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ウクライナのエネルギー協会、政府に原子力産業の発展促進を勧告へ
ウクライナ・エネルギー協会(UEA)は10月22日、国内原子力産業界の今後の開発方向に関する円卓会議において、国家経済やエネルギー供給保証の要である原子力産業が将来的にもこれらの役割を担い続けられるよう、政府に支援を勧告することで合意した(=写真)。同協会は、ウクライナの民生用原子力発電公社や石油製品企業、関連投資会社などで構成されるエネルギー業界団体。今後、原子力産業界が新型コロナウイルスの感染拡大といった危機を乗り越え、さらなる発展を遂げるためのアクション計画を策定するよう、ウクライナ政府とエネルギー省に宛てた嘆願書を作成する方針である。今回の円卓会議には、UEA幹部のほかに同国の国家原子力規制検査庁(SNRC)や民生用原子力発電公社のエネルゴアトム社、およびその他の科学関係機関から代表者が出席したほか、関係するトレーダーや専門家、分析家も参加した。主な議題は新たな電力市場とその課題、発展の見通しといった条件の中で、ウクライナ原子力産業界の現状を分析すること。また、エネルゴアトム社における今後の開発や計画の方向性と投資プロジェクト、関係法規制を改正する必要性についても話し合われた。最終的な議論の総括として、参加者全員は以下の点で合意した。すなわち、・原子力はエネルギー供給保証の要であるとともに、国家経済の発展を保証するため、将来的にもその役割を担い続ける。・原子力産業を維持・発展させる方策や重点分野を特定するため、戦略文書を取りまとめる必要がある。・エネルゴアトム社の財務体質を健全な状態に回復させることは、新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大という状況の中、国の経済や産業の維持に向けた最も重要な任務の一つである。・エネルゴアトム社が公平な条件で、電力市場への参加が可能になるメカニズムを確保するには法改正が必要である。ウクライナは1986年のチェルノブイリ事故直後、新規の原子力発電所建設工事を中断したが、国内の電力不足と原子力に対する国民感情の回復を受けて1993年にこのモラトリアムを撤回した。近年はクリミアの帰属問題や天然ガス紛争等により旧宗主国であるロシアとの関係が悪化したが、P.ポロシェンコ前大統領は「ロシアからの輸入天然ガスがなくても切り抜けられたのは原子力のお蔭」と明言。「原子力による発電シェアが約60%に増大した過去4~5年間はとりわけ、原子力発電所が国家のエネルギー供給保証と供給源の多様化に大きく貢献した」と述べた。また、ウクライナ内閣は2017年8月に承認した「2035年までのエネルギー戦略」の中で、原子力は2035年までに総発電量の50%を供給していく目標を明記。2019年5月に就任したV.ゼレンスキー大統領は、前政権のこの戦略を実行に移すため、原子力発電開発のための長期プログラムの策定を命じた。さらに、今年9月には「エネルギー部門の状況の安定化と原子力発電のさらなる開発に向けた緊急方策のための大統領令」を公布している。(参照資料:UEAの発表資料(ウクライナ語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 29 Oct 2020
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ウクライナ大統領、原子力発電拡大への支援を約束
ウクライナの民生用原子力発電公社であるエネルゴアトム社は10月1日、同国のV.ゼレンスキー大統領が同社のロブノ原子力発電所が立地する地域を訪れ、「ウクライナ政府は今後も原子力発電を擁護しその拡大を支援していく」と明確に表明したことを明らかにした。これは大統領が現地メディアとの会見の場で述べたもので、建設工事が中断しているフメルニツキ原子力発電所3、4号機(各100万kWのロシア型PWR)の今後に関する質問に対して、同大統領は「我が国には原子力発電開発と原子力発電所の完成に向けた確固たる戦略がある」と回答した。「両機を完成させた後はロブノ地域についても原子力発電所の建設を検討するし、これらは必ず実行する」と明言。その上で、「いずれにせよ、ウクライナではすでに原子力で総発電量の半分以上を賄っているし顧客が負担する電気代も最も安い」などと指摘した。同大統領はまた、原子力には潜在的な危険性があるとの非難に対し、「根拠のない非難だ。専門の業者が原子力発電所を建設し国家がその安全性確保のために働けば、自然環境への悪影響や地球温暖化を懸念することもなくなる」と説明。「原子力は安全な発電技術である」との認識を改めて強調している。同大統領はこれに先立つ9月22日、「エネルギー部門の状況の安定化と原子力発電のさらなる開発に向けた緊急方策のための大統領令」を公布しており、この中でフメルニツキ3、4号機を完成させるための法案を2か月以内に議会に提出するよう内閣に指示した。また、2017年にP.ポロシェンコ前大統領時代の内閣が承認した「2035年までのエネルギー戦略:安全性とエネルギー効率および競争力」を実行に移すため、原子力発電開発のための長期プログラムを策定することも命じている。ウクライナではまた、公共の利益を守るために電力市場の参加者が公共部門の特殊な義務事項を履行した結果、電気事業者に負債が生じる事態となっていた。このため、同大統領令は内閣に対して返済のための包括的な対策を取るよう命令。さらに、エネルゴアトム社を含む電気事業者に今後、同様の負債が生じることを防ぐため、内閣にはあらゆる手段を講じることを指示していた。旧ソ連邦時代の1986年、国内でチェルノブイリ原子力発電所事故が発生した後、ウクライナは1990年にフメルニツキ3、4号機の進捗率がそれぞれ75%と28%の段階で建設工事を停止した。しかし、国内の電力不足と原子力に対する国民の不安が改善されたことを受けて、同国政府は2008年に両炉を完成させる方針を決定している。(参照資料:エネルゴアトム社の発表資料と大統領令(ウクライナ語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 06 Oct 2020
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ウクライナで建設工事停止中の2基の完成に向けWH社が支援提供を提案
ウクライナの原子力発電公社であるエネルゴアトム社の9月7日付け発表によると、同国西部のフメルニツキ原子力発電所で建設工事が中断している3、4号機(K3/K4)(各100万kW級のロシア型PWR)の完成に向け、ウェスチングハウス(WH)社が支援提供する可能性が出てきた。今月3日と4日の両日、ウエスチングハウス・エレクトリック・スウェーデン社のA.ダグ社長はウクライナの首都キエフにあるエネルゴアトム社を訪問した。ウエスチングハウス社はウクライナの原子力発電所に原子燃料等の供給を行っており、両社間のそうした協力関係を一層強化するための協議をP.コティン総裁代理と行ったもの。その際、同社長はK3/K4の建設計画に関して「燃料を供給するだけでなく、自動プロセス制御システム(APCS)やその他の機器を提供する用意がある」と明言、同社は原則的に、エネルゴアトム社が同計画で必要とするすべてのことに対応可能だと表明している。K3の建設工事は1985年9月に、K4は1986年6月に始まったものの、チェルノブイリ事故の発生により建設工事は1990年に進捗率がそれぞれ75%と28%の段階で停止した。しかし、国内の電力不足と原子力に対する国民の不安が改善されたことを受けて、ウクライナ政府は2008年に両炉を完成させるための国際入札を実施。資金援助を条件に、ロシアのアトムストロイエクスポルト社を選定した。その後、政府に対する抗議活動が頻発するようになり、2014年に親ロシア派のV.ヤヌコビッチ政権が崩壊。クリミア半島の帰属問題や天然ガス紛争の発生によりロシアとの関係が悪化していき、A.ヤツェニュク首相は2015年、ロシアへのエネルギー依存を軽減するためK3/K4建設計画でロシアと結んだ協定の取り消しを決めた。2016年9月になるとエネルゴアトム社が、韓国水力・原子力会社(KHNP)との協力により両炉を完成させると発表する一方、機器のサプライヤーとしては欧州企業を検討中であることを同年11月に明らかにしていた。WH社がウクライナの原子力市場に参入したのは1994年のことで、同社は現在、ウクライナで稼働する商業炉15基のうち6基に対して核燃料を供給中。このうち3基は、全炉心に同社製の燃料集合体が装荷されており、WHスウェーデン社のダグ社長は今回、「2025年までに当社製の燃料のみで稼働する原子炉の基数はさらに増える」と述べている。ダグ社長はまた、燃料の供給以外にもWHスウェーデン社がエネルゴアトム社に協力できる分野は数多く存在すると考えており、その中でもとりわけ有望なのがK3/K4建設計画。同社長は「世界の一般的なエネルギー業界にとっても、またウクライナの将来的なエネルギー・ミックスの中でも特に、原子力が重要な要素であり続けることは間違いない」と指摘した。ただし、ウクライナの原子力発電所では経年化が次第に進んでいるため、「ウクライナで今後も原子力発電を維持できるよう、十分な準備期間の確保が必要なことを肝に銘じておかねばならないし、発電設備の更新は今、直ちに取り組まねばならない問題だ」と強調している。(参照資料:エネルゴアトム社の発表資料(ロシア語)、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 11 Sep 2020
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ウクライナ、3発電所の使用済燃料の集中中間貯蔵施設を9月末までに完成へ
ウクライナの民生用原子力発電公社であるエネルゴアトム社は5月18日、国内で稼働する3つの原子力発電所の使用済燃料を集中的に中間貯蔵する施設(CSFSF)について、すべての建設工事と機器の設置作業を9月末までに完了すると発表した。当初計画より約半年遅れと見られているが、同社はこれにより、年内にもCSFSFで最初の使用済燃料の受入れを目指す方針である。同国では、閉鎖済みのチェルノブイリ原子力発電所と稼働中のザポロジエ原子力発電所でそれぞれ、専用の使用済燃料中間貯蔵施設を建設中あるいは使用中。残りのロブノ、南ウクライナ、フメルニツキの3原子力発電所については、チェルノブイリ発電所の南東に位置する「立ち入り禁止区域」内で使用済燃料を乾式貯蔵することになっている。エネルゴアトム社は2005年に米国のホルテック・インターナショナル社とCSFSFの建設契約を交わしたが、 政治情勢の変化などを含むいくつか理由により、作業は長期にわたって凍結された。両社は2014年6月に改めて修正契約に調印しており、現地で実際の建設工事が始まったのは2017年11月のことである。CSFSFではホルテック社製のHI-STORMキャニスター458台に使用済核燃料集合体を16,529体貯蔵することが可能であり、2重のバリア・システムによってこれを100年間、周辺環境から安全に隔離。3つの原子力発電所の使用済燃料はこれまで、年間最大2億ドルを支払ってロシアに移送・再処理していたが、CSFSFが操業開始することでエネルゴアトム社はその年に最大1億ドル、その後は年間で最大1億4,000万ドルを節約できるとしている。同社の今回の方針は、今月15日に「立ち入り禁止区域」で現場会合を開催した後、P.コティン総裁代理が同社の関係部門や契約企業に対して表明したもの。作業ペースを上げるため、同総裁代理は機器や重要システムの設置作業を引き続き監督するシステムの導入を決めた。また、現場会合では使用済燃料の輸送に使う現地の廃線鉄道区間の早急な復旧を求める意見が出されたが、政府のロードマップどおりに復旧を進めるには樹木の伐採経費等を調達する必要があり、使用済燃料がCSFSFに到達するまでの輸送関係経費をウクライナの契約企業の一つがすべて負担することになった。さらに現地では、4月に発生した火災や3月に新型コロナウイルス対策で都市封鎖が行われたことにより作業ペースが鈍化。エネルゴアトム社が建設工事の完了とCSFSFの操業開始を目指して作業員の数を徐々に増強する一方、3つの原子力発電所ではすでに、使用済燃料をCSFSFに移送する準備を開始している。(参照資料:エネルゴアトム社の発表資料(ロシア語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 22 May 2020
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ウクライナ、国内でのSMR建設に向けホルテック社に続きニュースケール社とも覚書
ウクライナの国立原子力放射線安全科学技術センター(SSTC NRS)は2月14日、国内で米ニュースケール・パワー社製の小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」(=断面図)を建設・運転する際の規制上、設計上の課題を評価するため、同社と了解覚書を締結したと発表した。 覚書の調印式は今年1月、ニュースケール社の事務所があるオレゴン州コーバリスで行われており、これには両者の代表者に加えて米国務省やエネルギー省(DOE)、ウクライナの国家原子力規制検査庁(SNRIU)の代表者らが参加した。ウクライナはすでに2018年3月、国内で米ホルテック・インターナショナル社製SMRの建設計画を進めつつ同技術の一部国産化を目指すため、ウクライナの原子力発電公社(エネルゴアトム社)がホルテック社との協力覚書に調印。2019年1月には、これらにSSTC NRSを交えた3者が国際企業連合を正式に結成し、国内でSMRの建設計画を促進している。 ただし、ホルテック社のSMRは今の所、米国内の設計認証(DC)手続が正式に始まっていない。これに対してニュースケール社製のSMRは、米原子力規制委員会(NRC)がSMRに関して唯一実施している全6段階の設計認証審査のフェーズ4まで終了。すでにカナダやヨルダン、チェコ、ルーマニアで同社製SMRの建設可能性調査に関する覚書が結ばれているほか、2020年代半ばには米国初のSMRとしてDOE傘下のアイダホ国立研究所内での運転開始が見込まれている。 今回の覚書によりSSTC NRSは具体的に、米国で行われているニュースケール社製SMRのDC審査経験に基づき、ウクライナの建設・運転許認可プロセスにおける米国との隔たりについて分析・調査を実施する。SSTC NRSはウクライナでSNRIUが新たな原子力技術を審査・承認する際、主要アドバイザーとして機能している。SNRIUが原子力安全の基準や規制・規則に対するコンプライアンスを確認し、データ分析や報告を行うにあたり、独立の立場の評価結果や技術的助言をSNRIUに提示していることから、SSTC NRSは同覚書を通じてSMR技術がウクライナのエネルギー需要を満たす上でどれほど有効であるかなど、関連する様々な疑問に答える一助になると指摘。評価結果をSMRの許認可プロセスに統合して、国内での将来的な建設につなげたいと述べた。 ニュースケール社も「SSTC NRSは経験豊富かつ評判の高い科学技術支援組織」と評価した上で、「当社のSMR技術をウクライナの将来エネルギーに組み込む最良の方法を探し出してくれるはずだ」とコメント。ウクライナとの覚書は、同社がSMR技術の開発リーダーであるとともに技術革新企業であることを示しており、今後も潜在的顧客となり得る世界中の組織と同様の合意を得るべく協議を続けていきたいとしている。(参照資料:ニュースケール社、SSTC NRS(ウクライナ語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 19 Feb 2020
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