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フラマトム社の2020年決算、収益が3.1%下落
仏国のフラマトム社は2月22日、2020会計年度(2020年12月31日まで)における決算報告を公表した。金利・税金・償却前利益(EBITDA)が合計5億6,100万ユーロ(約719億円)と対前年比で6.4%増加した一方、収益や受注高はともに前年実績を下回る結果になったことを明らかにしている。2020年のEBITDAが拡大した理由は主に、様々なプロジェクトを円滑に遂行できたことやコストの削減で同社が努力を継続したことによる。2020年の受注高は総額28億6,900万ユーロ(約3,768億円)で、2019年実績の33億ユーロ(約4,230億円)から約13%下落したが、既存の原子力発電所や建設中原子炉に保守・エンジニアリング・サービスを提供する「設置基盤事業」、および「計測制御(I&C)系事業」に関しては、欧州や北米での活動が比較的堅調だったと指摘した。収益も32億9,500万ユーロ(約4,224億円)と前年実績から3.1%の減少となったが、これは新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大が同社の「設置基盤事業」部門と、いくつかの機器取り替えプロジェクトのスケジュールに大きく影響したためである。それでも同社はパンデミックの最中、これらの部門における作業量を顧客と調整しつつ継続。「設置基盤事業」部門では競争の激しい米国市場で実績が改善されたとしている。また、ブラジルで進められているアングラ原子力発電所3号機(140.5万kWのPWR)の建設プロジェクトでも、ドイツにある同社の製造拠点から引き続き機器類を納入したと述べた。フラマトム社はまた、「計測制御(I&C)系事業」部門では、英国や東欧、米国における新規原子炉建設や既存炉の補修事業で活動が活発に継続したと説明。機器の製造プロセスや品質向上計画に対して同社が行った投資は、「プロジェクト・機器製造(PCM)事業」部門における蒸気発生器や重機器の品質向上に繋がったほか、英国のヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所(172万kWの欧州加圧水型炉:EPR×2基)建設プロジェクトと仏国内のフラマンビル3号機(165万kWのEPR)建設プロジェクトも、同部門の事業拡大に貢献した。同社はこのほか、2020年は「原子燃料事業」部門における燃料集合体の生産が順調だったと表明。これらは主に、米国の原子力発電事業者や英国唯一の軽水炉であるサイズウェルB原子力発電所(125万kWのPWR)に納入したとしている。(参照資料:フラマトム社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 24 Feb 2021
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10年先の未来へ向けて、10年前を振り返る
早いもので、東日本大震災および福島第一原子力発電所事故からもうすぐ10年という月日が経とうとしています。今世の中は新型コロナ一色に明け暮れ、10年も前の災害など回顧する余裕はない、という方も多いかもしれません。しかし目前の危機対応に視野が狭くなってしまう今だからこそ、一旦顔を上げてこの10年間の復興の軌跡を見つめなおすことも大切なのではないでしょうか。復興のエネルギー「今がどん底だから、向く方向は上しかないよね」私が最初に相馬市を訪れた2012年頃の被災地では、しばしばそんな言葉を聞きました。空元気、やせ我慢、と自分たちを笑いつつも前に進むその姿は、開き直った明るさとも言える独特のエネルギーを放っていたと思います。興味深いのは、そのようなエネルギーを持つことと、性別、年齢、職業などの背景には全く関係がなかったことです。ごみを拾う、放射能を測る、ご飯を作る、編み物をする、しめ縄を編む…多くの活動は斬新でも高度でもなく、自分の手が届く範囲でできる、些細な活動です。しかしそれは、多くの人が忘れかけていた日常を取り戻すための大切な第一歩であったと思います。復興が始まる場所大災害の後、本当に困っている多くの方の姿は、ニュースやメディアの中にはありません。災害の後には極端な体験をした少数の人々、声が大きい人、地位の高い人か専門家のみが報道されがちだからです。被災地で苦しむ多くの方は、極端な不幸もなく、かといって幸せというには遠く、単純な枠にはめられない茫漠とした「非・幸福」を抱えながらも華々しい「復興事業」からとり残されてしまった人々でした。この「物言えぬ多数派」が日常を取り戻すために何ができるのか。今振り返れば、それを模索することこそが復興の始まりだったように思います。重要なことは、最初に動き出すことのできた方は、誰よりも早くご自身の心の復興も遂げてきた、という点です。それはおそらく、復興という活動が単なる他者への貢献ではなく、「人は誰でも自分の手でできることがある」という自信を思い出させてくれる大切なプロセスであるからなのではないでしょうか。コロナ禍のチャンス当時、被災地の外では、被災地に貢献できないご自身を責める声も度々聴きました。「被災地に足を運びたいけれど、家庭や仕事があって何もできない」「苦しんでいる人がいるのにこんな普通の日常を送っていてよいのだろうか」九州豪雨災害や熊本・大分地震の際でも、心の中で支援したいと願っていても物理的な距離に阻まれ何もできなかった、という方も多かったと思います。災害時に何かをさせてもらえる、というのはある意味恵まれた経験と言えるのかもしれません。では、今のコロナ禍はどうでしょうか。国民のほぼ全員が被災した今般のコロナ禍では、度重なる禁止事項の羅列によって社会全体がえも言えぬ暗さに覆われています。でも見方を変えれば、今回の災害は、これまでどこか遠くの「被災地」に居た救うべき人々が、皆さんのすぐ隣にいるということもできるのです。「ソーシャル・ディスタンス」という言葉の下に人とのつながりを絶たれてしまった結果、多くの方がすぐそばにある「被災地」、すぐそばにいる「被災者」に気づけなくなっているのかもしれません。でも多くの被災地でそうであったように、支援の芽はおそらく全員の手の中にあります。そしてその支援こそが、私たち自身を復興へと導いてくれる原動力なのではないでしょうか。東日本大震災の10年の歴史は、私たちにそのことを思い出させてくれています。新たなリンゴの苗をもとめてもちろん東日本大震災とコロナ禍は規模や種類の面で全く異なります。けれども、何かをするという支援、させてあげるという支援が明日へとつながることに変わりない、と私は思っています。「たとえ明日世界が滅びようとも、私は今日リンゴの苗を植える」10年前、津波に襲われた後の被災地ではこの言葉が多くの方の口に上りました。10年が経ち、新たな災害に直面している私たちの多くは、今まだコロナの被災地に植えるべきリンゴの苗を見つけられずにいます。これから10年先の未来へ向け、何を植え、どのように踏み出せばよいのか。10年前の震災から現在へと伸びた軌跡をたどることが、その先にある10年を生み出すための一つの糧になればいいな、と思います。
- 17 Feb 2021
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IEAのWEO最新版、「パンデミック影響下では適切なエネルギー政策が必要」と指摘
国際エネルギー機関(IEA)は10月13日、世界のエネルギー・システムが今後10年間でどのように展開していくか包括的に検証した「ワールド・エナジー・アウトルック(WEO)2020年版」を公表した。今年は、新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大(パンデミック)が世界中のエネルギー部門にかつてないほどの混乱を引き起こし、その傷跡の影響は今後何年にもわたり続いていくと予想される。これに対し、このような大混乱がクリーン・エネルギー社会への転換加速や地球温暖化の防止という目標の達成に対してどのように働くかは、各国政府による対応の仕方と十分に検討された適切なエネルギー政策にかかっていると報告書は強調している。IEAは今回、世界のエネルギー供給システムを一層確実かつ持続可能なものにするための努力が新型コロナウイルス危機によって後退させられるのか、あるいは逆にクリーン・エネルギー社会への移行を加速する触媒となるのか、断定するには時期尚早だと説明。パンデミックは未だに終息しておらず、数多くの不確定要素を残したままエネルギー政策に関する重要判断がこれから下されることになる。このためIEAは今回のWEOで、2030年までの重要な10年間に新型コロナウイルス危機からの脱却に向けた複数のシナリオを検証。エネルギー部門や地球温暖化の防止対応にとって極めて重要なこの時期に、人類がこれから進もうとしている立ち位置を形作る様々な選択肢やチャンス、あるいは隠れた危険の特性について、IEAは今回のWEOでその可能性を幅広く想定した。今回のWEO評価によると、2020年は世界のエネルギー需要が5%低下する見通し。これにともない、エネルギー関係のCO2排出量は7%、投資は18%減少する。影響は燃料毎に異なっており、石油の需要量は8%減、石炭の利用量が7%減少するのに対し、再生可能エネルギーへの需要はわずかに上昇。天然ガスの需要量も約3%減少するが、電力需要の低下は比較的穏やかな2%程度だとした。エネルギー部門のCO2排出量も24億トン低下し、年間排出量は10年前のレベルに戻るとしたが、強力な温室効果ガスであるメタンの年間排出量が同じように低下しないと警鐘を鳴らしている。世界のエネルギー部門は4種類のシナリオで展開エネルギー部門の今後に関しては予測方向が一つに絞られているわけではなく、IEAはパンデミックによる社会や経済への影響、対応政策によって、将来的なエネルギー動向には幅広い可能性があるとした。このような不明部分を複数の評価方法で考慮するため、IEAは最新のエネルギー市場データやエネルギー技術などとともに以下のシナリオを検証している。「すでに公表済みの政策によるシナリオ(STEPS)」:これまでに公表された政策や目標を全面的に反映したシナリオで、2021年に新型コロナウイルス危機が次第に沈静化し、世界経済は同年中に同危機以前のレベルに戻る。「危機からの回復が遅れるシナリオ(DRS)」:前提となる政策はSTEPSと同じだが、世界経済に対するパンデミックの影響が長期化することを想定しており、危機以前のレベルに戻るのは2023年になってから。「持続可能な開発シナリオ(SDS)」:このシナリオでは、クリーン・エネルギー政策や投資が大規模に展開され、世界のエネルギー供給システムはパリ協定など持続可能な開発目標の達成に向けて順調に進展する。「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するケース(NZE2050)」:IEAが今回新たに加えたシナリオで、SDSの分析を拡大展開させたもの。現在、数多くの国や企業が今世紀半ばまでに排出量の実質ゼロ化を目指しており、SDSシナリオでは2070年までにこれらが達成できる見通し。NZE2050シナリオではこれを2050年までに達成するため、今後10年間で何が必要になるか詳細なIEAモデルを示している。IEAの分析によると、世界のエネルギー需要が危機以前のレベルに戻るのはSTEPSでも2023年初頭のこと。DRSではパンデミックの影響長期化と深刻な不況により、2025年まで戻らないとした。また、電気を利用できない人々の状況については過去数年間の進展が覆され、今年はサハラ以南のアフリカ大陸で利用不能の人口が増加する見通しである。再生可能エネルギーはすべてのシナリオで利用が急速に拡大すると予想されており、太陽光発電は数多くの新しい発電技術の中でも中心的な立場を獲得。これに加えてSDSとNZE2050では、原子力発電所の建設もクリーン・エネルギー社会への移行に大いに貢献するとしている。IEAはまた、CO2排出量の削減問題で発電部門は主導権を握っているが、エネルギー部門全体でこの問題に取り組むには幅広い戦略と技術が必要になると指摘。SDSでは2030年までに太陽光発電による発電量が現在の3倍近くになり、発電部門のCO2排出量は40%以上削減される。このように再生可能エネルギーと原子力による発電量が増えるにつれて発電部門からのCO2排出量が抑えられるなど、エネルギー消費全体の中で電力の果たす役割はますます大きくなるとしている。IEAはさらに、NZE2050のシナリオどおり2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するには、次の10年間でさらに意欲的なアクションを取る必要があると表明。2030年までに排出量の約40%を削減するため、この年までに世界の総発電量の75%近くまでを低炭素エネルギー源から賄い、販売される乗用車の50%以上を電気自動車にしなければならない。また、電力供給に限らず行動様式の変更や効率性の強化など、これらすべてがそれぞれの役割を果たし、水素発電から小型モジュール炉(SMR)に至るまで幅広い分野の技術革新を加速する必要があるとしている。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 15 Oct 2020
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加ブルース・パワー社とカメコ社が次世代原子力技術センターを起ち上げ
カナダで原子力発電所を運転するブルース・パワー社と大手ウラン生産業者のカメコ社は8月20日、「次世代原子力技術センター」の創設を中心とする複数の共同イニシアチブを起ち上げると発表した。両社のこれまでの連携関係を活用して、新型コロナウイルス感染後のカナダ経済の再生を支援するとともに、CO2を排出しない原子力発電で地球環境を保全。世界中に蔓延したコロナウイルス感染症のような疾病との戦いにおいても、原子力サプライチェーンを使ってコミュニティの必需品を確保するなどの協力を強化する。両社は原子力技術革新によって小型モジュール炉(SMR)のような新技術を開発する基盤を築き、ガン治療に役立つ放射性同位体(RI)や水素経済への移行に向けた水素の生産技術の進展を後押しできると確信。すなわち、原子力インフラへの投資を通じて現行経済を刺激し、将来的には世界に力を与えることも可能だと考えている。原子力発電所の運転企業および燃料サプライヤーとして蓄えてきた専門的知見を一層深め、ブルース・パワー社が電力供給するオンタリオ州やカメコ社が本拠地を置くサスカチュワン州のみならず、カナダ全体の将来的な経済や輸出を支援していく考えである。両社はそれぞれ、オンタリオ州とサスカチュワン州の産業リーダー的存在であり、間接雇用も含めた従業員の総数は約2万7,000人。カナダ経済への投資額は年間90億~120億カナダドル(約7,200億~9,600億円)に達するなど、カナダ全体の原子力産業を代表する企業として、温室効果ガスを排出しない発電やガン治療用RIの生産といった科学技術革新の最前線に留まっている。今回の発表で両社は、これら2つの州政府が経済を立て直すためのチャンスをもたらしたいとしている。また、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大に際しても、両社はCO2を排出しない電力をカナダ全土に安全・確実に供給し続けている。今後は、カナダ最大のインフラ・プロジェクトの1つと言われるブルース・パワー社のブルース原子力発電所(=写真)運転期間延長プログラムを活用して、国家経済の再構築を手助けしていく方針。州を跨いだ両社間の重要な連携関係を拡大・強化するため、「次世代原子力技術センター」は、両社がBWXT社やオンタリオ州のブルース郡とともに2018年に創設した「原子力技術革新協会(NII)」の付属施設とする計画。NIIは、カナダの原子力産業界で技術革新を促進することを目指した非営利組織である。なお、両社間の今回の協力では、ブルース発電所の運転期間延長プログラムと既存の長期燃料供給契約に加えて、ブルース6号機が機器の交換を終えて再起動する2024年にカメコ社が追加で1,600体の燃料バンドルをブルース・パワー社に供給することになった。これは、2017年に両社が締結した20億カナダドル(約1,600億円)の既存の燃料供給契約に基づいて決定したとしている。(参照資料:ブルース・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 24 Aug 2020
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「当たり前」の世界
大災害により人々の不安が増す時期には、大勢に頼ることで自分の立ち位置を安定させたい、という空気が生まれます。それは社会が混乱から回復するための自浄作用なのかもしれません。しかしその欲求は時に、「大きな声」を「多くの声」より優先し、サイレントマジョリティ(物言わぬ多数派)を生み得ます。自分の住む社会の当たり前が本当はどこにあるのか。その素朴な疑問の声を上げられるためには、時によそ者の空気を読まない一言も必要です。福島の「物言わぬ多数派」「原子力発電所事故後の福島では、放射線による直接被害以上に避難などによる間接的な健康被害が大きかった」今このような発言をしても、多くの人はあまり違和感を覚えないのではないかと思います。では、このことはいつから普通に語れるようになったのでしょうか。私がこのテーマにつき「福島浜通りの現状:敵は放射線ではない」という記事を書かせていただいたのは、原発事故から3年半が過ぎた2014年9月のことです。今コメント欄を見てみても、当時こういう記事はほとんど出ていなかったことが分かります。現場では明らかに起きていることなのに報道されない。その主な理由は、当時、放射能が「相対的に安全」という記事ですら炎上する、という傾向があったためです。実際にこの記事の後、私も「自覚せずに御用学者をやっているエア御用学者」などのコメントをいただきました。サイレントマジョリティの逆転しかしその数年後には逆の現象がおきました。復興モードが高まるにつれ、放射能は怖い、という声がむしろ上げづらくなってしまったのです。県外の避難先から帰還された方々は放射能の情報があまり入らない環境にいたため、放射能への不安が強かったようです。「いろいろ事情があって戻りましたが、放射能はやっぱり怖いです。でもそれを口に出すと、活動家の仲間と思われそうで…」2017年頃にはそういう声も聞きました。「放射線以外だって大変なことが起きている」「でも放射線も何となく怖いよね」どちらも、当時多くの方が当たり前に感じたことではないでしょうか。なぜそんなことが日常で口に出せなかったのか。振り返ってみれば不思議な気すらします。しかし有事には、そういう当たり前のことを口に出せない「空気」が作られてしまい、何年もの間続くことすらあるのです。新型コロナ対策の理想と現実今般のパンデミックにもこのようなサイレントマジョリティがいると感じています。先日、保育士さんたちと新型コロナウイルス対策のお話をさせていただく機会がありました。無症状の子どもたちが感染を広げる、などというニュースもある中、お子さんを預かる保育施設の方々は日々重圧を抱えながらお子さんと向き合っています。しかし、子どもの感染対策には大人以上に正解がありません。子どもは大人と違い、徹底した感染対策は健康や発達に影響を与え得るためです。「私の施設では室内でのドッチボールや縄跳びが盛んです。盛り上がってくるとつい大きな声で叫んだり、息が上がったりします…苦しそうなのでマスクを外させたいのですが飛沫感染などを考えると心配で」ある保育士さんからはこのような声も聞きました。たしかにコロナウイルスだけを見れば、お子さんにも三密を避けさせ、消毒を徹底し、距離を開けさせるのが良いのでしょう。しかし、それはそもそも可能なのでしょうか。たとえば幼稚園のお子さんが、先生に言われたからといってずっとマスクを外さず、周りのものを決して口に入れないなどということができるのでしょうか。あるいは食事の時にしゃべらない、大声を出さない、などと教えることは、子どもの情緒に影響を及ぼさないのでしょうか。さらにそれを守らせようと保育士さんが神経質になることは、保育士さんにとっても、子どもにとっても、感染症以上の悪影響を及ぼさないのでしょうか。私は子どもには詳しくないので、偏見はあるかもしれません。しかし素人目に見ても、幼稚園や学校で子ども同士の感染を完全に防ぐ、という事には限界があるように思います。よそ者の一石毎日お子さんと接している方々の中には、私と同じように「そこまで徹底するのは無理」「なんでここまで頑張らなくてはいけないの?」と考えている方もいるかもしれません。しかし、当事者がそれを口に出せるでしょうか。「じゃあ子どもが感染したらどう責任を取るのだ」そういう非難が必ず出てきます。そしてどちらが「正義」かといえば、恐らく後者でしょう。それが分かるからこそ、人であれば当然思ってしまうであろう当たり前のことを口に出せない。災害後の福島と同じような「空気感」が、今の社会には漂っているように思います。 その空気に風穴を開けられるとすれば、それは現場の人間ではなく、むしろコミュニティの部外者である「専門家」「有識者」というよそ者です。コミュニティと一定距離を保てるよそ者は、万一反感を買ってもそこから逃げることができるからです。「皆もそう思っている気がするけれども怖くて口に出せない」そういう硬直した空気に一石を投じることで、コミュニティ内の対話を促すきっかけになるのではないでしょうか。「檄文」が封じる声しかしそのようなよそ者・有識者の意見は過激であるべきではありません。檄文調の発信は容易にイデオロギー化し、穏やかに過ごしたい方々の意見をむしろ抑制してしまうからです。福島県内で「放射能が怖い=活動家」のような雰囲気が作られてしまったために、本当に不安な方の声が聞こえづらくなったこともこの現象です。今、過剰な自粛に反発するように「コロナパーティー」のような活動を時折見かけます。これもまた、鬱憤の溜まった人々の声を代弁しようという活動なのだと思います。しかしこの活動で一番心配なことは、「過剰な対策に疑問の声を上げることは、ああいう反社会的な人の仲間と見られるのでは」と、むしろ普通の方が声を上げられなくなってしまうのではないか、ということです。一人一人の恐怖感が少しずつ違うリスクへの対応は、その妥協ラインを周りの人と丁寧に話し合っていく必要があります。その過程を踏まずに突然「コロナパーティー」のような極端な行動に出ることもまた、コミュニケーションの破綻と言えるでしょう。極端な断言により更に多くのサイレントマジョリティを生み出さないこと。よそ者はよそ者なりに、その責任感を持つ必要があります。当たり前のことを、当たり前に言えること 不安な時には誰でも、正義や正解を頼みたくなります。完璧なコロナ対策という正解、それに反発する人々の正義。しかし本当の日常は、論文の中にも檄文の中にもありません。「これは正しくないことだけれども、誰でも思ってしまうことでは?」そのような疑問が湧いた時、それを当たり前に声に出せること。福島では、その当たり前を取り戻すために何年もの歳月がかかりました。“Withコロナ”と呼ばれる世界がその二の轍を踏まないために私たちにできること。それは大きな声の陰にある多くの声を拾いあげるための対話を繰り返すことだと思います。時には怖がり、時には怠け、時には悪いことも考えるふつうの人間が、メディアに溢れる正義に振り回されずに話し合える日常こそが「新しい生活様式」であれば良いな、と思っています。
- 20 Aug 2020
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欧州理事会、新型コロナ後の復興計画で原子炉の廃止措置等に10億4,500万ユーロ
欧州連合(EU)の政治的な最高意思決定機関である欧州理事会は7月21日、新型コロナウイルスによる感染で打撃を受けた域内経済の復興に向けて会期を延長して協議した結果、合計7,500億ユーロ(約92兆円)規模の復興基金を創設することで合意した。また、2021年から2027年までの「複数年次財政枠組み(MFF)」に関しては、東欧の3か国が2000年代にEUに加盟した際、交換条件として早期閉鎖した原子炉8基の廃止措置プログラムに対する支援金など合計10億4,500万ユーロ(約1,286億円)が割り当てられることになった。対象となった廃止措置プログラムは、事故を起こしたチェルノブイリ発電所と同じ黒鉛チャンネル型炉(RBMK)と、格納容器のない第1世代のロシア型PWR(VVER)。具体的にはリトアニアのイグナリナ原子力発電所1、2号機(RBMK-1500、出力各150万kW)、スロバキアのボフニチェ原子力発電所1、2号機(VVER-440、同各44万kW)、およびブルガリアのコズロドイ原子力発電所1~4号機(VVER-440、同各44万kW)である。これらは2009年までにすべて早期閉鎖された後に廃止措置活動が始まっており、EUは「国家的なエネルギー生産設備の喪失に対する影響緩和プロジェクト」の中から、これら3国に対して財政支援を提供中。しかし、廃止措置に特化したEUの資金調達プログラムでは、タイムリーかつコスト面でも効率的な廃止措置活動を行おうという動機付けが創出されず、3国の作業には遅れが生じている。また、EUの執行機関である欧州委員会(EC)は今年3月、「これらの廃止措置を日程通り完了するには、2021年から2027までの期間に追加の財政支援が必要」とする報告書を欧州理事会と欧州議会に提出していた。今回の財政復興計画の中で、これらの廃止措置プログラムは「複数年次財政枠組み(MFF)」の1項目「域内セキュリティと防衛」に盛り込まれている。10億4,500万ユーロのうち、イグナリナ発電所に対しては2021年から2027年までの期間に4億9,000万ユーロ(約604億円)、ボフニチェ発電所には2025年までに5,000万ユーロ(約62億円)、コズロドイ発電所については2027年までに5,700万ユーロ(約70億円)の支援を約束。また、EU所有の施設における原子力安全と廃止措置に4億4,800万ユーロ(約551億円)が提供されるとしている。欧州理事会はこのほか、MFFの「単一市場、技術革新、およびデジタル化」の項目で、欧州における複数の大規模プロジェクトに対する継続的な財政支援を確認。その中でも国際熱核融合実験炉(ITER)計画を実行に移すため、2027年までの期間に最大50億ユーロ(約6,156億円)提供する方針を明らかにしている。(参照資料:欧州理事会の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 22 Jul 2020
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新型コロナに見る「不思議のASEAN」
新型コロナウイルスが猛威を振るう中、欧州や南北米など世界のどの地域よりも感染が軽微なのがASEAN(東南アジア諸国連合)の国々だ。世界の累計感染者は既に1,000万人を突破、死者も50万人を超えたが、7月9日現在、人口約9,500万のベトナムの感染者は僅か369人、死者は0。人口5,000万強のミャンマーも感染者318人、死者6人、タイの感染者3,202人も人口7,000万の国としては軽微だし、死者は7人と少ない(本文中の東南アジア各国の数字は共同通信系のNNAニュースに基づく)。2億6,000万と世界4位の人口大国インドネシアはさすがに感染者68,079人、死者3,359人と桁が違うが、同6位のブラジル((編集部注:ブラジルは7/13時点で感染者186万人、死者72,100人))とは雲泥の差だし、人口1億のフィリピンの感染者50,359人と死者1,314人も、人口8,000万台のトルコの感染者は20万超だからやはり格段に少ない。カンボジアは統計の信頼度に難があるものの感染者141人と死者0人だし、ラオス、ブルネイは今や感染者を発表していない。感染爆発は起きていないということだろう。地理的にも経済的にも中国と関係密なASEAN10カ国は、本来なら感染爆発してもおかしくない。ベトナム、ラオス、ミャンマーは国境を接し、タイ、マレーシアなど大半の国が経済を中心に中国との往来が盛んだし、華人が多数暮らす国も少なくない。つまり感染爆発を招く要因は沢山ありながら、不思議にもASEANは感染爆発せず、感染爆発したのは中国から遠く離れた欧州諸国だった。一体なぜか。ここからは独断になるのだが、ASEAN諸国は中国と関係が近いからこそ感染爆発や医療崩壊を免れたのではないかと思う。一番の好例がベトナムだ。国境を接し、カンボジア問題を巡って戦火を交えた仇敵同士。南沙諸島の領有権問題でも、対中姿勢はASEANでもっとも厳しい。一方で同じ一党独裁国家として党同士は友党関係が長い。国境を素早く閉鎖し、中国人の流入をブロック、感染拡大を抑え込めたのも、このように中国の本質と手の内を知っていればこそだった。このことは中国と関係がより深い台湾をみれば、一層明らかだ。台湾は中国が武漢市の異変を公表した昨年大晦日、即注意喚起を発表、1月2日には検疫体制を強化するなど迅速な初動対策でコロナ封じ込めに奏功した。中台確執の歴史を通して、台湾は中国の隠蔽・欺瞞体質を熟知する。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が習近平国家主席の言い分を疑わず、言われるままに中国との往来をすぐには禁止せず、パンデミックを招いてしまったのとは大違いだ。もちろんASEANで感染が軽微な理由はこれだけではない。SARS(重症急性呼吸症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)など過去の感染症の経験と教訓、さらにはアジア通貨危機やリーマンショックなど国家的危機の経験もASEANの体質を強化し、域内連携や協力の重要性を育んだ。また欧州のような高齢社会でないことも有利に働いただろうし、保健衛生も南アジアやアフリカなどとはレベルが違う。水資源に恵まれ、手洗いや水浴の慣行などもコロナ対策に寄与したはずだ。しかし私には対中経験の言わば試練の差が、東南アジアと欧州や他の地域の明暗を分けた大きな要因のように思える。隣人・中国の巨大な風圧をまともに受けながらASEANは半世紀近くをサバイバルして来たのだ。「不思議の」という形容詞がASEANには似合う。個々の国々は小さくても10カ国まとまると数字以上の存在感を発揮するし、ベトナムとカンボジア、マレーシアとシンガポールのように犬猿関係にありながら最後通牒までは行かないなど、不思議だがナットクさせられる。近年のASEANは、中国の強大化、カンボジア、ラオスなど後発途上国の囲い込み、巧妙な分断外交などの結果、「もはや中華圏」の声も聞かれた。しかし今回のパンデミックでは、発生元・中国と上手く一線を画し、感染爆発も医療崩壊も回避する不思議ぶりを示したと言える。6月末のテレビによるASEAN首脳会議で、久々に南沙諸島問題で中国に物申すことが出来たのも、議長国がベトナムの理由が大きいとは言え、もしコロナ対策に失敗していたら、南沙どころではなかっただろう。中国からの巨額援助に一時、領有権問題を棚上げしたフィリピンのドゥテルテ政権も、援助が額面通りではないと分かるや、対中・対米外交の仕切り直しに入った。インドネシアも中国独自の九段線に基づく領海の主張を認めない書簡を国連に送ったばかりだ。新型コロナウイルスは国の形、地域の有り様を赤裸々に映し出している。中国と不思議のASEANの紆余曲折はまだまだ続くだろう。
- 13 Jul 2020
- COLUMN
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WNAが白書を公表:「新型コロナ後の経済復興計画は原子力投資へのチャンス」
原子力産業を支援している業界団体の「世界原子力協会(WNA)」は7月9日、新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)後の世界の原子力発電について、現状分析と将来展望をまとめた白書「Building a StrongerTomorrow:Nuclear power in the post-pandemic world」を公表した。それによると、COVID-19が世界規模で拡大(パンデミック)したことで世界中の地域社会が深刻な影響を受けたが、多くの国では今後、一層クリーンで頑健かつ回復力のある社会をどのように構築するのが最良かについて、それぞれの政府がレビューを進めている。WNAはパンデミックに対して適切な政策的対応が取られれば、真に持続可能な世界を作り上げるまたとないチャンスがもたらされると認識。原子力は、低炭素で機能停止からの回復力が高く価格も手頃な電力の供給インフラを支える一方で短期的な経済成長を促すなど、COVID-19後の世界の復興に向けて中心的役割を担うことができる。原子力発電に対する投資もまた、エネルギー供給保証の強化につながるほか、水素や熱の供給に貢献して他部門の脱炭素化を支援することも可能だと強調している。今回の白書でWNAは、原子力発電所の建設プロジェクトが各国内で重要な投資を呼び込み、地域レベルや国家レベルで経済成長を長期的に持続させる原動力になると説明。世界では現在、108基ほどの新規原子炉建設計画に予算がついたり承認が得られるなど、すぐにも着工可能な段階に達しており、適切な支援さえあれば直ちに高賃金で長期の雇用機会を創出することができる。これらの建設計画はすべてCOVID-19後の復興にとって重要であり、膨大な社会的利益を生む可能性がそれぞれにあるものの、これを実現するには原子力の特質を高く評価するメカニズムが必要だとWNAは指摘した。また、直ぐに使える方策として、WNAは既存の原子力発電所における運転期間の長期化を挙げており、運転開始後30年以上が経過した世界中の原子炉約290基で運転期間を延長することは、低炭素な電力を発電する最も廉価な方法だと説明している。WNAとしては、COVID-19が引き起こした喫緊の危機に各国政府が取り組む際、原子力発電への投資は絶好のチャンスになると捉えている。また、地球温暖化や大気汚染、エネルギー貧困(近代的なエネルギー・サービスに対するアクセスの欠如)のように、規模が大きくて繰り返し発生する課題に取り組む際、原子力への投資は将来、これらの課題関連で危機が発生するのを防ぐことができるとした。こうした背景からWNAは、原子力に対して投資することは社会的な責任を負うことになるだけでなく、一層クリーンかつ万人に公平な未来の構築に向けて、持続可能な経済・社会の構築をも支援することにつながると強調。このような状況の下で、各国の為政者に対しては以下の点を実行に移すことを求めている。いかなるエネルギーへの移行計画においても、原子力と原子力が持つ社会経済面、環境面、公衆衛生面の利点を考慮し、それらの利点を現実化するための政策を制定する。各国政府がすでに検討中の原子炉建設計画合計108基分を実行に移し、30年以上稼働している既存の原子炉290基についても運転期間を延長する。原子力への投資を促す同時に顧客価値が生み出されるよう適切な枠組みを設定し、原子力に対する資金調達上の制限を解除する。(参照資料:WNAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 10 Jul 2020
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英NIA、CO2排出量の実質ゼロに向け原子力ロードマップ作成
英国原子力産業協会(NIA)は6月24日、新型コロナウイルスによる感染危機終息後のクリーン経済再生と2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするという英国政府の目標を達成するには、新規原子力発電所の建設実施を明確に確約する必要があるとの認識の下に作成した原子力ロードマップ「Forty by‘50」を公表した。これは、地球温暖化防止関連で英国政府への勧告義務を負う気候変動委員会(CCC)が、25日に年次経過報告書を国会に提出したのに先立ち、英国政府と産業界の共同フォーラムである原子力産業審議会(NIC)のためにNIAが取りまとめたものである。NICが承認した同ロードマップの中で、NIAは「長期的な温暖化防止目標の達成支援に加えて、新規原子力発電プログラムの決断を速やかに下せば、新型コロナウイルス感染のエネルギー供給への影響緩和に即座に役立つ巨大プロジェクトを進展させられる」と明言。英国では現在、新旧様々な技術に基づく意欲的なプログラムにより、2050年までにクリーン・エネルギーを全体の40%まで拡大し、水素その他のクリーン燃料製造や地域熱供給などを通じて大規模な脱炭素化を進められる可能性がある。また、これらによって最終的に30万人分の雇用と年間330億ポンド(約4兆3,900億円)の経済効果がもたらされるとしている。原子力発電は英国で年間に発電されるクリーン電力量の40%を賄っているが、NIAは化石燃料のリプレースや電気自動車の普及、暖房部門が好況なことから、今後の需要は4倍に増加することが見込まれると述べた。折しも、国際エネルギー機関(IEA)が先週、持続的な回復に向けたプランを各国の政策決定者に向けて勧告。NIAのT.グレイトレックス理事長は「原子力には膨大な可能性がありコストも下がってきているが、チャンスを逃さぬためにも今、一致協力した行動を取る必要がある」と指摘した。また、CO2排出量の実質ゼロ化を達成するには原子力が必要だが、先行する原子力発電プラント新設プログラムから教訓を学び、資金調達方法を大きく変更すれば、以後の大規模建設プロジェクトを大幅に安く仕上げることができる。同理事長はさらに、新たに建設する最初の原子力発電所で1MWh(1000kWh)あたり92.50ポンド(約12,300円)の電力価格を、それ以降の発電所では60ポンド(約7,980円)近くまで、将来的には約40ポンド(約5,320円)に引き下げる自信があると明言。原子力発電の設備容量についても、3倍に拡大する見込みがあるとしている。そのためのロードマップとなる「Forty by‘50」で、NIAはこのような産業界の大望実現に向け2020年に講じなければならない6つの重要対策を提示している。(1)原子力産業界は、新設プロジェクトのコストを2030年までに30%押し下げる努力を続けなければならない。(2)英国政府は、新規の原子力発電所を建設するという明確かつ長期的な方針を確固たる形で示すべきである。(3)新たな原子力発電所建設計画への投資を刺激し資本コストを低減するため、適切な資金調達モデルの設定作業を進展させねばならない。(4)小型モジュール炉(SMR)の立地や許認可申請に向けて、国家政策声明書や促進プログラムを作成すべきである。(5)官民の戦略的パートナーシップである「原子力部門別協定」に明記された2030年の目標を維持し、新設計画や廃止措置計画のコスト削減、民生用原子力部門における女性従事者の比率を40%に引き上げること、英国サプライチェーンで国内外からの契約総額20億ポンド達成、などを目指すべきである。(6)英国政府と産業界は、医療用放射性同位体や水素および輸送用合成燃料の生産、地域熱供給など、伝統的な発電事業以外の分野の協力に重点的に取り組むための枠組みの設定等で合意すべきである。(参照資料:NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 25 Jun 2020
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IEA:新型コロナ後の経済回復計画で原子力への投資も提案
新型コロナウイルスによる感染が世界的に拡大するなか、国際エネルギー機関(IEA)は6月18日、主力報告書である「ワールド・エナジー・アウトルック(WEO)」のスペシャル版として「持続可能な回復」を公表した。各国のエネルギー供給システムを一層クリーンかつ回復力の高いものにしつつ、パンデミックで大きな打撃を被った世界経済を立て直して雇用を押し上げるため、各国政府が2023年までの3年間に取るべき複数の方策に焦点を当てている。IEAは国際通貨基金(IMF)と協力して取りまとめた同報告書の中で、各国政府が経済成長に拍車をかけて数百万もの雇用を創出し、CO2排出量を世界レベルで削減するための「エネルギー部門ロードマップ」を提案。新型コロナウイルスによる経済的打撃への対応策にエネルギー政策を盛り込み、①世界経済の成長率を年平均1.1%に引き上げ、②年間900万人分の雇用を創出・維持、そして③年間45億トンのCO2削減を目指すとした。また、同報告書のプランにより人々の健康と福利のさらなる向上を図るとしており、そのための投資として世界全体で今後3年間に毎年約1兆ドルが必要だとしている。エネルギー部門の投資については、IEAは2020年に世界全体でマイナス20%というかつてないほどの落ち込みが予想されると分析。エネルギーの供給保証とクリーン・エネルギーへの移行については、深刻な懸念が生じているが、今回の報告書のプランを実行すれば、世界のエネルギー部門は強靱なものになり、今後の危機に対しても各国は十分な準備を整えることができるとした。具体的にIEAは、送電網の強化や水力発電設備のアップグレード、既存の原子力発電所の運転期間延長、エネルギー効率の改善などに投資することが重要になると強調。これらは発電所の停止リスクを低減して電力の供給保証を改善、運転のロスを減らしつつ柔軟性を拡大するほか、太陽光や風力といった変動し易い再生可能エネルギーの発電シェアを増大することに繋がるとした。原子力に関しては、報告書の「電力」項目の中で「水力と原子力の役割維持」として取り上げており、IAEAはまず、これら2つの電源だけで低炭素な電源による発電量の70%を供給している点に言及。ただし、これらは化石燃料の輸入量削減や、電力の供給保証と顧客の値ごろ感改善に役立つ一方、多くの設備で経年化が進んでいる。また、新型コロナウイルス危機により収益が減るなど財政上の課題にも直面しており、早期閉鎖のリスクが高まるとともに新たな投資が行われる見通しも限定的である。こうした背景からIEAは、原子力という選択肢の維持を決めた国で既存設備の近代化やアップグレードに投資が行われれば、低炭素電源による発電量の急速な低下は避けられると指摘。さらに新規の設備が建設されれば、そうした電源の発電量を一層拡大することができると訴えている。 原子力で推奨される政策的アプローチこれらに向けて推奨される政策的アプローチとして、IEAはこれら2つの電源の開発には政府からの持続的支援が必要だと述べた。いずれも資本集約的な電源であり、開発プロジェクトに要する総投資額もエネルギー部門では最大になる。また、開発に要する期間が長期であるため、リスクと資金調達コストを抑える方法の模索は非常に重要。直接的な財政支援は必ずしも必要ではなく、長期の電力購入契約や固定価格の電力買い取り制度を通じて価格を安定させることができる。また、米国内の5州で実行されているように、CO2を出さないという原子力の貢献を認めて「ゼロ排出クレジット」を原子力発電所に提供。同国では課題満載の市場条件の下で、複数の原子力発電所が運転を継続している。経済への影響雇用などの経済との関わり合いに関しては、IEAは原子力によって80万人以上の雇用が確保されており、このうち約半数が発電所関係であると説明。この点で、インドや中国など新興国における近年の新規原子力発電所建設プロジェクトでは雇用が突出している。また、既存の原子力発電所の運転期間延長は設備投資額100万ドルあたり2~3人の雇用を創出、発電所の所在地では運転・保守点検管理(O&M)のための雇用が維持されている。また、大型原子力発電所の開発プロジェクトを促進することは、多くの課題を内在しているとIEAは指摘。例として、サイト探しに長期のプロセスが必要だったり、着工前に最良の条件が揃っていた場合でも数年を要することなどを挙げた。それでも世界では、欧州も含めて少数ながら直ぐに取り掛かれる開発プロジェクトがあり、小型モジュール炉(SMR)に関しては特に、世界中の政策立案者や投資家の間で関心が高まりつつあるとしている。CO2排出量、送電システムの回復力に対する影響原子力は水力とともに世界のCO2排出量削減に大きく貢献しており、IEAの調べによれば先進経済諸国で原子力発電所の運転期間がこれ以上延長されなかった場合、クリーン・エネルギーへの移行で年間約800億ドルが追加で必要になるほか、消費者の電気代は約5%上昇する。また、多くの国で原子力と水力の拡大にともない石炭火力の必要性が低下。100万kWの原子力発電所があれば、年間約600万トンのCO2排出が抑えられるとした。また、これらの電源はともに稼働率の高い低炭素電源であるため、IEAは多くの国の電力供給において必須のものになっているとした。原子力は特に、常に一定出力で発電することが可能なほか、発電システムとしての柔軟性も保有。一方、核燃料の調達先は少数のサプライヤーに限られているものの、燃料の交換頻度は18か月から2年に一度である。発電所の設計や運転上、重要鉱石への依存度も他の低炭素発電技術に比べて低い点を強調している。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 24 Jun 2020
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IAEA:「パンデミックで停止を強いられた原子力発電所は皆無」
国際原子力機関(IAEA)は6月11日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的拡大(パンデミック)に際し、世界各国の原子力産業界ではこれに対処する特別な措置が取られているため、発電所の労働力やサプライチェーン等への影響により停止を強いられた原子力発電所は、今のところ皆無であると発表した。これは、IAEAが運営するCOVID-19運転経験ネットワーク(OPEX)や「原子力施設事象報告システム(IRS)」を通じて、各国の原子力発電所運転員や規制当局から得られた情報に基づいている。IAEA原子力発電部のD.ハーン部長は「実施が計画されていた定期検査やメンテナンスの日程など、このパンデミックは様々な形で世界中の原子力発電所に影響を及ぼしているが、運転員と規制当局は引き続きこれらの発電所で安全・セキュリティの確保に努めている」とコメント。IAEAがOPEX等から受け取る情報は、パンデミックが原子力産業界に与える影響について重要な洞察力をもたらしているほか、運転員や規制当局が互いの経験を学びあう一助にもなっていると指摘した。発表によると、原子力発電所では日々の運転業務の継続やスタッフ間の感染リスク軽減で複数の方策が取られる一方、経済活動の制限にともない電力需要が低下したことから、いくつかの発電所では出力を下げて運転中。メンテナンスのための定期検査は日程の調整を余儀なくされており、検査期間の短縮や規制当局の許可を得た上で重要度の低い作業を延期する例も見受けられている。これと同様に、発電所スタッフの配置数の検討やスタッフ間で距離を置くことも実行されており、日々変化する前代未聞の状況に際して発電所運転員が柔軟な措置を取り万全に準備している点、トラブルに際しても迅速に健全な環境に復帰できるよう対応している点を強調した。パンデミックが世界経済と産業活動に及ぼしている広範な影響は、今後も継続して世界のサプライチェーンにとっての課題となると予想され、IAEAは例として原子力発電所の中・長期的パフォーマンスへの影響、新規の原子炉建設や大規模改修プロジェクトにおけるリードタイムの長期化を挙げた。また、新規建設プロジェクトの資金調達で不確実性が増し、入札プロセスに遅れが生じる可能性などを指摘した。さらに、スタッフ数をこれ以上削減した場合の緊急時対応計画、発電所スタッフあるいはその家族の感染時に取られる対応措置についてもIAEAは情報を与えられている。IAEA原子力施設安全部のG.リジェットコフスキー部長は、「今回のようなパンデミックは原子力発電所で安全運転を続ける際に障害となり得るので、発電所の安全性を事業や優先事と統合させる特別な措置を講じなければならない」と説明。そのような措置においては、先例のない状況のなかでも安全性で妥協しないことを目標としており、有資格のスタッフ数については特に、適切なレベルを確保しなければならないこと、必要であれば原子炉を停止して、安全な停止状態で維持することも辞さないことを挙げている。IAEAはこのほか、世界原子力発電事業者協会(WANO)や経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)などの国際機関とも調整し、パンデミック状況下の原子力発電やエネルギー市場動向のデータを分析比較。今回のような事態や将来同様のアウトブレイクが発生した場合でも、原子力発電事業を後押ししたいとしている。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 15 Jun 2020
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欧州の原子力関係企業ら、EC宛て公開書簡で原子力が経済復興に果たす役割強調
フォーラトム(欧州原子力産業協会)を含む欧州の14の原子力関係協会、および仏国の仏電力(EDF)やフラマトム社、オラノ社、チェコのCEZグループ、フィンランドのティオリスーデン・ボイマ社(TVO)、イタリアのアンサルド社など25の原子力関係企業は6月3日、欧州委員会(EC)の幹部に宛てた公開書簡を発表した。この中で経済面や健康面で未曾有の危機に直面した欧州その他の国々にとって、新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大(パンデミック)に対応することは喫緊の優先事項であり、原子力発電を中心とする欧州のエネルギー部門は信頼性の高い電力供給の維持で今後も重要な役割を担い続けると指摘。欧州各国とEUがパンデミック後の経済復興を果たせるよう、欧州の原子力産業界は適格に支援を提供すると強調している。書簡の宛先は欧州連合(EU)で政策決定を担うECのU.フォンデアライエン委員長のほか、V.ドムブロフスキス副委員長、F.ティマーマンス執行委員長、エネルギー総局のK.シムソン委員など。書簡はまず、EUにおける総発電量の26%を原子力が供給しており、低炭素電力としては最大シェアとなる事実を指摘。しかし、50%は依然としてCO2を排出する化石燃料からの電力であり、EUが2050年までに「排出されるCO2と吸収されるCO2の量が同じ(カーボン・ニュートラル)状態」へ移行する際、これらを低炭素な新しい電源に置き換えなくてはならず、これと同時に電力需要量の増加を満たすため、追加の電源が必要になるとした。この問題の解決に要する投資額は莫大なものだが、この書簡はECがその戦略的ビジョン「Clean Planet for All」の中で、「EUが発電部門で2050年までにカーボン・ニュートラルを達成するには、原子力が再生可能エネルギーとともに重要な要素になる」とはっきり示していた点を指摘。今日すでに開発済みの原子力技術に加えて、先進的原子炉や小型モジュール炉(SMR)などの研究開発によって、毎日24時間、一年に365日、低炭素な電力を供給できる原子力は、再生可能エネルギーを完璧に補うことができる。原子力はまた、地域熱供給や低炭素水素の生産に大きく貢献。がんの診断・治療にも適用されるなど、医療分野でも不可欠な役割を担っていると述べた。フォーラトムらの認識では、「もしも地球温暖化の防止目標を達成するのであれば、技術面で中立なアプローチを取ることが重要」とEUの加盟各国が考えていることに疑いの余地はない。原子力を排除した解決策はどれも、CO2の排出量削減という点で非効率的かつ割高であり、エネルギーの供給保証と送電システムの耐久性という点でリスクを増大させることになる。また、EUのエネルギー集約型産業は国際的競争力を維持するため、価格が手ごろで安定した確実な電力供給に依存しており、原子力発電はこれらを可能にする重要電源であるとした。欧州全体が現在、コロナウイルス後の経済立て直しと地球温暖化への取組が必要と考えており、そのための方策が形作られつつある。エネルギー部門も引き続き重要な役割を果たすことになり、欧州の原子力産業界はEUや加盟各国がクリーンでグリーンな経済を取り戻せるよう、以下の準備が整っているとした。それらはすなわち、▽EUおよび各国や各地方レベルの経済成長と雇用創出、および富の創造(現在、原子力産業界は全体で110万人規模の雇用を維持している)、▽研究と技術革新、▽輸出を拡大する可能性、▽放射性廃棄物問題も含めて環境面の厳しい規制を満たしつつ、CO2の実質ゼロ経済に向けて進むこと――である。フォーラトムらによると、欧州の原子力産業界はすでにEUにおける重要な産業部門となっており、EU域内でそのバリュー・チェーンを強化・維持することは重要との認識が高まっている。その意味で、原子力部門がEUの新しい産業戦略の一部となるためには以下の2点の取組が必要であるとした。関連政策の策定と実施に一貫性を保たせ、投資が促進されるよう明確なシグナルを送る。また、大型炉やSMRなど低炭素で新しい原子力発電所を建設するとともに、既存の原子力発電所を維持。適切であればそれらで一層長期の運転を可能にする。科学的根拠のある環境評価によって、EUタクソノミー(CO2排出量の実質ゼロ化に向けたグリーン事業の分類)における原子力の立場を早急に回復する。EUタクソノミーの最終報告書を取りまとめたECの「持続可能な金融に関する技術専門家グループ(TEG)」は、科学技術の知識を有する専門家がさらなる分析を行うべきだと勧告しており、重要な投資判断が遅滞なく下されるよう、この分析は今年中に実施しなければならない。結論としてフォーラトムらは、原子力を中心とするエネルギー部門が今後もEUへのエネルギー供給という重要な役割を担い、各世帯や事業所に安全で競争力のある信頼性の高い方法で低炭素なエネルギー・サービスを提供し、経済を動かし続けると指摘。原子力産業界には経済復興を牽引する準備ができており、人々が将来的に探し求めている一層クリーンで頑健な経済をもたらす強力な手段になるとしている。(参照資料: SNSにおけるフォーラトムの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 04 Jun 2020
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IAEAが加盟国から2,200万ユーロの拠出受け新型コロナ対策支援
国際原子力機関(IAEA)のR.グロッシー事務局長は5月11日、加盟国から予算枠外で強力な資金提供を受けて、世界約120か国における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の封じ込めで支援イニシアチブを実施すると発表した。この資金はこれまでに合計約2,200万ユーロ(約25億9,640万円)に達しており、IAEAは原子力から派生した検査技術「リアルタイム逆転写PCR(RT-PCR)」を世界中の数百もの研究所で使用可能になるよう支援。この手法は現在のところ、COVID-19を引き起こすウイルスの検出で最も正確かつ迅速だと言われている。COVID-19に対するIAEAのこのような取り組みは、人や動物の健康など原子力技術の平和利用促進に向けた技術協力プログラムに基づいて行われている。例えば食糧農業機関(FAO)との連携協力では、IAEAは過去10年間にエボラ出血熱やジカ熱のように動物から人へ感染、あるいは人畜共通の伝染病と闘う国々に対し、簡易検査方法などの支援を行っている。今回の提供資金は、まず米国から1,100万ドル(約11億8,600万円)、日本が約4億7,200万円、カナダが500万カナダドル(約3億8,600万円)、ノルウェーが200万ユーロ(約2億3,600万円)、ドイツとオランダ、およびロシアが各50万ユーロ(約5,900万円)、フィンランドが20万ユーロ(約2,360万円)などを約束。このほか、中国は200万ドル(約2億1,600万円)相当の現物支給支援を行うと表明している。グロッシー事務局長は、「加盟各国の迅速で惜しみない資金提供と、世界中で緊急時支援を行うIAEAへの信頼には心から感謝する」とコメント。IAEAはCOVID-19と闘う国々の重要なパートナーであると強調している。IAEAが対象国に提供するのは主に、リアルタイムRT-PCR検査を直ちに行うのに必要な検査パッケージで、RT-PCR装置や個人用防護具、試薬、実験用消耗品、診断キットなどが含まれる。また、技術的な知見やガイダンスを提供するとともに、ヘルスケアの専門家を世界中で育成するためにオンライン・セミナーも開催。IAEAに支援要請する国の数は2か月前の10か国から119か国に増加しており、グロッシー事務局長は「危機に瀕し助けを求める人々をIAEAは見捨ててこなかったし、これからも見捨てることはない」と断言した。IAEAはこれまでに、約20台のRT-PCR装置を各国の医療現場に供給。ボスニア・ヘルツェゴビナやブルキナファソ、イラン、ラトビア、レバノン、マレーシア、ペルー、セネガル、タイ、トーゴはこのような装置を受け取る最初の国になる。これ以外の数多くの国々でも、数日後から数週間以内に同様のパッケージが到着する予定だとしている。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 21 May 2020
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建設中のUAEバラカ発電所 4号機の冷態機能試験が完了
アラブ首長国連邦(UAE)で原子力発電の導入を担当する首長国原子力会社(ENEC)は5月19日、アラブ諸国やUAE初の原子力発電プラントとして建設中のバラカ発電所(PWR×4基)で、最終ユニットとなる4号機の冷態機能試験が無事に完了したと発表した。2012年7月に1号機が本格着工した同発電所では、その後約1年ごとに後続ユニットの建設工事を開始。現在、4基の韓国製140万kW級PWR「APR1400」の作業が同時並行的に進められており、連邦原子力規制庁(FANR)は今年2月、1号機に対して60年間有効な運転許可を発給した。同炉ではその後、3月に燃料の初装荷が完了、今後数か月以内の起動に向けて準備作業は最終段階を迎えている。2~4号機の建設進捗率もそれぞれ95%、92%および84%以上に達するなど、発電所全体では94%以上完成したことになる。ENECによれば、4基すべてが完成した場合、同発電所は合計560万kWのクリーンなベースロード電源としてUAEにおける総電力需要の最大約25%を賄いつつ、年間2,100万トンのCO2排出を抑制。これは年間320万台の車両が排出するCO2と同等であると強調した。4号機に関してENECは、同プロジェクトの主契約者である韓国電力公社(KEPCO)とともにタービン発電機や炉内構造物の設置といった主要な作業を2019年末までにすべて完了した。冷態機能試験ではシステム内の圧力を通常運転時より25%上昇させ、同炉の品質の高さと耐久性を実証している。また、冷態機能試験の実施に先立ち、ENECは同炉の原子力蒸気供給系に純水を流入したほか、圧力容器上蓋や冷却材ポンプ軸シールを設置。同試験の開始後は、原子炉冷却系の溶接部や連結部、配管・機器、関係する高圧システムについても確認を行った。ENECのM.A.ハマディCEOはこのような作業の進展について、「新型コロナウイルス感染拡大に直面する中、バラカの作業が継続的に進められたことを誇りに思う」とコメント。パンデミックに対してUAEは確かな事前対策を講じており、それが発電所作業員の健康と安全の確保に向けて、タイムリーかつ安全最優先のアクションを取ることにつながったと述べた。また、そうしたアクションに優秀な作業員の努力が加わり、4号機の冷態機能試験は成功裏に完了。安全面や品質面、セキュリティ面においても、最も厳しい基準を満たしたと評価している。(参照資料:ENECの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 20 May 2020
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災害と因縁
災害は、規模が大きければ大きいほど長期にわたって社会に予測外の間接影響を与え得ます。それは普段から目に見える形で残っているとは限りません。何かの折に、かさぶたが剥がれるように過去の災害の因縁が顔を出す。そんな影響が、2011年の東日本大震災・津波・原子力災害のトリプル災害の後にも見られています。しかしそこで顔を出すものは必ずしも悪いものばかりではありません。災害によって奪われたものと同じように、与えられたものもまた未来へとつながっている、と感じています。令和元年東日本台風と2011年の避難指示昨年10月に2度にわたって繰り返された水害は、福島県にも広範囲な浸水被害をもたらしました。その被災地には、旧避難区域である南相馬市の小高地区も含まれます。約1600世帯が帰還していた小高地区では、水害により20戸以上が床上浸水以上の被害を受けました。被害が大きくなってしまった一つの原因は、水門の閉め忘れによる河川の逆流です。「震災前までは水門を閉めるのは区長さんの役目でした。区長さんがまだ避難中のところも多いし、帰還した人も水門の申し送りまではされてなかったようです」そんな説明を受けつつ訪れたある水門には、川から逆流してきた大きな木の根ががっちりとはまり込み、水門機能は完全に失われていました。別の地域では田畑用の用水路が溢水し、多くの家屋が浸水しました。放射性セシウムが泥に沈着することを知ってから用水路の泥かきは全くしていなかった、という家もあり、用水路が浅くなっていた可能性もあるとのことです。また地域の水路だけでなく、一級河川の整備にも問題があります。2008年以降、一級河川の管理権限が国から都道府県に移管されるようになりました。そんな中にトリプル災害が起き、護岸工事や除染作業が最優先となった福島県では河川自体の整備する余力が残っていなかった可能性も指摘されています。そう考えれば、昨年起きた福島県の水害の一部は、9年以上の時を経て顕在化したトリプル災害の間接被害ともいえるかもしれません。差別の連鎖そのような間接影響は今般の新型コロナウイルスパンデミックでも垣間見られます。たとえば福島県のある地域では、新型コロナウイルスが陽性になった方のご自宅に石が投げ込まれる事態が起きました。「あそこは賠償金の関係で元々周囲の反感も大きかったから…」とは、町の噂で聞こえてきた話です。ウイルス感染の噂は、原子力災害以降蓄積していた鬱憤を顕在化するきっかけとなってしまったのかもしれません。このような差別もまた、パンデミックと原子力災害が複雑に絡み合った複合的な被害であるとも言えるのです。もちろん水害や差別は複雑かつ多くの交絡因子を含んでおり、これをもって無用な責任論に発展させてはいけないでしょう。しかし災害というものが10年近くの年月を経てもなお人々に影響を与え得る、という側面を知ることは大切です。今パンデミックという災害を生きる私たちもまた、このような二次災害の芽を日々生み出している可能性があるからです。災害から生まれたものもう一つ大切なことは、私たちが生み出しているのは「二次災害」というマイナスの芽だけではない、という事です。東京に緊急事態宣言が出された直後のことです。小高地区に住む方から「防護服が50着余っているので、困っている病院に無償提供できないか」というメールをいただきました。感染症指定病院ではない病院やクリニックがパンデミックの脅威に恐々としているさ中のことです。情報を流したところ、すぐに「ぜひ欲しい」というご希望が寄せられ、ある病院とクリニックの2か所に郵送いただきました。防護服を受け取った施設からは「本当に感謝してもし足りない」というお礼が、私にも届けられています。また、震災後のご縁のあった方々から、温かいメッセージと共にお花やコーヒーなど様々な差し入れもいただきました。感染リスクの最前線で毎日働いている臨床検査技師さんたちと一緒に、感謝と共にいただいています。何かをいただく時に私たちが感じるのは、物への感謝だけではありません。私たちがそこから受け取るのは、誰かが自分たちのことを考えてくれているという希望と、この困難な時にも自分が何かに感謝をできる有り難さです。ご自身も決して楽ではないはずのこの有事の中、それでも人に何かを与えることができる方々がいる。その気持ちが、このパンデミックの現場に浸透しています。こういう時にも人に与えることができる。そういう方々はもしかしたら、2011年の災害時に同じように心に触れる支援を誰かから受けたのかもしれません。その心が連鎖し、9年後に別の被災地で誰かの心を救っているのであれば、このような正のつながりもまた災害の遺産であると言えるでしょう。未来の災害へ向け未曽有の災害が思い出したようにふと影を落とすことがあります。それと同様に、あるささやかな支援が時間も空間も飛び越えて誰かの光明ともなることもあるのです。その正負の遺産は、今社会の表層を賑わしている大所高所論たちではなく、その足元で過ぎて行く人々の暮らしから日々生まれているのではないでしょうか。ふとした折にいただいた感謝の気持ちを覚えていること、それだけのことが、未来の大災害時に誰かを救う布石なのかもしれない。そう思うと今の非日常が何か貴重なものにすら思えてきます。これまで色々な方からいただいた縁と恩を、いつ、誰に、どうやって返せるのか。まだ分からない恩返しを夢見ながら、今を大切に過ごしたいと思っています。
- 18 May 2020
- COLUMN
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コロナ報道に見る「見える死」と「見えない死」
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大の勢いがようやく収まってきたようにみえる。これまでの報道(以下、略してコロナ報道)を見ていて、死が「平等」に報道されていないことに気づく。ある特定の死だけに過大な関心を向け過ぎると、知らぬ間に他の死亡リスクが増えていることもありうる。新型コロナウイルスによる死亡数は他の死亡リスクと比べて、どれくらい多いのだろうか。「子宮頸がん」の死亡者は新型コロナウイルスより多い若い女性で増加傾向にある「子宮頸がん」はウイルス(ヒトパピローマウイルス)感染で起きる。新型コロナウイルスとは異なるウイルスとはいえ、ウイルスによる感染という点では同じだ。その子宮頸がんで毎年約3,000人が死亡している。1日あたり8人だ。しかも毎年、約1万人が子宮頸がんにかかり、子宮を摘出する手術を受けている。1日あたり27人だ。新型コロナウイルスによる死亡者の数は5月17日時点で756人。子宮頸がんの死亡者数のほうがはるかに多い。きょうも明日も、子宮頸がんでだれかが死ぬだろうが、報道はゼロだ。「死」というものがみな平等な価値をもつというなら、そして年間3,000人という死亡者数の多さなら、コロナ報道と同様に報道されてもおかしくないはずだが、なぜか報道はほとんどない。子供の自殺は深刻みなさんは、子供の自殺が年間どれくらいあるか、お分かりだろうか。驚いてはいけない。警察庁と厚生労働省の調査によると、2019年の10~19歳の未成年者の自殺は659人にも上る。新型コロナウイルスによる死亡者数(756人)と大して変わらない。深刻なのは、10代の自殺者数は年々じわじわと増えていることだ。新型コロナウイルスによる死亡者は高齢者が中心なのに対し、これら10代の死亡は日本の未来を担う若い命だ。同じ命とはいえ、その重みは大きい。しかし、10代の自殺が毎日2人程度あっても、その都度報道されることはない。これが見えない死亡だ。報道される死亡は、無数の死のほんの一部に過ぎない。日本国内で起きている「死」は何も子宮頸がんや子供の自殺に限らない。それこそ無数の死が日常的に起きている。「無数の死亡」は全く報道されないでは、どんな死亡がどれくらい発生しているのだろうか。厚生労働省の人口動態統計(2018年)によると、日本全国の死者の総数は男女合わせて約136万人に上る。その内訳をみると、がん(腫瘍)が約38万6,700人(約28%)、次いで心血管・脳血管疾患が約35万2,500人(約26%)だ。驚くのは、新型コロナウイルス感染症と同じ分類に相当する呼吸器系疾患(肺炎、インフルエンザ、急性気管支炎、喘息など)による死亡者が約19万1,356人もいることだ。19万人といえば、1日あたり520人の死だ。新型コロナウイルスによる死亡者数は2月~5月半ばまでの累積で約800人だ。従来の呼吸器系疾患で死ぬ人はたった1日で平均500人もいるから、こちらのほうがはるかに多い。しかし、そのような死亡は報道されない。このほか、ウイルス感染という点では同じのウイルス性肝炎(B型とC型)による死亡者は年間3055人もいる。これも新型コロナ感染の死亡者より多い。いうまでもなく、ウイルス性肝炎による死亡が報道されることはない。しかし、これだって、もし毎日ウイルス性肝炎での死亡者を詳しく報じれば、おそらく人々の関心は高くなるだろう。さらに他の死亡例をみていこう。2018年の1年間の自殺者数は約2万人。1日あたり55人だ。交通事故死は4,595人。驚くべきことに転倒・転落・墜落で9,645人も死んでいる。さらに不慮の溺死だけでも8,021人も死んでいる。自殺、交通事故死、転倒、溺死、どれをとっても、新型コロナウイルス感染による死亡者よりもはるかに多い。しかし、だれも関心を示していない。特殊なケースを除き、報道されることはほとんどないからだ。同じ「死」でも価値は異なるこれらのどの無数の死も、それぞれの当事者、家族にとっては例外なく、痛ましいドラマ、悲嘆、挫折、絶望が伴うだろう。しかし、現実にはどれもニュースにはならず、どの死もみな人知れず忘却に消えていく。では、なぜ新型コロナウイルスの死亡だけはこれほど大きなニュースになるのだろうか。それは、新型コロナウイルスで死んだ場合にはニュース性があるからだ。どの死の価値にも差はないはずだが、報道(ニュース)の世界ではニュース性という視点が加わるため、「死」は偏った形で伝えられる。恐怖が死の価値を高めるでは、なぜコロナ報道ではバランスの良い「死の報道」が存在しないのだろうか。その鍵は「恐怖心」にある。ハーバード大学ロースクールのキャス・サンスティーン教授が著した「命の価値」(勁草書房)がそのヒントを与えてくれる。サンスティーン教授は米国司法省勤務などを経て、2009~2012年、オバマ政権のもとでホワイトハウス情報規制問題局(OIRA: Office of Information and Regulatory Affairs)局長を務めた行政経験豊富な法学者だ。サンスティーン教授は同著「命の価値」(第7章)で人々の「恐怖」がいかに思考停止、確率無視の行動に導くかを述べている。その恐怖状態の心理の特徴を3つ挙げている。ひとつ目は「多く報道された出来事は、非現実的なほどふくれ上がった恐れを引き起こす」という点だ。ある特定の死亡事例(怖い現象)が来る日も来る日も、あらゆるマスコミで報道されれば、人々の恐怖心はいやがうえにも膨れ上がるだろう。2つ目の特徴は、「人々は馴染みのない、コントロールしにくそうなリスクについては、不釣り合いなほどの恐怖を示す」という点だ。3つ目は、人々の間で「感情が強く作用しているときは、人々は確率無視の行為に及ぶ」という点だ。人は感情的になると確率を無視した行動に出るわけだ。国民が極度に感情的になった例は過去にたくさんある。9.11の同時多発テロのあと、新型インフルエンザ(2009年)が大流行したとき、何度かあった大災害や大森林火災のあと、中国産輸入品の残留農薬問題のあと、BSE(牛海綿状脳症)が発生したあと、子宮頸がんなどを予防するHPVワクチン接種後に起きた諸症状の報道のあと、などが思い浮かぶ。そういう大事件・大事故・大災害のあと、人々の恐怖心は頂点に達する。米国の同時多発テロのあと、人々は飛行機を恐れ、車に乗り換えた。その結果、車による事故死の件数が以前より増えたという例はあまりにも有名だ。この副作用ともいえる交通事故死の増加はあとになって統計的な死亡数として分かるまでだれも気付かない。人は恐怖心に怯えると低い確率を無視し、結果的に高いリスクのほうを選んでしまう場合が生じうるということだ。これが死のトレードオフ(何かを得ると別の何かを失う二律背反の関係)である。東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故のあと、放射線による死亡リスクよりも、あわてて避難したことによる死亡リスクのほうがはるかに高かったのも、この例にあたるだろう。同じ死亡でも、「いま見える死」と「今は見えない死」があることが分かる。「恐怖」は世界を一瞬で伝わる確かに新型コロナウイルスによる死亡は恐怖を呼び起こす要素に満ちている。馴染みがなく、コントロールもできず、予測不能な振舞いで有名人をあっという間に死亡させる怖さ。まさに「新奇のニュース性」に富む要素を備えている。しかも、いまはインターネットの時代。世界中の人が恐怖におののく光景を、世界中の人々がリアルタイムで見ている。恐怖はインターネットを通じてウイルスよりも早く伝染する。恐怖心は飛行機よりも速く、そしてウイルスよりも速く伝わることが今回の惨劇で証明された。経済活動の縮小で自殺増加の可能性しかし、冷静に考えてみれば、大切な人を失った家族や友人にしてみれば、ことさら新型コロナウイルス感染による死だけが悲しみや嘆きの対象なわけではない。新型コロナウイルス感染による影響で職を失い、収入の道を絶たれ、だれかが自殺したら、その家族は新型コロナウイルス感染以上の悲しみに暮れるだろう。家族や友人から見れば、どの「死」も等価だからだ。新型コロナウイルスによる死亡だけを減らそうとすると、いつか目に見えない副作用が襲ってくる。4月30日朝、TBS「グッとラック」で藤井聡・京都大学教授は「このままだと1年後にコロナが収束しても、その後の20年間で自殺者が14万人増える」と話していた。経済の悪化で自殺者が増えるという試算だ。現在の年間の自殺者は約2万人。その数に7,000人が加わる計算だ。この7,000人の予測数は、新型コロナウイルスによる死亡者数(756人 5月17日現在)よりはるかに多い。経済悪化による悪影響は自殺に限らない。失業、貧困、盗難や強盗などの犯罪、会社倒産、精神的ストレス、家庭内暴力、虐待、教育格差などさまざまな副作用を生むだろう。人の命を支えているのは医療経済資源(医師関係者や医療器具、病院、医療制度など)だけではない。もろもろの経済活動もまた人の命を支えているという事実を忘れてはいけない。もちろん新型コロナウイルス感染を抑えることは重要だが、メディアの立場としては、今後の10年間も見据えた時系列的な全体の死亡数をいかにして抑えていくか、という視点も忘れないようにしたい。
- 18 May 2020
- COLUMN
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IEA、新型コロナの影響で世界のエネルギー需要は2020年に6%減と予測
国際エネルギー機関(IEA)は4月30日、新型コロナウイルスによる世界的感染(パンデミック)の影響で2020年の世界のエネルギー需要量は過去70年以上の間で最大下げ幅の6%減となるほか、これにともないエネルギー関係のCO2年間排出量も約8%減という記録的な削減になるとの見通しを発表した。原子力発電に関しては、需要量の低下および複数の建設プロジェクトやメンテナンス計画の遅れから、2020年の発電量は2019年より2.5%減少するとIEAは予測。仮に今回の危機からの回復が早かった場合には、電力需要量は予想より増加するほか、いくつかの建設中原子炉も年内に完成、今年の発電量の低下は1%余りに抑えられるとしている。これらはIEAの最新報告書「世界エネルギー・レビュー」で明らかにされたもので、パンデミックがすべての主要エネルギー源に及ぼした桁外れの影響をほぼリアルタイムで評価。これまでに得られた100日分以上の実データ分析に基づき、2020年の残りの期間に世界のエネルギー消費とCO2排出量がどのような傾向で推移していくかを推定した。IEAのF.ビロル事務局長によると、今回のような見通しは「世界のエネルギー全体に及ぶ歴史的な衝撃」。健康面と経済面の両方で迎えた前代未聞の危機のなかで、主要エネルギー源のほとんどすべてで需要が急落し、特に石炭と石油、天然ガスの需要量は不安定な傾向が強い。唯一、再生可能エネルギーが電力使用量の前例のない落ち込みに対しても変動幅が小さいとした。しかし同事務局長は、パンデミックの長期的な影響を見極めるのは今のところ時期尚早だと指摘。今回のような危機を切り抜けられるエネルギー産業は、これまでとは全く違ったものになるとの見方を示している。2020年のエネ需要量6%減、電力需要量は5%減「世界エネルギー・レビュー」が今回提示した予測は、パンデミック対応で世界中で実施中の都市封鎖(ロックダウン)が今後数か月間に多くの国で徐々に解除されていき、経済活動も次第に回復するとの見通し基づいている。今年のエネルギー需要量の6%減は、2008年のリーマン・ショックが引き金になった世界的金融危機時の7倍に達するもので、世界第3位のエネルギー消費国であるインド全体のエネルギー需要量に相当する空前の落ち込み。経済大国における需要量もこれまでで最大の下げ幅になると予測しており、IEAは米国で9%、欧州連合では11%低下すると見込んでいる。また、パンデミック危機がエネルギー需要に及ぼす影響は、感染の拡大を抑える方策の有効性や実施期間に大きく左右される。IEAは一例として、4月初旬に取られたのと同程度のロックダウンが毎月実施された場合、世界のエネルギー需要量は年間で約1.5%低下するとみている。さらに、ロックダウン期間中の電力使用量の変化は、電力需要量全体の大幅な低下を導くとIEAは説明。全面的なロックダウンにより電力需要量は20%かそれ以上押し下げられる一方、部分的ロックダウンの影響はそれよりも小さい。2020年に世界の電力需要量は5%低下することが見込まれるが、これは1930年代の世界恐慌以来の大幅な下げ幅になるとした。これと同時にIEAは、今回ロックダウンが多くの国々でとられたことで風力や太陽光、水力、原子力といった低炭素電源への大々的なシフトが促されると指摘。これらの低炭素電源は2019年に初めて石炭火力の発電量を上回っており、2020年には石炭火力を6ポイント上回る40%まで発電量を伸ばす見通しである。中でも風力と太陽光は、2019年と2020年の初頭に完成した各国での新規プロジェクトにより、2020年の発電量を継続的に拡大させるとしている。このような傾向は石炭と天然ガスによる発電電力の需要量に影響を与えることになり、需要量の低下と再生可能エネルギーによる発電量の増加によって、いつのまにか圧縮されていく。結果として、石炭と天然ガスを合わせた2020年の発電シェアは2001年以降見られなかったレベルである3ポイント減まで低下するとした。ビロル事務局長は、「医療制度やビジネス、生活の基本インフラを支える信頼性の高い電力供給に近代社会がどれほど深く依存しているか、今回の危機は明確に示した」と分析。その一方で、それらを当たり前のものと受け取るべきではなく、確実な電力供給を維持するために一層の投資と賢明な政策が必要なのだと強調した。報告書の中でIEAは、再生可能エネルギーによる発電量が2020年は回復力(レジリエンス)を発揮するものの、前年に比べて伸び率は鈍化すると予測した。もう一つの大型低炭素電源である原子力も、発電量は2019年の最高記録から一転して今年の第1四半期は約3%低下する見通し。バイオ燃料の世界全体の需要量も、2020年は実質的な低下が見込まれるとした。2020年のCO2排出量8%減このような傾向の結果として、IEAは2020年は石炭と石油の使用量低下が主な原因となって、世界のCO2排出量が2010年以降最も低いレベルである8%近くまで減少すると指摘。これは、リーマン・ショックにともない2009年に記録した4億トンという排出削減量の6倍近い、記録的な数値になるとした。しかしビロル事務局長は、「パンデミックによって世界中の経済が損なわれ多くの死者が出たことを考えると、世界のCO2排出量が歴史的低レベルに下がったからといって喜ぶべきではない」と強調。経済条件が回復するにつれて、CO2排出量も急激に元通りになってしまうかもしれないが、各国政府も経済回復計画の中心にクリーン・エネルギー技術を据えるなど、今回の経験から学べることがある。これらの技術分野に投資することで、雇用を創出するとともに経済的競争力を付け、世界のエネルギーを一層クリーンかつ回復力の高いものに導けるはずだと訴えている。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 08 May 2020
- NEWS
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米国の温暖化防止団体、感染拡大時の原子力発電所早期閉鎖の延期を州知事に要請
米国で地球温暖化防止対策の推進を呼びかけている団体「Climate Coalition」は新型コロナウイルスによる感染の拡大が深刻化するなか、ニューヨーク(NY)州内で今月中に予定されているインディアンポイント原子力発電所2号機(106.2万kWのPWR)の早期閉鎖を延期し、運転を継続するよう同州のA.クオモ知事に訴える書簡を公開した。ウイルス感染にともなう呼吸器不全で多くの州民が亡くなっているが、原子炉の早期閉鎖を延期すれば化石燃料発電所から有害な汚染物質が新たに大量に排出されるのを抑えられると同団体は指摘。これはパンデミックによる影響が一層悪化するのを防止し、これ以上の死者を出さないために知事が実行できる最も重要かつ予防的な措置であり、CO2を排出しないクリーン・エネルギー源をこのように不味いタイミングで停止させてはならないと訴えている。同団体はクリーン・エネルギーの支持団体や環境保護グループ、個人などの連合体であり、クオモ知事が2016年8月、NY州北部で稼働する3つの原子力発電所への助成金プログラムを盛り込んだ包括的温暖化防止政策「クリーン・エネルギー基準(CES)」を州議会で成立させたことを称賛している。しかし同知事は、NY市の北約40kmに立地するインディアンポイント原子力発電所については、「大都市圏に近すぎる」としてかねてより早期閉鎖を要求。同発電所を所有するエンタジー社と州政府が協議した結果、2号機を2020年4月に、3号機(107.6万kWのPWR)を2021年4月に永久閉鎖することで2017年1月に合意していた。知事宛ての書簡の中で同団体は、「パンデミック対応でNY市の財政は火の車となっており、ここで原子炉を止めてしまえば財政面の脆弱性は余計に増す」と指摘した。その上で知事に対して、「あなたは本当に送電網を一層脆弱なものとし、この危機的状況に新たな不確定要素を加えたいのか?」と詰問。夏が急速に近づくなかで異常気象により熱波が長引いた場合はどうなるのか、NY市全体が室内に避難し続けねばならないのかと疑問を投げかけた。また、ウォールストリート・ジャーナルのコラムニストで新型コロナウイルスに感染したP.ヌーナン氏の言葉を引用し、「電気さえあれば何もかもが上手くいく。世の中はすべて送電網にかかっている」と指摘。数百万のニューヨーカーの生命がエアコンや換気扇に左右されるにも拘わらず、最も信頼性が高くクリーンな電源を本当に知事の一存で止めてしまうのかと非難している。同団体はさらに、クオモ知事が昨年、州内のCO2排出量の100%削減に向けた法案を可決させた事実に言及した。クリーン・エネルギー源としては州内最大規模のインディアンポイント発電所の早期閉鎖を画策しておきながら、知事は代わりの電源として再生可能エネルギーではなく、大気汚染を助長する化石燃料を選んだと糾弾。ニューヨーカーが望まない政策によって、知事は数百億ドルの価値を持つ資産を無駄にしようとしていると述べた。もしも知事がNY州にとって本当に意味のあるCO2削減を約束したいのなら、安全でクリーンな原子力発電所の閉鎖を全力で阻止しなければならないと同団体は強調。インディアンポイント発電所の閉鎖はクリーンな大気とCO2の削減、両方に向けた努力を数十年分後退させるほか、脱炭素化した未来のために原子力発電は非常に重要だとする最新の科学的知見とも矛盾するとした。同団体によれば、インディアンポイント原子力発電所の早期閉鎖で州政府と事業者が合意して以降、原子力発電に対する世間の見方は劇的に変化した。原子力発電所を廃止して再生可能エネルギーで代替するというドイツの取り組みの失敗により、A.メルケル首相は停電回避のために古来の森林を伐採し、採炭に抗議する者を逮捕せざるを得なくなった。もっと科学的思考を持つ環境保護派のリーダーであれば、原子力発電が地球温暖化との戦いに必要なことを認識している。「憂慮する科学者同盟」や世界的自然保護団体の「Nature Conservancy」、科学雑誌の「ナショナル・ジオグラフィック誌」などは、ここ数年間で原子力発電に関する勧告を改訂。否定的に見られていた原子力発電は今や、重要なクリーン・エネルギーと位置付けられ、それなくしては迅速かつコスト面の効果もある方法で化石燃料から脱却することはできないと見られている。同団体から見て、クオモ知事はコロナウイルスによる感染の拡大を抑えるために医療専門家の意見を聞くよう繰り返し強調しているが、知事こそ地球温暖化関係の主要な専門家の意見を聞き、最新の知識を受け入れるべきだと表明。地球温暖化防止で正しいことを行うのは、新型コロナウイルスとの戦いで正しいことを行うのと同じであると主張している。(参照資料:Climate Coalitionの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 21 Apr 2020
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米ジョージア・パワー社、新型コロナの影響対策でボーグル増設サイトの労働力20%削減
米国で約30年ぶりの新設計画として、A.W.ボーグル原子力発電所で3、4号機(各110万kWのPWR)を増設中のジョージア・パワー社、およびその親会社のサザン社は4月15日、新型コロナウイルスによる感染の影響を軽減するため、増設サイトの労働力を約20%削減する方針を明らかにした。これは、米証券取引委員会に対する同日付報告書のなかで両社が表明したもの。増設サイトでは協力会社などを中心に約9,000人が作業中と伝えられているが、ジョージア・パワー社によると、このうち多数の作業員がこれまでにPCR検査で陽性と判定されており、その影響から現場の労働生産性が悪化している。労働力の削減はそうした影響を緩和するための措置であり、夏まで数か月間継続されるものの、ジョージア・パワー社は引き続き新型コロナウイルスによる感染の影響を監視。建設プロジェクトの総資本費や、両炉の現行の完成日程である2021年11月と2022年11月に影響が及ぶことはないと強調している。報告書によるとジョージア・パワー社は、現場の労働力は削減されるが残りの労働力でも生産性改善の工夫により、作業員の疲労や欠勤率が下がると指摘。これによって、増設工事全体の作業効率を向上させることができるとした。また、作業員間のソーシャルディスタンスの確保という副次効果も生まれ、連邦疾病管理予防センター(CDC)が推奨している最新項目の順守促進にもつながるとしている。このプロジェクトでジョージア・パワー社は45.7%出資しているため、今回の措置により同社が負担する経費は合計1,500万~3,000万ドルほどとなる。そのほかの出資企業は、オーグルソープ電力が30%、ジョージア電力公社(MEAG)の子会社が22.7%、ダルトン市営電力が1.6%となっている。2013年の3月と11月に始まった3、4号機増設プロジェクトでは、昨年7月に3号機の初装荷燃料が発注されたほか、同年12月には遮へい建屋に円錐形の屋根を設置。4号機についても、今年3月に格納容器に上部ヘッドを設置する作業が完了しているが、サザン社は証券取引委員会に対する4月1日付け報告書の中で、新型コロナウイルスによる感染の拡大により、同社とその子会社は増設プロジェクトの遅れや混乱といった様々なリスクにさらされているとの懸念を表明していた。(参照資料:サザン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 17 Apr 2020
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仏電力、新型コロナの拡大で2020~2021年の財務目標をすべて撤回
フランス電力(EDF)は新型コロナウイルス感染の拡大にともなう影響について4月14日に新たな経過報告を公表し、EDFグループが2020年の減価償却・控除前利益(EBITDA)の目標額を3月23日の報告で下端値の175億ユーロ(約2兆500億円)と設定していたことも含め、同年および2021年の財務目標をすべて撤回すると発表した。感染の拡大が引き起こした経済的混乱により電力需要量が低下しており、原子力発電や原子力発電所の新規建設プロジェクト、その他のサービスも含めたEDFグループによる事業の多くが深刻な影響を受けていると説明。原子力による総発電量についても、予測値を下方修正する方向だとしている。全開3月23日に公表された経過報告では、EDFグループは新型コロナウイルス感染の拡大という危機的状況の中、グループの重要活動を維持するために関係企業を全面的に動員、仏国内で予見され得るシナリオすべてで必要な電力を供給する経営能力や財務能力が備わっているとしていた。すなわち、一貫した金融ニーズの予測方針により、同グループは2019年末時点の流動性資産として換金価値228億ユーロ228億ユーロ(約2兆6,800億円)を保有。これに加えて、いつでも融資を受けられる金額の上限(極度枠)として総額103億ユーロ(1兆2,000億円)が確保されている点を明らかにしていた。この時点でEDFは、電力需要量の低下が同社の電力供給事業に及ぼす影響は限定的だとしており、零細な小規模企業に対する電気料金面の一時的な救済策についても、年末時点で大きな影響が及ぶことはないと予測していた。しかしその一方で、外出禁止令が発令されたことにより発電設備のメンテナンス作業が中断し、EDFグループは定期検査日程の再調整を迫られることになった。これにともない、3月23日の段階で原子力発電による2020年の発電量は、当初予測していた3,750億~3,900億kWhから大幅に下方修正する見通しになっていた。2020年のEBITDA目標額である175億~180億ユーロ(約2兆500億円~2兆1,130億円)も、(この時点では)下端値を維持するとしたものの、設備の稼働率や関連コストの予測が明確になった時点で改訂される可能性があるとした。同グループはまた、(3月23日の段階で)2021年の財務目標に及ぶ影響についても正確に評価できないと表明。定期検査日程の再調整は、2020年末から2021年にかけての冬季に設備の稼働率を最大とするのが目的だが、2021年の全体的な発電量には悪影響が及ぶかもしれないと予測していた。同様に、電力卸売市場における電力価格の低下も、年末時点の負債比率に大きく影響する可能性があると指摘していた。仏国では2015年8月に成立した「緑の成長に向けたエネルギー移行法」により、原子力による発電シェアを2025年までに50%まで削減するほか、原子力発電設備も当時のレベルである6,320万kWに制限することが義務づけられた。現在、フラマンビル原子力発電所で163万kWの3号機(PWR)を建設中であることから、EDFは今年2月、国内で最も古いフェッセンハイム原子力発電所1号機(92万kWのPWR)を永久閉鎖とした。同型設計の2号機についても、6月30日に永久閉鎖することが決まっている。(参照資料:EDFの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 16 Apr 2020
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