キーワード:福島
-
規制委、福島第一事故に係る調査・分析で中間取りまとめ案
原子力規制委員会は1月27日の定例会で、同委の福島第一原子力発電所事故調査に係る検討会による中間取りまとめ案について報告を受けた。取りまとめ案は今後、パブリックコメントを経て、3月上旬にも正式決定となる運び。同検討会は2019年、廃炉作業の進捗に伴う原子炉建屋内へのアクセス性向上、新たな知見・情報の蓄積を踏まえ、約5年ぶりに再開。原子炉格納容器からの放射性物質の放出、原子炉冷却に係る機器の動作状況など、事故のプロセス解明に向け調査・分析を進めてきた。中間取りまとめ案では、事故発生時の2号機のベント(格納容器内の放射性物質を含む気体を外部環境に放出し内部の圧力を降下させる措置)について、原子炉格納容器から排気筒に通じるベントライン中に設置されたラプチャーディスク(外部環境との最終バウンダリ)が破裂しておらず、ラプチャーディスク付近の線量率がベントに2回成功した3号機より3~4桁低かったことから、「一度も成功しなかった」と判断。一方、ベントが行われた1、3号機についてはベントガスの逆流を結論付け、1号機では「水素が原子炉建屋に逆流した可能性がある」とみて、水素爆発との関連性を今後の調査検討課題の一つとしてあげた。また、1~3号機原子炉格納容器上部のシールドプラグ(直径約10m・厚さ60cmの鉄筋コンクリートを3枚重ねた蓋)下方の放射能汚染レベルが高いことを確認したとして、「安全面と廃炉作業面において非常に重要な意味を持つ」などと指摘。特に、2、3号機については、シールドプラグの上から1層目と2層目の間に大量のセシウム137(20~40ペタベクレル)が存在すると結論付けた。3号機水素爆発に係る「多段階事象説」のイメージ(原子力規制委員会発表資料より引用)福島中央テレビ他の技術協力を得て行われた水素爆発の詳細分析で、3号機で発生したものについては、超解像処理(毎秒60コマ)や地震計記録などから、複数の爆発・燃焼が積み重なった「多段階事象」との見方を示した。更田豊志委員長は、定例会終了後の記者会見で、今回の調査・分析を通じて確認されたシールドプラグの汚染状況について、「廃炉戦略に与えるインパクトは非常に大きい。遮蔽の施し方など、簡単ではないだろう」と述べた。
- 27 Jan 2021
- NEWS
-
菅首相が施政方針演説、2050年カーボンニュートラル実現に向けた施策など
菅義偉首相は1月18日、通常国会の開会に際し施政方針演説を行った。菅首相はまず、新型コロナウイルス感染症の早急な終息に向けて、様々なソーシャルワーカーらに対する謝意を述べるとともに、自身も戦いの最前線に立ち、自治体関係者とも連携しながら「難局を乗り越えていく決意」を強調。3月に東日本大震災発生から10年を迎えることに関しては、改めて犠牲となった方々への冥福を祈り被災したすべての方々への見舞いの言葉を述べた上で、心のケアも含めたきめ細やかな取組を継続するとともに、福島については、2023年春の一部開所を見込む浜通り地域の復興・再生を目指した「国際教育研究拠点」などを通じ、「復興の総仕上げに向け全力を尽くす」と述べた。また、10月の所信表明演説で掲げた2050年カーボンニュートラルについては、「環境対策は経済の制約ではなく、世界経済を大きく変革し、投資を促し、生産性を向上させ、産業構造の大転換、力強い成長を生みだすカギとなるもの」と強調し、今後所要の予算措置を図っていくことを明言。さらに、次世代太陽光発電、低コストの蓄電池、カーボンリサイクル他、野心的なイノベーションに挑戦する企業を支援し最先端技術の開発・実用化を加速するとともに、水素や洋上風力発電などの再生可能エネルギーの拡充、送電網の増強、安全最優先での原子力政策を進めることで、「安定的なエネルギー供給を確立する」とした。この他、科学技術政策の関連で、12月の小惑星探査機「はやぶさ2」のカプセルの地球帰還を称賛した上で、「未来を担う若手科学者の育成」に意欲を示し、昨今の都市部から地方への人の流れを踏まえ、ポストコロナを見据えたテレワーク環境の整備や地方移住への後押しなど、地方創生や働き方改革の取組にも言及。米国バイデン政権の発足に関しては、「日米同盟はわが国外交・安全保障の基軸」などと述べ、バイデン次期大統領と早い時期に会い日米の結束強化を確認し、新型コロナ対策や気候変動などの共通課題に取り組んでいくとした。今夏の東京オリンピックについては、「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会とすべく、感染対策を万全なものとして、世界中に希望と勇気を届ける大会」となるよう準備を進めていくと述べた。
- 18 Jan 2021
- NEWS
-
学術会議他、東日本大震災発生10年で40学会が参集しシンポ開催
東日本大震災発生から間もなく10年を迎えるのを前に、関連学会が一堂に会しこれまでの活動を振り返り今後の取組について考えるシンポジウムが1月14日に開催された。日本学術会議と防災学術連携体(防災減災・災害復興に関わる学会ネットワーク)の主催によるもの。感染症拡大防止のためオンラインでの開催となったが、アクセス数は約40学会による発表を合計し5,000件を超え、今回のシンポジウムを通じ、「分野横断の連携」が災害への備えや発災後の復興にとって重要なことなどが示された。〈資料等は こちら〉日本原子力学会の中島会長、被災地支援に向け展開してきた「福島特別プロジェクト」の活動を紹介福島第一原子力発電所事故の関連では、日本原子力学会が事故調査や廃炉に関わる専門的検討、被災地住民への支援など、これまでの取組について発表。事故発生から丁度10年となる3月11、12日には活動成果を振り返るとともに若手を交え原子力の未来像について議論するシンポジウムを行うことが紹介された。学術的連携に関しては、2016年に発足した36の学協会が参加する連絡会「ANFURD」をあげた上で、「社会科学的視点が要求される事柄もこの10年間で顕在化してきた」と、他学会との接点の拡大・緊密化を今後の課題として示唆した。日本森林学会の三浦氏(森林研究・整備機構)、次の10年に向け「記録し伝えること、対話を深めること、備えること」を強調日本地震工学会は、原子力学会との協力により発刊した技術レポート「原子力発電所の地震安全の原則」(2019年)を紹介し「外的事象については他分野の学会とも連携すべき」と指摘。日本森林学会は、森林内の放射性セシウム分布・動態に関するデータや木材学会との協力による産業影響調査について述べ「分野を越えた対話を」と、次の10年に向けた課題を提示するなど、それぞれ分野横断の重要性を強調した。災害のアーカイブ化・伝承に関しては、日本災害情報学会が2019年に双葉町に開設された「東日本大震災・原子力災害伝承館」について発表。チェルノブイリ博物館やネバダ核実験博物館など、海外のアーカイブ施設とも対比しながら、災害・復興の検証やコミュニケーション手法に関わる課題をあげ、「『何を伝え、何を学んでもらうか』を今後十分検討しなければ原子力災害の伝承は難しい」と述べた。原子力災害からの復興に関しては、「浜通り地域の生産動向で建設業の増加は復旧活動によるもの。これからが課題」(日本地域経済学会)、「長期にわたる災害の特質を踏まえた法制度や、原子力防災省のような行政組織の創設が必要」(日本建築学会)といった発言があった。シンポジウムでは、災害廃棄物対策や発災時の保健医療・公衆衛生活動に関わる課題、阪神・淡路大震災との対比の他、昨今の情勢に鑑み、自然災害の頻発・激甚化、新型コロナウイルス感染症による影響を危惧する声もあがった。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
- 15 Jan 2021
- NEWS
-
新潟県委員会、福島第一原子力発電所事故による避難生活で検証結果取りまとめ
新潟県の有識者委員会は1月12日、福島第一原子力発電所事故が及ぼした避難生活に関する検証結果を取りまとめ、花角英世知事に報告を行った。県は、東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に関わる議論開始の前提として、福島第一原子力発電所事故の「3つの検証」(事故原因、健康と生活への影響、安全な避難方法)を進めており、今回、2020年10月の「事故原因」に続き、「健康と生活への影響」に関する検証結果がまとまった格好だ。同委員会では2017年より、新潟県内居住の避難者へのアンケートやテーマ別調査から得られたデータをもとに、支援団体の声、健康への不安、家族形態別にみた避難生活の課題など、多角的視点から検証を行ってきた。委員会座長として検証結果の取りまとめに当たった新潟大学人文学部教授の松井克浩氏は、報告書序文の中で、「事故による影響が極めて深刻で、長期にわたって続き、回復が難しい」ことがわかったとした上で、「避難者個々の状況も多様化しており、それぞれのケースに応じたきめ細やかな支援や調査を今後とも長期的に続けていく必要がある」と、述べている。報告書によると、福島第一原子力発電所事故による新潟県への避難者数は、2012年5月の6,440人が2020年9月には2,209人となったものの、避難生活の長期化とともに、単身・二人世帯の増加(震災前:32.4%、2017年:50.2%)、3世代同居世帯の減少など、避難の過程で家族が分散した状況がみられている。また、これまで多くの大規模自然災害に見舞われ復興に取り組んできた新潟県だが、原子力災害の生活再建に関わる特徴を、(1)事故の全体像がなかなか明らかにならず線量に対する認識の差を背景に異なるタイミングで広域避難が発生、(2)放射能汚染被害の捉え方に個人差が大きく帰還の有無にも差が出る傾向、(3)東京電力からの賠償金が支援の中心――などと対比・分析。足かけ4年にわたる検証作業で議論された調査データを整理し、報告書では結びに、「現時点で言えること」として、7項目の結論を述べている。例えば、「震災前の社会生活や人間関係などを取り戻すことは容易ではない」といった仕事や地域コミュニティの回復が困難な状況や、「健康被害への不安がリスク対処行動をもたらし生活の質を低下させている」といった放射線リテラシーにつながる課題も指摘。また、広域避難によって生じる自治体間の支援策の違いや、発災から間もなく10年を迎える現在において、「避難者が抱える問題や困難が見えにくくなっている」といった懸念を述べ、「避難者ごとの課題が個別化・複雑化する中で、長期的な支援が必要」などと提言している。
- 13 Jan 2021
- NEWS
-
消費者庁、放射性物質と食品安全について親子で学ぶコンテンツ公開
消費者庁は12月21日、主に小学生とその保護者を対象に、親子で学べるウェブコンテンツ「知ろう!考えよう!食べものと放射性物質」を公開した。食品安全委員会、厚生労働省、農林水産省との協力により制作されたもの。動画とクイズで食品中の放射性物質について説明している。同コンテンツでは、アニメキャラクターが動画の中で、福島を訪れ、「福島第一原子力発電所事故により、食べものの中の放射性物質を気にする人がいる」と問題提起。「放射性物質」、「放射能」、「放射線」の意味を電球の光に例えて説明した上で、霧箱実験を見せる。食品中の放射性物質に関して、福島のリンゴ農園へのインタビューを通じ、生産者の努力で安全な食品が消費者に届けられていることを述べるという内容。霧箱は家庭でも用意できる材料・器具で作り方を紹介。放射線が身の回りにあることを知ってもらい、「放射線は『ある、ない』ではなく、安全かどうかを判断するには『多い、少ない』という量で考えることが重要」と教えている。
- 23 Dec 2020
- NEWS
-
「福島イノベーション・コースト構想」でシンポ、浜通りの創生に向け各界の取組状況が発表
浜通り地域の新産業創出を目指す「福島イノベーション・コースト構想」の将来について考えるシンポジウムが12月19日、双葉町産業交流センターで開催され、同構想の実現に向けて活躍する企業、地元学生たちの登壇のもと、成果発表や意見交換が行われた。挨拶に立つ加藤官房長官シンポジウムには、加藤勝信内閣官房長官、内堀雅雄福島県知事、伊澤史朗双葉町長らが訪れ、挨拶を述べた。加藤官房長官は、「福島復興は内閣の最重要課題」との認識を改めて示した上で、福島ロボットテストフィールド、福島水素エネルギー研究フィールド、東日本大震災・原子力災害伝承館の開所や、2023年春の一部開所を目指す「国際教育研究拠点」計画の進展など、「福島イノベーション・コースト構想」を巡る1年間の動きに触れ、同構想が浜通り地域の原動力となるよう期待。内堀知事は、同構想で得られた成果の国内外発信に向け「来年は東京五輪の開催により世界から注目される絶好の機会」と、2022年春の帰還開始を目指す双葉町の伊澤町長は、「20年後の双葉町を担っていく生徒たちに期待。新たな未来を考えていく地」と、それぞれ意気込みを見せた。当日は、双葉中学校の生徒も出席し、伝統芸能の「山田のじゃんがら念仏踊り」や「せんだん太鼓」の練習風景を紹介した。「福島イノベーション・コースト構想」に関わる各界の取組については、阪本未来子氏(JR東日本常務執行役員、基調講演)、徳田辰吾氏((株)ネクサスファームおおくま 工場長)、金岡博士氏((株)人機一体社長)、秋光信佳氏(東京大学アイソトープ総合センター教授)が発表。阪本氏阪本氏は、2020年3月に全線復旧した常磐線に関し、「常磐炭田の石炭輸送が日本のエネルギー政策・経済を支えてきた」役割を経て、現在ではビジネス・観光利用に供される重要路線として発展してきた経緯を紹介。動物侵入防止柵や避難通路の整備など、震災後の常磐線復旧工事について触れたほか、2019年に開設されたJヴィレッジ駅(楢葉町)に関し、(1)平成に開業した最後の駅、(2)日本初の「ヴ」がつく駅(3)JR東日本で初のアルファベットがつく駅――と、駅名のうんちくを語った。「観光は『光を観る』と書く」と、今後の観光振興に期待を寄せる同氏は、震災発生から10年の節目に際し、交流人口の拡大を目指す「巡るたび、出会う旅。東北」をキャッチコピーとした東北6県観光キャンペーンの長期開催計画を披露。徳田氏大熊町でイチゴの周年栽培を行う徳田氏は、「農業分野は閉鎖的で交流が足りない。個人で行う農業と組織で行う農業とではやり方が全然違う」として、他業界からの人材の積極採用を図り、環境制御プログラムなど、様々な技術を開発・検証しながら収穫量を伸ばしてきた経緯を紹介。「多くの観光客が訪れ、『大熊町がイチゴの町になった』と言われるようになれば」と、期待を述べた。金岡氏福島ロボットテストフィールドで人の手足と連動して機能するロボット「人型重機」の開発に取り組む金岡氏は、福島第一原子力発電所事故の経験から、「研究だけでなく社会実装に達することが必要と感じた」と、先端ロボット工学技術の課題を述べ、革新的な知的財産を求心力にリソースと産業を集めるしくみ「人機プラットフォーム」を福島に導入したいと強調。秋光氏高等教育の立場から秋光氏は、保育園・小学校の線量調査など、発災直後から地道に取り組んできた被災地支援活動の経験を踏まえた「復興知学」講義を紹介。講義後の学生アンケートで、「普通の県として扱うべき」といった福島に対する対等なパートナーとしての見方が印象に残ったという。「浜通りは大きなポテンシャルを秘めている」と、同氏は強調し、阿武隈変成帯に着目したミュージアムプロジェクトなど、地域と共同した今後の活動に意気込みを示した。原町高の生徒たちこの他、原町高校からは福島ロボットテストフィールドでの水中ドローン訓練、平工業高校からは土木工学科による中学校への出前授業など、地元5校の高校生たちが浜通り地域に根差した実習経験を披露した。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
- 21 Dec 2020
- NEWS
-
東北経済産業局が今年の10大ニュースを発表、震災復興関連の動きが多数
経済産業省東北経済産業局はこのほど、2020年の「東北経済・産業の10大ニュース」を発表した。毎年、同局内で候補となる印象的な出来事を募集し、職員の投票により選定を行っているもの。2020年の10大ニュースとして筆頭に上がったのは、「東北各地で新型コロナウイルス感染症拡大の影響深刻。工場の稼働停止や小売店の営業自粛措置、東北の夏祭りやイベントの中止が相次ぐ」だった。他9件の中には、東日本大震災後の産業復興に関するものが多くあがった。「常磐線が9年ぶりに全線運転再開」、「浜通りの産業再生の拠点『福島ロボットテストフィールド』が開所」、「世界最大級の再生可能エネルギー由来の水素製造装置を備えた『福島水素エネルギー研究フィールド』が開所」、「東北から新型車続々。東北地域のものづくりを大きく牽引」など。JR東日本・常磐線は、3月の帰還困難区域の一部解除(富岡町、大熊町、双葉町)に伴い、最後まで残った不通区間「富岡~浪江」が運転を再開。仙台から都内までを直通する特急「ひたち」も運行されるようになった。同じく3月に全面開所した「福島ロボットテストフィールド」(南相馬市、浪江町)には、2018年7月の一部開所から2020年10月末までの約2年間に3万人以上が視察や実験に訪れた。5月には福島第一原子力発電所の使用済燃料プール内調査に向けた水中ロボットの操作訓練も実施。現在、20の企業・団体が入居しドローンや空飛ぶクルマなどの開発に供されており、今後、国内におけるロボットの一大開発拠点として、浜通りの産業再生、福島のロボット関連産業の発展に寄与することが期待される。昨今消費税増税や新型コロナウイルスの影響により自動車販売は低迷気味だが、トヨタ自動車東日本(宮城県大衡村)が東北地域で全量生産する小型SUV車「ヤリスシリーズ」が売上げを伸ばし、地域のものづくり企業の下支えに貢献した。また、復興関連の他、10大ニュースには、「脱炭素化に向けてエネルギー政策に動き」があがった。10月に菅首相が「2050年カーボンニュートラル」を表明し、これを踏まえたエネルギー基本計画見直しの検討も開始。2020年は、東北電力女川原子力発電所2号機について、11月に宮城県知事が国の再稼働方針に理解を表明したほか、六ヶ所再処理工場、MOX燃料加工工場、むつ中間貯蔵施設の安全審査が進展するなど、東北地域に立地する原子力・核燃料サイクル施設に係る動きがあった。
- 15 Dec 2020
- NEWS
-
関西学院大、福島避難住民の生活に関し「人間の復興」の視点から調査
関西学院大学の災害復興制度研究所はこのほど、福島第一原子力発電所事故に伴い避難した住民の生活に関する調査結果を発表した。同研究所は、阪神・淡路大震災による学内犠牲者の発生、救援ボランティア活動の経験を踏まえ、震災から10年の節目となる2005年に設立され、「人間の復興」を理念に、人文・社会科学の側面から復興制度に係る研究を行っている。今回の調査は、兵庫県立大学、川崎医療福祉大学、その他NPOの協力で行われたもの。調査は、2020年7~9月、生活再建支援拠点を通じて4,876件の調査票を配布し、福島第一原子力発電所事故発生から10年を迎えるのを前に、仕事や居住環境など、発災以前との生活の変化について尋ねた。回収数は694件(回収率14%)。調査結果によると、回答者の年齢構成は40、50歳代が多く全体の54%を占め、平均は55.8歳。性別は男性40%、女性60%だった。震災当時福島県内に住居があった人が75%を占め、現状の避難指示については、帰還困難区域が14.4%、避難指示解除区域が20.2%、指定なしが60.1%となっている。震災前と昨年との総収入の比較では、300万円を境に、以上が減少、未満が増加しており、収入の低下がみられた。震災前と現在との職業については、農林水産業、会社勤め、自営業、専門職がいずれも減少する一方、臨時雇用・パート・アルバイトが15.9%から21.9%に、専業主婦が8.4%から12.2%に、無職が17.0%から27.2%にそれぞれ増加していた。避難先での近所づきあいについては、「何か困ったときに助け合う親しい人がいる」が51.9%から19.3%に大きく減少。仕事、収入、健康、余暇、住宅、地域環境、教育環境、自然環境、公共施設、文化活動、スポーツ活動、買物、医療、交通、生活全般の計15項目に関する満足度の震災前後の比較では、買物と交通の利便性でわずかに「満足・やや満足」の増加がみられたが、すべての項目で「不満・やや不満」が増加していた。震災前の居住地が帰還困難区域にある人については、87%が住民票を故郷に残したままとしており、避難先地域への愛着度はかなり低くなっている。また、将来福島に戻る意向では、67%が「戻るつもりはない」と回答していた。震災前の居住地に戻っていない理由(複数回答)としては、「空間線量は下がったが山林や草地の汚染されたところが残っていると思うから」が46.1%で最も多く、「現在の居場所で落ち着いているため」が44.8%でこれに次いだほか、廃炉作業への不安、仕事や子供の学校の都合などがあげられた。今回の調査結果では、まとめとして、「帰りたい想いと帰れない状況、様々な要因が複雑に絡み、改めて『人間の復興』を実現する状況には至っていない」と指摘。災害復興制度研究所は合わせて、原子力災害に関し、(1)避難者準市民制度の創設、(2)避難時最低所得補償の創設、(3)避難者援護法の制定と援護基金の創設――を提言した。
- 14 Dec 2020
- NEWS
-
福島県、「常磐もの」を首都圏にアピールする若者を描いた動画公開
福島県はこのほど、動画「常磐もののアナゴを東京へ」を県公式チャンネルに公開した。各界で活躍する福島の若者たちの姿を描く動画シリーズの一つで、今回はサーフィンのメッカとして知られるいわき市久之浜で鮮魚店(合同会社はまから)を営む阿部峻久さんが主人公。福島県沖の海は、北からの寒流(親潮)と南からの暖流(黒潮)が交わる日本有数の豊かな漁場とされており、この海域で獲れる魚介類は身が引き締まり味のよい「常磐もの」として市場での評価も高いことから、県では「ふくしま常磐もの」をキーワードに各種プロモーション活動を展開し、認知度向上、販路拡大を図っている。動画では、「常磐もの」の中でヒラメやメヒカリなどと比べ認知度の低いアナゴに着目し、新商品の開発、販売促進に取り組む阿部さんの奮闘ぶりを紹介。阿部さんは、漁港で水揚げされるアナゴの映像に合わせ、「脂がのっている。東京からも卸して欲しいという相談が来る」と、美味しさをアピール。「土用の丑の日のウナギに替わる『アナゴ重』のような商品を目指している」として、10月に都内で行われた福島県産食材の商談会に出展し、「アナゴ蒲焼」などを売り込む様子を来場者の声とともに紹介。商談会で、「常磐もの」を毎週仕入れているという都内の飲食店経営者は、「アナゴももちろん知っている。身厚でプリプリして、煮ても焼いても美味しい」と絶賛。阿部さんは、「100種類以上と魚種は豊富なので、一つ一つの魚を皆様に紹介できれば」と、「常磐もの」の全国展開に意欲を見せている。
- 03 Dec 2020
- NEWS
-
福島第一、1号機使用済燃料プールで天井クレーンなどの落下防止対策が完了
東京電力は11月26日、福島第一原子力発電所廃炉作業の進捗状況を発表した。1号機使用済燃料プールからの燃料取り出しに向けては、原子炉建屋内既設の天井クレーンや燃料取扱機の落下を回避するため、これらを下部から支える支保の設置(動画リンクは燃料取扱機に関わる作業の模様)が11月24日に完了した。これにより、今後のガレキ(崩落した屋根など)撤去に際し、変形した天井クレーンや燃料取扱機の落下によるダスト飛散や燃料損傷などのリスクを低減する「ガレキ落下防止・緩和対策」が完了したこととなる。1号機の「ガレキ落下防止・緩和対策」は、2019年12月の燃料取り出しプラン選定を踏まえ、2020年3月より使用済燃料プール上の養生バッグ(エアモルタルを注入しビーチマットのように膨らませる)設置などが進められてきた。今後は、ガレキ撤去に先行し2021年度上期より原子炉建屋を覆う大型カバーの設置工事に着手。2023年度頃までに大型カバーの設置を完了し、ガレキ撤去・除染・遮蔽後、燃料取扱設備を設置した上で燃料取り出しとなる。1号機使用済燃料プールからの燃料取り出し開始は2027~28年度の予定。また、2号機の燃料デブリ取り出しに向けては、原子炉格納容器内部調査および試験的取り出しで用いるアーム型装置の導入のため、X-6ペネ(貫通孔)内堆積物の接触調査、3Dスキャン調査が10月に実施されている。今回の調査では、堆積物が固着しておらず形状が変化することなどを確認しており、これらの成果を踏まえ、今後X-6ペネ内の堆積物除去を検討していく。一方、アーム型装置は現在、英国で開発が進められているが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、モックアップ試験に入れない状況となっている。福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデントの小野明氏は、11月26日の記者会見で、今後の対応について国際廃炉研究開発機構(IRID)とも協力しながら早急に詰めていく考えを示した。
- 27 Nov 2020
- NEWS
-
国立環境研、霞ヶ浦で放射性セシウム濃度の季節変動を調査
国立環境研究所は11月24日、茨城県の霞ヶ浦(西浦)で行った観測から、福島第一原子力発電所事故後、湖水中および魚類の放射性セシウム濃度が季節により変動しながら、徐々に低下していることを明らかにしたと発表した。〈環境研発表資料は こちら〉同研究所の生物・生態系環境研究センター他による共同チームは、事故後5年間にわたり、霞ヶ浦の3か所で毎月の水温や溶存酸素量などの環境測定に加え、季節ごとに表層水(水深2mまで)の採水を行い、湖水中に含まれる溶存態(水中にイオンの形で溶け込んでいる状態)の放射性セシウムの濃度測定を実施。調査の結果、いずれの地点とも、夏の表層水温の上昇と底層(湖底から10cm程度)の溶存酸素濃度の低下が確認されたほか、湖水中の放射性セシウム濃度については、事故から1~2年の間に大きく低下した後、「夏のわずかな上昇、秋から春にかけての低下」という季節変動を繰り返しながら徐々に下降していることがわかった。湖水中の放射性セシウム濃度の変動に関し要因を分析したところ、夏に底層の溶存酸素濃度が低下することに伴い、底泥からの放射性セシウムの溶出が起きていることが示唆された。さらに、共同チームでは、霞ヶ浦において底泥からの溶出により上昇した湖水中の放射性セシウム濃度が魚類に与える影響を合わせて調べるため、ワカサギについて分析。その結果、事故直後から出荷規制値を上回っておらず、1年から1年半後にかけて急激に低下し、以降も徐々に下降していることがわかった。ここでも、湖水と同じく、夏に放射性セシウム濃度がわずかに高くなる季節変動を確認。フナ類でも同様の傾向がみられたことから、底泥から溶出した放射性セシウムが食物網を通じて魚類に取り込まれている可能性を示唆するものとしている。今回の研究成果に関し、共同チームでは、淡水魚類の長期的な放射能影響の解明につながるほか、放射性セシウム濃度の季節変動を考慮することで、より確度の高い水産物の出荷制限対応が可能となるとしている。
- 26 Nov 2020
- NEWS
-
福島産オリジナル米「福、笑い」が県内・首都圏で先行販売開始、来秋の本格デビュー前に
福島県がトップブランドとしての流通を目指し開発した高品質オリジナル米「福、笑い」が、11月10日より県内および首都圏で先行販売される。〈取扱い店については こちら を参照〉来秋の本格デビューを前に、消費者や流通業者にPRし、他道県のトップブランド米と比して遜色ない価格での販売につながるよう販路開拓戦略に資する「プレデビュー」となるもの。これまでに市場に出回った福島県オリジナルの米としては、「天のつぶ」、「里山のつぶ」があるが、品質と食味のより優れた新品種の育成を目指し、2018年に県農業総合センターで有望品種が選抜され開発が具体化。2019年に奨励品種として柔らかく粘りのある「福島40号」が採用され、2020年2月には名称が「福、笑い」に決定。「香りが立ち、強い甘みを持ちながら、ふんわり柔らかく炊きあがる」を売りとする新たな福島産オリジナル米の誕生となった。8月にはパッケージデザインも発表された。「福、笑い」の首都圏での先行販売(2kg:1,600円程度、300g:500円程度)は、百貨店、高級品スーパーを始めとする計20店。アンテナショップ「日本橋ふくしま館 MIDETTE」や、インターネット通販でも取り扱う。販売期間は2021年1月11日までを予定。福島県産米の価格は、震災直後、2014年産をピークに全国平均を下回ってきたが価格差は徐々に縮小している。一方、他道県でもこの10年程、「ゆめぴりか」(北海道)、「つや姫」(山形)など、高品質米の開発・市場参入が顕著となっており、県では今後、来秋の「福、笑い」本格デビューに向けて、飲食店とのタイアップなども通じPRに努めていくこととしている。
- 06 Nov 2020
- NEWS
-
原産協会女性シンポ、長崎大・折田氏が福島での保健活動を紹介
原産協会は10月28日、会員組織の主に女性を対象とした2020年度「女性シンポジウム」を開催した。今回は、オンラインシステムによる「Webセミナー」となり、約100名が参加。講師には、長崎大学原爆後遺症研究所助教の折田真紀子氏を招き、放射線と健康影響の基礎知識を始め、福島第一原子力発電所事故後、住民の方々に対し健康管理と放射線に関する正しい理解の普及に取り組んできた経験を聴き、質疑応答を行った。折田氏は、長崎大学が包括的連携協定締結のもと「復興推進拠点」を開設し復興支援を行ってきた川内村と富岡町での活動を主に紹介。2012年1月に福島県下で初めて「帰村宣言」を行った川内村だが、空間線量率の低下、学校の再開やインフラ整備が進む一方で、特に若年層での帰還が進まぬ現状を、2012年と2017年の年代別住民帰還率から示し、「川内郷 かえるマラソン大会」の開催、ワイン用ぶどう栽培、企業誘致など、帰還を促進する様々な取組が進められているとした。また、富岡町については、車座集会を通じた住民の方々との交流を紹介。食品中の放射性物質に関する質問の他、将来への不安感・疎外感の声もあることから、「行政と連携して取り組む必要があるのでは」などと述べた。自身が取り組む保健活動に関し同氏は、事故直後に福島県内で行われた勉強会で「娘が福島で出産できるのか」、「放射線はうつるのか」との質問があったことを振り返り、「放射線の健康リスクに関する知識や情報が住民の方々に適切に伝わらず、社会的な混乱が引き起こされた」として、リスクコミュニケーション・対話活動の重要性を強調。「客観的評価に基づいたリスクコミュニケーションが大事」とする取組姿勢の例として、富岡町の70歳男性が自身で行った個人積算線量の詳細な記録と、これを活かした今後の帰還支援の可能性をあげるなどした。参加者からは、放射線に関するわかりやすい説明の仕方、食品中の放射性物質基準値のとらえ方、空間線量率と帰還意思の関係、信頼関係の構築などに関し質問があった。
- 29 Oct 2020
- NEWS
-
筑波大他、福島の環境回復をチェルノブイリと比較し分析
筑波大学、福島大学、日本原子力研究開発機構による研究グループはこのほど、福島第一原子力発電所事故で放出された放射性物質の陸域環境中での動きから、「環境回復はチェルノブイリより大幅に速い」ことを裏付ける成果を発表した。10月27日に海外学術誌に掲載されたもの。〈筑波大発表資料は こちら〉同研究グループでは、福島の環境回復状況の変化をとらえ、陸域(発電所から80km圏内と阿武隈川流域)の環境モニタリングに関するおよそ200本の研究論文を集約・検証。福島第一原子力発電所事故により地上に降下したセシウム137は、森林67%、水田10%、畑・草地7.4%、市街地5%の割合で陸域に沈着したと算出。セシウム137の陸域移行の実態について、森林や土壌を介した下方への移行、水田から河川への移行、除染など、様々な経路・要因から総合的に分析した。その結果、福島の陸域では、チェルノブイリと比較して、急峻な地形で降水量が多いことや、耕作、除染などによって、表層部分のセシウム137の低減が速く進んだことが明らかになったとしている。例えば、放射性核種の下方への浸透速度を示す「重量緩衝深度」と呼ばれる係数を用いた評価で、特に耕作水田では、チェルノブイリ事故の影響を受けた陸域と比較し2~4倍と、耕作を放棄した水田、森林、草地などと比べて高く、人間活動や土地活用が土壌表層の放射能濃度低減に寄与していることも示された。福島森林のCs137の分布と移行(上下それぞれスギ林と落葉広葉樹林、筑波大発表資料より引用)一方、福島第一原子力発電所事故により、セシウム137放出の影響を最も受けた森林域については、樹種により経時変化が異なるが、セシウム137の量は河川水や土砂などを介し1年間当たり初期沈着量の0.3%以下しか流出せず、事故から8年間が経過しても森林生態系内(葉、枝、樹皮、幹、林床)にほとんど留まっていることがわかった。筑波大学では、福島第一原子力発電所事故発生以来、チェルノブイリとの比較とともに、生活圏である水田・耕作地・市街地を「PFU」(Paddy fields、Farmland、Urban areas)として着目し、人間活動と放射性物質低減との関係を継続的に調査してきた。2019年には、阿武隈川から海に流出した放射性セシウムの約85%が流域面積比で38%程度の「PFU」に起源していたとの共同研究成果(福島県、京都大学)を発表し、人間活動による放射性物質低減の効果を示唆している。
- 29 Oct 2020
- NEWS
-
新潟県の技術委員会が福島第一原子力発電所事故で検証結果をまとめる
新潟県の「原子力発電所の安全管理に関する技術委員会」(座長=中島健・京都大学複合原子力科学研究所副所長)が10月26日、福島第一原子力発電所事故に係る検証結果を取りまとめ、花角英世知事に報告を行った。2012年に当時の泉田裕彦知事からの要請を受け、柏崎刈羽原子力発電所の安全に資することを目的として、現地視察や、4事故調(民間、政府、国会、東京電力)報告書から課題を抽出したディスカッション、東京電力へのヒアリングなどを通じ検証を進めてきたもの。事故から得られた課題・教訓を、(1)地震対策、(2)津波対策、(3)発電所内の事故対応、(4)原子力災害時の重大事項の意思決定、(5)シビアアクシデント対策、(6)過酷な環境下での現場対応、(7)放射線監視設備・SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワーク)システム等のあり方、(8)原子力災害時の情報伝達・発信、(9)新たに判明したリスク、(10)原子力安全の取組や考え方――の10項目に整理。地震対策の関連では、水素爆発シミュレーションも実施し、「1号機非常用復水器(IC)の損傷原因が地震動による可能性も否定できないことを確認した」などと、事故調により見解に相違があった事象についても深堀し検証。「新たに判明したリスク」を踏まえた教訓としては、「使用済燃料プールのリスクに対応する安全基準を設けること」、「複数号機が同時に事故を起こしても、対応できる体制を構築すること」、「代替設備を用意するとともに、規格の統一により汎用性を向上させること」をあげている。技術委員会座長の中島氏は、今回の検証結果をまとめた報告書の冒頭で、柏崎刈羽原子力発電所における安全対策の確認に資する趣旨とともに、「広く原子力発電所の安全性向上に貢献できれば」と、事故から得られた知見の水平展開にも言及。また、結びでは、「安全を確保するのは、最後は人だ」として、国や東京電力に対し教育・訓練を通じた人材育成の重要性を強調している。花角知事は10月27日の定例記者会見で、「『色々な可能性を排除せずに課題としてとらえる』という姿勢で議論が行われ、計133もの課題・教訓が抽出された」などと語り、8年間にわたる議論の成果を認識。新潟県では現在、福島第一原子力発電所事故に関し、「事故原因」、「健康と生活への影響」、「安全な避難方法」の3つの検証を進めており、このうちの一つに結論が出た格好となった。
- 27 Oct 2020
- NEWS
-
政府の廃炉・汚染水対策チーム会合、福島第一の処理水取扱いで意見を整理
福島第一原子力発電所に係る政府の廃炉・汚染水対策チーム会合(チーム長=梶山弘志経済産業大臣)が10月23日、総理官邸で行われた。汚染水を浄化する多核種除去設備(ALPS)で取り除くことのできないトリチウムを含んだ、いわゆるALPS処理水の取扱いが課題となっている。ALPS処理水の取扱いに関しては、資源エネルギー庁の小委員会が2月に「制度面や技術面から、現実的と考えられるのは、海洋放出か水蒸気放出」とする報告書を取りまとめ、政府による方針決定に向けて関係者との意見交換、パブリックコメント、説明会が行われていた。同チーム会合では、経産相以下、関係省庁の副大臣、原子力規制委員会委員長他、日本原子力研究開発機構、原子力損害賠償・廃炉等支援機構、東京電力が出席のもと、これまでに寄せられた意見を整理した。4~10月に計7回にわたり開催された意見交換では、自治体・議会・町村会や、住民団体、経済、農林水産業、観光業、流通、消費者の各関連団体、計29団体・43名が公開の場で意見を表明。4~7月に実施されたパブリックコメントで寄せられた計約4,000件の意見を分類したところ、処理水の安全性への懸念で約2,700件、処分方法や分離技術開発の提案で約2,000件、風評影響・復興の遅延への懸念で約1,000件の他、「国民の合意がとれていない、時間をかけるべき」、海洋放出の方向性に関し「結論ありきの議論」、「国際社会から批判を受ける可能性がある」といった合意プロセスへの懸念も約1,400件に上ったという。梶山経産相は、チーム会合終了後の記者会見で、「いただいた意見に最大限対応することを前提にALPS処理水の取扱いを検討していく」と、今後の方向性を示し、「安全基準の厳格な遵守」を第一とし、関係各省に対して、意見を真摯に受け止め、風評被害の最大限の抑制、国内外に対する科学的根拠に基づいた正確な情報提供に努めるよう要請したと述べた。また、「27日にも政府方針を決定する」との一部報道に関しては、「具体的なタイミングを伝える段階にはない」と否定し、チーム会合での議論を踏まえ、「関係省庁で検討を深めた上で政府として責任を持って結論を出す」とした。
- 23 Oct 2020
- NEWS
-
首都圏に福島の美味しさを届ける「常磐ものフェア2020」、今日から開催
首都圏を対象に福島県産水産物の美味しさを広くPRし販路・消費の拡大を図る「ふくしま常磐ものフェア2020」が10月15日に始まった。「福島の漁業関係者の熱い想いをより多くの人に届ける」というコンセプトのもと、日本有数の漁業とされる福島県沖「潮目の海」で獲れるヒラメ、メヒカリ、サワラ、スズキ、ホッキ貝など、「常磐もの」を使ったオリジナルメニューを首都圏の飲食店で提供するもの。12月23日までの開催期間中、約150店舗が参加。レストラン検索・予約サイト「食べログ」にも特設サイトが開設される。〈参加店舗は こちら を参照〉今回のフェアでは、ウェブサイトを通じた生鮮食品流通を手掛けるベンチャー企業のフーディソンが11月25日までを担当。2週間ごとのタームに分けられ、フェアに参加する各ターム25店舗、3タームで計75店舗が同社の仕入サービスサイト「魚ポチ」を通じて「常磐もの」を仕入れ調理する。第1タームには、都内に飲食店を展開する(株)ジリオンの「酒場シナトラ」、「大衆ビストロジル」など、計12店舗がこぞって参加。「酒場シナトラ豊洲店」(江東区)では、日本酒・焼酎とともに、ホッキバター焼きなど、期間限定メニューが味わえる。同じく第1タームに参加するイタリアンレストラン「オステリア イル レオーネ」(新宿区)では、ホッキ貝のパスタやメヒカリのインサオールを提供。同店シェフは「福島の新鮮で味のよい水産物を使った料理で皆様の笑顔が見られることを楽しみにしている」と、期待を寄せている。同フェアは昨秋に続き2年目となるが、前回も福島県や福島県漁業協同組合連合会とタイアップし開催を支えたフーディソンによると、参加した飲食店からは、「お客様が福島の今を知ったときの反応がよかった」、「今まで福島の魚を使ったことがなかったが、今回のフェアを通じて料理人や店舗スタッフの知識も増えた」といった声もあったという。また、フェア終了後も8割以上が福島県産水産物の仕入れの継続を希望するとしており、今回フェアの開催に際し、福島漁連の野﨑哲会長は、「どれも鮮度、味もよく自信を持ってお薦めする」と、「常磐もの」のPRに意気込みを見せている。
- 15 Oct 2020
- NEWS
-
エネ庁、福島第一処理水の取扱いで全漁連他より意見聴取
資源エネルギー庁は10月8日、福島第一原子力発電所で発生する処理水の取扱いに係る関係者からの意見聴取を都内で行った。2月に「現実的な方法は海洋放出および大気放出」とする委員会報告書が取りまとめられてから7回目の開催。今回は、福島県水産加工業連合会(Web会議で参加)と全国漁業協同組合連合会が意見を述べた。福島県水産加工業連合会代表の小野利仁氏は、まず定価販売ではなく市場でのせりや入札で価格が決まる業界特有の「自分で値段を決められない」システムがあることを述べた上で、漁場を巡る隣県とのあつれき、冷凍業者への依存、昨今の新型コロナウイルス騒動による消費低迷など、県内水産業の置かれた厳しい現状を憂慮。同氏は、いわき市の郷土料理とされるさんま味りん干しの製造に携わっており、「食材は北海道産でも、加工は福島というだけで忌避される」と、水産物への根強い風評被害が生じていることから、処理水の取扱いに関し「特に海洋放出に関しては断固反対」と主張した。全国漁業協同組合連合会会長の岸宏氏も、「諸外国にも影響を与える極めて重要な問題」として反対意見を強調。同氏は、「風評被害の発生は必至で極めて甚大。これまでの漁業者の努力が水泡に帰すとともに、失望、挫折を引き起こし、わが国の漁業の将来に壊滅的影響を及ぼす」と、処理水放出への懸念を示し、「安心できる情報提供が第一。新たな風評被害を起こさないこと」などと、今後の取扱いに向けて慎重な判断が必要なことを訴えた。福島第一原子力発電所の処理水を貯蔵するタンクは2022年夏頃に満杯となる見込みだが、梶山弘志経済産業相は、9日の閣議後記者会見で、政府としての処理水の取扱い方針決定に向けて、「これまでに寄せられた意見をできるだけ早急に整理し、関係省庁と検討を深めた上で結論を出したい」と述べた。
- 09 Oct 2020
- NEWS
-
学術会議、東日本大震災からの復興に関する「社会的モニタリング」を提言
日本学術会議はこのほど、東日本大震災・福島第一原子力発電所事故からの復興に関する提言を発表した。社会科学も含めた視点から、「復興庁の存続が決定し新たな復興像が模索される中、復興過程をどう把握し復興政策に反映させていくか、制度設計のあり方についての検討は喫緊の課題」との認識のもと、被災者の状況を観察し生活を営む社会が平常状態に戻るための方策を考える「社会的モニタリング」の確立、その記録作成を支える震災アーカイブの構築を提唱。「社会的モニタリング」を具現化し一般に公開していく機能として、同提言では、複合災害としての性格に対応し復興政策検証を行う「東日本大震災・原子力災害復興過程検証委員会」を設置すべきとし、同委は独立性を備えた組織として、政府(内閣府あるいは復興庁)または国会のもとへの設置が望まれるとした。また、復興過程について、復興庁を中心とする複数省庁や関係自治体など、政策担当者の立場から総括する「復興白書」の発行とともに、学術の立場から複眼的に評価するものとして、学術会議による「復興学術報告書」の作成を提案。両書が相互に参照し合うことで、政府施策の実効性向上や将来のリスクへの備えにもなるとしている。提言では、震災から9年半が経過し、これまで国、自治体、学術組織・学協会、大学・研究機関、マスコミ、シンクタンクなど、様々な立場・観点から調査研究や復興支援が行われてきたと評価を示す一方、資料のアーカイブ化に関しては、体系化・共有化や利活用方法についての検討が散発的で、未だ残された課題も多いと指摘。参考となる取組事例として、アーカイブ化のあり方検討に市民が参加する「仙台市震災復興メモリアル」拠点事業や、ボランティア・防災活動に取り組む社会学研究者のメーリングリストを通じた書誌情報の収集・更新などをあげている。
- 23 Sep 2020
- NEWS
-
エネ庁、福島第一原子力発電所処理水の取扱いで日商他より意見聴取
資源エネルギー庁は9月9日、福島第一原子力発電所で発生する処理水について、政府としての取扱い方針を決定するための「関係者のご意見を伺う場」を都内で行った。2月の委員会報告を踏まえたもので、4月の初回開催から6回目となる。今回は、日本商工会議所、千葉県、宮城県(WEB会議システムにて参加)、茨城県(同)が意見を表明。処理水の取扱い決定に関し、丁寧な情報発信・説明と風評被害対策の拡充を訴えた。日本商工会議所の久貝卓常務理事は、処理水の放出に関し、「いまだ払拭されていない風評被害がさらに上乗せされる」といった地元商工会議所の意見、韓国を始めとする輸入規制の継続も受け、特に水産業では震災前の水準と比較し売上が激減している現状から「本当に困る。われわれを殺す気か」との切実な声も出ていることをあげ、経済的補償スキームを国が明確に示すべきと要望。千葉県の滝川伸輔副知事は、昨秋の大型台風に伴う被害にも触れ、潮干狩場や観光農園・直売場などの来客減、年間水揚量が全国1位とされる銚子漁港を有する銚子市から「地域経済全体に影響を及ぼさないよう対応を求める」との要望書が提出されたことなど、観光業も含めた風評影響に懸念を示した。宮城県の遠藤信哉副知事は、「沿岸では津波による被害を受け、基幹産業の復旧・復興、生活・生業の再建におよそ10年を要した」と、茨城県の大井川和彦知事は「福島県の漁業者とは福島第一原子力発電所事故以前、お互いの海域に入りながら漁を行っていたが、今も中断されている」などと、地元水産業が置かれた厳しい現状とともに、魚介類の検査体制や販路拡大の取組について説明。大井川知事は、処理水の取扱いに関し「現実的な方法は海洋放出および水蒸気放出」とした委員会報告について、「結論ありきの取りまとめのように見えてならない」と指摘し、「地域社会や環境に対しより影響の出ない方法は本当にないのか」も含め、既定路線にとらわれずに議論した上で、具体的な説明がなされる必要性を訴えた。
- 10 Sep 2020
- NEWS