キーワード:教育
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NEAマグウッド事務局長が来日 都市大で講演
OECD/NEA(原子力機関)のマグウッド事務局長がこのほど来日し、東京都市大学で講演した。講演会は同大とNEAが人材交流を目的にMOUを締結したのにあわせて開催された。マグウッド事務局長は、「次代を担う原子力:新たなチャンスと取り組むべき課題」と題し、次世代炉や小型モジュール炉(SMR)導入の展望に加え、原子力利用の加速に向けた資金調達や、規制の在り方、政策支援、市場環境、インフラ整備における課題と対策について、1時間ほど講演した。事務局長は、「2050年のカーボンニュートラル、世界の原子力発電設備容量を現在の3倍にするために、既存炉の長期運転、SMRの建設拡大、原子力の非電化用途の拡充など、同時並行で実施する必要がある。そのためには大きく4つの課題(サプライチェーン、法規制、政策と市場、インフラ整備)をクリアしなければならない」と述べた。特に今日の電力市場は、「長期的な環境対策とエネルギー安全保障が十分に考慮されておらず、出力調整可能なエネルギーに大きな価値がある」と指摘した。また、「各国政府がFOAK(初号機)リスクに対処するための政策の立案、新規原子力建設の資金調達を支援するための政府保証が重要であり、世界銀行のような国際金融機関が大きな役割を果たさねばならない」と語った。そして、「NEAでは、学生を対象としたさまざまなワークショップを各国で開催し、関係省庁や機関、そして産業界の専門家と科学技術について議論する機会を提供している。この講演に参加されている東京都市大学の学生の中にも、良いアイデアをお持ちの方がいるかもしれない」と述べ、学生の参画を促した。事務局長は、「長年にわたり原子力の仕事をしてきたが、原子力の評価は時代とともに変化してきた。私がこの世界に踏み入れた頃は、原子力は経済的に成り立たず廃れていく産業だと考える人が多くいたが、のちに原子力ルネサンスと呼ばれる時代が訪れた。しかし、福島第一原子力発電所の事故のような、業界内に大きな影響を与える出来事があり、そこから多くの教訓を学び、今に至っている。近年では多くの国が、原子力をエネルギーミックスの一部として取り入れるようになっており、今こそ原子力が本領を発揮する好機だ」と強く訴えた。
- 26 Feb 2025
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霧島高校 クリアランス金属活用を通じた探究学習の深化
鹿児島県立霧島高等学校は、霧島温泉駅から徒歩8分の、霧島連山のふもとにある機械科と総合学科を併設した、小規模ながら特色ある学校だ。1学年は約40名、現在の全校生徒は104名。機械科の生徒は学年によって9〜18名と変動するが、毎年約10名が入学し、ものづくりの技術を学んでいる。同校校長の横山謙二先生は、「規模は小さいかもしれないが、自慢の先生や生徒が揃っている」と誇らしげに語る。霧島高校の機械科では、福井南高等学校からの声がけをきっかけに、クリアランス金属の活用をテーマにした教育活動をスタートさせた。新たに独自の取り組みを始めた霧島高校の姿を追った。地元で考える資源活用:「クリアランス金属」をどう活かすか霧島高校では、クリアランス金属の可能性を探る実践的な学習を進めている。 その一環として、地元の製造業との連携も視野に入れながら、金属の加工や再利用について学ぶ機会を設けた。「金属を溶かして加工するには、どんな技術が必要か?」「鹿児島にはどのような鋳造・金属加工の企業があるか?」 生徒たちは、こうした疑問を持ち、地域産業と結びつけながら学びを深めている。しかし、クリアランス金属の利用には社会的な理解が不可欠である。再利用には安全基準が設けられているものの、「放射性物質由来」というイメージが社会に与える影響は小さくない。「データでは安全と示されているが、人々の感情はどうか?」「私たちが地域にこの金属を使った製品を設置しようとしたら、受け入れられるのか?」こうした問いを持ち、霧島高校の生徒たちは、「科学的根拠」と「社会的合意」の両面から課題に取り組んでいる。今回の取り組みの代表格は、霧島高校3年生の東條誠くん。「最初は単に『原発由来の金属』というイメージだけだったんです。でも、実際に触れてみると、単なる“危ないもの"ではなく、どう活用するかが大事なんだと気づきました。 放射線とは何か? クリアランスレベルとは? そうしたことを知るうちに、単なる賛成・反対では語れない問題だと分かりました。」 (東條くん)東條くんは、今春から海上自衛隊に入隊する予定だ。「海自に入っても、今回の経験をみんなに伝えたいし、もっと原子力発電所を見学してみたいと思っています。」(同)技術の習得だけでなく、考え方にも変化が生まれた。「このプロジェクトを通じて、“原発は危ない"という単純な考え方から、“じゃあその後の処理はどうするのか"という視点に変わりました。つまり、原発の是非だけでなく、“出たものをどうするか"という考え方が大事だと実感しました。」 (同)社会的合意形成への挑戦:「地層処分」問題をどう考えるか霧島高校では、今回のクリアランス金属の活用以前から、放射性廃棄物の地層処分問題などエネルギー教育にも力を入れている。この授業の中心にいるのが、冨ヶ原健介先生だ。冨ヶ原先生の指導のもと、生徒たちは科学的視点だけでなく、倫理や政策決定の側面にも目を向け、総合的な判断力を養っている。「社会の中で合意形成がどのように行われるのかを、生徒たちに体験してもらいたい」と、冨ヶ原先生は、「誰がなぜゲーム」と呼ばれるシミュレーションを授業に取り入れた。このゲームでは、「国民」「地域住民」「政策決定者」などの役割を生徒が演じ、それぞれの立場から地層処分問題に向き合う。「どうして廃棄物の処分のことをきちんと考えずに、原発を使い始めたのか?」ある生徒の言葉に、冨ヶ原先生は「なるほど、鋭い指摘だ」と頷いた。そして語りかける。「でも実際に周りを見てごらん。何か新しいことを始めると、必ずその後から問題が出てくるものなんだ。私たちはコロナ騒動でそれを経験したばかりだよ」技術の発展は、常に未知の課題を伴う。冨ヶ原先生は授業の中で、「意思決定のプロセスを理解することが重要」だと強調している。単なる賛否ではなく、どのように社会的な合意を形成し、持続可能な解決策を見出していくかを生徒たちは学んでいる。生徒が伝える技術:「浮かぶボール」の工作指導霧島高校の生徒たちは、学んだ技術を次世代へとつなぐ活動にも取り組んでいる。小学生に科学の面白さをどう伝えるか? その試みの一つが、小中学生を対象にした「浮かぶボール」工作指導だ。これは、アルミ空き缶とペットボトル、ストローを使い、息を吹きかけることで正二十面体のアルミのボールが浮き上がるというシンプルな実験だが、空気の流れや物理の原理を体感できる教材となる。指導を通して生徒たちは、自分が理解していることを“相手に伝える”難しさを実感するのだという。冨ヶ原先生は、「技術を学ぶことはもちろん重要だが、それ以上に、それを社会とどうつなげるかが大事だ」と語る。この経験を通じて、生徒たちは「科学の面白さを伝えるスキル」「相手の理解度を考えながら説明する力」といったコミュニケーション力を育んでいく。先ほどの東條くんも「浮かぶボール」の工作指導を経験し、「教えることの難しさ」を実感したという。「最初は、ただ説明すればいいと思っていました。でも、小学生の理解度は一人ひとり違う。ある子には伝わるけど、別の子には全然伝わらない。 どう説明すれば分かりやすいか、相手に合わせた伝え方を考えることが大事だと学びました」(東條くん)そして指導を通じて、自分自身の成長も感じたという。「小学生って本当に純粋で、『これは何?』『なんでこうなるの?』と、食い気味に質問してくるんです。 それに答えていくうちに、自分もより深く理解できるようになった気がします」(東條くん)霧島高校の挑戦が示す 教育の可能性今回の取り組みを通じて、霧島高校の生徒たちは、「科学技術を学ぶだけでなく、それを社会にどう活かすか」「賛否が分かれる問題について、どのように合意形成を進めるか」━━を実践的に学んでいる。単なる知識の習得ではなく、「地域の課題に対して、自分たちがどう関われるか?」を考える姿勢が養われているのが、霧島高校の教育の大きな特徴だ。今後、この学びの成果がどのように社会へ広がっていくのか、注目していきたい。
- 21 Feb 2025
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高校生が先端科学について発表 文科省主催イベント
東京で2月13~16日、高校生を対象とした科学リテラシー向上へ向けたユニークな活動が紹介された。京都大学複合原子力科学研究所の中村秀仁助教が主導する「Nプロジェクト」が、TIB(Tokyo Innovation Base、東京・千代田区)で開かれたイベントに出展したもの。「Nプロジェクト」は、中村助教の発案で2023年春から始動した取り組みで、大阪高等学校の約2,000人の生徒を対象に、文系・理系を問わず科学リテラシーの向上を目指している。スマホアプリを活用した参加型授業など、生徒たちが主体的に取り組めるよう、さまざまな工夫が凝らされている。同プロジェクト最大の特徴は、生徒一人ひとりが学んだことをスケッチブックにまとめ、市民に向けて発表する機会を多く設けているという点にある。アウトプットを繰り返すことで、知識の定着を図るためのものであるが、発表の場では、熱心に説明する子供たちの姿に関心を持ち、足を止める女性が多く見られたという。この取り組みは、次世代層だけでなく、女性層における先端科学の理解促進にもつながっていると、中村助教は指摘する。このイベントは、8月14~19日に大阪・関西万博会場で開催される「わたしとみらい、つながるサイエンス展((産官学連携研究プロジェクトの成果や活動を国内外に広く発信するイベント。8月14~19日の6日間、大阪・関西万博の会場で開催予定。))」(主催:文部科学省)の展示を、一足先に体験できる場として企画されたもの。生徒たちは、「身の回りの放射線」や、「医療分野で活用されている放射線」など、さまざまなテーマについてまとめたスケッチブックを手に持ち、来場者に向けて発表した。14日には、阿部俊子文部科学大臣もブースを訪問。中村助教より参加型授業を模した2択クイズ形式でプロジェクトの紹介を受け、興味深そうに耳を傾けていた。大阪高校2年生の坂部偉吹さんは、Nプロジェクトを通して、「電球はどのような仕組みで光るのか」など、日常の中で疑問を見つけ、それを調べる習慣がついたと話す。また、そうして学んだことを人に伝えることの楽しさを実感し、積極的に発表の場に参加するようにしているという。同校1年生の山守若葉さんは、今回のイベントでの発表を通じて、来場者からたくさん褒めてもらうことができ、「嬉しい、楽しい、といったプラスな気持ちでいっぱい」と笑顔で感想を話した。中村助教は、同サイエンス展への参加を通じ、「生徒たちには、多くの方と対話し、社会とのつながりを感じると共に、自分たちの取り組みが社会に通用する素晴らしいものであることを実感してほしい」と期待を寄せた。
- 20 Feb 2025
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「かべ新聞コンテスト」優秀作発表 エネ庁
資源エネルギー庁は2月3日、小学校高学年を対象とした「かべ新聞コンテスト」の2024年度優秀作品を発表した。エネルギー教育推進事業の一環として継続的に行われているもので、「わたしたちのくらしとエネルギー」をテーマとする自由研究を「かべ新聞」の形にまとめた作品を募り審査。最優秀賞は、佐藤未琴さん(札幌市立新川小学校6年)の「Shift in thinking 先駆者から伴走者へ」、海津奏太さん(新潟市立濁川小学校5年)の「生き物と僕たちの未来新聞」が受賞した。佐藤さんは、かつて地元の北海道に多く存在した炭鉱に着目。自身の祖父も三笠市の炭鉱で働いていたという。石炭は、戦後日本の高度経済成長を支えてきたエネルギーの「先駆者」といえるが、作品ではまず、「石油の需要に押され炭鉱は閉山し、今は大きな立坑跡を残しているだけ」と、問題提起。将来のエネルギーを見据え、「化石燃料から排出される温室効果ガスの影響もわかり始めて、化石燃料以外のエネルギー資源を取り入れて電気を作るようになりつつあります」と、エネルギー利用と環境保全の関連にも触れた上で、エネルギー源別の「S+3E」に係る現状を調べ上げ作表した。石炭については、家族の保管していた石炭試料からの話をもとに関心を深め、「ほかの化石燃料にくらべて安い」と、経済効率性のメリットをあげる一方で、「CO2排出量が多い」といった環境適合性の課題も指摘。原子力については、「長時間安定的に発電できる」、「発電時にCO2を排出しない」と述べている。今の小学生はもう福島第一原子力発電所事故の発生時を知らない世代だ。佐藤さんは、「国内で調達できるエネルギー資源を考える」と、エネルギー自給の重要性を強調。その中で、原子力発電については、「課題も多く不安に思う人もいると思います。私は、こわがるだけでなく正確な知識を学んでいきたいと思います」と、さらに学んでいく意欲を示している。かべ新聞では、結論として、「2030年のエネルギー資源は、もうしばらく化石燃料の力を使って発電するようです」と、多様なエネルギー需給の選択肢を考え続けていく必要性を示唆。佐藤さんは、「化石の博物館」と呼ばれる三笠市立博物館を見学し、炭鉱跡地でCCUS(CO2回収・有効利用・貯留)の実証が行われていることを知る。「炭鉱跡をもう一度」との見出しを掲げ、「昔、エネルギーを手に入れるために使われた場所が、今度は別の方法で利用できるのはすごいこと」と述べ、今でも石炭はエネルギーの「伴走者」であることを強く訴えている。本作品に対し、審査委員長の講評では、「化石燃料の利用の変遷を踏まえながら、現在のエネルギー利用を捉え、その上で未来を考えるというしっかりした構成だ」と評価している。学校賞を受賞した札幌市立桑園小学校からは6作品が入賞。食とエネルギーの関係や、雪を利用したエネルギーに係る研究もあった。原子力発電所の立地市町村では、美浜町エネルギー環境教育体験館「きいぱす」の支援による美浜町立美浜中央小学校・同美浜東小学校の生徒の共同作品が特別賞を受賞した。
- 04 Feb 2025
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アツイタマシイ Vol.9 クリスティン&ザイツ
ディアブロキャニオンの延長を勝ち取る運転期間延長を勝ち取りましたね。20年でしたか?クリスティンありがとうございます。ディアブロキャニオン原子力発電所を所有するパシフィック・ガス&エレクトリック(PG&E)社が、運転期間の20年延長を申請し、米原子力規制委員会(NRC)が受理しましたので、いずれライセンスが更新されることは間違いありません。ですが発電所の運転期間に関してはカリフォルニア州にも決定権があるのです。今のところ州政府は、5年の延長が妥当だと考えているようです。私たちMothers for Nuclear(MfN)は、その期間をもっと延長するよう、州政府に働きかけているところです。運転期間延長が決まり、MfNはより幅広い活動を展開するようになったのですか?ハザーそれは違います。2016年にMfNを始めたとき、カリフォルニア州における原子力発電所は非常に厳しい状況に置かれていました。ディアブロキャニオンの閉鎖は既にPG&Eによって決定されていたので、MfNは他の州や国で、原子力を支持する活動を行っていたのです。ですがここ数年間で、カリフォルニア州の状況は大きく変わりました。州政府は、停電を回避するには原子力が必要であることを認識したようです。そのためMfNも、ディアブロキャニオンを護る活動に力を入れ、原子力の重要性についてのコミュニケーションを展開しています。他の地域でも引き続き活動を続けているので、活動の幅が広がったように見えるのでしょうね(笑)カリフォルニアの現在のエネルギー構成は?クリスティンカリフォルニア州には多くの再生可能エネルギーがありますが、既存の原子力発電所を閉鎖するとエネルギー不足に陥ります。原子力はカリフォルニアのエネルギーミックスの欠かせない一部なのです。カリフォルニアの世論はどうですか?クリスティン2016年に始めたとき、全米で原子力の支持率は低下していました。しかし、最近では、電力供給の現実を直視するようになり、原子力が必要だという意識が高まってきています。2024年には、カリフォルニア州民の大多数が原子力を必要だと考えているという驚くべき数字が出ました。カリフォルニアの人々はシュワルツェネッガーのように、太陽光や風力が好きだと思っていました(笑)クリスティンはい。私たちは再生可能エネルギーを愛していますが、再生可能エネルギーと原子力は両立できるものだとも思っています。再生可能エネルギーだけでは限界があるので、原子力も重要な役割を果たすべきです。ハザーカリフォルニア州はすでにかなり多くの再エネ電源を持っていますが、そろそろ限界に近づきつつあります。再生可能エネルギーは特定の時間帯にしか電力を生産できないため、貯蔵設備を作らなければならず、そのためのコストもかかります。そのため、カリフォルニア州の電力は米国で最も高いレベルとなっています。この現実が、私たちの議論を原子力という選択肢にシフトさせる要因となっているのです。また、私たちの電力供給の半分は天然ガス火力であり、30%は他州から輸入しています。つまり、まだ多くの課題が残っており、あらゆる選択肢が必要だと実感しています。クリスティン実は、日本と似た状況なのだと思います。カリフォルニアもエネルギーを輸入しています。日本はもっと多くを輸入しているかもしれませんが。一方でカリフォルニアは隣の州から電力を送ることができるという利点がありますが、日本は島国なのでそのような選択肢がありませんね。そのため、カリフォルニアは日本よりも少し長い間、現実から目を背けていられるような形です。日本はその地理的制約から、早く現実と向き合わなければならないと思いますよ。カリフォルニアの反原子力運動は少数派MfNを始めた理由は?クリスティン私たちがMfNを始めた理由の一つは、カリフォルニアにも原子力に反対する活動家グループがあり、メディアの注目を集めていたからです。彼らは非常に声が大きく、コミュニティ全体が原子力に反対しているという印象を与えますが、実際には少数派なのです。だからこそ、MfNとして活動し、その“ナラティブ”に対抗することが重要だと思いました。反原子力の活動家は決して人々の声を代表していません。しかし、残念ながらメディアはそのように取り上げています。ハザーもう一つ、MfNを始めた理由は、会社(PG&E)が言わないことや言えないことを言いたかったからです。幸いにも、会社は私たちがそれを行うことを許してくれました。私たちが会社を代表していないこと、会社とは別の組織であることを明確にする限り、非常にうまくいっています。ソーシャルメディアが企業にとってリスクがあることを、私たちは認識しています。企業は将来的な経営を見据えて、常に保守的なメッセージを発信しますが、私たちがそれを損なうようなことをしたくありません。ですから、会社が懸念を持った場合は、常に私たちに連絡するように伝えています。私たちからも、私たちが何をしているのか、なぜそれをしているのかを伝え、常に透明性を持って会社と話し合っています。MfNのメインでのコミュニケーション活動は、対面での対話集会でしょうか?ソーシャルメディアを使った活動も多いようですが。クリスティン対面でもSNSでも、あらゆる機会をとらえて活動しています。最近は原子力産業界を対象に、どのようにコミュニケーションをしていくべきかをお話ししています。より多くの人が原子力の価値を共有し、それを地域社会に持ち込むことで、さらに加速的に広がるのです。原子力業界のイベントでお話することもありますが、原子力を支持しないグループや政治団体、学校などでもお話します。もちろん、SNSやウェブサイトも活用しています。ハザーSNSは、対面のイベントでは届かない広い範囲にリーチすることができます。クリスティン対面イベントは素晴らしい機会なのですが、どうしても限定的になります。十分な人々に届きません。ですから、もっといろいろな方法でコミュニケーションを図る必要があります。STEM分野に女性を対面でのコミュニケーションは限定的とはいえ、効果が絶大で強力なツールなのではないでしょうか?昨春JAIFは米国からグレース・スタンケさんを招聘し、日本の中学生や大学生たちとディスカッションする場を設けました。ハザー素晴らしい。若い人同士のディスカッションは盛り上がったのではないですか?特に女学生たちが大いに影響を受けていたようです。日本では、STEM分野(科学、技術、工学、数学の4分野)の女性が少ないことが問題になっているのですが、その理由の一つに、ご家族がSTEM分野へ進むことに反対しているということがあるのです。クリスティン興味深いですね。ご家族はSTEM分野全体に反対しているのですか?それとも原子力に反対しているのですか?私も驚いたのですが、ご家族は娘さんがSTEM分野に進むこと自体に反対しているそうです。もちろん、原子力なんてもってのほかかもしれません。クリスティンSTEMという分野では、時には危険なこともありますからね。スタンケさんのようなSTEM分野で活躍する女性たちは、後に続く女性たちにとって大変良いモデルケースになります。特に日本の女学生にとっては、大きな励みになると思います。クリスティンそうですね。私たちも、もっと多くの女性たちがSTEM分野に進み、特に原子力業界に関わってくれることを強く望んでいます。女性が増えることでチーム全体が強くなり、より良い仕事ができると思うのです。ハザー私は原子力発電所のオペレーターとして、男性たちとチームを組んで仕事をしていますが、自分の貢献は少しばかり特別で、ユニークだと感じています(笑)コミュニケーションの方法が違いますし、気に掛ける点も違います。こうした「違い」がチームを強くし、どんなに異常事態にも対応できるようになるのです。そのためにも女性の力が必要です。もっと多くの女学生にSTEM分野に関心を持ってもらいたいですね。原子力コミュニティが大きく成長COPにも参加されたそうですね。クリスティンはい。ドバイのCOP29に参加しました。11歳の娘と一緒に。とても特別な経験でした。エネルギッシュな会議でしたね。原子力に対する世界的な支持を見るのは本当に励みになりました。またドバイでは、「エコ・ニュークリア」というスペインのNPO団体と知り合いました。スペインで原子力発電プラントを閉鎖の危機から救うために非常に努力しているグループです。彼らはMfNがカリフォルニアで経験したのと同じような課題に直面しています。ですから、私たちはそのことに多くの共感を感じました。MfNは最初、二人の個人から始まりました。原子力の価値を強く信じて活動を開始したのです。自分たちの国が間違った方向に進んでいると感じ、それを正すために声を上げました。ハザー私たちはこうした原子力の支援活動を、世界中にもっと拡大していこうと考えています。世間の人々はこうした活動に従事するメンバーの真摯な姿勢を見て、共感し、信頼するものです。自分たちだけでできることは限られていますが、同様の活動を行っている他のNPOグループをサポートし、互いに協力して使命を達成することを目指しています。クリスティン2016年に活動を開始したとき、私たちはとても孤独を感じていました。原子力を支持するグループは、ほとんど存在しませんでした。私たちは多くのネガティブな反応を受けました。原子力産業界からお金をもらっていると言われたり、悪意があると非難されたりしました。しかし現在では、原子力を支持するコミュニティがソーシャルメディア等を通して成長し、同じような活動をするグループも出てきました。MfNとしては他のグループをサポートし、より効果的な活動ができるよう連携しています。ハザー今では、米国内のみならず世界中に原子力を支持するグループが増えてきています。私たちはその活動をサポートしています。クリスティンハザーと私がMfNを始めた2016年には、原子力を支持する声はほとんどなく、企業からのメッセージだけがありました。少なくとも米国では、企業のメッセージには警戒感を持つ人が多かったので、私たちはそれとは異なるアプローチを取ることが必要だと感じました。ハザー多くの人が企業や政府に対して懐疑的ですから、異なるコミュニティグループからの声が重要です。ですから、さまざまなコミュニティグループが、さまざまな理由から原子力を支持するような、社会全体に広がるような支援の輪を作っていきたいと思っています。クリスティンもし企業がすべてをコントロールしようとすると、それが逆に広がりを妨げることがあります。私たちは、企業が何を言っているのかに加えて、私たち自身がどんな活動をしているのか、そして私たちが何を伝えたいのかをしっかりと示すことが大切だと思います。私たちは個人的に原子力を支持するようになったからこそ、この活動を始めました。原子力が私たちの生活をどれだけ向上させるかを学んだとき、私は母親として、これが私の子供たちの未来のために必要なことだと感じたのです。次世代層は原子力にオープン他の環境系のグループと対面で議論する機会があると思いますが、原子力についての誤解を解くこともあるのでしょうか?クリスティン環境グループのリーダー層とは理解し合うことは難しいですが、メンバーや地域のオーガナイザーとは話しやすいです。学校を訪問すると非常に励みになります。特に高校や大学では、若い人たちは気候変動について多くのことを聞いていますが、実際の解決策についてはあまり学んでいません。原子力について聞くと、ほとんどの学生が興奮するんです。私は彼らに原子力についての正確な情報を提供し、あとは自分で判断してもらいます。若い人たちは心が開かれており、非常に励みになります。ハザー若い人たちは気候変動についてただ論じるだけでなく、自分たちが行動することで、何かを達成することができると信じています。自分たちの未来に希望を持ちたいのです。若い学生たちと会う機会がたくさんあるでしょうが、彼らは原子力をエネルギーの選択肢としてどう見ているのでしょうか?クリスティン現在のカリフォルニア州におけるエネルギー教育には多くの課題があります。現在のカリフォルニアの教育カリキュラムでは再生可能エネルギーに重点が置かれていますが、私たちはその教育をもっと正確にし、エネルギーの現実と課題を伝えていく必要があると感じています。しかし、実際に学校で1コマ(45分間)話すだけで、多くの学生たちは原子力の必要性を理解してくれます。ハザー若い学生たちは、原子力について学ぶと、非常に支持的な姿勢を見せてくれます。しかし問題に思うのは、彼らがそもそも原子力という選択肢があることをこれまで学んでこなかったことです。私たちは、他のグループと協力して、教科書に原子力についてもっと公平に載せるよう求める運動に取り組んでいます。米国やカナダでSMR(小型モジュール炉)がブームになり、多くの若者に人気があるようですが。一方で大型軽水炉への関心はどうでしょうか?クリスティン確かにSMR開発は進展しています。しかし、実際に商業化されて運転される段階には至っていません。ゴールまでかなり近づいている企業もあるようですが、私たちの大きな課題は、より多くの電力が必要だという現実に直面していることです。ジョージア州のA.W.ボーグル原子力発電所4号機が、2024年4月に営業運転を開始しました。これは出力が125万kWの大型炉「AP-1000」です。私たちはもっと多くの電力が必要なのです。ハザーもちろん、小型炉から大型炉までさまざまなタイプの原子力発電プラントが効率良く建設され、地理的な条件に応じてさまざまな用途に導入されるようになれば、気候変動への対応にも有効だと思います。クリスティン大型の軽水炉は本当にワクワクするテクノロジーなんですよ。私とハザーは20年以上ディアブロキャニオン発電所で働いていますが、毎日そのテクノロジーの数々に新鮮な驚きを覚えています(笑)ハザー大きくて迫力のあるクールな機器に囲まれることを想像してみてください。大型炉も最高ですよ(笑)
- 23 Jan 2025
- FEATURE
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美浜でエネルギー・キャンプ 高校生が企画
福井県美浜町で3月29~30日、エネルギーへの理解を深める「美浜エネルギー・キャンプ」が開催され、電力生産地と電力消費地の中学生、高校生、高専生、大学生など20名が参加。2日間にわたる様々な体験を通して、エネルギーや電気に対する理解を深めた。同キャンプは福井南高等学校と美浜町の共催。同校の生徒たちが企画し、島根大学、慶應義塾大学、岐阜工業高等専門学校、兵庫県立舞子高等学校、京都府立桃山高等学校、京都教育大附京都小中学校などから希望者が自主的に参加。美浜町が全面的に協力した。参加者は、美浜町レイクセンターで電池推進船に体験乗船し、関西電力・美浜原子力発電所を見学。さらに同町のエネルギー環境教育体験館「きいぱす」((日本で唯一、エネルギー環境教育に特化した体験館で、廃校となった小学校を再利用し、2017年に美浜町営の施設として開館))で、日本のエネルギー事情や電源の特徴に加え、実験を通じて、交流/直流、同時同量、長距離送電を可能にする変圧器の仕組みなどを学んだ。また、きいぱすに電気を供給する太陽光、風力、蓄電池を組み合わせたエネルギーシステムも見学。気候に左右される再生可能エネルギーの通年での稼働状況などを通し、エネルギーをめぐるさまざまな状況を「体感」した。2日間にわたって行われた同キャンプは、生徒たちを主体に進められ、周囲の大人はサポートに徹していた。また、多くの時間を、参加者同士の意見交換に費やしていたことも同キャンプの特徴と言える。最後の意見交換では、幅広い世代にエネルギー問題を理解してもらうにはどうすればよいか議論。「今回のような交流会イベントを定期的に開催し、自分から話し合う機会を設ける」、「発電所を訪問して体験することで、理解度が飛躍的に高まる」、「楽しい旅行のような交流会イベントを企画し、幅広い世代に参加してもらう」、「移動式きいぱすのようなもので、各地を回る」、「電気を全く使わないNO電気デイを過ごしてみる」、「子供がさまざまな体験を通じて学び、そこから親を巻き込んでいく」など様々なアイデアが出た。2日間の日程を参加者たちは「エネルギー問題について自分で考え、また他者の発表を聞く事で自分が思いつかない意見を知り、大変ためになった」、「いろんな地域の人たちが、それぞれ違う考えを持っていて、それをお互いに受け入れて、そのうえで議論し合う、というのが新鮮で面白かった」、「美浜町では原発が地域となじんでいる、生活の一部になっていると感じた」などと語り、今後も引き続きエネルギー問題に取り組む考えを示しながら、互いに再会を期していた。美浜町エネルギー政策課・上野和行課長は、「きいぱすは『エネルギーを通じて主体的に考える』をテーマに掲げた施設。子供たちがそれを体現し、主体的にエネルギー問題を議論する姿に感銘を受けた。原子力発電所の見学と、きいぱすでの実験を通してエネルギーへの理解を深めていただけたようで、町が運営する施設としても自信につながった。皆さんの知的好奇心はまだまだ満足されていないと思うので、これからも学び続けてほしい。美浜町としても応援していきたい」と語った。きいぱす・橋場隆館長は、「豊かな時代はエネルギー問題を意識しなくて済んだ。しかし今は、エネルギー問題を知らないといけない厳しい時代になっている。参加者の皆さんには、今回得たものを周囲の方に話して、あらゆる世代に広げてほしい」と期待を込めた。
- 08 Apr 2024
- NEWS
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NUMO 学生対象の提言コンテストで優秀作品発表
原子力発電環境整備機構(NUMO)は3月1日、「私たちの未来のための提言コンテスト」の受賞作品を発表した。NUMOでは、高レベル放射性廃棄物の地層処分を進めるに当たり、将来的に世論形成の中核となる次世代層に関心を持ってもらうため、学生を対象に、処分事業の理解促進につながる方策をテーマに「提言」を募集している。5回目となる今回は、2023年9月~24年1月の募集で計198編の「提言」が寄せられた。「高専4年生以上・大学生・大学院生」と「中学生・高校生・高専3年生以下」の2部門で審査が行われ、「高専4年生以上・大学生・大学院生」の部門では、最優秀賞として、東海大学大学院工学系研究科の地井桐理子さんによる「地層処分が抱えるコミュニケーション的課題と、当事者意識を生むためのきっかけづくりの提案」が選ばれた。地井さんは、処分地選定における「NIMBY」(Not In My Backyard、必要なのはわかるが自分の家の裏庭には作らないで欲しい)問題の背景に、「コミュニケーション方法が影響している」ことに着目。社会科学分野の考え方から、「最初から地層処分の受入れを国民に投げかけている現状が問題」と指摘した上で、「まずは議論を喚起することによって、人々は当事者意識を持つのでは」と考察。その「きっかけづくり」として、手軽に見られる1分以内のYou Tubeのショート動画を利用した情報提供を提案した。地井さんが作成した動画では、ボール状の愛らしいキャラクターが日本のエネルギーや原子力発電の使用済み燃料などに関する問題を提起し解説。実際、地層処分についてほとんど知識のない大学生・社会人に動画を視聴してもらい、アンケートをとったところ、認知度の向上が見られたことから、「短い・早い・手軽」な情報提供手段として、ショート動画の利用が期待できるとしている。「中学生・高校生・高専3年生以下」の部門では、最優秀賞として、島根大学教育学部附属義務教育学校9年(中学3年)の生徒6名による「高レベル放射性廃棄物の地層処分を目指して」が選ばれた。生徒らは、原子力発電に焦点を当てた探求の中で、地元に立地する島根原子力発電所で保管される使用済み燃料の行く末に着目。高レベル放射性廃棄物の地層処分に関して、「まず問題の背景を自分たちで調べる」ため、校内の生徒や家族、教職員、教育実習生らへの認知度調査、理科・社会科の教科書における記述調査の他、県外高校生との意見交換も実施。福井県の高校生との意見交換からは、「高レベル放射性廃棄物の問題は、日本全体の課題として、すべての地域の同世代が認識を広げ解決を目指す必要があると実感した」という。これらの活動を踏まえ、生徒らは資源エネルギー庁の職員と島根県知事から地層処分に関する認知度向上に向け、各々話を聞いた上で、「同世代同士で考えを共有する」ため、授業の場で実験を通じて科学的に理解し話し合うこと、環境に関する全国イベントへの参加などを提案した。
- 06 Mar 2024
- NEWS
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文科省 高校生対象の原子炉研修を継続開催へ
文部科学省では、「GX実現に向けた基本方針」(2023年2月閣議決定)などを踏まえ、有識者らによる原子力科学技術委員会及び同作業部会で、今後の技術基盤維持・人材育成の方向性について検討を進めている。これに関連し、1月23日の原子力委員会会合で、文科省研究開発局原子力課長の奥篤史氏が、2023年8月24日に開催した「集まれ高校生!原子力オープンキャンパス」の結果を報告した。近畿大学原子力研究所との共催による高校生を対象とした原子炉研修としては初めてとなるもので、大学、企業、研究機関など、計21社・機関の協力のもと、30名の生徒らが参加。同学が所有する教育訓練炉「UTR-KINKI」を使用し、「中性子ラジオグラフィ実験」、「放射化と半減期測定実験」などを実施し、実際の原子炉に触れる機会を提供した。原子炉実験と合わせ、企業・研究機関ブースも設けられ、生徒らとの質疑応答を通じ、原子力分野への興味・理解を深める場となったという。参加者へのアンケートによると、参加動機は「面白そうだったから」が36%、興味深かった内容としては「近畿大学の原子炉を直接見ることができた」が33%で、最も多かった。「実際に原子炉に触れるのは始めての体験だった」、「主体的に将来原子力に進みたい」といった前向きな声もあり、文科省では来年度も継続して開催する意向だ。委員からは、大学・大学院における原子力関係学科・専攻の減少傾向に対する懸念とともに、初等中等教育段階からの実地研修の意義を評価し、人文社会科学系との連携講座開設や「原子力人材育成ネットワーク」とのつながりに期待を寄せる声もあった。文科省では、原子力オープンキャンパスの報告と合わせ、今後の原子力科学技術に関する当面の検討課題について、2025年6月頃の中間取りまとめを目指す方針を示した。
- 06 Feb 2024
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電事連 中学生向けのエネルギー教育動画を公開
電気事業連合会は12月1日、エネルギー教育コンテンツ「エネルギーアカデミー ~エネルギーの歴史篇~」の動画を公開した。〈電事連発表資料は こちら〉この動画は、中学3年生理科の単元「科学と人間」に対応しており、ワークシートや指導案も電事連の教育支援ポータルサイト「ENE-LEARNING」で公開されている。「江戸時代から現代まで!エネルギーの歴史をクイズで学ぶ」と題する動画は、日本において、江戸時代から現代に至るまで、暮らしに欠かせないエネルギーがどのように変化し、確保されてきたのか、また、様々な発電方法の長所や短所、エネルギーミックスの重要性などを、金田武司氏(ユニバーサルエネルギー研究所社長)による解説付きクイズで学ぶことができる。そこでは、教室を模した背景のもと、生徒役の“りくとさん”と“ももかさん”が金田氏の出題する計5問のクイズに回答。江戸時代の主なエネルギー源だった薪・炭を起点に、大正時代に急速に発展した“水力発電”、戦後急速に台頭した“石油”と、各時代を支えたエネルギー源をあげ、それぞれのメリット・デメリットを解説する。金田氏は、1973年の“オイルショック”について「石油価格がわずか3か月で4倍にもなった大事件」と述べ、「特定の資源や特定の国に極度に依存してはいけない」との教訓から、日本が原子力発電開発に取り組んだ経緯を説いた。さらに、指先程の原子力発電の燃料ペレットを示し、「一つで一般家庭が使う電気をどのくらいまかなえるか」と質問し、生徒役の2人とのやりとりを通じて原子力について解説。原子力のメリットとして「少ない燃料で安くたくさんの電気を作れる」、「発電時にCO2を排出しない」、「使った燃料を再利用できる」、デメリットとして「放射線・放射性物質の管理を厳重に行う必要がある」、「放射性廃棄物の適切な処理・処分が必要」をあげた。最後に、金田氏は、「どんなエネルギー源にもメリット・デメリットはあるので、すべての面で優れたエネルギー源というのは存在しない」と強調し、各種エネルギー源をバランスよく組み合わせる「エネルギーミックス」の重要性を説いている。
- 07 Dec 2023
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汚染土の行方にも影響する「あきたこまちR」問題 いまは関ヶ原の戦いなり!
二〇二三年十二月六日 今回も放射線育種米の「あきたこまちR」への反対運動にこだわる。この問題は福島第一原発事故後の除染で発生した汚染土の処理の行方にもからむ。「あきたこまちR」は科学的には全く問題がないのに、反対運動が起きている。ここでもし、このコメの普及が阻止されるような事態が起きれば、科学と政治の大敗北と言ってよいだろう。記者経験から見て理解不能な反対 単純なクイズを出そう。あなたは「発がん性物質のカドミウムがほとんど含まれていないコメ」と「カドミウムが多く含まれるコメ」のどちらを買いますか。 なぜ、こんなバカげた質問を出すのかといぶかる人もいるだろう。だれだって、カドミウムの含有量がほぼゼロのコメを選ぶはずだからだ。ところが、驚くべきことにカドミウムの多いコメを「消費者の権利」として支持する反対運動が起きている。毎日新聞社で約45年間、記者稼業を続けていたが、この「あきたこまちR」に反対する運動は、これまでに経験したことがない理解不能、そして摩訶不思議な領域に属する。 カドミウムは人の肝臓や腎臓などに蓄積する重金属である。国際がん研究機関(IARC)はヒトでの発がん性の証拠が十分にそろっているとするグループ1に分類している。体内への高い摂取量が長期間続けば、腎機能の低下など健康障害が生じるリスクもある。米国政府は、日本のコメはカドミウムとヒ素(発がん性物質)が多く含まれるため、乳幼児向けの摂取は制限するよう勧告しているほどだ。 日本人はカドミウムの約四~五割をコメから摂取している。それだけに、土壌中のカドミウムをほとんど吸収しない新品種「あきたこまちR」は、日本人のカドミウム摂取量を減らす画期的な品種なのである。カドミウムのリスクは意外に高い コメに含まれるカドミウムのリスクがどれくらいかを知れば、その画期的な点がさらにわかるはずだ。では、食品に含まれる残留農薬や食品添加物のリスクと比べてみよう。 ある化学物質の摂取量が健康に影響するかどうかは、実際の摂取量が健康影響の指標となる一日摂取許容量(ADI)をどれだけ下回っているかどうかで判断する。厚生労働省や内閣府食品安全委員会のサイトを見ればわかるように、食品に含まれる残留農薬や食品添加物の平均的な摂取量は、一日摂取許容量の百分の一~千分の一以下というのが普通だ。摂取量が許容量の百分の一以下(車の速度制限で言えば、六〇キロ制限の道路を〇・六キロで走るようなもの)なら、だれだって安全だと分かる。 では、カドミウムはどうか。カドミウムは意図して使う農薬や食品添加物と違い、許容量という言葉ではなく、耐容量という言葉を使うが、意味は同じだ。 食品安全委員会によると、健康影響の目安となるカドミウムの週間摂取耐容量(耐容週間摂取量ともいう。一週間あたりの摂取量がこれ以下なら安全だとみなされる目安)は、体重一キロあたり七マイクログラム(マイクロは百万分の一の単位)である。これに対し、日本人が平均的に摂取している一週間あたりの摂取量は体重一キロあたり約二マイクログラムだ。摂取量(約二マイクログラム)が耐容量(七マイクログラム)を下回っているため、コメを食べても確かに安全だといえる(食品安全委員会のリスク評価サイト参照)。しかし、食品中の残留農薬の摂取量が許容量の百分の一~千分の一以下というリスクと比べると、カドミウムのリスクは耐容量の三分の一程度なので、相対的なリスクはかなり高いといえる。だからこそ欧米は基準値を低く設定している。 このカドミウムのリスクを低くしてくれるのが「あきたこまちR」なのである。EUの基準値を楽々クリア 日本のコメのカドミウムの含有量が高いことは、カドミウムの基準値を決める国際会議でたびたび指摘されてきた。基準値の厳格化を求める欧米に対し、日本は肩身の狭い思いを味わってきたわけだ。現在、EU(欧州連合)のコメのカドミウムの基準値は〇・一五ppm(ppmは百万分の一の単位)だ。それに対し、日本は〇・四ppmと高い。日本がEU並みの〇・一五ppmを採用できないのは、それを受け入れると基準値を超えてしまうコメが出てくる可能性があるからだ。 しかし、「あきたこまちR」なら、EUの基準値を確実にクリアできる。カドミウムの含有量が〇・〇一ppm以下だからだ。カドミウムがほぼゼロであれば、今後は海外に輸出する活路も見えてくる。ついでに言えば、水管理が楽になり、地球温暖化の原因のひとつにもなっているメタンの発生量も少なくなる。であれば、秋田県が二〇二五年度から「あきたこまちR」に切り替えるのは当然であり、日本国民にとっても大歓迎すべきことである。アベプラでも俎上に このように、「あきたこまちR」を避ける理由は全く見当たらないが、今年九月、秋田県に約八〇〇〇筆の反対署名が届くなど反対運動が起きている。立憲民主党や社会民主党の一部国会議員も、東京の反対集会に顔を出し賛同している。日頃、食の安全を訴える国会議員がなぜ、カドミウムの高いコメを消費者に食べさせようとするのか理解に苦しむが、タイミングよく、この問題はインターネットテレビ局「ABEMA Prime」(アベプラ)で取り上げられ(十二月一日放送)、私はゲストとして出演した。 コメンテーターとして、経済学者の竹中平蔵氏や福島原発問題で独自の情報を発信するお笑いタレントのカンニング竹山氏ら四人が議論に加わった。四人とも「あきたこまちR」の画期的な品種性に納得し、反対運動に疑問を呈した。竹中氏は「何に対しても反対する人たちはいるなあ」とあきれた様子だった。 その番組で印象に残ったのは、カンニング竹山氏の「この問題は福島第一原発事故で発生した汚染土の再利用にも反対運動が起きて、行き場を失っているのと似ている」という内容の発言だった。確かにそうだと思う。「NEWSポストセブン」は名指しで反対運動を批判 いまのところ、メディアは「あきたこまちR」に批判的な姿勢を見せていない。小学館が運営するニュースサイトの「NEWSポストセブン」は日頃、食品添加物の危険性を煽る記事を載せているが、この「あきたこまちR」に関しては、極めて異例の記事を配信した。見出しは「カドミウム吸収を抑えた画期的なコメの新品種『あきたこまちR』 福島みずほ議員らの〝安全性への疑問〟は妥当なのか」(二〇二三年十一月二十七日・筆者はライターの清水典之氏)だった。国会議員を名指しして、反対運動に疑問を投げかける記事である。結びの内容はこうだった。 「長年の技術の蓄積、研究の成果である画期的な新品種に、風評被害や差別につながるようなレッテル貼りをする行為は、慎みたいものである」。 国家議員が風評被害に加担していると思わせる異例の記事である。やはりだれが見ても「あきたこまちR」は優等生なのである。科学の名において一丸となれ! 「NEWSポストセブン」にあるように、福島みずほ参議院議員は「消費者の権利を守りたい」とX(旧ツイッター)に投稿していた。確かに、「あきたこまちR」を食べたくない消費者もいるだろう。カドミウムの多い従来のコメを食べる権利も、権利には違いない。その選択は尊重したい。 ならば、その権利を他の消費者や生産者にも認めるべきだろう。なぜ、「あきたこまちR」を食べたいと思う私のような消費者の権利を反対運動によって阻止しようとするのだろうか。左派リベラルの人たちは日頃、多様性が大事だと主張する。しかし、その多様な選択を壊そうとしているのはどちらなのか。 気になるのは、秋田県内で「あきたこまちR」を栽培しようとする生産者に対しても、栽培をやめるよう抗議する運動があることだ。選択の権利は生産者の側にもあるはずだ。なぜ、外部の市民が生産者の栽培する権利を阻害するような圧力行為に出るのか。常軌を逸しているとしか思えない。ちなみに「あきたこまちR」の切り替えに反対する一部国会議員は福島の汚染土の再活用にも反対している。反対の根っこはいつも同じようだ。 結論。仮に「あきたこまちR」の普及が反対運動で滞るような事態が起きれば、科学と政治の大敗北である。だれが見ても画期的な「あきたこまちR」が阻止されるようでは汚染土の受け入れに未来はない。いずれ他のコメの品種にもカドミウム吸収抑制の特性が広がっていくことを考えると、「あきたこまちR」は秋田県だけの問題ではない。全省庁、全自治体が科学の名にかけて、「あきたこまちR」を守りぬくことが必要だ。いまはまさに関ヶ原の戦い(天下分け目の戦い)である。
- 06 Dec 2023
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復興推進委 教育を通じた福島再生が議論に
政府の復興推進委員会(委員長=今村文彦・東北大学災害科学国際研究所教授)の第43回会合が11月22日に開催され、東日本大震災被災各県(岩手、宮城、福島)の復興状況に関する報告を受けて、復興・再生に向け意見が交わされた。〈配布資料は こちら〉冒頭、挨拶に立った復興庁の高木宏壽副大臣は、最近の被災地視察経験から、「復興の状況を一言で言えば、実に複雑多様」と強調。特に、福島県については、避難指示解除の段階による復興状況の差異に言及し、「原子力災害からの復興は今、ようやく緒に就いたばかり」と述べ、引き続き国が前面に立って支援していく姿勢を示した。福島県内の避難指示については、政府・原子力災害対策本部が21日、富岡町に設定された帰還困難区域を11月30日に一部解除することを決定。これで、6町村に設定された特定復興再生拠点区域((帰還困難区域のうち、避難指示を先行して解除し居住を可能とすることにより、復興・再生の推進を図るエリア))のすべてが解除されることとなる。リモートで出席した内堀雅雄委員(福島県知事)は、あらためて「帰還困難区域すべてを避難指示解除し、復興・再生に最後まで責任をもって取り組む必要がある」と強調。同氏は、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出に関し、一部の国における輸入規制強化などの影響を懸念し、「幅広い業種に対する万全な風評対策に政府一丸となって最後まで全責任を全うして欲しい」と国に対し要望。さらに、発災から12年8か月を経て「今後は風化との闘いとなる」とも述べ、マスメディアを巻き込んだ積極的な情報発信、若手に対する災害教育の重要性を強調した。現地調査報告を行う戸塚委員「福島復興の姿を世界に発信すべき」と今回の委員会会合では、教育が一つの論点となった。福島県の大熊町、双葉町、浪江町を10月25日に現地調査で訪れた戸塚絵梨子委員(パソナ東北創生社長)が、その調査結果を報告し、今春、大熊町に開校した幼保小中一体化施設「学び舎 ゆめの森」の校長の話を紹介。それによると、特徴的な校舎や少人数を活かした特色ある教育が注目され「同校に入るための町内転入者も増えている。子供たちは地域のコミュニティを担う大きな存在だ」という。また、浪江町の震災遺構「請戸小学校」では、町担当者より、発災時の適切な避難により教職員・生徒全員の命が守られた経験、防災教育・訓練の重要性が説明されたことを強調。戸塚委員は、この他、「創造的復興の中核拠点」を目指し浪江町内に設立された福島国際研究教育機構(F-REI)など、計7か所の施設・区域を訪れた感想として、「『これから始まっていく』というエネルギーを感じた。世界に注目され飛躍していく場所となる」などと述べ、福島県が東北全体の復興の牽引役となることを期待した。これに対し、「子育て世代」と称する小林味愛委員(株式会社 陽と人 代表)は、教育の充実化に加え、小児医療の課題などを指摘。高等教育に携わる山﨑登委員(国士舘大学防災・救急救助総合研究所教授)は、「発災から10年以上が経過し、学生が学ぶにも断片的な情報だけで、全体を俯瞰し理解するのが難しくなっている。被災地から離れるほど、小中学生は当時のことを既に知らない」と述べ、過去の取組を再整理し、継続的な防災教育・人材育成が図られるよう求めた。今村委員長は、「学び舎 ゆめの森」について、今後の運営に向け予算面が課題となっていることを指摘した。内堀委員は、今回、復興・再生のさらなる推進に向けて、財源確保の必要性を強調している。今後の会合では、「第2期復興・創生期間」(2021~25年度)における財源の枠組みが論点となりそうだ。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
- 22 Nov 2023
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放射線を活用したコシヒカリの画期的な育種に反対運動 いまこそ放射線教育を!
二〇二三年十一月十六日 みなさんは「コシヒカリ環1号」という名の品種をご存じだろうか。人体に有害なカドミウムをほとんど吸収しない画期的なコメである。しかし、放射線を当てて育種したコメのためか、一部の生協や市民団体から反対運動が起きている。まさか、放射線を活用した育種にまで反対運動が起きるとは、予想もしていなかった。原子力関係者はこうした動きに無関心であってはいけない。イオンビームで画期的なコシヒカリが誕生 植物に放射線を照射して遺伝子に突然変異を作り出し、その中から有用な品種を選抜して育てていく品種改良は一九五〇年代から行われてきた。放射線(ガンマ線)を当てて生まれた、ナシ黒斑病に強い「ゴールド二十世紀」(一九九一年に品種登録)は、放射線育種の有用性を示す代表的な例である。 最近では、カドミウムをほとんど吸収しない画期的な稲の品種「コシヒカリ環1号」が生まれ、二〇一五年に品種登録された。農研機構農業環境研究部門の研究グループが開発した。なぜ、カドミウムを吸収しないコメが重要かと言えば、もともと日本のコメは他国に比べて、カドミウムが多く含まれる。鉱山の採掘や金属の製錬などでカドミウムが高濃度に含まれる土壌が各地にあるからだ。カドミウムが原因で起きたとされる富山県の神通川流域の「イタイイタイ病」はそうした弊害の典型的な例である。 意外に知られていないが、日本の主食のコメに含まれるカドミウムの濃度は、総じて他国よりも高い。そして、そのコメのリスクは、食べ物から時々検出される残留農薬のリスクよりも確実に高いことは、専門家の間でよく知られた事実である。 こうした背景を考えると、少しでもカドミウムの含有量の少ないコメが普及したら、日本人の健康度を上げることは間違いない。その意味で、農研機構の研究グループがコシヒカリの種子にイオンビーム(人工放射線の一種)を照射して突然変異を作り出し、その中からカドミウムをほとんど吸収しないコメを選抜育種したのは歴史的な快挙と言ってよい。 この画期的な品種は、照射によって、カドミウムの吸収にかかわる遺伝子(OsNRAMP5)が欠損して生み出された。植物の成長に必要なマンガンの吸収が低くなるという弱点(肥料としてマンガンを与えれば、この問題は解決される)はあるものの、すぐれた品種なのは間違いない。「あきたこまちR」も誕生 最近は、この「コシヒカリ環1号」と「あきたこまち」を交配させた「あきたこまちR」も生まれた。これは、カドミウムをほとんど含まない「あきたこまち」で、味、品質とも従来の「あきたこまち」と変わらない。すでに「あきたこまちR」は秋田県の奨励品種になり、二〇二四年度から種子生産が始まり、二〇二五年度から一般作付けが始まるという。 秋田県にはかつて鉱山があり、カドミウムの多い土壌が残る。実は、「コシヒカリ環1号」は秋田県出身の研究者が中心となって開発した。その意味でカドミウムのきわめて少ない「あきたこまちR」は秋田県民だけでなく、全国民待望のコメだと言ってよいだろう。秋田県が「あきたこまちR」に全面的に切り替えるのは極めて理にかなったことである。どう見ても、農業生産者、そして消費者にとって大きな朗報である。放射線育種に反対運動 ところが、悲しいことに、こういう素晴らしき品種改良に対しても反対運動が起きている。 秋田県が「あきたこまちR」を導入しようとしていることに対して、今年夏、秋田県で反対派による学習会がいくつかの地域で開かれた。他県でも「コシヒカリ環1号」の導入に対して、「自然派」と名のつく一部生協や市民団体が反対運動を始めた。十月三十一日には食品照射に反対する全国集会(主催・照射食品反対連絡会)が衆議院会館で行われ、立憲民主党の議員らが参加して気勢を上げた。 反対理由は①「自然界ではありえない致死量の重イオンビームを使って、人為的に遺伝子を破壊して生まれた品種は、従来の育種とは一線を画する。安全性の評価もない」②十年後、二十年後にどんな影響が起きるか予測できない③秋田県産のコメに対する風評被害が起きる──などだ。突然変異は自然界でも起きている 筆者から見れば、言いがかりとしかいいようのない反対である。そもそも植物の遺伝子の突然変異は、自然界において太陽の紫外線や宇宙線、大地からの放射線によっても生じている。放射線を人為的に当てて起こした突然変異も、自然界で起きている突然変異と何ら差はない。このことはほぼ科学者の共通認識だと以前から思っていた。反対運動が起きるとは夢にも思っていなかったが、筆者の認識は甘かったようだ。 いうまでもなく、植物の育種の最初の段階で一度だけ、致死量の放射線を当てたからといって、その種子から生まれてくる次世代以降の植物に放射線が残っているわけではない。後代の植物が放射線を出すこともない。食品照射は西欧でも認可 育種に限らず、食品に放射線を当てて殺菌する技術は世界50か国以上で認められている。英国、フランス、イタリア、オランダなどではタマネギやニンニク、ジャガイモ、シリアル類、冷凍エビなど幅広く照射されている。英国やドイツ、オランダなどでは健康食品類の約三割が照射されていたという調査結果があるくらいだ(「食品照射の海外の動向」等々力節子氏参照)。 もちろん、照射された食品や育種の最初の段階で放射線を用いた後代の植物が、健康被害をもたらしたというデータは存在しない。むしろ、カドミウムの含有量が極めて少ない「あきたこまちR」でいえば、カドミウムの残留基準値を厳しくしている海外への輸出も可能になり、販路拡大のチャンスにもなりうる。 放射線は人のがん治療でも大きく貢献している。人が全身に浴びれば致死的な量になるレベルの放射線を、がんの患部に当てて治す治療法まで行われていることを考えると、植物の育種の段階で放射線を活用する照射に対して、なぜ反対運動が起きるのか不思議でしようがない。植物への照射と人への影響は全く無関係である。放射線利用のジャガイモ供給が終了 ただ残念なのは、世界では常識となっている食品への照射が、日本では食品衛生法によって原則として禁止されていることである。その中で例外的に、一九七四年から北海道の士幌町アイソトープ照射センターで、ガンマ線を利用した芽止めジャガイモが出荷されてきたが、昨年で使命を終え、((運用開始から五十年を経過し、老朽化のため今年三月に閉鎖された。建て替えも検討されたが、昨今の建設費高騰や、線源であるコバルト60のコスト高の影響等で採算が見込めず、見送られた。))施設の解体が始まった。このジャガイモに対しても、市民団体は「反対運動の勝利」と自らの活動をたたえている。 原子力の平和利用は、エネルギーだけではない。放射線を用いた育種や食品照射も重要な貢献分野である。ジャガイモの放射線利用がなくなったことで、日本での食品照射はなくなった。かつて海外並みに日本の香辛料にも照射を認めてほしいという事業者の活動もあったが、反対運動によって頓挫した。こんなことで本当によいのだろうか。小学生から放射線教育を 日本は遺伝子組み換え作物を大量に海外から輸入しながら、自国ではだれ一人として栽培していない。いや栽培できない。反対運動があって、栽培できないからだ。これと似たことが食品照射でも起きていると言ってよいだろう。そして今度は、放射線を利用した育種にも反対運動が襲いかかる。 放射線育種に反対している人たちは、原子力発電だけでなく、遺伝子組み換えやゲノム編集食品にも反対している。このままだと日本では新しいテクノロジーの芽が生まれないのではないか。そんな危機感を痛烈に覚える。原子力に関係する人たちは、エネルギーとしての原子力だけに関心を持つのではなく、放射線育種や遺伝子組み換え技術にももっと関心を持つべきだろう。いわずもがなだが、しっかりとした放射線教育が小学校の段階から必要だとつくづく感じる。士幌町のアイソトープ照射センター
- 16 Nov 2023
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原子力発電所事故の「風化」が課題に 福島大の学生調査
東日本大震災・福島第一原子力発電所事故後の福島に関する学生の知識が、時間の経過とともに薄れている。福島大学教育推進機構の前川直哉准教授らが同学学生を対象に実施した調査で明らかになったもの。〈福島大発表資料は こちら〉11月1日に発表された同調査結果によると、2019~22年度、福島大の一般教養科目「ふくしま未来学入門」を受講する学生を対象に、成績とは無関係の調査・研究目的として、同一の設問で震災・原子力発電所事故に関する知識チェックを実施したところ、20点満点の平均得点は、2019、21、22年度で、それぞれ9.5点、8.6点、8.1点と低下傾向にあり、学生の知識が時間の経過とともに薄れてきている多くの設問で正答率の低下がみられたが、「事故を起こした発電所の正式名称」、「シーベルトの定義」に関する設問では正答率が上昇した福島県内出身者の得点は、「福島県以外の東北地方」、「東北地方以外の国内」の出身者よりも統計的に優位に高かった――ことが明らかになった。調査で実施した知識チェックは、「震災と原発事故」、「原発事故と避難」、「放射線と除染」、「現在の福島県」の4セクションに分類され、各セクション5問・全20問で5者択一形式。計968名の学生が回答した。その中で、「福島第一原発でつくられた電気の供給先」との設問(正解は、つくられた電気は首都圏など、東京電力管内に供給されていた)では、正答率が2019、21、22年度で、それぞれ49.6%、47.0%、33.9%と、大幅に低下。この他、正答率が低下した設問としては、「風向きの影響で多くの放射性物質が降り注いだ方角」、「ピーク時の県内外への避難者数」などがあった。また、県内・県外の出身者で正答率の差が大きかった設問としては、「除染の具体的作業」(正解は、表土をはぎ取る)があり、正答率は、福島県で84.4%、福島県以外の東北地方で46.2%、東北地方以外の国内で51.7%だった。今回の調査結果を踏まえ、研究グループでは、「震災・原発事故に関する『風化』は確実に進行している」と懸念し、「学校と社会全体で知識を伝えていく必要がある」などと分析・考察している。
- 15 Nov 2023
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気候変動対策は若手への啓発が課題 内閣府世論調査
内閣府は11月10日、7~9月に18歳以上の日本人3,000人を対象として実施した気候変動に関する世論調査(2023年7月調査)の結果を発表した。有効回収数は1,526人。今回の調査結果では、前回実施した2020年11月の調査と比較を行っている。それによると、地球環境問題に対する関心で、2020年11月調査と今回の調査とを比較すると、「関心がある」との回答はそれぞれ88.3%、89.4%、「関心がない」との回答はそれぞれ9.3%、9.8%と、いずれも微増(無回答が1.5ポイント減少)。気候変動対策のための国際的枠組み「パリ協定」の認知度については、「知っている」が84.0%から78.8%に減少。2020年11月調査は日本政府が「2050年カーボンニュートラル」を宣言した頃に実施されたが、脱炭素社会の認知度については、「知っていた」が68.4%から83.7%に増加。気候変動が及ぼす農作物の品質低下、気象災害のリスク増加などの影響に関しては、「知っていた」が93.6%から87.6%に減少したこうした気候変動問題や脱炭素社会に関する関心の度合いや認知度は、若年層で低く、年齢層が上がるにつれ高まる傾向がみられた。特に、2023年3月に発表された今世紀中の1.5℃気温上昇を予測している「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)統合報告書については、「知っている」と回答した割合が、18~29歳で12.1%、30~39歳で20.0%、40~49歳で25.5%、50~59歳で37.3%、60~69歳で54.5%、70歳以上で64.3%と、その傾向が極めて顕著で、気候変動対策に向け今後は若い世代への啓発が課題といえそうだ。脱炭素社会の実現に向けた取組意欲については、「取り組みたい」との回答が、2020年11月調査で91.9%、2023年7月調査で90.2%と微減。今回の調査で、日常生活で行っていることとしては(複数回答可)、「こまめな消灯、家電のコンセントを抜くなどによる電気消費量の削減」が最も多く70.1%で、「軽装や重ね着などにより、冷暖房の設定温度を適切に管理」の60.7%、「冷蔵庫、エアコン、照明器具などの家電製品を購入する際、省エネルギー効果の高い製品を購入」の47.8%が、これに次いでいる。また、昨今の社会情勢を反映し、「宅配便の1回での受取り、または宅配ボックスでの受取りなどによる再配達の防止」が、前回調査の27.2%から今回調査では32.4%に増加。気候変動の影響に対処し被害を防止・軽減する取組「気候変動適応」を実践する上での課題としては、「経済的コストがかかること」をあげる割合が37.3%から47.4%に急増していた。
- 13 Nov 2023
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WNU-SI 日本参加者が報告会
原子力分野で国際的に活躍する若手のリーダー育成を目的とした「世界原子力大学・夏季研修」(WNU-SI)が、今夏、初めて日本で開催された。〈既報〉WNUは、世界原子力協会(WNA)が国際原子力機関(IAEA)、経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)、世界原子力発電事業者協会(WANO)他の協力によって2003年に設立した国際教育訓練パートナーシップ。2005年以降、毎夏、世界各地で開催するWNU-SIには、これまでに千人を超す研修生が参加している。今回、日本原子力産業協会の「向坊隆記念国際人材育成事業」による支援を受けた5名を含む、計7名の日本人参加者の報告会が10月18日に行われ、6月25日~7月28日の5週間にわたる研修成果が報告された。研修プログラムは、各国の原子力産業界や国際機関の現役リーダー・OBらの指導による講義・グループワーク、および施設見学が中心。講義を踏まえ日々与えられるテーマについて10名程度の研修生らで議論し発表し合うグループワークでは、原子力発電を導入しようとする国を想定し、その国の政府や企業の立場から原子力産業のあり方や地域住民への説明内容を発表するという課題もあった。研修に参加した東京電力ホールディングスの滝口剛司さんは、「客観的視点で自国の原子力産業を振り返る契機となった」とするとともに、グループワークで政府広報マンの役として発表した経験から、「まずは『伝えよう』とすること、たとえ初歩的な質問であっても自ら『議論に参加しよう』という姿勢が必要」と、コミュニケーションの重要性を強調した。また、日立GEニュークリア・エナジーの多田岳史さんは、研修生らとの議論を通じ、「『他のやりかた・言い方がないか?』と常に自問する」姿勢を学んだ一方、「あまり差のない2つの案の間で悩み、議論が止まる」場面に戸惑った経験から、リーダーシップの涵養に向け、適応力と決断力を身に付ける必要性を強調。昨今のAI普及から英語プレゼンにおけるChatGPTの有用性にも言及した。今回のWNU-SIでは、小型モジュール炉(SMR)や核融合など、革新的原子力技術に係る内容が拡充され、ITER機構主席戦略官の大前敬祥氏も講義。関西電力の的場大輔さんは、「特にアフリカ諸国からはSMR導入への熱い視線を感じた」などと、研修の所感を述べたほか、自身が主な業務とする新型燃料開発に関し、今後、海外の原子力技術者との交流を深めていくことに意欲を示した。研修プログラムの一環となるテクニカルツアーでは、福島第一・第二原子力発電所などを見学。同施設で通訳を任された東芝エネルギーシステムズの中村勇気さんは、「事故発生当時は学生だった。当事者の視点に立つ貴重な経験となった」と振り返った。講義・グループワークの放課後を利用し行われた異文化交流では、国ごとにブースを出展し伝統芸能や特産物などを紹介。日本ブースでは、参加国の味覚に応じた日本酒、伊勢銘菓「赤福餅」などが振る舞われ、特に国内でも親しまれているスナック菓子「うまい棒」には絶大な人気が集まったという。会期中、懇親会、スポーツ観戦、ショッピングなどを通じ海外研修生との交流を深めたという日立GEニュークリア・エナジーの皆川祐輔さんは、「文化の違いを実感した」としたほか、コミュニケーション能力に関して「『わからないことを“わからない”と伝える』のに最も苦労した」などと振り返った上で、日本の文化、歴史、政治的考え方をあらためて勉強し直すことを今後の抱負として述べた。次回のWNU-SIは、2024年6月2日~7月6日にブラジル(リオデジャネイロ)で開催予定。原産協会では11月24日まで、「向坊隆記念国際人材育成事業」による支援対象者を募集している。*「向坊隆記念国際人材育成事業」の概要、これまでのWNU-SI参加報告、次回WNU-SIの支援対象者募集は、こちら をご覧ください。
- 10 Nov 2023
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教育WSを10年ぶりに開催 NUMO
原子力発電環境整備機構(NUMO)は、教育関係者(教員を目指す学生も含む)を対象としたワークショップを、9月16日の福岡市会場を皮切りに開始した。「高レベル放射性廃棄物の最終処分」について、学校の授業で取り上げてもらうことを狙った同WSの開催は、10年ぶりとなる。地層処分事業は、まだ多くの国民に知られているとは言いがたい。しかも長期にわたることから、次世代層にも知ってもらうため、学校教育が一つのカギとなる。今回、NUMOでは、同WSを、教育現場からの「『エネルギー自給率の向上や脱炭素化を図っていく流れの一つに地層処分がある』といったストーリー性のある授業が必要」との声に応える形で企画。初回のWSに参加したのは、福岡県内の学校教員ら8名。専門家による講演、NUMOからの情報提供をもとに、グループワークを通じ意見交換が行われた。講演ではまず、世界のエネルギー動向を巡り「日本がエネルギーとどう向き合う必要があるのか」、理科教育に関連し「エネルギーに関する単元がSDGsの目標とどう関連するのか」などと問題提起。これを受け、グループワークでは、今後のエネルギー教育に関し「すべての教科を横断的して扱うべきテーマだ」との指摘があった。さらに、NUMOからは、地層処分について、次世代層への教育を支援する意義、支援内容などについて説明。その中で、NUMOは、教育支援ツールの一つとして、ボードゲーム「地層処分って何だろう? ジオ・サーチゲーム」を紹介し、同ゲームのプレイ体験のあるWS参加者からは、「異なる意見を交わし合い議論するには非常によい教材。是非授業で活用してみたい」といった期待の声もあがった。一方で、「地層処分だけに多くの時間を割くのは難しい」と指摘する参加者も。こうした意見交換を通じて、授業での地層処分問題に関する取扱いに向け、事情の異なる教員らが交流する必要性などが浮き彫りになった。初回のWSを終えて、NUMOの担当者は、「エネルギー教育では、発電と消費については比較的授業で取り扱いやすいが、高レベル放射性廃棄物については、学習指導要領に載っていないのが現状。このようなWSを通して、少しでも関心を持ち授業で扱ってもらえたらありがたい」と、話している。同WSは引き続き、愛媛県松山市(9月30日)、福井県(日程未定)と、開催される運び。
- 29 Sep 2023
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日立 PRイベントを開催
日立製作所は9月20、21日、顧客・ビジネスパートナーとの「協創に向けたきっかけ作りの場」とする日立グループのイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2023 JAPAN」を、東京ビッグサイト(東京・江東区)で開催。4年ぶりの対面開催となった今回は、有識者を交えた討論、最新の技術開発の成果を紹介する展示など、60以上のセッション・ブースが設けられ、人気のコーナーには入場待ちの行列ができるほどの盛況ぶりだった。21日に行われたセッション「脱炭素社会における原子力の役割」(モデレーター=間庭正弘氏〈電気新聞新聞部長〉)では、日立製作所原子力ビジネスユニットCEOの稲田康徳氏他、東京大学公共政策院特任教授の有馬純氏、脳科学者の中野信子氏が登壇。カーボンニュートラル実現に向けた原子力の果たす役割、人材確保・科学リテラシーに係る課題を巡り意見交換がなされた。稲田氏は、エネルギーに由来するCO2排出量の各国比較データを示し、日本のエネルギー需給における脱炭素化の課題として、「化石由来の電源を減らすことが大変重要」と強調。さらに、東京大学との共同研究による試算から、今後のデジタル社会の発展に伴い「日本の電力需要は現在の1.5倍程度となる」可能性を示した。一方で、「天候の影響を大きく受ける再生可能エネルギーは、電力系統の安定性からも課題がある」と指摘。その上で、原子力発電のメリットについて、「運転時にCO2を排出しないという基本的価値に加え、天候の影響を受けず、昼夜を問わず大規模な電力を安定的に供給できる。ベースロード電源として最適」と述べた。日立の取り組む新型炉開発について、稲田氏は、米国GE日立と共同開発する電気出力30万kW級小型炉「BWRX-300」と、135~150万kWの大型炉「Hi-ABWR」(Highly innovative ABWR)を紹介。それぞれの技術的・経済的特長・開発スケジュールについて説明した。科学技術行政に係る取材経験の豊富な間庭氏は、“Innovation”を切り口に原子力に対する人々の理解に関し問題提起。これに対し、脳科学・心理学で多くの著書を有する中野氏は、社会学的観点から、人々の「不安」に関しては、それを背景とする数多くの映画・小説が発表され「エンターテイメントにもなっている」とする一方、「安全」に関しては、「日常不可欠のことでまったくエンターテイメントになっていない」と述べ、「実際、エンターテイメントは人々の『不安』をもとに創られている」と指摘。さらに、「正しく怖がる」科学リテラシーの重要性について、昨今の新型コロナに係る情報流布にも言及し、「残念ながら十分とは言えない。現代社会を生きていくには不可欠のもの」と強調し、理科教育、教員の育成、いわゆる「大人の学び直し」の必要性などを訴えた。展示会場ではデモも、写真は人間が行うような複雑作業を高放射線環境下で実現する「筋肉ロボット」また、間庭氏は、原子力産業のサプライチェーン維持・強化の観点から、人材育成の問題を提起。これに対し、高等教育の立場から有馬氏は、「日本の学生は講義を聴くだけで、人前で発言しない傾向にある。一方で、海外の学生は子供の頃から『議論しながら確かめていく』マインドが養われている」と、コミュニケーション能力の課題をまず指摘。さらに、稲田氏は、バーチャル空間やシミュレーションなど、デジタル技術を活用した技術伝承の取組を紹介したほか、海外プロジェクトへの参画を通じ若手に対する原子力技術への関心喚起を図っていく考えを示した。
- 22 Sep 2023
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原子力学会 高校教科書で調査報告
新学習指導要領で新設された「公共」の教科書(数研出版ホームページより引用)日本原子力学会の教育委員会は9月12日、高校教科書におけるエネルギー・環境・原子力・放射線関連の記述に関する調査報告書を発表した。同委員会では、1995年以来、初等中等教育の教科書に係る課題認識から、これまで17件の調査報告書を公表し、文部科学省を始め、各教科書出版会社などに提出しており、その具体的な要望・提言が教科書の編集に検討・反映されることにより、記述の改善が促されている。今回、調査を行ったのは、高校の主として中学年用に2023年度から使用されている地理歴史(地理総合、地理探求、日本史探求、世界史探求)、公民(公共、倫理、政治・経済)、理科(物理、化学)、工業(電力技術Ⅰ、工業環境技術)の検定済み全教科書計39点(2022年度入学生から適用されている新学習指導要領に基づく)。調査結果を踏まえ、報告書では、前回、2022年度に高校教科書(地理歴史、公民、理科、保健体育)を対象に実施した調査と同様、全般的に、可能な限り最新のデータ・図表を使用するとともに、原子力・放射線についての用語・単位は正しく使用、記載、説明するよう要望。その上で、福島第一原子力発電所事故に関する記述国際原子力・放射線事象評価尺度(INES)に基づく事故評価の考え方わが国および世界各国の原子力エネルギー利用の状況に関する記述各エネルギー源のメリットとデメリットに関する記述放射性廃棄物に関連する記述放射線および放射線利用に関する記述地球環境問題に関連した記述原子力エネルギー利用についての多様な学習方法の拡充――について提言している。福島第一原子力発電所事故に関連した事項は、「化学」と「物理」の一部を除くほとんどの教科書で記載されていた。報告書では、放射線被ばくによる健康影響に関するより正確な記述をあらためて求めるとともに、事故後10年以上を経た現在の復興状況として、地元の若者たちの将来を見据えた新しい取組や明るい一面についても可能な範囲で紹介するよう要望。INESに関しては、今回の報告書で新たに提言。原子力利用のリスクについて、チェルノブイリ((本紙では“チョルノービリ”と表記しているが、ここでは調査した教科書の記載に従った))原子力発電所事故、福島第一原子力発電所事故、JCO臨界事故、「もんじゅ」ナトリウム漏えい事故などを、比較し取り上げている「公共」、「政治・経済」の教科書があったが、「事故の深刻度については、必ずしも社会的な取り上げ方に比例しない」と指摘。科学的な観点から、誤解を招かぬよう、INESに定義された異常事象・事故レベルを念頭に具体例を取り上げるよう要望している。わが国および世界各国の原子力エネルギー利用の状況に関する記述では、2023年2月に閣議決定された「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」で取り上げられている政策やそれに関連する事項、さらに、ウクライナ情勢も踏まえ、各国の原子力利用の動きについても、最新の記載がなされるよう求めている。
- 14 Sep 2023
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原子力マネジメントスクール 14か国が参加
「Japan-IAEA 原子力エネルギーマネジメントスクール(NEMS) 2023」が8月22日~9月8日の日程で、東京大学本郷キャンパス(一部の講義とテクニカルツアーを福島・茨城県で実施)で開催されている。原子力発電の導入を検討する各国および日本の原子力政策・規制組織の若手担当者、技術者・研究者が対象。NEMSは、世界各国で原子力エネルギー計画の策定・管理をリードする人材の育成を目指し、エネルギー戦略、核不拡散、国際法、経済・環境問題など、幅広い課題について学ぶ機会を提供し、マネジメントに必要な基礎能力を養うことを目的に、2010年にイタリアで始まった。日本での開催(2012年初開催、2014年より日本主催・IAEA共催)は今回で11回目。東京大学大学院工学系研究科の他、日本原子力研究開発機構、日本原子力産業協会、原子力国際協力センターなどで運営する産学官プラットフォーム「原子力人材育成ネットワーク」により実施され、国内行政機関、電力・メーカーからも講師を招く。今回の研修生は、海外13か国(ブルガリア、チェコ、エストニア、ガーナ、インドネシア、ヨルダン、カザフスタン、メキシコ、フィリピン、ポーランド、サウジアラビア、スロバキア、ベトナム)から18名、日本からは11名、計29名が参加した。今回のNEMSは4年ぶりの全面的な対面開催となり、8月22日に行われた開講式で、組織委員長の東京大学大学院工学系研究科准教授・出町和之氏は、会期を通じ対面・現地で講義、グループワーク、施設見学に臨む各国研修生らを大いに歓迎。続いて挨拶に立ったIAEA企画・経済調査官のアンリ・パイエール氏は、気候変動対策における原子力発電の重要性を述べた上、研修を通じ将来に向け専門的なネットワーク構築が図られることに期待を寄せた。また、NEMS前組織委員長の上坂充原子力委員会委員長は、「国際的な討論は極めて重要」と、原子力政策の立案において他国の状況も理解する必要性を強調するとともに、研修生らに対し、カリキュラムの一環となる福島訪問に関して「ALPS処理水対応も含め、福島第一原子力発電所廃炉の現状をよく見て理解して欲しい」と述べた。研修生らは、8月25日まで東大で講義とグループワークに臨んだ後、28日~9月1日には茨城・福島県に移動。原子力機構の高温工学試験研究炉「HTTR」、福島第一・第二原子力発電所、水素エネルギー研究フィールドなどを見学。4日には東京へ戻り、最終テストが実施され、8日に閉幕となる運びだ。
- 01 Sep 2023
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日本科学未来館コミュニケーターが震災伝承施設の訪問記
科学未来館コミュニケーターの青木皓子さん©科学未来館関東大震災から間もなく100年。「もしも明日大きな地震が発生したら、どんなことが起きて、私たちはどう行動すればいいのだろう」、日本科学未来館科学コミュニケーターの青木皓子さんは、ブログ(前編、後編)を通じ問いかけている。青木さんが訪れた震災伝承施設©科学未来館2011年3月11日に発生した東日本大震災を例に、青木さんは、「普段の生活では意識することが難しい過去の災害を振り返り、未来を考える」ための震災伝承施設として、「いわき震災伝承みらい館」(いわき市)、「東京電力廃炉資料館」(富岡町)、「とみおかアーカイブ・ミュージアム」(富岡町)、「東日本大震災・原子力災害伝承館」(双葉町)、「震災遺構 浪江町請戸小学校」(浪江町)、「原子力災害考証館 furusato」(いわき市)を訪れた。実際に行ってみることで、「震災がもたらした被害とそこから得られる教訓を学ぶだけでなく、被害の様相や伝承すべきことが、地域や人によって実に多様であるという気付きがあった」という。2日間の福島県への旅で、青木さんが最初に訪れたのは「いわき震災伝承みらい館」。いわき市は、東日本大震災(本震発生)から丁度1月後の4月11日、再び震度6弱の「福島県浜通り大地震」に見舞われた。同館では、地盤がずれ落ち出現した大きな地層の剥ぎ取り標本などを展示。「災害は誰にでも起こり得るもの。展示を見て、いい意味で『怖い思い』をしてもらうことで、家族と話をしてもらうきっかけとなれば」と、箱崎智之副館長の言葉だ。青木さんは、「本震の後の混乱が続く中で発生した地震が、震災後の復旧活動に与える影響はとても大きかったと感じ、いわき市の被災体験を知ることが自分にとって一つの教訓となった」と、また、津波被害に見舞われた中学校の黒板の卒業式寄書きなど、発災当時の実物展示を見て「当たり前にそこにあった日常を感じる」と、語っている。東京電力廃炉資料館©東京電力続いて訪れたのは「東京電力廃炉資料館」。福島第一原子力発電所事故からおよそ7年半後の2018年11月にオープンした同施設は、福島第二原子力発電所のPR施設だった「エネルギー館」の建物および既存の展示機材を流用し、映像やジオラマを通じて、事故の反省と教訓を伝承するとともに、廃炉の取組全容と進捗状況をわかりやすく説明している。見学は案内ガイド付きのツアー形式が原則だ。事故当時の状況について解説を受けた青木さんは、「事実を科学的にとらえ、分析した結果を伝えていくことの重要性を感じる」と、話している。また、同じ富岡町にある「とみおかアーカイブ・ミュージアム」では、住民の避難誘導に当たっていた最中に津波に巻き込まれたパトカーなど、実際に被災した現物資料が数多く展示されており、「思わず言葉を失ってしまう瞬間もあった」という。「複合災害を地域の歴史に位置づける。」を目標とする同館では、避難生活の長期化に係る資料も多数。「震災遺産」とされる展示を見て、青木さんは、「町の歴史・文化の一部として東日本大震災が語られている」などと、来館の感想を述べている。2日目は、まず「東日本大震災・原子力災害伝承館」を訪問。同館の位置する双葉町は、2020年3月に大熊町、富岡町とともに、帰還困難区域では初となる避難指示の一部解除がなされ、これに伴いJR常磐線が全線復旧。その半年後にオープンした同館は、原子力災害に焦点を当てており、展示エリアに常駐するアテンダントスタッフとの対話も通じ、福島第一原子力発電所事故について理解を深められる点が特徴だ。様々な場所で震災を経験した「語り部」による講話も行われており、青木さんは、「経験を共有することで、自分の中に新たなとらえ方が生まれる感覚とその重要性を感じた」と話している。いわき湯本の旅館一室に開設された「原子力災害考証館 furusato」、公害病のアーカイブ施設も参考としている©科学未来館続いて訪れた「震災遺構 浪江町請戸小学校」は、津波の脅威を真正面から扱うことで防災意識の向上を促す。壁や床の崩れ落ちた校舎内を目の当たりに、青木さんは、「より現実のものとして、自分に訴えかけてくる感覚を得た」と話している。温泉旅館の一室を用いた民間施設「原子力災害考証館 furusato」は、個人の経験に着目。行方不明者の捜索を避難指示により断念せざるを得なかった被災者による展示品などを見て、「震災や原発事故で生活が変わった人はたくさんいるが、公的資料館では、一人一人の物語をすべて扱うことはできない」と、社会教育施設に係る課題を投げかけている。青木さんは、一連の震災伝承施設の訪問を通じ、「自分の防災意識を見直すことにつながり、未来を考える時間となるのでは」と述べている。日本科学未来館の科学コミュニケーターは、科学技術に関心を持つ一般の人から募る任期制職員で、展示フロアでの対話・実演、イベントの企画・制作、ブログを通じた科学情報の発信などを行う。
- 25 Aug 2023
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