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原子力機構、「ポストコロナ時代の核不拡散・核セキュリティ」で国際フォーラム
日本原子力研究開発機構は12月15日、「ポストコロナ時代の核不拡散・核セキュリティ」と題する国際フォーラムをオンラインにて開催。昨今の新型コロナパンデミックによる核不拡散・核セキュリティへの影響を踏まえ、技術開発、人材確保、国際協力の課題について議論した。議論に先立ち、IAEAがパンデミック下においても原子力の平和利用を担保するための保障措置活動を進めてきた経緯について、IAEA保障措置局プログラム調整課長のマリク・デロー氏が、マッシモ・アパロ同事務次長の代読で講演。デロー氏は、新型コロナ拡大に伴い、一部の国では国境封鎖も行われ、申告された核物質の平和利用からの転用や未申告の活動がないことを確認する「検認」が困難となり、「IAEAの保障措置活動に大きなインパクトを及ぼした」と述べた。締約国内での査察官の滞在や施設の立入りにも多くの制約が生じ、航空便が多数欠航となったためIAEA発足以来初のチャーター機契約により経費が増加したとする一方、遠隔モニタリング機器の活用や、新任査察官に対するリモート研修の実施などにより活動が支えられたことをあげ、「過去20年間で遠隔システムに投資してきたことが大きな効果を発揮した」と強調。同氏は、グロッシー事務局長の発言「困難な状況においてもIAEAは1分たりとも検認活動を中断することはない」を引用し、IAEAの原子力平和利用の担保に対する強い姿勢を改めて述べた上で、「努力することにより実効力ある形で保障措置を実施することができた」と、これまでの活動を総括した。続くパネルディスカッションでは、デロー氏に加え、原子力機構核不拡散・核セキュリティ総合支援センター副センター長の堀雅人氏(モデレーター)、原子力規制庁保障措置室長の寺崎智宏氏、韓国核不拡散物質管理院核不拡散担当事務局長のナー・ヨン・リー氏、東京工業大学科学技術創成研究院准教授の相樂洋氏、東京工業大学環境・社会理工学院博士課程の三星夏海氏が登壇。寺崎氏は、六ヶ所再処理工場での査察体制を例にあげながら日本におけるIAEA保障措置活動について紹介した。新型コロナ拡大下での国内関係者の対応としては、感染リスクを回避するための2グループ分けやガイドライン作成などをあげた上で、IAEA東京地域事務所を拠点としたコミュニケーションの重要性を強調。リー氏は、韓国の取組として、査察官の入国円滑化、政府の感染症対応に関する情報提供など、IAEAの保障措置活動に対するサポート体制について紹介した上で、将来起こりうるパンデミックに常に備えておく必要性を述べた。また、革新炉開発を巡る核不拡散・核セキュリティの課題に関して、相樂氏は、洋上設置を見込み構想される中小型炉「浮体式原子炉」を例に、陸上設置の施設とは異なるテロ対策や人員のアクセス性の検討が必要となることを指摘。核不拡散・核セキュリティに関する教育については、三星氏が前日に行われた同フォーラム学生セッションによる提言に基づき発表。その中で、「初等中等教育では原爆や福島第一原子力発電所事故のような原子力のネガティブな面だけが教えられがち」との懸念から、まずは核不拡散・核セキュリティの重要性を知ってもらうきっかけとして、「放射線利用など、原子力のポジティブな部分を知る機会を提供すべき」といった学生からの意見を紹介した。この他、原子力に関する大学教育の体系化とともに、既存の防災教育・実習の拡充や学園祭企画などを通じた啓発の可能性にも言及した。
- 24 Dec 2021
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原子力機構報告会でトークセッション、宇宙開発での技術応用に期待
日本原子力研究開発機構は11月18日、都内のホールで報告会を開催(オンライン併用)。最近の研究成果の紹介に続き、「新原子力×無限大 我々はまだ原子力の可能性の一部しか利用していない」と題するトークセッションでは、宇宙開発分野での原子力技術に対する期待などが語られた。原子力機構の児玉敏雄理事長は、報告会の開催挨拶で、2022~28年度の7年間(法令で策定が求められる中長期目標の期間)に向け、「“新原子力”の実現に向けた挑戦」を標榜。「エネルギー分野以外への成果の応用を積極的に推進し、産業界への橋渡しを行う」とし、一例として、廃棄豚骨を原料とした高性能なストロンチウム吸着材の研究開発を紹介。ラーメン好きの研究者が豚骨の持つ金属吸着メカニズムに着目して取り組んだもので、身近な素材を利用し、食品廃棄物の減容はもとより、環境浄化や有用金属の回収にも応用できる可能性から注目を集めた。トークセッションには、山口彰氏(東京大学大学院工学系研究科教授、モデレーター)、神田玲子氏(量子科学技術研究開発機構放射線医学研究所副所長)、永松愛子氏(宇宙航空研究開発機構〈JAXA〉研究開発部門)、大井川宏之氏(原子力機構理事)が登壇。折しも報告会の翌日19日にJAXAは13年ぶりとなる宇宙飛行士の公募を発表しているが、国際宇宙探査に向けた宇宙放射線計測・遮蔽防護研究に取り組む永松氏はまず、9日に国際宇宙ステーションでの199日間の滞在を終えた星出彰彦宇宙飛行士の活躍を紹介。最近の宇宙開発の動きとして、7~9月に米国企業が高度100kmの弾道飛行による数分間の無重力体験ミッションや民間人だけの地球周回宇宙旅行に成功したことをあげ、「今年は民間宇宙旅行幕開けの年といえる」とした。「今後は100人単位で1週間程度での月旅行ミッションも計画されており、さらに多くの人が宇宙に行く可能性がある」と展望し、同氏は、より身近なものとなる宇宙放射線に関して、宇宙飛行士の網膜に荷電粒子が入り閃光を感じる「アイフラッシュ」現象、宇宙船の設計や搭載する機器・部品の放射線耐性評価が必須であることをあげ、「宇宙開発を前進させるために必ず克服しなければならない課題だ」と強調。小惑星探査機「はやぶさ2」(文科省発表資料より引用)原子力機構への期待として、永松氏は、大強度陽子加速器施設「J-PARC」の活用をあげた。同施設の物質・生命科学実験施設(MLF)では、2020年12月に小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから採取したサンプルの元素組成分析が行われている。同氏は、こうしたサンプルリターンのプロジェクトが、2024年度に打上げを予定するJAXAの火星衛星探査計画「MMX」以外にも、各国で計画されていることから、「宇宙開発において元素組成分析の需要はますます高まる」とした。また、放射線防護研究や放射線リスク認知調査に取り組む神田氏は、放射線治療の向上や理解促進に向けて、個々人の線量評価の精緻化を図るべく、原子力機構が加速器設計を機に開発した線量評価コード「PHITS」(Particle and Heavy Ion Transport code System)に関する協働に期待。「PHITS」は、航空機の運航管理における太陽フレアに伴う被ばく線量予測など、幅広い分野で用いられている。原子力機構理事として原子力科学研究部門や人材育成などを所掌する大井川氏は、「活かせる施設、技術はまだたくさんある」と述べ、研究成果の社会実装に向けて、他分野との交流を図る重要性を強調。山口氏は、「1955年に原子力基本法ができてから60数年。他の色々な技術も芽生えて60年というのはまだ発展途上の段階」と述べ、さらなる原子力のポテンシャル向上を期待しセッションを締めくくった。
- 01 Dec 2021
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原子力機構他、高性能免震オイルダンパを開発
日本原子力研究開発機構は9月7日、三菱FBRシステムズ、大林組、川金コアテックとともに従来より2倍以上の速さの地震動に対応可能な高性能免震オイルダンパを開発したと発表した。原子力機構が取り組む高速炉開発において、原子炉建屋への免震システムを開発する中で得られた成果。〈原子力機構発表資料は こちら〉高速炉開発については、2018年に原子力関係閣僚会議が向こう10年程度の開発作業を示した「戦略ロードマップ」を策定。ナトリウム冷却高速炉の国際的実績を踏まえ、技術的知見を有する原子力機構が中心に研究開発・人材育成を図っていくとされた。また、三菱FBRシステムズは、2006年に原子力委員会が提示した高速増殖炉サイクルの研究開発に関する基本方針に基づき、三菱重工業により設立された高速炉開発の専門企業で、今回、免震システムや原子炉建屋の設計を担い、大林組と川金コアテックは試験体の製作・データ分析や建屋設計・評価などを行った。高速炉の3次元免震システムのイメージ、オイルダンパの減衰機能で水平方向の変位を積層ゴムの支持機能・復元機能の範囲内に抑制(原子力機構発表資料より引用)原子力機構によると、高速炉は冷却材の沸点が高い特徴を活かして熱効率を向上させるため、機器設計において、低温から高温の広い温度使用条件に対する耐熱の観点では、構造物の厚さが薄肉構造となり、一方で、機器に作用する地震荷重に対する耐震の観点では、逆に厚肉構造となる傾向にある。これを踏まえ、より厳しい地震動を想定し薄肉構造でも耐震設計が成立するよう、水平方向のみならず鉛直方向にも免震効果を発揮する3次元免震システムの導入が検討されてきた。今回の成果は、3次元免震システムの機能のうち、減衰機能(地震の揺れを抑える機能)を担うオイルダンパの性能向上に向け、安定した油圧回路を内蔵することで、現在流通しているものに比べ同等の形状で約2倍以上の許容速度(オイルダンパの性能が確保できる最大の応答速度、免震効果の一指標)を持つ高性能オイルダンパを開発したもの。本システムは精密機器工場やデータセンターなどへの利用も期待されており、記者説明を行った原子力機構高速炉・新型炉研究開発部門研究副主幹の山本智彦氏は、今後、国土交通省の認可に向け実証を進める考えとともに、「高い安全性が要求される原子力分野での裕度向上に向けて開発した技術が他産業にも波及する」意義を強調した。激しい衝撃を抑えるオイルダンパは、運輸関連で1960年代にデビューした名鉄特急「パノラマカー」での採用が知られている。
- 07 Sep 2021
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原子力機構の高温ガス炉「HTTR」が運転再開
日本原子力研究開発機構の高温工学試験研究炉「HTTR」(茨城県大洗町、高温ガス炉、熱出力3万kW)が7月30日、10年半ぶりに運転を再開。2011年初頭の第13サイクル運転終了後、東日本大震災を挟み、新規制基準対応に伴い停止していた。〈原子力機構発表資料は こちら〉原子力機構では、「HTTR」の再開に向けて、2014年9月の試験研究炉「JRR-3」に続き、同年11月に新規制基準適合性に係る審査を原子力規制委員会に申請。「HTTR」は2020年6月に原子炉設置変更許可に至った後、安全対策工事が行われ、2021年7月に入り原子炉起動までに実施すべき検査を終了しこのほど運転再開となった。今後は、運転状態において原子炉の性能を確認するための検査を順次実施し、9月末には原子炉出力100%の状態での最終検査を行い本格運転となる予定。高温ガス炉技術に関しては各国で開発が加速しており、日本も国際協力を推進しているが(文部科学省高温ガス炉技術開発作業部会資料 参照)、「HTTR」運転再開後はまず、2009年から実施されているOECD/NEAの安全性実証試験プロジェクト「炉心強制冷却喪失共同試験」を速やかに再開。2010年の低出力(30%)下による炉心流量喪失試験で「制御棒を挿入せず、冷却せずに、物理現象のみで、原子炉が自然に静定・冷却されることを確証」した成果を踏まえ、より厳しい条件を付加した試験を段階的に進め、高温ガス炉に関する安全基準の国際標準化にも貢献していく。高温ガス炉は水素製造などの多様な産業利用の可能性が期待されている。一方で、水の熱分解反応による水素製造「ISプロセス」では強酸が介在することから、耐腐食性の機器開発も課題だ。原子力機構の高温ガス炉研究開発センターが説明した熱利用試験計画によると、こうした基盤技術を確立させ、2030年までに「HTTR」と水素製造施設の接続技術を開発するとしている。高温ガス炉開発に関しては、原子力産業分野の取組の一つとして、「2050年カーボンニュートラル」に伴うグリーン成長戦略で、「2030年までに大量かつ安価なカーボンフリー水素製造に必要な技術開発を支援していく」とされているほか、7月21日に資源エネルギー庁が示した次期エネルギー基本計画の素案でも水素社会実現に寄与する有望性を述べている。「HTTR」の運転再開を受け、萩生田光一文部科学相は、「各種試験が順調に進み、高温ガス炉に関する技術が蓄積され、『HTTR』を活用した水素製造に係る要素技術開発を始め、各種分野への応用に向けた取組が進展することを期待」との談話を発表。梶山弘志経済産業相もメッセージを寄せ、高温ガス炉が産業分野の脱炭素に資する可能性を述べた上で、「カーボンニュートラルに向けた取組が進展することを期待」としている。
- 30 Jul 2021
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原子力機構敦賀センターが報告会を配信中、廃炉技術開発他
日本原子力研究開発機構の敦賀総合研究開発センターは、廃炉作業に必要なレーザー応用技術や将来の高速炉のための研究開発、産学官連携の取組について紹介する報告会のオンデマンド配信を7月7日より開始した。21日までインターネット上で視聴できる。〈報告会視聴は こちら〉同機構の「ふげん」、「もんじゅ」を始め、福井県内には、廃止措置が進められている原子力プラントが複数存在し、その保守・補修を支えてきた地元企業には多くの経験・ノウハウが蓄積されている。原子力機構では、廃止措置ビジネスの確立と関連企業群の育成を図るべく、文部科学省の事業の一環として「ふくいスマートデコミッショニング技術実証拠点」(スマデコ)を2018年より運用開始。スマデコには、複合現実感(MR)システムや実環境を模擬するモックアップを備えた廃炉技術に関する試験・訓練フィールド、企業交流スペースなどが整備されており、先般IAEAが実施した廃止措置分野の国際レビューでも高く評価されている。「ふげん」の原子炉水中遠隔解体のイメージ(原子力機構ホームページより引用)今回の報告会では、スマデコでの研究事例として、若狭湾エネルギー研究センター主幹技師の前田敏男氏が「ふげん」廃炉に関わる「水中レーザー切断と気中粉じん移行動向の調査」について発表。新型転換炉原型炉としてMOX燃料利用の実績を積んだ「ふげん」は、2033年度までの工程で廃止措置が進められており、2022年度からは「原子炉本体解体撤去」の段階に入る計画だ。原子炉本体の解体は、汚染拡大防止や被ばく低減の観点から、原子炉本体の上部に解体用プールを設置し水中で遠隔操作により行う。前田氏が発表を行ったレーザー切断工法については、今後の軽水炉の廃止措置にも適用できるよう、気中・水中切断技術の確立に向け技術開発が継続されている。約25年間の運転により放射化した「ふげん」原子炉の構造材解体に際し、同氏は「レーザー切断時には放射性の粉じんなどの粒子性物質が発生することから、事前にそれらの挙動データを取得することが重要」と、今回実施した調査研究の意義を強調。遠隔水中ロボット(マニピュレータ)を常設した高さ約10.5mの円筒型プール(試験水槽)で、「ふげん」の構造材を模した試験体を用いて水中レーザー切断に係るデータを取得・解析した結果、レーザー照射ヘッドの小型・軽量化や、切断方向を変えることで切断幅が直進し半減するなど、切断時の安定性向上が図られたとしている。この他、高速炉の関連では、冷却材に用いられるナトリウムの応用に関し、福岡大学理学部教授の武末尚久氏が、力学的振動を電気に変換するクリーンエネルギー「振動発電」の低コスト化につながる「ナトリウム含有ペロブスカイト型圧電セラミックス」の研究について発表。また、シマノ社長の嶋野寛之氏は、狭あいな廃炉現場での放射線マップデータ収集に資する放射線観測用ロボットの開発成果を紹介。凹凸面上での安定した移動力に着目し、自在に歩行できる「多脚ロボット」(クモ型)を試作した同氏は、「くぐり抜け」、「またぎ抜け」、「昇降移動」や、転倒からの復帰といった様々な姿勢・モーションの試行を披露した。
- 08 Jul 2021
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原子力機構のバックエンド対策でIAEAによるレビュー結果が公表
IAEAは6月22日、日本原子力研究開発機構のバックエンド対策に関する国際的レビュー「ARTEMIS」(4月12~22日)の結果を公表した。原子力機構が2018年に策定した79施設の廃止措置、廃棄物処理・処分、核燃料物質の管理、これらに要する費用などを取りまとめた「バックエンドロードマップ」に対し評価が行われたもの。それによると、「原子力機構は将来にわたる廃止措置の方向性を確立するとともに、直面する課題もはっきり示したロードマップを作成した」などと評価した上で、さらなる改善に向けた助言を示している。「ARTEMIS」はIAEAが加盟国からの要請に基づき原子力施設の廃止措置にフォーカスしたレビューを実施する専門家チーム。核燃料サイクルの技術開発に貢献した東海再処理施設は廃止措置に約70年を要するなど、原子力機構のバックエンド対策は長期に及び、全体の費用は約1.9兆円と試算されている。現在、同機構において、東海再処理施設、高速増殖原型炉「もんじゅ」、新型転換炉「ふげん」の3つの主要施設に廃止措置プロジェクトが集中している状況下、「ARTEMIS」チームは、廃止措置戦略全体でリスク軽減や費用削減に向けた優先順位付けが図られていることを確認。一方で、放射性廃棄物管理の計画に関して、事業に遅れが生じた場合の貯蔵施設不足を課題として指摘し、「処分施設の利用可能性と廃棄物貯蔵管理能力を合わせて評価した明確な戦略を示すべき」と助言した。また、今回のレビュー結果では優良事例として、様々な炉型の原子炉を立地する福井県の強みを活かし地元産業の廃止措置に関する技術を支援する「ふくいスマートデコミッショニング技術実証拠点」(スマデコ、敦賀市)を評価。スマデコでは、「廃止措置解体技術検証」、「レーザー加工高度化」、「廃止措置モックアップ試験」の3つの試験・訓練フィールド、企業交流スペースを整備しており、熟練者の「勘」を再現するロボット制御システムの開発などが成果をあげている。
- 24 Jun 2021
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原子力機構「JRR-3」が運転再開
日本原子力研究開発機構は2月26日、研究炉「JRR-3」(東海村、最大熱出力20MW)が運転を再開したと発表した。同施設は、2018年11月に約4年間の審査期間を経て新規制基準適合性に係る原子炉設置変更許可を取得。その後、建屋の耐震改修工事などを完了し、最終段階となる定期事業者検査に合格となったもの。本格的な供用運転開始は6月末を予定している。〈原子力機構発表資料は こちら〉「JRR―3」は、1962年に初の国産研究炉として建設され、日本の原子力の草創期を支える多くの研究活動に寄与。最盛期の2008年度は年間の延べ利用日数(中性子ビーム実験装置数×運転日数)が5,270日にまで達した。旧原研・動燃が統合し原子力機構が発足した2005年度以降は、産業利用が急増。供用実験に占める産業利用の割合は2010年度で約35%となっている。利用分野は、原子炉燃料・材料の照射試験、医療用ラジオアイソトープの製造、シリコン半導体の製造など多岐に及ぶ。2010年11月に定期検査に伴い「JRR―3」は停止。以降、東日本大震災を経て、新規制基準への対応が図られてきたが、中性子利用に係るニーズを受け、2017年に日本学術会議が「大強度陽子加速器施設『J-PARC』だけではとてもすべてをカバーできるものではなく、研究炉の役割は非常に大きい」との提言を発表するなど、産業利用のツール、人材育成の場として、早期の運転再開が求められていた。原子力機構は、「JRR-3」の運転再開により「多彩な研究者・技術者が集まる科学探求・イノベーション創出の場を提供できる」と期待を寄せ、「安全確保の徹底を大前提に、立地地域の皆様の理解を得ながら、研究開発を通じて地域・社会に貢献できるよう取り組んでいく」としている。
- 26 Feb 2021
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文科省作業部会、原子力機構の中長期目標に関し原産協会他よりヒア
文部科学省の原子力研究開発・基盤・人材作業部会(主査=山口彰・東京大学大学院工学系研究科教授)は2月10日、日本原子力研究開発機構の中長期事業目標(2015~21年度)の変更に関し、日本原子力産業協会と日本電機工業会よりヒアリングを行った。中長期目標の変更は、独立行政法人の目標策定に関する政府指針の改訂などに伴うもので、新たな中長期目標案には、人材確保・育成やイノベーション創出に向けた取組が追加記載されている。同機構を所管する一行政庁として文科省は、同作業部会で9日の電気事業連合会、日本原子力学会、原子力規制庁に続きヒアリングを実施した。10日の会合で、原産協会からは、人材育成部長の喜多智彦氏が産学官連携のプラットフォーム「原子力人材育成ネットワーク」の共同事務局を原子力機構とともに務める立場から説明。同氏は、研究開発と人材育成は「表裏一体」の関係にあるとし、効果的・効率的に進められるよう「協力と連携」をキーワードに掲げた。今後、革新炉・小型モジュール炉(SMR)などの研究開発に向け、「産官学連携研究開発プラットフォーム」のような仕組みが必要であるとし、原子力機構にその中核となる機能を期待。人材確保・育成の視点からは、同機構に対し、国際研修コースや学生実習などの取組に評価を示した上で、「大学との連携強化」、「技術系人材の確保・育成」、「長期的・継続的な人材・資金の投資」の重要性を述べた。電機工業会からは原子力部長の小澤隆氏が説明。同氏は、プラントメーカーの立場から、原子力機構に対し、新型炉の早期実用化に向けた規制対応、高速炉サイクル開発に係る海外の政府・研究機関との協力、水素製造システムの実証が期待される高温ガス炉「HTTR」の早期稼働などを要望した。原子力機構は、今後の人材育成・確保に関し、2月中にも見込まれる研究炉「JRR-3」の再稼働など、新規制基準対応より停止していた施設の再開を見据え、人・予算の1割程度増を目指していくとした。原子力産業以外でも技術基盤の維持が困難となっている現状について、喜多氏が「産業間で技術系人材の奪い合いが起きている」と述べたのに対し、産業界での経験を踏まえ佐藤順一氏(科学技術振興機構研究開発戦略センター上席フェロー)は、「国として真剣に考える必要がある」などと、喫緊の課題であることを改めて強調。また、原子力科学技術に係る立場から矢野安重氏(仁科記念財団常務理事)は、加速器を利用した放射性廃棄物減容化の技術開発に期待を寄せるなどした。科学技術行政に通じた寺井隆幸氏(東京大学名誉教授)は、2日間のヒアリングを振り返り、今後多分野にわたる原子力研究開発の方向性について改めて整理していく必要性を述べた。
- 10 Feb 2021
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原子力機構他、豚骨を利用した金属吸着技術を開発
日本原子力研究開発機構、東京大学他による研究グループは2月4日、廃棄豚骨を原料とする安価で高効率な金属吸着剤を開発したと発表した。骨がストロンチウムなどの金属を吸着するメカニズムに炭酸が寄与していることを明らかにした上で、食品廃棄物の豚骨ガラを家庭で用いられる重曹(炭酸水素ナトリウム)水溶液に漬け込み「高炭酸含有アパタイト」を作成・分析し開発に至ったもの。〈原子力機構発表資料は こちら〉開発に当たった原子力機構物質科学研究センターの説明によると、骨の有する重金属の吸着性能を利用し、米国のハンフォードサイト(ワシントン州にある廃止措置中の原子力施設群)では、牛骨や魚骨を使ったストロンチウムやウランの拡散防止技術に関わる試験が行われているが、十分な吸着性能が得られていない状況。また、世界の食品業界では、年間75億トンもの廃棄骨が発生しており、有効な処理方法が模索されているという。研究グループでは、「骨の主成分である炭酸アパタイトに含まれる炭酸の量」に着目。豚骨を加圧加温した後、重曹水溶液に漬け込み組成・微細構造を解析したところ、骨中の炭酸アパタイトには未処理の骨より多くの炭酸が含まれ、重曹水溶液の濃度の増加に応じ多くの炭酸を含む「高炭酸含有アパタイト」が形成されることがわかった。この「高炭酸含有アパタイト」をストロンチウムが含まれる水溶液中に投入、かくはんした後、溶液を分析した結果、3分以内に99%のストロンチウムが吸着されることを確認。「高炭酸含有アパタイト」の最大吸着量は、未処理の骨および重金属吸着剤として知られる天然ゼオライト(クリノプチロライト)の約5倍に上っていた。原子力機構物質科学研究センターの関根由莉奈氏は、記者会見で、カドミウム汚染を原因とするイタイイタイ病など、大規模公害発生の歴史に触れ、有害金属の環境拡散を防ぐ重要性を強調。今後は「高炭酸含有アパタイト」の土壌中での効果を検証する考えを述べ、原子力施設や鉱山における環境浄化技術の他、有用金属回収への応用にも期待を寄せた。
- 04 Feb 2021
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原子力機構、AIを活用し高精度の放射線マップを作成する手法を開発
日本原子力研究開発機構は1月29日、AIを活用し精度の高い放射線分布マップを作成する新たな放射線測定データ解析手法を開発したと発表した。名古屋大学大学院工学系研究科・山本章夫教授の指導のもと、学生実習生を含む同機構廃炉環境国際共同研究センター(福島県南相馬市)の研究員との共同により開発されたもの。〈原子力機構発表資料は こちら〉発表によると、無人航空機を用いた上空からの放射線測定は、広範囲を迅速に測定し人体への被ばくを低減できる一方、地形の凹凸や遮蔽物(樹木等)などの影響を受け、地上測定値との間にズレが生じるため、計算による精度向上が求められていた。つまり、従来、上空からの放射線測定結果を地上測定値に換算する場合、地形が平たんで線量率分布が一定であるエリアでの測定値と比較する簡便な換算方法で対応してきたため、地形や線量率の変化が複雑なエリアでは誤差が大きくなり、「放射線が、何によって、どのくらい遮蔽され検出器まで来るのか」を計算し修正する必要がある。これには詳細なパラメーターと解析時間を要するため、原子力機構では、福島第一原子力発電所事故以降、取得・蓄積してきた無人航空機による放射線測定データやGPSによる位置情報データで構成される「ビッグデータ」を、機械学習「人工ニューラルネットワーク」に適用。新たな放射線測定データ解析手法を開発した。AIの活用でより精密な放射線マップの作成が可能に(原子力機構発表資料より引用)同手法を用いることで、従来と比べ30%以上高い精度で地上の放射線測定値を再現した放射線マップの作成に成功し、また、1時間以上を要していた解析作業をあらかじめデータを学習させることにより数分で完了することもできた。原子力機構では、今回の研究成果について、「詳細な放射線マップを迅速かつ精度よく作成することは、除染や避難指示区域解除などの科学的根拠に役立つ」と期待を寄せている。今後は、写真による構造物の識別情報や地形情報、放射線の遮蔽に影響のある気象条件の違いなどを付加することで、さらなる精度の向上を進めていく。
- 01 Feb 2021
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原子力機構、施設内の放射能汚染に迅速対応できる高機能・簡単組立テントを開発
日本原子力研究開発機構は1月22日、施設内で放射能汚染が発生した際、作業者を速やかに退避させることのできる高機能・簡単組立テントを開発したと発表した。〈原子力機構発表資料は こちら〉テントの開発に当たった同機構核燃料サイクル工学研究所の説明によると、原子力施設における作業中、放射性物質が漏えいし身体の複数個所に汚染が付着した場合、作業者を退避させ除染処置を行う密閉テントは、これまで足場用のパイプを組んだフレームにビニール製テントをロープで結び付ける構造であったことから、設置に多くの時間を要し、内部被ばくリスクを高める恐れがあった。局所排気装置を用いてGH内の空気を排気しダストモニタで放射能濃度をリアルタイムで監視(GH:グリーンハウス〈汚染拡大防止用密閉テントの意〉、原子力機構発表資料より引用)そこで、フレームを展開・伸縮可能な構造へと改良し、材質にはアルミを用いることで軽量化を図り、設置に要する時間を約2時間から約20分へと大幅に短縮。組立てには専用の工具や脚立も要らず、人員数も従来方式の7名から4名に削減。また、隣り合った前後左右のテントをファスナーで接続できる構造から、施設内の様々な場所に適切なレイアウトで設置でき、多数の作業者に身体汚染が生じても、複数の退避経路を確保することが可能だ。今回開発された高機能・簡単組立テントは、既に原子力機構のプルトニウム燃料技術開発センターに配備され運用を開始しており、今後も、内部と外部の環境を隔てた密閉空間での作業を可能にするという点で、国内外の原子力施設での利活用が期待される。
- 25 Jan 2021
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原子力機構が「核不拡散・核セキュリティ国際フォーラム」開催、学生らも議論
日本原子力研究開発機構は12月8、9日、核不拡散・核セキュリティについて話し合う国際フォーラムを開催した。同機構核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN)の主催により、オンライン形式で行われた。今回のフォーラムでは、ISCN設立 10周年を機に、これまでの活動成果を振り返るとともに、8日には学生セッションを設け、ISCNが実施する夏期実習に参加した学生4名からの報告も踏まえ、次の10年に向けた課題について議論。ISCNは、核兵器、核物質、放射性物質を使った「核テロ」を防止するため、様々な措置を講じる核セキュリティの強化に向けて、2010年に米国で行われた「核セキュリティ・サミット」において日本政府の提唱を受け原子力機構に設置された組織で、核物質検知・鑑識などの技術開発や、アジア諸国を中心とした人材育成支援を行っている。8日に行われた学生セッションで、北朝鮮などによる核実験の国内監視に関するテーマで実習に参加した東海大学工学部3年の栗城祐輔さんは、「HYSPLIT(気象データを用いて放射性物質の大気中の移動・拡散をシミュレーションする大気輸送モデル)を用いた核実験によるキセノン133の拡散予測および解析」との研究報告を披露。北朝鮮による核実験実施を想定し、4つの気象条件、(1)冬型の気圧配置、(2)台風、(3)温帯低気圧、(4)猛暑――で放射性物質の拡散状況が大きく異なることを示した上で、CTBT(包括的核実験禁止条約)に基づくモニタリングステーションの効果的な配置について考察し提案した。また、学生らは実習報告に続いて、ディスカッションに臨み、核不拡散・核セキュリティの将来に向け、今後の国際社会、日本、原子力機構の役割や期待について議論。核不拡散・核セキュリティについては、「周囲に話し合える学生がいない」、「原子力を学ぶ学生でさえもほとんど知らない」との認識から、広島大学大学院先進理工系科学研究科修士1年の白藤雅也さんは、自身の経験として原爆体験談と合わせた学ぶ機会の設定を提案。この他、「IAEAとも協力し映像教材を作成しては。オンライン形式やアニメなど、媒体も工夫すべき」、「文科系の人は伝えることが上手いと感じる。是非巻き込むべき」といった教育や情報発信に関する意見が多く出され、白藤さんは、これらを集約し翌9日のセッションで報告した。核不拡散・核セキュリティの今後10年に向けた展望を述べる直井ISCNセンター長(オンライン中継)国内行政機関の他、IAEA、米国エネルギー省(DOE)などを交えた2日目のセッションでは、「専門家ではない政治家、一般の人々も含め、共通の問題意識を持つことが重要」(外務省)、「廃止措置施設に係る核セキュリティや、人材育成に関して女性を対象としたフェローシップ制度も必要」(IAEA)、「サイバー攻撃の脅威は今後10年間で一層高まっていく」(原子力規制庁)といった意見があった。参加者からは、米国の政権移行に伴う核セキュリティの動向に関する質問が多く寄せられ、DOE・在日米国大使館エネルギー首席担当官のロス・マッキン氏は、「超党派のサポートが10年以上あり、バイデン政権でも続くと確信を持っている。日本との関係、世界とのパートナーシップをより強くしていきたい」などと述べた。なお、ISCNでは、設立10周年を機にパンフレットを制作し公開している。
- 10 Dec 2020
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原子力機構報告会でトークセッション、コロナを踏まえた今後の期待など
日本原子力研究開発機構は11月17日、研究成果を発表する報告会をオンラインにて開催した。今回の報告会は、「Shaping Innovation ~新たな変革に向けて」と題し、研究成果発表とともに、伊藤聡氏(計算科学技術振興財団チーフコーディネータ)、柿沼志津子氏(量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所副所長)、崎田裕子氏(ジャーナリスト)、高嶋哲夫氏(作家)の登壇によるトークセッションを設定。新型コロナウイルス感染症の拡大、菅首相による2050年カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする)実現の表明など、昨今の情勢を背景とした原子力機構への今後の期待に関してディスカッションが行われた。崎田氏市民との対話活動に取り組む崎田氏は、「放射能と新型コロナウイルスは、両方とも目に見えないという共通点がある。社会はゼロリスクを求めようとするが、どのようにリスクと一緒に暮らしていくか」と、将来に向けた課題を提起。その上で、原子力機構の取組に対し、「地球規模で考えると大変重要な分野。自分の研究が社会でどう活かされているのか、イメージを持ちながら思いを語れることが重要」と述べ、社会とのコミュニケーションを軸足とした研究開発が進められることを期待した。柿沼氏新たな研究領域「量子生命科学」に挑んでいるという柿沼氏は、重粒子線がん治療の普及に向け、レーザー、加速器など、装置の小型化を図るための要素技術開発の取組を紹介。量研機構では、放射線分野の他、核融合エネルギーの研究開発も行われており、同氏は、今後も原子力機構と相互に協力していきたいと述べた。伊藤氏また、民間企業の経験から、「ピンチをチャンスに」と強調する伊藤氏は、感染症情勢により増えつつあるイベントのオンライン開催やバーチャルツアーに関し、「情報は伝わっても色々なものが落ちている。香りをどう伝えるのか。これではイノベーションとはいえない」と指摘した上で、研究機関が「総合力」を発揮しイノベーション創出に結び付くよう強く期待した。高嶋氏「首都感染」(強力なインフルエンザのまん延により東京が封鎖される危機を描いたフィクション、2010年)を著した高嶋氏は、ペスト、コレラ、スペイン風邪などにより数千万単位の死者が発生してきた感染症に関わる人類の歴史に言及。阪神淡路大震災を実体験したと話す同氏は、自然災害への対応も振り返りながら、「日本は過去の経験から学ぶことが欠けている。感染症もまた何年か後に新たに起きるだろう。新型コロナウイルス拡大を貴重な経験として活かして欲しい」と述べた。また、学生時代に核融合に魅せられ、かつて日本原子力研究所(原子力機構の前身)で研究に関わった経験にも触れ、「2050年カーボンニュートラルに向けて、世界のどこにもない考え方を示し、若い人たちが夢のあるテーマを見つけるようになれば」と、原子力機構の今後に期待を寄せた。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
- 20 Nov 2020
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原子力機構が日米共同で原爆被爆者の臓器線量を再評価、当時の人体模型も開発
日本原子力研究開発機構は9月3日、放射線影響研究所(放影研、広島市・長崎市)他との日米共同研究により、原爆被爆者の臓器線量を精度よく評価する手法を確立し、同機構の大型計算機を用いたシミュレーションにより、約3万通りの照射条件に対する「臓器線量データセット」を整備したと発表した。〈原子力機構発表資料は こちら〉放射線による健康影響に関しては、被ばくした人のグループと被ばくしていない人のグループの発がん率を比較し影響の有無を調べる疫学調査が行われており、広島・長崎の約12万人の調査集団における疫学調査が基礎となっている。1945年の日本人標準体型に調整した在胎週別妊婦に対する人体模型(原子力機構発表資料より引用)今回の共同研究では、「原爆被爆者に対する疫学調査は、世界的な放射線防護指針を策定するための最重要データ」との認識のもと、放影研が数十年にわたり整備・改良してきた原爆被爆者線量推定システムを踏まえ、原爆投下時の日本人の標準体型を精緻に再現した人体模型や、原子力機構が開発した放射線解析コード「PHITS」を活用し被爆状況に合わせた臓器線量を再評価。再評価では、最新のCT画像などに基づき、米国国立がんセンターとフロリダ大学による臓器形状を詳細にモデル化する技術を用いて、1945年の日本人の年齢・男女別標準体型(0歳、1歳、5歳、10歳、15歳、成人、各男女)と、妊婦(8週、15週、25週、38週)に対する人体模型を開発した。本研究と現在使われている線量推定システムで計算した臓器線量の差分(原子力機構発表資料より引用)新たな手法を用いた再評価結果によると、代表的な被爆条件に対する臓器線量については、概ね現在の線量推定システムの評価結果と一致したものの、結腸や複雑な構造を有する骨髄で約15%の差が生じていた。現在のシステムは、成人、小児(3~12歳)、幼児(0~3歳)に大別し単純な面を用いて表現した人体模型で被爆者の臓器線量を計算しており、胎児の臓器線量についても、成人人体模型の子宮に対する線量で代用されていたことから、今回の再評価で最大20%程度低くなることが判明した。原子力機構の説明によると、1945年頃の日本人(成人)の平均身長は男子160cm、女子152 cm程度で、現在より数cm低かったものとみられる。原子力機構では、新たな「臓器線量データセット」を構築することで疫学調査の精緻化が可能となるとして、今後も、被爆者各人の位置、方向、遮蔽データベースとを組み合わせた臓器線量の再評価を実施するとしている。
- 04 Sep 2020
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原子力機構、大気拡散予測を大幅に効率化する新システム「WSPEEDI-DB」を開発
日本原子力研究開発機構は6月11日、放射性物質の大気拡散データベースシステム「WSPEEDI-DB」を開発したと発表。従来の大気拡散予測システム「WSPEEDI」を改良したもので、新システムに用いられた新たな計算手法では、これまで約7分を要していた放出から1日後までの予測計算を3、4秒にまで短縮することができ、今後原子力災害発生時の防護措置の実効性向上に向けた活用が期待される。(原子力機構発表資料はこちら)新たな計算手法では、放射性核種、放出期間などの不確定情報に対し多数の拡散計算を行い計算結果をあらかじめデータベース化。さらに、日々の気象データの更新に合わせ、大気拡散計算を定常的に行いデータを連続的に蓄積しておくことで、実際に放出条件が与えられた際の大気拡散予測の効率化を図っている。今回の成果発表では、新システムの活用事例として、島根県原子力環境センターとの共同で実施したモニタリングポスト配置の妥当性検証について紹介した。中国電力島根原子力発電所周辺地域を対象とした100km四方および390 km四方の領域について、過去1年間の気象データを用いた1時間間隔の単位放出拡散データを蓄積しデータベースを作成。広範囲の中で「ホットスポット」と呼ばれる放射線量率の高い場所の分布図を作成し、降水時にはモニタリングポストで把握できない「ホットスポット」が想定されると分析した上で、可搬型モニタリングポストや航空機モニタリングなどによる補強を提案している。
- 11 Jun 2020
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規制委、新規制基準でHTTRの原子炉設置変更許可
原子力規制委員会は6月3日、日本原子力研究開発機構の高温工学試験研究炉「HTTR」(茨城県大洗町、高温ガス炉、熱出力3万kW)が新規制基準に「適合している」との審査書を決定し、同機構に原子炉設置変更許可を発出した。本件は、3月25日の審査書案取りまとめを受け、原子力委員会と文部科学相への意見照会、パブリックコメントが行われていたもの。2014年11月の審査申請から約5年半を要した。HTTRの燃料体構造(原子力機構発表資料より引用)高温ガス炉は、電気出力100万kW 規模が主流の軽水炉に比べ小型だが、原子炉出口温度850~950度C(軽水炉は約300度C)の高温熱は、水素製造、海水淡水化、地域暖房など、幅広い利用が可能。また、原子炉から熱を取り出す冷却材には高温でも化学的に安定なヘリウムガスを用いているほか、1,600度Cにも耐える放射性物質の閉じ込め性能を持った「セラミックス被覆燃料」からなる燃料体構造などから、安全性にも優れている。原子力機構では今後、「HTTR」の2020年度内の運転再開を目指し、安全対策工事を着実に進めていく。運転再開後はまず、OECD/NEAの枠組みによる安全性実証試験「炉心強制冷却喪失(LOFC)プロジェクト」を実施。同プロジェクトでは、2010年度までの第1段階試験(30%出力、ガス循環機停止)で高温ガス炉の自然停止・冷却などの安全特性が示されており、今後も原子炉にとって厳しい条件を付加した試験を行い、得られた成果を通じ高温ガス炉に関する安全基準の国際標準化に向け貢献していく。
- 04 Jun 2020
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量研機構他、熱利用による水素製造の大幅な省エネ化を達成
量子科学技術研究開発機構、芝浦工業大学、日本原子力研究開発機構による研究チームは4月17日、高温熱を利用した水素製造の効率(システムの駆動に要した全消費エネルギーに対し、製造した水素の燃焼エネルギーの割合)を40%にまで向上できる見通しが得られたと発表した。熱化学反応サイクルで水を水素と酸素に分解するシステム「ISプロセス」の実用化に向けて研究を進めてきたもの。〈量研機構他発表資料はこちら〉「ISプロセス」は、高温の熱源として高温ガス炉や太陽熱を用いる水素製造技術として期待されており、高温ガス炉では、原子力機構の「HTTR」について、3月末に新規制基準適合性の審査書案が取りまとめられ、所要の検査を経て年度末頃に運転再開の予定となっている。膜ブンゼン反応の原理(量研機構発表資料より引用)「ISプロセス」の中心となる「ブンゼン反応」では、大量の循環物質(ヨウ素と硫黄)と、これに伴う機器の大型化が必要となることから、過剰なヨウ素を抑えるため、量研機構と芝浦工大は2017年に「膜ブンゼン反応器」を開発した。これは、「ブンゼン反応」で起きる「硫酸(H2SO4)生成反応」と「ヨウ化水素(HI)生成反応」の中で、電極に挟まれたイオン交換膜を介して、水素イオン(H+)を陰極側に効率的に透過させる仕組みで、ヨウ素使用量の約8割削減につながったが、電圧の低減や強酸環境での耐食性などが課題となっていた。今回、量研機構の高崎量子応用研究所は、放射線照射による改質(量子ビームグラフト・架橋技術)で新たなイオン交換膜を開発し、水素イオンの透過に起因する電圧を約8割低減。耐食性に優れた貴金属によるめっき加工技術などに取り組んできた芝浦工大は、表面積を増大した金陽極を新たに開発し、硫酸生成に起因する電圧を約4割低減することに成功した。また、原子力機構は「ブンゼン反応」の最適温度を50度Cと判断。開発された陽イオン交換膜と金陽極を反応器に装着した試験も50度Cで実施され各技術を実証するデータが得られた。今回の研究成果では、太陽熱を熱源とした650度C程度の比較的低温でも水素製造効率40%を達成できる見通しが立ったとしている。
- 17 Apr 2020
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原子力機構が次世代型モニタリングカーを開発、放射性物質の分布をパノラマ化
日本原子力研究開発機構は3月27日、福島第一原子力発電所の構内などを移動しながら放射性物質の分布をパノラマ的に可視化できる全方位型3次元放射線測定システム車「iRIS-V」を開発したと発表した。放射性物質を可視化する小型軽量カメラを複数台配置した「全周囲有感型コンプトンカメラ」を搭載。カメラで取得した車両周囲360度の放射線イメージと、レーザー光を用いた3次元距離測定センサーによるパノラマ画像とを重ね合わせ、放射線源の場所を様々な視点から立体的に表示するもので、次世代型モニタリングカーとして、今後除染・廃炉作業の円滑な推進に貢献することが期待される。「iRIS-V」を用いた放射線源のパノラマ画像 ©︎JAEA通常のコンプトンカメラで10分程度を要していた前方だけの測定が、新たな「全周囲有感型コンプトンカメラ」を搭載した「iRIS-V」では、全周囲にわたる測定をわずか80秒で完了でき、実際に原子力機構が駐車場内で行った試験で放射線源を置いた車を特定することに成功した。原子力機構の福島研究開発部門ではこれまでも、メーカーとの協力により重厚な遮蔽体を必要とせず高線量環境でも測定可能なコンプトンカメラの改良を重ねており、上空から広範囲の放射性物質分布を可視化するドローンシステムの開発などにつなげてきた。
- 27 Mar 2020
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原子力機構「NSRR」が運転再開、事故時の燃料挙動を解析し安全性向上へ
日本原子力研究開発機構の原子炉安全性研究炉「NSRR」(茨城県東海村、最大熱出力:パルス運転時2,300万kW、定出力運転時300kW)が3月24日、運転を再開した。原子力規制委員会による新規制基準をクリアし2018年6~9月に運転した後、付属建屋の耐震補強工事が行われていた。「NSRR: Nuclear Safety Research Reactor」は、実験用の燃料棒に高い出力をパルス状に加える運転により原子炉暴走事故を模擬し、原子力発電所の事故時に燃料が破損する条件やメカニズムを研究する原子炉で、1975年の初臨界以降、3,000回を超えるパルス運転、1,000回を超える燃料照射試験が実施され、40年以上にわたり、原子炉の安全確保に必要なデータを蓄積。2009年度以降は、設置目的に教育訓練が加わり、運転実習や炉物理実験などを通じた原子力分野の人材育成にも供されている。事故条件下における燃料の過渡的ふるまいを世界で初めて映像化した実績を持つ「NSRR」では、今後も高速度カメラを有する実験カプセルを用いた観察などを通じ、設計基準を超えるシビアアクシデント時の燃料挙動評価に関わる知見を取得し、福島第一原子力発電所事故の解明、原子力の安全対策、規制行政の技術的支援に寄与していく。原子力機構の安全研究センターは、2月に行われた記者団への説明で、「安全性の継続的改善には、事業者の自主的努力と、これを監視・評価する規制活動の技術的進歩がそれぞれ必要」と、機構が実施する安全研究の役割を強調している。原子力機構では、研究開発成果をわかりやすく説明する「JAEAチャンネル」を開設しており、今回運転再開した「NSRR」についても動画で紹介している。
- 24 Mar 2020
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原子力機構、核不拡散・核セキュリティを考える国際フォーラム開催
核不拡散・核セキュリティについて考える日本原子力研究開発機構主催の国際フォーラムが12月4日、都内で行われ、国内外の政府関係者や有識者らを招いた2つのパネルディスカッションを通じ、今後の課題や対応方策について議論した。核セキュリティは、「核物質、その他の放射性物質、その関連施設およびその輸送を含む関連活動を対象にした犯罪行為または故意の違反行為の防止、探知および対応」(2011年9月原子力委員会報告書)と定義されており、米国同時多発テロ発生以降、日本でも大規模イベントを控え、いわゆる「核テロ」の防止に向けた取組に関心が高まりつつある。前半のパネルディスカッションでは、米国エネルギー省国家核安全保障庁(DOE/NNSA)グローバルマテリアル安全保障局副局長補佐のエレノア・メラメド氏が、放射性物質の輸送時における不正取引や盗取の他、サイバーセキュリティやインサイダー脅威への対策など、近年のデジタル化進展に伴う問題を提起。各国で核セキュリティに関わるワークショップを開催している世界核セキュリティ協会代表のロジャー・ホーズリー氏は、ビデオメッセージを寄せ、「実効性のあるリソース配分」や「国境を越えた連携」の重要性を強調。これに対し、科学警察研究所主任研究官の土屋兼一氏は、「個人でもインターネットの動画を見て爆発物を作れる。脅威は時代とともに変わってきており、どのような対策が必要か継続的に評価していく必要がある」と述べた。また、大規模イベントをねらった「核テロ」として、爆発物と抱き合わせて放射性物質を拡散させる「ダーティ・ボム」や、人の集まる場所に致命的レベルの放射性物質を仕掛ける「サイレント・ソース・アタック」を例示。初動対応訓練を実施してきた経験にも触れ、地方警察部隊からの訓練用ダミーを求める要望に対し、スマートフォンのアプリに適確に反応するビーコン「ウソトープ」を開発したことを紹介した。原子力機構福島研究開発部門副ディビジョン長の鳥居建男氏は、福島第一原子力発電所事故後の広域モニタリングや、遠隔操作技術の研究に取り組んできた経験から、核セキュリティ分野におけるドローンや画像の3次元可視化に関する技術の有効性をあげ、事故の教訓や民間企業との協力の重要性に言及。IAEA原子力安全・セキュリティ局核セキュリティオフィサーのチャールズ・マッセィ氏は、「原子力安全と核セキュリティの対策には交わるところがある。双方が連携し有効性を高めていく必要がある」などと述べ議論をまとめた。後半のパネルディスカッションは、文部科学省原子力課長の清浦隆氏(進行役)、IAEA原子力エネルギー局INPRO課長ブライアン・ボイヤー氏、米国テキサスA&M大学院原子力専攻アシスタント研究生のマリオ・メンドーサ氏、東京工業大学先導原子力研究所准教授の相樂洋氏、原子力機構高速炉・新型炉研究開発部門研究副主幹の川﨑信史氏が登壇した。ボイヤー氏は「革新的原子炉および燃料サイクルに関する国際プロジェクト」(INPRO)について、川﨑氏は「第4世代原子力システムに関する国際フォーラム」(GIF)について、それぞれ国際協力の枠組を活用した取組状況を説明。次世代原子力システム開発に伴う制度的、技術的課題を踏まえ、将来の核不拡散・核セキュリティに関わる人材確保について議論が行われた。相樂氏は、東工大で2017年度より実施している体系的な教育カリキュラム「ANSET」(Advanced Nuclear 3S Education and Training)を紹介し、メンドーサ氏は、奨学金やフェローシップ制度の活用とともに、「政府省庁や研究機関が早い段階から学生に関心を持たせる」必要性を述べた。
- 06 Dec 2019
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