当局が目標と効果を定め、方法は事業者が定めるもの。規制当局はその方法を監督し、よりよい規制につなげていくことが望ましい。こうした背景を踏まえ、「60年超長期運転と新設を選べる環境づくり」「負の遺産(CO2や高レベル廃棄物) を増やさないための利用率向上」「時間軸と規模を切り分けての未来への種まき」という3つの論点を政策、規制、技術の視点で展開した。そして想定よりも長い間停止しているプラントが多いことを踏まえ、村上氏は停止プラントの政策的意味づけを考える必要があると指摘。さらには次世代炉の新設あるいは同程度の安全性を持つ既設炉の60年超運転をオプションとし、どちらがよりステークホルダーにとって好ましいかを話し合える環境をつくりながら原子力事業を進めていくことが求められているとした。また、それに伴い、運転期間延長認可制度や、事故耐性燃料活用時の安全要件など革新的な規制基準が求められる。ここには両者の安全パフォーマンスを比較評価するための技術も必要となる。負の遺産については、昨今、重視されるカーボンニュートラルを原子力の追い風にすることが出来ておらず、原子力は「CO2を出さないが放射性廃棄物は出す」という捉え方をされている現状がある。「原子力業界が再エネ導入を邪魔する」といった誤解を解く必要もある。プラント利用燃料の高燃焼度化のための研究開発は、将来的に廃棄物の減容につながる技術を追求すべき。そのためには、炉心・燃料分野の基盤維持のためにも、研究開発人材を増やす施策をとらねばならない。とはいえ、研究の予算や公的資金は、短期的な課題解決に優先的に充てられる。SDGsでさえも2030年を目標にしている。こうした現状を原子力産業も研究コミュニティも認識し、既存の原子力に関するいろんな基盤技術を使い、エネルギー問題を短期間で解決しようという視点で研究開発を再考する必要があるとした。衛生や教育の環境改善に貢献し、なおかつ将来的には日本にとっても種になるような技術開発というのを大学としても考えていきたいと述べ、冒頭の問題提起とした。♢ ♢最初のパネリストとして、北米原子力若手連絡会(NAYGN)のカナダ最高執行責任者であるマシュー・メイリンガー氏が登壇。カナダにおける原子力の状況と、アドボカシー活動について発表した。メイリンガー氏 発言要旨カナダではカナダ型重水炉(CANDU)が19基稼働し、国内の電力の最大15%を占める。天然ウランと重水を使用しており、水平のカランドリア管から運転中に燃料を交換することが可能。停止系統は2つあり、過圧防護のための真空建屋が存在する。そのほかの州では原子力が普及していないが、今後は小型モジュール炉(SMR)の普及で変わっていくものと期待する。原子力の概要は、サスカチュワン州とオンタリオ州がそのほとんどを占める。サスカチュワン州では、ウラン採掘と破砕・粉砕、および一部の研究開発を、粉砕工程以降はすべてオンタリオ州で行われる。オンタリオ州はサプライチェーンを継続し、発電と廃棄物管理の大部分を占める。メイリンガー氏カナダの核燃料サイクルについては、世界第2位のウラン生産国で、13%がサスカチュワン州北部で採掘と破砕・粉砕されている。オープンサイクルなので再処理はしない。2002年に核燃料廃棄物法が施行され、核燃料使用計画を策定・実施するためにカナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)が設立された。3年にわたる調査とパブコメを経て、NWMOの適応的段階的管理計画(深層地層処分)が選択された。最終的にサウスブルースとイグナスの2自治体に候補が絞られ、来年決定する。使用済燃料の深地層処分場(DGR)は2043-2045年に稼働する予定となっている。連邦政府レベルでは、2020年、連邦天然資源省がカナダの1996年の放射性廃棄物政策を見直すこととした。2つの構成要素があり、一つは、既存の放射性廃棄物政策の枠組みを更新する。国民の理解を得て、国際的なベストプラクティスに合わせる。もう一つは、低・中レベル放射性廃棄物を含めた包括的な放射性廃棄物管理戦略を開発するための対話を主導するようNWMOに要請した。NWMOの戦略案は第2四半期に発表される予定となっている。2050年までにネット・ゼロを達成するために、原子力エネルギーが重要な役割を果たすことに積極的に言及している。例えば、がん治療など医療用の放射性同位体(ラジオアイソトープ)を世界に供給する技術力や、2050年までに廃棄物処理インフラを整備するという連邦政府のコミットメントが強調されている。カナダのエネルギーの見通しは、全てのセクターの電力需要は、2050年まで着実な増加が見込まれる。また、再生可能エネルギーと原子力の予測も増加している。2050年までにネット・ゼロを目指すという目標を掲げている。原子力発電が現在の15%から25%に伸びるという想定をしている。オンタリオ州では、石炭火力発電がなくなり、電力部門からの温室効果ガス排出量は大幅に削減された。しかしながら、カナダの発電量のうち石炭火力発電はまだ7%を占めている。今後増えることが見込まれる電力需要に対応するためには、今後30年間で発電量を3倍に増やす必要がある。それと同時にゼロカーボンを達成しなければならない。化石燃料から脱却するために、2050年までにグリッドスケールでSMR 45基、大型原子炉20基、その他 水力発電などの自然エネルギーに加え、遠隔地では小型原子炉も必要になることが見込まれる。主な原子力プロジェクトとして、ブルース・パワー社とオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社が原子力発電所の大規模改修を実施している。カナダ最大のインフラプロジェクトであり、スケジュール通り予算内で収まる見込みだ。カナダは、SMR技術の開発と商業化において、世界をリードする位置付けにある。廃棄物管理、規制体制、国際協力を含むSMRロードマップもあり、SMRがクリーンエネルギーミックスをサポートするためのシナリオも考えられている。オンタリオ州では、12月にOPG社がGE日立ニュクリア・エナジー社と共同で、ダーリントン原子力発電所にBWRX-300(SMR)を設置すると発表。また、OPG社との合弁会社である原子力会社Global First Power社がUltra Safe Nuclear社と提携し、熱出力15MWのマイクロ原子炉を、2026年を目標に建設する予定となっている。連邦政府の動きとして、5,000万カナダドルをこうした事業者に出資している。放射性同位体では、半世紀以上にわたって、カナダは医療用アイソトープと放射性医薬品の研究開発・製造において国際的にリードしてきた。カナダ原子力安全委員会は、カナダ国内で250以上のアイソトープの使用と製造を許可している。原子力発電所関連についてはコバルト60が、1970年代からピッカリング原子力発電所で生産され、ダーリントン原子力発電所でもまもなく生産される予定。モリブデン99とテクニチウム99mは、ダーリントン原子力発電所で今年から製造される。その他の同位体については、かつて廃棄物と考えられていたものが、社会にとって価値のあるものだと見直されている。♢ ♢続いてAfrica4Nuclearの創設者であるプリンセス・トンビニ氏が発表。アフリカ大陸でのステークホルダー・インボルブメントについて自身の活動を踏まえて紹介した。Africa4Nuclearを設立した背景を、同氏のお気に入りの作家が「TED Talks」で語った“The Danger of a Single Story”(シングルストーリーの危険性)を挙げて説明した。トンビニ氏 発言要旨私たちの社会はさまざまな文化や価値観の中で構成されるストーリーがあることを忘れてはいけない。原子力は危険な技術というシングルストーリーを、TMI、チョルノービリ、福島をもとに展開し、開発に反対する動きは根強い。その一方で、原子力により得られる恩恵は大きい。アフリカでの原子力開発を守るために、2021年10月にAfrica4Nuclearが設立された。AUアジェンダ2063の達成に向けて原子力を推進することを目的とするアドボカシー・キャンペーンである。あくまでもアフリカ大陸における原子力プログラムの開発が目的であり、各国政府に対してどの技術を導入すべきかを規定するものではない。アフリカ大陸が原子力を含むエネルギーミックスを追求する理由は、エネルギー貧困を解消貧困、不平等、失業という脅威への対処気候危機の問題への対処経済復興と復興計画ポストパンデミックで重要な役割を果たすこと──が挙げられる。大規模な工業化に踏み切るためにも、エネルギー貧困に対処することは喫緊の課題である。トンビニ氏Africa4Nuclearは原子力に特化したシンクタンクとして、ステークホルダーと協力しながら、持続可能な開発に向け、原子力についての啓蒙活動を行い、短編ビデオなどを活用したソーシャルメディアキャンペーンを通じて情報を提供したりする。オピニオンリーダーとして、論説を書き、イベントやウェビナーにも参加する。SDG7(安価でクリーンなエネルギー)の実現は、SDGsの全項目を達成するために不可欠であり、政策立案者や指導者に原子力の利点を伝えることで、原子力を含むエネルギー政策に影響を与えることを目標とする。アフリカの原子力開発の動向として、ガーナは6月、商用利用されている原子力発電所の技術を評価するため、情報提供依頼書(RFI)を発行。中国、フランス、カナダ、韓国、ロシア、アメリカから15のベンダーがRFIに回答した。国際原子力機関(IAEA)はアフリカのケニアとウガンダで統合原子力基盤レビュー(INIR)会合を2度開催し、各国の原子炉インフラストラクチャ―開発の進捗状況を確認した。ナイジェリア政府は、5つの原子力関連規制を承認、可決した。 400万kWの原子力施設建設のための入札が近頃公開された。南アフリカは 250万kWの新規原子力発電所のための計画を承認した。調達プロセスは2024年までに終了する予定。ザンビアの放射線防護局は、国内の原子力技術の使用に対する規制体制が整ったことを発表。ルワンダは今後短期間のフィージビリティ・スタディに関する契約締結を予定している。ニジェールは政府の開発プログラムに含まれる原子力プログラムを確実に実行に移すことを確認した。考慮すべきは、アフリカでは、いまだ6億人が電気のない生活を送っていること。貧困撲滅に向けた国際的な取り組みを成功させる方法としてクリーンな近代的エネルギーを活用できることが不可欠と考える。大陸が直面する社会経済的課題を見れば、エネルギーミックスの重要性は明らか。ガスは、CO2収支の面でメリットが大きいが、一部の国では、パイプラインで発電所にガスを供給するためのインフラを開発する必要がある。南アフリカでは2030年以降、石炭火力発電所の老朽化による設備の廃止により容量1,000- 2,400万kW超分のエネルギーが失われる予定。他のエネルギーに置き換えるにも水不足が大きな課題であり、水力発電という選択肢はあり得ない。アフリカ諸国の現状を、イギリスの家庭1世帯が1日に2回お湯を沸かすために使う電力は、マリ国民1人当たりの年間電気使用量の5倍である。アフリカが目指す原子力の将来像は、適正な価格で確実なエネルギーが供給されること。「持続可能な開発のためのアジェンダ」実現のカギを握る原子力を、若い世代が、気候変動の解決に役立つクリーンなエネルギー源として評価する未来を描く。「メイド・イン・アフリカ」のSMR技術を商業利用にむけた共同研究の機会提供も検討される。アフリカには、軽水炉、SMR、HTRなど、豊富な原子力市場がある。日本の組織・機関には、アフリカが原子力開発の新たなフロンティアであり、原子力技術を有するすべての国が機会を求めて競い合い、すでに自らを位置づけていることを認識してほしい。Africa4Nuclearやその関係者とネットワークを構築し、アフリカ大陸の環境についてより深く理解し、機会を追求しないことは、日本にとって不利である。原子力に関しては、技術不足がアフリカが抱える課題だが、同様に原子力発電、原子力設置許可、サイト選定、原子力インフラの運転などの経験がなかったアラブ首長国連邦はバラカ原子力発電所を、2012年7月に建設を始め、2018年12月に完成させている。南アフリカは、ここで述べた大半の経験がある。50年以上にわたって研究炉SAFARI-1を運転しており、今や南アフリカは核医学において世界のトップクラスを誇る。クバーグ原子力発電所は1984年以来、安全に稼働している。こうした実績が、アフリカ大陸全体に、能力の面で競争力につながっている。ネルソン・マンデラ氏は、「奴隷制やアパルトヘイトと同様、貧困は自然のものではない。人間が生み出したものだ。それゆえに人間の行動で貧困を克服、撲滅させることができる。貧困や不正、差別がこの世からなくなるまでは、誰一人として本当に休むことはできない」と言っていた。原子力産業で働く現在の若い世代として、「包括的な成長と経済開発を基盤とした豊かなアフリカ」を築くことを約束する!♢ ♢続いて京都大学総合生存学館 特定准教授の武田秀太郎氏が、核融合スタートアップの状況について発表した。武田氏 発言要旨30年先の技術と言われながらも、急速に加速する核融合業界。その背景には核融合スタートアップの存在がある。公的な長期ビジョンに基づく戦略的プロジェクトと民間資金によるアジャイルなイノベーションが並走する土壌が醸成されつつある。先月、ホワイトハウスで核融合サミットが開催され、米エネルギー省が、民間部門と協力しながら、商用核融合エネルギーの実行可能性を加速させる「核融合エネルギーとプラズマ科学10か年国家戦略計画」を策定と表明。メジャーな米紙や日経新聞でも核融合の話題が取り上げられている。この一年を見ても英国のB.ジョンソン首相により「グリーン産業革命に向けた10項目の計画」が発表され、2040年までに商用利用可能な核融合発電炉の建設を目指すとした。さらに民間ではMITのスピンアウトであるCommonwealth Fusion Systems社は「2030年に発電」するとし、ビル・ゲイツ氏から2,000億円の資金調達に成功している。Googleが1,200億円を出資するTAE Technologies社も「2030年に原型炉完成」を目指す。国家レベルで20年、民間レベルではあと8年で発電開始が見込まれる。武田特任教授核融合は、国家レベルで予算が与えられるビッグサイエンスの位置付けを確立した。ビッグサイエンスプロジェクトとは、国際宇宙ステーションが代表的。このビッグサイエンスにベンチャーが進出した。特に有名なものとしてはスペースX社が挙げられる。2020年5月にスペースX社は歴史上初の民間による有人宇宙飛行を実現し、国際宇宙ステーションへの輸送コストをわずか1/20に削減した。ベンチャー企業によるビッグサイエンス領域への参入という新しい時代の幕開けが核融合業界にも起きつつある。核融合による新エネルギー開発の超大型国際プロジェクト(ITER)という長期ビジョンに従ったプロジェクトがある。その一方で民間資金によるアジャイルのイノベーションを狙う動きがある。核融合は各国政府によりビッグサイエンスとして半世紀以上研究されてきた。2050年頃に実用化が見込まれている。そんな中、この20年間、核融合関係のスタートアップは増えている。自社で核融合炉建設からエネルギー利用までを目指すと宣言する民間スタートアップの数は、過去20年間、増加の一途を辿り、これら企業の68%が過去10年間に、56%が過去5年間に設立されている。欧米が先行するが、国内でも京都大学発の京都フュージョニアリング社に続いて大阪大学発のEX-Fusion社が誕生した。74%の核融合スタートアップが2030年代に送電開始を想定しており、起業の勢いはますます加速する。さらに、IAEAの核融合装置データベースによれば、数ベースでは既に建設・計画中装置の半数が民間によるものとなっている。民間資金も2021年単年でも3,000億円に達する。新たなステークホルダーとして団体投資家が核融合という窓口を通じて続々と原子力業界に参入している。環境志向により、ESG投資((環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素を考慮した投資))先として核融合を選択する動きがある。長期ビジョンに基づいた公的なプログラムと、より活力のあるイノベーション思考の民間スタートアップ。こうしたものが同じ領域に存在する。さらに民間には、新しい風が常に吹き込まれる。こうした状況は核融合業界のみならず原子力業界全体にとっても望ましい方向性と言える。次世代原子力の有する環境上の利点を客観的に訴求し、かつイノベーションにより小型化・低コスト化・早期実現が可能であることを示すことで、新たなプレーヤーである民間投資家やスタートアップを惹きつける。♢ ♢パネル討論では、ステークホルダーの多様性と共感できるビジョンの提示について議論。原子力産業に対する理解を広めるにあたりどのような活動をしているのかについて、「絵本を使った読み聞かせや作文コンクールの実施、実際に設備を見学する機会をつくるなど地域コミュニティとの交流」(メイリンガー氏)、「短編ビデオの活用や若手への技術継承」(トンビニ氏)、「ライバルであり共に核融合業界を築くコミュニティの形成」(武田氏)が挙げられた。村上氏は、産業界と研究コミュニティの距離が生まれていることに懸念を示しつつ、コミュニケーションを取りながらいろんなステークホルダーの意見が意思決定に取り入れられる重要性を強調した。
- 15 Apr 2022
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