キーワード:小型モジュール炉(SMR)
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カナダ政府、SMR開発で国家行動計画を公表
カナダ連邦政府の天然資源省は12月18日、カナダ国民に信頼性の高い電力を供給する可能性を持つとともに、2050年までに同国がCO2排出量の実質ゼロ化に移行する一助にもなる小型モジュール炉(SMR)の開発に向け、国家行動計画を公表した。カナダ国内で様々なSMR技術の開発と建設を支援し、2020年代後半にも最初のSMRで運転を開始するため、連邦政府と各州の州政府および地方自治体、先住民、労組、電気事業者、産業界、イノベーター、学界、市民社会など、100以上の関係組織が一丸となって「チーム・カナダ」を結成。諸外国との連携によりSMRの輸出機会を探るほか、その国際標準化にも影響を与えてカナダ国内における将来的な投資を促進する考えである。カナダ政府は2018年11月にSMRの開発ロードマップを発表しており、今回の行動計画では同ロードマップが確認した53の勧告項目への対応が記されている。全カナダ的アプローチを通じて、安全かつ責任ある形でSMRの開発と建設を進めるため、カナダ政府は国民と環境を防護する規制上や政策上、法制上の枠組を確保。技術革新を加速していくほか、先住民を含むカナダの全国民との有意義な関わり合いを継続するとしている。同行動計画によると、SMRはクリーンで安全かつ価格も適正なエネルギー源となる可能性が有り、低炭素で盤石な未来社会への道を拓くとともに、カナダの全国民がその利益を享受することができる。また、従来型よりも小型でシンプル、コストもかからない原子力発電の必要性を、世界中の市場が示唆している。国際的な専門家の間でも、2030年から2050年までの間にCO2排出量を削減するという連邦政府や州政府の目標を達成し、地球温暖化に対処するには、あらゆる低炭素発電技術とともに新たな原子力発電技術が必要と言われている。このような背景からカナダ政府は、カナダのみならず世界全体が低炭素な将来に向かう上で、原子力の中でも特にSMRのような発電所が重要な役割を担うと認識。カナダにおいてSMRは、沢山の雇用や知的財産権、サプライチェーンを支える一方、世界市場では2040年までに1,500億ドル以上の規模に成長することが見込まれる。これに加えてSMRは、カナダが初期開発国としてSMR国際基準を設定するなどの戦略的影響力を発揮し、開発政策面においても世界のリーダー的立場を確保することに貢献。最終的には、SMRによって地域開発の機会が拓かれ、北部コミュニティや先住民と主なエネルギー問題への取組で建設的な協議を行うことにも繋がるとしている。これらを実現するため、カナダ政府は今回の行動計画で以下の活動を実施する。すなわち、関係組織それぞれの管轄や権限の範囲内で一致団結し、様々なSMR設計の開発と建設を支援。2020年代後半までに最初のSMRで運転を開始する。諸外国のパートナーとも連携してSMRの輸出機会を捉えるため、関係組織を「チーム・カナダ」として統合する。SMRをその他のクリーンエネルギー源や貯蔵技術、アプリなどと統合し、カナダが低炭素な未来社会に向けて移行するのを加速する。放射性廃棄物の排出量を最小限に抑えるとともに、再利用する可能性も追求。放射性廃棄物を安全かつ長期的に管理するためのカナダの慣行を補完する。原子力産業界に女性や少数民族、若者などを積極的に登用して多様化を進めるほか、先住民や遠隔地域、北部コミュニティなどと長期的に経済連携する機会を模索する。SMRの研究開発やエンジニアリング、製造と建設に関する学界の広範な能力を活用する。(参照資料:カナダ連邦政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 21 Dec 2020
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GEH社製SMR 先行安全審査が進展
米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は11月30日、米原子力規制委員会(NRC)が同社製小型モジュール炉(SMR)の「BWRX-300」について実施している先行安全審査で、最初の許認可トピカル・レポート(LTR)に対する最終安全評価報告書(FSER)が発行されたと発表した。米国で開発中のSMRについては、今のところニュースケール・パワー社製のSMRについてのみ、設計の本格的な許認可プロセス「設計認証(DC)審査」が行われている。GEH社は未だ、同審査をBWRX-300で申請していないが、LTRは多くの許認可申請に共通する安全審査事項をまとめた技術文書であり、顧客となる電気事業者が後日、当該設計を選定して予備的安全解析書(PSAR)を作成・提出する際の基礎的文書になる。BWRX-300の先行安全審査でGEH社は、設計の飛躍的な簡素化を実現した原理について2019年12月に最初のLTRをNRCに提出した。今年初頭に後続のLTRを2件提出した後は、4件目のLTRを今年9月に提出。2件目と3件目については、今後数か月以内に審査が完了すると同社は予想している。BWRX-300では、すでに2014年にDCを取得した同社製「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」から多くの技術を流用しているため、GEH社は今回のLTRによってBWRX-300の商業化に向けて審査がさらに進展すると強調。2020年代後半にも最初のBWRX-300の運転を開始するため、今後も集中的に作業を進めていく考えである。GEH社によるとBWRX-300は出力30万kWの軽水冷却式SMRで、ESBWRにも採用した受動的安全系を装備。自然循環技術等により冷却水を制御する仕組みで、設計を簡素化したことでMWあたりの資本コストはその他の軽水冷却式SMRや大型原子炉と比較して大幅に低下した。また、すでに認可が得られた燃料設計や技術的に実証済みの機器、サプライチェーンなどを活用しているため、BWRX-300はGE社が1955年に原子炉を商品化して以降、最もシンプルで革新的な技術を用いたコスト面の競争力も備えた設計になる。同設計については、これまでにバルト三国のエストニアやポーランドのエネルギー企業、チェコの国営電力会社などが、それぞれの国内で建設の可能性を探ると表明。いずれもCO2排出量の実質ゼロ化やエネルギーの自給等で新世代のSMR技術に期待を抱いており、BWRX-300のほか複数のSMR設計について同様の活動を行っている。 (参照資料:GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 07 Dec 2020
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カナダのNBパワー社がARC社、モルテックス社とSMRベンダー・クラスター設立
カナダ東部ニューブランズウィック(NB)州の州営電力であるNBパワー社は11月16日、英国籍のモルテックス・エナジー社および米国籍のアドバンスド・リアクター・コンセプツ(ARC)社がそれぞれ開発している小型モジュール炉(SMR)のNB州内での建設に向け、相互協力メカニズムである「SMRベンダー・クラスター」を同州で設立すると発表した。同クラスターの目的は、3社間で相乗効果が生まれるよう互いに協力しあうこと。NBパワー社とモルテックス社、およびARC社のカナダ法人(ARCカナダ社)は、これまでの協力関係を同クラスターで一層強化するため、同日付けで了解覚書を締結した。具体的には、製造技術・販売また技術教育での提携、関係取引への取組み、共通する研究開発活動などで協力するとしており、早ければ2030年にも、NBパワー社が同州で操業するポイントルプロー原子力発電所(71.2万kWのカナダ型加圧重水炉)の敷地内で、ベンダー2社それぞれのSMRの営業運転を始める方針。州内の原子力産業界が継続的に協力し合うことで、地球温暖化に対処するとともに州の経済成長に貢献、NB州民の生活改善にも役立てたいとしている。NBパワー社によると、次世代の原子力技術と言われるSMRでは様々なタイプの設計開発が進行中で、出力は最大でも30万kW程度。多様な用途に活用が可能であるほか、機器を建設サイトに輸送してその場で組み立てることもできる。また、従来の原子力発電所より規模が非常に小さいため、大量生産により価格が手頃になり、建設工事も容易となる。学界や科学技術関係のコミュニティにも恵まれたNB州には、複数のSMR建設が可能な原子力発電所が立地し原子力関係の専門的知見も支援基盤として根付いているなど、先進的SMRの開発推進に適している。こうした背景からNB州政府とNBパワー社は2018年7月、世界的水準のSMR開発と製造で同州がリーダー的立場を確立するため、90件もの申請の中からARC社とモルテックス社を選定し、SMR開発で協力することで合意。州内唯一の原子力発電設備であるポイントルプロー発電所内で、ARC社製SMR初号機の建設可能性を探るとしたほか、モルテックス社製SMRについても商業規模の実証炉を同発電所内で建設する方針を明らかにした。モルテックス社のSMRは、カナダ型加圧重水炉の使用済燃料を低コストで新燃料に変換するという「燃料ピン型溶融塩炉(SSR-W)」で、日中のピーク時には出力を2倍、3倍に増やすことも可能と言われている。一方、ARC社が開発中のSMRは、ナトリウム冷却・プール型高速中性子炉の「ARC-100」。米エネルギー省(DOE)傘下の国立研究所で30年以上運転された「実験増殖炉II(EBR-II)」の技術に基づいており、金属燃料を使用する。NBパワー社の発表では、これら2つの設計では互いを補完し合う技術が採用されているが、どちらも受動的安全系を装備。また、方法は異なるものの、ともに使用済燃料の処分問題解決に役立つとしている。(参照資料:NBパワー社、モルテックス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 20 Nov 2020
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英ジョンソン首相、CO2排出量の実質ゼロ化に向け原子炉の新設を確約
英国のB.ジョンソン首相は11月18日付けの電子版フィナンシャル・タイムスに寄稿し、2050年までに英国内の温室効果ガス(GHG)排出量の実質ゼロ化を目指して重要施策を10項目に絞り込んだ「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」を公表した。英国では2019年6月に、GHG排出量を2050年までに実質ゼロとするための法案が成立し、首相は「10ポイント計画」の当面する重要施策の一つとして新規原子炉の建設を約束。今回の計画では、大型炉のみならず小型炉モジュール炉(SMR)や先進的モジュール炉(AMR)に至るまで、開発のための資金を政府が5億5,000万ポンド(約756億円)以上投資する方針を明らかにしている。「10ポイント計画」全体で、政府は民間部門の約3倍に相当する120億ポンド(約1兆6,500億円)の投資を計画しており、この支援により、地球環境の保全・修復に役立つ「緑の雇用」が約25万人分創出される。ジョンソン首相は同計画について、「雇用を促進し人々の生活様式を維持しつつ、GHG排出量の実質ゼロ化を達成するための『世界的ひな形』になる」と強調。同計画を実行することで、英国は緑の産業技術とそのための資金調達で世界の模範的先駆者となるとした。同首相はまた、GHG排出量の実質ゼロ化を牽引するタスク・フォースを設立するとしている。同計画の中で、先進的原子炉の新規建設は3番目のポイントとして挙げられており、政府はその中で、輸送部門や熱供給部門における低炭素電力の需要が増大し、英国の電力供給システムは2050年までに2倍の規模に成長・拡大すると予想。原子力は信頼性の高い低炭素電源であるため、英国内ではすでに、ヒンクリーポイントC原子力発電所のような大型炉の建設が進められている。国内ではまた、SMRやAMRへの投資が拡大するなど、原子力発電の将来には大きな期待が寄せられている。60年以上前に英国では、本格的な民生用原子力発電所が世界で初めて建設されたことから、政府は現在でも国内に関係技術のポテンシャルがあると考えている。導入規模や技術の世代とは無関係に、新しい原子炉は低炭素な電力と雇用、および経済成長をもたらすので、政府は大型炉の建設を支援するため開発基金を提供する。政府はまた、次世代原子力技術に対する一層の投資を予定。政府内の「歳出見直し」やコストパフォーマンスの点で問題がなければ、政府は「先進的原子力基金」として最大3億8,500万ポンド(約529億円)を充当する方針である。このうち最大2億1,500万ポンド(約295億円)が国内のSMR開発に投じられるほか、民間においても「マッチ・ファンディング」方式を通じて最大3億ポンド(約412億円)の投資機会に道が開かれるとした。政府はさらに、AMRの研究開発プログラムに最大1億7,000万ポンド(約233億円)の投資を約束している。ここでは、800℃以上の高温で稼働し水素や合成燃料を効率的に生産できる高品質の熱供給炉の開発を想定。これらは、二酸化炭素の回収・貯留(CCUS)や水素生産、および洋上風力発電への投資を補うものと位置付けられており、政府としては遅くとも2030年代初頭にこのようなAMRやSMRの実証炉を国内で建設するとともに英国を原子力国際競争の最前線に押し上げる計画である。なお、政府はこのほか、これらの技術を市場に出す手助けとして、規制枠組みの整備と関係サプライチェーンの支援に追加で4,000万ポンド(約55億円)を投資するとしている。(参照資料:英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 19 Nov 2020
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英ロールス・ロイス社のSMR開発チームに米エクセロン社が運転経験で協力
英ロールス・ロイス社は11月8日、同社が率いる官民企業連合の小型モジュール炉(SMR)開発に、米国の原子力発電事業者としては最大手のエクセロン・ジェネレーション社が協力することになり、両社は同日に了解覚書を締結したと発表した。これはロールス・ロイス社が将来、英国その他の国で「UK SMR」を建設する際、エクセロン社が約20年にわたって蓄積してきた20基以上の商業炉の運転経験が役立つとの認識に基づいている。同企業連合が建設した「UK SMR」が発電会社に引き渡されるまでの期間、エクセロン社は同企業連合と緊密に連携し、発電会社の運転能力向上や人材の育成・訓練などに協力する。また、関連スキルの現地化や堅固な安全文化の醸成、運転の効率化などにも尽力することになる。英国政府と原子力産業界が参加する同企業連合で、ロールス・ロイス社は出力40万~45万kW、PWRタイプのSMRを開発しており、運転期間は60年を想定。仕様を標準化した機器や先進的な製造プロセスで経費を削減し、天候に左右されない施設内でモジュールや機器類を迅速に組み立てることで、低コストなSMR発電所を工場生産する方針である。同社によれば、今後10年以内に当面目標とする出力44万kWのSMRが複数運転開始できれば、英国政府が目指す「2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロ化」を達成する一助となる。また、英国内での量産は、機器やモジュールの製造工場を新たに建設することとなり、新型コロナウイルスによるパンデミックからの英国経済の復活や、SMRの輸出に道が開けるとしている。同企業連合のT.サムソンCEO臨時代行 は、「地球温暖化や経済回復への取り組みで原子力発電は中心的役割を担うが、そのためには価格が手ごろで信頼性が高く、投資可能なものでなければならない」とコメント。同企業連合が目指しているのは、洋上風力発電と同レベルまで発電コストが削減されたSMRであると説明した。同CEOの認識では、SMRによって英国の発電業界には新しい事業者の参入が可能になり、顧客の選択肢の幅も広がる。これによって低炭素なエネルギーの安定供給が確保されるようになる。ロールス・ロイス社の企業連合は、主要メンバーが原子力エンジニアリング企業や建設企業、機器製造センターなどであるため、エクセロン社と連携することで同企業連合に不足している「世界的規模の原子力発電事業者」が補われ、開発プログラムの見通しは非常に明るくなった。また、原子力関係の米英連携が強化されるとともに、将来の顧客にはエクセロン社が最高水準の運転達成能力を提供、同企業連合の成長に向けた重要側面が新たに展開することになる。ロールス・ロイス社の予測によると、英国内でSMRの量産プログラムが本格的に実行された場合、2050年までに最大で4万人分の雇用が創出され、英国経済には520億ポンド(約7兆2,300億円)相当の価値と2,500億ポンド(約34兆7,600億円)の輸出が生み出されるとしている。(参照資料:ロールス・ロイス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 12 Nov 2020
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米ニュースケール社、開発中SMRの出力をさらに増強
米オレゴン州のニュースケール・パワー社は11月10日、開発中の小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」で1基あたりの出力をさらに25%増強した7.7万kW(グロス)のモデルを設計したと発表した。これは、先進的な試験やモデリング・ツールを活用した結果によるもので、同社はまず2018年6月、モジュール統合型PWRとなるNPMで予定していた出力5万kWを20%増強して6万kWに拡大。同モジュールを12基連結した場合の合計出力も60万kWから72万kWとなったが、今回のさらなる出力増強により、NPM原子力発電所の最大出力は92.4万kWに拡大する。同社はその一方で、NPMモジュールを4基だけ接続した30.8万kWの発電所、および6基接続した46.2万kWの発電所オプションも提供が可能だと強調している。5万kW版のNPMについては今年9月、原子力規制委員会(NRC)が設計認証(DC)審査で、SMR設計としては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給しており、同設計は今のところSMR商業化レースの先頭を走っている。ニュースケール社としてはこのほか、6万kW版の「ニュースケール720」についても2021年第4四半期にSDAの取得を申請するほか、7.7万kW版の申請書も2022年に提出する方針。NPMの最初のモジュールは、2027年にも顧客への納入が可能になると明言した。同社のJ.ホプキンズ会長兼CEOは、「当社のエンジニアは今回再び、我々の技術が第一級のものであり、設計の安全性に影響を及ぼさずに、かつてないレベルのコスト削減と顧客の要求仕様に合わせた生産が可能であることを実証した」と表明。同社は今後も、SMRの商業化レースで世界をリードする企業であり続けると述べた。今回の発表によれば、出力を25%増強したモジュール12基のkWあたりの建設単価は、3,600ドルから約2,850ドルに低下する。このほか発電所としての出力が90万kW台になったことで、同モジュールは100万kW級原子炉の市場においても十分競合可能な設計に近づきつつある。ニュースケール社のSMRはまた、発電所の規模や出力だけでなく、運転の柔軟性、コスト面においても顧客に幅広いオプションを提供、建設工事の簡素化や工期の短縮、工事費の削減といった点で技術革新をもたらすとした。このようなことから、ニュースケール社は同設計を通じて、送電網の規模が小さい島国や送電網そのものから切り離された遠隔地域への電力供給、石炭火力発電所のリプレース用電源、クリーン・エネルギーへの移行目標達成といった顧客の様々なニーズに応えられると述べた。米国内ではすでに、ユタ州公営共同電力事業体(UAMPS)がエネルギー省のアイダホ国立研究所内で同社製SMRの建設を計画している。国外では、カナダのブルース・パワー社が2018年11月、同社製SMRのカナダ市場導入を目指して同社と協力覚書を締結。カナダの原子力安全委員会は今年1月から、NPMの「許認可申請前設計審査(ベンダー審査)」を開始した。このほか、ヨルダンやルーマニア、チェコ、ウクライナの国営電気事業者や原子力委員会が同社製SMRの導入を検討しており、ニュースケール社は実行可能性調査の実施に向けた了解覚書をそれぞれと締結済みである。(参照資料:ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 11 Nov 2020
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英ロールス・ロイス社、チェコでのSMR建設に向け国営電力と覚書
英国で小型モジュール炉(SMR)開発の官民企業連合を率いるロールス・ロイス社は11月9日、チェコ国内で同社製SMRを建設する可能性を評価するため、チェコの国営電力(CEZ)社グループと了解覚書を締結したと発表した。CEZ社グループのD.ベネシュ会長は、「我が国の産業にとって新しいエネルギー技術は重要な役割を担っており、SMRについてはすでに国立原子力研究機関(UJV Rez)がかなり前から研究を進めていた」と説明。その上で、「SMRは今後、重要な代替選択肢となり得るため、ロールス・ロイス社やその他のグローバル企業との連携は、チェコがこれまで重ねてきた対応の結果として当然の措置である」と述べた。チェコ政府は2015年5月の「国家エネルギー戦略」のなかで、原子力発電シェアを当時の約30%から2040年までに60%近くまで上昇させる必要があると明記。同戦略のフォロー計画である「原子力発電に関する国家アクション計画(NAP)」では、化石燃料の発電シェアを徐々に削減しつつ、合計6基が稼働する既存の2つの原子力発電所で1基ずつ、可能であれば2基ずつ増設する準備を進めなければならないとしていた。こうした背景から、CEZ社グループは2020年4月、2つの発電所のうちドコバニ原子力発電所で、ネット出力最大120万kWのPWRを新たに2基増設するための立地許可申請書を原子力安全庁(SUJB)に提出した。SMRに関しても、2019年9月に米ニュースケール・パワー社と、2020年2月にはGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と、それぞれのSMRをチェコ国内で建設する実行可能性調査の実施で了解覚書を締結している。一方、ロールス・ロイス社が開発中のSMRは出力40万~45万kWのPWRタイプで、運転期間は60年間。これらは再生可能エネルギーと競合できるレベルまで低コストで、工場で大量生産が可能、かつ設置場所までトラック輸送が可能なものを目指している。すでにヨルダン原子力委員会、およびトルコ国営発電会社(EUAS)の子会社とは、同社製SMRをそれぞれの国内で建設する技術的実行可能性調査の実施に向けて了解覚書を締結済みである。ロールス・ロイス社の「英国SMR開発企業連合」には、仏国の国際エンジニアリング企業のアシステム社や米国のジェイコブス社、英国の大手建設エンジニアリング企業であるアトキンズ社、BAMナットル社、レイン・オルーク社などが参加。このほか、英国の国立原子力研究所(NNL)、および英国政府が原子力産業界との協力で2012年に設置した先進的原子力機器製造研究センター(N-AMRC)も加わっている。(参照資料:CEZ社、ロールス・ロイス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 10 Nov 2020
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マイケル・W・レンチェック ブルース・パワー社 社長兼CEO
原子力でスモッグが劇的に改善──カナダでは原子力に対して世論が好意的だ。ブルース・パワー社ではオンタリオ州全体を対象に、これまで多くの世論調査を実施してきました。特に知りたいのは、既存原子力発電プラントのリプレースや運転期間延長についての反応です。調査結果により、原子力に対する支持は常に8割程度あることが分かっています。原子力への支持率が高い理由としてはいくつかの要因があります。原子力はクリーンで、供給安定性が高く、安全であり、そしてオンタリオ州の州民に手頃な価格のエネルギーを提供しているからです。中でも環境面でのベネフィットは大きいでしょう。2013年に、オンタリオ州政府は州内の石炭火力発電プラントを廃止し、私たちは2基の原子炉を再稼働させました。いずれも、1990年代後半にオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社や旧オンタリオハイドロ(OH)社などの財政難により、休止させていたプラントです。石炭火力の全廃によって、トロントの大気汚染は劇的に改善されました。2005年ごろには、年間最大80日間の「スモッグ日」が記録されていました。ご存知ないでしょうが「スモッグ日」とは、喘息患者の場合、呼吸困難になる可能性があり外出できなくなるぐらいヒドいものです。しかしブルース原子力発電所が再稼働したため、2015年から2019年の間に、スモッグは数日単位ではなく数時間単位で測定するまでに減少しました。原子力が大気汚染の浄化に、多大な貢献をしたのです。オンタリオ州は脱炭素化の世界的リーダーとして、気候変動の対策を取ってきました。電力部門では一般的に、脱炭素化の定義は1MWh(1000kWh)当たりの炭素排出量が50g未満であると考えられています。「脱炭素のリーダー」を自称しているドイツは、(1MWh当たり)約500gです。同じく「脱炭素のリーダー」とみなされている米国カリフォルニア州は約250gであり、それに対してここオンタリオ州はわずか45gなのです。つまりオンタリオ州はすでにかなり脱炭素化されており、それを手頃な価格で実現しています。オンタリオ州の一般家庭の電気料金は、1kWh当たり12.5カナダ・セント※ですからね。米カリフォルニア州の場合は20カナダ・セント以上ですし、ドイツはそれよりはるかに高いでしょう。これはオンタリオ州のエネルギーミックスのおかげです。オンタリオ州のエネルギーミックスは原子力が60%、水力発電は25%、再生可能エネルギーは7%です。※日本のおよそ半額程度。オンタリオ州では、再生可能エネルギーに対する税制上の補助金がありません。ですので、納税者からの支援は受けていませんが、電気料金にコストが直接反映されます。オンタリオ州の電気料金を管理するオンタリオ・エネルギー委員会によると、電源別コストは、太陽光が1kWh当たり48カナダ・セント、風力が15カナダ・セント、天然ガスが13カナダ・セント、原子力が7.5カナダ・セント、水力が6カナダ・セントです。オンタリオ州の電気料金がリーズナブルなのは、水力発電と原子力のおかげです。そしてこの組み合わせのおかげで、私たちは脱炭素化だけでなく気候変動にも取り組む最高のポジションにいるのです。ブルース・パワー社は再生可能エネルギーにも注力しており、風力発電プラントを先ごろ完成させたばかりです。風力発電とベースロード電源(原子力)の組み合わせは、非常にうまく機能していると考えています。それでも、すべてのエネルギー源が必要だという観点から、責任を持って対応しなければなりません。すべての人にとって安全で、クリーンで、供給安定性が高く、手頃な価格の電力を提供することが使命です。原子力発電所が「がん治療」に貢献──原子力の有用性をもっとアピールしたい。原子力産業は、世界屈指の安全産業と言えます。たとえ汚染を発生させたとしても非常に少ない量です。たとえば、ブルース・パワー社の原子力発電所で発生したすべての物質は、サイト内でキャニスタなどで管理されています。他の業界では考えられないことでしょう。他業界では自社製品や副産物が、それこそそこら中にほったらかしです。プラスチックは海にも、道路沿いにも捨てられています。自動車の排気ガスは世界中でスモッグを発生させ、二酸化炭素を排出しています。原子力はそんなことがありません。今後そういうストーリーを強調していこうと考えています。ブルース原子力発電所ブルース・パワー社が生産している医療用アイソトープは、人命を毎日救っています。こうした側面が社会であまりにも過小評価されていますよね。実は、ブルース原子力発電所で生産されているコバルト60は、世界中の使用済み医療器具の4割を消毒しているんです。あなたが世界のどこで病院や歯科医院にかかっても、そこで使用された医療器具を消毒するコバルト60は、オンタリオ州南西部のブルース原子力発電所で生産された可能性が高いということです(笑)OPG社のピッカリング原子力発電所でもコバルト60を生産しているまた、脳腫瘍の新しい治療法も開発しています。ブルース・パワー社では、メスを使わずに脳腫瘍を攻撃する「ガンマナイフ」と呼ばれる装置に力を入れています。最先端の生産システムを導入し、これまでにはなかった規模でアイソトープを大量生産できるよう準備を進めています。医療分野ではこれまで、がん治療に有効なアイソトープを特定するところまできていますが、肝心のアイソトープが量産出来ませんでした。量産できれば一般の患者さんでも手頃な費用でこの最先端治療を受けることができるでしょう。私たちはそうした治療が可能になるよう、量産体制を整えつつあります。裕福な患者さんだけでなく、すべての人のための治療になるのです。うまくいけば2021年か2022年ごろに、新しい生産システムが導入されます。ブルース原子力発電所OPG社のピッカリング原子力発電所でもコバルト60を生産している──医療分野に進出する契機は何だったのか?そもそもカナダは歴史的にも、医療用アイソトープ生産の最先端を走っていました。おぼえていらっしゃるか分かりませんが、数年前にチョークリバー研究所の原子炉「NRU」に問題が起き※、モリブデン99の生産が停止されたことがありました。これが国際的な供給不足を引き起こしてしまいました。ちょっと考えてみてください。もしもあなたが治療を必要としている患者で、アイソトープの在庫が底をついているために突然治療を受けられなくなったらどうでしょうか? ブルース・パワー社はそうした事情を鑑み、医療分野に進出することにしました。※2009年、同研究所のNRU炉(熱出力135MW、1957年初臨界)がトラブルで運転を停止し、モリブデン99の供給が世界的に停止した。核医学検査に使うアイソトープのなかでもっとも多く使われているのがテクネチウム99だが、その原料となる親核種がモリブデン99だった。そもそもNRUは老朽化しており、2016年に閉鎖することになっていたので、ブルース原子力発電所の設備に改良を加え、今ではNRU炉に替わってブルース発電所が、これらのアイソトープを生産できるようになりました。もっと多くのアイソトープを作る余裕がありますので、今後も市場の動向を見ながら、ニーズがあれば率先してそのニーズを満たすように努力していくつもりです。ブルース3号機では改修プロジェクトが進行中だブルース3号機では改修プロジェクトが進行中だ 「原子力が安全であることを 肌で感じています」回答者キンカーディン市長アン・イーディー私たちは五大湖の一つであるヒューロン湖沿いのコミュニティであり、原子力発電所にとっては理想的な立地点です。1970年代にブルースAとブルースBが着工され続々と運転を開始しました。今では世界最大の(稼働中の)原子力発電所です。私たち自治体はホスト・コミュニティとして、原子力を誇りに思い、原子力の未来を信じています。クリーンなエネルギーである原子力は、オンタリオ州の約3分の1の電力を供給しているだけでなく、世界中に医療用アイソトープを供給しているのです。この地域が初めて入植者のために開放されてから、私たちの祖先がイギリスとアイルランドから渡ってきて農民になりました。私たちはヒューロン湖が大好きです。環境面での最大の関心事は、湖が健全かどうかなんです。ですから、私がコミュニティの代表になったとき(最初は市議として、次に副市長として、最後に市長として)、私は原子力に関するすべてのことを知りたくなりました。いいことも、悪いことも、全て知りたかったのです。今、私は原子力の強力なサポーターです(笑)原子力のおかげで、地元のオンタリオ州だけでなく、全世界的にスモッグの日数が減っていると思います。アイソトープという(がん治療の)解決策も提供されています。他にもSMRがあります。これは非常にワクワクする技術です。また、気候変動との闘いにおいて原子力が果たす役割も忘れてはなりません。私はこれまで何度もCNSCの公聴会へ足を運んだり、原子力発電所の見学会に参加してきましたが、カナダの原子力安全レベルは非常に高いものです。他業界は原子力の安全文化から学ぶところが実に多いと思います。私は農場で育ち、毎日の仕事を無事に終わらせることが主な関心でした。私たちは農業の仕事こそが安全だと思っていましたが、原子力と比較したら、農業その他の業界は安全性という点では原子力の足元にも及びません。原子力から多くのことを学べると思います。キンカーディンの夕陽私自身はこのキンカーディンで一生を過ごしてきましたし、原子力が安全であることを肌で感じています。キンカーディンに遊びに来てください。原子力産業をしっかりとサポートしています。ブルース原子力発電所のスタッフの約3人に1人はキンカーディンの出身であり、残りは周辺地域からです。今は本当にワクワクする(刺激的な)時代です。経済的にも、私たちは非常に恵まれています。原子力発電所の運転期間を延長させるための改修作業のために、大勢の人々がやってきていますからね(笑)キンカーディンの夕陽事業者から見た許認可体制──カナダはスムーズな許認可体制で有名だ。規制当局であるカナダ原子力安全委員会(CNSC)は、何十年もの間、現在に至るまで、世界的には規制分野のリーダー的存在であると思います。CNSCの行うプロセスは、非常にオープンであると同時に、科学的事実に基づいていると言えます。そして、CNSCは政治と独立した規制当局であるため、業界の見解、一般世論、科学者の意見、他の政府機関の意見などを考慮に入れて決定や結論を導き出しています。しかし同時にCNSCは、安全に基づいている機関であるので、必ずしも当時の政治的・経済的な雰囲気に左右されません。そのおかげで現在誇っている世界的評判が確立できたのでしょう。CNSCのルミナ・ヴェルシ委員長は、IAEAの原子力安全基準の策定担当にも就任しました。これは、彼女の属しているCNSC、そしてCNSCが維持している水準が高く評価された成果だと思います。SMRが原子力業界だけでなく世界を変える──カナダは、SMRにかなり力を入れている。その背景やモチベーションは何か?気候変動対策として、他のクリーンエネルギーに多大の資金が投資されているにもかかわらず、それに見合うほどの進歩がないことは明らかでしょう。世界中で数兆ドルの投資が行われてから、今年のCO2排出量はようやく横ばいになりましたが、それまでの過去数年間は増加する一方でした。また、各国政府による安価な石炭火力発電所の建設の動きが見られ、CO2排出削減をなおさら困難にしています。X-エナジー社の「Xe-100」設計 ©X-energy日本の状況は大変遺憾なことです。CO2排出量の削減に真剣に取り組むなら、原子力こそが一定の役割を果たさなければならないと考えています。誰もがクリーンで手頃な価格で供給安定性の高い電気を必要としています。SMRは、より多くの国が利用できる、原子力分野での技術革新だと思います。また、既存の原子力プラントとは本質的な違いがあるため、各国はSMRによって原子力発電を容易に導入できるようになるのです。X-エナジー社の「Xe-100」設計「BWRX-300」の断面図現在稼働している原子炉、そして現在導入している様々な技術革新は、10年前の状況とは大きく異なっているではありませんか。今後SMRの技術革新が進むにつれて、世界中にあらゆるクリーン・エネルギーの可能性・機会が提供されるだろうと思います。「BWRX-300」の断面図©GE パワー社──SMR開発に必要な資金はどうやって確保を?ご存知のように、SMRの新設計には多くのベンチャーキャピタルが関心を寄せています。環境問題と気候変動は現実のものであり、高度な原子炉設計などの技術的ソリューションが重要な変化をもたらすと考えられています。技術開発へ多くの投資家が出資しています。原子力が一つのクリーンエネルギーとして認められれば、クリーンエネルギーやグリーンを対象とした融資を受けられるようになります。SMRなどの小型原子炉を支援/推進し、世界に革新をもたらすのです。それによって世界が直面しているさまざまな環境問題に対処する、より多くのドアが開かれるでしょう。奥はジョン・ピーバース広報部長奥はジョン・ピーバース広報部長──SMRのコスト、特に発電コストは、他電源と競合できるか?まだわかりません。ブルース・パワー社は現在、SMRを検討しながらそれを見極めようとしています。オンタリオ州は、連邦政府から1トンあたり約50ドルの炭素税が課せられています。再生可能エネルギーなどのクリーンエネルギーは、補助金の対象になっていません。オンタリオ州政府委員会は、消費者に課される料金を次のように試算しています。太陽光は1kWhあたり約48カナダ・セント、風力は同約15カナダ・セント、ガスも同約15カナダ・セント、原子力は同約7.5カナダ・セント、水力発電は同約6カナダ・セントです。もしこの中で、特定の電源を支援するための税補助が導入されたら、市場が歪んでしまうと私は思います。政治家は補助金で敗者と勝者を選ぼうとしますが、どうしても市場の歪みが生じる傾向があると思っています。しかし次世代炉を設計しているベンチャー企業にとって、補助金のあるなしは、設計の一部として検討しなければならないほど重要な事項でしょう。電気を手頃な価格で維持するために、一定のコストに合わせて設計しなければならないからです。「SMR-160」の完成予想図世界中から優秀な人材を原子力業界へ──SMR以外に十分な規模または大きさの原子力プロジェクトはあるか?ええ、カナダでは、CANDU炉がもう1基建つ可能性があります。ここオンタリオ州では、電力の余剰があり、数年間は現状のままで順調だと思いますが、今後、きっともう1基のCANDU炉を検討するでしょう。CANDU炉の出力は約80万~90万kWですが、SMRは10万~30万kW程度、さらに小型なマイクロ原子炉は0.5万~5万kW程度です。ですから、幅広い需要に対応が可能であり、CANDU炉が除外されているわけではありません。また今後も既存炉の運転期間延長は続くでしょう。カナダではほとんどの既存炉が運転期間を延長しています。OPG社のダーリントン原子力発電所(CANDU×4基)では、運転期間延長へ向けた作業が進行中ですし、ブルース・パワー社でも同様の運転期間延長へ向けたプログラムを実施しています。──CANDU炉の運転期間延長は、経済性が高いのか?経済的には非常に効果的です。だからこそ実施しています。オンタリオ州政府の会計検査院が2018年に、原子力反対派からの依頼を受けて実施した調査では、オンタリオ州で必要な電力を効果的かつ手頃な価格でクリーンに提供できる技術は、原子力のほかにない、と結論付けています。──多くの企業がSMR開発でシノギを削っている。必要な人材をどのように確保するのか?カナダの大学は数多くの優秀な若いエンジニアを輩出しており、SMR分野には多くのニューカマーが参入し、アイデアを競っています。今はエキサイティングな時代で、原子力分野に世界中から最も優秀な人材を引き入れるよう、数多くの機会が提供されています。原子力業界に入ってくる新しい人材は、ただモノを作るということだけではなく、環境・社会を大きく改善していくことになるのです。ミレニアル世代やこれから学校に入ろうとしている子供たちは、そのことを十分にわかっていると思います。彼らは世界に有意義な変化をもたらすことを望んでおり、原子力発電は彼らに革新と創造をする機会を与えています。同時に、彼ら自身のキャリア形成にも効果的に作用するでしょう。──カナダの大学と原子力産業は、良好な関係が維持されているか?運転期間延長プログラムの実施に伴い、現在新規採用を行っていますが、人事担当副社長によると、ブルース・パワー社に過去3年間で41,000名の応募が殺到しているそうです。学生にとって何が魅力なのか調査させたところ、それは学生が「自らのスキルと才能を生かして世界に変化をもたらしたい」と考えていることでした。なおかつ高所得ですしね(笑)ブルース・パワー社は従業員にとって、毎日仕事に行くことができ、学生ローンがあるならばそれを完済するのに十分な収入があり、子供を育て、快適で安全な生活が確保できる場所です。同時に、世の中の人々の生活を改善していることも大きな魅力なのです。
- 29 Oct 2020
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カナダ政府、テレストリアル社の小型溶融塩炉開発に2,000万加ドルを投資
カナダ連邦政府イノベーション科学産業省のN.ベインズ大臣は10月15日、オンタリオ州の技術企業テレストリアル・エナジー社による「小型モジュール式・一体型溶融塩炉(IMSR)」開発を加速するため、「戦略的技術革新基金」から2,000万カナダドル(約15億9,000万円)を投資すると発表した。同社が開発した最先端のSMR技術はカナダの環境・経済に大きな利益をもたらすと見込まれており、投資はその商業化を支援する重要ステップになると説明している。 テレストリアル社のIMSRは第4世代のSMR設計で、電気出力は19.5万kW。同社はIMSRの最初の商業用実証炉をカナダで建設した後、同社の米国法人を通じて北米その他の市場で幅広くIMSRを売り込む方針である。現在、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が同国の規制要件に対するIMSRの適合性を「予備的設計評価(ベンダー設計審査:VDR)」で審査中であるほか、米原子力規制委員会(NRC)に対しては、将来的に設計認証(DC)審査を受ける考えだと表明済み。米国法人は2020年代後半にも米国・初号機を起動できるよう、米エネルギー省(DOE)から財政支援を受けながらNRCと許認可手続き前の準備活動を進めている。カナダ政府の発表によると、原子力および原子力安全分野の世界的リーダーであるカナダは、安全で信頼性の高い小型モジュール炉(SMR)の開発においても世界を牽引していく方針である。同国が2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指す上でSMRは重要な役割を果たすと期待されており、新型コロナウイルスによる大規模感染から復活する際も経済的恩恵が得られるとしている。テレストリアル社はIMSRの開発プロジェクト全体で6,890万加ドル(約54億8,700万円)を投入する方針だが、このほかに少なくとも9,150万加ドル(約72億8,700万円)を研究開発費として支出中。カナダ政府による今回の投資金は、同社がIMSRでベンダー審査を完了する一助になると指摘している。カナダ政府の見通しでは、テレストリアル社は今後、カナダの原子力サプライチェーンで千人以上の雇用を生み出し、STEM(理数系)分野で数多くの女性が登用されるよう男女平等・多様化イニシアチブを推進していく。IMSRプロジェクトによって高度なスキルを持つ労働力が構築され、将来の技術革新と経済成長の重要要素となる新しい基盤技術研究を加速。この結果、カナダ政府が進める「技術革新とスキル計画」は推進力を増すことになる。カナダ政府はまた、同プロジェクトでSMR技術をカナダやその他の世界中で開発・建設していくための長期ビジョン「カナダのSMRロードマップ」が後押しされると説明。SMRの設計・開発が様々な規模で進められており、将来的には遠隔地域で使用されているディーゼル発電機を一掃したり、化石燃料を多用するカナダの重要な産業部門に競争力をもたらす可能性があるとしている。(参照資料:カナダ政府、テレストリアル社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 23 Oct 2020
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フラマトム社とGA社、モジュール式の小型ヘリウム冷却高速炉開発で協力
仏国のフラマトム社と米国のジェネラル・アトミックス・エレクトロマグネティック・システムズ(GA-EMS)社は10月13日、GA-EMS社の技術に基づくモジュール式の小型ヘリウム冷却高速炉(FMR)を共同で開発することになったと発表した。安全性と操作性を高めた電気出力5万kWの FMRはCO2を排出しないだけでなく、工場で製造し現地で組み立てることで建設費の大幅ダウンと、出力の段階的増強を実現できるという。フラマトム社の米国エンジニアリング・チームは、いくつかの重要構造物とシステム、および機器について設計を担当。GA-EMS社が主導する両社のチームは、2030年初頭にもFMRの設計、製造、建設および運転に関する技術を実証し、2030年代半ばまでに商業建設するとの見通しを明らかにしている。GA-EMS社のS.フォーニー社長は「フラマトム社とともに、安全かつコスト面の効率性が高く出力の拡張縮小が可能な原子炉を設計する」との抱負を表明。両社が先進的原子炉技術で数10年以上にわたり蓄積してきた経験を統合し、米国が必要とするクリーン・エネルギーを将来的に確保していきたいと述べた。フラマトム社のB.フォンタナCEOも「今回の協力は、後の世代のためにクリーンな世界を創造するという先進的原子力技術の開発で、GA社とこれまで築いてきた長期的連携の下で進める」とコメント。先進的原子炉や小型モジュール炉(SMR)のシステムや機器の設計で両社が獲得した経験と専門的知見を通じて、このようなビジョンの実現につなげたいと述べた。両社の発表によると、FMRでは再生可能エネルギー源の出力変動にともなう負荷追従運転への迅速な対応、全体的に高度な効率性を備えた原子炉設計を目指している。受動的安全性を備えるとともに、冷却材として化学的に不活性で爆発や腐食のない無害なヘリウムを使用。運転する際に水を必要としないため、事実上ほとんどすべての場所に立地できるとした。また、エネルギーを電力に転換する時、構造の複雑な蒸気発生器や加圧器を使用しないのでコストが抑えられ、燃料交換は約9年間不要である。ガス・タービンには「直接ヘリウム・ブレイトンサイクル」を採用したことから送電網へのレスポンスが早く、発電機の出力変化速度(ランプ速度)は最大で毎分20%、通常運転時の全体的な効率性も45%と高い。さらに、原子炉出力の自動制御とターボ機器によって炉内温度が一定に保たれ、負荷追従運転にともなう熱サイクル疲労も影響緩和が可能だとしている。(参照資料:フラマトム社、GA社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 19 Oct 2020
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韓国電力技術、海上浮揚式原子力発電所の開発で大宇造船海洋と協力
韓国電力公社(KEPCO)の子会社として発電所のエンジニアリングと建設を担当する韓国電力技術(KEPCO E&C)はこのほど、海上浮揚式原子力発電所の技術開発で造船大手の大宇造船海洋と長期的に協力していくため、覚書を締結したと発表した。韓国電力技術は、遠隔地域に対する熱電供給や海水の脱塩、再生可能エネルギーによるハイブリッド発電システムの開発などに利用可能な小型モジュール炉(SMR)「BANDI-60」を2016年から開発中。今回の覚書では、同社の世界レベルの先進的原子力設計技術と建設技術、および大宇造船海洋の船舶製造における様々な経験とノウハウを活用し、海上浮揚式原子力発電技術の開発と関係事業の発掘、これらを応用した共同プロジェクトを進めていく方針である。韓国電力技術は両社それぞれの技術で相乗効果が期待できると考えており、「BANDI-60」を搭載した海上浮揚式原子力発電所の開発にさらに弾みがつくとした。このため、今回の覚書を契機に両社間の戦略的協力を長期的に継続していきたいと述べた。大宇造船海洋側も、「国内外の原子力発電所で設計と建設を経験した韓国電力技術との協力により、安定性と信頼性をワンランク高めた製品を顧客に提供することができる」としている。ブロック型のPWRとなる「BANDI-60」は熱出力20万kW、電気出力6万kWの原子炉設計で、韓国電力技術が従来の大型発電所向けサービスで40年以上積み重ねてきた経験と実証済みの技術に基づいている。基幹送電網への接続を想定して設計された化石燃料発電所や大型炉と競合させるというより、分散型エネルギー供給インフラとしてニッチ市場を狙ったものだと同社は説明した。原子炉の安全性と操作性を向上させるため、同設計では減速材中に可溶性ホウ素を使用せず(SBF)、原子炉容器内に制御棒駆動装置(CEDM)を設置する。また、原子炉容器上部に炉心計装(ICI)を搭載するほか、残留熱の除去や格納容器の冷却等で各種の受動的安全システムを備えたものになるとしている。(参照資料:韓国電力技術(韓国語)、韓国原子力学会の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 09 Oct 2020
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ルミナ・ヴェルシ カナダ原子力安全委員会 委員長
事業者を束縛しない──カナダの許認可体制はスムーズなことで有名だ。日本が遅すぎるのかもしれないが、ポイントは?カナダ原子力安全委員会(CNSC)は何十年もの歴史ある規制当局です。CNSCが卓越しているのは、規制の枠組みがいわゆるテクノロジー・ニュートラルであることです。柔軟性があり、すべてパフォーマンスに基づいて規制をします。ああしろこうしろと命令的なやり方はしません。事業者に一方的に指示するのでなく、「目指すべき目標がこれですが、どうやって実現するか示してください」とだけ言うのです。こうすることで、事業者は柔軟性を得てイノベーティブになり、自主的に新しいアイデアを思いつきます。我々は事業者を束縛しません。最近、国際的な規制審査団がカナダにやって来て、私たちの規制体制(枠組み)とプロセスを審査されました。その結果、「包括的で堅牢な規制体制」と高い評価をいただきました。CNSCが提供しているサービスでもう一つ非常に好評なのは、いわゆる「ベンダー設計審査」※と呼ばれる予備的設計評価サービスです。事業者が予め審査対象となる設計を私たちとシェアすることで、認可プロセスに入る前の段階から、その設計や技術に「致命的な欠陥(showstoppers)」がないかどうかを確認することができます。もちろんプロセスは非公式なものですが、それにより、CNSCはその設計をよりよく理解できるようになります。また、事業者も我々の条件・規制要件をより詳しく知ることができす。そして、致命的な欠陥があれば、それを早い段階で見つけることも出来ます。CNSCのもう一つユニークな点は、許認可の審査体制です。私はCNSCの委員長兼CEOであり、この組織のスタッフ約900人を統括していると同時に、委員会の議長でもあります。現在、委員は5人ですが、最大7人まで増員が可能です。すべての許認可決定、規制および規制文書の承認すべてがこの委員会によってなされ、すべての委員会の審議は一般公開されています。なぜなら、それは一般の人々が参加し、介入し、意見を共有できるオープン・フォーラムだからです。多くの人々の意見を取り入れているため、それが良質な情報に基づく意思決定につながります。※ベンダーの要請により実施される任意の評価サービスで、事業者が建設許可等の申請を実際に行う前に、当該設計がカナダの規制要件を満たしているか評価。実際の要件に照らしたレベルの高い同審査を通じて、設計上の問題点などを早い段階でフィードバックすることが可能になる。審査は第3段階まであり、「ARC-100」のほかに米ホルテック・インターナショナル社のSMR設計や、テレストリアル・エナジー社の小型モジュール式・一体型溶融塩炉(IMSR)などが審査中となっている。リスクと便益のバランス──「規制者と被規制者とのやり取り」において、カナダは合理性・効率性においてトップクラスと聞いている。CNSCは無駄な質問をしないし、原子力事業者も無駄な書類は作らない。その根源的な理由はなんだろうか?なぜ、カナダは合理的に進められるのか?「合理性がある」というお褒めの言葉に、完全に同意していいのかわかりませんが、私たちはリスクに精通した規制当局として、常に合理性に基づいた形で判断を行います。ご存知かどうか分かりませんが、私たちが掛ける努力の度合いも、どれだけリスクがあるかにかかっています。低リスクの場合はそれほど時間をかけません。また、事業者に課している規制上の負担についても、リスクと便益の分析を試みています。我々は長い経験を持ち、良好な実績を持ち、他者から常に学び、改善を図っています。あなたのおっしゃる「合理的な意思決定」のことを、我々は「リスク情報に基づいた意思決定」と呼んでいます。まず、すべての人に意見を表現する機会を与え、それを基にして決定を下します。SMR開発をリード──カナダはSMRに大変力を入れているが、何がモチベーションとなっているのか?SMRの開発当事者ではなく、外から物事を見る規制当局者として話しますが、多くの海外諸国と同様に、カナダのクリーンエネルギーの目標は非常に野心的です。その目標だけでなく、パリ協定の目標も達成するために、原子力が大きな役割を果たさなければならない、果たし続けなければならないという認識があります。そして、SMRには多くの利点があります。カナダは広大な国で、ファーストネーションらのコミュニティーの多くは遠隔地にあり、ディーゼル発電に依存しています。SMRは彼らのそうしたディーゼル依存からの脱却に大いに貢献するのです。またカナダは非常に資源多消費型の国ですので、SMRは資源の有効利用にも役立ちます。同様に、出力が小さく柔軟な運転が可能でより安全なSMRは、送電系統においてもはるかに大きな役割を果たせるようになるでしょう。そのため、連邦政府の天然資源省(Natural Resources Canada)では様々なステイクホルダーを交えて検討を重ねた「SMRロードマップ」を策定し、SMRの登場・活用に備えています。カナダ企業が国内外でSMRを展開した場合に備え、我々規制当局も準備を整えています。規制当局としてどのように準備しているかというと、先ほど「ベンダー設計審査」についてお話しましたが、このプロセスが効果を上げているのです。現在、12種の異なるSMR設計を審査中です。すでにチョークリバー向けの15 MWのマイクロ原子炉※のために最初のサイト準備許可(LTPS)申請を受け取っており、今年後半には、もう1件の、より出力の大きいSMRのLTPSが申請されるだろうと予想しています。※USNC社が開発した第4世代の小型モジュール式(高温ガス)炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」のこと。カナダ原子力研究所(CNL)のチョークリバー・サイトに建設予定だ。もはやSMRの勢いが増していることは誰の目にも明らかです。カナダの3つの州(オンタリオ州、ニューブランズウィック州、サスカチュワン州)では最近、SMRの開発および建設を目指して協力していくことを発表しています。私自身の成果の一つは、昨年、米国原子力規制委員会のスビニッキ委員長とMOUやMOCに署名し、SMRの設計審査に関してより緊密に協力することに合意したことです。両国がSMR設計の評価結果や研究結果を共有し、それによって互いに学び、リソースを共有するだけでなく、審査をより効率的に進め、より良い判断を通して安全性を改善することができます。このカナダと米国の取り組みを出発点に、他国の規制当局を広く迎え入れ、国際的な規制要件の統一に移行できればいいと考えています。それは、標準設計が各国に展開されるのを促進するだけでなく、SMRに大きな関心を示している新興国にとっても、先進規制当局の専門知見から、確実な便益を得られるからです。たとえば、米国、カナダ、日本などの規制当局が合意した規制要件であれば、新興国はそれに依存できますよね。こうして世界中のSMRの安全性を合理的に高めることができるでしょう。トリチウムに精通──日本では福島第一サイトでのトリチウムの処理に苦しんでいる。カナダでは重水炉からかなりの量のトリチウムが発生すると思うが、どのように管理しているのか?CANDU炉は、重水を減速材としても冷却剤としても使用しています。したがって、トリチウムは、カナダのCANDU炉にとって非常に重要な役割を果たしています。私は保健物理学者になる以前は原子力発電所で働いていましたが、トリチウムは常に私たちにとってハザード(危険を引き起こす状況・物質)でした。そのため、カナダは長年にわたり、多くの技術(トリチウムを制御、測定、除去、監視する技術、必要な防護服など)を開発してきました。トリチウム量が蓄積すると重水ごとトリチウム除去設備へ送られ、トリチウムガスを抽出します。そしてトリチウムは廃棄物としてキャニスターに保管されます。全工程を通じてモニタリングされており、徹底的に制御されています。規制当局としても事業者とは別にモニタリング(環境モニタリング)を行っており、事業者の報告と照らし合わせています。他にもトリチウムを監視する州および連邦当局があります。国民は我々のトリチウム管理に信頼を寄せているのです。 福島第一よりも多いトリチウム?カナダでは資源!?回答者オンタリオ工科大学グレン・ハーベル教授トリチウムの発生源は?CANDU炉では、重水を用いて中性子を減速しています。トリチウムは主にその過程で発生します。トリチウム量を最小限に抑えるために、トリチウム除去設備を用意しています。そこでは重水とともにトリチウムを取り入れ、トリチウムを気化させて抽出し、重水を再び原子炉内へ循環させています。抽出されたトリチウムはどこへ?抽出されたトリチウムはさまざまな形態で保管されます(それこそ種類もさまざまです!)。企業に販売されるケースもあります。ご存知の通りトリチウムは自発光塗料として利用されており、出口用の看板等で需要がありますから。しかし多くの場合は、トリチウムを含んだ重水をそのまま保管し、半減期を待ちます。トリチウムの半減期は13年程度ですので、大した懸念はありません。シールドで遮蔽された部屋やタンクに保管されていますし、人に触れるような場所ではないからです。ですから、我々はトリチウムのことをそれほど心配しておりません。最大の問題はプラントを廃炉にして永久閉鎖するときです。それまで保管していたトリチウムをそのまま保管できればよいのですが、早急な処理を迫られた場合は対応が難しくなりますね。日本ではトリチウムの抽出が困難とされている抽出プロセスは大変コストが掛かりますので、世界でも現実に実施しているところは少ないでしょう。カナダではダーリントン原子力発電所に優秀なトリチウム除去設備があるので、容易なのです。日本では「ふげん」 ※ にトリチウム除去設備がありましたが小規模でした。現実的ではありませんね。お金をいくらかけてもいいならば話は別ですが(笑)※ふげん:日本の国家プロジェクトとして開発された新型転換炉。2003年3月に運転を終了し、廃止措置中。カナダのトリチウム保管量はかなり多く、福島第一より多いとのことだが?カナダのトリチウムは、多くがトリチウム重水の状態です。福島第一のトリチウム総量は860兆ベクレルですか?そのまま比較はできませんが数字だけを並べると、ダーリントン原子力発電所から2015年の1年間に放出された液体のトリチウム量だけでも241兆ベクレル※です。規制当局から定められた年間の放出限度(DRL)が5,300,000兆ベクレルですから、これでも規制値の0.004%にすぎません。※同年の気体のトリチウム放出量は、254兆ベクレル。「トリチウムは保管」という先ほどの話と矛盾するようだが?ご説明しましょう。それはカナダでは、河川や湖や海洋に、意図的にトリチウムを放出しているわけではないからです。日本のみなさんならばよくご存知でしょうが、トリチウムは水素ですから、完全に封じ込めることは大変困難です。意図的な放出はありませんが、漏洩は避けられません。繰り返しますがカナダのトリチウムは、トリチウム重水ですから、大部分は原子炉内に存在します。またドラム缶等に備蓄し、半減期を待っている状態のトリチウム重水もあります。トリチウム除去設備で処理され、ガス化してキャニスタ等に保管されるトリチウム重水はごくわずかです。ほとんどはトリチウム重水のまま残されています。それはトリチウムの市場規模が小さいからです。そして重水はバルブやシールを通して漏洩します。これは必ず起こります。移送過程で、ホースやポンプやバルブなどから、果てにはドラム缶からも漏洩します。これは防げません。以前も起こりましたが、これからも起こるでしょう。そのような制御不能なトリチウム放出に対処するために、CNSCがDRLという規制値を定めました。このDRLは、一般市民の線量限度である年間1ミリシーベルトを下回るように設定されており、設備や周辺環境の変化に応じて、各発電所毎に数字は異なります。もちろん数字は、都度アップデートされています。大事なことは漏洩した時にその影響を最小限度にとどめることです。違いますか?いずれは大気や海中に放出?規制当局の承認が必要ですが、放出も可能です。しかし期待されている一つの可能性は核融合プラントの実現です。これが実現すると、トリチウムが燃料となるわけですから、トリチウムの抽出設備が極めて重要となってきます。我々には大規模なトリチウム在庫があり、それが役に立ちます。もし(核融合プラントの)実現がない場合でも、おそらくトリチウムは保管して半減期を待ち、その後別の原子炉に再利用するか、分散するか、それらが将来の選択肢です。トリチウムは将来の資源?そうです。トリチウムは将来的に資源になりうるのです。トリチウム抽出の過程でアクシデント的に外部環境へ流出した、損失したトリチウム量は低く、気になる程度ではないのです。現地のコミュニティから反発は?ありませんよ(笑)アクセスを容易に──カナダでは原子力に対する世論の支持が高いと聞いた。日本では数多くの対策をし、安全基準を十二分にクリアしても、国民からさほど支持を得られていない。私をはじめCNSCの優先分野の一つは、規制当局としての我々に対する国民の信頼をどのように取り付け、強化するかです。強力かつ独立し有能な規制当局とみなされることは我々にとって望ましいことですし、原子力産業界にとっても良いことです。規制当局に対する信頼度について、世論調査も実施しています。国民が我々をどれだけよく知っているか、我々についてどう思うか、そして我々はどういうところを改善すればいいかなどを理解することが目的です。CNSCのウェブサイトでは、委員会に提示されているすべてのものを一般公開しています。国民は我々の情報(事業者にも情報提供するよう勧めていますが)に簡単かつスピーディーにアクセスできるようになることは、その信頼構築に大いに貢献しています。また、審査会合に誰でも参加できるように、非常にインフォーマルな形を取っています。公聴会に12歳の参加者が登場することもあります。我々はすべてを非常にアクセスしやすくしようとしています。そうすることによって、国民に安心を感じさせることができると思います。我々のもう一つの義務・任務は客観的な情報発信です。原子力産業界は非常に規制された業界です。我々はウェブサイトへの掲載や、出版物への掲載など、さまざまな媒体を通して、原子力産業界で起きていることを一般人に伝えようとしています。リスクはどこにあるか、どのように規制しているか、ということをです。こうした情報発信には常に改善の余地があり、我々は新しいツールや仕組みを常に模索しています。先ほど申し上げた世論調査もそうですが、我々の(コミュニケーションの)やり方を改善するためにいろいろな方法を試しているのです。広報は「中間層」を狙う──原子力反対派とどう対話すべきか?長いこと原子力業界に携わってきて、発見したことがあります。率直に言って、この世には決して心を変えない人がいるということです。もちろん必ずしも彼らに心を変えて欲しいというわけではありません。ただ、正しい情報を彼らに伝え、理解して欲しいだけです。それでもなかには決して受け入れない人々がいます。私はそうした(反対派に対して説明する)努力をしても無駄だと気づきました。十分な情報を検討した結果、態度を決めている人たちは、それが自らの判断なのであれば、それでOKだと思います。その一方で、賛成反対の両極端の間、真ん中にいる非常に大きな中間層が存在します。この中間層の人たちは何も知らないか、あるいはあまり信頼できない情報源に依存してますので、彼らを広報のターゲットにする必要があると思います。そのためにありとあらゆるコミュニケーション手法をとる必要があります。なお、CNSCをはじめ多くの世論調査の分析結果によると、原子力に関しては、女性のほうが男性より比較的支持が低い傾向があり、男性よりも情報源が少ないことが分かりました。また、多くの調査・研究が、女性が(男性ではなく)女性同士の方をより信頼する傾向があることを示しています。彼女たちが信頼しているのは、数多くの男性科学者ではなく、実際に原子力業界に入っている女性や、信頼できる情報源と見なしている女性なのです。そうしたことを踏まえ、工夫の余地はまだまだあります。これも規制当局としてのCNSCの任務の重要な一環です。そうそう、私たちが実施した世論調査で、とても大事なことが明らかになりました。実は、半数のカナダ人は、CNSCについて何も知らなかったのです(笑)
- 27 Aug 2020
- FEATURE
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加ブルース・パワー社とカメコ社が次世代原子力技術センターを起ち上げ
カナダで原子力発電所を運転するブルース・パワー社と大手ウラン生産業者のカメコ社は8月20日、「次世代原子力技術センター」の創設を中心とする複数の共同イニシアチブを起ち上げると発表した。両社のこれまでの連携関係を活用して、新型コロナウイルス感染後のカナダ経済の再生を支援するとともに、CO2を排出しない原子力発電で地球環境を保全。世界中に蔓延したコロナウイルス感染症のような疾病との戦いにおいても、原子力サプライチェーンを使ってコミュニティの必需品を確保するなどの協力を強化する。両社は原子力技術革新によって小型モジュール炉(SMR)のような新技術を開発する基盤を築き、ガン治療に役立つ放射性同位体(RI)や水素経済への移行に向けた水素の生産技術の進展を後押しできると確信。すなわち、原子力インフラへの投資を通じて現行経済を刺激し、将来的には世界に力を与えることも可能だと考えている。原子力発電所の運転企業および燃料サプライヤーとして蓄えてきた専門的知見を一層深め、ブルース・パワー社が電力供給するオンタリオ州やカメコ社が本拠地を置くサスカチュワン州のみならず、カナダ全体の将来的な経済や輸出を支援していく考えである。両社はそれぞれ、オンタリオ州とサスカチュワン州の産業リーダー的存在であり、間接雇用も含めた従業員の総数は約2万7,000人。カナダ経済への投資額は年間90億~120億カナダドル(約7,200億~9,600億円)に達するなど、カナダ全体の原子力産業を代表する企業として、温室効果ガスを排出しない発電やガン治療用RIの生産といった科学技術革新の最前線に留まっている。今回の発表で両社は、これら2つの州政府が経済を立て直すためのチャンスをもたらしたいとしている。また、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大に際しても、両社はCO2を排出しない電力をカナダ全土に安全・確実に供給し続けている。今後は、カナダ最大のインフラ・プロジェクトの1つと言われるブルース・パワー社のブルース原子力発電所(=写真)運転期間延長プログラムを活用して、国家経済の再構築を手助けしていく方針。州を跨いだ両社間の重要な連携関係を拡大・強化するため、「次世代原子力技術センター」は、両社がBWXT社やオンタリオ州のブルース郡とともに2018年に創設した「原子力技術革新協会(NII)」の付属施設とする計画。NIIは、カナダの原子力産業界で技術革新を促進することを目指した非営利組織である。なお、両社間の今回の協力では、ブルース発電所の運転期間延長プログラムと既存の長期燃料供給契約に加えて、ブルース6号機が機器の交換を終えて再起動する2024年にカメコ社が追加で1,600体の燃料バンドルをブルース・パワー社に供給することになった。これは、2017年に両社が締結した20億カナダドル(約1,600億円)の既存の燃料供給契約に基づいて決定したとしている。(参照資料:ブルース・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 24 Aug 2020
- NEWS
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米エネ省のアイダホ研、月面探査用の原子力発電技術開発で情報依頼書を発出
米エネルギー省(DOE)傘下のアイダホ国立研究所(INL)はこのほど、月面での探査活動に使用する原子力発電(FSP)システムを設計するため、革新的技術開発に関する情報提供依頼書(RFI)を原子力産業界や宇宙産業界の上層部宛てに発出したと発表した。このRFI発出はアメリカ航空宇宙局(NASA)の後援によるもので、DOEとINLがこれに協力。実際の発出はINLの管理・運営を担当するバッテル・エナジー・アライアンス(BEA)社が行った。月面の厳しい環境下で長期的に探査活動を行うには信頼性と耐久性の高いエネルギー源が必要なことから、NASAらは月面に設置するFSPの設計の有効性を試験・実証するため、革新的技術に基づいたアプローチを取る方針。火星探査など後続のミッションに流用する考えで、INLは9月8日までの期間、このような技術に関する情報を募集するとともに提案企業と連携関係を構築する。小型モジュール炉(SMR)などの先進的原子炉は、連邦政府が関心を持っている宇宙探査ミッションに不可欠な電力供給能力を持っており、NASAは月面設備に対する信頼性と耐久性に優れたエネルギー供給源となるFSPシステムの必要性を認識。「原子力核分裂発電プロジェクト 」を管理するNASAのグレン研究センターでは、技術実証ミッションの一つとして月面用FSPの開発も担っている。RFIを通じて情報収集した後、INLは今回の計画の第一段階として「提案募集(RFP)」を発出する予定だが、ここではFSPシステムの工学実証ユニット(FSP-EDU)を予備的に設計する。また、これに続く第二段階では、FSPの最終設計を固めた上でFSP-EDUのプロトタイプを製造・建設し、試験も実施。このほか、FSPを月まで輸送する飛行システム(FSP-FS)についても、この段階で月への打ち上げサイトに納める。INLのJ.ワグナー担当副所長は、「有望な先進的原子炉の建設をINLの敷地内で推進するなど、原子力技術革新で米国が世界のリーダーシップを握る上でINLは中心的役割を担っている」と説明。「月面で先進的原子炉を建設できる可能性に胸が高鳴る思いであり、最も先見の明がある民間部門の企業らと連携すればこれを実現する一助になるだろう」と述べた。 なお、類似の月面での発電源開発は、2018年6月の中露原子力技術包括協力でも取り上げられており、原子力技術が宇宙での利用に関心がもたれていることが、今回さらに明確になった。(参照資料:INLの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 04 Aug 2020
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米国際開発金融公社、国外の原子力開発計画に対する資金提供の禁止措置を解除
米国政府の独立機関として民間の開発プロジェクトに資金提供を行っている国際開発金融公社(DFC)は7月23日、小型モジュール炉(SMR)や超小型原子炉の建設など、国外の原子力開発プロジェクトに対する財政支援を可能とするため、DFCの「環境・社会政策と関係手続き(ESPP)」の中で資金提供の禁止措置を解除したと発表した。DFCはこれまで、これらのプロジェクトへの資金提供を禁じてきたが、今回の政策等の変更により、DFCは十分な電力が得られない発展途上国のコミュニティに適正価格のエネルギーをもたらすとともに経済成長が促されるよう、原子力というCO2を排出しない安全確実な電源を提供するための支援を約束。米国が核不拡散体制の強化に向けた保障措置を促進し国内原子力企業の競争力を増強する一方、独裁的な体制下の国々の資金調達に新たな選択肢を提供することができると述べた。DFCはまた、エネルギー省(DOE)の下に創設された原子燃料作業部会(NFWG)が今年4月、「米国が原子力で再び競争上の優位性を取り戻すための戦略」を公表した事実に言及。今回政策を変更したことで、この戦略の主要な勧告事項――核不拡散政策との整合性や国家安全保障を維持しながら、関連する輸出も拡大するという方針が実行に移されるとしている。DFCの今回の決定は、政策変更の提案について30日にわたって一般国民から意見を募集した後に下された。これには米国議会や政府機関、非政府組織、民間部門など外部の幅広いステークホルダーが参加しており、DFCが受け取った800件以上の見解のうち98%がこの政策変更を支持。中でも、米国議会の議員らは超党派でDFCに新しい政策への転換を勧告。これには上院のC.クーンズ議員やL.マコウスキー議員のほか、下院のA.キンジンガー議員などが含まれている。このような支持を背景に、DFCは世界でも最も厳しい安全基準を順守しつつ、新興国市場に対する先進的原子力技術の輸出を最優先に支援していく考えである。DFCの前身は、米国企業の新興国への投資を支援していた半官半民の海外民間投資公社(OPIC)である。2019年10月に、米国国際開発庁(USAID)の一部と統合・改組した上でDFCが発足した。DFCのA.ベーラーCEOは「世界中の同盟国のエネルギー需要に応えるという米国の支援努力において重要な一歩が刻まれた」と明言。限られたエネルギー資源の中で、DFCは途上国の経済成長を加速する適正な立場に置かれることになったと強調した。DOEのD.ブルイエット長官は今回、D.トランプ大統領が設置したNFWGの主要勧告の実施に向けてDFCが動き出したことを称賛。過去3年以上の間にDOE高官は、米国の民生用原子力技術を切望する国の政府や民間産業界と会談を重ねてきたが、OPICが必要な財政支援を禁じていたことなどから技術の輸出は実現しなかった。同長官によれば、このような禁止措置の解除は世界中のエネルギー供給保証を強化する健全な行動であり、その他の国々が信頼性の高いベースロード電力を国民のために確保しつつCO2の排出量削減目標を達成するのを支援することにもつながるとした。米原子力エネルギー協会(NEI)のM. コースニック理事長も、DFCの決定は米国の国家安全保障や経済成長を加速させるだけでなく、地球温暖化の防止目標達成にも寄与すると指摘。ロシアや中国のように国営原子力企業を有する国との競争では、米国企業が一層公平な条件で戦えるようになると評価している。(参照資料:DFCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 28 Jul 2020
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