キーワード:カーボンニュートラル
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総合エネ調の革新炉WG、今夏目途の中間取りまとめ目指し始動
総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会が「原子力発電の新たな社会的価値を再定義し、わが国の炉型開発に係る道筋を示す」ため設置した革新炉ワーキンググループ(座長=黒﨑健・京都大学複合科学研究所教授)の初会合が4月20日に行われた。今夏目途の中間取りまとめを目指す。〈配布資料は こちら〉議論開始に先立ち同会合では、資源エネルギー庁が、革新炉による貢献の可能性について、安全性向上、脱炭素化(水素・熱供給)、電力ネットワーク(負荷追従による系統安定化など)、安定供給・経済安全保障、廃棄物問題などの項目ごとに整理し説明。革新炉開発に求められる価値の評価軸として、(1)技術の成熟度と必要な研究開発、(2)実用化された際の市場性、(3)具体的な開発体制の構築と国際的な連携体制、(4)実用化する際の規制対応――を提示し、「どのように評価していくか」と、議論に先鞭をつけた。続いて、日本原子力研究開発機構、三菱重工業、日立製作所、東芝エネルギーシステムズが革新炉開発に係る取組状況を説明。日本原子力研究開発機構からは、3月28日の原子力小委員会会合でも発表を行った大島宏之理事(同WG専門委員)が改めて機構の取組について紹介。三菱重工業からは原子力セグメント長の加藤顕彦氏が「三菱革新炉ラインナップ」として、次世代軽水炉、小型軽水炉、高温ガス炉、高速炉などの開発状況を披露。その中で、コンテナ輸送が可能な「マイクロ炉」(熱出力1MW~、電気出力500kW~)は、燃料交換不要、長期間の遠隔・自動運転、メンテナンスフリーを実現する「まったく新しい」炉心構造を有するポータブル原子炉で、離島・へき地・災害地での利用が期待されている。また、日立製作所原子力ビジネスユニットCEOの久米正氏は、小型炉「BWRX-300」、軽水冷却高速炉「RBWR」、金属燃料ナトリウム冷却高速炉「PRISM」について紹介。同氏は、革新炉開発を巡る現状の課題として、プラント建設経験者の年齢構成や取引企業に行ったアンケートから、「技術伝承と経験あるサプライヤーの維持」を第一にあげた。東芝エネルギーシステムズの薄井秀和取締役は、静的安全系(安全機能が外部からの信号や操作なしにそれ自体の有するメカニズムで確保される)を有する東芝次世代BWR「iB1350」や事故耐性燃料「炭化ケイ素被覆管」など、「安全性に優れた炉の追求」を強調。「炭化ケイ素被覆管」は2022年度に米国で照射試験が予定されている。委員からは、革新炉の早期実用化への期待とともに、「2050年カーボンニュートラル」を見据えた開発のタイムスパンや優先順位付けに係る意見も多くあがった。サプライチェーンの維持に関しては、田村多恵氏(みずほ銀行産業調査部参事役)が「世界の革新炉市場の中で日本は何%くらいシェアできるのか」などと、競争力分析の必要性を指摘。将来の人材確保に向けては、原子力教育に携わる高木直行氏(東京都市大学大学院総合理工学研究科教授)が、今春の新入生オリエンテーションの所感として「革新炉に関心を持つ学生も多い」と期待を寄せた。また、社会に対する説明や理解醸成に関しては、医療や遠隔操作など、原子力関連技術の非エネルギー分野における波及効果や、SDGs目標のようなわかりやすい形での発信を求める意見、また、昨今のウクライナへの軍事侵攻に鑑み、核セキュリティや地政学的リスクへの懸念や、「国際的な原子力ガバナンスについても検討すべき」といった声もあがった。
- 20 Apr 2022
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【第55回原産年次大会】「世界の持続可能な発展と原子力への期待」を基調テーマに開幕
「第55回原産年次大会」が東京国際フォーラム(東京都・千代田区)で4月12日に開幕した(オンライン配信併用)。13日までの2日間、国内外660名の参加者のもと、「世界の持続可能な発展と原子力への期待」を基調テーマに、原子力が能力と価値を最大限発揮し、気候変動対応や社会・経済の持続的発展のため、どのような役割を果たすべきかについて考える。開会セッションでは、冒頭、原産協会・今井敬会長が所信を述べた。今井会長は、「世界ではカーボンニュートラルの目標のもと、原子力をその具体的な解決策とした取組が積極的に推進されている」として、最近の英国とフランスにおける原子力推進の動きを例示。さらに、「わが国も含め、新型炉開発など、イノベーションの分野でも各国支援のもと、多数のプロジェクトが進められている」とも述べ、「脱炭素社会の実現に向けた具体的手段」としての原子力に対する世界的な評価を改めて強調。加えて、昨今のウクライナ危機を始めとする世界情勢の不安定化に鑑み、「エネルギー安全保障の面からも原子力の重要性はより一層高まっている」とした。今井会長は、今回大会の各セッションがねらう論点を紹介。12日のセッション1と2では、「原子力の開発・利用、事業環境の整備について、日本や欧米各国がどのような国家戦略のもと、対処しようとしてるのか」を考えるとした。翌13日のセッション3では福島第一原子力発電所の廃炉、セッション4では六ヶ所再処理工場を始めとするバックエンド事業の意義とこれに対する期待、セッション5では国内外の若手パネリストを招き「若手が考える原子力の未来」について、それぞれ話し合う。細田経産副大臣続いて、細田健一経済産業副大臣が来賓挨拶。細田副大臣は、先般の電力需給ひっ迫を踏まえ電力の安定供給確保に努めるとともに、福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策と福島の復興を引き続き「最重要課題」と位置付け着実に取り組んでいくことを改めて述べた。さらに、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関しては、「わが国のエネルギー安定供給構築の重要性を再確認するきっかけとなった」とするとともに、ロシア依存からの脱却を見据えた燃料調達の多様化の中で、原子力を再評価する欧州の動きにも言及。「四方を海に囲まれ資源の乏しいわが国において、安全性、安定供給、経済効率性、環境適合のすべてを満たす単一の完璧なエネルギー源は存在しない。原子力を含めた多様なエネルギー源をバランスよく活用することが重要」と、日本におけるエネルギー供給の現状を認識した上で、当面の課題である原子力発電所の再稼働に向けては、「円滑に進むよう、産業界とも連携し的確な安全審査対応をサポートするとともに、国も前面に立って立地自治体等、関係者の協力を得られるよう粘り強く取り組んでいく」とした。開会セッションでは、この他、OECD/NEA事務局長のウィリアム・マグウッド氏と国際エネルギー機関(IEA)チーフエネルギーエコノミストのティム・グールド氏による特別講演(ビデオメッセージ)、「リーダー・パースペクティブ」としてテラパワー社長兼CEOのクリス・レベスク氏のプレゼンテーションが行われた。OECD/NEA事務局長・マグウッド氏マグウッド氏は、「ネットゼロを目指して-原子力エネルギーの必要性と課題」と題し講演。同氏は、「各国で資源の賦存状況など、政策意思決定の要因は色々と異なるが、どの国もエネルギー安全保障について真剣に考えねばならない」と繰り返し述べた上で、石炭利用の縮小やCO2排出削減目標などを背景に、現在、多くの国々で原子力が重要な戦略要素として再浮上しているとした。さらに、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の「1.5℃特別報告書」(世界の平均気温上昇を産業革命以前から1.5℃未満に抑える検討)が示す90のシナリオを分析して得た「世界の原子力設備容量を2050年までに2020年の3倍に増加する必要がある」とのNEAによる評価を紹介。これに関し、IEAとNEAによる「発電コスト予測」(2020年版)から、「原子力発電所の建設コストは平均して下がっている一方、石炭はほとんどの市場で競争力を失っている。今は原子力発電所を長期運転することが最も低コストなオプションだ」と強調。その上で、マグウッド氏は、「国によって原子力の規制プロセスが異なるほか、運転期間の延長に多額の投資が必要な場合もある。何よりも市場がプラントのもたらす価値を明確にとらえていないことが大きな問題だ」と、原子力によるネットゼロの実現に向けた課題を示唆した。IEA・グールド氏また、グールド氏は「IEAの視点-安定したエネルギー転換における原子力の役割」と題し講演。同氏は、IEAの「2050年ネットゼロシナリオ」を披露し、今後30年で原子力発電容量が倍増する見通しを示した上で、「拡大する再生可能エネルギーを補完するものとして、原子力の役割が重要」との考えを繰り返し述べた。世界の電力需給に関して、電化の進展により2050年の電力需要は2020年の約3倍に拡大し、電力供給では、原子力と水力を基盤として風力と太陽光のシェアが大幅に伸びるといった予測を図示。一方で化石燃料の減少に伴い、「ネットゼロの実現に向けて、蓄電池や水素ベース燃料など、調整力を持つ様々な電源が必要になる」とも指摘。日本に対するメッセージとして、グールド氏は、「安全に原子力発電所を再稼働することは、CO2排出削減と電力の安定供給の両方の目的にとって大変重要だ」と述べた。テラパワー社長・レベスク氏(右、オンラインにて)とエネ研・村上氏「リーダー・パースペクティブ」では、村上朋子氏(日本エネルギー経済研究所)がモデレーターを務め、米国テラパワー社が取り組む新型炉開発についてレベスク氏が紹介。テラパワー社は高速炉「ナトリウム」の2028年運開を目指しており、日本の「常陽」や「もんじゅ」の経験に期待を寄せ、1月には日本原子力研究開発機構、三菱重工業他とナトリウム冷却高速炉の技術協力に関する覚書を締結している。レベスク氏は、「日本が学んできた色々な経験・教訓を安全確保に活かしていきたい」と強調。また、同氏は、「ナトリウム」プロジェクトが米国エネルギー省(DOE)の「先進的原子炉実証プログラム」(ARDP)による支援獲得に行った経緯についても言及し、原子力技術における米国のリーダーシップ再興に向けた戦略的な動きをアピールした。「ナトリウム」の実証炉は、ワイオミング州ケンメラー市で閉鎖予定の石炭火力発電所に建設される計画となっている。レベスク氏は、「過去100年以上にわたり地域コミュニティは米国のエネルギー産業に大変貢献してきた」と述べ、テラパワー社による革新技術に地元が参画することに強い期待を寄せた。同氏の発表を受け、村上氏との間で、「ナトリウム」に関し、初号機以降の建設計画やマーケティング戦略などに関し質疑応答がなされた。
- 12 Apr 2022
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エネ庁、小学生の自由研究「かべ新聞コンテスト」で優秀作品発表
資源エネルギー庁は4月7日、エネルギー教育推進事業の一環として小学校高学年を対象に作品を募った「『わたしたちのくらしとエネルギー』かべ新聞コンテスト」の2021年度受賞者を発表。全国からエネルギーに関する自由研究をかべ新聞形式でまとめた394作品が寄せられ、審査の結果、最優秀賞(経済産業大臣賞)には北海道教育大学附属札幌小学校(札幌市)の「地球を救おう ~カーボンニュートラルで~ 新聞」が選ばれた。この他、優秀賞として19作品、入賞として16作品が選ばれている。〈講評と受賞作品一覧は こちら〉最優秀賞作品の「地球を救おう ~カーボンニュートラルで~ 新聞」では、エネルギー基本計画が示す電源構成、「2050年カーボンニュートラル」の意味、電気自動車の普及、原子力発電に関する校内アンケート、旭川市の旭山動物園が取り組む環境保全の取組などを「記事」にまとめ、「地球は人間だけのものではない。私たちも空と森、そして未来のために電気の無駄使いからなくしていき、カーボンニュートラルを実現したい」と訴えかけている。「あさひやま 動物園で バイオマス たくさん学ぶ 猛暑の中で」。これは、同作品をまとめた山村理透さん(5年、応募当時)が旭山動物園を取材した感想を短歌にしたものだ。山村さんが動物園を訪れた2021年7月31日、旭川市は最高気温が37.6℃に上る記録的な猛暑となった。地球温暖化・森林破壊がホッキョクグマやオランウータンの生態に及ぼす影響、園内に設置される水・くみ取り不要のバイオトイレに関して説明を受けたとしており、昨今の異常気象を肌で感じながら、エネルギーと気候変動の関係や環境保全について考える重要性を学んだものと思われる。北海道教育大学附属札幌小学校からは、今回、優秀賞11作品、入賞6作品が選ばれており、冬季に降り積もった雪を貯蔵し施設の夏季冷房に利用する雪氷熱エネルギーや、畜牛の糞尿を発酵させて得られるメタンで熱・電気を起こすバイオガスプラント(副産物として肥料)など、地元ならではの課題がエネルギーへの還元を通じて解決される取組を現地取材した作品も幾つかあった。優秀作品にみられるこうした傾向に関し、コンテストの審査委員長を務めた山下宏文氏(京都教育大学教育学部教授)は、「具体的な見学や調査に基づいて考えが述べられていた」、「自分たちの住む地域の問題に目を向けていた」などと評価。一方で、取り上げるテーマが再生可能エネルギーと地球温暖化に偏っていることを憂慮し、「もう少し広い視野が欲しい」ともコメントしている。
- 11 Apr 2022
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原子力機構・小口新理事長就任、カーボンニュートラル実現に「強い責任感を」と
小口新理事長©原子力機構日本原子力研究開発機構の理事長に4月1日、元三菱重工業副社長の小口正範氏が就任した。2005年に日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構との統合により発足した同機構の理事長は6代目となる。〈原子力機構発表資料は こちら〉小口理事長は、就任に際しメッセージを発表。カーボンニュートラル実現に向け、エネルギー基本計画の具体化に関する議論が進められている現状などを踏まえ、原子力に関する総合的研究開発機関として、「果たすべき使命は誠に重大」、「強い責任感をもって行動する」と、抱負を述べている。「原子力科学を通じて人類社会の福祉と繁栄に貢献する」という原子力機構の使命を改めて強調。「安全を最優先する」大前提のもと、カーボンニュートラルに貢献する軽水炉・高温ガス炉・高速炉の研究開発、人材育成プラットフォーム機能の充実、福島第一原子力発電所事故の対処に係る研究開発、高レベル放射性廃棄物の処理処分に関する技術開発、持続的なバックエンド対策などに重点を置いて取り組むとしている。児玉前理事長©原子力機構これに伴い退任した児玉敏雄・前理事長は、2015年4月に松浦祥次郎氏の後任として就任。新任の小口理事長と同じく三菱重工の出身で、7年間の在任中、研究炉の審査対応・運転再開、「もんじゅ」集中改革、バックエンド対策を見据えた施設中長期計画の策定・推進など、多くの課題に取り組んだほか、量子ビーム・核融合分野に係る放射線医学総合研究所(現量子科学技術研究開発機構)との再編統合でも組織間の相乗効果に向け手腕を発揮した。また、4月1日付で、副理事長(敦賀事業本部長)に、伊藤洋一氏の後任として、板倉康洋執行役を充てる役員人事も発表された。
- 01 Apr 2022
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バイデン外交が彷彿とさせる1970年代のリスク
ジョー・バイデン米国大統領と言えば「外交政策通」と考えられてきた。理由はその政治家としてのキャリアである。36年間の連邦上院議員時代、外交委員会に長く席を置き、通算4年間に亘って委員長を務めた。財政委員会、司法委員会と共に1816年に創設された同委員会の権威は非常に高く、条約の批准など米国の外交政策、さらには外交に関する人事について、極めて大きな権限を有している。歴代委員長には、ジェームズ・フルブライト、フランク・チャーチ、ジョン・ケリーと言った大物上院議員が名を連ねた。バイデン大統領は、上院外交委員会の有力議員として旧ソ連崩壊後のユーゴスラビア紛争や同時多発テロ事件を受けたテロとの戦いで目立つ活躍を見せたと言われている。また、バラク・オバマ政権の副大統領であった8年間、外交経験のないオバマ大統領の指南役とも目されていた。そのバイデン大統領が昨年11月の大統領選挙で勝利した後、国務長官に指名したのがアントニー・ブリンケン氏だ。国務省の外交官、上院外交委員会の民主党スタッフを務め、オバマ政権で国家安全保障担当大統領補佐官に就任した外交・安全保障に関するプロフェッショナルに他ならない。バイデン大統領との良好な関係を築いてきたことでも知られている。前任のドナルド・トランプ大統領は、外交のみならず政治家としての経験がなく、貿易収支の不均衡是正に極めて熱心だった以外、明確な外交方針は見えなかった。一方、バイデン大統領のキャリアや人事から見て、就任当初、バイデン政権の外交は手堅いとの観測が強かったのではないか。ただし、同大統領はアジア外交で中国を重視する傾向が強いと言われ、日本の外交関係者の間では、米国が日本の頭越しに対中対話を進めるシナリオが懸念されていた。オバマ大統領の「戦略的忍耐」はかならずしも北朝鮮だけでなく、中国にも実質的に適用された結果、南シナ海の南沙諸島において中国の人工島建設を許し、海洋進出を加速させる背景となったことも不安材料だったと見られる。しかしながら、バイデン大統領の外交は2つの点で日本の想定を裏切ったのではないか。その1つは厳しい対中姿勢であり、もう1つは戦略性・緻密さの欠如だ。後者については、国際社会の分断を加速させ、資源の争奪戦を助長して日本経済に大きな影響を及ぼすことが懸念される。 想定を超える厳しい対中姿勢バイデン政権の発足から1年が経過するなか、意外感が強いのは予想以上に厳しい対中姿勢だ。特に台湾問題を極めて重視、中国に台湾海峡における現状維持を度々求めている。昨年8月19日、ABCニュースが報じた単独インタビューにおいて、同大統領は「北大西洋条約機構(NATO)の加盟国が攻撃を受けた場合、(米国は)同条約第5条に基づき速やかに対処する。日本や韓国、そして台湾に対しても同様だ」と語り、世界を驚かせた。この発言は、事実上、米国が台湾に対して防衛義務を負うと解されたからだ。さらに、同年10月21日、メリーランド州ボルティモアで開催した住民との対話集会でも、司会者が中国により台湾が攻撃されれば「米国は台湾を防衛するか」と尋ねた際、同大統領は「米国にはそうする義務がある」と語ったことが伝えられた。この2回の発言後、いずれもホワイトハウスは「米国の政策に変更はない」として火消に追われたのである。1979年1月1日、日本に6年3ヶ月遅れて米国は中華人民共和国との国交を正常化した。その際、公式には中華民国(台湾)と断交している。結果として1955年3月に発効した『米華相互防衛条約』は1979年末に失効した。ただし、台湾と一定の関係を維持するため、1979年4月10日、ジミー・カーター大統領(当時)は『台湾関係法』に署名した。この法律は、米国が台湾を国家並みの扱いとすること、台湾の居住民に対する武力行使には適切な行動を採ること・・・などが定められている。ただし、同法はあくまで米国の国内法であり、条約上、中国の一部として認めた台湾に関して、米国が防衛義務を負っているとのバイデン大統領の発言は正確ではない。外交通の同大統領がこの件を正しく理解していないとは考え難いだけに、実は確信犯として対台湾政策を示したのではないかとの見方が強まっている。中国は1984年12月に英国との間で『英中共同声明』に署名、1997年7月1日における香港の返還を正式に決めた際、50年間に亘って「一国二制度」を維持すると約束した。しかしながら、2020年の全国人民代表大会(全人代)で『国家安全法(国安法)』を香港にも適用すると議決、英国との約束は、事実上、反故になったと言える。中国が台湾統一を「核心的利益」であると繰り返すなか、台湾防衛に踏み込んだバイデン大統領の発言は、中国が香港と同様に治安維持を名目として実質的な台湾の統一を図る可能性を牽制したものだろう。これは、「戦略的忍耐」を掲げたオバマ大統領、通商交渉以外に興味を示さなかったトランプ大統領の時代と比べ、バイデン政権が非常に厳しい姿勢で中国に臨んでいることを示す傍証と言えるのではないか。2月4日に開幕した北京冬季五輪についても、習近平国家主席が国威発揚の場として極めて重視してきたにも関わらず、米国は政府高官の開会式への出席を見送った。中国は射程距離が1万2千㎞に及ぶ潜水艦発射大陸間弾道弾(SLBM)、『JL-3(巨狼3号)』の開発最終段階にあると見られる。発射の兆候を極めて掴み難いSLBMが実戦配備された場合、台湾周辺の海域から米国全土を射程圏内に収める可能性が高まるだろう。台湾情勢の緊迫、そしてJL-3の開発が、バイデン大統領による厳しい対中姿勢の背景なのではないか。 分断を加速させた『民主主義サミット』昨年8月31日、米軍はアフガニスタンから完全に撤退した。この決定はトランプ大統領時代の2020年2月、米国とタリバンが同意したものだ。ただし、撤退の方法は慎重さに欠け、8月15日には首都カブールが実質的にタリバンの支配下になった。さらに、同26日にはカブール国際空港周辺でイスラム国(IS)による自爆テロ事件が起こり、米軍兵士13人を含む多くの人が死傷したのである。結局、米国を後ろ盾としたアフラシュ・ガニ大統領は出国して政権は崩壊、アフガニスタンはタリバンの支配下に逆戻りし、米国における同時多発テロ事件直後の2001年10月、テロとの戦いの一環として同国に軍事介入した米国の20年間の努力は報われなかった。アフガニスタンからの米軍の撤退について、米国の有権者に異論は少ないようだ。しかしながら、7月に入って米軍の駐留米軍の規模が縮小され、タリバンの攻勢が明確になるなか、各種世論調査でバイデン大統領の支持率は低下した(図表1)。米国に協力したアフガニスタン人がタリバンから復讐されているとの報道もあり、結果から見れば十分な準備がなされたとは言えない幕引きについて、バイデン大統領の外交手腕に対する米国内外の強い懸念が残った。バイデン政権の外交政策への不信感がさらに高まったのは、昨年12月9-10日、米国が主宰してリモートにより開催された『民主主義のためのサミット(民主主義サミット)』ではないか。独裁色を強める中国、ロシアに対し、民主主義国家の結束を固めるためのイベントだったが、戦略性と配慮に欠けた招待国の選択を疑問視する声は少なくないようだ。国連加盟国193か国中109か国及びEUと台湾が出席したのだが、NATO加盟国でありながらハンガリー、トルコは「独裁的である」として招待されていない(図表2)。その結果、ハンガリーはロシアへの傾斜を強め、今年2月1日にはウクライナ問題が深刻化するなかでオルバン・ビクトル首相がモスクワを訪問、ウラジミール・プーチン大統領と首脳会談を行った。この時、プーチン大統領はハンガリーへの天然ガスの供給拡大を約束している。また、東南アジアでは、ASEAN加盟10か国のうちシンガポール、タイ、カンボジアに加えてベトナムも社会主義国であることを理由に民主主義サミットへ招かれなかった。もっとも、同国は1979年の中越戦争で中国と戦っており、ASEANのなかで最も厳しい対中姿勢を堅持している国だ。もちろん、同国は米国とも泥沼の戦争をしたわけだが、その後はむしろ日本、米国との外交や経済交流を強化し、特に日本とは極めて良好な関係を維持している。それを象徴しているのは、2012年12月に政権を奪還して第2次内閣を発足させた安倍晋三首相(当時)が、最初の外遊先にベトナムを選んだことだろう。また、後任の菅義偉首相(同)も、安倍前首相の先例に倣い、内閣総理大臣就任後、ベトナムを初の訪問国とした。2017年11月、APEC首脳会議に伴い開催されたTPP関係国会議では、開催国であったベトナムと日本が共同議長を務め、最終合意へ向けた詰めの作業を行っている。中国、台湾がTPPの加盟を同時申請、既存メンバー11か国の見解が分かれるなかで、日本政府にとってベトナムとの連携は極めて重要だろう。さらに、地理的に見れば、ベトナムは南シナ海に面し、安倍元首相が提唱、今や米欧諸国も追随した「自由で開かれたインド太平洋戦略」のど真ん中に位置している。フィリピンやマレーシアを民主主義サミットに招待し、シンガポールを招待しなかったことも衝撃的だが、ベトナムを敢えて仲間外れにしたバイデン政権の判断基準は理解に苦しむ。日本政府も困惑したのではないか。もちろん、岸田文雄首相は民主主義サミットへ出席、演説も行ったが、日本にとっては何のためのサミットか意味不明だ。さらに、国際的なエネルギー問題の鍵を握るサウジアラビア、UAE、カタールなども招待されていない。中国、ロシアは米国による包囲網として非招待国との連携強化を表明、民主主義サミットが開催されていた12月9日、招待されなかった中米のニカラグアは、中国と国交を回復して台湾と断交すると発表したのである。敢えてこの時期に世界を巻き込んだイベントを開催し、各国に対するバイデン政権の色分けを示した印象になったことで、民主主義サミットは国際社会の分断加速に貢献したと言えるかもしれない。結果として、招待された国の間においてもバイデン大統領の外交手腕に対する疑問が深まり、独自路線を模索する動きが加速することも考えられる。民主主義サミットの開催で米国が払った代償は小さくないと言えるのではないか。 1970年代の苦い教訓ロシアとの緊張が高まるウクライナ情勢に関しては、1月28日、当事国であるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が首都キエフで記者会見に臨み、「複数の尊敬される国家のリーダーでさえ、明日にも戦争が起こると煽っている。これはパニックであって、結果としてウクライナにどれほどの犠牲を強いるつもりなのか」と語った。「尊敬される国家のリーダー」には、バイデン大統領も含まれると見られる。このゼレンスキー大統領の指摘は、少なくとも米国とウクライナの間で円滑な意思疎通が行われていない可能性を示唆するだろう。日本の報道や論評では、バイデン大統領の命運を11月8日の中間選挙が握っているとの見方が少なくないようだ。しかしながら、それはかならずしも正しくはない。戦後、新大統領が初めて臨む中間選挙において、全議席が改選となる連邦下院で大統領与党が議席を増やしたことは1回しかない(図表3)。ジョージ・W・ブッシュ大統領の下での2002年の中間選挙であり、前年の同時多発テロによって国民の大統領に対する支持が高まっていた異例の選挙だった。 一方、ビル・クリントン、バラク・オバマ両民主党大統領は1回目の中間選挙で歴史的な大敗を喫したものの、2年後の大統領選挙では大差で再選された。それは、1期目の大統領の評価を決めるのが、大統領選挙前2年間の景気だからである。再選された7人の大統領はこの2年間の米国経済は好調であり、トランプ前大統領を含めて再選されなかった4人の場合、どちらかの年に米国はリセッションに陥っていた。2024年の大統領選挙へ向け、バイデン大統領にとって重要なのは中間選挙ではなく2023、24年の米国経済に他ならない。ただし、内政において社会保障強化・地球温暖化対策を盛り込んだ“Build back better(より良き再建)”法案が予算規模を半減させたにも関わらず、民主党のジョー・マンチン上院議員の反対で頓挫、バイデン大統領は公約実現へ向けた主導権を失った。外交も目覚ましい成果がないとすると、今のところバイデン大統領には景気頼み以外の再選戦略が見えないことも事実だろう。強い閉塞感の下、早くも民主党周辺には2024年へ向け新たな大統領候補を模索する動きが顕在化しつつあるようだ。カマラ・ハリス副大統領の人気も凋落していることから、ピート・ブティジェッジ運輸長官やエイミー・クロブシャー上院議員、ジョセフ・パトリック・ケネディ3世下院議員などの名前が既に有力メディアに取り上げられた。そうしたなか、注目を集めたのが今年1月11日のウォールストリートジャーナル(電子版)がオピニオン欄で取り上げた“Hillary Clinton’s 2024 Election Comeback(ヒラリー・クリントンは2024年の選挙へ復帰)”との投稿だ。書いたのは政治アナリストのダグラス・シェーン氏、ニューヨーク州下院議員のアンドリュー・ステイン氏だった。クリントン氏は現在74歳、バイデン大統領より5歳年下であり、ご本人の意向次第では可能性がゼロではないようだ。一方、共和党はドナルド・トランプ前大統領が今のところ最有力候補である。仮に民主党もクリントン氏が「ポスト・バイデン」の最右翼になるとすれば、米国の政界では大統領になり得るべき人材が払底しているのかもしれない。バイデン政権の混迷が他人事として看過できないのは、日本にとって苦い経験があるからだ。米国でウォーターゲート事件が深刻化した1973年10月20日、渦中の人、リチャード・ニクソン大統領はアーチボルト・コックス特別検察官の解任を拒否したエリオット・リチャードソン司法長官、ウィリアム・ラッケルハウス副長官を更迭した。このニクソン大統領による『土曜日の虐殺』が行われたその日、アラブ石油輸出国機構(OAPEC)は第4次中東戦争でイスラエルを支援した米国、オランダへの石油禁輸措置を発動したのである。大統領の権威が失墜、米国の政治が混乱している最中を突いて、石油危機は深刻化した。また、ニクソン大統領の後継となったジェラルド・フォード、ジミー・カーター両大統領は、指導力や戦略性に欠け、米国の外交・安全保障政策が弱体化しただけでなく、イラン革命による第2次石油危機を招いて世界の分断を深刻化させたのである。オバマ大統領の「戦略的忍耐」、トランプ大統領の“MGAM(Make America Great Again)”は、結局のところ中国の台頭を招き、現下における国際情勢の不安定化につながった。さらにバイデン政権が外交的な失策を重ねれば、国際社会の分断は加速しかねない。資源を海外に依存する島国日本としては、この状況は決して好ましいとは言えないだろう。特に地球温暖化抑止の観点からエネルギーに関して備蓄の難しいLNGへの依存度を高めれば、日本のエネルギー安全保障はこれまで以上に国際情勢に左右される。東シナ海や南シナ海、台湾海峡が有事となれば、LNGの調達に支障を来す事態が起こり得るからだ。米国のリーダーシップによる国際社会の安定は明らかに揺らいでいる。そうしたなかで、日本は米国のみならず、EU、英国、豪州、インド、ASEAN諸国などとの連携を深め、独自の外交・安全保障戦略で国益を守る必要があるだろう。また、中国やロシアとの対話も継続しなければならない。そうしたなか、経済の安定にはエネルギーの確保が必須だ。経済安全保障を確保する上で、日本は強固なエネルギー戦略を求められている。 (編集部注:2月上旬に御寄稿いただきました)
- 22 Mar 2022
- STUDY
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経産省、クリーンエネルギー戦略策定で原子力産業を議論
「クリーンエネルギー戦略」の策定に向け議論する総合資源エネルギー調査会と産業構造審議会の合同会合が3月1日に開かれ、自動車産業、原子力産業などを取り上げ話し合った。〈配布資料は こちら〉同会合は、昨秋発足の岸田内閣による「クリーンエネルギー戦略」策定の表明を受け、供給側とともに需要側各分野でのエネルギー転換の方策について、2021年12月より検討を開始したもの。今回で4回目の開催となる。冒頭、挨拶に立った萩生田光一経済産業相は、「自動車産業は多くの雇用を支える基幹産業」、原子力は実用段階にある脱炭素電源であり、『2050年カーボンニュートラル』の実現に不可欠な技術」と、今回会合で取り上げる産業分野の重要性を強調した。原子力産業に関する論点につき、資源エネルギー庁が、現状のビジネス環境、カーボンニュートラルが産業や社会に与える環境、海外プレイヤーの動向の視点から整理。先般10か月ぶりに開かれた総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会でも述べられた通り、2050年に向けアジアを中心とする需要増に応じた世界の原子力市場の拡大傾向を示した上で、「米国と英国では原子力のサプライチェーンが完全に弱体化。フランスと韓国では現在立て直しを図っているところ。中国とロシアは世界の軽水炉市場の6割を席巻している」などと、海外プレイヤーの動向について概観した。また、米国テラパワー社・日本原子力研究開発機構・三菱重工業による高速炉開発に向けた覚書締結など、日本の高い技術力に期待した昨今のコラボレーションの動きを述べる一方で、国内における新規プラント建設の中断や海外への輸出案件の中止といった環境変化から、「ものづくりの現場がなくなっている。将来の投資が見通せない中で撤退する企業も多い」などと問題点を指摘。韓国の輸出支援策についても紹介した上で、政府による総合的取組を通じたサプライチェーン立て直しの必要性を示し議論を求めた。委員からは、「マーケットが狭まれば、そこに仕事を求めていく学生もいなくなる」、「製造・運転を担う人材をこれ以上失ってはならない」といった人材確保に関する危機感が多く示された。
- 02 Mar 2022
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エネルギー価格と日本に忍び寄るインフレのリスク
世界的にインフレの懸念が高まりつつある。例えば米国の場合、新型コロナ禍前の2019年までの20年間、消費者物価上昇率は年平均2.1%、変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアベースでは2.0%だった。それが、昨年12月は総合指数が前年同月比7.0%、コア指数は5.5%上昇した。総合指数は39年ぶり、コア指数も30年ぶりの高い伸びだ。欧州主要国でも軒並みインフレ圧力が急速に強まっている。この物価上昇について、当初、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、新型コロナ禍からの景気回復期における「一過性の現象」と指摘していた。しかしながら、このところは見方を変え、インフレが長期化するリスクを懸念しつつある。FRBは、新型コロナ禍への対応で実施した歴史的緩和の方針を既に転換し、米国の金融政策を決める3月15、16日の次回連邦公開準備委員会(FOMC)で利上げに踏み切るとの見方が大勢だ。世界的にインフレ圧力が強まりつつある背景については、様々な要因が考えられる。そのなかで、最も根本的な変化は、国際社会が「グローバリゼーション」から新たな「分断の時代」へ突入したことではないか。 ゲームチェンジャーとしての新型コロナ過去60年間における主要国の消費者物価上昇率を振り返ると、1960~80年代はインフレの時代だった(図表1)。一方、1990~2010年代は物価安定の時代だ。2つの時代の境目で起こった象徴的な事件は、1989年11月のベルリンの壁崩壊、そして1991年12月の旧ソ連消滅だろう。それ以前は東西冷戦期であり、世界のサプライチェーンは統一されておらず、米ソ両ブロックが陣地獲りと資源の争奪戦を繰り広げていた。さらに、2回の石油危機に象徴される地域紛争が資源価格を高騰させ、世界経済を極度のインフレに導いたのである。ちなみに、第1次石油危機のきっかけは、1973年10月6日、エジプト、シリアを主力とするアラブ連合軍が、ゴラン高原に展開するイスラエル軍を攻撃して始まった第4次中東戦争だった。この時、アラブ諸国を支援していたのは旧ソ連であり、イスラエルは米国を後ろ盾としていたのである。しかしながら、旧ソ連が消滅して以降、世界は唯一の覇権国になった米国を軸として単一市場の形成に向け大きく動き出した。特筆されるのは、1995年に設立された世界貿易機構(WTO)を中心に国際的な通商ルールが確立されるなか、中国、東南アジア諸国、メキシコなどが急速に工業化し、その供給力によって需要超過の米国もインフレから解放されたことだろう。一方、冷戦下で米国への輸出により高成長を遂げた日本は、新興国に対し競争力を失って過剰供給による構造的なデフレに陥った。もっとも、30年間に亘って続いてきたグローバリゼーションの時代は、新たな転換点を迎えようとしているのではないか。その表面的な契機は新型コロナ禍だ。中国の武漢市で発生したと言われるこの国際的な疫病が米国へ飛び火した2020年初頭以降、ドナルド・トランプ大統領(当時)は急速に対中批判を先鋭化させた。それ以前は貿易収支の不均衡で対中圧力を強めていたものの、自身の別荘であるフロリダ州のマールアラーゴへ習近平中国国家主席を招待するなど、両国関係はむしろ良好だったと言える。しかし、自身の再選を目指す大統領選挙まで1年を切った段階での新型コロナの感染急拡大により、トランプ大統領は中国への姿勢を大幅に硬化させた。ただし、新型コロナはあくまで象徴的出来事であり、米中対立の本質は中国が将来において米国から覇権を奪取する意図を隠さなくなったことではないか。近年における人民解放軍の急速な近代化と東シナ海、南シナ海、フィリピン海への海洋進出、国家による支援を後ろ盾とした国営企業による通信、半導体、人工知能(AI)など最先端技術の開発、そしてアジア・太平洋、アフリカ、中南米などにおける外交・経済両面でのプレゼンスの拡大は、米国にとり中国による挑戦と見えても不思議ではない。経済的交流がほとんどなかった東西冷戦時代の米ソと異なり、現代の米中両国は相当規模での相互依存関係を築いてきた。例えば、米国にとって中国は最大の農産品の輸出先であり、中国は発行された米国国債の約5%を保有している。従って、米中が覇権を争うとしても、1950〜80年代と同じタイプの冷戦にはならないだろう。しかし、米国と中国による新たな分断の時代は、30年間続いた世界的な物価安定の終焉を意味する可能性がある。好例はウクライナ情勢だ。2月4日、北京冬季五輪の開幕式に合わせて行われた中ロ首脳会談において、習近平国家主席は中国はロシアが最も懸念する北大西洋条約機構(NATO)の拡大に反対の立場を鮮明にし、ウラジミール・プーチン大統領は台湾を中国の領土であると再確認した。エネルギー部門を含めた中ロの連携強化は、ウクライナ情勢などを通じて国際的な資源価格の高騰の背景となり、インフレ圧力を強める可能性がある。また、習近平政権は新たな経済政策の目標として「共同富裕」を掲げた。その直接的なイメージは貧富の格差の是正だろう。もっとも、本質的な狙いは個人消費主導の経済成長ではないか。消費拡大は、国民の生活水準向上であり、即ち一党独裁制を敷く共産党への国民のローヤリティを高める道に他ならないからだ。加えて、世界最大の人口を使って世界中から財貨を購入することにより、米国と同様、世界経済における中国の存在感の向上、国際社会における発言力の強化を狙っていると見られる。問題は14億人の消費水準向上が世界の資源需要に与えるインパクトだろう。エネルギーや食料の需給関係が引き締まり、国際的な価格の押し上げにつながることで、インフレの油に火を注ぐ可能性がある。本質的な要因ではないにせよ、新型コロナ期を転換点、即ちゲームチェンジャーとして、米中両国は次世代の覇権を巡り対立を深める時代に入ったようだ。結果として、今後、世界的な地域紛争の激化と資源の争奪戦、サプライチェーンの寸断による製造・物流コストの上昇などの現象が起こり、インフレ圧力が恒常化するリスクを考えなければならないだろう。 日本が物価安定を飛び越してインフレに陥るリスク2012年12月26日、第2次安倍晋三内閣が発足した。同年9月26日の自民党総裁選以降、安倍氏が訴えたのはデフレからの脱却だ。2013年1月22日、『政府・日銀共同声明』により日銀は「安定的な物価目標」として初めて生鮮食品を除くコア消費者物価で前年同月比2%のインフレターゲッティングを導入した。さらに、3月に就任した黒田東彦総裁の下、日銀は「量的・質的緩和」を採用、この政策は金融市場で好感され、円高の是正と株価上昇が急速に進んだのである。もっとも、肝心の物価目標については、世界の主要中央銀行に類を見ない大胆な金融緩和を続けてきたにも関わらず、消費税率引き上げの影響が反映された時期を除けば、この9年間で1度も達成されたことがない。今年1月21日、総務省は昨年12月の消費者物価統計を発表した。それによると、総合指数が前年同月比0.8%、生鮮食品を除くコア指数が同0.4%、それぞれ上昇している(図表2)。依然として目標には全く届いていないのだが、翌22日付けの日本経済新聞は、『インフレ率、春2%視野 資源高が暮らしに波及』との見出しでこの件を報じた。つまり、今後、急速に物価が上がる可能性を日経は指摘したのだ。その背景にあるのは、特殊要因が剥落(はくらく)し、世界的なインフレの影響が日本にも波及するシナリオだろう。米国の消費者物価と異なり、日本の統計ではエネルギー価格がコア指数に算入される。12月の消費者物価統計を詳しく見ると、コア指数に対する寄与度はエネルギーが+1.2ポイント、通信は▲1.6ポイントだった(図表3)。つまり、エネルギーがコア指数を1.2ポイント押し上げる一方、通信は1.6%押し下げ、エネルギー、通信以外が0.8ポイント押し上げたことになる。通信がコア消費者物価全体を大きく下げる方向へ寄与しているのは、菅義偉前首相の政策に依ると言っても過言ではない。第2次安倍政権の官房長官時代から通信料金引き下げの必要性を強く主張し、2020年9月の自民党総裁選挙では公約の柱とした。内閣総理大臣就任後、業界に価格体系の見直しを迫り、2021年3月より大手3社はデータ容量20GBの新たな料金プランを導入している。サービスの開始日は、ソフトバンクの“LINEMO”が同3月17日、auの“povo”は同23日、ドコモの“ahamo”は同26日だ。2021年の消費者物価統計における通信の価格を見ると、2月は前年同月比1.1%の上昇だったが、新プランが始まった3月は同0.7%下落し、4月は新価格体系による実質的な値下げがフルに寄与した結果、同24.6%の大幅な低下となっている。2021年12月の消費者物価統計では、通信の下落率は34.3%に達していた。新料金プランの導入から1年が経過するため、今年4月以降、この通信による消費者物価への影響が解消される。結果として、2022年度については通信価格による消費者物価全体への寄与度は概ねゼロになるだろう。マイナスの寄与度がなくなることで、通信部門は実質的に消費者物価を押し上げる見込みだ。一方、1月17、18日に開催された政策決定会合に伴い、日銀は年4回の『経済・物価情勢の展望(展望レポート)』を発表した。それによると、総裁、2人の副総裁を含む政策委員9人の物価見通しの中央値は、2021年度のコア消費者物価上昇率が前年度比横ばいで昨年10月から据え置かれる一方、2022年度は前回の0.9%から1.1%へ、2023年度も同じく1.0%から1.1%へ、いずれも小幅ながら上方修正されている。日銀は、展望レポートのなかでエネルギー価格が落ち着くことにより、通信とは逆の効果をもたらすと指摘した。黒田総裁は、会合後の記者会見で「利上げを検討しているか」と聞かれ、「一時的な資源価格の上昇に対応して、金融引き締めを行うことは全く考えていない」と答えている。ただし、足下、原油市況はWTI先物価格が1バレル=90ドル台に達し、じり高歩調を崩していない。今後についても、世界的な脱化石燃料化の潮流の下で新たな開発への投資が難しくなっている上、国際社会の分断により中東やウクライナにおいて地政学的な緊張が高まり、むしろ石油、石炭、天然ガス価格は上昇を続ける可能性がある。消費者物価指数統計におけるエネルギーのコア消費者物価への寄与度は、概ね原油市況と連動してきた(図表4)。今後、価格の上昇率は縮小しても、原油価格のじり高歩調が続けば、天然ガスや石炭を含めた燃料コストの上昇により、エネルギーの物価全体への寄与度はプラス圏を維持するのではないか。その場合、前述の通り4月になれば通信価格値下がりの影響がほぼ解消される一方、エネルギー価格はコア消費者物価指数を引き続き押し上げることになる。他方、エネルギーや通信を除く広範な分野において、日本国内でも値上げの動きが顕在化してきた。国際的なインフレ圧力により、昨年12月の企業物価は前年同月比8.5%上昇した(図表5)。これまではコスト削減努力により消費者物価への転嫁が抑えられてきたものの、企業にとって今後も値上げを我慢するのは難しいだろう。つまり、通信・エネルギー以外の分野のコア消費者物価上昇率に対する寄与度は、今後、プラスの幅を拡大する可能性が強い。結果として、日経の記事が指摘していたように、4月以降、コア消費者物価上昇率が日銀の安定的目標である2%を超える事態も起こり得るのではないか。必要なエネルギー政策の再構築中央銀行が2%の物価目標を提示し、それに向けてマネーの供給を大幅に増やすと、世の中のマインドがインフレ期待に転換され、物価上昇前に消費や投資をしようとする動きが強まって実需が拡大、結果的にインフレターゲットが実現する…これが量的・質的緩和に関して日銀が描いてきたシナリオだ。つまり、内需が盛り上がるなかでの適度なインフレであり、当然、賃金が物価を上回るペースで上昇するため、好景気が持続する。しかしながら、現実に日本経済が直面しつつあるのは、資源高などにより、国内で価格転嫁が避けられなくなって起こるインフレのリスクだ。このケースでは、石油などの購入価格が値上がりするため、海外への支払いが増えて日本の富が流出する。当然、賃上げは難しく、日本の平均世帯の購買力が低下するため、インフレと不況が同居するスタグフレーションになる可能性も否定できない。1973年の第1次石油危機に端を発した「狂乱物価」は、正にそうしたスタグフレーションの典型的な状態だった。もっとも、1974年の消費者物価上昇率は23.2%だが、賃上げ率はそれを上回る25.5%に達し、実は消費者(=勤労者)の実質購買力は低下していない。日本経済が青年期で人口が増加し、内需も旺盛だったからだろう。さらに、この危機下において日本は短期間に産業構造の転換を成し遂げ、1980年代における自動車や電気製品・部品の輸出拡大への基盤を築いたのである。また、エネルギー戦略を見直し、燃料資源の海外依存度を低下させるため、原子力発電所の建設を強力に推進した。現在の日本経済には1970年代のような体力はなく、国際情勢も大きく変化している。人口が減少するなかでのスタグフレーションは、日本の消費者の実質購買力を失わせる結果、生活の質が大きく低下しかねない。マクロ的に見ても、それは縮小均衡のシナリオだ。そうしたリスクを軽減するためには、財政・金融政策や成長戦略の見直しだけでなく、エネルギー政策も再構築する必要があるのではないか。特に長期的な化石燃料の価格上昇を想定し、カーボンニュートラルと経済安全保障を両立させなければならない。岸田文雄政権には、2011年3月の東日本大震災以後に止まってしまった時計を再稼働させ、原子力政策の推進を期待したいところである。
- 28 Feb 2022
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総合エネ調原子力小委が約1年ぶりに開催、新エネ基を踏まえた議論開始
総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会が2月24日に開かれ、昨秋策定された第6次エネルギー基本計画を踏まえた今後の原子力政策推進に向け議論を開始した。〈配布資料は こちら〉議論に先立ち資源エネルギー庁が原子力を巡る国内外動向を整理。世界の原子力市場について、米国原子力エネルギー協会(NEI)が分析した「2050年には最大で約40兆円まで拡大。革新炉のシェアは市場の4分の1規模を占める」とする右肩上がりの予測を示す一方、国内のエネルギー需給に関しては、昨今の気候変動対策の活発化やウクライナ情勢などを踏まえ、国際資源情勢の大きな変化を見据えたエネルギーセキュリティ戦略の強化を課題としてあげた。さらに、近年の電力需給ひっ迫の顕在化や電気料金の上昇傾向、再稼働の停滞と廃炉の進展、原子力産業サプライチェーンが直面する存続危機の現状など、今後の原子力エネルギーを考える視座を提示。2020年の電気料金(平均単価)は、震災前(2010年)と比べ、家庭向け、産業向けともに約28%上昇しているという。また、震災前に国内で進んでいた10基を超す原子力発電所建設計画が中断・撤回・未着工となっているほか、英国、トルコ、ベトナムに向け計画されていた輸出案件についても中止されるなど、技術基盤の維持も課題となっている。国内外における原子力発電開発プロジェクトの状況(資源エネルギー庁発表資料より引用)こうした状況を踏まえ、(1)着実な再稼働の推進、(2)革新的な安全性の向上に向けた取組、(3)国民・自治体との信頼関係の構築、(4)原子力の安全を支える人材・技術/産業基盤の維持・強化、(5)原子力の平和利用に向けた国際協力の推進、(6)核燃料サイクルの着実な推進と最終処分を含むバックエンド問題への取組――を論点としてあげた。今回の小委員会は、およそ1年ぶりの開催となり、新たに山口彰氏(東京大学大学院工学系研究科教授)を委員長に迎えたほか、数名の委員が交替。朝野賢司氏(電力中央研究所社会経済研究所上席研究員)、岡田往子氏(東京都市大学原子力研究所客員准教授)、小林容子氏(Win-Japan理事)、佐藤丙午氏(拓殖大学国際学部教授)、竹下健二氏(東京工業大学科学技術創成研究院教授、委員長代理)、松久保肇氏(原子力資料情報室事務局長)、山下ゆかり氏(日本エネルギー経済研究所常務理事)の7名が初出席した。山下氏は、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、「ゼロエミッション電源である原子力の活用方針を国が前面に立ち明確にすべき」とした上で、現在、新規制基準適合性審査が途上または未申請のプラントも含めた全36基の再稼働、高い設備利用率の達成など、「原子力の最大限の活用」を主張。一方、原子力利用に慎重な姿勢をとる松久保氏は、国際機関による将来予測の信ぴょう性に疑問を呈したほか、高経年化に伴うトラブルや発電量の減少、エネルギー基本計画に記載された放射性廃棄物の輸出(国内で処理が困難な廃炉に伴い発生する大型機器類について例外的に輸出が可能となるよう規制を見直すもの)、核燃料サイクル政策の見直しに関し委員会での検討を求めた。新たに委員となった都市大・岡田氏(左)とWin-Japan・小林氏、人材確保について発言(インターネット中継)また、人材確保に関しては、岡田氏が行政主導の人材育成事業に関わった経験から「バランスのとれた技術者を育てるには分野融合の教育が必要」と、従来の縦割り的なシステムからの脱却を切望。小林氏は、英国ヒンクリーポイントC発電所のEPR新規建設において地元とともに取り組まれている体系的な教育プログラム「インスパイアエデュケーション」の良好事例を紹介した。専門委員として出席した原産協会の新井史朗理事長は、(1)原子力を最大限活用するための実質的な方針、(2)早期の再稼働とともに将来に向けた新増設・リプレースに向けた明確な見通し、(3)経営の予見性を高めるような事業環境整備――が示されるよう求めた。
- 24 Feb 2022
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電事連・池辺会長が日本記者クラブで会見
電気事業連合会の池辺和弘会長は2月16日、日本記者クラブで記者会見(オンライン)を行った。同クラブが「脱炭素社会」をテーマに昨秋より有識者を順次招き行っている会見シリーズの4回目で、同氏は、「2050年カーボンニュートラル」に向けた電気事業者の取組として、供給側の「電源の脱炭素化」、需要側の最大限の「電化の推進」について説明。エネルギー需給における「S+3E」(安全、安定供給、経済効率性、環境への適合)の同時達成の重要性を改めて強調した。〈電事連発表資料は こちら〉冒頭、九州電力社長でもある池辺会長は、同社から東京まで約1,000kmの往復移動に要するエネルギーおよび発生するCO2に言及し、「このような形がスタンダードになるべき」と、オンラインを通じた会見を歓迎する意を表明した上で、エネルギー事業者として取り組む「電源の脱炭素化」と「電化の推進」との需給両面を2本柱とするカーボンニュートラル実現に向けた全体像を図示。再生可能エネルギーについては、「主力電源化に向け最大限の導入を図る」と述べ、電力各社の開発・サービス事例を紹介する一方、「遠浅の海が少ない」、「平地面積が少ない」、「他国と系統がつながっておらず、安定性を維持するための系統コストが高くつく」といった大量導入に係る日本特有の地理的課題をあげた。実際、同氏が示した海外との比較データによると、洋上風力発電が設置可能な面積は英国の8分の1に過ぎず、また、太陽光設備では平地単位面積当たりの設置容量がドイツの約2倍、フランスの約16倍と、世界最高水準の過密となっている。こうした課題を踏まえ、「カーボンニュートラルを達成するためには、再エネと合わせて実用段階にある脱炭素電源の原子力を引き続き活用していくことが必要不可欠」なことを示唆した。再稼働/審査の状況(電事連発表資料より引用)原子力については、足下の課題である再稼働に向けた新規制基準適合性審査の状況を図示。電事連内に2021年に設置した「再稼働加速タスクフォース」による業界挙げての(1)人的支援の拡大、(2)審査情報の共有、(3)技術支援――に取り組んでおり、これから再稼働を目指す電力に対し審査資料DVDの作成、発電所長クラス他総勢約500名が参加する説明会の開催などを実施しているという。将来に向けては、既設炉の安全性向上、原子燃料サイクルの推進、設備利用率の向上や長期サイクル運転とともに、「技術力・人材を国内で確保し続ける」観点から、新増設・リプレースが必要となるとした。最近の建設経験をみても、北海道電力泊3号機(2009年運転開始)、中国電力島根3号機(建設中、2009年に原子炉圧力容器据付け完了)から既に10年を経過しており、新規プラント建設までの空白期間が長期化することで、原子力産業基盤の維持が困難になりつつある状況だ。火力については、「発電電力量の7割以上を占め、安定供給上、大変重要な役割を担っており、必要な規模を維持しながら脱炭素化を目指す」考えから、水素・アンモニア混焼、CCUS(CO2回収・有効利用・貯留)など、イノベーションの創造・実装に取り組んでいくとした。また、需要側の脱炭素化のカギとして、ヒートポンプ技術導入によるCO2排出削減効果を披露。2050年度までに現状の国内CO2年間排出量の約1割に匹敵する約1.4億トンの削減が可能だと説明した。記者から、原子力の関連で、新増設・リプレースの具体化や小型モジュール炉(SMR)導入の可能性について問われたの対し、池辺会長は、「まずは安全・安定運転の確保を通じた信頼獲得が一番の務め」と強調するなど、早期再稼働の実現が目下の課題であることを繰り返し述べた。この他、昨今の電力需給ひっ迫やウクライナ情勢の緊迫に鑑み、再生可能エネルギーへの急激な転換に伴うリスクやLNG調達の投資計画に関する質問も出され、池辺会長は、日本のエネルギー需給構造の脆弱さや価格高騰への危惧を示した上で、「選ばれるエネルギー源」となるよう電気事業者として努めていく考えを述べた。
- 18 Feb 2022
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原子力委員会が有識者よりヒア、田中伸男氏他
原子力委員会は年明けより、「原子力利用の基本的考え方」の改定に向けて、有識者からのヒアリングを定例会の場(一部オンライン開催)で行っている。初回の原子力発電環境整備機構理事長/元原子力委員長・近藤駿介氏に続き、1月18日には東京大学大学院情報学環准教授の開沼博氏が招かれた。福島第一原子力発電所事故後の対話・執筆活動に取り組んできた開沼氏は、除染で発生する除去土壌の仮置きに関する合意形成のプロセスなどを踏まえ、原子力のコミュニケーション活動に関し「福島の現場には、様々な葛藤に直面したが故に信頼回復を促すための事例と教訓がある」と強調。一方通行型のシンポジウム開催や既存のパンフレット配布などの問題点にも言及し、「まず聞く、次に可視化、その上で説明する」ことの重要性を指摘した。同25日には、元国際エネルギー機関(IEA)事務局長の田中伸男氏よりヒアリング。田中氏は、IEAが2021年5月に公表した報告書「2050年ネットゼロのロードマップ」に基づき、世界のエネルギー需給に関し「2050年の脱炭素化を目指すとすれば、石油は既に2019年でピークを過ぎており、2050年にはその25%にまで抑えねばならない」などと、化石燃料を巡る状況を述べ、再生可能エネルギーに加え、原子力が必要となることを説いた。日本の原油輸入で賄うエネルギー供給を風力で代替した場合、全国土に匹敵する面積が必要という試算も紹介。その上で、「持続可能な原子力」の条件として、(1)安全を確保する、(2)廃棄物を処理できる、(3)核兵器に転用されない――ことをあげ、同氏が持論とする福島第一原子力発電所の燃料デブリ処理も視野に入れた「金属燃料小型高速炉」(IFR)の構想を例示した。イノベーションによる気候変動対策について世界の有識者らが対話するICEF(Innovation for Cool Earth Forum)の運営委員長も務める田中氏は、オンラインを通じた若手フォーラム「Youth ICEF」での議論も踏まえ、将来に向けて女性と若者の活躍に期待を表した。2月1日には、原子力資料情報室共同代表の伴英幸氏と東京大学大学院工学系研究科教授の山口彰氏よりヒアリング。原子力利用に慎重な姿勢をとる伴氏は、近年のエネルギー政策や世論の動向を踏まえ、原子力の依存度低下から撤退への流れ、廃炉を着実に進めるための人材育成、使用済燃料全量再処理政策の転換などを「原子力利用の基本的考え方」に位置付けるべきとしたほか、福島第一原子力発電所のエンドステート(サイトの最終的状態)に関し議論することを原子力委員会に求めた。総合資源エネルギー調査会でエネルギー基本計画策定にも関わった山口氏は、エネルギー政策における原子力の位置付けについて定量的評価に基づき議論する必要性を指摘。「原子力利用の基本的考え方」に関し、原子力基本法やエネルギー政策基本法など、法規との関連性を整理した上で、改定に向けて、(1)網羅的かつ詳細な計画ではなく、(2)府省庁を超えた原子力政策の方針を示すもの、(3)専門的見地や国際的教訓を踏まえた独自の視点から、(4)長期的な方向性を示す羅針盤――との当初の趣旨を改めて喚起した。各ヒアリングでは、放射線利用の啓発やSNS・ボードゲームを利用したコミュニケーション活動、核燃料サイクルのコスト、革新技術に係る国際プロジェクト参画、国際機関との連携、ジェンダーバランス、教育などについて意見交換がなされた。原子力委員会では、引き続き国際環境経済研究所理事の竹内純子氏らを招きヒアリングを行う予定。
- 04 Feb 2022
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原子力機構、統合エネルギーシステムに関する国立研究所サミットに参加
日本原子力研究開発機構は2月2日、統合エネルギーシステムに関する国立研究所サミット「Global National Laboratories Summit 22」に参加したと発表した。〈原子力機構発表資料は こちら〉統合エネルギーシステムは、原子力、再生可能エネルギーなど、個々のエネルギー技術を組み合わせ、電力、熱、水素の効率的・持続的供給を図るといったエネルギーシステム全体としての最適化を図る概念だ。サミットは1月26日にオンラインにて開催。カナダ、フランス、日本、英国、米国の5か国から8研究所が参加した。同サミットは、COP26の議長国である英国の国立原子力研究所(NNL)が、COP26以降も低炭素化に向けたモメンタムを維持する観点から、関係国の原子力および非原子力のエネルギー機関に呼びかけ実現したもの。原子力機構からは舟木健太郎理事が登壇し、同機構が2019年に発表した将来ビジョン「JAEA 2050+」を披露。「原子力のポテンシャルの最大限の追求」、「他の科学技術分野との協働・融合」を掲げた将来ビジョンのもとで開発を進めている高温ガス炉や小型モジュール炉(SMR)などの革新的原子炉を活用した統合エネルギーシステムの構想を示し説明した。NNL呼びかけのもと、サミットには、原子力機構の他、日本エネルギー経済研究所、カナダ原子力研究所、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)、エナジー・システムズ・カタパルト(英国)、アイダホ国立研究所(米国、INL)、国立再生可能エネルギー研究所(同、NREL)が参加。各研究所からの発表を受け、サミットでは声明を採択。声明では、統合エネルギーシステムについて、「信頼性が高く、持続可能性を有する、安価な低炭素エネルギー。人々に便益をもたらすエネルギーサービスを提供するために、原子力や再生可能エネルギーのような低炭素エネルギー源を組み合わせるもの」などと位置付けた上、今後研究機関間でのベストプラクティス共有を図っていくとした。原子力機構では、高温ガス炉を利用した熱利用・水素製造に向けた取組を進めている。原子力の有用性に関し、「電力のみならず、熱、水素製造での利用可能性を有する点などにおいて、再生可能エネルギーを補完する役割が期待されている」ことから、非原子力分野の研究機関も参加する同サミットの意義を重くとらえ参加した。今後、声明に基づき、各国の研究機関との間で統合的なエネルギーシステムの検討に関する知見共有を進めていく。
- 03 Feb 2022
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ニュースの構図は単線的な気候危機物語でよいのか!
1月10日、NHK総合で「気候危機を食い止めたい! 若者たちが挑むCOP26」が放映された。同じころ、新聞でも似た内容の報道があった。よくあるワンパターンのニュースである。未来の地球を守りたいという中・高校生・大学生の純粋な気持ちは分かるが、テレビや新聞が取り上げるニュースの構図は少しも進化していないようだ。気候危機のニュースは単純な物語NHK総合の番組はタイトルから分かるように、昨年11月に英国グラスゴーで開かれたCOP26に集まった日本の若者の動きを追ったものだ。そのストーリーは、こうだ。「いまの若者は異常気象が頻発する時代を生きていかねばならない。その危機は数年後に確実にやってくる。そのためには二酸化炭素の発生を速やかに抑えることが必要である。そして、二酸化炭素を出さない再生可能エネルギーへの転換を一刻も早く進め、同時に大量に二酸化炭素を排出する石炭火力はすぐにでも止めねばならない。日本は気候危機への対応が遅れており、世界の流れとかけ離れている」この番組では、神奈川県横須賀市で建設が進む最新型高効率の石炭火力発電所も登場し、悪役に仕立てあげられた。あまりにも単線的なストーリーである。記者たちが注目するのは、気候危機を食い止めたいと立ち上がった若者である。全国にいる高校生や大学生の環境意識を調べれば、気候危機や地球温暖化の二酸化炭素説に懐疑的な若者もいるだろうが、そういう学生はそもそもメディアでは取り上げられない。私が授業を受け持った東京理科大学の学生たちの中にも、懐疑的な学生もいるし、地球の気候危機よりも身の回りの貧困問題のほうがよほど重要だと考える学生もいる。しかし、そういう学生はニュースの素材に適さない。テレビに登場した学生たちがなぜ、これほど気候危機を深刻に思い詰めるのか、どういう本を読み、どんな情報を知って、アクションに至ったかを深く知りたいが、その心の奥底を解き明かしてくれる深掘りの解説はなかった。テレビでは鹿児島の大学生が登場した。スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさん(2003年生まれの19歳)の影響を受けたという。その大学生は鹿児島の駅前で訴え続けてきたが、ほとんど振り向いてもらえなかったという。他の人が振り向かないのは不思議でもなんでもない。私の個人的な推測ではあるが、大半の学生は、COP26に集まった若者と違って、いますぐに気候危機がやってくるとは考えていないからだ。長期的に見れば、二酸化炭素を減らしていく必要はあるだろうが、技術的な解決策を探りながら、減らしていく時間的な余裕は十分にある。新聞とテレビはニュースの構図が同じこうしたニュースの取り上げ方は、新聞も全く同じである。毎日新聞は昨年10月30日、学校を休んでCOP26に参加した東京都内の高校生を取り上げた。「これ以上気候変動対策を先延ばしにされたら取り返しがつかなくなる。今年が最後のチャンスだと思う」「欧州ではものすごい大勢の人がプラカードを持ってデモに参加するなど、みんなが本気で気候危機の深刻さを訴えている。日本でも訴えている人はいるけれど、活動は盛り上がりに欠ける」「COP26会場から、日本政府に石炭火力発電廃止などを訴えた」との記述があった。ストーリーの展開はNHKと同じである。記事で面白かったのは、この高校生は帰国後に定期テストがあり、グラスゴーに勉強道具を持参したことだ。受験勉強のような既定路線を歩みながら、気候危機の克服に挑むというアクションのギャップが印象に残った。1月5日の朝日新聞(4面)では「普通の中学生 ストに立つ 温暖化に『NO』たった一人でも」との見出しで北海道に住む中学3年の女生徒を取り上げた。異常気象などで「大きな不利益を受けるのは若い世代だ。私たちやこれから生まれてくる人たちが安心して生きられる未来にしたい」と語り、「生活スタイルを炭素中立型に変えていくための議論が必要だ」と紹介した。これまたニュースの構図はNHKや毎日新聞と同じだ。何気ない便利な生活の積み重ねが二酸化炭素を排出高校生らの意気込みや行動力は高く称賛したいが、それを取り上げる記者たちのニュースの取り上げ方の平凡さが気になる。COP26に参加した日本の高校生らは二酸化炭素を大量に出す航空機を利用したはずだ。「なぜ、飛行機を使ったのか」と聞けば、おそらく「船でも行けたかもしれないが、そんな悠長な移動手段を選択していたら、時間がもったいない」と答えるだろう。正しい目的のためなら、二酸化炭素を大量に出す飛行機を一時的に使うのもやむを得ないという論理だろうが、この論理を私たちの日常的な行動に置き換えると、人それぞれの事情はすべて正当化されるはずだ。目的のない生活を送っている人はだれ一人いないからだ。記事に出てくる高校生らはなんとなく豊かな家庭で育っていることが読み取れる。暖房の利いた部屋でしっかりと勉強できる条件も整っているはずだ。そういう何気ない快適な生活の積み重ねが二酸化炭素を発生させていることへの視点が記事からは伝わってこないのが残念である。途上国の若者はどう見るか番組や記事を読みながら、一度も先進国並みの生活を味わったことのない途上国の若者は、はたしてこの運動に理解を示すだろうかと想像をめぐらせた。先進国の人たちがこれまでに排出してきた二酸化炭素の累積量に匹敵する排出量を、今後、途上国の人たちは排出できる資格があるはずだ。これまで散々二酸化炭素を出してきた人たちが、後から追いかけてきた人たちに向かって「もう、これ以上は出すな」と言えば、怒るだろう。となれば、地球全体の二酸化炭素の総量を減らすためには、先進国の人たちは、炭素中立型生活どころか、これから途上国の人たちが先進国並みの生活になるまで出し続ける二酸化炭素の発生量の分まで減らす必要がある。つまり、先進国の人たちはいまの便利で快適な生活水準を大幅に下げて、地球全体の二酸化炭素を減らす覚悟がいるはずだ。NHKや新聞記事を見ていると、石炭火力をやめて、再生可能エネルギーを増やせば、いまのまま便利な生活水準が維持できるかのごとくに読める。まるで夢物語だ。単一の目的に沿った設計主義でよいのか!地球の過去の気候を振り返れば、化石燃料が消費されていない時代にも、何度も寒冷化と温暖化を繰り返してきた。私が大学生だった1970年代には「地球が冷える」と盛んに言われ、その種の本がベストセラーになっていた。その当時は、地球の寒冷化が本当らしく思えたから不思議である。地球の気候は複雑な系で動く。一国の産業をつぶしてまで、二酸化炭素の削減に邁進する路線は危機管理の基本を欠いている。18世紀末、過去の遺物を一掃したフランス革命を考察した英国の思想家、エドマンド・バーク氏は「フランス革命の省察」(新訳・PHP研究所)の中で、革命政府が向こう見ずにふるまうこと(現代ならば、西欧の“脱炭素”という絶対的支配原理だろうか)に対して「利害対立の存在こそ、性急な決断を下したいという誘惑にたいして、健全な歯止めを提供する」と書いている。それぞれの国がそれぞれの事情で対立するのは健全な歯止めになるのだ。先進国と途上国、資源のある国とない国、原子力をもつ国ともたない国、電気自動車だけに邁進する国と高性能のハイブリッド車をもつ国。世界は利害に満ちている。一部の国が絶対君主のごとく世界に向けて命令すれば、必ず悲惨な反動が来る。地球の気候は無数の要因で動く複雑系であるにもかかわらず、世界全体が「脱炭素」という単一の目的に向かって、あらゆる資源を総動員している。NHKの番組などを見ていて、ある特定のターゲットを消せば、目的が達成できるかのごとく、理性盲信の設計主義的な路線に危うさを感じた。いまのところ、気候変動は予測不可能である。石炭、石油、天然ガス、原子力、水力、太陽光、風力など、多様なエネルギー源を残しておくことが、これからの若者たちの未来を保障することになるだろう。
- 01 Feb 2022
- COLUMN
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COP26のインパクト
原子力復権の予兆(後編)前編はこちら国連気候変動枠組条約は、現在、経済規模、成熟度、資源の有無など全く成り立ちの異なる197か国が批准している。締約国会議の採決は全会一致が原則であり、毎年、合意文書を取りまとめるのは生易しいことではない。国家間の利害の対立が極めて大きいからだ。COP26では、1)石炭の取り扱い、2)温室効果ガス排出枠取引のルール、3)先進国による途上国支援──の3点が最大の論点だったと言えよう。このうち、石炭については、議長国である英国が作成した原案では、“phase out(廃止する)”との表現が使われていたが、産炭国などの強い反発により最終的に“phase down(段階的に削減する)” に修正され、合意に漕ぎ着けた。また、先進国とブラジル、インドなど新興国が対立していた排出枠のキャップ・アンド・トレードは、2013年以降に国連へ届け出された排出枠(クレジット)を移管、売買を容認することで歩み寄っている。一方、2009年12月のCOP15で採択されたコペンハーゲン合意では、途上国の温暖化対策を支援するため、先進国は2012年までに共同で300億ドルの資金を拠出、2020年までに年間1,000億ドルの支援を行うと約束していた。しかし、2020年の支援額は796億ドルに止まり、途上国側が強く反発していたのである。COP26の合意文書では、先進国側が支援目標の未達に遺憾の意を表明した上で、2025年までに2019年の支援実績額を少なくとも倍増させるとの表現を盛り込んだ。一連の合意内容は、温暖化問題に熱心に取り組んで来たNGOなどの立場から見た場合、物足りないと感じられるかもしれない。もっとも、石炭の段階的使用削減、国際的な排出枠取引導入の両方で方向性を出せたことには大きな意味があるのではないか。ある程度の妥協がなければ、ガラス細工の枠組は簡単に崩壊してしまうだろう。現実的な落し所へ議論を収斂させた点について、議長を務めたボリス・ジョンソン英国首相は十分に評価されて然るべきだ。 欧州における変化の兆しCOP26が開催されていた最中の昨年11月9日、フランスのエンマニュエル・マクロン大統領は国民向けに演説、原子力を電力供給と産業の中核に位置付け、欧州加圧水型原子炉(EPR)の建設を再開する意向を表明した。同国は新たに6基を建設する計画だ。フランスでは56基の商業用原子炉が稼働、2020年は米国に次ぐ379.5TWh(=3,795億kWh)の電力を供給しており、総発電量に占める原子力比率が70.6%に達する原子力大国に他ならない(図表1)。もっとも、2012年5月に就任したフランソワ・オランド前大統領は、前年の福島第一原子力発電所の事故を受け、大統領選挙において原子力発電比率を2025年までに50%へ低下させると公約した。2017年5月に就任したマクロン大統領は、オランド前大統領の公約を踏襲しつつ、2018年11月、達成年限を2035年に10年間先送りしていたのである。今回は実質的に目標自体を見直したと言えるだろう。温室効果ガス削減が喫緊の課題になる一方、欧州では天然ガス価格が高騰し、結局、原子力への回帰が最も合理的と判断した模様だ。非常に興味深かったのは、この件を伝えた朝日新聞の記事だった。11月13日付け朝刊の見出しには『仏マクロン氏「原発回帰」鮮明 新設は脱・石炭の「強いメッセージ」』とあり、フランス政府の決断を肯定的に伝えている。日本国内における原子力発電には厳しい論調を繰り返してきた同紙だが、フランスの原子力回帰の動きに関しては、「脱・石炭」政策の一環としてポジティブな評価を下している模様だ。率直な感想としてダブルスタンダードの感が否めない。核兵器保有国であるフランスの原子力発電が肯定され、核兵器を持たない日本の原子力が否定される理由について、朝日新聞は積極的に説明すべきだろう。今後、注目されるのはドイツの動きである。福島第一原子力発電所の事故を受けた2011年6月6日、アンゲラ・メルケル首相(当時)は、2022年までにドイツ国内で稼働している全ての原子力発電所の稼働を停止すると閣議決定した。現在、ドイツでは6基の商業用原子炉が稼働、2020年の発電比率は11.3%だったが、現行の政府方針では来年中にその全てが止まる計画だ。しかしながら、ドイツはフランス以上に天然ガス価格の高騰に苦しんでおり、国内においてエネルギー政策の見直しを求める声が強まっていると言われている。去る12月8日には社会民主党(SPD)を中心とする連立によりオラフ・ショルツ内閣が誕生した。中道左派のSPD、中道右派の自由民主党に加え、脱原子力を主張する同盟90/緑の党が連立を組んでおり、政権としての原子力政策はかならずしもまだ明確ではない。ただし、昨9月26日の総選挙において、ショルツ氏は気候・環境保全、化石燃料産業の脱炭素化、カーボンニュートラルの達成を訴えて国民の支持を得た。天然ガスへの依存はロシアの影響力を強めかねない上、再生可能エネルギーのウェートをさらに引き上げ、脱石炭を加速させるのであれば、安定的なベースロードの確保は極めて重要な政策課題だ。ショルツ内閣が原子力政策を見直す可能性はゼロではないだろう。COP26を通じて議長国の英国、そしてEUは温室効果ガス排出量削減を積極的に主張した。一方、今春以降、欧州は異常気象に見舞われ、スペイン、英国などが風力不足に悩まされている。当然、化石燃料に依存せざるを得ず、需要が急増した天然ガス、石炭の価格高騰を招いてインフレ圧力が強まった。安定したエネルギー供給、温室効果ガスの排出削減、そして経済合理性、これらを同時に達成するため欧州、そして世界全体において原子力利用の機運が高まっても全く不思議ではない。COP26の開催期間中を敢えて狙った原子力大国フランスの決断は、そうした流れを反映しているのではないか。 スリーマイル、チェルノブイリ、そして福島第一国際原子力機関(IAEA)によれば、世界で稼働する商業用原子炉は2011年に448基だった(図表2)。その後、福島第一の深刻な事故を受け、日本だけではなくドイツや米国などでも廃炉、建設計画の中止が相次ぎ、2014年には439基へと減少している。しかしながら、中国を中心に新興国で原子炉の建設・稼働が進んだ結果、2018年には過去最大の457基になった。原子力による電力供給量も、2012年の2,346.2TWh(=2兆3,462億kWh)から、2019年には2,657.2TWh(=2兆6,572億kWh)へ13.3%増加している。日本を含む先進国で老朽化による廃炉が進む一方で、中国をはじめとして、インド、ロシアなど新興国において新たな商業用原子炉が運転を開始した。現在稼働している商業用原子炉は世界全体で442基、定格出力の総計は394.5GW(=3億9,450万kW)だ。稼働年数別に見ると、炉数、出力共に最もボリュームが大きいのは運転開始から31~40年の10年間で、その定格出力合計は全体の46.2%に達している(図表3)。これは第1次、第2次石油危機に見舞われた1970年代に建設が計画された原子炉に他ならない。その後、原子力発電所の建設が国際的に失速したのは、1979年3月28日のスリーマイル島事故(米国)、1986年4月26日のチェルノブイリ事故(旧ソ連・現ウクライナ)の影響と言えるだろう。しかしながら、2006年2月、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領(当時)の下、米国は新たな原子力平和利用の枠組として『国際原子力パートナーシップ(GNEP:Global Nuclear Energy Partnership)』を打ち出した。これは、核燃料サイクルを国際的に「P5+1」で管理する構想に他ならない。この「P」とは”Permanent”の頭文字である。つまり、「P5」は米国、英国、フランス、ロシア、中国の国連常任理事国の5か国を示し、「+1」は日本のことだった。商業用原子炉は当然ながら原子力の平和利用だが、イランの核開発が国際社会で問題視されているように、発電用よりも高度に濃縮したウラン、及び使用済み燃料に含まれるプルトニウム、この2つは核兵器の原料でもある。ブッシュ大統領は、世界の原子炉への濃縮ウラン供給と使用済み燃料の引き取り、再処理・最終処分をP5+1の6か国に集中することで、核不拡散の強化を図ろうと考えたのだった。その背景にあったのは、経済成長著しい新興国における原子炉の建設計画ラッシュである。新興国のエネルギー需要を満たす一方、核兵器の開発を阻止するためには、P5+1が商業用原子炉を建設し、核燃料サイクルを管理する必要があると考えたのだろう。しかしながら、2011年3月の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により、世界の原子力は再び冬の時代へ突入し、いつしかGNEPも忘れ去られて現在に至った。 新規建設で台頭する中国福島第一での事故から10年が経過、原子力は国際的に雪解けの季節を迎えつつあると言えよう。背景は地球温暖化問題とエネルギー安全保障だ。COP26に象徴される脱化石燃料の動きは、むしろ足下に関して石炭、天然ガス、石油の価格を高騰させている。長期的な需要の先細りが見込まれるなか、生産国・事業者が供給力維持の設備投資を躊躇うだけでなく、限られた資源を高値で売るため供給量を調整するのは経済的に見れば極めて合理的な行動だ。一方、カーボンニュートラルを目指すと言っても、消費国側の化石燃料需要が直ぐに大きく減少するわけではない。畢竟、需給バランスが崩れて価格への強い上昇圧力が生じているのである。フランスは原子力への回帰を明確にした。また、もう1つの原子力大国である米国のジョー・バイデン大統領も、小型原子炉(SMR:Small Module Reactor)の開発を政策的に後押しするなど、原子力の活用拡大に踏み込むようだ。昨年12月2日、日立製作所とGEの原子力合弁会社であるGE日立ニュークリア・エネジーは、カナダの電力大手、カナダ・オンタリオ・パワージェネレーション(OPG)からSMRを4基受注したと発表した。仮にドイツの新政権が原子力発電所の稼働継続へ傾けば、原子力を巡る国際社会の動きは一段と加速することになるだろう。もっとも、近年における商業用原子炉の建設は、国際的に見ると中国主導で進んできた。現在、公式に発表されているものでは世界で51基の炉が建設中だが、そのうちの14基は中国国内で進められている(図表4)。14基のうち1基は高速増殖炉(FBR)、もう1基は高温ガス炉(HTGR)のいずれも実証実験炉であり、中国は次世代炉の開発についても余念がないようだ。経済成長を支えるため国内のエネルギー需要を満たすだけでなく、新興国への国際展開を視野に入れているのだろう。ちなみに、中国で稼働中の商業用原子炉は52基であり、その定格出力は総計で49.6GW(=4,960万kW)、既に米国の96.6GW(=9,660万kW)、フランスの61.4GW(=6,140万kW)に続く規模になった。この52基のうち、37基は過去10年間に運転を開始した新鋭の炉に他ならない(図表5)。ブルームバーグによれば、中国国営メディアの『経済日報』は昨年11月3日、中国が今後15年間で150基の商業用原子炉を建設する計画であると報じた。話半分としても、同国は数年以内にフランスを抜いて世界第2位、そして10年以内に米国も凌駕して世界最大の原子力大国になるだろう。日米欧にとってこの件が非常に悩ましいのは、極めて複雑な構造を持つ原子炉の場合、第3国での建設受注における国際競争力は、燃料供給、使用済み燃料の引き取り保証、運転支援に加え、実際に発電所を建てた経験が大きく左右するからだ。反面教師はフィンランドのオルキルオト原子力発電所3号機である。フランスの国策企業である旧アレバ(現オラノ)が受注し、2005年に着工したのだが、幾度となく工期が延長され今も建設が続いている。最大の理由は、旧アレバの施行管理の弱さにあるとも言われており、この損失によって同社は経営が傾いた。1980年代以降、フランス電力からの原子力発電所の建設受注が激減、経験に基づく建設ノウハウを失ったことが背景のようだ。一方、現在、中国で稼働している最新鋭の原子炉は旧ウェスチングハウスの開発した「AP1000」、フランスの技術を導入した「EPR(欧州加圧水型炉)」である。ただし、中国版のAP1000と言われる「CAP1000」、独自技術を導入した「CAP1400」、そして完全な独自技術である「HPR1000」の3種類の原子炉が建設段階に入った。中国は明らかに自前の設計技術、建設施工能力を強化しつつある。それは、中国国内での建設のみならず、原子力技術の輸出を念頭に置いたものなのではないか。HPR1000、即ち「華龍一号」については、既に英国において包括的設計審査(GDA)が最終段階となった。今後、温室効果ガスの削減を目指して各国が商業用原子炉の建設を進める場合、中国が市場を席捲する可能性は否定できない。これにどう対抗するのか、それともしないのか、日本の原子力産業だけでなく、日本政府にとっても経済、安全保障の観点から極めて難しい判断が求められている。 総合力を問われる日本マクロン大統領によるフランスの原子力政策が、主要先進国による原子力回帰の嚆矢となる可能性は否定できない。再生可能エネルギーの拡大が最重要課題としても、ベースロード電源の確保の必要性が改めて確認されたからだ。また、自動車のEV化を進めるためには、夜間電力の供給力が必須だが、それは気候に左右されない安定的な電源の裏付けがなければ難しいだろう。さらに、カーボンニュートラルの切り札として期待される燃料電池についても、水素の生産には大量の電力が必要だ。結果として、各国はベースロードに化石燃料を選ぶか、原子力を選ぶか、実質的に二者択一を迫られている。冷静に考えれば原子力一択なのだが、非常に悩ましいことに、現実的にはしばらく化石燃料に依存せざるを得ない。国際エネルギー機関(IEA)は、昨年12月17日に発表した年次報告書において、2021年の石炭火力発電量が過去最大になるとの見通しを示した。もっとも、COP26の議論を考えれば、化石燃料の利用が長期化するとは考え難い。福島第一の事故から10年が経ち、原子力が見直される時代に入ったと言えるだろう。今後、国際的な新規原子力発電所の建設ラッシュが想定されるなか、国、電力会社、メーカーが一体にならない限り、特に新興国における受注獲得は覚束ない。原子力分野で中国が市場を席捲すれば、経済的にも安全保障の面でも日本にとっては大きな問題だ。そうしたなか、大きな懸念は日本政府の姿勢だ。昨年10月22日に閣議決定された『第6次エネルギー基本計画』は玉虫色の表現を散りばめ、日本の目指す方向が明確になったとは言い難い。これでは、原子力産業、電力業界が国際展開を視野に入れて人材育成、研究開発、設備投資に力を入れるのは困難だろう。世界の原子力は雪解けの季節を迎えつつある。そこで種を蒔き、芽を育て、花を咲かせて果実を収穫できるのか、日本は正に国家としての総合力を問われているのではないか。
- 24 Jan 2022
- STUDY
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COP26のインパクト
原子力復権の予兆(前編)昨年のCOPは10月31日から11月13日まで英国のグラスゴーにおいて開催された。本来は12日までの予定だったが、合意文書(Glasgow Climate Pact)の最終調整のため1日延長されたのである。もっとも、この会議が当初予定された期日に終わらないのは珍しいことではない。11月12日付け日本経済新聞が『COP26、30年目標の上積み先送りへ』と報じていたように、COPは固有のイベントを指す用語のように使われているものの、正式には”Conference of the Parties”の略称だ。日本語では「条約締約国会議」であり、本来は特定の会議を指す言葉ではない。しかしながら、最近では専ら気候変動枠組条約の締約国会議がCOPと称されるようになった。COP26は『気候変動枠組条約第26回締約国会議』の略称である。気候変動枠組条約は、地球温暖化を阻止するため、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを究極の目標とした国連の条約であり、1992年6月にブラジルのリオで開催された『環境と開発に関する国際連合会議(UNCED)』で採択され、1994年3月に発効した。その第7条には、条約の最高機関として締約国会議を置き、毎年開催することが規定されている。第1回会議(COP1)は、1995年3月28日から4月7日までドイツのベルリンにおいて行われた。1997年のCOP3は京都会議であり、ここで採択されたのが『京都議定書』に他ならない。また、2015年のCOP21では『パリ協定』が合意された。地球温暖化の抑制に関する国際的な枠組作りに関し、COPの役割は極めて大きい。COP26のポイントは、石炭使用の段階的削減国際的排出枠取引の導入先進国による途上国への経済的支援強化──の3つが決まったことだ。京都議定書、パリ協定のような新たな国際協定で合意したわけではないが、極めて重要な会議となった。地球温暖化の深刻度が理由であることは間違いないが、米国における政権交代もこの会議の空気を大きく変化させたと言えるだろう。シェールガス・オイルの開発を優先し、パリ協定の批准を拒んだドナルド・トランプ前大統領に対し、地球温暖化問題を重視するジョー・バイデン現大統領は就任式の行われた2021年1月20日に協定復帰の大統領令に署名した。さらに、同4月22-23日には自らが主宰してオンラインの『気候変動リーダーズサミット』を開催、2050年までにカーボンニュートラルを達成すると公式に国際公約している。温室効果ガスの排出削減を主導してきたEU、英国に加え、米国が積極姿勢に転じたことで、先進国間における合意形成のハードルは大きく下がったのではないか。ただし、温室効果ガスの排出量は増加を続けており、濃度を安定化するのは容易ではない。経済発展を目指す新興国・途上国と先進国との対立が大きい上、実質的なカーボンニュートラルを2050年までに達成すると国際公約した日本を含む先進国ですら、具体的なメドが立ったわけではないからだ。そうしたなかで、改めて注目を集めつつあるのが原子力の利用だろう。不安定な再生可能エネルギーのウェートを引き上げる上で、温室効果ガスを排出しないベースロードとして確実に計算できるからだ。 瀬戸際を示す科学的データトランプ前米国大統領は、地球温暖化そのものを否定していた。2018年11月23日、米国連邦政府に置かれた米国地球変動プログラム(USGCRP)は、『全米気候評価報告書(National Climate Assessment)第4次報告第2版』を発表、温室効果ガス排出削減へ向けた対策がなければ米国の被る人的・経済的損失が極めて大きくなるとの見通しを示している。その3日後の26日、ホワイトハウスにおいて記者団の質問に答えた同前大統領は、この報告書の指摘を「信じない」と切り捨てた。これは2つの点で極めて異例と言える。地球温暖化を否定したのみならず、行政府の長が自らの機関が発表した報告書を完全に否定したからだ。また、11月の大統領選挙を直前に控えた2020年9月14日、トランプ前大統領はカリフォルニア州を訪れ、ギャビン・ニューサム知事より同州における深刻な山火事とその一因である歴史的な熱波に関し、地球温暖化との関係で説明を受けた。この時も同前大統領は「次第に涼しくなる」と語り、山火事に関しては「森林管理の問題」として州政府を厳しく批判している。しかしながら、トランプ前大統領が自説について科学的根拠を示したことはない。英国気象庁のハドレー気象予測研究センターによれば、2000~19年の20年間における世界の平均気温は19世紀後半を0.85℃上回った(図表1)。グラフを見ると、1910年頃から上昇トレンドが急角度になっているのは明らかだ。こうした現象は世界各地で確認されており、カリフォルニアなど米国西海岸で頻発する干ばつもその一環と言えそうだ。もっとも、それはあくまで現象であり、このグラフによって地球温暖化の要因を説明できるわけではない。従って、地球温暖化が産業革命以降における人類の経済活動の結果であるとするには、気温と大気中の温室効果ガス濃度の因果関係が説明されなければならない。これに大きく貢献しているのが氷床からボーリングにより掘削された分析用の氷柱、即ち「氷床コア」である。各年代における氷を分析することで、気候や大気中の二酸化炭素濃度などに関する高精度の情報を得ることができるからだ。南極にはロシア南極観測基地で掘削された「ボストーク」、欧州南極氷床コアプロジェクトチーム(EPICA)が手掛けた「ドームC」、日本の南極観測隊がふじ観測拠点でボーリングを行った「ドームふじ」の3つの代表的な氷床コアがある。このうち、ドームCは3,190mまで掘削され、過去80万年に及ぶ気候変動を明らかにした。それによれば、この間に8回の氷河期と間氷期のサイクルが存在したものの、大気中の二酸化炭素濃度は概ね200~260ppmの範囲を循環していた模様だ(図表2)。さらに、南極の気温はこの二酸化炭素の濃度と非常に強い相関を示した。約4万年を周期として若干のずれが生じていたのは、地球の自転軸の傾斜角度が4万年周期で変動することにより、平均日射量が変化したことが一因と分析されている。国立極地研究所の論文などによれば、これまでの大気中の二酸化炭素濃度の変化は、南極周辺の海洋環境の変動によって影響を受けてきた。しかしながら、米国海洋大気庁(NOAA)の観測データによれば、18世紀後半以降の産業革命後、大気中の二酸化炭素濃度は急上昇し、80万年に亘って続いてきたレンジを突き抜けている。工業化を支えた化石燃料の使用拡大が影響した結果だろう。2015年以降は400ppmを超えた状態が続いている。そこで、1850~2019年の温室効果ガス排出量と気温の関係を見ると、強い正の相関関係が確認された(図表3)。決定係数(R2)は0.80と高い。地球の歴史から見れば極めて短い期間ではあるが、温室効果ガスの排出量が急増し、大気中の濃度が大きく上昇したこの170年間に関しては、統計的に見て地球温暖化と温室効果ガス排出量の強い因果関係を疑うには十分なデータと言えよう。少なくともトランプ前米国大統領の発言よりは圧倒的に科学的な説得力がある。COP21で合意されたパリ協定は、産業革命以降の世界の気温上昇を2℃未満に抑制し、可能な限り1.5℃未満とすることを努力目標とした。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2013~14年に発表した『第5次評価報告書』によれば、気温の上昇を2℃未満に抑えるには、大気中の二酸化炭素濃度を450ppm以下にする必要がある。蛇足だが、このIPCCは、1988年、国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)により設立された組織だ。人為起源による気候変動に関して、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことを目的としている。2007年にはアルバート・ゴア元米国副大統領と共にノーベル平和賞を受賞した。NOAAによれば、2020年における温室効果ガス濃度は過去5番目の412.5ppmである。トランプ前大統領の見解に組みせず、IPCCの報告書を信じるのであれば、現在の世界が置かれた状況は正に瀬戸際と言えるだろう。 先進国 vs. 新興国・途上国COP26では、山場のひとつだった11月1-2日の首脳級会合において、197の加盟国・地域のうち半数を超える112か国が演説を行った。総選挙を終えたばかりの岸田文雄首相もぎりぎりで出席したが、それだけ温暖化は国際社会、そして日本国内でも関心が高く、深刻な問題と言える。そうしたなか、会議期間中、ベトナムのグエン・ホン・ジエン商工相が2050年、インドのナレンドラ・モディ首相が2070年までにカーボンニュートラルを目指すと初めて明言するなど、新興国・途上国による目標の明示が相次いだことは特筆されよう。国際エネルギー機関(IEA)は、各国が公約を守れば、21世紀末における気温上昇を産業革命前と比べ1.8℃に抑制できるとの試算を発表した。ちなみに、2019年までの20年間に限れば、世界の温室効果ガス排出量増加分の57.6%を中国が占め、日本、中国、韓国、インドを除くアジアが25.1%、インドの比率も13.9%に達している(図表4)。一方、この間、日本、米国、EUの排出量は減少した。つまり、温室効果ガスと気温の強い因果関係を認めるならば、新興国・途上国が排出量の伸びを抑え、減少させない限り、地球温暖化を食い止めるのが難しいことは明らかだ。こうした先進国側の見解に対して、途上国の間では、産業革命以降、先進国が温室効果ガスの排出量を急増させ、地球温暖化を招いたとの認識が共有されている。従って、先進国が新興国・途上国の対策コストを負担すべきとの意見が総意に他ならない。そこで、首脳級会合では、バイデン大統領、岸田首相など多くの主要先進国の首脳が、新興国・途上国への経済的・技術的支援を強化する方針を示したのである。もっとも、2009年12月のCOP15で採択された『コペンハーゲン合意』では、先進国は途上国の温暖化対策として2020年に向け年間1,000億ドルの支援を目指すと決まっていた。しかしながら、OECDによれば、2019年に先進国が提供した気候変動対策資金は796億ドルであり、コペンハーゲン合意の目標は達成されていない。結果として、新興国・途上国には先進国への根深い不信感があり、両グループの対立がCOPにおける合意形成を極めて難しくしてきたのである。特にCOP26の本来の主役は世界の温室効果ガスの27.9%を排出する中国のはずだったが、肝心の習近平国家主席は首脳級会合への出席を見送った。新型コロナウイルスの感染拡大以降、同主席は外遊に関して極めて慎重な姿勢を続けている。COP26へもG20首脳会議と同様にリモートでの出席を求めたが、対面形式を重視する議長国の英国から拒否された模様だ。そこで、止むを得ず書面でメッセージを送ったのだが、内容は先進国による新興国・途上国支援への支援を強く訴えるものだった。一方、議長国である英国のボリス・ジョンソン首相、バイデン大統領などは、最大の温室効果ガス排出国である中国の首脳が欠席したことを厳しく批判、このところの米欧主要国と中国の対立が地球温暖化問題を巡っても改めて確認されたのである。欧州、米国などは国境炭素税の議論を進めているが、これは温室効果ガス排出削減に消極的な中国への圧力に他ならない。主要先進国は、自らの温室効果ガス排出削減を一段と進めつつ、国際的な規制を強化することにより、中国製品の排除を目指すのではないか。さらに、中国が影響力拡大を図りつつある新興国・途上国に対し、カーボンニュートラルへ向けた経済的支援を強化すると見られる。COP26の合意文書では、途上国における気候変動による被害の軽減や防止のための先進国による資金支援について、2019年に比べ最低でも2倍にすることが盛り込まれた。COP26は、地球温暖化の切迫した状況だけでなく、主要先進国と中国の対立も改めて浮き彫りにしたと言えよう。この新たなる国際社会の分断がむしろ温室効果ガス削減に貢献するのか、それとも中国が他の新興国・途上国を巻き込んでより消極的な姿勢を採るのか、その見極めにはもう少し時間が必要だ。多くの新興国・途上国が中国との連携を強化するリスクを避けるためには、日米欧の主要民主主義国陣営が温暖化対策でしっかりと経済・技術支援を強化する必要があることは間違いない。また、地球温暖化への深刻度が増す一方、2021年は異常気象により風力不足に見舞われたスペインの例などから再生可能エネルギーの課題も再確認された。そうしたなか、欧州の天然ガスの約40%を賄ってきたロシアが供給量を調整し、天然ガス価格の高騰がインフレ圧力として欧州の消費者を直撃している。旧ソ連消滅から30年を経た新たな国際的分断の下、温室効果ガスの削減だけでなく、安全保障の観点からも、主要国はエネルギーミックスのバランスを見直さざるを得ないだろう。そこで注目されるのは、水素(アンモニア)、そして原子力なのではないか。(後編へ続く)
- 11 Jan 2022
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経産省、「クリーンエネルギー戦略」策定の議論開始
岸田内閣が基本方針に掲げる「新しい資本主義の実現」のもと、地球温暖化対策を成長につなげる「クリーンエネルギー戦略」の策定に向けた議論が12月16日に始まった。経済産業相の諮問機関である産業構造審議会と総合資源エネルギー調査会のもと、各々が設置する小委員会の合同会合がキックオフ。6月頃の取りまとめを目指し、産業界や専門家からのヒアリングなどを通じ議論を深めていく。〈配布資料は こちら〉合同会合では、「2050年カーボンニュートラルや『2030年度に温室効果ガスを46%削減』の実現を目指す中、将来にわたって安定的で安価なエネルギー供給を確保し、さらなる経済成長につなげることが重要」との問題意識のもと、グリーン成長戦略やエネルギー基本計画で示された目標に向け、供給側に加え需要側の各分野におけるエネルギー転換の方策を検討。水素・アンモニア、原子力、蓄電池など、エネルギー分野の新たな技術開発や将来の具体的な市場規模の見通しを示し企業投資を後押しすべく、従来の戦略をさらに深掘りし、「経済と環境の好循環」につなげていく。座長は今夏にエネルギー基本計画の素案をまとめた総合エネ調基本政策分科会長も務める白石隆氏(熊本県立大学理事長)。白石氏は、「日本の置かれているエネルギー環境は極めて厳しく、脱炭素の世界的流れの中で、経済安全保障も維持しながら、いかに脱炭素に向けたトランジションを進め日本の成長につなげていくか」と問題提起し、議論に先鞭をつけた。資源エネルギー庁は「クリーンエネルギー戦略」の論点の一つとして需要サイドのエネルギー転換をあげ、関連データを提示。それによると、鉄鋼、セメントを1トン製造する過程で、それぞれ約2トン、約0.8トンのCO2が発生するため、製造業におけるカーボンニュートラルの高いハードルとなっていることが示された。産業部門のCO2排出量のうち、鉄鋼・セメント製造は約40%を占めている。これらのデータを通じ、省エネ・脱炭素化など、産業部門におけるエネルギー転換の共通的な課題として、初期投資の大きさ、製品価格への影響、設備の供用期間が長く更新のタイミングが限られることなどをあげ、安価なエネルギー供給の重要性を示唆した。需要側に対する取組に関し、経済学・政策評価の視点から、大橋弘氏(東京大学公共政策大学院教授)は、「CO2排出を見える化し費用対効果がわかるような仕組み作りが必要」と、需要家の判断や選択を通じた社会変革の重要性を強調。消費者の立場から河野康子氏(日本消費者協会理事)は、「北極圏で気温38℃を記録」との最近の報道に触れ、「気候変動に対して『何か行動しなければならない』という切迫感を感じているものの、プロセスと手段がよくわからない」として、情報提供や若い世代も巻き込んだ議論の必要性を訴えた。
- 17 Dec 2021
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「池上彰のニュースそうだったのか!!」はどこまで正しいの!?
気候変動を防ぐ国際会議COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)の開催やガソリン代などの高騰で再生可能エネルギー問題を取り上げるテレビ番組が増えている。しかし、分かりやすさを強調するあまり、偏った内容が多い気がする。その最たる例が「池上彰のニュースそうだったのか!!」だ。たいていの視聴者は池上彰氏の解説なら、信じてしまうだろう。テレビ番組を検証するファクトチェックが必要だ。その番組は11月13日に放映された。そのシナリオは「先進国の中でなぜ、日本の再生可能エネルギーは、世界に比べて遅れているか」という設定だ。ドイツの大地に広がる無数の風力プロペラ映像を見せながら、日本は温暖化対策に後ろ向きで、市民団体から不名誉な「化石賞」をもらったと解説し、化石賞がさも重要な意味をもつかのような内容も流した。蛇足ながら、化石賞は、メディア受けを狙った環境団体が恣意的な基準で決めた一種のプロパガンダであり、そこに科学的な意味合いはない。同番組で池上彰氏は、太陽光発電などが日本で進まないのはなぜかと問い、その理由について、「日本では技術開発は進んでいたが、大量に導入しないから建設コストが下がらない」「農地につくろうとしても、農地法にひっかかる」「太陽光の導入で電気代が上がると国民の反発を招くので、先送りしてきた」「日本国民の環境意識は海外とちがう」といった事情を挙げた。そういう説明で特に興味をそそったのは、「ドイツでは再生可能エネルギーを拡大してきた結果、電気代が2倍になった。しかし、ドイツの人たちは環境意識が高いので、温暖化対策になるならば、電気代が上がっても、払ってくれる人が多い」という解説だった。まるでドイツの人たちは地球を守るために犠牲的精神を発揮しているかのような解説には目を疑う。日本は世界でトップクラスの太陽光発電大国番組を見ていて、一番疑問(ミスリードと言い換えてもよい)を感じたのは、日本では太陽光発電が少しも進んでいないという誤ったメッセージを伝えたことだ。事実は全く逆である。日本はドイツよりも太陽光発電の導入容量は多い。資源エネルギー庁によると、日本の太陽光発電導入容量は、中国、米国に次いで3位(2018年実績で5,600万kW)だ。ドイツは4位(同4,500万kW)、インドは5位と続く。この導入量は単純に導入容量を比較したものだ。いうまでもなく太陽光発電は広大な面積を必要とする。日本よりはるかに広い面積を誇る中国や米国で太陽光発電が多いのはある意味であたり前である。そこで、国土面積あたりの太陽光設備容量を比べると、なんと日本は1位に躍り出る。2位はドイツで、英国、フランス、中国、インド、米国と続く。さらに平地面積(1平方km)あたりの設備容量で比べると、日本は426kWでダントツの1位(図参照)。2位のドイツ(184kW)よりもはるかに多い。中国(24kW)や米国(10kW)よりも20~40倍も多いのだ。つまり、日本の平地は、他国に比べるとすでに太陽光発電パネルがひしめき合っている状態なのだ。これ以上増やせば、農地や宅地が狭くなり、国内の食料生産自給率を悪化させる要因にもなりうる。国民に巨額の負担を強いる「固定価格買取制度」には触れずこういう厳然たる事実があるにもかかわらず、番組の構成が「なぜ、日本の太陽光発電は増えないのか」というシナリオになるのか不思議である。全く視聴者を小バカにしたミスリードである。すでによく知られているように、日本の太陽光発電がここまで急激に増えたのは、太陽光など再生可能エネルギーが生み出した電気を電力会社が20年間(産業用)にわたり、一定の固定価格で買い取る「固定価格買取制度」(FIT、2012年開始)のせいだ。事業者にとって確実に利益が出る価格で国民が太陽光電力を買い支えるわけだから、増えていくのは当然である。この買い支え額が「再エネ賦課金」だ。この再エネ賦課金は年々高くなり、2021年5月からは、1kWhあたり3.36円となり、2012年当初の15倍近くにもはね上がった。電気料金の上昇は電気を大量に使う日本の産業競争力を低下させる。電気料金が跳ね上がったドイツでは産業向けの料金を下げる優遇措置を講じている。こういう事実こそ放映してほしいが、全く触れていない。また、再エネ賦課金は、所得の低い人でも負担を強いられる。太陽光を導入する所得層はどちらかと言えば、高所得層なので、この固定価格買取制度は、低所得層から高所得層への所得移転ともいえる。国民全体で見ると、年間約2~4兆円ものお金が太陽光発電の買い支えに費やされているのだ。この太陽光発電の負の部分こそが、視聴者に知らせるべきポイントのはずだ。太陽光の買い支え額はクーポンの比ではない2兆円といえば、10万円を2000万人に配ることができる巨額だ。コロナ対策で5万円のクーポン券を配るのに約1000億円(10万円を100万人に配れる額)の事務的経費がかかると批判されているが、太陽光の買い支えはその20倍の2兆円である。2兆円あれば、コロナ禍で経済的に困った人たちをたちどころに解消できる額だ。おそらく池上氏ほどの勉強家であれば、こういう制度の仕組みと問題点を熟知していたはずだ。なのに肝心な解説がなかったのは本当に残念である。結局、あの番組を見て、多くの視聴者の心に残った印象は「環境意識の高いドイツ人は地球温暖化を防ぐために高い電気代を払ってまで太陽光発電などを進めている。これに対し、日本は遅れている」という、相変わらずのワンパターン思考だ。つい最近、テレビ朝日の羽鳥慎一モーニングショーでも、ゲストコメンテーターが「デンマークの人々は風力発電などで電気代が高くなっても、それを受け入れている。私は電気代の負担が高いという実感はない」と話していた。ここでも西欧は進んでいて、日本は遅れているという図式が見られた。日本の知識人の頭脳はいまも西欧の植民地支配状態どうやら、新聞やテレビのメディアの頭の中には、いまなお「西欧が進んでいて、日本が遅れている」という明治以来の西欧信仰が脈々と生きているようだ。良き規範となるお手本は常に欧米諸国である。このことは、脱炭素や脱石炭、車の電動化(EV化)にもあてはまる。悲しいことに日本政府の頭脳までもが西欧の植民地と化している。北京五輪の外交的ボイコット問題を見ていても、欧米に従うかどうかが議論になっている。同じ西欧でも、さすが原子力大国のフランスだけは「スポーツを政治問題化してはいけない」とカッコよく一線を画している。全く同感である。話はテレビ番組にもどる。SNSが普及したとはいえ、テレビ番組は世論に大きな影響を与える。テレビ番組の内容を科学と事実の観点から検証するサイトがぜひとも必要だ。「池上彰のニュースそうだったのか!!」の中身を検証するサイト「池上彰のニュースは、そうだったのか!!」を開設したい気持ちだ。
- 16 Dec 2021
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FNCA大臣級会合開催、研究炉・加速器利用で議論
原子力委員会が主導する「アジア原子力協力フォーラム」(FNCA)の大臣級会合が12月9日、オンラインにて行われた。FNCAは、日本、オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリンピン、タイ、ベトナムの12か国が参画する原子力平和利用の枠組みで、各国ごとに選任されたコーディネーターのもと、放射線・研究炉利用を中心としたプロジェクト活動が行われており、年1回特定テーマについて議論する大臣級会合を開催している。今回、日本代表の小林鷹之内閣府科学技術担当大臣はビデオメッセージとして出席。小林大臣は、開会に際し、FNCAの20年以上にわたる活動を「大変ユニークであり価値あるもの。アジアの持続的発展に寄与している」と評価。先般英国で開催された世界の気候変動問題について議論するCOP26を振り返りながら、「カーボンニュートラルの早期実現は国際社会の命題。多様なエネルギー源の中で、原子力の役割・責任が改めて見直されるべき」と述べ、今後のFNCAプロジェクト活動を通じた成果に期待を示した。続いて、国際原子力協力フォーラム(IFNEC)運営グループ長のアリシア・ダンカン氏が講演。IFNECは、米国が提唱した国際エネルギーパートナーシップ(GNEP)を改組し2010年に発足した枠組みで、現在34か国が正式メンバー国として参加しており、例年開かれる各国代表らによる執行委員会には、日本から内閣府科学技術担当大臣や原子力委員が出席している。ダンカン氏は、IFNEC傘下で行われるワーキンググループの活動について紹介した上で、2022年に向けて、(1)コミュニケーション、(2)ファイナンシング、(3)ジェンダーバランス、(4)先進技術――におけるシナジー効果を標榜。原子力のコミュニケーションに関し、ダンカン氏は、「5歳児にも、自身の祖父母にも理解してもらえるよう、シンプルでわかりやすい言葉で語る必要がある」と述べるとともに、「無知が恐怖につながる」として、教育の重要性を強調した。また、11月より原子力委員会で検討が開始された医療用ラジオアイソトープ(RI)の製造・利用について、上坂充委員長が講演し、画像診断に用いられるテクネチウム99m(モリブデン99が原料)などの国産化に向けた取組について紹介。医療用RIの製造効率化に向け、フィリピンの参加者が原子炉と加速器のベストミックスに関するプロジェクトの可能性について尋ねたのに対し、FNCA日本コーディネーターの和田智明氏は、研究炉利用プロジェクトでの長年にわたる実績に触れながらも、「生産が直ちに利用につながるものではない」として、各国の事情を踏まえた医療システム全般からの議論も必要なことを示唆した。今回の会合では、「研究炉・加速器とその応用技術の利用拡大」をテーマに討議。タイからは近く稼働する30MeVサイクロトロン(加速器)の多分野での活用、オーストラリアからは研究炉「OPAL」による医療用RI製造の実績、診断と治療を融合した技術概念「セラノスティクス」の展望などが述べられた。日本原子力研究開発機構理事の大井川宏之氏が日本の研究炉・加速器の現状について紹介したのに対し、フィリピンからは同機構が保有する研究炉「JRR-3」や大強度陽子加速器施設「J-PARC」による中性子利用への関心が寄せられた。
- 10 Dec 2021
- NEWS
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環境省、未来志向の取組「FUKUSHIMA NEXT」で表彰式
環境省が震災復興を始めとした福島県内での未来志向の取組をたたえる「FUKUSHIMA NEXT」の表彰式が12月3日、大熊町のホールで行われた。同表彰制度は、優秀な取組の啓発・支援を通じて、原子力災害に係る風評払拭と環境再生に対する理解醸成につなげることを目的として創設。〈環境省発表資料は こちら〉今回、環境大臣賞を、高校生対象のワークショップ開催や土壌再生事業の現地見学を通じた理解活動でNPO法人ドリームサポート福島理事の菅野真氏と福島県立安積高校教諭の原尚志氏(連名)が、地域資源を活用した再生可能エネルギー導入促進でエイブル再生可能エネルギー部長の渡邊亜希子氏が、ツツジを活用したまちづくりで東京農業大学地域環境科学部学生の渡邊優翔氏が受賞した。表彰式は福島の復興・まちづくりと脱炭素社会の実現について考えるシンポジウムの場で開催。今回のエイブルによる功績は、大熊町が掲げる「2040年ゼロカーボン達成」に係るもので、同社は、2021年7月に町と連携協定を締結し、地元金融機関からの出資も受け、9月に地域新電力「大熊るるるん電力」を設立した。また、福島県知事賞を「コンソーシアム Team Cross FA」プロデュース統括の天野眞也氏ら3名が受賞。同氏は、南相馬市のロボット関連企業を支援するコンソーシアムを組織し、地域の産業創生に寄与した。この他、特別賞が4名に、奨励賞が6名に贈られた。いずれも地域に根差した取組が評価されており、特別賞を受賞した(一社)とみおかプラス事務局長の佐々木浩氏は富岡町の交流人口拡大に向けたまちづくりに、同じくアンフィニ復興推進部長の川崎俊弘氏は楢葉町の工場整備などに取り組んだ。また、奨励賞を受賞した広野町振興公社代表取締役の中津弘文氏は2018年に始まったバナナのハウス栽培で、同じく福島県環境創造センター教育アドバイザーの佐々木清氏は三春町に立地する交流施設「コミュタン福島」を拠点とした活動で、それぞれ地域の産業振興、環境保全教育に寄与した。賞状授与の後、「FUKUSHIMA NEXT」審査員長を務めたジャーナリストの崎田裕子氏は、講評に立ち、「それぞれのストーリーを持っている」と、受賞者らの取組を称賛。その上で、「顔の見える素晴らしい取組が見えてきた」と繰り返し強調し、復興の加速化につながることを期待した。
- 08 Dec 2021
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岸田首相が国会演説、需給を一体的にとらえた「クリーンエネ戦略」の推進を述べる
演説する岸田首相(衆院にて、インターネット中継)岸田文雄首相は12月6日、同日召集された臨時国会で演説を行った。10月の衆議院解散、総選挙を経て、新内閣発足後、初の所信表明となる。岸田首相は、新型コロナの感染状況が鎮静化している国内の現状に関して、「屋根を修理するならば日が照っているうちに限る」というケネディ元米国大統領の名言を引用し、先般決定した財政支出55.7兆円の「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」をスピード感を持って推し進め、日本経済を回復軌道に乗せていく決意を表明。その上で、11月の新内閣発足に際し示した基本方針、(1)新型コロナウイルス対策、(2)新しい資本主義の実現、(3)国民を守り抜く外交・安全保障、(4)危機管理の徹底、(5)東日本大震災からの復興・国土強靭化――で取り組む施策について述べた。「新しい資本主義の実現」に向けては、「成長と分配の好循環」を標榜。成長戦略として、科学技術によるイノベーションを掲げ、大学改革・大学発のベンチャー創出、デジタル田園都市国家構想の具体化による地域活性化などに取り組むとした。気候変動問題については、「新たな市場を生む成長分野へと大きく変換していくもの」と強調。「2050年カーボンニュートラル」、2030年度の温室効果ガス46%排出削減の実現を目指し、「再生可能エネルギー最大限導入のための規制の見直し、クリーンエネルギー分野への大胆な投資を進める」と述べ、送配電網のバージョンアップ、蓄電池導入の拡大、火力発電のゼロエミッション化に向けたアンモニア・水素への燃料転換を図るとともに、技術・インフラを通じたアジアの脱炭素化にも貢献するとした。また、エネルギー政策に関して、「需給両面を一体的にとらえ、『クリーンエネルギー戦略』を進める」と明言。外交・安全保障の関連では、「核兵器のない世界に一歩でも近付くよう、核兵器国と非核兵器国との信頼と協力の上に現実的な取組を進めていく」と述べ、核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議で意義ある成果を出せるよう、米国を始めとする関係国と連携し積極的役割を果たしていくとした。東日本大震災からの復興に向けては、「地元の声に寄り添い、引き続き全力で取り組む」と強調。浜通り地域に整備する「国際教育研究拠点」構想に言及し、わが国の科学技術・産業競争力の強化にもつながるよう、政府一丸となって長期・安定的な運営の実現を図るとした。同拠点設立に関する法案は、次期通常国会への提出が予定されている。
- 06 Dec 2021
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2020年度エネ需給実績、CO2排出量が10億トンを下回る
資源エネルギー庁は11月26日、2020年度のエネルギー需給実績(速報)を発表した。それによると、2020年度の最終エネルギー消費は、前年度比6.6%減の12,089PJ(ペタジュール、ペタは10の15乗)となった。一次エネルギー国内供給は、前年度比6.1%減の17,964PJ。そのうち、化石燃料は7年連続で減少。再生可能エネルギーは8年連続で増加し続ける一方、原子力は2年連続で減少した。発電電力量は前年度比2.1%減の1兆13億kWh。再生可能エネルギー(水力を含む)が19.8%(前年度比1.7ポイント増)、原子力が3.9%(同2.4ポイント減)、火力(バイオマスを除く)が76.3%(同0.7ポイント減)を占め、非化石電源の割合は23.7%(同0.7ポイント減)となった。原子力の発電電力量は388億kWhで、前年度の638億kWhより大幅に下降。2020年度は、新たな再稼働プラントはなく、九州電力川内1・2号機のテロ対策となる「特定重大事故等対処施設」整備に伴う停止期間が生じた。また、エネルギー起源のCO2排出量は、前年度比6.0%減、2013年度比21.7%減の9.7億トン。東日本大震災後、2013年度には12.4億トンにまで達したが7年連続で減少し初めて10億トンを下回った。電力のCO2排出原単位(使用端)は、前年度比0.3%悪化し、0.48kg/kWhとなった。
- 29 Nov 2021
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