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GEH社、ポーランドで「BWRX-300」の建設可能性を探るため現地企業と覚書
GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は 10月21日、ポーランドで同社製小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」を建設する可能性を探るため、同国最大の化学素材メーカー「シントス社(Synthos SA)」と協力していくことで合意し、了解覚書を締結したと発表した。シントス社は合成ゴムなどの製造で知られる大手企業で、CO2を排出しない発電技術による電力を需要に応じて適正価格で、信頼性の高い専用電源から得ることに関心を持っている。今回の覚書で両社は具体的に、「BWRX-300」の建設可能性調査をポーランドで共同実施することで合意。また、同国におけるエネルギー部門の近代化や現実性を踏まえた脱炭素化達成など、ポーランドが抱えるエネルギー問題への取組みでSMRが果たす役割に期待をかけるとしている。一方、ポーランド政府は昨年11月、公開協議に付した「2040年までのエネルギー政策(PEP2040)」(ドラフト版)の中で、2033年までに出力100万~150万kWの原子力発電初号機の運転を開始し、その後2043年まで2年毎に、追加で5基(合計出力や600万~900万kW)建設していくと発表。これらの原子力発電設備で、国内電力需要の約10%を賄うとしていた。GEH社の発表によると、「BWRX-300」は自然循環を活用した受動的安全システムなど、画期的な技術を採用した出力30万kWの軽水炉型SMR。2014年に米原子力規制委員会(NRC)から設計認証を受けた第3世代+(プラス)の同社製設計「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」がベースとなっており、原子力産業界で深刻な課題となっているコスト面の対策として、開発設計の全段階を通じてコストが目標内に収まるよう管理するアプローチを採ったという。これにより同設計は、コンバインドサイクル・ガス発電や再生可能エネルギー、その他の発電技術に対しても、コスト面で競争力があるとGEH社は強調。1MWあたりの資本コストも、既存の大型炉やその他の軽水炉型SMRとの比較で最大60%削減するとしており、このようなSMR技術に注目し、ポーランドでクリーン・エネルギーの利用オプションも提唱しているシントス社への期待を述べた。シントス社側も、「クリーンなSMRを活用することで石炭火力から脱却する機会が増し、産業界やポーランド全体に良い影響が出る」とコメントしている。なお、GEH社は今年5月、同設計についてカナダで申請していた許認可申請前ベンダー審査が始まったと発表した。今月初旬には、バルト三国の1つであるエストニアでも同SMRが建設可能かを調査するため、同国のエネルギー企業フェルミ・エネルギア社と協力覚書を締結している。(参照資料:GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、WNAの10月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 23 Oct 2019
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英政府、最終処分場建設プログラムで「国家政策声明書」を発行
英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は10月17日、高レベル放射性廃棄物等の深地層処分インフラ設置に向けたプロセスで、プロジェクトの実施に必要な開発合意書(DCO)の発給審査の基礎となる「国家政策声明書(NPS)」を発行したと発表した。イングランド地方における同インフラ設備(深地層処分場と深地層調査用ボーリング孔)の開発については、BEISが2018年1月から4月にかけてNPSの案文を、建設サイトの選定プロセス提案文書とともに公開協議に付した。得られたコメントを勘案したNPS案文は、同年の夏に議会の上下両院、および関係委員会による精査が完了、今年7月からは改定版が再び議会審議にかけられていた。BEISのN.ザハウィ・ビジネス産業担当相はNPSの発行について、「議会審議プロセスの最終ステップであり、高レベル廃棄物の管理で英国が解決策を見出す重要な節目になる」と指摘。そのような廃棄物を安全・確実に管理するインフラの「必要性」がNPSでは明確に説明されており、計画審査庁が深地層処分インフラの開発でDCOの発給判断を下す際、適切かつ有効な枠組を提供することになるとした。 また、今回のNPSでは2008年の計画法に従い、同NPSが持続可能な開発に貢献するとともに、気候変動の影響緩和と適応、景観等への配慮がなされていることなどを保証する「持続可能性評価(AoS)」の結果と、サイト選定で考慮すべき点などを考慮する「生息環境規制評価(HRA)」の結果が含められた。ザハウィ・ビジネス産業担当相はこれら2点についても最終版を発行し、BEISのウェブサイト上に掲載したことを明らかにした。今回のNPSによると、高レベル廃棄物を深地層処分場で長期的に管理することは、技術的、倫理的および法的側面からも必要なものであり、最良の処分方法であるという点では国際的に圧倒的合意が得られている。その他の処分方法についても検討が行われたが、いくつかの側面で適切でないことが判明。仮に、高レベル廃棄物のいくつかのカテゴリーで他の管理オプションを進めた場合でも、現実的な将来シナリオにおいてはやはり、深地層処分場が必要になるとしている。(参照資料:BEISによる議会声明、発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月17日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 18 Oct 2019
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中国:「華龍一号」を採用した福建省の漳州発電所計画に建設許可が発給
中国の環境保護部は10月9日、中核国電漳州能源公司が「華龍一号」設計を採用して進めている福建省の漳州原子力発電所1、2号機(各PWR、115万kW)建設計画について、国家核安全局(NNSA)が正式に建設許可を発給したと発表した。同サイトでは当初、ウェスチングハウス(WH)社製AP1000が6基建設されることになっていた。しかし、中国が知的財産権を保有する輸出用設計として、中国核工業集団公司(CNNC)と中国広核集団有限公司(CGN)両者の第3世代設計を統合した「華龍一号」をNNSAが2014年に承認した後、中核国電漳州能源公司に51%出資するCNNCが国家能源局に採用設計の変更を申請。I期工事の1、2号機に加えて、Ⅱ期工事の3、4号機、およびⅢ期工事の5、6号機まですべて、「華龍一号」で建設することになった。建設サイトに関しては、NNSAが関連の条例等に基づいて立地申請書を審査しており、2016年10月に環境保護部は環境影響評価(EIA)の結果を提示、立地点として承認すると発表した。この段階ではまだ、AP1000が採用設計になると明記されていたが、中国政府は2017年2月、「華龍一号」を4年計画で標準化するという国家重大プロジェクトの実証実施方案を公表。今年7月には国家能源局が、漳州1、2号機に「華龍一号」を採用した建設計画を、原子力発電所建設プロジェクトとして承認していた。環境保護部の発表によると、漳州1、2号機建設計画は中国の国家的な原子力安全に関する法令、および民生用原子力施設の安全管理に関わる規制などを遵守。発電所の設計原則や安全確保関係の活動についても、中国における原子力安全規制の基本要件を満たしているとした。これらに基づき、1、2号機の建設許可発給を決定したと表明。現地では現在、原子炉安全系統部分で最初のコンクリート打設を行うための準備が進展中だが、必要な調整作業が完了すれば、1号機でコンクリート打設を実施することは可能だとした。また、2号機についても、地盤の準備作業に関する点検と承認を条件に、コンクリートを打設できるとしている。「華龍一号」設計は現在、CNNCが福建省で建設中の福清原子力発電所5、6号機(各PWR、115万kW)、およびCGNが広西省で建設している防城港原子力発電所3、4号機(各PWR、118万kW)に採用されている。どちらも同設計の実証炉プロジェクトという位置づけで、今年から来年頃の完成を目指している。同設計はまた、パキスタンで2015年8月と2016年5月にそれぞれ着工したカラチ2、3号機(各PWR、110万kW)にも採用されており、海外における重要な実証炉プロジェクトとなっている。2号機についてCNNCは今月、主要機器が正常に設置されたことを公表している。(参照資料:環境保護部(中国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月15日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 16 Oct 2019
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原子力発電設備容量のピーク
米国の原子力発電設備容量は2012年の1億200万kWがピークで、それ以降、廃炉となるプラントが出る一方、それに代わる新設はなく設備容量は低下傾向にある。こうした設備容量低下の傾向が今後どうなるかについて以下の3つのシナリオが考えられる。 赤(現状ケース):現在計画されている運転期間延長、あるいは早期の廃炉が計画通り行われた場合 緑(80年延長ケース):早期に廃炉される予定のもの以外の全プラントが80年運転する場合 黄(EIA予測ベース):米国エネルギー情報局(EIA)の2017年版エネルギー展望ベースいずれにせよこうした低下傾向に対しては以下の3点で対策を取っていくことが重要である。 既設発電所の運転をしっかりと維持する 既設発電所の寿命を可能な限り延長する 廃炉分に代わる新規発電所の建設を進める米国の「原子力発電を自由化市場の中で扱う」という今のやり方は本質的に失敗であって、上記3点が実現できるような抜本策が取られなければならない。既設発電所の運転維持米国原子力産業界にとって最も重要かつ喫緊の課題は既設発電所の運転をしっかりと維持することであり、それは産業界大の最優先課題であると捉えるべき事柄である。近年、米国では運転中発電所の経済性が低下しているため、運転期限を待つことなく早期に廃炉にされ、あるいは廃炉が計画されたりするケースが多くあり、そうしたケースは今後さらに増えると予想されている。米国原子力発電所の経済性について公表されている諸報告((ブルームバーグの"The Bloomberg New Energy Finance"(2016 年7月7日刊)の“赤字の原子力“によれば米国で運転中の原子力発電所のうち55%は2016~2019 年期間で利益がでないと予想されている。また"An Environmental Progress article"(2016 年12 月29 日刊)によれば既設原子力発電所の1/4~1/3 は寿命前に早期に廃炉になる可能性があるとされている。))でも経済的理由から早期に廃炉となる発電所があるため、原子力設備容量は近々大きく減少してしまう可能性があることが示されている。原子力発電を自由化電力市場の中で扱うという失敗のために原子力発電所は経済的に窮地に追いやられ、結果として早期に廃炉にされてしまう恐れがある。こうした経済的問題は自由化市場環境下のほとんどの原子力発電所で発生しており、規制下(編集部注:電力市場が自由化されていない規制下州の意味)にある発電所や公営電力の発電所ですら同様の問題が発生するリスクがある。ニューヨーク州やイリノイ州ではゼロ・エミッション・クレジット(ZEC)に基づく原子力への経済支援措置が取られたことから、これら諸州では早期の廃炉をとりあえず防ぐことができた。しかしながら、こうした支援措置も今後、法廷や連邦エネルギー規制委員会(FERC)などで議論となり異議が唱えられる可能性があり、そうした法律上の解釈や規制上の最終判断がどうなるかは未だ不透明である。ニューヨーク州およびイリノイ州の措置は、原子力発電所がゼロ・エミッション電源であることを理由に発電事業者が支払いを受けるものだが、その検討に際してはそれぞれの州における政治的課題、電力規制の在り方、さらには廃炉による地域雇用喪失問題などが議論され措置の決定がなされた。他州において同様の措置が取られるのか、もし取られるとしてもそれが何時になるのかは明確ではない。各州が州固有の課題や懸念事項を抱えており、その政治プロセスもそれぞれで異なる。一部の州(例えばバーモント州)ではむしろ運転期限前の早期に原子力発電所を廃炉に持ち込むことが積極的に検討されており、例えばカリフォルニア州では原子力発電所の早期廃炉、あるいは廃炉を計画することを州としても是認しているように見受けられる。ニューヨーク州およびイリノイ州では、ZECにより6 基の原子力発電所が早期に廃炉に追い込まれることを防ぐことはできたが、その結果、そもそも米国の原子力が直面しているより本質的な市場の失敗問題に対し、抜本的な対策を取る緊急性はむしろ低下することとなってしまった。この市場の失敗問題は米国のほとんどの原子力発電所にとって、依然として大きな課題として残されたままとなっている。既設発電所の可能な限りの運転延長こうした市場の失敗にも拘わらず、米国の原子力発電所が運転継続することができたとして、次に優先度が高い課題として考えるべきことは既設発電所の可能な限りの運転期間延長である。米国原子力発電所のほとんどは当初40年間の運転許可を得て運転を開始したが、多くがその後60年間の運転許可を獲得している。さらにNRCは国内原子力発電所の80年間運転を許可するかどうかについて検討を行っている(最初の図の緑線が相当する)。2018-19年頃には60年までの運転延長に次ぐ2回目の運転延長申請が2件出されると見込まれている。こうした運転延長がなされるかどうかはその原子力発電所が持つ経済性、さらには米国の市場の失敗問題の解決と大いに関係する。許認可申請を行い、運転延長を実現させるための活動を行えば費用がかかるから、当然運転中のプラントの経済性にはマイナスの影響を与える。最悪のケースでは利益を生まないような原子力発電所については運転延長を行わないと事業者が考えることすらあり得る。また既設発電所80年間運転すれば新設原子力発電所を建設するまでの時間を稼ぐことも可能となる。新規発電所の建設米国原子力産業界にとってその次に大事なことは廃炉となる原子力発電所に代わる新規発電所を建設することである。市場の失敗の結果、既設原子力発電所が早期に廃炉に追い込まれてしまえば、それは新規建設計画に対しても非常に大きな悪影響を与えることになる。原子力を市場の中で扱うという米国の今のやり方が抜本的に見直されない限り、米国では新規の原子力発電所が建設される見込みは立たない。既設原子力発電所の運転継続が可能となるよう、米国における市場の失敗への対策が取られるとするなら、それによって同時に新規原子力発電所建設計画に対する投資もまた魅力的なものとなる可能性がある。NRCに提出された建設・運転一括許認可(COL)申請の状況を見ればわかる通り、米国内の新規原子力建設計画の現状はわびしいものでしかない。2発電所4基が建設中:ボーグル、サマー両発電所での各2基増設については既にCOL認可を得て、2007年には州の料金規制当局の承認も獲得し、現在建設中4発電所が認可済だが中断:フェルミ3号、レビィ・カウンティ、サウステキサス・プロジェクト、ウィリアム・ステイツ・リーの4つのプロジェクトはCOL認可を得ているが、いずれも計画中断もしくは取りやめ2発電所が審査中だが見通しなし:ノースアナ3号、ターキーポイントの2つのプロジェクトはCOL審査中だが、出資予定の電力会社が実際に建設するかどうか未定2発電所は保留:コマンチェピークとハリス2基のCOL申請は審査保留8基が申請取り下げ:ベルベンド、ベルフォンテ、キャラウェイ、カルバートクリフス、グランドガルフ、ナインマイルポイント、リバーベンド、ビクトリア・カウンティの計8件のCOL申請取り下げ今後の申請予定はほとんどない:ニュースケール社のアイダホ州でのSMR(小型モジュラー炉)計画が2017年の早い時期にエネルギー省の設計承認レビュー開始予定、2018年にはCOL申請がなされる計画の一件のみ他にも新型原子炉の設計を行っている会社は複数あるが、どれをとっても技術的・経済的な成立可能性、実現時期などは確かなものとなってはいない。もしも仮にCOL認可済みの発電所全てが近々建設を開始するという(とてもありそうにない)仮定を置き、さらにそれらが工期通りに建設を完了したとしても、米国の原子力発電設備容量の低下に歯止めをかけることにはならない。結論米国原子力産業界は衰退の道をたどっている。この傾向に歯止めをかけるには以下が必要である。 既設発電所の運転をしっかりと維持する 既設発電所の寿命を可能な限り延長するさらにそれらに加え、 相当な容量の新規原子力発電所の建設を行うこうしたことを本当に実現させるには、原子力発電を市場の中で扱うという米国がこれまで犯した失敗に対する抜本的な変革が必要である。PDF版
- 28 Feb 2017
- STUDY
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トルコの視点
本稿は、東京のMathyos社のトム・オサリバン氏によるゲスト投稿である。2015年4月2日、日本外国特派員協会(FCCJ)の記者会見でアフメット・ビュレント・メリチ駐日トルコ大使が「中東における最近の動向とトルコの視点」という演題で講演を行った。以下は同会見に出席したオサリバン氏による内容の紹介である。トルコの原子力計画トルコの新規原子力発電プロジェクトでは外国企業が発電所を建設・所有・運転(BOO)することとなっている。そうした計画を促進するに際してはトルコ政府が果たす役割が重要なものとなる。トルコの原子力発電計画におけるBOOは、英国において自由化市場の中で新規原子力を開発する際に採用された方式(例えば、ヒンクリー・ポイントC発電所の方式)と類似している。トルコ方式では、原子力発電所が運転開始した以降の一定の期間、その発電電力量の一定割合については電力売買契約で原子力発電所の所有者からの買電を保証した上で、さらに残りの電力量は所有者がトルコ電力市場で売電し追加で収入を得ることができる。トム・オサリバン氏は、トルコの原子力発電の必要性について説明した駐日トルコ大使による先週の東京での講演内容について以下の通り報告している。トム・オサリバン氏の報告昨日、筆者は記者仲間と共に、FCCJで駐日トルコ大使のアフメット・ビュレント・メリチ氏と過ごす機会に恵まれた。世界のエネルギー供給を考える場合、トルコはエネルギー輸送上、最も重要な経由国の1つであり、この機会はとても喜ばしく時宜を得たものであった。メリチ大使は、中東における地政学的最新状況について講演し、幸いにも、トルコのエネルギー事情、ならびに地中海や欧州への石油・ガス供給の経由国としてトルコが果たす重要な役割について長い時間を割いて話された。大使は駐日大使に就任される前、イスラエル、イラン、およびウクライナで勤務されていた。また駐日バーレーン大使も昨日の会見に出席し議論に参加された。トルコの名目GDPは、日本の5分の1であり、1人当たり名目GDPは、1万1,000ドル(日本の約3分の1)である。日本とトルコ間の年間貿易額は、約40億ドルと、それほど多くない。トルコは、NATOのメンバーである。日本は、トルコに対してこれまで累計約40億ドルの融資・無償資金援助を提供している。トルコの資源別エネルギー消費量は、石油は日量約80万バレル((これは、以前の数字から訂正された))(日本の石油消費量の約4分の1)、天然ガスは年間450億m3(日本の天然ガス消費量の約40%)、また、石炭は年間約1億トン(日本の石炭消費量の約50%)である。以下はトルコのエネルギー開発に関して筆者(トム・オサリバン)が要約したものであり、大使の見解を必ずしも反映していないかもしれない。今週は、以下の3つの理由からトルコにとって極めて重要な週だった。まさに前夜、国連安全保障理事会常任理事国5か国とドイツはイランとの間で原子力・制裁協定を締結した。トルコはイランと500 kmにわたり国境を接しており、イランはトルコの主要な石油・ガス供給国の1つである。この協定によって、イランに対するEU、米国および国連の金融・エネルギー制裁が段階的に撤廃される可能性がある。ブレント原油価格は、今朝すでに2ドル/バレル下がった。トルコは今週、過去数十年で最悪の停電を経験し、イランとの隣接県を除くすべての県が影響を受けた。トルコ議会は今週、黒海沿岸に日仏企業連合の原子炉4基を総額約200億ドルで建設することを承認した。一方ロシアは地中海沿岸に4基の原子炉を総額200億ドルで建設する予定である。これにより新規原子炉建設に関してトルコは中国に次ぐ世界2番目の地位を占めることになる。トルコ東部国境はシリア、イラク、イラン、アルメニア、アゼルバイジャン、グルジアと接しており、西部国境はブルガリア、ギリシャと接している。トルコは地政学的に見て、今最も課題が多く難しい地域に位置している。中東(マグレブを除く)の人口は、3億7,100万人で、1990年から2010年にかけ61%増加しており、人口増加率が世界で最も高い地域の1つである。トルコは現在、170万人のシリア難民を受け入れており、これまでの受け入れ費用は53億ドルに達している。推定ではさらに1,100万のシリア人が大規模な人道的支援を必要としている。トルコは、エネルギー資源に乏しく、国内産の石油・ガスの供給量はわずかであり、石炭資源のほとんどは、無煙炭である。トルコへの主要なエネルギー供給国は、ロシアとイランの2か国であるが、両国とも現在、制裁措置を受けている。トルコは、石油とガスの供給国数を増加させ、民生用原子力発電所を建設し、再生可能エネルギー・ポートフォリオを拡大させることで、エネルギー安全保障を確保向上させ多様化させることを政策目標としている。日本と同様、トルコは地震国であり、原子力施設の建設には様々な課題がある。国内消費用の石油とガスの全量は、ロシア、イラン、およびカスピ海沿岸地域からパイプラインを通して輸入されている。トルコのボスポラス海峡経由で、ロシアとカスピ海沿岸地域から欧州向けに1日当たり約350万バレルの石油がタンカー輸送されている。ボスポラス海峡は、ホルムズ海峡、マラッカ海峡、スエズ運河に次いで世界で4番目に過密な輸送通路である。トルコの地中海港湾都市ジェイハンは引き続き、欧州に輸出される中東の石油とガスの主要な通過地点となっている。クルド人情勢は引き続き、トルコにとって重大な外交上の難題である。EU加盟に関する交渉は続いているが、トルコとEUの双方の関心が薄れてきており、交渉は現在、ウクライナ/クリミア危機によってさらに複雑化している。トルコは引き続き、ロシアによるクリミア侵入に反対している。石油価格の低下はトルコにとって好ましく、これにより中東輸出国は、経済の多角化を促される可能性がある。イラクとシリアの国境は、この地域の歴史的な民族・宗教構成を反映させて今後はもっと柔軟性を持って風通しの良いものにする必要があるかもしれない。お問い合わせ先:Tom O’Sullivan : +1 (202) 370-7713 tomosullivan@mathyos.com PDF版
- 06 Apr 2015
- STUDY
