キーワード:小型モジュール炉(SMR)
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ノルウェーのエネルギー企業 SMR建設に向けた手続きを開始
ノルウェーの新興エネルギー企業であるノルスク・シャーナクラフト社(Norsk Kjernekraft AS)は11月2日、国内で複数の小型モジュール炉(SMR)を備えた発電所の建設を石油・エネルギー省(OED)に提案した。最初の正式手続きとして、立地候補地の一つで調査プログラムを申請したもので、商業炉を持たないノルウェーでOEDがこのプログラムを承認すれば、同社は環境面や技術面、経済面、および安全面の影響評価を開始することができる。今回の調査プログラムは、同国西部ノルウェー海側のアウレ(Aure)自治体とハイム(Heim)自治体の境界に位置する共同工業地帯でのSMR建設に向けたもの。今年4月に、同社がこれらの両自治体、および北極圏のナルビク(Narvik)自治体と同プログラムの実施協定を締結したのにともなう措置で、6月には同社は、バレンツ海に面したヴァ―ドー(Vardø)自治体とも同様の協定を締結している。これら地区の適切なエリアでSMRを建設すれば、地区内のCO2排出量が削減されるだけでなくグリーン産業が新たに根付くと同社は指摘した。また、複数のSMRを備えた発電所により同社は年間約125億kWhを発電し、ノルウェーの総発電量は約8%増加すると予測。ノルウェーのクリーン・エネルギーへの移行にも大きく貢献すると強調している。ノルスク・シャーナクラフト社は、2022年7月に同国の民間投資会社のMベスト・グループが設立した企業。核物理学や核化学、石油産業等についての専門社員で構成されおり、ノルウェー国民や産業界がクリーンで価格も手ごろなエネルギーを確実に得られるようにすることを企業戦略としている。現段階では電力多消費産業との協力によりSMRの立地サイトを選定中で、その後は国の原子力規制や国際的な基準に則り許認可手続き等の実施準備を進めていく。同社はすでに今年3月、英国のロールス・ロイスSMR社と了解覚書を締結しており、将来的に同社製SMRの建設プロジェクトを立ち上げる可能性について協力することになった。ノルスク社はこの建設計画について透明性を持って進めると明言しており、許認可手続き等には地元住民を交える方針。環境等の影響評価でSMR発電所の影響が許容範囲内と判明すれば、ノルウェーの法規に則って許認可手続きを開始するが、同社は建設の最終投資判断を下す前には、それ以外にも様々な重要手続きを踏まねばならないと説明している。同社のJ.ヘストハンマルCEOは、「どれだけ迅速に許認可手続きを進められるかにもよるが、アウレとハイムでは自治体も住民も受入れを表明しており、当社は今後10年以内にSMR発電所の運転が可能だ」と指摘。「ノルウェーでは現在エネルギー消費量の約半分を化石燃料に依存しているが、メンテナンスを適切に行なえば100年利用できるという原子力発電所によって、電化が大幅に進むだけでなくCO2の排出量も抑えられる」と強調している。(参照資料:ノルウェー・シャーナクラフト社の発表資料(ノルウェー語)①、②、③、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 07 Nov 2023
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NEAのSMR等の廃棄物管理戦略策定に米EPRIが協力
OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)は10月26日、小型モジュール炉(SMR)や先進的原子炉が排出する放射性廃棄物の管理戦略を統合するため、新たに開始する共同プロジェクト「Joint Project on Waste Integration for Small and Advanced Reactor Designs (WISARD)」で、米国電力研究所(EPRI)と協力することを発表した。NEAのW.マグウッド事務局長とEPRIのN.ウィルムシャースト上席副理事長が合意したのにともない、EPRIは「WISARD」への最初の資金拠出者になると同時に、SMRや先進的原子炉の持続的な活用に関するNEAの継続的な取り組みも支援。同プロジェクトでは、原子力発電のライフサイクルにおけるすべての分野から専門家を集め、SMRや先進的原子炉などの革新的な発電システムが、同じく革新的な廃棄物管理ソリューションをどのような形で必要とするかを検討していく。NEAは今年から2024年にかけて、同プロジェクトのカバー範囲を決定した後、2024年第3四半期にもプロジェクトを正式に始動。2027年まで3年間継続する計画だ。NEAの説明によると「WISARD」は、持続可能な原子力発電システムになり得るSMRと先進的原子炉、およびそれらで使用する革新的な原子燃料への、世界的な関心の高まりから発足したプロジェクト。「WISARD」の作業プログラムでは具体的に、原子炉の設計や燃料製造等のフロントエンドがバックエンド戦略に及ぼす影響などを探る。原子炉開発の初期段階から持続可能な廃棄物管理戦略を統合するというもので、SMR等の使用済み燃料や放射性廃棄物に特有の特性に焦点を当てて、前例のない国際的な知識基盤を構築する。その後は同基盤の知見に基づき、次世代の使用済み燃料や放射性廃棄物に対する現在の管理ソリューションの適合性を評価する方針で、 これらの廃棄物に関し、①長期的な処分、②輸送、③処理とリサイクルおよび再処理、④中間貯蔵――の主要トピックに焦点を当てていく。原子炉の設計等がバックエンドに与える影響を評価することにより、将来的な課題を早期に特定し、原子炉ベンダーや発電事業者、政府機関に、不要なコストをかけずに効率的かつ持続可能な方法で解決策を提供できるとNEAは説明。EPRIは科学者やエンジニア、政府、学術界との協力により、原子炉の設計から閉鎖に至るまで技術革新を推進してきたことから、その広範な経験が「WISARD」に活かされると考えられている。EPRI はまた、エネルギー部門の広範なニーズを特定することでエネルギーの未来図を描くことを目指している。NEA は次世代原子炉の持続可能性支援に向けて、今後も国際的な規模で追加の協力参加者を募ると表明している。(参照資料:OECD/NEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 31 Oct 2023
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カナダ SMR等で2州の石炭火力を廃止へ
カナダの連邦政府と北東部に位置するノバスコシア(NS)州およびニューブランズウィック(NB)州の両政府は10月16日、これら2州の石炭火力発電所を2030年までに段階的に廃止しクリーンで安価な電源に移行するため、小型モジュール炉(SMR)等の活用を含めた政策を共同で進めていくとの声明を発表した。カナダの送電網の脱炭素化は、経済面や環境面におけるカナダの基本目標であることから、連邦政府と2州は石炭火力の廃止に加えて2035年までに両州の発電部門から排出されるCO2を実質ゼロ化、2050年までには両州の産業全体からの排出量も実質ゼロとする方針だ。連邦政府はこれら2州のクリーン・エネルギーへの移行に合計で約2,000万カナダドル(約22億円)を支援する。内訳として、NB州がポイントルプロー原子力発電所内で計画している米ARCクリーン・テクノロジー(ARC)社製SMR「ARC-100」(電気出力10万kW~15万kW)の建設について、連邦政府は支援金として700万加ドル(約7億7,000万円)を提供すると表明。「ARC-100」については、NB州北部のベルドゥーン港湾管理局(BPA)もグリーン・エネルギー・ハブとなることを目指して導入を計画しているため、連邦政府はサイトの準備調査費用として約100万加ドル(約1億1,000万円)を提供する。これら3者の共同声明は同日、連邦政府のエネルギー・天然資源相、公共安全・民主主義制度・州政府間関係相、住宅問題・インフラ・コミュニティ相のほか、NB州とNS州から両州の首相(知事)と天然資源関係の大臣を交えた協議の後に公表された。3者の合意事項として、共同政策は二重(ツートラック)のアプローチで進めることになっており、まず2030年までの石炭火力廃止に向けて投資が必要な項目を特定。具体的には、NB州におけるSMRの建設やベルドゥーン石炭火力発電所のバイオマス発電への転換、NB州営電力が所有するマクタクアック水力発電所の運転期間延長、風力発電と太陽光発電設備の増設、NB州のポイントルプローからソールズベリおよびNS州のオンスローまでを結ぶ送電線の敷設などが挙げられた。もう一方のアプローチとして、3者は2035年までに発電分野からのCO2排出量を実質ゼロ化する協力のなかで、特に重要となる分野を確認。NB州におけるSMR建設計画とNS州の海上風力発電計画を引き続き進めるほか、両州で再生可能エネルギー源と蓄電池の統合、スマートグリッドの管理ツールや水素にも対応する複数燃料混合発電機の開発などを実施する。また、連邦政府はカナダ・インフラ銀行の活用のほかに、クリーン・エネルギー源の開発や電化の促進に特化した複数の税額控除プログラム等を通して、財政支援を実施する。3 者はさらに、2州の周辺に位置するケベック州やニューファンドランド・ラブラドール州、プリンスエドワード・アイランド州と送電網を結ぶことや、エネルギーを融通し合うための機会も模索。これに向けて、連邦政府と各州間のエネルギー協力イニシアチブである「地域エネルギー・資源テーブル(Regional Energy and Resources Tables)」を引き続き活用していく考えだ。NB州のB.ヒッグス首相は今回、「脱炭素化等の目標を達成するには、連邦政府から多額の資金援助が無ければ不可能」と強調した。公共安全省のD.ルブラン大臣は、「NB州とNS州に周囲の2州を加えた大西洋岸の4州にとって、クリーン・エネルギーは莫大な経済的利益をもたらす可能性がある」と指摘。連邦政府はこれらの州との協力を継続し、一層クリーンで強靭な送電網を築く意向を示した。(参照資料:カナダ政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 18 Oct 2023
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英シェフィールド社 米X-エナジー社のSMRに協力
英国政府所有の大型鋳鍛造品メーカーであるシェフィールド・フォージマスターズ社は10月12日、米X-エナジー社が英国内で計画している第4世代の小型モジュール炉(SMR)「Xe-100」の建設に協力するため、同社および英国における同社の開発パートナー企業であるキャベンディッシュ・ニュークリア社と協力覚書を締結した。X-エナジー社の「Xe-100」は小型のペブルベッド式高温ガス炉(HTGR)で、電気出力は8万kW。産業用の高温熱や蒸気、電力を生産できることから、同社は英国内で「Xe-100」の建設機会を探り、最大40基の建設を目指している。今回の覚書では、シェフィールド社が原子力関係の鋳鍛造品製造で数十年にわたり蓄積してきたノウハウを活用し、SMRの主要機器を製造する。シェフィールド社も、同覚書を英国のSMRサプライチェーン構築に向けた足掛かりとしたい考えだ。米国ではエネルギー省(DOE)が2020年10月、「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」における7年間の支援対象企業の一つとしてX-エナジー社を選定。同社は2022年8月に「Xe-100」の基本設計を完了しており、ワシントン州の2つの公益電気事業者(グラント郡PUDとエナジー・ノースウエスト社)が、「Xe-100」をエナジー・ノースウエスト社が所有するコロンビア原子力発電所サイト内で建設することを計画している。2027年以降に初号機を建設すると見られていることから、英国での建設はそれ以降になる見通しである。英国では、脱炭素化に有効な無炭素エネルギー源として、政府が原子力に注目しており、2030年代初頭の実証を目指して建設する先進的モジュール式原子炉(AMR)として、2021年12月にHTGRを選択した。政府はまた、2022年4月に新しい「エネルギー供給保障戦略」を発表。原子力開発における方向性として100万kWの大型炉のほかにSMR、およびHTGRなどのAMRを開発する方針を示している。英国ではまた、今年7月に原子力発電所新設の牽引役として発足したばかりの政府機関「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」が、革新的なSMR技術の開発を促して英国のエネルギー供給保障を強化するため、支援対象の選定コンペを開始。今月2日に発表された最終候補の6社にX-エナジー社は含まれなかったが、英政府は選考に漏れたSMRについても、別ルートでの市場化に向けた協議を今秋から開始すると約束していた。シェフィールド社はすでに、同様の覚書を米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社や英ロールス・ロイスSMR社などと締結済み。米ニュースケール・パワー社とは、同社製SMRのベッセル・ヘッドを共同で実証鍛造する計画を2016年に発表している。シェフィールド社のD.アシュモア戦略・クリーン・エネルギー事業開発部長は、今回の覚書について「SMRの商業化に向けて、当社がこれまでに交わしてきた数多くのSMR開発企業との協力覚書の中で最新のものだ」と説明。同覚書に基づき、今後は「Xe-100」の一層明確なコスト見積もりと建設計画の策定に向けて、同炉に必要な鋳鍛造品を詳細に検討するとした。X-エナジー社のC.タンスリー副社長は、「『Xe-100』の建設に際し、契約総額の約8割を英国企業に発注するなど、英国サプライチェーンの最大限の活用を目指す」と表明。シェフィールド社との覚書はこれに向けた重要な一歩であり、40基の「Xe-100」建設は英国産業界の脱炭素化を促進するだけでなく、英国全土の企業に莫大なチャンスをもたらすと強調している。(参照資料:シェフィールド・フォージマスターズ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 16 Oct 2023
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英ニュークレオ社 小型高速炉の商業化で伊企業と協力
英国で2年前に設立された先進的原子炉技術の開発企業であるニュークレオ(Newcleo)社は10月9日、開発中の小型鉛冷却高速炉(LFR)の商業化に向けて、イタリアの機器製造企業であるトスト・グループ(Tosto Group)と協力・投資協定を締結した。ニュークレオ社の現時点の計画では、2026年にLFRの電熱加熱式プロトタイプ装置を、2030年には実証炉「LFR-AS-30」(電気出力3万kW)を完成させた後、2032年までに商業炉の「LFR-AS-200」(電気出力20万kW)と、海上でも使用可能な「LFR-TL-30」(電気出力3万kW)それぞれの初号機を建設。原子力・石油・ガスなどのエネルギー部門や、化学製品部門で大型機器の製造を手掛けてきたトスト・グループと協力していく考えだ。今回結ばれた協定は、LFRの研究・設計から実証、商業化まですべての段階をカバー。ニュークレオ社によると、同グループの中でも主要企業であるイタリアのウォルター・トスト(Walter Tosto)社と、その傘下企業であるベッレーリ・エナジーCPE(Belleli Energy CPE)社は、長納期の産業用機器の製造・供給実績があり、これらの企業が持つ製造ノウハウや幅広い実績、臨海地帯の製造プラント等をニュークレオ社の設計・エンジニアリング能力と統合、小型LFRの建設に活かすとしている。ニュークレオ社のS.ブオノ会長兼CEOは、「LFRの建設では非常に意欲的なスケジュールを設定しているので、トスト・グループとの協力を通じてその基盤を固めたい」と表明。トスト・グループのL.トスト常務は、「ニュークレオ社は第4世代の原子炉技術開発リーダーなので、持続可能なエネルギーの開発や技術革新で協力し合い、当社が積極的な投資を通じて事業の拡大を目指している原子力部門に貢献したい」との抱負を述べた。なお、ニュークレオ社はトスト・グループとの今回の協力に先立つ2022年3月、イタリア経済開発省の新技術・エネルギー・持続可能経済開発局(ENEA)とも協定を締結。同年から7年以内に、原子燃料や放射性物質を使わないプロトタイプのLFR装置を原子力推進国で建設することを計画中だ。また、同年6月には、LFRに装荷するウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)の製造工場建設に向け、英仏の両国でサイトを確保するため、仏オラノ社に実行可能性調査を依頼している。(参照資料:ニュークレオ社の発表資料①、②、ウォルター・トスト社(イタリア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 13 Oct 2023
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伊エジソン社 仏製SMRの建設に意欲
イタリアの電力会社で、フランス電力(EDF)のイタリア子会社でもあるエジソン社は10月4日、今後の同社の新しい展望として、2030年から2040年までの間に出力34万kWの小型モジュール炉(SMR)プラントを国内で2つ、建設することに意欲を表明した。ただし、イタリアは1990年に脱原子力を完了しており、原子力の復活に向けた国内条件が整えばとの条件付きだ。親会社のEDFは仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)などと協力して、欧州主導のSMR「NUWARD」(出力17万kWの小型PWR×2基)を開発中。エジソン社は「2040年までに自社電源の9割を脱炭素化する」ことを目指している。エジソン社は2023年から2030年までに100億ユーロ(約1兆5,800億円)を投資し、2022年の減価償却・控除前利益(EBITDA)である11億ユーロ(約1,740億円)を、2030年末までに20億~22億ユーロ(約3,170億~3,490億円)に倍増する方針。しかし、これには過去3年間の平均でEBITDAの35%を占めていた「CO2をほとんど出さない発電」を70%に拡大するなど、電源ミックスの大幅な変更が必要。同社はこれまで力を入れていた再生可能エネルギーに加えて、CO2回収・貯留(CCS)や(条件が整えば)新世代の原子力を導入したいとしている。原子力に関して同社は、欧州連合(EU)がCO2排出量の実質ゼロ化を達成する上で重要な役割を担うと評価。また、電力供給システムの安定化能力だけでなく、再生可能エネルギーの間欠性も補えることから、「CO2の排出量や設置面積が最も少ない電源の一つであり、合理的な発電が可能である」とした。さらに、新しい原子力技術のSMRなら熱電併給にも活用できるため、エネルギーを多量に消費する地区のニーズにも高い柔軟性を持って対応可能だと指摘している。イタリアではチョルノービリ原子力発電所事故後の1987年、国民投票で既存原子炉4基の閉鎖と新規建設の凍結を決定。1990年に脱原子力を完了したが、2009年になるとEU内で3番目に高い電気料金や世界最大の化石燃料輸入率に対処するため、原子力復活法案が議会で可決している。しかし、2011年の福島第一原子力発電所事故を受けて、同じ年の世論調査では国民の9割以上が脱原子力を支持。当時のS.ベルルスコーニ首相は、政権期間内に原子力復活への道を拓くという公約の実行を断念した。近年は世界規模のエネルギー危機にともない、イタリアのエネルギー情勢も急激に変化。議会下院は今年5月、脱炭素化に向けた努力の一環として、イタリアの電源ミックスに原子力を加えるよう政府に促す動議を可決。9月に環境・エネルギー保障省が開催した「持続可能な原子力発電に向けた国家政策(PNNS)会議」の第一回会合では、近い将来にイタリアで原子力発電を復活させる可能性が議論されている。(参照資料:エジソン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 12 Oct 2023
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フィンランドの2社 SMRを活用した地域熱供給で合意
フィンランドのヘルシンキ市が保有するエネルギー企業のヘレン(Helen)社は10月3日、同社の供給地域に小型モジュール炉(SMR)で無炭素な熱を供給するため、熱供給用SMRの商業化を目的に設立されたスタートアップ企業のステディ・エナジー(Steady Energy)社と基本合意書を交わした。フィンランドで発電や熱エネルギーの生産を迅速かつ低コストで脱炭素化するにはSMRが最も有望との認識に基づくもので、両社は原子力で地域熱供給の脱炭素化を図るとともに熱エネルギー価格の変動を安定化、フィンランド全体のエネルギー供給を支えていく。地域熱供給における化石燃料の利用停止は最も重要な目標であり、ヘレン社はステディ社から熱出力5万kWの熱供給用SMR「LDR-50」を最大10基調達し、2030年までにヘレン社の事業が排出するCO2を実質ゼロ化していく。同社の地域熱供給ネットワークは全長1,400kmに及び、北欧諸国の中で最長だが、このネットワーク全体の脱炭素化により国家レベルの地球温暖化防止策になるという。一方のステディ社は、フィンランド国営の「VTT技術研究センター」から今年スピンアウトした直後の企業で、この6月にSMRを活用した地域熱暖房プラントの建設に向けて、約200万ユーロ(約3億1,300万円)の研究開発資金を調達した。VTTが2020年から開発中の「LDR-50」を複数基備えた熱暖房プラントを2030年までに完成させ、地域熱供給業など様々なエネルギー集約型産業の脱炭素化を目指している。今回結ばれた基本合意書で、両社は原子力による熱エネルギーの生産に向けて、投資前協定を今後6か月以内に締結できるよう計画を立てる。フィンランド国内で熱供給用のSMRを建設するには法的措置が必要になるため、この投資前協定を2024年から2027まで有効なものとし、この間に原子力法の改正を推進し、立地許可や設計審査を申請。建設するSMRプラントの契約価格も固めたいとしている。ヘレン社のO.シルッカCEOは、「ステディ社との合意に基づいて、原子力による熱エネルギーの生産をフィンランドで開始し、同様の熱エネルギー生産のための基盤を築く」と表明。この目標に向けて、ステディ社のみならずその他のエネルギー企業や政府機関、政策決定者などとも協力していくと述べた。ヘレン社はこのほか、2022年11月にSMRなどの新たな原子力発電所建設に向けて、国内の原子力事業者であるフォータム社と協力の可能性を共同で調査すると発表している。ステディ社のT.ニューマンCEOは、「フィンランドのSMR技術を2020年代中に実行する重要な道筋が付いた」と表明。化石燃料を燃焼せずに地域熱供給を行えれば、フィンランドのCO2排出量を8%削減することも可能だとした。また、「当社の目標は新たなクリーン・エネルギーの輸出にも取り組み、世界中の地域熱供給市場に参入することだ」と指摘、原子力による熱供給にはCO2排出量の削減で大きな可能性があると強調した。(参照資料:ヘレン社、ステディ・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 05 Oct 2023
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英国 SMRの支援対象選定コンペで6社が最終候補に
©UK Government英国のエネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)は10月2日、革新的な小型モジュール炉(SMR)の開発を促し英国のエネルギー供給保証を強化するため、7月に開始した支援対象の選定コンペで6社のSMR開発企業を最終候補として発表した。同コンペの実施は、原子力発電所新設の牽引役として7月に発足したばかりの政府機関「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」が担当。今回このコンペで次の段階に進むことが決定したのは、フランス電力(EDF)、英国のロールス・ロイスSMR社、米国籍のニュースケール・パワー社、GE日立・ニュクリアエナジー・インターナショナル社、ホルテック・ブリテン社、およびウェスチングハウス(WH)社英国法人の計6社である。これら企業は年内にも、支援契約の締結に向けて英政府招聘の入札に参加する。GBNは6社のSMRの中から、建設に向けた最終投資判断(FID)が2029年頃に下され、2030年代半ばまでに運転開始する可能性が高いものを2024年の春に選定、夏までに支援契約を締結する予定。このコンペは、DESNZが今年3月に公表したクリーン・エネルギーによる長期的なエネルギー供給保証と自給の強化に向けた新しい投資政策「Powering Up Britain」に基づいて行われている。GBNはかつてない規模とスピードで原子力の復活と拡大を進めるもので、コンペを通じてSMRの開発プロジェクトに数十億ポンド規模の官民投資を促す方針である。DESNZによると、SMRは設備が小さいため、工場での製造や迅速で低価格な建設が可能である。その一方で、政府は建設中のヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所や、HPC発電所と同型設計を採用するサイズウェルC発電所など、大型炉を備えた発電所の建設計画も引き続き支援。GBNは2050年までに総発電量の4分の1を原子力で供給するという政府の目標達成を下支えし、国内の雇用を維持しながら、欧州で最も低価格な電力卸売価格を実現する考えだ。DESNZのC.クティーニョ大臣は、「SMRなら原子力発電設備の迅速な拡大が可能であり、安価でクリーン、確実なエネルギー供給を実現できる」と指摘。さらに、高給雇用の創出と英国経済の発展も促すとしており、「このコンペで英国は世界中の様々なSMRを呼び込み、原子力技術革新を牽引する世界的リーダーとしてSMRの開発レースを主導する」と述べた。最終候補企業の一つに選定されたロールス・ロイスSMR社のC.コーラトンCEOは、「コンペの次の段階に速やかに移行して政府との契約締結に漕ぎつけるよう取り組み、2050年までに最大2,400万kWの原子力発電設備を確保するという政府の目標達成を支援したい」と表明した。同社はすでに2021年11月、PWRタイプで電気出力47万kWのSMRを英規制当局の包括的設計認証審査(GDA)にかけるため、申請書を提出。翌年3月から英原子力規制庁(ONR)と環境庁(EA)が審査を開始したことから、「その他の企業のSMRと比べて約2年先んじている」とも指摘。同社製SMRについては、すでにオランダやポーランドの事業者が関心を示しているが、コーラトンCEOは「世界中に多くのSMRを輸出していくためにも、国内契約の確保が極めて重要になる」としている。WH社は今年5月、中国や米国で稼働実績があるAP1000の電気出力を30万kWに縮小した1ループ式のSMR「AP300」を発表した。WH社は同炉ならAP1000のエンジニアリングやサプライチェーン、機器等を活用できるほか、許認可手続きも合理的に進められるため、2030年代初頭の初号機運転開始に自信を示した。同社のP.フラグマン社長兼CEOは「この機会に『AP300』が英国にとって最良の選択肢となることを実証したい」と述べた。「AP300」の建設は、ウクライナやスロバキア、フィンランドなどが検討中である。(参照資料:英政府、ロールス・ロイスSMR社、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月2日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 03 Oct 2023
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カナダ先住民 SMRプロジェクトに出資
カナダなど北米大陸の東部に居住する先住民の「北岸ミクマク部族協議会(NSMTC)」は9月25日、小型モジュール炉(SMR)を開発中の英モルテックス・エナジー社と米ARCクリーン・テクノロジー社の双方のカナダ法人に出資することで、両社それぞれと合意したと発表した。カナダでは東部ニューブランズウィック(NB)州の州営電力であるNBパワー社が、州内のポイントルプロー原子力発電所内で、両社の商業規模のSMR実証炉を2030年頃までに建設することを計画している。NSMTCとこれに所属する7地区のミクマク部族コミュニティは、今回の合意に基づきモルテックス社に総額200万カナダドル(約2億2,000万円)、ARC社には総額100万加ドル(約1億1,000万円)相当の出資を行い、両社がNB州やその他の国で建設するSMRプロジェクトを支援する。モルテックス社とARC社はすでにNB州内に事務所を設置しており、州内でのSMR建設に向けて先住民を含む州民コミュニティとの協議を進めてきた。NSMTCに対しては資本出資するよう提案したのに加えて、州内の先住民に雇用や職業訓練等の機会を提供できるよう追加の手段を講じる方針である。NSMTCも、世界中の経済・社会活動に先住民が参加できるよう働きかけているサー・ディーン(Saa Dene)社の支援を受けながら、「地球とその資源に対する畏敬」という先住民の教えが2社のSMR概念に合致すると判断したことを明らかにしている。モルテックス社のSMRは電気出力30万kWの「燃料ピン型熔融塩炉(Stable Salt Reactor-Wasteburner: SSR-W)」で、既存炉の使用済燃料を燃料として使用することが可能だという。同炉は2021年5月、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が提供する「許認可申請前設計審査(ベンダー設計審査:VDR)」の第1段階を完了した。一方、ARC社が開発中の「ARC-100」(電気出力10万~15万kW)はナトリウム冷却・プール型の高速中性子炉。同炉では現在、ベンダー設計審査の第2段階が行われており、NBパワー社は今年6月、ポイントルプロー発電所内での「ARC-100」建設に向けて、ARC社のカナダ法人と協同で「サイト準備許可(LTPS)」の申請書をCNSCに提出した。NSMTCのG.ギニッシュCEOは、「両社はともにSMRでクリーン・エネルギーの開発と廃棄物の削減に取り組んでおり、これは来るべき世代に継承すべき遺産という我々の価値観にも合致する」と強調している。(参照資料:NSMTC、モルテックス社、ARCクリーン・テクノロジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 02 Oct 2023
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IAEA総会が開幕 高市大臣が処理水問題で安全性を強調
国際原子力機関(IAEA)の第67回通常総会が、9月25日から29日までの日程でオーストリアのウィーン本部で始まった。開会の冒頭ではIAEAのR.M.グロッシー事務局長が演説し、「世界中の世論が原子力に対して好意的に傾きつつあるが、原子力発電の利用国はそれでもなお、オープンかつ積極的にステークホルダーらと関わっていかねばならない」と表明。安価で持続可能なエネルギーによる未来を実現するには大胆な決断が必要であり、原子力も含め実行可能なあらゆる低炭素技術をすべて活用する必要があると述べた。同事務局長はまた、IAEAの進める原子力の活用イニシアチブが地球温暖化の影響緩和にとどまらず、がん治療や人獣共通感染症への対応、食品の安全性確保、プラスチック汚染などの分野で順調に進展していると表明。原子力発電所の安全性は以前と比べて向上しており、他のほとんどのエネルギー源よりも安全だと指摘した。その上で、原子力が地球温暖化の影響緩和に果たす役割と、小型モジュール炉(SMR)等の新しい原子力技術にいかに多くの国が関心を寄せているかを強調。加盟各国でSMRの活用が可能になるよう、IAEAがさらに支援を提供していく方針を示した。同事務局長はさらに、8月から福島第一原子力発電所のALPS処理水の海洋放出が始まり、IAEAが独自に客観的かつ透明性のある方法でモニタリングと試料の採取、状況評価等を行っていると説明。この先何10年にもわたり、IAEAはこれらを継続していく覚悟であるとした。IAEAの現在の最優先事項であるウクライナ問題に関しても、ウクライナにある5つすべての原子力発電所サイトにIAEAスタッフが駐在しており、過酷事故等の発生を防ぐべく監視を続けるとの決意を表明している。これに続く各国代表からの一般討論演説では、日本から参加した高市早苗内閣府特命担当大臣が登壇。核不拡散体制の維持・強化や原子力の平和利用、ALPS処理水の海洋放出をめぐる日本の取組等を説明した。ウクライナ紛争については、同国の原子力施設が置かれている状況に日本が重大な懸念を抱いており、ロシアの軍事活動を最も強い言葉で非難すると述べた。また、原子力の平和利用に関しては、気候変動等の地球規模の課題への対応とSDGsの達成に貢献するものとして益々重要になっていると評価。その上で、食糧安全保障に係るIAEAの新しいイニシアチブ「アトムスフォーフード(Atoms4Food)」に対し賛意を示した。東京電力福島第一原子力発電所の廃炉にともない、8月にALPS処理水の海洋放出が開始されたことについては、処理水の安全性に関してIAEAの2年にわたるレビュー結果が今年7月に示されたことに言及。処理水の海洋放出に関する日本の取組は関連する国際安全基準に合致していること、人および環境に対し無視できるほどの放射線影響となることが結論として示された点を強調した。高市大臣はまた、日本は安全性に万全を期した上で処理水の放出を開始しており、そのモニタリング結果をIAEAが透明性高く迅速に確認・公表していると説明。放出開始から一か月が経過して、計画通りの放出が安全に行われていることを確認しており、日本は国内外に対して科学的かつ透明性の高い説明を続け、人や環境に悪影響を及ぼすことが無いよう、IAEAの継続的な関与の下で「最後の一滴」の海洋放出が終わるまで安全性を確保し続けるとの決意を表明した。 同大臣はさらに、日本の演説の前に中国から科学的根拠に基づかない発言があったと強く非難。この発言に対し、「IAEAに加盟しながら、事実に基づかない発言や突出した輸入規制を取っているのは中国のみだ」と反論しており、「日本としては引き続き、科学的根拠に基づく行動や正確な情報発信を中国に求めていく」と訴えた。 ♢ ♢例年通りIAEA総会との併催で展示会も行われている。日本のブース展示では、「脱炭素と持続可能性のための原子力とグリーントランスフォーメーション」をテーマに、GX実現にむけた原子力政策、サプライチェーンの維持強化、原子力技術基盤インフラ整備、高温ガス炉や高速炉、次世代革新炉、ALPS処理水海洋放出などをパネルで紹介している。展示会初日には、高市大臣と酒井庸行経済産業副大臣がブースのオープニングセレモニーに来訪。高市大臣は挨拶の中で、ブースにおいて次世代革新炉開発を紹介することは時宜を得ているとするとともに、ALPS処理水海洋放出は計画通り安全に行われており、関連するすべてのデータと科学的根拠に基づき透明性のある形で説明し続けることが重要だと述べた。4年ぶりに行われた今回のオープニングセレモニーでは、日本原子力産業協会の新井理事長による乾杯が行われ、福島県浜通り地方の日本酒が来訪者に振舞われるなどした。(参照資料:IAEAの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 27 Sep 2023
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ガーナの原子力プログラム 米国が追加支援
米国の国務省(DOS)は9月13日、「小型モジュール炉(SMR)技術の責任ある利用のための基盤インフラ(FIRST)」プログラムに基づくガーナへのさらなる支援策として、原子力分野の人材育成資金175万ドルを提供すると発表した。原子力発電を持たないガーナは現在、SMRの導入を検討している。ガーナの民生用原子力プログラムでは、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国における「SMR訓練の地域ハブ」や「中核的研究拠点」となることを目指している。原子力の導入希望国で原子力安全・セキュリティや核不拡散など原子炉の導入に必要な能力の開発を支援するため、DOSが2021年4月に日本や英国などと提携して開始したFIRSTプログラムにも、ガーナは2022年2月から参加。同年10月には、国際原子力機関(IAEA)が米国で開催した原子力閣僚会議で、日・米・ガーナの3か国はガーナのSMR導入に向けた戦略的パートナーシップを結んでいる。ガーナが建設する初のSMRとしては、米ニュースケール・パワー社製の「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を複数搭載した発電設備「VOYGR」が候補炉の一つとして検討されている。そのため、3か国協力における最初のステップとして、日本政府は日米の原子力産業界がガーナの原子力関係政府機関と協力して実施しているSMR建設の実行可能性調査を支援。この調査にはニュースケール社、および同社のSMR事業に出資している日揮ホールディングス社とIHI、および米国のレグナム・テクノロジー・グループが参加している。今回の人材育成支援金により、DOSはガーナにSMRの運転シミュレーターを提供するほか、ガーナが「SMR訓練の地域ハブ」となるための学術交流や大学間の連携協力を促進。最も厳しい国際基準に準じて、原子力安全・セキュリティ等の高度な能力を備えた技術者や運転員の育成を支援する方針だ。DOS国際安全保障・不拡散局のA.ガンザー筆頭次官補代理は、「この連携協力を通じて、ガーナは国内のみならずその他のアフリカ諸国においても、脱炭素化やエネルギー供給保障の達成に資する有能な人材の育成が可能になる」と指摘。「これらの国々がクリーンで安全、安価なエネルギー源を確保できるよう、今後も支援していく」と語った。DOSによると、今年はすでにガーナとケニアの政府高官代表団がFIRSTプログラムの下で訪米し、米国との連携協力を深めるために国立研究所や運転中の原子力発電所を視察した。両国はともにFIRSTプログラムに参加しており、原子力の導入に向けて引き続き、技術協力や能力開発、人材育成等で支援の提供を受けることになる。(参照資料:在ガーナ米国大使館、米国務省の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 26 Sep 2023
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加アルバータ州 オイルサンド回収へのSMR活用調査に助成金
カナダのアルバータ州は9月19日、州内の石油・天然ガス総合企業であるセノバス・エナジー(Cenovus Energy)社が実施する「オイルサンド回収事業への小型モジュール炉(SMR)の適用可能性調査」に、州の「技術革新と温室効果ガスの排出削減基金」の中から700万カナダドル(約7億7,000万円)を助成すると発表した。アルバータ州は天然資源が豊富なカナダの中でも特に、石油や天然ガスなどの資源に恵まれているが、セノバス社が同州北部で手掛けるオイルサンド(からの超重質油)回収事業では非常に多くの温室効果ガスが排出される。このため州政府は、総額2,670万加ドル(約29億3,600万円)を要するというセノバス社の複数年の調査に資金協力し、州内のオイルサンド事業が排出するCO2の削減にSMRを安全かつ経済的に適用可能か、また、産業界がSMR建設を決定した場合の規制承認手続など必要な情報を探る。同州ではすでに、これに向けた規制枠組の構築準備が進められている。オイルサンドからビチューメンのような超重質油を回収するには、油層内に水蒸気を圧入し、その熱で超重質油の粘性を下げて重力で回収するという方法が複数存在する。このうち回収率の高い「スチーム補助重力排油法(SAGD)」については、カナダのエンジニアリング・開発コンサルティング企業であるハッチ(Hatch)社が今年8月、アルバータ州の公的研究イノベーション機関である「アルバータ・イノベーツ」やセノバス社のために、SMRをSAGDに活用した場合の実行可能性調査(FS)報告書を提出した。州政府によれば、この調査結果は、産業界から排出されるCO2の長期的な削減方法としてSMRが有効か見極めるための最初の一歩。州政府としては、セノバス社の今回の詳細調査に協力し、今後の事業化可能性に関する議論を本格化させたい考えだ。アルバータ州政府のR.シュルツ環境・保護地域担当相は、「数年前まで原子力を産業用に拡大利用する発想は後回しにされてきたが、最早そうではない」と断言。「SMRには当州のオイルサンド事業に熱と電力を供給するポテンシャルがあり、同時にCO2の排出量を削減することで、当州の将来的なエネルギー供給の選択肢になり得る」と述べた。また、州政府の助成金は、「アルバータ排出量削減機構(ERA)」を通じてセノバス社に提供される予定で、ERAのJ.リーマーCEOはSMRについて、「オイルサンド事業のみならず、異なる様々な産業用にも無炭素なエネルギーを供給できる」と指摘した。セノバス社のR.デルフラリ上級副社長は、「当社の事業から排出されるCO2を2050年までに実質ゼロにするため、複数の有望技術を検討模索中だがSMRはその中でも有望だ」と表明している。カナダでは、オンタリオ州とニューブランズウィック州、サスカチュワン州、およびアルバータ州の4州が2022年3月、SMRを開発・建設していくための共同戦略計画を策定。アルバータ州はその後、SMR開発を進めているカナダのテレストリアル・エナジー社や米国のX-エナジー社、ARCクリーン・テクノロジー社、韓国原子力研究院(KAERI)などと、それぞれのSMRの州内建設に向けて了解覚書を締結している。(参照資料:アルバータ州の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 22 Sep 2023
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ウクライナ WH社製SMRの導入に向け覚書
ウクライナの原子力発電公社であるエネルゴアトム社は9月12日、ウェスチングハウス(WH)社製の小型モジュール炉(SMR)「AP300」の導入に向けて、同社と了解覚書を締結した。今後10年以内に国内初号機の設置を目指すとともに、将来的には同炉設備の国内製造も視野に入れた内容。差し当たり、具体的な建設契約の締結に向けた作業や許認可手続き、国内サプライチェーン関係の協力を進めるため、共同作業グループを設置する。「AP300」は100万kW級PWRであるAP1000の出力を30万kWに縮小した1ループ式のコンパクト設計。AP1000と同様にモジュール工法が可能なほか、受動的安全系や計装制御(I&C)系などは同一の機器を採用している。ウクライナは2050年までのエネルギー戦略として、無炭素なエネルギーへの移行とCO2排出量の実質ゼロ化を目指している。このため原子力発電の増強を進めており、引き続き新しい大型炉を建設していく一方、ウクライナにとって有望な選択肢であるSMRの設置も進める考えだ。WH社との協力については、エネルゴアトム社が2021年11月、フメルニツキ原子力発電所で国内初のWH社製AP1000を建設するとし、同社と契約を締結。翌2022年6月には、国内で稼働する全15基のロシア型PWR(VVER)用にWH社製の原子燃料を調達し、AP1000の建設基数も9基に増やすための追加契約を結んだ。15基中13基の100万kW級VVER(VVER-1000)については、すでにWH社製原子燃料の装荷が進んでいるが、エネルゴアトム社は今月10日、残り2基の44万kW級VVER(VVER-440)に初めてWH社製の原子燃料を装荷している。WH社のP.フラグマン社長兼CEOは、「原子燃料の調達からプラントのメンテナンス、発電に至るまで、長期的に信頼されるパートナーとしてウクライナにクリーンで確実なエネルギーをもたらせるよう貢献したい」とコメントしている。今年5月に発表した「AP300」については、同社は稼働実績のある第3世代+(プラス)のAP1000に基づく炉型である点を強調しており、実証済みの技術を採用しているため許認可手続きが円滑に進むことや、AP1000用の成熟したサプライチェーンを活用できると指摘した。同社の計画では、2027年までに米原子力規制委員会(NRC)から「AP300」の設計認証(DC)を取得し、2030年までに米国で初号機の建設工事を開始、2030年代初頭にも運転を開始するとしている。(参照資料:エネルゴアトム社、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 14 Sep 2023
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UAEとポーランド企業 欧州全域でのSMR建設に向け協力合意
アラブ首長国連邦(UAE)で初の原子力発電所を建設・運転中の首長国原子力会社(ENEC社)と、ポーランド初の小型モジュール炉(SMR)建設を計画しているオーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社は9月11日、将来的に複数のSMRをポーランドのみならずその他の欧州地域で協力して建設していくため、了解覚書を締結した。建設が比較的容易でクリーンな電力を供給できるSMRへの投資を通じて、欧州のエネルギー部門や産業界の脱炭素化をともに支援。エネルギー・セキュリティと地球温暖化という二つの課題の解決に取り組む考えだ。ENEC社は2012年7月、北部のアブダビ首長国で韓国製の140万kW級PWR「APR1400」×4基で構成されるバラカ原子力発電所の建設工事を開始。1~3号機はそれぞれ2021年4月と2022年3月、および今年2月から営業運転中で、残る4号機の作業も佳境に入っている。もう一方のOSGE社は、カナダ・オンタリオ州のOPG社がカナダ初のSMRとして、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製SMR「BWRX-300」の建設準備を進めているのに倣い、同じく「BWRX-300」をポーランドで建設することを計画。今年4月下旬には、候補地として絞り込んだ7地点のうち、6地点での建設計画について「原則決定(DIP)」を政府に申請している。OSGE社の「BWRX-300」初号機は2030年頃の完成を目標としているが、それ以降同社は、英国や中・東欧地域などその他の欧州大陸でも「BWRX-300」の建設を目指す方針。そのため今回、GEH社のパートナーとしてポーランド国内で同炉の独占使用権を持つOSGE社と、UAEで大型原子力発電所の建設を「スケジュール通り予算内」で進め、運転実績も有するENEC社が協力することになった。加えてENEC社は、「BWRX-300」の建設にファイナンス面での支援も視野に入れるとしている。協力覚書への調印は、世界原子力協会(WNA)が英国ロンドンで「世界原子力シンポジウム」を開催したのに合わせ、ENEC社のM.アル・ハマディCEOとOSGE社のR.カスプローCEOが実施した。同シンポでENEC社は、WNAと共同で「ネットゼロ原子力(Net Zero Nuclear=NZN)」イニシアチブを立ち上げたと発表。NZNでは、エネルギー・セキュリティの確保とCO2排出量の実質ゼロ化の両立に原子力が果たす多大な貢献を世界中に周知し、原子力開発の世界規模での拡大を目指している。UAEはまた、今年11月に開催される国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)のホスト国を務めることになっている。ENEC社は、原子力発電所の建設プロジェクトを成功に導くには、適切なパートナーの選定と高度な専門知識やスキルを持つスタッフの活用がカギだと強調。同社がバラカ発電所の建設と運転を通じて蓄積した様々な経験は、OSGE社の構想を支援する重要な要素になる。同社のM.アル・ハマディCEOは、「クリーン・エネルギー社会への移行とCO2排出量実質ゼロ化の推進で当社が培った知見と経験を共有し、世界中で原子力発電所の建設を加速していくという当社の計画は、覚書の締結により新たなステージに入った」と表明。「SMRの可能性については当社も綿密に検証中であるが、バラカ発電所の建設・運転経験はこのように新しい分野の研究開発や技術革新を大きく進展させるだけでなく、当社が様々な次世代原子炉を新たに建設していく機会になる」と強調した。OSGE社のカスプローCEOも、「ENEC社は、ポーランドその他で当社の複数の『BWRX-300』建設計画を支えてくれる心強いパートナーだ」と指摘。「SMR開発が原子力の将来に重要な意味を持つことをENEC社は理解しており、この協力によって我々は世界的規模のSMR建設に向けて大きな一歩を踏み出した」としている。(参照資料:OSGE社(ポーランド語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 13 Sep 2023
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米GE社 SMR活用CO2回収で補助金獲得
米国のGE社は8月29日、傘下のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社が開発した小型モジュール炉(SMR)を使って、大気からCO2を直接回収する(DAC)システムの地域ハブを国内に設置するプログラムで、米エネルギー省(DOE)から約255万ドルの補助金を獲得したと発表した。GE社では、電力・エネルギー事業を統合したGEベルノバ社((2024年初頭に上場企業として独立・分社化が予定されている))が原子力発電と再生可能エネルギーを活用したDACシステムの開発をテキサス州のヒューストン近郊で進めており、同地で予備的な実行可能性調査の実施を計画中。同調査にかかる約332万ドルのうち約255万ドルをDOEが2年間で拠出し、年間100万トンのCO2を大気中から回収して地下に貯蔵、あるいは「持続可能な航空燃料(SAF)」の原料等に活用できるか調査する。GE社は今後、同調査の実施範囲や条件を決定するため、DOEと詳細を詰める予定である。DOEは2021年11月に成立した「超党派のインフラ投資法」に基づくプログラムの一つとして、商業規模のDACシステム開発とその地域ハブ開発を推進している。2050年までに年間4億トン~18億トンのCO2を大気中から回収するため、8月11日にはテキサス州とルイジアナ州で計画されている商業規模のDACシステム開発計画に、「DAC地域ハブ開発プログラム」の予算から最大12億ドルを拠出すると決定した。今回はDAC地域ハブ開発の実行可能性と、同ハブの構造設計に関するプロジェクトを19件選定。この中にGEベルノバ社の予備的実行可能性調査プロジェクトが含まれていた。一方、GE社は今年3月、ニューヨーク州ニスカユナにあるGEベルノバ社の研究施設で、DACシステムのプロトタイプ実証が成功したと発表。今回、GEベルノバ社がDOEの補助金交付対象に選定されたことでDACシステムの開発が加速され、2020年代の終わりまでに商業規模のシステムを完成するという目標を達成できると考えている。この調査でGEベルノバ社は具体的に、DACシステムをGEH社製SMRの「BWRX-300」や再生可能エネルギー源と統合可能か調査するが、同社としては、「BWRX-300」の生産する熱や電力を活用することで、低コストで大気中からCO2回収が可能だと強調している。GEベルノバ社はこのほか、同じくDOEの「DAC地域ハブ開発プログラム」で補助金交付先に選定されたイリノイ大学主導の2つのプロジェクトにも、DACシステムの供給者として協力する。同プログラムではまた、イリノイ州のノースウエスタン大学が主導する「原子力を活用した中西部地域のDACハブ開発プロジェクト」も、補助金の交付先の一つに選定されている。同地域は米国でも2番目にCO2排出量が多く、原子力を中心に据えたプロジェクトにDOEは総費用393万ドルのうち300万ドルを拠出している。(参照資料:GE社、DOE①、②の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月31日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 05 Sep 2023
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加サスカチュワン州 SMRサプライチェーンの構築に支援金
カナダ・サスカチュワン州が所有するクラウン・インベストメント・コーポレーション(CIC)は8月24日、同州内で小型モジュール炉(SMR)のサプライチェーンを構築するため、「サスカチュワン産業鉱業サプライヤー協会(SIMSA)」に総額47万9,000カナダドル(約5,157万円)の支援金を提供すると発表した。SIMSAの会員企業やパートナー企業が同州やカナダ国内、あるいは世界中で行われるSMRの開発事業に参加できるよう支援するのが目的で、CICは今後2年にわたり資金を提供する。具体的には、州内のSMRサプライチェーンに属するスペシャリストをSIMSAに迎え入れるほか、先住民電力公社(FNPA)にも資金の一部を提供して、先住民がカナダの電力部門で経済的利益を得る機会を模索。また、カナダ原子力産業機構(OCNI)が一部の州で、SMRサプライチェーン構築のために進めている「Ready4SMRプログラム」にも協力していく。サスカチュワン州政府は、2030年までに州内の温室効果ガス排出量を2005年レベルから50%削減し、最終的には2050年までに実質ゼロ化を目指している。この目標の達成に向けた活動の一環として、同州はオンタリオ州およびニューブランズウィック(NB)州とともに2019年12月、出力変動が容易で革新的な技術を用いた多目的SMRを国内で建設する協力覚書を締結。2021年4月にはこの覚書にアルバータ州も加わり、これら4州は2022年3月にSMRを開発・建設していくための共同戦略計画を発表している。その後、サスカチュワン州の州営電力であるサスクパワー社は2022年6月、2030年代半ばまでに建設するSMRとしてGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の「BWRX-300」を選定。州内の建設候補地2地点((南部ロアバーン地方自治体内のエルボー村、および南東部のエステバン市。))も2022年中に選定済みである。SIMSAはサスカチュワン州内の製造や建設・エンジニアリングなどの産業部門、鉱業部門、エネルギー部門に属する300社以上のサプライヤーで構成される非営利団体。SIMSAはCICとの協力を通じて専門人材を集め、州内で原子力関係の製造能力や建設能力を有する企業を育成していく方針だ。OCNIはカナダ原子力産業界の主要サプライヤー200社以上で構成される非営利団体で、カナダ型加圧重水炉(CANDU炉)や軽水炉の機器設備を設計・製造する企業やエンジニアリング・サービス企業などが参加している。OCNIが昨年夏に始動した「Ready4SMRプログラム」は、NB州など北東部の大西洋に面した4州((ニューブランズウィック州、プリンスエドワード・アイランド州、ノバ・スコシア州、ニューファンドランド・ラブラドール州の4州。))を中心に、地元企業が原子力産業に参入してNB州が州内で進めるSMR建設プログラムに参加するよう働きかけるプログラム。カナダ連邦政府も、大西洋地域開発庁(ACOA)を通じて同プログラムを支援している。OCNIのB.ウォーカー理事長兼CEOは、「サスカチュワン州でSIMSAやFNPAが当方の『Ready4SMRプログラム』に協力してくれるのは非常に有難く、世界中でSMRの建設計画を牽引するカナダの中でも、サスカチュワン州がクリーン・エネルギー・ミックス構想の一部としてSMR計画を実行することに期待する」と表明。「OCNIの役割はカナダ全体で原子力サプライチェーンを構築することだが、サスカチュワン州のようにすでにサプライヤーとしての確かな基盤を有する州にも、経済発展の機会をもたらしたい」としている。(参照資料:サスカチュワン州政府、SIMSAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 29 Aug 2023
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スウェーデン SMRの建設可能性を模索
スウェーデンの放射性廃棄物処理専門企業であるスタズビック社は8月24日、同国南部のニュヒェーピング(Nyköping)近郊にある同社サイトに、複数の小型モジュール炉(SMR)を備えた商業用「SMRパーク」の建設可能性を調査するため、SMRのプロジェクト開発企業シャーンフル・ネキスト(Kärnfull Next:KNXT)社と協力覚書を締結した。SMRパークの建設構想はKNXT社が中心となって進めているもので、同社はすでに5月からスタズビック社サイトの実行可能性調査(FS)の予備的作業を実施中。現時点では暫定的ながら、SMRの商業利用に適した条件を備えているとの結果が出ている。同社は12月までに本格的なFSを実施し、SMRパーク建設の技術面や環境面、および社会面や財政面の実行可能性を評価。地元住民の合意を得るのは当然のことながら、同FSで良好な結果が得られれば、KNXT社はスタズビック社と共同で、2024年後半に同プロジェクトに関する資金調達や許認可手続き、発電電力の売買契約など主要事項を決定、2030年代初頭にも欧州初のSMRパークの実現を目指す。スタズビック社によると、スウェーデン南部では将来的に電力需要の大幅な増加が見込まれている。同じく南部にある同社のサイトでは、原子燃料や核物質関係の技術、原子炉の安全解析ソフト、廃止措置や放射線防護関係のサービスなど、原子力技術の専門的知見が幅広く利用できるため、戦略的にもこの需要を満たすことが可能である。同社はまた、化石燃料発電を削減してクリーン・エネルギー社会に移行し、環境面で持続可能な将来を築くには、その重要手段の一つである原子力発電が大きく貢献すると認識。自社サイトにSMRを設置することは、同社ビジョンにも合致すると考えている。一方のKNXT社は、クリーン・エネルギーへの移行解決策として、短期間で建設可能なSMRなどの原子力プロジェクトをスウェーデンのあらゆる部門に提案する方針。国内で複数のSMRを可能な限り迅速に建設するため、2022年3月に米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と同社製SMR「BWRX-300」の建設に向けた了解覚書を締結した。KNXT社はまた、フィンランドとスウェーデンの両国で新たな原子炉の建設を検討しているフィンランドの電気事業者フォータム社とも、2022年12月に了解覚書を締結しており、共同でスウェーデン国内でのSMR建設機会を探っている。スタズビック社のC.ホフルンドCEOは、「サイト条件の本格的な調査はまだ実施しておらず、実際にSMRを設置するまで何年もかかるが、確かな知見を有するKNXT社との協力により、FSで良い結果が出ることを期待している」と述べた。KNXT社のC.ソーランダーCEOは、「既存の3つの原子力発電所に続く新たな原子炉の立地点として、スタズビック社のサイトは非常に適していると思う」と表明。その上で、「複数のSMRを設置することで安定した雇用が多数創出され、その他のハイテク産業を呼び込む機会も生まれる」と指摘している。(参照資料:スタズビック社、KNXT社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 25 Aug 2023
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カナダ政府、サスカチュワン州のSMR導入計画に資金提供
カナダ連邦政府は8月19日、中西部サスカチュワン州で州営電力のサスクパワー社が進めている小型モジュール炉(SMR)の導入計画に対し、合計で最大7,400万カナダドル(約79億7,200万円)の支援金を提供すると発表した。その内訳は、天然資源省(NRCan)が「電力の予備的開発プログラム」の中から、最大5,000万加ドル(約53億8,600万円)をサスクパワー社のSMR計画に提供。このプログラムは、SMRなどクリーン電力の発電プロジェクトにおける予備段階の活動支援を目的としている。また、環境・気候変動省(ECCC)の「将来電力基金」から、2,400万加ドル(約25億8,600万円)以上をサスカチュワン州政府に提供することになる。サスカチュワン州政府は、2030年までに州内の温室効果ガス排出量を2005年レベルから50%削減し、最終的には2050年までに実質ゼロ化することを目指している。この目標の達成に向けた活動の一環として、サスクパワー社は2022年6月、2030年代半ばまでに建設するSMRとしてGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の「BWRX-300」を選定したほか、州内の建設候補地2地点((南部ロアバーン地方自治体内のエルボー村、および南東部のエステバン市。))も2022年中に選定済み。同社としてはこの計画を実行に移すかを2029年に最終決定するが、連邦政府からの支援金は同計画を前進させる一助として、予備的エンジニアリング作業や技術面の調査、環境アセスメント、規制関係の調査、関係コミュニティや先住民との協議等に活用する方針である。連邦政府は、世界がCO2排出量実質ゼロの経済に移行していくなか、カナダが優位な競争力を確保し、カナダ自らの削減目標を達成するには、各家庭や企業に提供する電力の無炭素化を大規模に進める必要があると認識。SMRのような次世代原子力技術も含め、CO2を排出しない新しい電力インフラの開発プロジェクトはこの移行で重要な役割を担い、カナダのあらゆる地域に経済的繁栄をもたらすと考えている。SMRに関しては、連邦政府は州内の送電網やCO2を多量に排出する産業の脱炭素化に大きく貢献すると指摘。出力30万kWのSMRは、それ一基で30万戸の世帯に無炭素電力の供給が可能であり、送電網が届かない遠隔地域のコミュニティが、汚染度とコストの高いディーゼル発電への依存度を低減するにも非常に有効である。また、CO2を排出しない新しいインフラ開発プロジェクトへの支援は、カナダ全土に安価で信頼性の高いクリーンな電力をもたらすための、連邦政府による包括的アプローチの一部。このことは、NRCanが8月10日付で公表した発電部門の脱炭素化ビジョン「パワーリング・カナダ・フォワード(Powering Canada Forward)」にも記されている。この報告書では、2035年までにカナダ中の送電網を安定的に脱炭素化するとともに、各家庭の電気代を低く抑えることを目標にしている。これらのことから、連邦政府はサスカチュワン州やその他の州が有望な無炭素エネルギー源としてSMRの開発や建設計画を進めるのを引き続き支援。これらの州が、州民にクリーンで信頼性の高い安価な電力を提供できるよう協力する方針である。(参照資料:カナダ政府、サスクパワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 22 Aug 2023
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米ワイオミング州 SMRの建設評価にマッチング・ファンド提供
米ワイオミング州のエネルギー当局(WEA)は8月8日、BWXTアドバンスド・テクノロジーズ(BWXT AT)社が同州内で実施を予定している「マイクロ原子炉建設の実行可能性評価プロジェクト」に対し、約1千万ドルのマッチング・ファンドを提供すると発表した。BWXT AT社は原子力機器・燃料サービス企業であるBWXテクノロジーズ(BWXT)社の子会社で、BWXT社製の先進的なマイクロ高温ガス炉(HTGR)を同州内で複数基建設することに向けて、先駆けとなるユニット(lead unit)の建設を計画している。同社製HTGRについては、国防総省(DOD)が軍事作戦用への導入を目指して、原型炉(電気出力0.1~0.5万kW)の建設をアイダホ国立研究所(INL)内で予定している。BWXT AT社は今回の評価プロジェクトで、ワイオミング州の産業界の中でも特に、石油・ガス採取産業に原子力の無炭素な電力や熱を供給できるかを評価、同炉を州内で複数基建設する可能性を模索する。また、州内の既存のサプライチェーンが原子炉機器のどの部分に製造能力を発揮できるか確認し、その建設をサポート。このほか、同州の将来的な発電設備にマイクロHTGRを組み込めるよう、調査のためのエンジニアリング活動を実施する計画だ。ワイオミング州議会は2022年、州内のエネルギー需要を満たすために行われている様々な技術の研究、実証、パイロット計画、商業規模の建設計画に対し、民間部門や連邦政府の資源を補う「エネルギー関係のマッチング・ファンド(EMF)」として、1億ドルの予算を州知事室に充当。同ファンドの管理は州知事からWEAに委託されており、対象技術は太陽光や風力発電に留まらず、CO2の回収・有効利用・貯留(CCUS)や石炭精製、水素製造、電池貯蔵なども含まれている。BWXT AT社は、同炉で既存の発電設備を補完し州内で増加するエネルギー需要に応える方針であり、今回の評価プロジェクトには約2千万ドルが必要と見積もっている。BWXT社のHTGRは、すでに米エネルギー省(DOE)のコスト折半型「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」の3方式のうち、2030年代前半を運転目標とする「将来的な実証に向けたリスク削減」に選ばれ、支援を受けている。今回のプロジェクトでは、同社は具体的にワイオミング州の関係者が先駆けとなるユニットの建設判断を下せるよう、州内のエンドユーザー専用の概念設計を開発する。これにより、同炉の製造や建設、許認可活動に必要なコストの見積もりが可能になる。また、後続機の幅広い建設モデルの一環として、州内の既存のサプライチェーンをどの程度活用できるかも見極める方針である。プロジェクトは2段階に分けて行われる予定で、まず州内のユーザーの個別ニーズに合わせて設計上の要件を確定。次の段階では、州内での同炉の製造と販売に向けて詳細分析を実施するほか、ビジネス開発戦略を策定する。BWXT AT社のJ.ミラー社長は、「この評価プロジェクトを終える頃には、州内での雇用創出の見通しやビジネス機会などが一層明確になる」と指摘。「州内の建設ロードマップも作成する計画で、州政府や連邦政府の機関が民間部門と協力することにより、原子力の技術革新が生み出す経済面や環境面の恩恵を享受することが可能になる」と強調している。なお、ワイオミング州ではこのほか、電気事業者のパシフィコープ社が南西部のケンメラー(Kemmerer)で、米テラパワー社製のナトリウム冷却高速炉「Natrium」(電気出力34.5万kW~50万kW)の建設を計画中。2024年3月にも、実証炉の建設許可申請書(CPA)を原子力規制委員会(NRC)に提出予定だと伝えられている。(参照資料:ワイオミング州政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 16 Aug 2023
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インド 国産SMRの開発も視野に
インド政府で原子力等の科学技術を担当するJ.シン閣外専管大臣は8月2日、議会下院における答弁の中で、国産小型モジュール炉(SMR)の開発に向けて、インド政府が諸外国と協力するオプションや法改正を通じて民間部門と協力する方策を検討中であることを明らかにした。インド原子力省(DAE)は、現在合計出力748万kWの国内原子力発電を2031年までに約3倍の2,248万kWに増強する目標を設定。シン大臣によると、大型炉の建設を通じてこれを達成する方針に変わりないものの、政府はSMR建設の実行可能性や有効性を調査するロードマップの作成に向け、技術面の詳細を検討中である。同大臣はまた、SMRは産業界の脱炭素化、その中でも電力の安定供給を必要とする産業にとって特に有望なエネルギー技術だと指摘。インドはクリーン・エネルギーへの移行を果たす一助としてSMRの開発方策を検討しており、その一つとして、民間部門やスタートアップ企業が開発に参加できるよう1962年原子力法の条文見直しを実施中だと説明した。今年5月、インド政府の公共政策シンクタンクでN.モディ首相が会長を務める「インド改革国立研究委員会(NITI Aayog)」は、「エネルギーの移行におけるSMRの役割」と題する報告書を取りまとめた。同シンクタンクは、SMRの国内建設を成功裏に進めるには、民間部門による投資の活用が欠かせないと指摘している。インドでは現在、安全で環境に優しく経済性も高い原子力技術の開発と、原子力発電所の運転をインド原子力発電公社(NPCIL)が主に担っている。NITI Aayog の結論では、インドにおけるSMRの大規模開発と建設に向けて民間投資を確保するには、技術的に中立でしっかりとした政策の枠組が必要。投資の流れに大きな影響を及ぼす要因として、社会面や環境面のファクター、タクソノミーなどを挙げている。NITI Aayogの報告書はまた、いくつかのSMR実証プラントを早期に建設する重要性を指摘している。これによりリスクに対する見通しが立てやすくなり、サプライチェーンの形成に弾みを与えるとともに、この業界に投資と安定をもたらせるという。また、SMRの主要特性を考慮して許認可手続きや規制の枠組みを合理化することは、世界的なSMR市場を開拓する上で重要だとした。そして、SMRが地球温暖化の影響緩和で有意な役割を果たせるとしたら、市場に十分浸透して変化を与えられるよう2030年代初頭、あるいはそれより早い時期にSMR初号機を建設するべきだと指摘している。(参照資料:インド政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 08 Aug 2023
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