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カナダ政府、テレストリアル社の小型溶融塩炉開発に2,000万加ドルを投資
カナダ連邦政府イノベーション科学産業省のN.ベインズ大臣は10月15日、オンタリオ州の技術企業テレストリアル・エナジー社による「小型モジュール式・一体型溶融塩炉(IMSR)」開発を加速するため、「戦略的技術革新基金」から2,000万カナダドル(約15億9,000万円)を投資すると発表した。同社が開発した最先端のSMR技術はカナダの環境・経済に大きな利益をもたらすと見込まれており、投資はその商業化を支援する重要ステップになると説明している。 テレストリアル社のIMSRは第4世代のSMR設計で、電気出力は19.5万kW。同社はIMSRの最初の商業用実証炉をカナダで建設した後、同社の米国法人を通じて北米その他の市場で幅広くIMSRを売り込む方針である。現在、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が同国の規制要件に対するIMSRの適合性を「予備的設計評価(ベンダー設計審査:VDR)」で審査中であるほか、米原子力規制委員会(NRC)に対しては、将来的に設計認証(DC)審査を受ける考えだと表明済み。米国法人は2020年代後半にも米国・初号機を起動できるよう、米エネルギー省(DOE)から財政支援を受けながらNRCと許認可手続き前の準備活動を進めている。カナダ政府の発表によると、原子力および原子力安全分野の世界的リーダーであるカナダは、安全で信頼性の高い小型モジュール炉(SMR)の開発においても世界を牽引していく方針である。同国が2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指す上でSMRは重要な役割を果たすと期待されており、新型コロナウイルスによる大規模感染から復活する際も経済的恩恵が得られるとしている。テレストリアル社はIMSRの開発プロジェクト全体で6,890万加ドル(約54億8,700万円)を投入する方針だが、このほかに少なくとも9,150万加ドル(約72億8,700万円)を研究開発費として支出中。カナダ政府による今回の投資金は、同社がIMSRでベンダー審査を完了する一助になると指摘している。カナダ政府の見通しでは、テレストリアル社は今後、カナダの原子力サプライチェーンで千人以上の雇用を生み出し、STEM(理数系)分野で数多くの女性が登用されるよう男女平等・多様化イニシアチブを推進していく。IMSRプロジェクトによって高度なスキルを持つ労働力が構築され、将来の技術革新と経済成長の重要要素となる新しい基盤技術研究を加速。この結果、カナダ政府が進める「技術革新とスキル計画」は推進力を増すことになる。カナダ政府はまた、同プロジェクトでSMR技術をカナダやその他の世界中で開発・建設していくための長期ビジョン「カナダのSMRロードマップ」が後押しされると説明。SMRの設計・開発が様々な規模で進められており、将来的には遠隔地域で使用されているディーゼル発電機を一掃したり、化石燃料を多用するカナダの重要な産業部門に競争力をもたらす可能性があるとしている。(参照資料:カナダ政府、テレストリアル社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 23 Oct 2020
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加OPG社、SMR建設に向けベンダー3社と協力
カナダ・オンタリオ州の州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社は10月6日、同州内で小型モジュール炉(SMR)を建設する道を拓くため、北米の有力なSMRデベロッパー3社と設計・エンジニアリング作業を共同で進めていると発表した。3社のうち、カナダを本拠地とするテレストリアル・エナジー社は、第4世代の革新的原子炉技術として電気出力19.5万kW、熱出力40万kWの小型一体型溶融塩炉(IMSR)を開発中。また、米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は、受動的安全システムなどの画期的な技術を採用した電気出力30万kWの軽水炉型SMR「BWRX-300」を、同じく米国のX-エナジー社は小型のペブルベッド式高温ガス炉(HTR)「Xe-100」(熱出力20万kW、電気出力7.5万kW)を開発している。一方のOPG社はカナダで稼働する全19基の商業炉のうち、オンタリオ州内に立地する18基を所有しており、これらの原子炉と再生可能エネルギーの活用により、同州ではすでに2014年に州内の石炭火力発電所の全廃に成功した。同社のK.ハートウィック社長兼CEOは、「CO2を排出しない原子力技術の開発で当社は50年以上にわたる経験を活用中。3社との協力では、その他のSMR計画と合わせて当社がSMR利用の世界的リーダーになることを実証したい」と述べた。同社は今回の計画の他に、遠隔地のエネルギー需要を満たすための支援として、カナダのグローバル・ファースト・パワー社との協力により、米国のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が開発した第4世代の小型モジュール式高温ガス炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」をカナダ原子力研究所内で建設・所有・運転することを計画している。これらのSMRはオンタリオ州の経済を再活性化する一助となるだけでなく、地球温暖化の防止目的で同州とカナダ連邦政府が目指しているCO2排出量ゼロの電力供給にも役立つとした。OGP社はこの関連で、昨年12月にオンタリオ州とニューブランズウィック州、およびサスカチュワン州の3州が革新的技術を用いた多目的のSMRをそれぞれの州内で開発・建設するため、協力覚書を締結した事実に言及。今年8月には、同覚書にアルバータ州が新たに加わることになった。OPG社は近年、オンタリオ州内でのSMR建設に向けて適正評価をその他の大手電力企業と共同で実施しており、その結果からその他の州においてもSMRを建設する可能性が拓かれる。このことは、カナダが優先順位の高い政策として、次世代のクリーン・エネルギー技術を開発・建設するというアプローチとも合致するとしている。同社によると、オンタリオ州のSMR開発は州内の既存の原子力サプライ・チェーンをフルに活かすことになるほか、他の州においても石炭火力から脱却することに繋がる。また、エネルギー集約型産業に代替エネルギーのオプションが提供され、カナダにおける雇用の促進と技術革新の進展にも貢献。温室効果ガスの排出量が経済的に持続可能な形で大幅に削減されるため、カナダの電力網では化石燃料からCO2排出量ゼロの電源への移行が進むと強調している。(参照資料:OPG社、GEH社、テレストリアル・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 07 Oct 2020
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ルミナ・ヴェルシ カナダ原子力安全委員会 委員長
事業者を束縛しない──カナダの許認可体制はスムーズなことで有名だ。日本が遅すぎるのかもしれないが、ポイントは?カナダ原子力安全委員会(CNSC)は何十年もの歴史ある規制当局です。CNSCが卓越しているのは、規制の枠組みがいわゆるテクノロジー・ニュートラルであることです。柔軟性があり、すべてパフォーマンスに基づいて規制をします。ああしろこうしろと命令的なやり方はしません。事業者に一方的に指示するのでなく、「目指すべき目標がこれですが、どうやって実現するか示してください」とだけ言うのです。こうすることで、事業者は柔軟性を得てイノベーティブになり、自主的に新しいアイデアを思いつきます。我々は事業者を束縛しません。最近、国際的な規制審査団がカナダにやって来て、私たちの規制体制(枠組み)とプロセスを審査されました。その結果、「包括的で堅牢な規制体制」と高い評価をいただきました。CNSCが提供しているサービスでもう一つ非常に好評なのは、いわゆる「ベンダー設計審査」※と呼ばれる予備的設計評価サービスです。事業者が予め審査対象となる設計を私たちとシェアすることで、認可プロセスに入る前の段階から、その設計や技術に「致命的な欠陥(showstoppers)」がないかどうかを確認することができます。もちろんプロセスは非公式なものですが、それにより、CNSCはその設計をよりよく理解できるようになります。また、事業者も我々の条件・規制要件をより詳しく知ることができす。そして、致命的な欠陥があれば、それを早い段階で見つけることも出来ます。CNSCのもう一つユニークな点は、許認可の審査体制です。私はCNSCの委員長兼CEOであり、この組織のスタッフ約900人を統括していると同時に、委員会の議長でもあります。現在、委員は5人ですが、最大7人まで増員が可能です。すべての許認可決定、規制および規制文書の承認すべてがこの委員会によってなされ、すべての委員会の審議は一般公開されています。なぜなら、それは一般の人々が参加し、介入し、意見を共有できるオープン・フォーラムだからです。多くの人々の意見を取り入れているため、それが良質な情報に基づく意思決定につながります。※ベンダーの要請により実施される任意の評価サービスで、事業者が建設許可等の申請を実際に行う前に、当該設計がカナダの規制要件を満たしているか評価。実際の要件に照らしたレベルの高い同審査を通じて、設計上の問題点などを早い段階でフィードバックすることが可能になる。審査は第3段階まであり、「ARC-100」のほかに米ホルテック・インターナショナル社のSMR設計や、テレストリアル・エナジー社の小型モジュール式・一体型溶融塩炉(IMSR)などが審査中となっている。リスクと便益のバランス──「規制者と被規制者とのやり取り」において、カナダは合理性・効率性においてトップクラスと聞いている。CNSCは無駄な質問をしないし、原子力事業者も無駄な書類は作らない。その根源的な理由はなんだろうか?なぜ、カナダは合理的に進められるのか?「合理性がある」というお褒めの言葉に、完全に同意していいのかわかりませんが、私たちはリスクに精通した規制当局として、常に合理性に基づいた形で判断を行います。ご存知かどうか分かりませんが、私たちが掛ける努力の度合いも、どれだけリスクがあるかにかかっています。低リスクの場合はそれほど時間をかけません。また、事業者に課している規制上の負担についても、リスクと便益の分析を試みています。我々は長い経験を持ち、良好な実績を持ち、他者から常に学び、改善を図っています。あなたのおっしゃる「合理的な意思決定」のことを、我々は「リスク情報に基づいた意思決定」と呼んでいます。まず、すべての人に意見を表現する機会を与え、それを基にして決定を下します。SMR開発をリード──カナダはSMRに大変力を入れているが、何がモチベーションとなっているのか?SMRの開発当事者ではなく、外から物事を見る規制当局者として話しますが、多くの海外諸国と同様に、カナダのクリーンエネルギーの目標は非常に野心的です。その目標だけでなく、パリ協定の目標も達成するために、原子力が大きな役割を果たさなければならない、果たし続けなければならないという認識があります。そして、SMRには多くの利点があります。カナダは広大な国で、ファーストネーションらのコミュニティーの多くは遠隔地にあり、ディーゼル発電に依存しています。SMRは彼らのそうしたディーゼル依存からの脱却に大いに貢献するのです。またカナダは非常に資源多消費型の国ですので、SMRは資源の有効利用にも役立ちます。同様に、出力が小さく柔軟な運転が可能でより安全なSMRは、送電系統においてもはるかに大きな役割を果たせるようになるでしょう。そのため、連邦政府の天然資源省(Natural Resources Canada)では様々なステイクホルダーを交えて検討を重ねた「SMRロードマップ」を策定し、SMRの登場・活用に備えています。カナダ企業が国内外でSMRを展開した場合に備え、我々規制当局も準備を整えています。規制当局としてどのように準備しているかというと、先ほど「ベンダー設計審査」についてお話しましたが、このプロセスが効果を上げているのです。現在、12種の異なるSMR設計を審査中です。すでにチョークリバー向けの15 MWのマイクロ原子炉※のために最初のサイト準備許可(LTPS)申請を受け取っており、今年後半には、もう1件の、より出力の大きいSMRのLTPSが申請されるだろうと予想しています。※USNC社が開発した第4世代の小型モジュール式(高温ガス)炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」のこと。カナダ原子力研究所(CNL)のチョークリバー・サイトに建設予定だ。もはやSMRの勢いが増していることは誰の目にも明らかです。カナダの3つの州(オンタリオ州、ニューブランズウィック州、サスカチュワン州)では最近、SMRの開発および建設を目指して協力していくことを発表しています。私自身の成果の一つは、昨年、米国原子力規制委員会のスビニッキ委員長とMOUやMOCに署名し、SMRの設計審査に関してより緊密に協力することに合意したことです。両国がSMR設計の評価結果や研究結果を共有し、それによって互いに学び、リソースを共有するだけでなく、審査をより効率的に進め、より良い判断を通して安全性を改善することができます。このカナダと米国の取り組みを出発点に、他国の規制当局を広く迎え入れ、国際的な規制要件の統一に移行できればいいと考えています。それは、標準設計が各国に展開されるのを促進するだけでなく、SMRに大きな関心を示している新興国にとっても、先進規制当局の専門知見から、確実な便益を得られるからです。たとえば、米国、カナダ、日本などの規制当局が合意した規制要件であれば、新興国はそれに依存できますよね。こうして世界中のSMRの安全性を合理的に高めることができるでしょう。トリチウムに精通──日本では福島第一サイトでのトリチウムの処理に苦しんでいる。カナダでは重水炉からかなりの量のトリチウムが発生すると思うが、どのように管理しているのか?CANDU炉は、重水を減速材としても冷却剤としても使用しています。したがって、トリチウムは、カナダのCANDU炉にとって非常に重要な役割を果たしています。私は保健物理学者になる以前は原子力発電所で働いていましたが、トリチウムは常に私たちにとってハザード(危険を引き起こす状況・物質)でした。そのため、カナダは長年にわたり、多くの技術(トリチウムを制御、測定、除去、監視する技術、必要な防護服など)を開発してきました。トリチウム量が蓄積すると重水ごとトリチウム除去設備へ送られ、トリチウムガスを抽出します。そしてトリチウムは廃棄物としてキャニスターに保管されます。全工程を通じてモニタリングされており、徹底的に制御されています。規制当局としても事業者とは別にモニタリング(環境モニタリング)を行っており、事業者の報告と照らし合わせています。他にもトリチウムを監視する州および連邦当局があります。国民は我々のトリチウム管理に信頼を寄せているのです。 福島第一よりも多いトリチウム?カナダでは資源!?回答者オンタリオ工科大学グレン・ハーベル教授トリチウムの発生源は?CANDU炉では、重水を用いて中性子を減速しています。トリチウムは主にその過程で発生します。トリチウム量を最小限に抑えるために、トリチウム除去設備を用意しています。そこでは重水とともにトリチウムを取り入れ、トリチウムを気化させて抽出し、重水を再び原子炉内へ循環させています。抽出されたトリチウムはどこへ?抽出されたトリチウムはさまざまな形態で保管されます(それこそ種類もさまざまです!)。企業に販売されるケースもあります。ご存知の通りトリチウムは自発光塗料として利用されており、出口用の看板等で需要がありますから。しかし多くの場合は、トリチウムを含んだ重水をそのまま保管し、半減期を待ちます。トリチウムの半減期は13年程度ですので、大した懸念はありません。シールドで遮蔽された部屋やタンクに保管されていますし、人に触れるような場所ではないからです。ですから、我々はトリチウムのことをそれほど心配しておりません。最大の問題はプラントを廃炉にして永久閉鎖するときです。それまで保管していたトリチウムをそのまま保管できればよいのですが、早急な処理を迫られた場合は対応が難しくなりますね。日本ではトリチウムの抽出が困難とされている抽出プロセスは大変コストが掛かりますので、世界でも現実に実施しているところは少ないでしょう。カナダではダーリントン原子力発電所に優秀なトリチウム除去設備があるので、容易なのです。日本では「ふげん」 ※ にトリチウム除去設備がありましたが小規模でした。現実的ではありませんね。お金をいくらかけてもいいならば話は別ですが(笑)※ふげん:日本の国家プロジェクトとして開発された新型転換炉。2003年3月に運転を終了し、廃止措置中。カナダのトリチウム保管量はかなり多く、福島第一より多いとのことだが?カナダのトリチウムは、多くがトリチウム重水の状態です。福島第一のトリチウム総量は860兆ベクレルですか?そのまま比較はできませんが数字だけを並べると、ダーリントン原子力発電所から2015年の1年間に放出された液体のトリチウム量だけでも241兆ベクレル※です。規制当局から定められた年間の放出限度(DRL)が5,300,000兆ベクレルですから、これでも規制値の0.004%にすぎません。※同年の気体のトリチウム放出量は、254兆ベクレル。「トリチウムは保管」という先ほどの話と矛盾するようだが?ご説明しましょう。それはカナダでは、河川や湖や海洋に、意図的にトリチウムを放出しているわけではないからです。日本のみなさんならばよくご存知でしょうが、トリチウムは水素ですから、完全に封じ込めることは大変困難です。意図的な放出はありませんが、漏洩は避けられません。繰り返しますがカナダのトリチウムは、トリチウム重水ですから、大部分は原子炉内に存在します。またドラム缶等に備蓄し、半減期を待っている状態のトリチウム重水もあります。トリチウム除去設備で処理され、ガス化してキャニスタ等に保管されるトリチウム重水はごくわずかです。ほとんどはトリチウム重水のまま残されています。それはトリチウムの市場規模が小さいからです。そして重水はバルブやシールを通して漏洩します。これは必ず起こります。移送過程で、ホースやポンプやバルブなどから、果てにはドラム缶からも漏洩します。これは防げません。以前も起こりましたが、これからも起こるでしょう。そのような制御不能なトリチウム放出に対処するために、CNSCがDRLという規制値を定めました。このDRLは、一般市民の線量限度である年間1ミリシーベルトを下回るように設定されており、設備や周辺環境の変化に応じて、各発電所毎に数字は異なります。もちろん数字は、都度アップデートされています。大事なことは漏洩した時にその影響を最小限度にとどめることです。違いますか?いずれは大気や海中に放出?規制当局の承認が必要ですが、放出も可能です。しかし期待されている一つの可能性は核融合プラントの実現です。これが実現すると、トリチウムが燃料となるわけですから、トリチウムの抽出設備が極めて重要となってきます。我々には大規模なトリチウム在庫があり、それが役に立ちます。もし(核融合プラントの)実現がない場合でも、おそらくトリチウムは保管して半減期を待ち、その後別の原子炉に再利用するか、分散するか、それらが将来の選択肢です。トリチウムは将来の資源?そうです。トリチウムは将来的に資源になりうるのです。トリチウム抽出の過程でアクシデント的に外部環境へ流出した、損失したトリチウム量は低く、気になる程度ではないのです。現地のコミュニティから反発は?ありませんよ(笑)アクセスを容易に──カナダでは原子力に対する世論の支持が高いと聞いた。日本では数多くの対策をし、安全基準を十二分にクリアしても、国民からさほど支持を得られていない。私をはじめCNSCの優先分野の一つは、規制当局としての我々に対する国民の信頼をどのように取り付け、強化するかです。強力かつ独立し有能な規制当局とみなされることは我々にとって望ましいことですし、原子力産業界にとっても良いことです。規制当局に対する信頼度について、世論調査も実施しています。国民が我々をどれだけよく知っているか、我々についてどう思うか、そして我々はどういうところを改善すればいいかなどを理解することが目的です。CNSCのウェブサイトでは、委員会に提示されているすべてのものを一般公開しています。国民は我々の情報(事業者にも情報提供するよう勧めていますが)に簡単かつスピーディーにアクセスできるようになることは、その信頼構築に大いに貢献しています。また、審査会合に誰でも参加できるように、非常にインフォーマルな形を取っています。公聴会に12歳の参加者が登場することもあります。我々はすべてを非常にアクセスしやすくしようとしています。そうすることによって、国民に安心を感じさせることができると思います。我々のもう一つの義務・任務は客観的な情報発信です。原子力産業界は非常に規制された業界です。我々はウェブサイトへの掲載や、出版物への掲載など、さまざまな媒体を通して、原子力産業界で起きていることを一般人に伝えようとしています。リスクはどこにあるか、どのように規制しているか、ということをです。こうした情報発信には常に改善の余地があり、我々は新しいツールや仕組みを常に模索しています。先ほど申し上げた世論調査もそうですが、我々の(コミュニケーションの)やり方を改善するためにいろいろな方法を試しているのです。広報は「中間層」を狙う──原子力反対派とどう対話すべきか?長いこと原子力業界に携わってきて、発見したことがあります。率直に言って、この世には決して心を変えない人がいるということです。もちろん必ずしも彼らに心を変えて欲しいというわけではありません。ただ、正しい情報を彼らに伝え、理解して欲しいだけです。それでもなかには決して受け入れない人々がいます。私はそうした(反対派に対して説明する)努力をしても無駄だと気づきました。十分な情報を検討した結果、態度を決めている人たちは、それが自らの判断なのであれば、それでOKだと思います。その一方で、賛成反対の両極端の間、真ん中にいる非常に大きな中間層が存在します。この中間層の人たちは何も知らないか、あるいはあまり信頼できない情報源に依存してますので、彼らを広報のターゲットにする必要があると思います。そのためにありとあらゆるコミュニケーション手法をとる必要があります。なお、CNSCをはじめ多くの世論調査の分析結果によると、原子力に関しては、女性のほうが男性より比較的支持が低い傾向があり、男性よりも情報源が少ないことが分かりました。また、多くの調査・研究が、女性が(男性ではなく)女性同士の方をより信頼する傾向があることを示しています。彼女たちが信頼しているのは、数多くの男性科学者ではなく、実際に原子力業界に入っている女性や、信頼できる情報源と見なしている女性なのです。そうしたことを踏まえ、工夫の余地はまだまだあります。これも規制当局としてのCNSCの任務の重要な一環です。そうそう、私たちが実施した世論調査で、とても大事なことが明らかになりました。実は、半数のカナダ人は、CNSCについて何も知らなかったのです(笑)
- 27 Aug 2020
- FEATURE
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加ブルース・パワー社とカメコ社が次世代原子力技術センターを起ち上げ
カナダで原子力発電所を運転するブルース・パワー社と大手ウラン生産業者のカメコ社は8月20日、「次世代原子力技術センター」の創設を中心とする複数の共同イニシアチブを起ち上げると発表した。両社のこれまでの連携関係を活用して、新型コロナウイルス感染後のカナダ経済の再生を支援するとともに、CO2を排出しない原子力発電で地球環境を保全。世界中に蔓延したコロナウイルス感染症のような疾病との戦いにおいても、原子力サプライチェーンを使ってコミュニティの必需品を確保するなどの協力を強化する。両社は原子力技術革新によって小型モジュール炉(SMR)のような新技術を開発する基盤を築き、ガン治療に役立つ放射性同位体(RI)や水素経済への移行に向けた水素の生産技術の進展を後押しできると確信。すなわち、原子力インフラへの投資を通じて現行経済を刺激し、将来的には世界に力を与えることも可能だと考えている。原子力発電所の運転企業および燃料サプライヤーとして蓄えてきた専門的知見を一層深め、ブルース・パワー社が電力供給するオンタリオ州やカメコ社が本拠地を置くサスカチュワン州のみならず、カナダ全体の将来的な経済や輸出を支援していく考えである。両社はそれぞれ、オンタリオ州とサスカチュワン州の産業リーダー的存在であり、間接雇用も含めた従業員の総数は約2万7,000人。カナダ経済への投資額は年間90億~120億カナダドル(約7,200億~9,600億円)に達するなど、カナダ全体の原子力産業を代表する企業として、温室効果ガスを排出しない発電やガン治療用RIの生産といった科学技術革新の最前線に留まっている。今回の発表で両社は、これら2つの州政府が経済を立て直すためのチャンスをもたらしたいとしている。また、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大に際しても、両社はCO2を排出しない電力をカナダ全土に安全・確実に供給し続けている。今後は、カナダ最大のインフラ・プロジェクトの1つと言われるブルース・パワー社のブルース原子力発電所(=写真)運転期間延長プログラムを活用して、国家経済の再構築を手助けしていく方針。州を跨いだ両社間の重要な連携関係を拡大・強化するため、「次世代原子力技術センター」は、両社がBWXT社やオンタリオ州のブルース郡とともに2018年に創設した「原子力技術革新協会(NII)」の付属施設とする計画。NIIは、カナダの原子力産業界で技術革新を促進することを目指した非営利組織である。なお、両社間の今回の協力では、ブルース発電所の運転期間延長プログラムと既存の長期燃料供給契約に加えて、ブルース6号機が機器の交換を終えて再起動する2024年にカメコ社が追加で1,600体の燃料バンドルをブルース・パワー社に供給することになった。これは、2017年に両社が締結した20億カナダドル(約1,600億円)の既存の燃料供給契約に基づいて決定したとしている。(参照資料:ブルース・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 24 Aug 2020
- NEWS
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カナダのNWMO、使用済燃料を処分場まで輸送する計画について意見募集開始
カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は8月14日、国内で使用済燃料の深地層処分場が2040年代に完成することを念頭に、各発電所の中間貯蔵施設から同処分場まで使用済燃料を輸送する計画の枠組策定で一般からの意見を募集すると発表した。NWMOは今回、同計画枠組の案文を公表しており、これに対するカナダ国民や先住民のコメントを今後数か月にわたって手紙やファックス、eメールで受け付ける。また、関係する協議に国民が加われるよう、NWMOがウェブサイト上に設定した「オンライン調査」への参加も呼びかけている。カナダでは2007年、使用済燃料を直接処分することを定めた国家方針「適応性のある段階的管理(APM: Adaptive Phased Management)」が採択され、実施主体となるNWMOは2010年から処分場建設の「サイト選定プロセス」を開始した。2012年9月末までに国内の22地点が処分場の受け入れに関心を表明し、NWMOは現時点で候補地域をオンタリオ州南部のサウスブルース地域と北西部イグナス地域の2地点まで絞り込んだ。これらのうちどちらかを、処分場建設サイトとして最も好ましい地点として2023年までに確定する方針である。鉄道やトラックを使用する使用済燃料の輸送計画に関しては、NWMOは一般国民の利益や意見を反映させるため、2016年以降に数千人規模の人々と協議。今回公表した枠組計画の案文はこうした作業の結果を盛り込んでいるほか、次の段階の重要ステップともなるため、NWMOは今回のコメント募集とオンライン調査の実施を決めた。NWMOのB.ワッツ副理事長は、「使用済燃料の安全な輸送に向けて、今こそ社会的に受容可能な枠組を策定すべきだ」と表明。NWMOはこれまで数多くの人々の意見に耳を傾けてきたが、輸送計画の枠組を最終決定し追加・変更部分の必要性を判断するには、カナダ国民に案文をレビューしてもらい意見を得ることが重要になる。副理事長は、「2040年代を迎えるまでにどのようにして安全な使用済燃料輸送を確保するか、できるだけ多くの人々に議論に加わってもらいたい」と強調した。カナダにおける使用済燃料の輸送はカナダ原子力安全委員会と連邦政府の運輸省が共同で規制することになる一方、国際的な輸送に際しては国際原子力機関(IAEA)の安全要件を満たさねばならない。NWMOの輸送プログラムでは規制要件の遵守で技術的側面が含まれるのに加え、国民の不安や質問に答えるなど国民が最優先とする事項を理解することが必要。このためNWMOは、使用済燃料の輸送に安全・確実を期すとともに、国際的な良慣行も取り入れたいとしている。(参照資料:NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 19 Aug 2020
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加サスカチュワン州政府、州内でのSMR建設に向け原子力事務局設置へ
カナダ中西部に位置するサスカチュワン州政府は6月24日、同州の原子力政策・プログラムの調整を図るため、環境省の気候変動・対応局内に原子力事務局を設置すると発表した。同局では、クリーン・エネルギー源である小型モジュール炉(SMR)を州内に建設するという戦略計画の策定と実施が最優先事項になるとしている。サスカチュワン州には今のところ原子力発電所は存在しないもののウラン資源が豊富であり、2018年に世界のウラン生産量国別ランキングでカナダを世界第2位に押し上げた。こうした背景から、同州は昨年11月に公表した2030年までの経済成長計画の中に、発電部門におけるCO2排出量の削減と無炭素発電技術であるSMRの開発方針を明記。州内のウラン資源を活用して、2030年代の半ばまでに初号機の完成を目指すとした。翌12月には、商業用原子力発電所を州内に擁するオンタリオ州、ニューブランズウィック州の両政府とSMRの開発・建設に向けて協力覚書を締結した。この中で3州は、「遠隔地域も含めたカナダ全土でSMRは経済面の潜在的可能性を引き出す一助になる」と明言。国内の主要発電業者に協力を求めてフィージビリティ報告書を作成し、2020年秋までにSMRの戦略的開発計画を策定する。今回の発表を行ったサスカチュワン州政府環境省のD.ダンカン大臣は、「SMRを開発してその恩恵を全面的に享受するには、複数のパートナーとの協力が不可欠だ」とコメント。SMRが内在する利点として、州内のウラン資源に経済的価値連鎖を付与できるほか雇用を促進、同州独自の気候変動対策策定にも寄与する点を挙げた。また、カナダでSMR開発が進展すれば経済・環境面の恩恵に加えて、安全で信頼性が高く価格競争力もあるクリーン・エネルギー源が同州に新たにもたらされると強調している。なお、カナダでは連邦政府もSMRの潜在的可能性に期待をかけており、2018年11月には天然資源省が「カナダにおけるSMR開発ロードマップ」を公表した。サスカチュワン州政府によると、カナダの全州および準州の電気事業者がこの構想への参加機会を模索しており、同州としてもSMRの利点を享受するためこれらとの協力を拡大していく考えである。(参照資料:サスカチュワン州政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 26 Jun 2020
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カナダのダーリントン2号機が約3年半の改修工事終え運転再開
カナダのオンタリオ州営電力(OPG)会社は6月4日、州内で保有するダーリントン原子力発電所の2号機(93.4万kWの加圧重水炉)で約3年半に及んだ大掛かりな改修工事が完了し、オンタリオ州の送電グリッドに定格出力で再接続したと発表した。同炉は1990年10月に営業運転を開始しており、今回の改修工事は約10年間の計画準備段階を経て2016年10月から開始していたもの。安全で高品質の作業を成功裏に終えた同炉は、今後30年以上にわたってクリーンで信頼性の高い低炭素電力を同州に供給するとしている。ダーリントン発電所は同出力のカナダ型加圧重水炉(CANDU炉)×4基で構成されており、約128億カナダドル(約1兆440億円)をかけた改修プロジェクトでは、同発電所で最初に営業運転を開始した2号機から作業を開始した。OPG社はこれに続いて、新型コロナウイルスによる感染拡大のため今年5月から予定していた3号機の改修工事を今年の第3四半期に始めるほか、1号機と4号機の作業をそれぞれ2022年と2023年から実施。2026年末までにこれら4基すべての改修工事を予算内で完了し、それぞれの運転期間を30年間延長する計画である。カナダでは一時期、ダーリントン発電所で新規の原子炉を2基、同じくOPG社の所有でブルース・パワー社が操業するブルース原子力発電所(80万kW級CANDU炉×8基)では4基増設する計画が進められていたが、これらの計画は現在すべて中止されている。また、2つの新規立地点における新設計画も中止になっており、その代わりとして、世界でも最大級の複数ユニットが稼働するブルースとダーリントンの両発電所で、運転期間の延長に向けた大規模な改修プロジェクトが進められている。2号機の改修作業ではまず、原子燃料を取り出した後に原子炉を一旦分解。その後、カランドリア管や燃料チャンネル、フィーダー管などを再設置する作業が行われた。複雑な工程であることから、OPG社はダーリントン・エネルギー複合施設のモックアップ設備や訓練設備を使って予行演習を実施。作業チームは76万時間を超える綿密で厳しい実地訓練を事前に受け、作業効率を改善した。また、オンタリオ州内の製造業者数百社が納入した精密機器や革新的な技術を用いることで、2号機の改修工事を成功に導いたとしている。OPG社でこのプロジェクトを担当するD.レイナー上級副社長は、「最良の条件が整ったとしても、これらの作業は非常に骨の折れるものになるはずだった」と説明。新型コロナウイルスによる感染の拡大など、様々な課題や制約があるなかで最終段階の作業を終えられたことは、原子力の専門家である作業チームが同プロジェクトで役割を全うした証であると強調している。(参照資料:OPG社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 08 Jun 2020
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カナダNWMO、深地層処分場の二つ目の建設候補地点でもフィールド調査実施へ
カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は5月26日、使用済燃料の深地層処分場建設計画で絞り込まれた最終候補2地点のうち、オンタリオ州南部のサウスブルース地域で今年後半にも安全性の確保と環境保全のためのフィールド調査を開始すると発表した。もう一つの候補地である同州北西部のイグナス地域では、すでに昨年11月の時点で同様の調査が進行中。NWMOはこれらのうち、処分場建設サイトとして最も好ましい1地点を2023年までに確定する方針である。カナダでは使用済燃料を直接処分する国家方針として「適応性のある段階的管理」(APM: Adaptive Phased Management)が2007年に採択され、実施主体のNWMOは処分場の建設から操業まで含めた「サイト選定プロセス」を2010年に開始した。2012年9月末までに国内の22地点が施設の受け入れに関心を表明しており、NWMOはその後これらをオンタリオ州内の2地点まで絞り込んだ上で、潜在的適合性の予備的評価を行っている。NWMOは今回、サウスブルース地域の議会に「サイト選定プロセス」の次の段階について最新情報を伝えたもの。フィールド調査には試掘孔の掘削に加えて、地球物理学的調査や環境モニタリング、およびその他の調査作業が含まれる。これらの作業は、NWMOの計画についてビジョンを共有するための協議と同様に重要であり、NWMOはこの調査で同地域が建設プロジェクトの厳しい安全要件を満たしているか見極める方針。このため、NWMOは今後数か月の間に地元コミュニティと同調査の活動内容について情報共有を行うが、これらの活動すべてが新型コロナウイルスによる感染など、住民の健康に配慮した方法で行われるとしている。この建設プロジェクトではまた、環境への影響評価や許認可手続きなど、周辺住民の健康と環境の防護を目的とした厳しい規制審査プロセスを経ることになっており、NWMOとしては地元コミュニティも交えた形で基本の環境モニタリング・プログラムを設計する。環境と水の保全が地元住民にとって最優先事項であることを念頭に、共有できるプログラムを共同策定する考えである。NWMOによると、フィールド調査で得られる地質や環境のデータは工学的設計調査や安全評価分析等の結果とともに、安全性に確固たる自信を持って深地層処分場を建設することにつながる。さらに、地元コミュニティ住民の懸念や願望、目的に応じた形でプロジェクトを進められるよう、技術調査と並行して住民の福利関係調査もコミュニティと協力して実施するとしている。(参照資料:NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 29 May 2020
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カナダ原研、USNC社製SMRの燃料製造研究等で協力協定締結
カナダ原子力研究所(CNL)は2月26日、昨年7月に設置した「カナダの原子力研究イニシアチブ(CNRI)」で支援する最初の小型モジュール炉(SMR)研究プロジェクトとして、米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)のSMR「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」(=右図)を選定し、同社の子会社であるUSNC-パワー社と協力協定を締結したと発表した。この協力では主に、MMRで使用する「完全なセラミック・マイクロカプセル化(FCM)燃料」の製造研究やMMR用黒鉛炉心の照射プログラム策定、CNLチョークリバー・サイトにおける燃料分析検査室の設置などをカバー。カナダのプロジェクト開発企業であるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社はすでに昨年4月、USNC社のパートナー企業として、MMRをCNLチョークリバー・サイト内で建設するための「サイト準備許可(LTPS)」をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請した。今回の協力では、チョークリバー・サイトでのFCM製造施設建設に向けた実行可能性調査の準備活動や、MMRの炉心や燃料の設計妥当性を確認する試験プログラム開発が含まれる。CNLは2017年4月に公表した今後10年間の「長期戦略」のなかで、2026年までにオンタリオ州にあるチョークリバー・サイトでSMRを建設するとの意欲的な目標を設定。関連企業からは、SMR原型炉や実証炉の建設で15件以上の関心表明書を受け取った。これに続いてCNLは2018年4月、チョークリバーを含むCNLの管理サイトで実際にSMR実証炉を建設・運転するプロジェクトの提案を募集。第1回目となるこの募集で、同年6月にはスターコア・ニュークリア社やU-バッテリー・カナダ社など国内外のSMR開発企業4社から提案があったという。CNLはこのほか、SMR開発を支援するコスト分担方式の研究開発イニシアチブとして、CNRIを2019年に設置している。1年単位のCNRIプログラムを通じて、CNLは世界中のSMRベンダーにCNLの専門的知見や世界レベルの研究設備を提供。カナダにおけるSMRの研究開発と建設を促進し、SMR技術の商業化を加速する計画である。USNC社はCNLが昨年11月、CNRIの初回の支援対象候補に選定した4社の1つで、残り3社(英モルテックス・エナジー社、米Kirosパワー社、加テレストリアル・エナジー社)の提案に関してCNLは現在、審査と交渉の様々な段階にあるとした。今回の協力取り決めにより、USNC社とCNLはMMRの多様な側面の中でも特に、燃料の開発・試験を検討。CNL側からは150万カナダドル(約1億2,000万円)相当の現物出資が行われ、2021年春までに完了する予定である。CNLとの協力に関してUSNC社のF.ベネリCEOは、「当社製SMR設計の実行可能性とFCM燃料の特殊な優位性を実証する重要な機会になる」と説明している。(参照資料:CNLの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 28 Feb 2020
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カナダの深地層処分場計画:最終候補2地点のうち1地点と調査のための立入で合意
カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は1月24日、使用済燃料の深地層最終処分場建設計画で立地候補地点として残っている2地点のうち、オンタリオ州南部のサウスブルース地域の地主らと調査のための立入等で合意したと発表した。これにより、NWMOは今後数か月のうちに同地域で試験抗の掘削や基本的な環境モニタリング等の作業を開始し、処分場建設地としての適性を評価する。NWMOは同じくオンタリオ州の北西部イグナス地域でも、2017年11月から同様の調査を実施中で、2023年までにこれらのうち使用済燃料の安全かつ長期的な処分に適し、施設の受け入れに協力的な好ましい1地点を最終的に確定する。昨年11月の時点では、サウスブルース地域と隣接するヒューロン=キンロス地域も候補地点に含まれていたが、NWMOは今回、同地域を潜在的な候補から外すと明言。ただし、サウスブルース地域の隣接区域として、今後もサイトの選定活動に大きな役割を果たすと述べた。カナダでは使用済燃料を直接処分するための国家方針として「適応性のある段階的管理」(APM:Adaptive Phased Management)が2007年に採択され、NWMOは処分の実施主体として、処分場の建設から操業までを含む「サイト選定プロセス」を2010年に開始した。2012年9月末までに国内の22地点が施設の受け入れに関心表明したが、NWMOは2017年12月までにこれらをオンタリオ州内の5地点まで絞り込んだ。それ以降はプロセスの第3段階として、これらの自治体の「潜在的な適合性の予備的評価」を実施中。机上調査を行う第1フェーズを終えた後、地質学的調査や制限付き掘削調査などの現地調査を行う第2フェーズの作業を進めている。現地調査の実施権取得を目的とした「土地への立入プロセス」は、2019年5月にサウスブルース地域で始まっており、NWMOは今回合意文書を交わした地主も含めて複数の地主と交渉。これまでに合計約526ヘクタールの土地でこの権利を確保した。合意文書には、NWMOが土地を購入する取引のほかに、選定した土地で調査を実施しつつも地主が土地を継続的に利用できる「リースバック」取引も含まれるが、仮にこれらの土地で最終処分場を建設する場合、NWMOはこれらを購入することになっている。NWMOは今後さらに数か月から数年間にわたり、既に合意を得た土地に隣接する地主らとも協議を続け、処分場の建設に必要な約607ヘクタールまで土地を追加で確保していく方針である。(参照資料:NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月27日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 28 Jan 2020
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カナダのNB州政府、既存原子力発電所敷地内でのARC社製SMR建設を支持
カナダ東部ニューブランズウィック(NB)州のM.ホランド天然資源・エネルギー開発大臣は12月9日、米ARCニュークリア社が開発中の先進的小型モジュール炉(SMR)「ARC-100」(電気出力10万kW)について、州内唯一の原子力発電設備であるポイントルプロー発電所敷地内で、商業規模の実証炉を建設するという同社カナダ法人(ARCニュークリア・カナダ社)の計画を支持すると発表した(=写真)。大型炉から出る使用済燃料のリサイクルも可能という「ARC-100」は、第4世代のナトリウム冷却高速炉技術に基づいており、今年10月にはカナダ原子力安全委員会(CNSC)が提供する予備的設計評価サービス(ベンダー設計審査)の第1段階を完了した。ホランド大臣は、安全で信頼性が高く、経済的にも競争力のある低炭素なエネルギー源となるSMRの商業化をARC社が目指しているとした上で、優れた安全運転実績を持つポイントルプロー発電所には経験豊かな運転員もいることから、SMR実証炉の建設サイトに適していると指摘。同サイトで「ARC-100」を少なくとも2基、引き受けることが可能との考えを表明している。カナダの連邦政府はSMRのような次世代原子力技術について「国民が低炭素経済におけるエネルギー需要を満たしつつ、一層クリーンで安全な社会を構築する一助になる」と認識しており、将来は世界のSMR市場でリーダー的立場を得ることを目標としている。 カナダ国内のオンタリオ州、サスカチュワン州、NB州の州政府も今月1日、出力の拡大・縮小が可能で革新的技術を用いた多目的のSMRをカナダ国内で建設するため、3州が協力していくとの覚書を締結。NB州はこの中でも、世界水準のSMR開発で国内リーダーとなる目標を示しており、すでに2018年7月、英国籍のMoltexエナジー社が開発中の「燃料ピン型溶融塩炉(SSR-W)」について、商業規模の実証炉を2030年までにポイントルプロー原子力発電所敷地内で建設すると発表した。ARCカナダ社との協力に関してもNB州は同じく2018年の7月、州営電力のNBパワー社を通じて協力することで合意。NBパワー社はポイントルプロー原子力発電所の所有者であることから、同発電所敷地内で「ARC-100」初号機の建設可能性を探るとしていた。NB州のホランド大臣は、SMR技術導入の意義に触れ、たとえ送電網につながれていない遠隔地のコミュニティに対してもクリーンで低コストな電力を供給することであり、エネルギー多消費産業には低炭素で安定したエネルギー供給を約束できるとした。また、この技術がカナダ全土のみならず世界中で採用されれば、カナダは経済成長と輸出機会の拡大チャンスを得ることになると述べた。 州政府としては、SMR技術から同州が多大な恩恵を得ると考えており、ARCカナダ社のような企業との協力でSMR建設への道を拓くとともに、SMR開発を支援する世界的なリーダーとなる方針。また、世界レベルのSMR供給チェーンを構成する主要要素となる態勢も整いつつあると強調した。(参照資料:NB州政府、ARCカナダ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月10日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 11 Dec 2019
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カナダの3州の首相がSMR開発で協力覚書
カナダ・オンタリオ州のD.フォード首相、ニューブランズウィック州のB.ヒッグス首相、およびサスカチュワン州のS.モー首相は12月1日、出力の拡大・縮小が可能で革新的技術を用いた、多目的の小型モジュール炉(SMR)をカナダ国内で開発・建設するため、3州が協力覚書を締結したと発表した(=写真)。 3人の首相はともに、原子力発電は炭素を出さず信頼性が高く、安全で価格も手ごろな発電技術と認識しており、SMRは遠隔地域などを含むカナダ全土において、経済面の潜在的可能性を引き出す一助になると明言した。同覚書に法的拘束力はないものの、今後は3州のエネルギー大臣が2020年1月から3月の間に冬季会合を開催して、最良の開発・建設戦略を議論。国内の主要な発電事業者には、費用対効果検討書も含めたフィージビリティ報告書の作成で協力を求める方針であり、同年秋までにSMRの戦略的開発計画を策定するとしている。 SMRの利点について3首相は具体的に、送電系統とつながっていないコミュニティに対してもクリーンで低コストなエネルギーを供給できるとしたほか、鉱山業や製造業などエネルギー多消費産業に対して便宜を図れるなどと指摘。また、SMR技術がカナダのみならず世界中で採用されれば、カナダの経済成長を促すとともに輸出機会を拡大することにもつながるとした。こうしたことから、3州の政府はそれぞれに特有の必要性や経済面の優先事項に見合う方法で経済を成長させ、温室効果ガスの排出量を削減するために協力体制を敷く方針。力を合わせて革新的なエネルギー・ソリューションを開発し、地域の雇用や成長促進に向けた最良のビジネス環境を創出していくと述べた。今回の覚書によると3州は、カナダ連邦政府の天然資源省が昨年10月に公表した「カナダにおけるSMRの開発ロードマップ」とともに、付託された「行動要請文」の策定に貢献した。カナダは原子力産業の全領域を備えるなど最上位に位置する原子力国家であり、SMR開発で先駆的国家となることにより、このように高度な革新的技術分野で戦略面や経済面、および環境面の利益が得られるとした。3州は世界でも有数の原子力企業が多数所在する地域であり、3州それぞれが州内でSMRを導入することに関心を抱いている。このような背景から、3州は以下の点について合意し、相互協力を行うことになったもの。(1)地球温暖化や州内のエネルギー需要、経済開発などに取り組むため、それぞれの必要性に応じたSMRの開発と建設を3州が協力して進める。(2)SMR開発における重要課題――技術的な準備状況、規制上の枠組整備、経済性と資金調達、放射性廃棄物の管理、国民および先住民との関わり合い――などに一致協力して取り組む。(3)「原子力のようにクリーンなエネルギーは地球温暖化への取組みの一部として必要」という明瞭明解なメッセージが発せられるよう、3州が連邦政府に積極的に働きかける。(4)3州内のオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社、ブルース・パワー社、ニューブランズウィック・パワー社、およびサスクパワー社のCEOから要請されたように、開発ロードマップで特定されたSMR開発への支援提供を、3州が協力して連邦政府に働きかける。(5)原子力やSMRが有する経済面や環境面の利点について一般国民に情報提供するため、3州が協力する。――などである。 (参照資料:オンタリオ州政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月2日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 03 Dec 2019
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カナダの深地層処分場建設計画、候補地点を2地点に絞り込みへ
カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は11月26日、使用済燃料の深地層処分場建設計画におけるサイト選定プロセスで、候補地点をいよいよ2地点に絞り込む段階に来たと発表した。使用済燃料処分の実施主体であるNWMOは、処分場の建設・操業まで含めてのサイト選定プロセスを2010年に開始しており、2012年9月末までに22地点が施設の受け入れに関心を表明した。現在は第3段階として、これらの自治体の「潜在的な適合性を予備的に評価」している。机上調査を行う第1フェーズと、地質学的調査や制限付き掘削調査などの現地調査を行う第2フェーズを通じて、選定作業を実施中。22地点のうち、9地点が2015年に第3段階・第2フェーズに進んだ後、2017年12月にはオンタリオ州内の5地点まで候補地点が絞り込まれていた。今回NWMOは、これらのうち州北西部のイグナス地域、および州南部に位置するヒューロン=キンロス地域とサウスブルース地域の合計3地点を選定しており、これらで処分場の立地可能性をさらに追求することになった。ヒューロン=キンロスとサウスブルースの2地点はほとんど隣接しており、このエリアが立地点となった場合、現在進められている土地所有者との交渉に基づいて、どちらかがサイト選定プロセスの次の段階に進むことになる。一方、州北部のホーンペインとマニトウェッジの両地域では、これ以上の評価は行わず除外するとしている。NWMOは今後、残りの3自治体と協力しながらさらに詳細な技術評価と社会調査を実施し、処分場施設が安全なものになるか見定める。また、これらの地域で住民の福祉を向上させつつ、建設プロジェクトを進めるための方法を模索。2023年までに、使用済燃料を長期的かつ安全に処分することが可能な1地点を最終決定することになる。NWMOのM.ベン=ベルファドヘル副総裁は、「最終的な判断を下すのは非常に難しく軽々には行えない」とコメント。「施設近隣の住民や環境を確実に防護しつつ、カナダの最終処分計画を進められるような、プロジェクトを十分理解した上で協力的な1地点を特定したい」と述べた。カナダでは、現在稼働中の加圧重水炉19基から出る使用済燃料を再処理せず、発電所サイト内で30年間保管し、1か所で集中管理することになった場合は、その施設でさらに30年間保管する方針。深地層に最終処分するのは原子炉から取り出して約60年後からとなるが、NWMOの最終処分場では銅をコーティングした専用キャニスターに使用済燃料を封入して、地下500mの深地層部分に埋設する計画である。サイト選定プロセスにおいては、参加自治体のみならず近隣自治体に対しても、建設プロジェクトへの貢献が認められた場合、福祉向上のための一時金が支払われるとしている。 (参照資料:NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月27日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 28 Nov 2019
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カナダ原研、SMR開発支援イニシアチブの候補企業4社を選定
カナダの国立原子力研究所(CNL)は11月15日、同国内で小型モジュール炉(SMR)の研究開発と建設を促進するため、今年7月に設置した「カナダの原子力研究イニシアチブ(CNRI)」の候補となる企業4社を選定したと発表した。CNRIは世界中のSMRベンダーに対し、CNLの専門的知見や世界レベルの研究設備を提供する新しいプログラム。対象分野としては市場分析や燃料開発、原子炉物理、モデリングなどを指定しており、これらに関するプロジェクトの提案企業を毎年募集することになっている。参加企業はCNLが提供する資源を最大限に活用するとともに、技術的知見を共有。開発中のSMR技術の商業化に向けた支援を、出資金あるいは現物出資の形でCNLから受けることができる。次回の募集についても、CNLは来年初頭を予定していることを明らかにした。同イニシアチブで最初の受益者に選ばれたのは、(1)英国の原子炉開発企業モルテックス・エナジー社のカナダ支社、(2)米カリフォルニア州のKairosパワー社、(3)米ワシントン州のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)、(4)カナダを本拠地とするテレストリアル・エナジー社。CNLは今後、研究開発費の分担等について、これら4社との最終交渉を開始する。モルテックス社は現在、カナダのニューブランズウィック大学と共同で、カナダ型加圧重水炉(CANDU)の使用済燃料をピン型溶融塩炉(SSR)の燃料に転換する試験装置について、建設と合理化を進めている。また、Kairos社の提案プロジェクトは、高温のフッ化塩で冷却する「KP-FHR」設計を実現するため、トリチウムの管理戦略を策定するというもの。片やUSNCは、同社製「Micro Modular Reactor(MMR)」の開発で浮上する様々な技術的課題について、解決に向けた作業プロジェクトを提案した。テレストリアル社は、同社製「一体型溶融塩炉(IMSR)」等に対して、安全・セキュリティや核不拡散関係の技術を適用する可能性を評価したいと提案。CNLが保有する設備の中でも特に、「ZED-2原子炉」の利用機会を得たいとしている。CNLのM.レジンスキー所長兼 CEOは今回の選定について、「CNLが実施した市場調査の結果や、カナダのSMR開発ロードマップの判明事項からも、原子力産業界がCNLの知見や設備を一層必要としていることが明確に示された」と説明。CNLのCNRIプログラムは、そのような利用機会を実現する方法として設置されたと強調した。CNLのK.マッカーシー科学技術担当副所長も、「カナダをSMR研究のハブとするため、CNLが過去3年間に実施した作業は大きく前進した」と指摘。SMRに共通する主要な技術分野で、CNLが膨大な知見を蓄積してきたという事実に言及した。SMR開発についてCNLは、2017年4月に公表した今後10年間の「長期戦略」の中で、2026年までにCNLの管理サイト内で少なくとも1基、実証炉を建設するという目標を明示した。2017年中にSMRの開発企業から19件の関心表明を受けており、2018年4月に開始した全4段階の審査プロセスにより、提案企業の募集と選定作業を進めている。今年2月には、USNCが開発したMMR設計が同審査で唯一フェーズ3に進んだほか、テレストリアル社のIMSRもフェーズ2に移行している。MMRについては、エネルギー関係のプロジェクト開発企業グローバル・ファースト・パワー(GFP)社が今年4月、CNLのチョークリバー・サイト内で建設するため、SMRとしては初の「サイト準備許可(LTPS)」をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請した。CNLの審査プロセスは、CNSCの許認可プロセスから完全に独立していることから、許認可段階に進展した建設プロジェクトには法的規制要件が課され、提案企業は一般国民や先住民コミュニティなどとプロジェクトの重要事項に関する協議を行わねばならない。 (参照資料:CNLの発表資料、原産新聞・海外ニュース、WNAの11月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 20 Nov 2019
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カナダの深地層処分場、サイト選定プロセスで2本目の試験坑 掘削が完了
カナダで使用済燃料の処分事業を担当する核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は10月15日、深地層処分場の建設サイト選定のため、オンタリオ州イグナス地域で進めていた2本目の試験坑のボーリング作業が9月中旬に完了したと発表した。同処分場の受け入れ自治体については、NWMOが2010年から選定手続を開始。イグナス地域は、オンタリオ州とサスカチュワン州で関心表明していた22地点のうちの1つである。選定プロセスの第1フェーズである予備評価の結果から、同地域を含む9地点が2015年に第2フェーズに選ばれ、地質調査や制限付きボーリング調査が実施されることになったが、その後の調査で候補地点はオンタリオ州内の5地点に絞られた。NWMOは同地域でボーリング作業を継続し、最終的に施設の受け入れに協力的な1地点を2023年までに選定することになる。残っている5地点は、イグナス地域のほかにヒューロン=キンロス、サウスブルース、ホーンペイン、およびマニトウェッジの各地域。イグナス地域での試験坑掘削は2017年11月から始まっており、NWMOは掘削済みの2本で現場試験を行うほか、掘削時に掘り出した円柱形の地質サンプルや採取水等の分析・調査を国内外の研究所で進めていく。現場試験には約8週間を要するのに加えて、その後に研究所で実施する分析作業については数か月かかる見通し。しかし、このような作業を通じて地球科学や地力学、石油物理学に関する様々なパラメーターが得られ、地層に対する統合的理解が深まるとした。NWMOはまた、1本目と2本目の試験坑から2.5km離れた地点で、すでに3本目のボーリング作業を開始。さらに4本目~6本目に関しても、今月から掘削準備を始めている。地層科学に関する情報やデータ、知見を収集して、使用済燃料の長期的な安全管理のためにカナダが策定した計画を前進させたいとしている。(参照資料:NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月28日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 29 Oct 2019
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原子力発電の柔軟性
通常、原子力発電所はベースロードで運転されるが、柔軟な運転方法をとればその価値をさらに高めることができる。2015年9月、私は米国原子力エネルギー協会(NEI)のブレインストーミング・セッションに参加した。このセッション(及びこれより前の2つのセッション)は、米国の自由化環境下にある原子力発電所が、電力業界構造変革と電力市場という難関に直面する中、どこまで柔軟な運転方法をとることができるのか、という点が主なテーマであった。このNEIのブレインストーミング・セッションで議論されたアイデアのいくつかをとりあげてみたい。NECGコメンタリー第3回では、経済的理由からほとんどの原子力発電所はベースロードで運転されていることを説明した。大半の電力系統や電力市場ではこのように原子力をベースロードで運転することが最適となるが、一部の電力系統や電力市場においては原子力発電所を柔軟に出力変動させながら運転することでその価値をさらに高めることができる。このコメンタリーでは、原子力発電所を短期的、および長期的に柔軟に出力変動させながら運転する手法について考察する。短期的な柔軟性電力市場価格は短期的にマイナスになり得るが、それに対応し短期的に柔軟に原子力発電所の出力を低下させれば、原子力発電所が生む利益をより大きくすることができる。スポット市場価格がマイナスになるということは、市場が発電出力を低下させるべきという経済的信号を発電事業者に向けて発していることを意味する。一部の発電事業者の短期限界費用(SRMC・すなわち電力市場への入札価格)はマイナスになることがある。例えば、風力発電事業者は、発電所が実際に発電した電力量に応じた税控除や再生可能エネルギー・クレジットを受け取ることができる。こうした風力発電事業者にとっては、税控除額と再生可能エネルギー・クレジットの合計額にマイナスをつけて市場で入札するのが最も合理的な戦略となる。電力スポット市場価格がこの風力発電事業者のマイナスの入札価格より高ければこの事業者は必ず利益を出して運転することができる。水力発電事業者や原子力発電所など、その他にもSRMCがゼロとなり得る発電事業者がある。こうした発電事業者は、常に発電をしたいから、通常は「価格受容者」として市場に入札する。つまりこうした事業者の入札では、市場が発電事業者の発電電力量すべてを引き取る代わりに、価格としてはその時点時点で決まるスポット市場価格を適用して発電事業者に支払いが行われる。「価格受容者」として入札すれば、電力改革後の新しい電力市場環境においても原子力発電所を確実にベースロードで運転することが可能となる。原子力発電所は「価格受容者」として市場に入札しても、電力市場価格がゼロを上回る限り、各取引期間毎にいくばくかの収入を得ることができ、それを固定費に充当することもできる。しかし、もし電力市場でスポット価格がマイナスに転じた場合、「価格受容者」として入札した原子力発電所は市場運用者に対して支払いを行うことになる。こうした支払いは、原子力をベースロードで運転維持するための現金支出をともなう費用であって、原子力発電所の発電原価(燃料費以外の運転コスト)を上昇させる。もしもスポット市場価格がマイナスになるような場合には、原子力発電所が出力低下可能であれば、こうした費用を削減し、あるいはゼロにすることも可能となる。以下はいずれも原子力発電所を短期的に出力変動させながら柔軟に運転している例である。こうした実例はマイナスのスポット市場価格に直面する既存の原子力発電所にとって何らかの参考となるものだろう。オンタリオ州発電所のタービン・バイパスオンタリオ州ブルース発電所のCANDU炉は、原子炉を全出力で維持しつつ、電気出力を低下させる機能を有する。それはタービンをバイパスし、蒸気を復水器に直接排出することで、タービン発電機の電気出力を低下させる機能である。ブルース発電所の 各8基のプラントは定格電気出力約76万kWだが、各プラントは定格から出力を30万kW低下させ、柔軟な運転を行うことができる。オンタリオ州の市場運用者は低需要時や風力の発電出力が高い時には、このブルース・パワー社の原子力発電所が持つ合計240万kWの柔軟な調整電力を活用してオンタリオ州の電力系統のバランスを取っている。本稿トップの図は、2013年9月4日~10日の原子力発電所の柔軟な運転状況を示している。このようにオンタリオ州の電力系統のバランスを取るためにブルース発電所が持つ柔軟な運転機能が活用され、2013年9月8日日曜日早朝には原子力は出力を約200万kW低下させ運転していた((出典:Scott Luft’s Cold Airブログ;201336ウィークリー・レポートのアーカイブデータ(2013年9月4日~10日)。))。CANDU炉のタービン・バイパスを活用した出力変動速度(すなわち、電気出力をどれほど速く増加または減少できるか)は、最大で全出力の10%/分である。これはコンバインド・サイクル火力発電所の出力変動速度である全出力の約5%/分より大きく、EPRやAP1000といった改良型原子炉の設計出力変動速度(全出力の約5%/分)と比べても速い((Atomic Insights、2011年12月1日、Don Jonesによるゲスト投稿;オンタリオ州のCANDU炉は天然ガスと水力より柔軟になれるか;))。NEIブレインストーム・セッションで、原子力業界からの参加者は、技術的に言えば米国の軽水炉も同様のタービン・バイパス機能を有しているが、今のところそれを運転の柔軟性向上には活用していない、と発言していた。米国の原子力発電所でもこのタービン・バイパス機能を活用し、運転出力を柔軟に調整すれば、スポット価格がマイナスである期間にも全出力運転を継続しているために発電所が市場運用者へ支払っている費用を削減し、あるいはゼロにすることができる。このように発電所出力を柔軟に調整することのメリットは十分にあり、それによって経済的理由から早期に廃止されてしまう可能性があるような原子力発電所の運転も継続することが可能となるかもしれない。フランスの原子力発電所((原子力発電所の負荷追従の技術と経済性、OECD NEA 2011年))フランスでは、全電力量の75%以上が原子力で発電されている。フランスではこのように原子力発電の比率が高いため、一部の原子力発電所は柔軟に出力を調整しながら運転し、電力需要の時間単位、日単位、および週単位の変動に対応する必要がある。こうした柔軟な運転を実現するために、フランスの原子力発電所はベースロード・モード、一次/二次周波数制御モード、または負荷追従モードでの運転が可能となっている。一次周波数制御モードでは、系統周波数を安定に維持するため、リアルタイムでの出力増減が必要になる。二次周波数制御モードも類似ではあるが、原子力発電所の出力をより長期的に調整しながら、より大きな系統需要と周波数の変動に対応させる。負荷追従モードでは、24時間を通じて出力レベルと変動速度を予めプログラムしておく。この負荷追従モードでは、一部の原子炉では定格出力の50%という低出力で運転されることもある。こうした柔軟な運転モードを実現させるため、フランスの原子力発電所では2種類の制御棒が使用されている。通常の制御棒に加え、中性子吸収量が小さいグレー制御棒が使われている。グレー制御棒の他、一次冷却材の温度変動も活用することで、フランスの原子力発電所は相当な運転上の柔軟性を確保している。新規原子炉の設計に関する欧州電力要求では、フランスやその他欧州諸国(例えば、ドイツ)での経験を基に、周波数制御と負荷追従の両方を可能とするような柔軟な運転機能が要求されている。こうしたフランスの柔軟な運転モードの一部は、米国の原子力発電所でも実現可能なものである。コロンビア発電所((ICAPP 2015年の議事録、2015年5月03日~06日-ニース(フランス)、Paper 15555、原子力と再生可能エネルギーは友人になり得るか?D.T.Ingersoll、C.Colbert、Z.Houghton、R.Snuggerud、J.W.Gaston、及びM.Empey))コロンビア発電所は、米国の太平洋岸北西部に所在する沸騰水型原子炉であるが、この地域には多数の水力発電所がある。コロンビア発電所は、電力系統の需給予測に対応して運転されており、同発電所ではこれを「ロード・シェーピング(負荷形成)」と呼んでいる。コロンビア発電所は、米国内でこうした運転方法を取っている唯一の商業原子力発電所である。ボンネビル電力管理局(BPA)管内電力系統では、春季に水力発電所の溢流を回避するため、原子力の「負荷形成」が必要となる。BPA電力系統の中で風力容量が増加することにより、さらに新たな「負荷形成」が必要になる可能性もある。コロンビア発電所は、BPAと合意しかつ米国NRCの承認を受けたガイドラインに従って「負荷形成」を実施する。普通、運転員は原子炉再循環流量の調整により、電気出力を定格の85%程度まで低下させ、さらに制御棒を挿入して電力出力を65%まで低下させる。こうした「負荷形成」による出力低下は、BPAの給電指令に基づき行われる。こうした出力低下の給電指令は、85%出力までの低下の場合は少なくとも12時間前に、また65%出力への削減の場合は48時間前に、そして完全停止の場合は72時間前までに必ず出されることになっている。米国の自由化環境下にある原子力発電所でも、類似の方法を活用して市場価格がマイナスとなることが予想される季節には夜間の出力を低下させることもできよう。長期的な柔軟性原子力発電所の運転を長期的に柔軟に行うことで価値を生める場合もある。原子力発電所の運転費が電力市場価格よりも高くなることがあるが、それは発電所の営業損失につながる。こうした営業損失が何年も続くと予測される場合もある。これまで米国では自由化環境下にあるキウォーニ発電所とバーモントヤンキー発電所の2原子力発電所が早期廃止されたが、これは電力市場での経済損失が発生し、あるいは将来も損失が発生すると予想されたことが原因である。自由化環境下にあるその他複数の原子力発電所でも同様の状況が起き得ると言われている。こうした長期的な損失継続に直面した米国の原子力発電所が採り得る選択肢としては、状況が改善するまで、損失を出しながら運転を継続する。原子炉を停止し、廃止措置を開始する。ということになるが、こうした原子力発電所でも、電力市況が上向くまでの間、10年くらい休止状態にしておくという3番目の選択肢をとり得るのであれば、早期に発電所を恒久的に廃炉にしてしまうよりも魅力的な選択肢になり得る。カナダでの以下の実例から原子力の柔軟性に関してさらに別の教訓を得ることができる。ピッカリングA発電所とブルースA発電所1997年にピッカリング発電所の1~4号機は休止状態にされた。しかしピッカリング4号機は2003年に運転を再開し、1号機は2005年に運転を再開した。ピッカリング2号機と3号機は現在も安全停止状態にある。ブルースA発電所の1~4号機のうち、ブルース2号機は蒸気発生器のトラブルのために1995年に休止され、残る3基も1998年に休止状態にされた。2001年5月、ブルース・パワーLP(ブルース・パワー)社はオンタリオ・パワー・ジェネレーション社との間で長期リース契約を締結し、ブルースA発電所、およびブルースB発電所の運転認可を獲得し、カナダ初の民間原子力発電会社となった。リース契約の時点で、ブルースA発電所の4基の原子炉は休止状態にあった。ブルース・パワー社はブルースA発電所管理役務を引き継ぎ後、2004年1月にブルース3号機を、また2003年10月には同4号機を再稼働させ、さらにブルース1号機と2号機を2012年初めに再稼働させた。ピッカリングならびにブルース両発電所は、運転休止という選択がされなければ、廃炉にされていた可能性がある。休止状態に置いておくという選択肢があったことで、後からこれらの原子炉を再稼働させることができた。米国の状況許認可上、米国の運転中の原子力発電所には、「運転認可」を継続して維持するか、または発電所を閉鎖して「所有のみ認可」に移行するか、という2つの選択肢がある。「運転認可」を有する原子力発電所は、運転員及びその他の要員を継続的に維持しなければならない。人件費は原子力発電所の固定費の主要部分を占めるため、「運転認可」を維持しつつ単に運転中の原子力発電所を停止するだけでは、燃料費と燃料交換停止時の費用は削減することはできる。しかし、固定的な運転・保守費を大幅に削減することにはならない。一方、原子力発電所を閉鎖し、「所有のみ認可」に移行するなら、それは廃炉への一方通行である。一旦閉鎖した原子炉に対し、後から新たな運転認可を取得することは可能かもしれない。その場合、当初、運転認可が発行された時点に施行されていたNRCの規制要件ではなく、現行の規制要件への適合がその発電所に対して要求される可能性が高い。古い原子力発電所を現行の規制要件に合致するように更改するのは、非常に大きな費用が必要となる可能性がある。もしも、米国NRCが原子力発電所の休止状態を認める、新たな制度上の認可種別を設けることができれば、米国でもピッカリング発電所やブルース発電所が再稼働したのと類似の状況を生む可能性がある。こうした新しい「運転認可の一時的停止」は以下のような内容となるであろう。「所有のみ認可」に移行した場合とほぼ同等の運転保守費の削減(例えば、セキュリティや最低の保守費用のみが発生する)が可能になり、原子炉の維持コストを大幅削減できる。「運転認可の一時的停止」状態の原子力発電所には、いずれ運転再開するか、あるいは廃止措置に移行するか、2つの選択肢がある。原子炉を運転状態に戻す場合、「運転認可の一時的停止」状態に置かれた期間の長さ分、当初の運転認可満了日を延長させる。「運転認可の一時的停止」状態の間の原子炉の維持要件を(将来の再稼働は十分可能だが、過度な負担とはならないよう)明らかにする。運転状態に戻すときの要件を明確に示し、「運転認可の一時的停止」状態に入れるに際し、発電所所有者が復帰の費用や再稼働についての見通しを評価できるようにする。原子力発電所にこうした新しい認可オプションを適用することができれば、米国の自由化環境下にあって閉鎖の脅威にさらされた原子力発電所を恒久的に廃止するのではなく、休止状態に移行させて維持することが可能となる((ANS Nuclear Cafeへの投稿「停止した原子力発電所を休止状態にしよう」、Rod Adams、2013年9月3日にこのトピックを取り扱った))。結論既設原子力発電所を短期的に柔軟性をもって運転すれば、発電所が生む利益をより大きくすることができる。原子力発電所を休止状態に置くような長期的柔軟性を確保できれば、今は採算が合わない原子炉でも何年か後に電力市場価格が好転した際に運転を再開することができる。[Margaret Harding(NECG提携先)が、本コメンタリーの早期ドラフトをレビューした] PDF版
- 24 Sep 2015
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