キーワード:早期閉鎖
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米国 閉鎖済み原子炉を再稼働方針
米国のホルテック・インターナショナル社は9月12日、ミシガン州で2022年に永久閉鎖となったパリセード原子力発電所(PWR、85.7万kW)を再稼働させるため、子会社を通じて、同原子力発電所が発電する電力を州内のウルバリン電力協同組合(Wolverine Power Cooperative)に長期にわたり販売する契約を締結した。ホルテック社は今年2月、同発電所の再稼働に必要な融資依頼を米エネルギー省(DOE)に申請している。米原子力規制委員会(NRC)のスタッフとは、すでに複数回の公開協議を通じて、同発電所の運転再認可に向けた規制手続について議論を重ねており、「パリセード発電所は閉鎖後に再稼働を果たす米国初の原子力発電所になる」と強調。再稼働を必ず実現させて、ミシガン州の各地に無炭素エネルギーによる未来をもたらしたいと述べた。また、長期停止中の原子力発電所を数多く抱える日本や脱原子力を完了したドイツでも、同様の流れになることを期待するとした。米国では、独立系統運用者が運営する容量市場取引きの台頭など、電力市場の自由化が進展するのにともない、電力事業者間の従来通りの電力取引をベースとしていたパリセード発電所の経済性が悪化。2007年に同発電所をコンシューマーズ・エナジー社から購入したエンタジー社は2022年5月、当時の電力売買契約が満了するのに合わせて、合計50年以上安全に稼働していた同発電所を閉鎖。その翌月には廃止措置を実施するため、同発電所を運転認可とともにホルテック社に売却していた。ホルテック社は、原子力発電所の廃止措置のほか、放射性廃棄物の処分設備や小型モジュール炉(SMR)の開発など、総合的なエネルギー・ソリューションを手掛ける企業。同社によると、近年CO2の排出に起因する環境の悪化から各国が炭素負荷の抑制に取り組んでおり、原子力のようにクリーンなエネルギー源が重視される時代となった。パリセード発電所の購入後、ホルテック社は、DOEが既存の原子力発電所の早期閉鎖を防止するため実施中のプログラムに同発電所を対象に申請書を提出。これを受けてミシガン州のG.ホイットマー知事は2022年9月、この方針を支持すると表明していた。ホルテック社が今回結んだ電力売買契約では、パリセード発電所が発電する電力の3分の2をウルバリン電力協同組合が買い取り、同組合に所属する他の電力協同組合を通じてミシガン州主要地域の家庭や企業、公立学校等に配電する。残りの3分の1は、ウルバリン協同組合が協力中のフージャー・エナジー(Hoosier Energy)社が買い取る予定。なお、今回の契約では、ホルテック社がパリセード原子力発電所敷地内で、出力30万kWのSMRを最大2基建設するという契約拡大条項も含まれている。これらを追加建設することになれば、ミシガン州では年間約700万トンのCO2排出量が削減される見通し。ホルテック社の説明では、パリセード発電所の再稼働に対する地元コミュニティや州政府、連邦政府レベルの強力な支持は、CO2の排出削減における原子力の多大な貢献に基づいている。ホルテック社で原子力発電と廃止措置を担当するK.トライス社長は、「パリセード発電所を再稼働させることで、ミシガン州は今後のエネルギー需要を満たしつつ地球温暖化の影響を緩和できるほか、高収入の雇用を数百名分確保し地方自治体の税収を拡大、州経済の成長にも貢献できる」と指摘している。(参照資料:ホルテック社、ウルバリン電力協同組合の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 15 Sep 2023
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米エネ省 ディアブロキャニオン発電所に早期閉鎖防止プログラムを適用
米エネルギー省(DOE)は11月21日、カリフォルニア(加)州で数年後に閉鎖が予定されていたディアブロキャニオン原子力発電所(DCPP)(各PWR、約117万kW×2基)について、条件付きで「民生用原子力発電クレジット(CNC)プログラム」の初回の適用対象に認定したと発表した。これら2基の運転期間の5年延長に向けて、DOEは同プログラムから最大約11億ドルを拠出するが、最終的な金額は実額に基づいて、年ごとの提供期間の満了時に確定する。この決定により、DCPPの運転継続の道が拓かれたとDOEは指摘している。総額60億ドルのCNCプログラムは、2021年11月に成立した「超党派のインフラ投資・雇用法」の下、早期閉鎖のリスクに晒されている商業炉を救済し、関係雇用を維持するとともにCO2排出量を抑える目的で設置された。DOEが適格と認定した商業炉に対しては、認定日から4年にわたり一定の発電量毎に一定の行使価格を設定したクレジットを付与。クレジットの合計数に応じて支援金を支払う仕組みで、DOEはプログラム資金に残金がある限り2031年9月までクレジットを付与していく。DOEの発表によると、同プログラムによる初回の支援金は少し前に実施したパブリック・コメントの結果から、最も差し迫った閉鎖リスクに晒されている商業炉に優先的に交付される。2回目については、経済的理由により今後4年以内の閉鎖が見込まれる商業炉が交付対象であり、2023年1月から申請を受け付ける。DCPPの2基は年間160億kWhの電力を発電しており、加州のベースロード電源として総発電量の8.6%を賄うほか、無炭素電力では約17%を賄っている。同発電所を所有するパシフィック・ガス&エレクトリック(PG&E)社は2016年6月、電力供給地域における需要の伸び悩みと再生可能エネルギーによる発電コストの低下から、これら2基を現行運転認可の満了に合わせて、それぞれ運転開始後40年目の2024年11月と2025年8月に永久閉鎖すると発表。2009年に原子力規制委員会(NRC)に提出していた運転期間の20年延長申請も、2018年3月に取り下げている。加州の公益事業委員会(CPUC)は2018年1月にこの閉鎖計画を承認したものの、2020年の夏に同州は記録的な熱波に襲われ、G.ニューサム知事は停電を回避するための緊急事態宣言に署名。今年も熱波と電力需給のひっ迫が懸念されたことから同様の宣言を発出しており、州議会の議員に「DCPPの運転期間を5~10年延長することは加州のエネルギー・システムの信頼性を確保し、CO2排出量を最小限化する上で非常に重要」とする法案(上院846号)の案文を配布した。この法案は今年9月にニューサム知事の署名により成立しており、PG&E社は同法の指示に従ってDOEのCNCプログラムにDCPPの適用を申請した。加州政府はまたDCPPの運転期間延長にともなう経費として、同州水資源省からPG&E社に最大14億ドル融資することを10月に承認している。DOEの今回の決定についてPG&E社のP.ポッペCEOは、「すべての加州民に信頼性の高い電力供給を保証するDCPPの運転期間延長に向けて、また一歩大きく前進した」と指摘。「今後複数年の手続きの中で連邦政府や州政府から承認を得なければならないが、米国でもトップクラスの運転実績を残してきたDCPPで安全性を確保しつつ、低コスト・低炭素な電力を引き続き州民に提供していきたい」と述べた。DOEのJ.グランホルム長官は、「米国最大の無炭素電源である原子力発電所で信頼性の高い安価な電力を提供し続けるための重要なステップ」と表明。「原子力はJ.バイデン大統領が掲げる目標--2035年までに電力部門を100%カーボンフリーとし2050年までに米国経済のCO2排出量を実質ゼロ化する--を達成する上で非常に有効であり、クリーンエネルギーに対するこのように重要な投資を通じて、原子力発電所とその電力供給地域を守ることができる」と指摘している。(参照資料:DOE、PG&E社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 22 Nov 2022
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“Darkest before the dawn”
米国で原子力発電プラントが次々に早期閉鎖されるのを、うんざりするほど目にする。だがこれは一見ネガティブなトレンドに見えるが、将来の原子力の急成長に向けた“種”を蒔いていると見ることもできる。現時点で最後に閉鎖されたプラントは、ミシガン州のパリセード原子力発電所(PWR、85.7万kW)だ。50年の運転期間を経て、今年5月に閉鎖された。パリセードは最後に無停止で577日間も発電を続けたことからも、好調に稼働していたことがわかる。有効な運転認可を10年も残しての閉鎖となったが、プラントのオーナーであるエンタジー社は、たとえ連邦政府からの支援を受けられるとしても「もう十分」と判断したのである。再生可能エネルギーへの高額の補助金が原因で、一握りの原子力発電プラントが、自由化されたエネルギー市場からハジキ出された。そして、原子力発電の面倒を好まない電力会社の手で安楽死させられた。パリセードはそのうちの一つだ。閉鎖されたプラントは通常、ホルテック社やエナジー・ソリューション社のような廃止措置専門企業に売却され、この新しいオーナーが廃棄物と使用済み燃料を含むサイト全体を管理する。プラントの運転認可や、廃止措置のために積み立てられた基金も、新しいオーナーに移管される。そして、やるべき作業は明白だ。プラントを廃止措置するのだ。基金額よりも少ないコストで廃止措置を実施しさえすれば、残りの基金残高はマル儲けである。この単純なビジネスモデルは、革新的な廃止措置メソッドと組み合わさって、大変な利益をもたらしうるのである。この利益がモチベーションとなり、より多くの原子力プラントの早期閉鎖につながったことは間違いないが、私は、それだけでは一連のプラント安楽死の加速を説明することはできないと考えている。ホルテック社は廃止措置分野のエキスパートだ。米国のプラントに長年にわたって、使用済み燃料の乾式貯蔵システムや、関連サービスを供給してきた。パリセードの新しいオーナーとなったが、そのほかにもここ数年でピルグリム、オイスタークリーク、インディアンポイントの計3つの原子力発電サイトを同じように手に入れている。ホルテック社には、「SMR-160」と呼ばれる小型原子炉の開発を手掛ける部門もある。この小型PWRはすでに米原子力規制委員会と申請前の折衝を開始しており、早ければ2025年にも「設計認証(DC)」を取得することを目指している。DC取得後、ホルテック社は初号機をわずか36か月で建設し、2028~29年頃にグリッドに接続させる考えだ。おそらくもう誰もがお気付きだろう。旧いプラントの廃止措置を引き受けたホルテック社は、あるいはほかの廃止措置企業も、サイト全体のオーナーになる。そこはただのサイトではない。送電グリッドへの接続も容易で、運転経験豊富なスタッフたちが大勢いるサイトだ。そして新規原子力発電プラントの認可に必要なものは、採用する炉型のDCだけではない。サイト自体が原子力サイトに適しているかどうかを審査する「事前サイト許可(ESP)」も必要である。もちろん旧原子力サイトがなんの問題もなくESPを取得することは、容易に想像しうる。つまり多くの点で旧原子力サイトは、新しい原子力発電所を立ち上げるのにパーフェクトな場所なのだ。新しくフレキシブルなテクノロジー、電気だけでなく水素などのプロダクト、そして本気で取り組む企業。この3者が揃った時、何が起こるだろうか?すでにホルテック社は、オイスタークリーク・サイトにSMR-160初号機を建設する「可能性を模索している」と発言している。廃止措置作業が順調に進めば、ホルテック社は新規建設候補サイトのオーナーとなり、SMRテクノロジーのオーナーとなり、その健全なバランスシートを利用して、新規原子力発電所の建設に悠々と着手できるのである。発電プラントの旧オーナーが原子力利用に積極的でなかったからといって、将来のオーナーが原子力に手を出さないというわけではない。となると、旧いプラントが早期に閉鎖されればされるほど、新しいプラントが花開く、という考え方だってアリではないかと思うのだ。文:ジェレミー・ゴードン訳:石井敬之
- 11 Jul 2022
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米原子力学会、ディアブロキャニオン発電所の閉鎖計画に再考促す声明
加州で唯一のディアブロキャニオン原子力発電所 ©PG&E米国の原子力学会(ANS)は11月25日、S.ネズビット理事長とC.ピアシー事務局長兼CEOによる連名の声明を発表し、カリフォルニア(加)州のディアブロキャニオン原子力発電所1、2号機(各約117万kWのPWR)で、2024年11月と2025年8月にそれぞれ予定されている閉鎖計画を再考し、運転を継続させるよう同州の知事に促した。1、2号機はそれぞれ1984年と1985年に送電を開始しており、所有者であるパシフィック・ガス&エレクトリック(PG&E)社は当初の運転期間40年に加えて、20年間の運転継続を計画していた。しかし、電力供給地域における需要の伸び悩みと再生可能エネルギーによる発電コストの低下を理由に、PG&E社は運転認可更新申請の取り下げを決定。各40年の運転期間満了にともない閉鎖とする計画を2016年8月に加州の公益事業委員会(CPUC)に提出しており、同委は2018年1月にこれを承認した。ANSではこの閉鎖計画を「早期閉鎖」と形容しており、加州の経済と環境に甚大な被害をもたらすと警告。ANSによれば、加州が閉鎖判断を下した後の状況は変化しており、クリーンエネルギーである原子力発電の必要性はさらに強まっている。今回のANSの声明は、無炭素な電力を将来にわたり供給可能なディアブロキャニオン発電所が、信頼性の高い重要電源であり、過去に下した時代遅れの判断を今日の事情に合わせて今こそ再検討し、同発電所の運転継続に向けた準備を行うべきだと加州のG.ニューサム知事に訴えたもの。ANSの両首脳によると、同発電所は原子力規制委員会(NRC)の厳しい監督下で40年近く安全に運転されており、季節や天候に左右されず年中無休で無炭素なクリーン電力を供給中。加州ではすでに、同発電所を除く5基の商業炉が2013年までに全廃されたことから、州内で唯一存続し、同州の総発電量の約10%を賄うディアブロキャニオン発電所を閉鎖すれば、州内の送電網の安定性を損なうだけでなく輪番停電を強いる可能性がある。同発電所はまた、加州最大の無炭素電源であるため、これを失った加州では多くの電力を州外の火力発電所に依存することになる。その際、年間で数百万トンのCO2が新たに排出され、州政府や連邦政府の脱炭素化計画が損なわれるとANSは指摘している。ANSはさらに、昨年8月に熱波が発生した同州では電力需給がひっ迫し、州内の独立系統運用者(CAISO)が440万kWの電力不足に対処するため、同州全土で輪番停電体制を敷いたという事実に言及。これにより、約330万戸がエアコンのない暗闇の状況に取り残される事態となったが、この時もしも、出力調整可能なベースロード電源であるディアブロキャニオン発電所の無炭素電力がなかったら、状況はさらに悪化し対応コストも高くついたはずだとANSは強調した。ANSの説明では、太陽光や風力、地熱、電力の電池貯蔵などは確かに、加州の脱炭素化計画の重要な一部となるものの、地球温暖化の防止目標を同州が達成するには、すべてのクリーンエネルギー源が必要である。信頼性の高い送電網においては、ディアブロキャニオン発電所のように常時利用可能で強力な主力電源の確保が不可欠で、間欠性のある電源だけで同発電所をリプレースすることは難しい。CAISOによると、加州では総電力需要の約25%を他州から購入した電力で賄っており、山火事や地震を原因とする停電や天然ガス・パイプラインの途絶から影響を受け易い。同州のこのような脆弱性は、2025年以降も州民4,000万人の安全と繁栄を維持するために、同州がディアブロキャニオン発電所を維持する必要があることを明確に示しているとANSは改めて強調した。(参照資料:ANSの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 30 Nov 2021
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米イリノイ州の法整備にともない、エクセロン社が原子力に3億ドル投資
米イリノイ州で、州内の原子力発電所に経済的支援を提供する法案が成立したのを受け、同国最大の原子力発電事業者であるエクセロン・ジェネレーション社は9月28日、州内2つの原子力発電所の運転長期化に向けて、今後5年間に約650人分の雇用を創出し、合計3億ドル以上の投資を行う計画を明らかにした。同州では、電力市場の自由化にともない経営の悪化したバイロンとドレスデンの両原子力発電所を、事業者のエクセロン社が今年9月と11月にそれぞれ早期閉鎖する予定だった。しかし、州議会では9月13日、「CO2の影響緩和クレジット」を通じて原子力発電所に補助金を交付するという法案が成立。同州のJ.B.プリツカー知事は、9月15日付けでこの法案に署名した。これにより、バイロン原子力発電所(120万kW級のPWR×2基)では、永久閉鎖に向けて燃料の取り出し判断を下す最終締め切り日に、一転してこれまで通り安全かつ信頼性の高い運転を継続することが可能になった。州知事による法案への署名後、エクセロン社は同発電所1号機で直ちに燃料の交換作業を開始。同社によれば、イリノイ州が地球温暖化の防止目標や経済目標を達成する上で、今回の法案は非常に大きな影響を及ぼす。州内2つの原子力発電所を維持することで、同州で生産されるクリーンエネルギーの3分の2を失わずに済むほか、CO2排出量が70%増加するのを回避できる。また、間接雇用も含めて2万8千人分の雇用が守られ、顧客が年間に支払うエネルギー料金では、4億8千万ドル分の価格上昇が避けられるとしている。バイロン原子力発電所に関して、エクセロン社は今後5年間で約1億4千万ドルの投資を計画中である。具体的にはプラントの主発電機で分解整備を行うほか、大型変圧器の取り替えを実施。ファイバー光学制御システムでは機能の改善を行い、様々な種類のバルブやモーター、配管等を取り替える。これらの作業の多くは来年の燃料交換停止時に始める予定で、イリノイ州全土から1,500人以上の電気技師や配管工、溶接工、大工らがバイロン発電所に集結することになる。同社はまた、ドレスデン原子力発電所(91.2万kWのBWR×2基)でも今後5年間に約1億7千万ドルの投資を行う。2号機の燃料交換は11月に実施するとしており、そのための停止期間中に、給水熱交換容器6台の機能向上と主発電機の大規模改修、電気機器の分解整備、循環冷却水配管の取り替え、核計装回路機器の改修を予定している。エクセロン社のD.ローデス原子力部門責任者(CNO) は「画期的な法案が発効したことから、当社は保有する原子力発電所を年中無休で稼働させるため、これらのすべてで早急な燃料交換と新たな従業員の配置を進めている」と表明。「1千万以上の顧客や世帯に低炭素なベースロード電力を供給するこれらの発電所は、クリーンエネルギーの供給という点で重要であり、イリノイ州のGDPに毎年16億ドル以上貢献する巨大な経済原動力でもある」と強調した。(参照資料:エクセロン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 06 Oct 2021
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米イリノイ州で2つの原子力発電所の存続に向けた法案が成立
米イリノイ州の議会上院は9月13日、州内の原子力発電所に経済的支援を提供する包括的クリーンエネルギー法案(SB 2408)を37対17で可決した。これにより、同法案は州議会の上下両院で承認されたことになり、早期閉鎖が予定されていたバイロン(120万kW級のPWR×2基)とドレスデン(91.2万kWのBWR×2基)2つの原子力発電所の運転継続が可能になった。同法案はまた、州内2つの石炭火力発電所によるCO2排出量を抑制することから、2050年までに同州で使用する電力を100%クリーンエネルギー化する道を拓くことになる。同法案は今後、イリノイ州のJ.B.プリツカー知事の署名により、正式に成立する。イリノイ州では、米国最大手の原子力事業者であるエクセロン社がこれら2つの原子力発電所を運転しているが、電力市場の自由化にともないこれらの採算が悪化。数億ドル規模の赤字に陥ったことから、同社は2020年8月、「今後も州政府の政策立案者と協議を続けるものの、これらの発電所は2021年9月と11月に早期閉鎖する」と発表した。同社の働きかけを受けたイリノイ州議会では、今年2月にN.ハリス上院議員が原子力支援プログラムを盛り込んだ包括的エネルギー法案を議会に提出し、様々な審議を経て9月9日に州議会の下院が83対33で同法案を可決。その後上院では、下院で修正された事項等について9月13日に票決が行われた。この日は、エクセロン社がバイロン発電所の運転継続で燃料交換を行うか、永久閉鎖して燃料を抜き抜くか判断しなければならない最終締め切り日だったが、同社はその前日、「この法案が州議会で可決成立し、州知事が署名した場合に備えて、両発電所では燃料交換のための準備を進めている」と表明。同社のC.クレイン社長兼CEOはその中で、「当社の経営再建に向けて、またクリーンエネルギーへの投資で地球温暖化に対処するため、州知事や州議会議員、労組のリーダーらが法案の成立に向けて尽力してくれたことに感謝する」と述べた。同CEOは、このような活動を通じて世界的レベルの原子力発電所を運転する従業員の雇用が確保され、環境上の恩恵が公平に与えられるとした。同社の説明では、今回の法案を通じて原子力発電所にはクレジット毎に配電電力の割合に基づいて補助金が毎年支払われる。これによって、この地域のエネルギー市場で見られる構造上の問題が緩和され、風力や太陽光と同様、原子力にもクリーンエネルギーとしての貢献に補償を提供。イリノイ州が2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成する重要な一助になる。同法案はまた、経済問題のためにバイロンとドレスデンの両発電所と同様、早期閉鎖のリスクにさらされているブレードウッド原子力発電所(120万kW級PWR×2基)にも存続の機会がもたらされる。さらに、ラサール原子力発電所(117万kWのBWR×2基)についても、「CO2の影響緩和クレジット・プログラム」が施行される5年間は、運転の継続が可能になる。今回の法案が州議会で可決されたことについて、J.B.プリツカー州知事は9月13日、「消費者および地球温暖化防止ファーストの法案であり、100%クリーンエネルギーで賄う将来に向けて意欲的な基準が設定された」と指摘。「イリノイ州民も地球環境も、これ以上待つことはできないので、歴史的方策となる今回の法案には出来るだけ早急に署名したい」と述べている。(参照資料:イリノイ州議会、エクセロン社、イリノイ州知事の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 14 Sep 2021
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米イリノイ州の原子力発電所の運転を継続させるため下院議員がバイデン大統領に嘆願書
キンジンガー下院議員©Kinzinger米イリノイ州選出のA.キンジンガー下院議員は8月23日、同州内でこの秋、早期閉鎖が予定されている2つの原子力発電所の運転を継続させるため、J.バイデン大統領と同政権幹部に対し法的な緊急時の権限を早急に行使するよう嘆願する書簡を送付した。米国最大手の原子力発電事業者であるエクセロン・ジェネレーション社は2020年8月、イリノイ州内で経営が悪化したバイロン原子力発電所(120万kW級PWR×2基)とドレスデン原子力発電所(91.2万kWのBWR×2基)をそれぞれ、今年9月と11月に早期閉鎖すると表明。バイロン発電所については閉鎖予定日が目前に迫っていることから、「少なくとも、これらの発電所に財政支援と公平な市場条件を付与する法案がイリノイ州議会と連邦政府議会で新たに成立するまで、これらの発電所が運転継続できるよう配慮してほしい」と訴えている。米国の電力市場が自由化された地域では、独立系統運用事業者(ISO)や地域送電機関(RTO)が運営する容量市場(※「電力量(kWh)」ではなく、「将来の供給力(kW)」を取引する市場)で取引が行われている。バイロン発電所では現行の運転認可が満了するまで残り約20年、ドレスデン発電所でも10年ほど残っているが、どちらも近年はエネルギー価格の低迷や、北東部の代表的なRTO「PJMインターコネクション(PJM)」の容量オークションで化石燃料発電に競り勝つことができず、数億ドル規模の赤字に陥っている。また、エクセロン社によると、連邦エネルギー規制委員会(FERC)が近年指示したオークション関係の価格規則は、クリーン・エネルギーに対するイリノイ州の財政支援策を台無しにし、容量オークションでも化石燃料発電を優遇。イリノイ州では2016年12月、州内の原子力発電所への財政支援策を盛り込んだ包括的エネルギー法案が成立し、クリントンとクアド・シティーズの両原子力発電所では早期閉鎖計画が回避されたものの、バイロンとドレスデン両発電所については財政問題が悪化していた。キンジンガー議員は今月6日、エネルギー省(DOE)経由で民生用原子力発電所に財政的な信用を付与するプログラムを盛り込んだ「既存の原子力発電所維持のための法案(H.R.4960)」を、M.ドイル議員と共同で連邦議会下院に提出した。また、B.パスクラル下院議員がその前の週、原子力発電所の発電量に応じて連邦政府による課税額の控除を可能にするため提出した「CO2排出量ゼロの原子力発電に対する税控除法案(H.R.4024)」に対しては、共同提案者となることに合意している。大統領宛て書簡の中でキンジンガー議員は、過去9年間に全米で7基の商業炉が閉鎖され、失われたベースロード用の無炭素発電設備は530.6万kWにのぼると指摘。これにバイロンとドレスデン2つの発電所が加わり新たに430万kW分が閉鎖となるほか、2025年までにパリセードとディアブロキャニオンの両発電所で合計306.7万kW分が失われる。さらに米国では、3つの原子力発電所で756.6万kW分が閉鎖の危機にさらされているのに対し、1996年以降、新たに運転開始した商業炉はワッツ・バー2号機(116.5万kW)1基のみであるとした。原子力発電設備のこのような縮減傾向は、発電事業の信頼性や経済、関係する数千もの雇用、環境の健全性を脅かすものだと同議員は強調。これらはエネルギー供給の自立やCO2を排出しない十分なベースロード電源の保持、地球温暖化の防止など、国家の防衛・セキュリティやレジリエンスにも関わる問題になるため、到底受け入れられないと述べた。同議員は、バイロンとドレスデン2つの原子力発電所の運転を継続させる際、行使可能な法的権限として「国防生産法」と「連邦電力法」を挙げている。国防生産法は、緊急時に産業界を直接統制する権限を政府に与えるもの。「連邦電力法」では、緊急事態への対応等で両発電所の運転継続が必要であると、DOE長官から連邦エネルギー規制委員会(FERC)に提案することが可能になる。今回の書簡については、「イリノイ州議会がこれら2つの原子力発電所で運転を継続できなかったことは、驚くべき失策で、連邦議会も最終的に私の超党派法案を支持する意向を示してくれたが、原子力発電所に財政的信用を付与するプログラムの実行には時間が必要だ」と述べた。同議員は自らが提出した法案により、経営難に苦しむ全米その他の原子力発電所を保持できるとしても、バイロンとドレスデンの両発電所を助けられる可能性は低いと指摘。その上で、「私の地元コミュニティや選挙区民からの強い要望もあり、バイデン政権に利用可能な法的権限がある以上、見て見ぬふりは出来ない。これらの発電所の運転継続に全力を尽くしたい」としている。(参照資料:A.キンジンガー下院議員、エクセロン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 26 Aug 2021
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スウェーデンのリングハルス1号機が永久閉鎖
スウェーデンのバッテンフォール社は1月5日、南西部のヨーテボリ近郊に立地するリングハルス原子力発電所で45年近く稼働した1号機(90万kW級BWR)を、予定通り昨年12月31日付けで永久閉鎖したと発表した。同炉の閉鎖は2015年の株主総会で決定していたもので、同決定に従って2号機(90万kW級PWR)がすでに2019年末で閉鎖済み。同炉では今後廃止措置を行うことになっており、バッテンフォール社は近々、燃料の抜き取りと廃止措置の準備を開始する。本格的な解体作業は2022年後半に始まる予定で、2030年代まで続く見通しである。これら2基を当初予定の2025年より5年近く前倒しで閉鎖したことについて、バッテンフォール社のA.ボルグCEOは「経済性の観点から決めた正しい判断であり、将来使用する発電システムで旧式の技術を使うべきではない」とコメントした。その一方で同社は昨年11月、近隣のエストニアで新興エネルギー企業が進めている小型モジュール炉(SMR)導入計画に対し、協力を強化していくと決定。世界ではSMRへの期待がますます高まりつつあるとの認識の下、ボルグCEOは「SMRなどの新しい原子炉が建設されていくのを無視することはできないが、いかなるタイプの発電技術であれ、市場の関心を引くようなコスト面の競争力を持たなくてはならない」と強調した。リングハルス1号機は、2号機より約8か月遅れの1976年1月に営業運転を開始した。当初の出力は73万kWだったが、数年にわたる改善工事の結果、出力は最終的に90万kW台まで増強された。バッテンフォール社は2015年当時、2号機とともに同炉で2017年以降に改善・最新化作業を開始し2025年まで運転を継続する方針だったが、電力価格が低迷していたのに加えて、2014年に発足した政権の脱原子力政策により議会が原子力税の引き上げを決定。原子力発電所の採算性が悪化したことから、同社はスウェーデン国内で最も古いリングハルス1、2号機への投資プロジェクトを停止、早期閉鎖することに決めた。発表によると、1号機は2019年に過去最高の67億3,642万kWhを発電。運転開始以降の累計では、閉鎖されるまでに2,200億kWhの無炭素電力を供給し続けた。同量の電力を石炭火力や石油火力で発電した場合と比べると、CO2にして約2億トンの排出を抑えた計算になるとしている。なお、同社は1980年代に運転開始した同3、4号機(各110万kW級PWR)については、予定通り少なくとも60年間稼働させると述べた。これら2基では、約9億クローナ(約113億円)の投資を通じて独立の炉心冷却系が装備されており、天候に左右される再生可能エネルギー源の発電量を補いつつ、2基だけで国内の総発電量の約12%を賄っていると指摘した。(参照資料:バッテンフォール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2020年12月31日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 06 Jan 2021
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米国の再エネ補助金を見直す時が来た
政府の補助金がクリーンな米国電力システムの実現、そして米国原子力発電事業の障害となって立ちはだかっている。米国ではきちんと保守維持されてきた原子力発電所が早期閉鎖され、新規建設もほとんどなく、原子力は苦闘が続いている。そうした苦闘の核心に横たわっているのは「賭けは負けだった」という事実だ。即ち、規制当局や政策決定者達は「電力市場を自由化すれば、市場の力で電力セクターは社会のニーズに対して最適のサービスを提供することになる」という札に賭けた。しかし残念なことに、自由化電力市場はその目指すところには遥かに及ばないものでしかなかった。経済学理論によれば、「市場の失敗」があった時には「賢明な規制」を行うべきだとされる。しかし、それに代えて米国ではエネルギー補助金付与の政策がとられたが、それは「賢明な規制」にとって代われるようなものではなかった。エネルギー補助金の論理エネルギー補助金は市場が向く方向を変えて、社会にとって好ましくない状態に至るのを防ぐためのものだ。ある技術が商業化される初期段階では、投資・開発を促進し、また、まだ揺籃期にある産業を競争から保護するためによく補助金制度が活用される。エネルギー省を創設したカーター政権では、代替燃料や後の再生可能エネルギーへの支援が行われたが、それは主にこの後者の目的を意図して実施されたものだ。米国の輸入石油への依存度を低減させることができる技術は何であれ、そのために消費者が最終的に負担する額以上の価値があるものと考えられた。そうした産業を支援し開発を促進することは、米国にとり最善の方策であると考えられていた((Mona L. Hymel and Beth S. Wolfsong, “Americans and their “Wheels”: A Tax Policy for Sustainable Mobility,” Arizona Legal Studies, Discussion Paper 06-15, (2006).))。再生可能エネルギー(再エネ)への補助金付与を提唱する人達は、「市場の失敗」への対処だとしてお決まりのシナリオを主張する。つまり、再エネはクリーンなエネルギーだが、再エネがエネルギー供給以外にもたらす追加の利益(温室効果ガス放出量が極少であること)は電力市場価格には含まれておらず、再エネは本来あるべき水準よりも低い利潤しか上げることができない、というものだ。そこで米国連邦政府ならびに州政府は、投資への税控除や発電量への税控除、固定価格買取制度(FIT)、再エネ導入基準スタンダード(再エネ・ポートフォリオ・スタンダード)などで市場に介入し、この「市場の失敗」に対処しようとした。こうした再エネへの補助金付与の結果、再エネへの投資が促進され、実際、再エネの量は補助金付与の期間を通じて大きく増加し、既存のエネルギー源と比較しても再エネの発電コストは競合可能なレベルになってきた。再エネ補助金は、その成果を出したように見えた。エネルギー補助金の問題点しかし深掘りして考えてみると、この補助金付与には様々な大きな問題があり、それら問題点の多くは、補助金が原子力発電へ与えた影響を考えてみるとより明確に見えてくる。簡潔に言うなら、米国のエネルギー補助金制度は非効率で、誤った方向に産業を導くものであるばかりか、多くの点でまぎれもなく有害なものである。そもそもエネルギー補助金が何を目指すものであったのかを考えてみよう。米国政府の再生可能エネルギー支援は、しばしば温室効果ガス(GHG)排出削減のための努力の一つであるとされているが、例えその効果があったとしてもそれは大変にお粗末なものでしかない。再エネ補助金の目指すところは、大変に視野の幅が狭く、役立たずでしかない。つまり、再エネ補助金は近視眼的に再エネ建設を最大化することだけを目指したものでしかない。我々の直感に反して、それはGHG放出減少というそもそもの目標達成をしばしば妨げるものにすらなる。その主な理由は、ほとんどの再エネ電源の持つ間欠性にある。つまり、再エネの発電量は予見不可能で、しかも一日を通して発電はできない。従って如何に多数の風力や太陽光発電所を建設したとしても、結局のところ電力ネットワークはベースロード発電所に依存せざるを得ない。市場の失敗の結果、十分な原子力発電容量は確保できず、その他の大規模エネルギー源にも様々な技術的問題があるから、多くの場合、そうした役割は火力発電所によって担われることになる。エネルギー補助金はそうした背景に内在している市場の失敗を解決することはできず、炭素ゼロというジグソーパズルを埋めるピースのうち、再エネという一つのピースだけに恩恵を与え、他のピースである原子力を衰退させる幅狭なものでしかない。「エネルギー・エコノミクス誌((Richard G. Newell, William A. Pizer, and Daniel Raimi, “US federal government subsidies for clean energy: Design choices and implications,” Energy Economics, Vol. 8, (May, 2019).))」に研究者が投稿した記事によれば、純粋に経済的な議論(政治的な論点は含まれないと思われるが)に基づくならば、政策の焦点はポイントを絞って狭めるのがよく、発電所建設完了によってもたらされる物理的な結果に相応する補助を与えれば、政府の政策がレバレッジを効かせて市場に対し影響を発揮でき、その結果、環境を改善する上で補助金の効果は最大化できる、としている。しかし実態を見るなら、冒頭に写真があるカリフォルニアのイバンパ発電所をはじめとして、太陽光投資の税控除や連邦の債務保証で建設された発電所は当初計画された出力を出すことができず、失敗に終わっている。それら連邦政府による太陽光支援策と、カリフォルニア州による再エネへの支援策が相まって、カリフォルニア州では太陽光発電がブームとなって大きく増加したが、それは最近のブラックアウトの背景原因となっていると指摘されている。実際に大気汚染が発生している最前線に目をやってみても、米国政府の政策は右手がどういう動きをしているかを全く理解せずに、左手で何かをやるような支離滅裂な状態になっている。現在の連邦政府による化石燃料への補助金は、「環境・エネルギー研究所(( Clayton Coleman and Emma Dietz, “Fact Sheet: Fossil Fuel Subsidies: A Closer Look at Tax Breaks and Societal Cost,” Environmental and Energy Studies Institute, (July 29, 2019).))」によれば年額200億ドルにもなるとされ、そのうち40億ドルはひどい大気汚染をひきおこす石炭産業に対して支払われている。過去、エネルギー補助金は有害な汚染を削減するというよりは、エネルギーセキュリティ確保や付随して生じる経済効果に焦点を当てて運用されてきた。エネルギー補助金は、電力市場のあり方も歪める可能性がある。ある種、電源の質に着目した再エネ補助金(例えば主に風力の発電量に対する税控除)やFITは再エネプロジェクトから得られる収益を実効的に増加させる効果がある。しかし電力スポット市場の設計と重ね合わせると、このことは電力市場価格を歪めることになっている。電力市場では、発電事業者は受け入れても良いと思う価格で入札を行い、入札価格が低いところから需要量まで順に落札し、最後の(一番高値の)落札価格(スポット価格)が全ての落札者に対して支払われる。その結果、しばしば再エネ事業者は負の価格で、つまり落札すれば金額を支払ってでも電気を引き取ってもらうように入札する動機づけがされることになる。これは直感に反するが、補助金制度が再エネ事業者が発電機を運転している時に限って発電量に対して補助金が支払われる、という仕組みになっているためである。そうした補助金の与え方は電力のスポット価格への下降圧力として作用し、全ての発電事業者を苦しめることになる。しかし、そうした事態になっても再エネ事業者は、補助金を得ることで利潤をあげることができる。それでも再エネが利潤をあげていることは、新規の再エネ建設計画投資が依然活発であることからも読み取れる。再エネ補助金の仕組みはその目標を達成しつつあるが、それが意図していない副作用は深刻なものとなり得る。巻き添えの被害現在の再エネ補助金制度の大きな問題点は、それによって他の発電事業者が被害を被るということにある。例えば、自由化電力市場で運転している原子力発電所は市場で売電して固定費回収を行っているから、その経済性は市場のスポット価格次第ということになる。市場価格が損益分岐点を下回れば、原子力発電所は損失を出すことになる。そうした事態になれば、所有者は財務的損失を回避するために発電所を廃止するのが普通である(例えばキウォーニ発電所やバーモントヤンキー発電所など((NECG Commentary #27 今も続く米国原子力の危機を参照されたい)))。米国では原子力発電所は一旦廃止してしまうと、物理的には更に何十年も稼働が可能であったとしても再稼働させる道はない。再エネの発電量に関連付けて支払われる補助金の類でスポット価格が下降圧力を受けることは、原子力発電所にとっては致命傷になり得る。このことはもっと憂慮されてよいことだ。原子力発電所は価値ある物的資産である。地域には熟練度の高い雇用を生みだし、高い信頼度の電源であり、排出ゼロの電力を大量に生産できる。プラント寿命を通じたGHG排出量をみても、風力や太陽光に遜色ない低炭素電源であるうえ、間欠的な再エネでは達成不可能な信頼度高い電力を供給できる。原子炉は天候の晴雨や風の有無によらず、90%以上の稼働率でベースロードの電力を供給できる。このため、実際にもしも原子力発電所が廃止されたとしても、その分の電力は再エネで置きかえられることにはならない。と言うよりは、それは絶対に不可能だ。廃止された原子力の電力は、他の最も安価でかつ信頼度が高い電源、すなわち炭酸ガスを放出する天然ガス発電所がとって代わって発電することになる。だから、原子力発電所が廃止されれば、必ずGHG排出量は増加することになる。より優れた手法米国の再エネ補助金が引き起こしている問題への解決策は、既に分かっている。現在原子力が直面している問題全てを補助金政策の誤りに帰すことはできないが、現在の補助金制度はGHG排出を低減させようという目標に照らして考えると、非効率で場合によっては極めて有害なものである、という事実は厳然として残る。連邦政府及び州政府は再エネ補助金について系統的な再評価を行うべきである。そしてその再評価は、単に再エネ電源の建設量を増やすことだけに焦点を当てたものではなく、全電力セクターからのGHG排出量を減らすことができるような補助金制度を作り上げることに焦点を当てるべきである。そしてその暁には、連邦政府は化石燃料への補助金を段階的に廃止すべきであり、その原資は取り分けて将来の国営原子力建設計画に融資することが、その次のステップとなるであろう。そのためには重なり合いながら、相互に補完できる調和のとれた一連の政策が必要となることは明らかである。そうした一連の政策は市場を歪めるものであってはならず、技術的にも明確で、長期にわたって安定的かつ予見可能なものでなければならない。原子力発電所は一旦建設すれば何十年にわたって稼働するものだから、長期的に予見可能な補助金制度が原子力にとっては特に重要である。この政策の核の一つとして、炭素税か排出権取引によって全国大でのGHG排出に対する価格付けを行うべきである。そうした政策を取れば、これまでエネルギーに価格が付くようになってからずっと化石燃料を利してきた化石燃料の負の外部性を効果的に内部化することが可能となり、原子力発電や再エネ発電にとってはプラスの効果を生み、さらに社会全体にとってみてもそれはプラスの効果を生むものとなる。変革の潮時だ米国連邦によるエネルギー補助金制度を再考すべき時期はもうとっくに過ぎている。米国連邦政府は明確なゴールを持っていないように思われ、現在施行されている自由化市場を活用するやり方は失敗であり、社会にとって最善なものとはなっていない。この失敗を解決するには政府の措置が必要であるが、その措置は適正なものでなければならない。現在の補助金政策は、破たんしつつある。今回のNECGコメンタリーはジェームズ・バウチャー((James Boucher is an NECG Associate that is completing coursework at the London School of Economics.))が執筆した。 PDF版 ニュークリア・エコノミクス・コンサルティング・グループ(NECG)は、原子力発電事業に関する経済、ビジネス、規制、財務、地政学、法律など、多様で複雑な課題を掘り下げて分析している。我々が依頼元に提供する報告は客観的かつ厳格な分析に基づくものであり、かつそれらは実業界での経験を基にまとめられている。
- 17 Sep 2020
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米エクセロン社、経済的理由でイリノイ州の2つの原子力発電所を早期閉鎖へ
米国の原子力発電事業者としては最大手のエクセロン・ジェネレーション社は8月26日、イリノイ州で稼働するバイロン(120万kW級PWR×2基)とドレスデン(91.2万kWのBWR×2基)の両原子力発電所を2021年の秋に早期閉鎖する方針を明らかにした。信頼性の高い両発電所の運転により、同社はイリノイ州の北部約400万の世帯や事業所にCO2を排出しないクリーンな電力を供給してきたが、バイロン発電所は2021年9月、ドレスデン発電所については同年11月に永久閉鎖する計画である。米国の電力市場が自由化された地域では、独立系統運用者(ISO)や地域送電機関(RTO)が運営する容量市場で卸電力の取引が行われている。バイロン発電所では現行の運転認可が満了するまで残り約20年、ドレスデン発電所でも10年ほど残っているが、どちらも近年はエネルギー価格の低迷や、北東部の代表的なRTOである「PJMインターコネクション(PJM)」の容量オークションで化石燃料発電に競り勝つことができず、数億ドル規模の歳入不足に陥っている。また同社によると、連邦エネルギー規制委員会(FERC)が最近指示したオークション関係の価格規則はクリーン・エネルギーに対する同州の財政支援策を台無しにし、容量オークションでも化石燃料発電を優遇しているため、両発電所の財政問題はさらに悪化している。イリノイ州では2016年12月、州内の原子力発電所に対する財政支援策を盛り込んだ包括的エネルギー法案が成立しており、エクセロン社は早期閉鎖を予定していたクリントン(107.7万kWのBWR)とクアド・シティーズ(91.2万kWのBWR×2基)の両原子力発電所で今後少なくとも10年間、運転継続させることを決定した。しかし、近年はFERCの価格規則等により、今回の2つの原子力発電所のみならず同社が保有するラサール(117万kWのBWR×2基)原子力発電所とブレードウッド(120万kW級PWR×2基)原子力発電所についても、早期閉鎖のリスクは高いと同社は主張している。同社のC.クレイン社長兼CEOは「エクセロン社全体でほかの雇用を維持するために、不経済なプラントを閉鎖しなければならないことを頭ではわかっているが、お粗末なエネルギー政策によって発電所の優秀な従業員が職を失うことになるのは胸が痛む」と述べた。しかし、エクセロン社は両発電所の早期閉鎖を回避できるよう、今後も州政府の政策立案者と協議を続ける考えであり、すでに会計帳簿も開示したことを明らかにしている。バイロンとドレスデン両発電所の閉鎖により、イリノイ州は温室効果ガスの排出量削減目標の達成に向けた進展が鈍化するなど妨げられるが、エクセロン社としては正式決定後にPJMに事前連絡を行う方針である。需要のピーク時においても、両発電所の閉鎖がイリノイ州北部で発電容量不足を生じさせないことをPJMが確認できるよう、分析する猶予を与えなければならない。同社はまた、原子力規制委員会(NRC)に対して30日以内に正式な閉鎖連絡を行うほか、両発電所を長期運転する際に必要とされていた設備投資プロジェクトを終結させる。さらに、今年の秋に両発電所で予定されていた燃料交換のための停止日程を縮減するとしている。(参照資料:エクセロン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 28 Aug 2020
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米NY州のインディアンポイント2号機が予定通り永久閉鎖
米国の発電事業者のエンタジー社は4月29日、ニューヨーク(NY)州南部のインディアンポイント原子力発電所で45年以上の間、安全かつ信頼性の高い発電を続けていた2号機(106.2万kWのPWR)を30日付で永久閉鎖すると発表した。国際原子力機関(IAEA)の発電炉情報サービス「PRIS」はこの後、同炉が発表通り永久閉鎖された事実を確認。米エネルギー省(DOE)のR.バランワル原子力担当次官補はこの件について、「NY市民に長期にわたって信頼性の高いクリーン・エネルギーを供給してきた2号機の閉鎖は非常に残念」とコメントしている。NY州の公益事業委員会は2016年8月、包括的かつ意欲的な地球温暖化防止政策として、州北部に立地する3つの原子力発電所への補助金プログラムを盛り込んだ「クリーン・エネルギー基準(CES)」を承認した。しかし、NY市の北約40kmに位置するインディアンポイント発電所については、同州のA.クオモ知事が「大都市圏に近すぎる」として、かねてより早期閉鎖を要求。エンタジー社と州政府が協議した結果、2号機を2020年4月末に、同3号機(107.6万kWのPWR)を2021年4月末に永久閉鎖することで、両者は2017年1月に合意した2、3号機はそれぞれ、1974年8月と1976年8月に営業運転を開始しており、エンタジー社は2000年から2001年にかけてコンソリディテッド・エジソン社等からこれらを購入している。これらを早期閉鎖する理由についてエンタジー社は、2017年の合意のほかに電力卸売市場における価格の低下が長期化し、今後も収益が減少する見通しであることなど複数の要因を指摘。同発電所の従業員に関しては、すでに公表済みの閉鎖計画に沿って、40名以上の希望者を同社内で配置転換すると約束している。また、エンタジー社は2019年4月、すでに閉鎖されている1号機(28.5万kWのPWR)も含めた3基の廃止措置作業を迅速化するため、発電所のライセンスや使用済燃料、廃止措置の信託基金などをホルテック・インターナショナル社の子会社に売却すると発表。エンタジー社がこれらの原子炉を保有し続けるよりも、ホルテック社に売却した場合の方が40年ほど早く、跡地の一部を再利用のために開放できるとの見方を示した。ホルテック社も、規制当局から廃止措置の承認を取得し2021年にライセンス等の購入取引を完了し次第、廃止措置を開始する方針。このため、カナダのSNCラバリン社と設立した廃止措置の専門企業「コンプリヘンシブ・デコミッショニング・インターナショナル(CDI)社」を通じて、同発電所従業員の中から廃止措置の第一フェーズのために選抜した者を雇用する方針を明らかにしている。(参照資料:エンタジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 07 May 2020
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米国の温暖化防止団体、感染拡大時の原子力発電所早期閉鎖の延期を州知事に要請
米国で地球温暖化防止対策の推進を呼びかけている団体「Climate Coalition」は新型コロナウイルスによる感染の拡大が深刻化するなか、ニューヨーク(NY)州内で今月中に予定されているインディアンポイント原子力発電所2号機(106.2万kWのPWR)の早期閉鎖を延期し、運転を継続するよう同州のA.クオモ知事に訴える書簡を公開した。ウイルス感染にともなう呼吸器不全で多くの州民が亡くなっているが、原子炉の早期閉鎖を延期すれば化石燃料発電所から有害な汚染物質が新たに大量に排出されるのを抑えられると同団体は指摘。これはパンデミックによる影響が一層悪化するのを防止し、これ以上の死者を出さないために知事が実行できる最も重要かつ予防的な措置であり、CO2を排出しないクリーン・エネルギー源をこのように不味いタイミングで停止させてはならないと訴えている。同団体はクリーン・エネルギーの支持団体や環境保護グループ、個人などの連合体であり、クオモ知事が2016年8月、NY州北部で稼働する3つの原子力発電所への助成金プログラムを盛り込んだ包括的温暖化防止政策「クリーン・エネルギー基準(CES)」を州議会で成立させたことを称賛している。しかし同知事は、NY市の北約40kmに立地するインディアンポイント原子力発電所については、「大都市圏に近すぎる」としてかねてより早期閉鎖を要求。同発電所を所有するエンタジー社と州政府が協議した結果、2号機を2020年4月に、3号機(107.6万kWのPWR)を2021年4月に永久閉鎖することで2017年1月に合意していた。知事宛ての書簡の中で同団体は、「パンデミック対応でNY市の財政は火の車となっており、ここで原子炉を止めてしまえば財政面の脆弱性は余計に増す」と指摘した。その上で知事に対して、「あなたは本当に送電網を一層脆弱なものとし、この危機的状況に新たな不確定要素を加えたいのか?」と詰問。夏が急速に近づくなかで異常気象により熱波が長引いた場合はどうなるのか、NY市全体が室内に避難し続けねばならないのかと疑問を投げかけた。また、ウォールストリート・ジャーナルのコラムニストで新型コロナウイルスに感染したP.ヌーナン氏の言葉を引用し、「電気さえあれば何もかもが上手くいく。世の中はすべて送電網にかかっている」と指摘。数百万のニューヨーカーの生命がエアコンや換気扇に左右されるにも拘わらず、最も信頼性が高くクリーンな電源を本当に知事の一存で止めてしまうのかと非難している。同団体はさらに、クオモ知事が昨年、州内のCO2排出量の100%削減に向けた法案を可決させた事実に言及した。クリーン・エネルギー源としては州内最大規模のインディアンポイント発電所の早期閉鎖を画策しておきながら、知事は代わりの電源として再生可能エネルギーではなく、大気汚染を助長する化石燃料を選んだと糾弾。ニューヨーカーが望まない政策によって、知事は数百億ドルの価値を持つ資産を無駄にしようとしていると述べた。もしも知事がNY州にとって本当に意味のあるCO2削減を約束したいのなら、安全でクリーンな原子力発電所の閉鎖を全力で阻止しなければならないと同団体は強調。インディアンポイント発電所の閉鎖はクリーンな大気とCO2の削減、両方に向けた努力を数十年分後退させるほか、脱炭素化した未来のために原子力発電は非常に重要だとする最新の科学的知見とも矛盾するとした。同団体によれば、インディアンポイント原子力発電所の早期閉鎖で州政府と事業者が合意して以降、原子力発電に対する世間の見方は劇的に変化した。原子力発電所を廃止して再生可能エネルギーで代替するというドイツの取り組みの失敗により、A.メルケル首相は停電回避のために古来の森林を伐採し、採炭に抗議する者を逮捕せざるを得なくなった。もっと科学的思考を持つ環境保護派のリーダーであれば、原子力発電が地球温暖化との戦いに必要なことを認識している。「憂慮する科学者同盟」や世界的自然保護団体の「Nature Conservancy」、科学雑誌の「ナショナル・ジオグラフィック誌」などは、ここ数年間で原子力発電に関する勧告を改訂。否定的に見られていた原子力発電は今や、重要なクリーン・エネルギーと位置付けられ、それなくしては迅速かつコスト面の効果もある方法で化石燃料から脱却することはできないと見られている。同団体から見て、クオモ知事はコロナウイルスによる感染の拡大を抑えるために医療専門家の意見を聞くよう繰り返し強調しているが、知事こそ地球温暖化関係の主要な専門家の意見を聞き、最新の知識を受け入れるべきだと表明。地球温暖化防止で正しいことを行うのは、新型コロナウイルスとの戦いで正しいことを行うのと同じであると主張している。(参照資料:Climate Coalitionの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 21 Apr 2020
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米ビーバーバレー原子力発電所の事業者が2年前の早期閉鎖予告を撤回
米国のエナジー・ハーバー社(旧ファーストエナジー・ソリューションズ社)は3月13日、ペンシルベニア州で運転中のビーバーバレー原子力発電所(100万kW級PWR×2基)について、2018年3月に発表した「2021年中に早期閉鎖するための予告通知」を撤回すると同地域の地域送電機関(RTO)「PJMインターコネクション(PJM)」に伝えたと発表した。早期閉鎖を予告した際、同社はビーバーバレー発電所に加えて、オハイオ州のデービスベッセとペリー2つの原子力発電所についても2020年と2021年に永久に機能停止させるとしていた。しかし、オハイオ州では昨年7月、CO2を排出しない原子力発電所への財政支援を盛り込んだ法案が立法化され、ファーストエナジー・ソリューションズ社(当時)はこれら2つの原子力発電所の早期閉鎖方針を撤回。デービスベッセ発電所では、2020年春の停止期間中に燃料交換するための準備を直ちに開始すると表明している。ビーバーバレー発電所の早期閉鎖方針を撤回する理由についてエナジー・ハーバー社は、ペンシルベニア州のT.ウルフ知事が昨年の10月以降、米北東部地域における州レベルの発電部門CO2排出量(上限設定型)取引制度「地域温室効果ガスイニシアチブ(RGGI)」に同州を参加させる方針である点に言及した。同州がRGGIに参加した場合、炭素を出さないエナジー・ハーバー社の原子力発電設備にも他の電源と平等な機会が与えられ、同社の小売り成長戦略に沿って環境・社会面の目標や持続可能性等の達成が促進される。ただし、目標とする2022年初頭までにRGGIの手続が開始され、期待した効果が出なかった場合は、同社はビーバーバレー発電所の永久的機能停止を改めて検討しなければならないとしている。2009年に制度として始まったRGGIには現在、マサチューセッツ州やコネチカット州などニューイングランド地方の6州に、中部大西洋岸地域のニューヨーク州、ニュージャージー州などを加えた合計10州が参加している。参加地域全体のCO2排出量の上限を設定した上で、排出量オークションにより各排出源に最大許容排出量を配分。発電事業者は所有する発電設備に排出枠を当てるだけでなく、排出枠を売買することや余剰を貯蓄することも可能である。エナジー・ハーバー社は今のところ、ビーバーバレー発電所の早期閉鎖撤回決定を原子力規制委員会(NRC)に口頭で伝えたのみだが、手続きとして30日以内に書面でも連絡する方針。また今回の決定は、原子力発電運転協会(INPO)と原子力エネルギー協会(NEI)にも通知済みだとした。CO2を実質的に排出しない信頼性の高い原子力発電所等により、同社は長期的な価値の創生や将来的な低炭素経済における競争力の増強など体制を整え、顧客や関係者が環境面や社会面の目標を達成できるよう努力を傾注していきたいとしている。(参照資料:エナジー・ハーバー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 17 Mar 2020
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またしても汚い電気の勝利
電力市場自由化で原子力発電所が早期閉鎖に追い込まれ、米国の電源はさらに汚くてリスキーなものになってきている。それは米国電力システムにとって実に悪い知らせだ。2034年4月までの運転がNRCにより認可されているにもかかわらず、2019年5月エクセロン社はスリーマイル・アイランド原子力発電所1号機の早期閉鎖を決定した。また同様にマサチューセッツ州のピルグリム原子力発電所も2032年6月までの運転がNRCにより認可されているにもかかわらず2019年5月に閉鎖された。国際エネルギー機関(IEA)の報告書「クリーン・エネルギー・システムにおける原子力発電」((訳注:2019年5月30日付原子力産業新聞海外ニュースに概要がある。))は、持続可能な低炭素電力システムに移行していくうえで原子力が必要不可欠であること、そして全ての既設原子力発電所は安全上可能な限り運転を継続し続けるべきであることを強く主張している。稼働中の原子力発電所を閉鎖すればその分の電力は汚い火力発電で代替されることになることから必ず大気排出量は増える。米国内で稼働中の原子力発電所を所有する電力会社にとってみると今の卸電力市場価格では当座の運転に必要な費用すら賄うことができず、電力市場での原子力の電力売電で損失を出していることから、原子力発電所が次々と早期閉鎖されている。米国の電力市場は短期的に卸電力価格を低下させることだけに焦点を合わせたものとなっている。この結果、そうした自由化電力市場は以下のような弊害を生むこととなる。大気排出などの環境影響が無視される。長期的な電力システムの信頼度や発電容量についての計画性が無視される。クリーンで信頼度が高い原子力発電への支援が抜け落ちる。原子力発電を汚い火力発電で代替することが許される。単一種類の発電用燃料(つまり天然ガス)への依存度だけが高まりリスクも増加する。果たして米国は汚くてリスキーな電力を供給するように設計された電力市場を本当に望んでいるのであろうか。 PDF版 ニュークリア・エコノミクス・コンサルティング・グループ(NECG)は、原子力発電事業に関する経済、ビジネス、規制、財務、地政学、法律など、多様で複雑な課題を掘り下げて分析している。我々が依頼元に提供する報告は客観的かつ厳格な分析に基づくものであり、かつそれらは実業界での経験を基にまとめられている。
- 31 May 2019
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今も続く米国原子力の危機
電力部門の炭素放出量を減少させる上で、原子力発電の活用は非常に効果的だ。炭素放出量を減少させる上で費用対効果が最も大きな手段は既設原子力発電所をできるだけ長期にわたって運転し続けることだ。にもかかわらず、米国内の複数の既設原子力発電所が早期閉鎖され、さらに他にも早期閉鎖されそうな発電所が多くある。この市場の失敗に対して合衆国政府には動きがなく、各州政府のみが対処をはかっているようにしか見えない。最近の経緯2013年以降、3基の既設原子力発電所が純粋に経済的な理由から閉鎖されている。キウォーニが2013年5月に、バーモントヤンキーが2014年12月に、そしてフォートカルホーンが2016年10月に閉鎖された。これらの発電所では自由化市場からの収入では発電所の運転費用を賄うことができなかった。さらにこれらの発電所の他、クリスタルリバーとサンオノフレの2発電所が大規模保修のコストがかさんだことで早期閉鎖されている。クリスタルリバーは2013年2月に、またサンオノフレは2013年6月に閉鎖された。もしも原子力発電所が生む電力の価値がもっと高く評価されていたとすれば、これらの発電所を所有する電力会社はそうした大規模保修の費用を支出してでも全出力で再度稼働させることが正当化できる、と考えたかもしれない。ニュージャージー州のオイスタークリーク原子力発電所は2018年に早期閉鎖された。許認可上、同発電所は2029年までの運転が可能であった。またエクセロン社とニュージャージー州は、2019年までは多額の費用を要する冷却塔の追加設置を行うことなく運転することで合意していた。しかしエクセロン社はその期限よりも1年前に閉鎖を決めた。その他にもニューヨーク州のナインマイルポイント、フィッツパトリック、ギネイ、イリノイ州のクリントン、クアド・シティーズなど、経済的理由で早期閉鎖が予定されている既設原子力発電所がいくつかある。そうした早期閉鎖計画の発表を受けてニューヨーク州とイリノイ州はゼロ・エミッション・クレジット(ZEC)プログラムを策定し施行した。危機に瀕していた両州のこれら原子力発電所はZECプログラムによる追加収入があったおかげで運転が継続されている。ZECプログラムは市場の失敗に終止符を打つために政府が取る適切な措置であると言える。本コメンタリーでは、ここ過去1年ほどの間に原子力発電所の早期閉鎖防止のために何がなされ、また何がなされなかったのか、最新情報をとりまとめてみたい。合衆国レベルのアクション合衆国レベルで原子力発電所の早期閉鎖を防止するためにこれまで取られた施策はほとんどない。イリノイ、ニューヨーク両州のZECプログラムを是とした控訴審決定は最高裁に上告されている。エネルギー省(DOE)が提案していた電力システム系統信頼度・レジリエンス向上のための価格設定ルール化(レジリエンス・イニシアティブ)の検討は中断され、追加措置検討も保留されている。NRCへの運転期間延長申請(1度目の合計60年間運転、2度目の合計80年間運転とも)は順調に審査が行われている。最高裁 ニューヨーク、イリノイ両州のZECプログラムはその是非を巡って裁判所で訴訟となっている。これまでのところ裁判所はZECプログラムを中止すべきとの申立てを却下している。しかし連邦第7巡回区控訴裁判所が下したイリノイ州のZECプログラムを是とする決定を不服として、2019年1月に複数の発電会社が共同で最高裁に上告を行った。だがこのイリノイ州のZECプログラムについての控訴審決定や、ニューヨーク州のZECプログラムを同様に是とした連邦第2巡回区控訴裁判所が下した決定を最高裁が覆す可能性は低いと電力業界は見ているように思われる。もしもこれら控訴審決定が覆されることとなれば、先行判例であるヒューズ・メリーランド州公益事業委員会委員長とタレンエナジーマーケティング社間の係争((訳注:Nuclear Economics Consulting Group コメンタリー第 13 回「デービスベッセ原子力発電所」でも本決定について触れられている。))に関する最高裁決定をも覆すこととなり、多くの州で実施されている再生可能エネルギーに関するプログラムについても問題を引き起こすことになる可能性があると思われる。DOEのイニシアティブ2017年9月、米国エネルギー省(DOE)は米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)に対し、電力システムのレジリエンス維持を目的とした規則制定予告(NOPR)を送付した。このNOPRは当該発電所サイト内に90日分の燃料備蓄を有する発電所(すなわち原子力発電所やほとんどの石炭火力発電所)に対してそのコスト回収を保証するものであった。しかしFERCはこのNOPRを却下し、代わりに各地域の市場/電力システム運営者に対し電力システムのレジリエンス問題を評価することを要求した。2018年、ファースト・エナジー社はDOEに対し、PJM内にある石炭火力と原子力発電所についてコスト回収を可能とする緊急指令を発令するように要請した。この要請ならびにDOEのNOPRについて再度検討することについては、現時点でも保留されたままであり、これ以上検討はされない可能性もある。NRCNRCの状況には既設原子力発電所にとっていくつかの朗報がある。いくつかの既設原子力発電所はさらに長期間の運転が可能となるかもしれない。米国内ほとんどの原子力発電所は既に1回目の20年間の運転期間延長を申請し、認可を得ており、その結果合計60年間の運転が可能となっている。NRCが審査中であったシーブルックの1回目の運転期間延長申請は2019年3月12日に認可された。またNRCは2回目の運転期間延長申請の審査も開始しており、これがもしも認可されれば原子力発電所は合計80年間にわたって運転可能ということになる。フロリダ州のターキーポイント、ペンシルバニア州のピーチボトム、バージニア州のサリーの各原子力発電所はこの2回目の申請を既に提出しており、またバージニア州のノースアナも2020年には申請を行う予定である。各州の出来事アリゾナ州アリゾナ州では2018年の住民投票の結果、再生可能エネルギー利用促進に関するプロポジション127が否決された。プロポジション127は州内電力各社が2030年までに最低でも50%の電力を再生可能エネルギーで調達することを求めるもので、この再生可能エネルギーの定義には原子力は含まれていなかった。このプロポジション127否認は、もしもそれが可決され施行されたならば早期閉鎖されることになると考えられていたパロベルデ原子力発電所にとってみれば好結果であった。カリフォルニア州 2018年のはじめ、カリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)は、ディアブロキャニオン原子力発電所の所有者であるパシフィック・ガス・アンド・エレクトリック(PG&E)社がNRCに対して20年間の運転期間延長申請は行わず、NRCの運転認可が切れる2024年と2025年に同発電所1、2号機を閉鎖することを承認した。 このPG&Eとの合意では、ディアブロキャニオンからのクリーンな電力がなくなった分は、他の炭素放出量ゼロの電源で代替されることとしている。しかしディアブロキャニオンからの電力を代替する手段の詳細や、そのコストの大きさについてはこれから検討される予定の「総合電源供給計画」の結果をみてみないと分からない。カリフォルニア州は炭素放出量削減に対して積極的な目標(すなわち2045年までに全電力量を炭素放出量ゼロの電源で賄う)を設定しているが、ディアブロキャニオン原子力発電所を早期閉鎖することでこの目標達成はさらに難しくなった。コネチカット州2019年3月15日、ミルストン原子力発電所の所有者であるドミニオン・エナジー社は、コネチカット州の炭素放出量ゼロの発電容量を導入するプログラムについて合意に達したと発表した。コネチカット州規制当局はミルストン発電所が早期閉鎖されるリスクがあると結論づけた上で炭素放出量ゼロの発電容量入札を行い、今後10年間分についてミルストン発電所が落札した。イリノイ州イリノイ州では州のZECプログラムの結果、クアド・シティーズ、クリントン両原子力発電所の早期閉鎖をうまく防止することができた。2019年のはじめ、エクセロン社がイリノイ州で所有するその他の3原子力発電所(つまりドレスデン、ブレードウッド、及びバイロン各原子力発電所)も早期閉鎖の可能性に直面しているという報道があった。この3発電所の容量市場での契約では、ドレスデンは2021年、バイロンとブレードウッドは2022年までは閉鎖できないことになっている。本件についてはエクセロン社と州関係者との間で交渉が続いている。他方、同州では積極的な再生可能エネルギー導入(つまり2030年までに45%、2050年までに100%)に向けた新たな州法案が提案されている。この再生可能エネルギーの定義には原子力は含まれていない。アイオワ州デュアン・アーノルド原子力発電所の1回目の運転期間延長は既に認可されており、2034年までの運転が可能となっている。アイオワ州電力委員会は2013年、同発電所の電力売買契約を2025年まで延長することを承認した。しかし2018年、同委員会は、この電力売買契約を2020年までとする和解契約を承認し、デュアン・アーノルドは2020年に閉鎖されることとなった。マサチューセッツ州 ピルグリム原子力発電所は1回目の運転期間延長の認可を得ており2032年まで運転が可能である。しかしピルグリムは2019年6月に閉鎖されることになった。所有者のエンタジー社はピルグリムをホルテック・インターナショナル社に売却することで合意しており、以降ホルテック社が廃炉作業を実施することになる。ミシガン州 パリセード原子力発電所は1回目の運転期間延長の認可を得ており2031年まで運転が可能である。しかしパリセードはコンシューマー・エナジー社との電力売買契約が終了する2022年に早期閉鎖されることとなっている。所有者のエンタジー社は原子炉停止後、パリセードをホルテック・インターナショナル社に売却することで合意しており、以降ホルテック社が同発電所の廃炉作業を引き継いで実施することになっている。ミネソタ州 プレーリー・アイランド原子力発電所は既設原子力発電所のなかでも比較的高コストであり(つまり小型でかつ単機の発電所であり)、電力市場価格が低い価格で推移する中、潜在的にみて経済的理由で早期閉鎖される恐れがあると考えられている発電所の一つである。2019年のはじめ、ミネソタ州は2050年までに同州の電源からの炭素放出量をゼロにするという脱炭素化計画法案を提案した。同州のプレーリー・アイランド及びモンティセロ原子力発電所を所有するエクセル・エナジー社も2030年までに炭素放出量を80%削減し、2050年までに同社電源からの炭素放出量をゼロにする同社独自の計画を持っている。この両者の計画では原子力発電所の稼働を含めて考えているように見受けられるが、そこにはいくつかの問題点がある。つまり、ミネソタ州の原子力発電所は2050年以降も長期にわたっての運転はできないかもしれない。プレーリー・アイランド1、2号機の運転開始は1974年であり、両号機とも1回目の運転期間延長申請の認可を得ており、運転許可はそれぞれ2033年と2034年まで延長されている。もしもこれらの2基が2回目の運転期間延長認可を得るとすれば(申請はまだ提出されていないが)、両号機はそれぞれ2053年と2054年までは運転を継続できるかもしれない。しかし実際に州議会に提出された脱炭素目標実施法案(HF1956)の「脱炭素電源」の定義から州内の既設原子力発電所は除外されている。この実施法案では州内の新規原子力発電所は脱炭素電源として認めることになっていると思われる。しかしながらミネソタ州では新規原子力発電所建設は禁止されていることから、この禁止を解除する法案が現在議論されている。ミネソタ州やエクセル・エナジー社の脱炭素電源化計画は、州内既設原子力発電所は早期閉鎖はされないかもしれないと期待を抱かせるものではあるが、これらの計画が本当に実施に移されるか否かは不透明である。ニュージャージー州ニュージャージー州は2018年、同州公益事業委員会(NJBPU)に対してZECプログラムを立案、施行することを要求する法案を可決した。NJBPUは同年11月、ZECプログラム案を承認、ZECの施行手続きを開始した。パブリック・サービス・エンタープライズ・グループ社(PSEG社)は所有する3基の原子力(つまりホープクリーク、セーレム1号機、2号機)についてZECの申請を行った。NJBPUはこの申請内容を審査し公益事業委員会スタッフ並びにコンサルタントが評価結果を取りまとめ、2019年4月の委員会で報告する予定となっている。このニュージャージー州のZEC施行手続きは、その評価結果が公表される前に世論で取りざたされることとなった。同州公益料金協議会が、PSEG社の原子力発電所はZEC給付金の対象とすべきではない、との意向を公にする一方、PSEG社は、もしもZEC給付金が得られないならば原子力発電所は早期閉鎖する、と断言している。このニュージャージー州のZEC法とそれに基づくNJBPUによる同法の施行手続き実施は、PSEG社が所有する原子力発電所の早期閉鎖を防止し得る方策を提供するものではあるが、この手続きもまだ全てが完了したわけではない。ニューヨーク州 エンタジー社はインディアンポイント原子力発電所2、3号機をそれぞれ2020年と2021年に早期閉鎖すると公表している。エンタジー社は両号機の当初認可の運転期限である2013年と2015年から5年以上も前の2007年にNRCに対して両号機の運転期間延長申請を行っていた。この延長申請がNRCで審査中であったことから、当初認可の期限が切れた後も両号機は運転を継続していた。2018年、エンタジー社はニューヨーク州並びに運転期間延長に反対していた環境保護団体との間で、運転延長期間を短縮する補正申請を行うことなどについて合意に達した。NRCはこの短縮された運転期間延長申請を認め、両号機はそれぞれ2024年、2025年まで運転が可能となった。インディアンポイント原子力発電所2,3号機が閉鎖された後、エンタジー社は同発電所全体を廃止措置を実施する他社に売却するものと考えられている。オハイオ州ファーストエナジー社はオハイオ州内の2基の原子力発電所を早期閉鎖すると発表している。州もしくは連邦政府から追加の収入を得ることができないなら、デービスベッセ原子力発電所は2020年に、またペリー原子力発電所は2021年に閉鎖するとしている。これらの原子力発電所はこれまでも存在の危機にさらされてきた。2016年に州が発案したこれらの号機を再度料金規制下に置く案は結局認められなかった。2018年初頭、ファーストエナジー社は同社の原子力発電所(ならびに石炭発電所)に追加の収入をもたらすような緊急指令を法令に基づき発令してくれるようエネルギー省(DOE)に対して請願を行った。DOEに対してこの請願が行われて間もなく、ファーストエナジー社傘下で同社の原子力発電所を保有し競争市場で売電している子会社であるファーストエナジー・ソリューションズ社は連邦倒産法11章(チャプター11)による倒産手続きに入った。2018年にはオハイオ州内の原子力発電所に対して追加の収入源を確保するような立法措置が検討されるのではないかと予想されるに至った。過去、オハイオ州内の原子力発電所の早期閉鎖を防止するために払われた州の努力はいずれも失敗に終わっており、この新たな計画もまた強い反対に直面するものと考えられている。もしも法案が再生可能エネルギーも対象として含みうるものとなるなら、法案の支持を獲得する一助となる可能性はある。ペンシルバニア州 ファーストエネジー社は、もし追加の収入が確約されない場合は州内にある自社のビーバーバレー原子力発電所2021年に閉鎖するとの計画を公表している。エクセロン社も、もし追加の収入が確約されない場合はスリー・マイル・アイランド1号機(TMI 1号機)を2019年に閉鎖するとの計画を公表しており、最速ケースでは2019年6月(すなわち同社が原子燃料手配を行う必要がある時期)には同号機を2019年9月に閉鎖することを決定するかもしれないとしている。2019年3月、ペンシルバニア州公益事業委員会のアンドリュー・プレイス委員は、原子力発電所に対する政策上の選択肢をまとめた報告書を州議会議員に配布した。2019年3月10日には、2004年制定の法令で定めた再生可能エネルギーについての処置や補助金を同様に原子力発電所にも適用するべきとする、危機的状況にある州内の原子力発電所を救う可能性がある法案が提出された。しかしペンシルバニア州内原子力発電所の早期閉鎖防止に有効な立法措置をとろうとしたこれまでの努力はいずれも失敗に終わっており、この新法案もまた強い反対に直面している。ウイスコンシン州ウイスコンシン州では電力会社に対し2050年までに炭素放出量ゼロを達成することを要求する政策が提案されている。州の政策の具体的内容にもよるが、この政策が実現すればポイントビーチ原子力発電所の存続への一助となるかもしれない。しかしながら、ポイントビーチは1回目の運転期間延長の認可をNRCから受けてはいるが、その運転許可も2030年5月に期限を迎えることとなっており、同発電所は2030年以降は運転できない可能性もある。仮にポイントビーチが今後2回目の運転期間延長の申請を行い認可を得たとしても、運転期間は2050年までにしかならない。まとめ米国内の既設原子力発電所を見てみると、いくつか明るい見通しもあるものの、足元で迫られる判断の結果次第によっては今後、複数の発電所が早期閉鎖されてしまう可能性もある。既設原子力発電所の早期閉鎖に歯止めをかけるような政策提言が合衆国レベルで行われる動きはこれまでのところない。このため、各州が独自の施策を考えざるを得ない状況となっている。以下の表は早期閉鎖が予定されている既設原子力発電所と、早期閉鎖の危機にさらされている主要な発電所を取りまとめたものである。(編集部注記:ミルストン発電所については、2019年3月15日に価格合意が整ったことで、当面の早期閉鎖は回避。参照;原子力産業新聞2019年3月22日号) PDF版 ニュークリア・エコノミクス・コンサルティング・グループ(NECG)は、原子力発電事業に関する経済、ビジネス、規制、財務、地政学、法律など、多様で複雑な課題を掘り下げて分析している。我々が依頼元に提供する報告は客観的かつ厳格な分析に基づくものであり、かつそれらは実業界での経験を基にまとめられている。お問い合わせ先:Edward Kee +1 202 370 7713 edk@nuclear-economics.com
- 18 Mar 2019
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依然として残る米国原子力発電を巡る問題
ワシントンはじめ米国各地では、極寒の気候と「爆弾サイクロン」という耳新しい気象用語とともに2018年の新年を迎えることとなった。これまでのところ、米国各電力系統では大きな停電は起きていないが、電力需要が増加し発電用天然ガスの供給が限界となったため、石油が発電用燃料として大量に使われることとなっており懸念をよんでいる。これまでは原子力発電がこうした需要に応えるのに必須の基幹電源であった。しかし爆弾サイクロン・グレイソン襲来に際して重要な電力供給源となっていた複数の原子力発電所は逆に早期閉鎖の可能性に直面している。電力システム改革の結果、長期的な電源開発計画はとって代わって電力市場の見えざる手に委ねられることとなった。しかしそこで決まる電力市場価格では新規ベースロード電源建設に対する財政的インセンティブを十分に与えることはできないばかりか、既設の運転中原子力発電所を維持することすらできなくなっている。中国、インド、フランス、ロシアをはじめ、世界の多くの国々ではそうした電力システム改革導入を控え、原子力発電を含めて長期的に電源計画を立案することとしている。英国の電力市場改革のプロセスにおいては、電力市場では建設が進まないような新規原子力発電建設計画に対し、政府がインセンティブプログラムを提供することが認められている。その結果、ヒンクリー・ポイントCプロジェクトが計画され、またそれはホライゾン、ニュージェン、ブラッドウエルなど、その他の新規原子力プロジェクトの影の推進力ともなっている。米国でも原子力発電が財政的理由で早期に閉鎖されるのを防ぐため、追加の収益を生むようないくつかの措置をとるべく努力が払われている。ニューヨーク州とイリノイ州ではゼロ・エミッション・クレジット(ZEC)プログラム実施が承認されており、選定された原子力発電所に対して追加の収益を確保することでそれらのプラントが早期閉鎖されることがないような措置が既に取られている。しかしニュージャージー州、オハイオ州、及びペンシルバニア州では原子力発電所の早期閉鎖の恐れがあるものの同様の措置が取られるには至っていない。2018年1月8日、米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)は委員会に提出されていた米国DOE規則案「電力系統信頼度とレジリエンス確保のための価格付け」を却下し、新たな事案(AD-18-7-000)を起こした上で地域送電機関(RTO)と独立系統運用機関(ISO)に対し系統信頼度問題についてさらに情報提出することを要求する指令を出した。このFERC指令の中でチャタージーFERC委員が以下のように言及しているとおり、電力市場価格の見えざる手は米国電気事業に重大な変化をもたらすこととなっている。「そうした変化の規模と速度には驚愕させられる。2014年から2015年の期間だけをとっても、米国全体で約1,580万kWの天然ガス、1,300万kWの風力、620万kWの大規模太陽光、そして360万kWの分散太陽光の発電容量が追加された。一方、2011年から2014年の間にほぼ4,200万kWにもなる系統同期電源(すなわち石炭、原子力及び天然ガス)が廃止され、さらにこれに加えて2025年までには定格容量で1,050万kWに相当する7基の原子力発電所の廃止が予定されている。」こうした問題に対してFERCや各州による対策がこれから取られるとしても、それでは早期閉鎖の恐れに直面している原子力発電所を救うにはもう間に合わないかもしれない。 PDF版
- 08 Jan 2018
- STUDY
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市場の失敗と原子力発電
今月は、エクセロン社がクリントン原子力発電所(上の写真)とクアド・シティーズ原子力発電所の閉鎖を決定し、オマハ地域公営電力はフォートカルホーン原子力発電所の閉鎖を決定した上、さらにPG&E 社がディアブロキャニオン原子力発電所の運転期間延長の認可を得ないことを決めて公表した。これにより、この合計6基の原子力発電所からこれまで社会全体が得ていた大きな便益が失われることになる。本コメンタリーでは、なぜこうした事態が起きたのか、そしてどうすればそうした流れを止めることができるのかについて説明したい。最近キウォーニ原子力発電所とバーモントヤンキー原子力発電所が早期閉鎖された件は多くの注目を集めたが、それより前に決まった発電所の早期閉鎖に対しても防ぐための方策はほとんど取られてこなかった。上述6基の閉鎖公表に加え、今月はこれまで以下が明らかとなっている。 「フィッツパトリック」と「ピルグリム」が早期閉鎖される。保修関連の課題が大きいため、「サンオノフレ」と「クリスタルリバー」も早期閉鎖された。ニューヨーク州の政策措置が本年9月までに施行されない場合、「ナインマイルポイント1号」と「ギネイ」も早期閉鎖される。「プレーリー・アイランド」の早期閉鎖が検討されている。「デービスベッセ」を救済するためのオハイオ州の政策措置には、米国連邦エネルギー規制委員会の規制や訴訟という難関が待ち受けている。「フェルミ3号」と「サウス・テキサス・プロジェクト3、4号」は建設・運転一括認可を受けたが、実際に建設される予定はない。米国内の原子力発電所の運転を通じて社会は大きな便益を受けているが、そうした公益的役割の大きさに見合う補償を発電所は受けてはいない。市場では原子力の発電電力量と発電容量も他電源と区別なく市場価値が決まり、それに基づき原子力発電所を所有する会社は様々な判断を下さざるを得ない。昨今のように電力価格あるいは容量価格が低迷している場合、自由化環境下に置かれた原子力発電所は損失を出して運転することになる。そんな場合、料金規制下に置かれた原子力発電所や公営原子力発電所では電気料金の値上げが起きる。また新規原子力発電所計画も採算性がないとみなされることになる。電力価格が高騰している場合、自由化環境下に置かれた原子力発電所の採算性は高まり、料金規制下に置かれた原子力発電所や公営原子力発電所では電気料金の値下げが起きる。また新規原子力発電所事業の採算性はより高くみなされることになる。一時的な電力価格低迷で既存の原子力発電所が早期閉鎖され、新規の原子力発電所も建設されないとするなら、それは電力系統の信頼性確保や経済的・環境的効果など、これまで社会全体が原子力発電から受容していた大きな効果が失われることにつながる。これは原子力を電力市場の中で扱う、という米国がとった手法は失敗であったということを意味する。 市場の失敗「市場の失敗」、経済学上の一つの概念、市場(電力市場に限らず広い意味での)の機能では社会の純便益確保がなされない場合を指している((「社会の純便益」とは社会全体の便益(公的便益と私的便益)から社会全体の費用(公的費用と私的費用)を差し引いた純便益をいう。))。ある経済活動や投資が行われれば社会全体としては純便益が確保されるにも拘わらず、それが各企業にとって私的損失を招く場合、そうした活動や投資は行われないことになるが、こうした場合が「市場の失敗」に相当する。こうした「市場の失敗」を防ぐためには、負の外部性を有する要因に対して費用を課す、また正の外部性を有する要因に対しては補償を与える、あるいは市場の失敗を起こしそうな領域については公的所有に移す、などの手法が一般的にとられる。「市場の失敗」は公益を最大限に確保することに対する失敗だから、こうした対処はいずれも政府による措置を伴うものとなる。炭素価格制度は負の外部性要因に対して費用を課した一例である。英国が新規原子力に対してとった奨励措置は正の外部性要因に対する補償の一例である。また、再生可能エネルギー電源に対する補助金もこれと同様の例である。フランス、韓国、ロシア、UAEなどの諸国で政府が原子力発電所を所有しているが、これは公的所有により市場の失敗を防いでいる例である。米国の「市場の失敗」を如何に是正するか5月に行われた「米国エネルギー省(DOE)サミット」では米国内の原子力発電所が早期に閉鎖されてしまうことに歯止めをかける手法が議論され、米国原子力学会が示した「ツール・キット(政策オプション集)」などが取り上げられた。原子力に関する市場の失敗を防止する手法は、間接的手法と直接的手法に区分して考えることができる。間接的手法間接的手法は原子力発電所に対し経済的支援を与えるものだが、直接的に市場の失敗という問題に焦点を当てたものではない。例えば、電力市場の構造変革や炭素価格制度がこうした間接的手法に相当する。 電力市場と容量市場の改善 ―― 電力市場と容量市場の価格で原子力発電所の収入は決まる。信頼度を確保しながら系統の限界費用を下げる、という電力市場や容量市場が意図する目的に照らせば、これら市場は比較的うまく機能している。しかし電力市場や容量市場は、原子力発電所から社会が得られる便益を最大化する、という観点では制度設計されていない。NECGコメンタリー第2回では、原子力発電所など資本集約度が高い発電方法がなぜ電力市場とはうまく整合しないのかについて解説した。もしも電力市場の構造を変革し、今は価値を認められていない原子力から得られる便益についても何らかの価値を付与することができれば原子力にとって有益である。炭素価格制度 ―― 一部では炭素価格制度が原子力を救うことになるという見方もある。炭素価格制度は原子力の採算性を向上させる可能性があるが、最近、私がワールド・ニュークリア・ニュース(World Nuclear News:WNN)に投稿した記事にもあるとおり、それで原子力が本当に救えるかどうかは確かではない。直接的手法原子力発電所が社会に提供している便益に対して直接的に補償する(例えば、正の外部性に対応した金額を補填するなど)ことは、市場の失敗という問題を解決する上で効果的な手法である。直接的手法の具体例を以下にいくつか示す。電力売電契約 ―― 料金規制下にある電力会社と原子力発電所が電力売電契約を締結すれば、原子力発電所は安定かつ十分な収入を確保することができ、自由化環境下での早期閉鎖を防ぐことが可能となる。自由化環境下にあるデュアン・アーノルド原子力発電所の2012年売電契約延長はその一例である。アイオワ州公益委員会は原子力発電が公益性(ゼロエミッションや雇用確保)を併せ持っていることを理由にこの売電契約の延長を認可した。クリーン(あるいは原子力)エネルギー使用義務付け ―― これは州の料金規制下にある小売電力会社に対して、原子力を含むクリーン電源から一定の割合、電力を調達するよう義務付けるものである。原子力の使用を義務付けるということは、原子力が環境的に便益を生むことに加え、電力系統全体の信頼度を確保し、経済的にも便益を生むということを認めるものともいえる。税控除 ―― 連邦税あるいは州税の控除は既設原子力発電所に対して直接的な収入を生み、発電所が社会に与えている大きな便益に見合う補償を得ることにつながる。原子力に対する「プランA(政府所有)」適用 ―― 経済的困難に直面している発電所を政府所有に移すことは原子力発電に関する市場の失敗への対処法となり得るものである。最近のワシントンポスト記事では、石炭火力発電所を閉鎖するため、米国政府がそれら発電所を買い取ることが提案されている。この石炭火力発電所に対する「プランA」適用は、頓挫している「クリーン電源計画(CPP)」に代わるものとして提案されたもので、「CPP」と同様の目標を、より早期かつ確実に、また法的にも問題がない方法をもって達成しようとしたものである。石炭火力発電所を収用するのに要する支払いを含め必要となる費用は、それによって社会全体が純便益を得られる(つまり火力発電所が閉鎖される)ことをもって十分に正当化されるとられている。米国政府は原子力発電所に対してもこうした「プランA」適用検討を進めるべきである。その場合、早期閉鎖が検討されている既設原子力発電所が運転を継続できるよう、連邦政府がそれを買い取ることになる。そして将来電力市場価格が上向けば、政府が所有することになる原子力発電所の価値もまた高くなる。こうした措置に要する費用の正当化原子力発電所に関する市場の失敗を解決するのにかかる費用は、電力料金の上昇、連邦政府支出の増加や税収減少などの形になって表れる。しかし、再生可能エネルギーに対する米国連邦税控除、あるいは州の再生可能エネルギー使用義務付け、さらにはEUの再生可能エネルギーに対する国家援助の例外規定など、これと類似の市場の失敗への対処は正当なものとされており、この原子力に関して発生する費用についても同様の論拠から正当化が可能なものと言える。社会が便益を受ける(炭素放出量がゼロである)にも拘わらず、市場の失敗のために再生可能エネルギーへの投資は行われることにはならないから、こうした市場の失敗に着目した政府の措置が必要と考えられている。運転中の原子力発電所が早期に閉鎖されることを防ぐために必要となる費用は、発電所が運転を継続することで得られる大きな公的な便益を考えれば十分に正当化ができるものである。米国が英国から学ぶ教訓原子力に関する市場の失敗をどのように扱えばよいかにつき、英国政府が良い手本を示している。英国内の原子力発電所を所有していたブリティッシュ・エナジー社は、英国自由化電力市場で売電する発電事業者となって、経済的な問題に直面することとなった。原子力発電所が早期に閉鎖されることを防ぐため、英国政府は2005年、同社を再度国有化した。また英国電力市場の現状や炭素価格制度だけからは新規原子力発電所への投資を裏付けることはできないにも拘わらず、英国政府は、新規の原子力発電所が建設されるべきと判断した。このため、英国政府は「ヒンクリー・ポイントC」を皮切りとする複数の新規原子力発電所の建設計画を後押しするために「電力市場改革計画」を施行した((Information on the Hinkley Point C incentive package))。英国とは対照的なことに、米国では経済的問題にさらされている運転中の原子力発電所を救済し、あるいは新規の原子力発電所建設を後押しするような政策措置を、政府はほとんど何もとってこなかった。次なるものは?米国内の原子力発電所に関する「市場の失敗」は、発電所が大きな便益を社会に提供しているにも拘わらず、それに対して補償が与えられていないために発生しているものだ。その結果、発電所所有者は単に市場価値だけをもって様々な判断をせざるを得なくなっている。もしもこの市場の失敗を解決する措置が取られなければ、さらに多数の運転中原子力発電所が早期に閉鎖され、新規の原子力発電所も建設されることには決してならない。原子力発電所が生んでいる便益に対して補償を与えるため、何らかの措置を取ることがこの市場の失敗を解決する最も確かな方法である。政府だけがそうした補償を与えることができる。もしも米国内で原子力産業を生き残らせたいとするなら、今、直ちに連邦政府の措置が必要と言える。 PDF版
- 24 Jun 2016
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デービス・ベッセ原子力発電所
米国の電力自由化州の原子力発電所は卸売電力市場への売電で損失を出している。このため2基が早期閉鎖を決め、更に十数基の発電所にもその恐れがある。デービス・ベッセ原子力発電所を救済すべくオハイオ州が最近とった規制上の政策措置は実効性があるものだが、その適用にはまだ難関が待ち受けている。デービス・ベッセ原子力発電所を巡る込み入った事例とそれに関連する議論は同発電所の将来にとって(そして自由化環境下に置かれ、同様の問題に直面するかもしれない他の原子力発電所にとっても)大変に重要なものである。またこの事例は他州の類似事例に対して重要なガイドラインを与えるものである。オハイオ州公益事業委員会の裁定2016年3月31日、オハイオ州公益事業委員会(PUCO)はデービス・ベッセ原子力発電所を経済的理由から早期閉鎖することを回避すべくファーストエナジー社が申請していた電力売電契約申請を認可した。((PUCO Docket 14-1297-EL-SSO)) 137ページからなる「見解ならびに裁定」は2年間にもわたる喧々諤々の議論の結果、まとめられたものである。この政策措置は今後8年間にわたって以下を適用するものとなっている。全需要家に適用する付帯条項である「小売料金安定化条項(RRS条項)」を全ての小売需要家の料金に適用する。規制下にあるファーストエナジー傘下の各社とファーストエナジーソリューションズ社との間の新たな電力販売契約によりデービス・ベッセ原子力発電所及びH.サミス石炭火力発電所からの電力を売電する。また、オハイオ渓谷電力の電力使用権をファーストエナジー社に与える。規制下にある各社が調達した電力はPJM電力市場で売電する。PJM卸市場での売電収入と契約対象となる電源のコストを比較し、その正味の差分(利益あるいは損失)はRRS条項の対象とする。すなわち、もしもPJMの市場価格が高ければ、出た利益分だけ需要家の電力価格は安くなり、逆に市場価格が安ければRRS条項によって全需要家の料金はその分高くなる。この政策措置を適用することによって、長期的にデービス・ベッセ原子力発電所を信頼度の高いベースロード電源として活用することが可能となる。またこの政策措置は、小売電力価格の変動性を減じ、将来の小売価格の上昇を抑制し、電力システムの信頼性を向上させ、地元雇用を確保し、結果としてオハイオ州の経済成長と発展を促進するものと言える。しかしこのPUCO裁定については、ヒューズ・メリーランド州公益事業委員会委員長とタレンエナジー社との間に係争があり、最近、米国最高裁が下した決定が先行する判例となる可能性があり法廷で争われることが必至と考えられている。また合わせて米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)は本件に関連してこれまで認められていた売電契約についての規制適用除外を無効とする命令をファーストエナジー社に対し発出しており、この政策措置の実適用はまだ行われていない。関連売電契約への規制適用除外を無効とする米国連邦エネルギー規制委員会の命令2016年3月31日付でPUCOが認可した売電契約に関連して、FERCは4月27日、関連売電契約につきファーストエナジー社傘下の非規制下にある発電会社に対し、それまで認めていた規制適用除外を無効とする命令(( FERC Docket No. EL16-34-000 ))を発出した。このFERCの命令は複数の電力会社からの提訴があったことに応えたものであった。((Complainants in Docket No. EL16-34-000 are the Electric Power Supply Association, the Retail Energy Supply Association, Dynegy Inc., Eastern Generation, LLC, NRG Power Marketing LLC, and GenOn Energy Management, LLC.))米国における電力改革は連邦レベルと州レベルの処置が混在したものとなっている。卸取引は大量の電力が州境とは無関係に送電線でやりとりされることから州間取引であると見做されており、米国内の全ての卸電力取引は連邦機関であるFERCの規制下にある。オハイオ州は電力自由化州だが、そこでは垂直統合された電力会社の存在を許しており、一部の州のように発電所資産の完全分離を要求するのではなく、発電所資産は非規制環境下にある子会社に移すことが一般的に行われている。 米国ではFERCだけが関係会社間の卸電力契約についての規制権限を有している。FERCは卸売電契約内容が一定の基準を満たしているかどうかを評価し、卸価格を受け入れざるを得ない小売需要家を保護し、各社がその立場を濫用することを防止し、また取引価格が市場ベースで決定されていることを確認することとなっている。当初、ファーストエナジー傘下の非規制環境下にある発電子会社はその価格を受け入れざるを得ないような小売需要家を自らが有していないことから、こうした規制適用は免除されることとなっていた。しかしFERCに対しての提訴において、PUCOが決めた政策措置では、ファーストエナジー社傘下の規制環境下にある各社が、デービス・ベッセなど非規制環境下にある発電会社から買電し、それをPJMの卸市場に転売しなければならなくなることが問題だとされた。こうした転売が損失を生む場合、損失分は付帯条項に基づき規制下にあるネットワークの追加料金として州内全ての小売需要家が負担することになる。オハイオ州の小売需要家は競争関係にある各社の中から電力会社を自由に選ぶことができるが、一方で全ての小売需要家は規制下にあるネットワークの料金を負担することになる。だからこの政策措置は実際にはファーストエナジーの非規制環境下にある発電会社がその価格を受け入れざるを得ないような需要家を直接保有することを意味する。また提訴では、もしこの政策措置を適用すれば本来は廃止措置に入るはずの(例えばデービス・ベッセなどの)発電所が運転を継続することとなり、また見かけ上PJMの卸電力価格を押し下げることになる、との主張がなされた。しかしFERCはこのPJM電力市場に対して悪影響を与えるかもしれないという主張については命令発令の対象となった規制適用免除とは無関係であるとして却下している。ヒューズ・メリーランド州公益事業委員会委員長とタレンエナジーマーケティング社との係争新規天然ガス発電所建設に対しインセンティブを与えるメリーランド州の政策措置は無効であるとした下級審判決について、米国最高裁は2016年4月19日、全員一致で下級審判決を支持する決定を下した。メリーランド州の政策措置は、卸売電力市場に対して米国内で唯一FERCだけに認められている規制権限を侵害するものであった。PJMの容量市場で新規発電所の容量販売を行うデベロッパーに対して「差額契約条項」を適用するとしたメリーランド州の政策措置に限って最高裁はそれを無効とする決定を行った。メリーランド州の政策措置では容量市場の保証価格を定め、PJMの入札価格と保証価格の差額が出ればその差額はメリーランド州内の小売需要家に転嫁してデベロッパーに対し補填を行い、当該発電所の容量に対する価格を保証することとなっていた。一方でこの最高裁の決定は各州が「クリーン電源」を含む新規発電所建設に対してインセンティブを与えることについては肯定するものであった。この決定は範囲が限定的であり、メリーランド州の政策措置と同様のものは避けるべきということはあるにせよ、他州における事例をどう判断するかについてはさしたるガイドとはならないかもしれない。オハイオ州の政策措置に対して最高裁決定がどのような影響を与えるのか、あるいは下級審が他の事例に対してこの決定をどのように適用することになるのかは未だ明確となっていない。またFERCが持つ卸売電力市場に対する規制権限と、州が持つ小売市場に対する規制権限の間の線引きはさらに曖昧なものとなっている。この決定を見ると各州政府ならびに電力規制当局が自州の電力産業界を自ら管理するという伝統的役割はこれまでよりも色薄いものとなっている。この決定については以下の三つの文献を読むことをお勧めする。一つ目はロバート・ウオルトンがトラビス・カヴラ全米公益事業委員協会会長の協力を得てまとめた「ユーティリティドライブ」である。二つ目は何故、再生可能エネルギー活用義務化やニューヨーク州のクリーンエネルギースタンダードなど類似の政策措置促進が最高裁判決によって阻害されるべきではないかについて天然資源保護協会がまとめた資料である。三つ目はこの最高裁決定が如何にFERCの権限を強化することになるかについての「米国最高裁Blog(SCOTUS Blog-Supreme Court of the United States Blog)」の分析である。 PDF版
- 28 Apr 2016
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自由化環境下の原子力に対する米国政府の役割は?
米国の電気事業改革によって自由化環境下におかれた原子力発電所は電力市場で電力を販売することとなった。2013年初め、こうした自由化環境下におかれた2基の原子力発電所が財務上の損失により(恒久的に)早期閉鎖された。さらに他にも経済的損失のために早期廃止となる可能性がある発電所が複数ある。米国政府はこうした自由化環境下にある原子力発電所が早期に恒久廃止されることを防ぐための措置を講じるべきであろうか?米国は、世界一多くの原子力発電所を保有している。原子力発電を行っている他の多くの国々とは異なり、米国では原子力発電所の大半は民営企業が所有している。また、その原子力発電所の大半は、規制下にある電力会社が建設したものである。米国の電力業界の構造改革の結果、規制下にある民営企業が所有していた原子力発電所は、自由化環境下の発電事業者として電力市場で売電することとなった。これら自由化環境下に置かれた発電事業者は、元々の電力会社所有者との間で期間を切って電力売買契約を締結しており、こうした契約によって両当事者は財政上の安定性を確保することができた。しかしこれらの電力売買契約は、卸売電力市場価格が非常に低い時点で満了することとなってしまった。このため電力売買契約は更新されないまま、自由化環境下に置かれた原子力発電事業者は電力市場で電力を販売せざるを得なくなった。こうした電力業界改革は米国のエネルギー政策に基づくものだが、こうした政策をとることで、自由化環境下に置かれた原子力発電所が早期かつ恒久的に閉鎖されることになるとは予想されていなかった。電力市場での売電で損失を出したために2013年にはキウォーニ原子力発電所とバーモントヤンキー原子力発電所が早期(かつ恒久的)に廃止された。これらの自由化環境下の原子力発電所はよく保守管理され、良好な運転実績を残し(例えば設備利用率は90%以上)、NRCからは20年間の運転認可延長の承認を得ていた。しかしどちらの発電所も利益を上げながら運転継続する道を見出すことはできなかった。ニューヨーク州のギネイ発電所や、エクセロン社のイリノイ州内のいくつかの原子力発電所など、自由化環境下にあるその他の原子力発電所も同様に経済的危機に直面し、早期廃止されてしまう可能性がある。英国でも自由化環境下に置かれた原子力発電所は同様の問題に直面した。政府所有の原子力発電会社であったブリティッシュ・エナジー社は1996年に民営化された。ブリティッシュ・エナジー社は、イングランドとウェールズの自由化電力市場で発電事業者として売電していたが、数年間にもわたり損失を出し続けた。このため2005年、英国政府は原子力発電を維持していくためにブリティッシュ・エナジー社を再び国有化した。私がかつてワールド・ニュークリア・ニュース(World Nuclear News:WNN)「原子力は自由化電力市場で成功できるか?」で解説したとおり、自由化市場の中で原子力発電事業者の経営は、うまく機能しないことがある。米国の自由化環境下の原子力発電所は、地域社会、州、そして国全体と当該地域の電力市場に大きな貢献をしているが、そのことに対しては報いられることなく、低迷し、しかも将来の見込みも不確実な電力市場の価格を甘受して生き続けなければならない状況に置かれている。原子力発電の価値自由化環境下の原子力発電所がもたらす価値は、下図に示すように3つの種類に分類して考えることができる。自由化環境下に置かれた原子力発電所の所有者は、第1番目の価値を享受するだけで生きながらえなければならない。そして第2番目、第3番目の価値については何の代償を受けることなく無償でそれを社会に提供している。第1の価値-電力市場における純収益第1の価値は、電力市場での売電から生じる利益(もしも利益が出ればであるが)である。原子力発電所の運転コストの大部分は固定費であるため、発電所の利益は電力市場価格に大きく依存する((これは、全発電原価のかなりの部分を燃料費が占める火力発電と異なる。火力燃料費は、発電量を減らせば減らすことができるが、原子力発電所ではそれはできない。))。安価な天然ガス、再生可能エネルギー導入を奨励する政策措置、低い電力需要の伸び、さらには不適切な電力市場設計などが原因で、電力市場価格は低迷し、結果として自由化環境下の原子力発電所は損失を出してきている。既に廃止措置に入ることが決定されたキウォーニ原子力発電所とバーモントヤンキー原子力発電所は、電力市場での売電で損失を出したために閉鎖されたが、閉鎖の結果、社会は第2、第3の価値も失うこととなった。第2の価値-代償を得ることが出来ない効果第2の価値は、原子力発電の特性がそれを生んでいるにも拘わらず、それに対しての代償は得ることは出来ない効果である。原子力発電は、高信頼度で給電指令に応え、ゼロエミッションでベースロードを担い、長期的に燃料費も安定しており、電力系統信頼性維持にも貢献する、など電源として優れた特性を有している。こうした特性が生む効果は、自由化環境下に置かれた当該原子力発電所が位置する地域電力市場、さらには国全体に大きな利益をもたらしているが、発電所所有者はこうした効果に対する代償を得ることはできていない。伝統的な従来の電気事業の構造(すなわち自由化された電力市場は存在しない構造)では、公益事業の規制当局がこうした原子力発電の貢献を電源計画に反映させることが可能であり、実際に当局はそれを計画に反映させてきた。もし、自由化環境下に置かれた原子力発電所で、現在は無償で提供しているこうした原子力発電の優れた特性に対して何らかの代償を得ることができれば、それら発電所が経済的にも存続できる可能性は高まる。第3の価値-プラスの経済効果第3の価値は、プラスの経済効果である。自由化環境下の原子力発電所が生み出す経済効果がどの程度あるかを評価する一連の検討が米国原子力エネルギー協会がスポンサーとなって行われている。これらの検討のどれを見ても、原子力発電所は少なくとも数億ドル規模の直接的及び間接的経済効果を立地地域、州、及び国全体にもたらすことが示されている。これらのプラスの経済効果は、自由化環境下の原子力発電所に直接収入をもたらすものでは全くないが、こうした原子力発電所が早期廃止となれば、地域社会などが享受しているこうした効果は失われることとなる。伝統的な従来の電気事業の構造(すなわち自由化された電力市場は存在しない構造)では、公益事業の規制当局がこうした原子力発電の良好な経済影響の特性を電源計画に反映させることが可能であり、実際に当局はそれを計画に反映させてきた。こうしたプラスの経済効果を維持することができることを考えれば、自由化環境下の原子力発電所が早期廃止されることを防ぐための措置をとることは正当な判断であると言うことができよう。なぜ政府の措置が必要か?米国の州議会や州公益事業委員会の中には、自由化環境下にある原子力発電所が様々な効果を生んでいるにもかかわらず、電力市場からはその代償を得ていない、ということを認めたところもある。NECGコメンタリー第6回で論じたとおり、これらの州では自由化環境下の原子力発電所が早期廃止されることを防ぐための努力が払われている。そうした自由化環境下に置かれた原子力発電所を運転継続することで得られる利益は国全体が受けることができるが、そのために州がとる政策措置はその州の電力料金にしか適用することはできない。これらの発電所が閉鎖されれば国全体の利益が失われるにもかかわらず、経済的理由から閉鎖の危機にさらされている自由化環境下の原子力発電所を支援するための米国連邦政府による政策措置はこれまで殆どとられてこなかった。米国政府は過去、数千億ドルもの国費を費やして経済的危機にさらされた自動車産業や金融機関を救済し、今も毎年数十億ドルを再生可能エネルギーへの補助金に振り向けている。大気汚染、温室効果ガス排出、燃料コスト上昇やその供給リスク等々、化石燃料利用によって生じる多くの社会的コストを市場価格に反映させることはできない。電力市場の失敗という事実のために、米国政府が再生可能エネルギーに対して支援をすることは正当であると考えられている。こうした市場の失敗があることを踏まえれば、原子力発電に対しても連邦レベルで支援を行うことは同様に正当であると考えられる。自由化環境下の原子力発電所は様々な効果を生んでいるにもかかわらず、当該原子力発電所の運転継続を可能とするに足る代償を電力市場からは得ることはできないことが明らかとなっている。これもまた市場の失敗の一つであって、政府の政策措置は正当なものであると考えられる。自由化環境下にあり既に廃止された原子力発電所の代替として民間が新たに原子力発電所を建設できるよう奨励策をとることと比べれば、今、自由化環境下に置かれている既存原子力発電所の運転を継続させる方が容易であり、速く、またはるかに安価である。政府が原子力発電所の所有者であり、またそれが生む利益の受益者でもある政府の経済政策の下にある中国のような国では、原子力発電が積極的に推進されている。それは原子力発電によってもたらされる価値があるからである。またこうした価値があるからこそ、米国でも電力規制州では州電力規制当局が新規並びに既設の原子力発電所に対する支援策を講じている。もしもさらに多数の自由化環境下にある原子力発電所が早期廃止に追い込まれれば、その際には当該地域のみならず国全体としても大きな利益が損なわれるのであるから、連邦政府がそうした事態を防ぐための政策措置を講じるのは適切なことである。連邦政府は何ができるか?その際、連邦政府はいくつかのアプローチを取ることができる。こうした連邦政府の政策措置は、自由化環境下に置かれた原子力発電事業者の早期廃止を防ぐ唯一の方法であるかもしれない。電力市場の変革電気事業改革と電力市場創造の意図せぬ結果として、こうした自由化環境下の原子力発電所の早期廃止が起きている。自由環境下の原子力発電所がもたらしている効果全体に代償を支払うことができるような方法で電力市場を改革することも可能かもしれない。電力市場では電力はどれも同じ一つの商品として取り扱うことになる。従って、商品としての価値とは別にその電力が合わせ持つ特性を価格に反映させることができるよう電力スポット市場の構造を変革することは不可能かもしれない。しかし、電力市場には副次的市場(例えば、小売り電力会社が、北米電力信頼度協議会の容量要件を充足させ、あるいは系統信頼度維持を図るために応札する容量市場の入札など)や、特定の発電事業者との副次的契約(例えば、供給信頼性維持のための発電所強制稼働(マストラン)協定)がある。こうした副次的市場や副次的契約を活用して、自由化環境下の原子力発電所を経済的に支援することは可能である。PJM容量メカニズムは副次的市場の一つの例であるが、PJM容量メカニズムの最近の改定では発電容量に対して付与される価値が見直され、自由化環境下の原子力発電事業者もそれによって幾分かの追加的収入を得ることができるようになった。電力市場運用者が(入札結果次第かもしれないが)原子力発電事業者の運転を維持継続するためにこうした副次的契約を締結するよう求めることは、より効果的なアプローチになり得る。炭素税連邦レベルで炭素税を課せば、すべての火力発電所の燃料費はその分引き上げられる。燃料費が増加すれば電力市場の入札価格も上昇し、その結果電力市場スポット価格も上昇する。炭素税が十分に大きければ、その結果、電力市場価格が上昇し、自由化環境下の原子力発電事業者も利益を出しながら運転継続することができる。連邦レベルでの低炭素電源構成基準これは、米国内の全電力小売事業者に対して、売買される電力に一定割合の低炭素またはゼロ炭素電源を組み込むことを要件化するもので、そうした電源には新設及び既存の原子力発電が含まれる。これはイリノイ州で提案されている低炭素電源構成基準を国全体に適用させるようなものである。再生可能エネルギー発電事業者が、州が課す再生可能エネルギー電源構成基準に基づいて再生可能エネルギー・クレジットを販売するのと同様、自由化環境下の原子力発電事業者は「原子力エネルギー・クレジット」または「無炭素電力・クレジット」を小売り電力会社に販売することで追加的な収入を得ることができることになる。既存原子力発電所の発電量に応じた税控除 米国はすでに再生可能エネルギーに連邦所得税控除を適用しており、「2005年エネルギー政策法」の要件を満たす新規原子力発電所にもこれらの税控除を適用することを約束している。自由化環境下にある既存原子力発電所に対しても新たな連邦生産税控除を実施することは可能なはずである。これらの税控除による増収が、閉鎖の脅威にさらされた自由化環境下の原子力発電所の運転を維持する上で役立つだろう。自由化環境下の原子力発電所への投資米国政府は、閉鎖の脅威にさらされた自由化環境下にある原子力発電所に投資し、あるいはそれ自体を購入することもできる。これは財政的危機に陥った自動車メーカーや金融機関を連邦政府が救済した際に使用した手法とほぼ同じである。こうした政府による投資では、所有権の移転や原子力事業者の変更の必要性を最小限に抑えながら措置をとることができる。これは英国政府が2005年に行ったブリティッシュ・エナジー社の再国有化に類似している。電力市場価格が持続可能な水準まで回復すれば、連邦政府が自動車メーカーや金融機関への投資で利益を上げたのと同様に、自由化環境下の原子力発電所へ連邦政府が行った投資を売却し利益を生むことができる。連邦政府による電力売買契約エレクトリシティ・ジャーナル(Electricity Journal)誌の2014年の記事「米国の自由化環境下の原子力発電を救済する」では、自由化環境下の原子力発電所の運転を維持するために電力売買契約を活用することについて概説している。こうした電力売買契約は、オハイオ州でファーストエナジー社がデービスベッセ原子力発電所に関して提案した契約と類似のものである((オハイオ州公益事業委員会、事案No. 14-1297-EL-SSO。))。こうした差金決済取引(CfD)契約では、自由化環境下の原子力発電所が一方の契約当事者となり、いずれかの連邦機関(例えば米国エネルギー省)が他方の当事者となる。CfDは、金融的手法としてよく知られ多方面で活用されているもので、電力市場のスポット価格とは無関係に、自由化環境下の原子力発電所も一定かつ充分なレベルの収益を確保することができる。CfDの内容は、自由化環境下の原子力発電所も確実に運転を継続できるように、しかし電力市場価格が継続運転可能な水準まで戻した時に発電所所有者に対して棚ぼた的利益を与えることがないように調整することが可能となる。連邦政府の投資アプローチと同様、これらの電力売買契約は電力市場価格が運転継続可能な水準まで戻せば、利益を生むことになる。まとめ米国の電力市場は、自由化環境下の原子力発電所が運転継続するに十分な代償を提供していない。これらの原子力発電所が早期廃止されれば、国全体が大きな損失を被る。米国政府は、自由化環境下の原子力発電所が早期かつ恒久的に閉鎖されることを防止するための政策措置を講じるべきである。また、その政策措置は、民間投資家が確信をもって新規原子力発電所建設に乗り出すに必要となる措置よりも安価である。連邦レベルでの政策措置を実現させるのはいつも困難で時間を要するものであるから、我々は今直ちにこうした措置実現に向けて動き始めなければならない。さもなくば、さらに多数の自由化環境下の原子力発電所を失うことになるだろう。 [ロバート・ブライス、エドワード・デービス、マーガッレット・ハーディング、ポール・マーフィ、リチャード・マイヤーズ、及びエリゼ・ゾリをはじめ、何人かの専門家からこの解説記事の草稿を高く評価する意見をいただいた。もしも内容に誤りがあったとしてもそれは私一人の責任である。] PDF版
- 07 Jul 2015
- STUDY
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米国各州にみる原子力収益の確実性向上措置
米国の複数の州では、自由化環境下におかれた原子力発電所の収益の確実性を高める政策措置を取ることで、原子力の早期閉鎖を防止しようとしている。本稿ではニューヨーク、アイオワ、オハイオ、およびイリノイの4州で取られている政策措置について述べる。筆者の2015年2月4日のワールド・ニュークリア・ニュース(World Nuclear News: WNN)での論説「原子力は自由化電力市場で成功できるか?」では、自由化電力市場では収益が不確実であり、これら自由化市場が原子力発電と相容れないものになっていることを説明した。電力事業ならびに卸売電力市場が改革・再編された自由化地域内で運転している原子力発電所は財政的困難に直面している。こうした自由化環境下にある原子力発電所の中には、例えばキウォーニ発電所やバーモントヤンキー発電所のように既に早期閉鎖されたものがあり、さらに他にも閉鎖の恐れがある発電所が複数ある。自由化電力市場の地域においても、小売電力供給事業者は今なお州政府の規制下に置かれている。本稿では、自由化環境下で運転中の将来閉鎖される恐れがある原子力発電所が確実な収益源を確保できるよう、小売電力供給業者に対して州が規制をかけている(あるいは今後規制する可能性がある)4つの州の状況について説明する。ニューヨーク州R.E.ギネイ原子力発電所は、ニューヨーク州の自由化環境下にあり、NYISO卸売電力市場で電力を販売している。ギネイ発電所は、収益の改善が見込まれなければ早期閉鎖されるかもしれないが、それによって発電所の地元のみならず、地域全体の送電網の信頼性に問題が生じることになる。ニューヨーク州公益事業委員会(NYPSC)は、その規制下にある電力供給事業者であるロチェスター・ガス・アンド・エレクトリック(RG&E)社に対して、ギネイ発電所と協定締結の交渉を行うよう指示し、ギネイ原子力発電所の運転を継続させることで系統信頼性問題の発生を防止しようとしている。前述の通り、電力系統の信頼性を維持するためにギネイ発電所が必要であり、同発電所が信頼性支援役務協定(RSSA)交渉を開始することは妥当であると考えている。さらに、2014年10月23日付でギネイ発電所は宣誓供述書を提出し、その中で現在、NYISO市場での発電容量と発電電力の販売から得られる売上は同発電所の運転継続費を賄うのに十分でないことを明らかにしている。この運転継続費には、今後必要となる改良工事などの新規資本投資が含まれている。もしRSSAが締結できなければ、同発電所は可及的速やかに閉鎖されることになる。こうした点が確認されたことから、ギネイ発電所がRSSA締結に向けて交渉に入ることには正当性があると結論づけている((ニューヨーク州公益事業委員会;事案14-E-0270 - R.E.ギネイ原子力発電所の運転継続に関する提案を検討する手続き開始の請願書;信頼性支援役務協定の交渉を指示し、関連する事実認定を行う命令;2014年11月14日発令・施行;22ページ ))。交渉の結果、ギネイ発電所とRG&E社の間でRSSAが締結された。2015年2月13日、RG&E社はNYPSCに対して要請書を提出し、ギネイ発電所とのRSSAを承認し、かつ同RSSAにかかる支払金はRG&E社電力需要家から回収することを認めるよう求めた。しかし、RG&E社がRSSAにかかる費用を回収することにより電力料金は「大きく変化」することとなるため、NYPSCは費用回収を含む料金改定案承認を一旦保留し、この料金改定について別途公聴会を開催することとした。2015年2月24日、RG&E社の料金改定申請に関する公聴会の日程と、同公聴会での陳述人、ならびにそこでの論点を決める会議の開催通知が発行された。アイオワ州2005年、デュアン・アーノルド原子力発電所(DAEC)はNRCによる当初の運転認可の期限が切れる2014年2月まで有効な電力売買契約を含めて、FPL(現ネクストエラ・エナジー社)に売却された。その後、2010年末に同発電所は2034年2月まで運転延長する認可をNRCから取得した。2013年にアイオワ州電力委員会は、インターステイト・パワー&ライト(IP&L)社がDAECとの長期電力契約をさらに12年間延長する契約変更を認可した。州規制当局は、この契約変更を有益なものとして認可を与えた。ウィスコンシン州のキウォーニ原子力発電所の閉鎖からも明らかなように、ガス価格の低下によって原子力発電の経済環境が変化している。PPA延長がなくとも、デュアン・アーノルド発電所(DAEC)が生む便益を受容できるかどうかは自明ではない。IP&L社とネクストエラ社間で、買電側が発電費用を負担する協定が合意に至ればDAEC の運転継続が可能となり、IP&L社の電力需要家、および一般地域住民(特に、リン郡の住民)に対して経済的にも経済面以外でも大きな利益を生むことになるから、両者にはそうした合意に至ることが期待されている((アイオワ州商務省電力委員会;「インターステイト・パワー&ライト(IP&L)社とFPLエナジー・デュアン・アーノルド社に関して」;登録番号SPU-2005-0015およびTF-2012-0577;2013年1月31日に出された命令;38ページ ))。アイオワ州電力委員会は、電力利用者への経済的影響に加えて、DAECが運転継続することによって地元雇用を含む様々な便益が生じることについても考慮に入れて検討を行った。オハイオ州オハイオ州では、ファーストエナジー社が料金規制対象外の同社子会社であるデービス・ベッセ原子力発電所と、料金規制下にある同社の小売電力供給子会社の間で新たな長期電力契約を締結する申請をオハイオ州公益事業委員会(PUCO)に対して提出した。この電力契約案は、双方向ヘッジ契約や差金決済取引と類似である。この契約は、電力市場価格が低い場合にデービス・ベッセ原子力発電所に追加の収入をもたらし、一方電力市場価格が高い場合には電力消費者に利益をもたらす。契約によって生じる費用、あるいは利益(すなわち電力市場価格との差額)は、全需要家が適用を受ける条項(オハイオ州ではライダーと呼ばれる)に基づき全電力需要家に割り振られる。オハイオ州の他の電力会社は石炭火力発電所の電力売電契約についてこれと同様の提案をしたが、2015年2月25日、PUCOはこれについては否認する裁定を下した。しかし、この裁定の中で、PUCOは提案にあるような非規制の発電子会社と規制下にある小売電力子会社の間で電力売買契約を締結すること自体は合法であり、もしもそうした電力売買契約が小売電力利用者にとって利益となるならば認可される可能性があることを明らかにした。しかし、州公益事業委員会は、PPAに基づく料金条項案は、その内容が適切に設定されるなら、標準サービス(Standard Service Offer:SSO)が顧客向け落札価格の上下変動を平準化する上で有効で、それにより卸売市場の価格変動から需要家を保護できる可能性がある、と考えている。特に異常気象時の電力料金を真に安定させる重要な金融的ヘッジを提供することになるような合理的なPPAに基づく条項案は電力需要家にとって価値があり得ると認識している((オハイオ州公益事業委員会、意見&命令、事例番号13-2385-EL-SSO、2015年2月25日、25ページ))。デービス・ベッセ原子力発電所の電力売買契約案は現在、PUCOで審査中であり、採決は2015年4月または5月に行われる予定である。イリノイ州イリノイ州議会は、閉鎖の恐れがある自由化環境下におかれた原子力発電所について詳細な報告書を作成するよう州政府機関に命じた。この詳細な報告書に基づいて、下院法案3293号((イリノイ州第99回州議会、2015年および2016年、HB3293号、2015年2月27日))が提出された。この法案によって、新たなイリノイ州・低炭素電源構成基準(LCPS)が設定されることになる。このLCPSによってイリノイ州の規制下にある小売電力供給業者は、販売電力の70%について低炭素エネルギー・クレジットを取得することが義務付けられる。LCPSの対象に含まれる低炭素エネルギー源には、風力、太陽光、水力、潮汐力、波力、クリーンコール、および原子力が含まれる。LCPSによって発生する費用は小売電力需要家が負担することになる。同法案は、イリノイ州にある原子力発電所の時期尚早な閉鎖によって様々な悪影響がでることを指摘した上で、LCPSを設定することでそれを防止できるとしている。「温室効果ガス排出量の増加」「イリノイ州の電力供給信頼性に対する重大な悪影響」「地域の経済情勢への悪影響」イリノイ州LCPSは、自由化環境下で閉鎖の恐れがある原子力発電所の早期閉鎖を防止するのみならず、米国環境保護庁が将来課すと考えられる炭素排出量に関する規制を同州が順守する上でも有効である。まとめここで述べたとおり、自由化環境下にある原子力発電所でも州が政策措置を取ることで収益の確実性を高めることができる。発電所が得る追加収益は、州の規制を受ける小売電力需要家から回収されることになるが、自由化環境下で閉鎖の恐れがある原子力発電所を運転継続すれば以下のような便益が得られることから、それは許容されると考えられている。ニューヨーク州-地元/地域送電網の信頼性へのプラスの影響アイオワ州-電力利用者および地域社会への大きな利益オハイオ州-潜在的にヘッジをかけることでの電力利用者への利益イリノイ州-炭素排出量の減少、信頼性の向上、および地域社会への経済的影響上記4つの例はすべて、自由化環境下では原子力発電所の運転継続を支えるに十分な収入を卸売電力市場から得ることはできないということを示している。これらのアプローチは、長期的な発電計画や、電源と販売を垂直統合した場合の利点など、卸売電力市場からは得ることができない効果を、仮に部分的にせよ小売電力需要家にもたらすものである。 PDF版
- 02 Mar 2015
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