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ポーランド規制当局、2つのSMR設計について予備的安全性評価等を実施
ポーランドの原子力規制当局である国家原子力機関(PAA)はこのほど、小型モジュール炉(SMR)建設を計画する国内2社から、PAA長官による「包括的な(評価)見解」の取得申請書を受領したと発表した。米ニュースケール社の「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を複数基備えた原子力発電設備「VOYGR」の建設は、ポーランド鉱業大手のKGHMポーランド銅採掘(KGHM)会社が計画中。一方、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社の「BWRX-300」については、オーレン・シントス・グリーン・エナジー社が建設を計画している。「包括的な(評価)見解」の取得は予備的な許認可手続きの一つであるが、原子力安全と放射線防護の確保に関わるため同国の原子力法にも規定されている。当該設備の設計や技術、事業者の組織構造等に対するPAA長官の評価によって、その設備が原子力安全面と放射線防護面の要件を満たしているかの決定で直接的な影響を与える。PAA長官は通常6か月かけて評価結果をまとめるが、複雑な案件であることから3か月延長して9か月後に見解を提示する可能性があるとしている。KGHM社はポーランド南西部にある欧州最大規模の銅鉱床で採掘を行っている企業で、これらの事業に必要な電力や熱エネルギーの約半分を2030年末までに社内設備で賄う方針。同社はまた、2050年までに同社事業によるCO2排出量の実質ゼロ化を目指しているため、太陽光などの再生可能エネルギーや先進的SMRなど原子力発電の開発を進めている。PAAの今回の発表によると、KGHM社が建設を計画しているのは1モジュールの出力が5万kWのNPM。NPMは2020年9月に米国のSMR設計として初めて、原子力規制委員会(NRC)から「標準設計承認(SDA)」を取得している。今年の2月には、同社は「VOYGR」の国内建設に向けてニュースケール社と先行作業契約を締結しており、早ければ2029年にも最初のNPMの運転を開始する方針。今回の申請について同社は「ポーランド初の申請者になった」と強調しており、次の段階として立地点の選定準備を始めるほか、運転員など原子力関係の専門家訓練も実施すると表明している。一方のオーレン・シントス・グリーン・エナジー社は、同国の大手化学素材メーカーであるシントス社(Synthos SA)のグループ企業シントス・グリーン・エナジー(SGE)社と、最大手の石油精製企業であるPKNオーレン社が50%ずつ出資して設立した合弁事業体。シントス社は無炭素電源による電力に関心が高く、PKNオーレン社は2050年までに自社のCO2排出量を実質ゼロ化することを目指している。これらのことから、オーレン・シントス・グリーン・エナジー社はポーランド国内でSMRの商業化を進める方針。GEH社の「BWRX-300」を選択した理由については、カナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社がオンタリオ州内のダーリントン原子力発電所で建設するSMRとして、3つの設計候補の中から「BWRX-300」を選択した事実を挙げた。「BWRX-300」は出力30万kWのBWR型SMRで、2014年にNRCから設計認証を受けた第3世代+(プラス)のGEH社製設計「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」がベース。今回の申請にともないオーレン・シントス・グリーン・エナジー社がPAAに提出した技術文書は、カナダ原子力安全委員会の「予備的設計評価(ベンダー設計審査:VDR)」に向けてGEH社が準備した文書が元になっている。OPG社がカナダで「BWRX-300」の初号機を建設すれば、オーレン・シントスJVのSMRは同設計の2基目となるため、その開発や投資の準備、許認可、建設・運転まで、OPG社の経験を参考にできると説明している。(参照資料:PAAの発表資料①、②(ポーランド語)、KGHM社、およびオーレン社の発表資料(ポーランド語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 12 Jul 2022
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ポーランドの電力大手、国内でのSMR建設に向け米企業と協力合意
ポーランド政府所有の電力会社であるエネア(Enea)・グループは6月22日、米国の小型モジュール炉(SMR)開発企業であるラスト・エナジー社と基本合意書を締結。SMRのポーランドへの導入を目指す。同設計の経済面と技術面の実行可能性を検証した後、エネア・グループが実施した市場分析等に基づいて、さらなる協力の範囲を定めるとしている。基本合意書によると、ラスト・エナジー社はSMRの設計・建設から、資金調達、設置とメンテナンス、燃料供給、廃棄物の回収、廃止措置に至るまで、開発プロジェクトの全般にわたりエネア・グループに協力する。一方、ポーランド側では、この合意で石炭や輸入天然ガスへの依存度を下げ、クリーンで価格も手ごろな電力の利用拡大を目指しており、エネア・グループは共同建設を担当する合弁会社の設立も想定している。自社の発電設備としてSMRを活用するだけでなく、将来的には産業界への熱供給も計画。同グループの開発戦略に沿って原子力関係の新しい事業を創出するほか、2050年までにポーランドがCO2排出量を実質ゼロ化する一助としたい考えだ。ラスト・エナジー社のSMR(電気出力2万kW、熱出力6万kW)は、実証済みのPWR技術を用いたモジュール式の設計で、ベースロード用電源として活用が可能。同社によると、従来の大型炉と比べて製造に必要なコストと時間が大幅に削減される見通しで、最終投資判断が下されてから24か月以内に納入することを目指す。同設計は運転期間42年を想定している。同社はすでに、欧州のみならず南米やアジア諸国の政府や規制当局、およびエネルギー企業などと同社製SMRに関する協議を実施。今年3月には、ルーマニアのN.チューカ首相が、同社と協力して同社製SMRをルーマニア国内に導入する意欲を表明している。基本合意書の調印は、ポーランド大統領の後援で2016年から毎年開催されている大型の経済イベント「コングレス590」で行われた。調印式に同席したポーランドのJ.サシン副首相兼国有財産相は、「国家のエネルギー供給を長期的に保証していくため、従来の大型炉や全く新しい小型炉設計など、その規模に関わらず原子力発電を導入していきたい」と表明。今後、未知の多難な方向へ歩を進めるエネア・グループが、信頼できる案内役をパートナーとして見つけたことを祝福すると述べたほか、「ポーランドがエネルギー供給を維持していけるか決定づける時が来た」と強調した。ポーランドではこのほか、化学素材メーカーのシントス社と石油精製企業のPKNオーレン社が昨年12月、合弁事業体を設立してSMRの中でも米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製SMR「BWRX-300」の建設に重点的に取り組むと表明。また、ポーランド鉱業大手のKGHMポーランド銅採掘(KGHM)会社は今年2月、米ニュースケール・パワー社の先進的SMR「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を複数備えた「VOYGR」発電設備を、2029年までに国内で建設するため、先行作業契約を同社と締結している。また、フランス電力(EDF)は昨年10月、ポーランド政府に対し2~3サイトで4~6基のフラマトム社製「欧州加圧水型炉(EPR)」(合計660万~990万kW)の建設を提案していたが、今月22日に「この提案を再確認するため、ポーランド国内でこの計画に参加する資格がある5つの企業と、新たに協力協定を締結した」ことを明らかにしている。(参照資料:エネア・グループ、ラスト・エナジー社、EDFの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 27 Jun 2022
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東芝ESS、ポーランド初の原子力発電所向け機器納入で米ベクテル社と協業へ
東芝エネルギーシステムズ(東芝ESS)は6月8日、米国現地法人の東芝アメリカエナジーシステム社(TAES)とともに、米国エンジニアリング企業のベクテル社と、ポーランド初となる原子力発電所向けの機器納入に関する協業について合意したと発表した。〈東芝発表資料は こちら〉ポーランドでは、石炭火力依存を低減すべく原子力発電の導入を目指しており、2033年までの初号機運転開始を計画している。米国ウェスチングハウス(WH)社は、1月に同社製軽水炉「AP1000」設計が採用されることを前提にポーランドの関係企業10社と戦略的連携関係の了解覚書に調印。こうした中、WH社と「AP1000」の設計・建設に取り組むベクテル社は、このほど東芝ESSおよびTAESと、「AP1000」への蒸気タービン・発電機供給に向け協業することで合意に至った。今後、3社は機器供給に向けて具体的な検討を行っていく。東芝ESSの海外展開の実績として、最近では、2021年4月にアラブ首長国連邦で初の原子力発電所として営業運転を開始したバラカ1号機(韓国製140万kW級 PWR「APR1400」)への蒸気タービン・発電機の供給がある。
- 08 Jun 2022
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韓国水力・原子力会社がポーランドに6基の「APR1400」建設を提案
韓国水力・原子力会社(KHNP)は4月22日、ポーランドが進めている大型原子力発電所の導入計画に対し、韓国製の140万kW級改良型PWR「APR1400」を6基(合計840万kW)建設する事業提案書を提出し、受注に向けた本格的な活動を開始したと発表した。ポーランドでは2021年2月、内閣が「2040年に向けたポーランドのエネルギー政策」を正式決定しており、改訂版の「ポーランドの原子力開発計画」では、2043年までに約100万kWの原子炉を6基、合計600万~900万kW建設することを計画。出力100万~150万kWの初号機を2033年までに運転開始した後、2年おきに残りの5基を完成させていくとしている。また、同国の国営エネルギー・グループ(PGE)が設立した原子力事業会社のPEJ社(=Polskie Elektrownie Jądrowe)は昨年12月、同国初の原子力発電所サイトとして、バルト海に面した北部ポモージェ県内のルビアトボ-コパリノ地区を選定。今年3月末には、同地区の環境影響評価(EIA)報告書を環境保護総局(GDOS)に提出したポーランドのこのような計画について、米国のウェスチングハウス(WH)社とフランス電力(EDF)はすでに個別に参加の意思を表明している。WH社は、米国とポーランド両国の政府が締結した「(ポーランドの)民生用原子力発電プログラムに関する政府間協力協定(IGA)」の2021年3月の発効、および米貿易開発庁(USTDA)による支援などを背景に、ポーランドへの技術移転も含めた包括的投資構想を策定中である。一方、EDFは2021年10月、ポーランド政府に対し、2~3サイトで4~6基(660万~990万kW)のフラマトム社製・欧州加圧水型炉(EPR)の建設を提案している。KHNP社の今回の発表によると、同社のナム・ヨシク副社長兼成長事業本部長率いる代表団が現地時間の21日、ポーランドで原子力発電所の導入事業に携わる気候環境省を訪問。同省のA.ギブルジェ-ツェトヴェルティンスキ次官、およびP.ナイムスキ戦略エネルギー・インフラ特任長官と会談した。その際、韓国・産業通商資源部(MOTIE)のムン・スンウク長官からの書簡を手渡しており、代表団はポーランドの原子力発電開発計画に沿って、2033年までに初号機が運転開始できるよう競争力のある価格で建設を進めると提案。「APR1400」に関しては、欧州の電力企業15社が定めた安全基準「欧州電気事業者要件(EUR)」や米原子力規制委員会(NRC)の安全要件など、国際的に最も厳しい安全基準を満たしていると説明した。代表団はまた、KHNP社が優れた事業管理能力や独自の優れた技術を保有していると強調。ポーランドのプロジェクト受注に向けた資金調達面も含め、韓国政府が同社を全面的に支援していることを伝えた。同社はこのほか、ポーランドでこれまでに開催した「韓国とポーランドの原子力発電フォーラム」や、両国企業間の「B2Bビジネス会合」、「APR会議2019」の模様を紹介。その際、ポーランド企業と結んだ多数の了解覚書を通じて協力関係をすでに構築済みであり、KHNP社はそれらを基盤にポーランド企業と協力して同国の原子力開発計画を進めていくと強調している。(参照資料:KHNP社(韓国語)、ポーランド気候環境省(ポーランド語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 26 Apr 2022
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【第55回原産年次大会】セッション1「各国におけるストラテジーとしての原子力開発利用」
セッション1では「各国におけるストラテジーとしての原子力開発利用」をテーマに、4か国から原子力政策が紹介された。モデレータを務めた日本エネルギー経済研究所・戦略研究ユニットの村上朋子原子力グループマネージャーは、セッション内容の説明に際し、世界の33か国・地域が原子力を利用している理由として、「人口や経済規模の大きい国が大量のエネルギーを必要としたから」という考え方に言及。あるいは逆に、原子力のように安定したエネルギーを利用してきたからこそ、多くの人口を維持し経済発展を遂げたとも考えられるが、実際の原子力利用国では単にエネルギー問題の解決のみならず、他の様々な事情も考慮されてきたことが想像できるとした。同氏はまた、日本の「原子力開発利用長期計画」では原子力はエネルギー政策としてだけでなく、長期的な産業振興政策の一つとしても優良な選択肢であった点を指摘した。その上で、原子力はある日突然、必要になったからと言って「泥縄式に」手に入るものではないし、何十年もの間に万が一の事態が発生することに備えて、二重三重の対策を講じておくことがエネルギー政策だと強調。本セッションでは、原子力の開発利用を巡る各国の諸事情を直接伺いたいと述べた。♢ ♢カポニティ次官補代理米国エネルギー省(DOE) 原子力局のA.カポニティ次官補代理(原子炉フリート及び先進的原子炉担当)は、CO2排出量が実質ゼロの経済で不可欠な先進的原子炉の開発について、米国の現状を次のように述べた。J.バイデン大統領は地球温暖化への取り組みを最優先に考えており、DOEは国内外のCO2排出量の削減目標達成に向けて、SMR等の先進的原子炉設計を早急に市場に出す準備を積極的に展開中。この意味で新規の原子炉建設は非常に重要なものになっており、バイデン政権は①2020年代末までに米国のCO2排出量を50%以上削減、②2035年までに米国の電源ミックスを100%クリーンなものにする、③2050年までにCO2排出量が実質ゼロの経済を獲得する、などの目標を設定。このような意欲的な目標を達成するには、原子力のようにクリーンで信頼性の高いベースロード電源が不可欠だとDOEは考えている。現在、米国の原子力発電所は総発電量の約20%を供給しているが、クリーン電力だけ見ると年間総発電量の半分以上が原子力によるもの。これらは平均92%という世界で最も高い設備利用率で稼働中であり、他のいかなる電源よりも高い数値である。このような事実から、原子力は米国で最も信頼性の高い、最大の無炭素電源と位置付けられており、既存の大型軽水炉の運転継続を支援し、SMRやマイクロ原子炉等の先進的原子炉設計を新たに市場に出すことは、米国における地球温暖化対応戦略の主要部分となっている。先進的原子炉設計の商業化を支援するに当たり、DOEでは次の3つのアプローチをとっている。すなわち、①DOE傘下の国立研究所で基礎研究開発を進める、②先進的原子炉の開発事業者が国立研究所の専門的知見や能力、関係インフラを利用しやすくなるよう連携する、③技術面と規制面の主要リスクに官民が連携して取り組み、2020年代の末までに先進的原子炉の初号機を送電網に接続する、である。そのためにDOEが具体的に実施している方策としては、先進的原子力技術の商業化支援構想「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」が挙げられる。GAINでは、技術開発支援バウチャー(国立研究所等の施設・サービス利用権)プログラムなどを通じて、民間企業が国立研究所のインフラ施設や専門的知見、過去のデータ等を活用できるよう財政支援を実施。DOEが2019年に傘下のアイダホ国立研究所(INL)内に設置した「国立原子炉技術革新センター(NRIC)」では、技術の実証に使える試験台や実験インフラを提供している。また、官民の連携アプローチでは、DOEは3つの先進的原子炉設計を選定して、実証炉の開発プロジェクトを支援中。その1つ目はニュースケール・パワー社の軽水炉型SMRで、2029年までにINL内で最初の実証モジュールを稼働させる。出力7.7万kWのモジュールを6基連結することにより、合計46.2万kWの出力を得る計画である。2つ目は、テラパワー社がGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と共同で進めている、ナトリウム冷却高速炉「ナトリウム(Natrium)」計画。ワイオミング州内で閉鎖予定の石炭火力発電所で電気出力34.5万kWの実証炉を建設することになっており、火力発電所のインフラ設備や人員を活用する予定になっている。3つ目は、X-エナジー社が開発している小型のペブルベッド式高温ガス冷却炉「Xe-100」。ワシントン州内で初号機の建設が予定されており、その高い出口温度によって水素製造に適した高品質の蒸気を生産するほか、4基のモジュールを組み合わせて32万kWの発電設備とする計画である。♢ ♢ポペスク局長ルーマニア・エネルギー省のE.ポペスク・エネルギー政策・グリーンディール局長は同国の原子力開発戦略を次のように紹介した。ルーマニアを含む欧州南東部は依然としてエネルギー安全保障の脆弱性という問題を抱えているため、供給保証の確保と調達先の多様化は引き続き、この地域におけるエネルギー政策の基本要素である。2030年までの期間、温室効果ガス(GHG)排出コストの上昇にともない、低炭素な風力や太陽光、原子力等の設備拡大ペースも早まっていくと想定。長期的なエネルギーシステムの開発に関するシナリオはすべて、大規模な水力発電や再エネ、原子力、エネルギー貯蔵など、利用可能なあらゆる低炭素技術の活用を前提としたものであり、これらの技術はルーマニアにおける「低炭素でバランスの取れた多様なエネルギーミックス」の構築に不可欠な貢献を果たす。欧州連合(EU)はエネルギーと気候関係で2030年までの目標を多数掲げているため、加盟国は2030年まで10年間の総合的な国家エネルギー・気候計画(NECP)を策定しなければならない。ルーマニアが2030年までを目処に設定した目標としては、EU排出量取引制度(ETS)の中でGHG排出量を2005年比43.9%削減;最終エネルギーの総消費量に占める再エネの割合を30.7%に拡大;ルーマニアの「国家復興・強靭化計画(RRP)」ではこの割合を34%とする、などがある。原子力に関しては、ルーマニアはその利用可能性や高い競争力、環境への影響が少ないこと等から、電力部門の持続可能な発展のための解決策と認識。発電における戦略的選択肢であるとともに、国家エネルギーミックスの安定した構成要素と考えている。現状では、チェルナボーダ1、2号機(各70万kW級のカナダ型加圧重水炉=CANDU炉)が送電開始以降、CO2を累計で1億7,000万トン削減したほか、毎年約1,000万トンを削減中。総発電量に占める原子力発電の割合は18~20%だが、クリーンエネルギーでは全体の33%を両炉が供給している。また、原子力関係の売上高は2017年の累計で5億9,000万ユーロ(約802億円)にのぼり、2030年までの総投資額は80億~90億ユーロ(1.09兆~1.2兆円)に達する見通しである。ルーマニアの脱炭素化目標では、2030年までにCO2排出量を現状から55%削減し、輸入エネルギーへの依存度も現在の20.8%を17.8%まで削減する。このため、原子力ではチェルナボーダ1号機の運転期間延長に加えて、建設工事が1989年にそれぞれ15%と14%で停止した同3、4号機(各70万kW級CANDU炉)を2031年までに完成させる。また、SMRを6モジュール分(46.5万kW)設置するほか、チェルナボーダ発電所内ではトリチウム除去施設(CRTF)を建設、回収したトリチウムは安全に長期保管するほか、国際核融合実験炉計画(ITER)等に役立てる方針である。1号機の運転期間延長については、フェーズ1の作業が終了間近となり、次の段階では延長プロジェクトの実施でEPC契約を締結するほか関係許認可を取得、最終投資判断(FID)も行われる。実際の改修工事は、フェーズ3で2026年12月から2028年12月まで効率的に遂行する。3、4号機を完成させる工事については、ルーマニア国営原子力発電会社(SNN)の子会社であるエネルゴニュークリア社が2021年11月、SNC -ラバリン社グループのCANDU炉製造企業であるCANDUエナジー社と契約を締結している。SMR関係では、SNNが米ニュースケール・パワー社製SMRの国内建設を目指して、2021年11月に同社と協業契約を締結した。欧州初のSMRとして約46万kW分を設置し、毎年400万トンのCO2排出を抑制するという計画。SNNは2022年4月末までに、建設サイトを決定する予定である。♢ ♢ギブルジェ-ツェトヴェルティンスキ次官ポーランド気候環境省のA.ギブルジェ-ツェトヴェルティンスキ次官は、同国における原子力発電開発とその利用戦略について、次のように解説した。ポーランド政府は、2040年までを見通したエネルギー戦略やCO2排出量の実質ゼロ化を達成する上で原子力の利用は欠かせないと考えており、そのための2つの重要文書「2040年に向けたポーランドのエネルギー政策」と「ポーランドの原子力開発計画」を策定した。ともに2043年までに原子炉を6基、600万~900万kW建設することを想定。出力100万~150万kWの初号機については2033年までに運転を開始し、その後2年おきに残りの5基を完成させていく計画である。「2040年に向けたエネルギー政策」では低炭素なエネルギー・システムに移行するための枠組みを設定しており、このようなシステムの構築に必要な技術の選定に関する戦略的決定事項を明記した。また、信頼性の高い電源として、原子力がポーランドの電源構成の中で極めて重要な部分を担っていることを再確認。原子力はまた、出力調整が可能なベースロード電源であるため、再生可能エネルギー源を着実に建設していく一助になる。2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成することは、未だに総発電量の約7割を石炭火力で賄っているポーランドにとって非常に大きな挑戦だが、それでもポーランドはエネルギーの安定供給と経済競争力を維持しつつ、電源構成を改善していくと決定。最終的に総電力需要の約20%を原子力で賄い、ポーランドの脱炭素化に向けた取り組みの主翼とする方針である。原子力発電の導入を実現する重要要素としては、「サイトの選定」、「事業モデルの構築」、「採用技術」の3点があり、立地点については最初の発電所の建設に適したサイトとして、事業会社のPEJ社が北部ポモージェ県ホチェボ自治体内の「ルビアトボ-コパリノ地区」を選定した。採用技術としては、確証済みの技術を採用した第3世代+(プラス)の大型PWRを検討。事業モデルに関しては、これから選定するパートナー企業が事業会社のPEJ社に最大49%出資し、事業リスクを分散してくれることを期待している。PEJ社については、2021年3月に政府が同社株を100%取得したことから、政府が同社を直接監督している。同社は最近、最初の発電所建設と運転が周囲の環境に及ぼす影響について評価報告書(EIA)を取りまとめており、現在は「サイトの評価報告書」を作成中。今後数か月の間に発電所に採用する原子炉技術を選定してベンダーと契約するほか、EPC(設計・調達・建設)コントラクターとも契約を締結、政府からは「環境条件に関する承認」を取得するため、原子力発電プログラムは特に忙しくなる。政府はまた、2020年後半に改訂版の「原子力発電計画」を採択。このため、原子力発電に必要な人的資源の開発や国民とのコミュニケーション、原子力発電所の建設と運転に参加する国内産業界の準備支援等を優先的に実施していく考えだ。政府はさらに、2021年12月に「地元の産業支援計画」を承認した。同計画では、様々な産業活動への国内企業の参加を促す予定。原子力では新たなイノベーション産業がポーランドで生まれると期待されており、原子力発電所建設事業の70%までを国内企業が実施することになる。♢ ♢ブイット部長フランス環境移行省エネルギー・気候局(DGEC)のG.ブイット原子力産業部長は、フランスにおける今後の原子力エネルギーの展望について以下のように説明した。フランスでは現在、56基のPWRで3,350億kWhを発電(2019年実績)しており、発電シェアは全体の67%、これらの平均稼働年数は36年である。2015年に「グリーン成長のためのエネルギー移行法(LTECV)」が成立し、2019年にはその内容を補完する「エネルギー気候法(LEC)」が公表された。これらではエネルギーの移行に向けて、野心的な国家中長期目標を設定。すなわち、「2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成」、「2030年までに化石燃料の消費量を2012年比で40%削減」、「2012年から2050年までの間に最終エネルギーの消費量を50%削減」、「2030年までに最終エネルギー消費量の33%を再エネとする」、などである。2020年4月には、LECの目標を達成するための補足文書として、①(2028年までの)多年度エネルギー計画(PPE)、②国家低炭素戦略(SNBC)が制定された。PPEの第一期(2019年~2023年)では、原子力部門の将来に向けた行動計画を提示。原子炉の運転年数を40年以上に延長することや、再処理戦略が再確認されている。一方、送配電企業のRTEは2021年10月、政府の指示により、国内の電源構成を完全に脱炭素化しつつ長期的な電力ニーズを満たすためのシナリオを6つ作成。それぞれの費用やリスク評価した結論として、「原子力を完全に廃止したシナリオでは、2050年までに電源構成の脱炭素化という目標を達成できないリスクがある」、「新規の原子炉建設は経済的観点から妥当」などと発表した。このような状況を受けてE.マクロン大統領は2021年11月、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するため、再エネ源の大規模開発継続に加えて、原子炉建設を行う新しいプログラムを設置したと発表している。2022年2月には、「国内で新たに6基の改良型EPR(EPR2)を建設し、さらに8基建設するための研究を開始する」、「効率的な発電能力を維持している既存の原子炉は、最高水準の安全性が確保されている限り廃止しない」などの方針を明らかにした。現在、フランス政府はエネルギー・気候政策の定期的な見直しとして、PPE第二期(2024年~2028年)の戦略策定に向けた意見を2021年秋から幅広く聴取中。議会は2023年の夏ごろ、新たな方針を盛り込んだ法律の制定に向け議論を実施する予定で、次回の改訂では新規原子炉の建設に関してさらなる詳細が示される。一方、原子力産業界ではフランス電力(EDF)が中心となってPWRタイプのSMR「NUWARD」を開発しており、2040年までに国内エネルギーミックスに組み込む方針。「NUWARD」では、1つの建屋に出力17万kWの原子炉を2基設置、静的安全システムによって様々な事故シナリオに対応可能になる。このような産業界を支援する戦略として、政府は2020年9月に「フランス復興計画」を発表した。原子力産業界の設備・能力の近代化関係で1億ユーロ(約136億円)、原子力研究開発に2億ユーロ(約272億円)の支援を行うほか、「NUWARD」の予備設計支援で5,000万ユーロ(約68億円)を投じることになった。また、2021年10月にはマクロン大統領が、将来に向けた新たな大規模投資計画「フランス2030」を発表。2030年までに国民の生活や生産活動をより良いものとするための目標10項目を掲げており、エネルギーを含む様々な重要分野に対応。原子力関係では、小型原子炉その他の革新的な原子炉の台頭促進が目標の一つであることから、10億ユーロ(約1,358億円)の公的資金の投入方針を明らかにしている。
- 13 Apr 2022
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ポーランドの原子力事業会社、建設サイトの環境影響評価報告書を提出
ポーランド初の原子力発電所建設計画を進めているPEJ(=Polskie Elektrownie Jądrowe)社は3月30日、この発電所(合計出力375万kW)が建設される同国北部ポモージェ県内での環境影響評価(EIA)報告書を、29日付で環境保護総局(GDOS)に提出したと発表した。これと同時に、PEJ社は同県近隣のロシアとの国境付近におけるEIA実施に向けた文書も提出。これにより、建設計画では「環境条件に関する意思決定」の発給に向けた許認可手続きが再開されるとしている。ポーランドでは1980年代に40万kW級のロシア型PWR(VVER)をポモージェ県内のジャルノビエツ地区で建設する計画が進展したが、ウクライナのチョルノービリ原子力発電所事故の発生を受けて、同計画は1990年代に頓挫した。政府はその後、エネルギー源の多様化と温室効果ガスの排出量削減を図るには原子力の導入が不可欠と判断、2009年に改めて原子力開発ロードマップを策定している。ポーランド政府がさらに2021年2月に決定した「2040年までのエネルギー政策」によると、同国では2043年までに複数のサイトで最大6基の原子炉(600万~900万kW)を稼働させるとしており、初号機については2033年までに運転を開始させる方針。採用設計としては、確証済みの技術を採用した安全な第3世代+(プラス)の大型PWRを検討中である。PEJ社は、国営エネルギー・グループ(PGE)が原子力発電所の建設・運営のために2010年1月に設立した事業会社で、2021年6月に社名を当初のPGE EJ1社から改名。同年12月には、同社はポーランド初の原子力発電所建設に適した地点として、バルト海に面したポモージェ県内のルビアトボ-コパリノ地区を選定していた。今回の環境影響評価の一環として、PEJ社は同県内ホチェボの地方自治体内に位置するルビアトボ-コパリノ地区のほか、クロコバとグニエビノの両自治体が管轄するジャルノビエツ地区の2地点で、原子力発電所の建設と運転が及ぼす影響等を分析。両地区はともに、2014年時点ですでに建設候補地区として名前が挙がっており、PEJ社は今回、原子力発電所の海水冷却や冷却塔の使用等の技術的サブ・オプションの比較などを含む分析を行った。同社のEIA最終報告書は、GDOSが2016年に定めた要項に沿って、これらの候補地区や技術面のサブ・オプションを評価しているほか、発電所に付随するインフラも検討対象にしている。作成にあたっては、米国とポーランドが2020年10月に締結した政府間協力協定に基づき、米国の環境事業会社であるジェイコブス社が技術アドバイザーを務めた。なおPEJ社によると、同報告書の内容は環境保全や住民参加に関係する法律が定めた原則に則り、いずれ開示されるとしている。(参照資料:PEJ社(ポーランド語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月31日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 05 Apr 2022
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米ニュースケール社、ポーランドでのSMR建設で銅の採掘会社と契約
米国のニュースケール・パワー社とポーランド鉱業大手のKGHMポーランド銅採掘(KGHM)会社は2月14日、ニュースケール社製の先進的小型モジュール炉(SMR)「NPM」を複数設置する発電所「VOYGR」をポーランド国内で建設するため、先行作業契約を締結したと発表した。早ければ2029年にもVOYGRを完成させる計画で、これに向けた最初のタスクとして、両社はSMRの建設候補点をポーランド国内で評価・特定するほか、完成に至るまでの節目を設定した計画を立案、費用の見積も実施する。また、KGHM社はVOYGRの発電所を通じて、ポーランドのその他のエネルギー多消費産業に無炭素で安全なエネルギーを提供する機会を探るとしている。両社はこの計画により、ポーランドでは最大で年間800万トンのCO2排出を抑制できると指摘。また、同国初のSMRを建設することで、KGHM社はポーランドのクリーンエネルギーへの移行を主導するリーダーとなり、これはCO2の排出量削減とエネルギーの自給を目指すという同社戦略の一環でもあると強調している。ニュースケール社が開発した「NPM」はPWRタイプの一体型SMRで、電気出力が5万kW~7.7万kWのモジュールを最大12基連結することで出力の調整が可能。米国の原子力規制委員会(NRC)は2020年9月、モジュール1基の出力が5万kWの「NPM」に対し、SMRとしては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給。ニュースケール社は出力7.7万kW版のモジュールについても、SDAを2022年第4四半期に申請するとしている。「VOYGR」では出力7.7万kWのモジュールを設置すると想定されており、ニュースケール社は搭載基数毎に合計出力92.4万kWの「VOYGR-12」、46.2万kWの「VOYGR-6」、30.8万kWの「VOYGR-4」と呼称。KGHM社は差し当たり、4基のモジュールを連結して活用すると見られている。両社による今回の契約締結は、2021年9月に両社およびポーランドのコンサルティング企業の3者が締結した協力覚書に基づくもの。KGHM社はポーランド南西部にある欧州最大規模の銅鉱床や、銀などその他鉱物の鉱床で採掘事業を行っているが、この事業に必要な電力と熱エネルギーは石炭火力から得ている。3者は協力覚書の下で、SMR導入の可能性や高経年化した石炭火力発電所の別用途への活用などを検証。SMRの建設に関しては、技術面や経済面、法制面、許認可手続に関する側面などを詳細に分析していた。契約の調印は米国のワシントンD.Cで行われ、ポーランドのJ.サシン副首相兼国有財産相や米エネルギー省(DOE)のA.グリフィス原子燃料サイクル・サプライチェーン担当次官補代理らが同席した。KGHM社のM.チャドジンスキー社長は、「事業を100%脱炭素化するプロジェクトが始動することは当社の誇りだ。SMRを通じて当社はコストの効率化を図り、ポーランドのエネルギー部門をクリーンエネルギーに移行させていく」と述べた。ニュースケール社のJ.ホプキンズCEOは、「CO2排出量の削減競争で世界中の企業がしのぎを削るなか、当社の技術はこの目標の達成に完璧な解決策を提供できるし、同時に建設国には経済的繁栄をもたらすことが可能だ」と強調。KGHM社とともに先進的なクリーンエネルギー源の商業化を促進し、地球温暖化に立ち向かいたいとの抱負を述べた。(参照資料:ニュースケール社、KGHM社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 16 Feb 2022
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米WH社、ポーランドでのAP1000建設に向け同国の10企業と戦略的連携合意
米国のウェスチングハウス(WH)社は1月21日、ポーランドの原子力発電プログラムで建設が予定されている原子炉に同社製「AP1000」設計が採用されることを前提に、同国の関係企業10社と戦略的連携関係を結ぶことで合意したと発表した。同社はポーランド北部のグダニスクおよび首都ワルシャワで、これらの企業との了解覚書に調印。ポーランドのみならず、その他の中・東欧諸国でも広くAP1000を建設していけるよう、これらの企業とは長期的に協力していく方針である。ポーランドでは2020年9月に政府が「2040年までのエネルギー政策(PEP2040)」を公表しており、2043年までに2つのサイトで大型原子炉6基(合計出力600万~900万kW)の建設を計画。初号機の運転を2033年までに開始した後、2~3年ごとに残り5基を建設していき、2043年までに6基すべてを完成させるとしている。この民生用原子力発電プログラムは、ポーランド内閣が2020年10月初旬に承認している。米国政府は、このプログラムを実行に移すための方策や必要となる資金調達方法等で支援するため、同じ月にポーランドと政府間協力協定(IGA)を締結。同IGAが2021年3月初旬に発効したのを受けて、WH社は米国から同国への技術移転も含め、包括的投資構想を策定中だと発表している。WH社がポーランドの原子力パートナーに選定された場合、同国内で2,000名分以上の関係雇用が創出されるよう原子力サプライチェーンの構築に尽力するほか、質の高い原子力機器や専門的知見の提供を保証する考えである。その後、米国政府で非軍事の海外支援を担当している貿易開発庁(USTDA)が2021年6月、ポーランドの原子力発電プログラムを支援するため、ポーランド国営エネルギー・グループ(PGE)傘下の原子力事業会社PEJ社(=Polskie Elektrownie Jądrowe)に基本設計(FEED)調査用の補助金を提供すると発表。このFEED調査は、WH社とパートナー企業のベクテル社が実施することになっている。PEJ社はその半年後の2021年12月、ポーランド初の原子力発電所建設サイトとして、北部ポモージェ県内のルビアトボーコパリノ地点を選定した。WH社が今回、了解覚書を締結したのは、発電所やエネルギー関係設備の建設エンジニアリングを専門とするRafako社、KB Pomorze社、Polimex Mostostal社のほか、冶金材料や鉄鋼製の機器・構造物の製造・供給企業であるZKS Ferrum社、Mostostal Kraków社。また、産業・発電設備の総合建設や最新化および修理が専門のOMIS社、産業投資を包括的に実施しているZarmen Group、発電機器の主要製造企業であるFogo社、造船会社のGP Baltic社、および各種クレーンなど吊り上げ機器を製造しているProtea Groupである。WH社ポーランド支社のM.コバリク社長は今回の覚書締結について、「当社には、ポーランドがエネルギー関係の目標を達成できるよう支援提供するための良好な体制が整っている」と説明。具体的には、ポーランド国内で同社が行っている原子力技術関係の投資を挙げたほか、同社がポーランド南部のクラクフに設置した世界規模のサービスセンターを指摘。同センターには現在200名近い従業員が勤務しており、ポーランドが地球温暖化の防止目標を達成したり、経済成長に必要なエネルギーを確保する際、同センターが最良の技術を提供していると強調した。(参照資料:WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 25 Jan 2022
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ポーランド、最初の原子力発電所の建設サイトを選定
ポーランドでの原子力発電導入を目指し、同国の国営エネルギー・グループ(PGE)が設立した原子力事業会社のPEJ社(=Polskie Elektrownie Jądrowe、2021年6月に社名をPGE EJ1社から改名)は12月22日、同国初の原子力発電所のサイトとして、バルト海に面した北部ポモージェ県内のルビアトボ-コパリノ地区を選定したと発表した。選定に当たっては、サイト住民の安全性や周辺環境に及ぶ影響面であらゆる要件を満たす必要があったため、PEJ社は2017年以降、ポーランド全土で前例のない規模のサイト調査と環境影響評価を詳細に実施した。今回、これらの観点から最良の地区を選定したとしており、今後は政府に許可申請手続きを行いたいとしている。ポーランドでは1980年代に40万kW級のロシア型PWR(VVER)をジャルノビエツで建設する計画が進展したが、チェルノブイリ事故の発生を受けて同計画は1990年代に頓挫した。政府はその後、エネルギー源の多様化と温室効果ガスの排出量削減を図るには原子力の導入が妥当と判断、2009年に改めて原子力開発ロードマップを策定した。2つのサイトで合計600万kWの原子力発電設備建設を目指すという内容だったが、今年2月に決定した「2040年までのエネルギー政策」では、2043年までに複数のサイトで最大6基の原子炉(600万~900万kW)を稼働させるとしており、初号機については2033年までに運転を開始させる方針である。PEJ社がサイト調査や環境影響評価を開始した当初、対象地区は国内の90か所以上におよんでおり、選定に際しては地形や冷却水の確保、自然保護といったファクターを重視。サイトに通じる道路網や鉄道網、送電網など既存のインフラ設備や、これらのインフラをサイトまで延長する可能性などを考慮した。ポモージェ県内における候補地点の絞り込みでは、ルビアトボ-コパリノとジャルノビエツの2地区で調査結果の一層詳細な分析作業を行っている。PEJ社は現在、これらの分析結果を環境影響声明書(EIA)に取りまとめている。原子力発電所の建設に関するEIAの作成は同国では初めてのため、米国で環境事業を展開するジェイコブス社の東欧支部が技術アドバイザーを務めているほか、ポーランド国内の専門家グループや関係する科学センターなども協力している。PEJ社によるとEIAの内容はすでに固まっているものの、2015年にポーランドで環境影響面の立地プロセスが具体化されて以降、基盤となる関係法規が欧州連合(EU)レベルで数回にわたって変更されており、手続きを進めるには国内法制の改定が必要。PEJ社としては今回のEIAの審査に必要な関連法案の改定を待って、2022年の第1四半期にも完成したEIAを環境保全総局に提出する考えである。(参照資料:PEJ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 23 Dec 2021
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ポーランドのシントス社と石油精製企業、SMRの建設・商業化に向けJV設立
ポーランド最大の化学素材メーカー、シントス社のグループ企業であるシントス・グリーン・エナジー(SGE)社、および同国最大手の石油精製企業であるPKNオーレン社は12月7日、ポーランドでマイクロ原子炉や小型モジュール炉(SMR)の建設と商業化を進めるため、合弁事業体(JV)の設立に向けた投資契約を締結したと発表した。両社が50%ずつ出資するJVは「オーレン・シントス・グリーン・エナジー社」と呼称され、SMRの中でも特に、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社が開発した「BWRX-300」の建設に重点的に取り組む。2030年の初号機完成を目指して、年内にも反トラスト規制当局に許可申請書を提出し、正式な活動の開始に備える方針だ。このプロジェクトを通じて、オーレン・グループは2050年までに自社のCO2排出量の実質ゼロ化を達成出来るよう、製品生産の脱炭素化を加速。その際、地元のサプライチェーンを活用することでポーランドの経済成長とエネルギー供給保証につなげたいとしている。同JVで展開する具体的な活動として、両社はBWRX-300の開発を支援するともに、建設に向けた法的枠組みの整備を支援する。立地点を選定し、着工。完工後は生産したエネルギーと熱を自社用に活用するだけでなく、地元地域の需要にも対応する考えだ。ポーランドのJ.サシン副首相兼国有財産相によると、同国は欧州連合(EU)の地球温暖化防止政策に沿って、エネルギー部門を改革しなければならないが、「SMRの商業化に向けた今回の投資契約によって、両社はエネルギー部門の脱炭素化を効果的かつ安全・迅速に進めることになる」と述べた。原子力発電設備を持たないポーランドの政府は現在、国内の2サイトで合計出力600万kW以上の大型炉を建設する計画を進めており、小型炉開発に向けた企業の今回の動きについても、同相は「原子力は将来最も安定したエネルギー源になる」との見解を表明した。SMRの商業化協力で、GEH社のBWRX-300を選んだ理由として、オーレン・グループはカナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社が今月2日、ダーリントン原子力発電所で建設するSMRとして3つの候補設計の中からBWRX-300を選定したことにも言及。OPG社がBWRX-300の初号機を建設した場合、オーレン・シントスJVのSMRはその2基目となるため、同炉の開発や投資手続の準備、許認可、建設、運転等についてOPG社が積み重ねた経験を参考にすることができると強調した。同グループはまた、SMRの建設候補サイトをポーランド国内で無数に入手することが可能であり、大型の投資計画では数多くの実績を残している。最先端のエネルギー生産設備を広範囲に建設した経験もあるため、同グループはモジュール式原子炉をポーランドで商業化する企業としては理想的な立場にあると説明。これらを背景に、BWRX-300に関するシントス社との協力では、同グループがプロジェクトを一層迅速かつ円滑に実行に移すことができると述べた。一方、シントス・グループのオーナーであるM.ソウォヴォフ氏も、PKNオーレン社との過去20年にわたる協力関係に触れ、協力範囲が革新的原子力技術に広がったことを歓迎した。BWRX-300を開発したGEH社についても、親会社のGE社グループにはポーランド市場で30年もの実績があるほか、同国内の3,000社以上をカバーする巨大サプライチェーンを保有していると指摘。その上で、「これらのうち何社かはすでに他国の原子力発電所用機器を製造しており、このことはポーランドをSMR製造ハブとする機会を提供する投資計画の重要な要素だ」と強調している。(参照資料:PKN オーレン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 08 Dec 2021
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EDF、今後のEPR輸出を見据えチェコ、ポーランド、インド等の企業と協力協定締結
フランス国内の商業炉をすべて保有・運転しているフランス電力(EDF)は12月1日、傘下のフラマトム社が開発した第3世代+(プラス)のPWR設計「欧州加圧水型炉(EPR)」を欧州のみならず、世界中で建設していくため、チェコやポーランド、インドなどの複数の大手関係企業と協力協定を締結したと発表した。協定への調印は、民間原子力コミュニティ最大のマーケットプレイスである「世界原子力展示会(WNE)」が11月30日 から12月2日まで、フランスのパリで開催されたのに合わせて行われた。EDFとしては低炭素な社会を将来、世界レベルで実現する上で原子力は欠かせないと考えており、地球温暖化の防止に資する今後数10年間の重要施策として、原子力の必要性を強力に提唱。また、長期的な連携協力を通じて原子力の恩恵や社会経済的価値を提供するため、フランスおよび国外での原子力発電所開発計画を支援している。実際にEDFは、原子力発電所の設計エンジニアリングから建設、運転、保守点検、人材育成と能力開発、廃止措置、放射性廃棄物の管理に至るまで、原子力関係の専門的知見を保有。このため、発電所の全期間で必要となる関連サービスやノウハウ、およびフランスの様々な原子炉技術の販売促進活動を展開している。これらを背景にEDFは世界中のEPR建設を成功に導きたいとしており、今回の協力協定はその建設プロジェクトに、相手国のサプライチェーンや産業界の実質的な参画を保証する意味を持つものである。まず、チェコとの協力では、EDFはドコバニ原子力発電所5、6号機増設計画の受注を念頭に、同国の産業界との連携を強化。同国のエンジニアリング関係企業で構成されるチェコ・エネルギー産業連合(CPIA)の立ち合いの下、スコダ社や国立原子力機関(UJV Rez)と協定を締結したほか、その他のエンジニアリング企業や関連機器製造企業のBAEST社、I&C Energo社、 Hutní montáže社、 MICo社、MSA社 、REKO Praha社、 SIGMA社とも協力協定を結んだ。ポーランドについては、EDFは今年10月、原子力発電の導入を計画している同国政府に対し、2~3サイトで4~6基(660万~990万kW)のEPR建設を提案している。これに基づき今回は、同国の主要エンジニアリング企業であるDominion Polska社やEgis Poland社、Energomontaż-Północ Gdynia社、発電関係のEPC(設計・調達・建設)契約企業のRafako社、Zarmen社と協定を締結している。インドとの協力に関しては、EDFは今年4月、南西部のジャイタプールでEPRを6基建設するプロジェクトについて、法的拘束力のある技術・商業面の契約条件提案書をインド原子力発電公社(NPCIL)に提出した。インド政府が世界の研究開発・製造ハブとなることを目指して掲げている国家産業政策「メイク・イン・インディア」に沿って、EDFはこれまでも数多くの地元サプライヤーと連携協力してきた。今回は確固たるインドの国産化戦略の一環として、インドの大手複合企業体であるラーソン&トゥブロ(L&T)社と2017年から続いている協力関係を延長した。EDFはこのほか、フランスの大手ゼネコンであるブイグ公共土木事業(Bouygues Travaux Publics)社とも協力を強化するための枠組み契約を締結している。チェコやポーランド、あるいはサウジアラビアでのEPR建設が実現した場合、両社はこの契約に基づいて世界レベルの協力活動を展開する。なお、ブイグ社は同じ世界原子力展示会の場で、サウジアラビアの土木建設企業であるNesma & Partners社と了解覚書を締結。EDFがサウジアラビア初の原子力発電所を建設することになれば、Nesma & Partners社とともにすべての土木建築作業に参加することになる。(参照資料:EDFの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 07 Dec 2021
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仏電力、ポーランドに4~6基のEPR建設を提案
フランス全土の原子力発電所をすべて保有するフランス電力(EDF)は10月13日、原子力発電の導入を計画しているポーランド政府に対し、2~3サイトで4~6基(660万~990万kW)のフラマトム社製・欧州加圧水型炉(EPR)を建設することを提案した。この提案は予備的なもので、EDFは建設計画の見積もりコストとスケジュール、発電所内の配置やポーランド国内におけるサプライチェーンの構築に至るまで、計画の主要パラメーターをEPC(設計・調達・建設)契約の締結に向けた幅広いオプションとしてポーランド側に提示。この規模の計画であれば、ポーランドは電力需要の40%までを少なくとも60年間満たせるほか、同国のエネルギー自給にも貢献する。ポーランド経済に対しては、数え切れないほど多くの恩恵がもたらされると強調している。EDFによると今回の提案は、ポーランド政府が2020年10月に策定した原子力開発計画(PPEJ)の主要目的の達成を意識した内容である。欧州連合(EU)が掲げた「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化する」目標に合わせ、ポーランド政府の意欲的なエネルギー移行計画を下支えできるよう、EDFはこの提案で両国の戦略的パートナーシップにおける原則を設定。EPRという安全かつ信頼性と効率性に優れた無炭素電源により、年間に最大5,500万トンのCO2が排出されるのを回避し、実質ゼロ化に向けた道筋を付けるのに役立つと明言している。ポーランドにおける大型炉の建設計画には、フランスのほかに米国もウェスチングハウス(WH)社とともに参加を働きかけている。また、これに加えてポーランドでは複数の小型モジュール炉(SMR)の建設も検討されており、GE日立・ニュクリアエナジー社やニュースケール社のSMRが候補に挙がっている。 「フランス2030」で原子力分野の革新的技術開発を促進EDFの今回の発表は、E.マクロン大統領が新たな産業投資政策として「フランス2030」を公表した翌日に行われた。同大統領はこの政策の第一番目の目標として、2030年までに10億ユーロ(約1,324億円)を投じて、SMRや先進的原子炉の技術を実証、放射性廃棄物のより良い管理で世界市場への参入を目指すと表明した。また、少なくとも2つの大規模電解槽を建設してグリーンな水素を大量生産するほか、この年までにCO2排出量を2015年比で35%削減して産業全体の脱炭素化を図るとしており、これら3つの目標だけで80億ユーロ(約1兆590億円)以上を投資する。さらに、200万台の電気自動車とハイブリッド自動車を生産し、低炭素航空機の初号機を開発。これらの輸送部門には、約40億ユーロ(約5,295億円)を投じる方針である。同大統領の演説動画を英訳したメディア報道によると、大統領は原子力について「フランスの基幹製造技術であるため、その再編成を政策目標の第一番目に位置付けた」と説明。「今後も必要な技術であり、継続的に開発していくことは非常に重要だ」と述べた。同大統領はさらに、政策目標の二番目に挙げた水素製造と原子力部門は近い関係にあると指摘。国内の商業炉56基が発電したクリーン電力で水素を製造することは、フランスが世界の水素製造部門でリーダーになる可能性を意味すると強調している。(参照資料:EDFの発表資料、仏大統領府の発表資料(仏語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月13、14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 18 Oct 2021
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ポーランドでのSMR建設に向け4社が覚書
米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は9月23日、同社製小型モジュール炉(SMR)、「BWRX-300」のポーランドでのシリーズ建設に備え、同炉に必要なウラン燃料のサプライチェーンをカナダで構築する可能性評価を実施すると発表した。具体的にGEH社は、カナダの大手ウラン生産企業であるカメコ社、カナダでBWRX-300の建設を推進している子会社「GEH SMRテクノロジーズ・カナダ社」、およびポーランド最大の化学素材メーカーであるシントス社のグループ企業「シントス・グリーン・エナジー(SGE)」の4社で協力覚書を締結。米GE社が日立製作所との合弁で運営している原子燃料製造企業、グローバル・ニュークリア・フュエル(GNF)社が開発した高性能燃料集合体「GNF2」を活用するなどして、低リスク・低コストのBWRX-300を最速でSMR市場に投入する考えだ。出力30万kWの水冷却型自然循環SMRであるBWRX-300の設計は、2014年に米原子力規制委員会(NRC)の設計認証を受けたGEH社の第3世代+(プラス)設計「ESBWR(革新型単純化BWR)」がベース。受動的安全システムを備えており、GEH社によれば設計を飛躍的に簡素化したことで、BWRX-300のMW当たりの建設コストは、その他の水冷却型SMRや既存の大型炉設計と比較して大幅に削減される。また、同炉にはESBWRの設計認証における基礎的部分を利用、技術的に実証済みの機器も組み込んだという。GEH社はすでに2019年10月、ポーランドでBWRX-300を建設する可能性を探るため、シントス社グループのSGE社と協力覚書を締結。翌2020年8月には、この建設計画の実施に向けて戦略的パートナーシップ協定を結んだ。GEH社はまた、BWRX-300の商業化を促進しカナダやその他の国で同設計を建設していくため、カメコ社およびGNF社の米国法人と今年7月に協力覚書を交わしている。一方のシントス社は今年8月、BWRX-300あるいは他の米国製SMRをポーランド国内で4基~6基(出力が各30万kW程度)建設するため、国内のエネルギー企業であるZE PAK社と共同で投資を行うと発表。建設予定地としては、ZE PAK社がポーランド中央部のポントヌフで操業する石炭火力発電所を挙げた。また、グループ企業のSGE社は2020年10月、BWRX-300技術を用いたプラントの建設・運営プロジェクトについて、ポーランドの原子力規制機関と協議を開始している。今回の協力覚書に関してGEH社は、「カメコ社やSGE社と協力してポーランドに無炭素なエネルギー源をもたらす一方、カナダではウラン供給関連の雇用を創出したい」と述べた。カメコ社側は、「世界中の国家や企業がCO2排出量の実質ゼロ化を達成する際、原子力は重要な役割を果たす」と指摘。その上で、「SGE社がSMRで模索している脱炭素化事業に、BWRX-300は革新的な技術で解決策をもたらす優れた実例になる」と強調した。SGE社も今回の覚書に加えて、「カナダで構築されつつあるBWRX-300の製造・輸出能力を補うべく、ポーランド国内でもサプライチェーン構築に向けてGEH社と一層緊密に連携していく」と表明している。(参照資料:GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 27 Sep 2021
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米ニュースケール社、SMRの建設でポーランドの銅採掘企業らと覚書
米国のニュースケール・パワー社は9月23日、同社製小型モジュール炉(SMR)をポーランドで建設し商業化への道を模索するため、同国鉱業大手のKGHMポーランド銅採掘(KGHM)会社、およびコンサルティング企業のPielaビジネス・エンジニアリング(PBE)社と協力覚書を締結した。KGHM社はポーランド南西部にある欧州最大規模の銅鉱床で採掘を行っているほか、モリブデンやパラジウム、ニッケルなどの金属も生産している。これらの事業に必要な電力や熱エネルギーは石炭火力発電所から得ているが、2030年末までに必要なエネルギーの約半分を自社製で賄う方針。これには、再生可能エネルギー源やSMRが生産するクリーンエネルギーが含まれる。太陽光や海上風力による発電システムの設置プロジェクトはすでに進行中で、今回はこのエネルギーミックスにSMRを加えることになったもの。もう一方のPBE社は、主にポーランドのエネルギー部門や化学部門の企業に対して、運営・戦略や規制、エンジニアリング関係の助言を提供している。政府が進める地球温暖化対応やエネルギーの移行計画にも関与しており、政府機関や金融機関、規制当局などに関連するサービスを提供中。2009年以降は、ポーランドの原子力発電導入プログラムにも同社の専門家が携わっている。ニュースケール社の発表によると、KGHM社とPBE社は今回の覚書でニュースケール社の支援を受け、同社製SMRの導入計画および高経年化した既存の石炭火力発電所を別用途に活用できるか検証する。具体的には、SMR建設計画の技術面や経済面に加えて、法制面、規制面、財政面などを詳細に分析するとしている。ニュースケール社が開発したSMRはPWRタイプの一体型SMR「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」で、電気出力5万kW~7.7万kWのモジュールを最大12基まで連結して出力規模を決められる。米国の原子力規制委員会(NRC)は2020年9月にモジュール1基あたりの出力が5万kWのNPMに対し、SMRとしては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給。同社は出力7.7万kW版モジュールの「NuScale NPM-20」についても、SDAを2022年第4四半期に申請する予定である。KGHM社がポーランドで建設するSMRは「NuScale NPM-20」と見られており、同社は差し当たりモジュールを4基連結する計画。オプションで12基連結した場合の出力は、100万kW近くに拡大する。同社のM.クルジンスキー社長は、「地球温暖化を食い止めるには断固たる行動が必要だ」と指摘。その上で、「2030年までにSMRを建設するという計画は、エネルギー移行計画の一部であるとともに当社の堅い決意でもある。当社は早ければ2029年にも最初のSMRの運転を開始して、ポーランドにおけるSMR建設のパイオニアになる方針だ」と述べた。同社長によると、SMRは同社が環境に配慮して事業を行う一助となるだけでなく、事業運営費を大幅に削減できる。同社はポーランドがグリーンなエネルギーに移行できるよう、SMRでエネルギーを商業的に生産し、一般家庭の電気代の削減にも貢献する。PBE社の創設者であるP.ピエラ氏は、「ポーランドおよび化石燃料に依存するその他のEU諸国がエネルギーの移行を進める上で、モジュール式のエネルギー源はとりわけ重要な役割を担う」と指摘。「汎欧州グリーン・ディールを成功させる上でも、共通の利益を生む重要なエネルギー技術だ」と強調した。なお、ニュースケール社は同じ日、米オクラホマ州を本拠地とする石油・天然ガスの供給企業Getkaグループ、およびポーランドで電力やガスなど複数のエネルギーを供給するUNIMOT社とも、同様にポーランドでの同社製SMRの建設に向けてこれら3社が協力するための覚書を締結している。(参照資料:ニュースケール社、KGHM社(ポーランド語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 24 Sep 2021
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ポーランドの化学素材メーカー、他企業と合弁でSMR建設に投資
シントス社のソウォヴォフ氏©M.Solowowポーランドの大手化学素材メーカーのシントス社(Synthos SA)は8月31日、国内のエネルギー企業ZE PAK社と共同で、米国で開発された最も近代的で安全な小型モジュール炉(SMR)をポーランド国内で建設する計画に投資を行うと発表した。この共同プロジェクトのために、両社は今後合弁事業を立ち上げて原子力関係の活動を実施。ZE PAK社がポーランド中央部のポントヌフで操業する石炭火力発電所に、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製のSMR「BWRX-300」、あるいは他の有望な米国製SMRを4基~6基(出力各30万kW程度)建設する方針である。シントス社はすでに2019年10月、ポーランドに「BWRX-300」を導入する可能性を探るため、GEH社と協力覚書を結んでいる。一方のZE PAK社は昨年、2030年までに石炭火力発電から撤退する方針を表明したが、これはパリ協定で設定された脱炭素化目標の達成に向け、ポーランドにおける最も意欲的で明確な対応策を示したもの。同社とシントス社が共同でSMRに投資し、ポーランドが「汚れたエネルギーからクリーンなエネルギー」に転換するのを支援していきたいとしている。シントス社とZE PAK社はそれぞれ、M.ソウォヴォフ氏とS.ソロルツ氏が所有する企業。両者はともに、ポーランドで最も富裕な実業家と言われている。シントス社のソウォヴォフ氏は今回、「脱炭素化を大規模に進めるには地球環境に配慮するだけでなく、経済的な要件を満たしつつコスト面の効率化を図ることが求められており、その解決策が原子力であることは明白だ」と強調。同氏によると、「欧州の工場」と言われるポーランドではCO2を排出しない安定したエネルギー供給源が必要で、「これまで通りの速いペースで一層豊かな社会の構築を目指し、さらなる外国投資を呼び込むには、価格の魅力的なエネルギーを活用しなくてはならない」としている。ZE PAK社のソロルツ氏も、「社会や国家の発展には安価でクリーンなエネルギーが欠かせないが、原子力はクリーンなだけでなく環境にも優しい」と指摘。同社はポーランドで最初の石炭火力発電所を運転してきたものの、現時点では石炭火力からの撤退する途中であるとした。その上で、「原子力や再生可能エネルギーは当社が投資する最も重要なエネルギー源であり、原子力への投資はポーランドの事業所や一般世帯にクリーンで安価なエネルギーを提供するとてつもなく大きな好機になる」との認識を示した。SMRを建設予定のポントヌフは、ポーランド政府が進める原子力発電プログラムにおいても発電所立地候補地点の一つだが、ZE PAK社の幹部は「SMRの建設計画は政府の進める大型原子力発電所の建設計画と競合するものではなく、むしろこれを補完する位置づけだ」と説明。原子力は化石燃料による発電から徐々に取って替わっていき、近い将来は石炭火力の閉鎖と電力需要の増加にともなう国内電力システムの容量不足を補うとしている。なお、シントス社のキャピタル・グループに所属するシントス・グリーン・エナジー(SGE)社は昨年11月、米国のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が開発したSMR「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」を使って、ポーランドにエネルギー供給システムを構築すると発表。実行可能性調査の実施を含む協力協定をUSNC社と結んでいる。(参照資料:シントス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 02 Sep 2021
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米貿易開発庁、ポーランドの原子力導入計画を支援
米国政府で非軍事の海外援助を担当する貿易開発庁(USTDA)は6月30日、ポーランドの民生用原子力発電導入計画を支援するため、同国の国営原子力発電会社(PEJ)に基本設計(FEED)調査用の補助金を提供すると発表した。具体的な金額は公表していないが、ポーランドが計画する「2043年までに2サイトで6基(合計出力600万kW以上)の原子炉を建設」を実現するため、この補助金で米国籍のウェスチングハウス(WH)社とパートナー企業のベクテル社がFEED調査を実施する。その結果から、最も先進的かつ競争力のある原子炉技術をポーランド政府に提案し、その意思決定を支援することになる。この協力は、両国が2020年10月に締結した「(ポーランドの)民生用原子力発電プログラムに関する政府間協力協定(IGA)」に基づいている。同協定が今年2月に発効したことから、米国はポーランドが石炭火力から脱却し、長期的なエネルギー供給が可能になるよう協力。USTDAはポーランドが必要とする民生用原子力発電の需要を、米国の技術で対応したいと述べた。米国の政府全体がポーランドのプログラムを幅広く支持していることを示すため、今回の補助金の調達には国務省(DOS)のヨーロッパ・ユーラシア局とエネルギー省(DOE)が関与。この補助金に加えて、WH社とベクテル社も調査の完了に必要な追加資金を提供することになる。WH社の同日付発表によると、FEED調査はポーランドの計画を前進させる重要な一歩であり、両国のIGAを実行に移す主要要素でもある。PEJ社はポーランドの原子力発電所の建設と運転を担当する予定で、国立裁判所に登録されていた企業名が今年6月、これまでの「PGE EJ1社」から変更されたばかり。WH社は同社に対し、最初の原子力発電所のレイアウトプランや許認可手続の実施管理、開発スケジュール、起動までに要する経費の見積額等を提示。ポーランド政府はこれらの情報を審査した上で、原子力発電プログラムにおける最良のパートナーを決定する考えだ。今回の決定についてPEJ社は、「グローバルに活躍する米国の主要な原子力企業が、我が国の重要な調査の実施と資金負担を約束してくれたことは有り難い」と表明。ポーランドのプログラムを前進させる新たな推進力が得られるよう、作業を前倒しで進めたいと述べた。一方、米国のDOEは、「ポーランドのプログラムが同国の国家経済や安全保障に資することを理解した上で、これを成功に導いていく」と表明。「この建設計画は両国の戦略的連携関係を強化するとともに、ポーランドが原子力で信頼性の高いクリーンで安全なエネルギーを得るという目標を達成する一助になる。また、米国政府は世界中の民生用原子力産業と協働し、国内の原子炉ベンダーをサポートする方針。地球温暖化の防止に向けたポーランドと米国の共同取組を後押しすることにもなる」と述べた。(参照資料:USTDA、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 07 Jul 2021
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ポーランド政府と国立原研のHTGR開発、基本設計の開発段階に
ポーランドの気候・環境省は5月12日、国立原子力研究センター(NCBJ)と政府が実施している高温ガス炉(HTGR)の研究開発を次の段階に進めるため、教育・科学省とNCBJが確認書に調印したと発表した。ポーランド政府は2020年代後半までに、首都ワルシャワの東南30kmのシフィエルクに位置するNCBJで、熱出力1万kWの研究用HTGRを建設することを計画。この計画に基づいて、2030年頃には熱出力16.5万kWの商業用HTGR初号機を国内で完成させる方針である。今回の確認書では、出力3万kWの高中性子束チャンネルプール型研究炉「マリア」を擁するNCBJが、HTGR研究炉の初期段階の基本設計を開発するとともに、立地点としての建設条件を3年以内に整えることになる。ポーランドは大型の商業用原子炉の建設計画と並行して、主に化学産業への熱供給用にHTGRの導入計画を日本原子力研究開発機構などと協力して進めている。その実行可能性を探るために政府が設置した諮問委員会は2016年10月、「HTGRによる熱電のコジェネレーションは商業的に有望」との見解を表明。翌2017年9月に政府はこの報告書を受理しており、同じ月に欧州原子力共同体(ユーラトム)がHTGRの産業利用の実行可能性を実証するために開始した「GEMINI+」プロジェクトでは、NCBJが調整役を担っている。2019年1月になると、ポーランドのエネルギー省はHTGRの研究開発プロジェクト「Gospostrateg」の実施と資金調達を支援するため、NCBJと契約を締結。翌月から2022年1月末までの3年間、ポーランドでのHTGR建設にともなう法制面や組織面、および経済面の包括的な分析調査を実施することになった。今回の確認書は同プロジェクトの一部となるもので、調印式には気候・環境省のM.クルティカ大臣と教育・科学省のP.チャルネク大臣、およびNCBJのK.クレク・センター長が参加した(=写真)。クレク・センター長はこの確認書に基づく最初の段階として、センター内に研究設備を設置すると表明。それらを使ってHTGRで使用する材料を試験すると述べた。また、建設許可を申請する前に、技術分析やシミュレーション、安全分析を実施する計画を明らかにしている。チャルネク教育・科学相は、「マリア炉を開発したポーランドの科学者やエンジニアが再び、その能力を発揮する機会が訪れた」として確認書の締結を歓迎。クルティカ気候・環境相も、「HTGRはポーランド経済の中で高温熱を幅広く活用する最初の一歩になる」と述べた。また、「気候・環境省は温室効果ガスの排出量削減に貢献する構想ならすべて支援していくが、原子力は環境を損なわずに近代的な経済活動や産業すべてを支える重要ツールになる」と強調している。(参照資料:ポーランド政府(ポーランド語)の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 14 May 2021
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米WH社、ポーランド民生用原子力プログラムへの投資を計画
米ウェスチングハウス(WH)社は3月15日、ポーランドが進めている民生用原子力発電(導入)プログラムへの協力で、米国から技術移転することや米国企業による包括的投資構想の策定などを計画していることを明らかにした。これらは、今月初旬にポーランドの原子力発電プログラムの実施に向けた両国の政府間協力協定(IGA)が発効したのを受け、同社のP.フラグマンCEOがポーランドの首都ワルシャワで、P.ナイムスキ戦略エネルギー・インフラ特任長官と協議した後、発表された。WH社がポーランドの原子力パートナーとして選定された場合、同社はポーランド国内で2,000名以上の関係雇用が創出されるよう原子力サプライチェーンの構築に尽力し、質の高い原子炉機器や専門的知見の提供を保証するとしている。ポーランドでは、2月初旬に内閣が燃料・エネルギー部門における2040年までの重要政策「PEP2040」を正式承認した。この中の「改定版・原子力発電プログラム」は同国の戦略的プロジェクトの1つと位置付けられており、国内で閉鎖された石炭火力発電所の代わりとして、2043年までに第3世代あるいは第3世代+(プラス)のPWRを合計6基(600万~900万kW)建設すると明記。2033年に初号機が運転開始した後は、2~3年毎に後続の5基を起動していく計画である。この分野における米国とポーランドの協力については2020年10月、米エネルギー省(DOE)のD.ブルイエット長官(当時)がIGAに署名している。その後、ナイムスキ特命長官による署名も含め、ポーランド側の手続が完了したことからIGAが発効。双方が発効要件すべてを満たしたことが、両国の外交文書で確認されている。30年間有効な同IGAに基づいて、両国は今後ポーランドの原子力発電プログラムを実行に移すための方策や資金の調達方法について18か月にわたって協議し、報告書を作成する。この報告書は、ポーランドの原子力発電所建設パートナーとして米国が長期的に同プログラムに関与し、原子力発電所の国内建設でポーランド政府が最終決断を下す際の基盤となる予定である。今回の発表の中でWH社のフラグマンCEOは、「CO2の排出量や大気汚染、信頼性の高いエネルギーに対する需要の高まりといった課題に取り組むポーランド政府の姿勢や統率力を当社は高く評価している」と表明。その上で、「当社には原子力の技術革新で長年にわたる成功の伝統があり、ポーランドにおける今後のエネルギー供給保証や雇用の創出といった課題への取り組みに連携協力していく体制は整っている」と強調した。WH社によると、同社が開発した「AP1000」設計は高い安全性と操作性を原子力市場に提供。同設計を採用して中国で稼働中の発電所は今後も、卓越した設備利用率や燃料交換のための停止期間短縮などで、業界記録を容易に達成するとしている。(参照資料:WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 17 Mar 2021
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ポーランド内閣、2040年までの新しいエネルギー政策を承認
ポーランド政府は2月2日、気候・環境大臣が提出していた燃料・エネルギー部門における2040年までの重要政策「PEP2040」を、内閣が正式に承認したと発表した。国内エネルギー・ミックスにおける石炭火力シェアの大幅な削減を目標としたもので、原子力については出力100万~160万kWの初号機を2033年に運転開始すると明記されている。「PEP2040」の概要はすでに2020年9月、気候・環境省のM.クルティカ大臣が公の場で公表。この政策に関して実施したパブリックコメント募集や関係閣僚との協議も同年末までに完了し、内閣の開発政策調整委員会等からは肯定的な評価が得られていた。新たな政策や戦略の承認は2009年に前回のエネルギー政策を策定して以来のことであり、ポーランド国内でCO2排出量ゼロに向けてエネルギー改革を進める際の枠組となる。政策の主な柱は①クリーン・エネルギーへの移行、②CO2排出量ゼロのエネルギー供給システム確立、③大気汚染の改善。これらによって、ポーランド経済全体の近代化が円滑に進み、エネルギーの供給保証が強化されるとしている。「PEP2040」はまた、パリ協定が定めた目標の達成に貢献するとしており、ポーランドのクリーン・エネルギーへの移行を公平かつ一致団結した方法で進める一助となる。さらに、地球温暖化防止を目指した欧州連合の2050年までの工程表「欧州グリーンディール」を、ポーランド経済に適応させることにも配慮したものになっている。「PEP2040」」を通じて、ポーランドは2040年時点で国内発電設備の半分以上を無炭素電源にする予定だが、このプロセスの中で洋上風力発電と原子力発電の導入は重要な役割を担う。これら2つはポーランドがこれから構築する新しい戦略的産業であり、これらに特化した人的資源の開発や新規の雇用、付加価値の付いた国家経済が構築されるとポーランド政府は強調している。「PEP2040」における原子力発電実施プログラム「PEP2040」で戦略的プロジェクトの1つとされた原子力発電プログラムでは、2043年までに合計6基の原子炉を建設すると明記。2033年に100万kW以上の初号機が運転開始した後、2~3年毎に残り5基の運転を開始させるが、2043年という期限は、電力需要の増加にともない電力不足に陥ることを想定して設定した。「PEP2040」によれば、原子力発電は大気を汚さずに安定的にエネルギーを供給するだけでなく、エネルギーの生産構造を合理的なコストで多様化することが可能である。また、近年使われている第3世代および第3世代+(プラス)の原子炉技術は、原子力安全分野の厳しい国際基準と相まって、原子力発電所で高い水準の安全性を確保。ポーランドが進める原子力発電プログラムでは、その多くに国内企業が参加することになるとした。実際に同プログラムを進めるにあたり、関係する法の改正や資金調達モデルの確立も事前に必要になるが、ポーランド政府は原子力発電所建設サイトの選定、低・中レベル放射性廃棄物処分場の操業なども実行に移す。また、採用技術や建設工事の総合請負業者を選定するほか、発電所の建設と運転、監督等で必要な人材の育成も行う方針である。「PEP2040」ではさらに、大型軽水炉の建設とは別に高温ガス炉(HTR)を将来的に導入する可能性を明記。HTRは主に、産業用の熱供給源として使用するとしている。(参照資料:ポーランド政府の発表資料(ポーランド語)①、②、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 03 Feb 2021
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ポーランドの化学素材メーカー、米USNC社製SMRの建設に向け実行可能性評価
ポーランドのシントス・グリーン・エナジー(SGE)社は11月4日、米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が開発した小型モジュール炉(SMR)「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」のエネルギー供給システムをポーランドで建設するため、実行可能性評価の実施を含む協力合意協定をUSNC社と結んだと発表した。SGE社は化学素材メーカーであるシントス社のキャピタル・グループに所属しており、その戦略に沿ってCO2を排出しないエネルギー・ソリューションを欧州で積極的に模索している。このため、MMRエネルギー・システムがCO2を出さずに供給する水素や熱・電力を、シントス社が本拠地であるポーランド、およびチェコ、オランダ、仏国で操業する化学素材製造プラントで活用する。また、欧州産業界の様々な製造企業に対しても、同システムの幅広い商業利用を勧めていく考えである。USNC社ではこのような熱電併給と水素生産の能力を持つMMRエネルギー・システムを構築するため、現在、韓国の現代エンジニアリング社を含む世界中の複数の大手企業と連携協力中。SGE社の具体的な計画では、石炭や天然ガスを使う既存の化学素材プラントを、MMRエネルギー・システムを採用したプラントでリプレースすることになる。USNC社とSGE社はまた、同システムの水素生産技術に付随する付加価値の範囲内で、CO2を出さずに産業規模で水素を生産できるような、経済効率の高い熱電併給方法の開発プロジェクトを進めている。これについてはすでに、欧州委員会(EC)が主導する産業メカニズム「欧州共通利益重要プロジェクト(Important Projects of Common European Interest: IPCEI)」から財政支援が受けられるよう、両社が共同でポーランド開発省に申請書を提出済みとなっている。シントス社キャピタル・グループのオーナーであるM.ソウォヴォフ氏は「我々が保有する複数の製造施設で、最終的に脱炭素化を実現し競争力も強化されるよう、短期間で建設可能な有力な技術を選定するつもりだ」と明言。その上で、「MMRは非常に洗練された安全な技術であり、他に例を見ないほど我々のニーズに合っている」と述べ、同技術はシントス社の脱炭素化戦略実現と競争力強化に役立つとの見解を示した。同氏はまた、「ポーランド産業界全体の脱炭素化に向けて、MMR技術は様々な解決策の一部となることを確信する」としている。USNC社のMMRは熱出力1.5万kW、電気出力0.5万kWという第4世代の小型モジュール式高温ガス炉で、燃料にはシリコン・カーバイドで層状に被覆されたウラン粒子を用いる。同社によれば、いかなる事故シナリオにおいても、MMRでは特段人の手が加わらなくてもすべての熱が安全に環境に出され、メルトダウンが発生するリスクもない。2019年3月にカナダのプロジェクト開発企業のグローバル・ファースト・エナジー(GFP)社は、パートナー企業であるUSNC社のMMR実証炉をカナダ原子力研究所(CNL)のチョークリバー・サイトで建設するため、SMRとしては初めて「サイト準備許可(LTPS)」をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請した。このプロジェクトでは、チョークリバー・サイトを擁するオンタリオ州の州営電気事業者オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社が実証炉の建設や運転で協力する予定。CNSCは2019年7月から、このプロジェクトの環境アセスメント(EA)プロセスを開始している。(参照資料:シントス社、USNC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 05 Nov 2020
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