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英NIA、CO2排出量の実質ゼロに向け原子力ロードマップ作成
英国原子力産業協会(NIA)は6月24日、新型コロナウイルスによる感染危機終息後のクリーン経済再生と2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするという英国政府の目標を達成するには、新規原子力発電所の建設実施を明確に確約する必要があるとの認識の下に作成した原子力ロードマップ「Forty by‘50」を公表した。これは、地球温暖化防止関連で英国政府への勧告義務を負う気候変動委員会(CCC)が、25日に年次経過報告書を国会に提出したのに先立ち、英国政府と産業界の共同フォーラムである原子力産業審議会(NIC)のためにNIAが取りまとめたものである。NICが承認した同ロードマップの中で、NIAは「長期的な温暖化防止目標の達成支援に加えて、新規原子力発電プログラムの決断を速やかに下せば、新型コロナウイルス感染のエネルギー供給への影響緩和に即座に役立つ巨大プロジェクトを進展させられる」と明言。英国では現在、新旧様々な技術に基づく意欲的なプログラムにより、2050年までにクリーン・エネルギーを全体の40%まで拡大し、水素その他のクリーン燃料製造や地域熱供給などを通じて大規模な脱炭素化を進められる可能性がある。また、これらによって最終的に30万人分の雇用と年間330億ポンド(約4兆3,900億円)の経済効果がもたらされるとしている。原子力発電は英国で年間に発電されるクリーン電力量の40%を賄っているが、NIAは化石燃料のリプレースや電気自動車の普及、暖房部門が好況なことから、今後の需要は4倍に増加することが見込まれると述べた。折しも、国際エネルギー機関(IEA)が先週、持続的な回復に向けたプランを各国の政策決定者に向けて勧告。NIAのT.グレイトレックス理事長は「原子力には膨大な可能性がありコストも下がってきているが、チャンスを逃さぬためにも今、一致協力した行動を取る必要がある」と指摘した。また、CO2排出量の実質ゼロ化を達成するには原子力が必要だが、先行する原子力発電プラント新設プログラムから教訓を学び、資金調達方法を大きく変更すれば、以後の大規模建設プロジェクトを大幅に安く仕上げることができる。同理事長はさらに、新たに建設する最初の原子力発電所で1MWh(1000kWh)あたり92.50ポンド(約12,300円)の電力価格を、それ以降の発電所では60ポンド(約7,980円)近くまで、将来的には約40ポンド(約5,320円)に引き下げる自信があると明言。原子力発電の設備容量についても、3倍に拡大する見込みがあるとしている。そのためのロードマップとなる「Forty by‘50」で、NIAはこのような産業界の大望実現に向け2020年に講じなければならない6つの重要対策を提示している。(1)原子力産業界は、新設プロジェクトのコストを2030年までに30%押し下げる努力を続けなければならない。(2)英国政府は、新規の原子力発電所を建設するという明確かつ長期的な方針を確固たる形で示すべきである。(3)新たな原子力発電所建設計画への投資を刺激し資本コストを低減するため、適切な資金調達モデルの設定作業を進展させねばならない。(4)小型モジュール炉(SMR)の立地や許認可申請に向けて、国家政策声明書や促進プログラムを作成すべきである。(5)官民の戦略的パートナーシップである「原子力部門別協定」に明記された2030年の目標を維持し、新設計画や廃止措置計画のコスト削減、民生用原子力部門における女性従事者の比率を40%に引き上げること、英国サプライチェーンで国内外からの契約総額20億ポンド達成、などを目指すべきである。(6)英国政府と産業界は、医療用放射性同位体や水素および輸送用合成燃料の生産、地域熱供給など、伝統的な発電事業以外の分野の協力に重点的に取り組むための枠組みの設定等で合意すべきである。(参照資料:NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 25 Jun 2020
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チェコ電力、ドコバニ原子力発電所での2基増設で立地許可を申請
チェコ国営電力のCEZ社グループは3月25日、経年化が進んでいるドコバニ原子力発電所(ロシア型PWR×4基、各51万kW)で、ネット出力が最大120万kWのPWRをⅡ期工事として新たに2基増設するための立地許可申請書を原子力安全庁(SUJB)に提出した。準備作業にCEZ社が5年を費やした増設計画であり、これにより同計画は許認可プロセスへの移行準備が整う。包括的環境影響評価(EIA)についてはすでに昨年9月に、環境省が承認済みとなっている。A.バビシュ首相は昨年11月、チェコのエネルギー自給を維持するためにドコバニⅡ期工事の最初の1基について2022年末までにプラント供給企業の選定を終え、遅くとも2029年までに建設工事を開始、2036年までに運転開始を目指すと発表していた。SUJBは今後原子力法の条項に則り、12か月以内に立地許可発給の是非について判断を下すとしている。チェコ政府は2015年5月の「国家エネルギー戦略」のなかで、原子力発電シェアを当時の約30%から2040年までに60%近くまで上昇させる必要があると明記。同戦略のフォロー計画としてその翌月に閣議決定した「原子力発電に関する国家アクション計画(NAP)」では、化石燃料の発電シェアを徐々に削減していくのにともない、既存のドコバニとテメリン両原子力発電所で1基ずつ、可能であれば2基ずつ増設する準備を進める必要があるとしていた。A.バビシュ首相はまた、地球温暖化防止のためCO2排出量の実質ゼロ化に向けた動きが欧州で活発化している点を指摘。チェコ政府内では、「石炭火力に代わる新規電源としては再生可能エネルギーでは不十分であり、原子炉を建設することが論理的」との認識が定着している。CEZ社の発表によると、申請書に添付された文書は約1,600ページに達する膨大なもので、作成にはCEZ社のほかに水研究所や国立マサリク大学、原子力研究機関(UJV Rez)などの専門家30名以上が従事した。建設を支持する論拠として200以上の専門的な分析・調査結果が活用され、申請書を構成する重要部分として広範な「入札保証」報告書も付け加えられている。内容は主に建設サイトの特性を評価・説明するもので、発電所近郊の自然状態や給水設備、人的活動などを検証。建設プロジェクトのコンセプトや質、周辺の住民と環境および将来的な廃止措置に関する影響なども評価している。 建設用地そのものについては最も入念な分析が行われており、底土の状態を見極めるため専門家らは全長4km以上にわたる部分で170本以上の地層掘削を行った。これに加えて、最大深度150mの深井戸を30本掘削して地下水の状態を観察。周辺エリアにおいても66か所で試験掘削を実施したため、得られた岩石試料のコンテナは1,300本以上に達したとしている。(参照資料:CEZ社グループ、チェコ原子力安全庁の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月31日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 01 Apr 2020
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EDFエナジー社、コロナウイルスの影響でサイズウェルC原子力発電所の申請書提出を延期
仏国資本のEDFエナジー社は3月26日、英国南東部のサフォーク州で進めているサイズウェルC原子力発電所(PWR、163万kW×2基)建設計画について、新型コロナウイルスによる感染の拡大に配慮し、今月末までに予定していた「開発合意書(DCO)」の申請書提出を数週間延期すると発表した。「開発同意」は、申請された原子力発電所等の立地審査で合理化と効率化を図るための手続きである。「国家的に重要なインフラプロジェクト(NSIP)」に対して取得が課せられているもので、コミュニティ・地方自治省の政策執行機関である計画審査庁(PI)が審査を担当、諸外国の環境影響に関する適正評価もPIの担当大臣が実施する。本審査が完了した後は、PIの勧告を受けてビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)の大臣がDCOの発給について最終判断を下すことになる。EDFエナジー社は今回、DCO審査プロセスが公開協議段階に入った場合は、国民の参加登録期間に余裕をもたせると明言。これにより、地元住民が十分な時間をかけて申請書を検討できるとした。同社の原子力開発担当常務も、「地元コミュニティを含むサフォーク州民の多くが、現在コロナウイルス感染への対応に追われている。DCO申請書の提出は延期するものの、過去8年以上にわたる関係協議で当社はプロジェクトの透明性に配慮するとともに、プロジェクトに関心を持つ国民一人一人が意見を言えるよう努力を重ねており、今の難しい局面に際してもこの努力を続けたい」と述べた。同プロジェクトに関して、EDFエナジー社は2012年以降すでに4段階の公開協議を実施しており、1万人以上の地元住民や組織がこれに参加した。サイズウェルC発電所では、南西部サマセット州で建設中のヒンクリーポイントC(HPC)発電所と同じ欧州加圧水型炉(EPR)設計を採用しているため、同社は建設コストをある程度削減することが出来ると説明。サフォーク州のみならず英国全土に雇用や投資の機会をもたらすとともに、常時発電可能な低炭素電源として英国政府が目指すCO2排出量実質ゼロへの移行を後押しするとしている。なお、EDFエナジー社は3月24日にHPCプロジェクトの現状を公表し、作業員や地元コミュニティの安全を最優先に、新型コロナウイルスによる感染拡大から防護する措置を広範に取っていると強調した。(参照資料:EDFエナジーの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 27 Mar 2020
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トルコのエネルギー相、シノップ原子力発電所建設計画で他のサプライヤーを検討中
トルコのF. ドンメズ・エネルギー・天然資源相は1月20日、三菱重工業と仏アレバ社(現フラマトム社)の合弁企業ATMEA社が110万kWのPWR×4基を供給予定だった黒海沿岸のシノップ原子力発電所建設計画について、別のサプライヤーに建設を依頼する可能性があることを同省のウェブサイトで明らかにした。同計画については、主要パートナーの三菱重工が実行可能性調査を実施してトルコ側に提出したが、建設予算と完成スケジュールの調査結果は同省の期待に添うものではなかった。このため同省は現在、建設パートナーの再評価を行っているところで、パートナーを変えて計画を進める事を検討中だとしている。4基分で総額200億ドルのシノップ計画では初号機を2017年に着工し、2023年に運転開始することが予定されていた。しかし、安全対策費の高騰などから総事業費が当初予定の2倍以上になるとの見方が広がり、発電電力の買取でトルコ電力取引・契約会社(TETAS)が支払う価格ではコストの回収が難しくなった模様。これにともないメディアでは、建設計画の受注が内定していた三菱重工業らの国際企業連合から伊藤忠商事が撤退したことや、三菱重工自身も建設を断念したことなどが1年以上前の段階で報じられていた。一方、ロシアが受注したトルコ初のアックユ原子力発電所(120万kW級のロシア型PWR×4基)に関しては、2018年4月に1号機が本格着工して以降、建設計画は順調に進展。ロシアの建設事業者は昨年12月、同発電所をトルコの送電グリッドと接続する契約を国営送電会社(TEIAS)と締結した。同炉は2023年に運転開始予定だが、その約1年後に運転開始する2号機についても、トルコの規制当局が昨年8月に建設許可を発給している。ドンメズ・エネルギー・天然資源相によると、2号機の建設工事はまもなく開始されることになっており、続く3号機についてもプロジェクト企業が昨年、建設許可を申請。トルコの規制当局が現在、同炉の部分的建設許可の発給作業を進めているとした。この許可の下では、原子炉系統の安全性に関わる部分を除き、すべての建設工事が可能になる。(参照資料:トルコのエネルギー・天然資源省(トルコ語)、半国営アナトリア通信(英語版)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 21 Jan 2020
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チェコ首相、「ドコバニ発電所で2036年までに新規原子炉完成へ」と発表
チェコのA.バビシュ首相は11月13日、自らが議長を務める「原子力発電所の建設に関する常設委員会」の第2回会合後に記者会見を開き、ドコバニ原子力発電所(51万kWのロシア型PWR×4基)で2036年にも新規原子炉を完成させる方針を明らかにした(=写真 バビシュ首相は右から2人目)。同国にとってエネルギーの供給保障は最優先事項であることから、首相は今回の会合で、エネルギーの自給を維持するために増設計画の具体的な日程が示されたことは喜ばしいとコメント。ドコバニ発電所Ⅱ期工事の最初の1基について、供給企業の選定を2022年末までに終え、遅くとも2029年までに建設工事を開始、2036年までに同炉の運転開始を目指すとしている。新規原子炉の増設に踏み切った理由の1つとして、バビシュ首相は近年、欧州で地球温暖化防止とCO2の排出量削減に関心が高まっている点を指摘。50基以上の原子炉で総発電量の75%を賄う仏国の例を挙げ、同国は2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指すリーダー的存在であるとした。一方、チェコの原子力発電シェアは30%台に留まっており、2040年までに少なくとも40%に引き上げることが目標。首相は、「我々は地球温暖化を深く憂慮しており、チェコ政府にはこれに対応する明確な計画がある」と強調した。同首相はまた、国営送電会社(CEPS)が10月にまとめた「(国内の発電システムに関する2040年までの)中期的適性評価予測報告」に言及した。この報告書は、国内で既存の石炭火力発電所が閉鎖されるのにともない、チェコは2030年代初頭から徐々に電力を輸入し始めると指摘。新規電源を増設しなかった場合に、供給力不足に陥る時間数の予測値も提示していた。これらのことから、同首相は「石炭火力に代わる新規の電源が必要だ」と述べる一方、再生可能エネルギーでは国内すべての電力消費量を賄うことは出来ないと説明。K.ハブリーチェク副首相兼産業貿易大臣も、チェコの原子力発電レベルは世界的にも認められていることから、「原子炉を増設するのが論理的選択だ」と述べた。同首相はさらに、ドコバニ発電所Ⅱ期工事について今年7月、国営電力のCEZ社グループが100%子会社を通じて資金調達するという投資家モデルをチェコ政府が承認した事実に触れた。新規原子炉の建設協議は、これを持って具体的な準備段階に移行しており、政府が2015年に承認した改定版の「国家エネルギー戦略」は徐々に実行に移されつつあるとした。このことは、チェコの原子力発電開発にとって非常に重要であり、地球温暖化の防止目標を達成する上でも大きな影響があると首相は指摘。差し当たりドコバニ発電所を優先するものの、投資金の回収問題で2014年に頓挫したテメリン原子力発電所増設計画についても、協議をいずれ再開することになると強調した。なお、現地の報道によると、記者会見に同席したCEZ社のD.ベネシュCEOは「来年6月までに新規原子炉の入札準備を進め、2021年に最大で5社から提案を申し受ける」と発言した。市場の見積価格として1基あたり1,400億~1,600億チェコ・コルナ(約6,500億~7,500億円)を予想していると述べた模様。これまでに6社が入札に関心を示しており、それらは中国広核集団有限公司(CGN)、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社、韓国水力・原子力会社(KHNP)、仏電力(EDF)、米国のウェスチングハウス(WH)社、三菱重工業を含む仏ATMEA社の企業連合であると伝えられている。(参照資料:チェコ首相府(チェコ語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 15 Nov 2019
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フィンランドのOL3、最新の起動スケジュールからさらに6週間の遅れ
フィンランドのティオリスーデン・ボイマ社(TVO)は11月8日、完成が遅れているオルキルオト原子力発電所3号機(OL3)(PWR、172万kW)について、今年7月に公表した最新の起動スケジュールからすでに作業が6週間遅延していることを明らかにした。これは、建設工事を請け負った仏アレバ社と独シーメンス社の企業連合による提供情報に基づいており、同企業連合は今後、プロジェクト最終段階におけるスケジュールの全体的な見直しを行った上で、12月に結果を改めてTVOに提示する。OL3は2005年8月、世界で初めてフラマトム社製欧州加圧水型炉(EPR)設計を採用して本格着工したものの、様々なトラブル等により当初2009年に予定していた完成には至っていない。最新のスケジュールでは、2020年1月に燃料を装荷した後、同年4月にOL3を送電網に接続、定常的な発電の開始は同年7月から予定している。同企業連合によると、OL3では機械システムと電気系統、および計測制御(I&C)系の最終的な確証を、高い品質水準で注意深く行う必要がある。完成がさらに遅れるにしても、OL3が燃料の初装荷段階と起動に至る直ぐ手前まで到達したことをTVOは認識しており、同社は現在、燃料装荷の申請準備を進めている。運転認可についてはすでに今年3月、フィンランド放射線・原子力安全庁(STUK)からの意見書に基づいて雇用経済省が発給した。現地の報道によると、TVOは今回の遅れを6週間に留めるため、あらゆる手立てを尽くす方針。遅れの原因としては、今年の起動試験時に2~3のバルブが破損し、取り替える必要性が生じたことを示唆している。(参照資料:TVOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月8日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 11 Nov 2019
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仏経済相、フラマンビル3号機建設計画の遅れとコスト超過で解決計画 要請
仏国のB.ル・メール経済・財務相は10月28日、北西部にあるフラマンビル原子力発電所3号機(FL3)の建設プロジェクトが大幅に遅延し、建設コストも超過していることについて、事業者であるフランス電力(EDF)のJ.-B.レビィ会長に対し「(問題解決に向けた)アクション計画を1か月以内に提示すること」を要請した(=写真)。これは、この件に関してPSA(プジョーシトロエン)グループのJ.-M.フォルツ元会長が独自に取りまとめた監査報告書が25日に公表され、「度重なる計画の遅れとコストの超過はEDFの失策」と指摘したことを受けたもの。ル・メール経済・財務相は記者会見で、「これは仏国の原子力産業界全体で挽回しなければならない問題だ」と述べ、仏国におけるエネルギー産業の存立に関わる重要問題と訴えている。フラマトム社製・欧州加圧水型炉(EPR)設計を採用したFL3の建設は2007年12月に開始されたが、原子炉容器鋼材の品質問題など様々なトラブルにより、2012年に予定されていた完成は2023年にずれ込む見通しである。EDFは2018年3月に2次系配管で事前点検を行った際、溶接部で複数の欠陥を検知。同年7月に修理を行ったものの、格納容器の2重壁を貫通する溶接部8か所については同年12月、仏原子力安全規制当局(ASN)に「十分な品質があり破断の心配はない」と保証した上で、修理対象から外していた。しかしASNは、諮問機関らの協力によりEDFの提案内容を引き続き検証。今年6月にはEDFに対して、「FL3の運転を開始する前に8か所の修理を終えること」を命じていた。今回の監査報告書は今年7月、EDFのレビィ会長がフォルツ氏に宛てた書簡の中で、10月末までに取りまとめることを依頼していた。この中でレビィ会長は、ASNが6月にEDF提案を却下した点に触れ、「プロジェクトにEPR設計を採用した理由や、スケジュールがたびたび遅延した原因、コストの初期見通しと完成までの差額、建設に関わる様々な企業の責任等について、株主である国に対し正確かつ完全な分析結果を示したい」と説明。同型設計ですでに営業運転を開始した中国の台山原子力発電所、およびフィンランドで完成に近づいているオルキルオト3号機と比較することも求めていた。フォルツ氏はEDFの内部資料や幹部職員へのインタビュー等を通じて検証を行い、2006年5月当時に33億ユーロ(約4,000億円)と見積もられていた建設コストが、今年10月までに7回改定され、現時点で124億ユーロ(約1兆5,000億円)に増加した事実に言及。完成の遅れと合わせて、これらはEDFの失策と考えられるが、台山発電所の2基が世界初のEPRとして営業運転を開始したことにより、EPRのコンセプトと設計が妥当であることが実証されたとフォルツ氏は見ている。当然のことながらEPRのシリーズ建設再開に向けて、これまでに得られた経験を保持しつつ、EPRのコスト削減と「建設可能性」について一層の改善を図るべきだとフォルツ氏は勧告。FL3計画の遅れは、必ずしも現行のプロジェクト管理チームが原因というわけでは無いが、最新のプロジェクト管理技術を持った常勤スタッフ、および潤沢な自己資金を備えた、強力なプロジェクト・チームに立て直すべきだとした。フォルツ氏はまた、EDFに対しても、安全規制当局やサプライヤーと更なる調整を図ることを進言。産業界に対しても、より一層協調していくことで作業員の訓練、とりわけ溶接作業員の能力が改善される。要求の高い分野で質の高い専門家を多数蓄えるためには、初期の訓練と能力の維持で多大な努力を積み重ねることが必要だと強調している。(参照資料:仏経済・財務省(仏語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月29日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 31 Oct 2019
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チェコで2040年までの発電システムに関する報告書:新規原子炉の必要性 強調
チェコの産業貿易省は10月21日、国営送電会社(CEPS)が取りまとめた「(国内の発電システムに関する2040年までの)中期的適性評価予測報告(MAF CZ 2019)」で、国内の電源が今後大幅に減少していくと予測されたことを踏まえ、国内2つの原子力発電所で新規原子炉の建設準備を進めるなど、電力消費量をカバーするための努力が必要だと訴えた。CEPSの最新報告書によると、チェコにおけるエネルギーの自給と電力供給に大きな影響を及ぼす重要なファクターとして、経年化した石炭火力発電所が徐々に閉鎖されていくことや、総発電量の約3分の1を賄う既存の原子力発電所で2030年代に一部の運転期間が満了すること、再生可能エネルギー源の開発も限定的、ということがある。このまま状況が改善されなければ、チェコは早ければ2030年初頭から次第に電力を輸入するようになると指摘している。チェコ政府は2015年5月に公表した「国家エネルギー戦略」のなかで、原子力発電シェアを当時の約35%から2040年までに60%近くまで増加させる必要があると明記。同戦略のフォロー計画として、この翌月に閣議決定した「原子力発電に関する国家アクション計画(NAP)」では、化石燃料の発電シェアを徐々に削減するため、原子力と再生可能エネルギーが重要な役割を果たすとしていた。NAPはまた、既存のドコバニとテメリンの両原子力発電所で1基ずつ、可能ならば2基ずつ増設する準備の必要性を指摘。特にドコバニ発電所では、既存の全4基が2035年から2037年の間に運転を終了するため、原子炉の増設を優先的に行うとしている。 「MAF CZ 2019」は、欧州送電系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)が欧州全体の電源状況について取りまとめた「中期適性予測(MAF)」を補完するための、国別報告書となる。同報告書はシナリオA(基本版)とシナリオB(低炭素版)の2つを提示しているが、どちらも2040年までにドコバニ原子力発電所で全4基の運転がすでに終了していると想定。バッテリーや燃料電池等から車両の動力を得る「エレクトロモビリティ」の開発が盛り込まれている。CEPSのM.ドゥルチャク会長によると、これらのシナリオでは既存電源の閉鎖にともない、チェコは2030年以降、少しずつ電力の輸入に頼ることとなり、電力輸出を行っている現状から需給バランスは根本的に変化。2040年までに必要な輸入量はシナリオAで230億kWh、Bでは最大300億kWhに達するとした。これに加えてシナリオAでは、新規電源を増設しなかった場合、「1年間に供給力不足が生じる時間の予測値(LOLE)」が2040年までに合計678時間に達するリスクがある。シナリオBに至っては3,622時間になる危険性さえあり、現状を維持するための十分な電力の確保は決定的に重要な課題となる。これらを踏まえてK.ハブリーチェク副首相兼産業貿易大臣は、「これ以上時間を無駄にしている余裕はなく、チェコがエネルギーを自給し十分な電力供給を確保できるよう、失われる電源を埋め合わせていかねばならない」と述べた。欧州の法制に従い、チェコは2025年から2035年までの期間の「戦略的備蓄」に向けて具体的な準備を進めており、原子力発電設備の建設については明確なスケジュールを設定。これに沿って、ドコバニ発電所における新規原子炉の建設準備作業を集中的に続けるほか、テメリン原子力発電所についても、原子炉の増設に関する協議を5年以内に開始しなければならない。チェコにとって、新たな原子炉の戦略的建設計画は無くては不可欠だと強調している。(参照資料:チェコ産業貿易省(チェコ語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 25 Oct 2019
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ハンガリーのパクシュⅡ期工事で仏独企業連合が自動プロセス制御システム納入へ
ハンガリーでパクシュ原子力発電所5、6号機(Ⅱ期工事)の建設計画を請け負っているロシアの原子力総合企業ロスアトム社は10月22日、同社の子会社を通じて、両炉用の自動プロセス制御システム納入契約を仏フラマトム社と独シーメンス社の企業連合と締結した(=写真)。同建設計画では今年6月、サイトにおける準備作業の一環として補助建屋や事務棟、倉庫など80以上の関係施設の建設工事が始まったが、建設許可はまだ発給されておらず、原子炉系統部分で最初のコンクリート打設が行われるのは早くても2021年になると見られている。仏独の企業連合は今回、競争入札の末に自動プロセス制御システムの製造と納入を請け負っており、このほかに、情報セキュリティ関係の要件遵守など、同システムの認証手続きも実施する。フラマトム社は長年にわたり、ロシアの原子力発電所で自動システム関係のプロジェクトに携わってきたため、計測制御(I&C)系関連で同社が蓄積してきた専門的知見を、欧州で建設されるロシア型PWR(VVER)にも活かしたいと述べた。パクシュ発電所はハンガリー唯一の原子力発電施設で、出力50万kWのVVER(VVER-440)4基により、同国の総発電量の約半分を賄っている。1980年代後半に運転開始したこれらの原子炉は、すでにVVERの公式運転期間である30年が満了、プラス20年の運転期間延長手続が完了している。Ⅱ期工事で建設される第3世代+(プラス)の120万kW級VVER×2基は、最終的にⅠ期工事の4基を代替することになる。ハンガリー政府は2014年1月、この増設計画をロシア政府の融資により実施すると発表。翌月に両国は、総工費の8割に相当する最大100億ユーロ(約1兆2,000億円)の低金利融資について合意した。同年12月には、双方の担当機関が両炉のエンジニアリング・資材調達・建設(EPC)契約など、関連する3つの契約を締結している。実際の建設工事は、ロスアトム社のエンジニアリング部門「ASEエンジニアリング社」が進めていくが、自動プロセス制御システムの機器管理など、パクシュⅡ期工事の全段階における技術管理と統合作業については、ロスアトム社傘下の「ルスアトム自動制御システムズ(RASU)社」が担当。仏独企業連合と結んだ契約も、RASU社のA.ブッコCEOがロシア側を代表して調印しており、欧州の顧客が課される高い要件を確実にクリアできるよう、同企業連合とともに全力を尽くすと述べた。RASU社は原子力発電所の電気工事分野で、自動制御システムや統合工学ソリューションの開発経験を長年にわたって蓄積。パクシュⅡ期工事では、レニングラード原子力発電所Ⅱ期工事のVVER-1200を参考炉とし、自動プロセス制御システムの製造と納入、起動までのプロジェクトを包括的に実施することになる。(参照資料:ロスアトム社、フラマトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月23日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 24 Oct 2019
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GEH社、ポーランドで「BWRX-300」の建設可能性を探るため現地企業と覚書
GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は 10月21日、ポーランドで同社製小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」を建設する可能性を探るため、同国最大の化学素材メーカー「シントス社(Synthos SA)」と協力していくことで合意し、了解覚書を締結したと発表した。シントス社は合成ゴムなどの製造で知られる大手企業で、CO2を排出しない発電技術による電力を需要に応じて適正価格で、信頼性の高い専用電源から得ることに関心を持っている。今回の覚書で両社は具体的に、「BWRX-300」の建設可能性調査をポーランドで共同実施することで合意。また、同国におけるエネルギー部門の近代化や現実性を踏まえた脱炭素化達成など、ポーランドが抱えるエネルギー問題への取組みでSMRが果たす役割に期待をかけるとしている。一方、ポーランド政府は昨年11月、公開協議に付した「2040年までのエネルギー政策(PEP2040)」(ドラフト版)の中で、2033年までに出力100万~150万kWの原子力発電初号機の運転を開始し、その後2043年まで2年毎に、追加で5基(合計出力や600万~900万kW)建設していくと発表。これらの原子力発電設備で、国内電力需要の約10%を賄うとしていた。GEH社の発表によると、「BWRX-300」は自然循環を活用した受動的安全システムなど、画期的な技術を採用した出力30万kWの軽水炉型SMR。2014年に米原子力規制委員会(NRC)から設計認証を受けた第3世代+(プラス)の同社製設計「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」がベースとなっており、原子力産業界で深刻な課題となっているコスト面の対策として、開発設計の全段階を通じてコストが目標内に収まるよう管理するアプローチを採ったという。これにより同設計は、コンバインドサイクル・ガス発電や再生可能エネルギー、その他の発電技術に対しても、コスト面で競争力があるとGEH社は強調。1MWあたりの資本コストも、既存の大型炉やその他の軽水炉型SMRとの比較で最大60%削減するとしており、このようなSMR技術に注目し、ポーランドでクリーン・エネルギーの利用オプションも提唱しているシントス社への期待を述べた。シントス社側も、「クリーンなSMRを活用することで石炭火力から脱却する機会が増し、産業界やポーランド全体に良い影響が出る」とコメントしている。なお、GEH社は今年5月、同設計についてカナダで申請していた許認可申請前ベンダー審査が始まったと発表した。今月初旬には、バルト三国の1つであるエストニアでも同SMRが建設可能かを調査するため、同国のエネルギー企業フェルミ・エネルギア社と協力覚書を締結している。(参照資料:GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、WNAの10月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 23 Oct 2019
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英政府、最終処分場建設プログラムで「国家政策声明書」を発行
英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は10月17日、高レベル放射性廃棄物等の深地層処分インフラ設置に向けたプロセスで、プロジェクトの実施に必要な開発合意書(DCO)の発給審査の基礎となる「国家政策声明書(NPS)」を発行したと発表した。イングランド地方における同インフラ設備(深地層処分場と深地層調査用ボーリング孔)の開発については、BEISが2018年1月から4月にかけてNPSの案文を、建設サイトの選定プロセス提案文書とともに公開協議に付した。得られたコメントを勘案したNPS案文は、同年の夏に議会の上下両院、および関係委員会による精査が完了、今年7月からは改定版が再び議会審議にかけられていた。BEISのN.ザハウィ・ビジネス産業担当相はNPSの発行について、「議会審議プロセスの最終ステップであり、高レベル廃棄物の管理で英国が解決策を見出す重要な節目になる」と指摘。そのような廃棄物を安全・確実に管理するインフラの「必要性」がNPSでは明確に説明されており、計画審査庁が深地層処分インフラの開発でDCOの発給判断を下す際、適切かつ有効な枠組を提供することになるとした。 また、今回のNPSでは2008年の計画法に従い、同NPSが持続可能な開発に貢献するとともに、気候変動の影響緩和と適応、景観等への配慮がなされていることなどを保証する「持続可能性評価(AoS)」の結果と、サイト選定で考慮すべき点などを考慮する「生息環境規制評価(HRA)」の結果が含められた。ザハウィ・ビジネス産業担当相はこれら2点についても最終版を発行し、BEISのウェブサイト上に掲載したことを明らかにした。今回のNPSによると、高レベル廃棄物を深地層処分場で長期的に管理することは、技術的、倫理的および法的側面からも必要なものであり、最良の処分方法であるという点では国際的に圧倒的合意が得られている。その他の処分方法についても検討が行われたが、いくつかの側面で適切でないことが判明。仮に、高レベル廃棄物のいくつかのカテゴリーで他の管理オプションを進めた場合でも、現実的な将来シナリオにおいてはやはり、深地層処分場が必要になるとしている。(参照資料:BEISによる議会声明、発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月17日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 18 Oct 2019
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中国:「華龍一号」を採用した福建省の漳州発電所計画に建設許可が発給
中国の環境保護部は10月9日、中核国電漳州能源公司が「華龍一号」設計を採用して進めている福建省の漳州原子力発電所1、2号機(各PWR、115万kW)建設計画について、国家核安全局(NNSA)が正式に建設許可を発給したと発表した。同サイトでは当初、ウェスチングハウス(WH)社製AP1000が6基建設されることになっていた。しかし、中国が知的財産権を保有する輸出用設計として、中国核工業集団公司(CNNC)と中国広核集団有限公司(CGN)両者の第3世代設計を統合した「華龍一号」をNNSAが2014年に承認した後、中核国電漳州能源公司に51%出資するCNNCが国家能源局に採用設計の変更を申請。I期工事の1、2号機に加えて、Ⅱ期工事の3、4号機、およびⅢ期工事の5、6号機まですべて、「華龍一号」で建設することになった。建設サイトに関しては、NNSAが関連の条例等に基づいて立地申請書を審査しており、2016年10月に環境保護部は環境影響評価(EIA)の結果を提示、立地点として承認すると発表した。この段階ではまだ、AP1000が採用設計になると明記されていたが、中国政府は2017年2月、「華龍一号」を4年計画で標準化するという国家重大プロジェクトの実証実施方案を公表。今年7月には国家能源局が、漳州1、2号機に「華龍一号」を採用した建設計画を、原子力発電所建設プロジェクトとして承認していた。環境保護部の発表によると、漳州1、2号機建設計画は中国の国家的な原子力安全に関する法令、および民生用原子力施設の安全管理に関わる規制などを遵守。発電所の設計原則や安全確保関係の活動についても、中国における原子力安全規制の基本要件を満たしているとした。これらに基づき、1、2号機の建設許可発給を決定したと表明。現地では現在、原子炉安全系統部分で最初のコンクリート打設を行うための準備が進展中だが、必要な調整作業が完了すれば、1号機でコンクリート打設を実施することは可能だとした。また、2号機についても、地盤の準備作業に関する点検と承認を条件に、コンクリートを打設できるとしている。「華龍一号」設計は現在、CNNCが福建省で建設中の福清原子力発電所5、6号機(各PWR、115万kW)、およびCGNが広西省で建設している防城港原子力発電所3、4号機(各PWR、118万kW)に採用されている。どちらも同設計の実証炉プロジェクトという位置づけで、今年から来年頃の完成を目指している。同設計はまた、パキスタンで2015年8月と2016年5月にそれぞれ着工したカラチ2、3号機(各PWR、110万kW)にも採用されており、海外における重要な実証炉プロジェクトとなっている。2号機についてCNNCは今月、主要機器が正常に設置されたことを公表している。(参照資料:環境保護部(中国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月15日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 16 Oct 2019
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原子力発電設備容量のピーク
米国の原子力発電設備容量は2012年の1億200万kWがピークで、それ以降、廃炉となるプラントが出る一方、それに代わる新設はなく設備容量は低下傾向にある。こうした設備容量低下の傾向が今後どうなるかについて以下の3つのシナリオが考えられる。 赤(現状ケース):現在計画されている運転期間延長、あるいは早期の廃炉が計画通り行われた場合 緑(80年延長ケース):早期に廃炉される予定のもの以外の全プラントが80年運転する場合 黄(EIA予測ベース):米国エネルギー情報局(EIA)の2017年版エネルギー展望ベースいずれにせよこうした低下傾向に対しては以下の3点で対策を取っていくことが重要である。 既設発電所の運転をしっかりと維持する 既設発電所の寿命を可能な限り延長する 廃炉分に代わる新規発電所の建設を進める米国の「原子力発電を自由化市場の中で扱う」という今のやり方は本質的に失敗であって、上記3点が実現できるような抜本策が取られなければならない。既設発電所の運転維持米国原子力産業界にとって最も重要かつ喫緊の課題は既設発電所の運転をしっかりと維持することであり、それは産業界大の最優先課題であると捉えるべき事柄である。近年、米国では運転中発電所の経済性が低下しているため、運転期限を待つことなく早期に廃炉にされ、あるいは廃炉が計画されたりするケースが多くあり、そうしたケースは今後さらに増えると予想されている。米国原子力発電所の経済性について公表されている諸報告((ブルームバーグの"The Bloomberg New Energy Finance"(2016 年7月7日刊)の“赤字の原子力“によれば米国で運転中の原子力発電所のうち55%は2016~2019 年期間で利益がでないと予想されている。また"An Environmental Progress article"(2016 年12 月29 日刊)によれば既設原子力発電所の1/4~1/3 は寿命前に早期に廃炉になる可能性があるとされている。))でも経済的理由から早期に廃炉となる発電所があるため、原子力設備容量は近々大きく減少してしまう可能性があることが示されている。原子力発電を自由化電力市場の中で扱うという失敗のために原子力発電所は経済的に窮地に追いやられ、結果として早期に廃炉にされてしまう恐れがある。こうした経済的問題は自由化市場環境下のほとんどの原子力発電所で発生しており、規制下(編集部注:電力市場が自由化されていない規制下州の意味)にある発電所や公営電力の発電所ですら同様の問題が発生するリスクがある。ニューヨーク州やイリノイ州ではゼロ・エミッション・クレジット(ZEC)に基づく原子力への経済支援措置が取られたことから、これら諸州では早期の廃炉をとりあえず防ぐことができた。しかしながら、こうした支援措置も今後、法廷や連邦エネルギー規制委員会(FERC)などで議論となり異議が唱えられる可能性があり、そうした法律上の解釈や規制上の最終判断がどうなるかは未だ不透明である。ニューヨーク州およびイリノイ州の措置は、原子力発電所がゼロ・エミッション電源であることを理由に発電事業者が支払いを受けるものだが、その検討に際してはそれぞれの州における政治的課題、電力規制の在り方、さらには廃炉による地域雇用喪失問題などが議論され措置の決定がなされた。他州において同様の措置が取られるのか、もし取られるとしてもそれが何時になるのかは明確ではない。各州が州固有の課題や懸念事項を抱えており、その政治プロセスもそれぞれで異なる。一部の州(例えばバーモント州)ではむしろ運転期限前の早期に原子力発電所を廃炉に持ち込むことが積極的に検討されており、例えばカリフォルニア州では原子力発電所の早期廃炉、あるいは廃炉を計画することを州としても是認しているように見受けられる。ニューヨーク州およびイリノイ州では、ZECにより6 基の原子力発電所が早期に廃炉に追い込まれることを防ぐことはできたが、その結果、そもそも米国の原子力が直面しているより本質的な市場の失敗問題に対し、抜本的な対策を取る緊急性はむしろ低下することとなってしまった。この市場の失敗問題は米国のほとんどの原子力発電所にとって、依然として大きな課題として残されたままとなっている。既設発電所の可能な限りの運転延長こうした市場の失敗にも拘わらず、米国の原子力発電所が運転継続することができたとして、次に優先度が高い課題として考えるべきことは既設発電所の可能な限りの運転期間延長である。米国原子力発電所のほとんどは当初40年間の運転許可を得て運転を開始したが、多くがその後60年間の運転許可を獲得している。さらにNRCは国内原子力発電所の80年間運転を許可するかどうかについて検討を行っている(最初の図の緑線が相当する)。2018-19年頃には60年までの運転延長に次ぐ2回目の運転延長申請が2件出されると見込まれている。こうした運転延長がなされるかどうかはその原子力発電所が持つ経済性、さらには米国の市場の失敗問題の解決と大いに関係する。許認可申請を行い、運転延長を実現させるための活動を行えば費用がかかるから、当然運転中のプラントの経済性にはマイナスの影響を与える。最悪のケースでは利益を生まないような原子力発電所については運転延長を行わないと事業者が考えることすらあり得る。また既設発電所80年間運転すれば新設原子力発電所を建設するまでの時間を稼ぐことも可能となる。新規発電所の建設米国原子力産業界にとってその次に大事なことは廃炉となる原子力発電所に代わる新規発電所を建設することである。市場の失敗の結果、既設原子力発電所が早期に廃炉に追い込まれてしまえば、それは新規建設計画に対しても非常に大きな悪影響を与えることになる。原子力を市場の中で扱うという米国の今のやり方が抜本的に見直されない限り、米国では新規の原子力発電所が建設される見込みは立たない。既設原子力発電所の運転継続が可能となるよう、米国における市場の失敗への対策が取られるとするなら、それによって同時に新規原子力発電所建設計画に対する投資もまた魅力的なものとなる可能性がある。NRCに提出された建設・運転一括許認可(COL)申請の状況を見ればわかる通り、米国内の新規原子力建設計画の現状はわびしいものでしかない。2発電所4基が建設中:ボーグル、サマー両発電所での各2基増設については既にCOL認可を得て、2007年には州の料金規制当局の承認も獲得し、現在建設中4発電所が認可済だが中断:フェルミ3号、レビィ・カウンティ、サウステキサス・プロジェクト、ウィリアム・ステイツ・リーの4つのプロジェクトはCOL認可を得ているが、いずれも計画中断もしくは取りやめ2発電所が審査中だが見通しなし:ノースアナ3号、ターキーポイントの2つのプロジェクトはCOL審査中だが、出資予定の電力会社が実際に建設するかどうか未定2発電所は保留:コマンチェピークとハリス2基のCOL申請は審査保留8基が申請取り下げ:ベルベンド、ベルフォンテ、キャラウェイ、カルバートクリフス、グランドガルフ、ナインマイルポイント、リバーベンド、ビクトリア・カウンティの計8件のCOL申請取り下げ今後の申請予定はほとんどない:ニュースケール社のアイダホ州でのSMR(小型モジュラー炉)計画が2017年の早い時期にエネルギー省の設計承認レビュー開始予定、2018年にはCOL申請がなされる計画の一件のみ他にも新型原子炉の設計を行っている会社は複数あるが、どれをとっても技術的・経済的な成立可能性、実現時期などは確かなものとなってはいない。もしも仮にCOL認可済みの発電所全てが近々建設を開始するという(とてもありそうにない)仮定を置き、さらにそれらが工期通りに建設を完了したとしても、米国の原子力発電設備容量の低下に歯止めをかけることにはならない。結論米国原子力産業界は衰退の道をたどっている。この傾向に歯止めをかけるには以下が必要である。 既設発電所の運転をしっかりと維持する 既設発電所の寿命を可能な限り延長するさらにそれらに加え、 相当な容量の新規原子力発電所の建設を行うこうしたことを本当に実現させるには、原子力発電を市場の中で扱うという米国がこれまで犯した失敗に対する抜本的な変革が必要である。PDF版
- 28 Feb 2017
- STUDY
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トルコの視点
本稿は、東京のMathyos社のトム・オサリバン氏によるゲスト投稿である。2015年4月2日、日本外国特派員協会(FCCJ)の記者会見でアフメット・ビュレント・メリチ駐日トルコ大使が「中東における最近の動向とトルコの視点」という演題で講演を行った。以下は同会見に出席したオサリバン氏による内容の紹介である。トルコの原子力計画トルコの新規原子力発電プロジェクトでは外国企業が発電所を建設・所有・運転(BOO)することとなっている。そうした計画を促進するに際してはトルコ政府が果たす役割が重要なものとなる。トルコの原子力発電計画におけるBOOは、英国において自由化市場の中で新規原子力を開発する際に採用された方式(例えば、ヒンクリー・ポイントC発電所の方式)と類似している。トルコ方式では、原子力発電所が運転開始した以降の一定の期間、その発電電力量の一定割合については電力売買契約で原子力発電所の所有者からの買電を保証した上で、さらに残りの電力量は所有者がトルコ電力市場で売電し追加で収入を得ることができる。トム・オサリバン氏は、トルコの原子力発電の必要性について説明した駐日トルコ大使による先週の東京での講演内容について以下の通り報告している。トム・オサリバン氏の報告昨日、筆者は記者仲間と共に、FCCJで駐日トルコ大使のアフメット・ビュレント・メリチ氏と過ごす機会に恵まれた。世界のエネルギー供給を考える場合、トルコはエネルギー輸送上、最も重要な経由国の1つであり、この機会はとても喜ばしく時宜を得たものであった。メリチ大使は、中東における地政学的最新状況について講演し、幸いにも、トルコのエネルギー事情、ならびに地中海や欧州への石油・ガス供給の経由国としてトルコが果たす重要な役割について長い時間を割いて話された。大使は駐日大使に就任される前、イスラエル、イラン、およびウクライナで勤務されていた。また駐日バーレーン大使も昨日の会見に出席し議論に参加された。トルコの名目GDPは、日本の5分の1であり、1人当たり名目GDPは、1万1,000ドル(日本の約3分の1)である。日本とトルコ間の年間貿易額は、約40億ドルと、それほど多くない。トルコは、NATOのメンバーである。日本は、トルコに対してこれまで累計約40億ドルの融資・無償資金援助を提供している。トルコの資源別エネルギー消費量は、石油は日量約80万バレル((これは、以前の数字から訂正された))(日本の石油消費量の約4分の1)、天然ガスは年間450億m3(日本の天然ガス消費量の約40%)、また、石炭は年間約1億トン(日本の石炭消費量の約50%)である。以下はトルコのエネルギー開発に関して筆者(トム・オサリバン)が要約したものであり、大使の見解を必ずしも反映していないかもしれない。今週は、以下の3つの理由からトルコにとって極めて重要な週だった。まさに前夜、国連安全保障理事会常任理事国5か国とドイツはイランとの間で原子力・制裁協定を締結した。トルコはイランと500 kmにわたり国境を接しており、イランはトルコの主要な石油・ガス供給国の1つである。この協定によって、イランに対するEU、米国および国連の金融・エネルギー制裁が段階的に撤廃される可能性がある。ブレント原油価格は、今朝すでに2ドル/バレル下がった。トルコは今週、過去数十年で最悪の停電を経験し、イランとの隣接県を除くすべての県が影響を受けた。トルコ議会は今週、黒海沿岸に日仏企業連合の原子炉4基を総額約200億ドルで建設することを承認した。一方ロシアは地中海沿岸に4基の原子炉を総額200億ドルで建設する予定である。これにより新規原子炉建設に関してトルコは中国に次ぐ世界2番目の地位を占めることになる。トルコ東部国境はシリア、イラク、イラン、アルメニア、アゼルバイジャン、グルジアと接しており、西部国境はブルガリア、ギリシャと接している。トルコは地政学的に見て、今最も課題が多く難しい地域に位置している。中東(マグレブを除く)の人口は、3億7,100万人で、1990年から2010年にかけ61%増加しており、人口増加率が世界で最も高い地域の1つである。トルコは現在、170万人のシリア難民を受け入れており、これまでの受け入れ費用は53億ドルに達している。推定ではさらに1,100万のシリア人が大規模な人道的支援を必要としている。トルコは、エネルギー資源に乏しく、国内産の石油・ガスの供給量はわずかであり、石炭資源のほとんどは、無煙炭である。トルコへの主要なエネルギー供給国は、ロシアとイランの2か国であるが、両国とも現在、制裁措置を受けている。トルコは、石油とガスの供給国数を増加させ、民生用原子力発電所を建設し、再生可能エネルギー・ポートフォリオを拡大させることで、エネルギー安全保障を確保向上させ多様化させることを政策目標としている。日本と同様、トルコは地震国であり、原子力施設の建設には様々な課題がある。国内消費用の石油とガスの全量は、ロシア、イラン、およびカスピ海沿岸地域からパイプラインを通して輸入されている。トルコのボスポラス海峡経由で、ロシアとカスピ海沿岸地域から欧州向けに1日当たり約350万バレルの石油がタンカー輸送されている。ボスポラス海峡は、ホルムズ海峡、マラッカ海峡、スエズ運河に次いで世界で4番目に過密な輸送通路である。トルコの地中海港湾都市ジェイハンは引き続き、欧州に輸出される中東の石油とガスの主要な通過地点となっている。クルド人情勢は引き続き、トルコにとって重大な外交上の難題である。EU加盟に関する交渉は続いているが、トルコとEUの双方の関心が薄れてきており、交渉は現在、ウクライナ/クリミア危機によってさらに複雑化している。トルコは引き続き、ロシアによるクリミア侵入に反対している。石油価格の低下はトルコにとって好ましく、これにより中東輸出国は、経済の多角化を促される可能性がある。イラクとシリアの国境は、この地域の歴史的な民族・宗教構成を反映させて今後はもっと柔軟性を持って風通しの良いものにする必要があるかもしれない。お問い合わせ先:Tom O’Sullivan : +1 (202) 370-7713 tomosullivan@mathyos.com PDF版
- 06 Apr 2015
- STUDY